不良「不良がたまにいいことするとやたら褒められる現象?」 (28)

幼女「えーん、えーん」シクシク…

不良「おい、どうした?」

幼女「あのね、おうちがわからなくなっちゃったの」

不良「迷子か……ったく親はなにやってやがる。しゃあねえ、俺についてきな」

不良「交番まで連れてってやる」

幼女「うん……」グスッ

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交番――

母「ありがとうございます!」

幼女「おにいちゃん、ありがとー!」

不良「……いいってことよ」



警官「いつも補導ばかりされてるお前が……成長したじゃないか」ニヤッ

不良「よせやい、気まぐれだっつうの」

学校――

担任「聞いたぞ、迷子を助けたんだってな! いやあ、見直したぞ!」

不良「助けたっつうか、交番に連れてっただけだし……」



女生徒A「不良君って怖そうだけど、案外優しいとこあるのねー」

女生徒B「今の人って、見て見ぬふりしちゃう人多いしね~」

女生徒C「私、不良君のこと好きになっちゃいそう!」

不良「……ったく、調子狂っちまうぜ」

不良「たかがガキ一人助けただけで、なんでこんな大騒ぎされなきゃならねえんだ」

仲間「そりゃあ、あれだ」

不良「あれって?」

仲間「“不良がたまにいいことするとやたら褒められる現象”ってやつだ」

不良「不良がたまにいいことするとやたら褒められる現象?」

仲間「オメーは普段、ケンカはするわ、タバコを吸うわ、授業はバックれるわの」

仲間「教師やおまわりも手を焼く、とびっきりのワルだ」

仲間「そんなワルがちょいと気まぐれにいいことすると、そのギャップも手伝ってか」

仲間「普通の奴がいいことするよりもチヤホヤされる現象だよ」

不良「ふうん……そういうもんなのか」

不良「だけどなんだか理不尽なハナシだな」

不良「普通に考えりゃマジメな奴がいいことした時にこそ、ちゃんと褒めてやるべきだろ」

仲間「まあ、たしかにな」

仲間「だけどよ、オメーだって褒められて悪い気はしてねえだろ?」

不良「……そりゃそうだろうよ」

仲間「だったら素直に受け取っておけよ、普段ツッパってる自分へのご褒美ってことでよ」

不良「なんだそりゃ」

不良(たしかに――)



『ありがとうございます!』

『おにいちゃん、ありがとー!』

『いつも補導ばかりされてるお前が……成長したじゃないか』

『聞いたぞ、迷子を助けたんだってな! いやあ、見直したぞ!』

『不良君って怖そうだけど、案外優しいとこあるのねー』



不良(久々に味わったな……こういう感覚)

不良(不良がいいことすると褒められる、か)

不良(だったら俺……もっといいことしてみるかな。いいヒマ潰しになりそうだし)

老婆「うんしょ、うんしょ」ヨロヨロ…

不良「!」

不良「おい、ばあちゃん! ずいぶん重そうだな! 俺が持ってやるぜ!」ササッ

老婆「そうかい? ありがとうねえ……」

不良「これぐらいどってことねえさ! ケンカで鍛えてあっからよ!」ヒョイッ

DQN「オラオラ、金出せや! 整形されたくねえだろ?」

眼鏡「ひ、ひいい……」



不良「おいコラ! 俺のシマで勝手こいてんじゃねーぞ!」ザッ



DQN「ゲ、不良!? くそっ、相手が悪すぎる……!」タタタッ



眼鏡「ありがとうございました!」

不良「ここらへんはああいうバカが多いから、もっと人通りのある道を歩きな」

不良「あのー……」

会社員「?」

不良「これ、落とし物」サッ

会社員「あ、これは私の財布! どうもありがとう!」

会社員「よかったら、ぜひお礼を……」

不良「いや、そんなつもりないんで! んじゃ!」

子供「ぼくの飛行機が木に引っかかっちゃったよう……」ピョンピョン

不良「どれ、ちょっと待ってろ」



不良「よっと」ヨジヨジ

不良「ほれ」ポイッ



子供「わぁっ、お兄ちゃん、ありがとう!」

不良「この子犬の里親探してま~す!」

子犬「ワン!」

主婦「あら!」

主婦「ちょうどウチで主人と犬飼おうって話してたのよね」

不良「マジすか!? へへへ、こいつも喜ぶっすよ!」

子犬「ワン、ワン!」

受験生「どうしよう……大切な模試なのに、寝坊しちゃったよ」オロオロ

不良「乗せてってやるよ!」ドルルルル…

受験生「え、でも、悪いよ」

不良「模試っつったら、てめえの腕を試す場だろ? 行かねえでどうする!?」ドルルル…

不良「ほれ、メットかぶれ!」ポイッ

受験生「あ、ありがとう」

不良(なんか俺、いいことするたびに心の中が洗われてるような気がする……!)

不良(スカッとするというか、シュワワ~ッとするというか、すげえいい気持ちだ!)

不良(オヤジは飲んだくれ、オフクロは男遊び好きで、俺はグレるしかないと思ってた)

不良(だけど、それは間違いだった!)

不良(俺はむしろいいことをすべきだったんだ!)



不良(褒められる褒められないなんてのは、もうどうでもいい)

不良(俺、もっともっといいことしよう……!)

それから10年後、不良はすっかり更生し、国際的ボランティア団体の若き会長となっていた。



空港――

記者A「今度はアフリカに向かうとのことですが?」

会長「ええ、日々の食事にも事欠く子供たちを、一人でも多く救いたいと思いましてね」

記者B「ところで先日は、なぜノーベル平和賞を辞退されたのですか?」

会長「私はまだまだノーベル賞に相応しいことはしていない。それだけのことですよ」



記者C「……」

記者C「へっへっへ、さっきから聞いてりゃキレイごとばかりおっしゃってますねえ」ズイッ

会長「!」

記者C「たしかにあなたは立派なお方だ。だれもが認めざるをえない“いい人”だ」

記者C「ですが、ネット上なんかじゃ、その立派すぎるあなたを懐疑的に見る声も多いんですよ」

記者C「ノーベル賞辞退なんてのも、あまりにも出来すぎたハナシですしねぇ~」

記者A「おいっ!」

記者B「失礼だぞ! どこの記者だ!」

記者C「会長さん、あんたなに企んでるんです? 教えて下さいよぉ~」

記者C「たとえば、将来的にはあなたのそのカリスマ性を利用して」

記者C「ボランティア団体の皮をかぶった非合法な営利団体を作るつもりとか……」

記者C「あなたが命じればなんでもやるって人は多そうですしねぇ~、へっへっへ」

会長「……」

会長「なんも企んじゃいねえよ!!!」





記者ABC「!!?」ビクッ





会長「俺を悪党だと思うのは、おめえの勝手だがよ」

会長「俺の仲間(ダチ)まで悪くいうようなら、タダじゃおけねえ」

会長「今度ンなことほざいたら、ヤキ入れっぞ!!!」

記者A「ビ、ビックリした……」

記者B「ものすごい迫力だ……」

記者C「あわわわわ……ご、ごめんなしゃい……」ジョボボ…



会長「……それじゃ私はこれで。そろそろフライト時刻ですので」クルッ



会長(……なるほどな)

会長(不良がたまにいいことをするとやたら褒められる現象ってのがあるのなら――)

会長(“いい人がたまにブチ切れるとやたら恐れられる現象”も当然あるってことか)





おわり

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