白菊ほたる「今も昔も」 (13)
「――どうしてもトップアイドルになりたいんです…! どんなに不幸でも!」
……なんて大口を叩いてしまったのだろうか。
私――白菊ほたるにそんな、トップアイドルになれるような、取り立てた長所なんてない。
逆に取り立てるだけの短所ならあるというのに。
不幸体質という、呪われた性質が。
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「いい言葉だ」
だけれど目の前の人――プロデューサーは笑い飛ばすでも、眉を顰めるでもなく、ただ真面目な顔で一つ頷き。
「君なら、トップアイドルになれるよ」
――そう、私のことを信じてくれた。
それからは輝かしい日々が続いた。
アイドルの衣装に身を包んでステージに初めて立った日。
育てていたスズランの木をモチーフにした衣装を着た日。
浴衣を着てみんなと花火を見た日。
クリスマスパーティーに参加して、その後サンタに扮した日。
闇と光の、二面がある剣士を舞台で演じきった日。
モデルにチャレンジして、光あふれる道を歩いた日。
ウェディングドレスを着て撮影をした日。
大きな舞台にソロで立たせてもらってライブをした日。
正月に縁起の良い衣装で厄払いをした日。
――どれも、とても大切な思い出だ。
――――だから、いつもここまでだと思ってしまう。
ここが私の最高潮なのだと。
ここまでが、私の限界なんだと。
これ以上輝くことなんて、できないんじゃないかと。
――思い描いていた、何より輝かしいトップアイドルになれる姿を、私は想像すらできなかった。
「お疲れ様、ほたる」
今日の撮影の仕事が終わって、プロデューサーさんは労いの言葉をかけてくれた。
「プロデューサーさんこそ、お疲れ様です……」
この人は変わらない。
あの日出会った時から、
不幸に巻き込まれた後でも、
ただ真っ直ぐな目で私を見て。
いつも、私の背中を押してくれる。
「……あの、プロデューサーさん」
「ん?」
だから、確認したかった。
あの気持ちもまた、あの時と変わらないのかと。
「――私は、トップアイドルになれると思いますか?」
「もちろん」
一拍も置かずに、返事は返ってきた。
「今も昔も、ずっとそう信じている」
何時の間に後ろに回ったのか、ぽんと小さく背中を押された。
「だからほたるも、そう信じていればいい」
「………………はい」
背中にじん、と熱がこもる。
この熱さがあれば、私はまだ前に進める。
諦めずに――夢を追える。
トップアイドルになる、その日まで。
おわり
諦めなければ、いつかはたどり着けるって信じてる
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