提督「下っ端ですが何か?」 (229)

地の文ありのSS。

息抜きに書いてたものです。

嫁艦いる方にはキツイ展開かもです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1459178942

汗が溜まると彼女たちの愚痴を聞く。
暑い嫌だ嫌だと言いながら、タオル地が彼女らの首や胸をなぞる。
私は日差しを疎みつつ、近くの一人に日焼け止めを投げてやった。

「提督」

キョトンとした女に私は言う。

「シミがついては嫁の貰い手がなくなるだろ」

私の言葉に彼女は笑った。

「バカです、提督。選ぶのは女です」

「そうか」

と、私は言うとパナマ帽を深く被った。


降伏すれば戦争は終わる。
が、敵が政府を持たないなら一体どうすればいいのだろう?

私が参加してしまった戦争は長々と続いていた。
当初は奇異の目を集めた艦娘も、今や一定の認知を得た。
銃後の人間には我々の闘争は愚かに見えるようで、
彼女らの戦闘行為を批判することさえ出来るようになった。

『いわく、女性主体の戦争とは何事か』

平和な海の回復は見えているものの、決定打にかける状態。
それが私の戦局への理解だった。


下っ端の私はそんな戦争で、前線近くで兵を率いていた。
私の艦隊が弱小だからこそ出来ることだった。
嘆いたことは多く、愚痴ならいくらでも出る。
けれども臨時の佐官の自分が、
艦娘を投げ出して逃げられるはずもない。
気づけば、私は本土行きの任務くらいは任されるようになっていた。

部下に仕事を投げてからホテルで飲んでいた。
隣の客のつまらない話が終わり、
私は美味くもないシンガポールスリングを傾けていた。
…煩いから逃げてきたのに、それに夕立が目敏く気づいた。


「提督さん、探したのよ。サボってズルいっぽい!」

ムスッと膨れた彼女を見て、私は言った。

「ズルいもんか、私が一番偉いんだ」

「だからサボっていいわけがないっぽい。大淀に言いつけるわよ?」

夕立はそう言ったので、ヒヤリとした。
私は慌ててバーテンにノンアルコールのロングドリンクを注文する。
誤魔化しのためである。


「で、夕立要件は?」

私が聞くと彼女は元気よく答える。

「提督さんに報告っぽい。入電確認、対象は明日にでも入港予定」

「ふうん」

私が言うと、夕立は赤い目で見る。
彼女には、泣きぼくろがある。


「やっぱり面白くないっぽい?」

「そらな」

「帰れるんだよ?」

「俺は下っ端だから意味ない」

「嘘っぽい。本当は別の理由でしょ?」

「他人の物の護衛ってな」

私が言うと、夕立は言った。

「うーん、それは退屈っぽい」

私は「そうか」と言うと彼女の小さな手にグラスを渡す。


「ところで由良は?」

「天城と哨戒っぽい。提督さんの指示でしょう?忘れたの」

耳が痛い。
自分でやったんだったか?

「ところで涼風は?」

私の隣に座って夕立が質問する。足が届かなくて、パタパタと足が動く。
私はグラスをカウンターに置くと答えた。

「食あたりだ」


「やっぱり涼風らしいっぽい」

「お前もだ、買食いで当たるなよ?ここは水が悪いからな」

「一航戦の二人じゃないもん」

私は笑うと、再びグラスを傾けた。


港に戻る。
哨戒から上がった由良と、天城が私に気づいた。
由良が言う。

「提督…護衛もつけずに、夕立を行かせたんですが…彼女は」

「眠気だ。涼風の食あたりもある、悪く言うな」

私も食いながら、涼風だけ食あたりした肉の串焼きを思い出す。
美味かったが、色々ヤバかったらしい。


港に戻る。
哨戒から上がった由良と、天城が私に気づいた。
由良が言う。

「提督…護衛もつけずに、夕立を行かせたんですが…彼女は」

「眠気だ。涼風の食あたりもある、悪く言うな」

私も食いながら、涼風だけ食あたりした肉の串焼きを思い出す。
美味かったが、色々ヤバかったらしい。

由良の大きなため息の後で、

「索敵しましたが問題ありません」

天城がそう報告する。

「了解。では戻るぞ」

私はそう言うと、待たせていたリキシャーに二人を連れて乗った。
乗り心地は最低である。
おまけに排ガス臭かった。


ホテルに戻ると、涼風の部屋をノックする。

「提督かい?」

「加減はどうだ」

「いいもんか、ばっきゃろ」

鍵が開くと青い顔の彼女が顔を出す。
それでも少しは良くなったようだ。


「ほれ、スポーツドリンク。飯も食えんだろ?」

「…助かるよ」

彼女は私の差し出したビニール袋を取ろうとして…
フラついた。
仕方なく咄嗟に支えた。


「おい」

「チキショウ、食あたりめ」

私はため息をつくと彼女を持ち上げる。
嫌がるかと思ったが、意外や大人しい。

「艦が体調不良って。なんてこった」

「言うな」

「鉄の身体があったけえってのも、変だな提督」

「元人間だろ」

「辞めたよ、随分前さ。センセは誰だっけ?」


彼女の視線を避け、私はベッドに涼風を置いてやる。
まだベッドにはぬくもりがあった。
私が来るまで寝ていたのだろう。

「で、提督」

「ん?」

袋を漁りながら涼風が言う。


「その、外人の艦娘は何時来るんで?」

「予定通りだ。明日には来る」

「そうかい」

涼風はボトルを口につける。

「難儀だね、艦娘は飛行機に乗れないってのは」

「法の上では器物だからな」

私が言うと涼風はムスッとする。


機嫌を曲げられるとマズいと、私は直ぐに謝罪する。

「悪いな」

「なんでもないよ」

「お前は他の涼風と違うな」

「同じ涼風でも、顔が違うって知ってるだろ提督?」

「そだな。お前は片目が一重だもんな」

「気にしてるから言うな!」

「それだけ言えるなら十分だ。もう出る」

私は扉に向けて歩き出す。

「問題無ければ明日からだ」

「あいよ」

涼風は、そう返事を返した。


提督にも種類がある。
執務室でふんぞりかえる奴がいるかと思えば、
現場で指揮する私のような下っ端も当然いた。

下っ端の私が、こうして海外艦の回収のため駆り出されるのは、
ある意味やむを得ないことだった。

世の常だが、戦功を上げたものから強力な艦を貸与されるのは当然の流れで、
私のような末端提督には急造空母と駆逐くらいしか与えられない。
清い志と小金の為に、
ダラダラと死地に居座ることは気分のいいことではないが、
それでも下っ端だから仕方がない。


そんな私は部下をホテルのラウンジに集め、
ブリーフィングを始めようとしていた。

「そろったな?」

全員、制服姿。
私は、夕立、涼風、由良、天城を確認すると口頭で伝える。


「回収予定の海外艦は、Z3、リベッチオ。
…リットリオ、ローマ、ザラ。
でビスマルク、プリンツオイゲン、グラーフツェッペリン、
そしてZ1、U511は我々の回収対象でない。
繰り返すが、任務としては彼女らを横須賀まで護衛だ」

涼風が口を挟む。

「楽勝だね」

「気を抜くな、何が出るかわからん」

「ですね」

由良が相槌を打つ。
…夕立も理解しただろう。
欠伸していたが。
私は話を閉めることにした。

「行くぞ」


港に行くと、軍の検閲がある。
艦娘を引き連れてると嫌でも視線を浴びる。
夕立が割合落ち着いてることに安堵しながら、
私は2隻の艦と対面した。

日焼けした白人将校から説明を受け、私は握手もソコソコにテントを出た。

…暁型の融通など私には荷が重い。
あと個人的に扶桑型を貸してくれってどういう事だ?

スケベジジイは死んでしまえ。
私も含めて。


テントの下に、二人の少女が見えた。
私は、PXで買ったボトルを手に声をかける。

「こんにちは」

「はじめまして!」

最初に顔を上げたのがリベッチオ。
続いてあまり機嫌のよくなさそうなZ3が私を見る。

「そうだ。遠くまですまない。暑いだろう?」

サイダーを二人に手渡すと、礼を言われる。

「…ダンケシェン」

「アリガト!」

…悪い子ではなさそうだ。


6隻の艦娘を連れて、手配した艦に戻る。
同じ日本人だが、敬礼こそされたがいい顔はされない。
当然か。
提督どもが女衒将校と言われて長い。
私も恥ずかしながらその一人で、
…男所帯のDDに乗るのは気が重かった。


さっさと充てがわれた部屋に通されると、
わざわざ案内してくれた艦長から、
『貴方は艦長の指揮権意外は無い』との釘を刺される。
わかっています、と返事を返す。
母国までのつまらない旅だ。
本でも読むか…


甲板で喫煙していると、天城が見つけた。

「またですか」

「いいじゃないか」

「そればかりですね、提督のお答えは」

「他は?」

「夕立のゲームに涼風が付き合ってます」

「由良は?」

「本を読んでました。提督ですね、渡したの?」

「江國香織だったか」

「カザンです。宮部みゆきや有川浩で無いんですね」

「肌に合わなくてな」

「そうですか?面白いと思いますけど」

「ファイヤマンが既にいる時代だ。軽くない方がいい、古い方がいい」

「どう言う意味です?」

「皆主体的に読書を忌避してくれるから、そう言ったんだ。どんな小説ももう燃えてる」

「そうでしょうか?紙から画面に変わっただけでは」

「それなりの年数を耐えられないのは、その場しのぎの模倣だよ」


2本目のタバコに火をつける。

「…提督、機嫌悪いんですか?」

「いやぁ?」

「答えてませんよ」

「では考えろ」

「機嫌が悪いから聞いてるんです」

「…何も変わらないなと思ってね」

「現状がですか?」

「そ、正解」

「どう思われてます?」

「回転だけ早まってやってることは何も変わらない」

「そうでしょうか?」

「例を出そうか?私みたいな士官は死ぬと解って兵隊を死地に送る。勝てば昇格、負ければハラキリ」

天城は悲しい顔をする。

「悲観的ですね」

「モードと一緒さ、生まれた瞬間から死ぬ事が決まってる」

「定番もありますよ」

「それもあるかな。けど私は幸福より不幸が多いと思ってる。でもって充実してるやつはもっといない」

「充実?」

「満足しながら生きてるやつ」

「…そんな事考える人がいますか?」

「いたらいいなと思うよ」

私はタバコを携帯灰皿に落とした。


「提督さん。退屈っぽい」

来るなと念を押したのに、
夕立が私の部屋にやってきた。
さて隊員らに何を言われるか…

「本しか無いぞ」

「漫画の他はイヤっぽい」

「手塚治虫すらないぞ」

「えーっ?!じゃあ、しりあがり寿は?!」

「え?」

「え?」


「…お前のセンスは置いておいて、駄々言うな」

「むー、なら今度スロトボエッジ全巻ね」

「そっちを先に聞きたかったよ」

「ギャグには煩いっぽい」

「そんな主張は知らん」

私が言うと、夕立はベッドに飛び乗る。
そのまま犬か猫のように伸びる。
彼女は何か思いついたらしく上着の襟元に指をかけた。

「じゃあ、楽しいことしましょ?」

「アホ、コドモが言うな」

「む、子供扱いして!涼風よりオッパイあるっぽい」


「はいはいはい…」

「なんで興味なさげなの?!」

「いやな、だってな、考えてみ?おっぱいなんて飾りや、うん」

「じゃあ、天城のおっぱいなら」

「熟考致す」

「サイズじゃないの!」

「ちげーよ、用途とトップとアンダーの差だ。お前のそれは形はいいが絶対固いもん」

「ごく自然に変態発言する提督さん、マジキモいっぽい」

「うるせえ、ロ◯◯ニン用意しねえぞ」

私は言うと、彼女に言う。


「とにかく、隊員とレクリエーション室でゲームでもしてこい」

「なーんかイヤっぽい。あの人たち」

「お前ね…」

「提督がいーの」

私はため息をつくと、夕立に言う。

「なら座れ、髪でも梳いてやる」


夕立が落ち着かなかったり、
由良に渡した小説について延々と解釈を語らされる羽目になった他は問題なかった。
独伊の駆逐も、上手くやっているらしい。
そうして船旅も残り半ばとなった時だ。
隊員の一人が私を呼び出す。
近くで艦娘対深海の闘争があったようで、はぐれを討てとの命令だった。
私は部下を呼び出した。


点呼ののち、私は言う。

「あくまで防衛だ。敵が逃げるなら追わなくていい。補給出来ても修理は望めない、いいな?」

返事を確認すると、私は彼女達を出撃させた。



部屋で旗艦の天城との連絡を取っていると、部屋を誰かが叩いた。
ドアを開ける。
いたのは、Z3だ。

「どうした?」

私が言うと、彼女は答える。

「何故出撃させなかったの?非常時は、私と彼女の指揮権が貴方にあるはずだけど」

頬をかく。それを考えない訳ではないが…


「万一の時に、君らに戦闘させた責任をもてないからね」

「役人みたいなことを言うのね」

「危ない橋は避けて然るべきだよ」

私は言うとタバコを手にした。

「貴方も吸うのね」

「ん?」

「ビスマルク姉様が吸ってたから」


「ああ」

私は生返事を返しつつも、目の前の少女の事を考えた。
不安だろうな。そう思った私は言った。

「なら飴をやろう」

「なんなの?」

「酒のつまみ」

彼女は、眉をへの字にする。

「意味がわからない」

「いや、子供に渡すのがそれくれいしかなくて…」

「ふざけてるの?ヤーパンは真面目だと聞いていたけど?」

「遊び人は世界共通だ。私は豊かな怠けでありたい」

「ドヤ顔で言われてもね」

「私としては君からドヤ顔が出た事にびっくりだよ」


問題無く、任務から彼女たちは帰ってきた。
会敵すらしなかったらしく、夕立が不満気だ。
由良は、潜水艦がいないことを不審がっていた。
天城に報告だけさせると、私は彼女たちを下がらせた。
なんとなく、嫌な予感が晴れない。


その日の夜だ。
寝つきが悪くて甲板に出ると、人影が見えた。

「君は」

リベッチオだった。
目が、赤い。
ゴシゴシと目を擦った彼女は、慌てて私に言う。

「何でもないの!」

「そうか」


私はタバコを取り出す。
それを見て、リベッチオが言う。

「ねえ、タバコって美味しいの?」

「酒よりまずい。けど、酒より酔わない」

「変なの」

そう言ってから彼女は続けた。

「みんなに会いたいな」

「そうか……?」

その時だ。
警報機が作動する。
敵襲だと理解するが早いか、船体が傾く。
何かが出たと気付いた時には、傾斜が更に酷いものになる。
遅れて水柱が上がった。

何かが、いる。

次の瞬間、唐突な爆発で私の意識は吹き飛んだ。


咳で目が覚めた。
すげえ、しょっぺえ。
あの世かと思ったが、五体満足であった。
砂浜らしかった。私は周囲を見る。
で、パンツを見た。

パンツ、下着である。

白であった。正気を疑った。
自分が狂ったかと真面目に思った。


「…」

何も言えないでいると、
彼女はかがんで流木を私に向ける。
下着が見えても気にしないらしい。

「言葉わかりますか?」

強い日差しで顔は見えない、ただ色素の薄い髪は理解した。
ちなみに言葉は、よりにもよってドイツ語だった。

「なんとか」

体を起こすと彼女の艤装が見える。


「なんとか」

体を起こすと彼女の艤装が見える。

「…なんてこった」

大きさからして重巡。
資料で見た形。

「艦娘…」

私が言うと酷く驚かれた。
それはそうか、行き倒れの男が言うんだからな。


プリンツオイゲンと彼女は名乗り、私は頭が痛くなった。
彼女がこんなところにいる事は、私らの後続である彼女らも襲撃を受けたことを意味していた。
…死ねばよかったかと頭に浮かんだ。

「確認だが、君らが先に襲撃されたんだな?」

「ですねえ。私だけ無傷です」

どこか上の空で彼女は答えた。

「…怪我人いるのか?」

「姉様と、イタ公どもが中破です。」

オイゲンは、そう言うと低く這う椰子の影を流木で差した。


何人か、いた。
近づくと当然反応された。

「…民間人?」

ひび割れ、片方だけの眼鏡の女が最初に聞いた。
目つきが悪いのは見えてないからだろう。
所属を名乗ると、全員が意外そうに私を見る。

「アトミラールでしたか」

ザラがいったところで、ビスマルクが指摘した。

「嘘かもしれないわ」

「私も疑う。だがその元気があるならヨシ」

私は言いつつも、内心は暗い。

日陰にいた艦娘は全部で三人。

ビスマルク、ローマ、ザラ、全て大破である。
その上数が合わない。
リットリオ、Z1、U511、グラーフがいない。

「他は?」

「知らない、なんとか逃げてきたもの」

ローマが言うと、ビスマルクが睨むように彼女を見た。
私は頭を抱えた。


なんとかならないか。
確実にヤバイ状況の中、幸運にも持っていた防水スマホ(官給)。
ソレとプリンツの通信設備を借りて、私はまず自分の艦隊を呼び出した。
賭けだったが、彼女たちは私たちを発見してくれた。

「提督さーん!」

「オイ馬鹿!」

夕立が砂浜に上がる。
で、そのまま減速せずに私に突っ込む。
どさりと砂浜に倒れると、涼風が覗き込んだ。


「地獄に提督は嫌われたんだねェ」

「バカ言え三途の川を渡り損ねたんだ」

「奪衣婆でも口説いたんだろ?」

「閉経したババアに興味ない」

「そうかい、冥土の土産がなくて残念だ」

「言ってろ」

私は二人を見る。
どちらも軽微な小破。問題無く戦闘は続行できるだろう。
…行けるかは別として。


「さて、報告」

私が言うと、二人は姿勢を正す。

「不明勢力と交戦、艦は壊滅です」

夕立が答える。

「非常時のためマニュアルに基づき自衛を開始、散発的な会敵そあれ、脱出しました」

涼風がそれに補足を加える。


涼風がそれに補足を加える。

「由良、天城、リベッチオ、Z3は護衛で生存者に同行。我々は救援のため移動中でしたが…」

そこで、涼風は私の後ろを見た。

「提督の通信と指示に従った次第です」

「なるほど」

私は頬をかく。

どうしたものか。
南方でドッグを備える基地へ行かざるを得ないが…

内心こんな艦隊を率いたくは無い。

戦闘可能なのが3隻、残りは満足な航行すら難しいレベルだ。
かと言って再び彼女らを海へ出すのはマズい。
それに、懸念もある。


「近くの泊地まで…無理だな」

私が言うと、夕立が言った。

「無理じゃ無いっぽい。私強いもん」

「無謀だバカたれ」

「バカじゃないもん!」

「戦艦相手なら死ぬぞ。無駄死にさせるのは胸糞悪い」

「じゃあ、じゃあ!提督さんどうするの?」

私は言うしかなかった。

「1日待つ、皆救難信号は出しただろ?」

反対意見は出なかった。


策があるわけでもない。
しかし、のうのうと海に出て行って殺されるのもまずい。
浜を歩きながら私は考えていた(なお夕立と涼風はおいてきた)。
タバコが欲しいと思ってポケットを探ると、未開封のハイライトがあった。

…が、ライターがない。

しくじったと思っていると女の声がした。


「貴方、タバコ持ってたの」

ビスマルクだ。
大破だから、非常に目に悪い格好をしている。
ただ、何処となくそわついているように見える。

「ライターあるか?」

「あるわ」

ダメもとで尋ねると彼女は投げて寄越した。
オイルライターだった。


「濡れたから、着くか知らないけど」

彼女が言う通り、本当に着かない。
が、なんとか火が付き私は慌ててタバコを近づける。

「ほれ、あんたも」

ハイライトとライターを投げると、彼女は片手で受け止めた。
慣れた手つきで彼女は火をつけようと試みるが。

「ダメね」

言うが早いか、彼女は私に近づく。


「おい」

止めるより先に、シガーキスが交わされた。
彼女が咥えたタバコに火がつく。

「ダンケシェーン、アトミラール」

彼女は言うと私の隣に座った。

「お前ね」

私が言うと、彼女は言った。

「ヤーパンはお淑やかな女が多いのかしら」

「飾り窓にでもいたか?」

私が皮肉を言うと、彼女は笑う。

「あたり、生活に困ってなったわ」

「…」

頭痛がした。
異国にも女衒はいると知っていたが、いざ被害者に会うと気が滅入る。
自分も実態は大差無いのだが。


「で、兵器になってクソったれな祖国からエクソダス。いい生活だわ。もう薄っぺらな愛の言葉を囁かなくてもいいもの」

彼女は、そう身の上を話した。

「死にたいのか、艦娘なんぞになって」

「さあ?」

「さあって」

「考えないもの、そんなの面倒じゃない」

「面倒?」

「シンプルがいいのよ、私」

私が黙ると彼女は言った。

「何も起きないといいわね」


学生の頃、2年間の休暇より蠅の王の方が興味を持って読めた。
文明よりも混沌が勝り、
純真など大人が押し付けるのだと共感できたから。

だからこそ、だ。

現状に強い危惧を私は感じていた。
ある程度の準備と自衛の用意はあるものの、ヒトは私一人。
異端として焼かれる恐怖があった。


夜が来る前に、火種だけは確保した。
その後の島内の探索は夕立と、名目上のお目付けの涼風に任せた。
多動の症状を見せる夕立が落ち着けると思わなかったし、
人見知りの兆候がある涼風が海外艦相手にストレス抱えるのは分かっていた。
そうして二人を見送った。


…私は、残る彼女達を見る。

ビスマルクは、くれてやったタバコを吸っていた。
その隣でオイゲンが、ビスマルクにもたれかかって眠っている。
一番状態が悪いローマは、ザラの手で扇がれていた。
ザラの腕に従って、色の悪い大きな葉が動く。

ローマが声をかけてきた。


「貴方、怖くないの?指揮下でもない艦娘といることに」

「怖くて提督が出来るか」

私は言いつつ首から下げた羅針盤を見る。
いざとなれば、頼れるがまだ時期でない。

「見たところ、正規の軍人でなさそうだけど」

ローマが体を起こす。
ザラが諌めた。

「おとなしくしてください」

「じゃあ、貴方気にならないの?彼の事が」


私は無言で火に流木を投げ入れる。
燃料はまだ考えなくていい。

「それは」

ザラが私を見る。
私は視線を外すと言う。

「私のことは気にするな、ただのヒトだ」


夕立達が戻ってきた。
表情は暗い。

「駄目っぽい」

「水源はなかったぜ、提督」

「そうだろうな」

私は島を見る。
典型的な小島だ、期待するだけ無駄だと知っていた。


「どうするの?」

夕立が質問する。
男女7人飲料の確保は必要だった。

「海水をなんとかする。準備はしておいた」

不幸中の幸いだが、人がいない小島という事で漂着物は多い。
使えるゴミを加工して飲料水を確保しようとは試みていた。
その事が涼風には意外らしく、彼女は言う

「やけに手馴れてる」

「訓練であったんだよ、お前らの生存マニュアルみたいなのが」

そうして水を見るが、当然溜まりは悪い。

「…湿らせる程度か」

「ヤシの実は?駄目っぽい?」

夕立が言った。

「あることはある」

私が足元の実を指すと、涼風が驚く。

「どうやって取ったんで」

「上着を引っ掛け登った」

わたしが言うと彼女は呆れたような顔をした。

「提督は、提督なのに無駄な芸が多いね」

「ほっとけ、ただ」

「ただ?」

「無限に無いんだ、こいつは」

私が言うと、涼風は暗い顔をした。


飢えをヤシで凌いだ翌朝。
出立する朝になって問題が起きた。

「雨か」

降り出すなり雨脚は強くなりる。
やがてバケツをひっくり返したほど強くなり、視界さえ効かなくなった。
私は夕立が見つけた穴(おそらく自然のものだろう)、
に艦娘たちを先に逃げ込ませた。

自分はその間にドラム缶やら何やら器になりそうなものを設置する。
てっきり出て行くとばかり思っていたらしい夕立が不満げに言う。

「どうするの、提督さん?」

「待機だ」

「ええー!」

夕立の言葉にプリンツが言う。

「うるさいですよ」

「こんな雨平気だわ!」

「バカ言え、潜水艦が出たらどうする。視界も悪い」

そう言いつつも、私は自分の不運を感じていた。
まさか、こうなるとは。

「不運ですね」

プリンツが言うと、ビスマルクが答える。

「そうね、タバコも切れたし」

雨は止まない。

すみません、今日の投下は終了です。
明日にでも書き溜め投下して終わらせます。

>>1です。再開します。
体調不良で、途中で落ちたらすみません。



じっとしていられない夕立がそわつく。
涼風はじっと黙っては思い出したように私を見る。
ローマは寝ている。
ビスマルクもイラついたように(十中八九ヤニ切れだ)こめかみを叩いている。
口を開いたのは、ザラだった。

「…どうなるんでしょう」


私は彼女を見る。

「待つしか無い」

私が言うとザラは言う。

「救難信号が傍受されてませんか」

私は笑った。

「壊れかけの鉄屑を誰が狙う」


私の言葉に噛み付いたのは意外な人物だった。

「訂正してください」

語調の強いドイツ語。
プリンツオイゲンが私を睨んでいた。
更には彼女はいつの間にか取り出した砲で私を狙う。
誰かが動いていた。
夕立だ。反射的に艤装を引っ掛け魚雷を手にする。
続いて涼風が飛び出した。
それをザラが血の気の引いた顔で見ていた。

重巡と駆逐がにらみ合う。


「沈められたいの?外人」

夕立が酸素魚雷を指に持つ。
涼風は私とプリンツの間に割って入る。
巻き添えで人死など御免被る。

「…失礼、失言だった。申し訳ない」

私が謝ると、プリンツは砲を下す。

「夕立、やめろ」

「でも」

「いい」

「でも!」

「二度言わせるな」


ブスっとした顔で夕立も手を下げる。
涼風は長い溜息を吐いて私に言う。

「肝冷やすぜ、バッキャロ」

「悪いな」

「やめなさいよ、プリンツ。頭に響く」

ビスマルクがプリンツに言う。

「……けど」

「いいの、多分そういう人だから、その人」

ビスマルクは続けて言った。

「間違いでもないでしょ、実際。ねえ?」


夕立は明確に苛立っていた。
拾ってきた小枝の皮を執拗に剥ぎ続けている。
涼風はドイツ艦を警戒して、先程の行動を利用して私の隣に移動してきた。
私の袖を裾を掴んだままだ。
自傷しないだけマシだが、二人とも不味い状態だ。

ローマはまだ起きない。

外が暗くなる前に、雨は上がった。


花を摘むと洒落た言い回しもせず、ションベンしてくると外に出た。
下品だなんだの言われたが、やむを得ない。
夕立は『水を見てくる!』と言って飛び出し、
代わりに何故か涼風が私についてきた。

「おい、面白く無いぞ」

「ばっちいもん見せんな!」

「ばっちい?」

「やめろよ!フリじゃないからね!?」


私が愚息をしまってズボンをあげると、彼女は言う。

「提督」

「ん?」

「なんであんな奴等に気を使うんで?その気があれば、夕立とあたいで逃げられるってのに」

事実だった。
私の筏さえあれば、曳航されて少なくとも島からは出られる。
だが、できない理由もまたあった。


「言うなと約束できるか?」

「ん、どういう事で?」

「夕立にもだ。あの子は頭の回転は速いが、考えるのを嫌いすぎる」

「わかった…」

「狙いが、海外艦だってのはお前も分かるな?」

「まあ、そりゃ」

「なのに無傷の重巡がいると言うのはどういう事だろうな?」

「あいつを疑ってんのか?」

「正確にはお前と夕立以外全員だ」

「…被害者じゃないか」

「なら救援が1日経っても、なぜ連絡一つこないんだ?」

「提督」

「彼女らが何を考えてるのか知らんが、出てった瞬間撃たれるのはゴメンだ」

先程のやり取りを思い出したのだろう、涼風は言う。

「悪い妄想じゃないか、それ」

「否定は出来ん」

「…最低だな提督」

涼風はそう言った。


洞穴に戻る前に、夕立が興奮しながらやってきた。

「提督さん!船っぽい」

「船?」

「座礁してるけど浮かぶと思うよ」

彼女に連れられて浜に向かう。
確かに船だった。
流されたか、或いは放棄されたか。
けれど、ひっくり返った状態だとは思わなかった。

「ホトケいるかもな」

私がボヤくと、涼風が袖を掴んだ。

「やめろよ、提督!」

「悪かったって」


船の残骸は、そこそこの物資の獲得に貢献した。
中でも、ごく僅かであったが食料。
そして、ロープやナイフといった道具は貴重なものだった。
洞穴に戻る。
プリンツとザラは寝ているようだった。
目を抑えるビスマルクが最初に気づいて、それから匂いを嗅いだ。
形のいい鼻が動く。

「嫌なひと、タバコ隠してた?」

「まだある、酷く不味い」

私が濡れてないタバコを投げると彼女は破顔する。

「構わない。助かるわ」

起きていたローマが、怪訝そうに見る。

「それ、何処で?」

「船の残骸」

「…そう」

「僅かだが食料もある。食事にしよう」

彼女は気だるそうに体を起こした。


「オートミール?」

ザラがそう言ってスプーンを持ち上げる。
衛生上の危険もあるため粥を作ったのだが、散々な酷評だった。
私は夕立が不味そうに食ってるのを見た。

「まっじいっぽい」

「あのな、寄生虫やら細菌感染とかもある。ただでさえ弱ってるんだから」

事実ローマとビスマルクは無言で食べている。
ザラとプリンツも文句は言わなかった。


「ガイジンさんと、ゲロ風に気を使わなくてもいいのに」

ぼそりと夕立がとんでもない事を口にした。

「おい、夕立なんつった?」

「下痢の方がよかったぽい?」

「うるせえやい!」

軽口を叩けるほど、うちの駆逐艦はかしましい。
…しかし私はすぐに認識を改める事になった。


「なんだ夕立、藪から棒に!あたいがなにをしたってんだ?」

「看病されてズルいっぽい」

「はぁ?!それはお前がバカだからだろ」

「バカじゃないもん!」

「宿題借りてたの誰だよ」

「うるさいっぽい!」

醜態をさらしては、イカン。
私は割って入る。

「おい、二人ともやめろ」

「猟色家の提督は黙ってるっぽい」

場が凍った。
正確には、ローマとビスマルクからの視線がヤバイ。


「夕立」

「ぽい?」

「誰にきいた、その言葉」

「由良がいざって時に言えって」

「……おかしい、由良がそんなこと言うわけない」

「うっかり由良の本を踏んだ時に教えてもらったの」

「お前のせいか!」

「なんで怒るのよ!」

「当たり前だ、馬鹿者!人を女好き扱いしやがって!」

舌打ちが聞こえた。きっとローマ。
弁明しても逆効果なのが目に見えていた。
ここでまさかの人物が割り込んだ。


「でも、あたい提督さんの私室に産婦人科の本あったの知ってるぜ」

「涼風、おま」

絶句する。
あれだけあった医学書の中で、それだけ覚えてるなんて。

「ゲリゲロやるっぽい」

「お前おぼえとけよ、夕立」

「ゲロ風なんて怖くないんだから~ホラー映画で怖くて寝れなかったくせに」

ビスマルクとローマの視線が痛い。
プリンツはキョトン、ザラは引きつった笑みである。


「んだと!」

「きゃー、こわいっぽい」

「とにかくやめろ!馬鹿ども!あと私を巻き込むな!」

「否定しないの?りょーしょくか」

「言うな阿呆!」

男ボウズだったらゲンコツを振り下ろしているが、流石に出来ない。
私は夕立、涼風に言う。

「とにかく止めろ」

「むー」

「提督。だってよ、夕立が喧嘩売ったんだぞ」

「夕立は謝れ、涼風は大人になれ、いいな?」

うむを言わせなかった。
…しばらくして、夕立はムッとした顔を解いた。
なんだかんだ、きっと夕立は謝るだろうとは思うが、非常に気疲れした。


食事が終わると、夕立は「眠くなった」と涼風と一緒に洞穴に戻った。
ネチネチしていないところが彼女のいいところで、涼風も流したようだった。
私はこの炊事の煙が良い方向に働かないかと思いながら、不味いタバコを吸っていた。
プリンツとザラもいない。
先程、もう一度船を見に行くと言ったが、生理現象からかもしれない。
ローマが私に話しかけたのはその時だった。

「雨が上がったのに出ていかないのね」

話しかけられたのが意外だった。

「夜戦嫌いでね」

私が言うとローマは苦笑する。

「提督であるのに」

「そうだ」


そこで、言葉がなくなる。
私はいい機会だと、聞きたかった事を口にした。

「君らは誰と戦った?」

ビスマルクは、ローマを見てから答えた。

「おそらく深海」

ローマは逆に言った。

「深海でなかった」


私は先にローマに聞く。

「…それは我が国の艦娘か?」

「わからない。交戦もそこそこに大破させられたから」

「そうか、でビスマルクは何故深海と?」

「私たちの敵は奴らでしょう?」

それ以上聞くなと態度が示していた。
私は再び黙った。



夜が来た。
今夜も艦娘たちに気を使い、私は砂浜近くに掘った穴の中で横になっていた。
いやに、蒸す。
肌着が嫌な感じになってきた。剃刀を当てたのはもう3日も前だ。
寝付けずいると、足音が聞こえた。

プリンツだった。

彼女は私に気づかないまま、泣き始めた。
聞こえるのは、独語での母親や父親へ会いたいとの言葉。
それから、もう嫌だとも聞こえる。
出るか出ないかと思っていた。
が、耐えきれなくなった。

よせばいいのにと思いながら、私は彼女に近寄った。


彼女はパッと振り返り、私を見る。
涙と鼻水でひでぇ顔だ。

「なんのようですか?」

彼女は、言う。

「鉄屑なんて言ったのに」

「…悪かった」

「あなた嫌い」

そう言うが、彼女は立ち去る素振りは見せない。
私は彼女に聞くまいと決めていた禁を破り言った。


「無理するな、まだ子供だろ」

「子供じゃない!」

ムキになって大声を出された。
それで私はハッキリ理解した。

「今年幾つだ?」

「…言わない」

私は溜息をついて彼女に近寄った。

「わたしが怖いか?」

「……」

彼女は黙る。


「怖かったよな?知らない国に行こうとして途中でこんなことになって」

うつむいて彼女は涙を浮かべる。
わたしは屈む、彼女に目を合わせた。

「大丈夫、姉様は君の事をわかってくれる。約束しよう、私も君の味方になる」

グスグス鼻をすすりながら彼女は上目で私を見る。

「嘘ついてるかもしれないです」

「そう思われても、私は味方になるよ。言いたいことあるだろ?

プリンツは私を見ると、胸のうちを話してくれた。

「怖かった。いきなり知らない敵が襲ってきて、頭が真っ白で…姉様が庇ってくれたけど…」

「うん」

「どうしようもなくて、イタ公が大破してそれで…」

「逃げてきたんだ?」

「うん」


彼女は私を見る。

「どうすればいいか、わかんなくて…それでアトミラールさんが来て」

「そうか」

「…行かないよね、アトミラールさんは?」

プリンツは不安そうに私を見る。

「大丈夫、救援は来る」

私は根拠のない事を言った

「そうですよね」

プリンツは涙を浮かべたまま笑った。


早朝だった。
ザラがすっ飛んできたかと思うと言った。

「ローマが!」

洞穴に向かうと、ローマから血の気が失せていた。
予断を許さない状態であった。
心拍は低く、呼吸は浅く速い。

「夕立か、涼風を呼んできてくれ」

私が言うとザラは走り出し、それにビスマルクが気がついて起きた。
彼女は、ローマを見て言った。

「…どうするの、アトミラール?」

彼女は手をそばで眠るプリンツにやったまま尋ねた。

「手がないわけでない」

「楽にしてあげるとか言わないでね」

ビスマルクは、そう言うとプリンツを揺すって起こす。

「ねーさま?」

「ごめんねプリンツ、ちょっと来てくれるかしら?」

「はぁい」

ビスマルクはプリンツを肩に担ぎながら私に言った。

「貴方も大概な嘘つきね 」


涼風と夕立がやってきた。
私は2人に聞く。

「どちらか、女神を貸してくれ」

涼風が言った。

「…外人に使うのかい?」

夕立が言う。

「私、イヤ。嫌いな人に渡すなら提督さんでも無理っぽい」

涼風は、そんな夕立を見てから私を見る。
胸が痛いが、私は言った。

「涼風」

「…わーったよ、提督」

彼女は私に手を出す。

「持ってけ、ドロボー」


涼風の女神を手に、ローマの近くに戻る。
周りから人は払っている。
彼女は、ボンヤリした目で私を見た。

「なに…す……るの」

「無茶だ、我慢してくれ」

私は機材を用意すると始めた。
ローマの悲鳴が耳に残った


洞穴から出ると、ザラが言った

「ローマは⁈」

大丈夫、側にいてやれ。私だとうなされる

「感謝致します、アトミラール」

ザラは礼を言うと洞穴へと駆けていく。
あとは待つだけだ。

「やっぱり酷いことした」

タバコの匂いで振り返ると、ビスマルクがいた。
彼女は私に言う。

「装備を置換させるなんて、本当にニンゲン?アナタ」

「泡沫提督だよ」

「本当かしら?艤装に触るなんて妖精の技に近いわ」

ビスマルクは、自分の妖精を取り出しつつ続けて言う。

「貴方に少し興味出た」


「そうか。なあ…敵は深海以外にもいただろ?」

私が言うと彼女は周囲を見る。

「…駆逐艦まで遠ざけたのはそう言うこと」

「ああ、どうだ?」

「事実ね。貴方の国の潜水艦を見たわ」

「なるほどね」

「驚かないの?」

「別に。で、どう見る?」

「アトミラール、貴方の考え通りじゃないかしら。あなたの国に裏切り者がいる」

「だろうな」

「どうするの?」

「考えはある」

「そう」


涼風が私に声をかける。

「提督、通信機に返事があった」

「…そうか」

「どうした、そんな暗くて」

「ちょっとな、返事は?」

「待ちだね…何かあるんだろ?」

「嗚呼、なら頼みがある」


夕立は直ぐに見つかった。
喧嘩したというのにプリンツと砂浜で山を作っていた。
子供らしいといえばそう言えるし、
おそらく近しい年齢なのだろう。
適合艦の外観に引きずられるだけで、
彼女たちは限定的な不老なのだから。

「あ、提督さん!」

彼女は私に駆け寄る。


「見てみて!2人で作ったのよ?凄くない⁈」

よく見れば山でなく城である。
プリンツがバツの悪そうな顔をしたが、
手が汚れてる所を見て私は微笑ましくなった。

「夕立、お願い聞いてくれるか?」

「なあに?」

私は彼女に言った。

「えー、それって大丈夫っぽい?」

「やれるか?」

「無理じゃないけど…」

「なら任せた」


私は今度はプリンツに言う。

「プリンツ」

「はい、アトミラール」

「聞こえてたな?やれるかい?」

「…私」

私は、夕立を見た。
ずるいと思うが利用しない手はない。

「夕立はプリンツと2人の方がいいかい?」

「うん、プリンツとなら安心。いい奴っぽい、もうトモダチだもん」

プリンツは、夕立を見てから私に言う。

「やります」

「頼んだぞ」


午後になった。
洗濯糊の効いた制服姿の艦娘が島にやってきた。
旗艦らしいのは…金剛か。

「任せたぞ、涼風」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年12月16日 (金) 14:19:58   ID: Y4KBVR6a

ラバウル側の艦娘は残念だったが、面白かった

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