イエス・キリストにカリスマ性で勝てない私達が、彼にケチをつける方法がある。
嫉妬することだ。
善人、偉人、美人、すべて関係ない。
嫉妬は嫉妬は、神にさえ投げつけることのできるグチャドロの泥団子である。
そしてこの泥団子は呪われている。
一度手にしてしまえば、汚れによって理性はすぐにでも侵食され、命の恩人にさえ「クソ野郎」といいながら汚い泥を投げつけずにはいられなくなるのだ。
ああ、おそろしや。
私なんかは、良識や才能の代わりに泥団子をたくさん持たされたらしい。
そのせいで、いまやバーサーカーだ。
クラス一友人の多い優しいと評判のA君、スポーツの県大会で賞をとったBさんだけでなく、クラス一美しいと言われるマドンナ(マドンナはたぶん死語)のCさんにさえグチャドロの泥を投げつけている。
もちろん、誰にも知られないようにこっそりと、だ。
嫉妬という泥まみれになっている姿を見られた日には恥ずかしさで生きていけない。
泥遊びは小学校に入る前に卒業すべきなのだ。
卒業すべきなのだが、なかなかどうしてやめられないから困る。
さて、なんでこんな話を突然始めたのか。
それもこれも、目の前の友人が
「あの子と恋人になりたい」
なんて、アホなことを私に相談しにきたせいである。
ああ、滅びればいいのに。 色ボケは滅びればいいのに。
恋人持ちのなんてのは、嫉妬の格好の的だ。
存在自体が犯罪者なやつらがいるとしたら、カップルであるといっても過言ではない。
彼ら、彼女らは幸せそうにしているだけで人を不幸にする。
生きているだけで罪人だ。
そんな悪を憎む正義の味方である私に、目の前の友人は、陰謀を企ててくれと言っているのだ。
人選、間違ってないかい?
ああ、ああ、あああああああああああああああああああああ。
おっと。失礼。
嫉妬のあまりに発狂してしまった。
目の前で友人が、ニヤニヤしながら私を見ている。
そんなに面白いか。
「試しでデートしてくれる」って話を聞いて、発狂しだした俺を見るのがそんなに楽しいか。
畜生。
さっさと話を続けろ。
そうしないと、この地獄は終わらないだろう?
一旦ここまで
一人称ミスってすまぬ
過去作
ボッチ男「俺の高校生活」
女「ツwwwンwwwデwwwレwww」
幼馴染「好きです!」 男「うぇーい!」
男「死体を見に10km歩いた話」
///
満月の夜。
公園を一人歩いていた私は、思いを言葉にした。
ここからは誰に言うでもない話。
パンダの遊具を相手にした長い独り言である。
「知らなければよかったんだ。
落ち込んでいる姿を見なければよかった。
知らなければ、ガチでへこむ友人を慰めるなんてことはなかったし、
慰めているうちに、おおよその事情を把握するなんてことはなかった」
「おためしデートが円満に終わった後、あいつは『あの子』にキスしようとしたらしい。
それで、『最低』って言われて頬にビンタ一発喰らって逃げられたんだとさ。
ああ、当然嫉妬狂いの俺は嫉妬したね。
『リア充しやがって。ざまあみろ、死ね』って思った。
言葉にはしなかったけれど」
「言葉にすればよかったかなあ。言葉にしてもよかったのかなあ。
ああ、クソ。言葉にして罵倒すればよかったんだ。
そうすれば、あんなことにはならなかった」
パンダを軽く蹴りつけてみた。
パンダはマヌケ面のまま、ぐわんぐわんとゆれた。
私も、そんな顔をしていたのだろうか?
「話を聞いてるうちに、あいつが言ったのよ。
『あの子、本当にいい子でさ。『びっくりしただけなの、ごめんなさい』って何度もメールしてくるんだ』って。
それを聞いたとたんに、ピンとひらめいたんよ」
「あっ、こいつフラれてねえわって。
キス、嫌がられてねえわって。
恥ずかしがって、照れ隠しでビンタしちゃっただけだわって。
そうじゃなければ、『びっくりしただけ』なんて言葉はでないはずだろ?
本当に死ねばいいのにな、って思ったよ」
「あいつは、フラれたと思って男のクセにメソメソしてるわけ。
でも、俺はフラれてないの知っているから内心、死ねって思っているわけ。
でも、死ねって思っているのに、不思議とニヤニヤがとまらんのよ」
「フラれてなくてよかったわーとか、フラれてないのに半泣きになってやんのとか、ぷぎゃあああwwwwとか。
嬉しいとか、楽しいとか、そういう気持ちで満たされてるのよ。
嫉妬狂いの俺がだぜ?
『ああ、負けた』って思ったわな。
今までの嫉妬狂いの自分が、友人思いの自分に負けたんだ。
負けちゃったんだ」
「嫉妬とともに生きてきた自分はなんだったんだろうな。
今までの自分が、否定されちゃったんよ。
今までの俺は負けたの。
……悔しいなあ。
本当にくやしいなあ」
遊具のパンダにまたがりたい衝動に駆られた。
衝動を止める人は誰もいないので、私はパンダに飛び乗る。
スプリングがゆれる。
そして叫ぶ。
「悔しいなああああ!!!!」
意味ありげに奇行しながら叫んでみた。
でも無駄だった。
「悔しい」と言葉にしてみたけれど、悔しいという気持ちは沸いてこなかった。
腹立たしさもなかった。嫉妬もなかった。
なんか満足していた。
パンダの頭をなでながら、私は言葉を続けた。
「ああ、悔しいんじゃないな。
寂しいんだな。
嫉妬しない自分に出会って、すべてに嫉妬する自分とバイバイしなくちゃいけないから」
寂しさを言葉にしたら、不思議と寂しい気がしてきた。
夜の公園という状況が、センチメンタルにさせているのかもしれない。
だから、こっちの気持ちも言葉にしてみた。
「満足だ」
寂しさはどこかへ消えて、喜びで満たされた。
一人だったけれど、月が綺麗だった。
>>37
4行目
すべてに嫉妬する → 何もかもに嫉妬する
///
結局のところ、私は友人に「お前、振られてないわ」と伝えた。
勘違いで落ち込む友人を見るのも楽しかったのだが、
えっと、その、なんだ。
私は意外と友人思いだったらしい。
友人は私の話を聞いてくれ、私の理屈にも納得してくれた。
しかし、それでもグズグズとウジウジとしていた。
「ダメだったら一日遊び代をおごるからさっさと話して来い」と後押ししたら、ようやく電話をかけてくれた。
その結果が、目の前の友人のにやけ面である。
「幸せでごめんな」とかぬかしおる。
私もお前にビンタさせてくれ。そのぐらいは許されるはずだから。
「お前も彼女作れば良いのにな」
目の前のノロケ面が言う。
私は、彼に聞こえるように思いっきり舌打ちをした。
彼は、にやけ面をさらにニヤケさせて笑った。
嫉妬まみれの私がそんなに面白いか?
勘違いするなよ。
私がお前に協力したのは、「持ってない」人だったからだ。
今は、恋人のいるこいつを妬まない理由はない。
これからはお前の足をひっぱって邪魔してもいいんだぞ。
「お前に好きなやつができたら、恋愛の先輩として絶対協力してやるからな」
と、友人は続けた。
私は友人のように顔をニヤけさせながら、軽く舌打ちをした。
おわり
ツンデレ書きたい症候群に駆られたので書いた。
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