幽霊少女「ねえ、君には僕が見えてるんだろ?」(141)

男「・・・」

幽「聞こえないふりしても無駄だよ?僕にはわかるんだから」

男「・・・なんで分かったんだ?」

幽「そりゃ分かるさ。だって明らかに君だけ僕のことを見てるんだもん」

男「なるほどな」

男「今まで幽霊なんて見えたことがなかったからな、ついつい見ちまったんだよ」

幽「そうかい」

男「んで、お前はなにしてるんだ?」

幽「品定めをしてるんだよ」

男「えっと、品定めってなんの?」

幽「それは勿論、取り殺しても問題のない人間のだよ」

こんな感じでよろしくお願いします。

男「え?」

幽「ああ、言い忘れたけど、僕は幽霊なんだよ」

幽「僕は生きていた時にあまりにも無残な殺され方をしてね」

幽「不憫に思った神様が一度きりのチャンスをくれたのさ」

男「チャンスって?」

幽「人の魂を手に入れればそれと引き換えに僕にもう一度命をくれるというんだ」

幽「そういう訳で人通りの多い駅前で殺しても問題のない、価値のない人間がいないかずっと見ていたんだけど…」

幽「いやあ、困ったね。そんな人間などいないときた」

幽「最初はそんな人間なんていくらでもいると思ってたんだけど、案外いないもんだねえ」

幽「それで途方に暮れていたところに君が来たって感じだね」

男「そうか?そんな人間、ごまんといると思うけど?」

幽「そう思うだろ?それが意外とそうでもないんだよ」

男「うーん・・・じゃあ、ほらニートとかはどうなんだ?働いてないし。」

幽「そうだね。たしかに労働=社会的な価値ととらえれば彼らの価値はないということになる」

幽「でもね、人の価値ってそればかりじゃないと思うんだよね」

幽「そうだね、ほら君だって某掲示板やそのまとめサイトくらいは今までに見たことがあるだろう?」

幽「それらの面白さを支えてるのは彼らの働きが大きいんだよ?」

幽「それに労働=価値なら専業主婦にも価値がないということになってしまう」

男「いや、でも専業主婦はほら家事とかしてるし」

幽「うん、そうだね。でもね、ニートの彼らが提供してる面白さの価値と専業主婦が提供する家事の価値の優劣って僕たちがつけてもいいものなのかな?」

男「・・・それは」

幽「それにね、価値の優劣以前に価値が少しでも存在する以上はそれを奪うような真似はしたくないんだよ」

幽「・・・それじゃあ、僕を殺した奴と同じじゃないか?」

男「・・・じゃあ、どうするんだ?それじゃあ、お前はずっと生き返れないままじゃないか」

幽「うーん、そうだねえ。じゃあ、こういうのはどうだい?」

幽「僕が君に取りつく。そうして色々と見ながら色々とまた考えるってのは?」

男「おい」

幽「大丈夫。別に生命力とかを吸い取ったりはしないよ。そもそもできないし。」

幽「それにほら僕はそんなに強い幽霊じゃないから積極的に動き回るってのはできなくてね。」

幽「ここまで来るのも精一杯だったし。」

幽「でも、君に取り付いていればここでは見られないものも見れるだろ。」

幽「もしかしたらその中に本当に価値のない魂もあるかもしれないって寸法さ。」

幽「まあ、僕が見えたのも何かの縁だと思ってさ。取りつかせてよ?」

男「まあ、そういうことなら・・・」

幽「じゃあ、契約成立ってことで!よろしくね。」

幽「遅れたけど僕は幽霊少女」

男「俺は男だ」

駅前

幽「ところでこんな昼間に駅前にいるところを見るに君は大学生かな?」

男「ああ、そうだ。これから大学に向かうところだ」

幽「僕と結構話し込んでしまったみたいだけど遅刻とかは大丈夫なのかい?」

男「ああ、元々昼飯を外で食ってから行こうと思って余裕をもって出てきたからな」

男「昼飯を早く済むものにすれば問題ないだろう」

幽「そうか、それは良かったよ」

幽「ところでお昼にはなにを食べるつもりなんだい?」

男「うーん、そうだな。時間ないし、適当にコンビニのパンとかかな」

幽「君、それはよくないよ。同じパンならせめてパン屋さんで買いたまえ」

幽「コンビニの食品は身体に実によくない」

幽「僕みたいに早死したくなければ、健康には気を使いなよ?」

男「お前、死因と健康関係ないだろう…」

幽「フフッ バレたか」

幽「まあ、それでも健康に越したことはないんだから、死者からの貴重な助言として受け取っておきなよ」

男「わかったよ。たしか、大学の前にパン屋があったはずだからそこで買うことにするよ」

幽「うん、そうするといい」

男「しかし、幽霊に健康を気遣われるとはな。なんかシュールだな」

幽「そうかい?なんなら幽霊らしく祟ったり、呪ったりしてあげようか?」

幽「といっても、僕程度じゃ大したことはできないけどね」

幽「せいぜい君を便秘にしたりするのが限界さ。やってあげようか?」

男「地味に辛そうだからやめて下さい」

幽「フフッ 冗談だよ」

大学

幽「ふむ、ここが大学というものか。なかなか広くてオシャレなんだね」

男「まあな、ぶっちゃけそれだけがウリみたいな大学だからな」

幽「いやいや謙遜することはないよ。僕の記憶が正しければ、そこそこに有名な大学なはずだよ?」

男「まあ、世間的にはな。実際に入ってみれば普通だよ」

幽「しかし、本当によさそうなところだね。僕も生き返ったら最終的にはここを受けてみようかな」

幽「受かったらよろしくお願いしますだね。先輩?」

男「やめてくれ…悪い冗談だ」

教室

男「ちょっと早かったかな…」スタスタ

幽「おや、こんなに前の方の席に座るとは。君は案外真面目なんだね」

男「案外とはなんだ、案外とは」

幽「いや、君はなんとなくあまり授業とかに真面目に出なさそうなタイプだと思ってね。」

男「おい、俺はこう見えて昔学年トップを取ったことがあるくらい真面目だったんだぞ」

幽「それは悪かった。ごめん、ごめん。謝るよ」

男「まあ、別にいいけど。」

男「ああ、そうだ。そろそろ他の学生も来るころだから、お前との会話をやめるぞ。俺も変な電波系とは思われたくないしな」

幽「そうだね。じゃあ、僕は静かに色々とみていることにするよ」

教室入口

学①「でさーその時チャラ男のやつがさー」スタスタ

学②「マジで?!それ、超ウケるわー」スタスタ

学①「!・・・あいつあんなことがあったのにまだ大学に来てやがるのかよ。」

男「・・・」

学②「ん?あいつってあの前の方に座ってるやつ?あいつがどうかしたのか?」

学①「いや、あいつと同じサークルだったんだけどな、実はあいつって・・・」ヒソヒソ

幼馴染「はいはい、邪魔だよー。ドアの近くでお喋りしないー」ドン

学①「痛っ!なにすんだよ!?」

幼「だから入るのに邪魔なんだって。くだらない噂話してる暇があったらさっさと席に着きなさいよ。」スタスタ

学①「ちっ」

幼「やっほー。もうお昼だけどおはよう」

男「ああ、おはよう」

幼「しかし、相変わらず真面目ねー。こんな対して人のいない授業でわざわざ前の方に座るなんて」

男「そんなの人の勝手だろ。そういうお前はどうなんだよ?」

幼「わ、私はただ単にあんたの隣が・・・」

キーンコーンカーンコーン

男「え?なんだって?」

幼「別に何でもない・・・」

幽「!ハハーン・・・」ニヤニヤ

幼「ところであんた、さっき私とあいつらが話してたこと聞こえた?」

男「・・・いや別に。」

幼「そう、ならいいわ」

男「そういえばお前、テストの方は大丈夫なのか?」

男「俺は授業全部出てるからいいが、お前結構サボってるだろ。ノートとか大丈夫なのか?」

幼「あーそれなんですけどね。また今期も男様に助けて頂けるとありがたいのですが・・・」

男「普通こういうのって男女逆じゃないか?まあ、いいけどさ。どうせお前と授業全部同じだし。なぜか毎回お前と授業がやたらと被るんだよな。」

幼「・・・頑張って同じにしてるのよ」ボソッ

幽「やっぱりか。男君、君もなかなか隅に置けないな」

男(・・・?どういう意味だ?)

幼「でも、とにかくありがとう。お礼に今度一緒にご飯行かない?奢るからさ。」

男「いいよ別に。そういうのが目的でノート写させてるわけじゃないし」

幼「それじゃ私の気が済まないわよ。ね?行こう?」

幼(あんた、こうでもしないと一緒に出かけてなんてくれないし・・・)

男「分かったよ。じゃあ、次の週末にでもな」

幼「うん!ちゃんと予定開けておくね」

男「なんでお前の方が嬉しそうなんだよ?」

幼「べっ別に嬉しくなんてないわよ!ノート貰いっぱなしじゃ悪いから行くだけよ。本当は面倒で嫌なんだからね?!」

男「そ、そうか。」

幼「そうよ」

幼「はぁ・・・」

幽「クックック 女心とは複雑で難しいな、男君よ」

キーンコーンカーンコーン

男「ふいー終わったー」

男「幼はこのままサークルだっけか?」

幼「うん」

男「じゃあ、俺は今日はこれで終わりだから帰るわ。じゃな。」

幼「うん、バイバイ」

男「んで、どうだった?短かったけど今日一日、大学ってのを見てみて?収穫はあったか?」

幽「そうだね・・・はっきり言ってしまえばなかったね。」

幽「そもそも学生自体があまり価値がないものだからどうかなとは思ったんだけど、将来的に価値を提供するものになるための段階と考えたら手を出せそうにないね」

幽「後ろの方で寝てるだけの学生なんかはちょっといいかななんて思ったけど。まあ、止めておくよ。」

男「そうか」

幽「ところで君はサークルというものには入ってないのかい?学生はたいていそれに入るものだと聞いたのだが?」

男「あー・・・入ってたんだけど辞めたんだ。ちょっと色々あって辞めたんだ。」

回想

サークルメンバー「こんな奴と一緒にサークル活動なんてできません!」

サ「そうですよ!部長なんとかして下さい!」

部長「・・・そういうことだ。悪いが辞めてもらえるな?」

男「はい・・・」

回想終わり

男「だから今は帰宅部だ」

幽「そうか、じゃあ僕と一緒だね」

男「そうだったのか?」

幽「ああ、僕の家は親が厳しくてね。『そんなことをしてる暇があったら勉強して少しでもいい大学に行け!』だそうだ。」

幽「まあその結果、死ぬまでずっと成績は学年一位だったんだけどね。でも、死んだらそんなものに価値はないね」

幽「まあ、親は選べないから仕方ないね。向こうも普通に遊ばせてやれるほど頭のいい子供に恵まれなかったんだからおあいこさ」

男「・・・」

男「じゃあ、帰宅部らしくどこか遊びに行くか?」

幽「いいのかい?!」

男「ああ、今日はもう用事もないし」

幽「そうか。迷うな。今までこういう風に遊んだことはあまりなかったからな。すぐに出てこないぞ。困ったな。」

幽「あ、そうだ。げーせんというものに行ってみたいな。いつも友達から話には聞いていたのだが、行ったことがないから行ってみたい。」

男「ゲームセンターのことか?ああ、いいぜ。行くか」

幽「うむ!」

ゲーセン

幽「なるほど、お金を払ってゲームをする場所だとは聞いていたがこういう風になっていたのか。やっぱり伝聞と自分の目で見るのは違うな」

幽「なあ、男あれはなんだ?」

男「あれはシューティングゲームだな。どんどん出てくる敵を死なないようにあの銃で撃って倒していくんだ」

幽「なるほど、じゃああれは?」

男「あれはクレーンゲームだな。中に入ってる景品をあの上からぶら下がってるやつで落とさないように取るゲームだ」

幽「ほう、面白そうだな」

男「他にも色々なゲームがあるから見てみるといい」

男「あ、でも今のお前では・・・」

幽「そうだね、ゲームを遊ぶことは出来ないね。僕は物理的な干渉ができるほど強い幽霊じゃないからね」

男「すまん、気が利かなくて」

幽「なにを言っているんだ?僕が行きたいといったんだ。君が謝る道理はどこにもない」

幽「まあでも、少しでも申し訳なさを感じるなら、僕の言ったゲームを遊んでみてくれよ。僕はそれを後ろから見て楽しむことにするよ。」

男「分かった。最初はなにがいい?」

幽「そうだね、じゃああのシューティングゲームというのをやってみてくれよ」

男「了解」

男「くっ」バンバン 

幽「そこは左の敵よりも右の敵を優先して倒した方がいいと思うんだがね」

男「そう、だな」バンバン

幽「ほら、上からも敵が来てるぞ」

男「え?マジd・・・」

ゾンビ「うがあああああああああ」バクッ

男「あ・・・」

幽「フフッ 見事に死んでしまったねえ」

男「そうだな。しかしお前よく全体を見れるな」

幽「岡目八目というやつだよ。僕は見てるだけだからね。操作に気を遣わなくていいし。」

男「どうする?もう一回やった方がいいか?」

幽「うーん・・・いや、別のをやろう。今日はとにかく色々な種類のゲームを見てみたい。」

男「そうか、じゃあ次はどれがいい?」

幽「そうだねえ・・・ああ、あのドラムの玄人とか面白そうだ。」

男「音ゲーか、いいぜ。」

ドラムの玄人前

幽「なるほど選んだ曲のリズムに合わせてそのドラムをたたくのか」

幽「なあ、曲は僕に選ばせてくれないか?」

男「おう、好きにしろ。適当に回してくから、好きなのでストップかけろ。」

幽「分かった」


男「そういえばさ、お前、俺に乗り移ったりとかはできないのか?そしたらお前も遊べるじゃん?」

幽「うーん・・・やってできなくはないとなんとなく思うけど君に悪いからね」

男「そうか?俺は別にかまわないが。」

幽「それに・・・」

男「それに?」

幽「一人でただ遊ぶよりも二人で話しながら遊んだ方が楽しいじゃないか?」

男「・・・そうか」

幽「まあ、ゲームで遊ぶのは生き返った時の楽しみにとっておくよ。」

男「分かった。あ、曲は決まったのか?」

幽「ああ、それとそれがいい」

男「分かった」

男「ふう・・・結構遊んだなあ」

幽「そうだね。なんだかんだで2時間ほど経ってるね」

男「どうだ?満足したか?」

幽「ああ、こんなに遊んだのは初めてだ。満足したよ」

男「じゃあ、今日のところはこの辺で帰るか?晩飯も買いに行きたいし」

幽「うん、そうだね。しかし今日は本当に楽しかった。ありがとう」

男「いや、いいよ。俺も楽しかったからさ。いい気分転換になったし」

幽「そうかい」

男「じゃあ、そろそろ行くか」スタスタ

幽「うむ」フヨフヨ

幽「そういえば、さっきの会話で思ったんだが、君は今一人暮らしなのかい?」

男「ん?ああ、まあな。」

幽「ということはご両親は今ご実家の方なのかな?幼馴染もいることだからてっきりここが地元なのかと思ったんだけど」

男「あーいや・・・俺はここが地元だよ。」

男「まあ、そのちょっとあってな・・・うち両親いないんだよ。」

幽「え・・・?」

男「結構前に自殺したんだ。それで今は一人暮らししてるってわけ。」

幽「す、すまなかった。僕はそんなつもりで聞いたんじゃないんだ。ただ・・・」

男「別に気にするな。単に気になったから聞いただけなんだろ?悪気がないんだからいいさ。」

幽「本当にすまない・・・」

男「だからいいって。あ、ほらスーパーに着いたぞ」

幽「ああ・・・」

スーパー

男「今日はなんにするかな・・・」

男「めんどくさいし、適当にお惣菜買って帰るかな」

幽「別にそれでもいいが、君、野菜もちゃんと取りなよ?タンパク質だけでなく」

男「いや、ほらちゃんと野菜ジュースも買ってるし・・・」

幽「ダメだ。いいかい?野菜ジュースってのはね、野菜を取ってない人間が言い訳をするために買うものなんだよ?」

男「うっ」

幽「ほら、分かったらそこのごぼうサラダを買いたまえ。食物繊維豊富だよ?」

男「分かったよ・・・」

男「お前ってサバサバしてるのにこういうところだけうるさいよな?」

幽「まあ、取りつかせてもらってるお礼さ。死者としては生者に少しでも健やかに生きてほしいんだよ」

幽「まあ、僕に実体があったら作ってあげてもいいんだけどね」

幽「それが叶わないからこうして口出しだけさせてもらうよ」

男「はいはい」

男宅

男「さてと、飯も食い終わったし、さっさと風呂に入って寝るかな」

幽「好きにするといい。僕はここでのんびりテレビでも見てるよ。」

男「なあ、一つ聞きたいんだが、俺に取りつくのって自由にやめたりできるのか?」

幽「ああ、できるよ。というかもうやめてる。」

男「あ、そうなのか?」

幽「君も家で僕にずっとついてこられたらなにかと不自由かなと思ってね。家に入った時に取りつく対象を君から家に変えた。」

男「それは助かった。いや、今から風呂に入ろうと思ってたからまさにそれを頼もうとしてたところなんだ。」

幽「まあ、僕としても男の裸を見る趣味はないからね。」

幽「フフッ 立場が逆だったら狂喜ものだろうけどね」

男「そこまで飢えてねえし、お前みたいなガキの裸には興味ねえよ。」

幽「そうかい?jkの裸なんて家族以外ではそうそう拝めるものじゃないよ?それに僕はこう見えて結構脱いだらすごいかもしれないよ?」

男「・・・ゴクリ」

幽「フフッ 今ちょっと想像したね?幽霊に欲情するなんて、君は変態なのかい?」

男「してねえよ!もういい、風呂入ってくる!」

幽「ごゆっくり」

風呂

男「・・・ちょっと想像しちまったじゃねえか」

男「・・・」

男「しかし、あいつは俺の正体に気が付いてるんだろうか・・・」

男「ないよな・・・もしそうならあんな態度取らないよな」

幽「さてと彼が風呂に入ってる間に確かめることだけ確かめないとね」フヨフヨ

二階

幽「さてと、どうやら彼の部屋はここみたいだね」スウッ

幽「・・・」

幽「やっぱりそうか・・・」

ガチャ 

幽「おっと、お風呂出たのかな?早く戻らないと」フヨフヨ

リビング

幽「やあ、おかえり」

男「おう」

幽「どうでもいいけど湯上り姿が色っぽく見えるのは男女共通なのかな?」

男「お前は何を言ってるんだ・・・」

幽「フフッ ただ思ったことを口にしただけだよ。特に他意はないって。」

男「はあ・・・俺はもう寝るけど、お前はどうするんだ?」

幽「じゃあ、僕もそうしようかな。夜更かしして君の家の光熱費を上げても悪いしね」

男「そうか、じゃあ適当に好きなところで寝てくれ」

幽「うむ、じゃあお言葉に甘えて君の横で添い寝することにするよ」

男「おい・・・」

幽「冗談だよ。他人の部屋に図々しく上り込んで寝たりはしないよ。僕はここでいい。」


男の部屋

男「ぐ・・・・」

男「違う、違うんだ・・・」

男「俺はただ・・・」

男の夢

「まったくお前というやつはまた学年二位だったそうだな?」

「本当に情けないわね」

「はい・・・申し訳ありません」

「次は儂を失望させるなよ?」

「分かりました・・・」

「はあ、あの子はいつも学年トップだったっていうのに・・・」

「申し訳ありません・・・次は善処します」

「・・・」

・・・・・

「気にすることはないさ」

「うるさい!お前に誰にも価値を認めてもらえない俺の気持ちがわかるか!」

・・・・・

「こんなんじゃだめだ!もっと勉強して認めてもらわないと!」

「・・・」

・・・・・

「あははははははは」

「見ろ!あいつは死んだ。俺が刺し殺した!これで俺がトップだ!」

「やっと同じ土台に立ってやったぞ!これでやっと親父に俺の価値を認めてもらえる!」

・・・・・

男「うわああああああ」ガバッ

男「はあ・・・はあ・・・」

幽「大丈夫かい?」

男「ヒッ・・・」

男「違う、違うんだ、俺はただ・・・」

男「すまない、すまない・・・そんなつもりじゃなかったんだ」

幽「落ち着きたまえ、僕だよ。」

男「・・・どうしてここに?」

幽「下で寝てたんだけど、君の部屋からとても苦しそうな寝言が聞こえたからね。心配になってきたんだ。」

男「それは悪かった。ちょっと嫌な夢を見てな。」

幽「そうみたいだね。下に行って水を飲んでくるといい。落ち着くよ?」

男「ああ、そうだな・・・」スタスタ

男(俺はあと何回あの夢を見ればいいんだ・・・・)

幽「・・・」

翌朝

幽「やあ、おはよう」

男「・・・おはよう」

幽「朝食を作っておいたから食べてくるといい。嫌な夢は美味しいものを食べて忘れるに限る。」

男「え?お前、どうやって?」

幽「君が寝てる間にちょっと体を拝借したよ。」

幽「悪いとは思ったんだけどね。あまりに昨日の晩は辛そうだったからね。」

男「いや、助かる。」

幽「だったら食べたまえ。結構力作だよ?」

男(トーストにオムレツ、コーヒー、サラダ・・・)

幽「あ、君はもしかして朝は和食派だったのかな?だったらすまないね。でも材料的にそれしか作れなかったんだ。」

男「いや、あまりに豪華な朝飯にびっくりしてただけだ。」

幽「そうか、それならよかった。」

男「いただきます」

幽「うむ、めしあがれ」

幽「ところで今日はどうするんだい?また大学に行くのかな?」

男「いや、今日は講義がない日だからな。お前が行きたい場所に行こうと思ってた。」

幽「本当かい?あ、いやでも君はそれでいいのかい?僕としてはすごくうれしいけど。」

男「まあ、特にやることもないしな。」

幽「じゃあ、どうしようかな・・・」

tv「〇〇動物園に今日中国からパンダがやってきました」

幽「・・・あれがいい。動物園に行きたい!」

男「動物園か・・・俺も随分と行ってないな。いいぞ。」

幽「よし、じゃあ、早く準備して行くとしようじゃないか」

幽「あ、勘違いしないでくれよ。僕は別に動物が見たいんじゃなくて、今日来日したパンダを身に集まる人を観察するのが目的だからな。」

幽「たくさん人がいるということは、それだけ僕が求めているような人もいる可能性が高いということだからな。」

男「はいはい」

動物園

男「とは言ってもやっぱり平日だからそこまでメチャクチャ人が多いって訳じゃないみたいだな。どうする帰るか?」ニヤニヤ

幽「え・・?いや、ほら、考えてもみたまえ、ここで帰ってはここに来るまでに使った時間とお金が無駄になるよ?」

男「その辺はあまり気にしなくていいぞ。定期券内だったし、そんなに家から遠いわけでもないからな。」ニヤニヤ

幽「だが、ほら人が多いことには変わりないんだし・・・」

男「これなら新宿駅とかの方が人が多い気もするんだけどなあ」ニヤニヤ

幽「・・・」

幽「もう、分かったよ!認めればいいんだろ?見たいです!動物園で動物を見たいからここに来たんです!」

男「はい、よくできました。ずっとからかわれてたからな、お返しだ。」

幽「ふん」

男「まあ、ほらその代わりにお前がみたい奴から見に行ってやるから、な?」

幽「・・・なら、ライオンとトラがいい」

男「ん、分かった」

トラの檻の前

幽「見ろ、トラだぞ!本物だ!」

男「そんなにはしゃがなくても・・・」

幽「僕は始めてトラを見るんだ。これがはしゃがないでいられるか。」

男「そうなのか?」

幽「うむ、遊びのあの字もないような両親だったからね。動物園も生まれて初めてだ」

男「そうか・・・」

幽「まあ、今こうして遊べているからさ。それでいいんだよ。」

ライオンの檻の前

幽「おおー!やっぱり猛獣はいいな!自然の雄大さを感じられる。」

男「・・・なんか感想の言い方がずれてないか?」

幽「なにを言う?ライオンから溢れ出てるこの自然の偉大さが感じられないのかい?」

男「いや、普通の感想はかっこいいとかだろ?」

幽「?だからそれが僕の言っている自然の雄大さや偉大さなんだろう?」

男「ああ、なるほど」

幽「僕はただ具体的にそれを言い表してるだけだよ?」


夕方

幽「ああ、今日は楽しかった・・・」

幽「トラ、ライオン、フラミンゴ、パンダ、コアラ、リス、シロクマ・・・ああ、どれもよかった」

男「それはよかった」

幽「うむ、また生まれ変わった後の楽しみが増えた。」

男「やっぱり生き返りたいってのは本当に望んでるんだな?」

幽「そりゃそうさ。この体では不便なことの方が多いし、与えられたチャンスを無駄にするつもりはないよ」

幽「僕はただその一度のチャンスで後悔しないように慎重なだけだよ」

幽「機会さえあればすぐにでもチャンスを使うさ」

男「そうか」

幽「ちなみに言うと今日だって一応ちゃんとそれなりには周りの人間を観察してたんだよ?」

幽「まあ、結果としては命を奪ってもいいかなって思ってた候補が減っただけなんだけどね。」

幽「正直言うとね、今日ここに来るまでは、僕に一切の楽しみや娯楽を与えず育ててきた両親なら命を貰ってもいいかなって思ってた。」

幽「僕が死んだ原因の一部は彼らにもあるからね」

幽「でもね、周りの家族連れを見てこう思えてしまったんだよ。」

幽「ああ、もしかしたらあんな彼らでも彼らなりに考えたうえで僕をああいう風に育ててたのかもなんてね。」

幽「彼らはきっと他のやり方を知らなかっただけなんだろうね。」

幽「まあ、そんなだから彼らの命を頂くのはやめることにするよ」

男「それがお前の決断なら俺は何も言わないさ。」

男「・・・」

幽「どうかしたのかい?」

男「いや、お前はすごいなあって思ってさ」

幽「なにを急に。本当にどうしたんだい?」

男「いや、さっきの話で俺も両親のことを思い出してな。」

男「俺の両親は息子のことを露骨に比較するわ、成績でしか判断しないわのひどい親でさ。」

男「多分、息子とか云々以前に自分の仕事の跡継ぎとして問題ないかどうかとしてしか見てなかったんだろうな」

男「それなのに結局、最後は息子が自分たちの思い通りの行動を取らず、恥をかいたってことで自殺してさ。本当に勝手な人たちだったよ。」

男「正直、俺は今でもあの人たちを許せそうにない。なのにお前はさらっと自分の両親を許すんだからすごいなって思ってさ。」

幽「君も親で苦労してたんだね。まあ、でもそんなに自分を卑下することないさ。君にもそのうちそういう日が来るよ」

男「だといいがな」

幽「来るさ」


男「なあ、ついでにもうひとつ聞きたいことがあるんだがいいか?」

幽「なんだい?」

男「もし仮にだ、お前の目の前に自分には生きてる価値がなくて死にたいから魂を奪ってくれってやつが現れたらどうする?」

幽「うーん、そうだねえ。僕にとってはこの上ないほど魅力的な状況だけど・・・」

男「だけど?」

幽「それでもやっぱり迷っちゃいそうだね。最終的にはどうなるか分からない」

男「・・・じゃあ、お前は結局どう生き返るつもりなんだ?」

男「この世に価値のないものがないんだったら、お前は自分の信念を曲げない限りは生き返れないことになるぞ?」

幽「うん、そうだね。でもまあ、幸いこのチャンスには期限はないし気長に考えることにするよ。その一環で今日はここに来たんだしね。」

男「そうだな」

幽「さ、真面目な話は終了して、お土産屋さんでも見ていこうよ?」

幽「幼馴染さんにも何か買っていってあげたら?きっと喜ぶよと思うよ?」

男「あーそういえばあいつと飯食いにに行くの明日だったな。ちょうどいいし買っていくか。」

幽「うん、それがいい」

お土産屋

男「なあ、あいつに買っていくのこのキーホルダーでいいかな?」

男「って、あれ?いない?」

ぬいぐるみの棚

幽「・・・」ジー

男「いたいた。こんなところで何やってるんだよ?」

幽「な、なあ、君に一つ頼みがあるんだがいいかな?」

男「なんだ?」

幽「こ、このぬいぐるみを買ってはくれないか///」

男「・・・お前、意外とかわいいとこあるんだな」

幽「べ、別にいいじゃないか。これでも僕だってれっきとした女の子なんだよ」

男「はいはい、じゃあ一個だけな。」

幽「一個・・・」

幽「なんという究極の選択だ・・・トラにするかライオンにするか・・・」

幽「トラの縞模様は素晴らしいがライオンの鬣も捨てがたい。僕はどうすればいいんだ・・・」

幽「なあ、男君、もう一つお願いがあるんだが・・・」

男「もう一つ買ってくれってならダメだぞ?俺の財布もそこまで厚くないんだ」

幽「うう・・・」シュン

男「・・・だが、まあお前の朝飯美味かったからな。・・・これから毎朝作ってくれるならもう一ついいぞ。」

幽「!本当か!?いいぞ、あの程度のものなら毎朝作ってやろう。だから、この子たちを両方買うのだ!」

男「はいはい」

レジ「お会計、11000円になります」

男「・・・」

男(そういや、ぬいぐるみって意外と高いんだったな。まあ、いいか。あいつも喜んでるし・・・)

幽「ふんふんふーん♪」

男「会計終わったし、帰るぞ」

幽「ああ!あ、でもその前に帰りにスーパーによらないとな。君の晩御飯と朝ごはんの材料を買わねば」

男「ああ、そうだな」

男宅

男「さてと、じゃあ俺はもう寝るわ。おやすみ。」

幽「ああ、おやすみ。僕はもう少しこの子たちを愛でてから寝ることにするよ」

男(よっぽどあれが気に入ったんだな)


男の部屋

男「くっ・・・」

男の夢

「なあ、俺が生きてる意味ってなんでしょうか?」

「なんだ急に?」

「いえ、自分がなんで生きてるのかなってずっと考えてまして」

「ふん、そんなこと決まっている。優秀な人材となって儂の後を継ぐことだ。」

「・・・」

「そんなことを考えている暇があったら勉強をしろ。儂を失望させるなよ?」

「・・・はい」

・・・・・

「自分で自分の価値が見いだせないから、目の前に与えられたものを頑張って・・・」

「そうして与えられた価値があれか・・・」

「俺は結局なんなんだろうな」

「自分で自分の価値を掴むためにはどうすればいいんだろうな・・・」

・・・・・

「俺はお前とは違う方法でトップを手に入れた!俺は俺にしかできない方法で価値を掴んだんだ!」

「あははあははははは」

「・・・」

幽「起き給え!」

男「はっ!」ガバッ

幽「大丈夫かい?あまりにうなされてたから起こしに来たんだよ。余計なことだったかい?」

男「・・・いや、助かったよ」

幽「君は一回病院に行った方がいいんじゃないのかな?ここまでひどいのならなら睡眠障害というやつかもしれないよ?」

男「病院ならもう行ってる。睡眠薬を処方されてるんだが、あまり利かないみたいだ。」

幽「じゃあ、薬を変えてもらった方がいいね。今度の行った時にそう言いたまえ」

男「ああ、そうする・・・」

幽「ところでどうする?ちょっと早いけど朝ごはんにするかい?」

男「そうだな。もう寝れる気分じゃない・・・」

幽「じゃあ、ちょと失礼するよ」

男「ああ」

幽「やあ、おはよう。今日はいい天気だよ。絶好のデート日和だ。」

男「デートじゃねえっつの。幼馴染は義理堅いやつだからな。こういう風にでも返さないと気が済まないんだよ。」

幽「・・・君はもう少し彼女の気持ちに応えてあげた方がいいね。もしかしたらそっちの方が残酷なのかもしれないけど」

男「?まあ、いいや。朝飯、頂くよ。」

幽「どうぞ召し上がれ。今日は君の要望に応えて和風にしたよ。」

男「相変わらずすごいな・・・美味そうだ。」

玄関

男「さてと、用意も終わったし行くぞ」

幽「なにを言っているんだい?君一人で行くんだよ?」

男「お前こそ何を言って・・・」

幽「いいから行きたまえ。僕も他人のデートにまでついていくほど野暮じゃないって」

男「だからデートじゃないって。」

幽「君の意思は関係ないさ。こういう時に大事なのは女の子の意思の方なんだよ?」

男「・・・まあ、お前さえいいならいいけど。じゃあ、いってきます」

幽「うむ、いってらっしゃい」

男「よう、待たせたか?」

幼「ううん、さっき来たところだから」

男「そうか」

幼「うん。じゃあ、行こう?」

男「ああ」

幽「男君は今頃幼君と合流したころかな?」

幽「久しぶりに一人になれたんだ、僕は色々と考えることにするかな」

幽「揺るがないうちに、僕も覚悟を決めたいしね・・・」

幼「私が今日奢るのはこのお店です!」

男「ふーん、いい感じの店だな」

幼「でしょ?最近、若者に人気のお店だって雑誌に載ってたんだよ?」

男「わざわざ調べたのか?」

幼「い、いや、ほら、お礼で行くんだし、せっかくだから美味しいもの食べてほしいなって思ってさ」

男「そんなに気を遣わなくていいのに。まあ、いいや、ありがとうな」

幼「う、うん!」

幽(神様は僕に誰かの魂を手に入れれば、誰かを犠牲にすれば生き返れるチャンスをくれた。)

幽(だが、僕は断固として安直にそのチャンスを使うつもりはない。なぜならそれでは僕を殺した彼と同じだから)

幽(そして、それを使うということは僕に与えられたもう一つのチャンスを捨てるということだから)

幽(男君、君には黙ってたけど実は僕にはもう一つの全く別のチャンスが与えられてるんだよ?)

男「あ、そうだ。忘れる前に渡しておくよ。この前、動物園に行ってきたときのお土産。」

幼「え?いいの?ありがとう!大切にするね!」

男「いいよ、そんな大したものじゃないし」

幼「違うの!大切なのはものじゃなくて誰がくれたかなんだよ?」

男「そういうものかねえ?」

幼「そういうものよ」

幼「でもさあ、男、なんで動物園なんか行ったの?」

男「あーほら、パンダが最近来たっていうからさ。せっかくだと思って暇な時にい見に行ったんだよ」

幼「・・・一人で?」

男「あ、うん。一人で」(どうせ言っても信じてもらえそうにないからな)

幼「その顔は何か隠してるわね?」

男「いや、別になにも」

幼「まさか彼女とか?」

男「んな訳あるか!」

幼「・・・まあ、いいわ。でも、今度から一人でどこかに行くときは私も誘いなさいよね?一緒に行ってあげるから」

男「いや、悪いからいいよ。俺なんかといってもつまらないだろう?」

幼「そんなことない!いい?約束よ?次からは絶対に私もつれていきなさいね」

男「わ、分かったよ・・・」

男「あ、料理来たみたいだぞ?」

女「本当だ!楽しみね。」

幽(僕が神様から与えられたもう一つのチャンス。)

幽(それは僕を殺した人間を殺して成仏すること)

幽(神様は僕に復活と復讐の両方のチャンスは同時は与えられないと言った。だから二つのうちから好きな方を選べと言って僕に選択肢を与えた!)

幽(だから僕はずっとどちらの選択肢を取るか、取るならばどのようにして実行するかを考えてきた!)

幽(考えて、考え続けて、やっとそれが叶うときが来た!)

幽(二日間彼にずっと取り付いてみたけど、やっと覚悟が決まったよ!)

幽(・・・男君は僕の覚悟に君はどのように向き合うんだろうね?)

幼「ところでさ、男、あんた最近何かあったの?」

男「え?」

幼「だって、この前会った時からちょっと雰囲気が違うから。」

幼「・・・だからちょっと気になったの」

男「・・・」

幼「あの事件から大分時間がたったでしょ?」

幼「それでなにか心境に変化でもあったのかなって?」

男「心境の変化はなにもないよ。あのことはすべて俺が悪い。それは俺の中で動かないことだ」

幼「違う、あんたは悪くない!」

男「じゃあ、誰が悪いっていうんだ?」

幼「それは・・・」

男「自分の価値を見いだせなかった男がそれを見つけようと足掻いた挙句に、他のもっと尊いものをすべて奪い去っていった」

男「・・・ただ、それだけだ」

幼「それも違う!だってあんたはただ・・・頑張ろうとして」

男「だが、お前の言うその頑張りの結果があれだ」

幼「・・・」

男「なあ、幼、前から思ってたんだがお前はもう俺に構うのはやめろ。お前は俺なんかと関わっちゃいけない」

幼「そんな・・・」

男「俺はずっとなんの価値もない、ただ生きてるだけの人間だった。」

男「だがな、あの事件で俺は価値がゼロどころかマイナスのただクズだったってことが分かった」

男「だからな、お前みたいないい奴は俺なんなんかと一緒にいちゃいけないんだよ」

男「今までありがとうな。あんなことがあっても変わらずに付き合ってくれるお前の好意うれしかったよ。」

幼「男・・・」

男「俺は今日すべてのことにケリをつける。これでやっと全部終わりだ。」

男「これで俺はやっと初めて価値のある存在になれそうだ」

幼「・・・ねえ?」

男「ん?」

幼「あのさ、貰っといてなんだけど、あんたのノート分かりにくいのよ」

幼「今度会ったときに詳しく解説しなさいよ!じゃないと許さないんだから!」

男「そうだな。また今度な。じゃあな、飯美味かったよ」

幼「うん、またね」

男宅

男「ただいま」

幽「おかえり」

幽「思ったよりも早かったね」

男「まあな、飯を一緒に食べただけだったからな」

幽「なんだ、せっかく一緒に出掛けたんだからもう少し他のところで遊んであげればよかったのに」

男「いいんだよ。あれくらいで。あいつは俺なんかと関わるべきじゃないんだ。」

幽「・・・」

男「なあ、少し話があるんだ」

幽「奇遇だね。僕もだよ」


実はここまでしか書き溜めてないです。
オチをどうするかまだ自分でも迷ってるので、需要あるのかどうかわかりませんが、少し考えてきます。

書き溜め終わりました。
もう一気に最後まで書いちゃいますね。

男「その感じだと、もう俺の正体はばれてたりするのかな?」

幽「そうだね」

男「いつから気が付いたのか聞いてもいいか?」

幽「初めて会った時から。といっても完全に確信したのはこの家に来てからだけどね」

男「・・・部屋でも見たのか?」

幽「ああ」

男「なるほど取り付く対象を変えたのはそういう目的もあったのか」

幽「というよりむしろそっちの方がメインの目的だったけどね」

幽「逆にそういう君はいつから気が付いてたんだい?」

男「最初からだよ。ちなみに俺は最初から確信があったぜ。忘れられるわけもない」

幽「それもそうだね」

男「じゃあ、もうまどろっこしい説明はいらないな」

幽「そうだね・・・」

幽「・・・僕を殺した犯人のお兄さん」

男の回想

父「まったくお前というやつはまた学年二位だったそうだな?」

母「本当に情けないわね」

弟「はい・・・申し訳ありません」

父「次は儂を失望させるなよ?」

弟「分かりました・・・」

母「はあ、あの子(男)はいつも学年トップだったっていうのに・・・」

弟「申し訳ありません・・・次は善処します」

男「・・・」

男「そんな風に言うこともないんじゃないですか?」

父「うるさい!お前は口をはさむな!」

父「こんな出来損ないを庇う暇があったら勉強しろ!次のテストでトップから落ちるようなことがあれば承知しないぞ!」

男「・・・」

男「気にすることはないさ」

弟「うるさい!お前に誰にも価値を認めてもらえない俺の気持ちがわかるか!」

男「落ち着けって。俺が中学生だったときは偶々同い年に自分以上にできる奴がいなかっただけさ。こういうのは時の運もある」

弟「違う!そもそもスタートの時点で俺は兄貴と違うんだ!」

弟「兄貴は名門の中高一貫校に受かった!でも俺は結局そこに落ちて第二志望のところだった!」

男「いや、だからそれも運・・・」

弟「うるさい!もう放っておいてくれ!」

男「分かった・・・」

・・・・・

弟「こんなんじゃだめだ!もっと勉強して認めてもらわないと!」

兄「・・・」

弟「こんなんじゃ、あいつにも勝てない!兄貴にも並べない!」

・・・・・

・・・・・

男「あの、俺が生きてる意味ってなんでしょうか?」

父「なんだ急に?」

男「いや、自分がなんで生きてるのかなってずっと考えまして」

父「ふん、そんなこと決まっている。優秀な人材となって儂の後を継ぐことだ。」

男「・・・」

父「そんなことを考えている暇があったら勉強をしろ。儂を失望させるなよ?」

男「・・・はい」

・・・・・

・・・・・

男「自分で自分の価値が見い出せないから、目の前に与えられたものを頑張って・・・」

男「そうして与えられた価値があれか・・・」

男「俺は結局なんなんだろうな」

男「自分で自分の価値を掴むためにはどうすればいいんだろうな・・・」

・・・・・

・・・・・

プルルルルル

男「ん?電話?弟からか。珍しいな」

ピッ

男「おう、俺だ。どうした?」

弟「ハア・・・ハア・・兄貴か?」

男「おい、どうした?なんか息が荒いけどなにかあったのか?大丈夫か?」

弟「いや、なんでもないよ兄貴。それよりも見て欲しいものがあるんだ。来てくれないか?」

男「あ、ああ・・・どこに行けばいい?」

弟「俺の中学の近くにある公園に来てくれ」

男「分かった」

ピッ

男(なにか嫌な予感がする・・・急ごう)ダッ

・・・・・

弟「よう、兄貴」ポタ・・・ポタ・・・・

男「ッお前、いったいなにを!」

血まみれの少女「・・・・・・・」

弟「見りゃ分かるだろ?俺が刺して殺したんだよ!」

男「なんで!?」

弟「そんなの決まってるだろ!こいつが邪魔だからだよ!」

弟「こいつがいる限り、俺はずっと学年トップになれない!親父たちに認めてもらえない!だから殺したんだ!」

弟「あははははははは」

弟「見ろ!あいつは死んだ。俺が刺し殺した!これで俺がトップだ!」

弟「やっと同じ土台に立ってやったぞ!これでやっと親父に俺の価値を認めてもらえる!」

弟「俺はお前とは違う方法でトップを手に入れた!俺は俺にしかできない方法で価値を掴んだんだ!」

弟「あははあははははは」

男「・・・」

・・・・・

・・・・・

男(結局、弟はあの後すぐに逮捕された。)

男(なにも抵抗せずに、俺が呼んだ警察におとなしく捕まった)

男(きっとあいつも限界だったんだろう・・・)

男(どうしてこんなことに・・・)

男(俺は昔から自分がなんで生きているのか、なんのために生きればいいのか分からなかった)

男(だからとりあえず両親が俺に与えることを頑張った。それがいつの日か俺の生きる意味になると信じて)

男(だが、いつになってもそれは俺の求めるものには変わってくれなかった。だから、俺はずっとそれを頑張り続けた)

男(そして、それがあいつに劣等感を抱かせることになってしまった・・・)

男(俺は・・・ただのクズだ。生きてる価値なんてない)

・・・・・

・・・・・

tv 「先日起こった男子中学生による同級生刺殺事件について・・・」

男(大分ニュースになってるな・・・)

男(中学生だから名前は出てないが、まあうちの子だってばれてるよな)

男(親父たちも会社どころじゃないだろうな。記者会見以降ずっと引きこもってるし)

ガタン!!

男(なんの音だ?二階からした気がするが・・・)

二階

父「・・・」ブラン

母「・・・」ブラン

男「親父・・・おふくろ・・・なんで?」

男「・・・遺書?」

遺書「あの出来損ないのせいで会社はおしまいだ。人生の意味を失った今、生き恥をさらすのは御免だ。もう逝かせてもらう」

男「・・・ふざけるなよ!!!!」

男「誰のせいだと思ってるんだ!!!」

男「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

・・・・・

・・・・

男(結局、俺はすべてを失った)

男(あれから一年たった今も惰性で生きてはいるが、もう俺には本当になんで自分が生きているのかが分からない)

男(それでもまだ生きてるのはなんでなんだろうな?)

男(きっとまだどこかで自分にはなにか価値があるんじゃないかって思いたいんだろうな・・・)

男(いいさ・・・一つでもそう思えることをしたら死のう。もうそれでいいさ。)

男(ん?なんだあれ?なんか蜃気楼みたいなのが・・・)

男(あれは!あいつが殺した少女!なんで・・・)

幽「ねえ、君には僕が見えてるんだろ?」

・・・・・


回想終わり

幽「ねえ、一つ聞いていいかい?」

男「なんだ?」

幽「どうして僕に普通に・・・いやむしろ優しく接してくれたんだい?」

幽「普通、自分の肉親が殺した人の霊が目の前に出てきたら、それが何を言っていようと否定的な想像をするだろう?」

幽「自分にも復讐に来たんじゃないだろうか?とかさ」

幽「最初は忘れてるのか、僕の言うことを鵜呑みにしたのかなとか思ってたんだけど、君はそういう性格でもそこまでの馬鹿でもないのは明白だからね」

幽「それを探ろうと思って二日間君と行動を共にしてた訳なんだけど、結局は分からなかった。」

幽「ねえ、この際だからその理由を教えてくれないか?」

男「・・・そのために俺にゲーセンや動物園に連れてってくれといったのか?」

幽「質問に質問で答えるのはよくないよ?まあ、でも答えてあげよう」

幽「僕が君に色々なところに連れて行くように頼んだ目的は三つある」

幽「一つはさっき言ったように君の真意を探るため」

幽「一つは君という人間の人となりを知るため」

幽「そして最後の一つは単純に楽しむためさ」

幽「僕がゲーセンとかに行ったことがないっていうのは本当だよ?というか僕はこれまで君に嘘を吐いたことほぼはない。言ってないことはいくつかあるけど」

幽「ああ、ゲーセンや動物園は本当に楽しかった。それにぬいぐるみも本当にありがとう。大切にするよ」

幽「さあ、僕は君の質問に答えたよ。今度は君の番だ。なんで僕に優しく接してくれたんだい?」

男「・・・どういう結果に転ぼうとそれを受け入れようと思ってたからだ」

男「今回、俺たち家族や君に起こったことはすべて俺が原因だ」

男「俺は昔から自分の生きる意味や目的が分からなかった」

男「だからとりあえず両親から与えられること、勉強を頑張った。それがいつかは自分の生きる理由につながると信じて。」

男「だが、それが結局は弟を追い詰め、お前の命を奪うことになった」

男「自分の価値が分からない俺が、それを手に入れようともがいた結果、他人のそれを奪ってしまった。」

男「俺はただのクズだ」

男「だが、お前を見たとき、これは俺がなんらかの形でやっと自分の価値を手に入れられるチャンスだと思った」

男「だから、どういう結果になろうとそれに従ってみようと思った。」

男「その始めとしてお前のために行動しようと思ったんだ」

幽「・・・」

男「なあ、お前はどうしたい?」

男「お前が俺の命を欲しいというならやる。価値のない人間を探したいというなら付き合う。まあ、俺以上に価値のない人間なんてまずいないと思うけどな」

幽「・・・」

男「さあ、どうする?」

幽「・・・僕は君に黙っていたことが二つある」

幽「一つは僕が神様から与えられたチャンスは一つではないということ」

幽「神様は僕に復讐をするチャンスも与えている。僕は僕を殺した人間を殺して成仏することもできるんだ」

男「・・・」

幽「見ず知らずの他人の命をもらって生き返るのは僕には受け入れられない。でも、僕を殺した奴を殺して消えるというのなら受け入れられる!」

幽「だってそうだろ?!やられたことを本人にやり返すだけなんだから!」

幽「でも、僕にはその方法がなかった。」

幽「前にも言ったけど、僕には誰かに取り付いて移動することはできても、自分から積極的に移動することはできない」

幽「檻の中にいる君の弟のところまで行くことが僕にはできない」

幽「うまく乗り移って行けば監獄まで行けるかもしれない。でも、そのさらに中の牢屋となると話は別だ」

幽「それで途方に暮れているところに君が来た」

幽「君の力を借りれば、僕にはそれができるようになる!方法は分かるだろ?」

幽「・・・面会だろ?」

幽「その通り」

幽「唯一生き残った親族である君なら面会はできるはずだからね。」

幽「君に取りついて、面会にさえ行ってもらえばすべて解決というわけだ」

男「・・・」

幽「それじゃあ、もう一つの黙っていたことを話そうか」

幽「もし、僕が誰かの魂を奪って生き返った場合、僕はただ生き返るんじゃなくて、君の弟が僕を刺殺したという事実自体がなくなるんだ」

幽「それはそうだろうね。死んだはずの人間がいきなり生き返ったら大問題だからね」

男「な!それなら・・・」

幽「そう、誰かを犠牲にさえすれば完璧なハッピーエンドさ」

幽「僕は生き返るし、君の弟が僕を殺したという事実はなかったことになる。誰もが満足する完璧なエンディングさ。」

幽「でも、そのためには一人の犠牲がいる」

男「なら、俺でいいだろ!」

幽「そうだね、すべての元凶となった弟の兄ということなら、魂を奪う理由としては十分な気がする」

幽「でもね、それを決めるのは君じゃない、僕だ。」

男「・・・」

幽「僕はこの出会いに感謝しているんだよ。君に出会えたおかげで僕の選択肢は無限になった。」

幽「そのせいで逆にどの選択肢を取るか決めきれなくなったんだけどね。」

幽「それで君を逃さない意味も込めて、君に取りつきながら考えることにした」

幽「でも、ようやく覚悟が決まったよ」

男「なあ・・・」

幽「なんだい?」

男「出来れば、俺の命を奪うという選択肢を取って欲しい。」

男「これは俺のエゴかもしれないが、なんの価値もない俺の命ですべてが解決するならそれが最高だと思う」

幽「そうかい」

幽「でも、悪いね。その望みには答えてあげられそうにない。」

男「そうか・・・」

幽「ああ、だって僕は幽霊のまま、君と生きていくという選択肢を選ぶからね」

男「え・・・」

幽「・・・なあ、もう自分を許してあげたらどうだい?」

幽「自分の価値を認めてあげたらどうだい?」

幽「だって君はこんなにも人に優しくできるじゃないか?」

男「違う。だって俺は・・・」

幽「違わなくない!」

幽「じゃあ、君はこれまで僕に対してしてくれたことはすべて無価値だったと言うのかい?」

男「それは俺にはなんの価値もないから、せめて最後にそれを作り出そうと・・・」

幽「その結果、価値が生まれた。君はほんのちょっと頑張るだけでだれかのためになることができる!・・・もうそれでいいじゃないか?」

幽「僕はあんなに楽しかったのは生まれて初めてだたよ?君とする会話は楽しかったし、ぬいぐるみを買ってもらったときは本当に嬉しかった」

幽「それに君はみんなのために真っ先に自分を犠牲にできる素晴らしい人間じゃないか」

幽「君は僕に神様からもらったチャンスを袖にしてもいいとさえ思わせたんだよ?」

幽「正直に言うとね。僕は君に会った時からずっと迷ってたんだ。君を殺して生き返るか、弟を殺して成仏するかのどちらにするかを。」

幽「でも、君と過ごした二日間は僕にそのどちらも取らせたくないと、君とずっと生きたいと思わせたんだ」

幽「だからさ、僕のために生きてくれよ?君の価値なら、生きる意味なら僕があげる」

男「・・・俺は許・・・ざれてもいいのか?」

幽「ああ、被害者の僕が言うんだ。間違いないよ。」

男「・・・俺は生ぎ・・・ていてもいい・・・のか?」

幽「ああ」

男「俺には・・・生きている価値があるのが?」

幽「ああ、僕が保証する」

男「う・・・うう・・・うわあああああああ」ボロボロ

幽「よしよし。今までよく頑張ったね」

男「うああああああああああああああ」ボロボロ

幽「なあ、神様、もし見ているなら一つだけ願いを聞いてほしい。」

幽「僕はあなたからもらったチャンスはどちらもいらない。だから・・・」

幽「せめて幽霊のままでも彼にだけは触れられるようにしてくれないか?」

幽「頼む」

神「その願い、叶えてしんぜよう」

幽「ありがとう」

翌朝

幽「やあ、おはよう」

男「ああ、おはよう」

幽「どうやらもう悪夢は見ないようになったみたいだね?」

男「ああ、こんなにぐっすり寝られたのは久しぶりだ」

幽「ほら、朝ごはんならできてるよ。食べ給え」

男「ああ、いただきます」

幽「そうそう、聞いてくれよ。神様が少し気を利かせてくれてね。君に触れていなくても君のためにする行動に限って実体化できるようにしてくれたんだ」

男「そうなのか?よかったじゃないか」

幽「うむ。これでもう朝ごはんを作る時に君の体を借りないで済む」

男「そうか」

幽「ああ、そうそう。忘れるとこっろだった。君に触れられるようになったらしたいことが一つあったんだ」

男「なんだ?」

幽「ちょっと目をつぶってくれたまえ」

男「なんだよ?」

幽「いいからいいから」

チュッ

fin

終わりです。
初ssでしたが少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
ある程度どうとでも転ばせられるように書いてるつもりでしたが、結局はこの終わり方を選びました。
インフルエンザで家を出れず、暇つぶしに書いたssなのでお見苦しい点も多々あるとは思いますが、お付き合いいただきありがとうございました。

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