【ガルパン短編SS】みほ「本物のボコが欲しいなあ」杏「いーよー」 (14)

みほ「はい、会長、あーん♪」

杏「あむっ……んぐっ、ん……いやー西住ちゃん腕あげたねーこの芋粥なんか
干しイモの旨味が出てて最高だよー」

みほ「ほ、本当ですか?ありがとうございます!あっ……ふふ、口の周りに付いちゃって……フキフキ
えへへ、嬉しいなあーわたし不器用で、人に料理褒められることなんて全然なかったから」

杏「うんうん、料理は愛情と努力と慣れだからねー。でさ、西住ちゃん、腕が上がったついでに」

杏「私の腕のコレ、外してくんないかな?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1456162868

みほ「ダメですよ会長、学校を守ったご褒美をくれるって言ったのは会長なんですから。

それに腕が使えなくってもわたしがちゃんとお世話してますし」

杏「いやー確かに感謝はしてるしなんでもあげるとは言ったけどさ、本物のボコなんかが欲しいなんて」

みほ「なんか?」カチッ

杏「あっ……」

みほ「なんかってなんですか?ボコの素晴らしさをボコになる本人が理解していないでどうするんですか?そんなことで本物のボコになれると思ってるんですか?

……予定を変更しましょう、今日は『君もボコになろう!秘密特訓の時間だぜ!』はお休みの予定でしたけど……一日でも早く会長にはボコの心をわかってもらわないと」

杏「 」ゾクッ

杏「に、西住ちゃん勘弁してよー、ほら、今せっかく西住ちゃんの作ってくれた干しイモ粥食べたばっかりだしさー」

みほ「勘弁して?ボコが相手に許しを乞うような卑しい真似、すると思ってるんですか?始めますよ、会長」

西住ちゃんは必ず、最初に鳩尾を狙う。本当に的確に。初めての日の一発目ですら、躊躇いも迷いもなく抉りこんできた。きっと、ずっと思い描いてきたんだろう。

それがどういった経緯で生まれた嗜好なのか、思考なのか、わからないけれど、その時の西住ちゃんの目は普段のかわいらしい少女のそれでも、

試合の時の勇敢な芯の通った軍神のそれでもない、ただただ笑っていない笑顔で。きっと誰も知らない。戦車に乗り込めばキューポラの心地を確かめるように、ごく自然に。

杏「んぶっ……ぐぇ、げぇ、はー、はー、はー」

みほ「んー、だめですね、会長。もう何度も特訓してきたのに。これじゃ何時まで経ってもボコになることは……」

急所を殴られた人間の、ごく自然で不可避な反応でも西住ちゃんは納得してくれない。ただ、それこそ何度も受けてきたことだから、私もその後の対応は少しは学んでいる。

杏「あ……あは……まだ、はーっ、全然、はっ、こんなんじゃ負けないよ、西住、ちゃん」

みほ「! ボコの心持ち……わかってきてくれてたんですね……うれしいなあー……」

『特訓』の時西住ちゃんは、起伏が激しい。何度か繰り返されたこのやりとりだって、慣れたものだ。最初の頃は、痛がったり、やめるよう頼んだりしたけれど、それはこの後の行為を酷くするだけだというのは、流石に私も学んだ。

そう、何度も、何度も、西住ちゃんの『特訓』は繰り返された。そのたびに西住ちゃんは私がボコになれなかったことを悲しみ、私の身体を丁寧に労り、包帯や薬で簡易な治療をする。

私の身体に痣の後がない場所はほとんどないけれど、不思議と膿んだり命にかかわるような怪我はしていない。きっと、西住ちゃんはやっぱり、優しい子なんだと思う。

こんなことをされながらも、私が少しの熱を持ってしまっているのも、きっとそのせいで。

みほ「やっぱり、会長なら、いつかボコになってくれる、なれると思うんです。ずっと思っていたんです……会長は、廃校なんて言われても諦めなかったし、ずっと大きな相手にもぶつかっていって
うまく言えないですけど、すごい、って、思ってて」

みほ「えへへ、でも、最後には勝っちゃうから、やっぱり私がボコ道を教えてあげなくちゃって、ずっと」

杏「ははー……ありがとう、でいいのかな、わかんないや」

分からないとは言っておくけれど、褒められると、それでも少しうれしい。自分の方がずっと大きな相手を打ち破る力を持っていて、それを実際に示してきたことは、きっと本人は分かってないけれど。

半ば無理やり戦車道を強いたりした西住ちゃんにこういわれると、こんなことをされていながらも少しだけ、気持ちがいい。

こんな会話をしながらも西住ちゃんは私の身体を大怪我するぎりぎりまで痛めつけ、私はそれを堪え、繰り返す。当然傷が残るようなことも西住ちゃんは平然とする。

ボコのデザインに怪我の跡があることを恨まなければならない、はずなんだけど。

みほ「会長はきっと、何をされても立ち向かってくれる。心が折れないでいてくれる。ずっと、変わらないでいてくれるって、そういう人だって、思ってて」

それはちょっと違うよ西住ちゃん。立ち向かうのも、心が折れないのも、全部、西住ちゃんのためなんだよ。西住ちゃんを欲しがってるから、そう変わっちゃったから。

私は、ボコにはなれない。ボコは、傷だらけだけど、傷めつけられることを喜んだりしてるわけじゃない。でも、私は、多分、違う。

みほ「私、会長がボコになれるって……本物のボコになれるって信じてるんです!私の、私だけのボコに」

西住ちゃんが『私だけ』と言った瞬間の殴打に、今日一番の重い痛みを乗せてきたのは、きっと私の思い上がりじゃない、なければ、いいな。

変わらないでいてくれるって言いながら私にボコになってほしいって言うことの矛盾も、きっと、この優しくて、純粋な少女は気づいてないんだろうな。

私は、本物のボコになれない。西住ちゃんには悪いけれど、なるつもりはないよ。ずっと、ここにしか存在できない本物の西住みほが、ここに現れる限り。

いつまでも立ち向かって、決して勝てない、それでも折れないのがボコ道なんでしょ、『私だけの』西住ちゃん。



このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom