雪美「……野獣……先輩?………」 (118)
冷え込みが続き雪も見え始めたこの頃
一人の少女が街を歩いていた
雪美「……………………」
その姿はまるで着ぐるみの様だ
厚着に厚着に重ねもこもこと着ぶくれしている
雪美「………………………」
寒くないように風邪をひかぬようにと
彼女のためを想ったのだろうその衣装は
彼女が愛されている証拠であり見るだけで暖かさを感じる
雪美「………P……どうして…」
しかし、そんな彼女の心は今、冷え切っていた
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心の内を絞り出すように声が出る
雪美「…………お見合い…………何て……」
それは少し前の話
【事務所】
P「お見合いの話がきやがりましたのです」
ちひろ「幼児退行しても駄目ですよ?」
P「したくもなりますって、寝耳に水もいい所です」
ちひろ「こういう仕事してると付き合いも多くなりますしちゃちゃっと会うだけ会ってきてくださいな」
P「えぇー断るだけなのに…会う前に断れないもんですかね?」
ちひろ「相手方に失礼です、それにひょっとしたらいい相手かもしれないですよ?」
P「はははそれ以前の話ですよ、お見合いとかそんな歳じゃないですから俺」
ちひろ「そうですか?プロデューサーさんのお友達とかに結婚しちゃってる人いないんです?」
P「そりゃそう言われると確かに少しは結婚してる奴もいますけど…それでも俺はまだまだ実感ないですよ」
ちひろ「そんな事言ってるとずっと独身ですよー?」
P「うぐっ、恐ろしい事を言いますね」
ちひろ「あはは」
P「そ、そういうちひろさんこそ大丈夫ですか?…というかちひろさんの歳って幾つでしたっけ?まだ知らないんですが」
ちひろ「幾つに見えますか?」
P「えっ」
ちひろ「幾つに見えますか?うふふ」
P「これは女性から一番聞かれるけど一番答えるのが難しいあの質問!」
ちひろ「…プロデューサーさん?」
P「…………お、俺よりちょっと下くらい!とか、うふふ!」
ちひろ「…………合格点はあげましょう」
P「やったぜ」
何処にでもある日常の会話
話題は普段よりややピーキーではあるが朗らかないつもだった
しかし下で聞いてしまった彼女にこの話題を見過ごすことは出来なかった
P「うーんしかしお見合いとか全然手合いが解らん…勉強しないといけな」
雪美「……P………待って………」
P「…ん?ああ今日は雪美だったのか、珍しいな」
唐突に机から這い出てくる少女に驚く事無く対応する事もここではまた日常である
雪美「……今の話…………本当………?」
P「今のって…聞いてたのかああお見合いの事、厄介な話だけど本当なんだなこれが」
雪美「……………っ!………」
P「とはいえこうなってしまったのはしょうがない、これも経験になるしとりあえずは受けてみるよ」
雪美「…………駄目…………」
P「おう?」
雪美「…………そんなの…………駄目」
P「………………」
ちひろ「あらあら」
恋とか愛とかそういう物のでは無いかもしれない
そういった気持ちと決めるには彼女にはまだ早すぎる
だがそれでも彼の存在は彼女の中での特別であった
ずっと一緒に居て欲しいと、傍にいて欲しいと
お見合い何て行って欲しくない心から思うほどには
雪美「………行っちゃ………駄目…………」
ちひろ「こら駄目ですよ雪美ちゃん、プロデューサーさん困っちゃいますよ」
P「そうか、そうだな!雪美がそう言うならしょうがないな!行かない事に決め」
ちひろ「───プロデューサーさん?」
穏やかに事務員が微笑む
笑顔とは本来攻撃的な物である
P「ごめん雪美、これも付き合いなんだ」
雪美「………っ!………」
ちひろ「うふふ」
このままでは私とPとが離されてしまう
喋るのは得意ではない彼女なりに彼らを説得しようとする
雪美「…でも………約束…………」
P「約束?」
雪美「…………P…………私と一緒……ずっと……………」
ちひろ「…………」
雪美「…お見合いしたら…私……そんなの…………駄目…………」
P「…………そうか」
アイドルの中でも特に大人しい彼女が必死に訴える
その姿にようやく真剣な事に気づく
P「そうだったな、うん、すまん適当に相手して」
ちひろ「はい、ごめんなさい雪美ちゃん」
雪美「…………あ………」
雪美「…………なら………お見合い……受けない?……」
P「いやお見合いは受ける」
雪美「…………え………」
P「でも大丈夫だ、雪美が心配する事にはならない」
P「元々俺は乗り気じゃないし受けるつもりも無い、今回は本当に受けるだけだ」
雪美「…………本当………?……」
P「本当だ!それに相手に良いと思われるほど優良な物件じゃないからな俺は!」
ちひろ「あはははは」
P「笑ってないで待遇上げて下さい」
ちひろ「やだなープロデューサーさんったらーただの事務員に何言ってるんですかー?」
P「う、胡散臭い!」
雪美「…………あ……ふふ………」
彼女は安堵した
ちゃんと自分の言った事が伝わったのだと
しかし
P「そもそも俺が雪美のプロデューサー辞めるとかあり得ないって、心配するな」
雪美「…………うん………うん!…」
P「それにだ」
雪美「…………?…………」
P「万が一に上手くって俺が結婚してもそれは変わらないさ、ずっとプロデューサーやり続けたいからな!」
雪美「……………………………………………………」
心に影が落ちた
自分の気持ちが致命的に伝わっていない事を知った
そして冒頭に時間は戻る
【街中】
雪美「……………………」
おぼつかない足取りの中、彼女は考える
雪美「…………私じゃ…………駄目…………なの………?…」
以前から気づいていた
自分が彼を想った言動を言えども
彼からの反応は何処かズレていると
雪美「…………P…………私は………」
それは間違いなく好意的であるし
彼女を子供と軽く扱っている訳でもない
だがそれはまるで彼女の母や父が向ける視線であって
微笑ましい物を見る者の目であって
彼女が望む反応とは、違うのだ
雪美「…………そうじゃない…………のに………」
でもしょうがない、まだ自分は子供だから
大きくなった後でもいい、ずっと傍にいてくれるのだから
今はただ私の事を見て私のプロデューサーをしてくれる
それだけで彼女は幸せだった
雪美「……………………」
彼女は忘れていた、彼がその間待っていてくれない事を
雪美「………P…………」
一般的な常識からして彼は正しいだろう
世間的にだって当然の事だろう
彼女が望む答えを返していたのならどんな波乱が起きる事か
しかし彼女にとっては常識も波乱も関係は無い
雪美「…………どうしたら……いいの……?…」
子供の頃は大人に憧れるだとか
皆そういう経験をする者だとか
そんな言葉も意味は無い
今の彼女には、今しかないのだ
雪美「…………………」
もしPが私と同じ子供だったら
もし私がもっと大人だったら
考えてもどうにもならない事が頭を巡る
考えても解ける事が無いから巡り続ける
雪美「…………………」
だから気づけなかったのだろう
フードをすっぽりかぶり視界の減った中
自分が何処を歩いているのかを
ビィー!!!!
雪美「……え………?……」
甲高いクラクションに気づいた時ようやく、自分が轢かれる直前だと気づいた
突進してくるトラックに彼女は逃げる時間も無かった
雪美「……………………………」
このまま自分は死んでしまうのだろうか?
大好きな人に想いを伝える事もできないままに
雪美「…………P…………」
こんな事ならもし駄目でも私の本当の気持ちだけでも解って欲しかった
彼女は最後にそう思った、そしてトラックが小さな体に当たる…その刹那
「やっぱり僕は…公道を征く!」
雪美「…………え……?…………」
何かが彼女を救った
「ぬわあああああああん!!!」
ドガッ!!!…ガガガガガガガ!!
大きく鈍い音と甲高い叫びが辺りに響く
雪美「…………え…………え……」
身一つで正面衝突を抑える謎の人物
そんな現実離れした光景に見る事しか出来なかった
ガガガ……ガ……
気づけば煙を上げながらトラックは止まっていた
体感した時間は長かったが、あっという間の事だったのだろう
「fooー疲れた」
雪美「…………あ…大丈夫…?……」
「痛いですね…これは痛い…」
身体で止めれば当然であろう、というより止めたこと自体が奇跡ではあるが
「でも」
雪美「…………?…………」
鍛えられた逞しい肉体、浅黒い肌、甲高い声
「…ま、人を助けるなら多少の無茶はね?」
野獣の様な男がそこにいた
お風呂休憩します
再開します
【公園】
野獣「成る程ねえ、道理でねえ」
雪美「…………うん…………」
あれからしばらく、衝撃も冷めやらぬので二人はとりあえず近くの公園に腰を落ち着けていた
雪美に追突してきたトラックは疲れからか不幸にも黒塗りの高級車に追突してしまい何処かに連れ去られてしまった
雪美「…………野獣は………どう思う?…………」
野獣「そうですねぇ…」
野獣と少女が並んで座る、違和感しかない光景
だが二人は打ち解けていた
【回想】
野獣「それじゃお嬢ちゃん、気を付けてな」
雪美「…………あ…………ありがとう……」
野獣「道を歩くときは前を見ないと危ないってそれ一番言われてるから」
雪美「…………ごめんなさい…頭…………いっぱいで………」
野獣「……ひょっとして悩み事?」
雪美「…………え…………うん………」
野獣「この辺にィ雰囲気のいい公園あるんですよー…ちょっと話してかない?」
雪美「…え………でも…………」
野獣「いいからいいから~」
そうして半ば強引に連れ去られた結果だったが
【今】
野獣「あっそうだ、その前に雪美ちゃん、野獣ってのはどうなん?」
雪美「…………?……そう……呼ばれてるじゃ…………ないの?……」
野獣「それはそうですけど…んにゃぴ、野獣呼びはちょっと……照れますねぇ」
雪美「……ふふ………」
野獣「foo-!」
見た目に反して高い声や特徴的な言動
体を張って助ける姿もあってすっかり心を開いていた
野獣「やっぱ女の子は笑ってるのが一番だよなあ?」
雪美「…………そう…………かな………」
野獣「そうだよ…何よりさ」
雪美「…………?…………」
野獣「好きな相手がいるなら、そいつの前でも笑顔でいるが一番効くぜ?」
雪美「…………うん…………」
彼女の胸に楔となっていた悩みを話す程に
>>29
× 雪美「…………?……そう……呼ばれてるじゃ…………ないの?……」
○ 雪美「…………?……そう……呼ばれてるんじゃ…………ないの?……」
雪美「…………でも…………Pには駄目だった…………」
野獣「え、それは…」
雪美「…………ねえ………野獣…………」
野獣「ん?」
雪美「…………野獣は………どう……思う……?………」
野獣「……………………」
雪美「…………私の…………気持ち…………」
野獣にはPの事を全て話て相談している
つまり立場も年齢もだ
雪美「…………正直に…………教えて…………」
野獣「そうですねぇ…」
期待してないと言えば嘘になる
でも今まで本気に取ってくれた人は誰もいなかった
だからこの質問も、同じ結果に終わるだろうと諦めが強かった、しかし
野獣「人を好きになることいいこと」
雪美「………………?……」
野獣「愛の表現はいろいろあるけど」
雪美「……………………」
野獣「決められたものじゃない…誰を愛そうがそれはいいこと」
雪美「…………っ!…………」
野獣「何を好きになるか分からない…性別や年だって、何でもいい、自由に恋すればいい」
雪美「…………野獣…………」
野獣「俺は応援するぜ?雪美ちゃんが好きって言うなら、それが真実さ」
決して冗談では無い、彼の鋭い眼光は本気だった
雪美「……………………………ありがとう………」
野獣「下を向かなくていい、間違いじゃないから」
雪美「………………うん…………!………………」
野獣「それにさ、俺も似たような感じだから良く解るよその気持ち」
雪美「……………え?………野獣も?……」
野獣「実は俺も好きな奴がいてさ」
雪美「…………そう…………だったんだ…………」
野獣「ああ、後輩なんだけど雪美ちゃんと同じで本気にして貰えないんだ」
雪美「……………………」
野獣「…それで…ま、俺もちょっと悩んでる最中でさ」
雪美「…………ふふ…………」
野獣「?」
雪美「…………似てる…………かも……ね……」
野獣「フー!」
二人は笑った
雪美「…………でも……………野獣も私も…………駄目なのかな………」
同じ悩みを抱えてるなら結果も同じだ
気持ちを共有できたのは嬉しいがこれではやはり意味が無い
また気持ちが沈むことを感じた雪美だが、野獣は答えた
野獣「大丈夫」
雪美「…………?…………」
野獣「完璧な計画を作ったんだ、その日告白すると決めてる」
雪美「…………え……………」
野獣「これなら絶対に気持ちが伝わるさ、俺とあいつとの関係もはっきりする」
雪美「…怖く………ないの?…ちゃんと……出来る……」
野獣「告白しようと思えば」
雪美「………っ!……………」
力強い返答に雪美は黙る、そして考える
自分に足りなかったのはこれではないかと
気持ちが伝わらないと嘆く前に
自分は伝わるための行動を全て取っていたのかと
雪美「………そっか……そう…そうだよ、ね……………」
野獣「雪美ちゃん?」
雪美「…………野獣………」
野獣「ウン」
雪美「……大胆な……告白は…………女の子の…………特権……!…」
野獣「?」
雪美「……私も……やる…!…」
野獣「ファッ!?」
少女は覚悟を決めた
思ったより長くなったので続きは明日に
誤字多くてごめんなさいお兄さん許して
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org718298.jpg
自分で描く(支援) 絵
その内再開します
【翌日、事務所】
P「ふんふんふんふふー……ふれでりかー♪」
P「と思考を放棄してもしょうがない」
P「決まってしまったからにはやらないとな」
前日のお見合いの話から逃げる事は結局できなかったプロデューサーである
とはいえこれも仕事の一つ、面倒な事になったなとぼやきながらも手を抜かないつもりの様だ
ただしそれは
雪美「…………P…………」
P「おやまた雪美か、二日続けて机からとはアンダーザデスクの仲間入りか?」
雪美「…………ふふ………」
P「おう?」
彼女の計画を乗り越えた時の話となるだろう
不敵な笑みを浮かべる彼女を見て銀疑問符が頭に浮かぶP
何処か含んだ笑い方は以前からだが…今日は何か違う気がする
P「…雪美?どうした?」
雪美「…………どう………って?……」
P「どうと言われるとちょっと困るが…普段と違う事は無いか?」
雪美「……………………………」
P「ここで黙らないでくれ、怖いだろ…そういえば昨日も話の後すぐに居なくなってしまったろ?」
雪美「……………………………」
P「何かあったんじゃあないのか?」
雪美「…………ふふ………ふふふふ………」
P「え、えぇ…?」
答えず怪しい笑いを続ける彼女に動揺するP
P「雪美…?本当どうした?悩みがあるなら何でもするぞ?」
雪美「…………嬉しい…………」
P「そうか嬉しかったのか、じゃあ…え?」
雪美「…………嬉しい……私…………」
P「うれ…しい?」
雪美「…………P…………ちゃんと解ってくれる…」
雪美「…………私達…………繋がってる…………」
P「お、おうよ!そりゃ雪美のプロデューサーだからな、普段と違えば解るさ!」
雪美「…………ふふっ…………」
P「ふふふー」
普段と違った様子ではあったが機嫌は良い
昨日居なくなった事もあってか不安もあったがこれならいい、彼は安心した
しかし
P「じゃ、今日も頑張ろうな!俺は用事があるから付き合えないけど雪美もファイトな!」
そう調子を上げつつ仕事の準備に戻る
だから聞き逃してしまった、最後の言葉を
雪美「……………でも……私達………繋がってない……事も………ある…」
雪美「……………だから………私…………」
P「え?ごめん雪美今聞いてなかった、もう一回言ってくれると助かるんだが」
雪美「…………P…………」
P「おう」
雪美「………喉乾いた…………喉……乾かない?……」
P「えっ」
雪美「……………………」
P「いやそんな乾いても無いかなーって」
雪美「……………………」
P「……………………」
雪美「……………………」
P「……………………」
雪美「…………喉乾いた…………喉…乾かない?……」
P「そうっすねえ乾きましたねー」
雪美「…………待ってて…………ね…………」
P「行ってらっしゃーい」
そうしてパタパタと可愛らしく彼女は消えた、台所へ向かうのだろう
一人残されたプロデューサーは呟く
P「…あれが今日おかしかった理由か?」
P「乾いてないけど迫真すぎて思わず飲んでしまうと答えてしまった」
P「とはいえ雪美がわざわざ入れてくれるってんだ、たぽたぽになろうが幾らでも飲むしかないけどな!」
P「面倒な仕事の前に楽しみが出来たし今日もいい日だなー」
そう呑気に、彼女の企みも知らぬまま
【台所】
事務所皆が使う共有の台所である
使ったら後片付けまでしっかりと!の可愛いプレートは事務員の手書きだ
雪美「……………………」
そこに一人お茶の準備を終えた少女がいた
雪美「……………………」
手際よく終えたのだろう
お茶は暖かそうな湯気が立ち、カップに汚れの一つも無い
プロデューサーのためを想って淹れた気持ちが現れている様だ
雪美「……………………」
後はこれを持っていけばいい
気怠い仕事を抱えた彼も大喜びだ、しかし
雪美「……………………」
そのお茶は未完成であった
手に怪しげな紙袋を持った彼女を見れば
明らかに調味料ではない粉末を持った彼女を見れば
雪美「………ふふっ…………」
雪美「……………………」
サッー
この粉末を混ぜるまでが…彼女の気持ちの全てであったのだから
【事務所】
雪美「…………お待たせ…………」
P「お、待ってたぞ!」
雪美「…………P………どうぞ…………」
そう彼女は手渡す
手に感じる熱だけでなくその動作でも温められそうだ
P「ありがとなわざわざ」
雪美「………ううん……平気…………Pのため…………」
P「はは、こう甲斐甲斐しくされると照れるくらいだ」
雪美「……………それより………P……飲んで……みて?…」
P「勿論!んじゃ頂きまーす」
ズズズ…
P「いやあ、おいし───」
飲んだ後、直ぐにでも感想を返そうとした彼だが
その言葉を言い終わる事は無かった
バタン
口を付け感想を言う瞬間、糸が切れる様に彼は倒れた
P「」
雪美「…………ふふ…………」
【何処か】
P「…………ん?」
P「俺寝てたっけ…?え?ちょ、な、何があったんだ…?!」
彼は自分の記憶が曖昧な事をまず気にかけたがそれは吹き飛んだ
薄暗い何処か解らぬ場所に寝かされ、手を拘束されている自分を見て
P「な、な、な…?一体…?」
P「とに、とにかく、逃げないと、ええと関節を外して抜け出し……って出来るかんな事!」
「…………P…………」
P「え…?」
パニックになりかけるが、馴染んだ声に正気を取り戻す
雪美「…………P……起きた?………」
P「雪美!?お前もいたのか!?大丈夫か!何かされてないか!!」
雪美「…………大丈夫…………」
P「そ、そうか良かった…だが今は緊急事態だ、直ぐにでも誰かに連絡を」
雪美「…………大丈夫…………」
P「いや大丈夫じゃないぞ、あ、そうだ雪美は動けるか?動けるならこの縛られてる手をほどいて欲しいんだが…」
雪美「…………駄目…………」
P「…………え?」
雪美「……………………」
P「ゆ、雪美?」
そのまま彼女は答えず、近寄ってくる
P「…な、なあ?どういう事なんだ?」
雪美「…………ふふ…………」
事務所で見た含んだ笑いを湛えたまま…
そして距離は0になり
P「あ、そうか、手をほどいてくれるんだよな?そうだよな?な?」
雪美「……………………」
そのまま彼の体に乗りかかり、触りだす
P「!?!?!?」
雪美「…………暴れないで…………暴れないで…………」
彼は拘束されたまま必死に身じろぐ
P「って素直に聞くか!暴れるよこれは!」
雪美「…………あう……もう………」
体格差があるだろう、拘束されたままでも彼女は弾かれてしまい困った様に頬を膨らます
平常時なら可愛い可愛いと愛で尽すだろう愛らしい顔だが今は別だ
P「雪美、まずいって!一体どういうつもりなんだ!」
雪美「…………P…………」
P「ああ!どうした!」
雪美「…………Pの事が…………好き…………だった……んだよ!……」
P「───え」
【回想】
野獣「って感じの計画なんだ」
雪美「……………わあ………」
野獣「正直な所やりすぎとも思う、けど俺はあいつと…!」
雪美「…………野獣…………」
野獣「どう?出来そう?雪美ちゃんはどうする?」
雪美「……不安………でも……これで…………気持ちが……伝わるなら…………」
野獣「ウン」
雪美「…………やろうと……思えば…!…」
野獣「…いいねぇ!」
【何処か】
P「雪美…?」
雪美「……P……私の事…………好き…………?…………」
P「ああ勿論好きだ」
雪美「…………違う…………」
P「違うわないって嫌いな訳無いし大好きだ」
雪美「………じゃあ…………どうして………」
雪美「……お見合い…………に………行くの?……」
P「…それは」
雪美「……もし……お見合い……決まったら………平気……なの……?」
P「……………………」
決死の顔で心の内を吐き出す雪美
その姿を見てようやくPは気づく
P「そうか…そういう事か」
雪美「………こう……すれば…気持ち………伝わる……って……」
P「…ああ、本気みたいだな…昨日に続いてまた謝るよ、ごめん雪美、まだ俺はお前の事全然解ってなかった」
雪美「………あ………じゃあ…………」
P「…ああ、でもなその前に」
雪美「…………?…………」
P「これはやりすぎ」
雪美「……………………………えへっ……」
P「かわいい」
唐突すぎる事態の連続に困惑したが
事の発端も内容も判明しとりあえず落ち着く二人
P「…やれやれ、思ったより大胆なんだな」
雪美「……大胆な…告白は……女の子の…特権……」
P「何さソレ」
雪美「…………それで…………P………お見合い…」
P「ん、解ったよ」
雪美「…………え…………」
P「お見合いは止める」
雪美「…………!…………」
P「元々乗り気じゃないし断りたかった」
P「多少怒られそうだけど…ま、雪美の頼みならしょうがないね」
雪美「…………P……!…………」
P「…ああ、その顔だ」
雪美「…………顔………?………」
P「今日みたいな笑顔も新鮮だけど…普段の笑顔のがずっといい」
雪美「………………………ふふ………」
P「さ、それじゃ、そろそろ手をほどいてくれないか?この姿勢結構辛いんだぞ」
雪美「……ねえ…………P……………」
P「おうよ、この際何でも言うがいい、腹を割って話そうぞ」
雪美「…………私と…………お見合い………して…?…」
P「えっ」
雪美「…………あ…………違った………お付き合い……?……結婚…前提…」
P「待て待て待て待て待て待て」
二人から去った波乱がまた戻ってくる
雪美「…………?…………どうして…?…」
P「どうもこうもないよ!なぜそうなる!」
雪美「…………だって……P……私の気持ち……解ってって………」
P「そりゃ雪美の気持ちは解った、が、だからと言ってそうなるとは別だろ?」
雪美「…………え…………」
P「俺も雪美は好きだが…そういうのはまだ早いだろ?」
雪美「…………………………」
P「自覚無いけどまだまだ雪美は子供だからさ」
雪美「…………っ…………」
P「好きっていても焦りすぎなんだ、大きくなるにつれてもっと色々知る事もあるしさ」
雪美「……………………」
P「だから今日はお見合いの話を流す事で手打ちに…雪美?」
雪美「…………ふふっ…………」
少女が笑みを浮かべる
笑顔とは本来攻撃的な物である
雪美「…………そう……Pは………そうなんだ………」
雪美「…………やっぱり…………足りなかった……」
P「えっ?」
雪美「…………通じてるけど………通じてない…………」
雪美「…………ふふ…………ふふふ…………」
P「な、なあ、また今朝の含み笑いに戻ってるぞ?雪美ー?返事してー可愛い笑顔みたいなー」
雪美「……………次の………手段……」
P「!?」
そしてするすると服を脱ぎ始まる雪美
あっという間に下着だけとなる
彼自身も乱れた服装であり非常にまずい絵面だ
P「ま、待つんだ!自分を大事にしろ!そういうのはもっと早い!」
雪美「………ふふっ……………」
そして彼女はビデオカメラを取り出す
P「…………へっ?」
雪美「よいしょ」
ぱちりと電源を入れ不慣れな手つきで操作し
準備が終わった後、躊躇いなくPを映す
雪美「………ばっちり……撮れてる………」
P「え、あの、その、えっと?」
雪美「……凄い事に…………なってる………ぞ…」
P「ちょ、あの雪美?雪美さん?雪美様?」
雪美「……暴れる………ちゃ…………駄目………」
P「えぇ・・・」
【回想】
雪美「…でも…………大丈夫…………かな………」
野獣との相談を終え別れた後である
実はこの時彼女にはまだ不安があった
雪美「………野獣…………ああ言ってたけど…………私じゃ…………」
雪美は思う
野獣は後輩との関係と言っていた
私と比べればきっとあの作戦は上手くいくだろう
でも私がしても…それでも相手にされなかったら…
そんな不安が過ってしまう
だからこそ、彼と出会ってしまったのだろう
「こんちゃーす」
雪美「…………わっ……?…………」
「まあま、そー驚かないで」
雪美「…………え?…………え?………」
下げた顔を上げれば何も無い場所から現れたように一人の男がいた
整った顔立ち、長い茶髪、軽薄な口調
所謂チャラ男と言った風貌の男だ
雪美「…………あ……あの……?…」
「ちょっとアドバイスしに来ただけだからさ」
雪美「…………アドバイス…………?…………」
「さっきの話聞いちゃってさー若いねー俺もそういう気持ち変わんないでいたいよー」
雪美「……………………」
「っとごめんごめん、それじゃこれ」
と軽く何かを渡される
雪美には少し大きい、ビデオカメラを
雪美「…………え…………これ………」
思わず受け取ってしまったが戸惑う
これで何をしろと?その視線に男は答える
「そこまで追い詰めたならさ、とどめにさ、ちょっとビデオで用意して」
そしてビデオを撮る構えをして気軽に答える
「こうワーっとやってパパっと録画して弱み握って終わりっ!」
雪美「…………え…………!?…」
「大丈夫大丈夫 ヘーキヘーキうまくいくって」
そんな事はいけない
雪美はそう答えようとした
しかし
雪美「………………………………」
答える事はできなかった
これで安心が出来るなら…私は…
そして悪魔の囁き、いや神の導とも言える言葉を告げられる
「そいつと付き合いたいんだルォ?」
雪美「………………!……………」
雪美「…………私…………やる………!」
「…いいねぇ!」
雪美「………でも…これ………」
安くはないであろうカメラを貰う事にためらう彼女しかし
「いいからいいから、面白そうだしさ!じゃハイヨロシクゥ!」
男はまるで気にもせず背中を見せ去ろうとする
雪美「…………えぇ……じゃあ……せめて………名前…………」
GO「ん?じゃGOとでも呼んどいてよ、じゃオワリっ!」
雪美「…………あっ………?…」
そうして男は現れたのと同じ様に唐突に消えてしまった
雪美「……………………………」
雪美「…………神…………様……?…………」
【何処か】
雪美「………うん…………ばっちぇり………撮れた……」
P「雪美頼む正気に戻ってくれ」
雪美「…………私…………普通………」
P「普通ってなんだよ」
あの後、下着姿の雪美との2ショットを存分に取られたプロデューサーである
流れればプロデューサー生命どころか人としておしまいだろう
雪美「………ペロ……来て……」
ペロ「ニャア」
呼ばれてきたのか彼女の飼い猫ペロである
P「なあペロも頼むよ、雪美を説得してやってくれ」
どうしようもない彼は最早猫にもすがるしかない、しかし
雪美「…………ふふ……P?…ペロ………私の味方…だよ?…」
ペロ「ニャッ」
P「もうむーりぃー」
雪美「……それじゃお願い……………お家まで…………これ持って行って……」
ペロ「ナーオ」
そしてビデオを咥えペロは去った
雪美「…………ふふ…………」
P「雪、美…?俺をどうしたいんだ?」
雪美「……え………?…………同じ……今までと……一緒に…………」
P「するから、ずっと一緒だから!」
雪美「…………それでこれからは………お付き合い………未来は…………お見合い……………結婚……前提……は…恥ずかしい………ふふ…」
P「ああああ!!!!こんな状況じゃ無きゃ最っ高に可愛いのになー!!!チクショウがァ!!!!」
雪美「…………駄目……?………」
P「だ、だからさ、それは早すぎだから、もっと落ち着いてお友達から」
雪美「…………P……?……」
P「は、はいぃ?」
雪美「………バラまく……ぞ…………このやろー………」
P「」
………
……
…
それからしばらく経って
【空手部】
『次のニュースです、アイドルの佐城雪美さんが担当プロデューサーとのお付き合いを宣言し業界に波紋を…』
木村「世も末ですねえ」
三浦「そうなのかゾ?」
木村「そうですよ、まあこの業界アイドルとプロデューサーが付き合うってのは珍しい話じゃないですよ?」
木村「でも大体が引退直前だったりで現役の、それもこんな小さい子ですよ?自分から宣言ってのも全体未聞ですしとんでもない話です」
木村「何かおかしなことでもあったんじゃないですか?」
三浦「でもこの子…幸せそうだゾ」
木村「そんな訳が…?へーそうみたいですね」
TVに移る少女の笑顔は、この上ない幸せに満ちている
後ろで吊るし上げられてる彼女のプロデューサーは怪我だらけで憔悴している様だが
何処か吹っ切れたような、楽しそうな笑みである
木村「凄い話ですねえ…」
野獣「…ははっ良かったな雪美ちゃん」
三浦「ん?どうした野獣?」
木村「先輩?」
野獣「…何でもないさ」
木村「先輩この子知ってたんですか?意外ですね」
三浦「そうだゾ、お前アイドルとか興味あったのか?」
野獣「まあ多少はね?」
野獣「(…ああ…!やったんだな…!俺も…負けちゃいられない……!遠野ときっと…!!)」
短い間に雪美と友情を結んだ野獣
彼がこうして決意し後輩との純愛物語は
また違う世界の話
【事務所】
ボロ雑巾の様なプロデューサーと彼に寄り添う少女がいる
P「……………………」
雪美「…………P…………大丈夫?……」
P「大丈夫じゃない」
雪美「…………あわわ…………」
P「…当然だな、こんな事発表すれば」
あのビデオほどではないが、現在でもプロデューサー生命は危ういだろう
雪美「……ここまで…………しなくても………良かったのに……」
雪美の説得に折れ、付き合ってくれるとプロデューサーは言った
しかしそれだけでは飽き足らず今の状況になるまで表だって言ってしまったのだ
雪美「………お付き合いなら…こっそりでも……良かった…………」
P「まあな…でもさ」
雪美「…………あ………ふふ………」
彼が寄り添う雪美の頭を撫で
少女はさらに身を寄せる
P「…あそこまで、思い詰めさせて、あんな事までさせたんだ」
P「ならば、付き合うと言うならさ、正々堂々としてるべきかと思って、な」
雪美「…………うん…………」
P「それに論理とか常識とか抜きにして、イエスかノーかだけでお付き合いを考えるなら」
P「断る理由何かない、大好きって言っただろう、誰にも恥ずかしくなく、言えるさ」
雪美「…………嬉しい………P………」
>>98
○
短い間に雪美と友情を結んだ野獣
彼がこうして決意し始まる後輩との純愛物語は
また違う世界の話
×
短い間に雪美と友情を結んだ野獣
彼がこうして決意し後輩との純愛物語は
また違う世界の話
P「障害は山ほどあるが…今はそれも楽しめそうだ」
雪美「…………うん…………きっと………大丈夫……一緒なら…」
P「ああ、一緒なら…」
雪美「…………P………」
P「おうよ」
雪美「…………ぎゅっ……って……」
P「───勿論」
雪美「…………ふふっ………」
そうして限りなく近かった二人の距離は0となる
一つに見える影は彼らが一緒に居ると誓う限り別れる事は無いだろう
この二人の恋の障害は決して優しくない
しかし確かな愛がそこにあるのなら
乗り越えれないものは何一つとして無いであろう
雪美「…………暖かい………」
P「ああ………ところで話はまるっと変わるが」
雪美「…………何…………?…………」
P「あのビデオ消してくれ、もうこれで大丈夫だろ?」
雪美「………………それは……駄目………」
P「何故よ」
雪美「……だって……あれは………私達の……お付き合い………記念だから………なんちゃって……」
P「そんな記念品嫌ァ!?」
おしまい
読んでくれた方ありがとうございました
反応が普段より多かった気がする、SS速報はホモ
修正>>84
×
雪美「……暴れる………ちゃ…………駄目………」
○
雪美「……暴れちゃ…………駄目………」
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