渋谷凛「私をアイドルに……?」 モバP「愉快な仲間達もいます」 (52)

凛「………」パラパラ

凛「最近、いろんな雑誌にアイドルの記事が載ってる……やっぱりブームなのかな」

凛「にしても、ぬか漬けが趣味のアイドルって、需要あるの……?」


凛母「凛ー? お母さん出かけてくるから、店番お願いできるかしら」

凛「あ、はーい」



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凛「310円のお返しになります」

女性客「ありがとう」

凛「お買い上げ、ありがとうございました」ペコリ


凛「ふう……母さん、そろそろ戻ってくる頃だけど……ん?」

少女「んー……えっと」キョロキョロ

凛(あの人、さっきからずっとなにか悩んでるみたい……声かけた方がいいかな)


少女「困りました……」

凛「何かお探しでしょうか」

少女「はい?」クルリ

凛(わっ、近くで見ると美人だ)

少女「お店の方でしょうか」

凛「あ、はい」

少女「ええと、ですね。少し困ったことがありまして」

凛「なんでしょうか。お手伝いしますけど」

少女「よろしいのですか?」

凛「はい」

少女「わあ、ありがとうございます」

凛(なんだか上品そうなオーラが……どこかのお嬢様だったりするのかな)

少女「実は、部屋に飾るためのお花を探しているのですが……」

凛「どういう雰囲気のお部屋ですか」

少女「はい。それを写真に撮って、アプリに保存していたのですが……そのアプリの操作方法がわからなくなってしまって」

凛「はあ……」

少女「これです」

凛「えっと……」

凛(見た感じ、保存した写真に別の画像を合成するアプリ、なのかな。確かにこれなら、部屋に合う花を見つけやすくなりそう)

凛(操作の仕方は書いてるみたいだし……)

凛「ここをこうして……はい、できた」

少女「ありがとうございます。すごいですね」

凛「いえ」

凛(そんなに難しい操作じゃなかったし)

少女「これできちんとお花を探すことができます」ニコニコ

凛「ゆっくり選んでください」

凛(これで一件落着かな)

少女「本当に助かりました」

少女「5回操作を間違えると電流が流れるらしいので……ビリビリせずにすみました」ウフフ

凛「そうですか。それはよか」


凛「……電流?」

男「いたいた。ゆかり、探したぞ」

少女「あ、Pさん。どうしたんですか?」

男「いや、晶葉の作ったアプリが変なことしてないかと心配に……ん?」チラッ

凛(あれ、あの人私のこと見てる?)

男「………」

凛「……な、何か?」

男「ぶしつけで申し訳ありません。私こういう者なのですが」スッ

凛「名刺……芸能プロダクション……プロデューサー?」

男「突然ですが、アイドルをやってみたくはありませんか?」

凛「………は?」

凛(あれから一週間後)

凛(しつこくスカウトを受け続けた私は、結局折れて事務所まで来てしまった)

凛「いい? あくまで仮だから。アンタがあんまりしつこいから、ちょっと見てみるだけだからね」

P「はい。今はそれで十分です」

凛(何度も話を聞くうちに、ほんの少しだけアイドルの仕事に興味が湧いてきた)

凛(本物のアイドルって、どんな感じなんだろう?)

P「ここが、私の担当しているアイドルたちの部屋です」ガラッ

凛「ふーん、ここが」

P「あ、渋谷さん。前に出てはダメです」

凛「え?」

ひゅー
ぼすっ

凛「……なんか上から降ってきたんだけど」


女の子「アーッハッハッ! 久しぶりに成功したわ、Pへのトラップ!」

女の子「上から降ってきた黒板消しでチョークの粉まみれに……って、あれ?」


凛「……なにこれ?」ジロリ

女の子「ヒッ!? 誰っ!」

P「麗奈、お前またこんなことを……すみません、渋谷さん」

P「この子がアホでチョークの粉を付け忘れていたからよかったものの、そうでなければ大惨事でした」

麗奈「だ、誰がアホよ!?」

凛「ん?」ジロ

麗奈「ヒィッ!?」ビクッ

凛「いや、あの。別にそこまで怒ってるわけじゃないんだけど」

麗奈「だ、だってめっちゃキツイ目つきで睨んできてるじゃない」

凛「……そんなに怖い顔してる?」

P「渋谷さんはクールな雰囲気をお持ちなので、後ろめたい感情がある人間は怒られているように感じられるのでしょう」

凛「ふーん。そういえば、クラスの子にも似たようなこと言われたことある」

麗奈「お、怒ってないの? ホントに?」

凛「まあ、そうだけど」

麗奈「………」

麗奈「アーッハッハ!! ま、まあ最初からわかってたけどね! これもアタシの作戦のうち――」


「こら、あんまり新入りに迷惑かけんな」
「ふむ。新メンバーか……私の研究にプラスになればいいが」
「うふふ、楽しみですね」
「共に戦う仲間が増えるのはいいことだ」


凛「なんかぞろぞろ出てきた」

P「今からひとりずつ紹介します」

P「まずこちらが池袋晶葉さん、14歳」

晶葉「何か画期的な道具の案が浮かんだらいつでも言ってくれ」

凛「道具?」

P「彼女は発明が趣味なんです。クオリティはすごいですよ」

P「時々発明品に自爆装置をとりつけるのがたまに傷ですが」

晶葉「私の趣味だ。いいだろう」

晶葉「ところで麗奈。私の作った『すぐ落ちるチョークの粉』の具合はどうだった?」

麗奈「付けるの忘れた」

晶葉「なんだそれは。相変わらずおっちょこちょいだな」

麗奈「う、うるさいわねっ」

凛(この前のアプリ、この子が作ったのかな……)

P「水本ゆかりさん。15歳です」

凛「あ、この前うちの店に来てた……」

ゆかり「あの時はお世話になりました」

ゆかり「これから一緒に頑張っていきましょう」ニコニコ

凛「えっと、私はまだ本格的にアイドルやるって決めたわけじゃ」

ゆかり「力を合わせてトップアイドルですっ」キラキラ

凛「う……なんか訂正し辛い」

P「天然で光属性です」

真奈美「木場真奈美、25歳だ。この中では最年長だな」

凛(強そう)

真奈美「……ふむ」

凛「……なにか?」

真奈美「いい骨格をしている。これは鍛えがいがありそうだ」

凛「なんか背筋に寒気が」

P「木場さんはトレーニングが趣味で、時々他の皆さんも誘っています」


??「付き合わされるほうはへとへとだけどな。あー、マジつれぇー」

真奈美「まあそう言うな。たまには朝のランニングもいいだろう」

真奈美「つかさはちゃんとついて来られるから、私としても付き合わせがいがあるんだ」

つかさ「息も絶え絶えで、ね。ああ、そうだ。アタシ桐生つかさ、歳は18。ヨロシク」

凛「よ、よろしく……」

P「彼女は若くして他の企業の社長も務めているんですよ」

凛「しゃ、社長!? なんで社長がアイドルやってるの」

つかさ「やっぱそう思うよな。アタシも最初はそう思った」

つかさ「けど、だからこそ最高にバズるわけ」

凛「バズる?」

P「話題になるという意味です」

凛「ふーん……」

凛「今はやりの中二病言語ってやつ?」

つかさ「違うっつの」

P「そして、最後が」

麗奈「小関麗奈、13歳! 夢は世界に名だたる悪の女王よっ!」

麗奈「ぶっちゃけここの連中はアタシのシモベみたいなものだし――」

真奈美「よくないな。初対面の相手に妙なイメージを植え付けるのは」グリグリ

麗奈「痛い痛いっ! 頭グリグリはやめてーっ!!」ジタバタ

凛「……うん。だいたいあの子のことわかった気がする」

P「それはなによりです」

P「いかがでしょうか。私の担当するアイドル達の感想は」

凛「うーん……なんていうか」

凛「変な人……じゃなくて、個性的だよね。うん」

晶葉「今本音が出たぞ」

P「気に入っていただけたようでなによりです」

凛「そこまでは言ってない」

P「ではこれからレッスンの体験をしてみましょう」

P「麗奈、君も一緒に来なさい」

麗奈「えー!? なんでこのレイナサマが新人の付き添いなんか」

P「昨日ダンスレッスンでこっそり手抜きをしていたらしいが」

麗奈「げっ」

つかさ「ほら、覚悟決めて行ってこい」

麗奈「そんなあぁ……」

ゆかり「おいしいお菓子を用意して待っていますね」

P「では渋谷さん。行きましょう」

凛「う、うん」

~レッスン終了~


P「お疲れ様でした」

凛「はあ、はあ……結構足腰にくるんだね」

麗奈「ハッ、甘いわね! 本物のレッスンはこんなもんじゃないわ!」

凛「そうなの?」

麗奈「そうよ。時々トレーナーがアタシを始末しようとしている悪の刺客に見える時があるくらい」

凛「悪の女王目指してるのに悪の刺客に狙われるの?」

麗奈「悪にもいろいろあるのよ」

麗奈「正義も悪もまとめて支配しなきゃならないのが、世界征服の辛いところねー……」ハァ

凛「ふーん、大変だね」

P「麗奈。戻ったらゆかりがおやつ用意してるぞ」

麗奈「わーい」タタタッ

凛「切り替え速っ」

P「人呼んでモグラ叩きのモグラ――それが麗奈です」

凛「それ、褒めてるの?」

P「ただいま」

ゆかり「お帰りなさい。Pさん、渋谷さん」

ゆかり「今、お茶を淹れますね」

麗奈「がつがつはぐはぐ」

真奈美「麗奈、食べすぎだ。二人のぶんがなくなってしまう」

麗奈「速い者勝ちよっ!」

つかさ「晶葉、例のヤツ」

晶葉「うむ」ポチ

ういーん

麗奈「ん、なによこのクレーンゲームのクレーンみたいなやつ」

晶葉「ゆけ、食事制限くん!」

ういーん!

麗奈「あーっ、アタシのお菓子が!」

晶葉「食事制限くんは対象の摂取カロリーを分析、食べすぎだと判断した時点で対象から食べ物を取り上げる効果を持つ機械族モンスターだ」

食事制限くん「ういーんういーん」

つかさ「アタシが提案してから一週間で完成させるんだから、お前マジでプロだよ」

晶葉「よせ、照れるじゃないか」

晶葉「それにまだこれは未完成品だ。デメリットがある」

真奈美「デメリット?」

晶葉「レベル5だから召喚に生贄が必要なんだ」

食事制限くん「がつがつ」

ゆかり「ああっ、食事制限くんさんが取り上げたお菓子を食べてしまっています」


P「………」

凛「………」

P「って、それだと結局俺達のぶんのお菓子がなくなるじゃないか!」

凛「もっと他にツッコむべきところが山ほどあった気がする」



真奈美「やめないか!」ボコッ

食事制限くん「ばごほっ」

真奈美「む、壊れてしまったぞ」

晶葉「耐久性にも問題アリか。守備力1500はあるはずなんだが」

つかさ「いや、鉄の塊をパンチ一発で壊す真奈美さんのほうに問題があるだろ」

麗奈「どうでもいいけどアタシのお菓子返しなさいよ!」



P「これがうちの事務所です」キリッ

凛「うまくまとめた風に言われても、こっちは理解できないことばっかりなんだけど」

夕方


凛「なんか振り回されてる間に一日が終わった」

P「どうでしょう。明日からも、来ていただけますか」

P「退屈はさせないつもりです」

凛「そりゃあ、あんなものばかり見せられたら退屈はしないだろうけど……うーん」

ゆかり「渋谷さん」

凛「あ……なに?」

ゆかり「明日もがんばりましょうね」ニコニコ

凛「うっ……いやだから、私はまだ正式に入るとは」

ゆかり「凛さんとなら、今以上に素敵なステージを作れる気がするんです」キラキラ

凛「……わ、わかった。明日も来る」

凛(ていうか名前呼びに変わってるし)

ガチャ


P「ただいま」

ゆかり「凛さんのお見送りをしてきました」

つかさ「で、結局あいつ入るの?」

P「まだ保留。ゆかりの勢いに押されて、日曜も来るって言ってもらえたけど」

真奈美「ゆかりは彼女が気に入ったようだね」

ゆかり「以前お世話になった方ですし。それに、あの人は私達と素敵なハーモニーを奏でられる……そんな予感がするんです」

麗奈「ハーモニーねぇ」

晶葉「直感、シックスセンスと呼ばれるやつか。私は非科学的なことについては専門外だが」

つかさ「アタシも、ああいうタイプはここの事務所に必要だと思うぞ」

P「つかさもか」

つかさ「バランス考えると欲しいっしょ」

真奈美「彼女はどちらかというとクール系。色でいうと青が似合うタイプだと思ったが……それだと君と被らないか?」

つかさ「ウチはツッコミ担当がいないからな。バランス的にいる」

P「君はなんのバランスを考えているんだ」

つかさ「結構マジで言ってんだけど」

麗奈「ま、将来のアタシの部下が増えるんならいいことだわ!」

P「なんにせよ、彼女に決定的なきっかけを与えられればいいんだが……」

凛「………」スタスタ

凛「……アイドル、か」

凛「………」

凛「他の職業のほうが向いてそうな人ばかりだった気がする」

凛(私は……どうなんだろう? 花屋の店員のほうが、まだ向いてると思うんだけど)

翌日


麗奈「勝負よ、つかさ!」ビシィ

つかさ「賭けは?」

麗奈「負けた方が今日の昼ごはんをおごる」

つかさ「乗った」ニヤリ


凛「いきなりなんか始まった」

晶葉「いつものことだから気にしなくていい」

真奈美「麗奈はつかさをライバル視しているんだ。社長という地位が魅力的に見えるんだろう」

ゆかり「ふたりとも、頑張ってくださいね」


麗奈「今日はオセロよ!」

つかさ「いいのか? 頭を使うゲームなら負ける気しねえけど」

麗奈「はんっ! 今日のアタシをこの前までのアタシと一緒にするんじゃないわよ!」

つかさ「へえ」

麗奈「オセロは角をとったほうが有利と学んだ!」

つかさ「今まで知らずにやってたのかよ。どうりでこっちが楽勝なわけだ」

麗奈「う、うるさいわね! とにかくアタシは日々進化してるのよ!」

麗奈「そう、四字熟語でぴったりな言葉があるわ」

つかさ「それは?」

麗奈「日清食品!」

つかさ「日進月歩な」

ゆかり「凛さん、お茶が入りましたよ」

凛「ありがとう」ゴク

凛(うっ……昨日も思ったけど、めっちゃ渋い)

ゆかり「……どうかしましたか?」

凛「あ、いや。なんでも」

真奈美「ゆかり。今日のも少し濃すぎるな」

凛(あ、普通に言っていいんだ)

ゆかり「すみません……難しいですね。茶葉を使ってお茶を淹れるのは」

晶葉「望みとあらば、倉庫に眠っているお茶淹れくん(レベル4・機械族)を出してくるが」

ゆかり「いえ……わがままですけど、私に任せてください」

ゆかり「もっと精進したいので」

晶葉「ふむ、それならいいが」

凛「えっと……池袋さん? って、すごいんだね。たくさん発明してるみたいだし」

晶葉「私のことは晶葉でいい。そっちのほうが年上だしな」

凛「そう? じゃあ、晶葉」

晶葉「うん、それでいい」

ゆかり「私のこともゆかりでかまいませんよ」ニコッ

凛「えっと、なら……ゆかり」

ゆかり「はいっ」

真奈美「私のことも真奈美でいいぞ」

凛「それは恐れ多いので遠慮しておきます」

真奈美「そうか……」ショボーン

凛(悪いことしたかな)

つかさ「ほら、これで詰み」

麗奈「うぎゃーっ! 盤上が邪悪な白で埋め尽くされた!」

つかさ「さて、それじゃ今日の昼はチーズカツカレーだな」

麗奈「トッピング多くなーい? 普通のカレーにしなさいよ。てかそっちのほうがおいしいわよ絶対」

つかさ「却下。きっちり奢ってもらうぞ」

麗奈「ぐぬぬ……アタシのお昼はかけそばね」トホホ



凛「というか、全然仕事の話とかしないんだね」

真奈美「そういう話は適切な場で行えばいいさ」

晶葉「スイッチのオンオフが大事というわけだな」

凛「そういうものなんだ」

数日後


P「今日はライブの見学に行ってみようと思います」

凛「ライブ?」

P「実際にステージを見てもらうことで、アイドルがどういう存在なのか肌で感じてもらえれば、と」

つかさ「同じプロダクションだけど、担当のプロデューサーが違う連中のライブか」

麗奈「うわ、会場でかっ! ちょっとP、アタシ達もこういうところでライブさせなさいよ」

P「客席がスカスカになってもいいなら、やってもいいぞ」

麗奈「うぐっ」

真奈美「我々には、まだこれだけのステージでパフォーマンスを行うだけの人気がないということだな」

ゆかり「たくさんの方々に応援してもらえるようにならないといけませんね」

凛「何人が出るの?」

P「今日は5人の予定ですね」

凛「5人……たった5人で、この会場を独り占めできるんだ」

つかさ「ま、あそこのメンバーはエリート揃いだからな。アイドルとしては駆け出しのこっちじゃ、どうしても劣る」

つかさ「最終的にはアタシが勝つつもりだけど」

真奈美「その意気だ」バシーン!

つかさ「いてっ……真奈美さん、力強すぎ」

凛「そういえば、晶葉は?」

ゆかり「食事制限くんさんを改良中だそうで、今は事務所にいますよ」

ライブ終了後


麗奈「ま、まあまあのライブだったわね!」

つかさ「褒めるべき時は素直に褒めたほうが器がでかく見えるぞ」

つかさ「相変わらず、高垣楓あたりはセンスあるね。あれはまだ伸びる、間違いない」

P「君も君で偉そうだぞ」

凛「………」

ゆかり「どうでしたか、凛さん」

真奈美「確か、間近でアイドルのステージを見るのは初めてだと言っていたが」

凛「そうですね……なんというか、すごいなって思いました」

凛「輝いているっていうか……うん。すごい」

P「……渋谷さんも、あのようになりたいと思いますか?」

凛「………」

凛「わからない」

P「そうですか……」

つかさ「………」

麗奈「つかさ? どしたのいきなり黙って」

つかさ「ミスだったかもな。結果論だけど」

麗奈「え?」

つかさ「シンデレラは童話の世界の出来事だってこと」

麗奈「はぁ~? そんなの当たり前じゃない」

つかさ「そ、当たり前だ。でもそれじゃアイドルは務まらねぇだろ」

麗奈「? なに、なんかのなぞなぞ?」

つかさ「レイナサマにはまだ難しい話だったか?」

麗奈「あー! アンタアタシをバカにしてるでしょ!」

つかさ「おー、怒った怒った」

ワーワーギャーギャー


P「こらこら、ふたりとも騒ぐな」

凛「あのふたり、仲悪いのかな?」

真奈美「いいや。あれはむしろ仲が良いと思ってくれ」

凛「はあ……」

凛(それから半月くらいが過ぎた)

凛(結局あれからも、結構な頻度で事務所に足を運んでいる)

凛(別に断ってもいいんだけど……)


ゆかり『また、明日も会えますよね?』キラキラ

凛(この光属性の攻撃に耐えられなくて、ついついうなずいてしまうのである)



凛「こんにちは」

つかさ「おう、おはーっす」

凛「あ……えっと、他の人は」

つかさ「全員出払ってる。今はアタシだけ」

凛「そうなんだ」

凛「………」

つかさ「入り口で固まってないで、そこ座っていいぞ」

凛「あ、うん」

ぽすっ

つかさ「………」ジーー

凛「……なにか」

つかさ「あんた、アタシのこと苦手?」

つかさ「居心地悪そうだけど」

凛「……そういうわけじゃないんだけど。よくよく考えたら、桐生さんと二人きりで話したことなかったから」

つかさ「つまり距離感測りかねてたってことか。ならいい」

つかさ「アタシ結構他人からの好き嫌い分かれるタイプだから、嫌われたパターンかと思った」

つかさ「なんか言葉のチョイスが上から目線なのが原因らしい」

凛「ああ、なるほど」

つかさ「お前、今心の底から納得しなかったか?」

凛「そ、そんなことはない……と思う」

つかさ「………」ジトーー

つかさ「なんてな、ジョークジョーク」

凛「え?」

つかさ「アタシ、別にそんな攻撃的な性格じゃないし。とって食おうだなんて考えてないから安心しろ」

凛「ああ……そうなんだ。よかった」

つかさ「まあ、生意気な奴とかはついついイジりたくなるんだけど」ニヤリ

凛(やっぱりこの人怖いかも)

つかさ「ところで、凛」

凛「なに?」

つかさ「来たくないんなら、無理してここに来る必要はねえから。ゆかりにはアタシから言っとくし」

凛「え……」

つかさ「あいつの言葉が断りきれないんだろ。だからズルズル引きずられて、結局ここに足を運んでいる」

つかさ「あいつ、あんたが正式にアイドルになったと勘違いしてるみたいじゃん?」

凛「……うん、実はそうみたいで」

つかさ「気持ちはわかる。ゆかりは光属性だから、アタシらみたいな闇属性には対処がつれぇよな」

凛「いや、なんで私まで闇属性扱いされてるの?」

つかさ「え、違うん? じゃあ何属性」

凛「……水、とか?」

つかさ「なら一緒だな。闇と水はアクアンが出た頃からずっと親戚みたいなもんだ」

凛「なんの話してるの」

つかさ「まあ、とにかくだ」

つかさ「アタシが言いたいのは……半端な気持ちなら、ここに来るのはすっぱりやめた方がいいってことだな」

つかさ「JKの時間は限られてるから。無駄にするのも馬鹿らしいしコスパ悪いだろ」

凛「無駄って……」

つかさ「無駄だろ。わざわざトレーナーにしごかれて、歌って踊っての繰り返し。下積みは仕事を選んでもいられない」

つかさ「本気でアイドルやる気がないんなら、こんなのマゾじゃなきゃできないっしょ」

凛「それは、そうだけど」

凛「……でも」

つかさ「でも?」

凛「………」

凛「憧れは、あるんだよ。私も、もし何かで輝けるなら……そうしたいって」

凛「でも……自信がなくて」

つかさ「………」

つかさ「そうか」

麗奈「ただいまーっと」

つかさ「麗奈。この後のライブ、こいつも連れて行くことになった」

凛「え?」

麗奈「凛も? 別にいいけど、いきなりね」

つかさ「どうせ客席には空きがあるんだから、ギャラリーがひとり増えたって問題ないだろ」

麗奈「客席に空きがあるのが問題なんだけど?」

凛「えっと、あの。ライブって?」

つかさ「アタシと麗奈の。この前とは比べ物にならないほど規模は小さいけど、それでもライブはライブだ」

凛「桐生さんと、麗奈の……」

ミニライブ 会場


つかさ「凛。正直なところ、アタシらは一流のアイドルってやつには程遠い」

つかさ「この前のライブで見た、高垣楓とか島村卯月とか。あの辺の連中ほどの輝きはない」

麗奈「まだ、よ。まだないだけ!」

つかさ「だな。まだ、だ。けど今はないのも事実」

つかさ「今からやるのは、そういう人間達のライブだってこと、忘れんなよ」



凛「そう言われたのが、ライブの始まる直前」



麗奈『愚民たち! 今日はよくアタシ達のライブに来たわね!』

麗奈『アンタ達はよくわかってるわ! 楽しんでいきなさい!』

つかさ『コイツの言動に慣れていないお客様に説明すると、今のは流行りのツンデレというやつなので温かい目で見守っていく方針で頼む』

麗奈『誰がツンデレよっ!』


ドッ


凛「盛り上がってる……漫才でだけど」

凛「確か、一通り挨拶したらすぐに歌うはず――」

つかさ『それじゃ、アタシらも盛り上げていくんで』

麗奈『アンタ達も精一杯応援しなさい!』



凛(そして、彼女達のライブが始まった)

凛(マイク片手に歌いながら、決して大きくないステージの上をあちこち駆け巡る)


麗奈『ほらほら、もっと盛り上がりなさいアンタ達っ!!』

つかさ『アゲていけよーっ!』


凛(確かに、前に見たライブとは、会場の大きさもお客さんの数も違う)

凛(それでも私の目には、麗奈も桐生さんも輝いて見えた)

凛(いつも変なことやってるのに、ステージの上ではアイドルだった。間違いなく)



凛「……なんだ。すごいじゃん」

そして、ライブ終了後


凛「えっと。お疲れさま?」

つかさ「………」フー

凛「桐生さん?」

麗奈「そいつ、ライブ終わってから10分はそのままよ。座って目閉じたまんま、こっちが何言っても返事しないから」

凛「そうなんだ」

麗奈「毎回ね。何考えてるのかは知らないけど」

麗奈「それより、どうだった? アタシ達のライブ」

凛「あ、うん。よかった、かな」

麗奈「でしょ? この調子ならトップアイドルもすぐそこね!」

麗奈「アーッハッハッげほげほっ」

凛「だ、大丈夫?」サスサス

麗奈「へ、平気……」

つかさ「今日は満足いくライブができたな」パチリ

凛「あ、復活した」

麗奈「アンタ、毎回毎回固まって何してるの?」

つかさ「忘れないうちに脳内反省会してんの。セルフチェックでしか見えてこないモノもあるし」

つかさ「で、どうだった?」

凛「……私に聞いてる?」

つかさ「他に誰もいないだろ」

つかさ「いつもフリーダムにやってるアタシらのライブ見て、どんなこと思った?」

凛「………」

凛「私も……あんな風に、できるようになるかな」

つかさ「………」ニヤリ

つかさ「できるだろ」

麗奈「そうね。なんたって」


麗奈「つかさにできるんだから!」

つかさ「麗奈にできるんだからな」

麗奈「って、なによその言い方ー!」

つかさ「お前も同じようなこと言ってるくせに」


凛「……ふふっ」

凛「決めた。私、アイドルやってみる」

つかさ「そ。んじゃ、あっちでスタッフに挨拶してるPに伝えてやれ。きっと小躍りして喜ぶぞ」

麗奈「小躍りはしないでしょ、さすがに」

翌日


真奈美「彼女、アイドルをやる気になったらしいな」

つかさ「あー」モグモグ

真奈美「君のおかげだとPには聞いたが」

つかさ「別に。アイドルやるならやる、やらないならやらないでさっさと決めてもらいたかっただけ」

つかさ「アプローチのやり方も、Pと相談して決めたことだしな」

つかさ「見ず知らずの連中じゃなく、ここ半月で見知った仲になったアタシらのステージを見せる。それにより、凛にとってアイドルは『童話の世界のシンデレラ』じゃなく、身近なものに変わる」

つかさ「そうすれば、少しはアイドルとしてやっていく自信もつくだろうってわけ」

真奈美「なるほど」

真奈美「なんだかんだで君は面倒見がいいな。偉い偉い」ナデナデ

つかさ「ちょっ、やめろって!」

真奈美「照れるな照れるな♪」

つかさ「ったく……体育会系のノリにはついていけねー」フフッ

P「というわけで、今日から正式にみんなの同僚になった」

凛「渋谷凛、15歳。よろしくお願いします」

ゆかり「よろしくお願いしますね」

晶葉「よかったな、ゆかり」

麗奈「よーし! ではまず新人研修としてカレーパンを買って」

真奈美「こら、いきなりパシリに使おうとするな」

つかさ「ま、頑張れよ」



P「では渋谷さん。まずは」

凛「あ、そうだ。プロデューサー、私にも敬語はいらないから」

P「はい?」

凛「他のみんなにはタメ口でしょ。私も堅苦しいのは苦手だし」

P「……そう? なら、普通にしゃべるけど」

凛「うん、それでお願い」

P「わかった」


凛「それと、もうひとつ。これはできるだけ早くお願いしたいことなんだけど」

P「うん?」

晶葉「うわ、まずい! 調整段階の食事制限くんNEOが暴走を!」

真奈美「ふん!」バキッ!

食事制限くんNEO「がががっ」

ゆかり「止まってくれましたね」

晶葉「すごいな。今回は守備力2000くらいに設定したはずなんだが……」



凛「………」

凛「もうひとり、ツッコミ要員補充しといて」

P「は?」



おわり

読んでくれた方々に感謝を
こんな組み合わせの事務所があったらいいなと思っただけです
社長とレイナサマのコンビはありだと思う

前に書いたの(特に話はつながっていません)
相葉夕美「晴れた日は、あの人を誘って」
相葉夕美「晴れた日は、あの人を誘って」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1453626433/)

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