提督「......色々な事があった」(7)

※正史ほぼ無視

少し傷の残る机を撫でながら、初老の男はそう言った。
その男の横には少女──艦娘──が立っている。
初老の男は、自らの顔の古傷を撫でる。

提督「寂しいモノだな」

提督「時間と言うモノは、『人間』を直ぐに老いさせる」

提督「......こんな事を言うのもなんだが」

提督「『人間』と『艦娘』は、同じ時を感じることは出来なかった」

提督「君には、この私の言葉も数十年と流れる素早い時の流れの少しの記憶なのだろう」

提督「あの頃、上層部のお偉い方が言った言葉......認めたくは無いが、言ってしまうのも解る」

提督「......出来る事なら、私も君と同じ存在になりたかったよ」

老いた腕を見つめる。
あの若かった肉体は、たった数十年でこんなにも衰えてしまった。
壁に立て掛けられた小銃は、長らく自分の相棒となっていた38式小銃である。
幾度と無く命を救ってくれたその相棒も、時代の流れには逆らえない。
周りは皆、持ち変えていった。

老いた瞳で艦娘の美しく力強い身体を見つめる。
力に充ち溢れ、老いを知らない肉体。
人間でいることが情けなくなる。
なぜ自分も彼女と同じように生きることが出来ないのか。
強く生き、戦う事の出来たあの肉体はなぜ老いてしまうのか。

提督「なあ......私は、お前に恋をしていた」

提督「好きだった」

提督「......勿論、今も好きだ。だが、もうこの老いた肉体に愛される事を受け入れる者は居ない。諦めは付いたさ」

提督「だが、出来る事なら最期までお前と居たかったよ」

提督「『生涯提督』でいられた事だけは、私の人生の誇りだと思うよ」

提督「死ぬ事が決まった様な事を言うのは、おかしいか?」

提督「お互い様さ」

提督「危なっかしい生還を繰り返すだろう、お前も」

提督「私は、何時もお前らが傷だらけで帰ってくる時にホッとする」

提督「出撃前になると、気が気じゃあなかったな」

提督「............すまないな、年か」

提督「つい、長話をしてしまう」

提督「............まあ、もう少し私の話に付き合ってくれ」

提督「あの日、初めて着任した私を迎えてくれたのはお前だったな」

提督「彼等が母港に攻めて来たとき、真っ先に飛び出していったのもお前だった」

提督「その時慌てて小銃をもって飛び出した私は、深海棲艦に鉛玉をめっぽう撃ったな」

提督「あの時は、死してでも君を守ろうと腹を括ったなあ」

提督「......」

提督「私の作戦に穴があった事を指摘してくれたのも、お前だったな」

提督「君のお陰で、艦娘は轟沈せず......作戦も成功した」

提督「あの勝利で、我々は大きくリードする事が出来たな」

提督「......あの時の勲章は、君にあげよう。私にはもう必要の無いモノだ」

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