凛「たまの休みにぶらぶら散歩……こういうのも悪くないね」
凛「ん? あれは……?」
武内P「…………」
凛「プロデューサー!? なんでこんなところに……?」サッ
凛(……って、なんで隠れてるんだろ。私)
凛(別に後ろめたいことしてるわけでもないし、普通に挨拶するくらい……)
凛「…………」
凛(……それにしても)
凛(プロデューサーの私服姿……初めて見たな)
凛(…………)
凛(結構……良いかも)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1451315631
凛(……って、何考えてるんだ。私)ブンブン
凛(早いとこ声掛けて、さらっと一言だけ挨拶しよう)
凛(『あ、誰かと思ったらプロデューサーじゃん。オフの日に会うなんて初めてだね。でもせっかくのオフを邪魔しちゃ悪いから、また明日事務所でね』……みたいな感じで)
凛(うん。これでいい。これでいこう)
凛(大体、こんな風に建物の陰からじっと見てたらなんか不審者みたいだし……)
凛(よし。そうと決まれば――……って、え!?)
武内P「――――」
謎の女性「――――」
凛「…………!」
凛(ぷ、プロデューサーが……女の人と喋ってる……!?)
武内P「――――」ニコッ
凛(しかも、わ、笑ってる……!)
凛「…………」
凛(だ、誰なんだろう……あのプロデューサーがあんな風に自然に笑顔を向けるなんて……)
凛(というか、さっきはいきなりプロデューサーを見つけてしまったから、プロデューサー以外何も目に入ってなかったけど……)
凛(改めて観察してみると……)
武内P「――――」
謎の女性「――――」
凛(すごく仲良さそう……というより、あの距離感ってどう見ても……)
凛(まあプロデューサーも良い年だし、そういう人の一人や二人いても何らおかしくはないけど……)
凛(それにあの女の人……後ろからだから顔はよく見えないけど……かなり背が高い)
凛(ヒール込みとはいえ、175くらいはある)
凛(プロデューサーの身長が大体192.3センチくらいのはずだから……)
凛(ちょうどいいくらいの身長差……だよね)
凛(…………)
>>1氏、ターキーと鶏肉を間違える
荒らしその1「ターキーは鶏肉の丸焼きじゃなくて七面鳥の肉なんだが・・・・」
↓
信者(荒らしその2)「じゃあターキーは鳥じゃ無いのか?
ターキーは鳥なんだから鶏肉でいいんだよ
いちいちターキー肉って言うのか?
鳥なんだから鶏肉だろ?自分が世界共通のルールだとかでも勘違いしてんのかよ」
↓
鶏肉(とりにく、けいにく)とは、キジ科のニワトリの食肉のこと。
Wikipedia「鶏肉」より一部抜粋
↓
信者「 慌ててウィキペディア先生に頼る知的障害者ちゃんマジワンパターンw
んな明確な区別はねえよご苦労様。
とりあえず鏡見てから自分の書き込み声に出して読んでみな、それでも自分の言動の異常性と矛盾が分からないならママに聞いて来いよw」
↓
>>1「 ターキー話についてはただ一言
どーーでもいいよ」
※このスレは料理上手なキャラが料理の解説をしながら作った料理を美味しくみんなで食べるssです
こんなバ可愛い信者と>>1が見れるのはこのスレだけ!
ハート「チェイス、そこのチキンを取ってくれ」 【仮面ライダードライブSS】
ハート「チェイス、そこのチキンを取ってくれ」 【仮面ライダードライブSS】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1450628050/)
>>1を守りたい信者君が取った行動
障害者は構って欲しいそうです
障害者は構って欲しいそうです - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451265659/)
凛(いやでも、私だってまだ15歳だけど既に165センチあるし)
凛(今から毎年2センチずつ伸ばせば、20歳のときには175センチになるし)
凛(……なるし……)
凛(…………)
凛(ま、まあ今は身長のことはいいや。とりあえずあの二人を追わなきゃ)
凛(ん? でも私、なんでこんなことしてるんだろう……?)
凛(……えーっと)
凛(あー、これはあれだよ。あれ。プロデューサーが悪い女に引っかからないか見張っておくのも担当アイドルの務めだからだよ)
凛(プロデューサーってあんまり女に免疫無さそうだし……悪女に誑かされて仕事もままならないようになっちゃったら、私たちアイドルも困るし)
凛(つまりこれは……アイドル渋谷凛としての正当な活動なんだよ。うん)
凛(……自分で言ってて、妙に嘘くさく聞こえるけど……この際それは気のせいってことにしとこう。うん)
武内P「――――」
謎の女性「――――」
凛「! とか言ってる間にお店に入った」
凛「一体何の……?」コソコソ
凛「……!」
凛「……不動産屋……」
凛「…………」
凛(……って、いやいやいや)
凛(流石にそれは……無いよね?)
凛(だって、ほら。あれじゃん。プロデューサーって、さ)
凛(まあ良い年だし、独身だし、収入もそこそこ安定してるはずだし、見た目もまあ……悪くはないし)
凛「…………ん?」
凛「い、いやいや。そうじゃない。そうじゃないでしょう」
凛(落ち着け。落ち着こう。私)
凛(確かに、仕事の面でも『シンデレラの舞踏会』は大成功に終わり、プロデューサーと美城常務……いや、美城専務とのわだかまりもほぼ解消できたみたいだし、私生活でも節目をつけるにはちょうどいいタイミング……)
凛(……だから! じゃなくて!)
凛(なんでそっちの方向にばっかり持っていこうとするの、私!)
凛(とりあえずチョコでも食べて落ち着こう)ゴソゴソ
凛「……あまい」モグモグ
凛(よし。少し頭が冷静になってきたよ。やっぱり疲れた頭には糖分だね)
凛(……そんなに疲れるようなことはしていないはずなのはさておき)
凛(とりあえず現状を整理しよう)
凛(プロデューサーが見知らぬ女と親しげに会話し、あまつさえ笑みを零しながら、二人で一緒に不動産屋に入って行った)
凛(このことから導き出される結論は……)
凛(①結婚するのでその新居を探しに来た②結婚はまだしないがとりあえず同棲することになったので二人で住む家を探しに来た)
凛(まあ順当に考えてこんなトコだよね)
凛(うん。我ながら的確に解答が導き出せたよ。やっぱりチョコは偉大だね)
凛(…………)
凛「…………」ピッ
凛「あ、卯月? 私。凛」
凛「急にごめんね。いや、何ってことも無いんだけどさ」
凛「もしかしたら私、明日休むかもしれないから。一応、先に言っておこうと思って」
凛「え? 違う違う。すこぶる健康だよ」
凛「いや、悩みとかってわけでも……」
凛「……うん。……うん」
凛「ありがとう。卯月」
凛「私自身、まだ自分がどうしたいのか、自分の気持ちに自信が持ててないけど……」
凛「後悔だけはしないよう、やるだけのことはやってみるよ」
凛「……うん。……うん」
凛「分かった。じゃあ悪いけど、未央にもよろしく伝えといて。それじゃ」ピッ
凛「…………よし」
荒らしその1「ターキーは鶏肉の丸焼きじゃなくて七面鳥の肉なんだが・・・・」
↓
信者(荒らしその2)「じゃあターキーは鳥じゃ無いのか?
ターキーは鳥なんだから鶏肉でいいんだよ
いちいちターキー肉って言うのか?
鳥なんだから鶏肉だろ?自分が世界共通のルールだとかでも勘違いしてんのかよ」
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信者「 慌ててウィキペディア先生に頼る知的障害者ちゃんマジワンパターンw
んな明確な区別はねえよご苦労様。
とりあえず鏡見てから自分の書き込み声に出して読んでみな、それでも自分の言動の異常性と矛盾が分からないならママに聞いて来いよw」
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>>1「 ターキー話についてはただ一言
どーーでもいいよ」
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>>1を守りたい信者君が取った行動
障害者は構って欲しいそうです
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凛(もうここまできたら、確かめるしかない)
凛(私がさっき導き出した結論が、正しかったのか、どうか……)
凛(なんでそんなことをするのかって?)
凛(そんなの、決まってる)
凛(『私が、そうしたいから』だ)
凛(それ以外の理由は無いし、それ以上の理由も要らない)
凛「…………」
凛「! 出てきた」サッ
凛(でも、確かめるって言っても……具体的にはどうすればいいんだろう?)
凛(流石にいきなり二人の前に現れて『二人はどういう関係なの?』って聞くのも……)
凛(…………)
凛(まあとりあえずは二人の後をつけよう。見失っちゃったら元も子も無いしね)
凛「……あっ」
武内P「――――」 ニコッ
謎の女性「――――」 ニコッ
凛(……また笑ってる……)
とりあえずここまで
凛(――そんなこんなで、プロデューサーと謎の女Xの尾行を始めてから約二時間)
凛(不動産屋を出た二人は、カップルよろしくあちこちのお店を仲良く巡り歩き)
凛(そして店を出るたびにプロデューサーの持つ荷物の数が増えていき……)
凛(といっても、おそらくプロデューサー自身の物は何も買っていない)
凛(二人が入った店の雰囲気からして、おそらく全部謎の女Xの私物……ブランド物の服や靴やバッグってところだろう)
凛(現時点で、プロデューサーは両手にそれぞれ2~3個ずつ、紙袋をぶらさげているという状態だ)
凛(…………)
凛(何なの!? あの女!)
凛(いくらプロデューサーが優しくて力強くて逞しくて男性的な魅力を余すところなく発揮しているからって……いくらなんでも持たせ過ぎでしょ!?)
凛(そりゃあ全部自分で持てとは言わないよ? あれだけの量だもん、女の細腕ではとても全部は持ち切れない)
凛(だからいくつか持ってもらうのは別に良いと思うけど……でも全部はないでしょ、全部は!)
凛(自分の買った物なんだから、せめて1~2個くらいは自分で持ちなよ!)
凛(……それになんか、あの女……あれだけの荷物をプロデューサーに持たせておいて、全然申し訳無さそうにしてない……どころか、『持ってもらって当然』みたいな態度にさえ見える)
凛(相当距離を取って尾行しているから、謎の女Xがどんな表情をしているのかとかまではよく分かんないけど……なんか、そんな気がする)
凛(ていうか、プロデューサーもプロデューサーだよ)
凛(ああやって当たり前のように持ってあげるから、謎の女Xがつけ上がるんだよ!)
凛(これはお説教が必要だね)
凛(アイドル渋谷凛としては、担当プロデューサーを正しい方向に導いてあげないと……!)
凛(買い物続きで疲れたのか、二人はちょっと落ち着いた感じのカフェに入った)
凛(無論私も、その後を追って入店する)
凛(幸いにも店内はかなり広く、また私は元々身バレ防止の為に変装しているので、余程近付かない限りはまずバレないはず)
凛(ただそうはいっても、流石にプロデューサーの視界にばっちり入ってしまうのは危険なので……店内のほぼ端と端、二人と対角線上の席に私は腰掛けた)
凛(プロデューサーはちゃんと女性を奥のソファー席の方に座らせてあげていたので、私の位置からはプロデューサーの背中しか見えない)
凛(つまり必然的に、プロデューサーの位置からは私は完全に死角になっている)
凛(そして同時に……)
凛(私と謎の女Xは、かなりの距離を挟んでいるとはいえ、ほぼ正面で向き合う形になっている)
凛(ここでようやく私は、謎の女Xの外見をじっくりと観察することができた)
凛(とはいっても何分距離があるので、なんとなくの雰囲気しか掴めないのが残念だけど……まあそこはやむを得ない)
凛(……で、まずはぱっと見の印象だけど……可愛い系というよりは美人系の顔立ちかな)
凛(細身の長身で、長めの黒髪がよく似合ってる)
凛(…………)
凛(なんか今、一瞬変な気まずさを感じたけど……気のせいだよね。うん)
凛(年は……うーん、流石にもうちょっと近くで見ないと分かんないかな。プロデューサーと同じくらいにも見えるし、少し上のようにも見える)
凛(服装の感じからして、そこまで極端に若いってことはないと思うけど……まあ、二十代中盤ってとこかな)
凛(…………)
凛(そりゃまあ、どうせだったら自分に近い年頃の人の方が良いよね……)
凛(……って、何言ってるんだろう。私……)
凛(…………)
凛(あっ。店を出るみたい。追わなきゃ!)ガタッ
凛(二人を追って電車に乗ること数駅……)
凛(二人は駅前の商店街を抜けた後、少し大きめのスーパーマーケットに入った)
凛(……で、すかさずその後を追って入店し、相変わらず一定の距離を保ちながら二人の様子を遠巻きに観察している私、という構図なわけですが……)
武内P「――――」
謎の女性「――――」
凛(かなり楽しげに談笑しながら……二人は色んな食材を買い物カゴに放り込んでいく)
凛(時刻は現在、午後五時を少し過ぎたあたり……)
凛(これはアレか……まさか……)
凛(『夕食の買い出し』ってやつじゃ……)
凛(…………)
凛(い、いや落ち着こう。落ち着こうよ私)
凛(とりあえずこういうときはチョコだよ)ゴソゴソ
凛(さっきカフェでチョコレートパフェ食べたとこだけど……)
凛「……あまい」モグモグ
凛(よし。また少し頭が冷静になってきたよ。やっぱり疲れた頭には糖分だね)
凛(……相変わらず、そんなに疲れるようなことはしていないはずなのはさておき)
凛(で、今のこの状況だけど……確かに客観的に見れば『若い男女が仲睦まじく夕食の買い出しをしている』ようにしか見えない)
凛(でもまだ、100%そうであるとまでは断言できないはず)
凛(なぜならあの女……謎の女Xが、単に自分の夕食の買い出しにプロデューサーを付き合わせているだけ、という可能性も十分にあるからだ)
凛(だって、あれだけの数の荷物を悪びれることもなくプロデューサーに持たせるような女だもん。きっとここでの買い物もプロデューサーに全部持たせて、それで自分の家まで運ばせる気なんだ)
凛(そしてそこでプロデューサーはお役御免って感じで帰らされて、失意に暮れなずむ夕陽の中、偶然出会った担当アイドルの私をどこか美味しいごはんに連れて行ってくれるに違いない)
凛(だからそのためにも……もう少し、この二人の行く末を見届けないといけないね)
凛(おっと。そうこうしているうちに、もうレジの方に向かってる)
凛(ここで見失ったらこれまでの苦労が水の泡……くれぐれも気付かれないようにしながら、慎重に後を……)コソコソ
凛「……って、いうか……」
凛(二人が買った食材……一人分の夕食にしては、なんかえらく量が多いような……)
凛(…………)
凛(ま、まあきっとよく食べる人なんだろうね。あれだけ上背もある人だしね。うん)
凛(スーパーを出た二人は、慣れた足取りで住宅街の中を歩いている)
凛(ちなみにスーパーの買い物袋は、一つはプロデューサーが持ち、もう一つは謎の女Xが持った)
凛(プロデューサーは二つとも持とうとしていたようだったけど、流石に罪悪感があったのか……謎の女Xが断ったのだ)
凛(……ふん。今更いい子ぶったって、遅いんだから)
凛(早く目を覚ましなよ。プロデューサー)
凛(プロデューサーが悪い女に弄ばれてるって知ったら、卯月も未央も悲しむよ)
凛(……後まあ、一応私も)
武内P「――――」
謎の女性「――――」
凛「! とあるアパートに向かって行く……」
凛(ってことは、これが……謎の女Xの家?)
凛(なんかどちらかというと……男の人の一人暮らしに向いていそうな感じのアパートだけど……)
凛(えっと、二階建てで部屋の戸数は……ドアの数からして10部屋? かな)
凛(……っていうか、二人はまだ一緒にいる……)
凛(ま、まああれだけの数の荷物だしね。普通に考えて、家の中まで運んであげるんだろうな)
凛(……優し過ぎるよ。プロデューサー)
凛(あんな悪い女に優しくするくらいなら、私にももっと……)
凛(! 階段を上がっていく……二階なんだ)
武内P「――――」
謎の女性「――――」
ガチャッ バタン
凛(……入ってしまった)
凛(…………)
凛(まあどうせすぐ出てくるだろうし、このままここで待っておこう)
凛(ふふっ。プロデューサーの驚く顔が目に浮かぶね)
凛(――プロデューサーと謎の女Xがアパートの一室に入ってから早一時間……)
凛(時刻は既に午後六時半……未だにプロデューサーは部屋から出て来ていない)
凛(これはおかしい……単に荷物を部屋に置くだけならほんの数分で済むはずなのに……)
凛「! まさか……」
凛(あの女……プロデューサーを買い物に付き合わせただけでは飽き足らず、さらに夕食までプロデューサーに作らせているんじゃ……?)
凛(そして作らせるだけ作らせておいて、いざ料理が出来たら『じゃあね』ってこの寒空の下に放り出す気なんだ)
凛(オニ! 悪魔!)
凛(ダメだ。プロデューサーがそんな悲しい結末を迎えると分かっていて、これ以上指をくわえて見ているだけなんてできないよ)
凛(早くプロデューサーを助けてあげないと! あの悪女から――……)ダッ
凛「…………ん?」
凛(アパートの郵便受け……? ああ、そっか。一階に全部固まってるタイプなんだね)
凛(あの二人が入ったのは二階の……左から四番目の部屋だった)
凛(ってことは204号室か……)
凛「あれ?」
凛「…………」
凛(204号室の郵便受けの名前……)
凛(プロデューサーの名前じゃん)
凛(ってことは、えっと、つまり……)
凛(ここ、プロデューサーの家だったの……?)
凛「…………」
凛(郵便受けの鍵は四桁の数字のロック式か……)
凛(…………)
凛(……プロデューサーの誕生日……)ガチャガチャ
凛(……開かない。じゃあ生年を西暦で……)ガチャガチャ
凛(……開かない。じゃあ……私の誕生日……)ガチャガチャ
凛(……開かない。じゃあ……卯月の誕生日……)ガチャガチャ
凛(……開かない。良かった……)
凛(って、何安心してるのさ。私)
凛(そもそも何でいきなりプロデューサーの郵便受けの鍵をいじってるんだよ……怪し過ぎじゃん……)
凛(…………)
凛(まあでも一応、私の誕生日に合わせておこう。特に深い意味は無いけど)ガチャガチャ
凛(これでよし、と。ふふっ。プロデューサー、次に郵便受けを開けようとした時、びっくりするだろうな)
凛(『な、何故渋谷さんの誕生日に……? もしかして自分の渋谷さんを想う強い気持ちが無意識のうちに溢れ出てしまったのだろうか……?』とか、真顔で悩んじゃったりして)
凛(プロデューサーは真面目だからなあ。まあでも、そこがプロデューサーの良い所なんだけど……)
凛(…………)
凛(なんて、現実逃避してる場合じゃなかったよね)
凛(これからどうするのか、真剣に考えないと……)
凛「…………」
凛(このアパートの204号室がプロデューサーの住んでいる部屋。そして今、その部屋にはプロデューサーと謎の女Xがいる)
凛(二人はさっき、スーパーで夕食の買い出しらしきことをしていた。ということは、つまり……)
凛(二人はプロデューサーの部屋で、一緒に夕食を食べようとしている……!)
凛(ああ、なんだ。そうか。そんな単純なことだったんだ)
凛(そうか……)
凛(…………)
凛「…………ぐすっ」ピッ
凛「卯月? 何度もごめんね。私。凛」
凛「え? や、やだなー。泣いてなんか、ないよ?」
凛「う、嘘なんかじゃないし。本当だし」
凛「……うん。……うん」
凛「あ……ありがとう……卯月」
凛「私、まだ、気持ち、こんがらがってて……自分がどうしたいのか、よくわかんない、けど……」
凛「もう少し、もう少しだけ……頑張ってみる」
凛「……うん。……うん」
凛「分かった。じゃあ悪いけど、また未央にもよろしく伝えといて。……うん。うん。本当にありがとう。卯月。それじゃ」ピッ
凛「…………よし」
凛(卯月と話して、少し落ち着いた)
凛(そうだよ。まだ最悪の結末を迎えたわけじゃない)
凛(確かに今……プロデューサーとあの謎の女Xが、プロデューサーの部屋で一緒に夕食を食べているであろう可能性は極めて高い)
凛(でもそれくらい……ちょっと仲の良い間柄なら、あったとしても別にさほどおかしくはないはずだ)
凛(まあいくら友達でも、流石に部屋で男女二人きりになる状況はどうかとは思うけど……)
凛(でもそれは、後で私がしっかり注意してあげればいいだけの話)
凛(多分プロデューサーはそういうのに疎いから……女友達でも、男友達と同じように思って普通に家に上げたりしちゃうんだ。きっとそうだ)
凛(きっとそうだ)
凛(……なんで私が、自分に言い聞かせるように二回も同じことを言ったのかはさておき)
凛(とにかくそういうことだから、そう遅くならないうちに謎の女性Xはプロデューサーの部屋を後にするはず)
凛(今が19時少し前……二人が部屋に入ったのが確か17時34分くらいだったはずだから……)
凛(調理に一時間として……食事に一時間半……後片付けの時間も含めると……)
凛(それにプロデューサーの性格上、あんまり遅い時間に女性に夜道を歩かせるとは考えにくいから……)
凛(……うん。どんなに遅くなっても21時までには出てくるはず)
凛(といっても、まだ後二時間くらいあるけど……ここまできた以上、おめおめと逃げ帰るわけにもいかないしね)
凛(それに私には、後でプロデューサーに『女の子相手に誤解されるような行動取っちゃだめだよ』ってお説教してあげるという大切な役目も残ってるしね)
凛(まったく世話が焼けるんだから)
凛(あ、でもプロデューサーにお説教する時間を考えたら、今度は私が帰る時間遅くなっちゃうな……)
凛(まあそうなったら仕方ない。そのときはプロデューサーの家に泊めてもらおう)
凛(別に私はプロデューサーの友達ってわけでもない、ただのプロデューサーの担当アイドルに過ぎないから何の問題も無いしね)
凛(これが女友達だったら大問題だけどね。でも私はただのプロデューサーの担当アイドルだから)
凛(私はただのプロデューサーの担当アイドルだから)
凛(……なんで私が、また自分に言い聞かせるように二回も同じことを言ったのかはさておき)
凛(よし。そうと決まれば、後はひたすら待つしかないね)
凛「……寒いけど」
凛(……12月の寒空の下、プロデューサーの部屋から謎の女Xが出てくるのを待つこと二時間強……)
凛(時刻はもう21時を回っているのに……一向に、謎の女Xが出てくる気配は無い……)
凛(いやいやいや……いくらなんでもこれはダメでしょ。プロデューサー)
凛(そりゃまあ気心の知れた友達と楽しく過ごせるのはいいことだけどさ、流石に女の人をこんな遅い時間まで引き留めたらダメだよ)
凛(……それも、部屋に二人きりの状況で……)
凛(まあ私には中の状況が分かんないし、もしかしたら謎の女Xが『今日は帰りたくな~い』とか言ってプロデューサーを困らせているのかもしれないけど……)
凛(…………)
凛(なんか今、自分の心の奥底にどす黒い感情が渦巻いたような気がするけど……気が付かなかったことにしよう)
凛「…………」
凛(それにしても寒いなあ……)
凛(ていうか客観的に見て、私今結構怪しい人かもしれない……何も無い路上でもう四時間近くも立ちっぱなしって……)
凛(まあ幸いにも、すぐ近くにコンビニがあって明るいから、道としては別に危険でも何でもないけどさ)
凛(あーあ……)
凛(温かい肉まんが食べたいな……)
凛「…………」
凛(……あれからさらに一時間……もう22時……)
凛(これってやっぱり……そういうことだったのかな……)
凛(まあ本当は薄々……『そうなんじゃないかな』って思ってはいたけど……)
凛(プロデューサーと……あの女の人は……)
凛「! 着信? ……卯月?」ピッ
凛「はい。もしもし……ああ、うん。実はまだ……」
凛「いや、外なんだけどさ。ここまで来たら帰るに帰れないっていうか……」
凛「え? あー、まあちょっと寒いけど……」
凛「場所? いいけど……なんで?」
凛「わ、分かった。じゃあ送るよ。うん」
凛「はい。それじゃあね」ピッ
凛(……卯月、どうしたんだろ? なんか妙に慌てた様子だったけど……まあいいや。現在地を送信、っと……)ピッ
凛(はあ。ていうか何やってんだろ……私)
凛(この時間になっても部屋から出て来てないんだから、結末はもうほとんど決まってるようなもんなのに……)
凛(それでもやっぱり……やっぱりまだ、『諦めたくない』って思ってるのかな……)
凛(何を、って聞かれても……自分でもよく分かんないけどさ)
凛「…………」
凛「…………」
凛(……未央の誕生日………)ガチャガチャ
凛(……開かない。良かった……じゃあ……奈緒の誕生日……)ガチャガチャ
凛(……開かない。良かった……じゃあ……加蓮の誕生日……)ガチャガチャ
凛(……開かない。良かった……じゃあ次は……)
「り……凛ちゃん?」
凛「……え?」
卯月「何……してるんですか?」
凛「う、卯月こそ……何で、こんなとこに……?」
卯月「さっき、現在地送ってくれたじゃないですか」
凛「え? あ、ああ……そういえばそうだったね。……え? じゃあそれ見て……来てくれたの?」
卯月「はいっ!」
凛「う……卯月……卯月っ!」ダッ
卯月「凛ちゃんっ!」ダッ
(抱き合う二人)
凛「ううっ、卯月ぃ……」
卯月「凛ちゃん……」
凛「卯月、ありがとう。暖かい……」
卯月「えへへ。そう言ってもらえると、駆けつけた甲斐がありました」
凛「……卯月……」
卯月「あ、そうだ。私、凛ちゃんのために色々持って来たんですけど……はい。まずはこれをどうぞ」サッ
凛「! こ……これは!」
卯月「はい。肉まんです。ついさっき、そこのコンビニで買ったばかりのやつだからまだアツアツですよ。冷めないうちに召し上がれ」
凛「あ、ありがとう、卯月……私、もうずっと何も食べてなくて……頂きます」
卯月「ヤケドしないように、ゆっくり食べて下さいね」
凛「うん。ありがとう。はふはふっ……おいしい」
卯月「ふふっ。凛ちゃん、かわいい」
凛「は……はらはわはいふぇよ……」
卯月「はいはい」
卯月「どうですか? 凛ちゃん」
凛「うん、ありがとう。卯月。カイロにマフラーにニット帽にダウンジャケット……これでもう防寒対策はばっちりだよ」
卯月「えへへ。それなら良かったです。あ、カイロはまだ予備もあるので渡しておきますね」
凛「ありがとう。それにお母さんにアリバイの電話まで掛けてくれて……もう何とお礼を言っていいか……」
卯月「いいですよ、お礼なんて。仲間なんですから、これくらい当然です!」
凛「……卯月……」
卯月「ところで凛ちゃん、私まだ聞いてなかったんですけど……」
凛「ん? 何が?」
卯月「結局凛ちゃんは、今ここで何をしてるんですか? というか、そもそもここはどこなんですか?」
凛「えっ」
卯月「電話でも具体的な話はしてなかったから……多分すごく大切な事なんだろうなっていうのはなんとなく分かったんですけど」
凛「あー……うん。そうだね。なんていうか……」
卯月「…………」
凛「自分の可能性を……確かめてみたいって感じかな……」
卯月「……凛ちゃん」
凛「うん」
卯月「もう長い付き合いなんだから、そんなふわっとした言葉で誤魔化さないでほしいです」
凛「えっ」
卯月「どうしても言いたくないなら言わなくてもいいですけど……でもその場合、私はここから、力づくでも凛ちゃんを連れて帰りますよ」
凛「そ、それはだめ!」
卯月「じゃあちゃんと理由を話して下さい」
凛「うっ……」
卯月「いくらすぐ近くにコンビニがあって比較的明るいとはいっても……こんな夜更けに女の子が一人でいていいような場所じゃないですよ。ここは」
凛「は、はい……ごもっともです」
卯月「じゃあちゃんと話して下さい。連れて帰るかどうかはそれを聞いてから判断します」
凛「で、でもね卯月。これは私の戦いっていうか……」
卯月「話して」
凛「はい」
卯月「なぁるほど~……そういうことだったんですね」
凛「…………」
凛(な、なんかめっちゃくちゃ恥ずかしい……死にたい……)
卯月「凛ちゃん」
凛「……な、何?」
卯月「凛ちゃんはプロデューサーさんのことが大好きなんですね」
凛「! ち、違うよ!?」
卯月「え、でも……」
凛「ちち、違うって! そんなわけないじゃん! なんで私がそんな、ぷ、ぷぷプロデューサーの事を……」
卯月「……じゃあさっきは何をしてたんですか?」
凛「えっ」
卯月「私がここに来た時です。なんかそこの郵便受けで不審な動きしてましたよね?」
凛「! そ、それはあれだよ。その……」
卯月「その?」
凛「ぷ、プロデューサーにその、ふ、不幸な手紙とか……届いてないかの……かくにん……」
卯月「かくにん」
凛「……ごめんなさい」
卯月「……ふふっ」
凛「? 卯月?」
卯月「やっぱり、凛ちゃんはかわいいです!」
凛「……え?」
卯月「…………」ニコニコ
凛「う、卯月~っ!」
卯月「あはは。ごめんなさい。凛ちゃんがかわいくって、つい」
凛「もう! 卯月のバカ!」プイッ
卯月「怒らないでください。凛ちゃん。ただ私は……知りたかっただけなんです」
凛「……何を?」
卯月「普段クールな凛ちゃんがそこまで夢中に……必死になってるものが何なのか……知りたかったんです」
凛「……卯月……」
卯月「だって凛ちゃんは……私の大切なお友達ですから!」
凛「う、卯月……」
卯月「っと。いっけない。そろそろ家に帰らないと……あんまり遅くなって、うちのママが凛ちゃんのお母さんに『うちの子どこ行ったか知りませんか?』なんて電話しちゃったら、せっかくのアリバイ工作が台無しですもんね」
凛「えっ。じゃあ卯月……」
卯月「本当は心配だから連れて帰りたいところですけど……今日だけは見逃してあげます。一応、正直に話してもらったことですし」
凛「! 卯月……!」
卯月「その代わり、何かあったらすぐに連絡して下さいね! 約束です」
凛「分かった。約束するよ」
卯月「じゃあ私はこれで。あ、未央ちゃんも心配していたので、後で私の方から伝えておきますね」
凛「うん。ありがとう。まあ未央に知られるのもちょっと恥ずかしいけど……仲間だもんね」
卯月「はい! 私たち、三人揃ってのニュージェネレーションズですから!」ニコッ
凛「……だね!」ニコッ
凛(……卯月が持って来てくれた防寒対策セットのおかげで、寒さはほとんど感じなくなった)
凛(後はただ……孤独との戦い……)
凛(時刻は遂に午前零時を過ぎ……終電の時刻が刻一刻と近づいてきている)
凛(そう……可能性はまだある。最悪、終電に間に合うように帰すのなら、まだ……)
凛(まあそれでも……年頃の女の子、それも大切な担当アイドルを冬の寒空の下に7時間近くも立たせていた罪は重いけどね)
凛(最低でも向こう一か月くらいはお昼奢ってもらわないと……)
凛(…………)
凛(部屋の明かりはまだ点いてる……まあ当たり前か)
凛(流石にこの状況で部屋の明かりが消えたら、いくらなんでも――……)
凛「……え?」
凛(……明かりが……消えた)
凛(えっ。待って待ってどういうこと。意味分かんない)
凛(いや、そりゃもう零時過ぎだし、プロデューサー明日は普通に仕事だし、もう寝ても別におかしくはないけどさ)
凛(とてもすごくものすごく、大切な事を忘れてない……?)
凛(あっ。もしかして二人で飲んだくれてそのまま……とか……?)
凛(いや、でもそれならわざわざ明かりを消すのはおかしいような……)
凛(…………)
凛(ドアの傍で……聞き耳を立てるくらいなら……)ユラァ
凛(……というわけで来てしまった……204号室の前……)
凛(いや、でもこれは流石にちょっとまずいんじゃないかな……もし今ドア開けられたら言い訳のしようもないし……)
凛(それにもしプロデューサーまたは謎の女Xが出てこなかったとしても……万一隣の部屋の人とかに見られたら、流石にちょっと変に思われるよね……)
凛(…………)
凛(まあでもちょっと聞き耳を立てるだけ……ちょっと聞き耳を立てるだけなら……)スッ
凛「…………」
凛(何も聞こえない……)
凛(ま、まあそりゃそうだよね。そこまでボロっちいアパートってわけでもないし……)
凛(でも流石に大声とか上げてたら聞えるだろうから……少なくとも暗闇の中でどんちゃん騒ぎしてるわけではなさそうかな……)
凛(ってことは、やっぱり普通に考えて……)
凛(…………)
「……しぶりん?」
凛「!?」ビックゥ
未央「何してんの……?」
凛「…………! み……」
未央「っとぉ!」ガバッ
凛「! ん、んぐっ」
未央「ダメだよーしぶりん。こんなとこで大声上げちゃあ。プロデューサーに聞えちゃうでしょ」ヒソヒソ
凛「! …………」
未央「ま、聞きたいことは山ほどあるけど……とりあえず少し離れた場所に行こっか」ヒソヒソ
凛「…………」コクコク
未央「……なるほどね。それで気になってプロデューサーの部屋の前で聞き耳を立てていたと……」
凛「……違う」
未央「え?」
凛「違うんだよ。未央」
未央「何が違うって言うのさ渋の字」
凛「渋の字!? いや、だからそれはそういうんじゃなくてさ」
未央「うん」
凛「その……自分の可能性を確かめてみたかった、っていうか……」
未央「あ、しまむーからそのくだりは聞いてるんでそこはもういいです」
凛「…………ぐすっ」
未央「あーあーもう。泣かないのー。よしよし。君は何も悪くない。悪くないぞー」ナデナデ
凛「うぅっ……ぐすっ……子ども扱いしないでよぉ……」
未央「……しかししまむーから聞いてはいたけど、ちょっと反則的な可愛さだねこれは……」ボソッ
凛「え? 何?」
未央「いやなんでも。で、少しは落ち着いたかな? しぶりん」
凛「わ、私はずっと落ち着いてるし……」
未央「いや、そんな赤い鼻で言われても説得力皆無ですけど」
凛「………もういい」プイッ
未央「あーごめんごめん。ちょっとからかい過ぎた。機嫌直してよしぶりん」
凛「…………」
未央「ねっ。しぶりん様。このとーり!」
凛「……もう。わかったよ。調子いいんだから」
未央「さっすがしぶりん! 太っ腹!」
凛「……いちいち茶化さないの。で、卯月から聞いたんだよね? 私のこと」
未央「うん」
凛「……それで、心配して来てくれたんだ」
未央「そーゆーこと! 流石しぶりん。理解が早くて助かるよ」
凛「…………」
未央「? しぶりん?」
凛「……ありがと。未央」
未央「うむ。よいよい」
凛「でもさ、未央」
未央「ん? 何?」
凛「今日は都内で仕事でもあったの?」
未央「え? なんで?」
凛「いや、だって未央の家って千葉でしょ? まさか卯月から話聞いた後に家から来たわけじゃ……」
未央「え、普通に家から来たけど」
凛「えっ」
未央「まだ電車あったしね。帰りは流石に終電無いからタクシーにするけど」
凛「……なんか、ごめん……」
未央「なんでしぶりんが謝るのさ。私が勝手に来ただけなのに」
凛「いや、でも……」
未央「こういうときに助け合ってこそ仲間でしょ? ただまあ、いざここに着いたときにしぶりんの姿が見えなかったから一瞬超焦ったけど……」
凛「あっ、そうか。さっき……」
未央「うん。でもこの状況でしぶりんが帰るはずはないだろうなーって思って。だからありうるとしたらプロデューサーの部屋にカチコミかけてるのかなーってね」
凛「か、カチコミって……」
未央「そしたら案の定、プロデューサーの部屋の前にしぶりんがいたってわけ。ま、結果的にカチコミではなかったみたいだけどね」
凛「当たり前だよ。私がそんな非常識な事するわけないじゃん」
未央「……ウン。ソウダネー」
凛「なんでカタコトなの!?」
未央「まあとにかく、私はしぶりんを連れ戻しに来たわけでもお説教しに来たわけでもないんだ」
凛「未央」
未央「そのへんのくだりは、しまむーが珍しくお姉さんキャラを発揮してこなしてくれたみたいだからね。だから私がここに来た理由は……ただ一つ!」スッ
凛「! ……これは……!」
未央「応援、だよ。しぶりん」
凛「お、おでん……!」
未央「心ばかりの差し入れだけど、遠慮せずに食べちゃって。あ、すぐそこのコンビニで買ったばっかだからまだ温かいよ」
凛「ふぁああ……! あ、ありがとう……! ありがとう、未央……!」
未央「あはは。いーっていーって」
凛「あぁ……大根に玉子にはんぺんに……私の好きな具ばかり……」
未央「ま、こう見えてもこの未央ちゃん、しぶりん歴はけっこー長いですからね?」
凛「ありがとう……頂きます!」
未央「うむ。ヤケドしないようにゆっくりお食べ」
凛「は、はふはふっ。……はは、それ、卯月にも同じこといはれはあっちぃ!」
未央「言わんこっちゃない」
凛「……はふぅ。ごちそうさま」
未央「お腹膨れた?」
凛「うん。十分だよ」
未央「良かった。腹が減っては戦はできぬ、って言うからね」
凛「……本当にありがとう。未央。正直言って、今の状況に絶望しかけていたけど……未央のおかげで、もう少し頑張れそうな気がしてきたよ」
未央「……そっか。それなら良かったよ」
凛「もちろん、この先に何があるのか分からないし……真実を知るのが怖いって気持ちも大きいけど……」
未央「…………」
凛「でも、ここで逃げたままじゃ何も変わらない……変えられないって、そう思うから」
未央「……しぶりん……」
凛「だから私……最後まで戦うよ。たとえこの先に、どんなに残酷な真実が待ち構えているとしても」
未央「うん。それでこそしぶりんだよ」
凛「未央」
未央「私も、全力で応援してる。だからもし何か困ったことがあったらすぐに言ってね。千葉から飛んで来るから!」ニコッ
凛「……うん。ありがとう!」ニコッ
凛(私に激励の言葉を贈ってくれた未央は、通りがかったタクシーを捕まえてそのまま千葉へと帰って行った)
凛(卯月も未央も、『何かあったらすぐに連絡して』とは言ってくれていたけど……時刻はもう既に深夜一時を回っている)
凛(流石にこれ以上、彼女達に迷惑を掛けるわけにはいかない)
凛(後は自分との戦い……極限まで集中力を高め、ただただプロデューサーの部屋の動向のみに全神経を集中させるだけだ)
凛(とはいっても、午前零時過ぎに部屋の明かりが消えて以来、目標には何の動きもみられない)
凛(あの部屋の中で何が起こっているのか私は知らない。知らなくてもいいことなのかもしれない)
凛(でも私は……その先にあるものを『知りたい』って思ってしまったんだ)
凛(その気持ちは、嘘じゃない。だから……)
凛(私はもう逃げない。迷わない。惑わない)
凛(今はただ、自分の信じた道を進むだけ)
凛(……ああ、そういえば……)
凛(私がアイドルやるようになったきっかけって……プロデューサーが教えてくれたんだっけ)
凛(『少しでも、君が夢中になれる何かを探しているのなら、一度踏み込んでみませんか?』)
凛(『そこにはきっと、今までと別の世界が広がっています』)
凛(そうだ。私はその言葉を信じて……アイドルになったんだ)
凛(そのことは、本当に感謝してる)
凛(『私をアイドルにしてくれてありがとう』って……今でも毎日、そう思ってるよ)
凛(だからプロデューサー……目の前にある現実は、胸に抱いた理想とは違う形をしているのかもしれないけど……)
凛(あと数時間だけでいい。たったそれだけでいいから……今はまだ、夢の世界に浸らせていてほしいな)
凛(お願いだよ)
凛(私の大好きな……プロデューサー)
凛(……そんなこんなで、時刻は朝七時……)
凛(日本の夜明けです)
凛(まあ、我ながらよくここまできたもんだと思うよ)
凛(最初にここに着いてから、実に12時間以上もの間……不眠不休で、ただひたすらプロデューサーの部屋を見つめ続けることになるとはね……)
凛(でもここまできたら、もう何も怖いものはない)
凛(たとえどんなに残酷な現実であろうと、目を背けることなくしっかりと受け入れ――……)
ガチャッ バタン
武内P「――――」
謎の女性「――――」
凛「!」
凛(ふ……普通に出て来た!?)
凛(ぷ、ぷプロデューサーはいつものスーツ姿……あ、当たり前か。今から事務所行くんだろうし……)
凛(で、あ、あの謎の女Xは……)
凛(! 服、着替えてる……! じゃあやっぱりあの女、昨日は最初から泊まるつもりで……)
凛「!?」
凛(き、昨日買った大量の荷物……あの女の私物と思しき服や靴やバッグ……を、一つも持っていない!?)
凛(もちろん、プロデューサーも持っていない……ってことはまだ、あの部屋の中に……)
凛(な……なんでなんでなんで!?)
凛(だってあれはあの女の私物で……なんでそれをプロデューサーの部屋に置いたままにして出て行くの!?)
凛(そんなの、まるで、またあの女がプロデューサーの部屋に……)
凛(……いや、違う……?)
凛(もしかして……もしかして、もう既に……)
凛(あの部屋で、二人、一緒に、暮らし――……)
武内P「……渋谷……さん?」
凛「えっ」
武内P「な、なぜ……こんなところに……?」
凛「…………」
凛(し、しまった……! 動揺し過ぎて、隠れるの忘れてた……!)
凛(いやでも、ちょうどよかったじゃないか……どっちにしろ、逃げるつもりはなかったわけだし……)
謎の女性「……あれ? この子って確か……」
武内P「ああ。僕が担当しているアイドルの……渋谷凛さん」
凛「!」
謎の女性「あー。どうりで。なんか見たことあると思ったわ。でもなんかすごいカッコね。寒がりさんなの?」
凛「…………」
凛(プロデューサーが、丁寧口調じゃない)
凛(自分の事、『僕』って言った)
武内P「渋谷さん? あの……大丈夫ですか?」
凛「…………」
凛(そうか。そうだよね)
凛(私はプロデューサーの『プロデューサー』としての一面しか知らないけど……)
凛(プロデューサーだって、一人の人間なんだ)
凛(『プロデューサー』以外の面だって、当然たくさん持ってるに決まってる)
武内P「渋谷さん……?」
凛「…………」
凛(それで多分、この女の人は……プロデューサーの『プロデューサー』以外の面を……たくさん知ってる人なんだ)
凛(私なんかよりも、ずっとずっと、たくさん……)
凛(でも)
凛(……でも、そんなの……)
武内P「渋谷さん」
凛「い……いやだ!」
武内P「えっ」
凛「あっ」
凛「…………」
武内P「…………」
謎の女性「…………」
凛(な、何言ってるんだろう私……こんなところにいる時点で怪しさ全開なのに、会って第一声が『いやだ』って……)
武内P「……え、っと……」
凛(ああほら、プロデューサーも固まっちゃってるじゃん。早く何か言わないと……)
凛「……あ、あのねプロデューサー。違うの。違うんだよ」
武内P「は、はあ……」
凛「私が嫌だって言ったのはプロデューサーのことじゃないから。そこんとこ誤解しないでほしいかなって」
武内P「そ、そうですか。では一体何が嫌だと……いやそれ以前に、そもそもなぜここに……?」
凛「そ、それは……え、ええっとだね……」
謎の女性「……ねぇ、○○。なんかよく分かんないけど私の事も紹介しといてよ。リアルにアイドルと知り合える機会なんてそうそうないんだしさ」
凛「!」
武内P「え? ああ、いいけど……」
凛(ぷ、プロデューサーを下の名前で呼んだ……! もう間違い無い、やっぱりこの人……)
武内P「渋谷さん。色々話が飛んで申し訳ありません」
凛「!」
武内P「こっちにいるのが……」
凛「き……聞きたくない!」
武内P「えっ」
謎の女性「えっ」
凛「……っていうか、聞かなくても、分かるよ……」
武内P「! 本当ですか。まあ、たまにそういう方もおられますが……」
凛「……彼女、なんでしょ。プロデューサーの」
武内P「えっ」
謎の女性「…………」
凛「っていうか、この状況で分からないわけないじゃん。プロデューサー、私の事バカにしてんの?」
武内P「えっ。いや、そんなことは」
凛「そりゃあ私なんか、この人に比べたらまだ全然子どもかもしれないけどさ……これでも一応、色々考えて生きてるんだよ」
武内P「渋谷さん……」
謎の女性「ふぅん。なかなか鋭いのね。お嬢ちゃん」
凛「!」
武内P「えっ」
謎の女性「あなたの言うとおり……私は○○の彼女よ」
凛「! …………」
武内P「ちょっと……何を」
謎の女性「別にいいじゃない。隠すようなことでもないのだし」
凛「…………」
凛(ま、まあ分かってはいた、けど……)
凛(いざ、面と向かって、言われると……)
凛(結構、くる、かな……)
凛「…………?」
凛(あ、あれ? おかしいな……プロデューサーの、顔、にじんで、よく、見えな……)
武内P「!? し……渋谷さん!?」
謎の女性「ちょ、ちょっと! な、何も泣く事ないじゃない!?」
凛「な……ないてまぜんっ!」
謎の女性「いやめっちゃ泣いてるわよ! え、何これどうしようどうしたらいいの?」
凛「う、うぅ~……えぐっ」
武内P「し、渋谷さん……」
謎の女性「ちょ、ちょっと○○、あ、あんた何とかしなさいよ! あんたの担当アイドルでしょ?」
武内P「え、えっと。お、落ち着いて下さい渋谷さん」
凛「う、うう……ううぅ……」
武内P「ど、どこか痛みますか? 病院にでも……」
凛「…………」ブンブン
武内P「じゃ、じゃあとりあえず涙を……あっ。ハンカチ忘れた……姉さん持ってない?」
謎の女性「もう、しょうがないわね。はい」
武内P「ありがとう」
凛「…………?」
武内P「渋谷さん。とりあえずこれで涙を……」サッ
凛「…………」
武内P「? 渋谷さん?」
凛「えっと……プロデューサー」
武内P「は、はい」
凛「今……なんて」
武内P「え? とりあえずこれで涙を」
凛「その前」
武内P「? ハンカチ忘れ……」
凛「その後」
武内P「え? えっと……」
凛「……姉さん、って」
武内P「……ああ、はい」
凛「それって、つまり」
武内P「はい」
凛「……そういうこと……なの?」
武内P「そういうことです。……すみません、本当はさっき言おうとしていたのですが、姉が悪ふざけを……」
凛「…………」
武内姉「ご、ごめんね。ちょっとからかうだけのつもりだったんだけど……」
凛「…………」
武内姉「まさか泣いちゃうなんて思わなくて……いや、なんというか……」
凛「…………」
武内姉「本当にすみませんっしたぁ!」ガバッ
武内P「土下座!?」
武内姉「あんたもしなさい!」
武内P「!?」
武内姉「ほら早く! こんな可愛い女の子泣かせたんだから! 連帯責任!」
武内P「で、では……」
武内姉弟「本当に申し訳ありませんでした!」ガバッ
凛「…………」
凛「……いいよ。もう」
武内P「! 渋谷さん」
武内姉「お嬢ちゃん」
凛「……私の方こそ、勝手に勘違いして……ごめんなさい」ペコリ
武内P「い、いえ。そんな、渋谷さんが謝るようなことでは……」
武内姉「そうよ。お嬢ちゃんは何も悪くないわ。悪いのは全部この弟よ」
武内P「!?」
武内姉「何よその顔。あんたがお嬢ちゃんを心配させたのは紛れも無い事実でしょうが」
武内P「? じ、自分が渋谷さんを……? 何かよく分かりませんが、自分のせいで不快な思いをさせてしまったのならすみません。渋谷さん」ペコリ
凛「! わわ。いいって。プロデューサー。だから私が勝手に勘違いしただけだってば」
武内P「? そうなんですか?」
凛「そ、そうなの! ……まあ今になって考えたら、不動産屋に一緒に行ってたくらいで彼女だって決めつけるのも短絡的だったし……」
武内P「? 不動産屋……?」
武内姉「あんたもう忘れたの? 昨日一緒に行ってくれたじゃない」
武内P「ああ。姉さんの」
凛「え?」
武内姉「ああ、私、今は実家から通勤してるんだけど、ちょっと遠くてね。それで来年からは一人暮らししようと思って、家探してたの」
凛「あ、あー……」
武内姉「でも不動産屋とかって、女が一人で行くとなんかなめられて足元見られそうだなーって思って。それで見た目だけは異様にいかついこいつについて来てもらってたってわけ」
武内P「見た目だけはって……」
凛「……そ、そうだったんですか……」
凛(な、何それ……わ、私のこの12時間越しの苦労って、一体……)
凛(まあでも、良かった……うん。本当に……)
武内姉「しかし健気だねぇ。自分のプロデューサーの身を案じて、はるばるこんなところまで追いかけてくるなんて」
凛「! そ、それは、そのっ……」
武内P「! ……そういうことですか。それで渋谷さんはこんなところに……」
武内姉「って。ちょっとあんた、今頃気付いたの?」
武内P「ああ」
武内姉「ああって……そんなんだからあんたは……」
凛「い、いいんですいいんです。私が勝手にやったことなんで……」
武内P「……ん?」
凛「? どうしたの? プロデューサー」
武内P「渋谷さんは昨日……私と姉が不動産屋に行っていたのを見ていたんですよね?」
凛「え、あ、ああ……うん。いや、別に見ようとしてたわけじゃないよ? ただの偶然で……」
武内P「そしてそこで姉の姿を見て私の恋人と勘違いし、私の身を案じて後を追った……」
凛「あ、改めて言われるとなんか恥ずかしいけど……まあ、そういうことになるかな……」
武内P「でも私達が不動産屋を訪れていたのは昨日の昼過ぎ……」
凛「えっ。あ、あー……そ、そうだったかな? あはは……」
武内P「つまり不動産屋の時点から数えて……優に17時間以上、渋谷さんは私達の後をつけていたということに……?」
凛「…………え、そ、そんなになるかな? ま、まあ概ねそんな感じかもしれなくもないけど……あ、あはは……」
武内P「渋谷さん」
凛「! は、はい」
武内姉(あっ。これ説教モードだ)
武内P「私の身を案じてくれた事は……素直に嬉しく思います。どうもありがとうございました」
凛「……プロデューサー……」
武内P「ですが、いくらなんでもこんな場所で夜を明かすなんて……今後はもう絶対にしないで下さい」
凛「うっ。ご、ごめんなさい……」
武内P「これはあなたがアイドルだから、私がプロデューサーだから言っているのではありません。一人の人間として……あなたの事が心配だから言っているんです」
凛「! ぷ、プロデューサー……」
武内P「どんなに有名なアイドルになっても……あなたはまだ、15歳の女の子なんですから」
凛「! う……うん。ありがと……」
武内姉(あーあ、ここで『一人の男として』って言えればねぇ……ま、そういうとこもこいつらしいけどさ)
武内P「それと、もう一つだけ」
凛「? な……何?」
武内P「これは純粋に疑問なのですが……」
凛「…………?」
武内P「なぜこの寒空の下、こんなにも長い時間……私の事を見守り続けていてくれたのですか?」
凛「えっ」
武内姉「?」
武内P「私の身を案じてくれていたのは有り難いのですが……これでも私は男ですし……女性一人相手にどうこうされる危険はまず無いと思うのですが……」
凛「…………え?」
武内P「いえ、ですからつまり……あえて渋谷さんに建物の外から見守って頂かなくとも、いざというときは自分一人で対処が可能かと……」
凛「…………」
武内P「? 違うのですか? 私の身を案じていたというのは……」
凛「…………」
武内P「私の恋人が、実は凶悪な強盗犯であり……不意にその本性を露にし、私に対し暴行を加え、金品を奪取して逃走する……そんな状況を想定されていたのでは……?」
凛「…………」
武内姉(だ、駄目だこいつ……早くなんとかしないと……)
武内P「す、すみません……どうやら、ニュアンスに誤解があったようですね」
凛「いや、まあ……うん」
武内P「では、改めてお聞きしますが……」
凛「えっ」
武内P「渋谷さん。あなたはなぜ……この寒空の下、こんなにも長い時間……私の事を見守り続けていてくれたのですか?」
凛「! な、なんで、って……」
武内姉「…………。(こいつ、マジでこういうとこ自覚無いんだよな……我が弟ながらあまりにひどい……。同情するぜ、お嬢ちゃん)」
凛「な……なんでって、そ、それはあれだよ。その……」
武内P「?」
凛「……その……!」
――私の大好きな……プロデューサー。
凛「! …………」
武内P「? 渋谷さん?」
凛「……い……」
武内P「い?」
凛「い……いやだ!」
武内P「…………。(だ、だから何が……)」
了
本作品は以上で終了となります。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。
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