三船美優「あなたの前で」 (20)
美優「また来てしまいました……Pさんとふたり……」
美優「温泉に続いて、こんな大胆に……」
美優「お仕事とはいえ、今までの私じゃ考えられなかったです」
美優「……でも、水着だなんて、大丈夫でしょうか?」
美優「もっと若い娘だっているのに、私なんかが……」
美優「き、綺麗だなんて……やめてください、Pさんっ」
美優「……もう」
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美優「でも、他の誰でもなく私を連れて来てもらったんですから……」
美優「その期待には応えたいと思います。Pさんの期待ですものね」
美優「ですから、心配はいりませんよ」
美優「それは、確かにちょっと不安はありますけど……」
美優「でもPさんとの経験が……私の思い出の一つ一つが、私の中にちゃんと詰まってます」
美優「それに、こう見えても泳ぎは得意なんですよ。ふふっ」
美優「……そう、ひとつ、Pさんにお聞きしたいと思っていたことがあるんです」
美優「私……変わったねって言われるんです」
美優「ううん、同じことは前にも言われましたけど……」
美優「でも、その時は戻ったと言ったほうが正しかったのかな」
美優「あの頃は……一人でしたから」
美優「大切な温もりを忘れて……笑顔も失くして……」
美優「曇り空の下で生きていたような気さえします」
美優「そんな私を拾い上げてくれた……Pさんには感謝してもしきれません」
美優「私がまた自分を取り戻せたのは……Pさんのおかげですから」
美優「……た、たまに変な衣装を着せられたりしますけど……」
美優「だけど、それだけは本当なんですよ」
美優「最近……また少し変われたと思うんです」
美優「もう一歩踏み出せる、私に」
区切り
美優「いつもPさんが隣にいてくれるから……」
美優「普段の私ではなくなるような……そんな未知の自分に向き合えるんです」
美優「あなたの望むままに生きたいと願うのは……迷惑でしょうか」
美優「Pさんにとっては、私はアイドルのうちの一人かもしれませんけど……」
美優「少なくとも、三船美優という一人の女……」
美優「わたしにとってのPさんは、Pさん自身が思っているより……」
美優「ずっと……ずっと大事な人なんです」
美優「…………」
美優「って、な、何だか変なこと言っちゃってませんか!?」
美優「あの、大事っていうのは、それくらい傍で支えてくれてるといいますか……!」
美優「と……とにかく変な意味ではないんです!」
美優「ご、ごめんなさい……今の話は聞かなかったことに……」
美優「と、ところで! Pさんいつもスーツですけど泳がないんですかっ?」
美優「お仕事とはいえプライベートの時間もあることですし、ひと泳ぎでも!」
美優「そ、そうですか……泳ぎませんか」
美優「…………」
美優「……ふ、ふふっ。おかしいですね、私」
美優「この日差しにあてられたのかもしれませんね」
美優「変に緊張する必要なんかないのに……」
美優「せっかく南国の海に来てるんですもの……」
美優「私……泳いできますねっ」
美優「……えっ? 私がパレオを脱ぐとは思いませんでしたか……?」
美優「そうですね……以前の私なら……」
美優「ふふっ……これも誰かさんが露出の多い衣装ばかり着せるからでしょうか……?」
美優「確かに……お仕事の衣装で慣れたというのはあります」
美優「でもあくまでそれはお仕事……」
美優「プライベートで……自分の気持ちでこういう格好を見せるのは違いますから……」
美優「そ……その……今は」
美優「……だけですから」
美優「自分で……こういう格好を見せてもいいと思うのは……」
美優「ええと……その! 暑いですよね!」
美優「南国ですものねっ! 泳いできます……っ!」
美優「……はぁ」
美優「私……なにしてるのかしら」
美優「あんな事を言っても……Pさんを困らせるだけなのに」
美優「でも……あれは……」
美優「望んでいるの……?」
美優「あの人に……全てを曝け出したいって……そう思っているの……?」
美優「隠れている私も、恥ずかしい私も……見てもらいたがってる……」
美優「Pさんに……」
美優「Pさんだから……」
美優「……せっかくだし、Pさんとも泳ぎたいな……」
美優「こんな素敵な海にふたりきりで、私の水着だけ見て帰るだなんて、そんなのもったいないです……」
美優「でもスーツだったし……」
美優「誘えば来てもらえるかな……?」
美優「誘う……あ、演技の経験を活かせばどうにかなるかしら」
美優「Pさんが追いかけたくなるような女性を演じてみるとか……?」
美優「……おほんっ」
美優「ふふっ……プロデューサーさん?」
美優「そんなところにいないで、私の胸の中で……溺れてみませんか……?」
美優「な、なん……て……」
美優「……きゃぁあ!? いつからそこにいたんですか!?」
美優「違うんですPさん……今のはどうすればPさんが言うこと聞いてくれるかなと……っ」
美優「あれは演技です……演技ですから……っ!」
美優「そもそもいつの間に……どうして声かけてくれなかったんですかっ」
美優「面白そうだったから……?」
美優「もう……どうしてそう意地悪なんですか……」
美優「それで……どうかしたんですか?」
美優「あ、もう撮影の時間なんですね……」
美優「ちょっと考え事に夢中になっちゃって……ごめんなさい」
美優「……Pさんを誘惑することだけ考えてたんじゃないですっ!?」
美優「そ、それ以外もです! たくさん!」
美優「私だって、Pさんに話しちゃ駄目なことがたくさんあるんですっ」
美優「例えば、ですか?」
美優「この前楓さんと菜々さんに飲みに誘われて……って、言いませんったら!」
美優「この話はおしまいです! 部屋に戻らなくちゃ……」
美優「聞きたい、ですか? もう……本当は駄目ですけど……」
美優「続きは部屋で……ね?」
美優「……あの」
美優「さっきは、忘れてだなんて言いましたけど……」
美優「でも、これだけは伝えておきたいなって思うんです」
美優「Pさんにとっての私がどんな存在になれるのか、わかりませんけど……」
美優「私にとってのPさんは、失いたくない大切な……そんな人です」
美優「私が私でいられるのは……誰も知らない姿を見せられるのは、この場所だけですから」
美優「……見ていてください、ね?」
おしまい
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