※注意
・仮面ライダーディケイドとデレマス(アニメ)のクロスSSです。ディケイド寄り
・地の文有り
[前回]→【ディケイド】門矢士「俺がアイドルのプロデューサーか」【デレマス】
【ディケイド】門矢士「俺がアイドルのプロデューサーか」【デレマス】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1448888770/)
ニコニコ動画でディケイドの配信が始まりました。ゴーストと一緒に楽しみましょう!
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1449401806
これまでの、仮面ライダーディケイドは―――
https://www.youtube.com/watch?v=eHY_Ur0Q1qI
『新たな物語と、新たな仮面ライダー、か…』
『お前たちのプロデュースをすることになった、門矢士だ。別に覚えなくていい』
『この世界はショッカーのものだ!』
『『『『イーーーーーッ!!』』』』
『……はぁ。また“ショッカー”か!』
『す、凄い……』
『カッコイイ…!ヒーローみたい!』
『あなたがこの世界へやって来た理由、それは『この世界を守るため』です』
『ディケイド、この世界でのあなたの本当の役割は『世界の守護者』。襲い来る脅威を討ち、この世界を守り切る』
『それが、この世界におけるあなたの存在理由』
『…ま、付き合ってやるか』
第6話 「Wish upon a star.」
レコーディングルームの中で歌う未央と、彼女を見守る卯月と凛。彼女たちは今、自分たちのデビュー曲の収録中だった。
収録を終えて出て来た未央に、2人が駆け寄っていく。
卯月「どうでしたか、未央ちゃん?」
未央「んっふっふ…、バッチリ!」
凛「流石だね、未央は」
未央「えへへ、それほどでも!イェイっ!」
ハイタッチの乾いた音が響く。それを見届けてから、プロデューサーは電話を掛けた。
P「…もしもし、門矢さん。私です」
士『あ?…ああ、収録が終わったか』
P「はい。これから皆さんと共にそちらに戻ります。ラブライカのお二人は」
士『こっちから言うまでもなく、レッスンへ向かった。その他、連絡事項は無い』
P「分かりました。それでは」
門矢士が今の世界に来てから、2週間が経過していた。
尊大でありながらも、プロデューサーと比べればコミュニケーションの取れる士は、あっという間にプロジェクトに受け入れられた。
同時に士は、シンデレラプロジェクトのアイドルを差し置いて、社内でもそれなりに名前を知られるようになっていく。
今西「いやぁ、シンデレラプロジェクト、今じゃ社内でも注目の的だよ」
今西「……彼女たちのデビューの事と君の活躍とで、話題は二分されている、というところだけどね。ハハハ」
以前今西がそう言っていた。
話を聞くに、先日怪人たちと戦った時のことは、どうやら「敷地内に進入した不審者たちを、士が一人で全員ぶちのめして追い払った」
ということになっているらしい。
ただし不審者はあくまで不審者、即ち人間だったということになっており、それが人の姿をしていない「怪人」だということは覚えていなかった。
ここにも、世界による記憶の改ざんの影響が見て取れる。
だが、何故かシンデレラプロジェクトのメンバー、そしてプロデューサーの15人だけは、何日経っても記憶が改ざんされなかった。
そして彼女たちは、士の正体を他人には話さないことにしたらしい。
別に士からすれば誰に知られようがどうでもいい話なのだが、それでもその正体は隠されることになった。
一方で、シンデレラプロジェクトが話題に上がるのは、士自身も様々なところで耳にして知っている。
どちらにせよ、バッチリと注目されているのは間違いなかった。
前スレのままだとアカンかったの?
士「そろそろ来る頃か」
時計を確認し、スケジュールをチェックする。予定ではそろそろ記者が来て、デビューする2組の取材を行うことになっていた。
ちひろに応接室の用意を任せ、士はエントランスへ向かう。
仕事上の応対ならば、自分よりも実直なプロデューサーの方が性格的に向いてるということは士も自覚している。
だが彼がいない以上、こういう役目をこなすのもまた士の『仕事』だ。
エントランスには、既に記者が到着していた。
「あ、あなたがシンデレラプロジェクトのプロデューサーさん?」
士「ああ、門矢士だ」
善澤「どうも、善澤です。今日はよろしくね」
今までにやったことが無かったが、名刺の交換もこの2週間で慣れた。
ただやはり、士としては他人に頭を下げることだけはどうしても慣れなかったが。
士「こっちだ。案内する」
善澤「どーも」
士は善澤記者を連れてエレベーターに乗り、プロジェクトルームに到着したところで応接室に通す。
そこでちひろに記者への対応を任せ、連絡のために応接室の外へ出た。
卯月『はいもしもし、士さん』
士「島村か。ヤツは運転中か?」
卯月『はい。どうかしましたか?』
士「お前たちの取材をする記者が来た。今は応接室で待機中だ。どれくらいで戻ってくる?」
卯月『ちょっと待ってください………』
向こうから話し声が聞こえる。その中に、例の低音も聞こえた。
P『お電話変わりました、門矢さん。あと10分もせずに戻れるかと』
士「分かった。伝えておく」
P『よろしくお願いします。では』
未央『あっ、ちょちょっ、ちょっと待った!』
士「何だ本田」
未央『つかさん!私たち、今日収録だったんだよ!私たちの曲の、初めての収録!』
士「知ってる。で?」
未央『すっごく楽しかった!私たち、ここからアイドルの道を進むんだねって思ってさ!』
士「……遠足が楽しみな小学生か?連絡もある、話は戻ってからにしろ。切るぞ」
そう言って、士は通話を切った。あの浮かれようだと、到着するまで話し続けそうで、面倒ったらありゃしない。
携帯をしまって、応接室で待機中の善澤にプロデューサーたちの到着予定を伝える。
善澤「ん、分かったよ。もうちょっと待ちましょっか」
士「ちひろ、俺はラブライカの2人を迎えに行く。何かあったら連絡を寄越せ」
ちひろ「分かりました」
その日の取材は、特に面倒も無く終了した。
途中、はしゃぎ過ぎたみくたちが取材を中断させたことが、唯一それらしいことだろうか。
卯月「はあ…、緊張しました…」
凛「ああいう時って、何話したらいいのかな?」
未央「私は、もっといっぱい喋りたかったけどな~」
美波「私は、未央ちゃんは十分喋ってたと思うんだけど」
士「というか、お前は喋りすぎだ。言いたいことは先に纏めておけ」
未央「はぁ~い、すいませーん…」
凛「美波たちは、やっぱりそうしてたの?」
アーニャ「Да。少し、練習しました」
美波「こんなこと聞かれたら、こうしようって。プロデューサーさんたちに協力してもらったの。ちゃんと気持ちを伝えたかったから」
未央「確かに。つかさん、とんでもない変化球投げるの上手そうだもん」
卯月「私たちも、やっておけばよかったでしょうか?」
士「俺はともかく、ヤツなら断らなかっただろうな」
未央「よっし!私たちはその分、ミニライブで頑張ろう!」
卯月「うん!」
凛「そうだね」
デビューを控え、気を引き締めるニュージェネの3人。
卯月と凛はともかくとして、未央は少し浮かれすぎているような気がしないでもないが、今から緊張しすぎるよりは遥かにマシだ。
何かあればこちらが釘を刺せばいい。
「おっ、いたいた」
そこで、何者かが部屋へと入って来た。
派手なピンク色の頭髪が目を引くこの少女のことも、士は資料に目を通しただけで、だいたいを覚えていた。
未央「あっ、美嘉ねぇ!」
美嘉「うーす★あれ、そっちの人は…」
士「…あぁ、俺か。門矢士だ。名前くらいは聞いてるだろ、城ヶ崎美嘉」
美嘉「門矢、士…。あっ、この前不審者を追い払った人って、アンタのことだったんだ」
士「このプロジェクトのプロデューサーだ。別に覚えなくていい」
美嘉「へぇ…。アンタたち、凄い人にプロデュースしてもらえるかもしれないよ?」
美波「それは…、ええ」
アーニャ「ツカサ、本当にすごい人、です」
美嘉「……?ま、いっか。それより、聞いたよ。CDデビュー決まったんだって?よかったじゃん!」
卯月「はい!ありがとうございます!」
美嘉「しかも、発売イベントまでやるんでしょ?良かったね、美波、アーニャちゃん」
アーニャ「Спасибо!」
美波「ありがとうございます!」
美嘉「イベントに向けて、レッスンはちゃんとやってる?」
未央「ふっふーん♪ばっちし!」
美嘉「へぇ、緊張してるかと思ったら、意外と余裕なんだね?」
卯月「そ、そんなこと…」
未央「心配ないって、しまむー♪何たって私たち、美嘉ねぇのバックですごいステージを体験したじゃん!」
凛「レッスンはしっかりやってると思うけど」
美嘉「ま、アンタたちならやれると思うよ。本番に強いとこ、見せてくれたもんね★」
未央「だよねだよね!つかさんも、未央ちゃんたちの大活躍に、乞うご期待っ!」
士「……あんまり調子に乗るなよ」
尊大で口が悪くても、士は本質的には正義の味方たる優しさと熱さを秘めている。
決して本人たちの前では口にしないが、出会ってからの努力はちゃんと知っている。
そして、デビューに関しては純粋に応援していたし、支援するつもりでいた。
だからと言っても、やはりデスクワークは性に合わない。
P『間もなく、ニュージェネレーションズとラブライカの皆さんのレッスンが終わります』
P『私はその後の衣装合わせにも立ち会いますので、門矢さんはイベント当日の進行表作成をお願いします』
士「……代わるべきだったな」
ぼやきつつも、キーボードを打つ手が止まることはない。
写真が上手く撮れないこと以外では何事もそつなくこなす能力の高さが、ここでも発揮されていた。
完成した進行表をプロデューサーへ送信すると、士はスーツのポケットからライダーカードを引っ張り出して、デスクに並べる。
2週間で、この動作を一体何度行ったのか、士自身分からない。士はとにかく、このカードのことを知ろうとしていた。
しかし、にらめっこしていても当然ながらカードは何も変わらないし、教えてはくれない。
結局のところ今の士は、何かが起こるのを待つしかなかった。
士個人の思いなど考慮もせずに、世界の時は進んでいく。
雑誌やラジオを通してのプロモーション活動は順調に行われ、デビューが間近に迫った5人はイベントまでの日々を忙しく、しかし精力的に活動していた。
その一つとして出演した回の「高森藍子のゆるふわタイム」は、士もちゃんと傾聴した。
と言っても、ニュージェネの3人が雑誌取材時の反省から、話したい内容を事前にまとめてから収録に臨んでいることを確認するためだったのだが。
時には、レッスンの様子も覗いた。というか、未デビュー組に連れ出された。
卯月「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
凛「卯月、大丈夫…?」
卯月「だ、大丈夫です!まだ頑張れます!」
他の二人に比べ、卯月はダンスのテンポが遅れていた。
本人も分かっていて修正しようとしているが、そこを意識すると今度は全体がおろそかになる。
悪循環を何とか打破すべく、卯月はレッスンにより熱心に打ち込んでいた。
みく「卯月チャンたち、頑張ってるにゃ」
かな子「大変そうだね…」
士「…多少の差はあるだろうが、お前たちもいずれはあれ位か、あれ以上に踊れるようにならなきゃいけないぜ。分かってるか?」
智絵里「うう…。私、上手く踊れるようになるかな…」
李衣菜「今から心配したって仕方ないじゃん?きっと大丈夫だって」
落ち込む智絵里の肩を、李衣菜が優しく叩く。
士の前でも、そんな風に未央が卯月の肩を叩いて励ましていた。
未央「しまむー、もっかい同じとこ出来る?」
卯月「え?…あ、はい」
未央「大丈夫だよしまむー、出来るようになるまで付き合うからさ。一緒に頑張ろっ♪」
凛「未央…。卯月、私も付き合う。一緒にやろう、出来るまで」
卯月「凛ちゃん、未央ちゃん……!ありがとうございますっ!」
みく「士チャン、何か言ってあげたらどうかにゃ?」
士「フッ。渋谷と本田が協力するなら、俺が何か言う必要はないだろ」
二人に支えられ、卯月のダンスは徐々に上達していく。ゆっくりとではあったが、悪循環からは抜け出しつつあった。
そして、イベント前日。メンバーたちが見守る中で、3人は息の合ったダンスを見せた。
ベテトレ「……うむ」
未央「~~~~っやったぁー!」
凛「ちょっ、未央!」
卯月「やりましたね!」
みりあ「未央ちゃんたちすっごーい!」
莉嘉「完璧じゃん!」
きらり「とーっても上手だったにぃ♪」
杏「あー、上手い上手ーい」
蘭子「流石は〈瞳〉により選ばれし者たち…。見事な舞であった…」
李衣菜「やるじゃん」
未央「ねぇ、つかさん!どうだった!?」
士「……フッ。俺からすれば満点にはまだまだだが、合格点くらいはくれてもいい」
未央「ホント!?やったっ!」
未央がガッツポーズしたところで、トレーナーが手を打った。少女たちの視線が自然とそちらを向く。
ベテトレ「プロデューサーからお墨付きをもらえて喜ぶのは分かる」
ベテトレ「…だが、お前たちはこれ以降、何度もこのダンスを披露していく。分かっているな?」
卯月「は、はいっ」
ベテトレ「…今日の感覚を忘れるな。今後は、もっと厳しく行くぞ」
「「「……ハイッ!ありがとうございました!」」」
そして迎えた、イベントの当日。
レッスンルームで、本番前の最後のリハーサルが入念に行われていた。
未央「オッケー!しまむーターン完璧じゃん!」
卯月「ありがとうございます!」
凛「本当に、3人で合わせられるようになって良かった」
いよいよ披露の時がすぐそこまで近づいていても、3人のダンスにブレは無く、昨日同様ぴったりと息の合ったダンスに仕上がっていた。
頃合いを見計らって、士がレッスンルームの扉を開ける。
士「そろそろ時間だ。会場へ行くぞ」
凛「分かった」
卯月「いよいよですね…!」
未央「よぉーし!張り切って行こー♪」
着替えた3人を伴って駐車場へ向かう。
駐車場では、一足先に車に乗り込んでいたプロデューサー、ラブライカの3人が待っていた。
士「こいつらは任せた。俺は俺のアシで会場まで行く」
P「分かりました。では、行きましょう」
ニュージェネの3人はプロデューサーの運転する車に乗り込み、士はマシンディケイダーに跨る。
そして、それぞれが会場へ向けて動き出した。
士の会場到着から数分。プロデューサーの車も会場であるショッピングモールに到着した。
中の5人が順に降りてくる。プロデューサーは連絡のため、車内で電話中だ。
未央「おおー!ここでライブ出来るのって、やっぱり嬉しいなー♪」
士「本田。分かってると思うが、今日は遠足じゃない。気を引き締めろ」
未央「うっ、はぁーい…」
卯月「すぅー…、はぁー…。…よしっ、島村卯月、頑張りますっ」
凛「卯月はちょっと早すぎない?」
美波「ふふっ。凛ちゃんの言う通りよ、卯月ちゃん」
アーニャ「リラックス、です」
卯月「わ、分かりました!頑張ってリラックスします!」
未央「しまむー、それじゃ意味ないよー」
未央がツッコみ、美波とアーニャが笑った。空気が適度に緩んでいく。
そこで、通話を終えたプロデューサーが車から降り出て来た。
P「皆さん、お待たせしました。では、行きま―――」
彼の言葉は、最後まで聞こえなかった。
士「!」
美波「これ、悲鳴、ですか…?」
引き裂かれるような悲鳴が、士たちの元まで届いていた。
素早く音の出所を探る。そうすることで、それが広場の方から発されているのが分かった。
そしてそちらに、広場の方に見えたのは。
士「…チッ。何でこんなタイミングで来る…」
凛「オー、ロラ…」
3週間前、彼女たちの世界をぶち壊した、あのオーロラだった。
P「っ!門矢さん!」
あの時同様、士は即座にオーロラのある方向へと駆け出していく。
未央「ちょっ、つかさん待って!」
卯月「未央ちゃん!?」
そして、こともあろうに未央が士に続いて駆け出した。
凛「未央…!危ないって分かるはずでしょ……!」
残った5人から、士と未央の背中がぐんぐんと遠ざかっていく。
士「ハッ!」
勢いのまま、進行方向にいた敵に跳び膝蹴りをぶちかます。不意打ちの形になった一撃で、敵が吹っ飛んだ。
士はそのまま敵集団のど真ん中に突っ込んだ。
士「……忍者?」
先ほどは急いでいたため気付かなかったが、周囲の敵はよく見ると忍者のような恰好をしている。今まで見たことのないタイプだ。
戦闘態勢を取る士の目の前で、オーロラが揺らめく。
これがまだ消えていないということは、その向こう側に、ここへ攻め入って来た敵の頭がいるということに他ならない。
士「おい。どっから来た誰かは知らないが、早く出て来い」
士の意識は、忍者どもではなくオーロラの向こうに集中している。だからと言って、忍者に後れを取るということもあり得ない。
やがて、オーロラの向こうで影が蠢くのが見えた。その影は徐々に濃く、大きくなっていき―――
「どうもこんにちは。あなたが世界の破壊者、ディケイドですか」
向こうから、怪物が姿を現した。
未央「つかさん!」
士「本田!?」
忍者たち、そしてオーロラの向こうからやって来た敵に対峙する士の耳に飛び込んできたのは、よく聞いた未央の声だった。
「…………んんん~~……?」
士と真正面からぶつかり合っていた怪物の視線が、未央を捉える。
血のように真っ赤な真っ赤な瞳が、未央の瞳を覗き込もうとしていた。
未央「ひっ……」
『見てはいけない』と、脳は強く訴えている。
だが、どうしても未央は目をそらすことが出来なかった。
瞳の奥を覗き込まれ、そんなつもりはないのに、こちらからも向こうの瞳の奥を覗き返そうとしてしまう。
その奥の“何か”が、未央の瞳を惹きつけていた。
士「本田!」
怪物へ駆け出そうとした士の行く手を、忍者たちが遮る。それらを片っ端からぶちのめして進んでいくが、怪物に手が届くまでにはまだ遠い。
未央「あっ、あっ……」
そして、未央には怪物の瞳の奥の“何か”が見えようとしていた。
士「邪魔だっ、どけ雑魚共!変身!」
『KAMEN RIDE DECADE!』
ライドプレートが忍者をまとめて吹き飛ばす。
左腰のライドブッカーを手にし銃口を怪物に合わせるも、撃つよりも早くその赤い瞳の輝きは増していき―――
P「本田さんっ!」
未央「うっ!?」
走り込んできたプロデューサーが、咄嗟に未央の頭を上から抑え、下を向かせた。
「……あらららら……」
P「本田さん!本田さん!」
卯月「未央ちゃん!しっかりして、未央ちゃん!」
脱力していた未央は、卯月が数回肩を揺さぶっただけで簡単に目を覚ました。
未央「しまむー…、プロデューサー…、うん……?」
凛「バカッ、何やってるの未央!?」
美波「ちょっと、凛ちゃん!」
凛は未央の肩を掴むと、怒りを込めて強く揺すった。
凛「何で士さんの後をついて行ったの!?前の時の事、忘れたわけじゃないでしょ!?」
未央「な、何となく、そうしなきゃいけない気が、したから…?」
P「……え?今、なんと?」
未央「な、なんとなく……」
それなりに離れた未央の声でも、変身している今の士の耳であれば拾うことが出来る。
それによって得られた情報から判断するに、恐らく未央は。
士「…なるほど、だいたいわかった。お前、オーロラの向こうから本田に精神操作でもしたな。そうだろ?」
「フッフッフ。さて、どうかですかねぇ?」
士「蛇なのは見た目だけにしろよ、蛇野郎」
目の前の敵の姿は、とにかく『蛇』の一言に尽きる。
頭部から生えているのは、頭髪ではなく蛇。その全てが静かに蠢いている。
加えて、その手に握られている杖のような物にも、一匹の大蛇が巻きついている。
しかし、これほど特徴的な姿をしているのにも関わらず、士には敵の正体が看破できない。
グロンギからファンガイアまでの敵全てと、目の前の敵の特徴は何も一致していない。
逆にそこから言えることは、目の前にいるのは情報の無い敵、すなわち新しく生まれた世界の敵だということだ。
そしてもう一つ特徴的なのは、全身に浮き出た白い円と、それらを結ぶ線。
それらはまるで星座のようだ。
アーニャ「созвездие…、星座?それに、これは…オヒュカス、へびつかい座、でしょうか」
士「…だそうだが、答えはどうなんだ、蛇野郎」
「あらら。バレてしまっては仕方がない。そちらのお嬢さんの言う通りですよ、私は―――いや」
蛇人間は手にした杖を振り上げると、勿体ぶって一度溜めてから杖を地面に突き立て、芝居がかった口調で名乗った。
「我が名はオヒュカス。『オヒュカス・ゾディアーツ』。以後お見知りおきを、ディケイド」
『ゾディアーツ』という言葉を聞いた瞬間、士の頭に凄まじい量の情報が怒涛の如く流れ込んできた。
その影響で、名乗りは途中からよく聞こえていなかったりする。
一瞬視界が暗転した後、身体にいつも通りの感覚が戻ってくる。
そして、脳内で目の前の敵に関する基本情報が開示された。
士「ゾディアーツ。宇宙から降り注ぐ未知の力、コズミックエナジーを、ゾディアーツスイッチを用いてその身に受けた人間が変化した怪物、か」
オヒュカス「その通り。しかし、怪物という呼び方は些か癪だ。人類の進化した姿、新たなフェーズ…とでも呼んでください」
士「知るか」
ライドブッカーの銃口を向けて光弾を撃ち込むが、それらは全て頭から伸びた蛇に弾かれ、一発も本体に命中することなく消滅する。
士「チッ」
オヒュカス「今はあなたの相手をしに来たのではありません。ですが…、多少は遊んでいきましょうか。行け、我が猟犬よ!」
オヒュカスがそう言うが早いか、オーロラの向こう側から何かが士へと飛び掛かってくる。
しかし、士は優れた動体視力で以ってそれを認識し、躱した。
士の後ろで腰を低く落として、今にも駆け出そうとしている怪物。それにもオヒュカス同様の白い円とそれらを繋ぐ線が浮き出ている。
士「お前もゾディアーツか」
オヒュカス「その通り。彼は私の忠実な猟犬、ハウンド・ゾディアーツ。さ、ハウンドよ、お行きなさい」
「はっ!」
地面に両手両足をしっかりと付けると、ハウンドは全身のバネを駆使して走り出す。
その驚異的なスピードで、ハウンドの姿は一瞬で掻き消えた。
疾風となった獣が、士の周囲を縦横無尽に駆け巡る。
ハウンド「喰らえっ、ディケイドォッ!」
士「ハンッ」
そのスピードを保ったままに幾度となく襲い掛かり、鋭い爪を振るうハウンド。
だが、士はそれを尽く躱す。クロックアップやファイズアクセルの高速化などは一切使用せずに、だ。
ハウンド「このっ、クソッ!!」
士「猟犬と言っても、所詮犬か。そんな攻撃が通じると思ってるのか?」
『ATTACK RIDE SLASH!』
ハウンドの攻撃を躱し両者がすれ違う、その一瞬を狙って士が攻撃を仕掛ける。
複数に分身したライドブッカー・ソードモードの刃が、容赦なくハウンドの身体を切り裂いた。
ハウンド「ぐあっ!?」
『ATTACK RIDE BLAST!』
勢いを殺しきれずに地面を転がるハウンドには一瞥もくれず、士は再びオヒュカスへライドブッカーの銃口を向ける。
先ほど同様にライドブッカーが分身し、複数の光弾がオヒュカスへと飛んだ。
オヒュカス「むっ……」
しかしそれもまた、全身から放った光に阻まれ、オヒュカスには到達しない。
ハウンド「このォッ!!」
一方で、背中を晒した状態になっている士へ、ハウンドが飛び掛かる。
士「フッ!」
だが、それを読んでいた士は、腰を捻って後ろ蹴りを繰り出した。
ハウンド「ごっ……!?」
その蹴りが、ハウンドのみぞおちへと突き刺さる。その一撃でハウンドは完全に力を削がれ、その場に崩れ落ちた。
士「芸の仕込みがなっちゃいないな。犬と遊ばせるつもりなら、もっと賢いのを連れて来い」
手を払いながら、そう言い放つ。士の眼中には、最初からオヒュカスしかなかった。
オヒュカス「……むぅ。ここは退くべき、ですか。退きますよ、ハウンド」
ハウンド「ぐぅぅっ……!!次こそ切り刻んでやる、覚えておけ……!!」
オヒュカスとハウンドの前に、それぞれオーロラが出現する。
それを潜り抜けた両者の姿が消え、後を追うようにオーロラも消滅した。
士「……ゾディアーツ、か」
士の知らない、新たな世界の敵。その脅威の一端が、姿を現した。
未央「ごめんっ、みんな!」
士「…今回は敵の仕業だったからまだいいが、今度自分の意志であんなことしてみろ。お前、良くて大ケガ、最悪死ぬぞ」
未央「はい…。以後、気を付けます」
今、士たち7人は控室にいた。
オヒュカス登場の混乱はショッピングモール全体に広がっていたが、士の活躍によって敵が退いて行ったことで程なくして収まった。
その後は、再び世界による記憶の改ざんが行われ、事実が隠された。
結果、逃げた人々は自分が何を見たのか、何故逃げたのか、その全てを忘れてショッピングモールに戻って来た。
そして、騒動が無かったことになれば、イベントも予定通り実行される。
そういうわけで、士たちは控室にいるのだった。
卯月「未央ちゃんが危ない目に遭わなくて、本当に良かったです…」
凛「本当だよ…」
P「門矢さん、この度は本当にありがとうございました」
士「礼はいらない。それより、本田」
未央「はいっ」
士「お前、ヤツと目が合ってただろ。何かされてないだろうな」
未央「うーん…、よく覚えてないんだけど…、何か見えたような気がするんだよね」
士「何を見た?」
未央「えっと……、光?みたいなもの」
士「光……」
“星座”をその身に映した敵。その瞳の奥に見えた『光』。
関連付けて考えるなら “星の光”と言ったところか。それを未央は見たという。
士「…………まぁ、いい」
敵の力に考えを巡らせることは確かに重要だが、今はそれよりも重要なことが目前に迫っている。
士「敵のことはどうでもいい。お前らは忘れて、今はまず目の前のステージに集中しろ」
仮面ライダーからプロデューサーへ。士は瞬時に自分の役割意識を切り替える。
新たな敵との遭遇が重要な事態だと感じるのは、自分だけでいい。
それよりも、目の前の少女5人には、デビューイベントの方に意識を向けさせないといけない。
彼女たちには、そちらの方がよほど重要なはずだ。むしろ、敵のことなど先ほど言ったように忘れるくらい集中した方がいい。
士はそう思っていた。
美波「はい、士さん」
アーニャ「Да。ステージ、大事です」
未央「うんっ。みんながいい感じでデビューできるように、私たちが頑張らなきゃだもんね」
凛「今は切り替えて、集中しないと」
卯月「はいっ!私も頑張ります!」
各々が目前のデビューイベントへと意識を切り替えていく中、控室のドアが開いた。
「あ、皆さん。段取りのチェックがありますので、舞台裏の方へお願いしますー」
P「分かりました。皆さん、移動をお願いします」
「「「はいっ」」」
「……はい。で、ラブライカが完全にはけてからMCを挟みます」
「で、合図が出ましたら、ニュージェネレーションズの皆さんの出番になります。そんな感じでお願いしますね」
P「皆さん、大丈夫ですか」
「「「はい」」」
士「だいたいわかった」
段取りの確認が済み控室へ戻ろうとする一行。だが、その数歩分後ろの士の視界には、未央の姿が無かった。
まさかまたヤツが、と思い辺りを見回したが、その姿は舞台袖であっさり発見できた。
どうやらステージの様子を見ているらしい。
同じくその様子に気付いたプロデューサーが近寄って行ったのを確認し、士は4人を追ってその場を後にした。
未央「…うん、…うん。早く来ないと、いいとこ無くなっちゃうからさ、うん、早く来てね」
数分の通話を終えて、未央がスマホをテーブルに置いた。
凛「学校の友達?」
未央「うん。だいたい20人くらいかな。みんなに早く来てーって、言っといた」
卯月「わぁ…、未央ちゃん凄いです」
未央「うーん。でもさ、そんなに入ったら周りの邪魔になっちゃったりしないかな?」
凛「上もあるし、大丈夫じゃない?」
士「人数より、そいつらがはしゃぎすぎないように注意しておけ。そっちの方が苦情になる」
未央「おっと、了解ー。『テ、ン、ショ、ン、上、が、っ、て、は、しゃ、ぎ、過、ぎ、な、い、で、ね』っと…」
未央「よし、送信!オッケーつかさん!」
いよいよイベント開始まで30分を切っていながら、未央達ニュージェネの3人はいつも通りの様子だった。
資料で確認した、デビュー前のバックダンサー経験が彼女たちに与えた影響には、文字だけでは分からないものもあるということだろう。
美波「いよいよね……」
アーニャ「……」
対照的に、ラブライカの2人の表情には不安と緊張の色が滲む。
デビューを迎えたアイドルとしては、むしろこちらの方が正しいだろう。
何か声をかけるべきかと思案していたところで、誰かが控室のドアをノックする。
士「誰だ?」
かな子『士さん、私たちです~』
士がドアを開けると、向こうには応援にきたかな子、智絵里、蘭子、李衣菜、きらりがいた。
李衣菜「怪物が出たって聞いたよ。大丈夫だった?」
士「フッ、俺がいればどうってことない」
きらり「士ちゃん、さすがだねぇ☆」
かな子「ところでこれ、みんなに差し入れを持って来たんだけど…」
そう言って、かな子はバッグから箱を取り出した。中にあったのは色鮮やかなマカロン。
卯月「わぁ!」
かな子「お気に入りのお店のなんだ♪良かったら食べて~」
美波「あ、ありがとう……」
未央「って、こんなの食べたら衣装入らなくなるってー」
かな子「えぇ~?美味しいから大丈夫だよ~」
士「一体何が大丈夫なんだ、三村……」
これは今度トレーナーと相談して、一度みっちり絞る必要があるかもしれない。
智絵里「そうだ!今日来れないみくちゃんたちから、ムービーメールを貰ってきました!」
アーニャ「みくたち、ですか?」
ムービーに映っているのはみく、莉嘉、みりあの3人。と、その後ろに安部菜々がいるのが分かる。
と言うことは、これは恐らくカフェで撮影したものだろう。
みく『ライバルとして、応援してやるにゃ!ヘマしないように頑張るにゃ!』
莉嘉・みりあ『『頑張れー!にゃーん!』』
卯月「わぁ!嬉しいです!」
きらり「じゃじゃーん!きらりも、杏ちゃんからメッセージ、もらってきたよぉ☆」
続く杏のムービーは、どうやら彼女の済む自宅で撮影されたものらしい。
杏が布団の中から、のそっと顔を出した。
杏『んー…、がんばれー……。おみやげは甘い飴でよろしく……』
アーニャ「フフ。杏らしい、です」
蘭子「フフフ。狂乱の宴の準備は、整ったようだな…」
凛「えっと…、うん」
李衣菜「私的にはもっとロックな衣装の方が好きだけど、それも中々いいじゃん?」
凛「うん、ありがとう」
「おっ、みんな来てるねー」
その場にいない人物の声が聞こえる。と思っていたら、声の主がきらりの後ろからひょっこりと顔を出した。
士「城ヶ崎か」
美嘉「やっほー★」
未央「美嘉ねぇ!来てくれたんだ!」
美嘉「袖でバッチリ見てるからさ、ぶちかましちゃいなよ!」
未央「オッケー!」
卯月「頑張ります!」
美波・アーニャ「「はいっ」」
凛「うん」
リラックスを通り越して弛緩しかけていた空気を、決して厳しくない言葉で引き締めたのは、流石先輩アイドルというところか。
そのようにして場の空気が適度に引き締まったところで、戻って来たプロデューサーがドアをノックし、全員の視線を集める。
P「間もなく、開演になります。スタンバイ、お願いします」
ニュージェネとラブライカの5人が、控室を出て舞台裏へと向かう。
それに続いて出ようとした士は、その場でプロデューサーに呼び止められた。
士「何だ?」
P「門矢さんには、会場の皆さんの撮影をお願いしたいのです」
士「ほお……。ちひろから聞いたのか?」
P「はい。引き受けていただけますか?」
士「フッ。俺に撮影を頼むとは、お前は目が高い。いいだろう、引き受けてやる」
プロデューサーからデジカメを手渡され、士は彼とは反対方向、会場側へ歩いていく。
一足先にステージ前に陣取る彼の他に、ステージ前にはあまり観客はいない。上の方まで見渡しても、その数は50もいない。
そんなものか、と彼はあっさり現実を受け止めた。
恐らく、イベントが始まってから興味を惹かれ立ち止まった人間をプラスして、それを超えるくらいになるはずだ。
プロモーションは行ってきたが、そもそも新人アイドルのデビューイベントならこんなものだろうと、士は常識的に判断していた。
秒針が時を刻むごとに、イベントの開始が近づいていく。
士「…時間か」
それが開始の時間を過ぎても、イベントはまだ始まらない。
だが、多少開始が遅れることはこの手のイベントにありがちなことだからと、不満を漏らすものはいない。
そして、分針が三つ進み、秒針が半分を過ぎたところで、照明が切り替わりステージが青い光に照らされた。
陽気なBGMと共に、MCがステージ上に躍り出る。
いよいよ、デビューイベントの始まりだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
士はデジカメを仕舞い、首から提げたトイカメラを構えた。
舞台裏に、声が響く。
「……り、……に…べて………り…いと…」
「………かは……んのもの……」
「………私が、私がリーダーだったから!?」
「もういいよ!!」
「私……、アイドルやめる!!」
士「―――――」
暗く狭い舞台裏を、持ち前の運動能力を駆使して駆け抜ける。
階段を駆け下りていく卯月。
プロデューサーを睨みつける凛。
立ち尽くすプロデューサー。
それが、彼の眼前に広がる光景だった。
士「おい、何やってる?本田を追わなくていいのか?」
背中越しに問いかけても、返事はない。そもそも、士の声は聞こえていたのだろうか。
あの大男の背中が、今は風が吹いても倒れそうなほどに頼りない。
士「……チッ」
何か理由があって追わないでいるのかもしれないが、そんなことを慮っているヒマはない。
独活の大木を躱して、士も階段を駆け下りた。
凛「未央……、本気なの……?」
卯月「未央、ちゃん……」
未央「しまむー…、しぶりん…。…だって、私…」
士「…本田」
未央「っ!つか、さん……」
士「……答えろ。お前は、どうするつもりだ?」
未央「…………っ」
俯いた未央は、やがて蚊の鳴くような声で、言った。
「帰って」と。
士「…………そうか」
3人に背を向け、元来た道を引き返す。
後には、静寂だけが訪れた。
「………………」
「お嬢さん」
「っ!」
「まあまあ。そんなに警戒しなくてもいいじゃないですか。私はね、あなたのファンなんですよ」
「ファ、ン……?私の……?」
「ええ。だから、あなたの力になりたいと思っているんですよ、本田未央さん」
「どういう、こと……?」
「…ええ、わかります。あなたは今、自分の力が無かったことを悔いているはずだ」
「そう、『私がもっとうまく出来ていれば』……。そんなところでしょう」
「……っ」
「ああ、そんな顔をなさらないで。…でしたら、あなたに力を授けましょう」
「力………?」
「ええ。空から注ぐ、進化の光を、あなたにも」
「宇宙に、夢を――――」
―――――星に、願いを。
今日の分はここまで、7話の分は明日投稿します。
>>6
スレは1話、あるいは1エピソードごとで区切って行きます
22時頃から続きを投稿します
投稿します
第7話 Shine of the possibility and evolution.
夏海「あれ、士君。現像ですか?」
士「ああ。この世界では、俺の撮った写真が歪まない。世界が俺を受け入れてるからだな」
光写真館で、士は写真の現像を行っていた。昨日のイベントで撮ったシーンが浮かび上がる。
ユウスケ「あっ、士。昨日は帰って来てから一言も喋らなかったから、心配したんだぞ?」
ユウスケ「何があったんだ?」
士「俺には何もなかった。ただ考えることが多かっただけだ」
夏海「……良ければ、教えてくれませんか?」
ユウスケ「うん。俺も、良ければ聞くよ」
振り返れば、優しく微笑む夏海とユウスケがいた。
士「フッ、なら多少長くなるぞ。ちゃんと最後まで付き合えよ?」
一方、シンデレラプロジェクトルーム。
空を覆う雨雲、降りしきる雨に遮られ、光の無くなった部屋の中で、卯月と凛が未央を待っていた。
卯月「未央ちゃん……」
凛「まさか、本当にやめるの?未央……」
答えは返ってこない。代わりに、部屋のドアが開いた。
P「おはよう、ございます」
卯月「っ…。プロデューサーさん、おはようございます…」
凛「…ねえ、未央は?未央は、どうなるの?」
挨拶もせずに、凛がプロデューサーに詰め寄っていく。
凛「未央のところに行きたいの。住所、教えて」
プロデューサーは、目線を合わせない。
P「……本田さんのことは、こちらに任せてください」
レッスンルーム。ダンスレッスン中の卯月と凛の隣に、未央の姿は無い。
ニュージェネレーションズのデビュー曲が、暗く重い雰囲気を放つ少女たちには不協和音となって聞こえてくる。
かな子「…未央ちゃん、来ないね」
智絵里「ミニライブの疲れで…とか…」
そんなわけない。
そんなわけがないことは、この場の誰もが知っている。だから、何も言えない。
その沈黙こそ、彼女たちが現状を正しく理解していることの証左だった。
みりあ「未央ちゃんやめちゃうの?」
莉嘉「じゃあ、ニュージェネレーションズも解散…?」
李衣菜「昨日デビューしたばっかりなのに…」
みく「……そんなの、プロ失格にゃ……」
みく「みくたちより先にデビューしたのに……っ!」
レッスンルームに、何かが倒れる音が響く。
卯月「凛ちゃん!」
ルキトレ「渋谷さん大丈夫!?」
凛「あ…、はい…」
ケガこそなかったが、凛の気持ちがここにないのは、誰が見ても明らかだった。
その原因となっているのはやはり、昨日の未央の言葉と、今の彼女の不在。
こういう時、彼女たちは自分たちの弱さを知る。
だから、誰かに頼りたい。信頼できる、強い大人に。
莉嘉「ねぇっ、士くんとプロデューサーは?未央ちゃんのこと、どうにかしてくれるんじゃないの?」
なのに、彼女たちが頼るべき大人は、今はどちらも頼れない有様だ。
みく「…プロデューサーは、仕事であちこち行ってるみたいで、全然会えないにゃ。士チャンは、私用で今日は来ないって…」
李衣菜「士さんまでいないなんて…」
莉嘉「もーっ!プロデューサーより士くんの方がわかりやすいのにーっ!」
士と少女たちは出会ってようやく3週間になる。
だが、今『どちらのプロデューサーの方がいいか』という質問をすれば、恐らくは士に軍配が上がるだろう。
それはやはり、“プロデューサーと比べて”コミュニケーションが出来るし、何を考えているのか分かり易い、
要するに『士の方が親しみやすい』ということに尽きる。
口は悪いし態度は大きい。だが門矢士と言う人間に対して感じる心の距離は、彼女たちがプロデューサーに感じるそれよりも、はるかに近かったのだ。
同じころ、プロデューサーは未央の住むマンションを訪れていた。
何度電話をかけても、彼女が出ることはない。
それに後悔を覚えながら、しかし同時に、それを通して『彼女に責められることはない』ということに、情けなく安堵していた。
ここに来たのは、プロデューサーが“本人の意志”で『未央を連れ戻したい』と思ったからではない。
“プロデューサー”としての『未央を連れ戻さなければならない』という義務感に従ってのものだ。
そこに、彼自身の意志は存在しない。
正面から向き合わなければいけないと、頭は理解している。
だが、心の方はどうしてもそこから逃げ続けている。
そして、それは未央も同じだった。
未央『…会いたくない。家にまで来ないでよ』
P「…少しで構いません、お話を」
未央『だから、会いたくないってば。……帰って』
P「…みんな、待っています。……これは、あなた一人の問題では―――」
未央『そんなの分かってるよ!!』
P「っ……!」
相手に向き合えない互いの言葉は、どこにも響くことはない。ただいたずらに、互いの心を傷つけあうだけだった。
デビューイベントから二日目の朝。降りしきる雨も気にせずに、士はいつものようにマシンディケイダーで出社した。
オフィスビルへ入ると、躊躇わずにプロジェクトルームへ、そしてプロデューサーの部屋へと進んで行く。
ノックもせずにドアを開ける。そこには予想通り、情けない顔をしたプロデューサーがいた。
P「…門矢、さん。おはようございます…」
士「ああ、昨日は突然休んで悪かったな」
P「……いえ」
士「で、本田はどうなった?……いや、その顔を見ればだいたいわかるな」
P「……本田さんは、その……」
士「分かった分かった。それより、お前にこいつを渡しておく」
士は鞄から紙袋を取り出した。それを、プロデューサーのデスクに置く。
P「これは…?」
士「俺が、自分のカメラで撮った写真だ。昨日はコイツを現像してた。後で本田にでも見せてやれ」
P「はい……」
静寂が訪れる。士は何も言わない。プロデューサーは、何も言えない。
だが、意を決してプロデューサーが口を開いた。
P「あの、門矢さん」
士「なんだ?」
P「…その、本田さんの様子を、見に行ってあげて下さい。私よりも門矢さんの方が、皆さんとの距離は、近いと思いますので……」
士「……ハァ」
彼なりに、問題を解決しようとはしているのだろう。
ただ、ここで自分が未央を連れ戻しても、この男は確実に孤立すると、士は確信していた。
そしてそうなった場合、問題は先延ばしにされるだけで、表面的にしか収まらない。
やがて亀裂が決定的になり、彼と少女たちの世界が崩壊するのは目に見えている。
世界なんてそんなものだ。別に破壊者なんて大仰な存在がいなくても、ちょっとしたきっかけで簡単に瓦解していく。
士「…まぁ、いいだろう。だが、俺は本田を連れ帰りはしない。絶対にな」
P「っ……」
午後。士はプロデューサーの提案通り、未央の住むマンションを訪れていた。
難航するかと思っていたが、未央は案外あっさりとインターホンに出た。
士「よう本田。調子悪いだろ」
未央『うっ…。容赦ないね、つかさんは』
士「まさか俺に慰めてほしい、なんて思っちゃいないだろ」
未央『うん…。あのさ、つかさん』
士「何だ」
未央『……私がもっとよく出来てたら、あんな失敗はしなかったのかな』
士「さあな」
未央『私がもっと、今よりもっと進化できれば……』
士「それを確かめたいなら、やるべき事は分かるんじゃないのか」
未央『…つかさんは、私を連れ戻しに来たんじゃないの?』
士「それは俺の役割じゃない。それに、連れ戻されるのが前提か?お前が戻ってくる気はないのか」
未央『……私は……』
士「ま、俺が言いたいのはそんなとこだ。じゃあな本田」
未央『私は…………』
未央の声はもう、かすれて聞き取れなかった。
ポケットの中で携帯が震える。メールだ。
士「…島村まで来れなくなったか」
事務所へ戻ってきたところで、ちょうどかな子・智絵里の二人と合流した士。
プロジェクトルームへ向かう途中で、前方から鞄を提げて歩いてくる凛に遭遇した。
凛「士、さん」
士「お前も酷い顔してるな。誰かにそっくりだ」
凛「……ッ」
苛立ちを隠そうともせずに、唇を噛みしめ、再び凛が歩き出す。
かな子「凛、ちゃん…?」
士「傘は差して帰れ。お前まで風邪ひくと面倒だ」
智絵里「え…。と、止めなくていいんですか?」
かな子「凛ちゃん、帰っちゃいますよ……?」
士「ああ」
大方プロデューサーと何かあったのだろう。
だとすれば、その解決はやはりプロデューサーと凛が行う他ないはずだ。
未央の件同様、ここで自分がでしゃばってもどうにもならない。
だからいっそ、士はこの件に関しては、傍観を貫く気でいた。
士「………………」
デビューイベントから三日目。ついにニュージェネレーションズの3人は、1人も事務所に来なくなった。
それはそれ、これはこれ、と割り切って士は業務をこなしていく。ちょうど、ラブライカに歌番組の仕事が2件、決定したところだった。
それを今後のスケジュールに組み込んで、細かなチェックを行う。出来たところでプロデューサーとちひろに送信すると、士は席を立った。
いつものような活気が、完全に消え失せたプロジェクトルーム。そこにはきらりと杏の姿があった。
きらり「あっ、士ちゃん。お仕事おっつおっつ、だよぉ」
杏「あー、よく働くよね、士は…」
士「双葉と諸星か。……ヤツはどこ行った?」
プロデューサーの姿が、部屋にない。
恐らくは少女たちと向き合うのを避けるための外回りか、極力部屋にこもって業務をこなすかで、ちひろでさえもこの三日はあまり姿を見ていないという。
それでも今の時間ならいるはずだと思ったが、どうやら予想が外れた。
きらり「やつぅ…?」
杏「…あぁ、プロデューサー?打ち合わせで出てったよ」
士「そうか。俺も少し外へ出てくる。後から来るやつらに聞かれたら、そう伝えておけ」
きらり「うん、わかったにぃ」
杏「…どこ行くの?」
士「ちょっと…、な」
士が外出してから幾らか時間が経過した頃、プロデューサーは自らの担当アイドルである島村卯月の見舞いに、彼女の自宅を訪れていた。
いくらか躊躇ってから、インターホンを鳴らす。あまり間を置かずに、彼女の母親が玄関を開けて出て来た。
「あら。こんな雨の中、娘のためにわざわざ…。どうぞ、上がって行ってくださいな」
P「いえ、自分は……」
見舞いの品を渡して帰るだけのつもりだったプロデューサーは、気がつけば島村家へと上がっていた。まったく不思議と言う他ない。
プロデューサーを家に上げ入れると、卯月の母親は娘の様子を見に階段を上っていった。
少しして、戻って来た彼女と入れ替わりに、階段を上る。
P「…………」
部屋の前で、本当に自分が顔を合わせても良いものかと、しばし逡巡した。
だが、見舞いに来ただけ、見舞いの品を置いていくだけ、と自分の心を何とか誤魔化し、プロデューサーは躊躇いがちに二度、ドアをノックした。
卯月『なぁに、ママ…?』
思考が一瞬フリーズする。母親は、どうやら彼が来たことを伝えていなかったようだ。
P「…………具合は、いかがですか」
何とか、それだけは言えた。
卯月『……えっ?……えぇ~っ!?』
P「……突然、申し訳ありません。お見舞いの品だけ置いていくつもりでしたが、お母様が……」
卯月『え、ええと……!』
P「置いて、帰りますので」
やはり、上がるべきではなかった。そう思いながら、見舞いの品をドアの前にそっと置く。
P「どうぞ、お大事に」
これで、やるべきことは全て終えた。帰ろう、と振り返ったプロデューサーだったが、ドアの向こうから、卯月が彼を呼び止める。
卯月『ぷ、プロデューサーさん!』
少し開いたドアの隙間から顔を出した彼女は、恥ずかしそうに「下で待っていてください」と言った。
卯月「すみません。こんな大事な時に、風邪なんて…」
突然の訪問に身形を整える暇もなく、卯月の長髪は酷くぼさぼさだった。
それに気付き、慌てて手櫛で髪を梳かす卯月。「お構いなく」とは言ったが、どうにも居心地悪そうにしていた。
「この子、ちゃんとアイドルやれてますか?」
彼女の母親が、紅茶と見舞いの品をプロデューサーと卯月の前に置く。
P「……ええ」
「この前のイベントも相当不安だったみたいで、ずぅっと、一人で練習してたんですよ?それでね……」
卯月「ま、ママ!もういいから!」
「うふふ。ごゆっくり」
朗らかで話好きな女性だ。人の良さがうかがえる。
彼女の半分ほどでも、自分に他者とのコミュニケーション能力があれば、何か違ったのだろうか、などと考えてしまう。
卯月「すみません。ママ、話好きで……」
P「…………」
何か話すべきだろうか。しかし、何を言えば良いのか、それすら分からない。
そうして俯いたままのプロデューサーを心配したのか、卯月が声をかけてくる。
卯月「プロデューサーさんも、風邪なんですか?」
P「え?」
卯月「何だか、元気がないような気がして…」
P「いえ……」
自然と顔を上げたプロデューサーの目線の先には、ニュージェネレーションズのCDがいくつも並べられていた。
P「あ……」
卯月「私たち、これからどんなお仕事をするんでしょうか?」
P「……島村さんは、今後どうなりたいとお考えでしょうか……?」
卯月「えっ?……うーん、憧れだったステージも立てましたし、CDデビューもラジオ出演も出来ましたし……」
卯月「あっ、次はテレビ出演出来たらいいなって!」
少し、呆気にとられる。
プロデューサーの質問の意図と、卯月の答えが微妙に噛み合っていなかったからだ。
卯月「あの、実はこの前のミニイベントなんですけど…。ちょっと、心残りがあって」
P「……!」
やはり、この話題が出て来た。
卯月に合わせる顔がない、そしてこのことについての話を避けるために、プロデューサーは家に上がるつもりは無かったのだ。
しかし、こうなった以上逃げ場はない。何を言われても、責められたとしても、すべてを甘んじて受け止めようと、彼は身構えた。
卯月「私、せっかくのステージで、最後まで笑顔でやり切ることが出来なくて……」
P「……え?」
卯月「だから、ちゃんと次は最後まで、笑顔でステージに立ちたいな…って」
卯月「凛ちゃんと、未央ちゃんと“一緒”に!」
P「あ…………」
P「すみません、突然お邪魔しました」
「いえいえ。それに、きっとプロデューサーさんが来るだろうって、先に来たもう一人の方が言ってましたから」
P「え……」
「門矢さん、でしたよね。うふふ、名前を言った後すぐに『覚えなくていい』って。だから、逆に覚えちゃったんです」
P「彼は、何と?」
「娘のことを、心配してくれていました。それに、『待ってる』って」
「彼にも上がってもらおうとしたんですけど、『通りすがっただけだから気にするな』って言って、バイクで走って行っちゃいました」
P「そう、ですか。……では、私はこれで」
卯月「あのっ、プロデューサーさんっ!」
P「…島村さん。もう、休まれた方がよろしいのでは…」
卯月「はい、だけどお見送りくらいは……」
「もう、本当にこの子ったら」
卯月「明日には、体調もきっと良くなって…くしゅん!」
P「…無理は、なさらず」
卯月「…はい。プロデューサーさん、明日からもまた、よろしくお願いします!」
臆病者の心に、再び火が点いた。
降りしきる雨も構わずに、駆け出す。
彼自身の思いが、彼のエンジンを、足を動かしていた。
乱暴に傘を傘立てに突っ込み自室に入り、士がデスクに置いて行った紙袋を鞄に入れて、部屋を出る。
「きゃっ!」
P「あっ!」
そこでプロデューサーは、ちょうどプロジェクトルームに入って来たみくとぶつかった。
みく「ぷ…、プロデューサー!」
みく「ちゃんと聞かせて!この部署はどうなるの?」
莉嘉「未央ちゃんは?凛ちゃんは?」
みりあ「やっぱりやめちゃうの?」
蘭子「終焉の刻か……」
P「…………」
みく「やっとっ!…やっと、デビューまで信じて待ってようと思えたのに…」
みく「みくたち、どうしたら……!」
P「大丈夫です」
一体何が大丈夫だというのだろう。不確定要素を口にして、ましてや断言するなんてことは、まったく自分らしくない。
らしくない、けれど。
P「ニュージェネレーションズは、解散しません。誰かが辞めることもありません」
それは、目の前の少女たちよりも、むしろ自分に向けて発した言葉だった。
P「絶対に…、彼女たちは、絶対に連れて帰ります」
いらない不安を抱かせた。余計な心配をさせた。不要なすれ違いを重ねた。
それらを生んでおきながら、ずっと向き合うことから逃げていた。
全ては自分が始めたことだ。自分が蒔いた種だ。自分の弱さが招いた、当然の結果だ。
P「だから……、待っていてください」
今ならまだ、間に合うかもしれない。
時に任せるのでも、門矢士というヒーローに頼るのでもない。
自分がやらなければいけない。乗り越えるべきは今だ。
一心不乱に駆ける。傘を忘れても、雨に濡れても、振り返らずに、ただただ前へ。
P「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
事務所を出てから1時間。プロデューサーはようやく、未央の住むマンションへたどり着いた。
P「本田さん…」
雨に濡れた手で、必死にメールを打つ。どこかの軒下に入ることなど考えもせずに、ずぶ濡れになりながら。
メールを送信した。下から見上げても、未央の姿は見えない。後はもう、彼女が来てくれることを祈るのみだ。
だが、未央が来るより先に、彼は後ろから声をかけられる。
傘を差した女性と、雨合羽を着込んだ男性。男性の方は、警察官だった。
「この人、前も来てたんです」
「あー。あなた、ここで傘も差さずに何してたの?」
P「私はただ、話がしたいだけでして…」
「話?誰と」
P「それは…」
警官の、プロデューサーを見る目が次第に険しくなっていく。下手なことを言えば、近くの交番に連れていかれるかもしれない。
そんなプロデューサーの耳に、知った声が飛び込んできた。
「あのっ、おまわりさん!その人、私に用があって来たんです!怪しい人じゃありません!」
P「本田、さん…」
「すいません、私てっきり不審者かと…」
P「いえ、お気になさらず」
女性と警官が去って行く。残ったのは、プロデューサーと未央の2人だけ。
ようやく、プロデューサーと未央が対面する。だが、未央は踵を返してしまった。
未央「……じゃあ」
P「待ってください…!」
未央「やめるって、言ったよ」
P「……っ!」
その言葉は、今でも彼の心を抉る。
逃げ出したくなるような、目をそむけたくなるような痛みが、彼を襲う。
それでも、向き合って、乗り越えて、進むために。
遠ざかる未央の背中を追って、一歩を踏み出した。
P「本田さんっ」
未央「っ」
P「もう一度、ちゃんとお話を、させてください…!」
未央「何、これ」
P「先日のイベントで、門矢さんが個人的に撮影していた、皆さんの写真です」
未央「つかさんが……」
プロデューサーが鞄から出した紙袋。その中身を聞いて、未央は中から写真を引き出した。
未央「え…、『本田、まったく酷い顔をしている。ステージ上では笑顔を貫け』…?」
写真には付箋が貼られていた。もう一枚引き出す。
『島村、ターンを失敗。自然にこなせるように、更なるレッスンが必要だ』
『渋谷、視線が下を向きすぎ。ステージに立つなら前か上を見ろ』
『3人揃って酷い顔をしている。最後まで笑顔で、
未央「…前にいる、観客の顔を見ろ』……」
全ての写真に、士の偽らざる感想が書かれた付箋が貼り付けられていた。
P「先日、『あれが当然の結果』と言ったのは、失敗して当然、という意味ではありません。あれは、成功だと思っています」
未央「……どこが。お客さんだって、全然……」
プロデューサーは、未央の隣にしゃがみ込んで、次の写真を見るように指示した。
未央が出したその写真の、ある一部をプロデューサーが指した。
P「良い笑顔だと、私は思います」
『観客の方がいい笑顔をしている。負けていいのか、アイドル』
P「確かに、身内を除けばあまり数は多くありません」
P「ですが、その人たちは足を止めて、あなたたちの歌を聞いてくれていました」
『子供の笑顔に、隣のユウスケがいたく感動していてやかましい』
未央「……拍手、貰えてたのに。ダメだな、私……」
P「いえ、これは私の」
未央「私さ…、お客さんの数ばっかり見てて…。そっか、失敗じゃなかったんだ…」
『お前たちの表情は酷いが、観客を笑顔にしたのはお前たちだ。それは忘れるな』
未央「…ああもう!だったら余計ダメじゃん…!私の勘違いで、みんなのステージダメにしちゃって……!」
未央「私、逃げ出しちゃったし…!リーダーなのに、全然ダメじゃん!」
P「……本田さん、戻りましょう」
未央「どういう顔で、会えばいい…?みんなに迷惑かけて…!」
P「だからこそ、このままはいけないと思います。私はこのまま、あなたたちを失うわけにはいきません」
『次はお前たちの笑顔を撮ってやろう。戻ってくればの話だが』
未央「プロデューサー…、つかさん…。…っ」
涙を拭いて、顔を上げる。もう一度、今度こそ、自分の目標を見据えるために。
未央「…行くよ、プロデューサー。まずは、しまむーとしぶりんと、みんなに謝らなきゃ」
P「…はい。行きましょ―――」
「おやおや」
P「っ!?」
未央「え……!?」
立ち上がり、歩き出した2人の前に、突如としてオーロラが出現した。
そして、そこから現れたのは、つい先日邂逅したばかりの、蛇の怪物。
オヒュカス「貴方、これで終わりでいいんですか?」
オヒュカス・ゾディアーツ。
P「…本田さん、決して私の前に出ないでください」
未央「……っ」
未央を背後に回し、プロデューサーがオヒュカスと対峙する。勝機の無い、絶望的な対峙。
オヒュカス「私はあなたに用は無いのですよ。どいていただけませんか」
P「……本田さんに用があるのなら、尚更どくわけにはいきません」
オヒュカス「あらららら……、困りましたねえ。いや困った」
未央「ぷ、プロデューサー……」
P「……っ」
奥歯を噛みしめる。足に力を入れる。そうしなければ、震えに飲み込まれて立っていることも出来ない。
そんな彼のことなど少しも気に掛けず、オヒュカスがプロデューサーに手をかざした。
オヒュカス「……どきなさい、光を持たぬものよ」
P「っ!?な……、か、身体が……!」
未央「プロデューサーっ!!」
目に見えない力で、無理やりプロデューサーが動かされ、床に押さえつけられる。
P「くっ……!本田、さん……!!」
オヒュカス「さて、邪魔は無くなりました、本田未央さん。なぜ私がここにいるのか、あなたならお分かりでしょう?」
オヒュカスの目が、再び赤く輝く。それに同期するように、未央の目もまた赤く輝いた。
P「なっ……!?」
オヒュカス「宇宙に、夢を――――」
未央「ほ、星、に……うぅぅっ!」
オヒュカス「おや、中々抗いますね。では」
オヒュカスの目が、さらに輝きを増した。
未央「うぅぅぅっ……」
対照的に、未央の目からは光が失われていく。
オヒュカス「さぁ、ではもう一度。宇宙に、夢を」
P「本田さん!…本田さんっ!!」
そして、未央の目から光が消えた。
未央「―――星に、願いを」
ポケットに手を突っ込んだ未央は、そこから何かを取り出した。
オヒュカス「ふむ、まだ持っていますね。では……」
オヒュカスの目から輝きが消えた。今度は未央の目に光が戻ってくる。
未央「はぁっ……!はぁっ……!うっ……!」
何かを握ったままの右手を、大きく振りかぶる未央。だが、その手は力なく落ちてしまう。
未央「な、何で…?何で、捨てられないの……!?」
オヒュカス「手放す?何故。進化の光を欲して、それを手にしたのはあなたのはずだ」
未央「…っ。…もう、いらない。これはもう、必要ないから…っ!」
オヒュカス「おやおやぁ……、これは困った。いやぁ、本当に困りました」
大げさに振りかぶって、やれやれと頭を振るオヒュカス。芝居がかった動きが、神経を逆なでする。
オヒュカス「―――私も本当は、こういうことはしたくないんですがね」
再び、オヒュカスの背後にオーロラが出現した。そして、向こうから現れるハウンド・ゾディアーツ。
ハウンドはわざとだと分かるほどゆっくり歩いて、プロデューサーの目の前でしゃがみこんだ。
P「っ……」
未央「プロデューサー!ちょっ、やめてよっ、プロデューサーは関係ないじゃん!!」
オヒュカス「ハウンド」
ハウンド「ハッ」
ハウンドの鋭い爪が、プロデューサーの首元に迫る。この状況でどうする気かなど、考えずとも分かってしまう。
オヒュカス「死なせたくなければ、それを使いなさい」
オヒュカス「なに、彼は助かりあなたは万能の力を得ることが出来る。躊躇う理由がありますか?」
未央「うっ……!」
手の中のモノと、プロデューサーを、何度も何度も交互に見てしまう。意味がないと分かっているのに、何度も、何度も。
どうしても手離せない。こんなものはもう必要ないと、分かっているのに。
こんなものに頼ろうとする弱さがあったから、何もかも滅茶苦茶にしてしまった。
後悔と絶望の淵で揺れる未央の目が、プロデューサーと交わる。
P「……本田、さん」
未央「っ」
ハウンド「貴様、何勝手に―――」
オヒュカス「まぁ待ちなさいハウンド。喋らせてやりなさい」
オヒュカスに諌められ、ハウンドは不承不承ながら了解した。
P「……本田さん。私には、あなたに何が起こったのか分かりません。分かりませんが……」
その時のプロデューサーの目は、彼の気持ちを雄弁に物語っていた。
未央「プロ、デューサー…?」
オヒュカス「おや、それで終わりですか。何だ、案外つまらないものでしたね」
聞こえるように、わざとらしくため息を吐いて、オヒュカスが床を叩く。
そして、ハウンドがその手を振り上げた。
未央「待っ―――」
オヒュカス「やりなさい、ハウンド。それでは勇敢な人間よ、さようならだ―――」
「―――――お前がな」
『ATTACK RIDE SLASH!』
虚空から出現した刃。吹き飛ぶハウンド。
そして、ヒーローは現れた。
P「門矢、さん………」
未央「つかさん………っ」
オヒュカス「ディケイド………ッ」
士「――フッ。待たせたな」
オヒュカス「ディケイド、貴様いつから……」
士「ああ、本田がその手の中のモノを捨てようとした時辺りか。一応気になって来てみたが、どうやら正解だったみたいだな」
ハウンド「グッ、またしても貴様かっ、ディケイド!」
士「よう犬。玉乗りくらいは出来るようになったか?」
ハウンド「おのれ貴様ァ………っ!!」
士が、未央とプロデューサーを背にしてオヒュカスに対峙する。
未央は先ほどの士の言葉から、プロデューサーと目が合った時に感じた、彼の気持ちを理解していた。
未央「あの時、プロデューサー諦めてなかった…。そっか、つかさんのことが、見えてたんだね」
P「…はい。ありがとうございます、門矢さん。助かりました」
士「さて、ここらで一つネタばらしといくか。題して、『何故俺がここに駆け付けたのか』」
最初のきっかけは、ほんの些細なものだった。それは、未央が士との会話で発した“進化”という言葉。
進化。まさしくつい最近、そんなことを言っていたやつがいたのを覚えている。
『その通り。しかし、怪物という呼び方は些か癪だ。人類の“進化”した姿、新たなフェーズ…とでも呼んでください』
そいつは、どうも未央のことを操ろうとしていた。
そこで気になったのが、彼女の誕生日。そして―――星座。
12月1日生まれの、射手座。
士「お前の目的は、本田を射手座…『サジタリウス・ゾディアーツ』にさせること」
士「そのためにどうしても、本田自身に、本人の意志で、それを押させる必要があったわけだ」
士「そのゾディアーツスイッチを」
未央の手の中には、今もゾディアーツスイッチが握られていた。
士「進化だなんだと、都合のいい言葉で本田の意識を誘導し、まずスイッチを持たせることは出来た」
士「だが困った、本田がいつまでたってもそれを使う気配がない」
未央「つかさん、私……」
士「しかも、精神的に弱ってた本田だからこそ押す可能性もあったのに、それが解決しようとしてる。ハッ、さぞ困っただろうな?蛇野郎」
オヒュカス「ぬぅぅ……」
士「さて、お喋りはこんなところか」
士がライドブッカーからライダーカードを取り出し、ドライバーに挿入した。
『KAMEN RIDE AGITO!』
マゼンタのディケイドから、金色が眩いアギト・グランドフォームへと変身を遂げた士。
士「始めるぞ」
両手を払い、ハウンドとオヒュカスへと駆け出した。
P「っく…。はぁ…、はぁ…っ」
未央「っちょっ、プロデューサー大丈夫!?」
士とゾディアーツ二体の戦闘が外で始まり、プロデューサーの身体を拘束していたオヒュカスの念動力が解除された。
冷たい床に押さえつけられていたプロデューサーが、ゆっくりと身体を起こし壁にもたれかかる。
P「私は、大丈夫です…。それより本田さん、その手に持っている物は、門矢さんが言った通りのものなのでしょうか…」
未央「…うん。私の心が弱かったから、受け取っちゃった。いらないって思ってるのに、離せないんだ」
スイッチは何も起こらずに、未央の手の中に在り続ける。
それが、弱い自分を表しているような気がして、どうしても直視できない。
未央はその手を再びポケットに突っ込もうとした。
しかし、その手をプロデューサーが止めた。
P「待ってください、本田さん」
『FORM RIDE AGITO:FLAME!』
胴体と右腕と肩の鎧が赤く染まり、その手には長剣フレイムセイバーを握る。
ハウンド「今度こそ、貴様をォォォォッ」
そう叫んだハウンドが、以前よりも高速化して士の周辺を駆け回る。
なるほど、時間を置いただけあって成長はしていたようだ。
しかし、そういう相手にこそ、この『超越感覚の赤』フレイムフォームは相性がいい。
士「…………」
ゆっくりと腰を落とし、フレイムセイバーを腰溜めに構える。
鞘は無いが居合をするような姿勢で、士は周辺の音・空気の流れ・地面の振動などを探る。
ハウンド「ガァッ――――」
散々駆け回ったハウンドは、士の真正面から飛び掛かって来た。
だが、それは予測済みだった。士は、ハウンドが自分の真正面に来るよりも早く、炎を纏わせたフレイムセイバーを鋭く振るう。
士「フッ」
ハウンド「なっ―――」
攻撃にのみ集中し、防御を考えていなかったハウンド。そのがら空きのボディを、フレイムセイバーが斬った。
『FORM RIDE AGITO:STORM!』
今度は胴体と左腕と肩の鎧が青く染まり、ロッドのストームハルバードが出現する。
その目に見据えるのは、オヒュカスの姿だけ。
士「そろそろ、お前ともまともにやり合おうと思ってな。終わりまで付き合え」
オヒュカス「良いでしょう……。ただし、倒れるのは貴様だッ!!」
ついに、士とオヒュカスが直接激突した。
頭部で蠢く大蛇を伸ばし、攻撃を仕掛けるオヒュカス。
しかし士はストームハルバードを竜巻の如く高速回転させることで弾き、一気にオヒュカスの元へと迫る。
士「フッ!」
オヒュカス「ハッ!」
ストームハルバードと、蛇の杖がぶつかり合った。
P「本田さんがそれを捨てられないのは、恐らくまだそれを欲する気持ちがあるからではないでしょうか」
未央「え……。う、嘘でしょ?私、もういらないって思ってるのに、なんで……」
オヒュカス「フフフ、その通り。あなたに進化を求める気持ちがあれば、それを捨てることは決してできない!」
士「黙れっ。いいか本田!お前がそれを捨てられないのは、こいつに精神操作を受けたせいだ!
士「ただ、お前のもう一度やり直したい思いを、捻じ曲げられてるに過ぎないっ」
オヒュカス「黙りなさいッ!」
士「ぐあっ!」
オヒュカスが紫色の衝撃波を放って、士を吹き飛ばした。だがすぐさま立ち上がり、再びオヒュカスに挑みかかっていく。
互いの得物が、言葉が、激しくぶつかり合う。
オヒュカス「人間が進化を拒むことは出来ない。彼女には、それを扱うにふさわしい力があるということですよ!」
士「知るか!スイッチを押すだけで手軽に出来る進化なんて、この世界には無いんだよ!」
挫折して、失敗して、後悔して、間違って。人間はいつだって間違える。
プロデューサーが、自分の弱さに向き合えずに逃げ続けたように。
未央が、勘違いと自惚れを重ね、思い上がってしまったように。
お互いが、相手に向き合うことを怖がり続けたように。
士「いつだって、前に進むことは苦難に満ちてる!そこにこそ、進化は生まれるっ」
士「そこで諦めるか否か、乗り越えられるかどうかだ!」
オヒュカス「それを知らずして、人間より高次の存在へと進化できるのですよ。苦痛など、無い方がいいでしょう?特に人間にはッ!」
未央「っ!」
士「ああ、かもな。だが、必要な痛みまで奪うことで、得られる進化は無い!」
オヒュカス「むっ!?」
士がオヒュカスを蹴飛ばし、ドライバーにカードを挿入した。
『FORM RIDE AGITO:TRINITY!』
胴の鎧が金色に、右腕が赤に染まり、さらにフレイムセイバーも出現する。
士「いいか本田。人間は、自分の意志でこそ進化する。その可能性は無限だ」
士「昨日より前に進みたい、明日は今日より前に。そういう思いこそが、人間を進化させる」
オヒュカス「貴様は喋りが過ぎるッ」
頭部から伸びる蛇たちが、一つに寄り集まって大蛇となる。それが、士へと襲い掛かった。
士「っくぅぅっ……!!」
P「門矢さん!」
フレイムセイバーとストームハルバードで大蛇の牙を防ぎ、士と大蛇の押し相撲が続く。
士「お前にっ、その気持ちはあるか…?失敗しても、間違っても、もう一度、自分の力で進んで行きたいと、そう思えるか!?」
未央「……っ!」
決めたんだ。もう一度、今度こそ、自分の…。
ううん、私たち3人で。しまむーとしぶりんと、一緒に、ステージに立って。
お客さんに笑顔を届けたい。いっぱい、いっぱいの人に、私たちを見てくれた人、みんなを。
私たちの、笑顔で。
未央「……!」
強く、スイッチを握りしめる。目を背けたくなっても、それではいけないから。
自分の弱さの塊から、目を背けない。それが今、自分が乗り越えるべき、最初の試練。
未央「プロデューサー!つかさん!」
これも、自分の一部だった。それを認めたくなかったから、手放せなかった。
未央「私、私……っ」
今こそ、これを乗り越える時だ。苦しいけど、今度こそ。
未央「諦めたくないっ!アイドル、続けさせてほしい……っ!」
仮面の下で、士は笑った。
P「もう一度、一緒に始めましょう、本田さん!」
士「未央っ!!」
未央「つかさん!お願いっ!!」
大きく振りかぶった右手を振るう。そこからまっすぐ、士目掛けてスイッチが飛んだ。
オヒュカス「なっ―――」
士「ハァァァッ!!」
大蛇を払いのけ、フレイムセイバーが振るわれる。
空中で、スイッチが砕け散った。
オヒュカス「おのれ……、おのれディケイド貴様ァァァァーーーーッ!!!」
大蛇が再び分裂し、無数の蛇が士を襲う。
士「ハッ。化けの皮が剥がれてきたな。いや、脱皮か」
しかし、先ほどと同様にストームハルバードの高速回転に加え、フレイムセイバーも振るって蛇を弾き、切り落とす。
一匹たりとも士には触れられない。
士「そう言えば未央。お前、ヤツの目に光を見たとか言ったな。今からその正体を見せてやる」
そう言って、士が駆け出した。
オヒュカス「ぬおおおお!!」
衝撃波の威力をさらに高めた、紫色の光弾が無数に放たれる。同時に、頭部の蛇も。
しかし、光弾をフレイムセイバーで切り裂き、蛇をストームハルバードで捌く士の動きには、もはや手慣れたものすら見え始めた。
オヒュカス「くっ―――」
懐に飛び込んだ士に対抗するべく、オヒュカスが杖を振るう。
しかし、それはストームハルバードでいともたやすく弾かれた。後に残るのは、隙だらけのオヒュカス。
士「ハッ!」
鋭く振るわれたフレイムセイバーの切っ先が、オヒュカスの左目を捉えた。
オヒュカス「ぐっうあぁぁぁぁッ……!!あっ、ぐううぉぉぉぉぅぅぁぁぁぁッ!!」
傷付いた左目から、まるで血のように赤い光が漏れ出し、消えていく。
オヒュカス「このっ、貴様ァァ………ッ!!」
そしてその傷口から、ずるり、と。
未央「…これ…」
P「あ……」
オヒュカス同様の真っ赤な目、白い牙が光を反射する蛇が現れ出た。
士「分かったか?お前が見たのは、星の光でも何でもない」
士「ただ、お前って餌が来るのを、口を開けて今かと待ってた、蛇の“牙”だ」
オヒュカス「おのれ……ッ!おのれディケイドォォォォッ!!!」
左目を抑え、身をよじるオヒュカス。その目から現れた蛇が、ゆらゆらと揺れ動く。
オヒュカス「許さん…ッ、殺す!貴様をっ、その肉の一片までっ!!我が毒蛇たちに食らわせてくれるッ!!何も残さず、全てをォォォッ!!!」
士「ハッ、脱皮成功だ。見ろ、未央。まったく酷い性格してやがる。とんだ蛇野郎だな」
未央はゾッとする。もし自分がスイッチを押していたら、こうなっていたのかもしれないと、今更になって自覚したのだ。
士「さて、そこに進化することを選んだ奴がいるなら、人間の進化した姿でも見せてやるか」
そう言って士はケータッチを取り出し、ライダーズクレストの刻印されたカードを挿入した。
浮かび上がる各ライダーのマークを、順にタッチしていく。
『KUUGA!AGITO!RYUKI!FAIZ!BLADE!HIBIKI!KABUTO!DEN-O!KIVA!』
『FINAL KAMEN RIDE DECADE!』
ディケイドが、コンプリートフォームへの強化変身を遂げる。その姿が、太陽の光を浴びて光り輝いた。
オヒュカス「うあああああぁぁーーーーッ!!!」
頭部から蛇を放ち、全身から光弾を撃ち、さらには杖に絡みつく蛇すら、大蛇になって襲い掛かる。本気で士を討つ気だ。
士「フッ」
『ATTACK RIDE BLAST!』
しかし、通常形態よりはるかに威力の上がった光弾が大蛇を、蛇を貫き。
『ATTACK RIDE SLASH!』
分身した刃が、残りをまとめて切り裂く。
オヒュカス「あ……ァァッ!!クソッ、クソがッ……!!」
ダスタードを出したところで、もはや意味がない。
ありとあらゆる攻撃手段が失われ、オヒュカスは成す術なく立ち尽くす。
ここまでくるとトドメ、というよりもう消化試合だ。だが、士は気を抜かない。
士「可能性と進化の輝きだ。しっかり見とけ、未央」
未央「うん」
バックル部分へと収まったケータッチのアギトの紋章をタッチし、続けてFの部分をタッチする。
『AGITO!KAMEN RIDE SHINING!』
士の隣に、アギト・シャイニングフォームが現れた。白銀の鎧が、雲の間から注ぐ光に照らされ、美しく輝く。
士「諦めずに前に進めば、必ず可能性はある。そして、それこそが進化へ導く光だ」
『FINAL ATTACK RIDE A・A・A・AGITO!』
オヒュカス「おのれっ、おのれぇ……ッ!!」
士の前にはマゼンタ、アギトの前には水色の、アギトの紋章が2枚浮かび上がる。
士「ハァァァッ……!」
士が力を溜めてから跳躍し、その動きに追従してアギトも跳躍する。
士「ハァァァァーーーーッ!!」
それぞれの目の前のアギトの紋章を潜り抜け、士とアギトのダブルライダーキックが炸裂した。
士「っと」
P「っ!門矢さん!」
士「あ?」
地面に着地した士が振り返る。そこには。
ハウンド「あ……。オヒュカス様、何故……ぇっ」
オヒュカス「この役立たずの駄犬めが……!!最期にその命で役に立って見せろッ!!」
士「チッ……!」
ハウンドを盾に必殺技を躱したオヒュカスが、ハウンドを手放す。
ハウンド「あ―――」
ハウンドの身体が、大爆発を起こした。
未央「うっ……」
P「あっ……、門矢さん」
士「……チッ、あの蛇野郎……」
未央とプロデューサーを爆発から庇った士。しかし、そのことは気にもせず、士は憎々しげに舌打ちをした。
爆炎の向こうに、一瞬だけオーロラが見えた。そして今、ここにオヒュカスはいない。
士「逃げられたか……」
ハウンドをしっかり倒しておくべきだったが、それにしてもまさかあんな非道な行いに出るとは、士も思っていなかったのだ。
だが、逃走されたにしても相当ダメージを与えてやった。しばらくは活動出来ないだろう。
士は変身を解除した。
士「ほら、立て」
未央「あ、ありがと、つかさん」
未央の手を引っ張って立たせる。隣でプロデューサーも立ち上がった。
P「ありがとうございました、門矢さん」
未央「私も…。助けてくれてありがとう、つかさん」
士「役目だからな。お前たちが巻き込まれてたから、ついでに助けただけだ」
P「……はい」
未央「……うん。そういうことにしとくよ、つかさん」
士「俺はこれで事務所に戻る。お前らは渋谷を連れ戻しに行くなり、好きにしろ」
未央「ふふふ、つかさんって分かり易いんだね」
P「本当に、ありがとうございました、門矢さん」
士「……フッ。情けない顔も、やっといつもの悪人面に戻ったな」
P「……はい。渋谷さんは、必ず連れて戻ります。門矢さんは、事務所で皆さんと待っていてください」
士「ああ。じゃあな」
マシンディケイダーが走り出す。その背中を並んで見送って、プロデューサーと未央は互いに顔を見合わせた。
未央「…じゃ、行こっか。しぶりんに、謝りに」
P「はい」
雨雲は遠ざかり、青空が広がる。夏が近づいてきたことを知らせる、そんな晴天。
「「ごめんなさい!」」
卯月「凛ちゃん……、未央ちゃん……!」
そんな日に、久しぶりにプロジェクトメンバーが全員揃った。
卯月「うぅ~~…。良かったです……!」
一人残された彼女の心もまた、皆と同じく不安に包まれていたのだろう。
卯月が凛と未央に駆け寄って、その肩を抱いて涙を流していた。
未央「ゴメンね、しまむー……」
P「皆さん、待っていて下さり、ありがとうございました。門矢さんも」
P「改めて、シンデレラプロジェクトを進めていきたいと思います。一緒に、一歩ずつ、階段を昇って行きましょう」
「「「はいっ!」」」
未央「あのさ、プロデューサー!」
P「はい」
未央「試しに、丁寧口調やめてみない?つかさんみたいに!」
P「えっ」
みく「確かに!ちょっと硬すぎるにゃ」
蘭子「険しき壁を超える時か…!」
きらり「きらりも、それが良いと思うにぃ☆」
莉嘉「アタシもさんせーい☆」
みりあ「私もいいと思うよ♪」
智絵里「その方が私も、その……」
かな子「ふふっ。お話ししやすくなりそう♪」
士「満場一致だな。何か言ってみろ、聞いてやる」
プロデューサーは困り顔で、首の後ろを押さえた。
そして、躊躇いと困惑の混じった表情のまま、口を開く。
P「ど、努力しま…す。…する」
士「ヘタクソ」
士の容赦ない一言が放たれた。
少女たちが笑い、プロデューサーが俯く。
これはどうやら、かなりの矯正が必要になりそうだ。
そんな中で、再び未央が手を挙げた。
未央「あのさ、つかさん!」
士「何だ、本田」
未央「その…、もう一回!もう一回名前で呼んでいただけると、嬉しいかなぁ~って…」
士「断る」
莉嘉「えーっ!?未央ちゃん、士くんに名前で呼んでもらったの!?ねぇねぇ、2人はどういうカンケイなのっ?」
士「たまたま名前で呼んだだけだ。勘違いするな、城ヶ崎」
莉嘉「あーっ!それだとお姉ちゃんと被っちゃうじゃん!アタシも名前で呼んでよっ、士くん!」
士「知るかっ。引っ付くな!」
無邪気な莉嘉に振り回される士を見て、また少女たちが笑った。
撃沈していたプロデューサーも、自然と笑みを浮かべている。
笑顔があふれるプロジェクトルームの中心で、士もまた笑っていた。
翌日。
士、プロデューサー、そしてニュージェネの3人は、先日のイベント会場へと足を運んでいた。
もう一度ここから、前へ進んでいくために。
卯月「次のステージ、楽しみですね!」
凛「フフッ。卯月はブレないね」
未央「そういうとこ、ちょっとカッコいいよ」
卯月「え、ええ…?」
3人が手を繋いだ。一緒に、今度こそ。
士「…行ってこい」
未央「うん。じゃあ、改めて」
「「「フライ」」」
「「「ド」」」
「「「チキン!」」」
今回はここでおしまいです。
○アギトにカメンライドしたのは、士が言った通り「人間の進化した姿」だから。
「人間自身の進化」と「スイッチによる進化」という対立構造のためのスイッチ。
○オヒュカス・ゾディアーツ
黄道上にあるもう一つの星座。バトスピブレイヴで猛威を振るっていたアレ。
フォーゼ本編では未登場なので登場させました。
765の「千早の兄が弦太朗だった」SSでも千早が変身した姿として登場してます。
○ハウンド
こっちは本編では登場しています。
役割は「噛ませ犬」です。
なお当作中のドーパントとゾディアーツは「それ専用にショッカーに改造された人間が変化している」
というのが主な設定ですので、今後明確に人間が変化している描写が無いのが出れば、そういうことです。
そういうタイプは、負けたら従来通り爆発して死にます。
前回のスパイダードーパント、今回のハウンドゾディアーツは改造人間が変化しているので、負けて爆発したということです。
また機会があったらよろしくお願いします。
クロスと言うより「異物混入」という感想です
何だろうなぁ、この凄まじい「コレジャナイ感」は
台無しだな
モバしか知らない勢かディケイド嫌い勢か鳴滝が文句言ってるのだけは判るな
少なくとも本編見てればもやしのもやし感だけで満足出来るのに
そんな仮面ライダーディケイドがなんとニコニコチャンネルで毎週1話ずつ放送開始!
第二話は日曜朝更新!お見逃しなく!
>>128
自分の物差しを他人に押しつけるなよ
アニマスにもやしをねじ込んだってだけでクロスと呼ぶには雑すぎるわ
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません