モバP「トライアウトに行こうか」 (24)
どうもオリックスファンです。
お久しぶりです。
前作などは モバP「ドラフト会議をしよう」などがあります。
プレミア12も終わってストーブリーグが本格的に動きますね。
こちらもストーブリーグ的にやっていきますのでよろしくお願いします。
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――11月某日
モバP「ココが会場か…」
自分のように背広にスラックスを着た大人たちが次々に一つの会場を目指して歩いていく。
目的は一つ。アイドルたちのトライアウトに向かうためだ。
トライアウト――。それはかつてプロダクションの看板を背負ったアイドルたちが、自由契約という憂き目を浴びて、再起をかけるべく関係者たちにアピールする場だ。
今回のトライアウトは、『プロダクション合同トライアウト』と銘打たれており、つい先日までプロダクションに所属していたアイドルたちだけが参加する。
彼女たちの華やか表情雰囲気は今は無く、契約という蜘蛛の糸に捕まるべく殺伐とした表情と近寄りがたい雰囲気を出していた。
モバP「あのプロダクションも来ているのか…」
会場はとある県の会館を一つ丸々借り切って行なわれる。芸能関係者ならだれでも知るプロダクションも参加すれば、吹けば飛ぶほどの中小プロダクションも視察に来ている。
そして今通り過ぎたのは、346の武内。あのシンデレラプロジェクトを立ち上げて、成功させた敏腕。彼のお眼鏡にかなうアイドルがいるかもしれない。にわかに俺の心が躍った。
ちひろ「いらっしゃいませ」
モバP「もばますプロダクションのモバPです」
ちひろ「はい。ようこそお越しくださいました。これが本日の次第。そしてトライアウトに参加されるアイドルの資料です」
モバP「どうも」
気のせいだろうか。目の前にいる女性と両隣にいる女性たちの風体が似ているような気がする。が、深く気にしたら負けだろう。
大ホールには関係者がすでに陣取って座っている。一定より前にはテープが張られており、先に進めないようになっている。
モバP「すいません…」
ホールの那珂川の座席座るべく、先に座っていた関係者に断りながら中にはいって自分の座席を確保する。
モバP「さてと…」
席に座って、俺は資料を確認する。今日の次第はまず開会。流れの説明の後、まずはここでヴォーカルチェック。その後、部屋を移して体力測定。その後、リズムに合わせてのダンスチェック。そして最後はホールに戻ってアピールチェックを行い。気になったアイドルに連絡を入れて交渉となる。
もし、交渉したいアイドルが他のプロダクションとバッティングしたら、最終的に入団を決めるのはアイドルになる。普通は条件のいいところへ向かうが、毎年行われているにもかかわらずバッティングしたことは無いらしい。
訂正
×もばますプロダクション→○モバマスプロダクション
開始時間が近づくと次々と関係者が席に座る。
今回のトライアウトに出てくるアイドルで注目されているのは、三船美優。白菊ほたる。佐藤心。この辺りが最も注目されている。彼女たちは共に業界大手のプロダクションに所属していた。
三船美優は担当プロデューサーが別事務所に引き抜かれたことで退社。白菊ほたるはプロダクションが倒産。佐藤心は契約問題でもめたらしい。最後の佐藤心は置いておいて、残る二名はかなりの実力がある。性格に大きな難点を抱えるが、所属となれば大きな戦力となってくれるに違いない。
他で言えば、姫川友紀。荒木比奈。太田優。工藤忍。彼女たちは意外な理由で退社・戦力外を受けている。
姫川友紀はどうもとあるプロ野球団の熱烈なファンらしく、それまでかなりの人気があったが、今年の夏ごろから露出が激減。この秋の契約で年俸の減額幅を超える提示を不服として退社したらしい。
荒木比奈も夏と冬。それもお盆と年末が毎年NGという不可解な条件にプロダクションがついに堪忍袋の緒が切れたらしい。今年で自由契約となった。
太田優は常に一緒にいるペットとの露出契約が守られず、退社とのことだ。
工藤忍は方向性の違いということで、工藤側が反発。この秋を待たず戦力外通告を受けた。
このように一言で自由契約・退社・戦力外通告と言えども、理由は百者百様。中々奥深い。
モバP「あの子は…いるな」
実は俺が密かに注目しているアイドルだった子がいる。小室千奈美。彼女とは駆け出しの頃に所属アイドルと初めてのライヴバトルをして大敗を喫した相手だ。そんな彼女がここに出るという情報を聞いて少し調査をしていた。
どうも、最初は順調に階段を上ったが、スランプがあったのかそこからは伸び悩み、後輩たちに抜かされ、今年の秋に戦力外なったようだ。小室千奈美のことを全て知っているわけではないが、最初の相手と会って入念に調べたこともあってまだデータを持っている。
モバP「――その頃の彼女と今の彼女。何が違うか見てみるか…」
他にも気になるアイドルは山ほどいる。一時期プロダクションのセンターを務めていたアイドル、鳴り物入りで入ったものの、鳴かず飛ばずで戦力外となったアイドル。ひっそりとアイドル活動を始め、ひっそりと消えたアイドル。種類も数も多いこの宝の山から、『本物の宝』を持ち帰れ得るか。それが今回のトライアウトの目的だ。
『お待たせいたしました。それでは第×回プロダクション合同トライアウトを開始いたします』
受付の女性の声が会場に響き渡る。受付やったりし回やったりと大変だなと思いながら、俺は資料を読み込む。
ちひろ『最初のチェックは、ヴォーカルチェックです。こちらが設定した課題をアイドルが歌います。まずは1番から10番までどうぞ』
進行の声と同時に、ステージ上に10人のアイドルが現れる。全員緊張した面持ちでいる。とても今から演技をしようとする表情ではない。
ヴォーカルチェックは1人ずつ。30秒間だけの短いものだ。声の大きさ、響かせる力を見ていく。俺も彼女たちの欄に声量、質を書きこんでいく。
美優「35番。三船美優です…」
トライアウトの目玉アイドルの一人、三船美優。ざわついていた会場が沈黙する。
美優「♪~」
モバP「――流石、一時期はシンデレラガールズを狙えると言われた逸材。一気に会場の雰囲気を魅了した」
進行の、時間です。という言葉が出るまで三船美優は歌い続け、それが終わると会場から拍手が起きた。今までそれがなかったのだから、彼女の才能はやはり抜きんでている。俺は彼女の欄にSSと付けた。
その後は、静かにアイドルたちの歌声が響いていく。そして次にその沈黙を破ったのは、
友紀「88番!姫川友紀!燃えろ闘魂歌いまーす!」
ただ一人、無邪気にはしゃぐ20歳。姫川友紀。彼女だけは登壇してからずっと笑みを浮かべてまるではしゃいでいるような感じで歌い始める。トライアウトという本当にここで拾ってもらえなければアイドル人生の終わりかもしれないという中で、彼女はアイドルの時と全く変わらない振る舞いを見せる。
モバP「――でも、歌唱力は落ちてる。そっち(バラエティー)路線ならいけるか?」
俺の姫川友紀の欄には『歌唱力C-。しかし、キャラはSS』と書きこんだ。
小室千奈美は最後から2番目の99番。白菊ほたるは100番。個人的注目アイドルと、若い才能あふれるアイドルの比較がすぐに出来るのは僥倖でもなんでもない。
千奈美は緊張した面持ちで前を見据え歌い始める。凛とした表情からは想像できない優しい歌声を聞かせる。あの時よりも格段に自分の歌声を見つけたと思っていいだろう。
30秒のアピールタイムを終えて、彼女の表情はやりきったという表情をしていた。俺は少し、その表情に口をへの字にした。
モバP「――それで満足なのか。小室千奈美。自分の力量通りの結果が出せて満足なのか。そうじゃないだろう」
トライアウトを見て分かったが、終わった後に満足そうな表情をするアイドルが散見された。それは失敗しなくてよかったという意味なのか。実力通りに出せたと安堵しているからなのか。前者と後者では大きく意味合いが違ってくる。
三船美優はアレだけの拍手をもらっても笑み一つ浮かべない。もっとも彼女が笑みを浮かべなくなったのは、信頼していたプロデューサーとの別れだからまた少し意味合いが違うが。それでも笑みを浮かべているアイドルたちにもっと言いたい。
モバP「――お前たちが安堵している間に、ライバルたちは死に物狂いでうまくなろうとしている。と」
ほたる「100番…。白菊ほた――」
彼女の紹介中になぜかマイクの音が切れた。
マイクの音声が復旧しないまま、すぐに曲が始まってしまう。ほたるは諦めたのか、そのまま歌うことを決めたようだ。
ほたる「♪~」
その歌声に少なくとも俺はポカンと口を開けてしまった。両隣を見るとやはり俺と同様、身体が固まっていた。それだけ白菊ほたるの歌声が会場を魅了した。
たった30秒の時間がもっと続けばいい。そう思ってしまった。終わったと同時に浴びる拍手は三船美優の時と同じくらいだった。
彼女は会場に向かって一礼をして、小室千奈美の隣に戻った。
『これでヴォーカルチェックは以上になります。次のチェックは体力測定です。皆様移動をお願いいたします』
進行に促されて、俺もホールを後にする。
モバP「――白菊ほたる。間違いなくSSだろう」
場所はホールに付随してある体育館に場所を移す。ここはバスケットボールが2面取れるほどの広さで、何をやるにも十分な広さだ。
アイドルたちは動きやすいように各々ジャージを着ている。胸には番号の入ったゼッケンを付けている。
『体力測定は20mシャトルランです。まずは1番から50番の方。お願いします』
シャトルランは音が鳴り終えるまでに20mを走って、その後同じように20mを走る。それを繰り返し、2回連続でたどり着けなかった終了となり最後に通過したところまでの記録となる。
アイドルにとって体力は必須項目。これが無くては何も始まらない。
『スタート』
CDの音源と共にアイドルたちが一斉に走り出した。
10本目。まだまだ余裕だ。
20本目。ほとんどのアイドルは余裕だが、若干遅れてきた子が出てきた。
そして35本目。最初の脱落者が出た。21番。栗原ネネ。彼女は壁について顔を上げなかった。
そして50本を超えるころには続々と脱落者が増えていく。三船美優も65本目で力尽きてしまった。彼女よりも若い子が多い中で、ここまで残ったことがすごいと思うべきか。
結局50番目までで最後に残ったのは49番の北川真尋。89本目で脱落したが、2位に10本の差をつけて独走した。
『次は51番から100番までです』
後半は色々と見どころ満載だ。小室千奈美に白菊ほたる。姫川も一応気にしておくか。
『スタート』
こちらは20本過ぎまで遅れる子はいない。小室千奈美も白菊ほたるも順調に走っている。姫川も、まだまだ余裕そうな表情だ。
最初の脱落者は38本目。67番を付けた子だ。この子は初めて見る子だった。
その後は次々と脱落して、白菊ほたるは48本目。姫川は55本目で脱落した。
小室千奈美は77本で脱落したが、かなりの好成績だった。
『次はダンスチェックです。1番から20番までの参加者は登壇してください』
ダンスチェックは、一つの曲に全員が合わせて一斉に踊るというもの。誰が正しく踊れて、誰がそうでないかがすぐわかるし、何よりも自分の踊りが出来るかがカギとなる。
最初の組には俺が注目しているアイドルはいないため、どういうものかを確認する。
曲がスタートしてアイドルたちが一斉に踊り始める。一糸乱れぬ踊りを見て、質の高さに驚くが、一曲という短い中でも少し踊りが乱れる部分も出てきた。それを俺をはじめ見ている人間は見逃さない。
『次は21番から40番の参加者。準備をお願いいたします』
次の注目アイドルである三船美優の登場だ。35番目ということもあって後列のセンターに位置している。背も高いため、後列でもあまり気にならない。
曲が始まると三船美優の長い手足から出される踊りに魅了されてしまう。時に蠱惑的、時に官能的。年齢もさることながら、大舞台を数多く経験した実力が他のアイドルたちよりも抜きんでている。
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