奴隷商「奴隷買わないんですか!?」(14)

奴隷商「コイツは一目で気に入ったと旦那も言ってくれたじゃないですかい!」

男「この娘は、聞けば盲目だというじゃないか。労働には向かないねぇ」

奴隷商「女としての価値があるでしょう。女ですぜ! 旦那は男! ほらぁ! げへへっ」

男「申し訳ないがまだ幼い子へ乱暴するのは人として気が引けてしまう」

奴隷商「……旦那は紳士でいらっしゃる。確かに奴隷=性は品がなかったですな」

奴隷商「でしたらこっちの屈強なオークのガキはどうです? 力仕事を任せるには持って来いでさ」

男「醜い。見るに堪えない醜悪な面だ、早々に下げたまえ」

男「せっかく立ち寄ってみればどれもこれも期待外れだな。帰ろう」

奴隷商「そ、そう仰らずご覧になっていってくださいな! 他にもまだまだ良さ気なのが揃ってますんで!」ペコペコ

男「では例えば? どうせ口から出まかせだろう……おい、顔が近いぞ」

奴隷商「あっしを奴隷に迎えませんか、旦那」

男「あんたも商品だったのか!?」

奴隷商「あっしは健常者ですぜ。ウフ、自分で言うのもなんだが悪くない顔でしょう」

男「どこの物好きが奴隷中年オヤジなんぞ買うというんだ!?」

男「だ、大体この店はどうなる。残った奴隷たちの始末は!」

奴隷商「お得なキャンペーン! あっし一人のご購入でここの全奴隷が付いてきます!」

男「明らかなヤケクソだな!!」

奴隷商「旦那、養ってくだせぇ~!!」

男「ふざけるな! 誰が面倒をみると思ってるんだ、養い切れるものか!」

奴隷商「お願いします! そこを何とかご検討を!」

男「帰る!! どけ!!」

オーク「待ってお客サン、話だけでも聞いてくだサイ!」

男「ぐぇ!? は、離せ この醜い化物が!!」

盲目少女「オークちゃんふぁいと~」

奴隷商「オークでかした! よく掴まえた!」

男「畜生!! 何なんだこの店!?」

男「客を縛ってどういうつもりだ! 脅しか! 私を奴隷に従えるつもりか!?」

奴隷商「旦那、あっしはあんたという男を見込んで自分を売りたいと感じたんでさ」

男「聞く姿勢もないのか貴様……憲兵には報告しない。だから家に帰らせてくれ」

奴隷ちゃん「今日からあの人の家が私たちのおウチなの?」

オーク「ウン」

男「真面目にトチ狂った奴らだな!」

男「大体なぜ商品である奴隷が野放しになってるんだ……あんたの気が知れん」

奴隷商「檻に入れっぱなしにしてちゃ運動不足になっちまいますよ」

男「尤もだが良いのか!?」

盲目少女「パピー。お客さんそのままだと怒って買ってもらえないと思うわ」

奴隷商「おぉ、やっぱりお前は利口な子だ! すぐに売れるなぁ」

男「……あんた商品である奴隷に情が移った口か」

奴隷商「えっ」

男「この手の商売には向かない人間なんだろう。よく見れば連れている奴隷も、どこか普通ではない。障害を抱えた子も多いみたいだな」

男「悪い事は言わない、今すぐ足を洗え。慈善事業をやってるわけではないだろ?」

奴隷商「旦那ァ……あっしの見る目に狂いはなかった」

オーク「泣き落せば上手く今日のご飯にありつけるネェー!」

盲目少女「ダメよ、いまは慎ましく振る舞うの! めっ!」

男「おい、一度抱えた奴隷ども調教し直したらどうだ!!」

奴隷商「旦那の言う通りでさ、あっしは元来人が良い。虫も殺せないお人好しでした……」

男「何か始まったぞ……」

奴隷商「そんなあっしが奴隷商になったのも色々ありましてな。だが、どうにも性に合わんようでコイツらを甘やかしちまう」

奴隷商「買い手もあっしが見定めて、変態には即お引き取り願ったりしてねぇ。まだ一人も売れてないんですわ」

男「そ、それなら今までどう暮らしてきたんだ? こんな大荷物まで抱えて」

奴隷商「お恥ずかしながら、店の営業時間外にあっしがせっせと……」

男「本末転倒だろ……」

奴隷商「あっしのせいでコイツらにゃひもじい思いさせちまって」

奴隷ちゃん「ううん! みんなパピーに感謝してるよ! だーいすき!」

盲目少女「ワケあり孤児だった私たちをパピーは引き取って大事にしてくれたのよ」

男「そ、それは良かったな……」

オーク「次はパピーが幸せになる番ヨ。だから、お客サンお願いしマス」

奴隷商「どうかあっしをよろしくお願いしますぜ、旦那……げへへ」

男「話は聞いたから帰らせてくれ。十分買うに値しなかった」

奴隷ちゃん「こいつ人でなしだよぉ!」

盲目少女「こら! し、失礼しました!」

男「あんたらが貧しい生活を強いられるのも自分が悪かったからだろう。私が救ってやる義理もない」

男「わかったら縄をほどけ!」

奴隷商「くっ……!」

盲目少女「……仕方がありません。いつかはと覚悟はしてたけど」

盲目少女「お客さん、いえ、お客さま。実は私は盲目ではなかったのです」

男「何だと?」

盲目少女「盲目のフリをして哀れで儚い少女を演じていました。そうすれば購買欲をそそらせられると信じて」

奴隷商「賢いな……擁護欲をかりたたせていたのか……」

男「あんたこそ色々盲目になってるぞ」

盲目少女「ですが、今みんなのために設定解除します。さぁ、これで私の購入を躊躇う理由はなくなったはずです」

奴隷商「旦那に売ったァ!!」

男「今更取り繕われて買うわけないだろう!?」

男「とにかく私はお前たちにうんざりしてるんだ! 悪いようにはしないからもう帰せ!」

奴隷ちゃん「盲目少女ちゃんの会心の一撃すら通じないなんて……」

オーク「ならば、遂にワタシが一肌脱ぐときがやってきたナ」

男「脱ぐなァ!!」

盲目少女「きゃ! 本当にこんな所で裸になるつもり!?」

男「言っておくが化物の裸体に欲情する偏った趣味はないからな! 無駄だぞ!」

オーク「裸体? その程度で見縊って貰っては困る」ベリベリ

男「この豚自分の肌を剥いでいやがる!! おい、誰かとめ……!」

オーク「ギイッ!!」ベリィッ

盲目少女「ひぃ! ……あ、あれ。オークちゃんは? オークちゃんがいない」

エルフ「ふぅー、暑苦しかったですね」

男「か、代わりにエルフ族の女がそこに!!」

奴隷商「何てこったい……オークからエルフが生まれやがった」

エルフ「違うわ、パピー。申し訳ないと思いつつ私はずっとオーク族の女に化けていたのです」

エルフ「エルフ族は希少で奴隷価値も高い。捕まったお友達は皆酷い目にあわされ、恥ずかしめを受けていました」

エルフ「怖かったの! だから自分を醜い魔物オークへ偽っていたのです!」

奴隷ちゃん「雌豚って言ってゴメンね……」

盲目少女「犯されるとか思ってたこと謝らせてエルフちゃん……」

エルフ「さて、正体がバレてしまったからには後には引けません。パピーお世話になりました! これでしばらくはお金に困らないでしょう」

奴隷商「た、確かにエルフの娘なら高額だ! 旦那ァ!」

男「私に買い取り強制させる意味ないだろ!?」

男「エルフならば街の貴族辺りが欲しがる! 私は働き手が欲しかっただけだぞ!」

盲目少女「では、この子を買ってお花を売らせたら良いじゃないですか。うふふ」

男「ウチは売春やらせんわ!! 君酷いな!!」

男「次はどんな秘密が明かされる!? 私を何度呆れさせたら気が済む!?」

盲目少女「完璧に怒らせてしまったみたいだわ……」

エルフ「パピー。この方の言う通り、もう諦めて帰っていただいたらどうでしょう?」

奴隷商「いいや……ダメだ、この機会を逃してはいつまともな客と出会えるかわからねぇ」

男「大体そこまで私を買うのはなぜだ! 善人を努めてるつもりはあるが聖人じゃないぞ!」

奴隷商「旦那、あんた家に一人養ってる元奴隷の娘がいるだろう」

男「……そ、それがどうした。なぜあんたが知っている?」

奴隷商「知り合いの同業者がね、口滑らせちまったのを聞いたもんで」

奴隷商「前に街中を楽しげに歩いていた旦那とあの子を見ましたよ。ありゃあ幸せそうだった……」

奴隷商「綺麗な服を着させてもらって、髪もとかしてもらって、元が奴隷とは思えねぇぐらいですぜ。よほど大事にされてらっしゃる!」

男「……数年ほど前に妻と子を同時に失った。心の拠り所を求めていたのだろうな、私は」

男「あの子を奴隷とは呼ばせんぞ! 私の大切な子どもだ、訂正しろ!」

奴隷商「ああ、謝る! そして改めてお願いさせてください。ウチの子を引き取ってやってくれないか!」

奴隷商「どの子でも良い。皆良い子ばかりだ……ここに置いてちゃ腐っちまうよ……」

奴隷ちゃん「パピー……」

奴隷商「この子だったら将来は美人になるでしょう。簡単な雑用ぐらいなら手伝わせられますぜ」

奴隷商「なんなら、お子さんの話相手にもなる。悪いようにはしないでしょう。なぁ?」

奴隷ちゃん「あ、あたしパピーから離れたくない! いやぁ!」

奴隷商「わがままを言ってパピーを困らせないでおくれ……」

盲目少女「だけど私たちが売れないとパピーは貧困に苦しみ続けなければいけないわ」

盲目少女「私たちが売れて手に入ったお金があってこそなの! それが奴隷じゃない!」

エルフ「泣きながら言っても説得力に欠けますよ……」

盲目少女「ううっ! 仕方がないのよぉ!」

男「よ、よーし! 彼女たちはあんたから離れたくないようだ。私の出る幕はないな!」

奴隷商「……出来ればこの手は使いたくなかったんですがねぇ、やむを得ない」

男「な、何? 貴様これ以上私へ何をするつもりだ! ち、近寄るな!!」

奴隷商「……」

男「うわあああああぁぁぁぁ!?」

男「……あれ? 何ともない?」

奴隷商「縄をほどかせて貰いやした。これで旦那は自由ですぜ」

男「帰っていいのか? ま、まだ何かあるんじゃ」

奴隷商「これ以上引き止めては旦那にご迷惑がかかっちまう。それに」

奴隷商「奴隷売は今日でお終いにしますからねぇ」

奴隷ちゃん「パピーそれはほんとなの!?」

奴隷商「ああ、元々この人を最後にしようと考えてたさ」

男「そ、そうか。難儀するな。めげずに頑張れよ」

奴隷商「ええ、どうも……さてさて、売れ残り処分といこうかね……」

男「処分するにもこの数の奴隷を一体どう捌こうと……」

奴隷商「なぁに! 切って解体すればその筋の愛食家に売れるもんでね!」

盲目少女「ひいっ! ぱ、パピーなにを」

奴隷商「お前たちは一人残らずお肉になるんだよ!」

男「あ、あんなに大切にしてた娘たちを! 血迷ったか!?」

奴隷商「所詮自分は奴隷商。残忍な人間ですわ、最後にゃ自分が可愛くてどうしようもねぇ」

奴隷ちゃん「ああっ! パピー痛いよぉ!」

男「ほ、本気で切りつけたな……哀れな少女をよくも……」

奴隷商「お前さんはとっとと家に帰れ!! 見せもんじゃないんだ!!」

男「ならば、その娘は私が引き取ろう!!」

奴隷ちゃん「え?」

男「処分ならタダで頂いても構わないな? 金は出さんぞ」

奴隷商「へへへっ……物好きな人だ。いいぞ、好きなようにしてくれ」

男「フン、そうさせてもらう! 全員表へ出ろ! 私が君たちをそれぞれ導いてやる!」

男「知り合いを当たって働き口と住まいを見つけよう……来なさい」

奴隷ちゃん「さ、さよならパピー……お達者で!」

奴隷商「うるせぇ! 俺はお前らの父親じゃねぇんだ、失せやがれ!」

奴隷商「二度とその面見せるんじゃねぇぞ!! ……旦那」

奴隷商「やっぱり旦那を見込んだ俺に間違いはなかった。あんたは最高のお人好しだぜ……あぁ?」

奴隷商「何だいこの大量の札束はよう……グスッ」

おわり

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