伊達みきお「あれがヒーロー認定試験会場か?」 (58)

・サンドウィッチマン×ワンパンマンのSS


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(伊達が歩いてくる)

伊達「興奮してきたなぁ……その割にはあんまし人がいねぇけど……少し遅れちまったかな?」

伊達「あ、ここが受付か。ええと、すいません!係りの方いませんかー?」

(スーツ姿の富澤が現れる)

富澤「いらっしゃいませー!何名様ですか?」

伊達「いらっしゃいませじゃねぇよ!ファミレスかここは」

伊達「一人だよ!ヒーロー試験受けに来たんだよ」

伊達「あなた試験官なんでしょ?ここでそんなカッコして立ってるってことは」

富澤「あ、はぁ……」

伊達「受け付けお願いできません?」

富澤「ええと、あのー……」

富澤「自首される方は隣の警察署の方にお願いしたいんですけど……」

伊達「だから、犯人じゃねぇよ!試験受けに来たって言ってんだろ!」

伊達「ヒーローになりたくて来たんだよ。確かにちょっとチンピラっぽい外見してるかもしれねーけどよ」

伊達「いいから受け付けしてくれっての」

富澤「ではこちらの申し込み用紙の方にプロフィールと志望動機の方を……」

伊達「はいはい、これ書けばいいのね……さらさらっと……これでいい?」

富澤「確認しまーす。ええと、お名前が……伊達きみおさん?」

伊達「みきおだよ!」

伊達「俺は匿名係長描いた漫画家かよ」

富澤「……?僕だけじゃなくて読んでる人よく分かんないと思うんでもうちょっと詳しく解説してもらっていいですか?」

伊達「いいから先行けよ!わかんねーやつはきみおでググればいいんだよ!」

富澤「はぁ、わかりました……で、身長体重が……ぷふっwww」

伊達「は?何笑ってんだよ」

富澤「いやあんた、体重……こんなデブのくせにヒーロー志望とかwww」

伊達「うるせえよバカ!おまえも大して変わんねーだろ!!」

富澤「あ、ここの所項目抜けてますね」

伊達「え?そんなとこあった?」

富澤「ムショに入ってた時期と所属してる組の項目もちゃんと書いていただかないと」

伊達「だから、犯人じゃねぇっつってんだろ!組のモンでもねぇよ!」

富澤「志望動機についてですけど……」

伊達「ああそれ?実は、俺の故郷の町が海から来た怪獣にめちゃくちゃにやられちまってよ」

富澤「うんうん」

伊達「まあ、家族含めて住民は避難してなんとか無事だったんだけど、町はひどいことになっちまってな」

富澤「うん、うんうんうん……」

伊達「幼馴染の友達とか、近所の知り合いとかも帰る家が無くなっちまった奴も大勢居て……」

富澤「うんうんうんうんうんうん?」

伊達「あんな悲しい事がこれ以上起こらねーように、こんな俺でも何かできることがねーかなって思ってさ。それでヒーローに志望したってわけ……」

富澤「うんうんうんうんうんうんうんうんうん!」

伊達「うんうんうんうんうるっせぇぇぇ!」

(ブチキレる伊達)

伊達「おまえ絶対聞いてねーだろ!」

富澤「は、す、すいません」

伊達「オレそういうのいっちばん嫌いなんだよ!いい加減にしろ!」

伊達「後このネタで安易におちゃらけるのはマジでやめとけ、炎上すんぞ」

富澤「ちょっと何言ってんだか分かんないwww」

伊達「なんで何言ってるか分かんねえんだよ!ここは察し良く流しとけよ!!」

富澤「すいませんすいません……反省します」

伊達「いいからさっさと試験開始してくれよもう」

富澤「その前に登録料の方を納めて頂く必要がありまして……」

伊達「あー、金かかんの?まあしょうがねえよな、いくらヒーロー協会だって運営費用とかいろいろ大変そうだもんな。いくら?」

富澤「29万8880円になります」

伊達「たっか!高い!そんなにすんの!?後微妙に値段の付け方が生々しい!」

伊達「そんなにするとは聞いてなかったからなぁ……持ってきてねぇよ……弱ったな……」

(財布を探る伊達)

富澤「あ、そうなんですか?じゃあ3000円で」

伊達「やっす!急にディスカウントしてきたなおい!どうなってんだよその金額設定は!」

富澤「まあ、お心付けということで……」

伊達「葬式みてぇに言うのやめろよオイ」

伊達「まあいいや。それぐらいなら持ってるからよ。1,2,3枚……ほら、ぴったり3000円だ」

富澤「はい、200円のお返しになります」

伊達「3000円じゃねーじゃねーか!もういいから試験始めろよ!」

富澤「じゃあ、体力試験の方から……」

伊達「あー、体力が資本だもんね、ヒーローは。大事だよな」

富澤「最初は反射神経のテストになります。こちらを……」

伊達「お、結構反射神経には自信あんぞ。なになに、このタブレットを持って、アプリを立ち上げて……」

富澤「上から落ちて来るアイコンが下のアイコンに重なるタイミングに合わせてタップしてください」

伊達「なるほどなるほど?音楽に合わせて?おっ同時押しとか結構シビアだな!www」

富澤「でしょうー。一番難易度高いモードですからwww」

伊達「ああ、ライブ失敗しちまったよ、ホント難しいなーおいwww」

富澤「ジュエルとか使うとリトライできますよwww」

伊達「……って、スクフェスかよッッ!!」

(タブレットを床に叩きつける伊達)

富澤「いえ、デレステの方で……」

伊達「どっちだって同じだよ!遊びに来たんじゃねぇんだよバカ!」

富澤「遊び……だとぉ?」

伊達「へ?な、何すか?)

(いきなり表情と口調が険しくなる富澤と、少しビビり気味の伊達)

富澤「人がイベントで走り続けるのに、どれだけ睡眠時間削って金を注ぎ込んでると思ってるんだ!こっちは人生かけてんだよ!」

伊達「ネトゲ廃人かよ!いい加減眼を覚ませよ、画面の中の嫁は出て来ちゃくれねぇぞ」

富澤「後デレステの方はスクフェスと違っていちいち待機画面に通知が表示されるから周りにオタバレしないか心配で……」

伊達「設定変えろよ」

伊達「それにどちらかっていうと反射神経っていうよりリズム感のテストじゃねーかよ、ったく……もういいよ次行ってくれよ」

富澤「続いては反復横とびの計測になります」

伊達「反復横とびね、ちょっと自信ねぇんだよな。なんせBMIが30超えちまってるからよ、体が重くてなwww」

富澤「あはははは、怪獣と戦うより前に死にそうですね、このメタボがwww」

伊達「それはおまえもだよ!うるせぇこのバカ!」

伊達「大体おまえに言われると腹立つんだよ!自分で言うのはいいけどよ!」

伊達「ていうか、この床やたらヒビ入ってんじゃねぇか。しかもここなんてすげえ凹んでるし……危なくて反復横とびなんてできねーぞ。一体何があったんだよ」

富澤「あっこれですか。前の受験者が計測して大会最高記録出した時に付いた跡なんですよ」

伊達「す、すっげぇな!何モンだよそいつ!あーあー、よく見たらこの凹み、足の形してんじゃねーか」

伊達「そんなすげえ奴がいるなんて、さすがヒーローだな。もしかして今日この会場にいんのか?」

(きょろきょろと見回す伊達)

富澤「いや、それは一カ月月前の試験の時の話なんで、いないっす」

伊達「一カ月間ずっとこのままだったのかよ!いい加減直しとけよ!今日試験やるって決まってんだからよ!」

富澤「じゃあしょうがないんで飛ばしてパンチングマシーンの方でお願いしまーす」

伊達「そんな雑な進行で大丈夫なのかよ……まあパワー系は得意だからいいけどよ」

伊達「ってオイ!こっちもマシーンもぶっ壊れてんじゃねーか!」

富澤「あっすいません、それも前の受験者が……」

伊達「前の受験者どんだけだよ!バケモンか!」

伊達「ていうか案内する前に気づけよ!吹っ飛んで壁に穴開けたまま放置されてんじゃねーか!」

富澤「あ……ちょっと直すのめんどくさかったんで……」

伊達「ちゃんと仕事しろよ!」

富澤「そんじゃさらに飛ばしてモグラ叩きの方で」

伊達「モグラ叩きなんてのも試験に入ってんの?変な項目入ってんなぁ……」

伊達「ってコレもぶっ壊れてるんだけど!いい加減にしろ!」

伊達「ヒーロー協会ってのは俺らの寄付金も使って成り立ってんだろ?ホントちゃんと仕事しねーと炎上させたりすんぞコラ」

伊達「ほら、最近よくあんだろ?ツイッターに投稿したりしてよ」

富澤「お、ボクら叩かれるってことですか?」

富澤「……”モグラ叩き”だけにぃ?うぷぷwww」

伊達「全然上手くもねーし面白くもねーよ!ドヤ顔すんな腹立つから!」

富澤「あー、それでは筆記テストの方を行います」

伊達「ここまで何にもしてねー気がすんだけどよ……」

(机の前に着席する伊達)

富澤「じゃあテスト用紙配りまーす」

伊達「あー、あんまり筆記の方は自信ねぇんだよな、どんな問題出んのかな……なになに?」

伊達「”私は、富澤たけし氏を代理人と定め、下記に記載された事項全てを委任します。”か……この下の所に名前書けばいいんだな」

伊達「伊・達・み・き……ってうぉぉい!」

(立ち上がって名前を書きかけた紙を引きちぎる伊達)

伊達「これ一番名前書いちゃいけねーヤツじゃねーか!白紙委任状だろコレ!?」

富澤「タクシー非人情?」

伊達「しらばっくれんじゃねぇよ!なんでここで非人情なタクシーが出てくんだよ!」

伊達「ったく油断も隙もねぇな……」

富澤「あ、もう一つ最後に確認しとかないといけないことがありまして」

富澤「ヒーロー試験に合格して、活動が認められますと協会側からコードネームが送られるんですけど」

伊達「おう知ってる知ってる!ヒーロー名だろ?」

富澤「一応前もってご希望があったら聞いておくことになっておりまして……」

伊達「おっ、何?希望出せんの?」

伊達「そうだなぁ、やっぱりカッコいい名前がいいよなぁ……とはいってもあんまり狙いすぎると中二病とか言われちまうからな……漆黒のなんちゃらとかよ」

(しばらく悩む伊達)

伊達「……そうだ、オレこんな色の髪で、立てた感じがちょっとだけ鳥の翼っぽいだろ?だから、『ゴールデンイーグル』とかどうだ!」

富澤「ああー、なるほどなるほど、いいですねぇ~」

伊達「だろ?特に実在する球団とかとは関係ないんだけどよ、ははは」

富澤「では、希望するヒーロー名は『金髪メタボ中年』ということで……」

(手元の紙に記入する富澤)

伊達「話聞けよ!」

富澤「後おまえも大して変わんねーって言ってんだろこの黒髪メタボ中年!」

伊達「頼むからそんなかっこわりぃヒーロー名なんてやめてくれよオイ」

伊達「みんなもうちょっとマシな名前付けてもらってんじゃねぇか」

富澤「はぁ、仕方ないですねぇ……伊達さんの場合、参考になりそうなコードネームはっと……」

(パラパラと書類をめくる富澤)

富澤「『院卒』とか『モヒカン』とかですかねぇ……」

伊達「人を見た目で分類すんのやめてくんねぇかな?」

富澤「あ、最近B級に上がってすごい実績上げてる期待株の例とか、参考になりそうっすよ!」

伊達「お、いいじゃんいいじゃんどんなの?」

富澤「『ハゲマント』」

伊達「ただの悪口じゃねーかよ!ひでぇなヒーロー協会!」

伊達「もういいわ、おまえじゃ話になんねーから、上の人出してくれよ」

富澤「いや、ええと、それがですね……」

伊達「あ?」

(けたたましく鳴り響くサイレン)

「緊急災害警報です。〇市に巨大海棲怪人、タイダロスが出現しました。災害レベル”竜”!付近の住民は直ちにシェルターに避難してください」

「──繰り返します。災害レベル”竜”!──」

富澤「やっべ、〇市ってここじゃないすか!早く逃げましょう!」

伊達「……アイツだ……」

(茫然と外を眺める伊達)

富澤「伊達さん?早く逃げましょうって!」

伊達「アイツだよ!」

富澤「な、なんすかアイツって?」

伊達「……俺らの街を滅茶苦茶にしやがった、あの怪獣だよ!」

(ズズーン!という莫大な重量物が叩きつけられるような音が、だんだん大きくなってくる)

富澤「や、やべぇぇ!こっちに近づいてくんじゃないすか!」

伊達「アイツめちゃくちゃでけぇんだよ……もう逃げるとか無理だって……」

(大の男二人が抱き合って震え上がる、非常に見苦しい構図)

(その時、オレンジ色の激しい光と轟音が響き渡る)

伊達「うおっ!?な、何だ!?」

富澤「あ、アレは……あの人だ!あの人が来てくれたんだ!」

伊達「あの人……?」

富澤「S級ヒーロー、”鬼サイボーグ”っすよ!新人だけどメチャメチャ強くて、超活躍してるんっすよ!」

伊達「あ、オレも知ってるぞその名前!ヒーロー大全って本で特集されてたよな!」

富澤「あの人が来てくれたんなら、僕たち助かるかもしれないっすよ!」

伊達「お、おう……!」

(激しい戦闘が繰り広げられる音と光)

伊達「ど、どうなんだ?何か苦戦してるように見えっけども……」

富澤「いや、あれを見てくださいよ!」

富澤「腕に拡張パーツをドッキングした、アームズモード!」

富澤「あそこからぶっ放される焼却砲なら、どんな相手でもやっつけられますって!」

(膨大なエネルギーとエネルギーがぶつかり合い、激しい振動が建物と空気を揺らす)

(たまらず倒れ込む二人)

(もうもうと上がる埃と、瓦礫の崩れる音)

富澤「あ、あいてててて……すげー威力だった……さすがにやったっすかね!」

伊達「いや……無理だ」

(先に立ち上がっていた伊達がゆっくりと首を振る)

伊達「サイボーグさんの攻撃を、あの野郎、口から噴き出した水流ジェットで相殺しやがった」

富澤「む、無傷だって……!?鬼サイボーグさんは!?」

伊達「わずかに動いてはいるから死んではなさそうだけど、ビルに叩きつけられて……ダメージでかそうだぜ……」

富澤「や、やっべぇぇ……!」

(ガタガタと震える富澤)

富澤「逃げましょう!もう今度こそ逃げるしかないっす!」

富澤「サイボーグさんにアイツが気を取られてる今なら、なんとか逃げられるかも!」

伊達「な、何言ってんだおまえ!それでもヒーロー協会の人間かよ!?」

伊達「ここはヒーロー試験の会場だろ!そりゃあまだヒーロー志望ってだけヤツがほとんどかもしれねーけどよ、力を合わせて何とかしなきゃダメだろうが!」

(富澤の胸倉を掴み上げる伊達)

富澤「すいません、違うんす……そうじゃ、ないんです……」

(顔を逸らす富澤)

伊達「はぁ?」

富澤「確かにオレ、”元”はヒーロー協会の職員でしたけど……」

富澤「ネトゲのやり過ぎで仕事おろそかになって解雇されちゃって……今はただのプーなんす」

伊達「えええええ!?」

富澤「この会場も前の受験者に壊された後、調査のためってことで保存されてて……ホントの試験会場は6kmも先の別の所にあるんです」

伊達「うっそぉぉ!ここ試験会場じゃなかったの!?」

富澤「ええ、仕事も収入も無くてホント困ってて……伊達さんみたいなマヌケがやってきたらうまい事騙して金でも巻き上げらんねーかなって思ってここに居たんす……」

伊達「おまえどんだけダメ人間なんだよ!あ!だから受験料払わせたり白紙委任状書かせようとしたりしたわけね!?」

富澤「ええ……だからこの周りにはヒーローとか、もう他には誰もいないっす……」

伊達「知りたくなかったぁぁーそんな事実!」

(巨大な何かが移動する音)

富澤「アイツ、サイボーグさんにトドメ刺す気で近づいてる!サイボーグさんがやられたら次は俺らの番ですよ!だから早く逃げ……!」

(頭を抱えていた伊達が、ゆっくりと身を起こす)

伊達「──逃げたら、どうなる?」

富澤「……へ?」

伊達「ここでオレらが逃げて、サイボーグさんまでやられちまったら……この街はどうなるんだよ?」

富澤「どうって……そりゃあ……」

伊達「外の様子じゃ、避難も進んでねーんだろ?街が壊されるだけじゃなくて、沢山の人の命がヤバいんじゃねーのか?」

富澤「そりゃ、そうですけど……」

伊達「だったら、しょうがねーよな」

(破壊された建物のがれきの中から、かつては支柱だった巨大な金属の棒を引っ張り出す伊達)

富澤「一体何してんすか!やめましょうよ!」

伊達「うるせぇ!そりゃあ、オレの力じゃアイツに傷一つ付けることもできねーだろーけどよ」

伊達「アイツの注意を引きつけて、サイボーグさんが回復する時間を稼ぐぐらいはできるかもしんねーだろ」

富澤「でも……でも……!」

富澤「そんなことしたら、アンタ絶対に死にますよ!」

伊達「黙れ!」

富澤「いいや黙らねーよ!こんなことして、もしアイツをサイボーグさんが倒してくれたとしたって、一体それが何になるってんだよ!」

(逆に伊達の胸倉を掴む富澤)

富澤「ここには誰もいねーんだぞ!助けてくれるヒーローどころか、アンタの戦いを見届けてくれるメディアも来てねえ!応援してくれる一般市民ですらいねえんだ!」

富澤「アンタが命を懸けたって、誰も認めちゃくれねぇ!ただの犬死だって言ってんだよ!」

富澤「こんなとんでもない怪人の相手は、他のS級ヒーローとかに任せとけばいいじゃねーか!」

富澤「アンタは!ヒーローなんかじゃ、ねぇ!ただの中年メタボ、漫画やアニメでいえばモブキャラなんだよ!ここはオレと逃げるのが、正解ってヤツなんだよッッ!」

伊達「……」

伊達「なぁ、富澤さんとか言うのか…?」

(静かな口調で話し出す伊達)

伊達「ヒーローって、そういうんじゃねーって思うんだよ」

伊達「誰かに認められたいとか、褒められたいとか……強いから戦う、弱いから戦わない、とかよ……」

伊達「ただ、戦わなきゃならねー場面があるから、戦うんだ。」

伊達「ま、オレがヒーローなんて柄じゃねーってことは、よく分かってるさ。ここに来たのだって、本当はアンタと同じ……故郷の仕事がなくなって、少しでも食べる口にありつけねーかと思って、だったんだよ」

伊達「でも、もうやるしかねーんだよ。ここでまた、あの時みたいに逃げたら……ヒーローどころか、自分が本当に許せなくなっちまうからな」

(掴まれた腕を、ゆっくりと外す。力なく見上げる富澤)

伊達「ま、オレが勝手にやることだ。アンタは逃げな」

伊達「……これからは、ネトゲはほどほどにしておきなよ?」

(にやりと笑って歩み出す伊達に、富澤は肩を震わせているが)

富澤「……っ」

富澤「ま……待ってくださいよッ!」

伊達「ああん?いい加減にしろよ、もう時間がねぇんだって!」

富澤「そうじゃないですよ」

富澤「あんたみたいなデブの鈍足じゃ、アイツに近づく前に踏み潰されるだけ。時間稼ぎにすらなりゃしませんって」

伊達「おまえ何でここまで来てdisってくんだよホンットに腹立つなぁぁ!」

(構わずに書類をめくる富澤)

富澤「……このプロフィール、趣味特技の欄に”野球(強打)”って書いてありますけど、ウソじゃないっすよね?」

伊達「……お、おう。昔高校野球やってたんだよ」

富澤「ここに前のヒーロー試験の時から放置されてる体力テスト用の砲丸があります」

(がれきの中に潜り込み、泥だらけになりながら砲丸を掘り出す富澤)

富澤「この砲丸をボールにして、その金属の棒でかっとばせば、アイツに命中させるぐらいのことはできるかもしれないっしょ」

伊達「なるほど飛び道具ってわけか……!よし貸せ!」

富澤「バカですかアンタ」

伊達「はぁ?」

富澤「野球のボールじゃねーんですよ。こんなもん自分でトスして自分で打てるわけないでしょーが」

富澤「オレがトスして、アンタが打つ。コンビ組んでやるしかないでしょ?」

伊達「コンビって……んな事したらおまえだって逃げられねーだろうが」

伊達「おまえが言ったんだぞ。絶対に死ぬって」

富澤「っはぁぁー……」

(わざとらしく溜息をつく富澤)

富澤「オレって、ホントついてないっすよね……これまでの人生も、いつも目立たない地味な役どころばっかりっつーか、貧乏クジ引いてばっかりっつーか……せっかくの仕事もクビにされるし」

伊達「おう、割と自業自得だけどなそれは」

富澤「せめて可愛い女の子でも守って死ぬんならともかく、こんなみっともない腹のオヤジと一緒とか、今までの中でも最低最悪っす」

伊達「だからそれはおまえもだよ!」

富澤「でも、なんつーのかなぁ……何だか今、心ん中が青空みてーに晴れやかで……これからが、オレの人生の敗者復活戦なんだぞ!みてーな、すげー爽やかな気持ちなんす」

富澤「一丁やってやりましょう、伊達さん!」

伊達「……よぉし!来い、富澤ッッ!」

(砲丸を投げ上げる富澤)

(空振りする伊達)

(砲丸を投げ上げる富澤)

(空振りして、足に砲丸が落ちて悶絶する伊達)

(砲丸を投げ上げる富澤)

(空振りして、みぞおちに砲丸がめりこんで悶絶する伊達)

(砲丸を投げ上げる富澤)

(空振りして、股間に砲丸が命中して悶絶する伊達)

(砲丸を投げ上げる富澤)

(砲丸を投げ上げる富澤)

(砲丸を投げ上げる富澤)


伊達「っていい加減にしろこのバカ!!」

(富澤をどつく伊達)

伊達「ちゃんとタイミング合わせろよ!見ろ!まだ敵と戦ってもいねーのにもう満身創痍なんですけど!?」

(ガクガクになった自分の足を指さす伊達)

富澤「アンタこそ一回ぐらい当てろよ!本当に特技強打なんだろうな?ウソついてねぇか?」

伊達「な、なななわけねぇだろうが」

富澤「つか、すげー体頑丈っすね。ふつう死ぬでしょ」

伊達「まあ、世界観的に、多少は体鍛えてたってことでな?」

(巨大な足音が次第に遠ざかっていく)

伊達「あっやべー、このくだりで尺使い過ぎた!もうあのヤロウ、サイボーグさんの目の前まで移動してるじゃねーか!」

富澤「くそっ……やっぱり敗者復活戦なんか、ロクなもんじゃねー!」

伊達「……」

(覚悟を決めた表情で、ゆっくりと構えなおす伊達)

伊達「──最後の打席だ、投げな富澤」

富澤「今度こそホントに決めろよクソッ!」

伊達「当たり前だろーがよ」

伊達「ヒーローじゃない、ただのモブのオレらだって……」

伊達「例え誰にも注目されない、忘れられていくだけの存在だって……」

伊達「起こせるってことを証明してやるぜ……せいぜい……」

伊達「敗者復活戦からいきなり、優勝もぎ取っちまうぐらいの奇跡だったら、なぁ!」

(カキーン、と痛烈な打撃音が宙を裂く)

(少しの間の後、それとは対照的に、ドスッという地味な打撲音が聞こえてきた)

(目の前に手をかざして見守る二人)

富澤「……当たったっすね」

伊達「……おう、後頭部に見事命中したわ」

富澤「……こっち、向いたっすね」

伊達「……目ぇ血走らせてんな。ありゃぁ滅茶苦茶怒ってるぜ」

(ズシーン、ズシーン……という足音が次第に大きくなり)

(ズンズンズンズンッ!と走る音に変わる)

伊達「えーと……とりあえず目的は果たしたな。やったじゃねーか」

富澤「そんなんどうでもいい!死にたくねぇぇぇー!」

伊達「や……やっぱりオレも、死にたくねぇぇぇー!」

(再び、大の男二人が抱き合って震え上がる非常に見苦しい構図)

(その前を、轟音を立てて突風が吹き過ぎていく)

伊達「な、なんだ、今の?」

富澤「マント姿のハゲが……」

伊達「スーパーの袋持って走ってった……」


(一瞬後、固い拳が分厚い肉を粉砕するような、凄まじい衝撃音が響き渡った)

(衝撃波で破壊された壁の向こうで、上半身を吹き飛ばされた怪人の巨体が倒れていく)

(やがて完全に崩れ落ちると、雲一つない青空から太陽の光が差し込んで来た)

伊達「……なんかよくわかんねぇけど、勝った……のか?」

富澤「サイボーグさんがやっつけてくれたんすかね?やっぱS級はさすがだなぁ……」

(へたり込む二人に、怪人の脅威が終わったことを告げるサイレンが聞こえる)

(最後に、本日のヒーロー認定試験は災害発生のため中止になることが放送された)

伊達「やれやれ……また試験、受け直しってか」

富澤「アンタこんな目にあってもまだヒーロー目指す気ですか?」

伊達「いや、正直言ってこんなんオレ一人じゃ荷が重いわ」

伊達「だから……」

(ぐい、と富澤の肩に、伊達の腕が回される)

伊達「おまえ、オレとコンビ組んで、一緒にヒーローやってくれや!」

富澤「はぁぁ!?お、オレもっすか!」

伊達「二人だったら、何だかやれそうな気がすんだよ。な?」

富澤「……」

富澤「ちょっと何言ってんだか分かんないwww」

伊達「なんで何言ってるか分かんねえんだよ!ここは流れに乗って来いよ!」

富澤「ったく……しょうがねぇなぁ」

富澤「どうなってもしらねーぞ?」

伊達「ははは……まあ、やるだけやってみようぜ」

(向き合い、握手する二人)

伊達「S級みたいに格好良くはいかねーかもしれねぇけど」

伊達「オレらはオレらなりに目指してみようぜ……ヒーロー道ってやつをよ!」


富澤「あ、だったらアレ決めないといけないんじゃね?」

伊達「アレ?」

富澤「ほら、コンビ名みたいなやつ」

伊達「コンビ名か……そうだなぁ……」

(後日)

(認定試験に再挑戦しC級ヒーローとして合格した伊達と富澤は、その後の地道な活動ぶりが認められ、ヒーロー協会からコードネームを贈られた)

富澤たけし→『サンドウィ』C級〇〇位

伊達みきお→『ッチマン』C級〇●位



伊達「ってそこで切るのかよ!読みにくいわ!大体なんでオレの方が後半なんだよ!」

富澤「あ、でも”サンドウィ(巻き舌)”って言うと、”Shall We?”みたいな感じでちょっとおしゃれじゃね?www」

伊達「どうでもいいわそんなん!オレなんか既に街の子供に『エッチマン』『エッチマン』って指さされて笑われてんだぞ!『エ』を付けんじゃねーよクソガキ!」

伊達「あー、もういいぜ」

伊達・富澤「ありがとうございましたー!!」


(揃って礼をする二人)

(暗転)




(──かすかに聞こえてくる、遠雷のような拍手──)

・終わりです

・読んでくれた方、レスくれた方さんくす

・この物語はフィクションです。作中の人物名は実在する人物とは何の関係もありません

・ワンパンマンはアニメ好評放送中、単行本好評発売中

・サンドウィッチマンのライブDVDも好評発売中

・元々は伊達さんの方が真面目で富澤さんの方が不良だったらしいね、面白い(Wiki知識)。

・ワンパンもサンドも好きだから書いてて楽しかった

・後デレステの通知出ないようにする方法知ってる人いたら教えてください……


・サイタマさんェ……

・小島さんはそんなハゲてないだろ!やめてさしあげて

・すまんsage忘れた

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