メイド「逝ってらっしゃいませ、ご主人様」(16)

男「きみは僕をどこに行かせる気だ? さっきからその物騒なものをこちらに向けて」

メイド「ご想像にお任せいたします」

男「想像したくないよ! そ、その包丁で僕を殺すつもりだろ」

メイド「殺しはしません。死なない程度にじわじわと痛めつけます」

男「もっといやだよ!!」

男「なにが目的なんだ。僕の持ってる金か、地位か?」

メイド「ご主人様の苦悶に満ちた表情です」

男「お願いだからやめてください!!」

メイド「冗談はさておき、そろそろ時間ではないのですか?」

男「ああ、そうだったね」

メイド「さすがは上流階級。気楽なご身分ですこと」

男「茶化さないでくれ。僕だって好きでやってるわけじゃない」

メイド「あ、街へお出でになるのならついでに買い物をお願いします」

男「それはきみの仕事だろう?」

メイド「いやです。スカートに汚れがつきますから」

男「変なところで女らしいんだな」

メイド「あら、なにかおっしゃいましたか?」ギラリ

男「い、いってきまーす!」

男(僕って尻にしかれてるなぁ……)

奴隷「ご主人さまー!」トトト

男「やあ、奴隷ちゃん。これから街に出るんだけどなにか欲しいものはある?」

奴隷「そそそそんな滅相もないです! 奴隷の分際でご主人さまにお願いだなんて!」

男「ははは、遠慮しないでいいよ。奴隷ちゃんのお願いなら僕は喜んで引き受けるから」

奴隷「……いいんですか?」

男「いいよいいよ。いつも頑張ってくれてるんだから、たまにはご褒美をあげないとね」

奴隷「えっと……じゃあパンを」

男「パン? ほんとにそれでいいの?」

奴隷「はい、弟たちがお腹を空かせて待ってますから」

男「どうせならもっとおいしいものを……」

奴隷「あまり高価なものはご主人さまに悪いですから」

奴隷「ご主人さま、ありがとうございました! 弟たちもきっと喜びます」ペコッ

男「グスッ……」

奴隷「……ご主人さま?」

男「ごめん、目頭に熱いものが……」

男(なんていい子なんだろう)ズビッ

男(せっかくだから他のみんなの分も聞いておこう)

コンコン

男「料理人さーん、ちょっといいですかー?」

<あいよー!入んなー!

男「しつれいします」ガチャッ

料理人「ボウズ、いいところにきたな。ちょうど料理ができあがったところだ」

料理人「さあ、早速感想を聞かせてくれ」

男「今ですか? できればあとにしてほしいんですけど」

料理人「ダメダメ! 料理は出来立てが命なんだ。ほら、あきらめてパクッといったいった」

男「パクッ」

料理人「どうだ?」

男「外はカリッとしてて、中はフワッとした食感! 噛むとあふれ出てくるジューシーな旨味! これはうまい!」

料理人「そりゃよかった。作った甲斐があったぜ」

男「この料理はなんという名前なんですか?」

料理人「タランチュラのフライだ」

男「ぶぼっ!!」

料理人「おいおい、だいじょうぶかよ」

男「げほっげほっ!! あ、あなたは人になんてものを食べさせるんですか!」

料理人「そんなに怒ることないだろ。旨かったんだろ?」

男「そういう問題じゃありません! もっと普通のものを作ってくださいよ。普通のものを」

料理人「いいじゃねえか。普通のものばっかり作ってると、たまにはこういう変わり種にも挑戦してみたくなるんだよ」

男「今日の夕食はくれぐれもまともなものをお願いしますよ」

料理人「がはは、わかってるって! 安心しな!」

料理人「ところでボウズはオレに用があったんじゃないのか?」

男「はい、街に出るんですけど料理人さんはなにか必要なものありますか?」

料理人「そうだな、オオカミの肝をお願いしようか」

男「市場に売ってるものにしてください」

料理人「ったく、冗談だよ。そんなににらむなって」

料理人「じゃあ、コショウを頼むぜ。切れかかってるんだ」

男「わかりました」

料理人「頼んだぜ!」

男(最後は庭師ちゃんか。お、いたいた)

男「庭師ちゃん、ちょっといい?」

庭師「…………」チョキチョキ

男「庭師ちゃん?」

庭師「…………」チョキチョキ

男(あちゃー、集中モードに入っちゃってるか)

男(時間は……まだまだ余裕だな)チラッ

男(待ってみるか)

・・・・

庭師「……ふぅ」

男「終わった?」

庭師「ご主人さま?」

男「やあ、庭師ちゃん」

庭師「いつからいたの?」

男「ちょっと前からだよ」

庭師「声かけてくれてもよかったのに。その……だまって見られるのははずかしい」

男(一応かけたんだけどね)

庭師「ご主人さま、わたしに用?」

男「うん、街に行くからなにか欲しいものがあったら言ってよ」

庭師「ほしいもの……」

庭師「…………」

庭師「考えてるから……待ってほしいの」

男「うん、いいよ。ゆっくり考えて」

庭師「…………」

庭師「……あ」

男「思いついた?」

庭師「うん。あのね、新しいお花が欲しいの」

男「えっと……花っていろいろ種類あるけどどうしよう?」

庭師「それはご主人さまが選んで」

男「僕が? 僕、そこまで花に詳しくないんだけど」

庭師「難しく考えなくていいから。ご主人さまがきれいだと思ったお花を選べばいいの」

男「ほんとにそれでいいの?」

庭師「うん。わたし、ご主人さまが選ぶお花、興味ある」

男「はは、わかったよ。でもあんまり期待しないでね」

庭師「ううん、期待して待ってるから」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年08月02日 (火) 03:26:03   ID: 3jf_Mot_

短すぎる

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom