――おしゃれなカフェ――
北条加蓮「秋だねー」
高森藍子「秋ですねー」
加蓮「秋刀魚とか食べた?」
藍子「一昨日に食べました。加蓮ちゃんは?」
加蓮「今夜ー。魚って骨が鬱陶しいよねー」
藍子「確かに、食べづらいですよね……。取ってくださいって頼んでみたらどうですか?」
加蓮「だから私は子供じゃないんだってば。それくらい自分でやるよ」
藍子「もし私だったら、頼まれる前にやっちゃうかも……? 加蓮ちゃんに怒られちゃいそう?」
加蓮「怒る怒る」
藍子「あはっ、ごめんなさい」
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――まえがき――
レンアイカフェテラスシリーズ第12話。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
~中略~
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「あなたの声が聞こえる席で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で にかいめ」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「いつもの席で」
お久しぶりです。間が空いちゃってごめんなさい。
加蓮「藍子はお母さんになったら過保護になるタイプだ」
藍子「お母さんにですか……?」
加蓮「うんうん。子供とか怒れないタイプでしょ」
加蓮「ほら、例えば……カフェで子供が騒いでたりしたら、藍子だったら怒れる?」
藍子「…………うーん」
藍子「…………あはは……」
加蓮「ねー? 絶対、子供ができたら溺愛するって」
藍子「そ、そんなこと言うんだったら加蓮ちゃんはどうなんですかっ。怒れるんですか?」
加蓮「ふふん。私をナメちゃ駄目だよ藍子。これでも公園で喧嘩してた子供を仲直りさせたことだってあるんだからね」
藍子「おおー」
加蓮「…………最後には結託して2人まとめて私にべちべち叩いてきて来たけど」
藍子「……何したんですか」
加蓮「いやほら、こーいうのって外に敵を作って協力させたらいいかなーって思って……」
藍子「…………」
加蓮「その、持ってたオモチャをね? …………いや壊してないからね!? あと一応、顔見知りみたいな物だからね!?」
加蓮「いくら私だって初対面の子のオモチャをどうこうしないよ!? ほら、ケンカばっかりしてるとこれ持ってくぞー的な!」
藍子「いや、そうじゃなくて……あ、でも」
加蓮「でも?」
藍子「加蓮ちゃんって、自分を悪者にするのが得意そうですよね」
加蓮「えー、そっかな」
藍子「今のお話だって……仲直りさせるのに、自分を悪者にして、なんて。私には思いつきませんから」
加蓮「そっかぁ」
藍子「あんまり、自分を悪者にしないでくださいね?」
加蓮「いやいや、いいんだって。自分のお陰で解決できたー、とか思えちゃって。ちょっと上からって感じになっちゃうけどね」
藍子「もうっ。それで悲しむ人がいるって、いっつも私が言ってるのに。加蓮ちゃん、ぜんぜん聞いてくれませんっ」プクー
加蓮「あれ、怒らせちゃった。むー。いいじゃん。解決してんだから、過程とかどーでも」
藍子「嫌です」プクー
加蓮「私がいいって言ってるからいーのっ!」
藍子「私が嫌だって言ってるから嫌なんですー!」
加蓮「私のことなんだから藍子なんて関係ないでしょー!」
藍子「…………」
加蓮「アイドルのことでもないんだし別に私は嫌な思いなんてしてないんだし解決してるんだからいいでしょ、うっさく言わないで――」ハッ
藍子「…………」
加蓮「…………」
藍子「……あんまり、自分を傷つけないで――自分を傷つけること、言わないでくださいね?」
加蓮「…………うぁー」
加蓮「私さー」
藍子「はいっ」
加蓮「こうして藍子とカフェで会った時って、家に帰ってからたまに後悔するんだよね……もうちょっと言い方なかったか、とか、またやっちゃったとか」
加蓮「…………ごめん」グテー
藍子「…………」
藍子「…………」ナデナデ
加蓮「はわぁ……♪」
加蓮「違う、違うんだ私」ガバッ
加蓮「藍子に甘えてちゃいけないっていうか絶対また同じことやらかす!」
藍子「うーん……私は、甘えられる時には甘えてほしいなって思います。私でいいなら、ですけれど……」
加蓮「…………」
加蓮「……お世話になります」
藍子「はいっ♪」ナデナデ
――10分くらいが経過して――
加蓮「注文をしてなかったんだった」
藍子「注文ですか? ……って、加蓮ちゃん、もう大丈夫……?」
加蓮「平気平気。やらかしたことに1時間2時間悩むのは昔の私だ!」
藍子「家に帰って後悔してるって話だったのでは……」
加蓮「それも昔の私!」
藍子「……ふふっ、よかったです。そういえば今日は、加蓮ちゃん、注文して待ってくれてませんでしたね」
加蓮「…………ごめんなさい」
藍子「ああっ違うんです! 責めてるとかじゃなくて……」
加蓮「だ、大丈夫、あはは……到着したのちょっと遅かったからさ、藍子が何食べたいかなーって考えてたら藍子がにゅって現れちゃった」
藍子「にゅ?」
加蓮「あ、今の可愛い」
加蓮「藍子のゆるふわ能力が感染しつつあるね。気をつけなきゃ」
藍子「加蓮ちゃんもゆるふわしましょうよ、ゆるふわ」
加蓮「森の妖精の格好をしろって? いや私にはどうやっても似合――」
加蓮「……あ、近いことやったよこん前」
藍子「ドリームLIVEフェスティバルの時のですよね。お疲れ様です、加蓮ちゃん」
加蓮「お疲れ。あのフェスすっごく楽しかったなぁ……加蓮ちゃん、ついにお空の上に進出か!? なーんて」
加蓮「……悪かったわねぇキャスト候補にすら選ばれてなくて!」
藍子「私も加蓮ちゃんと同じですよ。いつか行ってみたいですよね、ファンタジーの世界」
加蓮「凛だけずるいー」
藍子「未央ちゃんがよく楽しそうにお話するから……」
加蓮「あ、そうだ。フェスって言えばさ、奏がさ」
藍子「?」
加蓮「すごい嬉しそうだった」
藍子「はぁ……そうなんですか?」
加蓮「うん。シンパシー感じたって言ってた」
藍子「奏さんって、あのすごくミステリアスで素敵な方ですよね?」
加蓮「うんそー。ミステリアスの塊で有名な。いっつも不敵に笑ってたり、大人の余裕……って言うのかな? 大人って言っても私の1個上なんだけどさ」
加蓮「だけどあのLIVEの後、すっごい楽しそうだったんだ」
藍子「へえ……きっと加蓮ちゃんが大活躍したからですよ♪」
加蓮「いや、あれはなんだろ……そういうんじゃなくて、なんか仲間を見つけた時の顔って言うのかな……」
藍子「……?」
加蓮「うん、ちょっと思い出したってだけ」
藍子「あはっ。奏さん、いつかお話してみたいなって思ってたんです。撮影の出来上がりを見る度に、どうやったらこんな雰囲気が出せるんだろうって……。あの時のLIVE会場にいたんですか?」
加蓮「…………」
藍子「探しておけばよかったなぁ……。あっ、そうしたら私、いつも加蓮ちゃんがお世話になってますって言うんです♪」
加蓮「…………なんかさ」
藍子「え?」
加蓮「なんか……なんだろ、まあいっか……」
藍子「な、なんですか急にっ。そんなこと言われたら私まで気になっちゃうっ」
加蓮「ごめん忘れて。あー、それで奏がねすごい嬉しそうで……いいや、やっぱやめ」
藍子「えええっ。どうしたんですか? 何か、秘密にしてないといけないことを思い出したとか?」
加蓮「そんなんじゃないよ。ほら藍子。注文しなきゃ注文。せっかくだし藍子も私に何か注文してよ。ほらほら、加蓮ちゃんは何を食べたがってるでしょーか?」ニコッ
藍子「も、もうっ。メニューメニュー……」パラパラ
加蓮「…………」
藍子「う~~~~ん」チラッパラッ
加蓮(……なんか嫌だったっていうか、それこそ喉に骨でも突き刺さったっていうか。今はそんなことないし、ま、いっか……)
藍子「はいっ、それでお願いします」
加蓮「お願いしまーす」
藍子「…………店員さん、いつもの方でしたね」
加蓮「あれ絶対に狙ってるよ、私たちが注文するタイミング。呼んだらすごい勢いで来るもん」
藍子「ほんと、すごい勢いでいらっしゃいましたよね。常連さんになったみたいで、ちょっぴり嬉しいかも♪」
加蓮「みたいっていうか常連まんまじゃん」
藍子「でも、全メニュー制覇まではまだまだ遠いですね……」パラパラ
加蓮「メニューの入れ替わり激しいよね。次に食べたいって思ってたらいつの間にか表から消えてるし」
藍子「ありますあります。もっと早く食べておけばよかった、なんて」
加蓮「藍子でもあるんだ。うわー、食べたいと思ってたのに! この悔しさはどこへぶつければ!」
藍子「じゃあ、そうですね……カラオケで発散しちゃいましょうっ♪」
加蓮「カラオケかー。30分したら私は聞き専になるけどよろしいでしょうか」
藍子「も、もう少し頑張ってみませんか……?」アハハ
加蓮「ん、いや、ほらさ。30分くらいしたらこう……波? っていうか、あーちょっと疲れたなーってなるのよ」
加蓮「そのまま他の子が歌ってるの聴いてたら、気づいたら時間が来てました」
藍子「あ、それちょっと分かっちゃいます。みなさんの歌を聴くの、けっこう楽しいですよね」
藍子「でもちょっと意外かも? 加蓮ちゃん、マイクを握ったら離しそうにないイメージですけれど」
加蓮「え? もちろんもう1つのマイクを常に持って乱入のチャンスを窺うけど?」
藍子「やっぱりっ」
加蓮「しかしアイドル仲間とカラオケに行くと誰も彼もガチすぎてちょっかい出す余裕がないんだよねー」
藍子「あっ、それちょっと分かります」
加蓮「ん? 藍子も人が歌ってるところにイタズラ仕掛けるタイプ? うわーそうは見えなかっ」
藍子「違うって分かって言ってますよね?」ジトー
加蓮「……おかーさん、最近、藍子が私の心を見透かしてきてちょっと悔しいです」
藍子「もうっ。ずっと一緒にいたらさすがに分かりますよ?」
加蓮「ちくしょー…………微妙に嬉しい自分にムカつく」
藍子「…………♪」
加蓮「藍子にもムカつく」ビシビシ
藍子「いたいいたいっ」
藍子「えっと……そうじゃなくて、みなさん歌が上手だから、ちょっと自分に自信がなくなっちゃったり……それに、そういう時に限って未央ちゃんが歌うのを難しい歌を入れたりしちゃって」
加蓮「ふんふん」
藍子「結局は、未央ちゃんと一緒に歌うことになるんですけれど……。茜ちゃんも乗ってきて、なんだかわいわいやっちゃって」
加蓮「いーなー楽しそう。トラプリで行ったら基本いつの間にかガチの歌勝負になっちゃうからこう、ワイワイってやってるのいいなー」
藍子「凛ちゃんも奈緒ちゃんも歌がすっごく上手ですよね。私、実はずっと昔から、凛ちゃんを目標にしてるんですっ」
加蓮「えー、凛より私を目標にしてよ」
藍子「加蓮ちゃんも、私の目標ですよ」
加蓮「ありがとー」
加蓮「あとは……奏と行ったらもう下手なレッスンよりレッスンっぽくなっちゃうし……美嘉莉嘉くらいが一番気軽に行けるかも? もちろん凛や奈緒とか奏と行くのも楽しいけどね」
加蓮「猫兎コンビは無理だ、ついてけない。30分どころか10分でギブ」
藍子「ねこうさぎ?」
加蓮「みくちゃんと地球外生命体」
藍子「後ろの誰ですか!?」
加蓮「え? 永遠の17歳だけど?」
藍子「ああ……って、菜々さんって呼んであげてくださいよっ」
加蓮「菜々さん」
藍子「菜々さん!」
加蓮「……いやまあそれでもいいんだけど、正直さ……菜々ちゃんって呼んであげないと、こう、なんていうか……」
藍子「あっ……あ、あはは、そうですね! そうですよね! ええっと、菜々ちゃ……菜々ちゃ……」
藍子「…………17歳ですから菜々"さん"でもおかしくありませんよね!」
加蓮「ああ、うん、まあね……」
藍子「あ、あは、あはははは……」
加蓮「菜々ちゃんっていえば、『メルヘンデビュー!』はもうガチすぎて乱入も一緒に歌うのも絶対無理」
藍子「私はどちらかといえば、歌うことがちょっとお恥ずかしいかも……」
加蓮「ソロで歌うだけなら吹っ切れればいけるって。よし、今日から藍子のボーカルレッスンをやってあげよう」
藍子「レッスンですか? カラオケじゃなくて?」
加蓮「目指せ『メルヘンデビュー!』から『お散歩カメラ』のコンボ」
藍子「……………………」
加蓮「無言で口の端を引き攣らせるほどか……。まあほら、どんな歌だって思いっきり歌えばいいでしょ?」
加蓮「思ったんだ。自信が持てないなら持てるようになればいいじゃんって」
藍子「それは、そうかもしれませんけれど……」
加蓮「大丈夫大丈夫。私が指導してあげるから♪」
加蓮「教えるのが得意って訳じゃないけど、こう……なんていうかな。自分の歌に不満とか不安があって、もしあの時にこんな練習をしていれば、こんな提案をしていればって後悔することがあって」
加蓮「でも私って身体がポンコツじゃん? 後悔したところでやりようがないんだよね」
加蓮「だから私の代わりに藍子がやる。これでどう?」
藍子「うーん……。加蓮ちゃんが、こういう練習をしておけばって思ったことを、加蓮ちゃんが提案して、私がやる……ってことですよね」
加蓮「そんな感じー」
藍子「それなら私にもできるかな? でも加蓮ちゃん、いつも自分に厳しいから、そんな加蓮ちゃんが後悔してるレッスンって……」
藍子「ううっ、想像しただけでちょっぴり怖いっ」
加蓮「いやいや同じアイドルじゃん。そりゃぶっ続けで5時間くらいレッスンできたらもっとアイドルとして上手くやれてるんだろうなーとか思うことはあるけど、」
藍子「5時間!? そんなにしたら倒れちゃいますっ」
加蓮「あくまで理想だよ。集中力だってそんなに保たないだろうし……何で見たんだったっけな。1時間しか保たないんだっけ、1時間30分しか保たないんだっけ……」
藍子「学校の授業は50分ですよね。それくらいなのかな……?」
加蓮「かも。そうと分かりつつ、5時間レッスンできてたらもっとレベルの高いところにいけてたかも……って思ったりしない?」
藍子「うーん…………ごめんなさい。私、そういうところでは加蓮ちゃんにぜんぜん勝てなくて」
加蓮「そっか。ま、私がワガママってだけだし、無理なことに憧れすぎってだけなんだけどね」
加蓮「や、ほら、そんな身体でアイドルなんて無理ってもう耳タコなくらい言われてて、それを覆したんだからさ。無理なことでもやればできる! とか思っちゃって」
加蓮「実際できないんだけどね」アハハ
藍子「ふふっ。でも、こうできたらいいなって夢を見るのは、私も好きです」
藍子「次はどんなステージがいいかな、とか、どんな歌が歌いたいかな、って。加蓮ちゃんほど高い理想は持っていないかもしれませんけれど……私は、控えめなくらいでいいんですっ」
加蓮「藍子は控えめすぎだって何回も言ってるじゃん私」
藍子「あはは……ごめんなさい。でもそれなら、私だって加蓮ちゃんにいろんなことを何回も言ってて、でも加蓮ちゃんはぜんぜん聞いてくれてませんっ」
加蓮「藍子が先に言うこと聞いてくれたら私も言うこと聞くんだけどなー?」
藍子「加蓮ちゃんが先に言うことを聞いてくれたら私だって頑張ってみますもんっ」
加蓮「藍子」
藍子「加蓮ちゃん」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「……ぷぷっ」
藍子「あはっ」
藍子「もう、加蓮ちゃんはしょうがないですね」
加蓮「む」
藍子「じゃあ、まずは私が頑張るので、加蓮ちゃんも頑張ってみてください。えっと、自分をあまり悪く言わないこと、自分を悪者にしないこと、あと、自分を好きになってあげることっ」
加蓮「い、一気に畳み掛けて来たね。藍子は1つだけなのになんかズルじゃない?」
藍子「なら、私にも何か別の課題をください。それで加蓮ちゃんとお揃いです♪」
加蓮「課題ねー。課題、課題か……」ジー
藍子「…………」ニコニコ
加蓮「……。……あ、店員さんこっち来てる。とりあえずさ、食べようよ」
藍子「そうしちゃいましょうかっ」
加蓮「カレー」
藍子「カレーです」
加蓮「うん。……え? 何? じっと見て。食べさせてほしいの? それならもっと早く言ってくれれば――」
藍子「あ、そういうことではなくて…………もしかしてこれって、辛口、ですか?」
加蓮「とびきり甘くしてって私が頼んだの藍子だって聞いたでしょ? 私はともかく店員さんが騙し討ちとかしないって」
藍子「ですよね。じゃあ、いただきますね、加蓮ちゃん」
加蓮「はいはーい。ところで藍子」
藍子「あむっ…………あ、ホントに甘い……♪ それに、お肉に味が染みこんでて……人参も、柔らかくて美味しいっ♪」
藍子「あ、ごめんなさい加蓮ちゃん。何ですか?」
加蓮「……しばらく幸せな顔してなさい。後でいいから」
藍子「???」
加蓮「私の注文を聞いて、じゃあお揃いで、って私の分のカレーを注文するのってズルじゃない? って話」
藍子「もぐもぐ……ごくんっ。たまにはいいじゃないですか。お揃いっ」
加蓮「ふむ……」
加蓮「……あ、店員さん店員さん。これ辛くすることってできる? いや作りなおせってことじゃなくてさ、こう、辛くなる元のパウダーとかそういうの……ある?」
藍子「!?」
加蓮「あるんだ。中辛を注文したけどもっと辛いの食べたいなーって思っちゃって。うん、持ってきてもらえると嬉し――いやそんなに急がなくてもいいから」
藍子「加蓮ちゃんのばかーっ」
加蓮「さて藍子。甘口と中辛ならともかく、甘口と激辛だとお揃いとは言えないと思うけど……それでもお揃いにこだわるなら方法が1つあるよ」
藍子「そ、それは何ですか?」
加蓮「今から店員さんが持ってくるパウダーを藍子のカレーにも思いっきりかける」
藍子「…………!」
加蓮「ふふっ。さて藍子ちゃんはどうするのかな? 舌が真っ赤になってもお揃いにしちゃう? それとも諦めて好きな味のカレーを食べる?」
藍子「う、うぅぅ……加蓮ちゃんのばか、加蓮ちゃんのばかっ」
加蓮「ふっふっふー。1度効いたからって繰り返してもね、それを馬鹿のひとつ覚えとか過去の栄光って言うんだよ」
加蓮「私ともあろう物が藍子から不意打ちなんてもう2度と受けてたまるものかっ」
藍子「ばかっ。……加蓮ちゃんのそういうとこ、ちゃんと付き合うって決めましたけど……私、たまに加蓮ちゃんが何がしたいのか、分かんなくなっちゃいますっ」
加蓮「なんにも。ただ困らせてケラケラ笑ってるだけだよ。ね? 性格悪いでしょ?」
藍子「…………」ジト-
加蓮「だーかーら、私ってそういう奴なんだって。ほら店員さんやってきた。さあ藍子、決断の時――」
藍子「…………ううっ」
加蓮「だよ……って、あ、あれ? おーい店員さーん。ポケットに小瓶を入れて……え? パウダーはなかった? ……待ってちょっと待って待ちなさい今ポケットに突っ込んだでしょねえ、ねえちょっと、同じ常連の差別ってよくないと思うな私。ねえ、ねえちょっと」
藍子「…………」グスッ
加蓮「あ、待って藍子、ごめん、泣くくらい困るとは思わなくて! ……ちょ、こら、店員! 一礼して去ってくな! あとはごゆっくりじゃない! 菩薩みたいな笑顔やめろ!」
藍子「…………」グスグスッ
加蓮「藍子も泣かないでよ! ……もー! もおおおおおおおお!」
加蓮「…………落ち着いた?」
藍子「はいっ……その、ちょっと考え過ぎちゃって、あはは……すみません、加蓮ちゃん」
加蓮「こっちこそごめん……でもホントだよ。なんかすっごく納得いかないんだけど……」
藍子「加蓮ちゃんだって悪いんですよ? 加蓮ちゃんだって、すっごく甘いフルーツとか用意されたら困っちゃいませんか?」
加蓮「だって藍子が食べてくれるし」
藍子「……もうっ!」
加蓮「いやでもさ、藍子だってそうすればいいじゃん」
藍子「体があんまり強くない人にそんなことできないです!」
加蓮「え。…………あれ、あ、そっか」
藍子「もうっ」
加蓮「うーん……」モグモグ
加蓮「……ちっちゃい頃にできなかったことをさ、藍子相手にならできると思ったんだ」
藍子「……?」モグモグ
加蓮「前に……いつだったっけ。藍子が最初に膝枕をしてくれた時かな? ほら、外で遊ぶこととか、同い年の子とどーでもいい話題で盛り上がることとか」
加蓮「同い年ってのがポイントだよ。私の周り、17歳とか15歳とかばっかりだし」
藍子「そうでしたっけ? ええと……あっ、確かに歌鈴ちゃんは17歳ですね」
加蓮「待て。なんで最初にあのドジっ娘の名前が出てくるのよ。私といったら普通は凛とか奈緒でしょ」
藍子「凛ちゃんや奈緒ちゃんのお話はさっきしましたから。奏さんのお話も」
加蓮「ウサミンは?」
藍子「……………………」
加蓮「ウサミン」
藍子「…………だって加蓮ちゃん、誕生日パーティーの時に歌鈴ちゃんと楽しそうにお話してたからっ」
加蓮「あ、強引に来た」
藍子「やっぱり気が合うんだっ、って。見てるだけなのに、ちょっぴり嬉しくなっちゃって♪」
加蓮「あー、まぁ、その……」
加蓮「……最初にさ、冗談交じりで言おうとしたんだ。藍子がいつも世話になってるけど藍子のことは渡しません、って」
藍子「あれ本当に言うつもりだったんですか!?」
加蓮「いやだってムカつくじゃん? どこの誰か知らない相手に藍子を取られるのって」
藍子「歌鈴ちゃんはどこの誰か知らない人じゃないですっ。アイドル仲間なんですよ!?」
加蓮「そんなこと言われても。ま、ちょっと聞いてよ」
加蓮「そうしたらさ、藍子がいつも世話に、って言ったあたりでいきなりさ。私もです! って歌鈴が叫んで」
藍子「ふむふむ」
加蓮「たぶん歌鈴、藍子"が"じゃなくて藍子"に"って聞き間違えたんだろうね。私が藍子の世話になってるんだって思ったらしくて……いやまあ間違いじゃないけど」
加蓮「そっから藍子がどんだけいい人でどれくらい世話になってるか延々語り出すもんだから、ついムキになって反論したんだ。私の知ってる藍子の話をありったけぶつけてみたら」
加蓮「なんか握手を求められた」
藍子「あ、握手?」
加蓮「まあ、握手しようとしたらすごい強張ってて、どういう訳か思いっきり転んでたけど。握手しようとして転ぶ人なんて初めて見たよ私」
藍子「はあ…………歌鈴ちゃん、大丈夫でした?」
加蓮「いつもだから慣れてるって言ってたよ、笑いながら」
藍子「あはは……」
加蓮「また今度、藍子のことで話そうって誘われててさ。お陰で友達と予定が1人増えました。ありがとね、藍子」
藍子「どういたしまして? え、あの、私のお話……?」
加蓮「うん」
藍子「歌鈴ちゃんと?」
加蓮「うん。いやあの子は実際すごいと思うよ。藍子のことをあんなに言葉を変えて語りまくる人とか、っていうか他人をあそこまで褒めることができるのってさ、私にはできない……どころじゃないよ。できる人を見たことないよ私。歌鈴が初めてだ」
藍子「…………あの」
加蓮「ん?」
藍子「いや、ええと、その」モジモジ
藍子「……///」テレテレ
加蓮「ふふっ。でも正直、歌鈴から懐かれてるって自覚はあるでしょ」
藍子「それは、まあ、ちょっとは……」
加蓮「ね、藍子。藍子のことが好きな人も必要としてる人もいっぱいいるんだよ。いっつも自分は何ができるかって言ってるけどさ」
加蓮「たぶんそーいうんじゃないんだって。ね?」
藍子「そうなのでしょうか……。……ううん、きっとそうですよね。ファンの方も、いつも待ってたって言ってくださって……ううん、でも、私なんかで……」
加蓮「……私も大概だけど、藍子も重症だね」
藍子「うう、こればっかりは。今でも時々、自分がアイドルだって信じられなくて……信じられないっていうか、大丈夫かな、夢じゃないかななんて思ってしまって」
加蓮「そか。信じられなくなったら言ってよ。ドギツイのかましてあげるから」
藍子「…………」コクッ
加蓮「……カレー、食べないと冷めるよ?」
藍子「えっ!? た、大変ですっ、冷めたらきっと美味しくなくなっちゃい――」パクッ
藍子「…………~~~~~っっ!?!?」(水をひったくるように手に取る)
藍子「熱いじゃないですか! すっごく熱いじゃないですか!!」ナミダメ
加蓮「い、いや、食べないと冷めるって言っただけで急いで食べろなんて一言も……あーはいはい私が悪かったですもうそれでいいです」
藍子「うぅ……べろ、赤くなってませんか?」ベーッ
加蓮「ちょっとだけ。すぐ治るよ」
藍子「もぅ……」ゴクゴク
加蓮「さーて何の話だったっけ。秋刀魚が美味しい話?」
藍子「そこまで戻るんですか?」
加蓮「あ、違う違う。ほら、私の周りに16歳があんまりいないってお話」
藍子「そういえば、そこから歌鈴ちゃんの名前が出てきたんですよね。……うう、思い出したらまた顔が赤くなってきちゃう」
藍子「他にいませんでしたっけ。16歳、16歳……」
加蓮「いないことはないけど、思い出してみたら1つ上とか1つ下ばっかりでー……別に1つ上でも1つ下でもいいんだけどさ、ほんのちょっとだけ気になるっていうか」
藍子「分かります分かりますっ」
加蓮「そーゆーことで、ま、藍子相手にだと色々なことができる気がして……ちっちゃい頃にできなかったこととか。だって藍子が何だって付き合うって言うし」
加蓮「ほら、あれじゃん。好きな子を困らせて喜ぶーってヤツ。うん、アレ。小学生男子的な」
加蓮「困らせてもどうせ無駄だし、なんて考えてた頃もあるしさ。ある意味、小学生になった気分かも。普通の小学生にね」
藍子「そうなんですか……」
藍子「それなら付き合ってはあげたいですけれど、加蓮ちゃんの言うこと、私には刺激が強すぎて」
加蓮「やっぱそうだよねー。見た目は子供、頭脳は大人、ただし精神はガキ……なーんてっ。大人の知識があってガキのイタズラ心があったら、それもうただの面倒なヤツでしょ」
藍子「大変そうですよね」
藍子「ごちそうさまでした。カレー、すっごく美味しかったですっ」
藍子「ほらほら、加蓮ちゃん? カレー、食べないと冷めちゃいますよ?」
加蓮「……いや普通に熱いよこれ」モグモグ
藍子「ふふっ♪」
藍子「ごめんなさい。ちょっとだけイジワル、したくなっちゃいました!」
加蓮「ヌルいヌルい。やるならもっとやらないと」
藍子「だから、私は控えめなくらいでいいんですっ♪」
加蓮「課題どうこうって話はどこ行ったのよ……」
藍子「えへへ。すみませーん。ええと、コーヒーをお願いします。加蓮ちゃん……は、食べ終わった頃にココアを届けてあげてください。……はいっ! お願いします!」
藍子「ん~~~~っ」ノビ
藍子「……ふふっ♪」
加蓮「何、嬉しそうに」
藍子「なんだか楽しくなっちゃって。どうしてでしょうね……あははっ♪」
加蓮「どしたの急に。パッショングループっぽくはっちゃけたくなっちゃった?」
藍子「パッションアイドル高森藍子、今日も頑張って弾けちゃいますよーっ」
加蓮「弾けちゃえ弾けちゃえ」
藍子「きゃはっ! とか……うう、これはやっぱりちょっと恥ずかしいっ」
加蓮「あ、今の録音してウサミン星人あたりにでも送りつけてやればよかったかも。恥ずかしいって部分込みで」
藍子「…………やってませんよね?」
加蓮「さー、どうだろーねー」モグモグ
藍子「やってませんよね!? 今のはホントにちょっとだけ恥ずかしくて……!」
加蓮「あ、そーだ、Pさんにメールを――」
藍子「やめてーっ!!」
加蓮「……ふふ。冗談冗談。録音なんてしてないってば」リョウテヲアゲル
藍子「ほ、ホントですよね? してませんよね? 実は後からとか――」
加蓮「してほしかった?」
藍子「違いますからーっ!」
加蓮「あははっ。うん、やっぱり藍子はこうでなきゃ」
藍子「ばかーっ。加蓮ちゃんのばかーっ」プクー
おしまい。読んでくださり、ありがとうございました。
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