神谷奈緒「嵐の影響でPさんと一夜をともにすることになった」 (40)

アイドルマスターシンデレラガールズのSSです。
武内Pではないです。

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あと、「一夜をともにする」と言ってもそういうことをするわけではないのであしからず


――事務所

奈緒「……Pさん」

P「ん?」

奈緒「……外、すごいな」

P「そうだな」

奈緒「――って、本当、どうするんだよこの状況!?」

P「どうすることもできない、が正解だな。外は大嵐で出たら危険。雨に風に雷に、さらには停電でろくに設備も使えない。まあ、こんな時のためにある程度の備えはあるが……ん、できたぞ」

奈緒「どうしてPさんはそんなに落ち着いてられるんだよ……あ、ありがと」

P「慌ててもどうにもならないだろ?」

奈緒「それもそうだけどさ……」

P「というか、早く飲まないと冷めるぞ、カップスープ」

奈緒「いや、今飲んだら絶対熱いだろ……」

P「『熱い』って反応、見たいだろ?」

奈緒「性格悪いな!」

P「すまん、冗談だ。確かにある程度なら冷ましてからの方が飲みやすいかもしれないが、身体を温めるためのものなんだ。冷める前に飲んどけ」

奈緒「……言いたいことは色々あるけど、それじゃあ、もらうよ……」ズズ……

奈緒「熱っ……ん、でも、おいしいよ、Pさん。その……ありがと」

P「そうか。じゃあ俺も安心して飲めるな」

奈緒「なっ……! あたしを実験台にしたのか、Pさん!?」

P「人聞きが悪いな。そうだが」

奈緒「……Pさんって、本当、そういうところあるよな。直した方がいいと思うぞ。凛や加蓮にやったら絶対に怒られるからな」

P「心配するな、こんなことをやるのは奈緒だけだからな。特別だ」

奈緒「こんなことで特別扱いされても嬉しくないんだけど……」

P「奈緒がからかったらかわいいのが悪い」

奈緒「……本当、ずるいよな、Pさんは」

P「本音を嘘偽りなく言っているだけだ」

奈緒「そういうとこだよ、ばか」

P「……うん、やっぱりかわいいな」

奈緒「……うるさい」

P「かわいい」

奈緒「もー! そろそろやめろよ! さっきのところで終わっとけばもうちょっと良い感じだっただろ!?」

P「いや……一回くらいは怒鳴られないと変な感じがしてな……いつもより優しかったから」

奈緒「あたしが優しくて何か問題か!? というか、あたし、Pさんに優しくないって思われてたのか!? いや、確かにいつもはあんな感じだけどさぁ……」

P「いや、いつも優しいと思うんだが……いつもは『かわいい』とか言ったら、『な……! かわいい、って、Pさん、それを言えばいいって思ってるだろ。そんなんじゃ、許してやらないからな!』とか言いながら許してくれるだろ? それが今回はなんかしっとりした感じだったからな……まあ、それもかわいかったんだが」

奈緒「……」

P「ん? なんだ?」

奈緒「いや……Pさんのするあたしの物真似が思った以上に、その、キモかったから」

P「……そうか」

奈緒「……うん」

P「……なんか、ごめんな」

奈緒「あたしの方こそ、キモいとか言っちゃってごめん」

P「……どれくらいキモかった?」

奈緒「凛と加蓮の前で言ったら『キモ……』って軽蔑されると思う」

P「それ想像するだけで泣きそうになるんだが……もうやらないことにする」

奈緒「うん、そうした方がいいと思う」

P「そういや、奈緒、携帯はどうした?」

奈緒「あんまり使うとすぐに充電がなくなるだろ? だから置いてる」

P「そうか。じゃあ、見ない方がいいかもしれないな」

奈緒「え? なんでだ?」

P「凛と加蓮から『プロデューサー、奈緒と何してるの? 奈緒、全然反応しないんだけど』って通知があってな……」

奈緒「……今反応しとかないと後悔しそうなんだが、いやでも、絶対に質問攻めにあうしな……というか、めちゃくちゃからかわれそうだ」

P「まあ、一言くらいは反応してもいいかもしれないけどな。『ごめん、充電切れる』って」

奈緒「おお、Pさん、さすがだな。悪知恵が働いてる。さっそく、そうするよ」

P「悪知恵って……まあ、悪知恵か」

奈緒「……よし、っと」

P「終わったか?」

奈緒「うん……通知は鳴り止んでないけど」

P「……まあ、そうか」

奈緒「通知、切っとくね」

P「一応、な。……でも、ご家族と連絡はとれるようにしとけよ?」

奈緒「うん。わかってる」

P「……というか、年頃の娘とこんな男が、だからな。さぞ心配されてるだろうな……近々、謝りに行かないといけないな」

奈緒「大丈夫だよ、Pさん、信頼されてるから」

P「……そんなに話したことはないはずだが」

P「いや、何も言わせようとしたつもりはないが……」

奈緒「……そ、そうだな。ごめん」

P「謝らなくてもいいが……まあ、気にするな」

奈緒「うん……本当、どうしてあたしはいっつもこうなんだろ」

P「俺はそのままの奈緒でいいと思うけどな」

奈緒「あたしが気にするんだよ……」

P「そういうもんか」

奈緒「そういうもんなの」

P「でも、俺が見ている限り、昔よりはだいぶマシになってきているような気がするけどな。うん」

奈緒「それはPさんだからだろ? 他の人には、まだ……」

P「他の人にも、だよ。自分のプロデューサーくらい、信じてくれてもいいんじゃないか?」

奈緒「……それじゃあ、信じる、けど」

P「ああ。ありがとう」

奈緒「……感謝するのはこっちの方だけどね」

P「俺は手助けしかしてないさ。前に進むのはいつだってお前たちが自分の力でやってることだよ」

奈緒「その手助けに感謝してるんだよ。それくらい、Pさんならわかってるだろ?」

P「……じゃあ、どういたしまして、か?」

奈緒「うん……って、なんでこんな話してるんだ、あたしたち!」

P「さあ?」

奈緒「薄暗くて、二人きりで、良い雰囲気だからって……あー! もう! 停電さえなければアニメでも見れたのにー!」

P「確かにな。せっかくだから俺も奈緒と徹夜でアニメを見て、語り合いたかった……いつでも見れるように、結構デスクに忍ばせてたのに……」

奈緒「デスクに? ……それ、ちひろさんにバレたらまずいんじゃないの?」

P「大丈夫だ。ちひろさんもデスクに色々隠してるからな。互いのデスクは触らないって暗黙のルールがある」

奈緒「……そんなこと言われたらちひろさんのデスクに何があるのか気になってきたんだけど」

P「奈緒、一つだけ言っておく。絶対にやめた方がいい。俺は一度見たことがあるはずなんだが、その後の記憶がない」

奈緒「なんだよそれ! めちゃくちゃこわいんだけど!」

P「俺もこわかった……でも、それをちひろさんに聞くことなんてできないからな。それから、俺は絶対にちひろさんのデスクに触らないことを誓ったんだ……だから奈緒、ちひろさんのデスクには絶対に触らない方がいいぞ」

奈緒「……うん、わかった。絶対に触らない」

P「本当に、絶対だぞ? たとえこれが俺の吐いた完全な嘘だってことがわかっても単純にプライバシーの問題があるから触るなよ?」

奈緒「うん……って、嘘かよ!?」

P「嘘に決まってるだろ。アニメの世界じゃあるまいし」

奈緒「確かにそうだけど……でも、ちひろさんだし、そもそもこの事務所には非常識な存在が結構居るじゃん。Pさんの語り口調もなんか本当っぽかったしさー。たぶん、ウチの事務所の結構な数のアイドルが騙されると思うぞ?」

P「そうか? なら、他のアイドルにも……と思ったがちひろさんにバレた時本当に何が起こるかわからんからやめとこう」

奈緒「うん。その方がいいと思う」


――

P「……なんか、トイレに行きたくなってきたな」

奈緒「……Pさん、年頃の女の子の前でそういうこと言うか?」

P「そうだな。……じゃあ、行ってくる」

奈緒「んー」

奈緒「……」

奈緒「……なんか、ひとりになったら、いきなり外の音が聞こえるようになってきたな……やっぱり、すごい雨なんだな」

奈緒「雷の音も聞こえるし――ひゃっ!」

奈緒「……ち、近くに落ちたな……」

奈緒「……」

奈緒「……Pさん、早く帰ってこないかな……」


――

P「ん、遅くなったな」

奈緒「Pさん!」

P「ん? どうした、奈緒……もしかしてひとりで心細かったのか?」

奈緒「なっ……そ、そんなんじゃないけど!?」

P「マジでそうなのかよ……大丈夫か? 女子高生」

奈緒「違うって言ってるだろ!?」

P「いや、だって、わかりやすいから……」

奈緒「……くそぅ、なんでPさんはそうなんだよぉ……」

P「俺としては、なんで奈緒はそうなのかって感じだがな……まあ、今の奈緒もかわいいがな!」

奈緒「こんなんでかわいいって言われても嬉しくないんだよ!」

P「本当に嬉しくないのか?」

奈緒「……うるさい、ばか」

P「……かわいい」

奈緒「だあああ! だから! うるさいっての!」


――

奈緒(……なんか、あたしもトイレに行きたくなってきたな)

奈緒(でも、Pさんにそれを言うのは……でも、それじゃあなんて言ってここを離れたらいいんだ? ……電話、そうだ、電話だ! 家族に電話するって名目で出たらいいんだ!)

奈緒「な、なあ、Pさん?」

P「ん? なんだ?」

奈緒「ちょ、ちょっと、あたし、家族に電話するね、一応」

P「電話か……それじゃあ、俺も話させてもらおうかな。ちゃんとお詫びを言わないといけないからな」

奈緒「え゛!? い、いや、べつにいいよ」

P「だが……」

奈緒「と、とりあえず、部屋の外に出てくね! 付いて来なくてもいいから! じゃ!」

P「おい、奈緒――」

バタン

奈緒「……ふー、なんとか誤魔化せたか? まあ、とにかく、トイレ、に……」

奈緒(……真っ暗だ)

奈緒(いや、懐中電灯を持ってきたから明かりはあるんだけど……それにしても、暗いというか、何と言うか……めちゃくちゃ雰囲気あるというか)

奈緒(……ここをひとりで、か……)

奈緒(……)


バタン

奈緒「Pさん。ごめん、その……お、お花を摘みに、行きたいだけど」

P「は? 電話は――あっ……そういうことか」

奈緒「……そういうことだよ」

P「……うん、まあ、確かにな。俺も正直ちょっとこわかったからな……」

奈緒「……ごめんね」

P「いや、漏らされた方が困るからな」

奈緒「……うん」

P「えっ、いや、今の突っ込むところだったんだが……もしかして、結構ヤバい?」

奈緒「……言わせんなよ」

P「……早く行くか」

奈緒「……うん」


――

奈緒「よ、よし、ここでいいよ。ここまでありがと、Pさん」

P「……本当にいいのか?」

奈緒「いいって。というか、女子トイレの中に入るつもりだったのか?」

P「……まあ、奈緒がいいならいいんだが」

奈緒「もう……さすがに大丈夫だよ。じゃあ、待っててね」


――

奈緒(まったく、Pさんは心配性だなぁ……さすがに、トイレまで来たら大丈、夫……)

奈緒(……いや無理だ。こわい。さっきまでより断然こわい。絶対出る! こんなところ、絶対出るって!)

奈緒(で、でも、さすがに女子トイレまで入ってきてもらうのは恥ずかしいし……というか、さっきあんなことを言っておいて、っていうのもアレだし……)

奈緒(……よし。覚悟を決めろ、あたし。用を足して、出るだけだ。さあ――)


――ピチャン

奈緒「ひゃあ!?」

P「どうした、奈緒!」

奈緒「え?! い、いや、なんでもない! なんでもないから!」

P「え? そうか? ……それじゃあ、まあ、いいか」

奈緒「……やっぱりよくない。ごめん。入ってきて」

P「……わかった」


――

奈緒「付いて来てもらって言うのもなんだけど、絶対、イヤホン付けててよね!? 大音量で聴いててよね! 音漏れするくらいの音量で!」

P「わかってるよ……というか、そこまで気にすることか?」

奈緒「気にするだろ、普通! ぴ、Pさんに、音を聞かれるかもしれないとか……そんなの、恥ずかしすぎて死んじゃうし!」

P「……まあ、そこまで言うなら付けるがな……」

奈緒「絶対だからな!」

奈緒(うぅ……どうしてこんなことに……とりあえず、早く済ませよ……)


――

P「……ん、もう終わったか」

奈緒「うん……あ、早く! 早く出て!」

P「は? そこまで急ぐことでもないんじゃ……」

奈緒「いいから! 早く――あ、手を洗わなきゃ」

P「……なんなんだよ」

奈緒(……『におい』が、とか、そんなの言ったらPさんも気にしちゃうかもしれないから言えないんだよ!)


――

P「……とりあえず、もう、寝るか」

奈緒「そうだな……仮眠室?」

P「そこくらいしかないしな……あー、気になるなら俺は他の場所で寝るが」

奈緒「べつにいいよ。確かに気になるけど……い、嫌じゃ、ないし」

P「……そうか」

奈緒「そうなの! もう、早く寝よ! Pさんも明日は朝から忙しいんだろ! あたしも早いし!」

P「むしろ奈緒の方が早いだろうな……じゃ、寝るか」

奈緒「うん」


――

奈緒(――と思ったけど、寝れるわけないじゃんか!)

奈緒(うー……Pさんを変なところで寝かせるわけにはいかないし、あたしがソファとかで寝るって言ったら絶対にダメって言われるから仮眠室にしたけど……す、すぐ側にPさんが居て、寝るなんて……緊張して眠れないに決まってるだろ!)

奈緒(ぴ、Pさんは……)チラッ

P「……スー……スー……」

奈緒(寝てる……くそぅ、なんか、悔しいな……意識してるのはあたしだけ、か)

奈緒(――って、何思ってるんだあたし! そういう意味じゃない! そういう意味じゃないからな!)

奈緒(……でも、Pさん、寝る時はこういう顔をするんだな)

奈緒(前は見られただけで、結局、見るのは初めてだけど……)

奈緒「……これが、Pさんの寝顔、か」

奈緒(……ぐっすり、寝てるな)

奈緒(いつも頑張ってくれてるんだよな……あたしたちのために、普段から、頑張ってくれてる)

奈緒(……そりゃ、寝るよな。寝れる時に寝ないと、身体、壊すしな)

奈緒「……本当、身体は大事にしてよね」

奈緒(……なんか、Pさんの顔を見てたら、胸があったかくなってきたな)

奈緒(あたしも、寝ないとな)

奈緒(……でも、最後に、これくらいはしても……いい、よね)

パシャッ


――翌朝

奈緒「……ふわ」

奈緒(ん? ここ、は――)

P「起きたか、奈緒」

奈緒「……P、さん? ……Pさん!?」

P「ああ、俺だな」

奈緒「ちょ、ちょっと、寝起きだから! 今、寝起きだから、見ないでー!」

P「寝起きって……その顔もかわいいぞ?」

奈緒「うるさい!」

P「……朝から奈緒のかわいい姿が見れるなんて、最高だな!」

奈緒「だーかーらー! なんなんだよ! もー!」


――駅

奈緒「……ごめんね、送ってもらっちゃって」

P「いや、俺も始業時間までは暇だからな……じゃあ、行ってらっしゃい」

奈緒「……うん、行ってくる。Pさんも、お仕事、がんばってくれよ」

P「ああ。奈緒のエールをもらったら、がんばらないわけにはいかないからな」

奈緒「もう……じゃ、また、夕方に、ね」

P「ああ。また、夕方に」


――電車

奈緒「……」

奈緒(昨日、撮った、これ……待ち受けにしたら、さすがに、な)

奈緒(……黙って撮ったのは悪いけど、やっぱり、良いな)

奈緒「……へへっ」

奈緒(――って、今、あたし、笑ってた!? 電車の中で、ひとりで携帯見て笑うって……なんだか恥ずかしくなってきた)

奈緒(……でも、やっぱり、良いよな、これ)

奈緒(……宝物、できちゃったな)



【おまけ】

――事務所

奈緒「おはようございま――」

凛「おはよう、奈緒」ガシッ

加蓮「いきなりでなんだけど、ちょっと聞きたいことがあるんだよねー」ガシッ

奈緒「」

奈緒(……忘れてたー!)

凛「大丈夫、あんまり時間はとらせないから」

加蓮「まあ、場合によっては、長くなっちゃうかもしれないけどねー」

奈緒(……ぴ、Pさん、助けてくれー!)


――

P「……クシュッ」

ちひろ「風邪ですか? そう言えば、奈緒ちゃんと一緒だったってことは、寝る場所も……」

P「いや、きちんと仮眠室で寝ましたよ」

ちひろ「? それじゃあ、奈緒ちゃんはどこで寝たんですか?」

P「そりゃ仮眠室――あ」

ちひろ「……プロデューサーさん?」

P「……で、でも、ちひろさん、俺が仮眠室で寝なくても怒るし奈緒を仮眠室以外で寝かせても怒るでしょ?」

ちひろ「そうですけど……まあ、プロデューサーさんと奈緒ちゃんなら間違いは起こらないでしょうが、注意して下さいね?」

P「はい……」

ちひろ「でも、風邪じゃなかったら何だったでしょう。寒いですか?」

P「いえ、大丈夫です。まあ、誰かが俺の噂をしてたってことで……じゃあ、そろそろ行きますね」

ちひろ「トライアドプリムスの仕事、ですか?」

P「はい。付き添いに」

ちひろ「……すっごく質問責めされそうですけど」

P「……はい」

ちひろ「……頑張って下さい」

P「……はい」



終わりです。奈緒がかわいいだけのSS……のつもりです。奈緒のかわいさの1%でも表現できていれば幸いです。

読んで下さってありがとうございました。

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