多田李衣菜(……暇だなぁ) (19)
――事務所
李衣菜「……」
P「」カタカタ
李衣菜「……」ジー
P「」カタカタ
李衣菜「……Pさん」
P「なんだ?」
李衣菜「退屈です」
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P「ロックでも聴いてろ」
李衣菜「それ、ちょっとひどくないですかー?」
P「俺は仕事してるんだよ」
李衣菜「アイドルのケアもプロデューサーの仕事の一つだと思うけどなー」
P「今のお前にケアがいるか?」
李衣菜「いりますよー。こんなに退屈だったら、私、岩になっちゃいます。『ロック』だけに」
P「……お前、それ、誰の影響だ? 未央か?」
李衣菜「ひどくないですか? それ、私にも未央ちゃんにも悪いですよ」
P「大丈夫だ。未央はもっと上手い」
李衣菜「私だけに悪かった!?」
P「……というか、本当、仕事してるんだよ。邪魔するな。ねぇ、ちひろさん」
ちひろ「どうして私に振るんですか……というか、そこまで急ぎの仕事でもないんですし、李衣菜ちゃんに構ってあげればいいじゃないですか」
李衣菜「そうですよ! 急ぎじゃないなら私に構ってくれてもいいはずです!」
P「……俺は夏休みの宿題は早めにやる主義なんだよ」
ちひろ「それでも、休憩は必要だと思いますが」
P「李衣菜に構うのが休憩になると?」
ちひろ「なるでしょう? あなたのかわいいアイドルなんですから」
P「……今日のちひろさん、なんか冷たくないですか?」
ちひろ「素直じゃない人にはこれくらいの扱いで十分では?」
P「……わかりましたよ」
李衣菜「……よくわかりませんでしたけど、ということは?」
P「ああ。ちょっと休憩だ。お前の退屈を晴らす手伝いをするよ」
李衣菜「やったー!」
李衣菜「で、何やります?」
P「決めてなかったのかよ……」
李衣菜「退屈ってだけでしたから」
P「せめて決めてから言えよ……」
李衣菜「えへへ……Pさんと一緒に何かしたいって思ったら、口が勝手に動いちゃいました」
P「……それも未央か?」
李衣菜「? 何がですか?」
P「いや、いい……無意識だったら、なおさら、だな」
李衣菜「……よくわからないですけど、なつきちも同じようなことを言ってたような」
P「夏樹にも同じようなことやってるのかよ……あいつも苦労するな」
李衣菜「苦労ってなんですか。確かにロックのことではお世話になりっぱなしですけど……それ以外のことではむしろ私がお世話してると言っても過言ではないんですよ?」
P「それは……あー、なんとなくわかる。アイツ、そういうとこあるからなぁ……」
李衣菜「まあ、そういうところもカッコイイんですけどね! ロックです!」
P「……お前、実は夏樹に甘いよな。夏樹もお前に甘いけど」
李衣菜「なつきちは結構厳しいですよ? この前もギターの練習でみっちり仕込まれましたもん」
P「その光景も想像つくが、それでも甘いだろ」
李衣菜「えー……」
P「みっちり仕込んでる時点で、な。ギター、上達してるんだろ?」
李衣菜「……」
P「は? ……お前、マジか?」
李衣菜「いっ、いや! 上達してますよ! そりゃ、まったく弾けないってことはないですよ!? 私だって練習は続けてますからね。うん、上達してます。間違いなく」
P「……今度夏樹に聞いてもいいか?」
李衣菜「えっ……そ、それはちょっと、もうちょっと待ってくれたら嬉しいかなー、って」
P「……」
李衣菜「ほ、他の話! 他の話に移りましょう!」
P「……わかった。で、他の話って言っても、なんだ? 夏樹の話か? お前、夏樹の話かロックの話ばっかりするからな……」
李衣菜「……そんなにしてますか?」
P「してるしてる。夏樹も割りとお前の話をするが……本当、お前らは仲が良いよな。ウチの事務所でもトップクラスに仲が良い」
李衣菜「そ、そうですか? ……えへへ、なんか照れますね」
P「……否定せずにむしろ嬉しがるのか」
李衣菜「え? だって、嬉しいじゃないですか……否定するべきでした?」
P「いや……李衣菜はそのままでいいと思うぞ。その方が李衣菜らしい」
李衣菜「それ、皮肉ですか?」
P「李衣菜らしくて魅力的だってことだ」
李衣菜「……そうですか。なら、良かったです」
P「うん」
李衣菜「はい」
P「……」
李衣菜「……」
P「……何か言えよ」
李衣菜「いや、その……恥ずかしくて。それに、喋らなくても、そこに居るだけで落ち着ける、みたいな関係、ロックじゃないですか?」
P「……まあ、ロックかもな」
李衣菜「でしょ? Pさんがそこに居てくれるだけで、なんだか、心地良いんです」
P「じゃあ、仕事していてもよかったんじゃないか?」
李衣菜「それは……あれ? 確かにそうですね」
P「そうなのかよ」
李衣菜「確かにPさんの仕事している姿を見ているだけでも、私、結構幸せなんですよ。でも……あ」
P「どうした?」
李衣菜「わかりました。私、見るよりも見られたいんです。Pさんには、私を見ていて欲しいんです」
P「……アイドルらしい言葉だな」
李衣菜「だって私、アイドルですから」
P「……うん、そうだな。アイドルだ」
李衣菜「あ、でも、Pさんには見られるだけじゃなくて、一緒に見たいっていう気持ちもありますね……うん? それじゃあ、私、どうしたいんだろう? なんか、わからなくなってきた……」
P「そこでブレるのかよ……お前、さっきの言葉で止めておけば相当ロックだったぞ……」
李衣菜「えぇー!? じゃ、じゃあ、今の無し! 無しでお願いします!」
P「いや、ダメだろ……まあ、なんか締まらないのも李衣菜らしいと言えば李衣菜らしいけどな」
李衣菜「それ、アイドルとしてどうなんですか?」
P「締めるところは締めてるし、べつにこのままでもいいんじゃないか?」
李衣菜「……まあ、Pさんがそう言うなら、いいですけど」
ガチャ
夏樹「おはようございます――っと、Pさんとだりー……あとちひろさんだけか? 珍しいな」
李衣菜「あ、なつきち。おはよー」
P「夏樹か。これで仕事に戻れるな」
李衣菜「え……なんですか、その言い方、まるで私と話すのが嫌だったみたいじゃないですかー」
P「いや、楽しかったよ。いい息抜きになった。でも、さすがにそろそろ、な……」
夏樹「ん? なんだ、だりー。Pさんの仕事の邪魔でもしてたのか?」
李衣菜「邪魔って……べつに、邪魔していたわけじゃ」
P「俺が仕事してると『暇だから構って』って言ってきたんだよ」
李衣菜「ちょ! Pさん、言わないで下さいよー!」
夏樹「なんだそりゃ……だりー、あんまりPさんを困らせるなよ?」
李衣菜「困らせてないよ! Pさんも楽しかったって、良い息抜きになったって言ってたじゃん!」
夏樹「だそうだが、Pさん?」
P「李衣菜の言う通りだが、それってテスト勉強中に『ゲームしよう』って言ってくる奴と同じだよな」
李衣菜「なっ……裏切られた……!」
P「裏切ったつもりはないが……まあ、とにかく、だ。夏樹も来たし、俺はそろそろ仕事に戻るぞ」
李衣菜「むぅ……ここで戻られるとなんだか私が悪者みたいじゃないですかー」
P「あー……じゃあ李衣菜は悪くない。むしろ李衣菜と息抜きできたことでこの後の仕事も頑張ろうって思えてきた、ってことで」
李衣菜「ならいいです」
夏樹「いいのかよ……チョロくないか、だりー」
P「いいのか……チョロいぞ、李衣菜」
李衣菜「なつきちはともかく、Pさんが言います? せっかく話を切り上げようと思っていたのに……」
P「悪い悪い。じゃ、仕事に戻るよ。夏樹となら退屈しないだろ?」
李衣菜「はい。なつきちとなら朝まで話せますよ!」
夏樹「いや、朝まではアタシも勘弁してほしいんだが……」
P「ま、夏樹も頑張ってくれ」
夏樹「Pさんも、仕事、頑張って、な」
李衣菜「……なんか私が厄介者みたいに扱われているのが気になりますけど、付き合ってくれてありがとうございました、Pさん。仕事、頑張って下さいね!」
P「ああ、頑張るよ」
――
ちひろ「もういいんですか?」
P「夏樹が来たので」
ちひろ「夏樹ちゃんが……つまり、Pさんはお払い箱という?」
P「それ、割りと傷付くのでやめてくれませんかね……」
ちひろ「冗談ですよ。わかっているでしょう?」
P「冗談じゃないように思える時があるんですよね……李衣菜には夏樹が居れば俺なんて要らないんじゃないか、って」
ちひろ「それ、本気で言ってるんだとしたら、李衣菜ちゃんに怒られますよ? ……そんなこと、あなたがいちばんわかっているでしょうに」
P「……まあ、そうですね。それじゃあ、元気をもらったことだし、頑張りますか」
ちひろ「私はもらってませんけどね」
P「……ちひろさんもご休憩なされてはいかがですか?」
ちひろ「いえ、お気になさらず。……なんか、今日はちょっとお酒を飲みたい気分だなー」
P「……付き合います」
ちひろ「いいんですか? ありがとうございます♪」
P「……何と言うか、ちひろさんには敵いませんね」
ちひろ「何か言いましたか?」
P「いえ、何も」
ちひろ「そうですか。私はPさんに敵いませんけどね」
P「……聞こえてるじゃないですか」
ちひろ「何か?」
P「……いえ、何も」
終
終わりです。特にストーリーもない李衣菜SSを読みたいなあと思って書こうとしたんですがなんかちひろさんに良いところ持っていかれました。悔しい。
読んで下さってありがとうございました。
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