TV『では占いでーす!』
TV『本日最もよい運勢なのは、魚座のあなた! 周りから信頼が寄せられ大成功する一日となるでしょう。ラッキーパーソンは…』
小町「お兄ちゃん! 見て見て、お兄ちゃんっ!」
八幡「なんだよ」
小町「占い! 今日小町1位だよ!」
八幡「お前魚座だっけか。よかったな」
小町「いやー、朝から1位だなんてラッキーだなぁー。さすが占い1位なだけあるよね」
八幡「待て待て、1位だから1位になったわけじゃねぇだろ」
小町「ん?」
八幡「いや、だから占い1位なのはもともと占いが1位だから1位なわけで……なんだこれうまく説明できん」
小町「細かいなーお兄ちゃんは。とにかく小町は今日一日1位なの! 楽しみだなぁー、何が起こるかなぁー?」
八幡(幸せなやつだな)
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八幡「つーか小町、呑気に占いまで見てたけど、学校はいいのか? 歩きならそろそろ出ないと遅刻すんじゃねぇの?」
小町「ちっちっち、今日の小町にはアシがあるのですよ」
八幡「アシって… 中学に送迎の制度でも出来たのか?」
小町「ぶっぶー。そんな、幼稚園じゃないんだから」
八幡「ま、まさか小町、知らないおじさんについて行ってるんじゃないだろうな? アメあげるよとか学校まで車で送ってあげるよとか甘い話にまんまと乗せられてるんじゃないだろうな!?」
小町「ちょっ、小町はそこまでバカじゃないよ!」
八幡「そうか…… よかった……」
小町「心配してくれるのは嬉しいけど、本気でそんな心配されてると思うと逆にちょっと傷つくよ…お兄ちゃん」
小町「それよりさ、いつまでごはん食べてるの? …ていうか着替えてすらないってさすがにマズいと思うなー」
八幡「たまにはいいだろ、そんなゆとりのある休日の朝があっても。なんたってゆとり世代だしな」
小町「ゆとり乙だよお兄ちゃん。そんなこと言ってるから……」
小町「って、あれ? いま『休日』って言わなかった?」
八幡「あん? そうだけど」
小町「もーやだなー、日曜日は昨日だよ? まだ働いてもないのに月曜が憂鬱で曜日錯誤するなんて生意気だよ? お兄ちゃん」
八幡「いや違うから。土曜に校内清掃やらなんやらで全校生徒が駆り出されたぶん今日が代休になったんだよ。言わなかったか?」
小町「……や、やだなー。そんなもっともらしい嘘ついても小町は騙されないゾ☆」パチッ
八幡「かわいいなおい。けど、これはれっきとした事実なんだゾ☆」
小町「お兄ちゃんがやっても全然かわいくないよ。あとその嘘もかわいくないよ? 言い訳してないではやく準備しなさいっ!」
八幡「そう言われてもな…」ズズ
八幡「ふー… 休日のコーヒーは格別にうまいな。妹のちょっとした喧騒ですら味に華を添えるようだ」
小町「やだ、お兄ちゃんちょっとかっこいい…」
小町「…じゃなくてっ! はやく身支度しよお兄ちゃん。いくらなんでも小町遅れちゃうよ」
八幡「は? なんで俺が休日を謳歌するのとお前が遅れるのとが関係あんだよ」
小町「い、いやいや今はそういうのいいから! え? 学校お休みなんて嘘だよね?」
八幡「嘘じゃねぇし。なんなら雪ノ下にでも聞いてみるか?」
小町「えっ……じゃあお兄ちゃん、今日自転車で学校には……」
八幡「だから休みだって。行くわけねぇだろ」
小町「…………」
八幡「んで、結局アシってなんなわけ? 友達の親でも迎えに来」
小町「うわぁぁぁぁん!! お兄ちゃんのバカぁぁぁぁぁいってきまぁぁぁぁす!!!」
ガチャッ バタンッ!
八幡(アシは俺のチャリかよ)
八幡(っつーか占い1位の朝がこれか…… やはり朝のめざ○し占いは間違っている。)
な感じでいきたい
TV『では占いでーす!』
TV『本日最もよい運勢なのは、双子座のあなた!』
結衣「やたっ! 占い1位だ!」
TV『恋愛運が急上昇! 好きな人には積極的にアプローチしてみて』
結衣「…っ!」
TV『ラッキーアイテムは ”ギリギリの服” ! きわどい格好に相手もタジタジに!?』
結衣「……」
結衣(きわどい格好で……積極的にアプローチ……)
結衣(よ、よーしっ! ちょっと今日はがんばってみよう!)
TV『ラッキーパーソンはもちろん、”あなたの想い人”! ひゅぅひゅーぅ爆発しろ』
TV『ちょっ何言ってんだああんうるせぇやってられっかこんなモンおいバカ暴れんじゃねぇストップストップ止めろカメラ止めろ!』
TV『ああ…結婚したい』
結衣「……」キョロ
パカッ
結衣「あ……ヒッキーの上履き……」
結衣「……」
結衣(いやいやいやいや! 変態じゃないしっ!)
結衣(手紙だけ入れて…)
パタン
結衣「……」
結衣(い、いやいやいや、あたしは変態じゃないし?)
八幡(はぁ、月曜じゃなくても休日の次の学校は億劫なもんだな)
八幡「……」パカッ
八幡「……」
八幡(やたらカラフルな手紙が入ってやがる。何の嫌がらせだよ。一応あとで見るか)
八幡「よっと」
トサッ
八幡「……」モソモソ
八幡「あ…?」
八幡(なんか上履き左右逆なんだけど…… 何の嫌がらせだよ)
ガヤガヤ
八幡(この手の手紙を読むとき、ふつうの人間ならば人目を盗むか、教室外でこっそり内容を確認する)
八幡(しかしぼっちにはその必要がない。『えー何その手紙? ラブレター? おい○○ラブレターもらってんぞ!』と叫び立ててくる相手がいないためだ)
八幡(流石にこの奇抜な色の手紙は堂々とまでいかないが、わずかなカモフラージュで十分だろう)
『比歪谷くんへ』
八幡(文字は一応女子っぽいな。それもなんとなく頭の悪そうな)
八幡(っつーか誰だよ比歪谷くんって。イカサマしてる奴みたいじゃねぇか。もしこれがラブレターだったら読む前に燃やして処分するレベルだぞ)
八幡(まあラブレターなんつー可能性は100%ないしな。封筒に差出人の名前が無いってことは匿名希望なんだろうけど、中身を見れば推測くらいは……)ペラ
『ヒッキーへ
大事なお話があります。
お昼休みに部室まで来てください。
こなかったらハリセンボンだからね!
謎の双子座ユイユイXより』
八幡「……」
結衣「……」チラ チラ
八幡「……」チラ
結衣「!!」プイッ
結衣「ひゅ〜ひゅひゅ〜♪」
八幡「……」
結衣「ひゅ〜〜…」チラ
八幡「……」ジー
結衣「!!」プイッ
昼休み 部室前
八幡(さて、このドアの向こうに謎の双子座ユイユイXさんがいるのか…… 何ヶ浜さんなんだろうな一体…)
結衣(最初が肝心、最初が肝心! 勢いよく、積極的にっ!)ドキドキ
ガララッ
結衣「!!」
結衣「や、やっはるぉー!」
八幡「うす」
結衣「…………」
結衣(噛んじゃったぁぁ………)ガクッ
八幡「……もう一回入り直すか?」
結衣「ううん……いい……」
結衣(気をとりなおして! がんばれあたしっ!)
結衣「えと… やっはろーヒッキー」
八幡「そこはやり直すのかよ」
結衣「い、いちおう」
八幡「んで? 大事な話だって?」
結衣「うん…… てゆか、ヒッキーあんま驚かないんだね」
八幡「…なにを?」
結衣「だってヒッキー、ラブレターなんてもらったことなさそうだし?」
結衣「しかもほんとにそこに女の子がいて、しかも、それがあたしで……」
八幡「いや、正直驚いた」
結衣「そ、そっか」
八幡(あの手紙が匿名性保ってると思ってることにな)
結衣「それで……ね? 話なんだけど」
八幡「ごめんなさい」
結衣「あのね、あたし…」
結衣「……へっ?」
八幡「伝わらなかったか? ならはっきり言う。『断る』だ」
結衣「なっ……ちょっ……!?」
八幡「これでも伝わんないとかどうしろってんだよ」
結衣「いやいやいや! あたしまだヒッキーに何も言ってないじゃん!」
八幡「はぁ… 言ってなくても分かるんだよ」
結衣「えっ? う、うそっ」
八幡「お前、俺に告白するつもりだったろ」
結衣「……」
結衣「ぅえええええぇえええ!!?」
結衣「どどどどっ…なっ……なんでっ!? なんで分かったの!?」
八幡「そりゃ分かるだろ」
結衣「う、うそだぁ…」
八幡「嘘じゃねぇから」
結衣(ヒッキー、知ってたの? あたしの気持ち…… しかも今日告白するってことまで……)
結衣(そりゃ下駄箱に手紙入れて、人気のないとこに呼び出して、大事な話があるって…ちょっと告白っぽい流れだけどさ)
結衣(それだけで告白なんてヒッキーは決めつけないだろうし、ここにくるまで相手があたしって分かんなかっただろうし)
結衣「どうして…わかったの?」
八幡「あ?」
結衣「あたしが告白するって…… ヒッキー、ほんとは前からあたしの気持ち知って…」
八幡「……」
八幡「だってヒッキー、ラブレターなんてもらったことなさそうだし?」(裏声)
結衣「!?」
八幡「ラブレター、なんてもらったことなさそうだし?」(裏声)
結衣「……」
結衣「あっ…!」
八幡「そういうこと。さっきお前が言ったんだろ、この手紙がラブレターだって」
結衣「そういえば…」
八幡「たしかに女子からラブレターなんて貰ったこたねぇけど、ラブレターがどういうものかくらい知ってる。だからお前が何を言おうとしたのかも分かるってもんだ」
結衣「うー……」
八幡「ちなみにイタズラブレターを貰った経験はゼロじゃあない」
結衣「へっ? イタズラブレター? なにそれ」
八幡「あれだよ、モテなそうな男子に、他の男子が女子を偽って出すラブレター。言うなればドッキリだな」
八幡「それ以降、俺は二度と同じ手に引っかかるまいと心に決めた。今回だってそうだ、見え透いた罠にいつまでも囚われるのも嫌なんでな」
結衣「…えっ? えっ?」
八幡「『断る』っつったのはその張り巡らされた網を『断つ』って意味も込めてんだよ。我ながらうまく言ったなこれ」
八幡「っつーわけで、掛かる前に先に抜けさせてもらうわ。じゃあな」クルッ
結衣「ちょ、ちょっと待ってよ!」
八幡「空気読むのもいいけど、あんまこういうのに加担しないほうがいいぞ。薄っぺらい嘘は時に肥厚な負の感情を生み出すからな」スタスタ
結衣「待ってってば! ヒッキー!!」
結衣「そーゆーの…正直よくわかんないけど……ヒッキーはあたしがドッキリで告白するって思ったから断ったの?」
八幡「……」
結衣「あたしが……ヒッキーにそんな最低なことすると思ったの? ノリとか冗談で、ヒッキーを傷つけるようなことすると思ったの!?」
八幡「それは…」
結衣「答えてよ、ヒッキー……ちゃんとこっち見てよ」
結衣「あたしは絶対に…そんなことしない。したくない!」
八幡「……どうだろうな」
結衣「っ!」
八幡「……」
結衣「ほんとだもん…」
八幡「……」
結衣「ヒッキー、信じてよ。ちゃんとあたしのこと見てよ。あたしは…ほんとに……ヒッキーのこと…」
八幡「……」
八幡「……悪い、由比ヶ浜。それはどうしても…できない」
結衣「なんで…? ヒッキーはあたしのこと信じてくれないの?」
八幡「いや、そうじゃねぇけど」
結衣「…….」
八幡「とにかく……今はできない」
結衣「それじゃわかんないよ…」
結衣「ちゃんとこっち見て、ちゃんと教えて! ヒッキー!」
八幡「……」
結衣「むーっ…!」
スタスタ
結衣「ねー、ヒッキーってば!」ガシ
八幡「っ!!」ブンッ
結衣「ひゃっ」
八幡「わ、悪い!」
八幡「けど今は……! 本当に悪い!!」ダッ!
タタタタ…
結衣「……ヒッキー………うぅ……」
八幡(すまん、由比ヶ浜、すまん!)
八幡(……けど)
八幡(なんでスカート超短ぇんだよ! なんでボタン3つもあいてんだよ! 上下共に微妙に下着見えてんだよ!!)
八幡(ギリギリのつもりか!? 余裕でワカメちゃんだよばかやろう! おかげで勃っちゃっただろうが!!)
早くも迷走しはじめたぜ
次はゆきのん
できれば明日までに…
TV『では占いでーす!』
TV『本日最もよい運勢なのは、山羊座のあなた!』
雪乃「……」ズッ
TV『ふだんとのギャップに相手がメロメロ! 動物のモノマネなんてしてみてはいかが? そこで、ラッキーアイテムはなんと “ネコミミ”!』
雪乃「……」カチャ
雪乃(なんとなく8chをつけてみたら… 今日は1位なのね)
雪乃(損をするわけではないし、気分も良いけれど、これで一喜一憂して日常の行動を変化させるのは馬鹿げてるわね)
雪乃「……」ズッ
TV『ラッキーナンバーは “8”! ラッキーパーソンは “目が腐った人”! …ってなんですかこれ?』
雪乃「……」ピクッ
八幡(今日は露骨に由比ヶ浜から避けられてたな… 昨日の今日だし当然か)
八幡(あの様子じゃたぶん部活にも来ないだろ)
八幡(っつーことはだ、人気の少ない棟の部室で雪ノ下と二人きり………)
八幡(あるぇー、エロそうな状況なのに全くエロさを感じないぞぉー)
八幡(だって怖ぇんだもんマジで。雪ノ下ももう少し可愛気というか、茶目っ気があればな… いや、ありえねぇし想像すらできんが)
ガララッ
八幡「うす」
雪乃「あら、ごきげんよう」
八幡(まあそうだよな、やっぱ雪ノ下ひとり……)
八幡(…っ!!?)
八幡「…………」
雪乃「……」
八幡「…………」
雪乃「……」ペラ
八幡「…………」
雪乃「……比企谷くん、何を入口でぬぼーっと突っ立っているのかしら?」
八幡「あ、いや…」
雪乃「座ればいいじゃない。そこで立ったまま視界の端に入ってこられるとひどく不快だわ」
八幡「ああ……悪い。座るよ」ガラッ
雪乃「妙に潔いのね。何かあったの?」
八幡「いや別に…… 気にしないでくれ」
雪乃「別に、気にしてなんかいないわ。気に障っただけよ」
八幡「悪い…」
雪乃「……なんだか調子が狂うわね」
八幡「……」
八幡(いやいやいや、調子狂うのはこっちだボケ! …なんて言えねぇ)
雪乃「……」ペラ
八幡(なんで平然と猫耳を装着なさってるんですかねぇ雪ノ下さん……)
八幡(やべぇよやべぇよ… どうしちゃったの? ゆきのんならぬゆきにゃんとか言い出すつもりなの?)
雪乃「……」
八幡(触れるべきなのか? でも雪ノ下が自ら猫耳なんて付けるとは思えねぇし、誰かに弱みでも握られてんなら触れないほうが…)
八幡(いや、あの雪ノ下だぞ。弱みを握られるなんてこと……万が一にあったとしてもみすみす屈服するなんざ雪ノ下らしくない)
雪乃「……」パタン
八幡(可能性があるとすればなんだ? 自発的な線はナシとして、誰かにやらされているとすれば)
八幡(……そうか!)
八幡(目には目を、歯には歯を、雪ノ下には雪ノ下を)
八幡(陽乃さんだ…! 間違いない)
八幡(雪ノ下がこんな奇天烈な行動に出るには、陽乃さんが絡んでいる以外にあり得ない。っつーかそうであってください…)
雪乃「……」フゥ
八幡(発端はわからんけど勝負でもしたのかね。いい加減、姉に踊らされ続ける妹じゃないってことか)
八幡(結局は負けちまって、猫耳をつけるハメになった。まあそんなとこだろう)
雪乃「ん……」ノビ
八幡(けどあれだけ畏怖していた陽乃さんに挑んだんなら、それは成長なんじゃねぇの。お前はよくがんばったよ雪ノ下)
八幡(それに、驚きはしたが……けっこう似合ってるぞ猫耳)
八幡(っつーかほら、格好だけならディスティニーランドにそんなやつらいっぱい居るし。流石に鳴きマネとかされたらドン引きだけどな)
雪乃「……」スゥー
雪乃「にゃあー……」フゥー
八幡「おいィィイイ!!?」ガタッ!
雪乃「なに? いきなり奇声を発しないでもらえる? 比奇谷くん」
八幡「なんだか口頭で伝わらないディスりを感じる… いやそんなのはどうでもいい! なんだよ今のは」
雪乃「今の、とは一体何を指しているのかしら」
八幡「とぼけんな。猫の鳴きマネしただろお前」
雪乃「はぁ… 比企谷くん、前にも言ったかもしれないけれど、目だけでなく耳と脳みそも腐ってきているの? そんなあり得ない話を捏造するなんて」
八幡「あくまでシラを切るつもりかよ…」
雪乃「切ってないわ」
八幡「切ってんだろ」
雪乃「いい加減にしてくれる? 私が切るのは髪と爪とあなたとの縁くらいのものよ」
八幡(こいつ……)
八幡「へいへい。聞き間違いでした。悪かったよ」ガラ
雪乃「わかればいいのよ」
八幡(よくわかんねぇけど、触れないほうがいいっぽいな)ズーン
八幡「……」
八幡(実は本当に聞き間違いだったりしてな。疲れて幻聴が聞こえたとか。どんなハードワーカーだよ俺)
八幡(そもそも鳴きマネ以前に猫耳つけてやがったし…… まさか、これも幻覚か?)
八幡(……もはやそのほうが納得できるぞ。もう一回確かめて…)チラ
雪乃「……」ジー
八幡「どわぁああ!?」ガタッ
雪乃「ちょっと、そんなに驚くことないでしょう」
八幡「驚くわ!」
八幡(顔あげた瞬間に目の前に顔あったらそりゃビビるっつの… しかも雪ノ下の)
雪乃「……」ジー
八幡「な、なんだよ… っつーかいつの間に忍び寄ったんだお前……」
雪乃「癖になってるのよ。音消して歩くの」
八幡「はあ……?」
八幡「まあいい。で、どうかしたのか?」
雪乃「どう、というと?」
八幡「いやわざわざこっち来たんだから何かあんだろ」
雪乃「…? 別に、にゃんとなく見ていただけよ?」ニャン
八幡「はあ? なんだそりゃ」
八幡「……ん!?」
雪乃「今日の比企谷くんは表情豊かで面白いわね。…あ、失礼、滑稽の間違いだったわ」
八幡「待て待て待て、今のは確実に聞こえたぞ。あとそれ訂正後のほうが失礼だから」
雪乃「なんのことかしら」
八幡「またとぼけんのかよ…… だから、『にゃんとなく』って言ったろ今」
雪乃「うわ……」スッ
八幡「引くなよ! 言ったのお前だっつってんだろ!」
雪乃「はぁ。何回も言わせないで。この私がそんな猫みたいな話し方をするわけないじゃない」
八幡「なんで若干上から目線なんだよ」
雪乃「百歩譲って私がそんな風に言ってしまったのだとしても、それは噛んでしまったからとは考えられないの?」
八幡「いや、でもあんな流暢な噛み方聞いたことねぇし」
雪乃「比企谷くん。そういう一方的で融通の利かない思考は社会に出てから妨げとなるのよ? 今のうちに是正すべきだと思うのだけれど」
八幡「くっ…」
八幡(猫耳つけたやつが社会がどうのと講釈垂れやがって…… しかしこうなった雪ノ下は譲らないからな。既に百歩も譲られてるし)
八幡「ま、まあ…そうだな。噛んだだけだよな。よく考えたらお前が猫の鳴きマネなんてするわけねぇしな」
雪乃「当たり前でしょう。あなたを見ているのも飽きたし、定位置に戻るわ」
スッスッスッ
八幡(本当に音消して移動してやがる。ますます猫みたいじゃねぇか)
雪乃「……」ソワ
八幡「……」
雪乃「……」キョロ
八幡(席に戻ったのはいいけど、なんつーか雪ノ下のやつ落ち着きがないな)
雪乃「……」
八幡(いつもは大人しく読書に勤しんでいるってのに)
雪乃「ねぇ比企谷くん。由比ヶ浜さんは今日はお休み? 私のほうには特に連絡が来ていないのだけれど」
八幡「ん? ああ、由比ヶ浜はたぶん来ねぇよ」
雪乃「たぶん? 彼女から来ないと聞いたのではなくて?」
八幡「あー……」
八幡(昨日のことは、なんとなく伏せておいたほうがいいか)
八幡「あれだ、カラオケだよ。三浦たちに半ば無理矢理って感じで。迷ってたみたいだけどあの様子じゃたぶんそっち行ったんたろうな」
雪乃「なるほど、そういうことね」
八幡(まあこんなとこだろ)
雪乃「ふぅん……」
八幡「……」
八幡(そうか、雪ノ下のやつ、それで落ち着きがなかったんだな。いつの間にか大好きになってんじゃねえか)
雪乃「……」
八幡(あんま表情には出ないが落ち込んでるんだろうな。『今日は来ないのね……由比ヶ浜さん』みたいなこと思ってそうだ)
雪乃「……」
雪乃「今日は来ないのね……由比ヶ浜にゃん」
八幡「はいストップ」
雪乃「なにかしら?」シレッ
八幡「もう無理だろ。さすがに無理だろ」
雪乃「主語と目的語が抜けていては理解に苦しむのだけれど。国語しか取り柄がないのならせめてまともに話してくれるかしら」
八幡「国語の成績は別に取り柄じゃねぇよ…」
八幡「っつーか、今度こそ噛んだとかじゃなくて意図的に言ったろ。『にゃん』って」
雪乃「……」ヒキ
八幡「だから引くなよ! お前だお前! お前が言ったんだよ!」
雪乃「…?」ハテ
八幡「小首かしげんな。余計かわいいだろうが」
雪乃「えっ」
八幡「あ……」
八幡「ち、違う! 今のは思わず本音が口にだな…」
雪乃「えっ」
八幡「えっ」
雪乃「……」フイ
八幡(しまった… 何言ってんだ俺…)
八幡「その、悪い…… 忘れてくれ」
雪乃「別に… かわいいと評されて文句は言わないわよ」クルクル
八幡「そ、そうか。よかった」
八幡(なんだよ……てっきりセクハラだなんだで罵倒されるのかと思ったぜ)
八幡(今のご時世、『脚キレイだね』とか女性社員を褒めただけでセクハラ扱いされる上司がいるらしいしな。理不尽にも程があるだろあれ)
雪乃「……」
雪乃「あの、比企谷くん」
八幡「なんだ?」
雪乃「他に何か言うことはないのかしら?」
八幡「は? 何かって、お前に?」
雪乃「ええ。私……もとい、私の容姿…というのかしら」
八幡「なんだよそれ…」
八幡(容姿って… まさか猫耳じゃねぇよな。ふつう猫耳だろうけどな。いまや触れたら最後な気がするからまあ最後に取っておくべきだな)
雪乃「まさか、何もないと言うつもりなの?」
八幡「いや色々あるけど、訴えるとかナシだぞ?」
雪乃「何の話よ… そんなことしないから、あるなら言いなさい」
八幡「わかったよ…… んーと」
八幡「まあ、第一印象は死ぬほど美人だよな」
雪乃「っ!?」
八幡「髪が長くてサラサラで大人びてて、けどそこにぴょんとある二つ結びがなんかグッときて」
雪乃「えっ…」
八幡「顔立ちが端正な上に怖いくらい透き通った肌、おまけに細くて長い手足に収まりの良さそうな肩と腰」
雪乃「あ、あのっ…」カァァ
八幡「非の打ち所がないってのはこういうことを言うんだろうな。まあただ唯一弱点を挙げるとすれば…」
雪乃「ちょっと比企谷くん! そ、そういうことじゃなくて…!」
八幡「あん? 容姿についてだろ?」
雪乃「たしかにそう言ったけれど、そういう意味ではないの!」
八幡「なんか顔赤いけど大丈夫かお前」
雪乃「う、うるさい… 夕陽が映っているだけよ」
八幡(窓の外、余裕でスカイブルーなんですけど)
雪乃「なんというかこう、変化したところを聞いているのだけれど」
八幡「あー、そういう」
八幡(くそっ…褒めちぎる作戦は失敗か)
八幡(変化とか一箇所しかねぇぇぇ… でもやだ怖い…触れたくない)
雪乃「……」
八幡「……」
八幡「そうだな、たぶん前髪をちょっと」
雪乃「切ってないわ」
八幡「……」
八幡「するとあれか、カラーコンタクトを」
雪乃「入れてないわ」
八幡「……」
八幡(ダメだ…… 何か、何かないか? 雪ノ下がちょっとでも変わってそうなところ!)
八幡(実際そうでなくてもいい、雪ノ下が気付いていなくてもいい。何か、変化して納得できそうなところが……)
八幡(…!!)ピコーン
八幡(あった! これだ!)
雪乃「…分からないかしら」
八幡「いや、分かったぞ」
雪乃「…!」
あと少しなのに時間が…
さーせんまた昼に
相変わらずオチはくだらねっす
八幡「なんで気がつかなかったんだろうな、こんな大きな変化なのに」
雪乃「そんなに…違うかしら?」
八幡「ああ。よくよく見たらびっくりだ」
雪乃「そう…」
雪乃(なんだ、見えていないだけだったのね。断腸の思いで猫耳をつけて迎えたというのに、全く触れられないからどうしたものかと思ったわ)
雪乃「こういうのって…ギャップというものらしいのだけれど」
八幡「たしかに、以前とは見違えるほどではあるな」
雪乃「比企谷くんはこういう私も……その…好ましいのかしら?」
八幡「もちろんだ。まあ無くてもいいが、断然あったほうがいい!」キリッ
雪乃「っ…… そ、そうなの」
八幡「世の中の男の多くはそうだと思うぞ。あったほうが確実に有利だ。色々と」
雪乃「ふ、ふぅん。比企谷くんの意見に一般性があるとは思えないけれど… 参考にするわ」
雪乃(世の中はそんなに猫耳愛で溢れているというの…!? 知らなかったわ…)
雪乃(それにしても鈍感なのね比企谷くんは。鳴き真似までしてアピールしていたというのに。まあ、あまりに恥ずかしくて否定してしまったけれど)
雪乃「とにかく、あなたはあったほうが良いと言うのよね?」
八幡「ああ。男に二言はねぇ」
雪乃「……そう」
雪乃(…… 心なしか比企谷くんが格好良く見える…なんてね)
八幡(なんかよく分からんが話が通じてるっぽいな。行ける。このまま押しきろう)
雪乃「……それで?」ガタッ
八幡「あん?」
スタ スタ
雪乃「どう思う…のかしら。まだちゃんと感想を聞けてないわ」
八幡「あ、ああ。そうだっけか」
雪乃「……」スクッ
八幡(!? あ、頭が近い)
雪乃「さ、さあ… 近くで見てどうにゃのかしら?」ニャーン
八幡「あー、うん、やっぱすげぇ胸デカくなったと思う」
雪乃「……」
八幡(あれ? 今こいつまた猫のマネした?)
雪乃「……今、なんて?」
八幡「えっ? その、胸が成長したって話……だろ?」
雪乃「……」
雪乃「ひ、比企谷くん…?」ヒクッ
八幡「えっ!? だ、だから、変わったところって言っただろ!?」
八幡「そんでよーく観察してみて、いや、よく観察しなくても分かるぞ! 急に大きくなったよな! …だよな!?」
雪乃「何を…ぬかしているのかしら……」ゴゴゴ
八幡(あ、はい。全然大きくなんかなってませんよね。分かります)
八幡(いやでもこれなら雪ノ下にとっても喜ばしいことだし、プラセボで切り抜けられる可能性があった! 他に選択の余地はなかった!(錯乱))
八幡「言っただろ、無いよりあったほうがいいって! それにはお前も納得してたじゃねぇか!」
雪乃「誰が胸の話なんてしていると思うのよ…」ゴゴゴゴゴ
八幡(ですよねぇぇぇぇ)
雪乃「比企谷くん……アバラ一本くらい覚悟はいいかしら…? はい or イエス?」
八幡(ノーに決まってんだろ! アバラ一本とか…なくしたらブレードチルドレン、元をたどればイエスだろ。イエスだけど答えはノーだよちくしょう!)
雪乃「……」ゴゴゴゴゴゴゴ
八幡(くそっ、この空気、もう後には退けん!)
八幡(押してダメなら諦めろ? …否っ! 押してダメならもっと押せ!! それが俺の座右の銘だ!!)
八幡「い、いいか雪ノ下! 自分の変化なんてもんは自分が一番気づきにくいんだよ」
雪乃「は…?」
八幡「気づきにくいからこそいつの間にか髪は伸びてるし、太るやつは体重だっていつの間にか増えてる」
雪乃「何を言っているのかしら」
八幡「だからお前の胸だって、お前の気づかないうちに大きくなってんだよ! もっと自分を信じてやれよ!」
八幡「陽乃さんを見ろ、お前にそっくりじゃねぇか! 染色体レベルでお前の胸がデカくなるのは決まってんだよ! なんでそれが分かんねぇんだよ!!」
雪乃「っ…」
雪乃「そうなの…かしら。私は姉さんのように…」
八幡「ああ、なる! っつーかもうなりつつある! 俺が言ったのはそういうことだ!」
雪乃「た、たしかに言われてみると、見かけ膨らみが大きくなっているような…」
八幡「文字通り、自分の胸に聞いてみろ! さあ、手を当てるんだ雪ノ下雪乃!」
雪乃「……」ゴクリ
スッ
八幡(よっしゃ! 勢いに押されて雪ノ下が俺の言うことに従ってる!)
八幡(いける… 実際見た目の変化は皆無だが、元がゼロなんだ。僅かでも本人が変化を感じればそれは無限の可能性の一端に触れたも同然!)
ペタッ…
八幡(加えてこれまでの俺の熱弁、どれほどの説得力があったであろうか)
八幡(陽乃さんを引き合いに出したのもよかった。あの人の名前を出せば雪ノ下はおそらくいやでもなんか今残念な感じの音が聞こえ)
雪乃「ってそんにゃすぐ変わるわけにゃいじゃにゃい!!!!」ネコパンチ!!!
八幡「にゃぶるあっ!!!」
八幡「」チーン
雪乃「ふん。そこでのたれ死ぬといいにゃ」
ガララッ ピシャッ!
八幡「……」
八幡(ゆきにゃん……かわいかったな……ぐふっ)
強引だけどおわり
つぎはサキサキ
この4人以外書いたことないから不安だな…
いろはすが滞ってしまったので先にサキサキだけ
40レスくらいある長い
TV『では占いでーす!』
TV『本日最もよい運勢なのは、さそり座のあなた!』
大志「姉ちゃん! さそり座1位だってさ」
沙希「ん…… 1位か」カチャカチャ
TV『思いがけない出会いに相手と急接近。たまには寄り道して帰るのはいかが? ラッキーメニューは “オムライス” でーす!』
沙希(オムライスねぇ。残念ながらそんな予定は無いよ。まあ夕飯ならできなくもないけど)ジャー
沙希(そもそも相手なんて…)キュッ
大志「ごちそうさま。あ、俺今日7時に塾終わるから」
沙希「了解。そのくらいに迎えに行くね」フキフキ
大志「んじゃ、行ってきまーす」
沙希「いってらっしゃい。気をつけなよ」
TV『さらに運気を上昇させるアイテムは “ヘアゴム” ! いつもと違う結び方をしてみては? 男性は持っているだけで大丈夫!』
沙希「……」
沙希「さて、あたしもそろそろ準備しなきゃね」
先生「であるからして〜」
先生「というフレーズは漫画やアニメで登場する教師が頻用するが、実際そんな言葉を使う場面がどれだけあるか? ないでしょ」
八幡(…なんなんだろうかこの授業。前回登場したおばあちゃんの心境は? ねぇ先生、コンパスの話は?)
ガララッ
八幡(ん?)
先生「ぬっ? 川崎さん、遅刻だぞ遅刻」
沙希「すみません」
先生「ふむ」
八幡(あれは…川ぎ……川崎…だよな)
沙希「ふー…」
八幡(あいつなんかいつもと違うな。なんだ?)
沙希(全く、ついてないね。自転車がパンクだなんて)
八幡(ああ、分かった。あの頭の…)
沙希(わざわざお団子髪になんかするんじゃなかった。いつも通りなら歩きでも少し急いで間に合ったかもしれないのに)
先生「さて、私はこの『であるからして』というフレーズがなぜここまで浸透したかについて友人の文学部助教授であるところの…」
八幡(その話まだ続くのかよ)
放課後
沙希(さて、大志の迎えまで暇だけど、どうしよう)
沙希(寄り道ねぇ…… バカバカしい。とりあえず一旦うちに帰ろ)
沙希「あれ?」
沙希(自転車どこに停めたっけ…)
沙希(って、そういや今日は歩きで来たんだった。家まで帰るとなると手間だね)
沙希「……」
沙希(予備校行って自習でもするかな)
沙希「……」カリカリ
沙希(えーっと、内積が出てるから)
沙希「……」ピコーン!
沙希「……」カリカリカリカリ
カラン
沙希(ふー、ちょっと休憩。今日はなんだかいつもより集中できるね)
沙希(この髪型のおかげかな? 下向いても垂れてこないからジャマにならないし、しばると気合いも入るし)
沙希(案外正解だったかも。もうひと頑張りして…)チラ
沙希(ん、でももう18時か。歩きだからそろそろ迎え行かないと)
ウィーン
沙希(だいぶ日が短くなってきたね。これから冷え込んでくる季節か)
沙希(早くも月が見えそう。今日はだいたい半月か。なんかあの形オムライスみたい…)
沙希「あっ…しまった」
沙希(大志の迎えに行く前に夕飯の材料買おうと思ってたのに。塾帰りでもいいけど、大志を待たせるのは悪いし)
沙希(まいったね。自転車さえ使えれば…)
八幡(あん?)
キキッ
沙希「ん?」
八幡「よう。やっぱり川岸か」
沙希「あんたか… っていうか、いい加減あたしの名前覚えたら? 殺すよ?」
八幡「ばっか、冗談だよ川島。怒んなって」
沙希「相当死にたいらしいね…」グッ
八幡「は? ……あっ、川崎か! 違う! 違うんだ川崎! 今のは素で間違えた!」
沙希「そっちのほうがタチ悪いんだけど!」
沙希「はぁ…… あんた、なんでここに? 冬季講習の案内なら中に資料あるよ」
八幡「いや、そういうんじゃない。さっきまで家にいたんだが時間余ってな、小町の迎えついでにサイクリングを嗜んでたところだ」
沙希「ぷはっ。サイクリングって、それママチャリじゃん」
八幡「いいんだよ。ふつうに散策とか言うよりそっちのほうが格好いいだろうが」
沙希「わざわざ格好つけてるほうが格好悪いと思うけど?」
八幡「うっせぇな… それよかお前は? 予備校の授業って18時からじゃねぇの?」
沙希「今日は授業じゃないよ。大志の塾の迎えに行くから、それまで自習室で時間潰してただけ」
八幡(すげぇ、家で美少女アニメ見て時間潰してた俺とは月とスッポンだな。今宵の月は……なにあれオムライスみたい。オムライス食べたい)
八幡「……ん?」
八幡「まてよ? 大志の迎えってことはだ、お前もこれから学習塾に向かうわけ?」
沙希「そうだけど。そっか、あんたもか」
八幡「まあな。俺はもうちょいこの辺り回るつもりだけど」
八幡「…っつーか今から? 小町が言うには授業が19時までかかるって話だぞ。早すぎだろ」
沙希「歩きで行くからいいの」
八幡「歩き? 制服ってことはお前学校から直だろ? チャリじゃねぇのかよ」
沙希「あたしの自転車、朝パンクしてたからさ。今は無いんだよ」
八幡「そりゃお気の毒様なことで…… ああ、それでお前今日遅刻したわけね」
沙希「どーでもいいでしょそんなこと」
沙希「ほら、さっさと行きなよ」
八幡「おう。じゃあな」
ガシャ
八幡(朝からパンクとか、ついてねぇな川崎のやつ…… まあ俺には関係ない。関係ないが…)キコ
沙希(はぁ。自転車があれば塾の近くのスーパーで先に買い物する時間あったんだけど…)スタ
八幡(徒歩か… 疲れるよなどう考えても)
沙希(自転車が…あれば……?)
ピタッ
八幡「おい、川崎」
沙希「ねぇ、比企谷」
八幡「……」
沙希「……」
八幡「乗ってくか?」
沙希「乗っけてよ」
学習塾
小町「んはーっ! 終わったーー!」
大志「今日のとこちょっと難しかったね。俺、ノート取るので手一杯だった」
小町「そうなんだ。小町は余裕だったよ?」
大志「比企谷さんなんだかんだ頭いいもんなぁ… テストの点は微妙だけど、そういうのじゃなくて、器量? っていうの?」
小町「えっへん。わかってるね大志君! 世の中点数じゃないのですよ! あ、あとでノートコピーさせてね」
大志「あれ!? 余裕だったんじゃねーの!?」
小町「余裕で寝てたからねー」
大志「あー…あはは…… まあ、俺のでよければ貸すよ」
小町「わ、ありがとー! さっすが大志君だね! 小町のお兄ちゃんよりずっと人間出来てるよ!」
大志「えっ? そうかな」
小町「うんうん! あ、でも見返りに小町のカラダ求めるとかはダメだからね?」
大志「ぅええっ!? そ、そそそんなこと……しねーよ…」
小町「大志君、顔まっかだよ? 大丈夫ー?」
大志「そ、それよりさ! お兄さん!」
小町「んっ? 小町のお兄ちゃん?」
大志「そう! お兄さんって、そんなダメな人なわけ?」
小町「むっ…… お兄ちゃんをバカにすると、いくら大志君でも小町怒るよ」
大志「いやいや、俺はそんなこと思ってねーよ! ただお兄さんの周りの女の人とか、比企谷さんもだけど、みんなけっこうお兄さんのことボロクソ言ってたし…」
小町「あー… 悲しいけどそれはちょっと否定できないね」
大志「ずっと不思議だったんだよ。姉ちゃんの問題を解決してくれたのも大きいけど、俺的にはお兄さんはすごい人だと思うんだ」
小町「えっ?」
大志「なんていうか、他の人とは違う目を持ってるっていうか… よく分かんねーけど」
大志「とにかくさ、ヒーローとか、師匠とか、俺にとってお兄さんはそんな感じの憧れの人なんだと思う」
小町「た、大志君…」
大志「まあでもなぜかお兄さんには嫌われてるみたいなんだけどさ、俺」
小町「大志君! 今の、お兄ちゃんに聞かせてあげなよ!」
大志「ええっ!? やだよ、恥ずかしいし」
小町「お兄ちゃんそんな褒められたことないから、きっと大喜びだよ? 大志君のこと一発で好きになるよ!」
大志「そう言われてもなぁ…」
小町「お願いっ! 一回でいいから! 罵声と中傷のスピードラーニングやってるようなお兄ちゃんに数少ない幸福の言葉を向けてあげて!」
大志「なんか必死だ!? お兄さんいつもどんなこと言われてんの!?」
小町「とまあ、半分冗談は置いといて。大志君のお姉さんもすごいよね」
大志(半分は本当なんだ…)
大志「姉ちゃん? そうなのかな」
小町「だって、非合法とはいえ、家族のために寝る時間削って働いてたんだよ? えらいなんてもんじゃないよ」
大志「うん……」
小町「それに引きかえ小町のお兄ちゃんときたら、寝る時間削ってアニメみたりゲームしたり本読んだり……おまけに将来の夢はヒモだよ? とんだゴミいちゃんだよ」
大志「え、マジで!?」
小町「マジもマジだよ。そんな性格を治すために、今高校で部活やってるんだもん」
大志「そうなんだ… でも、良いところもあるんだろ?」
小町「ん、まあ、お兄ちゃん小町のこと大好きだし? 小町もお兄ちゃんのことは…好きだよ」
大志「…そっか」
大志「なら、やっぱお兄さんは良い人で、すごい人だよ」
小町「ん? どゆこと?」
大志「だって、こんなすてきな比企谷さんが好きなお兄さんだろ? そのお兄さんがダメな人なわけないじゃんか」
小町「…!?」
大志「でもそうだな。うちの姉ちゃんも負けないくらい良い姉ちゃんだと思う」
大志「…って、どうしたの? 比企谷さん?」
小町「あぅ。なんでもないから……バカ」
大志「えっ!? ご、ごめん! なんか俺まずいこと言っちゃった!?」
小町「な、なんでもないってばっ! あは、あはははー!」
大志「えっ? ええっ?」
小町「もうほんと! 大志君のお姉ちゃんもいいし! 小町のお兄ちゃんもさいこーだよ!」
大志「えっ、あ、うん?」
小町「いやー、いっそ二人ともくっついてくれないかなー? そしたらもっと最強ってゆーか? あっはははー!」
大志「なっ!? そ、それって、姉ちゃんとお兄さんが付き合うってこと!?」
小町「そーだよ? 小町的には付き合うどころか、いっそ夫婦にでもなってくれたらなーって今思っちゃったよ!」
大志「ふ、ふうっ……うわぁぁ…!」
小町「一緒に買い物とか行ってさ! 2人並んで、そう、ちょうどあんな感じの……」
大志「あんな感じの……?」
八幡「えーっと、あそこだっけか」
沙希「そうだよ。大志はいつも入口の横のところで… あ、いたいた」
小町「……」
大志「……」
小町・大志(本人だったーーっ!!)
八幡「…ん? ああ」
沙希「お揃いだね」
沙希「大志、お待たせ」
大志「姉ちゃん!…と」
八幡「うす。久しぶりだな、川越弟」
大志「川越?」
沙希「……」ギロ
八幡「じょ、冗談だって川崎! …な! 弟よ」
大志「え? あ、そ、そうっすね、お兄さん!」
八幡「お前にお兄さん呼ばわりされる筋合いはねぇ失せろ」
大志「ええっ!?」
沙希「あんた、大志いじめたらぶっ殺すよ?」
八幡「すいましぇん…」
小町「……」コソ
八幡「ん? お? おお。よう小町、愛しのお兄ちゃんが迎えにきてやったぞ」
小町「…うん」
八幡「…? どうかしたか?」
小町「ううん」
八幡(なんだ? こんなしおらしい小町は久々に見るな)
八幡「まさか大志、小町になにかしやがったんじゃあ…」キッ
大志「ひぃっ!」
沙希「あんた」キッ
八幡「ひぃっ…」
小町「……」ボー
大志「な、なぁ。お兄さんやっぱり俺のこと…」ボソ
小町「ほわぁあああ!」ビクッ
大志「えっ!? なに!?」
ガシッ
八幡「おいてめぇ、いい加減に」
ガシッ
沙希「いい加減にしないとぶん殴るよ」
八幡「ウィッス」
大志「ど、どうかした? 比企谷さん、さっきからちょっと変じゃない?」
小町「えっ? や、やだなー。小町はいつも通りだよ?」
大志「ならいいけど…」
沙希「じゃ、帰ろうか」
大志「あれ? 姉ちゃんチャリは?」
沙希「それがパンクしちゃってさ。今日は歩きなんだ。悪いね」
大志「あ、そうなんだ。俺は別にいいよ」
沙希「比企谷、ここまで助かったよ。おかげで食材も先に買えたし」
八幡「なに、礼には及ばねぇよ」
八幡(感触も楽しめたことだしな。いまだ背中に余韻が残って…)
沙希「なんかやらしーこと考えてるでしょ」
八幡「エスパーかよ」
沙希「うわ…せめて否定してくんない?」
小町「お兄ちゃんの節操なし…」
八幡「どういう意味だよ! 誤解を招く発言はやめろ」
小町「てゆか、もしかしてお兄ちゃんと沙希さん、学校から二人乗りしてきたんですか?」
沙希「学校からじゃないけど、少しね。おかげでそこのスーパーに寄る時間ができて助かったよ」
大志「ま、まさか買い物も一緒に?」
沙希「実にいい荷物持ちだったね」
八幡「おい」
小町(うわーそれって完全に…)
大志(カップルじゃん…)
小町「はいはーい! そーゆーことなら、小町にいい案がありまーす」
沙希「いい案?」
小町「お兄ちゃん!」
八幡「あん?」
小町「レディーを家まで送ってさしあげなさい! これはお願いじゃないよ、命令だよ」
八幡「当たり前だろ。そのために来たんだから」
小町「えっ」
八幡「よっと」ガシャ
小町(あ、あれ? やけにあっさり…)
八幡「ほら小町。早く後ろ乗れよ」
小町「あーーーー、そんなことだろうと思ったよ。全然ちがうよお兄ちゃん」
小町「小町じゃなくて、沙希さんを送ってあげるの。なんで文脈から判断してくれないかなぁ」
八幡「はあ? なんだそりゃ…」
沙希「妹ちゃん。気遣いはありがたいけどさ、そこまでしてもらう義理はないよ」
小町「いえいえ遠慮しないでください。むしろお兄ちゃんのためにお願いします! そうでもしないと女性に触れる機会なんてない残念な兄にどうか救いの手を!」
沙希「なんか逆に遠慮したくなるね… いやらしい想像されてそうで気持ち悪い」
八幡「お前ら勝手に話すすめながら人をディスんのやめてくんない?」
大志「あの、俺は賛成…っすよ」
小町「おおっ!」
沙希「なんで?」
大志「姉ちゃんが迎えに来てくれてるのは夜道が危ないからなんで、歩きでも全然いいんすけど、早く帰れるに越したことはないですし」
大志「それに、うち今日両親と妹いないんすよ。せっかくなら、みんなで姉ちゃんの作った飯食いたいかなって…」
八幡「……」
大志「あとそうすれば、姉ちゃんもお兄さんにお世話になったお礼ができると思ったんすけど」
沙希「大志…」
大志「えと……ダメっすかね?」
小町「お兄ちゃん!」
八幡「あー…」
八幡「まあ、うまい飯につられてってのは……悪くないな」
小町・大志「!!」
沙希「ふふっ。あんまプレッシャーかけないでよ」
沙希「そんじゃお言葉に甘えて。あとこれ、買ったものカゴに入れていい?」ガサ
八幡「ああ。カバンの横に入りそうだな」
沙希「卵はカバンの中がいいんだけど」
八幡「なに? どうせ割れてこぼれるならせめて俺に嫌がらせしようって魂胆なの?」
沙希「バカ。衝撃減らすためだから。もちろん割れても漏れないよう袋に入れるし」
八幡「ならいいけど」
小町「いつのまにかずいぶん沙希さんと仲良くなったねー、お兄ちゃん」
八幡「いやいや、どこがだよ」
大志「あれ? でもそうすると、もしや比企谷さんが帰れなくなるんすかね?」
小町「あ、ほんとだー。まぁでもそれなら走ってついてくよ」
大志「えっ!? ご、ごめん! そういうつもりじゃ…」
小町「大丈夫大丈夫〜。小町走るの得意だから!」
大志「そんな…… 俺が走ってくから、比企谷さんは俺のチャリ乗ってよ」
小町「えっ? いいよほんとに」
大志「でも……」
沙希「ならさ、大志の後ろに妹ちゃん乗っけてあげなよ」
小町「えっ!?」
大志「ちょっ…!?」
八幡「おい、お前勝手に」
大志「姉ちゃん! それはちょっと… 比企谷さんも嫌だろ? そんなの」
小町「へっ? い、イヤじゃないよ……?」
大志「えっ… まじで?」
沙希「はーい決定。ほら妹ちゃん、早く乗った乗った」
八幡「待て待て! 俺は認めないぞ! そんなどこの馬の骨とも分からんやつ!」
沙希「父親かあんたは…ってかあたしの弟だから。第一決定権はあんたじゃなくて本人にあるから」
八幡「ぐぅ」
沙希「どうする? 妹ちゃん。無理にとは言わないけど」
小町「えと…… じゃあ、よろしくお願いします」ペコ
大志「え、あ… はい。こちらこそ…」ペコ
八幡「小町ぃ………」ポタ ポタ
沙希「うわ! ガチで泣かないでよ気持ち悪い!」
八幡「ば、ばっか泣いてねぇよ! ヨダレだよ!」
沙希「もっと気持ち悪いよ!」
八幡「いいかお前ら。二人乗りは本当はいけないんだ」
八幡「警察のニオイを感じたらすぐさま止まって降りることを肝に命じた上で、ゆっくりゆっくり安全に安全に安全に走れよ」
大志「は、はい!」
小町「……」ギュ
大志(うっ……緊張する… 絶対に比企谷さんだけはケガさせないようにしねーと)
八幡「もし小町に擦り傷ひとつでもつけてみろ。速攻で訴訟起こして豚小屋にぶちこんでやる」
沙希「年齢的に無理だから。まあでも大志、ほんとに気をつけなよ? あんたも妹ちゃんもケガしないようにね」
大志「あ、ああ! 俺の命に代えても守ってみせる!」
小町「…っ!?」ドキ
沙希「あんたもっつったでしょ… その心意気は格好いいけど」
寝てしまった
八幡「お前らは先に行け。後ろから監視すっから」
大志「あ、はい。お願いします。比企谷さん大丈夫?」
小町「…だいじょーぶ」
大志「よ、よし! 行こう!」ガシャ
キコ
八幡「……小町に変なことしたらタダじゃおかねぇぞクソ坊主」
沙希「監視ってそっちの監視か… ちょっとはあたしの弟を信用しなよ」
八幡「わーってるよ。俺らも行くか」ガシャ
沙希「ん。よろしく」
ブチッ
ズルッ
八幡「のあっ!?」キキッ
沙希「っ!?」
八幡「っとと……! あぶ……なんだ? 靴が抜けたぞ」
沙希「な、なに?」
八幡「うわ、まじかよ。右のヒモが…」
沙希「どれ? ……あーあー、見事に切れてるね」
八幡「なんてこった。ヒモって本当に切れたりすんのな」
沙希「あたしは経験ないね。ヒモの靴なんてしばらく履いてないし」
八幡「まいったな… 一人ならともかく、お前乗せるのにこの靴じゃ不安定だぞ」
沙希「どうする? あたしじゃたぶん前は乗れないよ」
八幡「乗れたとしてその絵面は恥ずかしすぎるから却下で」
沙希「たしかに。うーん、困ったね。この辺りじゃ靴ヒモなんて売ってないだろうし」
八幡「っつーか、あいつら気づかず行っちまったな…」
沙希「靴ヒモじゃなくても代わりになるものがあればいいんだけどね。そう都合よくは…」
沙希「…あ」
八幡「どうした?」
沙希「……ある」
八幡「ん? なんかヒモ持ってんのか?」
沙希「うん。ほんと、たまたまだけど」
八幡「…まさかとは思うが、俺の将来がヒモとか言い出さねぇよな」
沙希「知らないよそんなの… それよりあんたハサミ持ってない?」
八幡「ハサミ?」
八幡「あー、まあ、ないことはないが…」
沙希「へぇ、意外。ダメ元で聞いてみたけど、ハサミ持ち歩いてるやつなんているんだね」
八幡「ふつうのハサミじゃねぇぞ? ほら」
沙希「ふーん、なんか変わった形。やけに刃先細いし」
八幡「で、何か切るわけ?」
沙希「ちょっと待ちな。んっと…」
シュル
八幡「なんだ、お団子解いちゃうのか?」
沙希「まあね」スル
沙希「ほら、これ使おうよ。ハサミ貸して」
八幡「……ああ」
八幡「なるほど、ヘアゴムか。確かに応急処置はできそうだが……いいのか?」
沙希「ゴムなんて家にいっぱいあるからね。いつものシュシュだったらダメだけど、たまたま髪型変えててよかったよ」パチン
八幡「珍しくポニーテールじゃなかったよな。気分か?」
沙希「そんなとこ。ほら、結んであげるから右足だして」
八幡「は? いやいいよ、自分でやるって」
沙希「いいから任せなって」
八幡「お、おう。じゃあ頼む」
沙希「ん。はいできた。ちょっと動いてみて」
八幡「んー、ああ。これなら1日くらいは全然大丈夫そうだ。サンキュな」ピョン
沙希「はいよ。じゃあ今度こそ出発……あ、ちょっと待って」
八幡「あん?」
沙希「このままだと髪巻き込まれそうだし、いつものシュシュあるから結び直すよ。っと」グイ
八幡「おお……」
沙希「……なに? その顔」クル
八幡「いや、ほどくときもそうだったけど、女子が髪型変える瞬間ってこう……来るものがあるよな」
沙希「そんなもん? あたしにはわかんないけど」シュル
八幡「ああ。お前とか特に髪長くて綺麗だし、余計そう感じるんじゃねぇかな」
沙希「…なにそれ、口説いてるつもり?」
八幡「アホ。んなわけあるか。素直な感想だよ」
沙希「ふーん。あっそ。でもまあ… ありがと」ファサッ
八幡「お、やっぱりそっちのがいつものお前って感じするな」
沙希「そう?」
八幡「お団子も新鮮でよかったけど、ポニーテールのほうが似合ってるぞと思うぞ…… 川村」
沙希「あんた……」
沙希「ふつうそこで名前間違える?」
八幡「普通じゃないからな俺は。非凡と言ってくれてもいい」
沙希「やっぱわざとか… ほんと、ふつうじゃないよあんたは」
川崎宅
小町「いっただっきまーす!」
大志「いただきます!」
沙希「召し上がれ」
八幡「すげぇな… ここは洋食屋かよ」
小町「んー、おいしーい! すごい美味しいです、沙希さん!」
沙希「ふふ。そりゃよかった」
大志(姉ちゃん気合入ってんなぁ。おいしいからいいけど)
八幡「人参は甘いしくり抜いてあるし、デミソースの上に白いのが一平ちゃんのマヨビームみたいにかかってんのもすげぇそれっぽい」
小町「お兄ちゃん、もうちょっと上品な表現してよ…ポイント低いよ」
八幡「別にいいだろ。リポーターでもあるまいに」
沙希「お客様だから少し凝ってみたけどね。いつもはもっと簡素なことが多いよ」
ちょい風呂
八幡「それにしてもオムライスか。なんでかちょうど食べたくなってたんだよな」
沙希「そうなの? あたしも最初はそんな予定なかったんだけど、なんでか作る気になったんだよ。なんでだっけ」
大志「あ、そういや姉ちゃんの占いのラッキーメニューってオムライスじゃなかった?」
小町「えっ、そうなんですか?」
沙希「ああ、そういえば」
八幡「意外だな。お前占いとか信じるタイプなのか?」
沙希「別に信じちゃいないけど… たしかに理由のひとつではありそうだね」
大志「しかも1位だったしね。姉ちゃん、いいことあった?」
沙希「んー、どうだろ」
八幡「朝からチャリパンクするわ、学校遅刻するわ、とんだ1位があったもんだな」
小町「あー、そういえば小町も月曜占い1位だったんですよー。けどもう最悪でした! 主にお兄ちゃんのせいで」
八幡「あれはお前が悪いだろ…」
沙希「……」
沙希(占い、か)
沙希(……案外当たってるんじゃないの)
大志「…姉ちゃん?」
沙希「ん。ほら、どんどん食べなよ。おかわりもあるから」
八幡「食った食った。ごちそうさん」
小町「ごちそうさまでしたー!」
八幡(普通におかわりしちまった。オムライスってこんなうまかったのか)
沙希「綺麗に食べてくれてよかったよ」
八幡「片付けるか? 皿洗うくらいならできるぞ」
沙希「いいよ。お客様は座ってて。片付けまでが料理だしね」
八幡「そうか、悪いな」
沙希「デザートとかあったほうがいい?」
八幡「いや十分だ。サンキューな、川上」
沙希「……やっぱあんたに全部洗ってもらおうかな」
八幡「冗談だって」
沙希「〜〜♪」ジャー
大志(最近は機嫌悪くもないけど… あんな機嫌いい姉ちゃん久しぶりだなぁ)
小町「やー、ほんと沙希さんっていいお姉さんだよね。塾のお迎え来てくれるし、料理上手だし、勉強熱心でしかも美人で」
大志「そ、そう?」
小町「だってのにお兄ちゃんは…」チラ
八幡「おいなんだその目は。俺だって迎え行くし、カップ麺作れるし、本は読むし心がイケメンだぞ」
小町「もうやめてお兄ちゃん。大丈夫だよ、お兄ちゃんには小町がついてるから」
八幡「本気で哀れむなよ悲しくなるから…」
大志「でも俺、お兄さんのこと尊敬してるっすよ」
八幡「……は?」
大志「比企……小町さんにも話したんすけど、お兄さんってすごい人だなって思うんす」
小町「…!」
八幡「あー、よくあるよな。とりあえず先輩とか年上の人に『まじリスペクトっす』みたいなやつ」
大志「ちがっ! そ、そんなんじゃないっすよ!」
大志「姉ちゃんの問題を解決してくれた時からずっと思ってたんすけど、お兄さんって他の人とは違う目をしてるっていうか…」
八幡「それはあれか、目が腐ってるって」
小町「お兄ちゃん黙って」
八幡「ウィッス」
大志「はは…」
大志「とにかく、そういう『人とは違う』って感じにすごい憧れてて」
大志「お兄さんの周りの人にはちょっと悪く言われてるのかもしんないっすけど、俺はそうは思わなくて」
大志「俺はその、お兄さんのこと… めっちゃかっこいいと思うっす! 本気っすよ!」
八幡「……」
小町「大志君…!」
八幡「……」
小町「お兄ちゃん。こう思ってくれる人もいるんだよ。よかったね」
八幡「……大志」
大志「は、はいっす」
八幡「そ、そそそんなこと言って、俺に取り入って外堀から小町との距離埋めようったって……そうはいかねぇぞばかやろう……!!」
大志「ええっ!? お、俺そんなつもりじゃ…!」
小町「お兄ちゃん上向きすぎ。目潤んでるのバレバレだよ」
八幡「ばっか、ちげぇよ! これはヨダレだっつっただろうが!」
小町「目からヨダレは出ないよ!? ってか初めて聞いたよ! 動揺しすぎだよお兄ちゃん!」
大志「あははは…」
沙希(何やってんだか……)カチャ
八幡「よし大志。その心意気を見込んでお前を弟子にしてやってもいい」
大志「ほんとっすか!? お願いします!」
小町「えー、やめときなよ大志君…」
大志「いやー、俺お兄さんみたいな兄ちゃん欲しかったんすよ。うち、俺以外は女きょうだいっすし」
八幡「兄ちゃんって……師じゃねぇのかよ」
大志「あ、そっすね… すいません」
小町「…!」ピコーン
小町「でもさ! お兄ちゃんが沙希さんと結婚すれば、大志君はお兄ちゃんの弟になれるよ!」
八幡「ぶっ」
大志「ちょっ、小町ちゃん!? 何言ってんの!?」
小町「お兄ちゃん、考えてもみなよ」
小町「沙希さんなら家事も完璧だし、面倒見いいし、勉強がんばってて将来有望だし… まさにお兄ちゃんの理想じゃない?」
八幡「いやいやお前……いやいやいや……」
八幡(あれ、言われてみればたしかに)
沙希「盛り上がってるね」
八幡「おわっ! か、川崎、聞いてたのかよ」
沙希「聞いてたもなにも筒抜けだから。最初から全部聞こえてるよ」
小町「ちょうどよかったです、沙希さん!」
沙希「ん?」
小町「沙希さんはどうですか? こんな兄ですけど、仙豆と鞭を使い分ければきっと真人間に育ちますよ!」
八幡「おい小町、んな勝手に…」
八幡(っつーか仙豆なの? 飴じゃないの? 鞭打って仙豆で回復するのを繰り返せってことなの? それ育つのは戦闘力だけじゃねーか)
沙希「そうだねー。どうしよっかな」
八幡「悩んじゃうのかよ」
小町「兄が欲しいと言ってる大志君のためにも、どうかお願いします!」
大志「えぇ!? 小町ちゃん、そこまでしなくていいって!」
八幡「川崎、小町の言うことを間に受けなくていいぞ」
沙希「うーん。でも、大志がそこまで言うならねー」
大志(そういう意味じゃないんだけどな…)
小町「沙希さん、沙希さん!」キラキラ
沙希「あ、だけど小町ちゃん。別にあたしとこいつがくっつかなくても大志の希望は叶えられるよ?」
小町「へっ?」
沙希「逆に考えてみなよ。こいつが大志の兄になるんじゃなくて、大志がこいつの弟になればいいのさ」
小町「……」
小町「えっと、なにが違うんですか?」
八幡「……おい川崎、お前まさか」
沙希「つまり、小町ちゃんと大志が結婚すればいいってこと。そうしたら大志は晴れてこいつの義理の弟になれるでしょ?」
小町「えっ」
大志「えっ!?」
小町「……」チラ
大志「……」チラ
小町・大志「えぇええええええっ!?」
大志「ま、ちょ、ちょっと待ってよ姉ちゃん!!」
八幡「そうだぞ川崎!! 大志はそんなつもり毛頭」
大志「俺たちまだそんな年齢じゃねーし!」
八幡「あああああああん!?」
八幡「おい大志てめぇ…」グイッ
大志「ひぇえ!? す、すすすいません師匠!」
八幡「誰が師匠だこのやろうお前なんか…」
沙希「あんた、何回大志に手あげるつもり?」ガシッ
八幡「離せ川崎! いくらお前だろうとここは退けねぇ!」
沙希「なに? そんじゃ、あんたがあたしと結婚するの?」
八幡「なっ……!? そ、それは……」
八幡「くっ、小町! 小町はどうなんだ!」
小町「……」
八幡「お、おい? 小町?」
小町「け、けけけっこんだなんて、そそそんなあわわわわわ………」ぷしゅー
八幡「」
沙希「あらら」
ーーーーーーーーーーー
ーー
その後
八幡「じゃ、そろそろおいとまするわ」
沙希「そうだね」
沙希「忘れ物ない?」
八幡「一応確認した。まあもしなんかあったら連絡くれ」
沙希「りょーかい」
大志「えと、お兄さん、今日はいろいろとありがとうっす。あと、なんかすいません…」
八幡「…姉貴の手料理に免じて今日のところは許してやる。だが次は覚悟しとけよ」
大志「はい…」
小町「も、もーお兄ちゃん。そこまで言わなくてもいいじゃん」
八幡「……」
八幡「ばか、覚悟ってのはあれだよ。遊びじゃなくて、真剣に向き合う覚悟とかそういうやつだよ」
大志「えっ?」
八幡「いいか。もし小町を手にしたいんだったらな、小町のために死ねるくらいの覚悟で来い」
大志「…えっ? えっ?」
八幡「ちなみに俺は死ねる。早い話が、俺以上に小町のことを想ってることを伝わらせてみせろ。そしたらもう俺は何も言わねぇよ」
大志「っ!」
小町「ちょ、お兄ちゃん…?」
沙希(へぇ……)
大志「わかりました。絶対お兄さんに伝わらせてみせるっす!」
小町「ーーっ!?」
八幡「いい返事だ」
小町(そ、そんなのもう、告白してるのとおんなじだよ〜〜!!)
八幡「よし、帰るぞ小町」
小町「あ…うん」
小町「じゃあ、また明日ね、大志君」
大志「…!」
大志「小町ちゃん… また明日!」
沙希(大志のやつ、妹ちゃんのこといつの間にか名前で呼んでるし。やるじゃん)
八幡「世話になったな。急に押しかけて悪かった」
沙希「構わないよ。友人の来客なんてまずないからね、あたしも楽しかった」
八幡「お、おう。そうか」
八幡(川崎って実はすげぇいいやつなんだな… ナチュラルに友人とか言いやがって。目頭が熱くなるだろうが)
沙希(うん、楽しかった……かな。たまたまとはいえ、良い思いできたよ)
八幡「大志も、じゃあな」
大志「あ、はい! あの俺…がんばるっすから!」
八幡「ああ。お前とは二度と会わないよう気をつけるぜ」
ガチャッ
大志「……」
大志「えぇっ!? ちょっ、それズルくないっすか!?」
八幡「うるせー! 姑息な手段こそ最強なんだよ! 覚えとけ! あばよ!」
大志「そんなぁ! おに」
バタンッ!
沙希「…あんたも大変だね。いろんな意味で」
大志「うぅ、でも負けねーし」
沙希(比企谷。あんたと出会ってからあたしとその周りはどんどん変化してる)
沙希(今日は偶然に助けられて、少しあんたとの距離が縮まった気がするよ)
沙希(…… ま、それも今日限りなんだろうけどね)
ガチャッ
八幡「忘れてた」
沙希「うわっ」
沙希「びっくりした… なに、やっぱ忘れものあったの?」
八幡「ものっつーか、言い忘れ」
沙希「なに?」
八幡「あー…メシだけど、まじでうまかったから」
沙希「ん? ああ、そりゃどーも」
沙希「…あんたわざわざそれを言いにきたの?」
八幡「いや、えーっと……それもまあそうなんだけどよ」
沙希「?」
八幡「うまかったから、その」
八幡「機会があればまたごちそうになりてぇなと思って」
沙希「…えっ?」
八幡「厚かましくて悪いけど、なんつーか胃袋つかまれちまったんだわ。ダメか?」
沙希「……」
沙希「ま、気が向いたらね」
八幡「そうか。よろしく頼む」
沙希「はいはい」
八幡「じゃあな」
バタン
沙希(またごちそうに、か)
沙希「……」
沙希(けっこう占いってのも馬鹿にならないもんだね)
キコ
八幡(占いねぇ。よくもまあ信じるやつがいたもんだ)
八幡(なんて、俺も人のこと言えないか)
小町「……」ボー
八幡(小町のやつさっきから一言も喋んねぇな。やっぱあれか、大志絡み……だよな)
TV『本日最も悪い運勢なのは…ごめんなさーい、獅子座のあなた 』
TV『身近な何かが壊れてしまうかも。それでもめげない心が大切です』
八幡(なんて日だ……はぁ…)
TV『でも大丈夫。そんな獅子座の方のラッキーアイテムは “鼻毛用のハサミ” 』
TV『お守り代わりに持ち歩いてみると、きっとあなたの助けになりますよ』
TV『それでは元気に、いってらっしゃい!』
バッドエンドを、と思ったんすけどね…
別に姉ちゃんから圧力受けたわけじゃないっすよ。ほ、ほんとっすよ!
次がラスト
いろはす〜
よく見たら大志小町バッシングばっかでワロタ
原作2巻ソースだからなぁ その後も登場するのかな
いろはす〜
はサキサキよりソースが無い(原作もアニメも見てない)のでさらに違和感あるかも
TV『では占いでーす!』
TV『本日最も良い運勢なのは、牡羊座のあなた!』
TV『意見が通って思い通りの一日に。難しいことも思いきって主張してみましょう。ただし礼節はしっかりと守って」
いろは(ふーん。思い通りかぁ)
いろは(そんなわけあるか。例えば4人中4人牡牛座のグループならどうなる? はい論破)
いろは(……とか先輩言いそう。ぜったい占い信じてなさそうだし)
いろは(でも実際そうだよねー。せめてもう一押し欲しいってゆーか)
TV『ラッキーパーソンは “学校や職場の先輩” ! スキンシップがあると親交が深まるかも』
いろは「おおっ?」
TV『さらに、ラッキーアイテムは “果物” ! デザートやフレグランスなど、何種類も取り入れると運気があがりそうです』
いろは(ぬぬぅ、これはっ…!)
八幡(今日は一段と寒いな。千葉もめっきり冷え込んできたもんだ)
八幡(また今年も布団から出れなくて遅刻ギリギリの生活が始まるのか。あー……手冷てぇ)スッ
八幡「はぁーーーー」
八幡(さすがは12月並みの寒さって言うだけあるな。余裕で息が白くなりやがる)
いろは「逮捕です、先輩♪」ガシッ
八幡「……」
いろは「あれ? 両腕の出しかた的にお縄にかかりたがってるのかと思ったんですけど、違いました?」
八幡「違うどころの騒ぎじゃねぇよ… なにお前、妙な掴み方してくると思ったらそれ手錠のつもりなわけ?」
いろは「まさに手錠ですねー。ごめんなさい先輩、生徒会長候補としては見逃すわけにはいかないんですよ」
八幡「は?」
いろは「知ってます? 未成年の高校生はタバコ禁止なんですよ?」
八幡「いや、当たり前だろ」
八幡(…まさかこいつ、高校生にもなって白い息吐いたのを『みてみて、タバコ! フゥー↑』とかやってる小学生みたいな考えを)
いろは「ふぅーー… ほら先輩みてください! タバコ! タバコですよっ!」
八幡(どう見てもお持ちでした。本当にありがとうございろはす)
いろは「あっはは! 先輩、ふーっ! ふーーっ!」
八幡「こっち向けんな。全然けむくねぇから。あとあざといから」
いろは「あー、またそういうこと言います? それけっこう傷つくんですからね。怒っちゃいますよ?」ズイ
八幡「近い近い近い、そういう距離感とか上目遣いとかが…」グイ
八幡「って冷てぇ!?」
いろは「はい?」
八幡「一色お前、髪どうした? 一瞬凍ってんのかと思ったぞ」
いろは「いやいやー、先輩なに言って…」ペタ
いろは「つめたぁっ!!」
八幡「ほらみろ」
いろは「あちゃー、ほんとに凍りかけですねこれ」
八幡「なるほどな。なんかやけに前髪ハゲてんなと思ってたんだよ」
いろは「うわ先輩、地味にひどいこと思ってたんですね…」
八幡「けど、なんでだ? 雨なんか降ってねぇのに」
いろは「それがですねー、わたし朝にお風呂入ったんですけど……あ、興奮しないでくださいね」
八幡「誰がするか。っつーかもう先読めたわ」
いろは「えっ?」
八幡「風呂でゆっくりしすぎて時間ギリギリになったもんで、髪乾かすの途中で諦めて出てきたら寒さで凍りかけたって具合だろ」
いろは「むっ… だいたい正解です。でもちょっと省略しすぎですね」
八幡「あん?」
いろは「お風呂で遅くなったのは、先輩と一緒にお風呂に入る妄想してたんですよ」ボソ
八幡「はぁ!?」
八幡「な、ばっ、んなことあるわけねぇだろ!」
いろは「あっははは! ウソに決まってるじゃないですかー。先輩キョドりすぎです気持ち悪いです引きます」
八幡「おま、あんま調子に乗ると…」
キーンコーン
八幡「!!」
いろは「あ」
八幡「やべ、俺の輝かしい皆勤賞がなくなっちまう」
いろは「先輩はとっくに遅刻早退欠席留年サイクルヒット達成済じゃないですか」
八幡「ばっか留年はしてねぇから」
いろは「留年したらわたしと同じ学年になれますけど?」
八幡「する気もねぇよ。じゃあな一色、あったかい格好しとけよ。風邪引くんじゃねぇぞ」ダッ
いろは「へ? あ、はい」
いろは(もー… さらっとそーゆーこと言うんですから…)
休み時間
八幡(こう教室が寒いと授業に全く集中できん。早くストーブ設置されねぇかな。とりあえず寝て気を紛らわすか)
アノパネェヤツマジパネェッショー パネェー
八幡(……戸部はなんでいつもパネパネうるさいの? ハネなの? トベに翔なのに羽まで追加すんの?)
パネェーワーマジパネェー アレ? イロハスジャン? イロハスパネェワー
八幡(うるせぇ… 2翻親リーカケて一発ロンドラドラハネマン直撃でトベよまじで……ん? いろはす?)
八幡(いろはすって一色だよな。教室に来るってことは戸部か葉山あたりに用あんのか?)
八幡(まあ、俺には関係ないな)
いろは「じゃっ、またです葉山先輩♪ ……と、一応戸部先輩も」
ジャアナ イロハ
イロハスマジイロハスッショー
いろは(んーと。あ、いたいた!)
いろは「せーんぱー……っとと」
八幡「……」
いろは(先輩、寝てる? 寝たふりかな?)
八幡「……」
いろは「……」ジー
いろは(ほんとに寝てたら起こしちゃかわいそうだよね)
ファサッ
いろは(……よしっと。先輩こそ風邪引いちゃだめですよっ♪)
いろは「失礼しましたー」
八幡「……」
八幡「んー…」モソ
八幡(ふう。見事な5分シエスタ。そろそろ仮眠のプロとなりつつある俺、やはり天才か)
フワ
八幡(ん? なんかいまオレンジ……いや、みかんっぽい匂いがしたような)モフッ
八幡「あん?」
八幡(なんだこの頭の悪そうなブランケット。女子の私物っぽいけど誰かがかけてくれたのか? まさかな)
八幡(まあでも可能性があるとすれば戸塚か由比ヶ浜か。もしや川崎……はこんな色の使わんだろ。誰かあとで聞いて礼を言っておこう)
4時間目 体育
八幡(グラウンド使用中で体育館に変更とか…)
八幡(もう授業中止でよくね? 1年が使うはずの半面ぶんどってまでバスケする必要ないだろ。保健体育として睡眠演習でもしましょうや先生)
いろは「あー、せーんぱい!」
八幡(まあコートが1面しかないぶん見学ばっかでいいけどな。やりたいチームが勝手にガンガンやってるだけだし)
いろは「先輩! 先輩ってば!」
八幡「は? 俺? って、なんだ一色か」
いろは「なんだとはなんですか。せっかくかわいい後輩が一人ぼっちで死にそうな先輩へネット越しに声かけしてあげたというのに」
八幡「別に死にそうじゃねぇよ。ぼっちだけど」
いろは「やらないんですか? バスケ」
八幡「ああ。こんだけやる気あるやつらがいるんだ。俺は見てるだけで十分だろ」
いろは「とか言って、ヘタクソだからやりたくないんですよねわかります」
八幡「ばっか違ぇし。主役は遅れて登場する系のアレだから」
いろは「またまた無理しちゃってー。隠さなくていいんですよ、先輩の欠点の1000個や2000個くらい」
八幡「オーダーおかしいだろ! お前俺にどんだけ欠点あると思ってんだよ!」
いろは「あ、もしかしてレボリューションズでした?」
八幡「マジラブでもねぇよ…」
八幡「そう言うお前は? バレーやんねぇのかよ」
いろは「えっ、見てなかったんですか? わたしついさっきまで試合してて大活躍だったんですけど…」
八幡「見てるわけないだろ。お前いることすら今知ったくらいだ」
いろは(ぬぅ、せっかく先輩が見てると思ってはりきったのに!)
八幡「あーでも言われてみれば汗かいてるし息あがってるし、顔も火照ってるな。けっこう頑張ったのか」
いろは「うっわー。そーゆーとこだけちゃんと見るとか最悪の変態ですね。だから先輩うちのクラスの子からの評価も微妙な……くしゅっ!」
八幡「おいおいちゃんと汗ふかねぇと…」
八幡「ってちょっと待て。俺って1年の女子からも評判良くないの?」
いろは「ふえっ? あー、はい。さっきちらっと女の子全員に先輩の印象聞いてみたんですけど、上位3つは『怖そう』と『誰?』と『どれ?』でしたね」
八幡「ほぼ認識ねぇじゃねぇかクソッタレ」
八幡「っつーかクラスの女子全員に聞くとかまじでやめろよ……死ぬほど居心地悪くなったんだけど」
いろは「もちろんちゃんとフォロー入れときましたよ?」
八幡「そうなのか? なんだ、気が利くじゃねぇか」
いろは「当たり前じゃないですかぁ、先輩のためですもん。だから安心してください」
八幡「ちなみになんてフォローしたわけ?」
いろは「いろいろですけどー、基本的には『男にしか興味ないから安全』って感じですね!」
八幡「はあああ!?」
ミスディレクション! ハヤトクンパー……アッ ヤベッ!
八幡「お前それどこがフォローなんだよ! 追い討ちってレベルじゃ」
いろは「!! 先輩っ! あぶな…」
ゴンッ!!
八幡「あっ」
いろは「先輩っ!!」
ゴメーン! ヒキタニクーン! チョクゲキジャーン パネェー!
八幡「」
八幡(なんだ……ボールか…?)
いろは「先輩? 大丈夫ですか…?」
八幡(痛みはないが…視界が……力はいんねぇ……)グラ
いろは「っ!?」ガシッ
いろは「先輩! ちょ、ほんとに…!?」
八幡(かたくて…やわらかい…… かたいのはネットで……やわらかいのは…)
八幡(それにほのかな汗の匂いと…りんごの匂い……制汗剤か…… あ、やべ…意識が…)
保健室
八幡「……」パチ
八幡(…なんだこの天井? 俺の部屋じゃねぇな)
八幡「よっこら窃盗罪」ムク
八幡「……」
八幡(保健室…… そうか、確かボールが頭に当たったんだっけか)
いろは「……」スヤ
八幡「おわっ!」
いろは「むにゃ… はれ? へんぱい?」
八幡「一色? なぜお前が……あと変敗とか言うな。目が腐ってるみたいだろ」
いろは「んー…? あたし、いつの間にか寝ちゃってたんですね。先輩、自主したほうが罪は軽くなりますよ」
八幡「なんで寝てるお前に俺が何かした流れになってんの? 俺もいま起きたとこだから」
いろは「ですよねー。わかってますって」ペタペタ
八幡「とか言いながら全身チェックすんなよ! マジで何もしてねぇっつの」
いろは「先輩、軽い脳震盪みたいなものだったそうですけど…調子はどうですか?」
八幡「あー大丈夫だ。痛くもないしな。心なしか腫れてる気はするが」
いろは「そうですか。念のためあとで病院で診てもらうほうがいいって先生は言ってました」
八幡「だろうな。幸い明日休みだし行ってみるか」
いろは「ダメです! 今日中にです。もし大事だったらどうするんですか」
八幡「お、おう。なんだ、意外と心配してくれてるのか?」
いろは「意外とって… そりゃ心配しますよ。目の前で話してた人に突然意識失われるこっちの身にもなってください」
いろは(それに、わたしが話しかけたせい……かもですし…)
八幡「あー… たしかに結構ショックだよな。悪かった」
いろは「そんなそんな、先輩は悪くないですよ」
八幡(一色ってこんなやつだったっけ…? 寝落ちするまで見ててくれたっぽいし、よく考えたらめちゃくちゃ良いやつじゃねぇか)
いろは「ま、目つきと性格は極悪ですけどね」
八幡「おい」
八幡「にしても腹減ったな。体育でもあんま動いてないはずなんだが」
いろは「もう2時ですしねー」
八幡「は? うわ、まじかよ… っつーことは2時間以上も気失ってたのか俺」
いろは「ほんとですよ。おかげでお昼食べ損なっちゃったじゃないですか」
八幡「えっ? なにお前、まさか昼飯も食わずにずっとここに居たの?」
いろは「まあそうですね。途中で…えっと、戸塚先輩? も来ましたけど」
八幡「うおお! 戸塚!! さすがマイエンジェル! もう帰っちまったのか!?」
いろは「…なんですかそのテンションのあがりよう。すぐ戻りましたよ。それで先輩のことよろしくねって頼まれました」
八幡「そ、そうか……」
いろは「むっ…」
いろは「すみませんねー、戸塚先輩じゃなくって」
八幡「あ?」
いろは「先輩、わたしが相手じゃ満足できないんですねー。ふーん」
八幡「あ、いや。そういうわけじゃなくてだな」
八幡「っつーかその言い方別の意味に聞こえるからやめろ」
いろは「えっ? なんですかそれ二人きりなのをいいことにえっちぃ展開に持っていくフラグ立てようって算段ですかごめんなさいわたし一途なのでそーゆーの好きな人とじゃないとってゆーか先輩とは絶対無理です」
八幡「まるで意図してねぇよ…」
いろは「はぁ。いいですよ、どうせあたしなんかお邪魔なだけですもんねー」ツン
八幡「いやいや、だからそういうつもりじゃ」
いろは「もーいいです。教室に帰ります」カタッ
八幡「ばっ、待てって!」ガシ
いろは「ひゃっ」
八幡「あ……」
いろは「……」
八幡「……」
いろは「あの、離してください」
八幡「わ、悪い」
いろは「……帰ります」
八幡「ああ…」
ガララッ ピシャッ
八幡(反射的に腕を掴んじまった…何やってんだ俺)
八幡(っつーか、そうだよな。一色は昼飯も食わずに付き添っててくれたってのに。不意に戸塚の名前が出たもんだから舞い上がってしまった)
八幡(あーくそ。謝るにも一色の連絡先なんか知らねぇし、直接行くしか……)
ガラ…
いろは「……」チラ
八幡「…何やってんだお前」
いろは「おじゃましまぁーす」ソロー
八幡「帰ったんじゃねぇのかよ」
いろは「やー、かばん忘れちゃいまして。お弁当とか筆記用具とかもろもろ入ってますし」
八幡「あー…これか。ほらよ」
いろは「あ、どうもです。ちなみに中のタオルは体育で使ったのとは別物なので、残念でしたねー先輩」
八幡「前から聞きたかったんだけどお前の中の俺はどんな変態なの?」
いろは「違うんですか? てっきりわたしがいなくなった隙にタオルのにおい嗅がれたかと思ったんですけど…… よいしょっと」
八幡「まずカバンにすら触れてねぇし、っつーかまた座るのかよ」
いろは「やっぱりわたしもお腹すいちゃったんでお弁当食べようかなと」
八幡「は? ここで?」
いろは「はい。もともとここで先輩の死に顔をおかずに食べるつもりでカバン持ってきましたし」
八幡「悪趣味すぎるだろ! それと死んでねぇから」
いろは「まーまー。なんなら先輩も一緒に食べます? わたしのお弁当でよければですけど」
八幡「え? いいのか?」
いろは「むしろちょっと1人で食べるには多いので、先輩が食べてくれると助かるんですよねー」シュル
八幡「……やけにカバン重いと思ったら、なんで一人用の弁当が重箱なんだよ」
いろは「ではではーいただきますっ」パカ
八幡「サイズは規格外だけど普通にうまそうだな」
いろは「わたしが作ったのもあるんですよ。そしてとっておきがこちら!」
八幡「!?」
いろは「先輩はここから自由に取って食べていいですからね」
八幡(一段全部ミニトマトってどういうことなの…)
いろは「先輩?」
八幡「いや…」
いろは「お箸が無いので手で食べれそうなものを、と思ったんですけど」
八幡「そうは言ってもこれはさすがになぁ」
八幡(そもそもトマトが好きじゃないんだよな)
いろは「あ、もしかして… わたしの使ったお箸であーんしてもらえるとか期待してました? ごめんなさい先輩にあーんするのもわたしのだ液が先輩の口に入るのもどっちも相当キツいので無理です」
八幡「もういいよ…」
いろは「んふふー、卵焼きおいしいです〜」モグ
八幡(トマトトマトトマトマトマトトマト)モグ
八幡「今さらだけど、お前授業はいいのか? 6時間目なら今から行けば出れるだろ」
いろは「んー……」ゴクン
いろは「わたしも体調不良ってことで休んでますし、なんか面倒なのでサボっちゃいます」
八幡「生徒会長候補がそれでいいのかよ」
いろは「いいんです。マニフェストにお昼寝タイムを設けるって入れようか悩んでるくらいですから」
八幡「はっ、やめとけ。魅力的な案じゃあるけどな」
いろは「わかってますよ。冗談ですー」
八幡「……」
八幡「悪い、授業までサボらせちまって」
いろは「いいんですってば。ってゆーか別に先輩のためじゃないですし?」
八幡「そうか。でも悪い」
いろは「…もー」
いろは「ほら、わたし戸塚先輩に頼まれちゃいましたから。あんなかわいい先輩からのお願いじゃ放棄するわけにはいかないってだけですよ」
八幡「だよな! 戸塚かわいいよなっ! あのウサギのような瞳がもうたまらん。まさに兎塚と書けるまである」
いろは「だからなんでそんなテンションあがるんですか……」
いろは「やー、おなかいっぱいです。先輩、手伝ってくれてありがとうございました」
八幡「こちらこそ、ごちそうさん」
八幡(割り箸あんなら最初から出せよ… っつーか食えねぇ量持ってくんな。うまかったけど)
いろは「はぁー……」
八幡「どうした?」
いろは「あ、いえ。さっきからなんですけど、なんだかぼーっとするというか… 眠くって」
八幡「体育で疲れてるうえに飯食ったからな。っつーか微妙に顔赤くね?」
いろは「あー、なんかちょっと暑いかもですね。たぶん血の巡りが良くなって……っくしゅ!」
八幡「くしゃみ多いな。花粉の時期でもねぇのに」
いろは「先輩が近くにいるからかもしれないですね。やっぱりわたしはそろそろ戻ります」
八幡「人をアレルゲン扱いすんなよ… もうそんな授業時間ないのに戻るのか?」
いろは「先輩、わたしがいなくて寂しいのはわかりますけどー、そろそろ放課後に選挙の準備とか始めたいんでごめんなさい」ガタ
八幡「あーはいはい。超絶寂しいから。行ってこい。いろいろサンキュな」
いろは「うわぁーテキトーですねー… っとと」ヨロ
八幡「おい……マジで大丈」
いろは「てへ☆ よろけちゃいましたっ」
八幡「とっとと戻れ」
放課後
八幡(結局また一休みしてしまった。荷物取って病院行くか)
ガララッ
八幡(もう誰もいないな。着替えるには好都合だ)
八幡(さてと。金いくら持ってたっけ。そもそもまだ外来受付してんのか?)
八幡「あ…」
八幡(このミカンケット、もといみかんの匂いがするブランケットどうすっかな。由比ヶ浜達のじゃなかったわけだし)
八幡(しかし他に思い当たるやつがいないんだよなぁ。持ち帰るにしても何かの間違いで掛けられてたなら面倒なことになりそうだ)
スタスタ
八幡(ま、職員室にでも届けるのが無難だろ。廊下に落ちてましたとか言って…)
ドンッ
八幡「っ! わ、悪い」
いろは「いえ……こちらこそ…」
八幡「って、一色?」
いろは「はぇ…? 先輩ですか……?」
八幡「お前なんでここに? 1年の階はもうひとつ上なんだが」
いろは「え……あー…そーでしたっけ……」
八幡「お、おい。なんか目が変だぞ」
いろは「ぅえー…? それ先輩にだけは…言われたく……」フラ
八幡「っ、一色!? どうした!?」ガシ
いろは「うー……」
八幡(こいつ、ふらつくほど体調悪いのか? とりあえず座らせねぇと)
いろは「すみません、教室で作業してたら具合悪くなってきて……保健室行ってみたんですけど…」
八幡「俺が出るときに先生も帰ったからな。ちょうど入れ違いになったのか」
いろは「だるおもですぅー……ぅえきしっ!」
八幡「見事に風邪だな。思い返すと今日に原因がいろいろありそうだ」
八幡「その格好冷えないか?」
いろは「ぶっちゃけかなり寒いですね…」ブル
八幡「カーディガンだけじゃそうだろうな。よっと…」
いろは「先輩?」
八幡「ほら、これ被っとけ。俺が着てたやつなんか嫌だとは思うがそんなこと言ってられんだろ」
いろは「あ、ありがとうございます」
ファサ
いろは「えへー…脱ぎたてほやほやでぬくいですねぇー」
八幡「わざわざ言うな気恥ずかしい」
八幡「あとこれも使うか? 俺のじゃねぇけど」
いろは「ん… あ、これわたしのブランケットですか」
八幡「え? これお前のなの?」
いろは「はい。休み時間に来たとき先輩寝てたので…風邪引いたらやだなぁって」
八幡(まじか… まさか一色だったとは)
いろは「ふぇ…ひぇっきし!」
八幡「って、それでお前が風邪引いちゃ世話ねぇだろうが」
いろは「あぅ……ごもっともです」ズッ
八幡「ったく、平塚先生呼んでくる。あの人なら家まで送ってくれるかもしれん」
いろは「お願いしますー…」
八幡「あ、一色、ブレザーやらカバンやらは教室か?」
いろは「そうですけど… もしかして、代わりに取ってくるなんて紳士的なことしてくれちゃうんですか?」
八幡「紳士だからな。ちょい待ってろ、なるべく急ぐ」
いろは「あ、はい。待ってます」
いろは(自分で言っちゃうんですね… でも優しいなぁ、先輩)
ガララッ
いろは「はあー…」ダラン
いろは(うしし、具合悪いふりして先輩の気をひく作戦大成功〜)
いろは(…なんてことならよかったけど、ほんとにダメっぽいやこれ。気持ち悪いー。くらくらするー。のどかわいたー)
いろは(でも先輩のブレザーゲットだぜ♪ 袖とおしちゃおっと)モゾ
いろは(わっ… ぶかぶかだ)
いろは(やっぱ、先輩って男の人なんだなぁ。頼りなさそうで頼りになるし、めんどそうにするけど実は面倒見いいし)
いろは(…だから不思議と気になっちゃうのかな。好きとはたぶん違うけど。パッと見かっこよくもないし)
ごちうさ見ながらだと全然進まねぇ
いろは「ふあ………ひぇっくしゅいっこらぁー!」
いろは(うあーやばやば。おっさんみたいなくしゃみしちゃった。人いないからって油断しちゃダメだよわたし)
いろは(まだ足が寒いなぁ。ブランケット足にかけよっと)モフ
いろは(うしうし、だいぶマシになった)
いろは(先輩、わたしが匂い変えてるのとか気づいてるのかな? ……ないかー)
いろは「んんーー」
いろは(う……ちょっと動きすぎたかも)
いろは(ぶり返してきちゃった。先輩戻ってくるまで寝てよ…)コテ
いろは「……」
いろは「……」スン
いろは(袖から……先輩のにおい………)
いろは「……」ウト
ガララッ
八幡「悪い、少しかかっちまった」
いろは「……」スゥ
八幡「…なんだ寝てんのか」
八幡「おーい、起きろ。平塚先生が家まで送ってってくれるってよ」
いろは「……」
八幡「……」
八幡「はぁ… 先生すんません。ちょっとこれいいっすか」
いろは(……)
いろは(んー……あれ?)
いろは(なんか真っ白……わたし、どうしたんだっけ)
いろは(……あ、そだ。先輩を待ってて、来るまで寝てようって)
いろは(もしかしてまだ寝てるのかな。たまーにあるもんね、夢の中で夢って気づいたり)
イヤホント カンチガイサレルンデ
スナオジャナイナァ キミハ
いろは(でも誰かの…声? 聞こえる…)
いろは(それになんか、なんだろ…… あったかくて、大きいものに触れてる感じ…)
いろは(あと…このにおい……さっきもしたような……?)
いろは(なん…だっけ……)
いろは(……)
ブロロ…
いろは「……」パチ
いろは「はれ………?」ムク
平塚「ん? お目覚めかね」
いろは「えと、平塚先生…ですよね……あたたっ」
平塚「いかにも。ああ、無理して起きなくていいよ。横になっていたほうが楽だろう」
いろは「大丈夫です。気分は少しよくなったみたいなので」
平塚「そうか? まあ好きなほうで構わない。あまりくつろげるような車内ではないかもしれんがね」
いろは「たしかにちょっと、ってゆーかめっちゃタバコくさいですしねー」
平塚「面識の薄い教師に送迎してもらっている身分でそれだけ言える度胸に免じて聞かなかったことにするが……社交辞令というものを知りたまえよガール」
いろは「あ、そうですね… ごめんなさい。先生、うちまで送ってくれるんですか?」
平塚「ああ。住所は把握したが細かいところは分からんのでね。もう少ししたら案内頼むよ」
いろは「はぁーい」
いろは「あの、すみません。ご迷惑をおかけしてしまって」
平塚「なあに教師の務めだ。気に負うことはない。それよりも彼に礼を言ってやったほうがいいだろう」
いろは「彼って、先輩ですよね?」
平塚「先輩… まあ、一応言っておくと比企谷だ。珍しく真剣に頭を下げてきたもんで何かと思ったが、たまにはまっすぐ人の役に立つこともあるんだな」
いろは「へぇ……そうなんですか」
平塚「意外というか、まさか彼が君という人間とここまで親交を深めているとは知らなかったよ」
いろは「別に親交とかじゃないです。ただなんとなく興味があるってだけです」
平塚「ふむ…なるほど」
いろは「その先輩はあんまりわたしに興味なさそうですけどねー」
平塚「ん? そうなのか?」
いろは「はい。今日もちょっと先輩に意識してもらいたくていろいろやったんですよ。そしたら結果こんな有様でしたけど…」
平塚「顛末は知らんが、そういう意図なら十分成功だったんじゃないかね?」
いろは「へっ?」
平塚「カバンを開けてみたまえ。彼が君への差し入れを残して行ったよ」
いろは「差し入れ…ですか?」ゴソ
平塚「のどが渇いただろうってね」
いろは「わ、ほんとだ」
いろは(お水…… 先輩がわたしに…)
いろは「でも『いろはす』って。わざとですか。しかも桃味ってなんですか」
平塚「はっはっは。どうだろうね」
いろは「あれ? それになんか付箋が」
『新しい味がクソまずかったからお前にやる。あと今度上着返せ』
いろは(……クソまずいもんをかわいい後輩に処理させるとか…どこが紳士なんですか先輩)
いろは(でも実際のどかわいたし、ありがたいかも)
いろは(…んん?)
いろは(ってゆーか味見したってことは…これ先輩が口つけたんじゃ…!?)
いろは(……の、飲んじゃお…)グッ
いろは「……」
いろは「開けてないじゃないですかーっ!!」
平塚「どうかしたかね?」
いろは「…なんでもないですぅー」
いろは(ふんっ。ふーんっ。罰としてブレザーもしばらく返したげませんからねー)
平塚「まあともかく、君を気遣って職員室まで私を呼びに来たり差し入れを買ったりしたくらいだ」
平塚「そこまでして今さらただの他人だのなんだのということもあるまい。今までより遥かに君のことを意識するようになるんじゃないかな?」
いろは「んんー、そんなもんですかね」
いろは(それに、わたしとしてはもうちょっとスキンシップ的なお近づきが欲しかったなぁー。なんて)
平塚「ああ、それに加えて、起きない君を教室から車まで背負っていったという事実も……あ」
いろは「えっ? 先輩がですかっ!?」
平塚「む、ごほん。無論、私が、だがね。ただ彼はそうするよう指示してくれたという話さ」
いろは「あ…そうですか。ありがとうございます」
いろは(なんだ、先輩じゃないんだ)
いろは(……でもなんだろ? そういえば、目の前にこう、先輩みたいな感触があったような……)
平塚「彼のほうがよかったかね?」
いろは「へっ? い、いえいえ、そんなことは……別にまだ先輩のこと好きとかそんなんじゃないですし」
平塚「ふむ。それは失敬。ところでこの辺りで県道を曲がると思うのだが」
いろは「あっ、はい。えーと、2つ先の信号で左ですね」
平塚「了解」
いろは部屋
いろは(はぁーやっと帰れたー。おふとんー)
パタッ
いろは(うぇ……階段のぼったらまた…)
いろは(先生に送ってもらえてよかったな。バスだったら死んでたかも。もうメイクだけ落として寝よ)
いろは(んー… )ゴシ
いろは(そういえばこの前の風邪薬残ってなかったかな)
いろは(たしか引き出しに……あったあった)
いろは(食後かー。食欲ないなぁ。多めのお水でもいいんだっけ)
いろは(でもお水取りに行くのもだるいし、別に飲まなくていっか)
いろは「……!」
いろは(そうだ、先輩にもらった…)ゴソ
いろは(いろはすはいろはすをてにいれた! なんつって)
いろは(ぬっふふ。こんなところで先輩が役に立つとは。ハグくらいなら許してあげちゃいますよ)
いろは(でもこの付箋はなぁー。先輩、もうちょっと気の利いたこと書いてくれてもよかったのに)
いろは(一応とっとこっと。机に貼って…ってあれ?)
いろは(なんだろ? ちっさい字だけど裏にもなんか書いてある……?)
『はよ元気になれ』
いろは「……」
いろは(だから先輩…もうちょっと気の利いたことをですねー……)
いろは「へへ……えへへ…」
いろは(早く治して上着返しにいきますね。待っててください……先輩♪)
八幡「ふぇっくし!!」
八幡(っあー……なんだ? 噂でもされたか)
八幡(やべぇ、もしや狙われてるんじゃね俺。スナイパー的なアレで)
八幡(間違っても恋のスナイパーとかそんなんじゃないからな。勘違いしたやつは病院で診てもらうべき)
八幡「……あ、病院行くの忘れた」
わたしが先輩への気持ちに気づくのはもう少し先のお話です。まる。
トリなのに起伏の無い内容でさーせん
占いもあんま関係ないし 単純にいいネタが浮かばなかった
見てくれた人どーもです
あ ミネラルウォーターはダメな薬あるので真似しないでね
このSSまとめへのコメント
そこで押し倒せよ!
大志にパロスペシャルを!
やべえいろはすかわいい
面白い!
大志お前だけは、殺す!
いくら創作とはいえ、大志と小町は恋人にはならない。