瑞鶴「勇者と鶴と幸運の指輪」 (29)

艦これのssになるかもしれなかったものです。読む方は以下のことに注意してお読みください

・キャラ崩壊

・オリジナル設定

・ファンタジー混入、厨二全開



【艦これ】勇者「僕がキミを守るよ、春雨」 春雨「勇者さん……」
【艦これ】勇者「僕がキミを守るよ、春雨」 春雨「勇者さん……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1418460855/)

の番外編です。このスレを読む前にあちらを読んでおくことを推奨します



他の関連スレについてはこちらをご参照ください

榛名「榛名恋愛相談所」 漣「3件目ですよご主人様!」
榛名「榛名恋愛相談所」 漣「3件目ですよご主人様!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1438862043/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1443006008

初めて会った時は、特に何も思わなかった。一対一でお互いにお互いを意識した上での邂逅ではなかったし、あの頃の私は他人にあまり興味が無かった



勇者「えっと、今日からここでお世話になる勇者です。よ、よろしくお願いします」オロオロ

春雨「ゆ、勇者さん噛み噛みです!お、おおおおお落ち着いてください!冷静に、ゆっくりやれば大丈夫でしゅ!」ボソボソ

夕立「春雨の方が緊張してるっぽい……」ヤレヤレ



翔鶴「春雨ちゃんの連れてきたあの子、狼狽えてるわね……たくさんの人を目の前にして緊張しちゃってるのかしら」

瑞鶴「そうなんじゃない?」

翔鶴「瑞鶴はあまり興味が無さそうね」

瑞鶴「まあね。じゃ、私は先に出てるから。提督に何か言われたら適当に誤魔化しておいて」スタスタ

翔鶴「あ、瑞鶴!待ちなさい!――――もう、あの子はいつもああなんだから……」

後ろからそんな翔鶴姉ぇの声が聞こえていたが、振り返らずに立ち去った。

私は強くなりたかった。誰よりも強くなって、誰をも守れるようになりたかった。

瑞鶴「せい、やっ!」

クリティカル!

瑞鶴「ふぅ……」

高雄「お疲れ様です。タオルどうぞ」つタオル

瑞鶴「ありがと」

高雄は貴重な単語以外でも会話する友人だ。彼女も――――『高雄』もまた、多くの艦が沈む中で生き残った船だから。きっとなんとなく雰囲気があっていたのだろう。

高雄「流石は最新鋭空母の翔鶴型。五航戦の瑞鶴さんですね。相変わらず惚れ惚れするような爆撃です」

瑞鶴「私なんてまだまだよ」

高雄「そんなに謙遜しなくても……」

瑞鶴「謙遜なんかじゃないわ。本当に、まだまだ……!」ギリッ

そう、本当にまだまだだ。この程度じゃ、ダメなのだ。これじゃあまだ、届かない。

仲間が沈んだという報告、自分の目の前で死んだ姉。数々の記憶が蘇ってくる。

瑞鶴「っ!」

それらを振り切るように、強く強く。何度も弓を引く。

高雄「……」

その姿を、高雄が慮るような視線で見つめていた。

こんな風に私は毎日訓練に明け暮れていた。出撃や演習といった仕事、食事・睡眠などの最低限の生活以外はずっと訓練をしていたんじゃないかと思う。

他人との関わりを拒絶して。大好きな姉や大切な友人にも心配をかけて。

ただただ、自分の思い描く理想の『強さ』を追い求めていた。

今でこそ、それがどんなに独りよがりで周囲に迷惑をかける行動だったのか分かるが、当時の私にとってはそれが正義だった。生きる意味だった。




そんなある日、彼に出会った。


瑞鶴(しまった……少し、根を詰め過ぎたかも……)

その日はたまたま体調が悪かった。それなのに無理をして訓練をしたためか、足元がふらつく。

瑞鶴「大丈夫、まだ、大丈夫……」

そう言い聞かせながら歩くも、次第に眩暈は酷くなり、やがて――――

瑞鶴「あ」

限界はあっけなく訪れた。

支えていた力を失った私の体は、真正面から倒れる。咄嗟に手を出して体を支えようとするが、まったく動く気配がしない。

瑞鶴(やばっ!ぶつかる……)

そう思い、目をギュっと強く瞑ったところで

バフッ

瑞鶴「へ?」

予想していたよりだいぶ柔らかい衝撃に驚き、思わず目を開ける。するとそこにあったのは、数日前からここに滞在しているあの少年だった。

勇者「だ、大丈夫?危ないよ?」

瑞鶴「だ、大丈夫よっ!」

心配そうな顔で聞いてくる彼に、弱みを見られた恥ずかしさから少し荒く答える。

勇者「でも……」ピタッ

瑞鶴「ひゃわっ!」///

突然額と額を合わせる彼。あまりの出来事に顔を真っ赤にして慌てたような気がする。我ながら情けないとは思うが、当時の私は男性とほとんど関わりが無かったのだから仕方がないと言いたい。

勇者「……うん、これはアウトだね。えっと、医務室はどこだっけ……?」

瑞鶴「な、何なのよ!」///

勇者「キミ、熱があるじゃないか。こういう時はベッドで横になって安静にしてなきゃダメなんだよ」

瑞鶴「へ、平気よこれくらい!いいから離しなさい!」ジタバタ

常人より遥かに強い艦娘の力を使って振りほどこうとしたけど、まるで動けなかった。『旅をしていたときに色々な修羅場をくぐったからだよ』と彼は後に言っていたが、本当にそれだけでああなるのかと今でも疑問だ。

勇者「ダーメ。それより医務室の場所を教えてくれない?春雨がいれば聞けたんだけど、今いないし」

瑞鶴「……行くなら私ひとりで行くからいいわよ」プイッ

勇者「そう言って行かないんだろ?ほら、いいから早く教えて」

瑞鶴「……」ツーン

勇者「……はあ。じゃあ仕方ない。誰か探して聞くしかないか」ヒョイッ

瑞鶴「ちょ、な、何してるの!?」

勇者「何って……こうしないと運べないじゃないか」 ※お姫様抱っこ中です

瑞鶴「バカ!いいから早く降ろしなさい!」

流石にこのときばかりは本気で焦った。あの頃の私はクールな印象で通っていたので、あんな状態を見られるわけにはいかなかった。もちろん、今でもお姫様抱っこされてるところを人に見られたりしたら恥ずかしすぎるが。

勇者「却下。さて、それじゃあ早速人を探そう」

瑞鶴「な、この状態で人に会うとか……!無理無理無理無理!絶対無理!恥ずかしすぎて死んじゃうってば!おーろーせー!」ジタバタ

勇者「おっ、あそこの部屋に人がいそうな気が……」

瑞鶴「ぎゃー!分かった!教えるわよ!教えるからなるべく人に会わないようにしなさーい!」

どうしてこの出会いからあんな結末になるのかは分からないが、とにかくこれが私と彼の記念すべきファーストコンタクトだったのだ。

私が倒れかけてから数日後。食堂にて彼を発見した

結局あの後、私が大声を出したせいで部屋にいた陸奥に見つかってしまい、ニヤニヤされることになったのだったか。あれはかなり恥ずかしかった。

その時のことを少し根に持っていた私は、後ろから近付いて驚かせてやろうとこっそり忍び寄った。

瑞鶴「……」ソロリソロリ

勇者「……」モグモグ

瑞鶴「……てやっ!」ビシッ

勇者「うわっ!?」

勇者「……って、なんだキミか。もう具合はいいの?」

瑞鶴「なんだとは何よ。てゆーか落ち着くの早過ぎ。全っ然面白くない」

勇者「そんなこと言われても……とりあえず、ピーマンでも食べて落ち着こうよ」

瑞鶴「この流れでサラッと嫌いな食べ物を他人に押し付けようとするんじゃないわよ」

勇者「いや、別に嫌いじゃないよ。ただちょっと苦手なだけで」

瑞鶴「それを嫌いって言うんだと思うけど……まあ、貰ってあげるわよ。私の方が年上だしね。たぶん」

勇者「ありがとう。えっと……」

瑞鶴「瑞鶴よ」

勇者「ありがとう、瑞鶴。はい」アーン

瑞鶴「えっ?い、いいわよ。私もどうせお昼食べるし、その時にこっちの皿に移しなさいよ」

勇者「それもそっか」

瑞鶴「じゃ、じゃあ取って来るわね」スタスタ

瑞鶴(なんでちょっと残念って思ってるんだろう、私)

おそらく、このとき既に彼に惹かれ始めていたのだろう。いや、もしかしたらもっと前。初めて出会ったあのお姫様抱っこ事件より更に前。

彼が壇上で挨拶していた時から、私は彼に――――

めんどくさい切り方ですが今日はここまでです。一応この話は既に書き終えているのですが、思いついた話を加筆しながら投稿していくつもりなので数日くらい掛けて投下していきたいと思います。

はいよおつつ
本スレのほうにはどんぐらいで戻る予定??

瑞鶴(まったく、ホントなんなのよあいつ――――!)ビュンッ クリティカル!

ヲ級「……」轟沈

ある日の出撃中。私を含む哨戒部隊は鎮守府が確保している輸送路付近に出現した深海棲艦をいつものように掃討していた。いつもと同じ手順で流れ作業のように淡々とこなしていく。考え事をしながらでも出来る簡単な仕事だった。もちろん、考え事というのは九割方が彼のことだ。

しかし、だからだったのかもしれない。こんな風に淡々と、易々と。敵とはいえそこに在る命をあまりにも軽々しく扱っていたから。

彼女は、そんな話をしたのかもしれなかった。



瑞鶴「さて、そろそろあらかた片付いた頃かしらね」

自分の目の前にいた敵空母の群れをほぼ無意識で全滅させ、私は辺りを見回す。

哨戒部隊とはいえ我が鎮守府の誇る艦隊である。自分以外も慣れた手付きで順に敵を落としていく。中にはもう戦闘を終えている艦もいたほどだ。

そんな中で一人、苦戦している者がいた。

瑞鶴「あの子は確か……」

榛名、といっただろうか。最近どこかの鎮守府から転属してきた高速戦艦だったような覚えがある。

彼女は戦艦。そして相手は数体の重巡洋艦と護衛の駆逐艦たちだ。確かに数的には不利だが、彼女の火力と装甲、そして速力があれば容易に制圧できる戦力だ。事実、敵の砲撃はかすり傷すら負わせられていないし、魚雷はことごとくかわされている。

ならば、何故……?

そう思ってよく見てみると、すぐに原因がわかった。

榛名「っ!」

射線を確保し主砲の狙いを定めるも、彼女は撃つ直前で一瞬硬直する。その隙に機動力を活かして回避されるのだ。

瑞鶴「チッ……何やってるんだか」

意味不明な彼女の行動に苛立ちを覚えた私は、踵を返して再び前方を向こうとした。彩雲でも発進させて周辺の索敵に務めようと思ったのだったか。しかし、数瞬後の私が弓に番え発射したのは索敵機である彩雲ではなく、爆撃機の彗星だった。そして、その理由は――――



瑞鶴「何やってんのよバカ!」



榛名「え?」

疑問の声と共に榛名が振り向いた瞬間、私が放った彗星の爆撃が彼女の背後に回っていた駆逐艦を捉えた。

榛名「あっ……」

瑞鶴「ったく、ノロノロやってんじゃないわよっ!第二次攻撃隊、全機爆走及び発艦!やっちゃいなさい!」

こうして惚けた彼女の横をすり抜けていった私の爆撃機がその場にいた深海棲艦を全滅させた。

>>11

数日で戻ると思います。そんなに長い話じゃないので

>>12の下から二行目の『爆走』は正しくは『爆装』です。すみませんでした



瑞鶴「何なのよ、今日のあの戦闘」バンッ!

榛名「……」

その日の夜。私は彼女を訓練室に呼び出し問いただした。

あの時、榛名の背後に回っていた駆逐艦は魚雷を発射する寸前だった。駆逐艦とはいえ、いや駆逐艦だからこそ雷撃にだけは気を付けなくてはならない。駆逐艦の雷撃は艦娘・深海棲艦問わず、私や榛名のような大型艦さえ一撃で仕留めかねない威力を秘めた必殺の牙なのだ。その警戒を怠ることは絶対にあってはいけない。

もし私が気付かなかった、またはほんの少し気づくのが遅れていたら、彼女は間違いなくこの場にいないだろう。

瑞鶴「なんで真剣に戦わなかったの」

榛名「……」

瑞鶴「黙ってないで、何か答えなさいよ!」

私は怒鳴り、榛名の背後の壁を思い切り殴りつける。大きな音がし、彼女は身体をビクッと震わせてからやがて俯かせていた顔を上げ、私に言った。

榛名「瑞鶴さんは、どうして……?」

瑞鶴「……何よ」



榛名「瑞鶴さんはどうして、そんなに迷わず戦えるんですか?」



そう言った彼女の眼は今でも覚えている。あれは、壊れかけた者の眼だった。

その異様な圧力に気圧された私に、畳み掛けるように彼女は語る。


榛名「どうして、戦えるんですか」

――――謳うように。

榛名「どうして、悩まないんですか」

――――嘆くように。

榛名「どうして……?どうしてどうしてどうしてどうして!?」

――――叫ぶように。

榛名「どうして――――そんなに平気そうに殺せるんですか?同じ、命なのに」

まるで、泣いているかのように。

彼女は、私にそう言った。

今日はここまで。次回に続きます

翌日。私は出撃して怪我を負った。

ドックで休んでいると彼がやってきて、ベッドの近くの椅子に腰掛ける。

瑞鶴「……何の用?」

勇者「お見舞いだよ。怪我は大丈夫?」

瑞鶴「……平気よ、これくらい。小破なんて怪我のうちに入らないわ。大袈裟なのよ、翔鶴姉ぇも、提督も」

しかも、今日のこの怪我は私のせいなのに。ただの自業自得だというのに。

昨日の榛名の言葉が、頭から離れなかった。ずっと、ずっと。

『どうして深海棲艦を殺すのか』。そんなこと、深く考えたことは無かった。私はそのために作られ、生きていたのだから当たり前なのだが。

だからこそ、彼女の言葉は私の心に確かな楔を打ち込んだ。

私は隣に彼がいることも忘れて思案に耽る。あるかもわからない答えを見つけ出す為に。

そして黙ってしまった私を案じたのか、彼がわざと明るい声で言う。

勇者「そっか。それはラッキーだったね。そういえば瑞鶴は『幸運艦』って呼ばれてたんだっけ」

瑞鶴「っ!」

瞬間、弾かれたように私の身体が震える。

どんなに深く考え込んでいても、たとえ生死をかけた戦いの最中であろうとも。

その言葉を、私が聞き逃すはずがない。

私は、

勇者「どうしたの?」

私は、

瑞鶴「……じゃない」

私は、

勇者「へ?」

私は、



瑞鶴「私は、幸運艦なんかじゃない」



言ってから自分の声の低さに驚いた。苛立ちが、抑えきれなかった。

瑞鶴「私はラッキーなんかじゃない。いつだって、私は誰かの不幸を見てきた」

瑞鶴「私を狙った弾が偶然逸れて、他の誰かに当たる。私の上空だけが荒れて、敵の爆撃機が他の誰かに向かう」

瑞鶴「私はそんな誰かを、見続けてきた」

勇者「瑞鶴……」

瑞鶴「中破する子がいた。大破することがいた。航行不能になって雷撃処分される子もいた。もちろん……轟沈する子だっていた」

思い出されるのは、初代『瑞鶴』の記憶。数々の海戦で、多くの仲間を失った。

瑞鶴「私の幸運のために誰かの不幸で釣り合いが取られる。私のせいで、誰かが傷つく」

瑞鶴「親しい人たちがどんどんいなくなっていって、自分だけが残される。そんなことを、私は幸運だなんて思わない」

思い出したくもない光景が脳内を駆け巡る。沈んだ船の残骸と、その中で一人取り残される、私。

瑞鶴「『瑞鶴』は幸運艦なんかじゃない。ただの、呪われた船よ」

これは紛れもない、私の本心だった。

誰かの不幸を代償にした幸運。それは最早ある種の呪いだ。

瑞鶴「『死神』なのよ、私は」

自分以外を犠牲にする『死神』。私は自分をそう定義づけていた。仲間を犠牲に敵を討つ。残るのはいつだって、私だった。

でも、だからこそ、

瑞鶴「私は、強くなりたかった」

誰も犠牲にしなくていいような、誰かの不幸を遮れるような

『幸運』なんかが無くても、私は戦えるんだと。

証明したかった。強く、なりたかった。

瑞鶴「なのに、全然ダメなの」

瑞鶴「守りたかったのに、守れなかった。私のせいでまた傷つけた。私の大切な、たった一人のお姉ちゃんを」

私より先にドックに入り休んでいたのは他でもない。翔鶴姉ぇだった。

自分だって痛かったはずなのに、あの優しくて強い姉は言ったのだ。『瑞鶴、大丈夫?ちゃんとドックで休みなさい』と。

勇者「それは……キミのせいじゃないだろ?」

瑞鶴「私のせいなのよ!私が、迷ったから」

今日の戦闘中。番えた彗星を撃つ瞬間、ほんの僅かに手元が狂った。攻撃が逸れる。何度も、何度も何度も何度も。

一度だって、当たらなかった。

逆に敵の攻撃は的確に私を捉える。いつも羽のように軽かった身体が、まるで錨を下ろしたように重かった。

そして、敵戦艦の砲撃が私に狙いを定めた時。

瑞鶴「庇われたのよ。守るべきで、守るはずで、守りたかった人に」

こんなんじゃ何も変わらない。弱かった私が誰も守れなかったあの戦争と、何一つ。

そんなものが、私が望む『強さ』の結果であっていいはずがない。

勇者「……」

瑞鶴「……あなたに話しても意味がないことだったわね。少し休みたいから、一人にして」

勇者「瑞鶴、キミは――――」

瑞鶴「いいから出てって!早く、出てって……お願い、だから……」

そう言って、顔を背ける。どうしてか彼にだけは絶対に顔を見られたくなかったのだ。

涙で崩れた、情けない自分の顔を。

勇者「……」

立ち上がり部屋を出て行く音がする。足音が完全に聞こえなくなってから、私は身体の向きを直して天井を見上げる。

瑞鶴「何やってんだろ、私」

頭の中がぐちゃぐちゃで、もうどうすればいいのか分からなかった。

自分から追い出したくせに彼がいなくなったら途端に寂しくて、不安になった。そしてそんなことを思う自分の心がわからなくて、また考える。

結局この時はすぐに考えるのをやめてしまった。けれど今になって思う。もしかしたら私は、このとき――――

――――彼に、慰めて欲しかったのかもしれなかった。

今日はここまで。もう少しで終わります。たぶん

その後はしばらく彼には会わなかった。気まずさを感じて私が避けたから

瑞鶴「……!」

Miss!

瑞鶴「……ッ!」

陸奥「荒れてるわねぇ」

瑞鶴「……なんの用よ」

陸奥「提督に夕立ちゃん、翔鶴。以下十数人から『最近瑞鶴の様子がおかしいから、こっそり原因を探ってきて』って頼まれちゃって」

瑞鶴「いいの?それ話しちゃって」

少なくとも私の知る『こっそり』の定義には反すると思うのだが。

陸奥「良いのよ、別に。私が困るわけじゃないし」クスクス

瑞鶴「あっそ」クルッ

そこまで聞いて私は的に向き直り、再び矢を番え放とうとする。その直前、

陸奥「――――まったく、勇者くんと喧嘩したからっていつまでも不貞腐れてるんじゃないわよ」

なんて言葉が耳に入ってきてしまったものだから、驚いた私は全然見当違いのところに飛ばしてしまったのだった。

瑞鶴「な、何を根拠にそんなこと言ってんのよ!」

陸奥「何を根拠にって……そんなの貴女の様子を見てれば一目瞭然よ。物陰からじーっと見てるくせに、自分の方に歩いてきたら走って逃げていくんですもの。気付いてないのなんて私に頼んできた十数人と勇者くん本人くらいよ?」

瑞鶴「な、なななななななっ!」///

なんてことだろう。自分でも少しどうかと思う奇行が、まさか他の艦娘にも見られてたなんて――――!

あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にした私は走ってその場から逃げ出そうとしたが、そんなことは想定通りだとでも言うかのように陸奥に手を捕まれて失敗した。

瑞鶴「放しなさいよ!はーなーせー!」ジタバタ

陸奥「こらこら。そんなに慌てないの。おねーさんのありがたーいアドバイスを聞いてからでも損はしないわよ」

瑞鶴「……ありがたーいアドバイス?」

陸奥「そ。まぁ騙されたと思って聞いていきなさいな」ポンポン

瑞鶴「……」

……そういえば訓練を始めてから結構経っていたので、そろそろ休憩を挟もうと思っていたのだった。私は弓を置き、陸奥の隣に腰掛ける。

瑞鶴「休憩中の暇つぶしくらいには、聞いてあげるわよ」

陸奥「まったく、素直じゃないんだから」クスクス

瑞鶴「うっさい!ほっとけ!」

それから十数分、私は陸奥からの『ありがたーいアドバイス』とやらを聞かされた。

で、その更に数日後。

瑞鶴「本当にこんなんでいいのかしら……?」

私は港にいた。

手慰みに持っている箱にかけられたリボンをいじりながら、私は陸奥の言葉を回想する。

陸奥『結局のところ、仲直りの方法なんて古今東西何時でも何処でも同じよ。きちんと面と向かって謝りなさい。あとはプレゼントかなんかを渡せば良いんじゃないかしら?』

ようするに物で釣れということらしかった。身も蓋もない助言だったが他に方法も思いつかなかったので間抜けにも私はその助言に踊らされてこんなところで一人所在無さ気に立っているのであった。

瑞鶴「はぁ。まったく、何やってるんだか」

愚痴りつつ、思う。自分は何をやっているのだろうか、と。

以前の自分なら誰と険悪になろうが、動揺したり他人の助言を参考にしたりなどしなかったはずだ。訓練時間を削ってまでこんなことをしているなんて絶対にあり得ない。

ならば、自分は変わったのだろう。そしてその変化の原因は間違いなく――――

勇者「瑞鶴」

瑞鶴「っ!……遅いわよ」ジトッ

勇者「たはは……ごめんごめん。ちょっと道に迷っちゃって」

勇者「それで、話って何かな?」

瑞鶴「……」

そう切り出され、私は硬直する。準備とイメージトレーニングは充分に行ったはずだったが、いざとなると緊張して声が出なかった。

勇者「?」

瑞鶴「あ、の。その……」

それでも何とか声を振り絞り、四肢を動かす。

瑞鶴「この前のこと、謝りたくて。ごめんなさい」ペコリ

謝罪の言葉は、思いの外あっさりと出た。

顔を上げると、ぽかんとした彼の顔が見えた。が、すぐにそれはいつもの柔らかな笑みを浮かべる。

勇者「瑞鶴が謝る必要はないよ。僕の方こそごめん。キミを傷つけてしまって」

今度は彼が頭を下げた。それに対して私もやはりぽかんとした後、くすっと笑い出す。

瑞鶴「ふふっ、何よ。二人して謝りあって。バッカみたい」

それから私たちは二人で並んでテトラポットの上に座った。しばらく星を見て他愛もない雑談をし、私は自分の手の中の箱の存在を思い出した。

瑞鶴「はい、これ」

勇者「?」

瑞鶴「私の謝罪の気持ちよ。開けてみなさい」

勇者「……これ」

しゅるしゅるとリボンを解き開けると、箱の中には金色に輝く腕輪があった。

瑞鶴「本当はこういうの、柄じゃないんだけどね。色々悩んで、それにしたの」

勇者「瑞鶴……ありがとう。凄く嬉しいよ。絶対、ずっと大切にする」

瑞鶴「あ、当たり前でしょ。失くしたりなんてしたら許さないんだから」///

照れて赤くなった顔を見られないようにそっぽを向く。決して嬉しくてにやけてたりは、していなかったような……気がする。

勇者「そうだ。じゃ、僕からはこれを」

彼はそう言うと何やら鞄を漁り出したようでしばらくごそごそと音がして、音が止むのと同時に私は彼に向き直る。

勇者「はい、僕の謝罪の気持ち」

そう言って差し出されたのは銀色の光を放つ――――指輪だった。

瑞鶴「あ、あんたこれ――――!」///

勇者「旅をしてる時に縁あって手に入れたアイテムでさ。なんでも大昔に女神様が作った指輪らしくて、着けてると幸運が訪れるんだってさ」

瑞鶴「幸運が?」

勇者「そう。キミが皆を守れるように、皆を守ったキミが傷つかないように」



勇者「キミが、笑顔でいられるように」



瑞鶴「……なによそれ」クスッ

彼の言葉と表情にちょっとドキッとしてしまったのを誤魔化すために、私は茶化すようにからかう。

瑞鶴「肝心なところを道具任せ?そこは『瑞鶴は僕が守る』くらい言ってくれてもいいんじゃない?」

軽い冗談のつもりで言ったのだけど、対する答えは本気だった。

勇者「守るさ、もちろん」

瑞鶴「――――」

そう言った彼の表情は真剣で。

その言葉に嘘偽りが無いことはすぐに分かって。

不覚にも再度、胸がときめくのを感じた。

そしてそれを今度は誤魔化さないまま

瑞鶴「なら、あんたのことも私が守ってあげるわよ」ニコッ

目の前にいる彼の表情が惚けたものになる。希望的観測に過ぎないけれど、きっと彼は私の笑顔に見惚れていたじゃないだろうか。

そうだったならいいなと、そう思う。

――――あ、そうだ。どうせだったらあんたが着けてよ。その指輪。

――ええ!?わ、わかったよ。じゃ、じゃあ手、出して。

――――ん。

――んー、人差し指じゃ合わないし中指も駄目か。薬指は……あっ、ちょうど嵌ったね。

――――なっ!?あ、あんた左手の薬指ってそれ……

――?どうかしたの?

――――なんでもないわよバカ!ホント、私だけ意識してバカみたい。でも、いつか絶対……

~『エラー娘捜索部隊』出発前日~

瑞鶴「あーあ。これでしばらくはここともお別れか」

勇者「本当について来るの?」

瑞鶴「しょうがないでしょ。提督命令なんだから。それに、守ってくれるんでしょ?私のこと」

勇者「もちろん」

瑞鶴「なら別に問題ないじゃない。安心しなさい。あんたが守って、あんたを守るこの瑞鶴には――――」

それは、あの夜から使い出した、私の決め台詞。

私の大好きな人が、私に授けてくれた小さな加護。

そう、今の私には、

瑞鶴「――――幸運の女神が、ついていてくれるんだから!」

~百年後・舞鶴鎮守府~

瑞鶴「……」

高雄「こんなところにいたら風邪引きますよ」

瑞鶴「大丈夫よ。私は幸運艦だから」

高雄「それ全然理由になってないと思いますけど……いったい何してるんですか?」

瑞鶴「んー?そうね――――」

瑞鶴「――――『そろそろ会えますように』って、お願いしてたのよ。幸運の女神様にね」

そう呟く彼女の薬指には、かつての輝きを失った指輪が着けてある。

いつの日か、この指輪に誓った約束を、再び守れるときが来ることを願って。



◇反転:幸運の鶴→黒い騎士◆



~???~

黒騎士「?」

駆逐棲姫「ドウカ、シタノ?」

黒騎士「イヤ、何ダカ今、誰カニ呼バレタヨウナ……」

駆逐棲姫「呼バレタ?」

黒騎士「凄ク、懐カシクテ、温カイ……」

――――『…鶴には、幸………神がついて…て……るん……ら!』

黒騎士「ッ!」

黒騎士(今ノ、声ハ……)

駆逐棲姫「ダ、大丈夫?」オロオロ

黒騎士「瑞、鶴の……?」バタン

駆逐棲姫「ユ、ユウシャ!?」



運命はまだ、交わらない

これにて終了。ありがとうございました。

最後が駆け足なのはいつも通り。たまにはいい感じに完結させてみたいものです

それでは次回からは本スレの方へ戻ります

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom