みーくん「ゆき先輩が元気一杯なので全力でカンチョーをしてみる」 (144)

私がどうしてそんな女の子らしからぬ事を思い立ったか、なんて事は、この際、どうでもいいんです。

大事なのはゆき先輩が毎日元気一杯にはしゃぎまわっているというこの事実と、それを毎日冷静沈着な目で観察してきた私が、走る度にぷるぷる揺れるゆき先輩の臀部に対して無性に心の底からカンチョーをしてみたいと願うようになったこの気持ちなのですから。

そして、私は中途半端は嫌いですし、それはゆき先輩に対しても大変失礼な事だと思いますので、全身全霊、命の限りを尽くして全力でカンチョーしようと考えています。相手に対して礼節を尽くすのは人として当然の事ですから。

大事なのは気持ちです。理屈ではありませんし、明確な理由なんて必要もないんです。ジークンドーの創始者であり映画俳優でもあるブルース・リーもこう言っています。「考えるな、感じろ」と。

私はあの人の映画を一度も見た事がありませんが、とても素晴らしい言葉だと個人的には思っています。

なので私は考えのをやめ、ゆき先輩の柔らかそうでもみゅもみゅとしていそうな臀部を探し求める為に、三千里の道程も辞さない覚悟で学園生活部の部室から、今、旅立ったのでした。

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もちろん私はゆき先輩の事を、まるで盛りのついたシートンの様に毎日観察していた訳ですから、先輩が今どこにいて何をしているかなんて事は大体想像がつきます。

恐らくゆき先輩はいつもの教室でまるで盛りのついたアルパカのように勉強しているのでしょう。恐らく盛りのついた佐倉先生と一緒に。

佐倉先生というのは、この学校の先生で、私がここに来る前に盛りのついたゾンビに襲われ、今はお亡くなりになっている方です。

ゆき先輩はその事実を受け入れられず、現実とは斜め45度ほどずれた世界に今、住んでいます。その世界では『パンデミック』なる人的災害は起きてもいませんし、盛りのついた佐倉先生も死んではいません。生きています。

妄想の中だけの優しい世界、と言えばいいのでしょうか。盛りのついたゆき先輩はそういった世界に住んでいます。そして、いつも通りの日常を送っています。

盛りのついた私はそのゆき先輩の臀部に微塵も容赦ないカンチョーを見舞う事を画策しています。何もおかしい事はないです。朝起きたら顔を洗って歯を磨き、着替えて食卓についてジャムたっぷりのトーストを食べるぐらい自然な流れですね。

よくよく考えてみると、です。

一歩進む毎に私は、ゆき先輩の臀部の危機的状況へと一歩近付いている訳です。私が一歩足を踏み出す度に、ゆき先輩の明るい未来お尻計画も崩れていく訳です。

何故だかそれに興奮してテンションが上がってきた私は、廊下をムーンウォークで華麗に進みだし、途中で消火器にぶつかって転びました。

少し気合いが入りすぎているようです。いえ、気合い自体はいいのですが、それが気負いになると急激にマイナスへと暴落します。私は心を落ち着ける為に、ジブリ映画に出てくるムスカを思い浮かべ、逆にテンションが上がりました。

私は、今度はイナバウアーのポーズを取りながらムーンウォークして華麗に進み、足元に特に何もないのにすっ転びました。後頭部が先程からジンジンします。

きっとこれもカンチョーの神様が与えたもうた試練なのでしょう。ゆき先輩の臀部にはそれだけの価値があるという事です。

痛さを紛らす為に私は『ふれんどしたい』の替え歌である『かんちょーしたい』を口ずさみながら歩く事五分、特に山場も盛り上がりもなくゆき先輩のいる教室前へと遂にたどり着いたのです。

いざ、決戦の地へ。

「ゆき先輩、いますか?」

ガラリと教室の戸を開けます。もちろん、いるのはわかっています。重要なのは、今がゆき先輩にとっての授業中かどうかです。

「あ、みーくん。どうしたの?」

幸いな事に授業中ではなく、休み時間中のようでした。ゆき先輩はごく普通に受け答えしてくれます。これは絶好の機会です。

「先輩、ちょっと向こうの空を見て下さい。今、風船みたいなものが飛んでるんです。ほら、あそこ」

そう嘘をついて、私は窓の外を指差します。ゆき先輩は良くも悪くも素直な性格をしていますので、あっさりと私の嘘を信じ、「どこどこ?」と無邪気な表情で後ろを振り向きます。

「ほら、向こうですよ。見えませんか?」

「んー……?」

当然、元から無いんですから見えるはずがありません。いくらゆき先輩でも私の嘘までは見えないのですから。先輩は目を細めつつ窓の近くへとゆっくり歩いていきます。つまり、完全完璧に無防備な臀部を私の前にさらけ出したのです。

このチャンスをものにしなければ、私は恐らく生涯後悔するでしょう。すぐさま両手を組み合わせて、さながら決闘前のガンマンのように私はカンチョーの構えをとりました。

以後、本作戦を『オペレーション・エンジェルウイング』、カンチョーの構えの事を『グングニール弐式』と呼称する事を、私は人知れずここに宣言します。

私は、『グングニール弐式』の構えを取りつつ、ターゲットの肛門との距離を目視で測ります。

距離はおよそ三メートル程です。『運動エネルギー』は『1/2×速さ×質量の自乗』で求まりますので、早い話、速くて重いカンチョーほど、相手に与える衝撃は大きくなります。

助走をつけて大きく強く踏み込み、手加減や躊躇いを一切せず、奥まで突き刺す事。

私は頭の中でそう確認し、それから脳内シミュレーションを素早く行い、そして次の瞬間には野獣の様に駆け出していました。

人間というのは、極限まで集中すると、脳が必要な情報だけを判断して、それ以外の情報をシャットダウンする様に出来ています。音が消え、代わりに周りの動きがスローモーションになるというアレですね。『ZONE』などと呼ばれる現象です。それがこの時の私にも起こりました。

足を踏み込む瞬間の筋肉の動きが鮮明に理解できます。額から滴る汗がゆっくりゆっくりと床に落ちていきます。ゆき先輩の次の動きまで完全に予想がつきます。

疾く、強く、深く!

私は一心に念じます。この『グングニール弐式』をゆき先輩の肛門の奥の奥目掛けて突き刺すのが今の私の生きる意味だと言っても決して過言ではありません。

届け、この想い! 届け、この技の冴え! 誰よりも、何よりも、容赦なく!

私はものすごく純粋で熱烈な気持ちを胸一杯に抱えながら、無防備なゆき先輩目掛けて思いきり足を踏み込みつつ全力でカンチョーをしました。

「う゛き゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

あの時のゆき先輩の悲鳴を私は一生忘れる事はないでしょう。

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