主要登場キャラ……塩見周子、一ノ瀬志希
地の文
※塩見周子
http://i.imgur.com/OFZuyel.jpg
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※一ノ瀬志希
http://i.imgur.com/0CDL4H8.jpg
http://i.imgur.com/HWWDFkN.jpg
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1439715284
●01
――形はどうあれ……道に迷って流れ流されていたあたしの手を、
――アイドルの世界へ引っ張ってくれたのは……
――あたしにも負けないぐらいテキトーな、ちょっと変わった女の子だった。
●02
『限界を決めないで
この右手 誰よりも 高く伸ばし』
歌声が聞こえる。
18歳くらいの――あたしと同年代の――女の子が、
秋葉原のライブハウスでスポットを浴びて、アップチューンを歌っている。
『立ちはだかる困難は
神様がくれたチャンス 恐れないで』
あたしは、ライブハウスという場所に初めて来た人間だ。
けれどそんなあたしでも、あの子の一挙手一投足が、場の雰囲気を支配していると肌で感じられた。
『スポットライトに 涙を隠して
夢を夢で終わらせたくない』
さっきまでのあの子は、ステージの真ん中にマイクスタンドを置いて、すっと立って、
しんみりとしたバラードで観客を引き込んでいた。
今は、花びらのようにヒラヒラした衣装を、
活発そうな容姿にお似合いのアップテンポになびかせて歌い踊り、
会場の聴衆の呼吸まで弾ませていた。
そんな中、ステージに注がれていたあたしの視界の端で、ちらりと気になる物が見えた。
あたしとほぼ同じ身長の、若い――やっぱりあたしとさほど変わらない――女の子が、
ロングの癖っ毛をゆらゆらフラつかせていた。
「……あんた、どこか悪くしたん?」
「う……き、キミは……」
おぼつかない足取りの女の子に手を伸ばすと、女の子はあたしに軽く寄りかかってきた。
顔色は――ライブハウスが薄暗くてよく分からない。でも、とにかく気分が優れないらしい。
「ありがと……ここのスメルが色々混ざり過ぎてて、しかも籠もってて気持ち悪く……ううっ……
……あ、キミのスメル、イイ――スーハー……スーハー……まるで一服の清涼剤……」
「すめる?」
「あ……いや、その……ごめんよー、ちょっと、肩を貸しててくれると、嬉しい……」
周りをキョロキョロしても、お客さんは男の人ばかりだった。
女の子アイドルのイベントなんて、そんなものなんだろうか。
折悪しく、スタッフさんも見かけない。
「遠慮しいひんな。あたし、このライブはロハで見てるし」
「スーハー……スーハー……恩に着るよー……♪」
ちょっとその子との距離が近い気はしたけれど、
こんな状況で具合の悪い女の子につれなくするのは、気が引けた。
あたしとスタイル似たようなもんで、重くもないし……というのもあって、
あたしはライブの終わりまで身を寄せられるままにしていた。
それが、あたしの東京で迎えた最初の夜。志希ちゃんとの出会いだった。
●03
ライブが終わって会場の外に出ると、
あたしに寄りかかってきた子――『一ノ瀬志希』と名乗った女の子は、ほどなく元気を取り戻した。
もう夕方が過ぎてそれなりの時間だったので、あたしと志希ちゃんは、
ハンバーガーショップ(有機野菜がウリらしい、京都では見ない名前のチェーン)に連れ立って入った。
店のチョイスは志希ちゃん。肩を貸したお礼に奢ってくれるとのこと。ラッキーだね。
あたしは食べ物の好き嫌いが無いので、志希ちゃんの好みに従った。
「へぇ、シューコちゃんも、あのプロデューサーとやらに、
タダ券もらってあのライブ来てたんだー。奇遇だねー♪」
志希ちゃんは、ハンバーガーショップの席で、
包み紙を弄びながらあたしの名前を呼んだ。
「ん――『シューコちゃんも』ってことは、志希ちゃんもあの人に声をかけられたクチ?
あの人ちょっと怪しかったけど、東京来てもあたしはやることなかったし、来てみたんだよね」
あたしがあのライブハウスに足を運んだのは、東京に来て早々に、
アイドル事務所のスカウト――を名乗っていた、ちょっと強面のお兄さん――から声をかけられて、
『もし興味があれば……』と渡されたライブの招待券を持っていたためだ。
手前味噌だけど、あたしもスカウトに声をかけられた経験、それなりにある。
だから今更驚きはしなかったけど、当日開催のライブチケットを押し付けられるとは思わなかった。
もしかして、枚数さばけてなかったのかなぁ……という下衆の勘ぐり半分で覗いてみたら、
思いの外しっかりしたハコでお客さんも入ってて、あたしはちょっと申し訳ない気分に。
その後ろめたさを『せっかく貰ったんだし』と読み替えて、
あたしはライブを見ることにしたんだった。
「なるほど、シューコちゃんに目をつけるとは。あのヒト、なかなかいい鼻してるね」
「ハナ……?」
言い方はよく分からないけど、
志希ちゃんは間接的に自分も可愛いって言ってるのかしら。
確かに志希ちゃんの容姿は、端的に言って可愛い。
大きくて丸い瞳や鼻をクンクンさせる仕草など、ネコを連想させる顔つきと表情。
さっき肩を貸した時も、ボリュームのあるウェーブヘアはいい匂いがしたし、
体つきも女の子のやわっこい感じが服の上から――うん、まぁそれくらいにしよう。
「あの客席、それなりの人数いたけど、
あたしの嗅覚にビビッときたのはシューコちゃんだけだったよー」
「ん……まぁ、褒めてくれてるなら、おおきにありがとう」
嗅覚、という表現がちょっと引っかかったが、あたしはそれ以上追求しなかった。
「シューコちゃん、『東京来てみて――』って言ってたけど、お国はどちら?
そのイントネーションだと、京都とか和歌山とかかな」
「せーかいっ。うちは、貴船の水を産湯にして生まれた京娘どすえ――なーんて」
あたしは洛中生まれ洛中育ちだけど、あたしの京言葉はワザとらしいと評判だ。
なんでだろう。あたしは実家が古い和菓子屋で、小さい頃から看板娘の真似事させられてて、
営業じみた声音が染み付いちゃったせい――なのかな。
まぁ、自分の中ではそういうことにしている。
どうせ、しばらくは京都に帰らないつもりだし。
●04
「いやー、あたしも方言とか詳しくないけどねー。
さっき……あたしの肩をやさーしく抱いてくれたシューコちゃんから、
はんなりのスメルが感じられて、あたしはビビっと来ちゃったのさ。ふっふー♪」
「コラ、志希ちゃん、ここお店。ヘンな発言はよしなさいな」
あたしは志希ちゃんと話していて、
この子が常人とはちょっとばかり感性がズレているのかも、と思い始めた。
「あ、ちなみにね。あたしの生まれは岩手だよー。
産湯が北上川かどうかは知らないけど」
「へぇ、地元の人かと思うたけど。なんか、東京慣れてる感じだし」
「ううん、東京に――というか、日本に帰ってきて一週間も経ってない。
ちょっとアメリカに何年か行ってたんだけど、帰ることになってさ」
「ほー、それって帰国子女ってやつかしら」
うーむ。
志希ちゃんのスキンシップが近いのは、アメリカナイズされてるせいかしらん。
「うーん、まぁ一応帰国子女なのかな。あっちではイロイロやらかしたけど、今のあたしは女子高生だし」
志希ちゃんは、自分の経歴について含みのある言い方をした。
何か触れられたくないところでもあるんだろうか。
「あっちの大学がつまらなくなったから、勝手に帰っちゃったんだよねー」
「えー、そんなことホントにあるの?」
志希ちゃんに感じた印象は、あたしの勝手な――
自分と似たような境遇じゃないか――なんて願望混じりのシンパシーかも。
というのも、あたしは実家を半ば強引に追い出された親不孝娘なのだ。
「ところで、シューコちゃんはさ、アイドル、やるの?」
「……どうかなぁ」
志希ちゃんの問いに、あたしは割と本気で迷っていた。
「あたしの主観だけどさ、シューコちゃんはアイドルイケそうな気がするよ。
肌しっろいし、見た目や物腰にfoxyなカンジがして、オトコのコをトリコにしちゃいそーだもん」
「ふぉくしー……ってキツネっぽいってこと? まぁ、けっこう言われるけどね」
あたしの実家は、京都の古い和菓子屋なので、
実家でヌクヌクしつつテキトーに和菓子を売って暮らしていこうと思ったら、
その魂胆を見透かされて、家から追い出されてしまった。
「あたしがキツネなら、志希ちゃんはきっとネコだね。雰囲気的に」
「にゃっははー♪ とか言ってぬたら、似合うかな? ふっふー」
あたしが東京に来たのも、とりあえず行く宛が無いから行ってみよう、
という行き当たりばったりの旅の果てだった。
●05
「……実はね、今のあたし、割とフリーなんだよね。高校も出ちゃったし」
親も、あたしが本気で邪魔臭くて追い出したんじゃないだろうから、戻ることはできる。
けれどそうしたら、今までみたいなテキトーじゃあ済まないだろうなーと思うと、
そうそう帰る気になれない――というのが、あたしのぶっちゃけた本音だ。
「あたしは……ライブ行く前は、割と乗り気だったんだけどねー」
「へぇ? あたしは逆に、チケット貰った時は全然期待してなかったけど、
実際に見てみたら思ったよりしっかり活動してそうな事務所で、それで迷ってる感じ」
あたしは、アイドルのパフォーマンスをフツーに楽しんでいた。
チケットで確認した出演者――前川みく、とか、相葉夕美、とか書かれてた――の名前は知らなかったけど、、
まぁこの界隈に詳しい人なら覚えがあるのかもしれない。
ともあれ、彼女らがステージでマイク持ちながらダンスしたりする姿は、
あたしがテレビとかで知ってるアイドルのイメージと、しっくり重なるものだった。
あたしの言葉に、志希ちゃんは顔をしかめた。
「ライブの雰囲気、というかハコに籠もったスメルが色々混じって滞留してて、それで気分が……。
シューコちゃんがハスハスさせてくれなかったら、あたし、キツかったよー」
スメル――ニオイ? どうなんだろう。
あたしは、薄暗かったり狭かったりする室内に抵抗は無いんだけど。
志希ちゃんはそういう場所が、好きじゃない体質なのかもしれない。
志希ちゃんも、たぶんあたしと同じだ。
あたしたちは、自分がこれから何をしたらいいのか分からないんだ。
だから、ほかに進むべき道があれば一笑に付すような、
今まで真剣に考えたこともない芸能界への誘いに対して、ぐだぐだと迷ってる。
……それにしたって、東京は我ながら行き過ぎた感あるけど。
思えば遠くへ来たもんだ、なんて。
「……そうだ! あたし、いいコト思いついたよ!」
不意に、志希ちゃんがパッと表情を花開かせる。
「シューコちゃん、あたしと一緒にアイドルやろっ♪」
「いいけど、さっきまで悩んでたのはどうしたん?」
あたしは、志希ちゃんがためらいを吹っ切った理由が気になった。
「あたしがダウナーな気分になっちゃったとき、そばにシューコちゃんが居れば、
シューコちゃんスメルでテンションを回復できるからだよ♪」
「あたしは志希ちゃんのお守りかいっ!」
「にゃははっ、じゃあそーゆーコトで、これからよろしくシューコちゃんっ!」
●06
結局、あたしは志希ちゃんに乗せられて、
あの事務所のスカウトを受けることにした。
あれから、あたしの懐具合がお寒いのを――家出中なんだからしょうがない――
志希ちゃんに察されて、『じゃ、あたしの部屋泊まってく?』と誘われ、
あたしはホイホイついていき……一宿一飯の恩義と思って、志希ちゃんに付き合うことにした。
形はどうあれ……道に迷って流れ流されていたあたしの手を、
アイドルの世界へ引っ張ってくれたのは……
あたしにも負けないぐらいテキトーな、ちょっと変わった女の子だった。
志希ちゃんと歩く道は、成り行き任せ。
あたしは少しの不安と期待を抱えて、手をつないでその道を進み出す。
ライブの次の日、あたしは志希ちゃんと連れ立って事務所の扉を叩き、
あたしたちをスカウトしたお兄さん――プロデューサーなんだとさ――の名刺を出して、
今後について3人で一緒に話し合った。
そのなかで、あたしと志希ちゃんの営業用プロフィールを相談したんだけど……
こっちがあたし。
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名前:塩見 周子(しおみ しゅうこ)
年齢:18歳
誕生日:12月12日(射手座)
身長:163㎝
体重:45㎏
3サイズ:82-56-81
血液型:B型
趣味:献血・ダーツ
利き手:左
出身地:京都
こっちが志希ちゃん。
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名前:一ノ瀬 志希(いちのせ しき)
年齢:18歳
誕生日:5月30日(双子座)
身長:161㎝
体重:43㎏
3サイズ:83-57-82
血液型:O型
趣味:観察、アヤしい科学実験、失踪
利き手:右
出身地:岩手
「ええーっ!? シューコちゃん、そんな色白なのに献血とかしちゃって大丈夫なの?」
「あんたのプロフのが、明らかにツッコミどころ露骨でしょうが。
『アヤシい科学実験』ってナニさ?」
「ふっふー♪ あたしはニオイに敏感だから、香水自作するんだー。
もしシューコちゃんが売れっ子になったら、オリジナル香水を開発してあげよう!」
……あたしたち、ちゃんとアイドルやってけるんだろうか。
●02-01
――あたしは、自分一人がヌクヌク安楽に過ごすことを第一としていた。
――その主義は、親から呆れられるぐらい徹底していた。
――そんなあたしが、アイドルになって気張るのも悪くない、と思い始めていた。
●02-02
あたしと志希ちゃんは、事務所の控室で二人並んで座っていた。
「……じゃ、行くよ。志希ちゃん、ココロの準備は?」
「おーけーシューコちゃん……一思いに、やっちゃって」
あたしは、すぐ前のテーブルに置かれたタブレットに手を伸ばす。
そして、一つの動画ファイルをタップして再生しようとし――
「おー、なんか面白そうなモノ見てるにゃ」
「えへへ、私たちにも見せて欲しいな」
あたしたちが顔を上げると、二人の先輩アイドル――前川みく、相葉夕美――が、
心底楽しそうな笑顔で、上からタブレットを覗きこんでいた。
「……ど、ドーモ、みくにゃんセンパイ、お仕事お疲れ様です」
「志希チャンったら、何にゃそのノリ……似合わない神妙さにゃあ?」
にゃあにゃあ言ってるのは、ネコ科アイドル・前川みく。
あたしや志希ちゃんより小柄(150cmちょっと)で年下(15歳)だけど、芸歴はみくちゃんのほうが長い。
仕事では、休憩中でさえもネコキャラを保つプロ意識の持ち主である。
「ちょっと前に、プロデューサーがすっごく上機嫌でなんだろうなーって思って、
気になったから聞いてみたんだけど、あなたたちに京都でお仕事入ったんだってねー」
「ええ、まぁ、ちょっと伏見の方に……」
「すごーい! 周子ちゃんって地元そのあたりだよね。もう故郷に錦を飾っちゃった?」
「いや、あたしたちなんかまだまだ、錦どころか綿がせいぜいで……」
もう一人の先輩・相葉夕美は、ガーデニング関係のラジオコーナーを持つ植物系アイドル。
あたしが、秋葉原のライブハウスで志希ちゃんに肩を貸しつつ聞いていたアップチューンは、
この夕美ちゃんが歌っていた。あたしや志希ちゃんと同じ18歳である。
●02-03
「で、さ。二人とも、これから自分たちが出してもらった番組、見るんだよね?」
「活動開始してまだ間もないのに、ローカル局から番組のお仕事とってくるとか、
Pチャンはキミらにメッチャ入れ込んでるにゃあ。しかも伏見のお稲荷様にゃ?
あーあ、みくも地元の住吉っさんのお仕事ほしいにゃ。あそこ招き猫で有名だし」
みくちゃんに悪気は無いんだろうけど、
今言われたことは、あたしに――もしかしたら志希ちゃんも――チクリと刺さる。
みくちゃんや夕美ちゃんは、CDショップを営業したり、
ライブハウスを回ったりで、ファンに近い地道な活動を続けてる。
対してあたしたちへ回ってきた仕事は、京都の観光情報番組のコーナー。
一週限りとはいえ、それなりのオンエア時間をもらってしまった。いいのかね。
映像媒体は印刷より制作費が跳ね上がるのに、あたしたちみたいなペーペー使っちゃって。
あれか、スタッフに予算回し過ぎて、賑やかしの女の子呼ぶ経費が無くなっちゃったのかな。
まさかとは思うけど、うちの実家が番組スポンサーとかやってて、
それで捩じ込んだとかないよね? プロデューサーに聞かなきゃ分からないけど……。
「……って、ミクちゃん。局や番組まで知ってるなら、わざわざここで見なくても、
WEB配信版とかで見ればいいのでは……」
志希ちゃんが渋い声の疑問形を投げた。確かにそのとおりだ。
かく言うあたしたちも、オンエア日には東京に戻る必要があったから、
今こうしてタブレットでWEB配信版の番組を見ようとしている。
「ナーニ言ってるにゃ志希チャン。二人と一緒に見なきゃ意味ないにゃ。
ヘンな仕事のやり方してたら、みくがビシビシっとダメ出ししちゃうにゃ」
「あはは、どうかお手柔らかに……」
「もーみくちゃんたら、あんまり後輩を脅しつけないでよー。
さて、グダグダしてもしょうがないし、見よっか。あなたたちのお仕事っぷり!」
もちろん、撮影や編集の時に事務所のチェックは入ってるだろうけど、
先輩のお二方からすぐそばで目を皿にして見られる――となると、あたしも首筋がムズムズしてくる。
「よし……じゃあ、行くよ……再生っ、と」
●02-04
『――おはようさんどすー』
『おはよーさんっ!』
モニタには、伏見稲荷駅からすぐに見える方の大きな鳥居のそばに、
和装で並んで立つあたしと志希ちゃんが映っている。
「うわ、いいなーあの衣装。和服って、お花がすごく映えるよねー」
まず夕美ちゃんが衣装に食いつく。
あたしは、色と紋を桔梗で揃えた振り袖に濃藍の袴……と、落ち着いた瀟洒な雰囲気を狙う。
対して志希ちゃんは、朱色の地に薄紅桜を散らした振り袖に海老茶の袴……と、華やかで活発な路線。
「……神社なら、巫女服でも着たら良かったんじゃないかにゃ」
「それは案内してくれる神職さんの狩衣と、かぶっちゃうんだよ」
「あたしとシューコちゃんはこの日、お稲荷さんのあと、京都のお香屋さんにも仕事あったから。
お香屋さんに巫女服じゃあねーってコトで、振り袖袴になったの」
『――さて、ここは京都・東山の一番南、稲荷山。
ここに鎮座ましますは、かのお稲荷様なのだけど……志希ちゃんはお稲荷様って知ってる?』
『ちょっとは知ってるよー。赤い鳥居がいっぱい並んでる神社さんだよね。
あたしの地元にはね、志和のお稲荷さんがあったよ』
『そうそう。お稲荷様は全国に何万とお社があるけど、その元をたどると……
今日お世話になる伏見稲荷大社に行き着くのよ』
『シューコちゃんすごいっ、さすが見た目がキツネっぽいだけあるね!』
「おおっ、広報の禰宜さん、けっこうカッコよく映してもらってるじゃん♪」
「え、この進行……周子チャンと志希チャンがメインで回すのにゃ?」
普通このような広報番組だと、まず現地に詳しい人――この場合は神職さん――が解説役をする。
それに対し、広報されてる対象――この場合はお稲荷様――に詳しくない人の代弁役と、
対象について予備知識のある人の代弁役がそれぞれリアクションする――という、合計3人で進むのが定番だ。
今回は、代弁役の前者が志希ちゃんで、後者があたしという進行になっている。
「……みくも、いじられ役ばかりじゃなくて、たまにはこういう役回りが欲しいにゃあ」
「この間の築地では――」
「夕美チャン、思い出させないで」
「……ごめんね」
『今回は、まだ伏見稲荷大社を訪れたことのない方も、既に何度も参拝されてる方もっ』
『お稲荷様について、そしてその奥にある日本人の心について知っていただけるよう、気張ります――』
●02-05
それから番組は、あたしたちが神職さんに案内や解説をしてもらったり、
あたしたちが参拝者の方にインタビューしたりして進んでいった。
『――おキツネ様は、お稲荷様のお使いです。
北の船岡山のキツネが、神様に仕えるよう申し出たのが始まりとか……
像では、鍵とか稲穂とか巻物とか、お稲荷様のご利益にちなむ色々なモノをくわえていますね』
『ねぇ見てみてシューコちゃん、あのキツネさんの像、逆立ちしてるよ!』
※伏見稲荷大社境内社・眼力社の白狐像
http://i.imgur.com/KDHzVjT.jpg
「うわぁ、見事なもんだにゃ。周子チャンのあんな殊勝な顔つき、みくは見たことがないにゃ」
「あたし、営業にはちょっと覚えがあってねー」
『これはナニかな……スズメの串焼き? ふふーん、いっただきまーす♪』
『五穀豊穣の神様であるお稲荷様のお膝元で、穀物をついばむスズメを食べて退治してしまおう、
というのが始まりです。現在は、ウズラの串焼きもおあがりになれます』
※伏見稲荷大社・参道名物であるスズメの串焼き(人によっては閲覧注意)
http://i.imgur.com/IfQdPPO.jpg
「わっ、志希ちゃん……スズメを頭からバリバリ食べてる……」
「スズメは骨も食べられるから、あーやって丸かじりしたほうがオイシイよ♪」
「アイドルとしてワイルド過ぎないかにゃ……?」
『――さぁて稲荷山のお山参り♪ 実は、京都の中でも外国の方に特に人気なんだよ!』
『朱色は稲荷塗りとも呼ばれて、魔除けの意味があるんですよ。
稲荷山の緑と、ズラッと連なる千本の朱塗り鳥居のなかを歩くと、
非日常的にでありながら、どこか懐かしいところに導かれるような……不思議な気分になりますね』
『お、あそこに家族連れが……ちょっとインタビューしてみよっか♪』
※稲荷山の千本鳥居 昼
http://i.imgur.com/Bvp5l2L.jpg
※千本鳥居 夜
http://i.imgur.com/F5OqI3J.jpg
「……えっ、志希ちゃん、英語ペラペラなの!? フツーにジョブズみたいな顔の人と話してるしっ」
「うん、何年かアメリカ暮らしだったから。それにしてもジョブズって……
夕美ちゃんの目では、ヒゲ生やして丸メガネでおデコの広いおじさんは、みんなジョブズなんだね」
「そこまで言う!?」
「あー、字幕ついてて初めてわかったわ。あのお父さん、こんなこと言ってたんだ」
「周子チャン、しょうがないって何のことにゃ?」
「あのお父さん、カメラが終わった後、奥さんにどつかれてたのよ。
志希ちゃんにデレデレしてたのを咎められてたのはわかったけど……いやいやこれは」
●02-06
『伏見稲荷大社の縁起は、秦氏――あたしたちの地元、平安京を造った重要な一族でもあります――
その一族の当主が、お餅を的にして弓矢を射ったところ、そのお餅が白鳥に変化して飛び去って、
今の稲荷山の頂上へ降り立ったのが始まり、と伝わっています』
『お餅を弓矢の的に? 食べ物をオモチャにするのはよくないよ!』
『それはね志希ちゃん。昔は、収穫した作物に矢を当てて収穫に感謝する儀式があったらしく――』
「……マニアックだにゃあ。周子チャン、すっかりウンチク係に……」
「最近はパワースポットとかいって、女の人も神社好きって人増えてきたけど……
まだ男の人の方が食い付きいいから、男の人が好きなこういうウンチク必要なのよ」
『――と、ゆーことで! シューコちゃん。あたしと勝負だよ。
どっちが、より多くのダーツをあのお餅に当てられるか……』
『ほほう、あたしの腕前を知って挑むのかしら?』
「なんかいきなりダーツ勝負が始まったにゃ!?」
「あーこれ、番組最後のプレゼント応募クイズに、どっちが勝ったかーって出題されるんだ」
『やった! ふっふー、また当たったよ♪』
『へぇ……やるやないの、志希ちゃん……張り合いが出てきたわ』
「これ、なんか途中からガチ勝負になってるよね」
「最初はねー、これ収録の余興半分なんてユルい雰囲気だったけど、
シューコちゃんが本気出すから、いつの間にか真剣勝負になっちゃってさー」
「志希ちゃんがあまりにも当てるから、素人だっての嘘だと思ったわー。
それで、あたしを本気にさせちゃったの」
「嘘じゃないよ。ただ、あたしはすぐ近くでお手本が見られれば、こーゆーの得意だもん。
それより見てよシューコちゃんの顔つき。キリっとしちゃって。ここからシューコちゃん全投擲命中だから」
「ホントにガチだったにゃ!?」
『――番組をご覧になられたあなたにも、お稲荷様のご加護がありますように』
『ふっふー♪ きっとあるよっ。あたしからもみんなの分をお願いしておくから!』
あたしたちはあーだこーだ喋りながら、結局番組を最後まで並んで見た。
●02-07
「う……う……」
「どーしたのミクにゃんセンパイ、志希ちゃんシューコちゃんの活躍に心を奪われちゃった?」
「うらやましいにゃあ! みくもこのくらいキレイな仕事欲しいにゃっ!」
「その感想は先輩としてどうなのよ、みくちゃん……」
あたしはみくちゃん先輩――ただし年下――の苦労を偲んだ。
最近は本領のネコキャラでも志希ちゃんの突き上げを感じるらしい。
新境地開拓のため、バラドル路線に手を広げているけれども、当人は不本意だそうな。
「ところで、周子ちゃんって地元京都だよね。このお仕事、ある意味里帰りなわけだ」
「和菓子屋さんやってるって聞いてるにゃ。おみやげは無いのかにゃ?」
「若鮎でももらってきたほうが良かったかしらん」
「なぜみくに対してそのチョイスにゃ!? 悪意を感じるにゃ!」
みくちゃんはネコキャラを標榜しているくせに、魚が苦手で口に入れることすらままならない。
最近はそれをいじられ続けているせいか、単に姿形が魚介を模しているに過ぎないモノにも、
拒否反応が出てしまっているとか……大丈夫か、みくちゃん先輩。
「シューコちゃんはねー、ご実家に『綿』を見せびらかすような真似はしないんだって。
ひとたび東京へ都落ちしたからには、アイドルとして『錦』の箔をつけるまで帰れないんだと」
そこに志希ちゃんが軽口で混ぜっ返す……え、『東京へ都落ち』って。
今どきそんなこと言う人、京都でもほとんどいないっての。
「へぇ、普段は飄々としてる周子ちゃんも、内に秘めた野心があったんだねぇ」
「野心なんて、そんな御大層な……意地みたいなもんよ」
夕美ちゃんの『野心』という言い方もそうだけど、
あたし自身の口から出た『意地』というのも、どういうわけかあたしに似合わない単語だった。
別に、あたしはアイドルになると宣言して実家を出たわけじゃないのに。
実家といえば、この仕事のために帰京した時、
プロデューサーから半ば強制的に実家へ顔出させられたっけ。
また志希ちゃんが面白がって、あたしの実家までついてきて……まぁ、正直ありがたかったけど。
志希ちゃんなら、あたしの腰がどんなに重くても前へ引っ張ってくれるから。
『あたしはね……シューコちゃんの親御さんに会ったら、こう言ってやるんだ。
おたくの娘さんは、この志希ちゃんが責任持って一人前のアイドルにしちゃいますよ!』
『いやアンタ、ライブハウスの空気にヘロヘロになって、あたしに拾われてたやん』
『シューコちゃんがいなかったらアイドルなんてやってなかった。それは確かだね。
あたし、今までは基本的に一人で好き勝手できるコトが好きだったし。アヤシい実験とか』
『一人で好き勝手とか……そだね。事務所のみんな、スタッフさん、ファンのみんな……
他人に合わせて動くアイドルとは、まるっきり逆だわ』
『そんな窮屈も、別の意味で楽しいかな……なんて、思い始めちゃった。
シューコちゃんのおかげだね♪ シューコちゃんのおかげで、アイドルできてるよー』
志希ちゃんの言葉にあたしは軽口で応じようとして――舌が、止まる。
あたしはどうなんだろうか。
あたしは、自分一人がヌクヌク安楽に過ごすことを第一としていた。
その主義は、親から呆れられるぐらい徹底していた。
そんなあたしが、アイドルになって気張るのも悪くない、と思い始めていた。
それはたぶん、志希ちゃんのおかげ……だね。
『あたしも、今アイドルやってられるのは、志希ちゃんのおかげ、かな』
●03-01
――まだ、あたしたちの道を終わらせたくない。
●03-02
あたしと志希ちゃんのユニットは、デビュー曲を作ってもらった。
曲名は『つぼみ』――ピアノとストリングスに支えられながらじわじわ盛り上げるバラードだ。
歌詞もアイドルの道を歩み始めたばかりのあたしと志希ちゃんに合わせてる。
いい仕事してくれたねぇ、プロデューサー。
レッスンもレコーディングも、びっくりするぐらい上手く行った。
特に志希ちゃんは、ややこしい指示も一回でピシャリと合わせてしまう。
初めてダーツを握った日に、あたしといい勝負をしたときから思ってたけど、
志希ちゃんの飲み込みは尋常じゃなく早い。
あたしは、その才能に嫉妬――しなくもなかったけど、
張り合うのをやめて、トレーナーさんより身近で絡みやすいお手本が一人増えたと感情を切り替えた。
なぁに、デビューまでに間に合わせれば一緒なのだよ。
あたしたちの名前も売れてきた。ファンの人も増えてきた。
全部、できすぎなぐらい順調だった。あの日までは。
「……アタマが良すぎるヒトの考えるコトは、分からないにゃ」
「みくちゃん、そういう言い方って」
「夕美チャンは、分かるのかにゃ――分かったとして、ライブどうするんだにゃ」
みくちゃんの返事に、夕美ちゃんは押し黙った。
あたしたちのデビュー曲お披露目のライブは、
みくちゃんや夕美ちゃんら先輩アイドルの演目に便乗させてもらうことになった。
奇しくも、場所はあたしと志希ちゃんが出会った秋葉原のライブハウス。
ゲネプロまで問題は皆無だった志希ちゃんが、直前になって姿を消した。
プロデューサーは、土壇場で再発した失踪癖に大わらわだ。
いや、いくら『趣味:失踪』だからって、目前のライブから失踪するとは……。
「……周子ちゃん?」
その時、あたしは自分が何をしていたのか、よく覚えていない。
頭のなかが自分どころじゃなかった。
あたしは、志希ちゃんが今どこにいるか、詳しくは分からない。
けれど、志希ちゃんが今どんな状態なのかは、ほぼ間違いなく断言できる。
『ありがと……ここのスメルが色々混ざり過ぎてて、しかも籠もってて気持ち悪く……ううっ……』
『あ……いや、その……ごめんよー、ちょっと、肩を貸しててくれると、嬉しい……』
あたしには、この事態が予見できたはずなんだ。
●03-03
志希ちゃんが失踪した翌日。
プロデューサーは後始末に追われて昨日から相変わらずだった。
かくいうあたしも、レッスンに出てみたけれど、身が入るはずもない。
挙句、トレーナーさんに『今はやっても逆効果』と打ち切りを宣告され、
事務所を出たあたしは、あてもなく山手線に乗り込んだ。
路線図を見ると、黄緑色のラインがホントにループしている。
でも、ホントに乗りっぱなしでぐるぐるしていられるのかな。
路線図だけなら、大阪環状線だってループしてる。
あれは直通運転でよその路線が乗り入れるから、何も考えず乗るといつの間にか輪から外れてるんだ。
そうしてぼんやりと路線図を眺めていると、
あたしの焦点はある駅名に吸い寄せられた。
秋葉原、だ。
あたしと志希ちゃんが出会った場所。
「……行ってみる、かな。ちょうど、小腹も空いてるし」
あそこなら、志希ちゃんがいるかも知れないから。
志希ちゃんがいたとしても、何も無かったように話せるから。
●03-04
あたしは、あの夜に志希ちゃんから奢ってもらったハンバーガーショップを訪れた。
食事時を外しているからか、お客さんはスーツ姿のおじさんがちらほらいる程度。
だから、そんな店内でハンバーガーのプレート一枚を囲んで座るあたしたち三人は、
周りの空気から明らかに浮いていた。
「……周子チャンがあんまりにもボケーっとしてて、不安だったから、
みくたち、つい後をつけてしまったにゃ。それで、秋葉原で降りたものだから……」
「てっきり、あのライブハウスに行くのかと思ったのに、
まさかハンバーガーショップ入るとは私も予想外だったよ」
「……食い意地張ってるとか思われちゃった?」
あたしは、ハンバーガーを切るためにナイフとフォークを握った。
目の前にいる、みくちゃんと夕美ちゃんに分けるためだ。
頼んだハンバーガーは一人で食べられるボリュームだったけど、自分一人で食べるのは気が引けた。
ハンバーガーを切り終わると、あたしは二人の目線に負けて沈黙を破った。
「このお店は、あたしと志希ちゃんが初めておしゃべりした場所なんだ」
せっかくあたしが切り分けたのに、みくちゃんも夕美ちゃんも、
プレートの上のハンバーガーには見向きもしなかった。
「ここにいるかも知れない、と思った。むしろ、ここに志希ちゃんがいたらいいのに、と願ってた。
ここで顔を合わせたなら、とりあえずハンバーガー食べよう、と切り出せるから」
「周子チャン。探し人は、いないようだにゃ」
「じゃあ、お家かなぁ」
「周子ちゃんは志希ちゃんのお家、知ってるんだ」
あたしは志希ちゃんのお家を知ってる。だって、泊めてもらったことあるし。
でも、お家まで行ってどう話を切り出したらいいんだろう。
志希ちゃん家では『ハンバーガー食べよう』の文句が使えないのに。
「志希ちゃんが、昨日あの場からいなくなった理由……あたし、思い当たるフシがあるんだ」
「……周子チャンなら、もしかして……と、半分くらいは思ってたにゃ」
「ぜんっぜん驚いた様子を見せなかったもんね。茫然自失というわけでもなかったのに」
なんだよ、志希ちゃん。
『あたしがダウナーな気分になっちゃったとき、そばにシューコちゃんが居れば、
シューコちゃんスメルでテンションを回復できるからだよ♪』――なんて言っちゃって。
あたし、ちゃんとそばにいたんだけどな。
ま、しょうがないか。
楽屋ならともかく、ライブのステージ上で志希ちゃんがクラクラ来たとき、
あたしに抱きついてスーハースーハーするなんて芸当はできないんだから。
それでも、志希ちゃんが実際にいなくなるまで、
あたしがそのことに思い当たらなかったのは確かだ。
●03-05
「志希ちゃんは、狭く籠もってて人がひしめいてる空間に入れられると、
ダメになっちゃうみたい。前は、あたしが肩を貸さないと、まともに歩けなかったぐらい」
あたしは、志希ちゃんと出会った時のことを、二人に話した。
「それって、志希ちゃんの体質なのかなぁ」
「そこまでは分からない。あのライブハウスでは、実際に前にクラクラっと来てるけど、
あそこ以外ではそういう様子、見たことないし。前のが精神的にぶりかえしちゃったのかも」
「……で、アイドルは続けられるのかにゃ」
「みくちゃん。それが分かってたら、
あたしはハンバーガーショップより先に、志希ちゃん家に向かってるよ」
みくちゃんは、あたしの答えを聞いて、これみよがしにため息をついた。
「志希チャンのことは知らないだろうにゃ。なら、周子チャン自身はどうなんだにゃ。
ユニットの相方が姿を消してしまって、ずいぶん腑抜けてるみたいだけど、
そんなんでアイドル続けられるのかにゃ?」
「腑抜けって……」
言いたい放題だな、みくちゃん――ああ、でも、何だろ。
アイドルとしてコケにされたのに、反発とか憤慨とか、そういう感情がイマイチ湧いてこない。
「……こりゃ、重症だにゃあ」
「あたしは……もちろん、アイドル続けたいと思ってるよ。
人気なくてクビってなら、しょうがないけど、まだ、あたしは……。
自分が気楽に過ごせるか……そればっかり考えてた怠惰なあたしが、アイドルになって、
いつの間にか他人様のために気張って……それを評価されるの、満更でもないと思い始めてる」
あたしの言葉に、嘘偽りは無かった。
アイドルやってるうちに、そんな風に自分が変化していったことは、確か。
でも、あたしがアイドルを続けられる理由は、それだけじゃない。
「じゃあ、今から志希チャン家にピンポンして、
『もう一回一緒にアイドルやろう』って言ってみるかにゃ」
それは、できない。
する勇気が無いから、ハンバーガーショップに来てしまった。
もし、志希ちゃんから『もうアイドルを続けられない』って言われたら、
あたしは一人で――あるいは、ほかの誰かと――アイドルを続けられるの?
「無理か、にゃ」
「みくちゃん、そんな言い方って」
●03-06
「……無理かも、しんない」
だって。
あたしと志希ちゃんは、この世界に入ってからいつだって一緒だった。
あたしが、あのライブハウスで、偶然志希ちゃんを見つけて、肩を支えたこと。
ハンバーガーショップで一緒にぐだぐだ迷い、同じ事務所に入ると結論を出したこと。
あたしたちの背中を押してくれたセレンディピティ。
つまり、『あたしが今アイドルやってられるのは――』とお互いに言い合えるだけの過程。
そこが、志希ちゃんを欠いてしまって、揺らいでる。
あーあ、もう何だコレ。
志希ちゃんは『シューコちゃんのおかげで、アイドルできてるよー』とか言ってたけど、
あたしだって相当なものじゃないか。それに今更気づくなんて。
今だって、あたしはアイドルを辞めたくない。
でも、志希ちゃんがいなくなるなら、
あたしにとってのアイドル活動は、意味合いがガラリと変わってしまう。
ちょっと変わった友達を道連れに行く――不安も期待もごちゃまぜの道から、
都落ちした頃のアテ無しは嫌だから――という消極的な逃げ道になり下がってしまう。
「お友達が辞めちゃうから、自分も……なんてのは、いただけないにゃ。
結局、事務所の扉を叩いたのは、周子チャンと志希チャンのそれぞれの選択にゃ。
自分の選択に、もう少し責任とか自覚とか持って欲しいにゃ」
「アイドルを辞めちゃう……って言えたら、そっちの方が楽だったかも」
「……はぁ」
都落ちした頃のアテ無しは嫌だから――ホントに嫌だ。むしろ怖い。
当時は漠然とした不安しかなかったけど、今から思うと、あの時のあたしは色々とおかしかった。
もしプロデューサーにスカウトされてなかったら、
もし志希ちゃんと出会ってなかったら、ろくでもないことやらかしてたよ。
●03-07
「ちょっと、喋らせてくれないかにゃ。すぐ、済むにゃ」
みくちゃんは仰々しい枕詞を置いた。何か長広舌を振るうつもりなのかな。
別に、邪魔するつもりも無いんだけど。
「志希チャンや周子チャンは、アイドルの才能あるにゃ。
それこそ、みくが先輩としてメッチャ危機感を煽られるぐらいあるにゃ。
でも、みくから見ると、二人が何でアイドルをやってるのかが、見えてこないにゃ」
……そりゃ、無理もない。
自分の意思一つでアイドルになろうと扉を叩いたみくちゃんには、
あたしが――それと、志希ちゃんも――抱えてたような、
行く先の見えない不安がどーたらとか、よく分かんないはず。
「アイドル、しんどいにゃ。みくたち、ホントならもっとチヤホヤされてもいいはずにゃ。
アイドルの世界に生きる女の子なら、10人や100人から可愛いと言われててもおかしくないにゃ。
なのに、しんどいレッスンやったり、プレッシャーかかる仕事やったり……。
ただの女の子なら、好きなヒト一人に可愛いって言ってもらえれば十分シアワセにゃ。
そこを行くと、みくたちアイドルなんか、恵まれ過ぎて嫉妬されちゃうぐらいだにゃ」
……なんだ、みくにゃん先輩。
好きなヒトに可愛いって言われればシアワセ、なんて。
いつもはいじられネコアイドルなのに、乙女なこと言うじゃないか。
「もっとラクで、十分シアワセになれる道があるのに、
どうしてみくたちは、アイドルなんて続けてるにゃ」
どうなんだろう。
可愛いってチヤホヤされるのは、十分シアワセ……なのかな。
確かに、アイドルになるまでは、それも十分シアワセかと思ってたかも。
「みくは……ライブのせいだにゃ」
隣で、あたしと一緒にみくちゃん演説を拝聴していた夕美ちゃんが、表情をぎょっとさせた。
みくちゃんは――ライブのせいで芸能生活の危機に瀕したあたしたちの前で――きっぱりと言い切った。
「100人なんかじゃ済まない観客の前でスポットに照らされてると、不思議な感覚になるにゃ。
ダンス――それどころか、視線を少し動かすだけでも、ステップ一歩踏むだけでも。
歌声やMC――それどころか、マイクにかかる吐息だけでも。
ライブに来てくれたファンのみんなは、みくの一挙手一投足に応じて、
ステージを盛り上げて――いや、ステージを作ってくれるにゃ。
そういう体験の中で、みくは、まるでファンのみんなと一体になれた気分になるにゃ。
こればかりは、どんなに可愛い女の子であってもアイドルでなければ味わえないにゃ」
ああ、それ。
みくちゃんが今言った、ステージの光景。
18歳くらいの――あたしと同年代の――女の子が、
秋葉原のライブハウスでスポットを浴びて、アップチューンを歌ってて……
「その気分が忘れられない。もっとみんなと一緒になりたい。
それが、みくのアイドルを続ける理由にゃ」
その光景、あたしは前に見たことがあるわ。
●03-08
「周子チャンにも志希チャンにも、みくと同じようにライブにのめり込め、とは言わないにゃ。
ただ、これ以上アイドルを続けるなら、どうしてもアイドルじゃなきゃ……という理由が必要だと思うにゃ」
「みくちゃん。アンタ、立派なアイドルだったんだねぇ」
「何を今更、にゃ! さて、周子チャンはどうにゃ、アイドル辞めるか続けるか。
みくたち女の子の一分一秒は、不本意な活動にくれてやれるほど安くないにゃ?」
みくちゃんはレッスン仕込みのウインクを決めると、そのままハンバーガーショップの席を立った。
「さて、みくの独演会は終了っ! 言いたいことも言えたし、みくは帰るにゃ。
帰ってネコちゃんと遊んでやるんだにゃあ」
あたしが見送ったみくちゃんの足取りは、妙に慌ただしかった。
「みくちゃんったら、ホントに立派なアイドルだったんだねぇ。
ステージに立つために生きてる子じゃなきゃ、あんなことシラフで言えないわ」
「……できれば、みくちゃんの言葉、悪いようには取らないであげて。
みくちゃん、口ではあんなこと言ってたけど、きっと内心はドキドキ物だっただろうから」
みくちゃんが居るうちは黙っていた夕美ちゃんが、今になって口を開いた。
「いや、皮肉じゃないって。あたし、本気でそう思ってるよ」
あたしがみくちゃんに感心した、と言うと、
夕美ちゃんは『あれはあれでちょっと……』と腕組みしながら呟いた。
「みくちゃんは、アイドルとして……いや、芸能人として生き急いでるところ、あるから。
その原因は、たぶんネコキャラの色が染み付いちゃったことだね」
「芸能人として、生き急ぐ?」
……あれれ。あたしや周子ちゃんの話かと思ったら、みくちゃんの話になってる?
まぁ、夕美ちゃんがこんな場面で与太話するとは思えないけど……どこへ行くんだこの話。
「ネコキャラは可愛い……それは確か。みくちゃんぐらいまで徹底すれば、立派な武器だね。
でも……例えば5年後、10年後もあのキャラで押し通せる?」
「……キツイなぁ。これが、夕美ちゃんみたいにお花のお姉さんなるとか、
志希ちゃんみたいに化学のお姉さんになるとか立ち回れれば、もう少し寿命が延びるのに」
「それでもみくちゃんは、自分が一番可愛いと信じているネコキャラで、
可愛い女の子の頂点――アイドルになりたいんだと」
おお、みくちゃん……アイドルの頂点と来たか。
アイドルたる女の子が、ステージの上でさらに夢を加速させていく。
みくちゃんがそんな野心を胸に抱く子なら、
あたしたちみたいに成り行きでこの世界に飛び込んだ人とは意識が違うのも、当然かぁ。
「だから、一日たりとも無駄にできない。不本意な仕事でも逃げるなんて考えない。
自分がそうだから、志希ちゃんや、あなたみたいな行動を捨て置けない。
……つい、キツイことを言っちゃうぐらい」
「ま、みくちゃんはお国が大阪やからね。口がキツイのは承知よ」
あたしが茶化すと、夕美ちゃんは少しだけ笑ってくれた。
「みくちゃんの言う事、理屈としてキレイだよね。
アイドルをやるからには、ライブみたいなアイドル活動そのものに意義を見出すべし、なんて」
夕美ちゃんは『理屈として』という含みのある留保をつけて――
「でも、あたしはそこにこだわらなくてもいいと思うんだ」
――そこから、みくちゃんのキレイな理屈をひっくり返した。
●03-09
「あたしからしたら、見上げたものやけどね。みくちゃんのそういうところ。志高うて」
「みくちゃんが立派なのは、確かだけれど、あれは……
他人に得意顔で開陳するほどの理屈かなぁって」
「んんっ、夕美ちゃんもサラリと言うこと言うねぇ」
「……だってね。
まず、真剣にやってさえいれば、あれぐらいキレイな理屈は各々から勝手に湧いて来る。
あとは、結果を出しさえすれば、どんな理屈でもみんな勝手に納得してくれるもん」
言い終わった夕美ちゃんは、プレートに手を伸ばして、
すっかり冷めてしまったハンバーガーの一片をつまんでかじった。
「うん、冷めててもなかなかイケるね、ここ。贔屓にしちゃおっかな♪」
「だから、周子ちゃんも志希ちゃんが……
お友達がいるからアイドルやってるってのでも、今はいいと思うよ」
「……『今はいいと思うよ』って」
「ふふっ、あのみくちゃんの太鼓判だよ? あなたたち、この程度で終わる器じゃないよー」
夕美ちゃんが笑いながら出した言葉に、あたしもつられて笑ってしまった。
「それに、私もほんの少し、あなたたちを応援してるんだ。
プロデューサーさんから聞いたけど、あなたたち、私のライブ見た後に事務所へ来てくれたんでしょ?」
「……ええ、まぁ」
そのライブが原因で、志希ちゃんは具合を悪くしちゃったのだけど――と言いそうになって、
あたしは慌てて自分の口を抑えた。
「そういうの聞くとね、ちょっと、運命みたいなもの感じちゃうんだ。だから、頑張って欲しいの」
「夕美ちゃん、運命とかそういう話、好きなん?」
「どうだろ。ただ、これは運命だと思ったほうが面白いから」
そういって、夕美ちゃんは笑いながら手中のバンズを口に放り込んだ。
『運命だと思ったほうが面白いから』とは、ご都合のよろしいことで。
でも、あたしから見たあたしと志希ちゃんの関係も、
あたしのそういう願望が投影されているんだろう。
●03-10
あたしが夕美ちゃんを見送ってからハンバーガーショップを後にする頃には、
もういい時間になっていた。けれど、あたしは山手線に乗って志希ちゃんの家へ向かった。
「おーい、志希ちゃんやーい。周子ちゃんだよー、開けておくれー」
みくちゃんと夕美ちゃんに言われる前は、近づけなかった志希ちゃん家の門。
今もちょっと不安だけど、それでもあたしは呼び鈴を押す。
みくちゃんも夕美ちゃんも、あたしが志希ちゃんのもとに行くと思って、
学生とアイドルと二足の草鞋で忙しいのに、あたしを尾行して秋葉原までやってきた。
それから、ハンバーガーショップであたしに好き放題に言い残していったけど、
それはきっと、彼女らから志希ちゃんへ伝えたいメッセージを、あたしに託したってことだ。
勝手に人を伝書鳩扱いして。
……まぁ、一人じゃないとなれば、黙って後には退けない。
「……シューコちゃん、あたし」
細く扉を開けた志希ちゃんが二の句を継ぐ前に、あたしは腕を広げた。
「ほーら、志希ちゃんったらもう24時間以上も周子ちゃんのスメル嗅いでないでしょー。
禁断症状起こしたら困るから、周子ちゃん分の補給にやってきたよっと」
志希ちゃんはこちらを見たまま動かない。
なんならここで服脱いで踊ってあげようか。
この天の岩戸から、あたしの独力で志希ちゃんを引っぱり出すなら、それぐらいやっても――
「わ、わっ、シューコちゃんっ!?」
「冗談だよ。いくらアメノウズメが踊り子の祖だからって、アレを真似するのはねー」
志希ちゃんは慌ててあたしを家に入れてくれた。
お稲荷様の仕事の前に、二人で日本神話を軽く読んでたのが役に立ったわ。
あたしに向かい合って座っている志希ちゃんは、だいぶ憔悴している様子だった。
髪はいつもにましてもさもさしてるし、目にクマはできてるし。
「……ごめんね」
「ん?」
「……ごめんね、シューコちゃん。あたしが、アイドルの世界に引っ張りこんだのに、土壇場で……」
「アイドルがしちゃあかん顔しとるよ、志希ちゃん」
あたしはおもむろに立ち上がって、両腕を広げた。
「さぁ、周子ちゃんのスメルだよー。あたしの胸に飛び込んでくるがよいっ」
志希ちゃんは、ただあたしをぼうっと見上げていた。
……もう。あたしにここまでやらせておいて。
まぁ、あたしが勝手にやってるんだけど。
「あ、うぁあっ……」
業を煮やしたあたしは、自分から志希ちゃんを懐に引き寄せた。
みくちゃんや夕美ちゃんによって、ライブハウスからの現実逃避から引き戻された。
それであたしは、志希ちゃんはどんな言葉よりも、こっちを必要としていると悟った。
「観念しいや。もう嫌でも逃げ出せんからなぁ、志希ちゃん」
志希ちゃんの体は、出会った夜と同じくらい軽かった。
●03-11
「イケるんじゃないかなぁって思ってたんだ……根拠もなく」
志希ちゃんは、あたしに抱きつかれたまま、ぽつぽつと言葉を紡ぎ始めた。
「あたしのダメなクセ……化学者として大成できない理由が、アイドルになっても出ちゃったよ」
「……つまるところ、それって」
「現実の事象より、希望的観測を優先させちゃった。観察にバイアスがかかっちゃった」
「ごめん、最初の言い回しのが分かりやすかった」
自分がステージに立てる状態でないと直前で気づいて、
パニックになっちゃった志希ちゃんは、何も告げずに姿を消してしまった。
おかげで、全部志希ちゃんのせいみたいになっちゃったじゃないか。
あたしだって、志希ちゃんが以前グロッキーになってたことは知ってたのに。
「……『希望的観測』ってことは、志希ちゃん、ステージに立ちたかったんだ」
志希ちゃんが動揺したのか、肩のあたりをびくつかせたので、
あたしは自分の腕でぎゅっとしてやった。
「言葉尻を捉えるようで、ごめんなぁ。でも、そう思ってくれてたん?」
「……信じてくれるの?」
「ま、それであんたが戻ってくるなら」
あたしは商売人の娘だから、タダで信じることはしない。
とはいえ、あたしが今やってることは、言うなれば信頼の押し買いだけど。
「あたしは……科学実験とか、今まで自分一人でできることしか、熱心にやってなかったんだ」
「ま、志希ちゃんと何か一緒にやって、ついていけそうな人間は少なそうだもんね。
……あっ、しまった。こんな言い方あたしがしたら、手前味噌みたいやん」
「シューコちゃんと一緒に、レッスンも、お仕事もしたけど、一人遊びよりも楽しかったよ」
「おかげさまで忙しゅうて、あまり仕事以外では絡めてへんなぁ……今度、どこか遊びに行こか」
「ただ……一人遊びなら、自分の勝手で放り出せるけど。
みんなと一緒にするお仕事は、そうもいかないんだよね」
「……うん」
志希ちゃんは、前に『そんな窮屈も、別の意味で楽しい』って言ってくれたなぁ。
もし、今でもそう思ってくれているなら、あたしは……
「なぁ、志希ちゃん。もう一度、一緒にアイドルやらん?」
「……やっても、いいのかな、あたしが。シューコちゃんとアイドル」
「当たり前よ、このすかたんっ」
まだ、あたしたちの道を終わらせたくない。
●03-12
「といったけど、ライブに支障をきたしている状況は相変わらずなのよね……」
「一つ、対策は思いついてるんだよ。でも、それにはシューコちゃんの協力が……」
「……聞かせてもらおうじゃない」
「……ということよ、シューコちゃん」
「それって、今あたしとこうしてるから思いついただけの考えと違うん? ねぇ」
「これなら、あたしは最後までステージでシューコちゃんと並んでいられる」
「……付き合ったるよ。……こんなん、あんたと一緒に事務所行った時から、覚悟の上よ」
●03-13
また別の日、秋葉原――例のライブハウス。
あたしたちの『つぼみ』をお披露目する舞台は、もう目の前だ。
「ユニットは、お互いが最後までステージで一緒に立ってくれている……
と信じ合えなければ、とてもパフォーマンスなんかできないにゃ。二人は大丈夫かにゃ?」
「みくちゃん。それは、大丈夫よ」
「なら、いいけどにゃ……みくも、うかうかしてられなくなりそうだにゃ」
「今日のこのハコは、いつもと雰囲気が違ってるねー。
なんか大掛かりに空調動かしてたけど、それのせいかな?」
「夕美ちゃん……うん、まぁ、そうだろうね」
「空気が悪くてライブができないなら、空調をいじってどうにかしよう、とか。
それもあんなに香水を使うなんて、志希ちゃんにしかできないよね」
「みんな、結構いいニオイする、って言ってくれたね。シューコちゃん♪」
「志希ちゃん。あんたなぁ……」
「あたしの鼻も、プロデューサーの鼻も、確かだったわけだよ。
もっと名が売れたら、香水メーカーに企画投げようかなー」
志希ちゃんは、ライブハウスの中でへたばらずにライブを続けるために、
ハコの中へ自作の香水を大量に仕込ませてもらった。
まぁ、あたしの鼻だと、言われれば分かるかな……程度の濃度だったけど。
志希ちゃんは鼻が敏感だから、ほかの人なら辛うじて感じ取れるぐらいで十分らしい。
「シューコちゃんにニオイだー♪ ふっふー♪」
……問題は、その香水の匂いが、あたしのそれを模した物である、ということ。
あの志希ちゃんが満足する再現度なのだから、中途半端なデキではないだろう。
これ、あたしの匂いが、みんなに嗅がれちゃってるようなもんだよね……。
●03-14
「あたしにここまでさせたんだから……最後まで付き合ってくれんと、承知せんよ?」
「がってん! それじゃ行こうか、シューコちゃんっ!」
ステージの上は眩しい。観客席は暗くて、ざわめく気配ばかりが伝わってくる。
そして、あたしの匂いか……いや、自分の鼻ではよく分からんけど。
ある意味、みくちゃん先輩より濃密にハコを支配しちゃってるかも知れんね、あたし。
「では……聞いてください。あたしたちの曲――」
さて、ついにライブでお披露目――『つぼみ』イントロのピアノが始まる。
あたしたちのライブの始まりだ。
『涙が止まらない時や つまずくときもあるけれど
明日へ また踏み出してゆきたい』
色々あったけど、あたしと志希ちゃんの道は、まだまだ隣り合わせ。
『夢を 夢を叶える翼を今 広げたなら 大空うたうよ』
それを確かめた今日こそ、成り行きのまま進んでいた頃から顔を上げて、ここから空の高みを見よう。
『小さなつぼみが 胸の中で ひとひらずつ高鳴る 未来求め
立ち上がる勇気 なくさないように――』
あたしたちはここで一緒に、またひとつ夢を描く。
(おしまい)
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