国王「勇者死に過ぎ詰んだ」(34)
国王「おい大臣、また勇者が戦死したと言うが、真か?」
大臣「ええ。同行していた女騎士が証言しております。加えて…」
国王「神託か?」
大臣「はい。司祭が第10代勇者の到来を託宣したそうです」
国王「もう9人もやられていたのか」
大臣「そうです。今回の魔王は前例のない程に強大な模様です」
国王「で、その10代目とやらは期待できるのか?」
大臣「隣国の勇者なので実力までは…ただ、中々の能力を持っているようです」
国王「ほう、それはどのような?」
大臣「退魔の力です。その身に触れる魔法をかき消し、弱い魔物なら触れるだけで消滅させるとされる」
国王「おお、先代魔王を討った勇者と同じ力か!よし!これで勝ったな!!」
半月後
大臣「第10代勇者の訃報が届きました!」
国王「は!?今日はエイプリルフールではないぞ!!」
大臣「冗談ではありません!同行していた女騎士が先程敗走してきました!」
国王「何が起きたら退魔の力が敗れるんだ!?」
翌日
医務室
国王「女騎士よ、療養中に押しかけてすまないが…」
女騎士「お待ちしておりました、陛下!!」
大臣「何故ぴんぴんしている?昨晩入院したばかりではないのか?」
女騎士「確かにそうですが、あくまで検査入院ですので」
大臣「怪我や疲労はないのか?」
女騎士「お陰様で無傷です。あってもせいぜい寝不足くらいでしょうか」
国王「…無事ならそれに越したことはない。では本題に入る」
女騎士「勇者戦死の真相、ですか?」
国王「そうだ。退魔の力を持ちながら、何故死んだのか、その謎を知りたい」
女騎士「投石で頭部を砕かれ戦死しました」
大臣「してやられた。無機物で攻められては退魔の力も関係ない」
女騎士「出発から10日後、魔王軍王室親衛隊隊長と名乗るゴーレムに急襲を受け、今回の敗走に至りました」
国王「流石に前魔王を倒したのと同じ能力は警戒されていたか。礼を言う、ゆっくり休め」
数日後
大臣「司祭が第11代勇者の到来を託宣しました」
国王「その者の詳細は…今度こそ期待できる勇者か?」
大臣「あまり期待はできません。彼は我が国の若者ですが如何せん戦闘経験皆無です」
国王「となると厳しいな。せめて能力がましなら…」
大臣「戦闘経験がないためそれすら不明です」
国王「…とりあえず連れて来させるか」
国王「あれが11代目の勇者か」
大臣「そのようです」
「どうすか?この後お茶しませんか?」
女騎士「仕事があるので遠慮させてもらう」
「まあそう言わずに、ちょっと付き合って下さいよ」
女騎士「そう急がずとも今後暫く付き合うことになる」
「まじすか!?やった!約束っすよ!」
女騎士「分かっている。それよりも今すぐ謁見の間へ入って頂こう。陛下がお待ちだ」
国王「早くも不安なんだが」
女騎士「失礼します!」
国王「うむ、御苦労。彼が例の…」
女騎士「はい、託宣の勇者です」
「ご紹介に与りました、勇者です!魔王など私の手にかかれば一捻りですよ」
国王「意気込みは十分なようだな。ではこれより正式に任命を行う。女騎士よ、下がれ」
女騎士「はっ、失礼しました」
「……」
国王「西の盆地の青年よ、大地の国6代国王の名を以て、汝を第11代勇者に…」
「うわあ!!死にたくねえよー!!」
国王「え!?」
大臣「やはり見栄でしたか…」
「勇者とか二階級特進と同じじゃねえか!こんな年で死にたかねえよー!!」
大臣「ここまでは予想通りですが、どうしますか?」
国王「考えがある。しばらくこの場は任せる」
大臣「え?私がですか?それは…」
「見栄張ってないで風俗行っときゃよかったー!!」
大臣「喧しい!」
国王「なあ娘よ、頼みがあるのだが」
姫「何?隣国の王子様待たせてまで何させる気?」
国王「今回の勇者を激励してほしい」
姫「それこそパパの役目でしょ?嫌だよ自分でやって」
国王「お前でなければ駄目なんだ!頼む!」
姫「ああもう!分かったから、顔あげてよ」
姫「勇者よ、託宣の英雄よ…」
「はい!」
姫「知っての通り、我が国は今、危機に瀕しています…」
「魔王軍の侵略…ですね?」
姫「ええ…どうか、この危機から我々を救ってくれませんか…?」
「お任せ下さい…!この命に代えても、成し遂げてみせます!!」
姫「ありがとう…今はあなただけが頼りです…どうか、お気を付けて…」
大臣「彼、物の見事に引っ掛かりましたね」
国王「代償は高くついたがな。娘の公務は来週まで免除、その分は私が肩代わりする羽目に…」
大臣「しかし大丈夫ですか?彼、逃げ出したりは…」
国王「そのために女騎士を同行させたのだ」
大臣「それは有効ですね。実力の上ではもちろん、見栄でも逃げられなくなりますね」
国王「ああ。それにしても今度こそうまくやってくれるといいが…」
翌週
大臣「女騎士から手紙が届きました」
国王「どれ…ふむ、今回の勇者は期待できるかも知れんぞ」
大臣「手紙には何と?」
国王「彼女の推測によると、今回の勇者は一度でも受けた魔法を例外なく習得するとのことだ」
大臣「強敵と戦う程に強くなる能力ですね」
国王「ああ。外れだと思ったが、あの青年が真の英雄になるかも知れん」
大臣「人は見かけによらぬもの、ですね」
10日後
大臣「第11代勇者の訃報が届きました」
国王「駄目だったか…」
大臣「仲間の女商人を庇った際、ドラゴンの攻撃を受け流せず潰されたそうです」
国王「何故非戦闘員を連れていたのだ馬鹿者め」
大臣「ちなみにこの報告書を持ってきた女騎士ですが、騎士団から除名されました」
国王「民衆からの批判か?」
大臣「はい。三度敵前逃亡した臆病者を許すな、と。それに耐え切れなかったようです」
国王「確かに騎士としては問題行動だったが、諜報員としては有能だったな」
翌週
大臣「第12代勇者の一行が王都を通過するそうです」
国王「一行という規模か?200人はいるぞあの隊列」
大臣「今回の勇者は人望があると言いますか、その、誰もが思わずついて行きたくなるそうです」
国王「洗脳、いや魅了か?その類の能力を持っているのか」
大臣「見た目は儚い少女ですがね」
国王「本人に戦闘能力のないパターンか。しかしこの数ならいけるか?」
2ヶ月後
大臣「報告します!」
国王「ついに魔王を討ち取ったか!?」
大臣「逆です!あと一歩のところで討ち死にしました!」
国王「くそ!」
大臣「今回は魔王城内部まで攻め入ったそうです」
国王「これで城内にまで攻め入ったのは3組目か」
大臣「はい。ただ攻城戦で人数が大きく減ったところを突かれたとのこと」
国王「勇者を討たれ総崩れになったか」
大臣「側近の魔法で狙い撃たれ呆気なく戦死した模様です。その後の恐慌状態を親衛隊長に…」
国王「しかし魔王軍にも相応の被害が出たのなら、今が好機だろう。次期勇者の神託はないのか?」
大臣「それが、司祭が辞任してしまいまして…」
国王「何!?何故急に…後任はいないのか!?」
大臣「まだ神託を聞ける人材は育っていないそうです。また、彼も批判に耐えかねたようでして」
国王「…託宣の勇者が悉く戦死したことに対してか」
大臣「むしろよくここまで耐えてくれたと考えるべきかも知れません」
国王「とは言えどうしたものか…」
大臣「神託ではありませんが、司祭の最後の言葉がここに」
『こんだけ送り込んでも勝てないならもう無理だろ。
この世界の人間じゃ倒せないと割り切って滅ぼされるのを待つしかないね。
だから俺に責任なんてない。
だってのにどいつもこいつも好き勝手言いやがって、死ね!』
国王「捨て台詞ではないか!」
国王「しかし、この世界の、か」
大臣「何か引っかかりますか?」
国王「確か、宮廷魔術師に召喚術に詳しい者がいたな」
大臣「まさか…」
魔術師「成功しました!」
国王「でかした!」
「何ここ?演劇部のセットか?文化部とか冷やかし行く気なかったんだけど」
国王「異界より出でし者よ、汝を第13代勇者に任命する!」
「謹んでお断りします。つーか、ここどこ?」
大臣「元の世界に返せと喚いていた割にあっさり出発しましたね」
国王「その点は不安ではあるが、まあ引き受けてくれただけ良しとしよう」
大臣「しかし大丈夫ですかね?今回の同行者は曲者ばかりですよ」
国王「主な実力者は12代勇者と共に散ったのだ。仕方あるまい」
大臣「賞金稼ぎの戦士に破戒僧、極め付けは童貞拗らせた魔法使いですよ」
国王「性格や性癖にこそ問題はあるが、皆実力は確かなものだと聞く。討伐には差し支えないだろう」
大臣「そうでしょうか」
翌月
大臣「報告します!」
国王「吉報か!?」
大臣「いえ!」
国王「では訃報か!?」
大臣「それも違います!」
国王「では何だ!?」
大臣「13代勇者が戦士を伴い自身の世界へ帰還しました!」
国王「……」
大臣「……」
国王「そのためか!帰還の術を探るために魔王に会いに行ったのか!」
大臣「迂闊でした。帰りたがるのは至極当然としてもまさか敵の総大将を頼るとまでは…」
国王「待て、魔法使いと僧侶はどうした?」
大臣「この知らせは彼らから届いたものです。魔王軍に寝返ったようです」
国王「あのはみ出し者共が…!正規軍…は防衛戦で手が回らんか。後は…」
大臣「神託に関しては元司祭から歴史書の切り抜きが送られてきました」
国王「そこには何が…!」
大臣「『一時代に神が遣わす勇者の上限は12人』だそうです」
国王「…異界人召喚は下策、正規の勇者はもう現れない。すぐに動かせる組織もない…」
大臣「その通りです」
国王「詰んだ」
半年後、大地の国は魔王軍によって滅ぼされた
これを皮切りに次々と人間の国家は魔王軍の支配下に置かれていく
大地の国陥落から5年後、魔王は世界征服を成し遂げた
僧侶は薄い本の執筆に明け暮れている
魔法使いは闇の住人を自称し、兄弟と称する配下を増やしていく
彼らは離反前より幸せに過ごしていた
めでたしめでたし
スポンサーガ風の裏方国王物語にするつもりが何を血迷ってこうなった
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