村人「見てくれ! 綺麗な黒い石だろう?」 (59)



【一日目】



村人「きっと凄い宝石に違いないぞぉ! 行商の爺が来たら見せてやろう!」

村娘「それにしてもとても綺麗な石だねー、何処で拾ったの?」

村人「拾ったんじゃないんだよ村娘、川底で光ってたんだ」

村娘「光ってたって? 今日はこんなに曇ってるのに?」

村人「おん? そういや……」

村娘「不思議な石だねぇ」




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【5746日目】



< タッタッタッ!

剣士「はッ! 早くしろぉおォッ!! ひぃや、ひぎぁぁああああぁあ!!」

剣士B「たすっ、助けてくれぇえ!! 置いていくな、置いていくなぁあ!!!」


    ドヂュルルルルッッ!!!


剣士B「ひぃっ、ひ……ゴパッ……   < バキバキグシャァアッッ


剣士「うわああああああ!!! うわああああああ!!!」


剣士「何だあれは、何だあれはぁ!!? いやだ死にたくない誰か誰か誰か誰か誰かァァア!!」


    ボキュッッッ!!!


剣士「 ……< ヂュグッ…グチャァ……



「ァァァァア……誰か、助けてェェエ…………」ドヂュルル……ギュルルッ…



【三日目】


行商人「見たことないねこりゃ」

村人「おお! 幾らで売れそうだ!?」

行商人「石じゃないかもしれんのだよ、これ」

村人「は?」

行商人「光の当て具合で……そうさな、十二色に変色しとる」

行商人「ガラスとも違うねぇ、見な、ナイフでも傷ひとつ付けられん」

< カリ……カリ……

村人「なら何だいこれ、拳大の石っころじゃないのか」


行商人「鉱物に近い性質を持った……『植物』何じゃないかと思うね」


村人「……植物だぁ?」




【102日目】


村娘「……ねぇ、何かあった?」

村人「おん? 別に何も無いぜ」

村娘「だってその顔の傷……」

村人「何も無いぜ」

村娘「村の皆、どうして私を避けるのかな? どうして明日……私はこの村から町に行かないといけないのかな」

村人「…………」

村娘「町に何をしに行くの…?」

村人「……知らない」

村娘「ねぇ! 私もしかして……売られ


村人「うるっせぇよ!!」

村娘「……!」ビクッ


村人「…………」

村人「俺は何も知らない、俺は……何もしない」

村人「もう何もかも無駄だったんだよ……どうせ」


村娘「……お兄ちゃん…」



【七日目】


村人「ふぁあ……ぁ、爺の言葉通り試しに埋めてみたけど」

村人「水でいーのかね、種みたいなもんかと思ったが」

村人「植物とか言ってたけどまさか掘り返して埋めるとかじゃないだろうな……」

村人「んー」


「やぁ村人君」


村人「おん? ……おお、領主様じゃないの」

領主「村の人が言っていたよ、何か珍しい石を拾ったんだってね?」

村人「そうそう、行商人のじいさんに聞いて植物だってんで埋めて水をやってるんでさ」

領主「しょ、植物?」

村人「埋める場所を変えようと思ってたんだ、見るかい?」

領主「見せて貰えるなら見たいね」


【3555日目】


「大陸全土の人々に寄生した『アレ』は、今や我々にも牙を剥くか」

「我を討つ使命を持っていた筈の勇者ですら手も足も出ず、人間の世界は崩壊寸前」

「我が治め、支配するこの大陸に救いを求めてくる人間で溢れているのがその証拠だ」



側近「……して、どうされます魔王様」



魔王「四天王を筆頭に彼の地へ調査隊を派遣せよ、『アレ』の成長具合では我々はこの世界を放棄し魔界へ撤退する」

魔王「魔族には寄生出来ぬとはいえ油断はするな、『アレ』は人間を『神』に変える植物だ」

魔王「我がこの大陸に結界を張り続けている以上、『アレ』に寄生された人間は入れぬ……だが」


魔王「『アレ』が、『名』を持ち始めてしまったならば……結界を容易く通り抜けてしまう」




【八日目】


領主「やぁ村人君、昨日の宝石……いや種だったかな? あれを譲ってはくれないかい」

村人「おぉ! 領主様まで目をつけるとは中々の珍しい一品だったのか?」

領主「うむ、昨夜に妻と話をしていたのだが似たような物が大昔に王宮に在ったらしい」

領主「今度町へ行った際に知り合いの鑑定士に見せようと思うんだ」

村人「へぇぇ……やっぱりただの石じゃないんだなぁ」

領主「幾らで譲ってくれるかね」

村人「日頃からこうして気軽に俺達と接してくれてるお礼だよ、木箱一杯の林檎をくれたらそれで良いさ」

領主「本当に良いのかい?」

村人「おう! いま掘り返してくるから待っててくんな!」


村人(へへっ、何だか凄そうな展開になってきたなぁ……!)




【1281日目】


騎士「見つけたぞ! 焼き払え!」

騎士「油断するなぁ! 見た目は人でも、一つの領地を丸ごと滅ぼした大罪人だ! 殺せ!!」


    ゴォオッ!!


魔術師「騎士達が『奴』の触腕を防いでくれる! 詠唱に集中し、火炎を放て! 弾幕を絶やすな!!」ゴォオッ!!

魔術師B「俺の家族を殺したんだ!! 報いを受けろ化け物ぉ!!」ゴォオッ!!

騎士B「将軍へ連絡! 『奴』を見つけました!」

騎士C「触腕の先にある爪は猛毒を帯びている、盾で防げ!」

騎士D「応!」ガキィンッ





「ゼェ……ゼェ……ッ、ちく…しょぉ……」

「なんで……なんでこうなっちまったんだろうな…………ははは」

村人「俺はただ、村人だった筈なのに……な」ギュルルッ…ドヂュルル!!





【十九日目】


村娘「お兄ちゃん、これ見てー……」

村人「おん? どうしたどうした……って、何だその魚!? 鱗が所々赤錆のトゲにまみれて……っ」

村娘「村の子供が川で釣った魚で、こんなのがいっぱい釣れたみたいなの」

村娘「村の皆はもしかしたらこの近辺に魔物が現れたのかも、って……」

村人「何だって? 魔物なんて生まれてこの方見たことないぞ?」

村娘「でも……」


村人「何なら俺が川の上流を見てきてやるよ! 少し山を登るが、体力には自信があるしな!」


村娘「!」

村娘「ありがとう、お兄ちゃん!」


村人「おうよ!」へへっ






【1282日目】



パラディン「今だ勇者ッ、このパラディンが抑えている内に魔法を撃てぇえええええ!!」ザクゥッ

村人「ぐぁあぁぁァァ……っっ!! や、やめて……やめてぐれェ…ッ!」ブシャァアッ


勇者「出来る限り出力を抑えて撃つ、 死ぬなよパラディン!」バチバチィッ


村人「ひ……ぃっ、頼む……お願い"だから……っ、助けっ…………勇者…様ァ……」ゲホッゲホッ


勇者「唸れッ!! 『メガフレア』ッッ!!」








────────── カッ!! ──────────








村人(どうして……どうして誰も助けてくれないんだ…………)

村人(俺はただ……………………)

村人(………………)



村人「君が……欲しかっただけなのにな…………」





【二十二日目】



村娘「お兄ちゃん? ……お兄ちゃん!!」ダッ

村人「……」フラッ…フラッ…

村娘「やっぱりお兄ちゃんだ……! 良かった、無事だったんだね!」

村人「……村娘、か…?」


村人「俺は帰ってこれたのか?」


村娘「何言ってるの、帰って来たんでしょ!」

村娘「村の人で頼んで、お兄ちゃんを領主様の私兵に探して貰ったんだよ!」

村人「探しに……何を?」



村娘「三日前に川の上流へ行ったままいなくなった、お兄ちゃんをだよ!」



村人「……」

村人「村娘……俺な」

村娘「?」

村人「目が……おかしいんだ…お前が奇妙な……ピンクに近い、煙が集まった様に見えるんだ」

村人「何もかもが……いろーんな色で形作られててな…? 風の色まで分かるんだ……」


村娘「……お兄……ちゃん?」





【1282日目】



< ズップズップ……グヂュッ,ブチュッ……

< 「はぁ……っ、はぁ…ぁ、ぐゥ……っん…!」

< ズチュ…グリッ……ドビュッ……ドブシャッ……!!

< 「か……はぁ……ッ!!」ビクンビクンビクンッッ



勇者「やめろぉおおおお!!! ァァァァア……!! やめろ! ヤメロォォォッ!!!」



「…………」ズップズップ……ドビュッ…ドブシャッ

< 「ぎ、ひっ……ッ!!?」ゴキッ……ビクンッッッ



勇者「ぁあぁぁぁぁぁぁ……!! プリーストぉお!! パラディン…っ!!…」

勇者「頼む、頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む!!! これ以上、これ以上僕の仲間を……彼女達を殺さないでくれぇ……! 汚さないでくれぇ……!」



「…………」ピタッ

「…………」



「『おん?』……はは、はははァ!」

「やめない」グッ

パラディン「ご……ッ、ぁァ"……っ < ボグシャァアッ!!



勇者「……~~~ッ!!」


「……はは、うふふ……」

村人「これは楽しいな?……勇者」


勇者「村人ォォオオオオオ!!!」




【二十四日目】


医者「……目に異常は見られないな、光は追えてるし、瞳孔も正常、彼は普通の目だよ」

道化師「領主様に招かれたので何かと思えばアッシの回復魔法目当てとはねー、とりあえず魔法はかけたし大抵は治るよ」

領主「ということらしいが」


村人「……何も変わらない」

村娘「そんな!」


領主「うーむ、しかしここまでして治らないならば常識的に考えて村人君が嘘をついているとしか……」


村人「いや、俺は嘘は

村娘「お兄ちゃんは嘘なんてついてません!!」

領主「…しかし、うむ……むぅ……」


道化師「ぜーんぶ色で見えてンならさぁ、アッシは何色なんで?」

村人「……黄色」

道化師「ハハァ、そりゃ今着てる服ですよ?」

村人「さっき魔法を使ってる時は黄色が濁って、橙色になってたんだ…! 本当なんだ!」

道化師「へー、へー、ほー」


領主「……知り合いに少し聞いてみよう、今日の所は帰りなさい」


村娘「……!」ギリッ…

村人「怒るな村娘、行くぞ」

村娘「え?」

村人「え、じゃない……帰るぞ、ありがとうございました領主様」

領主「うむ」


村娘「……怒ってるのが分かるのお兄ちゃん?」ボソッ




【4006日目】



側近「魔界への転移装置の暴走が止まりません!! 陛下、このままでは……! 」

魔王「黙っていろ!!」ガクッ…

側近「陛下!?」

魔王「お、おのれ……文字通り次元が違う、我の力が届きもせぬわッ」

側近「陛下! ご指示を!! このままでは魔界とこの世界を繋ぐ道が崩壊してしまいます!」


魔王「そのまま破壊せよ! 魔界に『奴』が降り立てば民も、避難させた人間も、全てが死に絶えると思え!!」


魔王「グゥ……ッ、ただの人をあそこまで強くするとは……ゴボッ……」ビチャビチャッ

側近「陛下……!」

魔王「側近、装置を破壊しても直ぐには崩壊せぬ……! 貴様は魔界へ逃げ延びた後、魔王となれ!」

魔王「……急げよ、『ここは食い止める』……」バッ



────────── <ギシャァアアアアアアア!!!>ザバァッ!!



魔王「『メガフレア』!!」カッ!!

< ズルゥッ……!

魔王「魔法を通り抜けただと……ぐぉおお!?」


────────── <ギシュゥルルルルル!!>ビュンッ!!


    ドスドスドスッッ!!!


魔王「が、ヌォォオオッ!!」

魔王「……ッ…これが……『ティンダロスの猟犬』、か……この魔王でも太刀打ち出来ぬのか…………」





【三十日目】



村人「……あの黒い石が、魔物の宝……?」

騎士「如何にも、貴様が見つけたというあの石は遥か昔に魔王が盗んだ我等が王国の宝! それを魔物が落としたのを良いことに貴様は自分の物とした!」

村人「ま、待ってくれ……! そんなの知らなかっ……」

騎士「黙れ! 貴様には王国直属の魔術師を通して、魔王側か人間側かを問う儀式へ出廷して貰う!」

村娘「お兄ちゃんが何をしたって言うのよ! 離して!!」

騎士「駄目だ!! 聞けば見えるモノ全てが色や煙となって見えているそうだな?」

騎士「まさに邪悪、まさに魔族が持つ『魔眼』に他ならぬわ!」


村人「そん……な……」


騎士「さぁ大人しく王都へ来て貰おうか、欲を出したのが運の尽きだったな村人よ」


村娘「お兄ちゃん! ……お兄ちゃーん!!」

領主「止すんだ村娘さん、彼はまだ若い、例え罪に問われようと……」

村娘「離して!! お兄ちゃんは悪くない! 何で皆意地悪なの!!」バッ


領主「……チッ」イラッ



村人「…………!」

村人(今……領主様の背中から紅い光が……)

村人(殺意…と、淫欲……なぜ、俺の妹を見ながらそんな感情が出てる……何故……!)




【4007日目】



村人「……魔王の側近は逃がしたみたいだな」

村人「まぁ、いいか」

村人「殺す対象が減るに越したことはない」

村人「『なぁ? まだこの世界に逃げ場は存在するのか?』」


村人「…………なるほどなぁ」



< ガシィッ……!

村人「おん?」

魔王「ぐ……ぬ……ァ…………」ギリギリギリ……!!

村人「まだ生きていたのか」

魔王「我…の、民には……傷一つとして…………つけさせは………………」


    ドサッ



村人「……」

村人「もう一度会えたら王様らしい話を聞かせてくれないか?」

村人「俺、アンタは魔族だけど……短い人生の中では一番尊敬する王様だったよ」



村人「さて……ちょっくら子作りでもして世界を壊すか」

















    【 To be Continued ……『表編完結』】









ピーンッ……【一日目】コトッ



村人「はぁ……釣れないな」

村人「上流の勢いが緩やかだから、今日は釣れると思ったんだが」ヒュンッ

村人「…………」


< チャプッ……



(…………………………)


(…………………… 劔jゥDt― ……)


(…………ァ…… 錐pD.?ハ、ド牴xLナ?』 )


(ァ……ァ…アー……)


(………………ミツ…ケタァ……)




  


村人「……ん、んん!?」

村人(なーんか川底で光ってるな……もしかしてゴールドか?(※))

※ゴールド……通貨。


村人「よっ」ザブンッ


村人「……」パチャパチャ……

村人「手が届かないな、仕方ねぇ」チャプンッ


村人(……!)ゴボボッ.。o○

村人(黒い……光?)

村人(違う、石だ……何だこれ、砕けた箱の中からはみ出してる……)

村人(………綺麗、だなぁ……)





【7844日目】



村人「………ずっと、俺を騙していたのか」


────── 「そうだね」


村人「俺の見ていた世界は嘘っぱちじゃなくて、俺の世界はずっと本物だったのか」


────── 「そうだよ」

────── 「君は滑稽だったよ、誰よりも優しくて誰よりも頭がおかしくて……」

────── 「誰よりも、人間をやめていた」


村人「………」


────── 「憎いだろう」


村人「いや」

村人「これは悲劇じゃなかったんだな」


────── 「悲劇?」


村人「そうだ、これは悲劇じゃない、まだ変えられる運命だったんだ」

村人「賭けようぜ……俺とお前、どっちがイカれてるのか」







────── 「賭けにすらならないコイントスだね」








【三日目】



村人「種……ね」

村人(埋めちまったら何だかもったいねえ気もするけどなぁ)

村人(こんだけ綺麗な石、もとい……種か、土に埋もれさすのもなぁ)

村人(それに、必ずしも花が種より綺麗とも限らない)


村人(……だけど、な…こんだけ綺麗な石が花を咲かせるんなら是非見てみたい気もする!)


村人「何処に埋めるかなー」


村娘「お兄ちゃん! あの黒い石何処で拾ったんだっけ?」

村人「おん? あぁ、近くの川魚獲れるあそこだよ」

村娘「わかった!」

村人「はは、気をつけろよー?」


村人(……よし)

村人(母さん達の墓の近くに埋めてみるか……)




村娘「ただいまーお兄ちゃん」

村人「お、その魚どうした」

村娘「お兄ちゃんが拾った所を探して見たけど、やっぱりあの綺麗な石は見つからなかったよ」

村娘「だからお魚獲ってきたの」

村人「そうか! いやぁお前は本当に魚獲りが上手いなぁ、何かコツでもあるのか?」

村娘「んー? あはは、教えてあげなーい」

村人「おん…? まぁ、小さい頃からお前は得意だもんな」

村人「さっき、あの黒い石を母さん達の墓の近くに埋めたんだ、そしたら幾つか遺品が見つかってさ」

村人「今度、片付けような?」


村娘「うん!」




【101日目】



   ガッ! ゴンッ! ドゴッ!


村人「ゲホォッ…!! ぅぐ、ごほっ……!!」ドサッ


領主「その辺にしてやれ」

兵士「はっ」


村人「はぁ…ッ、はぁ…ッ……て、てめぇ……」


領主「睨むなよ下郎」


村人「アンタ……っ、アンタが! 俺の家族を奪ったのか!?」

村人「俺と妹を二人だけにして、都合が良くなってきたから、だから俺からアイツまで奪って……」

村人「ふざけんじゃ……」

兵士「フンッ!」

    ゴッ!!

村人「ぐぁあ……ッ!?」


領主「……やめろと言ったろ」

兵士「は、つい」

領主「なァ村人君、私は心底驚いたのだよ」

領主「一体どうやって王宮の異端審問を潜り抜けた? そして、あの黒石を何処へやった?」



村人「…………」

村人「村娘は渡さねぇ……」



領主「顔以外を死なない程度に痛め付けろ」

兵士「はっ」




【五日目】


村娘「お兄ちゃん、お母さんとお父さんの遺品片付けよー?」

< 「ちょっと隣村の婆さんの所に薬草届けて来るから、出来るだけやっててくれ!」

村娘「うん、わかった」


村娘「……この木箱にお母さんの、こっちの袋にお父さんのが入ってるんだね」ゴソゴソ

村娘「どうしようかな」

村娘「あ……これ、お母さんのかな」

村娘「これは置いといて、後は整理しながら向こうの蔵に……」



村娘「お兄ちゃん帰ってくるまでに片付け終わっちゃおーっと」




村人「ただいまー……っと?」


村娘「すー……すー……」zZZ


村人「先に片付けて寝ちゃったか、大物とかは残ってるみたいだが」

村人「?」ピタッ

村人(何か抱いて寝てるな、なんだこれ)

< ぐい……っ

村人「これは……母さんのレイピアか」

村人「懐かしいなー」

村人(昔は、よく村娘を連れて山の川に行ってたっけか)

村人(……母さん、父さん)



村人(なんで俺達を残して、どっか行っちまったんだ……)





【2319日目】



村人「何をしてるんだ」


────── 「……世界を見ていたよ」


村人「『空』か、夜は星空、日中は青空を映すこの天上が実は、俺達の住むこの世界よりもっと沢山の世界を見せていたなんてな」

村人「どの星がどんな世界なのか、お前は知ってるのか?」


────── 「勿論」

────── 「私はこの広い……広い世界で、最初に生まれたからね」

────── 「沢山の世界を生み出すに至った、あの爆炎が起きるまでは独りだったんだ」


村人「前に聞いた時に思ったが、その爆炎って何なんだ?」


────── 「現象として、人の理解出来る範囲で言葉を作るならそうなるだけだよ」

────── 「名を人の身で発音しようとするなら……そうだね」




────── 「………『クトゥグア』、かな」






【七日目】


領主「やぁ村人君」


村人「おん? ……おお、領主様じゃないの」

領主「村の人が言っていたよ、何か珍しい石を拾ったんだってね?」

村人「そうそう、行商人のじいさんに聞いて植物だってんで埋めて水をやってるんでさ」

領主「しょ、植物?」

村人「埋める場所を変えようと思ってたんだ、見るかい?」

領主「是非とも見たいな」


村人「こっちだ、両親の墓の近くに埋めたんだよ」


領主「墓…?」

村人「ん、どうかしたか」

領主「いやいや、なんでも」

領主「それはそうと妹の村娘は元気なのかね? 先月は流行り病にかかったそうじゃないか」

村人「俺が採ってきた薬草で治ったよ、まったくアイツときたら十六にもなって病弱なんだからな」

領主「そうかそうか、もう十六なんだね」




村人「そうそう、十六にもなって未だに色恋沙汰の話を聞きゃしないんだ」

村人「兄として心配にもなるって話だ」

領主「ハッハッハ、何なら私が妹君の伴侶となろうかね?」

村人「ちょっ……! 幾ら領主様っても歳の差がありすぎだぜぇ?」

領主「冗談さ、私とて君たち兄妹がまだ十二や九つになったばかりの頃を知っている」


領主「まだ幼く、そして …… 可愛い笑顔で溢れていた君たちを守り、親代わりにすらなりたいと思ったほどだよ」


村人「……領主様」

村人「へへ、ありがとうな」

領主「うむ、こちらこそだよ」

村人「よっし! そんじゃ掘り返すかな!」





【101日目】



< ドシャァッ……!

村人「ぅ……ぁ…あ………………」


領主「あの黒石は古文書を辿るだけでも、歴史の狭間において幾度と世界に関わってきた事が知られている」

領主「こんな辺境の田舎貴族をやっているのも馬鹿馬鹿しい、私はあの石でこの世界の覇者になるのだよ村人君」

領主「言え、下郎……黒石を何処へやった」スッ

兵士「……」スラァ……ッ


村人(ぁあ……、なんでこんなことに?)

村人(父さんも母さんも、怖かったろうな……こんな頭のおかしい男のせいで大切な物を失うのは)

村人(怖いな、妹が、独りになっちまうのは……)


村人(誰か助けてくれよ……なぁ、こんなのあんまりだろう……?)


村人「……助け…て、俺達を……家族みたいにって……言っ、て……たじゃないか…… 」


領主「昔はな、だが私にとって成長した君は目障りになったのだ」

領主「素直に妹の村娘を渡せば良いものを、元々あの娘は私が貰い受ける契約だったのにな」


村人「……、?」


領主「お前の父親はな、自身の妻を守りたいが為に実の娘を私に売ったんだ」

領主「契約書も私の屋敷に保管してある」


村人「そん……な……!!」




【三十二日目】



村人「何かの間違いだ!! そもそもおかしいだろうが! 大昔に盗まれた宝石拾っただけで罪になるなんて!!」


魔術師「では罪人は自らはたまたま拾っただけの有象無象だと、そう言うのだな」


村人「だからそう言っているだろ!? 川底で光ってたから拾ったんだ!!」


魔術師「聞きましたかな王族の方々?」

魔術師「あの黒石の光りを見ていた、『あの』黒石を、です」


    「何という事だ……」

    「やはり魔族なのか」

    「邪神石に魅入られるなど人外の証……!」

    
    < ザワザワ・・・!



魔術師「……お静かに」

魔術師「しかし黒石を知らなかった様子なのは複数の証言者から既に分かっています」

魔術師「では何故、今回彼がここまで疑われる事になったのか」

魔術師「それは彼の目が『魔眼』だと分かったからなのです」

魔術師「二百年前に黒石に魅入られた者達全員が持っていた、人の心と魔力を見透すあの魔眼を!」





魔術師「エスト王国に代々保管されてきた黒石、正式名『邪神石』」

魔術師「まだ世界に魔族が現れていない頃、この石に魅了された複数の人間が大罪を犯しました」

魔術師「王族、または王宮に仕える者ならばそれは知っていましょう」

魔術師「大罪を犯したその者達は、いずれもある時を境にその眼で視た物全てが奇妙な色彩で描かれる様になった」


魔術師「後に魔術師達の間で名付けられるようになったその眼こそ、魔眼なのです!」


村人「お……俺は……」


魔術師「罪人!! 貴様の目は呪われた証、私の輪郭こそ形で分かるだろうが表情までは分からないだろう!」


村人「……!」

村人「あ、アンタは今……笑っている」


魔術師「いいや違う、私のこの顔は怒りに満ちている!! 王家に仕える魔術師として、私はあの黒石を盗み呪われた貴様を許しはしない!!」


魔術師「国王陛下、この者は間違いなく魔族の仲間となった人外になります! 」

魔術師「どうかこの私に、あの男へ裁きを与える機会を!」


村人「話が所々おっかしいだろうが!! アンタ達、正気なのか!? そもそも俺は呪われてなんか……」



    「村人、と言ったな」



村人「……はい王様…!」



    「我が国の民であるそなたをこうして責めるのは、心苦しい」

    「一つだけ、正直に儂の問いに答えては貰えぬか?」

    「答え次第ではそなたを無事に帰そう」



魔術師「なっ……!?」


村人「はい、喜んでッ!」



    「では問おう」

    「事の発端である黒石、あれを見つけてからの話だ」




    「………近しい、そなたにとって愛しき者……その者の髪が、長い黒髪に時々変わってはいなかったか」




村人「…………」


村人「…………………………………………………………」




    「………その者を牢へ、明朝に魔術師を筆頭とした王宮魔導師による処刑を行う」




【103日目】



村人「起きろ、村娘」

村娘「お兄ちゃん……? どうしたの、まだこんな夜中なのに……」

村人「逃げるんだよ、この村から」

村娘「…!」

村人「詳しい話は後だ、最低限の荷物だけ持って行くぞ!」

村娘「お兄ちゃん、私やっぱり売られるの…? あの噂は本当だったの?」

村人「売られるんじゃない、お前は王都で領主の爺の妻になるんだ」

村娘「……」


村人「水や食料は俺が持つ、行くぞ……!!」


村娘「……えへへ、うん!」


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