窓を開けると一筋の秋風が私の髪を撫でた。
この秋風が私の心のモヤモヤを連れ去ってくれればいいのに。
ふと、放課後の音楽室でそんな事を考えていた。
本来は作曲しに来たはずなのに、どうしてもそれが手につかなかった。
私は心のモヤモヤの原因のことを考えていた。
そう、あの人のこと。
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一人でいると、どうしてもあの人のことを考えてしまう自分がいる。
誰に相談するわけでもなく、ただ一人で考えるだけ。
いい加減そんな自分に嫌気が差してきた。
「はぁ、まったく何なのよ」
そう発すると同時に誰かに声を掛けられた。
「あ! 真姫ちゃんやっぱりここだったんだ」
それは、私のモヤモヤの原因を作った張本人だった。
「もぉ〜、探したんだからね」
「どうして、にこちゃんがここにいるのよ?」
咄嗟に出た言葉がこれなんて、私ってどうしていつもこうなのかしら。
「なに言ってんのよ、今日は一緒に帰る約束だったでしょ」
あっ、にこちゃんのことを考えるあまり、帰る約束を忘れてしまうなんて、つくづく自分が嫌になるわ。
「この大銀河宇宙No.1アイドル矢澤にこちゃんを待たせるなんて、真姫ちゃんくらいよ」
「これはジュース奢りにこね!」
真っ直ぐに向けられた彼女の視線に私はそっぽを向くしかなかった。
そんな笑顔卑怯じゃない、自分が小悪魔ってことに気づいてないのかしら。
「ん? どうかしたの?」
「何でもないわよ!」
私はそう言って音楽室を後にした。
外に出ると辺りは真っ赤な夕日に包まれていた。
「すごーい、真姫ちゃん空が真っ赤だよ」
「そうね」
こんな時のうまい返し方を私は知らない。
気の利いた台詞の一つでも言えれば、会話も弾むんでしょうね。
「もぉ〜、真姫ちゃんって、どうしていつもそうなのよ」
そう言うと続け様に、にこちゃんは次のライブの話を始めた。
本当に素直で真っ直ぐな人。
私にもあなたのその素直さがちょっぴりでもあれば、変われるのかしら。
「ねぇ、真姫ちゃんって気になる人とかいるの?」
唐突だった。
その言葉は、上の空だった私の心を一瞬で引き戻した。
「えっ? そんなに驚くことないじゃない」
「にこちゃんがバカみたいなこと言うからでしょ!」
「え〜、にこ達だって、一様女子高生だしぃ〜恋の話もいいかなって」
人の気持ちも知らないで……そういうところが小悪魔なのよ。
「あ〜、でもにこ達はアイドルだし恋愛はだめにこよ」
「そんなのわかってるわよ」
第一私はあなたにしか興味がないわ。
何て言えたらいいのだけれど。
もしここで、私の気持ちを彼女に伝えれたらどれだけいいだろうか。
いや、それはできない。
きっと、今の関係がくずれてしまうもの。
そんな私の苦悩を彼女は知る由もないんでしょうね。
「ねぇ……」
「なに?」
「次の日曜日デートしない?」
「えっ?」
その言葉が発せられた一瞬は何十秒もの時が流れたと錯覚するほどだった。
秋の夕日に照らされた彼女の顔は、心なしかあの空と同じ色に見えた。
まるでトマトみたい。かわいい。
もしここで、私の気持ちを彼女に伝えれたらどれだけいいだろうか。
いや、それはできない。
きっと、今の関係がくずれてしまうもの。
そんな私の苦悩を彼女は知る由もないんでしょうね。
「ねぇ……」
「なに?」
「次の日曜日デートしない?」
「えっ?」
その言葉が発せられた一瞬は何十秒もの時が流れたと錯覚するほどだった。
秋の夕日に照らされた彼女の顔は、心なしかあの空と同じ色に見えた。
まるでトマトみたい。かわいい。
それからのことはよく覚えていない。
辛うじて覚えているのは、にこちゃんの後ろ姿とショーウィンドウに映った私の真っ赤に燃えるような顔だけ。
それからの毎日は驚く程早く過ぎて行ったわ。
きっと、天にも昇る心地って、こういうことをいうのね。
たった一つの約束でこんなに心が踊るなんて、私って意外と単純なのかしらね。
日曜日、私は約束の時間より1時間も早く、集合場所のカフェに来ていた。
誰に命令された訳でもなく、自然と足がこの場所に向かったのだ。
私のお気に入りの服と靴、彼女は気にいってくれるかしら。
すぐそばに彼女が居るわけでもないのに、気分が高揚しているのがわかった。
ふふっ、駄目ね。こんな姿、彼女に見せるわけにはいかないもの。
こういう時は、コーヒーでも飲んで落ち着くのが一番だわ。
砂糖二つ位の甘めのコーヒー。
そう、今の私のような。
「にこちゃんも何か頼んだら」
「そうね、じゃあ、この美味しそうなショートケーキにするわ」
すると、運ばれてきたショートケーキに彼女は一際目を輝かせた。
「はい、一口あげるわ」
「えっ?」
「口を開けるにこよ、はい、あーん」
本当あなたってどうしていつもこうなのかしら。
無邪気なのはあなたのいいところだけど、それに振り回される私の身にもなってよね。
「あーん」
うん、美味しいとても甘くて素敵な味。
「もう、そんなににやけて、余程にこちゃんのあーんが効いたようね」
「にやけてなんかないわよ!」
すごくしてやられた感があるわ。
私も何かやり返さないと。
「にこちゃん、口元にクリームがついてるわ」
「えっ?」
すると私はそのクリームを指で取り自分の口へと運んだ。
「やっぱり甘いわね」
どう?にこちゃん、これが私の大人の余裕ってやつよ。
さすがのにこちゃんでもこれはーーー
「今のは……ずるいわよ……」
そう言ったにこちゃんは、俯いたままでこちらを見ようとはしなかった。
もしかして照れてるの?そう確信したのは、にこちゃんの耳が何時ぞやの日のように真っ赤だったから。
すみません>>12と>>13の間飛ばしてました
「ごめーん、待った?」
「別に待ってなんかないわ」
時計を見ると約束の丁度二十分前だった。
好きな人を待つ時間って、すごく長く感じるって聞いたけどそうでもないのね。
私って案外待つことが好きなのかもしれないわね。
だって、待っている間ずっとあなたのことを考えていられるんだもの。
今になって自分がどれだけ恥ずかしいことをしたか理解した。
気のせいか、少しばかり周りからの視線が痛い。
「ねぇ、真姫ちゃん場所変えない?」
「えぇ、そうね」
私達は逃げるようにしてカフェを後にした。
「ちょっと! 真姫ちゃんのせいであのカフェ行き辛くなっちゃったじゃない!」
「元はと言えば、にこちゃんが変なことするからでしょ!」
「もういいわ、その代わり少し私に付き合いなさい」
「此処って」
にこちゃんに言われるがままに連れられて来られたのは何の変哲もない大型のショッピングモールだった。
洋服やアクセサリーそれに美味しいアイスクリーム屋さんがある、誰もが一度は来たことがあるそんな場所だった。
「何でショッピングモールに来たんだろうって思ってるんでしょ?」
「実はねもうすぐこころの誕生日なの」
「にこちゃんの妹ちゃんね」
「最近は前みたいに構ってあげられなかったからお詫びの意味も込めてね」
「にこちゃんって外ではああなのに家ではしっかりお姉さんしてるのね」
「何よ文句あるの」
「ふふっ、べつに」
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