紬「ねぇねぇりっちゃん!わたし行ってみたいところがあるの!」フンス!
律「おっ、どこに行きたいんだ?ゲーセン?カラオケ?ボーリングもいいなーみんなも誘う?」
紬「ううん、わたしね…りっちゃんとふたりで行ってみたいの」
律「そっか。いいぜー。お金がそんなにかかんないとこなら」
紬「お金なら大丈夫!わたしが出すから!」
律「いいっていいって。半分づつにしようぜ。それでどこに行きたいんだ?」
紬「どんなところでも付き合ってくれる?」
律「ああ、もちろんだ」
紬「えっとね………引かない?」
律「う、うん………引かない(たぶん)」
紬「その……りっちゃんわたしね…………」
紬「ラブホテルに行ってみたいの!」
律「却下」
紬「えぇ~……」
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紬「りっちゃんのうそつき!どこでも付き合ってくれるって言ったのに!」プンスカ
律「場所によるわ。大体なんでそんなとこに行きたいんだよ!」
紬「だって…キラキラしたりくるくるしたり水族館みたいだったり南国かと思えば宮殿みたいだったりメリーゴーランドがあってお馬さんが回ってたり…ラブホテルってすっごく楽しいところなんでしょ?」
律「なんでそんなにくわしいんだ……」
紬「ほんとにそんなかんじなの?」
律「ん、あ、えっと…、いや………わ、わたしが知るわけねーだろ…」
紬「そっかぁ…」
律「だいたいそんなとこ行ってなにしたいんだよ…おもしろいとこならもっと他にあるぞー?」
律「バッセンとかビリヤード場とか卓球場とか……そうだ、スケートしに行かね?たのしーぞー真央ちゃんみたいにくるくるまわったりな」
紬「わたしはラブホテル行きたいの!」フンスフンス
律「(頑固だなぁ…)ダーメ。そこは女子高生ふたりで行くとこじゃないっつーの」
紬「うそだぁー」
律「うそじゃない」
紬「女子高生だってふたりでラブホテルくらい行ったりするんじゃない?」
律「行かねーよ」
紬「行くわよ!」
律「行かねえってば。どこの女子高生が行くんだよ…見たことあるのか?」
紬「わたし先週見たよ」
律「なにを?」
紬「りっちゃんが梓ちゃんとふたりでラブホテルに入るの」
律「」
紬「梓ちゃんとはいっしょに入るのに、」
紬「わたしとは嫌なのね。りっちゃんヒドい。ヒドいわりっちゃん」グスン
律「み、見間違いじゃないのか…」
紬「わたしがりっちゃんと梓ちゃんを見間違えるわけありません!」フンス!
律「」
紬「りっちゃん、うそつくの?なんでごまかそうとするの?なにかやましいことでも??」
律「いや…あれは…だな。そのぅ……このこと誰かにしゃべった?」
紬「ううん。だれにも言ってないよ」
律「(ほっ…)あ、あれはだな…たまたま一人で出かけたら梓とバッタリ会ってだな…」
律「奇遇だなーってなったんだ。それからふたりでちょっとブラブラしてて…」
律「そうしたらさぁ…梓のやつ、急におなかの調子が悪いって言い出してうずくまっちゃって…」
律「どこかで休ませなくちゃ、って慌てて近くを探したらそこにホテルが…」
紬「フーン」シラー
律「だからその…ムギが考えてるようなことはなにもない!ほんとだ!」
紬「そっかぁ~そうなのねー」
律「ああ…そうだ。そうなんだ。わかってくれたか?」
紬「うん。わかったわ。あ、そうだりっちゃん一言忠告」
律「なんだ?」
紬「首筋にバンソコ貼るのは露骨だからやめたほうがいいって、梓ちゃんに伝えておいて」
律「」
律「む、むしさされってたいへんだよなー…」
紬「あれ?りっちゃんって虫だったの?人間じゃなかったんだ」
律「あのそのいやそうじゃなくってだから…」
紬「せめて見えないところにしたらいいのに」
律「いやー、そのー…」
紬「嫌がる子についイタズラしたくなっちゃうのも、」
紬「この子は自分のものだ、って印をつけたくなっちゃう気持ちもわかるけど…」
紬「もっと要領よくやったほうがいいとわたしは思うなー」
律「すみません…ど、どうかこのことは…」
紬「大丈夫。誰にも言わないから」
紬「特に澪ちゃんには絶対言わないから安心して」
律「それは絶対でおねがいします」
紬「というわけでラブホテル行こっか♪」
律「いやでもムギ…こういうのはやっぱりよくないよ…」
紬「……わたしとじゃ、いや?」
律「あ!いやそういうわけじゃなくて…やっぱりさ。こういうのは本当に好きな相手と…」
紬「わたし、好きよ。りっちゃんのこと」
律「…冗談だろ?」
紬「冗談じゃないよ。本気。ずっと好きだったんだけどなぁ…こうやってふたりで遊びに行くとき…いつもよりおしゃれしてるのに気づかなかった?」
律「まぁ…なんとなく」
紬「うそ」
律「…」
紬「朝、教室に入るときまずりっちゃんのこと探しちゃうし、もし運良く登校路でいっしょに慣れたらその日は一日しあわせで…」
紬「お茶の時間はね、りっちゃんがどんなお菓子好きなのかな?っていつも観察してるの」
紬「りっちゃんがおいしそうに食べてたらそのお菓子、なるべく何度ももってくるようにしてたのよ。りっちゃんのケーキだけちょっと大きめに切ったりね」
紬「気がつくといつもりっちゃんのこと考えてるわ。いつだって頭いっぱいになっちゃうから授業中や演奏中も、ついついぼーっとしちゃって」
紬「りっちゃんからメールが来るとね。ただの連絡事項でもうれしく全部保存しちゃうの」
紬「メールの返事、いつも返すの遅くてごめんね。なんて返していいか、考えすぎてわけわかんなくなっちゃって…大した返事かえすわけでもないのにね」
紬「…大変なのよ、わたし」
律「…」
紬「ぜーんぜん気づいてなかったのね。りっちゃん」
律「…ごめん」
紬「謝らないでよ。謝られたらわたし、すっごく惨めになっちゃう」
律「…わたし、どうしたら」
紬「ごめんね。困らせるようなこと言って」
律「いや…」
紬「大丈夫。知ってたから。りっちゃんがわたしのこと好きじゃないって知ってたから。だから大丈夫よ。今更傷ついたりなんて、しないよ」
紬「でもね、一つだけお願い聞いてくれる?そうしたらきっぱり諦めるし、困らせるようなことはもうしないから」
律「……わかった。お願いって?」
紬「セックスしてください!」
律「うわぁ。雰囲気ぶちこわし」
紬「ねぇおねがい!一回でいいから!おねがいします!」
律「中学生男子みたいなこと言ってんじゃねぇ!ダメ!それは絶対ダメ!」
紬「じゃあみんなにバラしちゃうよ。梓ちゃんとホテル行ったこと」
律「うっ…それは…」
紬「いいの?バラして??」
律「……バラせるもんならバラしてみろ!脅迫には屈しねーぞ!」
紬「いっいいのかなー♪いーのかなー♪そーんなこーとー言っちゃって~。澪ちゃんが聞いたらどうなるかなぁ~…」
律(ドキ)
紬「澪ちゃんケッペキだからそういうの許さないだろうなぁ…ゲンコツ何発炸裂するのかな~新記録でちゃうかな~りっちゃんの頭の形、かわっちゃうかも~☆」
律(かわいい顔してこの悪魔め……)
紬「かわいそうなりっちゃん。わたしが代わりにぶたれてあげようか?」
律(どっちに転んでもムギが得するのかよっ)
律「決めた!脅迫には屈しない!言うなら言え!」
紬「そんな脅迫だなんて…わたしはりっちゃんと…」
律「れっきとした脅迫だよ!」
紬「ほ、ほんとに言っちゃうよ!?それでもいいの?!」
律「ああいいとも。元はと言えば自分で蒔いた種だ。覚悟くらいできてるさ」
紬「…」ゴソゴソ
紬「…」ピッピッピ
律「…」
紬「…」ピ
律「…なにしてんだ」
紬「消したよ」
律「え」
紬「写メ。りっちゃんが梓ちゃんとホテルに入るとこ」
律「撮ってたのかよ」
紬「…言わないよ。言うわけないじゃない」
律「…ほんとに?」
紬「ほんとだよ。だってもう、そんなことしたって何の意味もないもん」
律(…ほっ)
紬「あーあ…」
律「?」
紬「一大決心だったんだけどなぁ…せっかくの告白だったのに。フられちゃったね、わたし」ニコ
律「…こんな告白があるか」
紬「あるよ。告白だよ。決まってるじゃない」
律「………やり方があまりに悪すぎるっつーの」
紬「ごめんね。だってああでもしなきゃ、逆転できないって思ったから」
律「…どーゆーことだよ」
紬「わたしじゃ澪ちゃんにも梓ちゃんにも、ぜったい勝てないもん」
紬「自分でもバカだなーっておもったけど」
紬「あれくらいやって、もしうまくいったら」
紬「一生に一度の思い出くらい作れるかも、って」
紬「そう思ったの」
紬「ごめんね、りっちゃん」
紬「わたし、帰るね」
律「…」
律「…待てよ」ギュ
紬「手、離してよ」
律「…離さない」
紬「離してよ。離してくれなきゃわたし、帰れないよ」
律「…帰るなよ。行きたいところ、あるんだろ?」
紬「もうないよ、そんなところ」
律「ムギにはなくてもわたしにはある。行きたいところ」
紬「…」
律「行きたいところがあるんだ、ムギと。ムギといっしょに」ギュウ
紬「…りっちゃん。手、痛い」
律「ごめん…でも離さない」
紬「やさしく、しないで。ひどいよ。そういうことするのが一番、傷つく」
律「ごめん。でも…今日はもうちょっとだけムギといっしょにいたい」
紬「心にもないこと言っちゃって」
律「あるよ。ホントのことだ」
紬「わたし、梓ちゃんじゃないよ?」
律「わかってる」
紬「澪ちゃんでもないよ」
律「当たり前だ」
紬「…」
律「ムギといっしょにいたいんだ」
紬「…りっちゃん」
一方平沢家…
唯「ハックション!」
憂「お姉ちゃん風邪?気をつけてね」
唯「あ、うん」
唯(うーん、なんのことかわかんないけど、わたしだけ蚊帳の外っぽい気がするのはなんでだろ??)
じご!
律「…」
紬「…」
律「…」
紬「…」
律「…」
紬「…しちゃったね」
律「…しちゃったな」
紬「…なーんか」
紬「夢みたい」
律「…だな」
紬「…後悔してる?」
律「まさか」
紬「あ、うそついた」
律「うそじゃねーって」
紬「大丈夫。誰にも言わないから」
紬「でもりっちゃんのこと、いままでよりもっと乙女な目で見ちゃうかも」
律「…ハハ」
紬「うそうそ。ちゃんと普通にするから。今まで通り」ウフ
律「…」
紬「…」
律「…時間、大丈夫か?」
紬「…うん、そろそろ」
律「じゃあ、でよっか。送ってくよ」
紬「…大丈夫。ひとりで帰れるよ」
律「いいよ。送るよ。駅まで」
紬「ううん。大丈夫」
律「送るって」
紬「いい」
律「なんで」
紬「やめようよ」
律「なにを」
紬「恋人みたいなこと、するの」
紬「そういうの、やめよ」
律「べつにそういうわけじゃ…」
紬「だよね。りっちゃんにとっては”おあそび”だもんね」
紬「ゲーセン行ったり、」
紬「駄菓子屋さん行ったり、」
紬「カラオケ行ったり…」
紬「それとおんなじだもんね」
律「…ちげーよ」
紬「いいじゃない。それで。わたしはそれで満足よ?」
律「…」
紬「…ねぇりっちゃん」
律「なに?」
紬「また…ふたりでいっしょに遊んでくれる?」
律「………」
律「………もc」
紬「ごめん、やっぱいまのなしね。もうやめよ。ふたりだけで会うの」
律「…なんで?」
律「いいじゃん、遊ぶだけなら」
紬「だめ」
律「遊ぶだけなら、いいじゃん」
紬「…だめ」
律「なんで…いいじゃん」
紬「だめ…よくないよ。わたしたちがしたことって最低のことだよ」
紬「だからきょうでおしまい。もしまたりっちゃんとふたりっきりになっちゃったらわたし…きっと……ごめんもう帰る!」バツ
律「ムギ!」
よくあさ!
律(結局一睡もできなかった…)ズーン
律(わたしってなんでいつもああなんだろう…)
律(あーそうだ。そうだよ。雰囲気に流されやすいんだ…)
律(あずさ……ムギ……どういう顔して会えばいいんだ…)
律(今日は部活いきたくない…授業が終わったらさっさと帰ろう)
梓「おはようございます、律先輩」
律「うわっ!あ、あずさ!??!」
梓「な、なんですかそんなに驚いて…こっちがびっくりするじゃないですか…」
律「いやそのぅ…ちょっと考え事しててな…」タハハ
梓「そうですか…にしても早起きですね。今日は日直ですか?」
律「ま、まぁ…な。ちょっと目が早く覚めちゃって…梓も早いな」
梓「はぁ。実は昨日一睡もできなかったもので」
律「どうした?なにか悩みでもあったのか?」
梓「…ご自分の胸に聞いてみたらいかがですか?」
律「は?」
梓「…」
律「…な、なんのこと?」
梓「………ハァ」
律「た、ため息はやめてほしいなぁ~…」
梓「メール」
律「え?」
梓「………ハァ~~」
律「さ、さっきよりため息が大きいんですけど…」
梓「昨日はどこで何してたんですか?」
律「え?!きのう?え~~っっと……きのう…きのうかぁ……なにしてたかなぁ…」
梓「へぇ。言えないんですね。言えないことしてたんですね」
律「(こういうときだけ勘が鋭い…)あ、いやそういうんじゃないぞ。いつもと変わりない休日すぎて印象に残ってないんだ!」
梓「はぁ。そうですか。じゃあなんでメール、返してくれなかったんですか?」
律「うそ?メール、送ってくれてた?」スチャ
律(うわぁ…梓からメール17件、不在着信32件)
律(し、しまったぁ~…昨日はそれどころじゃなかったから…)
律「ごめん!ぜんっっぜん気づいてなかった!ごめん梓!」
梓「…あれ、見せてくださいよ。律先輩が謝るときによくやってるやつ」
律「…マジで?ここでやるの?ここ…通学路ナンデスケド…」ヒトイッパイミテル
梓「いいですよ別に。悪いと思ってないなら。じゃ、さよなら」
律「ごめんなさいすみませんでした大変申し訳ございませんでした」ドゲザ!
梓「いいですよ。あやまんなくて」
律「(土下座までさせといてそれか)ごめんってば」
梓「冷めたんでしょ」
律「冷めてないって」
梓「飽きたんでしょ」
律「飽きるわけないだろ」
梓「…他に好きな人、できたんでしょ」
律「……」
律「………そ、そんなことねーよ」
梓「……キライ」ダッ
律「あっ!おい梓!待てってば!」ダッ
律(な、なんでこうなる…)←自業自得
きょうしつ!
律「ふぁ~あ」
唯「お?りっちゃん隊員!今日も眠そうですな!」
律「いやぁ…きのう寝らんなくてさ」
澪「どーせドラクエのレベル上げでもしてたんだろ」
律「ちがわい!わたしにだって悩みくらいあるわい!」
唯「えっ、なになに?りっちゃんなにか悩み事あるの!?」
澪「唯。聞くだけムダだぞ。律の悩みなんてどーせ大したことないから」
唯「わかった!背が伸びないことでしょ!」
律「うるせー!そんなことじゃねーよ!」
唯「じゃあおっぱい!」
律「チガウ!そして声がデカイ!」
唯「えー、じゃあなに?なに悩んでるの??」
律「あーっと、まぁ…えーうー、それはだな…」
紬「どうしたの?なになになんの話??」
律 ドキッ
澪「ああ、律に悩みがあるらしくてな。どーせたいしたことないだろうって話」
唯「りっちゃんは背が伸びないことに悩んでるんだよ…ムギちゃん」
律「だからそれは違うってば…(まぁ悩んでるといえばそうだが)」
紬「ふぅ~ん。なに悩んでるのかわかんないけど、」
紬「言いたくないならムリに言わなくていいんじゃない?」ニコ
律「あ、その、ム、ムギ……」
キーンコーンカーンコーン
紬「ほら、チャイム鳴ったよ。席に戻らなきゃ」プイッ
唯「ほ~い」
澪「おい律、いくら眠いからって授業中居眠りするなよ」
律「…わぁーてるよ」
律(ムギ……)
律(…目、合わせてくれなかったな)
放課後!
律(結局部室に来てしまった…)
律(どー……してもムギのことが気になる)
律(サボってもどーせ気になって仕方ないのはかわんねーんだから)
律(それならサボんないほうがマシ。でも…)
律(あー…どうしよ。)
唯「ムギちゃぁん、今日のケーキはなーにー??」
紬「えーっと今日はね…」
律(ムギ……)
律(いつもと変わんねーなー…)
律(わたしの方をちっとも見てくれないこと以外)
律(…なんかアツい)
律(わたし今、どんな顔してんだろ…)
澪「おい、律。なんか顔赤いぞ、大丈夫か?練習、できるか?」
律「ふぇっ!?だ、だいじょうぶだ!あかくなんかなってねーし!!」
澪「…そうか?ならいいけど。練習は大丈夫だな」
紬「はい、りっちゃん。お茶どうぞ~」コト
律「あ、ああ…ありがと」チラ
紬「…」スッ
律(やっぱり目、合わせてくれない)
梓「…」ギロ
律(こっちからは視線がイタイ…)
唯「今日のケーキもおいしいねぇ~」パクパク
澪「これ食べたら練習するからな」
梓「…」
紬「…梓ちゃん?どうかした?ケーキ、口に合わなかった?」
梓「…いえ、そういうわけじゃ……すみません、今日ちょっと体調悪いんで帰ります」ガタッ
紬「えっ…」
澪「あずさ…練習は……」
唯「あずにゃん大丈夫?おうちまで送るよ!」
梓「…大丈夫です。ひとりで帰れますから…それじゃあ失礼します」バタン
律「……あ、あずさ」
澪「練習……」
紬「…」
帰り道!
唯「あずにゃん大丈夫かなぁ…心配だなぁ…」
唯「そうだ!帰りにお見舞いに行かない?」
澪「そうだな。ちょっと様子見にいくか」
紬「そうね。梓ちゃんの分のケーキ、残っちゃったし…」
律「…」
澪「…律?さっきからどうしたんだ?黙ったままで」
律「ん…いや、梓のことが心配で……」
律「ごめん!わたしちょっと用事思い出した!みんな先行ってて!」ダッ
澪「えっ、おい!律!どこ行くんだよ!」
タッタッタッ
唯「りっちゃん隊員…どこ行っちゃったんだろう…??」
紬「…そうだ。お見舞いに何か買っていかない?」
澪「でもケーキあるんだろ?」
紬「うん…でも残り物だし。ね?いいでしょ、いこうよ?」
唯「そうだねー。お見舞いたくさんの方があずにゃん喜んでくれるよ!きっと!」
澪「まぁ確かに…おうちにお邪魔するわけだし、家族で食べられるものがあったほうがいいかもな」
紬「決まりね。じゃあちょっと寄り道しよっか」
唯「エヘヘ~よりみちよりみち~」フラフラ
澪「こらっ唯、気をつけろ。フラフラしてるとトラックに轢かれるぞっ」
唯「ふぇぇ~~い」
紬(時間稼ぎしとくからね。あとはがんばって、りっちゃん)
タッタッタッ
律(たしかにムギのことは気になるでも…)
律(梓を放っておくなんてできない…)
律「…ハァハァ」
律(つ、ついた…)
律(でもどーすりゃいーんだ)
律(いったいなにしたいんだ、わたし)
律(…じぶんでもよくわかんねー…)
律(……)
律(ここまで来たんだ。悩んでても仕方ない)
律(よし!勇気を振り絞ってチャイムを…)
ガチャ
梓「…あ」
律「…あ」
梓「…何してんですか人んちの前で」
律「…梓こそ何してんだ。具合悪いんじゃなかったのか」
梓「……」
律「…どっか行くのか?」
梓「別に。コンビニでも行こうかなって…」
律「病人は家でゆっくりしてろ。わたしが代わりに買ってきてやる。何が欲しいんだ?」
梓「やっぱいいです」
律「なんだそりゃ…それならちょっと話したいことがあるんだけど。上がっても……いいか?」
梓「……」
律「…………ダメ、か?」
梓「……どうぞ。わたしも先輩に話したいこと、あるんで」
梓「…」
律「…」
梓「…」
律梓「「…あの」」
律梓「「…あ」」
梓「先どうぞ」
律「いいよ、梓が先に言って」
梓「先輩が」
律「いいってば。ここ梓んちだし」
梓「カンケーないでしょ。さっさと言ってください。早く」
律「…わかった」
律「あのな…わたし…」
梓「すみません、やっぱりナシで。帰ってください」
律「は?おい、なんだそれ。ナシってなんだよ!?」
梓「だって…………聞きたくない」
律「…聞いてくれ。わたしな」
梓「聞きたくないっていってるでしょ!!」
律「…あずさ」
律「……あずさ?」
梓「…」
梓「わたし……、わたしね」
梓「謝ろうと思ってたんですよ?」
梓「ほら。わたしってすぐ意地張っちゃうじゃないですか。それでよくギクシャクしちゃって…」
梓「いつもは律先輩が先に折れて謝ってくれるけど…」
梓「ホントはわたしだって、悪いな、謝りたいなって思ってるんです」
梓「でもなかなか素直になれないから甘えちゃって」
梓「けどそれじゃダメだ、今回はわたしの方から謝ろう、って思ってたのに、」
梓「それなのに、」
梓「なんか今日の部室での律先輩、いつもと雰囲気違ってた」
梓「……わたしじゃない方ばっかりチラチラ見てた」
梓「なんでですか……なんであの人のほうばっかり見てたんですか……」
梓「今だって、律先輩、いつもとちがいます」
梓「だからイヤ。今日は……イヤです」
律「梓。言わなくちゃいけないことだから言うぞ」
梓「聞きたくない。帰って。今日はもう帰って!」
律「梓…わたしな…」
梓「聞きたくないって言ってるでしょ!!このバカァ!!」ボコォン!
律「ぐはぁっ!」
ピンポーン
ピンポーンピンポーンピンポーン
律「ぐぇぇぇ………」
梓「…大げさですね。のたうち回ってないで早く帰ってください。お客さん来たみたいなんで。ほら、さっさと」
律「…いや…これ…マヂで…入った……ダメなとこに…」グヘェ
梓「じゃあ30秒だけ待ってあげます。30秒経ったらさっさと帰ってください」
唯「あれーりっちゃんがねてるー」
澪「律…お前後輩の家でなにしてるんだ…」
紬(りっちゃん…せっかく遠回りして時間作ったのになにしてるの!?)
梓「ちょっとちょっと、みなさんなに人んちに勝手に入ってきてるんですか!」
唯「えー、だってなんどもピンポン鳴らしてるのにあずにゃん出てこないし」
澪「…勝手に上がらせてもらってごめんな梓。もしかしたら起きられないくらい具合悪いのかも…って思って心配で…」
梓「あ、すみません…ご心配おかけして。わたしなら大丈夫ですから」
紬「り、りっちゃん…大丈夫??」
梓「ほっといたらいいですよ。どうせ痛がってるフリしてるだけです」
紬「…本当に苦しんでるように見えるけど……」
律「…だ、だいじょうぶだよ…これくらい」タハハ
梓「それなら早く帰ってください。先輩方も。わたしなら平気ですから」
紬「ケーキ…梓ちゃんの残した分、持ってきたんだけど……」
梓「……いりません。きょうはたべたくないです」
紬「…そ、そう…」
唯「あずにゃんメロンも買ってきたんだけど…」
梓「…そ、それは置いてってもいいです……」
澪(いいんだ……)
梓「今日はご迷惑かけてすみませんでした。じゃあみなさんこれで…」
律「梓ごめん!」
律「今回のことはヒャクパーわたしが悪い」
律「梓、連絡つかないから心配してくれてたんだよな」
律「ありがとな。心配かけてゴメン。メール返せなくて…電話出れなくてゴメン」
律「さっさと言わなきゃいけないことだよな…グダグダしててごめんな」
梓「…」
律「…ごめんな」
梓「……………わ、」
梓「…わたしの方こそ……、なんか…あの…こんな……」ポロポロ
律「お、おい…」
梓「ご、ごめん…なさい……迷惑かけて…先輩方までみなさん巻き込んじゃって…わたし…不安で……律先輩が……どっか行っちゃいそうで……うう」ヒックヒック
律「ヨシヨシ…大丈夫だから…わたしはどこにもいかないから…」ギュウ
梓「……」ギュ
紬「……」
唯「…これ、どゆこと??」
澪「ん。見ての通りってことだろ」
唯「??」
澪「さ、じゃあお邪魔虫は帰るとするか。律、梓のことは任せたぞ」
律「あ、ああ…」
梓「…」ヒックヒック
紬「……」
律「…」チラ
紬「…」プイッ
律(………ムギ)
律(…………ゴメン)
帰り道!!
紬「…」ボーッ
唯「……ちゃん」
澪「…ギ?」
唯「ねぇムギちゃん?ムギちゃんってばぁ!」ユサユサ
紬「…え?なに??どうかしたの唯ちゃん?」
唯「聞いてなかったの?せっかくだからどっかでお茶していかない?」
澪「ほら、こないだ商店街抜けた先に新しいケーキ屋さんができただろ?そこに行かないか?」
紬(商店街の先…)
紬(…こないだのホテルからもうちょっと行ったとこだ…)
紬「…ごめんね。今日はもう帰らなくっちゃいけなくて。唯ちゃんと澪ちゃん、ふたりで行ってきて?」
唯「えぇ~…ムギちゃん来れないのぉ~」
澪「ムギが来れないんじゃ今日は解散だな」
唯「ケーキ…」ブウ~
紬「ごめんね唯ちゃん。明日、とびきりおいしいの持ってくるから」
唯「やった!約束だよ!」パァァ…!
紬「……うん。じゃ…また明日ね」
澪「ああ…また明日…」
唯「バイバーイ」ブンブン
…
……
………
紬「……」テクテク
紬「……」ピタ
紬(……りっちゃん……やっぱりあずさちゃんのこと……)
紬(……ダメね)
紬(……あー……わかってても目の前でみちゃうと)
紬(……無理。耐えられない)
紬(……足、うごかなくなっちゃった)
紬(……電車、間に合わないなぁ)
紬(なんかもう、どーでもいいや……)ペタリ
・・・・・ ・ ・ ・・…
紬(……蟻さんだわ)
紬(……蟻さん)
紬(お菓子はこんでる)
紬(わたし、蟻さんになりたい)
紬(力持ちだからけっこう向いてるかも)
澪「ムギ」
紬「わっ!、み、澪ちゃん!?」
澪「あ、ご、ごめん、びっくりさせちゃって」
紬「ううん!大丈夫!大丈夫よ!」
澪「いや…大丈夫そうに見えないけど…どうした?座り込んで?どこか調子わるいのか?」
紬「大丈夫!わたしはだいじょーぶ!元気よ!ほら!このとおり!」フンスフンス!!
澪「……唯のマネしなくてもいいから…」
紬「…えへへ」
澪「…」
紬「…」フンス!
澪「…なぁ」
紬「…なぁに?なにかあった?」
澪「それはこっちのセリフ」
紬「え?」
澪「さっき」
紬「?」
澪「どうみても普通じゃなかっただろ」
紬「…」
澪「…ムギ」
紬「…なに」
澪「これからちょっといい?」
紬「…きょうは……」
澪「いいだろ。付き合ってほしいところがあるんだけど」
紬「………えっと」
澪「ラーメン食べにいこう」
紬「らー…めん??」
澪「そう。ラーメン」
澪「…」ズルズル
紬「…」ズルズル
紬(そういえば)
紬(ラーメン屋さんって入るのはじめてだわ…)
紬(床がぬるぬるしてる…)ヌルヌル
紬(…スープ、すっごくたくさん脂が浮いてる)ドローン
紬(麺はちりちりでくねくねしてるのね)クネーン
紬(チャーシュー……いっぱい乗ってる)デデーン
紬(でもこういうの……好きかも)モグモグ
紬(こんなの食べたらふとっちゃうかな)
紬(澪ちゃん…体重気にしてるはずなのに…いいのかな)
紬(なんでこんなお店知ってるんだろ)
紬(りっちゃんと……ふたりで来たりするのかな)
澪「ごちそうさま」コトン
紬「ごちそうさま」コトン
澪「…あーおいしかった。どうだった?」
紬「うん。おいしかった。とっても」
澪「……よかったぁ。無理に誘って口に合わなかったらどうしようかと思った」ニコ
紬「ううん!すっごくおいしかったわ!すっごく!」
澪「ありがと……って別にわたしがつくったわけじゃないんだけど」
紬「そうだけど、でも澪ちゃんが連れてきてくれたおかげで食べられたんだもん」
紬「わたし、はじめてよ。ラーメン食べるの」
澪「そっか」
紬「澪ちゃんは…よく来るの?このお店?」
澪「ん。時々。ほら、急に脂っこいものが食べたくなったり…することあるだろ?」
紬「あ……う、うん…」
澪「そういうときに、ひとりでフラッと」
紬「ひとりで…?」
澪「そう。ひとりで」
紬(ひとり……)
澪「意外だった?」
紬「あ、うん…てっきりりっちゃんと…」
澪「ああ。律と来たことはないよ。アイツと一緒だとさ…ほら、からかわれるだろ?体重のこととか」
澪「だからいつもここに来るときはひとり。わたしの秘密のお店なんだ。ここは」
紬「じゃあなんで…わたし…」
澪「特別。わたしも教えたのはじめて。誰にも言っちゃダメだからな」
澪「今日のことはふたりだけの秘密。いい?約束だぞ」
紬「……うん。約束」
澪「そうだ、せっかくだから餃子も頼んじゃおっか?おいしいぞ?」
紬「うん!たべたいたべたい!」
紬(……澪ちゃん)
紬(……アリガト)
夜!
Prrrr…
Prrrr…
Prrrr…
律「…」
律「…」カチカチカチ
律「…」
律(…電話でてくれねーなー…)
律(メール……返事こねーなー…)
律「…」ポイ
ブルブル
律「!」ガバッ!
律「……」ドキドキ カチカチカチ
律(……………なんだ)
律「……………ハァ」
律「…ムギ」
一週間後!朝!
チュンチュン…
紬「……あ」
律「……おはよ」
紬「……なんで」
律「待ってた」
紬「…まだ7時だよ」
律「6時から待ってた」
紬「…」
律「最近、避けてるだろ」
紬「…そんなことないよ」
律「うそつけ。休み時間に声かけてもすぐどっか行っちゃうし」
律「お昼やすみの時は唯や澪とばっかりしゃべってるし」
律「ティータイムのときは目も合わせてくれないし」
律「こうでもしなきゃふたりっきりになれないだろ」
紬「……」テクテク
律「待てよ」ガッ
紬「…痛い」
律「あ、ごめん…」
紬「…離して」
律「…やだ」
律「離したら行っちゃうだろ」
紬「行っちゃうって…学校でしょ。りっちゃんも」
律「いいよ。学校なんて」
紬「ダメだよ」
律「いいだろ。たまには。サボろうぜ。学校サボるの、夢じゃないのか?」
紬「…そんなの、夢じゃないもん」
律「行こう」
紬「先生に怒られるよ」
律「平気だ」
紬「みんなが心配するよ」
律「大丈夫」
紬「梓ちゃんは?」
律「」ピク
紬「…りっちゃんがいないと、梓ちゃんがさみしがるよ」
律「…」
紬「…」
律「…」パッ
紬「…」テクテク
律「ま、待てって…」
紬「なに?」テクテク
律「話があるんだ」
紬「…」
律「大事な話なんだ」
紬「学校おくれちゃう」
律「遅れるわけねーだろ。まだ7時だぞ」
紬「…」
律「なんでこんなに早い電車なんだよ」
紬「…」
律「朝、通学路でわたしに会わないようにか?」
紬「…」ギュ
律「…そんなの……」
律「さみしいじゃんか」
紬「…最近早起きしてるだけだから。りっちゃんとは関係ないから」
律「…そっか。ならいいけど。なぁムギ、ひとつだけ聞きたい」
律「わたしのこと…」
律「嫌いになった?」
紬「…」
律「答えない……ってことは肯定ってことか」
律「そりゃそうだよな、こんだけ避けられてりゃな、誰だってわかるよな…」タハハ
律「ごめんな、変なこと聞いて。どうしてもわたし、」
律「ムギの気持ち、知りたかったんだ」
紬(…わたしの……きもち)
律「最近、澪と仲良いよな」
紬「…それが」
紬「それがどうかしたの?りっちゃんと関係あるの?」
紬「わたしが澪ちゃんと仲良くしたらどうだっていうのっ?」
律「落ち着けよ。どうしたんだよ、急に」
紬「梓ちゃんと付き合ってるりっちゃんに…そんなりっちゃんなんかにわたしのこと、どうこう言われたくないのっ!」
律「…好きなのか?」
紬「…えっ」
律「澪のこと…」
律「好きなのか?」
紬「…… 」ボソ
律「え?」
紬「りっちゃんのバカ!!大っ嫌い!!!」ダッ
お昼休み!
律「…ハァ~ァ」
澪「どうした?」
律「べつに」
澪「べつにじゃないだろ」
律「澪にはカンケーねーよ(あるけど。すんごいあるけど)」
澪「なんだよ…かんじわるいな」
唯「なになに~、りっちゃん調子悪いの?もしかしてお腹こわしてる?」
律「こわしてねーって。ほっといてくれよ」
唯「そっか~お腹こわしてるなら、わたしがりっちゃんのおべんとのオカズたーべよっと♪」ヒョイ
律「あ、おい!コラ唯!カラアゲとるなっ」
唯「んまっ!りっちゃんのカラアゲんまー!」モグモグ
律「褒められると悪い気はしないけど…人の弁当のおかず、勝手に喰うのはヤメロ」
唯「いやーホントにおいしいね。りっちゃんをお嫁さんにしたいくらいだよ」モグモグ
律「なに言ってんだ…」
唯「りっちゃん隊員!結婚してください!お嫁さんになってください!」
律「イヤだよ」
唯「ガーン!フラれた~フラちゃったよみおちゃぁぁぁん………」ウェーン
澪「…はいはい」ヨシヨシ
和「茶番はこのへんにして…今日休んでるムギのことが心配ね」
澪「…朝、通学路で見かけたんだって?」
和「ええ。生徒会の集まりで早く登校しなくちゃならなくて、朝駅の前を通りかかった時なんだけど…」
和「反対方向の電車に乗るムギの姿がちらっと見えたの」
唯「登校途中で調子悪くなっちゃったのかな…」モグモグ
澪「それにしてもムギ、随分早い時間の電車に乗ってるんだな…」
唯「そーいや今日はりっちゃんも早くに来てたよね?」ヒョイ
律「ほっとけ。そして平然と2個目のカラアゲをとるな」
澪「ちょっと心配だな」
唯「今日、みんなでお見舞い行こ~よ」モグモグ
和「…それがいいかもね」
律「…わたしはパス」
唯「およ?りっちゃん隊員、ご用事ですかな?」
律「…今日調子わりーし」
澪「……」
澪「…律。ちょっと、来い」
律「…なんだよ」
澪「いいから」グイッ
律「いたっ、おい、やめろって」
唯「…澪ちゃん?」
澪「わるいな。授業始まる前には戻ってくるから」ズルズル
律「いたいいたい!離せって、おい!引きずるな!自分で歩くよ!」
唯「…」
和「…」
唯「…なにかったのかな」
和「…あったんでしょうね」
唯「なんなんだろーねー…」ヒョイ
和「さぁ……唯。さりげなく人のお弁当のおかずをとるのはやめなさい」
唯「えへへ~、ばれてたかぁ~~」
バタン
澪「…部室なら誰もこないだろ。さて、と」
律「ってーなー!なにすんだよっ」
澪「律。お前に聞きたいことがある」
律「なんだよ」
澪「梓と付き合ってるんだろ」
律「!」ドキッ
律「…ナ、ナンノコトヤラ」
澪「いまさら隠すな。もうバレバレだから」
律「さ、さいですか…」
澪「それでお前、どうする気なんだ」
律「どうするって…なにを?梓か?」
澪「両方だ」
律「両方?」
澪「バカ。梓とムギの両方、ってことだよ」
律「は、はぁ~~??!?!?」
律「なんだよ両方って!意味わかんねーよ!」
澪「この後におよんでとぼけるな。言ったろ。バレバレなんだよ」
澪「律が梓と付き合ってるのも、」
澪「そのくせよくムギと二人で遊びに行ってるのも、」
澪「最近ティータイムのときやたらとムギの方見てるのも、」
澪「そのせいで梓に元気がないのも、」
澪「それからムギまで最近様子がおかしいのも、」
澪「全部バレバレなんだよ」
律「…」
澪「三人のことに首をつっこむ気は無いよ。でもな…」
澪「軽音部の雰囲気を悪くするのはやめろ」
澪「わたしの大事な友達や後輩を傷つけるのはやめろ」
澪「態度をはっきりさせろ。自分の行動に責任を取れ」
律「…」
律「…うるせーよ」
澪「…」
律「なんで澪にそこまで言われなくちゃなんねーんだよ」
澪「…言っただろ。軽音部の…」
律「好きなんだろ」
澪「は?」
律「ムギのことが好きだからわたしにヤキモチ妬いてんだろ」
澪「…」
律「みっともねーマネすんなよな。エラそーにしやがって…」
澪「……ハァ」
律「…なんだよ」
澪「いや…律。お前さ…」
澪「ほんっっっっっっっっっとーーーーーーーーうに……」
澪「バカだな」
律「はぁ?!」
澪「呆れてものも言えないよ…」
律「うるっせぇ!意味わかんねーし!澪がムギのこと好きなのだってバレバレなんだよ!」
律「お前らだってふたりでこそこそ遊びに行ったりしてるだろ!」
澪「…?なんで知ってるんだ?」
律「あ、た、たまたま…見かけたんだよ…」
澪「……そうか」
律「…もしかしてお前ら…付き合って…るのか?」
澪「……付き合ってない」
律「…うそつくな。付き合ってるだろ」
澪「付き合ってなんか、いないよ」
律「…でも好きなんだろ。それにムギも……澪のこと……」
澪「…あのなぁ律。わたしが好きなのは……」
律「……ムギだろ」
澪「……なぁ律。お前本当にわたしがムギのこと好きだと思うのか?」
律「…だって、そうだろ」
澪「…」
澪「…コホン。まぁいいよ、この話は」
律「…誤魔化しやがって。告白もろくにできないヤツにあれこれ言われたくねーな」
澪「日曜10時駅前」
律「なんだ急に?」
澪「必ず来いよ。遅れるな。約束だぞ」クルッ
律「ちょっと待て!意味わかんねーし!」
澪「昼休み終わるぞ」
律「説明くらいしろって!」
澪「いいから来い。あ、わたし授業始まる前にトイレに行ってくるから。律、授業サボるなよ」
律「わかってるよ!」
バタン
澪「…」テクテク
澪(告白もロクにできないヤツ、か…)
キーンコーンカーンコーン
放課後!
ガチャ
梓「すみません、遅くなっちゃって…」アレ?
梓「あれ?今日は唯先輩だけですか…?」
唯「うん。ムギちゃんはお休み。りっちゃんは今日は用事あるって早くかえった。澪ちゃんはもうちょっとしたらくると思うよ」
梓(律先輩…メール、くれなかった)
梓(ここのところ一緒にいるときも上の空だし、電話の時間も短くなったし、メールもあんまり続かないし…)
梓(律先輩…)
唯「あずにゃん?」
梓「…あ、いえ。なんか人数少ないとさみしいですね」ハハ…
唯「そだねー…やることないし練習する?」
梓「!!」
梓(ええっ!?唯先輩が自ら進んで!??!??)
唯「…どしたのあずにゃん」
梓「…い、いえ…なんでも。ちょっと気が動転しまして」
唯「ムギちゃんいないからお茶もケーキもないしね。仕方ないし練習しよーよ」
梓(優先順位はどうかと思うけどこれはチャンスかもしれない!よぅし…)
唯「あぁー…でもダメだ。ケーキ食べてないから力でないや……」
梓(やっぱり…)ガックリ
梓(…あ、そうだ)
梓「唯先輩、よければこれ、食べます?」
唯「え?」
梓「じ、じつは…ケーキ……作ってみたんですけど…」
梓(…本当は律先輩に食べて欲しかったけど、はじめてで自信ないし、唯先輩で試そう)
梓(ムギ先輩みたいにすごいケーキは無理だけど…せめて手作りで差をつけたい!)
梓(さて反応はっ?)
唯「あぁ~おいしかったぁ~」ゲフゥ~
梓「食べるのはやっ!」
唯「まんぞくじゃあ~」ツヤツヤ
梓「あ、あの…味、どうでした?」
唯「ん?あ、おいしかったよっ!すっごいね。こんなにおいしいケーキ作れるなんてあずにゃん天才だね!(じゃっかんパサパサだけどね)」
梓「そ、そうですか…ありがとうございます。(ああこのひとなに食べても美味しがる人だったの忘れてた…)」
唯「続いて二個目」ヒョイ
梓「まだ食べる気ですかっ」
澪「お前ら何やってるんだ?」
唯「ぃおちゃんもはえる??おいひぃよ~」モグモグモグ
澪「食べるか喋るかどっちかにしろ…そうだ梓」
梓「はい?」
澪「日曜日って予定空いてるか?ちょっと付き合って欲しいんだけど」
梓「あ、はい。大丈夫です…(デートの予定もないし)」
澪「そっか。じゃあよろしく。詳しいことは後でメールするよ」
唯「わたしもひまだよ~」
澪「あ、唯…。そうだな。唯も軽音部の仲間だもんな。いっしょに行くか」
唯「ほいさ~」
澪(あとはムギ…だな)
日曜!
律(珍しく時間通りに来てしまった…)
律(おっそいなぁ…澪のやつ…自分から誘っといて遅れるとか…)
律(……わたしもよくやるか)マァイッカ
紬「…あれ、りっちゃん?」
律「わっ!ム、ムギ…!?」
律「な、なんでここに…」
紬「え…だって澪ちゃんがここに来いって…澪ちゃんは?」
律「まだ来てない…ちょっと電話してみる!」ピポパ
Prrrr…
Prrrr…
Prrrr…
律(出ない…)
紬「どうしたんだろ…」
律「う、うん…(ハメやがったな…でもこれはチャンスか?)」
紬「…澪ちゃん来ないならわたしかえr」
律「待って」ギュ
紬「…」
律「二人で遊ぼうぜ」
律「前みたいにさ。ゲーセン行ったり、駄菓子屋行ったり…」
紬「…」
律「カラオケ、卓球もたのしいぞ。バッテングセンターでホームラン狙おうぜ!」
紬「…」
律「…ボーリングも久々に行きたいな。ムギなら一番重い球でもかる~く投げられちゃうんだろうな~…」アハハ
紬「…りっちゃんごめんなさい」
紬「やっぱりダメ。今日は帰るね」
律「待って!」
律「普通に遊ぶだけじゃん!なにが嫌なんだよ!?」
律「何度も二人で遊んだじゃないか!わたしはすごくたのしかったぞ、ムギと遊ぶの」
律「ムギは…たのしくなかったのか…?」
紬「…」
紬(たのしくないわけ…)
律「ムギ、やっぱりわたしのこと、嫌いになった?」
律「他に好きなヤツができたならそう言ってくれ」
紬「なんで…」
紬「なんでそんなにりっちゃんはわたしにこだわるの…」
紬「わたしのこと、好きでもないくせに」
律「好きだよ」
律「わたし、ムギのことが好きだ。大好きだ」
紬「…」
紬「…だから?」
紬「だからなんなの?どうなるの?わたしたち」
紬「りっちゃんはなにをどうしたいの?」
律「前みたいに時々ふたりで遊びに行きたい」
律「声が聞きたくなったらいつだって電話したい」
律「顔みたくなったらすぐにだってムギのところに駆けつけたい」
紬「…りっちゃん。それがどういうことかわかってるの?」
紬「それじゃまるで…」
紬「恋人同士みたいじゃない…」
律「そうだよ。わたしはムギの恋人になりたい」
紬「ダメ…」
紬「ダメだよ…そんなの」
律「ムギはわたしのこと、嫌いか?」
紬「そうじゃなくて。梓ちゃんが…」
律「今はムギの気持ちが知りたい。ムギはわたしのこと、どう思ってるんだ」
律「もし今のムギがわたしのことを好きじゃなくなってて…」
律「別の誰かを好きだとしても、」
律「ちゃんとこの耳でムギの気持ち、聞いておきたいんだ」
律「だから教えてくれ。ムギ…」
紬「わたし…わたしは…」
紬(忘れるはずだったのに)
紬(たった一晩、一緒に過ごすことができたら、それで全部忘れるつもりだったのに)
紬(忘れられると思ってた)
紬(でもね…)
紬(逆だったわ、りっちゃん)
紬(わたし…前よりもずっと、)
紬「好き。大好きよ、りっちゃん。わたし、りっちゃんのことが、死ぬほど好き」
律「…ムギ」
紬「…りっちゃん」
澪「盛り上がってるとこ悪いけど」ヨッ
律「は?」
紬「え?」
律「な、なんで澪が……」
澪「なんでってわたしが呼んだんだからわたしがここにいるのは当たり前だろ」
律「あ、いや…それはそうなんだけど…」
紬「さっきまでの……もしかして見てた?」
澪「ああ、バッチリ」
澪「おかげで律とムギの本当の気持ちを聞けてよかったよ」
澪「な、梓」
梓「………」
律「うそっ、梓!?なんでここに…!」
紬「梓ちゃん……」
梓「………」
唯「わたしもいるよー」オイーッス
律「澪、おまえ…ハメたな」
澪「あんまり褒められたやり方じゃないのはわかってるよ。でもこうでもしなきゃ、状況は変わんなかっただろ」
澪「困るんだよ。本音を隠して気持ち読み合って、それでお互いをさぐりあって…ギスギスするの」
律「だからってやっていいことと悪いことがあるだろっ」
澪「やっていいこと悪いこと?律、お前にだけは言われたくないな」
律「………」
紬「………」
澪「確かにわたしのやり方はひどいよ。卑怯だった。それは謝る。でもな」
澪「隠していたっていずれわかることだ。傷つくのは変わらないだろ」
律「………」
梓「………」
紬「………」
唯(………空気が重い……来なきゃよかった……かも)
梓「律先輩」
梓「…言い訳の一つでもしたらどうですか」
律「……あずさ」
紬「あ、梓ちゃん…あのね。りっちゃんは悪くないの。元はと言えばわたしが…」
梓「あなたには聞いてません。というか声も聞きたくないので。黙っててもらえますか」
紬「……あ、う。ご、ごめんなさい」
唯(うわぁあずにゃんの声、聞いたことないトーンだ……)
律「梓…あのな、これは…」
梓「目をつぶってあげます」
律「…梓?」
梓「こういうことになったのはわたしにだって責任あるでしょうし。律先輩一人が全部悪いわけじゃありません」
梓「”ゴメン悪かった、二度とこんなことはしない”そう言ってくれたら許してあげます」
律「……」
梓「…もう。とくべつですよ……だから」
梓「許して…あげますから」
律「……」
梓「…ねえ」
律「……」
紬「…りっちゃん?」
律「……ゴメン」
律「ゴメンな、梓。傷つけちゃって。わたし梓に迷惑かけてばっかだな。ホントゴメン、悪かった」
梓「ううん…。いいです。許してあげます」
律「いや…わたしは許される資格なんてない」
梓「許してあげます」
律「ダメだ。許されない。だってわたし」
律「ムギのことが好きなんだ。本気で好きになっちゃったんだ。ゴメン梓。わたしには許される資格がない」
梓「……」
律「ゴメン」
紬「…りっちゃん」
梓「……それは、」
梓「それはわたしと……別れたい、ってこと………なんですか」
律「……」
梓「……わたしたちもう…おしまい、ってこと……なんですか」
律「……梓、わたしな。本当に自分で自分のこと、サイテーだって思うよ」
律「サイテーだけど…許される資格なんてないけど…それでも、自分の気持ちに正直にしか生きられないみたいなんだ」
律「だからちゃんと自分の気持ち、正直に言うよ。傷つけちゃうかもしれないけど…聞いてほしい」
梓「……待って」
律「…あずさ?」
梓「やっぱりイヤ。聞きたくない」
律「梓…聞いてくれ。お願いだ」
梓「ダメ……だって終わっちゃうもん。聞いたら全部終わっちゃう…」
梓「たいせつにしてたことが、全部終わっちゃうんだもん…イヤ…イヤ!」
律「終わらないよ!終わるわけないだろ!」
梓「ウソ!いまさらそんなウソつかないでよ!」
律「ウソじゃない!本当だ!」
梓「わたしを捨てるくせに!離れてくくせに!」
律「捨てるわけない!離れないよ!これからもずっとそばにいる!」
澪(……ん?)
唯(……あれ?)
律「聞いてくれ梓!わたしは梓のことが好きだ!大好きだ!これからもそばにいてほしい!」
梓「え……な、なにいってるの…さっきその女のこと好きって言ったじゃない!」
唯(あずにゃんがムギちゃんのこと”その女”って言った……)
律「言ったよ。でも梓のことも好きだ、好きなんだ」
澪「……ちょっと待て律。わたしがここで口を挟むのもなんだけど……自分がなに言ってるかわかってるのか……?」
律「ああわかってるとも、つまりわたしは…………」
律「梓のこともムギのことも……ふたりのことがおなじくらい大好きなんだぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
唯(りっちゃんクズだねー)
澪「い、」
澪「いやいやいやいやいやいや…」
唯(ろっかい)
澪「律…おまえ……バカだとは思ってたけどそこまでとは思ってなかったぞ」
律「バカだろうがなんだろうがカンケーねぇ。これがわたしの正直な気持ちなんだ」
澪「いや……いくら正直って言ってもだな……正直すぎるだろ!そんなことでムギも梓も納得するわけが…」
梓「そうですよ!納得できません!」
梓「わたしを人の恋人に手を出すようなサイテー女と一緒にしないでください!」
唯(うわぁ…あずにゃん言うねぇ……)
紬「わたしはいいわよ」
澪梓「「!?」」
紬「りっちゃんが梓ちゃんのことが好きでも全然構わないわ。りっちゃんの好きなようにしてくれたらいいの」
紬「わたしは好きな人を縛るようなこと、したくないから」チラ
梓「……」
紬「それでりっちゃんが笑ってくれるなら、わたしはしあわせよ」ニッコリ
澪「お…おいおいムギ…」
梓「…わたしも構いませんよ」
澪「梓まで!?さっきと言ってること変わってるじゃないか!」
梓「いやいや…よく考えたら律先輩がわたしのこと好きなのは変わらないわけじゃないですか」
梓「そりゃあ人間誰しも気の迷いはあるでしょうからね。でも帰ってくる場所はひとつなわけで」
梓「よろしくお願いしますね?”2号さん”」ニッコリ
唯(”2号さん”ってなに?澪ちゃん)ヒソヒソ
澪(愛人さんのことだよ…って当人たちがいるところで聞くなっ)ヒソヒソ
紬「こちらこそ~。梓ちゃんとのお付き合いで疲れたりっちゃんをわたしがちゃ~んと癒してあげるから。安心してね?」ニッコリ
紬「そうそう。近いうちに梓ちゃんに”2号さん”になってもらう予定だから~☆あ、もしかしてすでにそうかも♪」
梓「アハハ…ムギ先輩。だんだんボケがお上手になってきましたね。その頭、今度わたしが叩いてあげましょうか?ハンマーで。ガツンと」
澪(なんだこれは…なんなんだこの空気は…)
律「ゴメンな…わたしの自分勝手だっていうことは百も承知なんだけど…二人とも、できればいつも通り仲良くしてほしいんだ…な?頼むよ。おなじ軽音部なんだし、さ」
紬「りっちゃんがいうならわたし仲良くする!」ハイ!
梓「わ、わかりました律先輩がそう言うなら…」シブシブ
紬「……」ニコニコ
梓「……」ニコニコ
紬「……」ニコニコ
梓「……」ニコニコ
紬「……」ニコニコ
梓「……」ニコニコ
唯「おおっ、この二人思ったよりうまくやれそうだね!澪ちゃん!」
澪「何を見てそう思うんだよ、殺気が充満してるじゃないか」
唯「二人ともいい笑顔じゃん」
澪「そんなわけあるか。梓は笑顔が引きつってるし。ムギは目が笑ってないし」
紬「…」スッ
梓「…」ギュッ
唯「ほらほら!手と手を握り合って……うるわしい友情だね」
澪「梓のやつ、爪立ててるぞ…ムギの手の甲には血管浮き出てるし。どれだけ力入れてるんだ…」
律「よし!じゃあ一件落着したということで、今日はみんなで遊園地でも行くかぁ~!」
澪「どこが一件落着だ!」
澪(あれから一週間)
唯「きょ・お・の・お・か・し・は」
律「なぁ~にかなぁ~っと」
紬「りっちゃん♪今日は宮内庁献上品のバウムクーヘンですよ~、はいあ~ん♪」
律「お、うまそ~いただきm…」
梓「律先輩!手作りのクッキーつくってきました!どうぞ!」ズイッ
律「お、すごいな、手作りか」
梓「はい!最近結構上達してきたんですよ、頑張りました」
紬「バウムクーヘン…」
梓「頑張って手作りしてみたんです!愛情いっぱい込めちゃいました☆」エヘヘ
梓「どんなに高級品でも”親が稼いだお金をつかって取り寄せただけ”のお菓子なんかじゃ、わたしの律先輩へのキモチはこれっぽっちも伝わらないですからね」チラ
紬「……」ギリリ
律「お、おう…じゃあまずは梓のクッキーから……」バリバリ
律「……ん、ちょうどいい食感だ。甘さもいいかんじ」
梓「エヘヘ…律先輩に食べてもらいたくて徹夜で作りました……」
律「そ、そうか…でも梓、あんま無理するなよ」
唯(あずにゃんの目にクマが…)
梓「いえいえこれくらい律先輩のためですから。ちっとも無理じゃありません」
律「あ、ありがと…」
澪(でもあれ、あのクッキー結構パサパサしてそうだな……)
紬「はい、りっちゃん。パッサパサのクッキー食べさせられたせいで喉乾いちゃったでしょ?ミルクティーどうぞ♪」
律「おっ、さんきゅー!ムギ」ゴクゴク
律「うめー!なんつーかすっげーまろやかな気がする…」
紬「喜んでもらえてよかった♪りっちゃんの大好きな北国牛乳使ってるの~」
律「そっか。わざわざありがとな」
紬「ううん。これくらい当然よ。わたしだってりっちゃんが好きなもの、いっぱい覚えたから!」フンス!
紬「親のお金だってなんだって使うわ。りっちゃんが喜んでくれるならわたしなんだってする!」
紬「いくら頑張ってもりっちゃんが喜んでくれなかったらただの自己満足だもんね!」チラ
梓「……」ギリリ
律「あ、ありがと…」ハハ
紬「あれ?梓ちゃん、いたの?梓ちゃんも紅茶飲む?出がらしでよければ?」ニッコリ
梓「……いえ、結構です。飲み物は持参したんで」ドン
律「あっ、それどこで売ってたんだ?今品切れでどこ探しても見つかんなくて…」
梓「これ、ウチの近くのコンビニには置いてるんですよ」
律「”土の味がする”って話題なんだよな。実は最近ハマってて…」
梓「じゃあよかったら飲みます?飲みかけですけど…」
律「えっ、いいのか?」パァァ
紬「りっちゃんミルクティー…」
梓「どうぞどうぞ。最近暑くなってきたのにいつまでもホットミルクティーなんて飲むのがツライですよねー」ニヤ
紬「……」
律「さんきゅーあずさ!」ゴクゴクゴク
梓「もう、律先輩ったら…そんな慌てて飲まなくても…」
梓(フフ…間接キス…間接キス)ニヤニヤ
紬(い、いまさら間接キスなんかで動揺しちゃダメよつむぎ!わたしとりっちゃんは心も身体ももっと深いところで結ばれた……ウンヌン)
澪(…とまぁこんなかんじ)
澪(軽音部の雰囲気はすっかり変わってしまった)
澪(毎日のように繰り返されるムギと梓の女の戦い)
澪(律は律で開き直りつつもうまくやってるようなやってないような)
澪(最初はどうなることかと思ったけどこれはこれでなんかうまくいってるような…そうでもないような)
澪(前のギスギスした部よりはマシか。でも…)
唯「どうしたの?澪ちゃん」
澪「ん。あ、いや…最近部の雰囲気かわったな、って思ってさ」
唯「澪ちゃんのせいじゃん」
澪「たしかにわたしが仕掛けたことではあるけど…」
唯「こうなるとは思ってなかった?」
澪「そりゃそうだ。こんな結末、予想できるわけないだろ」
唯「まぁね~。じゃあ澪ちゃんはどんな結末を望んでたの?」
澪「わたし?わたしは…」
澪(なにを望んでたんだろう)
澪(律が…梓かムギか、はっきりどっちかを選ぶことか?)
澪(でももし律がどっちか片方を選んでしまっていたら…)
澪(選ばれなかった方は部をやめてしまってたかもしれない)
澪(…とするとこれが正解なのか?……いやでもこんな)
唯「わかんないんだ」
澪「……」
唯「澪ちゃんはさ、わかってるようでわかってないね」
澪「…どういうことだよ」
唯「ううん。まわりのこと、わかった気でいるけどいちばん肝心なことをわかってないってこと」
澪「なんだよ、それ」
唯「わかってるくせに」
澪「……」
唯「ほら、参加してきたら」
澪「…なに言ってんだ」
唯「いいから、行っといでよ。今ならまだ、りっちゃんのこといちばん知ってるのは澪ちゃんなんだから」
唯「まだ遅くないよ、頑張っておいで」
澪「…唯」
唯「素直にならないと身体に毒だよ」
澪「……………」
唯「………ほら」
澪(そうだな……素直に……なろう、わたしも)
澪「唯」
唯「ん」
澪「…ありがと」
唯「ん」
澪(律やムギや梓と同じように。自分の気持ちに正直になろう)
澪「なぁ、律。ちょっと、いいか。伝えたいことがあるんだ」
律「ん。どした、みお?」
紬「りっちゃんはこれからバウムクーヘンを食べるから無理よ、澪ちゃん」
梓「そうです、律先輩は忙しいんです。ほらクッキーもまだ残ってますよ!律先輩!」
澪「じゃあもうここで言うぞ。律、わたし、律のことが……」
愛っていったいなんでしょう。
恋っていったいなんでしょう。
わたしにはよくわかりません。
唯(澪ちゃんもようやく素直になったかぁ)
愛がなにか、恋がなにか、なんて誰か知っているひとはいるのでしょうか。
唯(めでたしめでたし……なのかな)
この世界にたった一人でも、愛や恋が一体なんなのか、知ってる人はいるんでしょうか。
唯(みんなたのしそうだなぁ)
もしかしたら、だーれも知らないのかも。
唯(りっちゃんのカラアゲ、おいしかったな)
…ううん、その反対にみんな知っているのかも。
唯(りっちゃんのコイビトになれば、カラアゲ、いつも食べさせてくれるのかな)
この世界にいるみんな、愛がなにか、恋がなにかを知っている。
唯(うーん毎日カラアゲ食べられるなら、わたしもりっちゃんのコイビトになりたいかも)
もちろんわたしも知っている。
唯(けどそんな理由で”好き”ってゆっちゃ、ダメかなぁ~)
でもね、それに自信が持てなくて、気持ちをうまく伝えられないから大変なんだ。
唯(でもでもっ!これも”好き”って気持ちに変わりないよね…たぶん)
かといって伝えたら伝えたでいまの軽音部みたいなありさま。
唯(…りっちゃんと一緒にいると……たのしーし)
愛ってホント、むずかしい。それでも、ね。
律「ど、どうしたんだ澪…改まって…」
澪「(しまった…いざとなると緊張して…)わわわわわたしは……りりりりりつのことがががが…」
伝えようって頑張ることが大事なのかもねー。わかんないけど。
紬「いまさら出てくるなんて遅いわよ!澪ちゃん!」
みんな、必死でもがいてるんだ。だから。
梓「そうです!幼馴染みだからって調子に乗らないでください!」
わたしも正直になっちゃおう!
唯「りっちゃん!わたしも伝えたいことがあるんだけど!」
律「な、なんだ唯…トートツに…」
唯「ずっと前から好きでした!付き合ってください!!」ドーン!
律「」
澪「」
紬「」
梓「」
けいおん部は今日も 愛がいそがしいのでした。
おしまい。
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