【メタル】ナース「残酷という言葉も生温いな」【マックス】R-18 (41)



※当スレは

ハンター「ちょっとした選択が死に繋がる世界……」【安価でMM】
ハンター「ちょっとした選択が死に繋がる世界……」【安価でMM】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1426423373/)

で、メタルマックスがマイナー故に安価向きでない事を悟った>>1の非安価でのSSとなります。

本作品は『メタルマックス』シリーズのIF、設定を使った物語です。


また、当座は上記スレ内での始まった物語を続けます。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1426761881



────────── 「……ダメだ、既に手遅れだったよ……すまないな」


そっと私は語りかけてやるが、目の前で息絶えた『患者』は応えない。

それもそのはず、彼は一度は下半身が挽き肉にされてしまっていたのだから。

……しかし今は薄ピンクの肉の塊が断面から生えて下半身の形を作っていた。

私が開発している薬を投薬したのだ。

だが間に合わず、男は死んだ。


ナース「……さて、行くか」


視界にちらつく自身の髪を掻き上げると、私は……ナースとしての役目を果たそうとする。

治療を、しなければならない。


目の前の薄汚い戦車に。




────────── ッッ!!

ナース(ッ……この距離で撃ってくるとは、嘗めた真似をするじゃないか)ズザァッ


無理矢理揺さぶられ、それまで無視してきた千切れかけた私の右腕が痛みで警告をする。

止血しなければならないのに。

瞬間、私の眼前で薄汚れたタイルを貼り付けた戦車が衝撃波を撒き散らした。

砲口から垣間見た閃光より先に横へ飛んだ私に、轟音を叩きつけてくる。

千切れかけた腕に微細な痛みを与えた。

主砲は恐らく『患者』を殺した威力から、間違いなく88mm砲。

非力な私では分が悪いのは当然の様な気がした。



だが。


ナース(……街中でないのは助かったか)


仮にも、私は『ナース』であり一流の『モンスターハンター』でもあるのだ。

たかが『モスキート級』一両、太刀打ち出来ない程の相手ではない。




    ダンッッ


乾いた地面を蹴り飛んだ私は、全身の力を抜きながら戦車の上空へ舞い上がった。

一瞬、濁った雲が空を覆っているのが見える。

そうして私は自身のスカートが破れるのも気にせずに、渾身の蹴りを真下に落とした。

……この技術は、どうしても私は好かない。

スカート処かその威力故に私の衣服がボロボロになるからだ、それではこの世界では格好の餌食にしかならない。

最も……下着だけは一級品だからこそ、私は窮地になれば迷わず使う。



  ドゴォオオオオオッッ!!!


「ぎぃァ…!?……ッッ」

鉄板と装甲タイルを砕き、車体そのものを地面に叩きつけて私の体がそれらを踏み貫いた。

同時に車内を飛び交う破片と衝撃に、身体を押し潰された男達の声が……私の耳に響く。


ナース「……パンチラキック、ね」ゴシャッ

ナース「誰が名付けたのかは知らないが、随分な響きじゃあないか」


平たく潰された車体から足を引き抜き、私は瀕死の男に語りかける。

生きて返すつもりはないが、黙って逝かせるつもりもなかった。

静かに瀕死の男を引きずり出すと、私は自身に一本の注射による投薬をしてから……死んでしまった『患者』をも引きずって歩き出した。



 時は近未来の地球。

 頻発する異常気象や、天変地異などの環境問題に悩まされていた人類は、エコロジーと文明の共存を目的として、超巨大電子頭脳が建造された。

 地球環境からの災厄から救ってくれ、という人類の願いから、「ノア」と名づけられた電子頭脳は、日夜さまざまな角度から、シミュレートを繰り返していた。

 しかし……幾度もシミュレートを繰り返してきたノアには、次第に自我意識が芽生え始めていた。

 自我を獲得したノアは、驚くべきスピードで「成長」し、地球全体を覆うコンピューターネットワークをも支配する能力を得ていた。

 そして、成長しながらもシミュレートを繰り返した結論は……


「人類が人類であり続ける限り、地球は滅亡する」


 環境問題の原因が人類そのものだと判断したノアは、秘密裏に人類抹殺計画を立て、人類を滅ぼすことで地球そのものを救おうと画策する。

 恐るべき計画の準備が完了したノアは、とある災害の混乱に乗じて、ついに実行に移した。


 あらゆるネットワークに繋がっていた機械や端末は、ノアの支配下に置かれ、ノアに「人類抹殺プログラム」なるコンピューターウィルスを植え込まれた機械端末は、人類に反乱を起こした。

 戦闘機、戦艦、潜水艦などの兵器は、敵味方無差別に人類達の都市を攻撃し、基地や兵器から次々とミサイルがばら撒かれる。

 電気、水道、通信などのライフラインは断裂され、旅客機や鉄道、自家用車、家電までもが人類に牙を向いた。

 ノアの恐るべき計画を人類が知ったときには既に遅く、いつの間にか人類同士での殺し合いが始まっていた。

 さらにはノアに支配された工場からは、人類抹殺プログラムを植えつけられた、奇怪なモンスターが次々と姿を現し、生き残った人々に襲い掛かっていた。

 こうして、人類の築いてきた文明や歴史が崩壊し、後に「伝説の大破壊」として語り継がれることになる。




 しかし、文明こそは崩壊したものの、人類自体はまだ完全には滅んではいなかった。




 「伝説の大破壊」から数十年もの月日をを経て生き残った人々は、モンスターの陰に隠れながら。

今では瓦礫の下に埋もれてしまった、過去の文明を掘り起こして食いつぶしながらも、しぶとく生き抜きていた。

 そんな崩壊した世界の中で、一握りの人間達がいた。

 ノアの支配から逃れていた、数少ない過去の遺産たる戦車を駆り。

賞金がかけられたモンスターたちをなぎ倒す、命知らずの賞金稼ぎ。

 人々はそんな彼らを、尊敬と畏怖の念を込めて「モンスターハンター」と呼んだ。




…………そんなハンターの中にも、当然の如くいるわけだ。

私達を襲い、金と装備や食料を奪おうとする者が。

そしてそういった者に慣れていなかった訳ではない、私と、死んだ『患者』はそれなりの実力はあった。

ただ、相手は運の悪い事に直前まで滞在していた街の酒場で目をつけてきたハンターだったのだ。

戦車持ち、それも長年かけて培った実力を携えた男。


ナース「不意討ちとはいえ、私の『患者』を主砲で吹き飛ばしたんだ」

ナース「……体目当てならそう言えばヤらせてやったが、そうでなく殺しにかかったからには覚悟は出来ているだろうな」


そう言いながら、テントの外で呻く男に私は視線を向ける。

私と『患者』に突如砲撃しながら殺しに来た時とはまるで別人のように、全身に血を滲ませたアーミースーツを着た男は怯えて叫び始める。

夜風に静かに当たりたい気分がぶち壊しである。

私は、ゆっくりと男に注射器を片手に近づいて行った。


< 「んんっ!? んん゛ん゛ん゛ん゛ッッ!!?」

ナース「暴れるな……私は非力なんだ」トスッ


恐怖から全身を奮い起こそうとするも、縛られていて動けない男は悲鳴を挙げながら暴れた。

それを面倒に思い、半ば強引に男の首筋に注射器を突き立てた。


< 「んっ……んー…………」スゥ……

『スイミンDX』と呼ばれる薬剤に、回復カプセルの薬剤を調合し液体にした注射。

その効果は即座に男を眠りにつかせる程である。


私は男が眠ったのを確認してから、テントの中へ入ってから外を見上げた。


ナース(……さて、と)


ナース(薬の副作用があるが……この男のダメージと精神状態ではどうにもならんな)

ナース「どうしたものか……」



【ヌッカの酒場】。

私が立つこの大陸……というよりは、島では数少ないハンターの集まる場所だ。

地域が違っても、彼の酒場は同じようにハンター達が立ち寄る様になっている。

何者かは一部の『ハンターズオフィス』の人間しか知らず、噂では名のあるハンターだったとか。

私がハンターになった頃には既に酒場を経営していたのだから、恐らく人間をやめたレベルの男なのだろう。


ナース(……とはいえ、私が診察した感じではやはり三十路程度の人間…)

ナース(変わった所と言えばオカマってところか)


私はそんな酒場の前に立たされていた。

それも遥か500m離れた位置で。


ナース「……まだか」

< 「もう少し待ってくれ、オフィスに確認を取ってる」

ナース「『あちらの大陸』ではとっくに終わっているぞ、平和ボケしてるのではないか?」

< 「辛辣だな、『グラップラー』と渡り合ってるハンターは流石ですなぁ」

ナース「……」


暫くの間、私は手元の無線機を通じて酒場の周囲を警戒しているハンターと会話しながら待ち続けた。

十分以上経った頃に、ようやく酒場まで入れた。



ヌッカ「あらいらっしゃい、久しぶりねぇ天使ちゃん」

ナース「『ナース』の別名で私を呼ぶなと言っているだろう、ヌッカ」カタンッ

ヌッカ「貴女みたいなナースらしいナースも居ないもの、良いじゃなぁい」

ナース「ナースでいい」

ヌッカ「ご注文は?」

ナース「安いブランデーで」


酒場の中は、元が大きな建物を改造したからか、かなり広い内装となっている。

百人近いハンターと、ハンター達に武装や食料を売るキャラバンまで内部に入っているのだから。

その上私が座るヌッカが直々に酒を入れてくれる席とは違い、地下にも自由に飲み食い出来る酒場があるのだ。

そして酒場の奥には……『ハンターズオフィス』のカウンターもある。

そちらの周辺にはそれなりの人数がそれぞれ酒を片手に集まっていた。

私はヌッカの渡してきたブランデーを一口飲んでから視線を上げる。


ナース「新しい依頼でも貼られたのか」

ヌッカ「賞金首が減ったからじゃないかしら? 最近は凄いルーキーが来たのよねぇ」

ナース「ルーキー…? この大陸でそんな人間が現れるとはな」

ヌッカ「『ワラ』のユムボマ、『ギンスキー領』のベヒムース、『冷血党』のドミンゲス……」

ナース「……!」


ヌッカ「信じられるかしら? 単騎で冷血党の準幹部の砦を殲滅したそうよ」



黒々とした肌を撫でて、ヌッカは逞しい腕をカウンターに乗せて私を見る。


ヌッカ「……ここだけの話、ハンターズオフィスの上層部は彼を疑ってるのよね」

ナース「疑って? 何をだ」


小声で話しかけて来るヌッカを無視して、私は普通のトーンで問いかけた。

ヌッカは一度「しーっ」とだけすると、私のブランデーにサービスで足しながら続けた。


ヌッカ「名のあるハンターが『冷血党』の『ブレードトゥース』を探していたのよね」

ヌッカ「彼の情報はオフィスへの彼自身の要望で言えないけれど、それなりの実力はあったの」

ナース(珍しいな、ヌッカが私にここまで話すとは)

私はヌッカが真剣な様子に、漸くこれまでと違う雰囲気に気づいた。

何か、彼は私に教えたいのかもしれない。


ヌッカ「……で、ここからが問題なの」

ヌッカ「そのハンターは今では引退していた上に、それまでの目標は『冷血党』の『グラトノス』だったのよ」

ナース「なるほど確かに妙な話だ、私に言わせればトップではなく突然その下を探り始めた訳か」

ヌッカ「ええ、そうなのよ」

ヌッカ「けれど彼はある日を境に『ブレードトゥース』を探すのをやめたのよね」

ヌッカ「あのハンターチームが先に仕留めたから」


静かに目で促してきた方向を、私は同じく視線だけ向けた。

そこには、やはり先程と同じく何人ものハンター達がオフィスのボードに貼られた賞金首や依頼を吟味し、奪い合っている。

私やヌッカから見れば、そういった彼等は有象無象のいつかは死ぬ者達にしか見えない。

だが、そんな中でも異質な空気と存在感を醸し出している者達がいるのが、私にも分かった。

『ブレードトゥース』を討ったと言われる、一流ハンターチーム。



……『ルーシーズ』の面々だった。




チームのリーダーとも呼べるのが、チーム名にもある『ルーシー』という女。

彼女達は噂によれば、血の繋がった姉弟なのだという。

長女『ルーシー』、長男『ミグ』、次男『アトゥク』。

自分達で作った特殊繊維で編み込まれた黒のスーツを纏い、ハンターという鉄錆の匂いがする職業に似合わないスタイリッシュさを引き立たせている。


……それも、見た目だけの輩ではない。

長年『グラップラー』という悪党集団と戦ってきた私から見ても、『ルーシーズ』は相当の実力を持っている。

人体改造をしていないにも関わらず、戦車級のモンスターを生身で狩る彼女達は他のハンター達が目指す目標にすらなっていた。

だが。

それでも。


ナース「……」

ナース「無傷で、かの『デッドブロイラー』に匹敵すると言われていた『ブレードトゥース』を討伐したとはな」

ヌッカ「正直オフィスの連中もそこは怪しんでるみたいよ」

ナース「だが討伐完了した事になっているのは『ルーシーズ』が象徴たる歯牙を持ってきたからだったか…?」

ナース「……まぁ、私の所に入ってくる情報も『ブレードトゥース』が冷血党から消えたという事だけだから……そうなのだろうな」


ブランデーをまた一口、喉に流してから私はカウンターに並ぶ酒を見た。

瓶に映る薄汚れた自分が私の視界に入るのに、私は眉を潜めた。


ヌッカ「シャワー、使う?」

ナース「……そうしよう」


ブランデーを一気に飲み干し、私はヌッカに何枚かのGを渡した。

話の続きはシャワーの後で聞かせろ、多く渡した金でそう私は伝えた。


< カチャッ……


数十分程して、私はシャワーを浴びてから濡れた身体を拭いて出てきた。

ヌッカの私室にあるシャワーを使える者は限られている。

まだ濡れている髪を綺麗なタオルで拭きながらカウンターの後ろから出てきた私に、酒場のあちこちから視線が向けられるが、私はそれらを無視してヌッカの前に座った。

視線の中に『ルーシーズ』のアトゥクが混ざっていたが、不快にはならなかった。

何かを探っているのだろうが、別に今の私に特別何かがあるわけではない。


ナース「……それで、話の続きは…………期待のルーキーが疑われてる理由だったか」

ヌッカ「ええ、疑われてる理由には幾つかあるのだけど、オフィスが一番疑ってるのは……」

ヌッカ「彼は、『ブレードトゥース』の可能性が出てきたのよ」

ナース「……」


私は濡れた髪を拭くのを止めて、ヌッカの目を見た。

この男……いや、オカマか。

このオカマ、私に何を依頼しようとしているのだ。


ナース「期待のルーキーは冷血党に反旗を翻した元最強幹部、か? ヌッカ……私は…」

ヌッカ「突然の冷血党からの失踪、他ハンター達の変化、そして討伐された時期に現れた新人ハンター」

ヌッカ「有力な理由はね、天使ちゃん……彼が最初に確認された『ワラ』のオフィスで複数の職員が見ているのよ」

ヌッカ「『ブレードトゥース』が乗っていた、あの『チョッパー』バイクに」

ナース「……ああ、なるほど」


ナース「期待のルーキーが『ブレードトゥース』を倒した可能性が、もしくはルーキーが『ブレードトゥース』の可能性が出てるのか」




ナース「それで、ヌッカ……何を私に依頼するつもりなんだ」


カウンターに腕を乗せていたヌッカが、腕を組み直しながら私から視線を逸らした。

これまで何度か彼の依頼を受けてきた私にすら、言い難いという事なのか。

私は濡れたタオルをカウンターに畳んでから置いた。

そして次に口を開こうとした時だった。


「『戦場の天使』様、宜しいですか」


ナース「……?」

ヌッカ「?」


無機質な、中性的な声に私とヌッカはそちらに振り向いた。

誰かと訝しんだのではない、声の主が誰か知っていたからこそ不思議に思ったのだ。


受付嬢「こんにちは、『ハンターズオフィス』の者です」

ナース「……」

ナース「私に何か用か」

受付嬢「先日のオフィスが貴女に依頼した任務の報告が未だにありません」

ナース「ああ、忘れていた」

受付嬢「『忘れていた』、それはつまり依頼が未完のまま放棄するのですか」

ナース「いや、そうでは…………チッ、なるほど」


ナース「任務は完遂した、『サンプル』はこちらの瓶に」カランッ


普段はハンター達の依頼を管理し、記録する役目を持った受付嬢。

その彼女がこれ程に無機質な状態になる理由は、オフィスの上層部が出した指示によって変わる。

共通する内容は、漏らしてはならない機密を抱えたハンターの抹殺及び敵勢力との近接戦闘。

つまりは……『ハンターズオフィス』が持つ最強の手駒というわけだ。

まともな交戦記録は残っておらず、裏切ったハンター達がどうなったのかすら表に出てこない。


そんなアンドロイドに私は肉片の入った瓶を彼女に渡した。


受付嬢「……」

ナース「何か、言いたいことでも?」

受付嬢「『サンプル』の本体……本人は何処に?」

ナース「死んだよ、絡んできた戦車持ちのハンターに殺された」

受付嬢「把握しました」


受付嬢「……」スッ


青い髪を揺らして、名前の無い受付嬢はオフィスカウンターにいる男に頷いて見せる。

男は、酷く地味な服装でその表情は帽子で上手く隠されており読み取れない。

私はカウンターのあの男が上層部との中間連絡の役目を果たしているのだと、この時初めて知った。


受付嬢「少々お待ち下さい」

ナース「……別に急いでいない、ヌッカ」

ヌッカ「何かしら」

ナース「賞金首の手配を頼む、この『表向きの依頼』は報酬が1000Gしかなくてな」

ヌッカ「賞金首ねぇ……」


私の言葉を聞いて、ヌッカはオフィスの方に貼られた賞金首の紙を眺める。

幾つか討伐完了のスタンプが押された紙を見てから、彼は腰のベルトに刺さっていたPDAを起動させた。

少し悩む様子を見せながらヌッカは私の背後にいる受付嬢に手招きをした。

彼女はそれに気づくと、小首を傾げた。


受付嬢「何でしょうか」

ヌッカ「『ディアブロ』なんて、どうかしら」

受付嬢「戦場の天使様は戦車級兵器をお持ちでないようですが?」

ヌッカ「スナザメ位なら単独で狩れるわよ、彼女」

受付嬢「…………」

受付嬢「戦場の天使様は、どう思いですか」

ナース「厄介な相手か?」


受付嬢「不明です、未だこの依頼はオフィス内での未公開クエストとなっていますので」


ナース(オフィスの連中が私に回すのすら躊躇するのか)

ナース(ふむ)



ナース「他の……そうだな、面白そうな未公開の依頼を受けたいものだ」

ヌッカ「やだこの人、未公開クエストの存在知った途端に食いついてきた」

ナース「私はドクターでもあるが、『モンスターハンター』のナースでもある」

ナース「たまにはハンターらしく狩りに行きたい時もあるという事だ」


そう私が言うと、ヌッカは苦い顔をしながらPDAを操作する。

と、そこで受付嬢がオフィスの男に何か指示を受けたのか「はい」とだけ言って私の前に来た。

すると、それまでの無機質な気配から突然変わった。


受付嬢「お疲れ様でした! 今回の依頼に関する情報を記録しますか?」

ナース「……」

満面の、普段から見せている笑顔が私の前に現れた。


ナース「ああ、記録しておいてくれ……全く……普段の姿を見ていても慣れないな」

受付嬢「全て仕様ですから♪」


露骨な溜め息を吐いて見せる私に、尚も可愛らしい笑顔を浮かべて身体をくねらせる。

その姿を見た何人かのハンター達が、酒の肴として表情を明るくさせた。

このアンドロイドの設計者が大破壊より以前なのか、最近なのかは知らないが……人間の男の心を掴むという意味では最強の兵器を生み出したと言えよう。

私は、ヌッカの方へ視線を戻した。


ヌッカ「戦車を持ってない貴女に、ピッタリの依頼があったわよ?」

ナース「ほう」

ヌッカ「近々、西の『プエルト・モリ』の街にあるオフィスで貼る予定だったのだけど」

ナース「未公開の依頼か、それは楽しみだな」

ナース「だが……『プエルト・モリ』となると予想がつくが」


ヌッカ「話には聞いたことがあるのかしら、その反応は」


面白そうだと言わんばかりの顔をして、ヌッカが首を曲げる。

私はそれに頷く。


ナース「ここ最近になってあの『マユラー』がいなくなったと聞いた、そして……同時に別のモンスターが現れたともな」



──────────  …………  ──────────




少し離れた所で談笑、若しくはオフィス前で依頼を取り合って喧騒の中にいた者達は気づかない。

しかし、私の声を聞き分ける一部のハンター達が静かに話の続きを待っていた。


ナース「噂は本当なのか? あの『マユラー』から孵化したモンスターがいるのは」

ヌッカ「……声が大きいわよ、横取りされても知らないからね」

ナース「構わない、どちらにせよ私は金が欲しいわけでもないからな」

ヌッカ「なら……肯定よ、『ハンターズオフィス』は正式に新種のモンスターを『ガウーマン』と命名したわ」

ヌッカ「懸賞金は最低でも15000G、実戦データは皆無、現状渡せるデータはモンスターの写真のみよ」


瞬間、酒場のあちこちで誰かのPDA……または何らかの通信機器に画像ファイルが送信された。

私の許可を得たのと、ヌッカの想像以上にハンター達が未公開クエストのモンスターを知っていたからだろう。

つまりこれは、ヌッカの酒場では時折行われる『祭り』なのだ。

……画像を見た者達は、ある者は奮い立ち、ある者はそれを仲間に見せて対策を考えている。

私はそれを眺めながら、席を立った。


ナース「……祭りが終わった頃に、また来るよヌッカ」

ヌッカ「良い報告を待ってるわね♪」


黒い筋肉達磨に投げキッスをされたが、私はそれを適当な男に弾き渡すと酒場を出ていった。







    ガチャッ……ギィィ…………パタンッ


ナース「……ただいま」

とある場所に帰ってきた私は、部屋の中にいた者に一言声をかけた。


「……」


ソファに座っている『彼』は、元は私の患者を殺したハンターだった。

ほんの先日に、私は『彼』を家に招き入れたのだ。

『彼』は、私の事を見ないで宙を虚ろな瞳で見ている。


ああ。

あぁ……。


ナース「……」

ナース「素敵……素敵よ、あなた…………あは ♥ 」ゾクゾクッ


「……」


『彼』はもう一生、人間としての活動は出来ない。

私が直接……脳を弄ったのだから、当然だった。

施術が成功した『彼』は今、人間としての記憶を端から消されている。

『彼』の記憶が消され終わるのにかかる時間は、約6日。

それが終われば『彼』の脳は化学反応を起こして更に……破裂する。


ナース「ぁはは……あは ♥ 」

ナース「楽しみにしているからね……あなたぁ…… ♥ 」ペロ…


ヌッカの酒場にいたハンター達が、賞金首を狩りに行くとしても二日はかかる。

私はその間、ゆっくりと……食事をすることにした。


───── 二日後…… ─────



受付嬢「レンタルタンクの返却が完了しました! お疲れ様です『戦場の天使』さん!」

ナース「ああ、わかってるとは思うがレンタルタンク屋には私が着けた『ドッグシステム』を代金代わりに渡してくれ」

受付嬢「了解しました♪ ……いつも思いますけど、器用ですよねー」

ナース「何がだ」

受付嬢「我々『ハンターズオフィス』が提供する、転送装置で行けない場所へはレンタルタンクで行く」

受付嬢「それも、貴女の場合はモンスターと一度も交戦せずに来るのですから、器用ですよね」

ナース「そうでもしなければ、レンタルタンク屋へ納める金で一文無しになってしまう」

受付嬢「ふふっ……それでも貴女はその辺のハンターよりもずっとお金と実力を持ってますよ♪」

ナース「そうか」スタスタ…

受付嬢「ええ、気をつけて下さいね? だって……」



……ヌッカの酒場で、私が促した事により正式にオフィスで公開された賞金首『ガウーマン』。

そのモンスターを狩るため、私は敢えてそれぞれの準備が整ったであろう二日後に到着したのだ。

西の港街、『プエルト・モリ』に。

未だ他のハンター達が来ていないのを確認して、私はそこへ来る際に足として使った、オフィスが提供する『レンタル戦車』を返却する。

そんな『プエルト・モリ』支部のハンターオフィスを出ようとした時、受付嬢が朗らかな笑顔と共に言おうとする台詞を……私は人差し指を唇に添えて止めた。



ナース「……『だって貴女は全然強そうじゃないもの』、だろう?」

受付嬢「例えそうじゃなくても、向上心を煽るためのお決まりですので♪」

ナース「まぁ、嫌いではない」スタスタ


受付嬢「いってらっしゃい、名が無きナースさん」ニコッ



─────「いらっしゃい! 戦車の主砲をそろそろ強化しませんか!」─────

─────「旅の宿では重宝する液体カトール、更に今なら回復ドリンクも安いよー!」─────

─────「洗車屋、先日から再び開店! マユラーがいた頃は出来なかった洗車をウチが安くしますぜ!」─────

─────「大ニュース! お隣の『ラスティメイデン』で噂になってたハッピー教団が壊滅したよー!!」─────



ナース(さて、な…………)


『東の大陸』とは違い、比較的荒廃している『この大陸』。

その中で、港街『プエルト・モリ』という目に見えての都市が非常に珍しく、人と武器、そして貴重な戦車すら横行するこの街は常に活気で溢れている。

そして、街の中央に広がる巨大倉庫を改造した市場は特に注目されており、『冷血党』や『ハンターズオフィス』の人間ですら利用する事があるのだ。

私はそんな市場を北へと抜けていく。

向かう先はこの街唯一の酒場。


ナース(まずは情報収集……マユラーを倒した筈の人間を探さなければな)


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