海未「 【あいするあなたへ.txt】 《最終稿》 」 (29)


ことり「――それで、『面と向かって想いを伝えられない人』の話だっけ?」

海未「はい・・・その、ことりなら、そういった映画などにも詳しいでしょうし、」


ことり「・・・・・」ニコニコ

海未「・・・・歌詞の参考に、ですよ?なにもおかしいところなんて、」


ことり「はいはい、そうだね、うん。
    ふふっ、海未ちゃんだったらどうする?」

海未「私は、その・・・そういう経験にはうといのでっ、」


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ことり「じゃあね、たとえばの話だよ?
    そうだなぁ・・・ことりや穂乃果ちゃんだと、近すぎるから・・・」

海未(たとえば、の話・・・ですよね?)

ことり「・・・あこがれの先輩に、想いを告げたいとしたら、
    海未ちゃんならどんなアドバイスを――」

海未「やっそんな、私べつに絵里にどうこうしたいってわけじゃなくって!
   あくまでその、ええと、
   そうだった、歌詞を、歌詞をつくりたいんですっ!」

ことり「あれぇ、絵里ちゃんのことだったのぉ?」クスクス

海未(は、はめられました・・・)ガクッ

ことり「海未ちゃんって、ほんとに、・・・いつもあんな歌詞書けちゃうのに」

海未「それとこれとは話がべつですっ!!」

ことり「そういうものなのかなぁ・・・

      あっ、そうだ」

海未「今度は、なんですかぁ・・・?」


ことり「面と向かって伝えられないなら、海未ちゃん、
    とってもいい方法があるんだよ?」

海未「・・・え?」

ことり「それはねっ、・・・・・」


  ◆  ◆  ◆



【絵里へ(下書き用).txt】

私、園田海未はずっと前からあなたのことをおしたいもうs
《だめです!いきなりそんなこと伝えたって、そもそもあの人と私は・・・
 ・・・少し落ち着きましょう》

この手紙を受け取る頃には、私はもう
《ってそれもちがいます!
 そりゃあ、
 こんな手紙を押し付けてしまったら、遠くへ雲隠れもしたくなりますけど・・・》

夏の厳しい暑さも次第に弱まり、次第に通学路の並木道のケヤキもいろづきはじm
《そんなことから書き始めたら、日が暮れちゃいます・・・!
 うぅ・・・お手紙なら、素直にすんなり、書けると思ったのですが・・・》



  ◆  ◆  ◆


穂乃果「手紙の書き方ぁ・・・?!
    そんなの、海未ちゃんの方がずっと、」

海未「・・・ぅうう」グスッ

穂乃果「っ?!
    え、ええとその、穂乃果なんかで参考になるんだったら、うんっ」

海未「いいのですか?!
   ありがとうございます、穂乃果にまで見放されたら、わたしっ、」ギュー

穂乃果(希ちゃんが言ってたのって、このことなのかなぁ・・・)

海未「――そういうわけで、歌詞のために、
   恋する女の子の揺れ動く気持ちを知りたいと言うか」

穂乃果(鏡でもみればいいんじゃないかな)


海未「・・・その、ことりから何か聞いてるかもしれませんけど、
   私個人の問題とかそういうことではなくって、はい、、」

穂乃果「聞いてないよ・・・。
    うーん、いつもみたいにきゃぴーん☆ ばぁん☆ミ
    って感じで書いたら普通に・・・・・ごめん海未ちゃん冗談だからっ!!」

海未「っはあ・・・人の気持ちをなんだと思ってるんですか・・・」ブツブツ

穂乃果「それって、一応ラブレター?なんだよね、
    穂乃果そういうのよくわかんないけど、

    やっぱり好きになったきっかけとか、
    どうして好きになったのかとか、そういう感じなんじゃない?」

海未「でも、いきなり好きって伝えてしまったら、その、
   えr・・・相手の人が迷惑に思ってしまうのではないでしょうか・・・」

穂乃果「う・・・ま、まあ絵里ちゃんならきっと、ちゃかしたりはしないと思うよ」

海未「・・・そう、でしょうか」

穂乃果「・・・言われて初めて、気づく気持ちっていうのも、あるんじゃないかなぁ」

海未「・・・・・」


穂乃果「ほらっ、あれだよ、私だって
    A-RISEのライブ見るまでスクールアイドルなんて考えてもなかったし!
    でもやってみたら、
    まるで最初っから穂乃果がしたかったことってこれだったんだって、
    そういう風に思えたんだし、ねっ!!」

海未「・・・・・」

穂乃果「――って、あはは、そりゃあ違う話だよね、うん、
    ごめん海未ちゃん、もうちょっと穂乃果に時間を」


海未「いえ、もう大丈夫です。・・・そうだと、思えてきました。
   すこし、自分の力で考えてみたいと思います」ニコッ

穂乃果「そっかぁ・・・そうだね、うんっ!」



  ◆  ◆  ◆


【宵闇に輝ける一筋の流れ星、その名はFemme fatale――.txt】

 嗚呼、麗しの歌姫よ――
 あなたの流れる髪が、白い指先が、夜の純真を映写する蒼穹の色を湛えた深い双眸が、(中略)

《・・・・・いやいやいや。
 さすがにこれは、なんとなく、違うような気がします・・・。
 なんでしょう、小学校の時に作文を勝手に読まれてしまった際の記憶が、こう、・・・

 手渡す前でよかったです、本当に》


《・・・だめです、考えれば考えるほど、遠ざかっていく気がします。

 穂乃果が言うように、あの人の好きなところを、どうして気になってしまうのかを、
 考えてはみたのです。

 姿かたちも、雰囲気も、つま先から指先まで、
 凛とした立ち姿、それでいてこちらにふと気を許した時の子供のような微笑み、
 私の名を呼ぶ声、時におどけたような、時に慕うような、時には諌めるような、
 それでいて、あたたかい、あの声。

 認めましょう、私は、どうしようもなくあの人を気にしてしまうのです。
 かつて、正しさに縛られて凍えたような目を見せたあの人は、
 その奥に押し殺していた子供のままの素顔も、
 まるで、いつかの私自身と、鏡に写したように感じて。

 あの人はいつか、おどけて私の頬に指を添えてみせました。
 そんな顔しないの、海未、なんて。
 こわばっていた私の輪郭が、いや、その奥にまで熱が伝うようで、
 自分のなかで生じた熱の正体がわからず、
 夜も眠れなくなってしまうほどでした。》


《「相手の好きな所を100個あげて」なんて問いを耳にしたことがあります。
 私は、そんな風に数え上げられるでしょうか。

 ・・・たぶん、数えられません。
 今でさえ、ひとつひとつを挙げるほど、
 自分の拙い言葉では、他の誰かでも代わりがいるように聞こえてしまって。

 これを、あの人だけを慕う気持ちと受け取ってよいのか、
 言葉に置き換えるほどに、ずれてしまうようなのです。》


【絵里へ.txt】

 私は、園田海未は、
 あなたのことを、


《・・・だめです。

 そこから先の言葉を、書き出そうとしても、
 近づけば近づくほど、私の手はうごかなくなってしまって、》


  ◆  ◆  ◆


ことり「・・・・」

穂乃果「・・・・おいしく、ないね」

ことり「・・・海未ちゃん、明日には来れるかな」

穂乃果「熱を出しただけ、ってライン来てたけど」

ことり「見たよ。
    海未ちゃんって、ごまかそうとすると、文字数増えるんだよね」

穂乃果「あははっ。・・・うん」


ことり「きのう、何かあったのかなぁ・・・」

穂乃果「・・・絵里ちゃんは、変わんないみたいだったけど」

ことり「でも、今日って、昨日があれで、」

穂乃果「・・・・・私、絵里ちゃんのとこ行ってきていいかな」

ことり「それは・・・・」


ことり「・・・うん、やっぱり、海未ちゃんを待つしかないと思う」

穂乃果「・・・そっか」

ことり「・・・ごめんなさい」

穂乃果「・・・パン、おいしくない・・・」

ことり「・・・っ」


  ◆  ◆  ◆


【絵里へ.txt】

 私は、園田海未は、
あなたのことを、ずっとおしたいもうしあg意k-rt0ウ9yg0ウ9g54j
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えり、さようなら

わたしは、もう、あなたのことを、


  ◆  ◆  ◆


絵里「あら・・・一年生かしら? 私になにか用?
   部活会の方は、希に、」


絵里「・・・そう。じゃあ、少し静かな場所で話しましょうか」


絵里「・・・どう? この通用口から出たところ、
   向こうまでトンネルみたいになってるのよ」

絵里「ここはね、私もこの学校に三年間通ってて気づかなかったんだけど、
   後輩に教えてもらった穴場なのよ」

絵里「わらっちゃわない?
   この学校を取り仕切る生徒会長ともあろうものが、
   学校の事をまだまだ知らなかった、なんてね」

絵里「・・・抜け道や寄り道なんて、今までぜんぜんしてこなかったものね」

絵里「ごめんね、私の話なんて聞かせてしまって。
   それで、ええと・・・なにか、話があったんでしょう?」


絵里「・・・・そう。」

絵里「・・・ありがとう、私なんかのこと、そんな風に思ってくれて」

絵里「でも、・・・ごめんなさい。私はきっと、あなたの隣には、」



  「・・・っ!」



絵里(・・・って、あれ、今のもしかして、海未なんじゃ、・・・)

絵里「・・・待って、ねえっ、ちょっ・・・海未っ!」


  ◆  ◆  ◆


 書きかけのレポート用紙数枚を犠牲にして、私は静寂を手に入れました。
 布団の中から見上げる天井がやけに高く見えて、
 ああ、こんなだったっけと、
 自分の家の事でさえ知らなかったのに気づかされます。

 パソコンに残ったファイルは、熱が下がった頃に処分しようと思います。
 ごめんなさい。
 どうか、今だけは休ませてください。

 ・・・なのに、あの人は夢の中でさえ。

 熱にうかされた視界では夢と現実との境目もあいまいで、
 あの人がこちらを向いて笑ったのが、
 いつのことか、昨日の事か、数ヶ月前のことか、
 それともただの夢にすぎないのかも、よくわからないほどです。

 ですが、・・・残念ながら、

 この光景は、どれほど目をこすっても、醒めてくれないようです。



絵里「・・・起きた?」


海未「・・・帰ってください」

絵里「そんな、ひどいわ、せっかくお見舞いにハラダのラスk」

海未「いいから帰ってくださいっっ!!」


 思わずその手を、伸ばされた指先を、突き倒してしまいます。
 ああ、こんなことするつもりじゃなかったのに。
 一瞬触れた指先はまだ外気にさらされたままの温度で、
 その冷たさが、胸の奥まで響いてしまって。


海未「・・・お願いです。私は病気なんです。うつって、しまいます」

 そんな、私の稚拙な言い訳を、絵里は足も崩さずに静かに見つめていました。

 音の無い部屋では、自分の声がぐるぐると跳ね返って、
 うなされた頭の中で反響するたびに、目の奥が熱くなってしまうのです。


海未「・・・みないで、ください」

絵里「・・・ねえ、着替えたら?
   その、汗かいたでしょう、海未のお母さんに聞いたのよ、
   せめて身体を拭くくらいなら、」

 あの人に目を向けると、とたんに目をそらされます。
 こちらをちらちらと見ながら、ひざの上でこぶしを握り締めて。


海未「・・・おねがい、します・・・。」

 え、と少し驚いた表情で顔をあげました。
 私も、自分の口からすべり出た言葉とは思えなかったくらいです。
 でも、
 今だけは、
 それが許されるような気がしたのです。


  ◆  ◆  ◆


 それから絵里は、暖めたタオルを私の肩や背中にすべらせていきました。
 目を閉じて、絵里の手が動くのを感じていると、
 とても小さい頃に母や姉にそうしてもらったことを思い出し、
 あの頃の、裸のままの自分に返っていくような心地がしました。


海未「・・・っ! え、えり・・・」

 その時、背中ごしに絵里の腕がまわされます。
 息がつまってしまって、名前を呼ぶのも精一杯です。


絵里「・・・心配、したのよ・・・!」

 やさしい絵里は私の身体を抱き留めてそのようなことを言ってくれます。
 言葉とともに漏れた吐息まで首を伝って、
 もう、
 どうにかなってしまいそうでした。

 でも、それはきっと私の勘違いで、
 昨日の放課後あの一年生を袖にしたように、
 絵里の発する熱はきっと、私のそれとは別のもので、


絵里「・・・ごめんね、海未」

 その人は、顔を見せないまま、言葉を続けました。

絵里「・・・わからないの。
   私、自分のことが、どうして気になっちゃうんだろうって、
   わからない、だけど、

   いまここで海未をのがしてしまったら、
   もうずっと、
   離れてしまう気がするの・・・!」


海未「・・・・えり」


 ようやく振り向けた私のそばに、
 みっともない顔をして私に伸ばした腕をはずさないでいる、
 その人の姿がありました。


 ああ、鏡みたいだ。

 そう思ったとたん、心のひだがゆるんでしまって、


海未「・・・ぷふっ、ふふふっ」

絵里「え、ちょっ、・・・わらうって酷くない?」


 ごめんなさい、絵里。
 だけどもう、なんだかおかしくって。

 ああもう、なんでしょう、その時、確信してしまえたんです。
 言葉が見つからなくたって、
 見つからないことで伝わってしまえるんだって。


海未「・・・絵里。聞いてほしいことが、あるんです」

 うつむいていた絵里の顔が上がるまで待ってから、
 何度も繰り返しては消しては書き直した、
 その、最後に残った言葉を伝えました。


 私は、園田海未は、

  あなたのことを、 ずっと、


  ◆  ◆  ◆


【あいするあなたへ】

 綾瀬絵里 様


 突然このような手紙を出してしまってすみません。
 けれども、
 どうしても、あなたに受け取ってほしい気持ちがあるのです。


 私、園田海未は、
 絵里のことを、ずっとお慕いしておりました。

 あなたが後輩として、友人として慮る気持ちと、
 私のなかの熱病とが、同じものだとは思えません。

 それでも、あなたに、どうか受け取ってほしかったのです。
 あなたに触れただけで舞い上がってしまうこの気持ちを、
 時が葬ってしまう前に、
 絵里、あなたにかけがえのない想いを抱いてしまったということを。

 忘れてしまってかまいません。
 ただ、伝えさせてください。
 あなたのことを、誰よりも、いとおしく思っていたということを。


     園田海未


    こんなの隠してたの?
     ばーか


    いつまでも そばにいてね

      Eli


おわり。

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