黒潮「…久し振りやな、あんた」 (25)
気晴らしです
すぐに終わりますのですみません
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黒潮「…え~っと、その…うん!久し振りやな!」
男「お、おう。黒潮、なのか?」
黒潮「んもぉ、ウチはウチやで?正真正銘の黒潮や」
男「その…元気だったか?」
黒潮「ウチはいつでも元気いっぱいや!」
男「卒業以来だな…うん」
黒潮「せやせや、そうやったな。でもあんた、よくウチに気づいたな。ウチ、高校ん時とも違って髪伸ばしたし」
男「いやあ、何と無くだよ。つい、声をかけちゃったっつーか、うん」
黒潮「あっはは!あんたすごいなあ。ウチなん今だにウチの店で働いてるベテランバイト君の顔すら間違えてまうわ」
男「そうか。うん、なんか悪いな」
黒潮「かまへんかまへん!ウチも丁度退屈しとったとこなんや」
男「俺なんかと話してても退屈しのぎにもならないのにな、ハハッ」
黒潮「なーに言っとるんや、あんた高校の時からずっと面白かったやん」
男「あはは、そうだっけな…」
黒潮「せやせや!あんた面白かったでえ」
男「あんまり覚えてねえなあ。例えば?」
黒潮「嫌やなもぉとぼけちゃって、ウチが苦手だった化学教えてくれたやん!」
男「おお、確か教えたっけ、なんだなんだ?」
黒潮「何やったかなあ、複雑な何かやったような気もするんやが…忘れてしもたわ」
男「だめじゃねえか」
黒潮「あっはは!ホンマや、ダメダメやな!ハハハッ!」
黒潮「せやけどあんたがドヤ顔でこう言ってたのだけは覚えてるんや。『H(水素)が置き換わるのが置換だからHなことしたら痴漢で捕まるぞお』ってな」
男「うわあ、俺女の子になに言ってんだよ…おお、もう…」
黒潮「女の子?あっはは!面白いならなんでもええんや、それがウチのルールやからな」
男「いやあ、申し訳なかった」
黒潮「みんな大笑いしてたやん、面白かったでぇ」
男「そうだったか…そういや黒潮、タイムカプセルって埋めたの覚えてるか?」
黒潮「もちろん覚えてるで。卒業式の後やったか、みんなで書いた手紙を筒に入れて大楠の木の下に埋めたやん。センセも粋なことしはるで」
男「確か十五年経ったら掘り返すんだったよな」
黒潮「せやで。ん?待った待った、ウチ掘り返す頃にはオバさんになっとるやん!」
男「何いってんだ、女は三十過ぎてからが本番じゃんか。黒潮も絶対きれいになるぞ」
黒潮「冗談はよしてぇなもう…恥ずかしいやんか」
男「いや、俺は本気だぞ」
黒潮「何やそれ、プロポーズのつもりなんか?」
男「あー、いや、違う違う」
黒潮「もう、そこは突っ込む所やろ!修行が足りんなあ」
男「純粋なる関東人はお約束的な笑いでは無く、シュールな笑いを好むんだ、覚えとけ」
黒潮「これだからトーキョーもんは…」
男「しかし生粋の関西人がいるとなんかクラスの雰囲気も明るくなったよなあ…からかいがいもあったしな」
黒潮「んもぅ、ウチはおもちゃやないで?」
男「納豆食えないとか何とかかんとか俺も言ったけど、今になってみて悪い気もするんだよな」
黒潮「せやけど、ウチは嬉しかったで?」
男「うおい、いじめられて喜ぶタイプか?」
黒潮「違うわ!ったくもう、関西人はそういうネタに弱いんや」
男「おいおい、SMなんて最近は鉄板ネタだろ?修行が足りんなあ」
黒潮「ウチは苦手なの!」
男「はいはいそうですか以後気をつけます」
黒潮「んもお…」
男「それで、なんで嬉しかったんだ?」
黒潮「ウチもあの頃は関西から東京に越して来たばっかりでな?それはもう、不安で不安で仕方なかったんや」
男「違う国じゃあるまいし…」
黒潮「せやけどウチの友達は関西弁がうっかり人前で出ちゃって、なんやかんやでいじめられていたって話も聞いてな?とにかく不安だったんや」
男「ほうほう」
黒潮「ウチも普通の言葉を話そって頑張ったんやけど、無理やった」
男「まあガキの頃からそういう環境で育ったんだからしゃーないよな」
黒潮「せや、それで入学してからもなかなか自分からしゃべることが出来んかった」
男「きつかったろうに」
黒潮「ウチのことやからな」
男「黒潮の口チャックなんて湯婆婆も出来ないだろ」
黒潮「ウチはここで働きたいんやってか?せやな、フフッ」
黒潮「ところがウチやらかしちゃったんや。まあわかってた事やけどな」
男「出た、現代文が関西文事件」
黒潮「からかうなやもう…今はネタにしとるけどごっつ恥ずかしかったんやからな?」
男「サーセン」
黒潮「分かればええんや」
男「仰せの通りに」
黒潮「苦しゅうない」
男「ハハーッ黒潮様」
黒潮「ウチはクラス全員の前で流暢な関西弁で教科書を朗読してもうた。アカン、って思った時にはもう遅かったわ」
男「それで泣いちゃったんだな」
黒潮「せや、ウチもまだ乙女やったんやな。気が付いたら涙が出てたわ」
男「可愛かったな」
黒潮「言ってくれるなもう…」
黒潮「とにかくウチは嫌やった。けどあんたがネタにしてくれたおかげで何とか立ち直れたんや」
男「うんうん」
黒潮「現代文が関西文事件って命名もあんたやな確か」
男「うんにゃ、そうだったな」
黒潮「あんたがネタにしてくれたおかげでウチもウチをネタに出来たんや。やっとこみんなと話すことが出来たんはあんたのおかげなんよ?」
男「おお、そうか…おてんば娘黒潮ちゃん爆誕の瞬間だな」
黒潮「あんたはそうやっていつもはぐらかす…ありがとうな?」
男「どういたしまして」
黒潮「素直やな」
男「僕はいつも素直ですよ」
黒潮「うそつけ、もう…」
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黒潮「しっかし、こうやってあんたと話してると昔思い出すなあ」
男「うん、明らかに高校時代だよなこのノリ」
黒潮「本当や。懐かしいなあ」
男「ところで、同窓会はタイムカプセルを開く時に第一回を開催するんだっけな」
黒潮「なんや唐突に」
男「いや、次黒潮と会うのは7年後なんだなあと思うとね?」
黒潮「またまた、ウチは今東京住みなんやしいつでも会えるやん」
男「そうだったか…そうだな」
黒潮「どうしたんやあんた、やけに歯切れが悪いやんか」
男「いや、黒潮といつでも会える喜びを噛み締めてましてね?」
黒潮「ウチはいつでも空いてる訳やないで?」
男「ええ~ひどいなあ」
黒潮「……ま、気が向いたらまた会ったるわ」
男「ふんだ、いつでも会えると思うなよ?」
黒潮「その言葉そっくりあんたに返したるわ」
男「おっとと、ブーメランでしたか」
黒潮「せやったら、メルアドでも交換しとくか?」
男「最近はSNSとかあるじゃんか」
黒潮「ウチは中学の時からガラケーや」
男「スマホ、便利だぞ~」
黒潮「嫌やわ、目がチカチカしてかなわん」
男「じゃあ交換しますか」
黒潮「不便やなあ!最近のケータイは赤外線通信も出来へんのか?」
男「iPhoneだからね、しかたないね」
黒潮「……よし、交換完了やな!」
男「これでいつでも黒潮ちゃんと…」
黒潮「やめーや、気色悪い」
男「ぶうー」
黒潮「大の大人がブータれてるんやないよ、もう」
男「三つ子の魂百までって奴だね」
黒潮「赤子の間違いや」
男「こりゃ失敬」
男「んじゃあ、またな」
黒潮「うん!また会おうな?今度ウチの店にも来てくれたら嬉しいんやけどな」
男「おうよ行ってやるよ、サービスしてくれよな」
黒潮「調子良いこと言うて…」
男「まあまあ、落ち着いて、それではごきげんよう」
黒潮「また会おうな?約束やからな?」
男「おう!」
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黒潮「…………アホ……」
黒潮「んでもようやくメルアドゲットや!まずはスタートラインってところやな」
黒潮「卒業式の日にウチあんたのこと好きやったって言ったのにあいつはいつもの調子ではぐらかしよって…滲んで見えた夕焼けが綺麗やったな…」
黒潮「でもやっと会えたんや…ラッキーやなホンマ…よっしゃ、ウチ、頑張るで!」
常連客「何だ、黒潮ちゃんやけに嬉しそうだねえ、良いことでもあったのかい?」
黒潮「せや!とびっきりの良い事があったんや!あっ、すみません!」
常連客「うんうん、『良い事』ってのはなかなか巡り会えるもんじゃ無いぞ?大切にするんじゃ…うんうん、若いってのはいいもんじゃな」
黒潮「はい!」
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男「ふう…荷物は大体まとまったな…少なくて楽だなこりゃ」
男「それにしても人生何があるかわからんもんだな…まさか無一文着の身着のままになっちまうとは」
男「就活に失敗して3年…まあ派遣にしちゃ持ったかなあ…」
男「最後に黒潮に挨拶でも…ああ、携帯も使えなくなってんな…クソったれ」
男「今更孤児院に転がり込む訳にもいかんか…とりあえずガキ共と先生に挨拶はしてくか」
男「北海道かあ…寒そうだな」
以上でおしまいです
ウエイトレス姿の黒潮ちゃんにビビっと来て書きました
カフェ黒潮、一号店は梅田、二号店は神田にあるよ!ぜひ来てね!
最後に
黒潮ちゃんと夕暮れの教室で日直当番の仕事を一緒にこなしたかった。
ウチが言わなきゃあんたいつもサボって帰るやんかと叱られながら黒板消しを窓辺でパンパンしたかった。
粉飛ばすのやめてぇな、むせるわって言われてもわざと続けたかった。
そしてそのあと一緒に帰りたかった。電車乗り遅れるでって言われながら学校近くの肉屋さんで黒潮にコロッケを奢りたかった。
結局電車に乗り遅れてしまい、ほなみて見い、遅れてもうたと愚痴られながらも半分日も暮れた薄暗い駅の待合室で二人っきりで三十分先の電車を待ちたかった。
先に黒潮が乗る電車が来て、ウチは帰るでもう、って冷たく突き放されたかった。だけども最後にコロッケ、ありがとな?って小声で恥ずかしそうに言われたかった。
見苦しい妄想に付き合わせてしまい、大変失礼しました
では
このSSまとめへのコメント
こういうのはなんか死にたくなってくるな