佐久間まゆ「花火は今日も上がらない」 (9)

 私のプロデューサーさんの地元が花火で有名だと知ったのはつい最近のこと。

 早苗さんと椿さんと同じ県の出身だと知ったのは、ほかの人の言葉によるものだった。

 僅かなキーワードを手に私は彼の出身地を調べ続ける。

 春もすっきりと過ぎ去り、事務所に暖かい風が吹き抜けるさなかにも私はスマートフォンを弄る。



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「まゆ」

 ソファに腰掛けてスマートフォンに熱中していた私はその言葉にびくりと肩をはねさせる。

 次いでくしゃくしゃと私の私の髪を乱暴にかき回す。

 髪を乱されるのは嫌いだが、彼の手の感触はそれを補って余りある暖かさを持っている。
 
 たまらず目を細めて私は彼の手におぼれていた。

「まゆ。これから長期間の地方ツアーだ。覚悟はできているね?」

「ええ。まゆはいつでも大丈夫です」

 熱っぽく魘されたように私は彼の手を取り自らの頬に寄せる。

「新潟、か。こんな季節に妙なもんだ」

 ぽつりと彼がつぶやいた。

 無機質なラジオは無作為に曲を吐き出す。

 耳障りな音楽も、耳触りのいい音楽も私の脳を犯す。

「俺はこの曲、好きだな」

 彼は鼓膜が破れるほどの喧しい曲――たしかマイケミカルなんとか、といった――を好きなようだ。
 
 それが曲名なのかアーティスト名なのかすら私にはわからない。

 ラジオから曲が流れる。

 日本語の、女性の曲だ。

 そのメロディーが私を惹きつけた。

 まるで胴体を無理やり握りしめられた様な不思議な感覚だった。

「夏の星座にぶら下がって 上から花火を見下ろして」

 ラジオから流れる曲は私の心を犯してゆく

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