千早「嵐の後には凪がくる」 (39)
「ねえ、真美」
「……なに?」
「い……、いえ。何でもない……」
「そう。真美さ。今忙しいから、千早お姉ちゃん、邪魔しないでくれる?」
「え、ええ……」
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まただ、また、真美に冷たくされてしまった。
私は真美に背を向けてとぼとぼと事務所を後にする。
こうなったのもきっと、全て私の所為なんだ。
私があの時、もっとしっかりしていれば。
―――
――
―
「千早、真美。二人とも喜べ!ユニット結成が決まったぞ!」
私たち二人は、プロデューサーに呼び出されて会議室に向かうと、テンションの高いプロデューサーにユニットを組む事を告げられた。
駆け出しアイドルの私たち二人でユニットを組んで、トップアイドルを目指すそうだ。
真美は双子の妹、亜美の陰に隠れないように、私は私に欠けているアイドルらしさを補う為に。
それぞれの弱点を補えるようなユニットを組めば、きっと事務所のみんなにも負けないコンビネーションを発揮出来るだろう。
そう、プロデューサーは考えたそうだ。
「これからよろしく、真美」
「うん!千早お姉ちゃんと二人なら、百円引きっしょ!」
「……ぷっ、ふふふふっ!ま、まみっ、百人力で、くくっ、うふふっ」
「ツボりすぎだよ!」
とにかく。私たちのコンビネーションなら、きっと頂点を目指せる。
……そう、思っていた。
けど、現実は。
『765プロの新プロジェクト、失敗か!?』
『伸び悩む原因は双海真美の実力不足』
『如月千早の独りよがりユニット』
あることないことを週刊誌に囃し立てられ、私たちは自信を失い、オーディションにも落ち。
とにかく、悪循環だった。
真美が実力不足なわけがない。一緒にレッスンをしている私がそれを一番よく知っている。
ならば、私が今以上に周りを見る余裕を持てばいい。
そう思って丁寧に真美のレッスンに付き合っていたんだけど、それがかえってストレスになっていたのだろう。
汚名返上を賭けて挑んだオーディションに落ちて、ついに真美は爆発した。
結果を知るや否や、控え室で私の胸ぐらを掴んできたのだ。
「ほんとは憐れんでるんでしょ!?真美のこと!!」
「そんなわけない!」
「レッスンも真美の事ばっかで!!ホントは真美が足引っ張ってるって思ってるんでしょ!?」
「違う、違うの!私がもっと貴方を生かせるようにって……」
「ほらやっぱり足手まといって思ってるんじゃん!もういい!!真美、千早お姉ちゃんと一緒にアイドルするのやだ!!」
目に涙を溜めた真美が控え室を出ていき、私は一人取り残された。
……私の、わたしのせいだ。
―
――
―――
その日以来、真美に話しかけてもさっきみたいに返されるのが常で、私もかなり気が滅入っていた。
ユニットは休止状態、真美は黙々とレッスンをして帰るだけ。
きっと一人でもやっていけるように、と言う事だろう。
私は事務所の近くにある公園に入って、缶コーヒーを買ってベンチに座る。
甘い缶コーヒーに口付けて、冬の空をぼーっと眺める。
私は何をしているんだろう。
私のせいで真美は……。
「隣、いい?」
「はる……か?」
春香は私の隣に腰掛けて、紅茶のペットボトルの蓋を開ける。
「寒いね、千早ちゃん」
「そう、ね」
私たちは飲み物を手に持ちながら、暫く黙り込む。
「ねえ、千早ちゃん?」
「どうしたの、春香」
「真美と仲直り、したい?」
「えっ……?」
「真美の事、見限ったりしてない?」
「そ、そんな事はない……私は、真美と一緒じゃないと、嫌」
「そっか。ふふ。妬けちゃうな。真美もさ、こうやって一人で空を眺めてたんだよ」
「真美も?」
「うん。私になんて言ったと思う?」
「いえ、分からないわ……」
「仲直りしたい、千早ちゃんに謝りたいって。八つ当たりしたことを」
「八つ当たり?いえ、あれは私が不甲斐ないせいで……」
自分の力不足が真美を苦しめている。それを思い出して、私は言葉を詰まらせて俯く。
春香が何も言わずに私の背中をさすってくれた。
萩原さんじゃないけど、私はなんてだめだめなんだろう。
色々な思いがこみ上げてきて、地面に一つ染みを作る。
「千早お姉ちゃんは、不甲斐なくない!!」
振り返ると、隣でよく聞いていたあの声。
「真美……」
「ごめんなさい、ごめんなさい!!」
真美は、私に縋り付いて泣き始める。
縋り付く真美を、私は優しく撫でてあげる。
「私こそ、ごめんなさい……」
「千早お姉ちゃんは悪くない、真美が、真美が……!」
「……あーあー、えーと。イチャイチャするのも良いけど私の事、忘れてないかな?」
ハッと顔をあげると、ちょっとむくれた春香がいた。
「まぁ、私が手助けする必要がなくて、良かった……かな?」
そう言って春香は微笑んで、お邪魔虫は退散しまーす、と言って事務所に戻っていった。
改めて真美が隣に座って、ぽつりぽつりと話し始める。
「その……真美もさ、千早お姉ちゃんが伸び伸び歌えるように、サポート出来るように、頑張ってたんだ」
「ええ……私も、真美が伸び伸び出来るようにって、サポートに徹していたのよ……」
「だから、その。ごめんね、千早お姉ちゃん。ちゃんと、話せば良かったね」
「そう、そうね。私も、真美にちゃんと話せば良かった」
「うん……ごめんね。ごめんね……!」
・
・
・
後日。正式に活動を再開した私たちは、まずは小さなローカルテレビのオーディションを受けに来ていた。
「真美。自由にやっていいからね。私が後ろに居るから」
「千早お姉ちゃんも、好き勝手やってて良いんだからね?」
「ふふ、そうね。真美、頑張りましょう」
自分の長所を出し合うのが私たちのコンビネーションだ。
長所を出し合うことがサポートになる、そう知っている私たちは、きっと、もう大丈夫。
このオーディションは絶対に合格する。そう私たちは信じている。
そして、結果は……。
「真美!やったわ!!」
「やったね!初めて合格したよぉ!」
「ふふふっ、でも、これからがスタートよ」
「うん。でもね千早お姉ちゃん!」
「なに?」
「今は、喜ぼうよ!!真美達の初めての合格だもん!!」
「そう、そうね!ふふふ、真美、おめでとう!」
「千早お姉ちゃん、おめでとう!」
ひとしきり喜んで、初めてのテレビ出演の打ち合わせに向かう。
初めての打ち合わせは、凄く緊張した。
ディレクターの人の言っている事が中々飲み込めなくて、プロデューサーにちょっと怒られたりもしたけど。
でも、私たちのユニットは……そう。ここからが再スタートなのだ!
「如月千早さん、双海真美さん!スタンバイお願いします!」
「さあ、行きましょう!」
「うん!」
私たち二人は、手を繋いで、駆けだした。
おわり
http://www.nicovideo.jp/watch/sm25257328
以前ニコマス用に書き下ろした作品を投下しました。
ちはまみはよい
見てくれてありがとう
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