提督「怜悧盲目」 (520)
キャラ崩壊注意。
ヤンデレ注意。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419860339
提督「『提督とその秘書艦が重体、凶行に及んだ艦娘は仲間からの攻撃を受け同じく重体……』」
提督「…………最近こういうニュースが増えたな」
時雨「そうだね。『ケッコンカッコカリ』の制度が出来てから劇的に増えた気がするよ」
提督「愛と憎しみは表裏一体とは言うけど、それが結果的に流血沙汰になるんだから恐ろしいな」
提督「……俺も気を付けないと」
時雨「ふふっ、提督は気にする必要無いと思うよ?」
時雨「僕達は『絶対』に、提督に危害を加えたりしないからね」
提督「………………」
時雨「そもそも僕にはこういった事をする艦娘達の気持ちが全く分からないよ」
時雨「『自分が愛してるから相手にも愛してもらいたい』ってのは愛なんかじゃない」
時雨「だって『愛は無償』だろう? 他の子と結ばれたなら、提督がそれで幸せになるなら、祝福するのが当然じゃないか」
提督「……そ、そうだな」
提督「…………ちなみに時雨はその場合諦めるの?」
時雨「どうして諦めるのさ? 誰かを愛するのは自由なのに」
提督「……すまん、変な事聞いたな」
時雨「変な提督、ふふっ」
時雨「────それじゃあ僕はそろそろ仕事に戻るよ」
時雨「また後でね、提督」
提督「ああ、また後でな」
提督「…………なぁ時雨」
時雨「んっ、何だい?」
提督「さっき『提督がそれで幸せになるなら』って言ってたけど、幸せになりそうもない場合はどうするんだ?」
時雨「………………」
提督「……その、何だ? 危険なことをしたりは……」
時雨「……ふふっ」
時雨「大丈夫、提督は『絶対』に幸せになるから」
提督「………………」
提督(……うちの艦娘は全部で六名)
提督(コツコツ貯めてきた指輪と書類は四組)
提督(不公平になったりしないよう全員分揃ってから渡そうと思ってたけど……)
提督(最近はこれが何かへのカウントダウンのように思えてならない)
提督(揃った瞬間、取り返しの付かないようなことになったり…………しないよな?)
提督(……………………)
提督「……気にしすぎか」
提督(何とかなるだろ、きっと。うん)
時雨「────うん、四つに増えてたよ」
時雨「あと二つ……」
時雨「ふふっ、楽しみだね♪」
短いですが今回の投下は終了です。
出てくる艦娘は決定してます。
流血展開などはありません。
それではまた。
以前朧のss書いた?
>>10
いいえ、違います。
今までに書いたのは
艦これショートショート
艦これショートショート改
艦娘との一年
艦娘との一年 改
提督「戦いが終わり……」
提督「甘えん坊」
艦これインプレッション!
などです。
──────────────────
────────────────
──────────────
『────状況を報告しろ』
「……小破2、中破3────」
「────大破……1、です」
『……そうか』
『それならば直ちに撤退しろ』
「……了解しました」
「…………だってさ。皆、戻ろう」
「ア、アンタ……どうして嘘を……」
「……仕方ないよ」
「このまま進撃しても勝てる可能性は限りなく低い。でも誰かが沈む可能性は大いにある」
「ここに居る誰一人として、こんなところで死ぬべきじゃないからね」
「……戻ったって、待ってるのは死ぬのと同じくらいの地獄だけよ」
「ははっ、それでも生きていればきっとどうにかなるさ」
「……バレるわ、絶対」
「バレないさ」
「────僕は嘘は吐いていないからね」
「────────っ!?」
(────戦艦・空母などの主戦力となる艦娘はともかく、僕達駆逐艦娘の扱いは大抵が酷い)
(大破進撃は当たり前だし、補給を一切せずに壁役に徹せられることもある)
(もちろんドック入りもさせてもらえないから身体はボロボロで、装備なんて壊れてしまいそうなほどに傷んでいる)
(そんな状況に、心まで病んでしまう艦娘も少なくないらしい)
(……その子達に比べれば、僕達の提督の対応はずっとマシだ)
(大破していれば撤退させてもらえる)
(燃料や弾薬が空なら補給させてもらえる)
(たまにドックにも入れてもらえるし、この前なんて頑張ったご褒美として装備を新調してくれた)
(……ここは安全だ)
(ここに居る限り、沈むことはない)
(ここに居れば生きていられる)
(そして生きていればきっと────)
「駆逐艦時雨、君に異動を命じる」
「………………えっ……?」
「君は今までよく働いてくれたが、ここ最近の大破率は流石に目に余る」
「少し前から艦娘一名を寄越して欲しいという通達が本部から来ていた。新人の初期艦に当てるつもりなのだろう」
「急な話で済まないが納得してくれ。これは命令だ」
「…………いつ、ですか?」
「……私もギリギリまで迷っていたからな。期限は明日までの話になっている」
「ドック入りさせている時間は無い。車は手配しているからこのまま本部に向かってくれ」
「なに、大破しているとはいえすぐさま出撃させられるということは無いだろう。ドック入りは新しい提督に頼めばいい」
「………………」
(──────大丈夫)
(今ここで、死ぬわけじゃない)
(まだ生きれるはずだ。諦めなければきっと……)
「────返事は?」
「────分かり、ました」
「聞き分けが良くて助かる」
「………………提督」
「何だ?」
「……今まで、お世話になりました」
「ああ、君の健闘を祈るよ」
(────こんなところで死にたくない)
(どんな手を使ってでも生き残るんだ)
(────じゃないと)
(じゃないと僕は────)
「提督、初めまし────」
「────け、怪我っ?! え、ちょ、何でっ?!」
「……あ、あの────」
「と、とにかくドックに! 話それから!」
──────────────
────────────────
──────────────────
提督「……んっ」
時雨「おはよう提督」
時雨「よく眠れたかい?」
提督「…………また潜り込んだのか」
時雨「昨日は僕一人だったから……ごめんね?」
提督「……そういえば夕立は遠征だったな」
時雨「……迷惑だったかな」
提督「……いや、別に構わない」
提督「このくらいなら可愛いもんだ」
時雨「……えへへっ♪」
提督(こんなに引っ付いてきて……時雨は可愛い奴だなー)
提督「今日はやけに上機嫌だがどうかしたか?」
時雨「ふふっ。実はね、懐かしい夢を見たんだ」
時雨(辛くて、悲しくて、苦しい夢)
時雨(……でもそのおかげで、今の幸せがより実感できる)
提督「ふーん……」
提督(最近夢なんか見てないな……)
提督「……時間もまだだし、二度寝でもするか? もしかしたら夢の続きが見れるかもしれないぞ?」
時雨「うーん……。良い案だけど、僕は起きるよ」
時雨「今日の朝ご飯の当番は僕だからね」
提督「そうか……」
提督「朝食、楽しみにしてるからな」
時雨「うん、腕によりをかけて作るから楽しみにしててね♪」
投下終了。
それではまた。
──────────────────
──────────────────
提督「────いただきます」
提督(…………さて、と)
提督(珍しいことに今日は暇だな)
提督(出撃も遠征も演習も無いなんて、いつ以来だ? ここ数ヶ月は一度も無かったぞ?)
提督(うーん……)
提督(少し休む時間が欲しいとは常々思っていたけど、いざ暇になるとやることがない)
提督(……指輪を貰うための戦果でも稼ぐか?)
提督(それとも艦隊内部での模擬演習を組むか?)
提督(………………)
提督(結局考えるのは仕事のことばっかり……か)
提督「まったく……どうしたもんかなぁ……?」
提督(ん……この煮物美味いな……)
提督(時雨の奴、また腕を上げたな?)
夕立「────提督さん? どうかしたの?」
提督「────おお、夕立か。おはよう」
夕立「おはようっぽい!」
夕立「……隣、大丈夫っぽい? 何だか考えてたみたいだけど……」
提督「もちろん構わないぞ」
提督「考えてたのは大したことないことだから気にしなくていい」
夕立「ほんとっ!?」
夕立「それじゃあ失礼するっぽい!」
夕立「えへへ……♪」
提督「育ち盛りだからなー。たくさん食べろよ?」
夕立「ぽいっ!」
夕立「────いっただきまーす♪」
提督(夕立はいつも元気だな……。見てるこっちが元気になるくらいだ)
提督(……初めの頃に比べるとずいぶん明るくなってくれたみたいで嬉しいよ)
提督(初めて会った頃はなぁ……)
夕立「────ぽい?」
夕立「提督さん、なぁに?」
提督「……何でもない」
提督「そんなことよりほら、ほっぺにご飯粒付いてるぞー?」
夕立「……えへへ♪」
提督「……っと。よし、取れた」
提督「……どうした? やけに嬉しそうだな?」
夕立「何だか懐かしいっぽい!」
提督「……懐かしい? 何がだ?」
夕立「えっと、喋り方っていうか何て言うか……」
夕立「最近の提督さんは言葉が堅かったから……」
提督「………………」
提督「そんなことはない。俺はいつだって柔らかく接しているつもりだ」
夕立「それ! むず痒いから辞めて欲しいっぽい!」
提督「ははっ、ごめんごめん」
夕立「もぅ……!」
提督(口調、ね……)
提督(最近は本部に出向くことが多くて肩肘張ってることが多かったからな)
提督(そうか……気付かない内に堅くなってたのか……)
提督(…………うん)
提督(たまには息抜きにのんびりするのも良いかもしれないな)
夕立「そういえば提督さん、今日はどんな感じっぽい?」
提督「今日か?」
提督「……喜べ夕立。今日はお仕事無しだ」
夕立「……お仕事、無いの?」
提督「ああ、無い。……嬉しくないのか?」
夕立「むぅー……何だか複雑っぽい……」
夕立「久し振りの秘書艦だったから、気合い入れてたのにー……」
夕立「これじゃやること無いっぽいー……」
提督「そうか、夕立も暇か。実は俺もなんだ」
提督「────そこで、だ。夕立が良ければなんだが……」
夕立「ぽい?」
提督「──────」
提督「俺と一緒に、町に出かけないか?」
夕立『────ということでデートに行ってきまーす♪』
『行ってらっしゃい。提督に迷惑かけちゃ駄目だよ?』
『おう、お土産よろしくなー』
『正直羨ましいぞちくしょう! でも楽しんでこいよ!』
『ついでにお買い物もお願いして良いかしら?』
『鎮守府の事は私達に任せろ』
夕立『えへへ、楽しんでくるっぽい♪』
夕立(えっと、服は……こっちの方が良いっぽい?)
夕立(……でもこっちだと子供っぽい?)
夕立(むぅぅー…………)
夕立(……えへへ♪)
夕立(────ぽいっ♪)
投下終了です。
皆様明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
それではまた。
──────────────────
──────────────────
提督「────ここに来るのも久し振りだなー」
夕立「……ぽい?」
夕立「提督さんはこの商店街に来たことがあるっぽい?」
提督「まぁな」
提督「今じゃ生活に必要な物の大抵は鎮守府に直接届けられてるけど、昔は食べ物も雑貨も不足する度にここに買いに来てたんだ」
夕立「へぇー、知らなかったっぽい!」
夕立「夕立、結構早く提督さんの所に来たんだけどなぁ……」
提督「買いに来てたのはまだ時雨と二人きりだった頃……えーと、夕立が来る一カ月前くらいまでだったはずだ」
夕立「むぅー……それまでは時雨と二人で?」
提督「俺は一人でも大丈夫って言ったんだけど、時雨がどうしてもって言うからさ。……助かってたのは事実だけど」
夕立「………………」
夕立「…………時雨は狡いね」
提督「んー? 夕立何か言ったか?」
夕立「ううん、何でも無いっぽい!」
夕立「────あっ、提督さん見て見て! 限定ケーキっぽい!」
提督「おおっ、お土産に丁度良いじゃないか」
夕立「夕立、ちょっと買ってくるっぽい! 提督さん、待っててね!」
提督「────あっ、おい!」
提督(…………行っちゃったか)
提督(仕方ない、店の外で待とう)
提督「……ふぅー」
提督(普段は身体を動かすことなんてないからな……。ベンチがあって助かった……)
提督「……あっ、あそこの店もう閉めたのか」
提督(時雨と一緒に来てた頃はまだ営業してたのにな……)
提督(ほんの二年くらい前のことなのに、これも不況ってやつなのかね?)
提督(…………やめよ)
提督(まだ二十後半に入ったばっかりなのに、昔を偲ぶなんてジジ臭い)
提督「でも、二年か…………」
提督「何だかもういろいろと懐かしいよなぁ……」
「────何が懐かしいって?」
──────────────────
──────────────────
夕立「むむむ……!」
夕立(ショートとチョコ…………迷うっぽい!)
夕立(提督さんの分も合わせて七個買わないといけないから…………三と四?)
夕立(……でももしかしたらショートを食べたい人の方が多いかもしれないし、喧嘩になったら嫌だから片方に絞った方が良いかも?)
夕立(ショート……チョコ……)
夕立(…………うううぅっ! どっちも美味しそうっぽい! 決められないっぽい!)
夕立「────あっ」
夕立(こういう時は提督さんに決めてもらったら良いっぽい!)
夕立(提督さんのことだから、多分外に居るっぽい! さっそく────)
夕立「──────────」
夕立(……あれ? …………誰、あの女の人?)
──────────────────
──────────────────
「──────時間を取ってしまってすまない」
提督「いや、俺も楽しい時間が過ごせたよ」
提督「またどこかで会うことがあったらよろしくな」
「こちらこそよろしく頼む。────それじゃあまた」
提督「おう、またなー……」
提督「……やっぱり皆苦労してるんだな。俺だけじゃないのは当然か」
夕立「────提督さん、ただいま!」
提督「────っと。おかえり、夕立」
提督「ケーキは買えたか?」
夕立「二つあって決められなかったっぽい!」
提督「そうか、じゃあ俺も一緒に選ぼうか?」
夕立「うん!」
夕立「…………ところで提督さん、さっきの人は誰?」
提督「ん、見てたのか?」
提督「……あー、もしかして会話が終わるのを待っててくれたのか? 気を遣わせたみたいで悪いな」
夕立「夕立は大丈夫っぽい!」
夕立「それより、あの人は誰?」
提督「ははっ、夕立には関係無い人だよ」
提督「女なのに口調がどうも男勝りでな。昔からそうだったんだけど、提督として働くようになってから更に拍車がかかったみたいで────」
夕立「提督さん」
夕立「あの女の人は、だぁれ?」
提督(……やけに積極的だな)
提督(笑顔なのに、何だか怖いぞ……)
提督(…………まぁ別に隠すものでもないし、良いか)
提督「えーと、だな……」
提督「あいつは俺が居た、提督になるための教養を学ぶ場所────いわゆる養成所の同期だよ」
提督「さっきは世間話をしてたんだ」
提督「それでたまたまこっちに用があって来たらしいけど、夜にはもう帰るんだとさ」
夕立「ふーん……」
提督「な? だから言ったろ? 夕立には関係無い人だって」
夕立「…………うん、分かった」
夕立「────『大丈夫』っぽい!」
提督「ああ、知らなくても大丈夫だよ。よっぽどのことが無い限り、もう会うことも無いだろうしな」
提督(あいつの勤務地、遠いからなぁ……)
夕立「……ふふっ♪」
夕立「提督さん、早くケーキ買って帰ろ?」
提督「……そういえばそうだったな」
提督「さっさと買って帰るか……」
夕立「ぽいっ♪」
夕立(一応時雨に連絡しておかないと……)
投下終了。
それではまた。
提督「…………んんっ、……けほっ」
提督(……頭が……頭の中が、ぐらぐらする……)
提督(季節外れの風邪なんて笑えないぞ……。今は大事な時期だっていうのに……)
提督(…………くそっ)
提督(アレか? 疲れてたのに徹夜したのがトドメになったのか?)
提督(それともこの前の夕立とのお出かけでどこかから菌をもらってきたのか?)
提督(…………どちらにせよ、悪いのは体調管理が出来ていなかった俺のせいか)
提督(……………………)
提督「……今日の、予定……は……」
提督(出撃、は各々の判断に任せられる海域に変えて……)
提督(遠征は……キャンセルするか。その分を出撃に当てよう。万が一のことがあったら困る)
提督(……演習に関しては問題ないな。いつも通り時雨に一任だ)
提督(……他には無い…………よな?)
提督(………………よしっ)
提督「後はこれを、誰かに言っておかないと……!」
摩耶「────提督、入るぞー?」
摩耶「…………って、おい」
摩耶「何で病人がベッドから抜け出してんだよ」
提督「いや、その……今日の予定の変更について……」
摩耶「はぁ?」
摩耶「そんなのいちいち言われなくても大体分かるから平気だって」
摩耶「それよりほら、さっさと寝る!」
提督「す、すまん……」
摩耶「…………それとこれ。体調悪いのは分かるけど、食っとかないと治るもんも治らないぜ?」
提督「……助かるよ」
摩耶「いいって、別にこれくらい」
提督「どれどれ……?」
提督(……お粥、か)
提督(これなら何とか食べれそうだな)
提督(…………それにしても妙に『赤い』)
提督(……まぁ梅干しが三つも四つも入っていれば当然か)
提督「……摩耶が、作ってくれたのか?」
摩耶「……おう」
摩耶「梅干しは体に良いって聞いたことがあるからさ、一杯入れてみたんだけど……」
摩耶「……流石に多かったか?」
提督「いや、大丈夫だよ」
提督「熱で舌が馬鹿になってるかもしれないしさ。このくらいが丁度いいと思う」
摩耶「………………」
摩耶「おい、それ遠回しにアタシのこと馬鹿にしてないか?」
提督「……滅相もない」
摩耶「────ちっ、クソが!」
摩耶「治ったら覚えてろよな!」
提督「……ふふっ」
摩耶「……何で笑ってんだよ」
提督「いや、優しい摩耶っていうのが珍しくてな」
提督「いつもみたいに強く当たってこないのか?」
摩耶「……ふんっ」
摩耶「……病人に無理させるわけないだろ」
提督「……ん、摩耶? 何か言ったか?」
摩耶「あ? 何でもないぜ?」
摩耶「────つーか早く食って寝ろ! さっさと治せ!」
提督「……その通りだな」
摩耶「────じゃ、アタシはそろそろ戻るぞ」
摩耶「食器はその辺に置いとけ。後で下げとくから」
提督「……何から何まですまんな、摩耶」
摩耶「そう思うなら早く治す努力をしろよな」
提督「ははっ、頑張るよ」
摩耶「…………あと、あれだ」
提督「……ん?」
摩耶「……その、こ、言葉が違うんじゃねえか?」
提督「──────ああ、そうだな」
提督「ありがとう、摩耶」
摩耶「…………おう」
時雨「混ぜるなんて、随分綱渡りなことをするんだね」
摩耶「平気だって。提督の気付かないラインは分かってるからな」
時雨「ふふっ、それもそうか」
時雨「……それで、どうだい? やってみた感想は?」
摩耶「…………」
時雨「摩耶?」
摩耶「……すっげえドキドキして、提督が食べる前に出て来ちまった」
摩耶「多分今頃は食べてんだよな? うわー、マジか……!」
時雨「……摩耶ってば変なところで初心なんだね」
投下終了。
それではまた。
何だか凄い誤解を生んでるようなので。
気付かないライン→量的な意味
です。皆さんが考えているようなものは考えてもいませんでした。描写不足で申し訳ないです。
それではまた。
──────────────────
──────────────────
天龍「──────ただいまー……っと」
時雨「おかえり、天龍」
夕立「天龍、出撃お疲れ様っぽい!」
夕立「今日はどうだったの?」
天龍「あ? オレが負けるわけねえだろ? いつもと同じだ。勝ってきたよ」
天龍「それより、だ」
天龍「提督はどうした? まだ寝てんのか?」
時雨「お昼頃に一回起きてきたんだけどね」
夕立「またすぐに戻っちゃったっぽい?」
天龍「そうか。そりゃ残念だな」
時雨「でももしかしたら起きてるかもしれないよ? 部屋に行ってみたらどうかな?」
夕立「もし行くなら夕立も着いて行きたいっぽい!」
天龍「あー、オレはパス」
天龍「つーか夕立も提督が風邪の時くらい遠慮しとけ」
天龍「今は休ませてやるのが一番だろ?」
夕立「むぅ……」
天龍「な?」
夕立「……今回は我慢するっぽい」
天龍「よしっ! 夕立は良い子だなー」
天龍「ご褒美に撫でてやる」
夕立「えへへー♪ 褒めて褒めてー♪」
時雨「ふふっ、相変わらず天龍は提督思いだね」
時雨「本人の前でもそうやって素直でいたらいいのに」
天龍「んー、素直になったらそれはそれでやばいって自分でも分かるからなぁ……」
天龍「…………いいのか、奪っても?」
夕立「……天龍」
時雨「……僕は構わないよ?」
天龍「────へっ、冗談だよ、冗談」
天龍「龍田も怒るだろうしな」
夕立「……からかうのは止めて欲しいっぽいー……」
夕立「……天龍のいじわる」
天龍「悪い悪い。一人占めしようだなんて思ってないから安心しろ。な?」
夕立「……うん」
天龍「……分かってくれて何よりだ」
天龍「────さて、と。時雨、小腹減ったんだけど、何か無いか?」
時雨「ん、ちょっと待ってて。簡単なの作るから」
天龍「おう、頼んだ」
夕立「……手伝うっぽい?」
時雨「……それじゃあお願いしようかな?」
夕立「────ぽいっ!」
夕立「ごっはん、ごっはんー♪」
時雨「何が残ってたっけ……?」
時雨「────────」
夕立「────────」
天龍「………………」
天龍(……しねえよ。『一人占め』はな)
投下終了。
それではまた。
龍田「────ただいまぁ……」
龍田「……あら? 摩耶が居るなんて珍しい……」
摩耶「おう、邪魔してるぜ」
龍田「ふふっ、ゆっくりしていってね♪」
龍田「……ところで天龍ちゃんは?」
摩耶「あー、天龍なら時雨に呼ばれて出て行ったぞ?」
摩耶「────っていうか『オレの部屋でテレビ見ようぜ!』なんて言うから着いてきたのに、当の本人が部屋から出てくってどうなんだ?」
龍田「あはは……天龍ちゃんらしいというか……」
龍田「……ごめんね?」
摩耶「謝らなくていいぜ。怒ってる訳じゃないしな」
摩耶「────で、龍田は何でこんなに遅くなったんだ?」
摩耶「天龍からは報告書作ってるって聞いたけど……それにしても時間かかり過ぎだよな?」
龍田「うん、その通りなんだけど……」
龍田「実は部屋に戻る途中で提督に会っちゃって、ついさっきまで提督の部屋でお喋りしていたの」
摩耶「へぇー、提督に会ったのか……」
摩耶「ずっと寝っぱなしだと思ってたんだけどなー」
龍田「私もそう思ってたんだけど、丁度提督はトイレから戻る途中だったみたいで……」
摩耶「…………その流れで部屋まで着いてったのか? 羨ましいな、おい」
龍田「話し相手になってくれって言ったのは提督の方なんだけど……」
摩耶「それでも羨ましいもんは羨ましいって」
摩耶「最近提督と二人っきりになったりしてないしな」
摩耶「……正直嬉しかっただろ?」
龍田「そうねぇ……」
龍田「嬉しいっていうのは確かにあったけど、それ以上に辛かったかなぁ? 提督ったら話してる途中で何回も咳き込んでたんだけど、その度に辛そうな顔になるのよねぇ……。その表情を見てたら私、悲しくなっちゃって……。もちろん提督はそんな私に気付いてフォローしてくれるのよ? 『大丈夫だから、気にしないでくれ』って言って、話を止めてしまったことを謝るの。謝りたいのは私の方なのにね……。風邪をひいている提督に無理させちゃってごめんなさい、って言いたかった。……でもそれを言ったら提督はすっごく申し訳無さそうな顔になると思ったから、その言葉は飲み込むしかなかったわ。……それでね、そこでようやく気付いたの。この状況を……提督が辛そうにしているこの状況を、喜んでいる自分が居るって。だって提督が『私なんかのために』その身を削ってくれているのよ? 嬉しくないはずないじゃない」
摩耶「……まぁ気持ちは分かる」
龍田「……でも、気付いてからはもう自己嫌悪だったわ。提督に私なんかが迷惑をかけちゃいけないのに、私はそれを戒めるどころか喜んでいたのよ……?」
龍田「………………ふふっ」
龍田「ひどいよねぇ……うん……ひどい……」
龍田「居場所も仲間も、価値も自由も、私が欲しかったものを全てくれたのに……」
龍田「その恩を仇で返すなんて……」
龍田「やっぱり私はあの時に────」
摩耶「────落ち着け、龍田」
摩耶「提督はそんなことでお前を嫌いになるほど小物じゃないだろ?」
摩耶「提督のことを本当に想ってるなら、救われたことを否定すんな」
摩耶「……分かったか?」
龍田「………………」
龍田「……ごめんなさい」
摩耶「謝んなって。龍田は悪くないんだから」
龍田「……ありがとう、摩耶」
龍田「私ちょっと、疲れてるみたい」
龍田「先に休むから……おやすみ」
摩耶「おう、提督みたいに風邪ひかないようにして寝ろよー……」
摩耶「……………………」
摩耶(龍田が『染まった』のは最近だし、不安定なのは仕方ねえよなぁ……)
摩耶(……何か懐かしいな、ああいうの。ははっ)
──────────────────
──────────────────
長門「────こんばんは、提督」
長門「一杯、どうだ?」
投下終了。
一番まともだったのが龍田。
それではまた。
──────────────────
────────────────
長門「────私から誘っておいてなんなのだが……」
長門「無理やり付き合わせてしまってすまんな、提督」
提督「いいや、構わないさ。休み過ぎたせいで眠れなかったとこだからな」
提督「そんなことより長門こそ演習お疲れ様。さっき帰ってきたのか?」
長門「ああ、つい先程な」
長門「本当なら夕方には帰ってくるつもりだったのだが……少し熱が入ってしまった」
提督「……そういえば今日の相手は長門が前に居た所だったな」
提督「何か言われたりしただろ?」
長門「私がいなくなったせいで戦果が減ったと言われたな。それと未だに惜しいという言葉もだ」
提督「あはは……長門はうちでも稼ぎ頭だからなぁ……。前の所でも活躍してただろうことは簡単に想像がつくよ」
提督「……戻りたくなったりしたか?」
長門「安心しろ。私はずっとここに────提督のそばに居るつもりだからな」
提督「……ありがとう、長門」
長門「ふっ、気にするな。私が居たくて居るだけだ」
提督「もう本当に長門が来てくれて良かったよ……」
長門「ほう……」
長門「もっと早くに私に会いたかったか?」
提督「うーん……それは……正直どうだろう?」
提督「会うべき時期に会えた、って感じが強いからな。一概にもっと早く会えていれば良かったとは限らないし……」
長門「……ああ、それもそうだな」
提督「………………」
提督(最初に時雨、続いて夕立・摩耶・天龍・龍田……)
提督(そして長門)
提督(流れがしっかりしてるんだよな……)
提督(まるでそう、作られたみたいに)
提督(……いやまぁ仮にそうだとしたら誰が何のためにどうやって作ったかって話になるんだけどさ)
長門「どうした、提督?」
提督「────んっ、ちょっと昔を思い出してた」
長門「そうか……」
長門「それは丁度良いな。酒の肴代わりに話してくれ」
提督「お前なぁ……」
提督「…………まぁいいか。減るものじゃないし」
長門「ふっ、面白いものを頼むぞ?」
──────────────────
──────────────────
提督(……思い返せばいろいろとあったなぁ)
提督(時雨は……俺を避けていると思ったら急に友好的になったりしたし)
提督(夕立は『ぽい』の口癖なんて無くて敬語ばっかりで)
提督(摩耶なんて俺の言うこと一切聞こうとしてなかったんだよな……)
提督(……天龍と龍田に比べればマシだけどさ。姉妹喧嘩なんてもうこりごりだ)
提督(……そう考えると長門が一番普通だな。普通万歳!)
──────────────────
──────────────────
長門「────提督は既に部屋に帰ったというのに、よく飽きないものだ」
長門「……明日も早い」
長門「覗き見はその辺にしてゆっくり休んだ方が身のためだぞ?」
長門「────なぁ」
長門「時雨に天龍?」
投下終了。
それではまた。
時雨「────こんばんは、長門」
時雨「提督は風邪をひいてるんだよ? あまり無理をさせないであげて欲しいな」
長門「ああ、次は善処する」
時雨「前回も同じこと言ったよね……もう……」
長門「そうむくれるな。かわいい顔が台無しだぞ?」
長門「……天龍はどうした?」
時雨「『寝る』だってさ。一人で帰ったよ」
長門「ふっ、私を見張るためだけ、か……」
長門「こうも警戒されると悲しいな」
長門「私達は仲間だろう? 少しくらいは信用してくれてもいいのではないか?」
時雨「────ふふっ」
時雨「ごめん、それはまだ無理だよ」
時雨「だって長門が一番『怖い』から」
長門「……………………」
長門「…………怖い、か」
長門「私は時雨が一番怖いよ」
長門「……あの手紙をもらった日からずっとな」
時雨「………………」
時雨「……僕はね、今までいろんなことをしてきたけど、直接誰かに釘を差すことだけはしなかったんだ」
時雨「────長門を除いて」
時雨「……どういうことか、分かるよね?」
長門「……ふっ、随分と嫌われたものだ」
時雨「ううん、そんなことはないさ」
時雨「出会いが悪かっただけで、今はむしろ長門のこと好きだからね?」
時雨「……だから、さ」
時雨「長門も僕達の方に歩み寄ってくれたら助かるんだけど……駄目かな?」
長門「…………私がいくら言葉を並べ立てても、時雨は信用しないだろう?」
長門「……準備はいつ頃終わりそうだ?」
時雨「……三ヶ月、いや、二ヶ月欲しいな」
長門「そうか、それなら私は待とう」
長門「私が『詰み』の状況になったら、流石の時雨も私を信用してくれるだろう?」
時雨「……そうだね」
時雨「流石の長門もそうなったら諦めてくれるだろうからね」
長門「………………ふっ」
時雨「………………ふふっ」
「「────おやすみ、良い夢を」」
長門(……見透かされている、か)
長門(夕立を与え、摩耶を異動させ、天龍と龍田を送るまでは私の手の平の上だと思っていたのだがな……)
長門(────『そろそろ来ても良いですよ』だったか。ふっ、手の平の上にいたのは私の方だったとはな……)
長門(…………悔しいものだ。何時からバレていたのかすらも分からん)
長門(────まさか、初めての……あの演習の時か? もしそうだとするならば……最初から私の勝ち目など無かったということになるな)
長門(……ふふっ)
長門(あと二ヶ月、か……)
長門(────精々足掻いてみせるさ)
投下終了です。
以上、
自己犠牲
他者排斥
協調徹底
合理化
神格化
独占固執
の六名でお送りしていきます。
次回から少しほのぼのします。嵐の前の、というやつです。
それではまた。
──────────────────
──────────────────
摩耶「────おい夕立、何やってんだ?」
夕立「────あ、摩耶! おはようっぽい!」
摩耶「おう、おはよ」
摩耶「…………料理か。腹でも減ったか?」
夕立「ううん、夕立が食べる訳じゃ無いっぽい!」
夕立「あのね、提督さんのために作ってるの!」
摩耶「提督?」
摩耶「……さっき飯食ってたよな?」
夕立「ぽい!」
夕立「でもでも、物足りなさそうな表情だったっぽい?」
摩耶「あー、確かにそうだったかもなぁ……」
摩耶「……まぁ、風邪が治ったから食欲増してるとかそんなとこだろ」
摩耶「────よしっ、アタシにも手伝えることあるか?」
夕立「……頼んでも良いっぽい?」
摩耶「もちろんだぜ!」
夕立「えへへ♪ それじゃあお野菜切っておいて欲しいっぽい!」
夕立「────あっ、今回は混ぜちゃ駄目っぽい?」
摩耶「────っと……。もう少し早く言ってくれよな。入れるとこだったぜ?」
夕立「ん、次からは気を付けるっぽい♪」
──────────────────
──────────────────
龍田「……あら、おはよう長門」
龍田「皆もう朝ご飯食べちゃったけど……どこに行ってたの?」
長門「おはよう龍田」
長門「なに、ちょっとした用事だ。大したことはない」
龍田「…………気になるなぁ」
龍田「何か、企んでたりしないよね?」
長門「……ふふっ」
龍田「…………手紙?」
長門「ああ、前に居た鎮守府の仲間からのだ」
長門「郵便物を確認していたら見つけてな。珍しいこともあるものだとその場で読みふけってしまったよ」
龍田「………………」
長門「……納得できないか?」
龍田「………………ううん。疑って、ごめんね?」
長門「気にするな。私も気にしていない」
長門「……だが龍田」
龍田「……なに?」
長門「他者を攻撃することが愛の証明になる訳ではないからな?」
長門「はき違えるなよ?」
龍田「…………うふふ、肝に銘じておくわ」
長門「……朝食を摂ってくる。また後でな」
龍田「うん、また後で……ね?」
龍田(もう少し、もう少しで分かる気がするんだけど……)
龍田(もっと……提督のことだけを……)
龍田(提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督提督────)
龍田「────あはっ♪」
長門(……………………)
長門(まったく……鋭い艦娘ばかりで困ったものだ)
長門(……だがこれで)
長門「────お義母さん、お義母さま……どちらにするべきか悩むな……」
──────────────────
──────────────────
時雨「それじゃあ提督、今日はどうしようか?」
天龍「病み上がりなんだから無理するなよ?」
提督「心配してくれてありがとう」
提督「迷惑かけた分を取り返す勢いで頑張るからよろしくな?」
天龍「だから無理すんなって言ってんだろ!」
時雨「ふふっ……♪」
提督(ようやく風邪も治ったし、やっといつも通りの日々になるな……)
提督(……うん)
提督(十分に休んだから調子も良い)
提督「────何だか良い一日になりそうだ」
投下終了。
やっぱりほのぼのが一番ですね。
それではまた。
言い忘れました。
これで大体半分くらいです。
ラストはさらっと 終わりますので過度な期待はしないで下さい。
艦隊が五人編成なら分割エンドですが艦これは六人編成なので ハッピーエンドです。
それではまた。
胸に顔を埋める夕立
舌と舌を絡める長門
目を見つめる天龍と龍田
膝枕をしてもらう摩耶
お揃いの指輪をはめる時雨
……幸せな光景ですね。
まぁ一番ヤバいのはこの六人じゃないんですけどね。
最初の方にも書きましたが流血展開にはなりませんのでご安心下さい。
遅くなりましたが雑談・予想、どちらも大丈夫です。
それではまた。
──────────────────
──────────────────
「──────よしっ、仕事終わりっ!」
「お疲れ様、提督」
「おう、時雨もお疲れ」
「こんな時間になるまで働いてたからお腹空いてるだろ? 今から一緒に────」
「────お誘いは嬉しいけど遠慮させて貰ってもいいかな?」
「少し、疲れてるんだ」
「そ、そうか……」
「……そうだよな。今日は出撃もあったしな」
「……ゆっくり休めよ?」
「……ありがとう提督」
「…………おやすみなさい」
「ああ、お休み。また明日な」
「────はぁ……」
「……今日もため息ばかりですね」
「また時雨ちゃんに振られました?」
「………………はい」
「やっぱりそうですか……」
「……何だか日に日に嫌われていっているような気がします」
「……鳳翔さん、俺どうすれば良いんですかね?」
「そうですね……提督は今のままで大丈夫ですよ? 問題があるのは時雨ちゃんの方ですから」
「……本当ですか?」
「はい、これでもいろんな艦娘を見てきた身ですから。大丈夫ですので信じて下さい」
「そうですか……」
「……鳳翔さんがうちに来てくれて本当に良かったです。ぜひ帰らないで下さい」
「ふふっ、私もそうしたいのは山々なのですが……」
「帰らないと、提督に寂しい思いをさせてしまいますので……すみません」
「あ、いえ、鳳翔さんが謝る必要は無いですよっ」
「鳳翔さんは元帥の艦娘ですし、こっちは無理を言って手伝ってもらってる身ですから!」
「……ふふっ♪」
「…………もしかしてからかいました?」
「はい、たまには良いですよね?」
「ははっ……鳳翔さんも人が悪い……」
「…………あの、鳳翔さん」
「はい?」
「時雨、どうしたんですかね? 最初の頃はもっとニコニコしてたのに、最近は愛想笑いみたいなのが増えたというか……」
「明らかに距離を置かれてる気がして……」
「……時雨ちゃんの境遇は聞きましたか?」
「……一応は知ってます」
「それなら話は早いですね」
「時雨ちゃんはきっと、怖がっているんだと思いますよ」
「……怖がる? 俺をですか?」
「いいえ、そうではありません」
「今まで知らなかった甘い蜜の味を覚えてしまって、それを取り上げられることを怖がっているんです」
「その感情が深刻なものになることを恐れて手遅れになる前に自分から引こうとしているのも悪いですね」
「近い将来、破綻すると思います」
「……鳳翔さんはたまに難しい話をしますよね」
「……すみません、私もちょっと『期待』していますので。遠回しにしか表現出来ないんです」
「……よく分からないんですけど、何かしてやれることは無いですかね?」
「……大事な、仲間なんです」
「……提督は優しいお方ですね。私の提督みたいです」
「………………分かりました。私がちょっとお話してみます」
「よ、よろしくお願いしますっ」
「一応尽力致しますが……期待はしないで下さいね?」
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「……おはよう、提督」
「おはよう時雨。お前も飯か? 今日は随分と早いんだな」
「うん……」
「…………あの、提督?」
「ん?」
「……隣、座っても良いかな?」
「──────っ!?」
「も、もちろんだっ!」
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鳳翔『────時雨さん? 聞こえてますか?』
時雨「ん、大丈夫。ちゃんと聞こえてるよ」
鳳翔『時雨さんがぼうっとするなんて珍しいですね。お休みはしっかりと取らないと駄目ですよ?』
時雨「心配してくれてありがとう、鳳翔さん」
時雨「……でももう少しだから、頑張るよ」
鳳翔『そうですか……』
鳳翔『くれぐれも体調には気を付けて下さいね?』
鳳翔『────『期待』してますから』
時雨「うん、任せて」
時雨「……あ、それと近々元帥に挨拶に行くらしいから、よろしくお願いします」
鳳翔『分かりました。伝えておきます』
時雨「うん、それじゃあまた」
時雨「鳳翔さんも、体調には気を付けてね」
鳳翔『ふふっ。お心遣い、ありがとうございますね?』
投下終了。
皆さんの想像が怖いです。
早霜による吸血とか被虐系ヤンデレの武蔵とか海に引きずり込もうとするしおいとか初期案にしかありませんでしたから。このスレでは出ませんから。
それではまた。
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──────本部前
提督「────到着、と」
提督(本部に来るのも久し振りだなぁ……)
天龍「…………なぁ、提督?」
提督「どうした天龍?」
天龍「毎度思うんだけどよ、ここって結構遠いよな? もう一つの方が距離的に近いのに、何でそっちに所属してないんだ?」
提督「あー、それか……」
提督「昔は天龍の言ってる本部の方に所属してたんだけど、お世話になってた人がこっちに異動してな。それに合わせたんだよ」
龍田「……その人ってもしかして」
提督「ああ、今から会いに行く元帥が、そのお世話になった人だよ。天龍は会ったことあるだろ?」
天龍「へぇ、そうだったのか。初めて知ったぜ」
龍田「……ええと、私大丈夫かしら? 天龍ちゃん?」
天龍「あ? 別に服装とか気にする必要無いだろ?」
龍田「こういうのは第一印象が大切だから……」
提督「ははっ、そんなに心配する必要は無いよ。そういうのは気にしない人だし、そもそも今回は内密な話になるから天龍も龍田も席を外してもらうつもりだからな」
天龍「……おい、じゃあ何でオレ達も着いて来させたんだよ?」
龍田「天龍ちゃん、そう睨まないの。提督のことだから、理由があるに決まってるわ」
提督「────ああ、龍田の言う通りだ」
提督「実は今日────」
川内「────天龍、龍田!」
古鷹「────天龍さん、龍田さん!」
天龍「──────っ!?」
龍田「嘘……! 本当に……!」
提督「────お前達の旧友が来てるんだ……って見れば分かるか」
提督「……俺は元帥の所に行ってくる」
提督「天龍、龍田。受け取ってくれ」
天龍「おい、これ……」
龍田「……受け取れません、こんなの」
提督「積もる話もあるだろう。美味しい物でも食べながらゆっくりしてこい」
龍田「でも……」
提督「遠慮なんかしないで、俺にかっこつけさせてくれ」
提督「……な?」
天龍「────分かったよ。ありがたく使わせてもらうぜ、提督!」
龍田「本当にありがとうございます、提督……!」
提督「ははっ、どういたしまして」
提督「……ほら、早く行ってやれ。二人とも手を振って待ってるぞ」
天龍「おう、行ってくるぜ!」
龍田「あ、天龍ちゃん! ちょっと待って────」
提督「楽しんでこいよー……」
提督「………………よし」
提督(俺もそろそろ元帥の所に行かないと)
提督(指輪の件、通ってるとありがたいんだけどなぁ……)
──────鎮守府 お留守番組
摩耶「……夕立」
夕立「嫌」
夕立「時雨が居て、摩耶が居て、天龍が居て、龍田が居て、長門が居て……提督さんが居る」
夕立「他の娘なんて要らない」
夕立「……連れてきたら沈めるから」
摩耶「……はぁ」
摩耶(アタシに説得任せるとか……時雨も無茶言うよなぁ……)
摩耶(……まぁ頑張るけどさ。皆のために)
投下終了。次回に続きます。
川内( )
古鷹( )
貴重なまだ病んでいない枠。いずれ病ませます。
場面が飛び飛びなのは私の文章力の問題ですすみません。合間合間の提督とのイチャイチャは脳内補完でお願いします。
出てくる艦娘はこれで全部です。
『空母勢』を期待していた方、出せなくてすみません。
それではまた。
『空母勢』出ないって、軽空母だけど鳳翔さん居るじゃん
って思ったけどまさか……(震え)
>>195
鳳翔「…………はい、鳳翔は大丈夫です♪」
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──────────────────
提督「────失礼します」
提督「お久しぶりです、元帥」
元帥「……こうして面と向かって会うのは確かに久し振りだな」
元帥「だがまずはその他人行儀な態度を止めて欲しい。お前がその態度だと……背中がぞわぞわするからな。気持ち悪いことこの上ない」
提督「…………相変わらずの物言いですね。俺だっていつまでも子供じゃないってことですよ。受け入れて下さい」
元帥「はぁ……まったく……」
元帥「私を『ジジイ』と呼んでいた頃のことを懐かしく思う日が来るとはな……」
提督「……えー、その節は、その……」
元帥「安心したまえ。今更昔のことを掘り返すつもりはない。……態度次第だがな」
提督「あ、あはは……」
元帥「ところで今朝、私の元に合同演習の誘いが来たわけだが…………」
元帥「私も忙しい身だ。参加出来そうにない。……代理を立てないといかんなぁ?」
提督「……よ、喜んで参加させていただきます」
元帥「うむ、お前ならそう言ってくれると思っていた。詳細は後で送るからよろしく頼んだぞ」
提督「……はい」
提督(満面の笑みまで浮かべて……)
提督(弱みを握って面倒事を押し付ける癖は健在だな)
提督(……まぁ昔も今もお世話になってる人だからな。これくらい何てことはないさ)
提督「ところで元帥、鳳翔さんの姿が見えませんが……」
元帥「……彼女には席を外してもらっている」
元帥「これから話すことは彼女にはあまり聞かれたくないからな……」
提督「聞かれたくない……?」
提督「……浮気ですか?」
元帥「降格と前線行き、どちらが好みだ?」
提督「ちょっとふざけただけです、すみません」
元帥「……やっぱりお前は今の方がいい。昔みたいにふざけられると私が疲れてかなわん」
元帥「だがまあこのくらいの空気が丁度良いか。最初から辛気臭くなってしまっては、最後まで体力が持たないからな」
元帥「…………提督よ、今日お前を呼んだのは他でもない」
元帥「先日、と言っても一ヶ月以上も前の話になるが、提督とその秘書艦が艦娘の凶行によって重体に陥った事件は知っているな?」
提督(……えーと、ああ。時雨と一緒に居た時に見たニュースか)
提督「はい、知っています」
元帥「それなら話は早い」
元帥「そのニュースだが、提督が秘書艦とケッコンしたことに対し、提督に好意を抱いていた艦娘が嫉妬に狂ったというのが表の話だ」
提督「表、と言いますと……?」
提督(……凄く、嫌な予感がする)
元帥「……これは他言無用のことだが、ケッコンに際して使用される指輪には、ケッコン相手への好意を増幅させる力がある」
提督「…………っ!?」
元帥「今まで冷たい態度を取っていた艦娘が、ケッコンを機に態度を軟化させたという話はよく聞くだろう?」
元帥「原理は未だ解明されていないが、これは事実だ」
提督「そ、そうだったんですか……」
提督「…………ん?」
提督(『ケッコン相手への好意を増幅させる』?)
提督(それってもしかして……!)
提督「……元帥、その力は提督にも働きますか?」
元帥「……勘が良いな。もちろんだ」
元帥「ただ艦娘用の指輪はともかく、通常の提督用の指輪にはそんな力は一切無い。身体能力の向上等の必要性の無さから本部の方でただの指輪に加工しているからだ」
元帥「だから『本部の誰かが手を加えない限り』、提督にその力が働くことは無いと思ってくれていい」
提督「……あのニュースの提督の指輪は違ったんですね」
元帥「……そうだ。『秘書艦の圧力』によって、指輪はその力を持ったまま提督の手に渡ったという話だ」
提督(秘書艦っ?!)
提督(……そうか。それで他の艦娘が凶行に……!)
元帥「好かれる、というのも考え物だ」
元帥「行き過ぎた恋情や愛情は時に憎悪や嫉妬に変わる」
元帥「複数の艦娘と重婚した提督にはそういったトラブルが少ないと聞いているが、お前のように一艦隊全員と同時にケッコンするという提督は類を見ない」
元帥「……十分に気を付けてくれ」
提督「……肝に銘じておきます」
元帥「私からの話は以上だ。下がって良いぞ」
提督「はい、ご忠告ありがとうございました」
提督「……あの、元帥」
元帥「どうした?」
提督「指輪の件は、どうなりましたか?」
元帥「頼まれていた五つ目の指輪なら数日中に出来上がるそうだ。完成次第送らせてもらおう」
元帥「そして最後の指輪は長門……戦艦用の指輪だったな。こちらは他と違って時間がかかる。もう一月はかかるぞ?」
提督「いえ、それで大丈夫ですので、よろしくお願いします」
提督「────失礼しました」
元帥「……………………」
提督(指輪にそんな力があったとは……驚いたな)
提督(うちの艦隊は……大丈夫だろう。皆良い子ばっかりだし、凶行に及ぶ姿なんて想像出来ない)
提督(…………好意を増幅、か)
提督(元帥と鳳翔さんがお互い指輪を付けていないのは、そういった力に干渉されるのが嫌だからなのかもな……)
提督「────っと、そろそろ二人を迎えに行かないと」
天龍「────また今度なー!」
天龍「…………へへっ、見たか龍田?」
天龍「あいつらすげえ嬉しそうにしやがって……。あんな笑顔、前の鎮守府じゃ見たこと無かったぜ?」
龍田「うふふ、確かにそうねぇ……」
天龍「……何だ? やけに機嫌良いな」
龍田「うふ、だって……提督の素晴らしさを再認識出来たのよ?」
龍田「私達だけじゃなくて、昔の仲間も救ってくれるなんて……」
龍田「────ふふっ♪」
天龍「……あのオレにべったりだった龍田がこうなるなんてなぁ」
天龍「『天龍ちゃんが一番好き』とか『天龍ちゃん以外何も要らない』とか言ってたんだぜ?」
龍田「あら、ちゃんと覚えてるわよ?」
龍田「でもほら、あの頃の私は何も知らなかったから……」
龍田「それに今でも天龍ちゃんのことは一番好きよ?」
天龍「へぇ、それじゃ提督は?」
龍田「え? 一番好きに決まってるじゃない」
龍田「当たり前のことを聞くなんて……変な天龍ちゃん」
天龍「…………いやいや、それは可笑しいだろ?」
龍田「んー……、天龍ちゃんが何を言いたいのか分からないんだけど……」
天龍「マジかよ……」
天龍「………………そうだ!」
天龍「じゃあ龍田、もしもオレと提督が崖から落ちそうだったらどっちを救うんだ?」
天龍「救えるのはどっちかだけだぜ?」
龍田「そうねぇ……」
龍田「そんな事態になんてそもそもならないとは思うんだけど……」
龍田「もしそうなったら提督を救うわ」
天龍「むっ、オレを見捨てるのか……」
龍田「天龍ちゃんでもそうするでしょう?」
龍田「────それに大丈夫」
龍田「提督を助けた後、天龍ちゃんとは一緒に落ちてあげるから♪」
龍田「二人なら、天龍ちゃんも寂しくないよね?」
天龍「……………………ははっ」
天龍「やっぱり龍田はオレの最高の相棒だな!」
天龍「これからもよろしく頼むぜ!」
龍田「────きゃっ……!」
龍田「もう、天龍ちゃん……いきなり抱きつかれるとびっくりしちゃうでしょう?」
龍田「………………こちらこそよろしくね♪」
時雨「────ただいま」
長門「今戻ったぞ…………と、大丈夫か? 夕立?」
夕立「ひっ!? やっ、ご、ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! ごめんなさいっ────」
長門「落ち着け、夕立。私は味方だ、お前を傷付けたりしない」
長門「だから……な?」
夕立「な、長門……?」
夕立「────もう我が儘なんて言いません文句なんて言いません口答えもしません何でもします何でも受け入れます何でも出来ます」
夕立「だから、だからっ────」
長門「夕立、一緒に部屋に行こう。私が付いて居てやる」
長門「…………こうなるだろうとは思っていたが……やり過ぎだぞ、摩耶」
長門「────時雨、後は任せた」
時雨「うん、任せてよ」
時雨「……夕立のケア、よろしくね?」
長門「ああ、了解した。ほら、行くぞ夕立」
夕立「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい────」
時雨「………………」
時雨「……摩耶」
摩耶「あー、悪い……」
摩耶「龍田の時以来だったから加減がどうも分からなくてさ……」
摩耶「次はもっと上手くやるから、な?」
時雨「……頼んだのは僕だから強く言えないけど」
時雨「夕立も大事な仲間なんだ。次は許さないよ?」
摩耶「……分かったって。だからそう睨むなよな」
時雨「………………まったく、夕立が死んじゃったらどうするのさ」
摩耶「あ? 演習じゃ死なないだろ?」
時雨「そういう意味じゃないから……もう……」
摩耶「────それよりさ、長門の奴どうしたんだ?」
摩耶「角が取れたっていうか……丸くなったっていうか……」
時雨「……分かるかい?」
時雨「『これからは協力する』ってさ」
摩耶「────おおっ、やったなぁ!」
摩耶「いやー、ここまで長かったぜ……」
摩耶「お前のおかげだな! お疲れ、時雨!」
時雨「ふふっ。気が早いよ、摩耶?」
時雨「あと『三日』もあるんだから、ね?」
投下終了。
幕間 最終話 しあわせなエピローグ
で終わります。
(皆あんまり病んでなくて)すみません。
このくらいのソフトなのが好きなんです。
それではまた。
ハード→提督に実害が出る
ソフト→提督には実害が出ない
どこからどうみてもソフトのはず。
これがハード物ならて/い/と/くになってますから。
本編で説明しきれそうにないので補足説明。
・指輪による好意の増幅
・各艦種毎に専用の指輪
どちらも独自設定です。
指輪による好意の増幅は基本的に累積しません。何人と重婚しようともそれぞれの艦娘に対する好意が少しずつ増幅するだけです。数値で言うと6人分の指輪で好意が6増えたらそれぞれに1ずつ分配されます。誰かに6が行ったりそれぞれに6ずつ分配されたりはしません。特殊な加工・改造が行われない限りは。
各艦種毎に専用の指輪があります。駆逐艦なら駆逐艦用、軽巡なら軽巡用といった具合です。専用の指輪でないとケッコンは成立しません。またケッコンが済んでいなければ誰でも使えます。あくまで一例ですが、軽空母用の指輪を戦艦が使っても意味がありませんし、ケッコン前の榛名の指輪を長門が使うことも出来るということです。
そして艦娘のケッコン対象は指輪に最後に触れた提督が基準になります。事故防止のため提督が自ら嵌めてあげるのが常となっております。自分から蜘蛛の巣にひっかかりに行くスタイル、ロマンチックですね。
長々と失礼しました。
それではまた。
ちょっと立て込むので次の投下は少し遅れます。すみません。
そして川内と古鷹はいずれ病ませると言いましたが……幕間書いたらもう病んでました。(ほっこり)
負のパワーがかなり満たされたので次回作は正のパワーたっぷりな甘えん坊の続きを書く予定です。服の裾を掴んでくる早霜とか拗ねて甘えてくる加賀さんとか乞うご期待下さい。安価も有りです。
それではまた。
かくていしんこくにころされる
じゅうろくれんきんはきついです
……リアルがかなり立て込んでおります
投下はもう少しお待ち下さい
すみません
ようやくリアルの方が落ち着き始めました。
早ければ明日にでも投下再開しますのでよろしくお願いいたします。
それではまた。
幕間 1/7 天龍
『おはよう、天龍。早速だが出撃してもらうぞ?』
オレがオレとして誕生したのは、固いベッドしかない無機質な部屋の中だった。
目を開けて最初に飛び込んできたのは、蛍光灯の眩しい光とこちらを覗き込んでくる男の顔。影になっていてその表情は知れなかったけど、その目に何も感情が込められていないことだけは何となく分かってしまった。
思えばその瞬間からオレの心は冷めてしまっていたのだろう。
目覚めたその数時間後には出撃し、刻み込まれた本能が導くままに艦装を振るって敵を沈めた。
オレと同じ境遇だったのだろう。
しきりに「何で私が? どうして……?」と呟いている艦娘がいたが、そいつはその最初の出撃で沈んだ。
生き残るのに必要なのは、生きていくのに必要なのは、納得する理由を探すことじゃない。どんな手を使ってでも自分を納得させることだ。
例えそれが論理としてどれだけ破綻していても、納得させて無理矢理にでも飲み込んでしまえば、もう迷いなんか生じないのだから。
昼夜を問わない出撃。
────他に艦娘が居ないから仕方無い。逆らえない立場だから仕方無い。強くなるためだから仕方無い。人類を守るためだから仕方無い。
提督による暴力。
────生意気な態度をとってしまったのだろう。虫の居所が悪かったのだろう。今日は運の悪い日なのだろう。これが普通のことなのだろう。
何も感じなくなっていく心と体。
────たくさんの艦娘を見捨ててきたから。汚い人間の心を何度も見てきたから。傷の無い日なんて一日たりともなかったから。
生きていくのに、必要じゃないから。
様々な理由を重ねて、自分を納得させて生きてきた。
それが今では一つの理由で事足りてしまうのだから、人生というのは分からない。
──────────────────
──────────────────
天龍「────悪い、待たせた」
天龍「……龍田と古鷹はどうした?」
川内「ん、お手洗いだってさ。それより、誰からの電話だったの?」
とある飲食店の一角。
提督と別れた後、オレ達は食事がてら世間話に花を咲かせていた。
大体が空気の重くなるような苦労話だったけれど、それでも昔の仲間との会話には嬉しさや楽しさがあった。
だがそんな時間もそろそろ終わりらしい。
天龍「提督からだ。そろそろ終わるってよ」
川内「……提督?」
オレの告げた名前に、川内が反応を見せる。
その目に黒い熱が灯ったのを、オレは見逃さなかった。
天龍「ああ、名残惜しいけど今日のところはそろそろお開きだな。……楽しかったぜ?」
川内「……うん、私も楽しかった」
川内「…………ねえ、次は何時会えるかな?」
天龍「────『提督に』か?」
川内がにっこりと笑う。
その目は決して笑っていない。
天龍「……近々会えるさ、必ずな」
川内「…………意外。天龍のことだから、絶対邪魔しにくると思ってたんだけど……」
驚いた表情で、川内がそう言葉を漏らす。
昔のオレならばそうだったかもしれないが、生憎と今の事情ではそうもいかないのだ。
わざわざ提督が助けてやった川内と古鷹。
『もう会えなくなる』と知ったら悲しむことは想像に難くない。
天龍「提督が悲しむようなことはしねえよ」
川内「……本当に好きなんだ。何だか妬けるなぁ……」
むすっとする川内に笑顔で応える。川内は更に表情を険しくさせて、それから大きなため息を吐いた。
今はその目に熱は灯っていないが、些細なきっかけでその炎はまた燃え上がるに違いない。
天龍(そうなったらまぁ……『仕方無い』か……)
提督が幸せになるならそれはそれで構わない。
提督のためなら、オレはどんなに割に合わないことだってやるし、命をかけることだって躊躇わない。見返りだってもちろん要らない。報われなくても恨まない。
そういう生き方をすることに、既に納得してしまっているのだ。
天龍(……惚れた弱味ってやつだな)
そう考えて、クスリと笑う。
その笑いを何か勘違いしたのか、川内は不機嫌そうに唇を尖らせるのだった。
天龍は知らない。
その感情がそのような可愛らしいものでは無いことを。
そして知らないままに、彼女は同じ言葉を頭の中で何度も繰り返していくのだ。
天龍の全ての行動────選択や思考や献身、あるいは暴力さえも────を肯定する、魔法の言葉を。
『提督のことが好きだから、仕方無い』
投下終了。
久し振りなのでソフトな娘から。
好きなんだから仕方無いですよね(白目)
それではまた。
幕間 2/7 龍田
『────お前の事情も分かるけどさ、あんま調子に乗るもんじゃないぜ?』
息も絶え絶えに海上に這いつくばる私の耳に、頭上から見下ろす摩耶の声が届く。
特殊な弾頭を用いる演習において、艦娘が沈むことはない。しかし痛みを伴わないかといえば、そうではないのだ。明らかに意図された砲撃の数々によって、私の身体は隙間無く悲鳴を挙げている。
この時ばかりは『沈めない』という事実を呪わずにはいられなかった。
『ま、今回は軽いので済ませてやるけどさ。……次は無いからな』
これで、軽い?
今まで経験してきたどの戦場にも比べられない痛みと恐怖を味わったこの数時間が、軽い?
顔を上げることも出来ず、痛みと恐怖で溢れた涙が、海へと吸い込まれていくのを見ていることしかできない。
助けて、天龍ちゃん。
生まれて初めて、天龍ちゃんに頼った。
艦娘として誕生して以来ずっと、私は天龍ちゃんと同じ時間を過ごしてきた。
天龍ちゃんのためなら何でもした。
他の艦娘を盾にした。資材を盗んで補給してあげた。脅し、追い詰め、装備も揃えてあげた。
私一人で敵艦隊を相手取ったこともあるし、無能で下衆な提督を闇に葬ったこともある。
不器用で危うい彼女を、ずっと支えてきたつもりだった。
そんな私の、初めてのお願いだったのに。
『────自業自得だろ、頭冷やせ』
通信に入ってきた言葉は、無慈悲なものだった。
ぱりん、と私の中の何かが割れた音がした。
『大丈夫か龍田! しっかりしろ!』
痛みを訴える身体を引きずって帰投する。
待っていたのは、配属早々に私が罵倒した提督だった。
私の言葉に苦笑いを浮かべていたその顔は心配そうな表情に変わり、頼りなかった声音には沈痛な思いが溢れている。
その姿を見て、その声を聞いて、必死に保っていた力が抜けた。
倒れ込みそうになる私の身体を、提督が慌てて抱き留める。
暖かさに、また涙がこぼれた。
────ああ、きっと。
────誰でも良かったのだ。
────私を、満たしてくれるのならば。
割れて出来た亀裂を塞ぐように、別れた欠片を繋ぎとめるように、どろりとした甘い毒が、私を少しずつ満たしてくれていた。
──────────────────
──────────────────
古鷹「────どうして、そんな話を私にしたんですか……?」
龍田「えーと、聞きたそうにしてたから、かなぁ?」
蛇口から流れる冷水に手を浸し、正面の鏡を見る。
そこに映る古鷹の表情は、本人が俯いてしまっているため伺い知ることが出来ない。
古鷹に話したのは私達の提督の話だ。
それも功績等といった類の話ではなく、何の変哲もない日常のお話。
提督と普段どんなことを話しているのか、どのように接しているのか、どういった物が好きなのか……。
そんな話しかしていない。
それで十分だったから。
古鷹「……狡い」
その身を抱くように、左手で右の二の腕辺りを掴む古鷹の姿を、鏡越しに見やる。
古鷹「龍田さん達と私達、何が違うんですか? 同じ地獄を味わった仲なのに、私達はずっと血反吐を吐き続けて、龍田さん達はそうやって楽しそうに笑えてる……。私達、もしかしたらまた地獄を味わうかもしれないんですよ?」
そう言って顔を上げる古鷹。
その目に光は灯っていない。
鏡に映る私の顔は、そんな古鷹の表情を見て、薄く笑みを浮かべていた。
古鷹「狡い、狡いです。狡い、狡い、狡い……!」
ああ、やっぱり。
彼女達は紛れもなく『私達の仲間』だ。
龍田「────大丈夫、きっとまた一緒だから」
私達には頼れる仲間が居るのだ。
時雨、あるいは長門が既に手を回しているに違いない。
振り向き、冷えた両手を古鷹の頬に添える。
そしてその瞳を曇らせたまま、古鷹は淡く微笑むのだった。
投下終了。
それではまた。
乙
この世界に病んでない艦娘はいないのかもしれない
>>270
病むくらい提督を愛していないと沈む世界です
愛は沈まない(震え)
皆さんこんばんは。
続きは鋭意作成中ですのでもう少々お待ち下さい。
それと質問ですが、次のどちらかならどちらの番外編を見たいですか?
・全員が敵対関係だったら(ギスギス修羅場)
・誰か一人を選んでいたら(個別 エ ン ド)
それではまた。
修羅場ですね。分かりました。
個別(生命的な意味で)エンドは時間があればやろうかと思います。
それではまた。
幕間 3/7 摩耶 夕立
夕立「──────……ぽい?」
夕立(ここは……? えっと、私……)
摩耶「────お、やっと起きたか?」
夕立「────ひっ! ま、摩耶……?」
摩耶「おいおい、そんなビクビクすんなって。体、痛いとこ無いか?」
夕立「え、あっ、……うん。大丈夫……ぽい」
摩耶「そうか、そりゃ良かった」
摩耶「……ごめんな、やり過ぎちまって」
夕立「……ううん、あれは我が儘言った夕立が悪かったっぽい」
夕立「夕立こそ……ごめんね?」
摩耶「あー……謝られると調子狂うんだけど……」
摩耶「……まぁいいや。アタシと夕立、どっちも悪かったってことでいいよな?」
夕立「……うん」
摩耶「よしっ、それじゃこれでこの話は終わりだから、謝るのはもう無しだ」
摩耶「…………だから、さ」
夕立「……摩耶?」
摩耶「……いつも通りで頼むぜ。元気の無い夕立は……その、見たくないしさ」
夕立「摩耶……!」
夕立「────うん、分かったっぽいっ!」
摩耶「……へへ、やっぱ夕立はそうじゃなくっちゃな!」
──────────────────
──────────────────
夕立「────そっか、長門が……」
摩耶「本当に憶えてないのか?」
夕立「えへへ……」
摩耶「錯乱してたお前を宥めたのは長門だからな。後でちゃんとお礼言っておけよ?」
夕立「ぽいっ、もちろん!」
摩耶「────それにしてもめでたい話だよなぁ。あと三日でアタシ達の念願が叶うんだぜ?」
摩耶「時雨からはもう一ヶ月はかかるって聞いてたからさ、こんなに早くなるとちょっと実感が追いつかねえよ」
夕立「目下の問題が長門だけだったから……」
夕立「もっと早く協力してくれてたら、もっと早く叶ってたっぽい?」
摩耶「そりゃそうだろな、でもそんな可能性の話しても仕方ないだろ?」
摩耶「結果的に上手く収まるんだ。それでいいじゃんか」
夕立「ぽいぃ……確かにそうだけど……」
摩耶「そんなこと考えるより、もっと面白いこと考えようぜ?」
夕立「……面白いこと?」
摩耶「おう。例えばほら、『三日後からどうするか』とか、さ」
夕立「────それは……」
起きたらぎゅーって抱きしめてもらって。
朝ご飯をお互いで食べさせ合って。
訓練中もこっそり通信でお喋りして。
お昼は夕立が執務室まで持っていって提督さんと一緒に食べる。
お腹が一杯になったらきっと『眠くなっちゃう』からちょこっとだけお昼寝するけど、もう我慢しなくてもいいんだから、寝ている提督さんに『イタズラ』しちゃおっかな?
演習とか出撃中は流石にお喋り出来ないから我慢するっぽい。寂しくないよ。だって帰投したら『オカエリナサイ』って抱きしめてくれるから。
それで夜は…………えへへ♪
首輪、似合うかなぁ?
…………夕立に言っといてアレだけど、アタシも全く考えてなかったなぁ。
今の関係くらいがアタシ的には丁度良いし、やることはそんなに変わらないか。
あぁ、でもこれからは提督の私物をこそこそ盗る必要は無いのか。随分と楽になるぜ。
それに皆を監視する必要が無くなる分時間が空くし、提督を観察する時間を増やせるな。よし。
後は……そうだな。
これからはもっと、直接的に『食べてもらえる』んだよな……。
……へへっ。
楽しみに待っててくれよ、提督?
夕立「────楽しみっぽい!」
摩耶「────ああ、同感だぜ」
投下終了。
摩耶と夕立の過去的な話につきましては、初期の方で流血展開はありませんと銘打ってますので書きません。ご想像にお任せします。『流れ弾』『捨て艦』
書けば書くほどこの提督が何故生き永らえているのか不思議になります。 と時雨のおかげですけどね。
ハッピーエンドまでもう少しです。
それではまた。
幕間 4/7 長門
初めての提督は、曲がった腰としわがれた声が特徴的な老者だった。
声に覇気は無く、行動にキレは無い。
しかし言葉には重みがあり、思考には知識があった。
後に続く私が配属された先の提督達と比べてみても、彼は群を抜いている。
数多の物事を学ばせてもらい、数々の知識を与えてくれた。感謝してもしきれない。
今はもう会えない身となってしまったが、一番最初に彼と出会えたことは、幸運であったと言ってもいいだろう。
…………いや、間違いなく幸運だ。
彼から得た知識や知恵、考え方や行動方法。
それらは余すことなく、提督のために使うことが出来ているのだから。
──────────────────
──────────────────
時雨「────おかえり。どうだった?」
バスの停留所、そのベンチ。
私を出迎えてくれたのは、笑顔の時雨だった。
感じていた違和感と、曖昧に形作られていた予想が、はっきりとしたものへと変わる。
どうやら私の足掻きは手の平の上での出来事であったらしい。収穫はもちろんあったのだが、それが事前に用意されていたものだということが分かってしまうというのは、何ともやるせない。
ため息を一つ吐き、時雨の隣に腰を降ろす。そして正面を見据えたまま、私は口を開いた。
長門「やけに理解の早いご両親だとは思っていたが、そういうことだったのだな」
時雨「ごめんね? 後で絶対に話が拗れると思ったから、提督のご両親にはいろいろと先に説明しておいたんだ」
長門「謝る必要は無い。おかげで『結婚』の話も『重婚』の話もすんなりと許可をもらえたのだからな」
時雨「ふふ、そうかい? それなら良かった」
長門「…………今となっては何の意味もないことだが、いつだ?」
時雨「……夕立がこの鎮守府に配属された頃にだよ」
長門「……そうか」
どうやら私の予想よりもずっと早く、時雨は提督のご両親と接触していたらしい。
私が時雨の動向を警戒し始めたのは、摩耶を送り出した頃からだ。となるとその時には既に種を巻き終えていたということになる。
正しく完敗だ。
悔しさよりも先に、笑いがこみ上げてきてしまうくらいに。
長門「せめて一矢報いたかったものだ……」
時雨「むっ……、これ以上を望むのは罰当たりじゃないかな?」
時雨「正妻の座だよ? それもご両親公認の」
むっとした表情の時雨が、何故納得していないのか、といった意味を孕んだ目を向けてくる。
そうではないのだ。そうではないのだが……。時雨の場合、本気でそう思っているのだからタチが悪い。
結果で物事を判断する時雨と、過程で物事を判断する私とでは、こういった所に価値観の違いがある。それが相容れない理由の一つでもあったのだが……今となってはどうでもいいことだ。
既に腹は決まっているのだから。
長門「……例え与えられたものでも、私のものであることに違いはない」
長門「本当にいいんだな?」
時雨「うん、皆からも了承は得てるから大丈夫だよ」
時雨「それに、どうせ三日後からは『みんなのもの』になるだろう?」
長門「……ふっ、違いない」
負けた、という感じはしない。
勝った、という感じもしない。
そもそも勝ち負けの話ではなかったのかもしれない。
それでも私なりに足掻き、結果としてみれば提督の正妻の座は手中に収めることが出来た。
これから、提督も鎮守府も大きく変わっていく。
培ってきたものを捨て去るのは惜しいが、私も変わらなければいけないということなのだろう。
提督のそばに『ずっと』居続けるためには。
時雨「────それじゃあ分かってると思うけど……はい、これ」
長門「戦艦用の指輪、か……」
長門「提督が私のために作ってくれた物ではないというのは、やはり悲しいな……」
時雨「我慢しておくれよ。これでようやく六人分が揃うんだから……」
長門「分かっているさ。……あの人にも感謝しないとな」
時雨「…………うん、そうだね」
時雨「『榛名』さんにはちゃんと感謝しないと、ね」
投下終了。
この作品に空母系艦娘は出ておりません。
それではまた。
榛名は大丈夫ですか?
>>320
?「はい、榛名 は 大丈夫です」
幕間 5/7 榛名
はじめてあった、あのひのこと。
はるなはずっと、おぼえています。
「初めましてだな、戦艦榛名。君の能力の高さについてはよく聞いている。これからよろしく頼む」
「は、榛名ですっ。よろしくお願い致しますっ…………えっと……あの……」
「……むっ、どうかしたか? 握手は嫌いか?」
「い、いえっ、そういうわけでは……!」
「…………何か疑問があるなら遠慮なく聞いてくれ。これから長い付き合いになるんだ。隠し事はなるべく少なくしたい」
「隠し事というほどのものでは…………。……ただ、握手をするなんて初めてのことでしたので、戸惑ってしまいました」
「握手が初めて? 君の前の提督達とはしなかったのか?」
「……艦娘になんか触れたくない、と言われました」
「…………すまない、嫌なことを聞いてしまった」
「いえ、榛名は大丈夫です。もう……慣れましたから」
「…………榛名」
「────あっ……」
「綺麗な手だ、人も艦娘も変わらないな。艦娘を深海悽艦と同じ種の化け物だと信じている者共の頭を疑うよ」
「提督…………」
「私がそのような奴らとは違うということは、これからの行動で示そう。だから……よろしく頼むぞ、榛名」
「──────っ! はいっ! よろしくお願い致しますっ!」
それからずっと、いっしょでした。
がんばったらほめてくれました。
よくやったとなでてくれました。
つらいときもそばにいてくれました。
なにもいわずにだきしめてくれました。
せんとういがいのこともおしえてくれました。
みんなでおはなみをしました。
みんなでりょこうもしました。
たのしいおはなしも、かなしいおはなしも、うれしいおはなしも、つらいおはなしも、ぜんぶはるなのたいせつなおもいでです。
ていとく、しってましたか?
はるなはあなたのためにつよくなったんです。
ていとくをじゃまするてきをけちらすために。
はるなはあなたのためにりょうりのうでをあげたんです。
ほかのだれかのつくったものをくちにいれてほしくなかったから。
はるなはずっとていとくをみていたんです。
それだけでしあわせなきもちになれましたから。
あなたのために、いろいろなことをおぼえました。
すきなことも、いやなことも。
あなたのために、いろいろなものをきりすてました。
いらないものを、ほしいものを。
それでも、ていとくは。
鳳翔さんを選びました。
「…………ごめんなさい、鳳翔さん」
「でも、鳳翔さんが悪いんですよ?」
「鳳翔さんが、私から提督を奪おうとするから……」
「…………榛名が、榛名が提督の初めての艦娘だったら、提督は榛名を選んでくれたのでしょうか」
「こんなただの戦艦用の指輪ではなく私だけの指輪を贈ってくれたのでしょうか」
「私の望む、憧れの言葉をささやいてくれたのでしょうか」
「どこをどうすれば、どこをどうしていたら、榛名は幸せになれていたのでしょうか」
「…………これから榛名は幸せになってみせます。鳳翔さん、あなたの分も」
「………………まだ、息があるんですね」
「──────えっ?」
────榛名さん、ありがとうございます。
────これでようやく、私のモノに……。
鳳翔さんの最後の言葉の意味は、後になってようやく理解できました。
────ああ、榛名。鳳翔さんを知らないか。
────ご飯? いや、いい。
────鳳翔さんが帰ってきたら一緒に食べるからな。
────もう三日も食べていない? 何を言ってるんだ。まだ三日、だろう?
────鳳翔さんがお腹を空かせて帰路についているかもしれないのに、私だけ食べるわけにはいかないんだ。
────気遣い、ありがとう。
────ああ、仕事をサボったら鳳翔さんに怒られてしまうからな。もう少ししたら部屋に戻るさ。
────それまではここで鳳翔さんを待つよ。
────………………………………。
────………………鳳翔さん。
鳳翔さんに、してやられました。
榛名の知らない内に、提督は鳳翔さんが居ないと生きていけないようになってしまっていたようです。
提督はもう、榛名のことを本当の意味でも見てくれることはないでしょう。
『榛名』の、ことは。
…………それが例え本当の意味ではないとしても。提督が、もう一度私を見てくれるのなら。これからずっと、私だけを見てくれるのなら。
榛名は、『榛名』で無くなっても構いません。
元帥「おはよう、鳳翔さん」
鳳翔「ふふっ、おはようございます」
投下終了。
剥いではいません。
刷り込んだだけです。
それではまた。
他人の前で榛名に向かって、鳳翔さん、と声をかける元帥を
みんなはどんな目で見ているのだろうか……
>>346
・とある方法により容姿が鳳翔さんにそっくり。
・ある程度まで似せ、詳しく知っている人物は抹消。
・亡くしたショックで……、と生暖かく見守られている。
などなど、お好きな理由をどうぞ。
ちなみに前に言いました一番ヤバい人が鳳翔さんです。
そして生きてます。
その事実を知ってるのは榛名と長門だけです。
そこら辺はそこまで重要ではないので本編でやるつもりはありません。番外の修羅場でやるかもしれません。
それではまた。
>元帥「おはよう、鳳翔さん」
>提督(元帥と鳳翔さんがお互い指輪を付けていないのは、そういった力に干渉されるのが嫌だからなのかもな……)
提督も元帥も『榛名』のことを鳳翔さんと認識していて全く違和感を感じてなさそうだよな
本物の鳳翔さんも生きてるそうだし、何がどうなっているのやら…
疑問点は本編終了後にお答えしますのでお待ち下さい。
それではまた。
幕間 時雨 6/7
提督に喜んで貰えると思って、少しだけ無茶な進撃をしたあの日。
予想以上の敵の強さに、勝利はしたものの僕の身体もボロボロだった。
正直どうやって鎮守府まで戻ったのかも定かじゃない。
ただ目を開けたそこは入渠用ドックに備え付けられたベッドの上で、その隣には椅子に座ったまま眠る提督がいたんだ。
一体僕はどれくらいの間眠り、提督はいつからそこに居てくれたのだろう?
その目元には出撃前にはなかった隈が出来ていた。
じわりじわり、といろんな感情が僕を満たしていく感じがした。
ずっと、ずっと。
死なないために生きてきたけれど。
提督、あなたのためだったら。
僕はいつだって死んであげるから。
時雨「────提督、失礼するよ」
時雨「……珍しいね、もう寝てるんだ」
時雨「今日は元帥の所まで出かける用事があったし、疲れちゃったのかな?」
時雨「資料、執務室に置きっぱなしだったから持ってきたんだけど……テーブルの上に置いておくからね。忘れないでよ?」
時雨「……………………」
時雨「いろんなことがあったよね」
時雨「辛いことも悲しいこともあったけど、それよりずっと、楽しいことや嬉しいことの方が多かった」
時雨「これからはもっと、そう思えることが増えると良いな。僕だけじゃなく、提督も」
時雨「…………ふふっ、ごめん」
時雨「僕もちょっと楽しみで、落ち着いていないみたいだ。言葉を少し間違えちゃったよ」
時雨「提督が楽しいって思うこと、提督が嬉しいって思うこと」
時雨「僕達が、増やすから」
時雨「…………もう少しだけ、待っててね?」
時雨「ふふっ、それじゃそろそろ僕も戻るよ」
時雨「でも『最後に』少しだけ……」
時雨「……難しく考える必要はないよ。提督は僕達を受け入れてくれるだけでいいんだから」
時雨「それにここからどれだけ足掻いてももう逃げられないこと、分かってるんだろう?」
時雨「……意地悪だったかな?」
時雨「でもさ、蜘蛛の巣にひっかかって動けない獲物が、抵抗するでもなく大人しくしていたら蜘蛛だってちょっかいをかけたくなるよ」
時雨「怖くて動けないのか、どうすることも出来ないから諦めたのか…………それとも受け入れてくれたのか。知りたくなるとは思わないかい?」
時雨「……待ってたけど、もう皆我慢の限界なんだ」
時雨「……ごめんね提督。愛してる」
時雨「────おやすみなさい」
幕間 提督 7/7
元帥の話を聞いて、あのニュースを思い出して。
そして今になって、ある一つの仮説が俺の頭に思い浮かんだ。
有り得ない仮説だ。そう思ったはずなのに、有り得ない仮説のはずなのに、思い当たる点がいくつもある。
それでも俺は、その仮説を否定する。
時雨が心を開き始めた頃から軍部での俺の評価が良くなりだしたことに、時雨は関係ないはずだ。
夕立が口調を戻し始めた頃から、俺達の鎮守府に対する外部からの嫌がらせが無くなっていったのに夕立は関係ないはずだ。
摩耶が俺を認めて言うことを聞くようになってから、近隣住民からのクレーム等が無くなったのに摩耶は関係ないはずだ。
天龍と龍田が仲直りした頃から、誰かが俺の側に付いてサポートしてくれるようになったことに天龍と龍田は関係ないはずだ。
そうだ、長門が初めてこの鎮守府に来たときに、各部屋の場所やうちのルールを既に知っていたのもきっと関係ない。
全部、杞憂だ。
偶然が重なっただけだ。
皆良い子なんだ。そんなこと、するわけがない。
するわけがないんだ……。
全部忘れて、もう眠ってしまおう。
俺は何も聞かなかったし、時雨は資料を置いて直ぐに部屋を出ていったんだ。
そうだ、そうに違いない。
仲間なんだ。疑うのは間違ってる。
ああ、そうか。きっと質の悪い夢を見たんだ。
夢ナンダカラ、忘レナイト。
気付かぬふりも、罪なのだろうか?
だとすればこれは、罰なのだろうか?
投下終了。
まぁ皆の暗躍に少しも気付かないはずがないですし、気付かないふりをしていることを彼女達が分からないはずもないですよね。
起きてるのも時雨にはバレてますし。
後は提督の最期の三日間とエピローグで終わりです。
もうしばらくお付き合いお願いします。
それではまた。
忘れてました。
エピローグ後に修羅場ifやります。
安心して下さい。
修羅場ifじゃないんですから誰も死にませんよ。
摩耶「────おう、起きたか?」
摩耶「飯は準備しといたからさ、早く行こうぜ」
提督「………………あー……」
提督「……とりあえずおはよう、摩耶」
摩耶「ん、おはよ」
摩耶「……何だよその怪訝そうな目は?」
提督「……何でお前が俺の部屋に居るんだ」
摩耶「居ちゃ悪いのか?」
提督「いや、居られて困ることもないし別に悪いわけじゃないけどさ……」
提督「鍵、かかってたよな?」
摩耶「ああ、それなら時雨から借りた」
提督「時雨から? そうか、なるほど……」
摩耶「…………ふーん」
提督「……何だよその顔は」
摩耶「……別に?」
摩耶「ただ、時雨から借りたって聞いた途端に納得するからさ、よっぽど時雨のことを信頼してるんだなと思っただけだよ」
提督「……まぁ長い付き合いだからな」
摩耶「…………流石に時間はどうにもならねえな、くそっ」
提督「────ん、摩耶? 何か言ったか?」
摩耶「…………何も」
提督「……そうか」
提督「────っと、すまん。飯だったな」
提督「準備するから先に行っててくれ。俺もすぐに行く」
摩耶「おう、待ってるぜ」
摩耶「…………提督」
摩耶「────待ってるからな?」
──────────────────
──────────────────
天龍「おっす、提督」
提督「おはよう天龍」
提督「……摩耶を見なかったか?」
天龍「摩耶? ああ、見たぜ」
提督「ここで待ってるって言ってたんだが……どこに行ったか知らないか?」
天龍「んー? 長門に呼ばれていったのは分かるけど……内容までは知らねえな」
天龍「ま、いつ帰ってくるかも分からねえし、先に食おうぜ?」
提督「……そうだな、隣いいか?」
天龍「おう、もちろん!」
提督「────よいしょ、っと……」
提督「……それにしても朝からカレーなんて珍しいな」
提督「今日は誰が作ったんだ?」
天龍「今日は……時雨だな」
天龍「何でも『特別なカレー』らしいぜ。味わって食えよ?」
提督「特別? うーん……いつもと変わらない気がするけど……」
提督「……素材にこだわったとかか?」
天龍「いや、そんな目で見られてもオレも知らねえから」
提督「そうか、天龍も知らないのか……」
提督「……まぁいい。美味しいことには変わりないしな」
天龍「そうだそうだ、余計なこと考えずに食えばいいんだよ。美味いんだから」
天龍「…………なぁ提督」
天龍「────まだまだあるから、たくさん食べろよ?」
短いですが投下終了。
今までずっと一緒だったのに、急に独りになったらどうなるんでしょうね。きっとさびしいですよね。
それではまた。
あ、今回はちょっとした薬です。
詳細を語る場面が無いので言ってしまいますと、多量に摂取するととある症状が出るタイプの奴です。
提督「──────はい、…………はい」
提督「分かりました。集合場所は……あの島ですか」
提督「……いえ、こちらこそよろしくお願いします。……はい、失礼します」
提督「……………………ふぅ」
龍田「お疲れ様、提督」
龍田「……元帥から?」
提督「ああ」
龍田「へぇ……、昨日の今日で何か有ったのかしら?」
提督「いや、別に何か問題が起きたわけじゃない。合同演習のお誘いだよ」
提督「……断れない、って言葉が最初に付くけどな」
龍田「えーと……接待演習かしら?」
提督「……確かにそうだけど、気持ちが落ち込むからそれを言うのはよしてくれ」
龍田「……偉い人の気持ちってよく分からないわ。同じ艦娘同士で戦わせて何が楽しいの?」
龍田「敵は別にいるのにね」
提督「……ごめんな」
提督「元帥はそういうのなるべく断ってくれてるんだけど、やっぱり大人の事情ってやつもあってさ……」
龍田「うふふ、提督が謝る必要なんて無いのに……」
龍田「気にしないでいいからね? それより、演習は午後からかしら?」
提督「そうだ、場所も前の合同演習と同じあの島らしい」
提督「…………ただ、今回は俺は行けないかもしれない」
龍田「えー……? どうして?」
提督「急な話だから行く伝手が確保出来るか怪しいんだ」
提督「一応当たってみるけど期待はしないでくれ」
龍田「………………」
龍田「……一人で寂しくない?」
提督「いやいや、子供じゃないんだから……」
提督「それにまだ行けないって決まったわけじゃないぞ?」
龍田「……そうね」
龍田「『まだ分からないわよね』」
龍田「………………………………」
龍田「ねぇ、提督」
龍田「寂しくなったら、いつでも呼んでね?」
短いですが投下終了。
実在する薬ではないです。証拠が残ってしまいますから。
私事ですみませんが半角のテスト。
時雨「愛情をたっぷり込めてるんだ」 サラサラ
摩耶「変なモノ入れんなよ?」 ポタ ポタ
いい感じですね。
半角使ったssもいつか書いてみたいです。
それではまた。
提督「────以上で今回の合同演習の説明は終わりだ」
提督「……何か質問はあるか?」
長門「提督よ、出発はこの後すぐか?」
提督「ああ、演習地の設営の関係で人手が足りていないらしい。すでに摩耶と天龍と龍田は向かわせたからお前らも合流してくれ」
提督「それと、今説明した内容の細部についてはあいつらに伝えていない。その伝達もよろしく頼む」
長門「了解した」
長門「……私からはもう特に無いが、お前らはどうだ?」
時雨「僕も特に無いね」
夕立「夕立も無いっぽい!」
夕立「…………あ、でもでも、ちょっぴり心配かも?」
提督「ん、何が心配なんだ?」
夕立「えっとね、私達皆出かけちゃうでしょ? 提督さん一人で大丈夫かなぁって」
提督「それ、龍田にも似たようなこと言われたぞ……」
提督「心配するな、これでも自炊くらい出来る」
夕立「……本当?」
長門「私は見たことがないが……」
時雨「昔の話だよ。僕がここに来る前と、来て少し経つ頃のお話さ」
時雨「……大丈夫だよね?」
提督「……時雨までそれを言うか」
提督「何だか馬鹿にされてる気分になるな」
時雨「ふふ、冗談だよ」
提督「まったく……」
提督「……質問はもう無いな? それじゃ準備が出来次第出発してくれ」
提督「────くれぐれもよろしく頼むぞ」
夕立「ぽいっ!」
夕立「頑張って全部殲滅するっぽい!」
提督「うん、一応接待だからな? 説明聞いてたか?」
時雨「あはは……」
提督「……夕立の手綱は頼んだぞ、時雨、長門」
時雨「ん、任せてよ」
長門「ああ、任された」
提督「頼むぞ、本当に……!」
──────────────────
──────────────────
『────本当に見送りはいいのか?』
『ふっ、提督は心配性だな。今生の別れでもあるまいし』
『気持ちだけで十分だよ。ありがとう、提督』
『行ってきまーす♪』
提督「────ああ、行ってらっしゃい」
提督「……………………」
提督「………………ふぅ」
提督「皆行っちゃったなー……」
提督(時間は……まだ十二時にもなってないのか)
提督(……飯にはまだ早いな)
提督(この書類終わらせて、資料作ったら丁度いい時間になるか……?)
提督「…………よし、仕事仕事!」
提督「やることやっとかないと笑われるからな!」
提督「えーとこの日の戦果は…………で、開発結果は確か…………」
提督「ふむ…………」
提督「…………んー」
提督「………………」
提督(……静かだな)
提督(一人になるなんて何時ぶりだ?)
提督(そりゃあ今までだって一人になる時間はあったけど、それでも誰かが鎮守府に居る感覚はあったし……)
提督(何ヶ月……じゃきかないな。何年ぶり、か……)
提督(………………)
提督(……あ、間違えた)
提督(………………)
提督「────時雨ー?」
提督「…………居るはずない、か。当然だな」
提督(………………)
提督(ふっ、ふふっ……。何だか俺、馬鹿みたいだ)
提督「………………うん」
提督「……ちょっとだけ、寂しいな」
──────────────────
──────────────────
「────ん、何だい?」
「えーと、どこからどこまでって言われても……」
「今回は全部本当だよ? 演習だってちゃんと行われるし」
「うん、そうだね。提督のことは確かに心配だけど……必要なことだから」
「提督は皆が思っている以上に鋭いから、僕達が隠れたりしても何となく分かると思うよ」
「…………ふふっ、僕は一番付き合いが長いからね。……自慢じゃないよ?」
「……うん、いろいろ考えたんだけど、それしか方法がなかったんだ」
「僕だってなるべく薬には頼りたくなかったよ────っと」
「……………………ふふっ♪」
「────『寂しい』だってさ」
「嬉しいなぁ……♪」
提督「────終わったー……!」
提督(思ったより時間がかかったな……)
提督(飯、うーん……今から作るのは……)
提督「朝のカレー、残ってるかな……?」
投下終了。
それではまた。
長門「────こちら長門。……提督か?」
長門「ああ、そうだな。提督の言う通りもう少しで着く」
長門「…………ふふっ」
長門「ん? いや、深い意味は無いぞ?」
長門「提督が寂しさから連絡してきたかと思うと可愛くてつい、な」
長門「……ふっ、提督がそこまで言うのならそういうことにしておこう」
長門「他に何か用件は?」
長門「………………ああ、その資料なら棚の右側二段目にあるぞ。白いファイルだ」
長門「……他には?」
長門「…………別に何か用件が無くとも私は付き合うぞ? 提督のためならばな」
長門「ははっ、怒るな怒るな。ちょっとしたおふざけだ。たまにはいいだろう?」
長門「────ああ、……ああ」
長門「分かっているさ……また後で、な」
長門「………………ふぅ」
時雨「提督からかい?」
長門「ああ、資料の場所を聞かれたが……それはオマケだろうな」
長門「時雨の読み通り、寂しくなったんだろう。……末恐ろしいな」
時雨「……その言い方だと僕が計算高いみたいじゃないか」
時雨「『僕の読み通り』じゃなくて『皆の読み通り』だろう?」
長門「ふっ、そう謙遜するな」
時雨「あー、もうっ……、そういうのじゃないのに……」
時雨「まったく……」
長門「ふふっ……そうむくれるな。可愛い顔が台無しだぞ」
長門「…………それはさておきここからのことだが」
時雨「……そうだね、次に通信が来るとしたら演習前────夕方か、演習後────夜のどちらかだと思うんだ」
時雨「でもどちらも出ないよ。仮にそれ以外で提督から通信が入っても出ちゃ駄目だ」
時雨「代わりに深夜にこちらから通信を入れる」
長門「深夜? 提督が既に寝ていて出ない可能性もあるぞ?」
時雨「それについては大丈夫だよ。ちょっとだけ目が冴えるモノも入れておいたからね」
長門「……………………」
時雨「そんなに怖い顔で睨まないでおくれよ」
時雨「何度も説明したけど、人体への影響は一時的で後遺症も何も無い安全なモノなんだからさ」
長門「そもそもが違法な薬に安全も何もあるか?」
時雨「……ごもっともだね」
時雨「でもさ、皆がこれ以上……あと一年ないし二年も待つことが出来たと思うかい?」
長門「…………それは」
時雨「────僕は無理だよ」
時雨「今までずっと、提督のために頑張ってきた。最初は見返りも何も要らないと思ってたけど、流石にもう限界だよ。少し、ほんの少しでもいいからご褒美が欲しい」
時雨「────提督が欲しい」
時雨「────っと、ごめんよ」
時雨「こんな時に言うことじゃ無かったよね」
長門「……いや、そうでもない」
長門「何故そこまで頑張れるのか、ずっと疑問だったが……今やっと理解できた」
長門「……我慢していただけで、時雨も私達と同じだな。安心したよ」
長門「…………私も、そうだ」
長門「────提督に必要とされたい」
長門「…………こんな時に言うことでは無かったか?」
時雨「……ううん。そんなことないさ」
時雨「分かってくれて嬉しいよ」
時雨「………………楽しみだね、長門」
長門「────ああ、そうだな」
夕立「────お待たせー♪」
夕立「待ったっぽい?」
時雨「お帰り、夕立。全然待ってないよ」
長門「ちゃんと沈めてきたか?」
夕立「もっちろん!」
夕立「敵さん、戦艦も空母も居たけど頑張ったっぽい!」
長門「そうか、よくやったな……。偉いぞ」
夕立「万が一でも提督さんのところに向かったら大変なんだから、当然っぽい!」
夕立「でも褒めて褒めてー♪」
時雨「偉い偉い、夕立は凄いね」
夕立「えへへー♪」
投下終了です。
もう少しで本編が終わります。
予想以上にマイルドに終わりそうです。
それではまた。
寒い。
夕方頃からずっと、気持ちの悪い寒さに襲われている。
体が震えてしまうほどというわけではないが、その気持ちの悪さから思うように仕事は進まず、予定していた分量を残したまま早々に切り上げてしまった。
風邪をひいたかもしれないと思って熱を測ってみたが問題は無く、他の病気を考えてみるものの、鎮守府を無人にするわけにはいかないためそもそも病院等に行くことが出来ないということに気付いて諦めた。
ともかく、これ以上の悪化は不味い。
食欲は無かったが栄養を摂らない訳にもいかない。本日三度目となるカレーを無理やり胃に流し込み、自室のベッドに潜り込む。
この時点で時計は八時頃を指していた。
そして今、その時計は頂点を回ろうとしている。
眠れない。
もちろん体調の悪さというのもある。
しかしそれ以上に心配で仕方無いのだ。
枕元に置いた通信機はうんともすんとも反応を見せない。
あれから一度も、連絡が来ていない。
何か不測の事態が起こったのかもしれないと思い、本部に問い合わせてみたが、無事に到着して演習に参加したらしい。
彼女達から直接の連絡が来ないのは、何か理由あってのことなのだろう。
そう割り切ろうとしたはずなのに、当の俺はこうして彼女達からの連絡を待ち続けている。
こちらから連絡をしようと何度も思ったが、そのたびに龍田や夕立達の言葉が思い起こされて、直前で踏みとどまってしまう。
それらも含めて、今の自分が情けなくて仕方無い。
身体が弱ると精神も弱るとはよくいうが、今の俺が正にその状態だった。
寒い。
夕方頃からずっと、気持ちの悪い寒さに襲われている。
体が震えてしまうほどというわけではないが、その気持ちの悪さから思うように仕事は進まず、予定していた分量を残したまま早々に切り上げてしまった。
風邪をひいたかもしれないと思って熱を測ってみたが問題は無く、他の病気を考えてみるものの、鎮守府を無人にするわけにはいかないためそもそも病院等に行くことが出来ないということに気付いて諦めた。
ともかく、これ以上の悪化は不味い。
食欲は無かったが栄養を摂らない訳にもいかない。本日三度目となるカレーを無理やり胃に流し込み、自室のベッドに潜り込む。
この時点で時計は八時頃を指していた。
そして今、その時計は頂点を回ろうとしている。
眠れない。
もちろん体調の悪さというのもある。
しかしそれ以上に心配で仕方無いのだ。
枕元に置いた通信機はうんともすんとも反応を見せない。
あれから一度も、連絡が来ていない。
何か不測の事態が起こったのかもしれないと思い、本部に問い合わせてみたが、無事に到着して演習に参加したらしい。
彼女達から直接の連絡が来ないのは、何か理由あってのことなのだろう。
そう割り切ろうとしたはずなのに、当の俺はこうして彼女達からの連絡を待ち続けている。
こちらから連絡をしようと何度も思ったが、そのたびに龍田や夕立達の言葉が思い起こされて、直前で踏みとどまってしまう。
それらも含めて、今の自分が情けなくて仕方無い。
身体が弱ると精神も弱るとはよくいうが、今の俺が正にその状態だった。
『────提督さん、起きてるっぽい?』
待ち望んでいた声に、思わず体が跳ねた。
努めて冷静に言葉を絞り出す。
夕立からの通信は、連絡を寄越さなかったことの謝罪から始まった。
準備の後すぐに合同演習が開始となり、時間に余裕が無かったらしい。
夜も夜で、今度は夜戦が長引いてつい先程まで演習が続いていたとのことだ。
それならば仕方無い。
気にしなくていい、そう告げると夕立の嬉しそうな声が返ってきて、その声音に俺も微笑んでしまう。
続けて演習結果を聞こうと思ったのだが、夕立達も流石に疲れてしまったらしく、通信機越しに欠伸をする音が聞こえた。
かなり名残惜しかったが、俺のように体調を崩されては困る。二言三言の言葉を交わし、また後で、という言葉とともに通信は途切れてしまった。
しばしの余韻の後、思い出したかのように寒さが襲ってくる。
寒い。さっきより、ずっと。
無意識に通信機に伸ばしかけた手を、寸前で引っ込める。
ちっぽけなプライドだ。馬鹿馬鹿しい。
体を丸めて、暗闇の中で目を瞑る。
寒い。
寒い。
…………寂しい。
鳳翔「────こんばんは、提督」
鳳翔「初めまして、ですね」
時雨「……どうしてここに居るんですか?」
時雨「あなたには最後の詰めをお願いしたはずです」
「…………大丈夫です」
「私よりも適任な方が、向かってくれましたから」
時雨「……詳しく話してくれるんだよね?」
「ええ」
「────全て、お話し致しましょう」
投下終了。
二重投稿がありました。すいません。
次の投下で本編終了です。
エピローグ、番外編と続きます。
疑問点は質問にてお答えします。
それではまた。
……り、リアルが忙しくて。
もう少々お待ちください。
次の土・日には投下いたします。
────ふと気付いたら、俺は飯を食べていた。
提督「…………あれ?」
提督(今、何を考えていたんだっけ?)
提督(…………何か、何かとても大事なことを考えていたような……)
提督「……美味い」
提督(いやいや、悠長に食べてる場合じゃないんだけど)
提督(────ああ、くそっ。全く思い出せない……)
提督(……というか飯が美味くて困る。さっきから箸が止まらないし、考えることよりも食べることを優先してしまう)
提督(俺の好みを知り尽くしているかのような絶妙な味付けがされた料理の数々……こんな美味しい朝ご飯は『初めてだ』)
提督(………………初めて?)
提督(いや、そんなことはないはずだ)
提督(だってこれを作ってくれたのは────)
鳳翔「────お味はいかがですか?」
提督「ああ、鳳翔さん」
提督「『いつも通り』美味しいですよ」
鳳翔「ふふ、そうでしょうか? それは良かったです」
鳳翔「……頑張った甲斐がありました♪」
提督(美味しいって言っただけでこんなに喜ぶなんて、鳳翔さんは大げさだなぁ……)
提督(そんなこと『何回も言った』はずなのに……)
提督(………………)
提督(…………何回も?)
鳳翔「提督」
提督「は、はいっ! 何ですか!」
鳳翔「ふふっ、どうしてそんなに驚くんですか? 『何か考え事でもしていましたか?』」
提督「……いや、大したことじゃありませんよ」
提督「それよりも、おかわり、良いですか?」
鳳翔「はい、もちろん」
鳳翔「少々お待ちくださいね?」
提督「ええ、よろしくお願いします」
提督「………………」
提督「…………あれ?」
提督(今、何を考えていたんだっけ?)
──────────────────
──────────────────
────僕は、最後の最後で失敗した。
時雨「────提督っ!!」
提督「────うおっ?! ど、どうした時雨!?」
提督「────って、怪我してるじゃないか!」
時雨「そんなことはどうでもいいんだっ!」
時雨「あの人に────鳳翔さんに何かされなかったかい!」
提督「────鳳翔、さん?」
────何で鳳翔さんが出てくるんだ?
────……そう、言って欲しかったのに。
提督「────いや、特に何も……」
提督「『いつも通り一緒に』留守番していただけだぞ?」
時雨「──────っ!?」
時雨「そんな……どうして……!」
時雨「僕はどこで……ああ……」
提督「し、時雨っ!? やっぱり怪我が痛むのか!?」
提督「ほら、早くドックに行くぞ!」
時雨「……提督、ごめんね」
提督「何だかよく分からないけど、謝らなくていいから!」
────本当に、ごめんね。
────今までいろいろなことをやってきたけど、提督が提督で無くなるようなことはしないように、されないようにしてきたのに。
────最後の最後は、駄目だったみたいだ。
────本当に、ごめんなさい。
──────────────────
──────────────────
──────────────────
──────────────
──────────
──────
──
「────アタシはあんま気にしてねーな」
「結局は同類が一人増えたってだけだろ?」
「そりゃあやり方は褒められたもんじゃなかったけどな。それについてはケジメはしっかりつけてるし、少なくともアタシは文句なしだ」
「…………願い、ねぇ」
「ここ、結構居心地良いからさ、皆でそれなりに仲良くやれてりゃそれでいいよ」
「…………それに、悪いことばかりじゃなかったしな」
「わざわざ混ぜる必要が無くなったのは素直に嬉しかったよ」
「……はは、お前らもそのうち出来るって」
「まあとにかく、仲良くやろうぜ?」
「お前らを沈めることになったら苦労しそうだし、な」
「────私? そうねぇ……」
「どうでもいい、かなぁ?」
「ふふ、好きよ? だぁい好き♪」
「提督のこと、嫌いなはず無いでしょう?」
「死にたいなら、そういう遠回しな表現はやめて、『殺してください』って言ってね?」
「次は無いから」
「…………不思議な事を聞くのね」
「例え何が変わろうとも、提督は提督でしょう?」
「私は『提督』を好きになったんだから♪」
「貴女達も、そうでしょう?」
「────オレは結構複雑だな」
「ああ、それな。手段としては悪かねーよ。時雨の策は後々が長くて大変だっただろうしな」
「あ? そんな簡単なこと聞くなよ」
「お前らは『こんな提督は提督なんかじゃない!』って自分の理想を押し付けんのか? 違うだろ?」
「複雑なのはあの人を尊敬出来るかどうかって話だよ」
「……おいおい、よく考えてみろよ?」
「摩耶を力で、時雨を頭で抑えたんだぞ? 単純に凄いだろ?」
「…………はっ、確かにそうかもな」
「でもよ、一つ言っておくぜ?」
「うちの鎮守府に、怖くない奴なんていねぇからな?」
「────嫌い」
「今はもう落ち着いたけど、時雨がずっと悲しんでたもん」
「……それは違うっぽい」
「立ち直ったのは時雨自身の力で、夕立は何もしてないっぽい」
「…………ごめん、ちょっと嘘ついちゃった」
「正確には、『何も出来なかった』の」
「悔しかったから、頑張って強くなったぽい」
「だから、隙を見付けたら沈めたいんだけど……提督さんが悲しんじゃうから……むぅー……」
「うん、提督さんが悲しむことはしないっぽい♪」
「二人も、そんなことしたら沈めるからね?」
「────発言は控えさせていただこう」
「なに、どんな言葉でも言い訳にしかならんからな」
「流されるまま……と言うと聞こえは悪いが、私はこの現状を受け入れるだけだ」
「不満は無い」
「提督はそれなりに楽しそうだし、私達もしっかりと時間が割り振られている」
「これ以上は罰が当たるというものだ」
「……ふっ、正妻というのは飾りにしかならん」
「私の自尊心を満たすものでしかないさ」
「そんな実用性の無いものでも、どうしても欲しいというのなら……」
「勝とうとしないことだ。無論私にもな」
「────とても意外です」
「もっと嫌われていると思っていましたから」
「そもそもおかしい話だとは思うのですけれどね」
「時雨さんの、提督の精神状態を不安定にして依存させる策と、私の、記憶を植え付ける策、あまり変わらないと私は思っていますから」
「薬は確かにそうですね、リスクはありました」
「でも、提督ですよ?」
「それも、私が愛している提督です」
「薬で壊れるはずがありません。現にそうですよね?」
「……ふふ、狂っていますか?」
「貴女達も大概ですよ? 川内さん、古鷹さん」
「ずっと、考えていたんだ」
「どうすれば、提督に償いが出来るのかって」
「…………僕がそばに居るから」
「健やかなるときも」
「『病める』ときも」
「喜びのときも」
「悲しみのときも」
「富めるときも」
「貧しいときも」
「提督を愛して」
「提督を敬って」
「提督を慰めて」
「提督を助けて」
「僕の命ある限り」
「真心を尽くしてそばに居るから」
「ずっと、ずぅっと、一緒だよ」
「…………ふふっ♪」
どこかの海の
どこかの鎮守府
それぞれに事情はあれど
さまざまな思惑はあれど
そこに居る『9人』は
幸せそうに笑っている
提督「怜悧盲目」 完
これにて終了です。
長い間お付き合い頂きありがとうございました。
リアルの事情により修羅場編はまたいつかでお願いします。申し訳有りません。
そして文章力の無さにより分かりにくい、分からない部分が多々有ったと思われます。
質問がありましたらお答えしますのでお書き下さい。
皆様ありがとうございました。
回想に出て来た初期の頃(時雨しか居なかった頃)の鳳翔さん→榛名
合同演習の夜に時雨の所に来た艦娘→榛名
合同演習の夜に提督の所に来た艦娘→鳳翔さん
以降、提督の鎮守府に居る鳳翔さん→鳳翔さん
という感じです。
元帥の所には榛名が居ます。鳳翔として。
提督が元帥の榛名を鳳翔として見ていたのは、単純に出会った時に鳳翔と名乗られて、周りもそれについて何も言わなかったからです。
この世界では提督になる人が艦娘全員の名前と顔を知っているわけではないので、知識がない限り疑うという選択肢が出て来ないという感じです。
元帥? 彼は榛名による刷り込みの結果、みーまーのまーちゃんのごとく、口調などの条件が揃えば誰でも鳳翔さんに見えてしまうようになりました。
ちなみに提督は鳳翔さんの『お薬』と『お話』により、記憶が混濁・追加されています。
具体的には初期の頃の榛名と居た記憶→鳳翔さんと居た記憶になり、それ以降の記憶に鳳翔さんが度々出てくるようになっています。いわゆる月島さんのおかげ状態です。
これを文章に盛り込む力は私には有りませんでした。申し訳ないです。
修羅場編は書かないと言いましたが……
あれは嘘です。
やっぱり書きます。
マイルドじゃないですし、流血表現の可能性も大いに有りますので、苦手な方はお気をつけ下さい。
それではまた。
ヤンデレというか狂い度マシマシといいますか……そんな感じです。
キャラ崩壊アンド口調注意です。
もし皆が仲良くなかったらというイフで、日常の一コマを切り張りします。
夕立・時雨verどうぞ。
提督「────ん……?」
提督「…………ああ、またか」
提督「おい、起きろ夕立」
夕立「…………むぅ……ぽぃ……?」
提督「寝ぼけてるな? もう朝だぞ、ほら起きろ」
夕立「……んー……んっ」
夕立「────提督さん、おはよ♪」
提督「おう、おはよう」
提督「また布団に潜り込んだな? あれだけ止めろって言ったのに……」
夕立「ぽいぃ……ごめんなさい……」
夕立「でもでも! 今回は怖い夢見ちゃったんだから仕方ないっぽい?」
提督「……今回は?」
提督「お前いっつも怖い夢を見たって言って潜り込んで来るじゃないか」
夕立「……そ、そうだったぽい?」
夕立「あっ、でも二度有ることは三度有るって言うから!」
提督「お前の場合二回三回の話じゃないだろ……まったく……」
提督「……で、今回はどんな夢だったんだ?」
夕立「……それ、聞いちゃうの?」
提督「まあ一応な」
提督「それともやっぱり嘘なのか? あー、夕立に嘘つかれるなんて傷つくなー……」
夕立「ぽ、ぽいっ?!」
夕立「えーと、えーと……」
夕立「────そうっ、今回見たのは犬に襲われる夢っ!」
夕立「黒くて青い目をした犬に襲われたの!」
提督「……犬の喧嘩か?」
夕立「夕立は犬じゃないっぽい!」
提督「お手」
夕立「わふっ♪」
提督「ノリの良い奴は好きだぞー、よしよし」
夕立「えへへ♪」
提督「────っと、朝から遊びすぎたな」
提督「もうこんな時間だ」
夕立「それじゃあ朝ご飯食べに行く?」
提督「もちろん。ただその前に着替えてからな」
夕立「夕立も着替えるっぽい!」
提督「はいはい、ここで脱がない」
提督「部屋に戻ってちゃんと着替えてこい。分かったな?」
夕立「むぅー……」
夕立「夕立は気にしないよ?」
提督「気にする気にしないの問題じゃないんだよ」
提督「それにそもそも、俺の部屋にお前の着替えが有るはずないだろ?」
夕立「………………」
夕立「────確かにそうっぽい」
提督「だろ? 分かったら早く行って着替えてこい」
夕立「うんっ!」
夕立「それじゃあ提督さん、また後でねー♪」
提督「ああ、食堂でなー」
時雨「楽しそうだね、夕立?」
夕立「……ああ、時雨」
夕立「廊下で盗み聞きするなんて、良い趣味してるっぽい?」
時雨「ふふ、川内ほどじゃないさ」
時雨「……それにしても約束を破るのは頂けないな」
時雨「皆だって我慢してるんだからさ、夕立も自重しようね?」
夕立「自重?」
夕立「────あはっ♪ 文句があるなら言葉じゃなくて実力で語って欲しいっぽい」
時雨「…………」
夕立「そんな顔をしても、夕立は夕立の好きにするんだから」
夕立「────あ、それとも羨ましいから交ぜて欲しいの?」
夕立「でもでも、それは難しいっぽい」
時雨「…………?」
夕立「だって────」
夕立「『黒くて目が青い犬』は凶暴だから、提督さんに何をするのか分からないでしょ?」
夕立「あはっ♪」
時雨「…………ふーん」
時雨「なるほど、そう来るんだ」
時雨「だとしたら実に光栄なお話だね」
夕立「……ぽい?」
時雨「そうだろう?」
時雨「────『ソロモンの悪夢』に怖れられるなんて、さ」
時雨「ああ、それに悪夢が悪夢を見るだなんて、随分とユーモアがあるじゃないか。感心したよ」
夕立「…………へぇ」
夕立「またボロボロにしてあげよっか」
時雨「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
夕立「……冗談? 時雨が勝ったことって無いはずだけど」
時雨「次もそうとは限らないだろう?」
時雨「君が一生懸命尻尾を振ってる間、僕が何か対策を講じていなかったとでも思うのかい?」
夕立「ふーん……」
夕立「弱い犬ほどよく吠えるっていう言葉、知ってる?」
夕立「この前みたいに叩き込んで────」
提督「────おっ、夕立。……あれ? まだ着替えてないのか?」
夕立「……提督さん」
時雨「おはよう、提督」
提督「おう、おはよう。時雨も食堂に行くところか?」
時雨「うん、そうだよ」
時雨「『夕立はまだ着替えてないみたいだし、どうしよっか? 僕と一緒に行くかい?』」
夕立「あっ…………!」
提督「そうだなぁ……腹も減ってるし……」
提督「夕立、先に行ってても良いか?」
夕立「そ、それは……」
夕立「……うん、いいよ。すぐに夕立も行くから」
提督「よし、それじゃ決まりだな」
提督「行くぞ、時雨」
時雨「ふふっ、それじゃ行こうか」
夕立「…………っ!」
時雨「ああ、そういえば夕立────」
時雨「着替え、すぐに見つかるといいね」
時雨「────じゃあね。食堂で『提督と一緒に』待ってるから、『ゆっくり』来なよ」
提督「時雨ー? どうかしたのかー?」
時雨「何でもないよー、今行くからー」
時雨「────ふふっ♪」
夕立「────あは」
夕立「あははっ、あはっ、あははは♪」
夕立「………………」
夕立「やっぱり沈めよっと」
投下終了です。
え、修羅場じゃないって?
メインディッシュは後でしょう?
それではまた。
(デザートもあります)
──────とある日の食堂──────
提督「────いつ食べても美味いな」
摩耶「……そんな褒めても何も出ねえぞ?」
鳳翔「摩耶さん、こういった言葉は素直に受け取るものですよ?」
提督「そうだぞ、摩耶。茶化してる訳じゃなく、本当のことなんだからな」
摩耶「い、いいからさっさと食え! 冷めるだろうがっ!」
摩耶「鳳翔! アタシは先に戻ってるからな!」
鳳翔「はい、分かりました」
鳳翔「今日は用事がありますから、『早く』済ませて下さいね」
摩耶「……おう、分かったよ」
提督「おーい、摩耶ー?」
摩耶「……あ? 何だよ?」
提督「いつもありがとな」
摩耶「…………ばーか」
摩耶「そういうのいいから、早く食えっての……ふんっ」
提督「……………………」
提督「怒らせてしまいましたかね?」
鳳翔「ふふっ、あれは喜んでいるんですよ」
提督「そうですかね? そうならいいんですけど……」
鳳翔「そんなに心配せずとも、大丈夫ですから」
鳳翔「……それよりも、お代わりはいかがですか?」
提督「あ、お願いしますっ」
提督「────それにしても摩耶がこんなに料理上手になるなんてなぁ……」
鳳翔「もともと素質は悪くありませんでしたから」
鳳翔「極意を教えてからはそれはもう目覚ましい成長を見せてくれましたよ?」
提督「料理の極意ですか……それはずばり?」
鳳翔「食べて頂く人のことを考えること、です」
提督「……鳳翔さんらしい言葉ですね」
鳳翔「……そうでしょうか? ……いえ、きっとそうなんでしょうね」
提督「鳳翔さん? どうかしましたか?」
鳳翔「いえ、何でもありませんよ」
鳳翔「もうお代わりはいいですか?」
提督「えーと、それじゃあ後一口分だけ……」
鳳翔「はい、どうぞ」
提督「ありがとうございます…………やっぱり美味い」
提督「この『トマトスープの酸味』に『骨付きのお肉』がとても合ってますよね」
鳳翔「あまり取れない食材をふんだんに使用した料理ですから……」
鳳翔「味わって食べて下さいね?」
鳳翔「────ふふっ♪」
摩耶「────修復材、修復材っと」
摩耶「……ふぅ……」
摩耶「一瞬で元通りになるんだから、すげえよなぁ……」
残りの三名は諸事情でカットします。
理由としましては日常場面として切り取れないからです。
龍田→提督を神格化。聖餐シーンを書くのはちょっと……。
天龍→考えを合理化。徹底して書いてみたら頭がおかしくなりそうでした。
長門→独占固執。ハッピーエンド(監禁)ですが日常ではないので。
それでは最後のデザートを投下します。
内容としましては提督がどれだけ幸せを噛みしめているかという説明で、短いです。
裏の意味は無いです。
無いです。
俺は今、幸せに包まれていると断言出来る。
例えば朝。
目が覚めると時雨と夕立が側にいる。
先に起きていたり、まだ眠っていたりと場合は様々だが、起きていれば「提督の寝顔を見ていたんだ。……駄目だったかな?」と、微笑みを携えた天使を見れるし、眠っていても「んっ……てーとくさん……だいすきっぽい……」と、何とも可愛い寝言を聞くことが出来る。
一緒に起きて食堂に向かう。
それが自然であるかのように手を握られて、両手に花の状態で廊下を歩くのは、いつだって嬉しいものだ。
俺の朝は幸せに包まれている。
例えば昼。
日替わりで艦娘達が食事を作ってくれる。
どれも美味しいものではあるが、特に摩耶の作るものは絶品だ。初めの頃はそれなりに美味しいという程度でしかなかったのだが、今では間違いなく鎮守府一の腕前になっている。何を入れればこんなに美味しくなるんだ、という俺の問いに、摩耶はそっぽを向きながら「…………愛情」と答えてくれた。お互い顔が真っ赤になったのは良い思い出だ。
摩耶に限らず皆が、こっそりと一品おまけしてくれることがある。
それぞれの『他の人には内緒』の仕草が、個性に溢れていて実に飽きない。本日の摩耶は耳元で「提督だけだぜ?」と囁いてくれた。
俺の昼は幸せに包まれている。
例えば夕方。
俺の書類仕事を手伝ってくれるのが、天龍と龍田だ。
本日一日の出来事を記録する作業が主になるのだが、二人が居るのと居ないのとでは、作業効率が段違いになる。それは夕方までの出撃や演習や遠征の間、二人があらかじめ要点を抑えて文章を考えてきておいてくれているのが大きい。苦ではないかと聞いたことがあるが、「……面倒なことは早く終わらせた方がいいだろ?」「そうよね、提督とお話する時間が短くなっちゃうもんね」と返された。
天龍が、オレは別に話したい訳じゃない、と言っていたので、部屋に戻って早めに休むよう伝えたところ、何とも言えないような表情で龍田を見ていた。龍田は楽しそうに笑い、結局しばらくの間三人でお喋りに興じた。
俺の夕方は幸せに包まれている。
例えば夜。
自室、あるいは食堂で長門と酒を飲む。
長門は多くを語らず、基本的には聞き役に徹してくれる。相槌を返し、考えを述べ、俺が結局どうしたいのかを自覚出来るよう、話を上手く誘導してくれるのだ。
そんな長門でも饒舌に語ってくれたことがある。戦いが終わったらどうするのか、という仮定の話をしたときだ。最初は言葉少なに切り上げようとしていたのだが、繰り返し尋ねると観念したのか、もしもの話だという前置きを置いて自身の夢を語ってくれた。意外にも乙女なその内容に、途中で我に返った長門から「……頼む、忘れてくれ」とお願いされたのだが、忘れる気は毛頭無い。彼女の夢が叶うよう、頑張らなければいけないと気を引き締めた。
俺の夜は幸せに包まれている。
そうやって一日が過ぎていく。
明日も、明後日も、こんな幸せな一日が続いていくに違いない。
ああ、そうだ。
俺は今まさに、幸せに包まれているのだ。
全投下終了です。
最後はハッピーエンドが一番ですよね。
それではまたどこかで。
お付き合いありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
多種多様なヤンデレと言うのも中々良いものだ
やべぇよ...やべぇよ...
(摩耶の)朝飯、食ったから...
素晴らしい
メンヘラとは一線を画す正しいヤンデレである
これは期待。
ヤンデレは読んでて難しい
最高ですね!面白いです!
ここの提督は本当に「優しく」「漢らしい」のか。
オレにはこいつ自身が一番ゆがんでいる気がするが。
続きが気になる、じわじわと逃げ場がなくなっていくのが面白い!
追い詰められてるのは時雨達も同じだし、なんとか2ヶ月後を迎えることが出来れば提督だけは無事で済むけど、さて
艦娘のチョイスが完全に俺得w
しかもどのヤンデレも好みのタイプだし、更に面白い。
これからが楽しみ。
乙です( ̄^ ̄)ゞ
自己満足型の文章だが、きちんとendにもっていったことは評価する。
今回はエタらなくて本当によかった。