もし小泉さんが主人公だったら 【ダンガンロンパ2】 repeated despair part2 (1000)



もし小泉さんが主人公だったら REPEATED DESPAIR part2


ダンガンロンパ2




※注意



<重要!!>本編だけでなく1週目の重大なネタバレがしょっぱなからあります。
下に貼ってあるリンクのパ―ト1から6まで読破できていない人は、このスレをすぐに閉じることを切に推奨します。


part1→ もし小泉さんが主人公だったら 【ダンガンロンパ2】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1404917911/)



part2→ もし小泉さんが主人公だったら 【ダンガンロンパ2】 part2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1406974060/)



part3→ もし小泉さんが主人公だったら 【ダンガンロンパ2】 part3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408702032/)



part4→ もし小泉さんが主人公だったら 【ダンガンロンパ2】 part4 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1410084963/)



part5→ もし小泉さんが主人公だったら 【ダンガンロンパ2】 part5 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1411466402/)



part6→ もし小泉さんが主人公だったら 【ダンガンロンパ2】 part6 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1412775904/)



part7→ もし小泉さんが主人公だったら 【ダンガンロンパ2】 repeated despair - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1414329511/)


・これは、ス―パ―ダンガンロンパ2の二次創作です。


・小泉が主人公のIFの世界なので、島の構造やキャラの性格が微妙に違ったりするかもしれません。


・2週目は非日常編が存在しないので、基本ギャグ&ほのぼのだけです。絶望したい人向けではありません。


・(主人公含め)キャラ崩壊があります。キャラのイメ―ジを壊したくない人はご注意ください。


・エログロは(基本的には)ないですが、ラッキ―スケベはあるかもよ。


・カップリング要素が存在するキャラが数組あります(半数程度)。そういうのが嫌いな人は要注意。


・この小泉さんは日向クンにはなびきません。ヒナコイ派の人は要注意です。


・他にも、『これ、おかしくね?』みたいなところがあるかもしれませんが、希望があれば大丈夫だよね!!


それでもダンガンロンパ2が好きだぜ!!という人は見てやってください。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1418741937



モノクマ「今日から、こっちのスレで更新が始まるよ。」

モノクマ「逆にいうと、このスレが立った後にも、前スレでスト―リ―が更新されているからね。」

モノクマ「もし前スレの更新に気づいてない人がいたら、注意してね。」

モノクマ「後、前スレを埋めるのに協力願いたいね!!」




77「…攻めあるのみ、かぁ。」

64「あれぇ?小泉おねぇ、もしかして辺古山おねぇの言葉に感化されちゃったの?」

77「えっ。いや、そういうわけじゃ…。」


64「じゃあ、こういう水着はどう?」

77「これは…えっ!?」


64「いわゆる、マイクロビキニって奴だね―!!」

77「えええぇえええええっ!!!?な、なんでこんなものがあんのよ、ココ!!」

77「しかもこれ、い、いくらなんでも布地がなさすぎでしょ!!ペコちゃんのがかわいく見えるくらいよ!!」

64「だってぇ。小泉おねぇ、今夏は攻めで行くんでしょ?じゃあ、これくらいはしないと!!」

77「今夏って、ジャバウォック島は常夏の島でしょうが!!」


64「心配いらないって!!だって水泳大会に参加するのは女子だけだしさ!!」

77「で、でも…噂を聞きつけたエロ男子共が湧いてくるかもしれないし…」

77「そ、それに、アタシなんかがこんな派手な水着を着るなんてできないよ!!」

77「『アイツ、何頑張っちゃってんの?』って思われちゃうじゃん!!」

77「だ、だって、アタシ、その…身体が貧相で有名で…。」

77「皆の目を汚しちゃうよ…。」

77「だからアタシには、地味な水着がお似合いかなって思ったり…」

64「ふ~ん…。下着は派手なくせに?」

77「それとこれとは話が別!!」


64「そっかそっか…。小泉おねぇはそう言ってるけど。」

64「アンタはどう思う?」


84「…」


64「アンタだよ、そこの84!!」

77「え、84?そんな胸囲の人、いたっけ?」





狛枝「はは…。参ったな。隠れていたつもりなのに。」

小泉「えっ…!?こ、狛枝!?い、いつからそこに!?」

西園寺「最初っからいたよ、そいつ。わたしたちがマ―ケットに入る前から、ずっと。」


小泉「じゃ、じゃあアンタ、ずっとアタシ達の会話を盗み聞きしてたの!?」

狛枝「あはは…。意図して盗み聞こうとしたわけじゃないよ?」

狛枝「ボクは用があってここに来たんだけど、そこで女子たちがわんさか集まってきてさ。」

狛枝「女子たちの横を通り過ぎるのもはばかれるから、ほとぼりが冷めるまで隠れていようって思ってたんだ。」

小泉「ふ~ん。」

狛枝「信用してない?」


小泉「ま、いいわ。一応、アンタの言葉を信じといてあげる。」

狛枝「はは、ありがとう。女子達に変な噂を立てられたら、社会的に死んでるところだよ。」

西園寺「お前は既に死んでるだろその意味では…」

小泉「ちなみに、左右田とか花村とかだったならしばいてるところだけどね。」

狛枝「しばく!?」




西園寺「というわけで、わたし達の会話を盗聴してたことをバラされたくなかったら、質問に答えろ!!」

狛枝「え?質問って何?」


西園寺「この水着を着ている小泉おねぇを、アンタは見てみたい?」

小泉「ほぇっ!!!?な、何を聞いてんのよ日寄子ちゃん!!!?」


狛枝「う~ん。女性の水着姿には、基本的に希望が詰まっていると考えているけど。」

西園寺「煮え切らないな。そんな返答でわたしが納得するとでも?」

狛枝「えっと…。コレ、答えないといけないのかな?」

西園寺「答えなかったらアンタは社会的に死ぬ。」

狛枝「参ったね、これは…。」

小泉「え、えっと、その、狛枝…。む、無理に答えなくてもいいのよ?」

小泉「そ、それに、アタシにはこんなの似合わないってのはわかってるし…。」


西園寺「はいこれ、狛枝おにぃ。」

狛枝「え?」

小泉「…ん?今日寄子ちゃんが狛枝に渡した栗みたいなの、何?」

狛枝「…」





狛枝「素晴らしいよ!!」

小泉「へっ!!!?」


狛枝「極限にまで露出度の高い水着を着ている小泉さん。」

狛枝「素肌がほとんどあらわになることで、貧相と見せかけて絶妙に均整のとれたボディラインが発掘される悦び!!」

狛枝「アイツって実はけっこうエロい体してるよな~。みたいなね!!」

小泉「な、な、な、な…!!!!!」


狛枝「そして大胆な水着を勢いで着てみたはいいものの、冷静に自分の状況を再確認してしまって。」

狛枝「身体を手で隠してモジモジしながら!!」

狛枝「キュ―トなそばかすのある顔を真っ赤に染めて恥らっている小泉さんを、ボクは見てみたい!!!!」

狛枝「これが、希望なんだね!!小泉さんの水着姿に眠る希望!!」

小泉「…」


西園寺「小泉おねぇ、既に顔が真っ赤だけどね。」

西園寺「小泉おねぇの体温が急上昇しているのか、小泉おねぇの周りだけ湯気が立っているよ。」

西園寺「言いたいことを一気に捲したてられたから小泉おねぇ、一言も言い返せずに押し黙ってる―!!」

西園寺「はい、じゃあ狛枝おにぃ。栗を返してね。」


狛枝「…はっ。ボクは今、何をして…?」




小泉「…」

狛枝「あれ…。小泉さんが、なぜかボクをにらみつけている。もしかして今、ボクってかなりピンチ?」


西園寺「小泉おねぇ、狛枝おにぃに対して言いたいことがあるなら言っておけば―?」

西園寺「あっ。狛枝おにぃを処刑するなら、わたしも参加させてよね―!!」

狛枝「処刑!?ボク、なんか悪いことしちゃった!?」

西園寺「いわゆるセクハラだね!!ほら、やっちゃえ小泉おねぇ!!」


狛枝「セクハラ?あはは…。よくわからないけど、お手柔らかに頼むよ小泉さん。」

狛枝「パンチの1発や2発くらいなら、ボクは全然平気だからさ。」

小泉「…」




小泉「え、えっと。狛枝は、アタシの…」

狛枝「え?」


小泉「その、楽しみにしてくれるの?」

狛枝「何を?」


小泉「何をって…まさか、アタシに言わせるつもり!?」

狛枝「だから、何の話さ?」


小泉「…サイッテ―。そんな男だとは思わなかったわ。ふんっ。もう知らない。」

狛枝「意味が分かんないよ…。」


西園寺「小泉おねぇの反応も、ぶりっ子みたいでつまんな―い。いかにも、恋する乙女です!!なんて言いたげな感じで!!」

西園寺「もっとこう、血なまぐさい展開を期待してたのにさ!!」

小泉「日寄子ちゃんは日寄子ちゃんで、何を言ってるのよ!?」




小泉「と、とにかく、この話は終わり!!狛枝も、さっさとどっか行って!!」


狛枝「わかったよ。ボクみたいなクズは、そもそも小泉さんの視界に入る事さえおこがましかったよね…。」

小泉「もう、そうやって自分を卑下するのもやめてよ…。」

小泉「アタシにとってはアンタも、他の皆と変わらない仲間なんだからね。」


狛枝「へぇ。人を殺そうとしたり、その罪を被せて監禁してきたりした人間を、小泉さんは人並みに扱ってくれるんだ。」

狛枝「やっぱり小泉さんは優しいや。さすがは“超高校級のおか」

小泉「久々だけどムカつくわねそのネタ!!」




小泉「アタシは別に、アンタを責めるつもりはないよ。1人も犠牲が出ていない、今のところはね。」

小泉「だからこれからも、アタシはアンタと交流してみるつもりよ。」

小泉「アンタの考え方とか、価値観を…もっとたくさん聞いてみて、なんとか理解してあげるつもり。」

小泉「その上で、狛枝に教えてあげるのよ。16人の仲間がそろっている喜びをね。」


狛枝「…ふうん。仲間が誰も欠けないことが、小泉さんにとっての希望…ってことかな?」

小泉「少し違うかな。それを、アンタに知ってもらう事こそがアタシの希望よ。」

狛枝「そう…。じゃあ、ボクにも教えてほしいものだね。」


狛枝「そんな生ぬるい考え方で、“絶対的な希望”を本当に生み出せるのかをね。」

小泉「…」







西園寺「何アイツ。言ってることがさっぱり分かんないよ。小泉おねぇにはわかってんの?」

小泉「う~ん。正直言って、半分も理解できてるかどうかわかんないよ。」

小泉「長い間、狛枝と接してきたはずなのに…。」

西園寺「え?」


小泉「でも…理解できないからって、放っておいちゃダメだよ。ちゃんと、向き合わなきゃ。」

小泉「じゃないとまた、事件が起こったりするかもしれないからね。」

西園寺「…ほんっと。小泉おねぇはお人好しだね。ま…そこが小泉おねぇの良い所なんだけど。」




西園寺「とりあえずわたしはもう、水着を選び終わっちゃったけど。」

小泉「えぇっ!?いつの間に!?ってことは、未だに選べてないのってアタシだけ!?」

西園寺「ちなみにわたしのは、これだよ―!!」


小泉「えっ…。なにこれ。これっていわゆる、スク―ル水…」

西園寺「これしかわたしのサイズに合う水着がなかったんだよ!!ここの品ぞろえが悪いせいで!!」

小泉「しかもこれ、名前のところに『ひよこ』って書いてある…。誰の仕業よ?」


西園寺「小泉おねぇもわたしと同じ水着を着る?お揃いだよ―!!」

小泉「あはは…。アタシは、ちょっと遠慮するよ。」




小泉「でも、日寄子ちゃんも選び終えちゃったのか…。じゃあ日寄子ちゃん、先に帰ってていいよ?」

西園寺「え―。小泉おねぇが選ぶまで待ってるよ―。」

小泉「アタシ、まだまだ時間がかかりそう。1つ1つの水着を入念に吟味しないと。」


西園寺「小泉おねぇ…。澪田おねぇよりも張り切ってない?何が小泉おねぇをそうさせるの?」

西園寺「もしかして、男が原因…?」

小泉「お、男!?ち、違うって!!なんでそっちに話を持ってくのよ!!そもそも男子は参加しないんだって!!」

西園寺「じゃあ、そこまで張り切る必要もないじゃ―ん!!!!」


小泉「だ、だって…。アイツが、アタシの…その、水着姿を、見たいって…」

小泉「あ、違うの!!期待に応えたいとか、ほめて欲しいとか、そういうわけじゃないの!!」

西園寺「やっぱり男じゃねぇか…。」




西園寺「とにかく、小泉おねぇが選び終わるまでわたしは待ってるよ。」

西園寺「わたしには、小泉おねぇが必要なんだって。着付けしてくれるの、小泉おねぇだけなんだから。」

小泉「え…?どうして着付けが必要なの?」


西園寺「決まってんじゃん。服の下に水着を着るためだよ―。」

小泉「服の下に…?唯吹ちゃんと同じように?どうして?」


西園寺「だってコテ―ジで水着に着替えたら、ダイナ―に行くまで水着姿をさらさないといけないんだよ!?」

西園寺「スク―ル水着を、男たちの面前で!!」

小泉「た、確かに…。」




小泉「あ。じゃあ、ビ―チハウスで水着に着替えたら?それなら着付けも必要ないし、男子共に見られる心配もないよ。」

西園寺「あ、それは名案だね!!確かこの前モノミが、ビ―チハウスでなら着替えてもいいとか言ってたし!!」


小泉「なら決まりね。アタシのせいで日寄子ちゃんを退屈させちゃったら悪いから。」

小泉「アタシはここで、時間をかけてじっくりと検討を続けるよ。」

小泉「だから日寄子ちゃん。水泳大会まで一時解散だね。」


西園寺「え―。わたし1人でダイナ―に集まるのは嫌だよ。小泉おねぇ以外の女共の黄色い声なんて聴きたくない!!」

小泉「じゃあ、集合時間の30分前にはアタシもビ―チハウスに行くからさ。それでいいかな?」

西園寺「わかったぁ!!じゃあ、小泉おねぇも頑張ってね!!健闘を祈るよ―!!」

小泉「はは…。」







『受け身になっていては、相手の心はつかめない。』

『意中の相手を手中に収めたいのなら…ただ、攻めあるのみだ。』


小泉「攻め…攻め…攻めと言ってもこんなのを着てたら、ちょっと動くだけで水着がずれちゃうじゃない!!」

小泉「こんな派手な水着を着て行って、皆にどう弁解すればいいのよ…。」


小泉「でも…あの名言を参考にすると、これくらいの危険を冒さないといけないのかな。」

小泉「その先を追及してこそ、栄光を得られるのかも…。」

小泉「…」


『こ、小泉さん。大胆だね…。でも…似合ってる。今の小泉さんから、ボクは希望を見出せそうだよ。』


小泉「えへへ。そんなにほめないでよ。恥ずかしいって…。」

小泉「いやいや待て。そんな肯定的に相手がとらえてくれるかどうか。」

小泉「ひょっとしたら、過激すぎて幻滅されちゃうかも…。」


『えっ…。あはは。なんてハレンチな姿なんだ。寄らないでくれるかな。視界に入れたくないんだ。』


小泉「やめて!!そんなこと言われたらアタシ、もう2度と立ち直れない!!」

小泉「う~ん。やっぱりアタシには、控えめのコレなんかが似合うのかな…?」


『はぁ。今の小泉さんには、女性としての魅力が一切感じられないよ。そんな姿を希望とは呼べないね。』


小泉「何よ!!せっかくアタシが頑張って選んだんだから、少しはほめなさいよ!!」

小泉「う~ん。う~ん。う~~~~ん……」




2時30分前

―2の島―


小泉「やっぱりアタシには、マイクロビキニなんて似合わないって。」

小泉「この地味な水着あたりがアタシにはお似合いよ。」

そう言ってアタシは、手に持っている地味な水着をなんとなしに眺める。


小泉「全く、今までのアタシってなんであんなにバカだったの?」

小泉「そもそも、水泳大会に男子は誘ってないんだってば。」

小泉「どんな水着を着ても、アイツがアタシの水着姿を見ることはないよ。たぶん。」

小泉「だからアタシが、あんな恥ずかしい水着を着るわけが…。」

小泉「…」




小泉(普段着の下に、例の水着を着て来ちゃった…。)

小泉(このままダイナ―に行けば、アタシは…)

小泉(…)


小泉(いやいやいやいやいや!!やっぱり無理!!やっぱり無理!!着替えよう!!地味な水着に着替え直そう!!)


小泉(全く、何を考えてるんだアタシは。いくらなんでも悪ノリが過ぎるって。)

小泉(確かに前回は九頭龍との件のせいで、水泳大会に参加することすらできなかったけど。)

小泉(ちょっと心がはしゃぎ過ぎてんのよね…。)

小泉(とにかく…早くビ―チハウスに行って、着替えよう。日寄子ちゃんも待っているはずだし。)


そうしてアタシが、ビ―チハウスのドアを開けると…




―ビ―チハウス―



「来たな…。」


小泉「…」



小泉「えっ?」




今日はここまで。




クリスマスプレゼント。真昼ちゃんが攻めすぎたようです。受けの方向に攻めすぎて、恥ずかしくなっているようです。

ツッコミどころはいろいろあると思いますが温かい目で見てね。

需要があれば全身絵も…



http://i.imgur.com/1vbCii9.png



小泉「ど…どどどうかな…?」

西園寺「うわぁ…小泉おねぇ、ホントにそれ着ちゃったの?」

小泉「えっ!?だ、だって、日寄子ちゃんが勧めるから…!!」


澪田「限度というものがあるっしょ…。」

終里「小泉も誰かを接待すんのか?オレも昔はそういう店で働いて…」

ソニア「女子力というよりも女の力ですねこれは!!」

辺古山「ま、負けた…。」

小泉「わ~ん!!恥ずかしい!!早く着替えないと!!こんな姿を男子に見られでもしたら…!!」


左右田「ソニアさ~ん!!オレ達も混ぜて…」

狛枝「あれ、小泉さん。その格好…」


小泉「いやぁああああぁあああああああ!!!!!!」


黒歴史確定





小泉「あ、あれ…?」

小泉「な、なんで、アンタ…。」


あまりの驚愕に、うまく舌が回らない。

理解できない物事に対する驚きではない。

むしろ理解できないはずの事象を、なぜか理解できてしまうことに対してアタシは…怯えているのだ。


デジャヴ…?違う、間違いなく1度は体験したことがあるはずだ。

これからアタシに降りかかるであろう災厄に対する、言い知れぬこの恐怖を。


1度は体験したことがあるにも関わらず、もう2度と体験しないだろうと高をくくっていた。

安心しきって、完全に無警戒な状態だった。


だから心の奥底から湧き上がってくるどす黒い感情は、アタシのトラウマをえぐり起こすには十分だった。




小泉「く、くず、りゅう…?」

小泉「ど、どうして、どう、し、て…?」


九頭龍「…なんでオレがここにいるか、わからねぇって顔してんな?」

九頭龍「白々しいな…。」

小泉「え…えっと…。えっと…。」


小泉「あっ、そっか。く、九頭龍も、水泳大会の噂を聞きつけて…」

小泉「それで、ここに…」


九頭龍「本気で言ってんのか?」

小泉「ひっ…。」


小泉(九頭龍は、完全にアタシをにらみつけている。アタシがビ―チハウスに入ってから、ずっとだ。)

小泉(じゃあ…九頭龍がここに居る理由は。心当たりなんて、1つしかないけど…!!)


小泉(違う違う!!そんなはずがない!!だって、動機であるゲ―ム機は、豚神が監視しているはず!!)

小泉(だから誰も動機を得ることは出来ない。ましてや、アタシを殺すための動機を九頭龍が得ることなんて…!!)


小泉「な、なんでアンタがここにいるかは知らないけど。ア、アタシ、帰らせてもらうからね…。」

そう言ってアタシは、おそるおそる背中のドアノブに、震える手を伸ばして…





九頭龍「逃げるな!!!!」

小泉「っ…!!!?」


九頭龍「逃げたら…殺す。」

小泉「こ…こ、ころ、殺す…?」


小泉「そ、それっても、もしかして…アタシに、言ってるの…?」

九頭龍「他に誰がいるんだ。」

小泉「ううっ…」


小泉(嘘じゃない。ハッタリじゃない。本心のままに九頭龍が発言しているというのは、顔を見ればわかる。)

小泉(つまりアタシが逃げようものなら、本当にアタシを、問答無用で…!!)

小泉(こ、怖いよ…。怖くて、怖くて、頭が、真っ白に…!!)


小泉(ダメだ!!落着けアタシ!!いくら相手が九頭龍でも、いきなりアタシに襲い掛かったりはしないはず!!)

小泉(と、とにかく、相手を下手に刺激しないように…穏便に、冷静に対処しよう!!)

小泉(落ち着いて、客観的に…相手の意図を、引き出していこう。)

小泉(九頭龍が、アタシに会いに来た理由を…)




小泉「じゃ、じゃあアンタは、アタシに何か、用があるってこと…?」

小泉「用件は何かな?お、教えてくれないかな…?」


九頭龍「しらばっくれんな!!!!」

小泉「ひゃあっ!!!?」


九頭龍「テメ―にはわかってんだろ…?だからずっと、オレに対してあんな態度をとってたんだろ?」

小泉「そ、そんな大きい声を、出さなくてもいいじゃない。も、もっとマイルドに、話をしようよ。」

小泉「男子が女子を、脅すものじゃないよ…?」

九頭龍「ああ?」


小泉「こ、怖いの。アンタの声が。身振りが。表情が。本当に、怖いの。」

小泉「ア、アンタは、自分が極道だっていう自覚があるの?」





九頭龍「…それだよ。それが不自然なんだ。」

小泉「え…?」


九頭龍「第一印象で、オレの容姿を怖がる奴なんてまずいねぇ。むしろなめてかかる奴が大半なんだ。」

九頭龍「西園寺の奴みたいにな。」


小泉「日寄子ちゃん…?そういえば、日寄子ちゃんは…?ここに、いたはずよ…?」

九頭龍「アイツは邪魔だったからな。今はクロ―ゼットで居眠りだ。」

小泉「…!!」


小泉(つまりコイツは、アタシと日寄子ちゃんがビ―チハウスに集合することを知っていて…!!)

小泉(ロケットパンチマ―ケットでの話を、聞かれていたのか!!九頭龍か、ペコちゃんかはわからないけど…。)


九頭龍「それで。怖がる奴がいたとしても、それはオレに対してじゃねぇ。」

九頭龍「オレが背負っている、九頭龍組に対してなんだ。」

九頭龍「だから外の世界から隔離されたこの島じゃあ、オレはただの人間に過ぎない。」


九頭龍「にもかかわらず、テメ―はオレを避ける。テメ―みてぇな気の強い女がだぞ!?」

九頭龍「最初は、そういう奴もいるんだろうって思った。オレも極道だからな。」




九頭龍「しかしだ。テメ―がオレに向ける感情を、西園寺は怯えと称していたが…どうも違うんだ。」

小泉「ち、違わないよ。アンタは極道で、アタシは一般人。怖がられて当然でしょ…?」


九頭龍「テメ―は、怯えの中に…オレに対する、明確な敵意を持っているんだ!!」

小泉「て、敵意…?」

九頭龍「いや…そんな生ぬるいものじゃねぇ。」


九頭龍「殺意にも近い意思だ。テメ―はどうやら、オレに死んでほしいと切に願っている。」

九頭龍「そういう負の感情を、テメ―は絶えずオレにぶつけてきてるんだよ!!」

九頭龍「テメ―がそれに気づいてるかは知らねぇがな!!」

小泉「うっ…!!」




九頭龍「テメ―がオレに対してそういう態度をとる理由は1つしかねぇ。」


九頭龍「テメ―にとって、オレが初対面じゃないからだ。」

小泉「!!」


九頭龍「お前がオレを敵視している理由は…」


九頭龍「オレが、サトウって奴を殺したからなのか?」

小泉「えっ…!?」


九頭龍「親友を殺した人間がオレだからこそお前は、オレを毛嫌いしていたって事なのか?」

九頭龍「そうだとしたら…すべてのつじつまがあっちまうじゃねぇか!!」

九頭龍「この写真が、真実だってことのな!!」


そう吐き捨てた九頭龍が、アタシに見せつけて来たのは…




小泉「えっ…!?」


小泉(これは、間違いなく…トワイライトシンドロ―ム殺人事件の特典だ。)

小泉(なんで…なんで?なんで?)


九頭龍「顔の色が変わったな…。やっぱりテメ―は、知ってんだな!?」

九頭龍「その写真の真相を!!」


小泉「ちょ、ちょっと待ってよ!!ア、アンタ、どこでこの写真を…!!」

九頭龍「んなこたぁどうだっていいだろ!!!?」

小泉「キャアッ!!!!」


九頭龍「答えろ!!テメ―はこの写真の真相を知ってんのかよ!!!?」

九頭龍「ア、アイツは、本当に死んだのかよっ!!?」

九頭龍「お前達が、オレの妹を殺したのかよっ!!!?」


九頭龍「答えやがれ!!!!返答次第じゃあ、容赦しねぇぞ!!!!」

小泉「はぁっはぁっはぁっはぁっ…!!!!」




小泉(どうする…どうする、どうする…!!!?)

小泉(な、なんでコイツ、こんな時に限って妙に鋭いの…?)


小泉(この状況で、知らないなんて言えるはずがない。コイツの推理は、ほとんど正しいからだ。)

小泉(下手に嘘をついてしまえば、九頭龍の気分を逆撫でしてしまうだろう。)

小泉(ただでさえ気がたっている状態のコイツを、さらに怒らせてしまえば…!!)


九頭龍「…だんまりか?答える気がね―のなら、無理やりにでも吐かせてやろうか…!!」

小泉「あっ…。ま、待って…。」

小泉「か、考える時間…。頭を整理する時間を、ちょうだい…。」

小泉「あわてて変なこと言って、気を悪くさせちゃ、いけないでしょ…?」


九頭龍「…」

小泉「はっ、はっ、はっ、はっ…」




たとえ嘘をつかなくても…この先の言葉を一語一句でも誤れば、アタシは殺される。


アタシにはわかる。コイツの精神状態は、人殺しの1歩手前だ。

滝のように溢れ出す殺意を、ボロ板みたいな脆い理性で危うくもせき止めて、なんとか自我を保っているような状態だ。

その理性は、アタシを殺したくないっていう理性じゃない。

『アタシを殺せば真相を暴けない』っていうのが、今コイツの狂気を止めている唯一の理性だ。


つまりコイツは…アタシを殺すのには、一切のためらいを持たないってことだ。

だから…少しでもマイナスの刺激をコイツに与えてしまったら…!!


記憶を持たないアタシだったら、恐らくそれに気付けなかった。

コイツの状態に気付かずに、無闇に反論しただろう。

その反論が正しいか正しくないかは抜きにして、アイツはそれに憤慨して…!!


そうだ。今のアタシは、どちらが正しいかを議論したいわけじゃないでしょ?

最優先事項は…コイツをなだめて、アタシに対する殺意を何とか抑えてもらうこと。

九頭龍とは違ってアタシは、記憶を持っているんだ。いわば、アドバンテ―ジだ。

アタシが、1歩大人になってあげないといけないんだ…!!

だから、アタシは…





小泉「事実、よ。」

九頭龍「ああっ!?」


小泉「だから…事実なの。その、写真は。」

小泉「アタシが九頭龍の妹にいじめられていたのも。」

小泉「E子ちゃんがアタシのために、妹さんを殺したのも。」

小泉「その証拠を、アタシが処分したのも。」

小泉「E子ちゃんが、殺されたのも…。」

小泉「全部、事実よ。」


九頭龍「な、にぃ…!!!!」

小泉「…!!」


真相を暴露したアタシは、九頭龍が怒りを爆発させる前に…




ひざまずいて、頭を下げた。


九頭龍「なっ…。」

小泉「本当に謝意を表する意思のある人間は、頭が高くない。確か九頭龍の世界では、そうだったはずよね?」

小泉「だ、だから…」


小泉「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい…。」

小泉「こ、こんな半端な詫びで、赦されるとは思えないけど…」

小泉「せ、せめてアタシが九頭龍に対して、償いたいと思っていることは、知っていてほしい…。」

九頭龍「…」


い、言えた…!!アタシ、九頭龍に対して、謝ることができた…!!

こ、これなら九頭龍だって…!!




九頭龍「…」

九頭龍「なんで…」


九頭龍「なんで、そんなことを言っちまうんだよぉ…。」

小泉「…」


小泉「え?」




今日はここまで。

足は見えてないような気が…。手は確かに細…長いような気がしますな。




手足を微妙に修正。そして全身。うまく修正できてんのか?実は改悪されてんじゃ?他にもなんか違和感が…?

とにかく、なんでも許せる人は見てね。

http://i.imgur.com/V8YtDqm.png





1日遅いような気がするけど。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

最近全然更新できてないのはリアルが忙しいからです。

春くらいになれば少しくらいはぺ―スが上がると思いますが、1週目ほどのスピ―ドは無理だと思います。




九頭龍「なんでそんなことを言っちまうんだ、お前は…。」

小泉「九頭龍?ど、どうしたの?」

小泉「もしかして、泣いてるの…?」


小泉「ア、アタシ、何か変な事を言っちゃった?」

小泉「何か、九頭龍の気に障ることを言っちゃったかな?」

小泉「そうだとしたら、謝る。妹さんの件も含めて、重ねてお詫びしておくから…。」

九頭龍「謝る…?」



九頭龍「ふざけるなよ…。」

小泉「え?」


小泉「え…?えっ?」

小泉「ふ、ふざけてなんか、ない。ホ、ホントに、誠心誠意、謝ってるの。心の底から、反省してる。」

小泉「ほ、ほら、だってアタシ…ど、土下座してまで、謝って…」





九頭龍「オレはお前に、謝ってほしかったわけじゃねぇ!!!!」

小泉「えっ…!?」


九頭龍「あんな写真なんて偽物だって、ただ確認して欲しかっただけなんだ!!」

九頭龍「トワイライトシンドロ―ム殺人事件なんてねつ造だって、言って欲しかったんだ!!」


九頭龍「アイツが殺されたなんて嘘で…」

九頭龍「今もアイツが、オレの帰りを笑顔で待ってるって…証明して欲しかったんだ…。」

小泉「そ、そんなこと、言われても…」


九頭龍「なのに…なのに…お前にそんなことを言われたら…。」

九頭龍「謝られたりなんか、したら…」

九頭龍「嫌でも、認めなくちゃいけねぇじゃねぇか…。」

九頭龍「アイツが、死んだって…。」


九頭龍「もう2度と、逢えないって。」

九頭龍「声を、聴けないって。」

九頭龍「笑顔を、見れないって…。」


九頭龍「チクショウ、チクショウ…」

小泉「く、くず、りゅう…?」


九頭龍は放心したかのようにだらん、と頭を垂れる。

全身から力が抜け、上半身のバランスを保てなくなった体は、ヨロッと不気味な軌跡を描く。

不安定な足取りで、今にも倒れこみそうな九頭龍は、その状態のまましばらく何の反応も示さなかった。




九頭龍「…」

小泉「はぁ…。はぁ…。」


どれくらいの時間が経っただろうか。

アタシにはよくわからない。

1分にも満たない時間か、何時間にも及ぶ時間か。


とにかくアタシは待った。永遠とも思える長い時間。

次に九頭龍が動く時を、固唾を呑んで見守った。

そうすることが今のところ最善策だと、本能が伝えている。


小泉(お願い…どうか九頭龍、アタシを見逃して…。)

小泉(そうだ。そもそも九頭龍は前回、身を挺してアタシを守ってくれたじゃない。)

小泉(アタシが罵詈雑言を並べたてても冷静に、ペコちゃんを止めてくれたじゃない。)


小泉(だからきっと九頭龍は、話せばわかってくれる奴だとアタシは…)




小泉「ひっ!!!」


突如九頭龍の体がブルッと動いた。

そして、完全に生気を失ったかのような顔をヌッとこちらへ向ける。

さっきまでの不安定な身動きを一変させて、九頭龍は一貫して、地べたに這いつくばるアタシを見下している。

その眼差しがアタシを射止めて、逃がしてくれない。


あの時の眼だ。

あの時アタシに、トラウマを植え付けた眼だ。

あの時の…ゴミ虫を見ているような眼…!!!!


それは…アタシの淡い希望をぞんざいにあしらうには、あまりにも十分すぎた。




九頭龍「なぁ、小泉…。」

小泉「あ…あ…。」



九頭龍「なんでお前、生きてるんだ?」

小泉「ひぃっ…!!!?」


九頭龍「オレのかわいい妹が、お前なんかのせいで、死んじまったってのによ…。」

小泉「ま、待ってよ。だからアタシ、必死に謝って…」


九頭龍「謝ったら、アイツは帰ってくるのかよ?」

小泉「…!!」


今までのアタシは、なんてバカだったんだ。

コイツが謝って赦してくれる奴なら…

アタシは絶望のカリスマに堕ちてなんかないし、アタシが九頭龍を避ける必要もなかったじゃないか。


復讐者が相手に望むのは、償いなんかじゃない。

ただ、相手が凄惨に死ぬこと。復讐者の頭を占めるのは、それだけだ。

そんなこと、わかりきっていたじゃないか。

アタシはどうしてこんなに、楽観的だったの?




九頭龍「アイツが死んだ原因を作った奴が目の前に居るのなら、オレは…」


小泉「ま、待って。アンタの言ってることは、少し違うと思うよ?」

九頭龍「…あ?」


小泉「ア、アタシが謝って、アンタが赦してくれるのなら。言わないでおこうって思ってたけど。」

小泉「アンタがアタシを一方的に責めるのなら、ア、アタシにも言わせて欲しい。」

九頭龍「今度は開き直って弁解か?次から次へと言葉が出る、口だけは達者な奴だ。」

小泉「ち、違う。開き直ってるわけじゃ、ないの。」

小泉「で、でも…アタシにだって、言い分くらい、あってもいいでしょ…?」

九頭龍「…」




小泉「ア、アンタは、アタシが妹ちゃんを死なせたとか言ってるけど。」

小泉「アタシはE子ちゃんの犯行を隠ぺいしただけだから、妹ちゃんの死には直接関与してないのよ?」

九頭龍「…何が言いたいんだよ?」


小泉「ア、アタシにも非があるのは認めるよ。」

小泉「事件を隠ぺいした共犯者としての罪は、認める。そこは責められても文句は言わない。」


小泉「でも、妹ちゃんの死の原因を作ったのはアタシ…っていうのは、飛躍しすぎじゃない?」

小泉「だ、だって、アタシの行動と妹ちゃんの死は、関係してないんだから。」


九頭龍「何を言ってるんだ、テメ―。」

小泉「え?だ、だから…」




九頭龍「どこからそんな話が出て来たんだよ。」

九頭龍「人殺しの共犯者とか、そんなことに誰が論点を置いたんだ。」

小泉「は…?」


九頭龍「そんなややこしい所じゃねぇ。もっと根本的な問題だ。」

九頭龍「サトウって奴がオレの妹を殺した理由は、テメ―を守るためだったんだろ?」

九頭龍「なら、テメ―が原因じゃねぇか。」

小泉「な、なに、言ってるの?確かにそれは原因かもしれないけど、そこにアタシの非はないでしょ…?」


小泉「そもそもアタシは妹ちゃんにいじめられていたんだから。」

小泉「その部分はむしろ、アンタが復讐されてもおかしくないのよ?」


小泉「そこだけじゃない。アタシは、親友を殺されてるのよ?」

小泉「アンタにだってわかってるでしょ?九頭龍が妹ちゃんを想うように、アタシだってE子ちゃんを想っていたって。」

小泉「アタシが九頭龍を避けてる原因を九頭龍は、九頭龍がE子ちゃんを殺したからだと思っていたわけだし。」

小泉「だ、だから、E子ちゃんを殺されたアタシは、本来ならアンタと同様に憤慨していてもおかしくないの。」


小泉「それでもアタシは、九頭龍に償いたいと思ってる。」




小泉「だ、だから…」

九頭龍「…」


小泉「そ、その眼を、やめてよ…!!!!」

小泉「ホ、ホントに、怖いんだってば…!!!!」



九頭龍「…………」



アタシは、勘違いしていたの?

アタシはずっと、思い違いをしていたのか?


確かにそうだ。

記憶を思い返してみれば、九頭龍がアタシを、共犯者の件で責めたことは1度もない。

九頭龍はもっと、本質的な部分について責めているんだ。


妹ちゃんの死の原因を作ったのがアタシだから、アタシを責めているんだ。

つまり、アタシの罪を数えるのなら…それは、『アタシの存在そのもの』ということになる。


アタシはそれを理解していなかった。

アタシが償いたいと思っている部分と、九頭龍がアタシを責めている部分が、

見事にすれ違っていることに全然気づいていなかった。


だから…いくらアタシが謝っても、赦してもらえるわけがないじゃないか。

アイツにとっては、何に関して謝っているのかさえ理解できないのだから。




九頭龍「正直言って、オレの行動が正しいかどうかなんて、大した問題じゃねぇんだよ。」

小泉「えっ…。」

九頭龍「そもそも復讐に正当性なんて、あるわけがねぇ。んなことはわかってる。」

小泉「じゃ、じゃあもうこんな事、やめ…」


九頭龍「だけど、どうして…!!」

九頭龍「こんな奴のせいで、あんないい女が無理やり命を終わらせられないといけねぇんだよ…!!!!」

九頭龍「こんなのおかしいだろ。理不尽だ。」

九頭龍「天国に居るアイツはきっと、今も悔しがっている。」

九頭龍「自分を死に至らしめた憎き相手が、今ものうのうと生きて、堂々と息を吸ってるんだからな。」

小泉「そ、そんな言い方、ないよ。ア、アタシはずっと、妹ちゃんに償いたくて…」




九頭龍「今のお前には、この世界がどう映る?」

九頭龍「極道者は、死んでも悼まれない。ざまぁみやがれと後ろ指をさされるのが関の山だ。」

九頭龍「お前がいなくなっても、世界は平気な顔をして回ってる。誰も、お前の死を弔ってくれねぇんだぞ?」

九頭龍「辛いだろう…?寂しいだろう…?虚しいだろう…?」

小泉「く、九頭龍…お、落ち着いてよ!!な、なに言ってんのか、さっぱりわかんないよ!?」


九頭龍「だからせめてオレくらいは、哀しんでやらないとダメだろ…?」

九頭龍「お前の死にオレが怒り狂ってやらないと、誰がお前の無念を晴らしてやれるんだ?」

九頭龍「そうだ。お前が望むことなら、オレにはなんでもわかってやれる。」

九頭龍「罪を、清算して欲しいよな?コイツを、裁いて欲しいよな?」


九頭龍「小泉を、殺してほしいよなぁ…!!!!」


小泉「えっ。あ…」

小泉「ダ、ダメ…そ、それは、ダメだって…」




小泉「がっ!!?」


突然、九頭龍の両手がアタシの首に絡まる。

そして九頭龍の手からアタシの首に、尋常じゃない力が加えられる。

あわてて抵抗しようとするけど、女の力じゃあ勝てっこない。

アタシはそのまま首を絞め続けられて、意識が飛びそうになる。

目の前にあるはずの九頭龍の顔も、今はぼやけて全く把握できない。




小泉「あ…!!あぁ…!!!!」

九頭龍「はぁっ、はぁっ…。」


ギチ…ギチ…

聞いたことのない様な生々しい音が聞こえる。

その音も、だんだん遠くなっている。


何とか九頭龍の手を振りほどくために、自分の手を首に向かわすけど…

どれだけ頑張っても、九頭龍の手首に手を添える程度で限界だった。




九頭龍「待ってろよ…。今、兄貴が…兄貴が、仇を取ってやるからな!!!!」

小泉「あ、あが…あが……」


息が、できない。

く、苦しい…。

体に力が、入らない…


やばい。

コレ、ホントに、まずいって…


ほ、本当に、死…





「お待ちください坊ちゃん!!!!」




今日はここまで。




どこからか、誰かの声が響いたらしい。

それによって首の締め付けが緩み、遠くなっていた世界が戻ってくる。


小泉「がっ…ケホッ、ゲホッ…はぁ、はぁ、ぜぇ…」


一息一息、空気をかみしめる。

生まれてこの方、こんなにも酸素がありがたかったのは初めてだろう。


ただ、現状はあまり良くない。

九頭龍は一旦手を緩めただけで、依然としてアタシの首を捕まえている。

その気になれば、さっきの続きを開始するのは造作もないだろう。

アタシの命がコイツに握られているという事実に変わりはないのだ。


相手が油断した隙を狙う手もあったけど。

さっきまで呼吸をしていなかった体は思うように動かなくて、とにかく大気を欲している。




小泉「はぁっ、はぁっ、はぁっ、うっ…」

小泉「は、はぁっ、はぁっ、ひゅう、ひゅう…」


九頭龍「…ああ、いたのかペコ。」

辺古山「…」

小泉「ペコ…ちゃん…。」


もしかしてペコちゃんは、アタシを助けに来てくれた…?

と思ったのは一瞬だった。

なぜなら、ペコちゃんの右手には金属バットが握られているからだ。


残酷に研ぎ澄まされた、狂気的で無機質な瞳。

ペコちゃんの意図は、アタシにはなんとなくわかる。

釣ったばかりの鯛をそのまま食べようとした九頭龍に、おいしい食べ方を教えに来たのか。

まな板の上で捌かれるのを待つしかないアタシは、ただ怯えるだけだった。




辺古山「いけません、坊ちゃん。今貴方がここで彼女を殺しては。」

辺古山「わかっているのですか、坊ちゃん。ここで人を殺した人間は…」


九頭龍「ああ、そうだな。学級裁判って奴で、皆を欺かなきゃあ処刑されちまう。」

九頭龍「だから生き延びたかったら、それなりのトリックを考えなきゃいけない。」


九頭龍「バットで殺すっていう手もあるが、どうやらそれは復讐としては不適切らしい。」

九頭龍「アイツは、首を絞められた後に殺されたらしいからな。」

九頭龍「アイツと同じ苦痛を、コイツにも与えて殺してやる。」


九頭龍「で、コイツの首に残っちまう手の跡…。」

九頭龍「それが動かぬ証拠になる。オレが小泉を殺したっていうな。」

九頭龍「だからオレがコイツを殺したら、間違いなくオレも死ぬ。」


九頭龍「だが、それでいい。復讐の代償だ。」

九頭龍「それにオレは外の世界で、サトウっていう人間を殺してるみて―だからな。」

九頭龍「裏の世界の人間がカタギの人間を殺すなんて、言語道断だ。こんな奴極道失格だ。」

九頭龍「生きようが死のうが、どちらにせよオレはもう極道としては生きていけね―んだよ。」


九頭龍「だからせめて最期くらい、オレは…人の兄として、一生を終えてぇんだよ。」

九頭龍「テメ―にとっても好都合だろ?親友を殺した相手を道連れにできるんだからな。」

九頭龍「“超高校級の極道”と一緒に地獄へ堕ちれるんだ。殺されて、テメ―も本望だろう。」

小泉「ア、アタシはそんな事望んでない。アンタに復讐したいとか、ましてや殺されたいなんてあるわけない。」

小泉「だ、だから、もっと別の方法を考えようよ。」

小泉「お、落ち着いて話し合えばきっと、皆が笑って生き延びられる方法が…」




辺古山「ですが坊ちゃん、それでは…」

九頭龍「ああ、アレか?」

九頭龍「眠らせた西園寺にオレの罪を被せるって計画のことか?」

九頭龍「オレにしちゃあ、良く考えたトリックだったなぁ。」


小泉(えっ…?)

小泉(今回の殺人を計画したのは、九頭龍なの?)


小泉(おかしい…前回殺人を計画したのは、ペコちゃんだったはずだ。)

小泉(手紙を偽装してアタシと九頭龍をあわせたり、アタシに脅迫状を出したのもペコちゃんだったよね?)

小泉(なのに何で今回は、九頭龍が…?)


小泉(いや、おかしいのはそこだけじゃない。前回九頭龍は、ここまで話のできない奴じゃなかった。)

小泉(むしろ、正気を失ったアタシや暴走したペコちゃんを止める立場だったはず。)

小泉(な、なんでアタシの記憶通りにいかないの…?)




九頭龍「あの計画はもうナシだ。オレの目的はそもそも生き延びることじゃねぇ。」

九頭龍「生き延びたところで…アイツとはもう2度と、逢えないんだからな。」


九頭龍「それに、オレが生き延びるということは、他の連中を犠牲にするって意味だ。」

九頭龍「オレらの勝手な都合で、カタギのあいつらを巻き込むなんて気が引けるだろ?」

九頭龍「特に西園寺…あの計画で罪を被せられるアイツには、言葉にできないほどの苦痛を与えてしまう。」

九頭龍「オレはそんなことを望んじゃいねぇ。無闇に誰かを傷つけてどうする?」


九頭龍「オレの標的は最初っからただ1人だったんだよ。」

九頭龍「オレの狙いは、目の前にいるコイツを殺すこと…ただ、それだけだ。」

小泉「ひぃいいっ、ひぃいいい…!!!!」


九頭龍「ペコ、西園寺によろしく言っておいてくれ。迷惑かけて悪かったってな。」

九頭龍「西園寺から親友を奪うことになっちまうが、オレは早々に消え失せるから、何とか許してくれ…ってな。」

辺古山「…」




九頭龍「もういいだろ、ペコ?お前は下がっていろ。」

九頭龍「今からオレが、小泉を殺すんだからよ…。」


小泉「ま、待って、やめて…。お願い、殺さないで…」

小泉「いや、嫌、死にたくない…!!!!」

九頭龍「死にたくない、だと…?」


九頭龍「テメ―、どの口がそんな妄言を抜かすんだゴラァ!!!!」

小泉「ひぃっ!!!!」


九頭龍「お前のせいで死んだアイツだってそうだったに決まってる…。」

九頭龍「アイツだって間違いなくそう思ってた。殺される間際にも、死にたくないって懇願してたはずなんだ。」

九頭龍「なのにアイツは、殺されたじゃないかっ!!!!」

九頭龍「アイツがする命乞いにお前達は、耳も傾けなかったんだろ!!?」

九頭龍「それかお前達は、助けを求める余裕すらアイツに与えず殺したんじゃねぇのか!!!?」

小泉「違う、違う、殺したのは、アタシじゃないよぉ…。」


九頭龍「お前達はアイツを殺したのに、どうしてオレが殺しを思いとどまらなきゃいけねぇんだ…。」

九頭龍「ここでお前を赦しちまったら、殺されたアイツはオレを許してくれねぇ。」

九頭龍「どうして仇を討ってくれないんだって、恨み言を言われるに決まってる。」

九頭龍「だからテメ―を殺さないと、天国にいるアイツに顔向けできねぇだろ…?」


九頭龍「なのにテメ―を殺さねぇ道理があんのか!!?あぁ!!!?言ってみろ!!!!」

小泉「ひぃ、ひぃ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」

小泉「赦して、赦して、赦してぇ…」




辺古山「いけません、坊ちゃん。貴方はこんなところで死んでいい人間ではありません。」

辺古山「ましてやそのようなドブネズミと道連れなど、あってはならない。」

小泉「ド、ドブネズミ?ア、アタシが…?」


辺古山「坊ちゃんが死んでしまえば、貴方の所有物である私は、存在価値を失ってしまう。」

辺古山「貴方の死は、私にとっては世界の崩壊と等しいのです。」

九頭龍「ちっ。テメ―、まだそんなこと言ってんのかよ。」

九頭龍「道具だの所有物だの、そんな話にオレはもう辟易してんだ。」

九頭龍「コレもいい機会だ。オレとの死別を機に、お前はオレから独立しやがれ。」

九頭龍「オレのことなんかきれいさっぱり忘れて、お前はお前の人生を生きりゃあいいんだよ。」


辺古山「そういうわけにもいきません。私は道具なのですから。」

辺古山「だから私は、道具としての役割をまっとうするだけです。」

小泉「ペコちゃん…?」


そう言ってペコちゃんはアタシの方に近づいて、右手に持ったバットをゆらりと持ち上げる。




小泉「ひっ…。」

九頭龍「…おい、ペコ。テメ―、何しようとしてやがる。」


辺古山「坊ちゃん。貴方の死など、妹さんは望んでいらっしゃらない。」

辺古山「貴方が死んでしまえば…妹さんの遺志が、誰からも忘れられてしまうからです。」

九頭龍「何だと…?」


辺古山「貴方が死んでしまえば、誰が妹さんのことを覚えてあげられるのです?」

辺古山「誰が、妹さんの墓参りに行けるのです?」

九頭龍「そ、それは…」


辺古山「坊ちゃん。貴方は生きなくてはなりません。生きて、この島から脱出しないといけません。」

辺古山「だから私がここから出して見せます。そのためにも、坊ちゃんが直接その女を殺してはいけません。」

九頭龍「な、何言ってやがる。そんなこと、どうやって…」




辺古山「私に、その女を殺させるのです。」

九頭龍「なっ…!!!!」

小泉「…!!」


小泉(ペコちゃんの目的は、やっぱりそれか…!!)

小泉(九頭龍がアタシを殺せば九頭龍が死んでしまう。だから代わりにアタシを殺そうっていう考えだ。)


小泉(本当は九頭龍をなだめてほしいのに。九頭龍の配下であるペコちゃんは九頭龍と対等に話せない。)

小泉(常に、九頭龍の意思通りに行動をとるんだ。)

小泉(九頭龍がアタシを殺したいと欲するから…ペコちゃんは、アタシを殺しにかかるんだ。)


小泉(だから、ペコちゃんは…アタシの味方に付いてくれることはないんだ。)

小泉(この島でアタシが、たとえどれだけペコちゃんと交流をしても…)

小泉(ペコちゃんが助けに来てくれたなんて、一瞬でも思ってしまったアタシが、バカみたいに思えてしまうな…。)


小泉(いや…そんなことを考えてる場合じゃない。何とか、ペコちゃんを説得しないと。)




小泉「ま、待ってよペコちゃん。なんでペコちゃんが、アタシを殺さないといけないの…?」

小泉「ペ、ペコちゃんに、アタシを殺す動機なんてないでしょ?」

小泉「ね?だ、だから冗談でも、そんな物騒なこと、言っちゃダメだよ。ペコちゃんは、女の子なんだから。」


辺古山「私が彼女を殺せば、きっと皆は私が犯人だと思うでしょう。」

辺古山「だから皆は気付けない。小泉真昼を殺した真犯人である九頭龍冬彦に。」

辺古山「真犯人の坊ちゃんにたどり着くことは出来ず、ただ殺人に使われた凶器である私を犯人として指名してしまう。」

辺古山「これなら、私たちの関係に気付いていない皆の眼を欺くことが可能です。」

辺古山「ひいては、坊ちゃんがこの島から脱出できるのです。」

小泉「…?」


小泉(あ、あれ…?ペコちゃん、アタシの話に返事すらしてくれない。)

小泉(アタシの声が、聞こえなかったのかな…?)




九頭龍「ま、待て。そんなことをしたら、テメ―は…」

辺古山「坊ちゃん。妹さんのことを思ってください。」

辺古山「私たちがこうしている間にも、妹さんはきっと苦しみ続けています。」

辺古山「貴方が一向に、彼女の死を悼んであげないからです。」

九頭龍「うっ…!!!!」


小泉「ペ、ペコちゃん?ア、アタシの声が聞こえる?」

小泉「聞こえたのなら、せめて返事くらいはしてくれないかな?」

小泉「ほ、ほら、無視されたら、さすがのアタシも傷ついちゃうって…。」

辺古山「…」

小泉「ペ、ペコ、ちゃん…?」


ペコちゃんは、アタシには何の反応も示さない。

まるで壊れた機械のように。

そしてペコちゃんは、感情を持たない物質かのように、事務的に言葉を発する。


辺古山「貴方は一刻も早く、彼女を弔ってあげないといけません。」

辺古山「彼女に、魂の休息を与えてやってください。」

九頭龍「そ、そう、だよな。オレは、生きなくちゃいけねぇ…。」

九頭龍「生きて、アイツを弔ってやんねぇと…」


辺古山「だから坊ちゃんは、ただ一言私に命令するだけでいいのです。」

辺古山「辺古山ペコに『小泉真昼を殺せ』、と。」

九頭龍「…」




小泉「ま、待ってよ、ペコちゃん!!九頭龍!!お、お願いだから、アタシの話を聞いてよ!!」

小泉「後生だから…せめてアタシの言い分に、耳を傾けるくらいはしてよぉ…。」

小泉「ア、アタシにだって、生きたいっていう意思くらいはあるんだから…。」

辺古山「…」


ペコちゃんは、アタシの方なんか見てない。

ペコちゃんはさっきからずっと、九頭龍とだけ目を合わせ、九頭龍とだけ会話をしている。

まるでここにいるアタシが、傀儡かなにかと勘違いをしているかのように。


小泉(な、なによ、この2人…。アタシの話、全然聞いてくれてない。)

小泉(アタシの命を、学級裁判を乗り越えるための駒くらいにしか考えてないじゃない。)

小泉(ひ、人の命を、何だと思ってんのよ…!?)


その時アタシは気付いた。いや…思い出したというべきか。

今、アタシの目の前にいる人間が、どういう人間なのかを。




相手は、極道なのよ?

常識とか、良心からはかけ離れた存在なのよ?

そんな相手に対して、まともな意見が通用するわけがないじゃないか。


アタシは2人と、対等な立場で話し合おうとしていた。

でも相手にとってはアタシなんて、海に浮かぶ1匹のプランクトンと同じような存在なんだ。

そもそもアタシと同じ土俵で話し合おうなんていう考えすら、思い浮かばないんだ。


だから…アタシの話なんて、真剣に聞いてくれるはずがないじゃないか。

相手は、アタシの命なんて何とも思っていないんだから。

こんな風に自分の命を軽く扱われるのが、絶望のカリスマだったアタシへの報いなのか?




九頭龍「…」

辺古山「沈黙は、承認ととります。」

九頭龍「あっ。ま、待て…。」

小泉「っ!?」


アタシはペコちゃんに襟元から体を引っ張られ、九頭龍から引き剥がされた。

そしてアタシは床に投げるようにされて、ドサッと突っ伏すように倒れてしまう。

体のあちこちを擦ったけど、今は痛がっている状況じゃない。


ペコちゃんがアタシを九頭龍のそばから離したのは、九頭龍に“証拠”を付着させないためだ。

返り血という名の証拠。

つまり、これからペコちゃんがとる行動は…!!!!


這ってでも逃げようかと思ったけど、思うように体が動かない。

顔だけで後ろを振り向いて、今にもバットを振り下ろしそうなペコちゃんを見つめた。


小泉「い、いや…。」

小泉「お願い、ペコちゃん…。や、やめて…。」

辺古山「…」


相変わらずペコちゃんには、アタシの命乞いを聞きいれる気配はない。

その様は本当に、一切の感情を持たない殺人兵器だと疑ってしまう位だった。




小泉「…おかしいよ。」

小泉「こんなの、おかしいよ…。」


小泉「アタシが、何をしたっていうのよ…。」

小泉「な、なんでアタシが、こんな目に遭わなきゃいけないのよぉ…。」


小泉「妹ちゃんからはいじめられて、その上E子ちゃんを殺させられて…」

小泉「それに関して誰にも怒りをぶつけることができない。」

小泉「それどころか、アタシばっかり一方的に糾弾される。」

小泉「それも、アタシが予想もしていなかった点で。」

小泉「な、なんでアタシが、妹ちゃんにいじめられていたことが理由で殺されないといけないのよ…。」

小泉「こ、こんなの、絶対におかしいよぉ…。」


辺古山「…個人的には、貴様に恨みはない。」

辺古山「だが、坊ちゃんが貴様の死を望んでいるのだ。だから道具である私は、それに従うまでだ。」

九頭龍「ぐっ…。」




辺古山「それに、貴様は所詮…」

辺古山「人殺しの共犯者だろう。」

小泉「…!!」


小泉「そ、そんな…。酷いよ…。」

小泉「だからアタシは、あんなに謝ったのに…。償いたいって、思ってたのに…。」



小泉「アタシが思ってきたことは、全部間違いだったの?」


九頭龍「…」




小泉「ねぇ、ペコちゃん。」

辺古山「…?」


小泉「アタシさ、今日の水泳大会をすっごい楽しみにしてたんだ。」

小泉「実は今も、服の下に水着を着ててね。しかも、かなり過激なさ。ちょっと冒険しすぎたかなって思う位の。」

辺古山「…」


小泉「それでね。今日は皆ではしゃいで、皆と仲良く過ごそうと思ってたの。もちろん、ペコちゃんとも。」

小泉「ペコちゃんと交流して、どういう人間なのかとか、どういう生き方をしてきたのかとか、知りたかった。」

辺古山「…」


小泉「それでそれで。ペコちゃんは普段あんまり笑わないから、特別にアタシが頑張っちゃおうって計画してたの。」

小泉「ペコちゃんをどうにか笑顔にするためのね。」

小泉「で。その笑顔を、アタシのファインダ―に収めるの。」

小泉「ははっ…。ペコちゃんに、見せてあげたかったな。ペコちゃんの、笑顔…。」

小泉「もう1回アタシ、ペコちゃんと笑いあいたかったなぁ…。」

小泉「ふふ、うふふふふふふ……」

辺古山「…」



辺古山「…私、は」





「それは違うぞ!!」




今日はここまで。




17日目


ピンポンパンポン

映像の中のモノクマ『オマエラ、グッモ―ニン!!朝です、7時になりました!!』


―小泉のコテ―ジ―

小泉「…」




あの後、駆け付けてきた日向達によってアタシは保護された。


アタシ、九頭龍、ペコちゃん…。

3人ともそれぞれ、思うことがあったようだが。


何はともあれ、豚神の案でアタシと2人はひとまず距離を置くことになった。

何をするにしても、冷静さを失っていてはいけないから、一晩かけて頭を冷やせ…という事らしい。


小泉「…」

小泉「とりあえず…レストランに、行かなきゃ。」


寝起きのだるい体を起こし、アタシはコテ―ジのドアを開ける。




―小泉のコテ―ジ前―


西園寺「小泉おねぇ!!」

小泉「あ、日寄子ちゃん。」


西園寺「あははっ、一緒にレストランに行こう!!」

小泉「…うん、そうだね。」


小泉(日寄子ちゃん…。アタシを気遣ってくれてるのかな?)

小泉(ふふっ、うれしいな。気持ちが沈んでいる時に、支えてくれる人がいるなんて。)




―ホテル前―


辺古山「あっ…。」

小泉「…」

西園寺「辺古山…!!」


西園寺「アンタ…どの面さげて、わたしたちの前に…!!」

辺古山「…」





小泉「おはよっ、ペコちゃん。」

辺古山「えっ…。」


辺古山「あ、ああ。」

小泉「ペコちゃんも、レストランに行くんだよね?」

小泉「一緒に行く?」


辺古山「…いや、1人で行かせてもらう。」

辺古山「すまない。」


ペコちゃんは、伏し目がちに早足でレストランにかけていった。




西園寺「…」


小泉「日寄子ちゃん…。怒ってるの?」

西園寺「…なんの話?」


小泉「ほら…だって日寄子ちゃん、ずっとペコちゃんをにらんでたでしょ?」

小泉「ペコちゃん達が日寄子ちゃんを陥れようとしたことに、怒ってるのかな…って。」

小泉「それも仕方ないか。日寄子ちゃん、ビ―チハウスで無理やり眠らされたんだもんね。」


西園寺「…」

西園寺「わたしのことはいい。それよりも気になるのは、小泉おねぇの方。」


西園寺「…今の小泉おねぇ、ちょっと怖いもん。」

小泉「え?」


西園寺「なんでもない。行こっ、小泉おねぇ。」

小泉「…」




―レストラン―


日向「おう、小泉。」

小泉「あ、日向…。昨日は助けてくれてサンキュ―ね。」

日向「ははっ。礼なら左右田に言ってくれ。左右田がいなければ、今頃…」

弐大「そうじゃのう。左右田がワシらを呼んでこなければ、事件が起きとることにすら気付けんかったわい。」

罪木「小泉さんの傷がすり傷程度で済んだのも、奇跡ですよぉ。」

小泉「そうなの?じゃあ左右田は、アタシの命の恩人ってことか…。」

左右田「はは…そんな大げさなもんじゃねぇよ。」


澪田「和一ちゃんはただ、女の子達の水着姿を見たかっただけらしいっす!!」

ソニア「で、チャンドラビ―チへ1人果敢に攻めて行ったところ、偶然辺古山さんを見つけたということですか。」

狛枝「ははっ。やっぱり幸運なんだね、小泉さんは…。」

花村「水泳大会がおじゃんになっちゃったのは、不運だけどね…。」

田中「まあ、仕方あるまい。あのような事件が発生したのだからな。」




左右田「でもオレは…辺古山が妙なお面を用意してるのを見て、どうしようもなく怖くなってよ。」

左右田「間違いなく事件が起きるってのが、わかってたのに…オレは小泉を直接助けに行かなかったんだぜ?」

西園寺「ははっ!!左右田おにぃ、ビビリだね―!!女相手に逃げ出すなんてさ!!」

終里「つっても辺古山は相当できる奴だからな。左右田程度の戦闘力なら汚ねぇ花火になるのがオチだぜ。」


七海「だから、1人で小泉さんを無闇に助けようとせず、応援を呼んだのはナイス判断だった…と思うよ。」

小泉「そうね。だから左右田、自信を持って。アンタの勇気は皆が称賛してるよ。」

小泉「ふふっ。今回の件でひとつ、左右田にポイントつけといてあげるね。」

小泉「たまには頼りになる左右田くん…ってとこかな?」

左右田「命の恩人なのにその程度なのかよ!?」

日向「まあ小泉は基本、厳しめだからな…。」




豚神「しかし今回の件…。落ち度は俺にある。本来ならこの事件は、未然に防げたはずだった。」

花村「え…?そんな事無いんじゃないのかな?だって豚神くん、動機のゲ―ムを管理してたから…」


豚神「そうだ。それこそが、モノクマの罠だったのだ。」

花村「え?」


田中「確かにな。あの動機に我らは、必要以上に囚われていた。」

七海「その結果、リ―ダ―である豚神くんの身動きを封じられてしまった…。」

澪田「白夜ちゃん、ずっとジャバウォック公園に居座ってたもんね。一緒に遊んでくれなくて、唯吹寂しいっす!!」


ソニア「だから気付けなかったんですよね。いつの間にかモノクマさんから九頭龍さんに動機が渡されていたなんて…。」

終里「ちっ…汚い事しやがるぜ。こそこそと隠れて動機を渡すなんてよ。」


小泉(いや…アタシになら本来は、これは予測できたはずなんだ。)

小泉(だってこの手法…。前回、花村に動機を渡した方法と全く同じだったんだから…。)




豚神「優先事項を間違えたんだ。」

豚神「本来なら俺はあのゲ―ムを管理するよりも先に、単独行動をとりがちだった九頭龍を監視するべきだったんだ。」

西園寺「2人以上で行動していたら…動機をこっそり与えるとか、モノクマにはできなくなるもんね―。」

田中「互いが互いを諌めあうことができるからな。」


豚神「そういう事だ。俺がもっと、配慮していれば…」

罪木「そ、そんなに思い詰めなくてもいいような気がしますけど…。結局、事件は止められたんですし。」

弐大「そうじゃのう。そもそもワシらは、九頭龍の監視を辺古山に任せていた節がある。」

日向「九頭龍に動機を渡されても、辺古山が諌めてくれれば最善だったんだが…」

田中「まさか両者につながりがあるとは夢にも思わなんだか。」

花村「それも自分の命を投げ打ってまで、片方の共犯者になろうとする関係だなんて…。」




西園寺「2人がどういう関係かは知らないけどさ。だからと言って、他人を殺していいわけじゃないんだよ。」

西園寺「そうだよね、辺古山。」

辺古山「…」


狛枝「ふ~ん…。反省会はもう終了かな?じゃあここからは、本題に入るのかな?」

狛枝「ね、九頭龍クン。辺古山さん。」

九頭龍「…」

辺古山「…」


左右田「これだけ人がいるんだ。お前らがどうあがいても、小泉を殺すことはもうできねぇぞ!!」

西園寺「小泉おねぇ、気を付けて。こいつら、いつ小泉おねぇを殺しにかかるかわかんないんだからさ。」

九頭龍「…」




九頭龍「違う。オレは、もう…」


西園寺「もう小泉おねぇを殺そうとはしないって?そんな言葉、誰が信用すると思う?」

ソニア「さ、西園寺さん。そんな辛辣に当たらなくても…」


弐大「しかし、西園寺の態度も仕方なかろう。人を、殺そうとしたんじゃからな。」

豚神「一応昨日に、2人の動機は尋問したのだが。」

終里「納得いく動機なんて、本当にあったのかよ?どんな事情があろうと、人を殺していい理由にはならねぇだろ?」


日向「まぁ…わからなくもないし、同情の余地があるのかもしれないけど…」

田中「それで加害者の肩を持てば、被害者に失礼だ。」


西園寺「そうだよ。だからこいつらを許すわけにはいかないよ。」

西園寺「じゃないと、小泉おねぇが可哀そうだもん。」

小泉「…」




狛枝「しかし結局、被害者も加害者も死なずに済んで、この先も3人は共同生活を続けなくちゃいけない。」

狛枝「だからこのまま、何の踏ん切りもつけずにあやふやで終わらせるわけにもいかない…よね?」

澪田「凪斗ちゃんに言われなくてもわかってんすよ!!だから唯吹たちが仲介して、仲直りさせようと思ってるんす!!」


豚神「そうだな。だから九頭龍。貴様は今、どう思っている?」

罪木「どう思っているっていうのは…?」

狛枝「九頭龍クンが今も小泉さんを殺そうとしているのなら…仲直りなんて夢のまた夢だよね。」

花村「えぇっ!?そんなことって…!!」


七海「確かに、無いと信じたいね。だからこそ、九頭龍くんの口から直接確認したいんだよ。」

九頭龍「…」




九頭龍「オレは…妹の復讐のためなら、自分の命を引き換えにしてでも小泉を殺してやろうと思ってた。」

九頭龍「小泉を殺して、オレも死ぬ。それで事件が完結すればいいと思ってたんだ。」


九頭龍「でも…違うんだ。オレが復讐をしようとしたら、問題はオレだけにとどまらない。」

九頭龍「現にオレは今、ここにいる全員に迷惑をかけている。特に、ビ―チハウスに眠らせた西園寺にはな。」


九頭龍「そして何よりもペコが…オレのために非行に走ってしまう。」

九頭龍「オレの代わりに殺人を犯すとか…自分は道具だとか…わけのわかんねぇことを言い出しちまうんだ。」


九頭龍「オレはそんなことを望んじゃいねぇ。ここの全員を犠牲にしてまで、この島から脱出したいとは思わない。」

九頭龍「オレはもっと別の方法で生き延びて…妹の墓参りに行ってやらなきゃならねぇ。」

九頭龍「だからオレはもう…小泉を殺すわけにはいかねぇんだよ。」


西園寺「…なんだよ、そのふざけた理屈は。」

西園寺「それって…殺人を犯したら自分にも被害が来るから、小泉おねぇを殺さないってだけじゃん!!」

西園寺「つまり自分にデメリットがなくなったら、平気で小泉おねぇを殺すってことでしょ!?」

西園寺「アンタ、小泉おねぇを殺そうとしたことには何の反省もしてないの!?」

九頭龍「…」




今日はここまで。




西園寺「何とか言えよ、この人殺しクソヤクザ!!」

左右田「お、おいおい…それはちょっと言いすぎなんじゃねぇのか?」

西園寺「ふん、言い過ぎなもんか。小泉おねぇを殺そうとしておいて、反省の色も見えないじゃん。」

西園寺「きっとコイツ、小泉おねぇの命のことなんて、屁とも思ってないんだよ。」


罪木「そ、そんなことないと思いますけど…。反省しているからこそ、今日このレストランに集まったんでしょうし…」

七海「反省してないのなら、いつものようにまた単独行動をとっていただろうしね。」

日向「まぁまともに話し合おうと思うようになっただけ、九頭龍は進歩してるのかもな。」


西園寺「…どうにもここには、九頭龍の肩を持ちたがる奴が多いんだね。事なかれ主義なのかな?」

西園寺「被害者の気持ちもそっちのけでさ。小泉おねぇのことを何だと思ってんだ。」

ソニア「そ、それは違いますよ西園寺さん。わたくしたちは小泉さんを軽んじたりはしていません。」

弐大「あくまで客観的に物事を判断しとるだけじゃあ。」


西園寺「客観的に…?はっ。何もわかってないボンクラ共が、何偉そうな口を抜かしちゃってるのかな―?」

澪田「何もわかってないって…日寄子ちゃんも同じようなもんっしょ?」

西園寺「それはどうかな?わたし、知ってんだよ?九頭龍の過去を。」

終里「九頭龍の過去って…なんだよ?」




西園寺「コイツさぁ。学園時代に、小泉おねぇの親友を殺してるんだってさ。」

田中「何だと?」

花村「そ、それ、本当なの?」

九頭龍「…モノクマの情報によると、そうらしい。」


西園寺「しかもその理由がくだらなくってさ。妹を殺された恨みなんだって。」

花村「え…?妹さんを殺したのって、小泉さんじゃなかったの?」

狛枝「確か九頭龍クンの妹を殺したのは、小泉さんの親友…サトウって人だったよね。」

弐大「んん…?じゃあなんで、九頭龍は小泉を…?妹の死に小泉が関係しとらんじゃないか。」

豚神「小泉が、妹を殺したサトウの共犯者だったかららしい。」

小泉(…アタシもずっと、そう思ってたんだけどね。)




左右田「ちょっと待てよ。確かサトウってのは、九頭龍に殺されてんだろ?なら、サトウの共犯者もクソもねぇだろ。」

西園寺「そうだよ。わたしに言わせてみれば、責められるべき点なんて小泉おねぇにはカケラもない。」

西園寺「むしろ小泉おねぇの親友を殺した九頭龍こそ復讐されて死ねばよかったのに。」

罪木「そ、そんな、縁起でもない…。少し落ち着いてください、西園寺さん。」

西園寺「これが落ち着いていられるか、有機ダッチワイフ!!!!」

罪木「有機ダッチワイフ!!?」


西園寺「自分が犯した殺人は棚にあげて、小泉おねぇの非でもない非だけを一方的に責めるとか、アンタ何様だよ!!」

西園寺「図々しいっていうか、ふてぶてしいっていうか、厚かましいっていうか…」

西園寺「自分のことばっかり考えて、小泉おねぇの権利とか主張を一切無視してんじゃん!!」

西園寺「こんな奴に同情してやる価値なんて微塵もない!!畜生以下の生ゴミだよ、コイツは!!」

九頭龍「…」




豚神「まぁ…冷静に分析すれば、そういう話になるんだろうが。」

日向「いきなり妹の死体を見せつけられて、落ち着いて判断できるかっていうと、また話は違うからな…。」


西園寺「ふん。何が妹だ。九頭龍の妹ってぐらいだから、どうせ兄と同様人間のクズだったんでしょ?」

九頭龍「…」

西園寺「小泉おねぇに嫌がらせしてたらしいしさ。殺されても自業自得だよ。」

西園寺「サトウって奴、ついでに九頭龍も殺してくれればちょうど良かったのに。」

西園寺「小泉おねぇも、そう思うでしょ?」

小泉「…」





パンッ

アタシは、日寄子ちゃんの頬をひっぱたいた。

レストランに鳴り響いた音が、空気を一瞬だけ凍らせた。


西園寺「え…」

小泉「日寄子ちゃん。言って良いことと悪いことがあるよ。」

西園寺「で、でも小泉おねぇ、九頭龍は…」





小泉「妹ちゃんを、悪く言わないで。」


西園寺「…」

終里「おい…なんか、不穏じゃねぇか…?」

弐大「うむぅ…気のせいならいいのだが…」

田中「なかなか含みのある発言だったな。悪魔の隠喩、とでもいうべきか。」


九頭龍「…」

西園寺「小泉おねぇ…。」


豚神「…とにかく。九頭龍、何か言う事はあるか。」

九頭龍「…」




九頭龍「ねぇよ。」


澪田「え?」

狛枝「あれだけ好き放題言われたのに、何の反論もしないの?」

花村「もしかして九頭龍くん、マゾっ気がある?今度ぼくが、真性に開発してあげよっか?」


九頭龍「西園寺の発言を…否定するつもりはねぇ。」

九頭龍「そもそもオレには…そんな権利、ないからな。」


九頭龍「それでも、オレは…」

九頭龍「…」




狛枝「なるほどねぇ。」

狛枝「九頭龍クンは妹さんを溺愛していたからこそ、理屈抜きでなりふり構わず復讐に走ったってことだね。」

西園寺「ふん。『妹を失った悲劇の主人公なオレ』に酔ってるだけじゃん。ガキみたいな思考回路だよ。」


狛枝「じゃあ今度は、辺古山さんに話を聞いてみようか。」

辺古山「…」


ソニア「そ、そうですね。今までの話だと、辺古山さんがどのように関連するのかさっぱり塩ラ―メンです。」

左右田「ソニアさん?ソニアさんの言ってることがさっぱりわけわかめですよ。」

澪田「今は真剣に話してるんす!!くだらないシャレはやめなシャレ!!なんちって!!」

豚神「黙れ…。」

澪田「くぴ―っ!!眼が怖いよ―!!」




辺古山「私は…小泉には、悪いことをしたと思っている。」

辺古山「乱暴に扱ったり、ケガをさせたりしてしまったからな。」

罪木「体中のすり傷は、辺古山さんにつけられた傷だったんですね。」


辺古山「それだけじゃない。私は、小泉に辛くあたってしまった。」

七海「辛くあたった?」

辺古山「小泉の呼びかけを無視したり、罵声を浴びせたりした。」

辺古山「人殺しの共犯者…などと言ってな。」

西園寺「なにそれ。小泉おねぇの尊厳をどれだけ汚せば気が済むんだよ、ブスババア。」


辺古山「私は、小泉を殺そうとしていたんだ。だから、ああするしかなかったのだ。」

辺古山「ああいう態度をとっていないと、情が移るかもしれなかったから…」

辺古山「私は坊ちゃんの道具。坊ちゃんの望みを遂行するには、情は不要なのだ。」

辺古山「だから私は、常に冷酷で通さねばならなかった。」




弐大「言っとることがよくわからんのう。どうしてそんなに、小泉を殺すことに固執したんじゃあ?」

終里「辺古山自体は動機と関係してね―のによ。」


小泉「…九頭龍がそう望んだからよ。」

ソニア「え…?どういうことですか?」


辺古山「私は道具だ。物心ついた時から、坊ちゃんの所有物として生きてきた。」

七海「坊ちゃんっていうのは、九頭龍くんのことだよね?」

辺古山「ああ。私は幼少のころに九頭龍組に拾われ、その恩を返すためにずっと坊ちゃんに仕えてきた。」

辺古山「坊ちゃんのために尽くすことこそが使命であり、生きる理由だったんだ。」

辺古山「だから私は…坊ちゃんが殺意を抱けば、剣となって対象を殺すまでだ。」


日向「だから…小泉を殺そうとしたってのか。」

罪木「小泉さんの呼びかけに一切応じずに、ですよね…。」

狛枝「この場合『呼びかけ』ってのは、多分命乞いのことだよね。」


西園寺「命乞いをする相手に対して容赦なく殺しにかかるなんて…人間の皮を被った、本物の悪魔だよ。」

辺古山「…すまない。本当に、悪いことをしたと思ってる。」

西園寺「…」





西園寺「嘘でしょ。」

辺古山「なんだと…?」


西園寺「アンタは、自分のしたことを悪いとなんてこれっぽっちも思ってない。アンタの眼を見ればわかるよ。」

ソニア「さ、西園寺さん。相手が素直に謝っているのですから…」


西園寺「だからさぁ。コイツは皆から責められるのが嫌で、その場しのぎのデマカセを言ってんだよ。」

左右田「デマカセって…どうしてそんなのがわかるんだよ。」


西園寺「だってコイツは九頭龍の道具なんでしょ?」

弐大「その道具っちゅうのも良くわからんわい。辺古山は人間じゃろうが。」

小泉「まぁ、弐大にはわからなくてもしょうがないわね。人の価値観って、あまりにも多種多様過ぎるから。」


西園寺「つまりさ。九頭龍が小泉おねぇをもう1度殺そうとしたら、辺古山は小泉おねぇを殺すってことでしょ?」

西園寺「昨日みたいに、残酷な方法でさ。」

西園寺「そんな奴が『反省しました』なんて言って、誰が納得するの?」

澪田「う~ん。どうなんっすかねぇ?」


辺古山「…昨日は坊ちゃんが殺意を抱いたから私は動いた。」

辺古山「だが今は…坊ちゃんに小泉を殺す気はない。だから私は動かない。」

七海「そうだよ。九頭龍くんにはもう殺意はないみたいだし、辺古山さんも2度とあんなことはしないはずだよ。」

西園寺「…」





西園寺「逃げんなよ、辺古山。」

辺古山「何…?」


西園寺「アンタ、自分が道具だとか言ってるけど…」

西園寺「本当はただ、人殺しの罪を九頭龍に押し付けてるだけなんじゃないの?」

辺古山「なっ…!?」


西園寺「アンタは自分の罪から逃げてんだよ。」

西園寺「自分は道具だからってのを言い訳にして、小泉おねぇを殺そうとした罪をうやむやにしようとしてる。」

狛枝「ははっ。確かにそうだね。実際今も、九頭龍クンと辺古山さん、どっちに罪があるのかあやふやだもんね。」


西園寺「でもね。小泉おねぇからしたら、アンタが道具だろうが人間だろうが大した問題じゃないんだよ。」

西園寺「小泉おねぇを殺そうとしたのは、他でもないアンタなんだから。」


西園寺「小泉おねぇを昨日見た時、わたしビックリしたもん。」

西園寺「首にはあざがあるし、手当ての跡も痛々しくて…。」

九頭龍「…」




西園寺「でも、本当にびっくりしたのは物理的な問題じゃない。」

西園寺「小泉おねぇ、酷い顔してた。精神的に追い詰められたような顔。」

西園寺「きっと、わたし達じゃ想像もできないような酷いことをされて、心無い悪口を言われたんだ。」

西園寺「もしかしたら…永遠のトラウマになるんじゃないかってくらい。」

罪木「さ、西園寺さんがそれを言うんですか…。」


西園寺「小泉おねぇにあんな酷い仕打ちをしておいて…あそこまで追いつめておいて…」

西園寺「なんで辺古山、まるで無関係かのように振る舞ってんの?」

辺古山「…」


西園寺「辺古山…アンタは間違いなく、小泉おねぇを傷つけた人間の1人なんだよ。」

西園寺「アンタは中立じゃない。道具なんてのを口実にして、第三者面してんじゃねぇよ!!」

西園寺「アンタのくだらない言葉遊びで…小泉おねぇを傷つけたり、ましてや殺す事の免罪符になるわけがないだろ!!」

西園寺「人の命は…アンタらが思ってるほど軽くないよ!!」

西園寺「辺古山…アンタは小泉おねぇを殺そうとした、れっきとした人殺しなんだよ!!」

辺古山「…」





小泉「それは違うよ、日寄子ちゃん。」

西園寺「え?」


小泉「日寄子ちゃんの考え方は、所詮1つの価値観でしかない。それは、ペコちゃんの価値観に当てはまらないの。」

小泉「自分の価値観を人に押し付けるのは、良くないよ?」

西園寺「小泉おねぇ…。」




小泉「ペコちゃんに罪はないよ。」

小泉「だって、ペコちゃんがアタシを殺そうとした理由って、九頭龍のためなんでしょ?」

小泉「本来なら、ペコちゃんはアタシに殺意もなければ敵意もないわけだし。」


小泉「アタシはペコちゃんを責める気なんてないよ。そもそも、何を責めればいいのかもわからないし。」

小泉「ね?だからペコちゃん。そんなかしこまらなくてもいいって。自然体で、これからもアタシと接してね?」

辺古山「…」


左右田「なんだよ、小泉…。殺されかけたってのに、やけに辺古山には優しいな?」

弐大「まぁ小泉は、女子には基本甘いからのう。」

澪田「うっひょ―!!まるで天使のような包容力っすね!!」





日向「…何言ってんだ、お前ら。」

弐大「ん?」


日向「小泉の言ってる内容が、どれだけ残酷な事か…わからないのか?」

澪田「え…?」




今日はここまで。




七海「…とにかく、小泉さんは辺古山さんの罪を許してくれる…ってことでいいんだよね?」

小泉「ん~。罪を許すっていうか…そもそもアタシは、ペコちゃんに罪があるなんて思ってないし…」


小泉「罪があるとするなら、むしろ…アタシの方なんだよ。」

田中「人殺しの共犯者という点のことか?」

西園寺「大した罪でもないでしょ。九頭龍のサトウ殺しとか、今回の件に比べたらさ。」


小泉「でも、九頭龍はそう思ってないでしょ?」

罪木「え…?」

狛枝「まぁ…そうだろうね。九頭龍くんは、小泉さんに非があると思ったからこそ…」

狛枝「殺されてもおかしくないほど大きい罪を小泉さんが抱えていると思ったからこそ、復讐に走ったわけだからね。」

澪田「そ、それはいくらなんでも大げさじゃあ…」

弐大「しかし、そうでもなきゃあ殺そうなどとは思わんじゃろう。」




ソニア「といってもですね。今はもう九頭龍さんは考えを改め、殺人を思いとどまっているのです。」

ソニア「これはつまり九頭龍さんは、既に小泉さんを赦していると考えることができるのではないでしょうか。」

左右田「確かにな。じゃあ九頭龍も、過去のことは水に流して、小泉と仲直りしたいって思ってんだな!!」


終里「そもそも今の九頭龍が、小泉を責めることができる立場かよ?」

花村「小泉さんを殺そうとしたんだもんね…。むしろ小泉さんが九頭龍くんを許すかどうかが問題じゃないかな?」

日向「どうなんだよ、小泉。お前は、九頭龍を許せるのか?」

小泉「…」





小泉「それ…聞く相手が違うんじゃない?」

日向「え?」


小泉「だって…罪があるのは、アタシの方なんだから。」

ソニア「だ、だからですね。九頭龍さんは既に、小泉さんの罪を赦して…」



小泉「九頭龍が、1度でもそう言った?」

花村「え…?」

小泉「九頭龍が、自分の口で…アタシの罪を赦してくれるなんて、1度でも言った事がある?」

罪木「そ、そんなの、言葉にしなくたって…」


豚神「…ないな。」

澪田「なっ!?ちょ、白夜ちゃん!!変な事言ったらダメっすよ!!」

豚神「態度で示す…というのもわからなくはないが。それでは納得できない人間もいるんだ。」

七海「そうだね…。九頭龍くんに赦してもらうことは、小泉さんにとっては確かに大事な事みたいだから。」

弐大「容赦の意を言葉として顕在化させ、ハッキリさせときたいんじゃのう。」


狛枝「で?どうなの九頭龍クン。キミは、小泉さんを赦せるの?そうじゃないの?」

九頭龍「何言ってやがる。赦すも何も…」





小泉「そうだよね。九頭龍がアタシなんかを、赦してくれるわけがないよね。」

九頭龍「えっ…。」


日向「お、おい小泉。なんでお前、突然割って入って…」

小泉「考えてもみなよ。良し悪しは置いといて、アタシは九頭龍の妹さんが死ぬ原因をつくった存在なのよ?」

小泉「九頭龍は、妹ちゃんを溺愛してた。それなのに、アタシを赦してくれると思う?」

小泉「いや…赦していいと思う?九頭龍にとって妹ちゃんは、世界にたった1人しかいない妹なんでしょ?」

九頭龍「それは…」


小泉「赦せるわけないよね。わかってるよ。だって九頭龍は、そういう人間なんだから。」

弐大「そ、そんなのただの決めつけじゃろうが…。」

罪木「九頭龍さんだって、そこまで非道な人じゃないと思います。きっと、小泉さんのことを赦して…」


小泉「じゃあなんで、アタシは殺されかけたのよ?」

九頭龍「ぐっ…。」




小泉「アタシだって、九頭龍ならアタシを赦してくれると思ってたよ。」

小泉「昨日…九頭龍に、バットで殴り殺されかけるまではね。」

辺古山「ん…?待て。それは、坊ちゃんではなかろう。バットを使ったのは、私じゃないか。」


小泉「本当にバカだよね、アタシ。」

小泉「昨日九頭龍に殺されかけるまで…謝れば赦してもらえるなんて、本気で思ってたんだもん。」

小泉「本気で、九頭龍と仲直りできるかも…なんて、淡い期待で胸を膨らましてたんだもん。」


田中「なんだと…?貴様、それはつまり…」

七海「九頭龍くんと仲直りする気はない…ってこと?」

西園寺「小泉おねぇ…。」




小泉「仲直りする気があるかないかじゃないよ。そもそもできないのよ、そんなこと。」


小泉「今思えば、“期待”なんて言葉を使うのも恥ずかしいよ。」

小泉「例えるなら…宝くじを1枚買って、1等が当たることを“期待”してたようなものだから。」


小泉「確かにアタシは、簡単には九頭龍は赦してくれないだろうなって予想してたけど…」

小泉「まさか、アタシの謝罪が…完全に無視されるとは、夢にも思ってもなかったわ。」

小泉「話も聞いてもらえずに、問答無用で殺されかけて…」

九頭龍「…」




小泉「アタシは謝った。必死に謝った。土下座して、涙ながらに赦しを懇願したよ。」

小泉「でも…九頭龍は、アタシを赦してくれなかった。」

小泉「いや…違うわ。そんな次元の話じゃない。」


小泉「そもそも九頭龍は…アタシの謝罪なんて、最初っから聞き入れる気なんてなかったのよ。」

九頭龍「そういうわけじゃあ…。」

九頭龍「あの時のオレは、そこまで気が回らなくて…」



小泉「九頭龍も言ってたよね?」

小泉「オレはお前に謝ってほしかったわけじゃない。妹の死が嘘だと言って欲しかった…って。」

小泉「もしあの時アタシが、トワイライトなんて嘘だ…って言ってたら、多分アタシは殺されずに済んだんだよね?」


小泉「つまり九頭龍にとって大事だったのは、トワイライトの真偽だけだったのよ。」

小泉「アタシが償いたいって思っていることなんて、2の次でね。」

小泉「だから…トワイライトが本当だった時点で、九頭龍がアタシを殺そうとするのは決定事項だった…。」

小泉「そういう事よ。」

九頭龍「ま、待てよ小泉。オレはあの時、気が動転してて…」





小泉「近寄らないでよ、人殺し!!!!!」

九頭龍「っ…!!」


終里「お、おいおい…どうしちまったんだよ?」

西園寺「小泉おねぇ…。」


西園寺「らしく、ないよ…。」




小泉「…仲直りできない理由は、1つじゃないの。」

小泉「アタシね。実は今も、怖いの。」

花村「な、なんの話?」


小泉「怖いのよ、九頭龍が。視界に入るだけで、声を聴くだけで、体が震えだす。」

小泉「九頭龍が今にもアタシに殺しにかかるんじゃないか、って思えてしまってね。」

九頭龍「だ、だから、オレはもう…!!」


小泉「昨日殺されかけたのもあるけど…もともとアタシ、九頭龍が苦手だったしさ。」

小泉「多分アタシ、1対1じゃあ九頭龍と話せないし、近くに寄られると立っている事さえできないよ。」


小泉「ホンット、笑い話だよね。こんな相手と、和解しようと思ってたなんて。」

小泉「人との距離感をうまくつかめてなかったから、手痛いしっぺ返しを喰らうことになっちゃった。」


小泉「ちゃんと話し合えば、きっと赦してくれるなんて…もしかしたら、分かり合えるかもなんて…」

小泉「そんな幻想を、少しでも抱いてしまったのが…すべての間違いだったのよ。」


辺古山「じゃあ、小泉は…坊ちゃんを許しては、くれないのか…?」




小泉「許す、許さないの問題じゃない。アタシと九頭龍は分かり合えないの。」

小泉「絶対に、相容れないの。」

小泉「永遠に。」


小泉「それも当然よね。アタシはただの一般市民で、相手は極道なんだから。」

小泉「そもそもヤクザなんかと交わろうなんてのが、浅はかだわ。」

小泉「極道の九頭龍が…一般人のアタシを、対等な人間として扱ってくれるわけがないじゃない。」

小泉「ははっ…。こんなこと、ずっと前からわかっていたはずなのに。」

小泉「どうして昨日のアタシは、あんなに楽観的だったのかな?」

小泉「おかげで、死にかけちゃったのにさ。」


小泉「アタシと九頭龍は仲直りなんて出来っこない。」

小泉「たとえここでうわべだけ繕っても…皆に気付かれないところで、また九頭龍に酷い事されるに決まってる。」


小泉「だからアタシは…九頭龍とはもう2度と関わらない。会話するのも、これで最後よ。」

小泉「九頭龍もそれでいいでしょ?妹を死に至らしめた憎い相手と交流なんて、したくないでしょ?」

九頭龍「…クソッ。」




辺古山「待ってくれ、小泉!!頼む、坊ちゃんを許してやって欲しい…!!」

西園寺「辺古山…。」


小泉「何を言ってるの、ペコちゃん?アタシは許す側じゃない。」

小泉「むしろ、赦しを請う立場なのよ…?」


辺古山「だとしてもだ。小泉は、明確な敵意を持っているだろう?」

辺古山「坊ちゃんを恨んでいるだろう…?」

小泉「…」


小泉「まぁ…憎くないと言えば、嘘になるけど。」

小泉「多分これって、アタシのただの逆恨みだからさ。」

小泉「どれだけ謝っても赦してくれない、九頭龍に対する…歪んだ恨み。」

九頭龍「…」


小泉「アタシは九頭龍の復讐を否定するつもりはないし、アタシの罪を否定する気もない。」

小泉「でも、何をしようが赦してもらえないのなら。」

小泉「このドロドロしたどす黒い感情を清算することなんて、できないでしょ?」

小泉「だからもう九頭龍とアタシは、仲直りなんてできないって言ってるの。」

九頭龍「待てよ、小泉…。オレはもう、お前を…」





小泉「…やめてよ、そんな心にもないことを言うのは。」

九頭龍「はぁ…?」


小泉「アンタがここでなんと言おうと、説得力がないわ。」

小泉「たとえアンタが今、赦しの言葉を発したところで…それが九頭龍の本意だなんて、思えるわけがないじゃない。」

小泉「だってアタシ、下手したら昨日死んでたんだから。」


小泉「アタシが死んだらね。アタシは赦しを請うこともできないし、アンタがアタシを赦すこともできないの。」

小泉「殺すっていうのは、そういう意味。」

小泉「アタシに赦しを請う機会を奪って、九頭龍がアタシを赦すことを放棄する…ってことなのよ。」


小泉「だからさ…アタシを殺そうとしておいて、今更アタシを赦すなんて…」

小泉「そんな権利が、アンタにあると思う?」

九頭龍「うぅ…!!!!」




田中「赦すことにも、権利が要るというのか…。」

七海「九頭龍くんが赦すことを小泉さんは許さない…なんてややこしいんだろうね。」


豚神「つまり小泉が九頭龍を責めている点は、殺されそうになったことではなく…」

狛枝「九頭龍クンが小泉さんから赦しを請う機会を奪ったこと…だね。」

罪木「だからこそ、九頭龍さんからも赦しを与える機会を奪おうってことですか…?」

ソニア「そんなの…哀し過ぎますよ!!」

ソニア「だってそれはつまり…小泉さんと九頭龍さんは、永遠に和解できないってことじゃないですか!!」


小泉「…哀しいも何も、それが事実で、最善なんだよ。」

小泉「アタシと九頭龍は、互いに全く異なった価値観を持つ人間なんだから。」

小泉「無理に理解し合おうとする方が、悲惨な結果になるの。」

小泉「昨日アタシが、殺されかけたようにね。」

九頭龍「クソ、がぁ…。」




辺古山「待て、小泉!!最終的にお前を殺そうとしたのは私だ。だから、坊ちゃんを恨まないでくれ。」

辺古山「恨むなら…私だけにしてくれ。」

小泉「え…?どうしてそうなるの?」


辺古山「私は坊ちゃんの代わりにお前を殺そうとしたんだ。」

辺古山「ならば小泉を殺そうとしたのは、坊ちゃんではなく私だということになるんじゃないか?」

西園寺「そ、そうだよ小泉おねぇ。九頭龍の非がなくなるかはともかくさ。」

西園寺「辺古山も小泉おねぇを殺そうとしたんだから、小泉おねぇは辺古山も責めるべきだよ…。」




小泉「あのね、ペコちゃん。例えばアタシが、九頭龍にナイフで刺されたとしよっか。」

辺古山「なっ…?何の、話だ?」

小泉「それでね。ナイフで刺された被害者であるアタシが…」



小泉「ナイフを恨むと思う?」

辺古山「…!!!!」




小泉「凶器がなんだったかなんて、まったく問題じゃないでしょ?論外でしょ?」

小泉「どんな方法で殺されようが…恨む対象は、アタシを殺してきた張本人だけよ。」

小泉「だから、アタシが…ペコちゃんを恨むわけがないじゃない。」

小泉「だってペコちゃんは所詮、九頭龍に使われた…ただの凶器に過ぎないんだから。」


左右田「おいおいおいおい…なんだよ、それ?」

日向「小泉、お前…自分の言ってることがどういう意味か、分かってるのかよ!?」

田中「辺古山など眼中にないということか!?」

狛枝「違うね。辺古山さんに対して、『お前は人間じゃない』って言ってるのと同じだよ。」

花村「そ、そんなのって…!!!」




小泉「いくら殺されかけても…殺してきた相手が人間じゃないなら、恨みようがないからね。」

小泉「だからアタシは安心して、九頭龍とだけ話ができるんだよ。」

小泉「ペコちゃんに殺されかけても…九頭龍に殺されかけたと解釈することができるんだよ。」


西園寺「小泉おねぇは、辺古山を人間扱いしてあげないってこと…?」

豚神「なんだそれは…!!?貴様の考え方には、狂気すら感じるぞ!?」

弐大「その意味では、あくまで“人間としての”辺古山を叱責していた西園寺の方が、100倍良心的じゃあ…。」


西園寺「…恨むっていうのは本来、相手が“対等な人間”じゃないとできないことなんだよ。」

罪木「じゃあ…最初っから、辺古山さんを恨む気がなかった小泉さんは、辺古山さんのことを…」

澪田「い、いくらなんでも、残酷すぎるっすよぉ!!!!」




小泉「え…?アタシ、何か変なことを言ってる?」

小泉「だって自分は道具だって言ったのは、ペコちゃんでしょ?」

七海「それは、そうだけど…」

花村「だからって、小泉さんがそれを認めちゃダメじゃないかな…?」


小泉「それは違うと思うよ?だってペコちゃんは、生まれてからずっと、九頭龍の道具として生きて来たんでしょ?」

小泉「なのにそれを全然理解してないアタシ達が、突然ペコちゃんを人間扱いしちゃったらさ…」

小泉「今までのペコちゃんの人生すべてを否定することになるのよ?」

辺古山「…」

小泉「自分は道具でいたくないとか、本当は人間でありたいとかペコちゃんが言い出したら、話は別なんだろうけど。」

小泉(皆は知らないよね。学園時代も絶望時代も、ペコちゃんはずっと九頭龍の道具として生きてきたことを。)


小泉「アタシはペコちゃんの価値観を否定したくない。」

小泉「自分は道具だっていうペコちゃんの主張も尊重するべきだと思うんだ。」

小泉「だからペコちゃんが何と言おうと、アタシはペコちゃんを恨む気はないし…」

小泉「皆が何と言おうと…アタシは九頭龍と仲直りなんて、する気はないわ。」





九頭龍「…ペコは、道具なんかじゃない。」

小泉「え?」


九頭龍「オレを恨むのは構わない。でもよ…。」

九頭龍「頼む。ペコのことは許してくれ。」


九頭龍「ペコを…人間扱いしてやってくれ。」

辺古山「坊ちゃん…。」

小泉「…」




小泉「アタシさ…。これでも今まで、ペコちゃんとは積極的に交流してきたつもりなんだよ?」

辺古山「何…?」


小泉「ペコちゃんがうまく笑えなくて悩んでいることも教えてもらったし。」

小泉「実はモフモフした動物が好きだってことも知ってるよ?」

小泉「昨日の水泳大会だって、ペコちゃんとの絆を深めるのにはうってつけだったのにな。」




小泉「別に…貸しを作ろうとか、恩を売ろうとか、そういう意味じゃないんだけどさ。」


小泉「ペコちゃんが本当に人間なら、あそこまで冷酷にアタシを殺そうとするのかな?」

小泉「ペコちゃんが本当に人間なら、今までアタシと過ごしてきた日々を思い出してくれるんじゃないかな?」

小泉「アタシとの絆を思い出して…アタシに、少しくらいは温情を見せてくれても良かったんじゃないかな…?」

辺古山「それは…」


小泉「だからアタシは、ペコちゃんを道具だと思う方が気が楽なんだ。」

小泉「だってさ…もしペコちゃんが、本当に人間ならさ…」


小泉「アタシとペコちゃんが今まで培ってきた絆って…九頭龍の一時的な感情にすら負けてしまうってことになるから。」

辺古山「うっ…!!!!」




小泉「哀しいな。本当に、哀しいよ…。ペコちゃんが、どうしようもなく遠いんだもん。」

小泉「人間としてのペコちゃんに手が届かないのなら、いっその事ペコちゃんを道具だと思った方が…」


辺古山「待ってくれ!!こんなことを言っても、小泉は信じてくれないかもしれないが。」

辺古山「昨日日向達が来る直前…私は、小泉の言葉に揺り動かされて…」





小泉「殺しを思いとどまろうとしてた…なんて、寒いこと言わないでよ?」

辺古山「…!!」


小泉「アタシがペコちゃんを恨まないでいられるのは…」

小泉「ペコちゃんがただの人殺しの道具でしかないから…なんだよ?」


小泉「本当は殺したくなかった。自分は本当は道具なんかじゃないんだ…なんて言われたらさ…」

小泉「じゃあどうしてアタシがペコちゃんに殺されかけたのか、わけわかんなくなっちゃうじゃん。」


小泉「何の理由もなく殺されて、相手を許せるほど…アタシはお人好しじゃない。」

小泉「そんなことになったら、アタシ…ペコちゃんのこと、本当に許せなくなっちゃうよ…。」

辺古山「…」




九頭龍「小泉は…ペコに、人間として生きる機会も与えてくれねぇのか…?」

小泉「…先にアタシから機会を奪ったのは、2人の方じゃない。」

小泉「九頭龍に赦しを請う機会も、ペコちゃんを人間だと思う機会も…。」

九頭龍「…」


小泉「で?これくらいでいいかな?今回の事件について話し合うのはさ。」

小泉「じゃ、今日はもう解散しようよ。事件も片付いたんだし。これにて一件落着ってことで。」

豚神「おい、待て!!まだ、話は…!!」







田中「行ってしまったか…。」

澪田「なんか…取りつく島もないって感じだったっすね…。」

終里「納得いかねぇよな…。こんなに中途半端で、終わらせるなんてよ。」

左右田「ああ…心の中のモヤモヤしたわだかまりが、全然晴れねぇっつ―か…。」

ソニア「腑に落ちませんよ。虚しいですよ。こんなすれ違い…。」





西園寺「でも…小泉おねぇは悪くない。」

花村「え?」


日向「まぁ…そうだよな。問答無用に殺されかけて…そんな簡単に、2人を許せるわけないよな…。」

ソニア「で、でも、このまま和解もできずに話を終えるなんて、あんまりです…!!」

豚神「仕方なかろう。肝心の小泉に、和解する気がないのなら。」

罪木「そ、そうは言ってもですね…。」


弐大「まぁ…そのうち考えを変えて、アッサリ歩み寄ってくるかもしれん。」

七海「そうだね。きっと、時間が解決してくれる…かもしれない。」

左右田「オレらはただ…待つことしかできねぇってことかよ。」

九頭龍「…」





狛枝「あははっ、これは予想以上に絶望的な展開だね。」

狛枝「ちょっとボクが、九頭龍クンを煽りすぎちゃったのかな?」

日向「は?」


狛枝「実は昨日にさ。モノクマから写真を受け取っていた九頭龍クンを目撃していてさ。」

田中「なに…!?ならば貴様は、九頭龍に動機が渡されていたことをハナから知っていたのか!?」

左右田「わかってたのなら止めろよ!!」


狛枝「なに言ってんの。せっかくボクが小泉さんを試すチャンスだったのに、みすみすその機会を潰すわけないじゃん。」

豚神「小泉を試すだと…?」


狛枝「殺し合いなんて起こさせない。誰も死なないことこそが希望…なんて言ってたからさ。」

狛枝「それに見合うだけの希望を小泉さんが本当に持っているのか、試してみたくなってね。」

狛枝「小泉さんの希望が本物なら、こんな事件なんかで死んだりしないはずだもんね?」

終里「わけのわかんねぇことを言ってんじゃねぇぞ…!!」


狛枝「だからボクは、九頭龍クンにあることないこと吹き込んでみたんだ!!」

ソニア「あることないことですか!?」

九頭龍「…」




~回想~


九頭龍「クソッ…何なんだよこの写真…オレの妹が…!?」

狛枝「あるぇ?九頭龍クン、こんなところで何やってるの?」

九頭龍「ああ!?テメェ、いつの間にそこに…。お前には関係ね―だろ!!どっか行きやがれ!!」


狛枝「あはは。ボク、そこで立ち聞きしちゃってたんだ。確か、妹さんが小泉さんに殺されたんだっけ?」

九頭龍「…ああっ!!?んなわけね―だろ!!?アイツが、そんな簡単に死ぬわけが…!!!」


狛枝「そういえば小泉さん、こんなこと言ってたな。」

狛枝「九頭龍クンを避ける理由は、親友を殺した相手が憎いからだとか…」

狛枝「妹が死んだのはスカッとしたけど、妹のついでにアイツもサトウに殺してもらった方が良かったな…」

狛枝「なんてさ。」

九頭龍「なん、だとぉ…!?」


~回想終了~




終里「そんな言葉を、信じたってのかよ!?」

弐大「どう考えてもデマカセじゃろうがぁ!!情報源が狛枝じゃろうがい!!」

九頭龍「すまねぇ。あの時のオレは興奮してて、ロクに分別もつかなくてよ…。」


日向「謝る相手が違うだろ…。小泉に言ってやれ。今からでも遅くないかもしれないぞ?」

九頭龍「でもよ…。どう言えば良いんだよ。そもそもオレに、そんな権利があんのかよ…?」


澪田「まったくもう!!どいつもこいつもジメジメした考え方ばっかりして!!」

田中「しかし今の小泉には、何を言っても火に油だろう…。」

花村「確かに、そんな感じだったよね…。」




狛枝「ホントだよ。今の小泉さん、絶望的だよね。九頭龍クンとのいざござと立ち向かわず、逃げ出すなんてさ。」

狛枝「確かに死んじゃうようなことはなかったけど…これじゃあ“絶対的な希望”にはほど遠いよね。」

狛枝「ま…この絶望をこれから、小泉さんがどう乗り越えていくのかを、ボクは楽しみにしているよ。」


日向「ふざけるな!!事の発端のくせに、高みの見物を決め込んで…!!!!」

狛枝「それは違うよ。ボクが事件に干渉したのなんて、微々たるものだよ。」

狛枝「事件は小泉さんと九頭龍クン…2人の間だけで起きた物なんだから。」

九頭龍「…さり気なく、ペコを抜くなよ。」




狛枝「それはそうとさ。ボクは九頭龍クンにも聞いておきたいんだよ。」

狛枝「九頭龍クンは、目の前にある絶望に立ち向かう気はあるの?」

九頭龍「…なんだよ、それ。」


狛枝「敵意むき出しの小泉さんと、和解する気はあるの?」

九頭龍「…」


九頭龍「今のオレには…そう思うことすら、許されねぇ。」

九頭龍「そう思う権利すら…与えてもらえねぇんだよ。」

日向「九頭龍…。」




西園寺「これでわかったでしょ、九頭龍?アンタがしでかしたことが、どれだけ深刻なのか。」

九頭龍「…」


西園寺「殺すっていう行為は、重いんだよ。」

西園寺「取り返しがつかなくなるほど、とてつもなく重い…。」

西園寺「実際に死人が出なくても…人の心を、簡単に破壊しちゃうんだから。」

西園寺「アンタの一時的な思いつきで…殺人に走るなんて、あっちゃいけないんだよ。」


西園寺「自分の罪の重さ…嫌というほど噛みしめろ、クソヤクザ。」

九頭龍「…」







―ホテル前―


小泉「…」

小泉「洗濯物…。皆の服が、干してある…。」

小泉「全員の、服…。」


小泉「…」




おもむろにアタシは、洗濯ものに近寄る。

そして、干してあった九頭龍の服をガシッとつかんで…



小泉「…あああああああああ!!!!!」



物干しざおから引きちぎる。



小泉「あああああああああああ!!!!うぁああああああああああああああぁああああ!!!!!」



そのままそれを地面に投げつけて、何回も踏んづける。

何回も、何回も…


そうしているうちに、いつの間にかそこに落ちている物体は、ボロボロの布きれになっていた。



小泉「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…」




本当は、こんな結末にするべきじゃなかったのだろう。

本来なら…自分の主張を押し殺して、九頭龍達と表面的にでも和解したほうが良かったのだろう。


でも…どうしてもアタシは、その最善の策をとりたくなかった。

どうしてかはよくわからない。


ただ、理由をつけるとするなら。

それはアタシの過去と、今回の事件を重ねてしまったから…なのかもしれない。




“絶望のカリスマ”だったアタシ。

世界中の人間が持つ多種多様な価値観を、アタシは1つの価値観で染めようとしていた。

いくつもある価値観の全てを否定して、アタシの理念に賛同させようとしてたんだ。


そんな過去を持っているからこそアタシは、誰かの価値観を否定することに臆病になるんだ。

ペコちゃんの道具理論も、1つの価値観だから…。アタシは、否定できなかったんだ。




未来機関は今も、“絶望のカリスマ”を恨んでる。

大事な人が死ぬ原因を作ったアタシを。

規模は全然違うけど、状況は九頭龍の件と変わらない。


だからアタシは…九頭龍との件を曖昧に終わらせたくなかった。

九頭龍との件を曖昧に終わらせる事は、間接的に絶望のカリスマとしての罪から目をそらすことになりそうだったから。

九頭龍と真剣に向き合って…その結果がアレだ。


小泉「はは…バカみたい。」

小泉「そもそもアタシ、ビ―チハウスで九頭龍と会うまでは、ロクに九頭龍と話し合おうとすらしてなかったのに。」

小泉「自分の過去の罪から、眼を逸らし続けていたのに…。」


小泉「いきなりとってつけたように謝って…赦してもらえるわけがないじゃん。」

小泉「アタシってば、なんて愚かな期待をしてたのよ…。」




過去に犯した罪は、取り戻せないんだ。

絶望のカリスマだった罪は、どうやっても償えないんだ…。


こんなこと、わかっていたのに。

その事実を再確認させられたアタシは…絶望しているのだろうか?

その事実を再確認させてきた九頭龍に、アタシは…逆恨みしてるんだろうか?

アタシにもよくわからない。




とにかく、アタシが選択した結論は、九頭龍との絶縁だった。

人間生きていれば、価値観が全く合わない人間だっているに決まってる。

アタシにとってはそれが、九頭龍だったってだけだ。


理解できない人間との距離を測り間違えれば、アタシは自滅してしまう。

分かり合えない人間と、無理に分かり合おうとする必要なんてない。


そんな人間とは、一定の距離をとる。

この世には、そういう関係だってあるはずだ。

仲間とのそういう在り方だって、あるということだ。


結局、アタシと九頭龍の間にあった亀裂は埋まることはなく…

それどころか明確な“確執”として具現化し、アタシの前に立ちはだかってしまった。



CHAPTER2+ 人との距離の測り方   END

生き残り   16人
日向 狛枝 豚神 田中 左右田 花村 弐大 九頭龍
終里 七海 ソニア 西園寺 小泉 罪木 澪田 辺古山

TO BE CONTINUED….




今日はここまで。


絵を描いた。ムシャクシャしてやった。反省はしている。だが後悔はしていない。

見る勇気がある人は見てね。↓

http://i.imgur.com/PA3k4T7.png





最近忙しすぎてまったく更新できてなかった。

2月が終わるくらいにならないと忙しさが去りそうにない…。




CHAPTER3+ 極秘プロジェクトとさくらんぼ


18日目


―レストラン―


九頭龍「おひかえなすって!!これよりあげます言葉の後先…。間違えましたら御免なすって!!」

九頭龍「手前、姓は九頭龍、名は冬彦と発します!!」

九頭龍「家業未熟の駆け出し者でございます!!」

九頭龍「以後、面体お見知りおきの上、よろしくお頼み申し上げます!!」


田中「なんだ、今のは。」

九頭龍「な、なんでもねぇよ。ただのあいさつだろ。」

弐大「あいさつかぁ。腹の奥から元気よく声を出して、気持ちがいいのう!!」

七海「そういえば、九頭龍くんの方からきちんとあいさつをしてきたのって…今のが初めてだよね。」


豚神「つまり今までの態度を改め、和を乱すような行動はもうとらない…という解釈でいいのか?」

九頭龍「…好きに解釈してやがれ。」

九頭龍「改めて…よろしく頼む。」




西園寺「ふ~ん。小泉おねぇがいる前で、良くそんなことが言えるね。」

小泉「…」

西園寺「セコイと思わないの?小泉おねぇとの件に何の決着も着けずに、皆に取り入ろうなんてさ。」

九頭龍「そういうわけじゃ、ねぇよ。皆に取り入ろうとかじゃ、ねぇ…。」

九頭龍「小泉の前だからこそ、やっておかないといけねぇんだ。」

終里「どういう意味だよ?」


西園寺「皆に取り入る許可を、小泉おねぇから得ないといけないってことでしょ?」

九頭龍「…」


左右田「確かにな。九頭龍がどうへりくだろうが、小泉がそれを許さないんじゃあ…」

罪木「私たちは、九頭龍さんを受け入れてもいいことにはならないような…」

澪田「そ、そんな難しいこと、唯吹にはわかんないよぉ!!」

ソニア「わ、わたくしとしては、九頭龍さんと普段通り接したいところなのですが。」

花村「でも昨日の小泉さんの様子からして、九頭龍くんの行為を許すとは…」





小泉「別にいいよ。」


狛枝「え?」

小泉「いいことじゃない。」

小泉「なんちゃって極道を貫いて、あれだけ単独行動をとっていた九頭龍が、自ら皆に歩み寄ってきてるんだからさ。」

日向「なんちゃって極道!?」


小泉「アタシは別に、九頭龍に不幸になって欲しいとか言ってるんじゃないよ。」

小泉「そもそも九頭龍の行動にあれこれ指図する権利なんて、アタシにはないしね。」

小泉「皆と交わりたいって言うのなら、好きにすればいいじゃない。」


ソニア「まぁ!!それはなんと言いますか、太いお腹ですね!!」

澪田「それじゃあただのメタボじゃないっすか!!」

豚神「何故俺を見る。」




小泉「ただ…2度とアタシに関わらないで、って言ってるだけ。」

小泉「アタシに関わりさえしなければ、アタシは何の文句も言わない。」

小泉「さっきの変なあいさつで、アタシの朝食を邪魔しようとね。」

小泉「だから…なるべくアタシの視界に入らないところで、ひっそりと幸せになってなさいよ。」


九頭龍「…」

西園寺「小泉おねぇ…。」

七海「…」

弐大「…」




小泉「…なんで皆、静まり返ってんのよ。九頭龍もようやく皆の仲間入りして、誰も欠けずにここにいるのに。」

小泉「これじゃまるでお葬式じゃない。皆、もっと喜んだら?この空気は今の皆とは似つかないよ。」

小泉「はむっ。うん、やっぱり花村の料理はおいしいわ。」


花村「な、何もこんな時に、ご飯を食べなくても…」

終里「オレでさえ自重してんのによ。」

左右田「そ、そもそも小泉のせいじゃないか!!皆の空気が悪いのは…!!」


九頭龍「やめろ。責めるべき相手が違ぇだろ…。」

田中「そうは言ってもな…」

罪木「とても、主人公の発言とは思えませんよ…。」




小泉「何よ。なんでそんなに、事を深刻にとらえないといけないのよ。」

小泉「皆が仲良くしてる中で、アタシと九頭龍の関係だけが断絶してる。」

小泉「それっぽっちのこと、特に気にしなくていいじゃない。」

小泉「だから皆もそろそろ話し合いを打ち切って、朝食をとったら?今日のは特に美味しいよ。」


そう言ってアタシは、何事もなかったかのように振る舞う。

アタシは2度と九頭龍とは関わらないと決めたんだ。

九頭龍があいさつしていようと、皆に取り入ろうとしていようと、アタシには関係ない。

九頭龍が何かしているからといって、アタシの生活リズムをわざわざ変える必要なんてないでしょ?

アタシにとってはそんなこと、とるに足らない些事なんだから。

だからアタシは平常心を装いながら、朝食にお箸をつついて…





九頭龍「そういうわけにも、いかねぇだろ…!!!!」

小泉「っ…!!?」


突然声を荒げた九頭龍はアタシの方をジッとにらんで、アタシとの距離を詰めてくる。

それにひるんだアタシは、あわてて椅子から立ち上がって後ずさる。




小泉「な、なに…?」


九頭龍「なぁ小泉。オレも、いろいろ考えたんだけどよ。」

小泉「や、やめてよ!!は、話しかけないでって言ったじゃない!!」


九頭龍「極道として、こんな中途半端に話を終わらせたくない。」

小泉「ち、近づくな、人殺し!!あっち行け、早く消えてよ!!」

気付けば壁を背にしていて、逃げ場がなくなっている。それでも九頭龍は、アタシに迫ってくる。




九頭龍「許してもらえるなんて思っちゃいねぇ。でも…このままじゃあ、オレの気が収まらねぇんだよ。」

小泉「ま、待って。ホントに待って。お願い、近づいて来ないで…」

やばい。もう、九頭龍が目の前に…


小泉「嫌、いや…」

九頭龍「和解しようなんて言わねぇ。だがせめてもう1度、話を…」





小泉「いやぁあああああああああああぁああああああああああああああああ!!!!!!」



九頭龍「…あ!?」

アタシは地面にへたり込んで、頭を両手で覆い、身をすくめてギュッと目を閉じる。



小泉「やめて、やめて…。痛い、痛い…。」

小泉「ごめんなさい、ごめんなさい…。」

小泉「赦して、赦して、赦してぇ…。」


終里「おいおい…。何だよ、これ…」

狛枝「異常なまでに平常を保っていた小泉さんが、今度は壊れたかのように怯えてしまっているね。」

澪田「と、とにかく冬彦ちゃん、やめるっす!!強引な男は嫌われるっすよ!!」

九頭龍「ま、待てよ。今回は、オレは何にも…」




西園寺「…早く小泉おねぇから離れろ、九頭龍。」

九頭龍「え…。」

西園寺「小泉おねぇにとって、アンタはトラウマなんだよ。」

罪木「トラウマ、ですか…!?」


西園寺「そりゃそうでしょ。九頭龍は1度、小泉おねぇを殺そうとしたんだから。」

西園寺「小泉おねぇにとって今の状況は、殺人鬼が襲ってきてるのと同じだよ。」

西園寺「それがわかってるの?九頭龍。」

九頭龍「クッ…。」


西園寺「九頭龍が近づいただけで正気を保てないって、小泉おねぇも言ってたでしょ?」

ソニア「それは、ただの誇張表現では…」


弐大「…小泉の様子を見るに、どうやら誇張ではなかったようじゃのう。」

日向「九頭龍から無理やり眼を逸らさないと、正気を保てないってのかよ…。」

豚神「まぁ…1度殺されかけたのだからな。精神に深い傷を負っても無理はないが。」

花村「だからといって、ここまでなる物なの…!?」


左右田「こ、これじゃあ本当に、和解なんて無理じゃねぇか。」

田中「九頭龍が遠くにいれば、完膚なきまでの無関心で…」

罪木「九頭龍さんが近寄れば、とても話のできる状態じゃなくなっちゃいますぅ…。」

ソニア「そ、そんなのって…!!」




小泉「だから、言ったじゃない…。アタシと九頭龍は、分かり合えないって。」

小泉「アタシ、九頭龍が怖いの。永遠の、トラウマなのよ。」

小泉「本当に、怖いのよぉ…。」


小泉「アタシの言葉や態度が気に障ったのなら謝る。本当に、ごめんなさい。」

小泉「だから…お願い。アタシに、関わらないでください。」

九頭龍「…クソッ。」




今日はここまで。


結構退廃的だな···。
俺新訳は希望を主体にしてはいるが、小泉さんは絶望的なストーリーを目指している。
二周目以降の展開からで大きな差が有りすぎだ。
···いや、俺新訳の卑しき乳牛先生が凄すぎるだけか。
何故か小泉ロンパは見劣りしがちになる。主にメタ発言と小泉さんの行動のせいで。

パンツハンターwww

苗木「何故小泉さんは絶望したままなんだ・・・。
九頭竜くんに怯えなくても良いじゃないか!
確かにコロシアイ学園生活(俺新訳ダンガンロンパの)四周目でボクは十神クンを憎んでしまった・・・。
しかし、舞園さんのお陰でボクは立ち直れた!
十神クンと和解出来た!
ボクにも出来たんだ、小泉さんなら九頭竜クンとの和解は出来るさ!」
・・・苗木ならこんなこと言いそう。



田中のハムスタ―は特別10年近く生きるすごういハムスタ―なのです(適当)

最近まったく更新できない。理由はシ―ズンで察してけろ




モノミ「そ、そのぉ…。」

七海「あ、モノミちゃん。どうしたの?」


モノミ「い、いけまちぇんよ。ケンカは…」

モノミ「皆、ら―ぶら―ぶでちゅよ…。」


小泉「…ケンカ?」

小泉「これが…“ケンカ”と呼べるほどに、対等な関係に見えるの?」

九頭龍「…」




狛枝「モノミが来たってことは…もしかしてまた、モノケモノをやっつけたのかな。」

田中「新たな道が切り開かれる時が来た。そういう事だな?」


モノミ「本当はその旨を伝えに来たんでちゅが…それどころじゃなさそうでちゅね…。」

罪木「そ、そうなんです。未だに、2人の問題が解決しなくて…」





小泉「解決してるのよ。」


澪田「え…。」

小泉「アタシと九頭龍の問題は…とっくに解決してるのよ。」

小泉「関係の断絶…っていう形でね。」

弐大「関係の断絶って…そんな解決の仕方があってたまるかい!!」


小泉「どうして?」

花村「どうしてって、それは…」

小泉「問題の解決方法は、1つだけじゃないはずよ。」

小泉「場合によっては、和解よりも適切な方法だってあるの。今回はそれが、関係の断絶だったってだけ。」


小泉「なのに納得がいかないからって皆は、そういう結末に難癖をつけてる。」

小泉「まぁ…事件の詳細をなんにも理解できてない皆には、考えもつかない方法なのかもしれないけど。」

日向「理解できてないって…。確かに俺たちは部外者だけど、そんな言い方しなくてもいいじゃないか。」

ソニア「そんな身もふたもないこと言われると、わたくしたちには手の施しようが…」

豚神「そもそも部外者が手を出そうとすること自体を、否定しているのかもしれんな。」

終里「くそっ。な―んか納得いかねぇよな…。」


小泉「既に終わった事件を…無意味に掘り返してるだけなのよ、今の状況は。」

小泉「だから、余計ないさかいを起こしちゃう。」




小泉「ね?だからこんな事件なんて刹那で忘れちゃって、気分転換に3の島を探検しに行こうよ。」

小泉「日寄子ちゃん。アタシと一緒に来てくれるよね?」

西園寺「え…う、うん。」


小泉「日寄子ちゃん。手、貸してくれない?1人じゃ、起き上がれなくって。」

西園寺「起き上がれない?」

小泉「あはは…腰が、抜けちゃった。足が震えて、体に上手く力が入らないの。」


弐大「腰が抜けた…?」

左右田「さっきのだけでか!?」

終里「マジかよ…。」

九頭龍「…」




小泉「あと…タオルも欲しいな。」

狛枝「タオル?どうして?」

小泉「そ、その…。ちゃんと、自分で掃除するからさ。」

澪田「掃除って、何の話っすか?ってか真昼ちゃん、なんで顔がちょっと赤いの?」


左右田「あれ?よく見ると小泉の座ってる場所らへんに、水たまりができてるような…」

小泉「っ…!!!!」


西園寺「ちょ、ちょっとクソ童貞!!アンタってデリカシ―がないの!!?」

左右田「ク、クソ童貞!?な、なんだよ急に!!?」

ソニア「デリカシ―云々は基本、小泉さんが言いそうなものですが。」

弐大「そもそも西園寺に、デリカシ―を説かれたくないのう。」

終里「おっさんに関しては、説かれても文句言えね―だろ。」




罪木「そ、その…あの西園寺さんですら、デリカシ―を気にすることって…」

七海「もしかして、小泉さん…。」

花村「まさかのサ―ビスシ―ンだ!!その名もおもら」


西園寺「西園寺カッタ―!!!!」

花村「あべばべばっ!!?命を刈り取る形をしている西園寺さんのツインテ―ルが、ブ―メランの如く襲い掛かって来て!!?」


小泉「も、もういいでしょ?大体状況はわかったでしょ?これ以上皆がいると、その…恥ずかしいの。」

小泉「だから早く、解散しよ?」

豚神「まだ肉(朝食)を食っていないのにか!!!?」

澪田「空気読むっすよ白夜ちゃん!!」





九頭龍「…そこまで、なのか?」

田中「ん?」


九頭龍「オレがただ近づくだけで、腰を抜かして…失禁する程なのかよ?」

小泉「…」

西園寺「おい九頭龍、やめろよ!!まさかアンタはこんな状態の小泉おねぇを、まだいじめるつもりなの!?」


九頭龍「なんでだよ。なんでそこまでするんだよ…?」

九頭龍「なんでそこまでして、オレを排斥しなきゃなんね―んだ…。」

日向「九頭龍…。」


西園寺「アンタ…自分がやったことを、もう忘れたの!!?」

西園寺「小泉おねぇを殺そうとしたくせに!!相手から怖がられるとか、そんな事を一切考えてなかったわけ!!?」

九頭龍「それは、そうかもしれね―けどよ…。」

九頭龍「おかしいだろ。小泉みたいな、気の強い奴が…」

九頭龍「…」




小泉(…もちろん、一昨日の件も原因の1つだけど。本当は、それだけじゃない。)


小泉(今の九頭龍には学園時代の記憶がないから、アタシを殺すことを一応思いとどまっているけど。)

小泉(学園時代のアイツは…アタシに、過酷な拷問を強いた人間なんだ。)

小泉(国内最大の暴力団の頭が、無力な一般市民に対して行った…拷問。)


小泉(トラに踏み潰されるのをただ待つしかない、四肢をもがれたドブネズミになったような。)

小泉(恐怖が体から蒸発しながら熱を奪っていって、全身の血が冷え切ってしまったような。)

小泉(そんな感覚。)


小泉(あの凄惨な出来事…九頭龍がアタシを赦してくれたら、忘れることができたかもしれないのに。)

小泉(赦しを請うても、命乞いをしても、アイツはアタシに情けをかけなかった。)


小泉(記憶がないだけで九頭龍は、今も昔も変わらない。)

小泉(たとえ記憶がなかったとしても…アタシに対する憎しみだけは、時空を問わず持ち続けている。)

小泉(記憶があろうがなかろうが、アタシを殺す意思は不滅だ。)


小泉(アタシの命を、ゴミ虫のように扱う残虐な性質が…九頭龍なんだ。)

小泉(今も、昔も。)

小泉(アタシ以外の人間に対してはどうかは知らないけど…少なくとも、アタシに対しては。)


小泉(そんな奴と…話し合いなんて、できるわけが無いじゃない。)

小泉(今はアタシを殺さないだけで、いつまたアタシを殺す気になるかなんて、予測できない。)

小泉(記憶が戻ったら、真っ先にアタシを殺しに来るんじゃないか?)

小泉(いや、記憶が戻らなくても…)

小泉(“気が変わった”程度で、アタシを殺す可能性だって…!!)





小泉「怖い。怖いよ。本当に、怖い…。」

九頭龍「…」

西園寺「…わかったでしょ?アンタは、小泉おねぇに話しかける権利もないんだよ。」


西園寺「それでも小泉おねぇと話したいのなら…しっかりと、誠意を見せたら?」

七海「…?誠意って?」


九頭龍「…ああ、わかったよ。こんな物で許してもらえるとは、とても思えねぇけどよ…。」

小泉「…」




そう言うと九頭龍は、皆の前で土下座をした。


七海「九頭龍くん…?」

ソニア「ワォ!!!!コレが日本でいうところの義理と人情!!ザ・土下座なのですね!!」

左右田「ソニアさん?なんか土下座ってものに妙な先入観がないですか?」

弐大「それよりも…極道の頭ともあろう者が、土下座とは…!!」


狛枝「あれぇ?でも、土下座って確か…」

小泉「…」




西園寺「…何それ。アンタ、舐めてんの?」

西園寺「確かアンタ、小泉おねぇにも土下座させたんだよね?それでも小泉おねぇを、殺そうとしたんでしょ?」

西園寺「なのにアンタ…よくもまぁ、いけしゃあしゃあと土下座なんて出来たものだね。」

西園寺「アンタの覚悟って、その程度だったの?」


西園寺「腹切って自害する位の度胸もないのに、何が極道だ!!!!ふざけるな!!!!」

日向「お、おい西園寺、それは言い過ぎだろ!!?」

西園寺「言い過ぎなもんか!!コイツにはもっとわからせてやらないと!!小泉おねぇが受けた痛みをさ!!」

西園寺「この程度で許されるなんて本気で思ってる九頭龍に、わからせてやらないと!!!!」



九頭龍「ああ…わかってるよ、それくらい。」

西園寺「え?」




今度は九頭龍の辺りから血が湧き出してきた。


西園寺「…!!」

終里「なんだこりゃあ…血の臭いか!?」

花村「これって、切腹…?」

左右田「うぉおおおぉおわ!!!九頭龍の奴、自分の腹を本当に切ってやがる!!!!」

西園寺「…えっ!?な、なに、やってんの…!?」


九頭龍「こんな半端な詫びじゃあ許してもらえねぇかもしれねぇけど、こうでもしないとオレは…」

弐大「だからって腹を裂く奴がおるかぁ!!」

モノミ「と、とにかく九頭龍くんを3の島に!!あそこには病院がありまちゅから!!」

罪木「い、急いで縫わないとぉ!!」


九頭龍「チクショウ。詫びるどころかまた皆に迷惑をかけて、情けねぇ。」

九頭龍「でも…こういうやり方くらいしかオレは、詫びる方法を知らねぇからよ。」

九頭龍「すまねぇなぁ…。」

西園寺「…」







小泉「…」


西園寺「なに、考えてんだよ…アイツ。」

西園寺「腹切れって言われて、本当に腹を切る奴がいるかっての。」

小泉「…ホントよね。」


西園寺「でも、だからといって小泉おねぇ。アイツを簡単に許しちゃ…」





小泉「頸動脈を切らないと、確実には死ぬことが出来ないじゃない。」


西園寺「…」

西園寺「えっ?」


小泉「死なない程度にお腹を切る事くらいしかできないなんて。」

小泉「極道とか言ってる割には、保身に走っていて小賢しいわ。」

小泉「結局…最後の最後では、自分の命が惜しいのね。」

小泉「ホンット、卑怯な男…。」


西園寺「な、なに、言ってんの、小泉おねぇ…?」

小泉「え…?何が?」




西園寺「…小泉おねぇはきっと、疲れてるんだ。そうに決まってる。」

西園寺「行こっ、小泉おねぇ。」

小泉「え?どこに?」


西園寺「どこでもいいよ!!この島は、景色だけは1級品だからさ!!気分転換にはもってこいだよ!!」

西園寺「わたしとおでかけして、笑顔をたっぷり撮っていって!!」


西園寺「…ね?そうしよう?」

小泉「…うん。そうね。下着をとりかえてからね。」




今日はここまで。




―ジャバウォック公園―


西園寺「小泉おねぇ、今日は何して遊ぼっか?」

小泉「いいのかな…皆は3の島を探索してる頃だろうに。アタシ達だけ遊んでて。」

西園寺「いいんだってそんな事!!探索なんてメンドくさいこと、その辺の雑兵に任せときゃいいの!!」

西園寺「小泉おねぇのしたいこと、今日は何でも付き合ってあげる!!」


小泉(アタシ…日寄子ちゃんに、気を遣わせているのかな。)

小泉(いけないな。もっとアタシ、シャキっとしないと。今のアタシ、どんな顔してるんだろう…?)


小泉「う~ん。やりたいことと言われてもね…。ここって、変な像くらいしかないし。」

西園寺「本編じゃあ変なカウントダウンがあったのにね―。」

小泉「…何の話?」




西園寺「じゃあ…いっそのこと、何もしないってのはどう?」

小泉「何もしない?」


西園寺「うん。何にも考えずに、2人でただボ―ッと景色を眺めているの。」

西園寺「退屈かもしれないけど…小泉おねぇとなら、そんな沈黙にも耐えられると思うんだ―。」

小泉「そう…。じゃ、やってみよっか。そこの木陰に、腰をかけてさ。」

西園寺「えへへ…。お隣、失礼しますね―。」







小泉「…」

西園寺「…」




小泉「…あっ。」

西園寺「どうしたの?」


小泉「あそこ…アリが行列つくってる。」

西園寺「ありタン?」

小泉「うん…。アリさん。どうする?日寄子ちゃん。」

西園寺「…どうするって?」


小泉「潰しに行かないの?日寄子ちゃん、アリを潰すのが好きじゃない。」

西園寺「…」




小泉「…アタシ、思うんだ。」

小泉「アタシって、アリなんじゃないかって。」

西園寺「…言ってる意味が分からないよ。」


小泉「アリを踏んづける時って、人間は何を考えるのかな。」

小泉「アリに対して…哀れに思ったり、憎く感じたり、するのかな?」

小泉「違うよね。なにも、感じないよね。人はアリを潰すことに、何の感情も抱かない。」

小泉「なんの理由も動機もないのに…人は、アリを殺すのよ。」

小泉「人間はアリに対して何の思い入れもない。アリの命を気まぐれで奪ったことなんて、次の瞬間には忘れてる。」

小泉「当たり前だよね。だって人間にとってアリは、とるに足らないどうでもいい存在なんだから。」

小泉「生きてても死んでても構わない。」

小泉「だってアリがどれだけ頑張っても人間の脅威にはならないし、それを人間はきちんと理解してるもの。」


小泉「人間がその気になれば、アリなんて指先1つで命を終わらされてしまう。」

小泉「人間とアリには、越えられない壁があるのよ。物理的にも、精神的にも。」

小泉「アリにとって人間は、脅威でしかないのにさ。」

西園寺「…なんの話をしてるの?小泉おねぇ。」




小泉「九頭龍にとって、アタシは…きっと、アリなのよ。」

西園寺「…」


小泉「アイツはきっと、アタシが死んでも何の感情も抱かない。」

小泉「だってアイツにとってはアタシなんて、地べたをはいずる1匹のアリのような存在なんだから。」

小泉「だからこそアイツは気分次第で、アタシを殺そうとしたり、生かしたりするの。」

小泉「あたかも、日寄子ちゃんがアリで遊んでいるかのようにね。」

西園寺「うっ…。」




小泉「でもね。九頭龍にとってはアタシなんて、ゴミみたいな存在かもしれないけど。」

小泉「アタシにとって九頭龍は、脅威以外の何物でもないの。」

小泉「九頭龍の気分を損ねちゃったらアタシ、直ぐに殺されちゃうんだから。」

小泉「アイツは、“優秀な凶器”を持ってるしね。」

西園寺「…“優秀な凶器”、か。」


小泉「九頭龍がその気になれば、アタシなんて指1本でひねり殺されてしまう。」

小泉「だからアタシは…アイツの逆鱗に、触れないように。もう1度、標的にされないように。」

小泉「なるべく日の当たらない場所で、アイツの脅威に怯えながら生きるしかないんだ。」

小泉「暗闇を手探りで進むように。慎重に…慎重に…。」


小泉「…」

西園寺「小泉おねぇ…。震えてる、の?」




小泉「なんで命って、こんなに軽いのかな。」

小泉「どうしてアタシはアイツの胸三寸で、命をもてあそばれないといけないの?」

小泉「アタシはこんなに、生きたいって思っているのに。」

小泉「やっぱり、これだけの罪を背負ってしまったアタシは…」


小泉「“絶望のカリスマ”だったアタシは…『生きたい』なんて、思っちゃダメなのかな…?」

西園寺「…“絶望のカリスマ”?」


小泉「どうする?日寄子ちゃん。」

小泉「アリ…潰しに行く?」

西園寺「…」




西園寺「行けるわけ…ないじゃん。」

西園寺「わたしがアリを踏みつけるのは、わたしにとってアリがどうでもいい醜いものだから。」

西園寺「そのアリの中に、小泉おねぇがいるのなら…わたしは、アリを殺すことなんて出来ないよ。」




西園寺「でもね。小泉おねぇは多分、大切なことに気付いてない。」

小泉「え…?」


西園寺「九頭龍にとって、小泉おねぇはアリのような存在。」

西園寺「それは間違ってないと思う。」


西園寺「でもそれは、九頭龍に限った話じゃない。」

小泉「九頭龍に限った話じゃない…?」




西園寺「わたしも、そうなんだよ?」

小泉「…そう。日寄子ちゃんにとっても、アタシはアリだったの。」

西園寺「違うよ、そういう意味じゃない。」


西園寺「例えば…九頭龍とか辺古山が死んだところで、わたしは何も感じないよ。」

西園寺「いや、その2人だけじゃない。」

西園寺「多分この島にいる人間の誰が死んでも、わたしの心を動かす程の大事じゃない。」

西園寺「だってわたしにとってアイツらなんて、アリのような存在だから。」

西園寺「わたしが人の死を哀しむとしたら、きっと…パパとか、小泉おねぇの時だけなんだろうね。」


西園寺「そんなもんだよ、人間って。思い入れのある相手以外の命なんて、意外とどうでもいい物なんだ。」

西園寺「別に九頭龍だけが、特別小泉おねぇの命を軽視してるってわけじゃない。」

小泉「…」


西園寺「小泉おねぇ…わたしのこと、幻滅してるの?」

小泉「…そんな事ないけど。」

西園寺「小泉おねぇもわかってるでしょ?わたしは平気でアリを潰せる人間なんだって。」

西園寺「だってわたしは、そういう人間なんだから。」





西園寺「でも…小泉おねぇは、違うでしょ?」


小泉「え…?」

西園寺「小泉おねぇは、そんな人間じゃないでしょ?」

西園寺「わたしや、九頭龍とは違うでしょ?」

西園寺「小泉おねぇは…アリを潰せるような人間じゃ、ないでしょ?」

小泉「どういうこと…?」

西園寺「やっぱり小泉おねぇ、気付いてなかったんだね。自分が、超えちゃいけない一線を超えそうなことにさ。」




西園寺「例えば今、九頭龍が死んだとしようか。」

西園寺「小泉おねぇはどう思う?」


小泉「多分…喜ぶかな。」

西園寺「…どうして?」

小泉「だって、アタシにとって最大の脅威がいなくなるんだもん。」



西園寺「違う。」

小泉「違う?」

西園寺「小泉おねぇが喜ぶのは、九頭龍が脅威だからじゃない。」





西園寺「小泉おねぇにとって、九頭龍がアリだからだよ。」

小泉「…」


西園寺「多分今の小泉おねぇは、九頭龍や辺古山が死のうと、何の感情も抱かない。」

西園寺「小泉おねぇが、わたしや九頭龍みたいな人間になりかけているから。」


西園寺「でも…違うの。小泉おねぇは、そんな人間じゃない。わたし達とは違う。」

西園寺「人の笑顔を常に望んで、人の不運に嘆くことが出来る。それが、小泉おねぇでしょ?」

西園寺「たとえ相手が、自分をアリだと思っているような人間だとしても。」


小泉「…買い被り過ぎよ。多分アタシは、そんな聖者みたいな人間じゃない。」

小泉「アタシも、そういう人間だったみたい。アリを平気で踏むことが出来る、人間だったみたい。」

小泉「九頭龍なんて、死んでくれた方がうれしいもの。」

小泉「昔っからアタシは…こんな人間だったのよ。」

小泉「ごめんね、日寄子ちゃん。幻滅…させちゃったかな?」


西園寺「違う。本当の小泉おねぇは、そういう人間じゃない。わたしとは違う。」

西園寺「小泉おねぇは…いろいろなショックを受けて、疲れてるだけ。」

小泉「…どうして、そんな事が言えるの?」




西園寺「気付いてないの?小泉おねぇ。小泉おねぇが変わったのは、つい最近のことなんだよ?」

小泉「変わった?何が?」


西園寺「そっか…。自分のことって、案外わからないものなんだね。」

西園寺「ずっとそばにいる人間からしたら、違和感だらけなんだよ。」

西園寺「今までの小泉おねぇと、最近の小泉おねぇの間に存在する…決定的な矛盾のせいでね。」

小泉「矛盾…?」




西園寺「あ―も―、ダメダメ!!ぜんっぜんダメ!!!!」

小泉「え?」


西園寺「小泉おねぇは、ボ―ッとしてると、余計なことまで深く考えちゃうタイプなんだね!!」

西園寺「これじゃあ気晴らしになんてならないよ!!別の所に行こ、別の所に!!」

西園寺「今度は、考える暇も与えない位に体を動かすような場所に行くから!!覚悟してね!!」

小泉「あはは…日寄子ちゃん、意外とスパルタなんだね。お手柔らかに頼むよ。」




今日はここまで。




―砂浜―


西園寺「この体勢から…こう!!」

小泉「こ、こう?」

西園寺「違う。もっと腰に力を入れて、こう!!」


小泉「痛っ…!!」

西園寺「大丈夫?小泉おねぇ。」

小泉「だ、大丈夫。ちょっと体を変にひねっちゃっただけだから。」

西園寺「どのあたり?湿布張ろうか?」

小泉「平気よ、それには及ばないわ。」


小泉「それより一旦、休憩しない?ちょっと、疲れちゃって。」

西園寺「も―。小泉おねぇ、この程度の練習で音を上げないでよ―。小泉おねぇ、ちゃんと運動してるの?」

小泉「う―ん。どうだろう?」

小泉「部屋の中にずっとこもったりはしてないけど、意識して運動したことはあんまりないかな…。」


西園寺「まったくもう。そんなのじゃあ均整のとれた小泉おねぇのボディラインがたゆんたゆんになっちゃうよ?」

小泉「た、たゆんたゆん!!?」

西園寺「くすくす…。小泉おねぇも結構、甘いものが好きでしょ?」

小泉「うっ…。そ、それは日寄子ちゃんが食べるから、ついついアタシまで…。」

西園寺「わたしは太りませ―ん!!だってそういう体のつくりだも―ん!!」

小泉「ひ、酷い。アタシだけ置いてきぼりなんて…。」

西園寺「甘いものは口にはすんなり入るのに、お腹からはなかなか出て来ないからね―。」

小泉「うう…。美容の天敵だとわかっているのに、なんで食べちゃうんだろう…。」

西園寺「ね?糖分を孕ませる前に、わたしと運動して理想の自分を維持しよ?」

小泉「はは…。」




小泉「日寄子ちゃんは意外と運動できるのね。小柄なのに、普通の人よりもスタミナあるんじゃないの?」

西園寺「当たり前でしょ。わたしは“超高校級の日本舞踊家”なんだよ?」

西園寺「ちょっと踊ったくらいで疲れてちゃ、何時間もの公演なんて出来っこないよ。」

小泉「そう言われてみればそっか…。」


西園寺「小泉おねぇはもうちょっと、トレ―ニングが必要だね。日本舞踊を少しでもかじりたいのならさ。」

小泉「はは。日寄子ちゃん、まるでアタシのコ―チみたいね。」

西園寺「ふふん、師匠って呼んでくれてもいいんだよ―?」

小泉「うん。じゃあもう1度始めてみよっか。師匠?」

西園寺「な、なんかむずがゆいから、今まで通りにして…。」

小泉「ふふ。わかったよ、日寄子ちゃん。」

西園寺「舞踊の練習は今まで通りにはいかないよ!!もうちょっとペ―スあげていくからね!!」

小泉「ア、アタシにもついて行けるスピ―ドでお願いね…。」




アタシは砂浜で日寄子ちゃんに、日本舞踊をちょこっとだけ教わっていた。

もちろんアタシの踊りなんか、日寄子ちゃんの足元にも及ばないわけだけど…

何事も、やってみると意外と楽しいものだ。

気の許せる相手と…日寄子ちゃんと一緒に、何かに打ち込むことで…

嫌なことを、少しは忘れられる。

日寄子ちゃんもそれを狙って、アタシにコレを提案したんだろう。

アタシから、九頭龍の件を遠ざけるために…。


でも、日寄子ちゃんの配慮がなくとも…そもそもアタシは、九頭龍ばっかりに構っている場合ではない。

なぜなら、そろそろ…アレが来るからだ。




新たな動機。

絶望病。


九頭龍のことばっかり気にして、こっちの対策をないがしろにしていたら…また、惨劇を繰り返してしまう。

九頭龍はどうでもいいけど、他の皆は守らないといけないんだ。


前回アタシ達4人がかかった絶望病はダミ―で、本当の絶望病は蜜柑ちゃんがかかった物だったはずだ。

絶望病によって絶望の残党だった自分を思い出す。

そして…皆を“エガオ”にするために、絶望を生み出そうとして…自殺するのだ。

蜜柑ちゃんの自殺を発端として、事件が連鎖的に発生してしまう。


だから次の事件を止めるためにすべき事は、蜜柑ちゃんに絶望病を感染させないようにすること…。




違う。


前回蜜柑ちゃんが絶望病に感染したのは“偶然”だ。

裏方が、絶望病に感染させる相手に選んだのが…たまたま蜜柑ちゃんだっただけだ。


絶望病は、感染する相手を自由に選ぶことが出来たはず。

だから今回は、裏方が誰を絶望病に感染させるつもりなのかなんて…さっぱりわからない。


それが千秋ちゃんや日寄子ちゃん以外の人間なら、前回と何も変わらない結末が待っている。

アタシ達14人は、全員が“超高校級の絶望”だからだ。

全員が、“絶望のカリスマ”の理念に染まっていて…全員が、“エガオ”を望んでいるからだ…。


小泉(考えてみれば絶望時代では、アタシと九頭龍は仲良くできてたのよね。)

小泉(アイツも、“絶望のカリスマ”だったアタシの理念に賛同した人間だから。)

小泉(不思議な話よね。両者が狂って初めて、仲良くできる関係なんて…。)

小泉(…いや、こんなことを考えても仕方ない。コレはもう、終わった話なんだ。)




…とにかく、アタシは。

14人の中の誰しもが、自殺に走る可能性を秘めていることを念頭に入れなければならない。

いや…アタシを抜けば13人だ。


つまりアタシは…13人もの人間を、常に監視しなければならないということ。

常に監視して…異変を感じた人間を拘束して、自殺を思いとどまらせる。

そんな事は可能なのか?


いや…無理だ。そんなこと、できるわけがない。

裏方がいつ絶望病を蔓延させるか。いつ誰が、自殺を犯すのか。アタシにはわからない。

それこそアタシが13人いて、夜も寝ないで生きていける存在でもない限りは。

分かったとして、絶望の残党である人間をそう簡単に説得できるか?


それに…ダミ―の絶望病を感染させられたら、アタシは手も足も出なくなってしまう。

ダミ―の方に感染すると正気を失うので、事件発生まで完全に無力化させられるのだ。


さらに言えば…絶望病に感染して、過去を思い出す人間が1人とは限らない。

極端な例を出すと、裏方が一気に5人くらい絶望病に感染させたとしたら…もはやお手上げだ。


あれ…コレ、本格的にヤバくない?

今までの事件と違って、まるで解決方法が思い浮かばないんだけど…?


小泉「…」





西園寺「コラ、小泉おねぇ!!」

小泉「えっ?」


西園寺「もう、全然練習に身が入ってないじゃん!!片手間で習得できるほど、日本舞踊は甘くないよ!?」

小泉「あ…ごめん。ちょっと、考え事してて。」

西園寺「考え事を出来ないようにするために、こうして運動してるのにな。」

西園寺「今の小泉おねぇ、どんな状況でも直ぐに悪い方向に考えちゃうからさ…。」


西園寺「嫌なことを数えるより、小泉おねぇにはうれしいことを数えて欲しいな。」

小泉「うれしいことを…?」


西園寺「ほら…例えば…。」

小泉「例えば?」


西園寺「…わ」

小泉「?」





西園寺「わ、わたしはずっと、小泉おねぇの味方でいてあげる…ってこととかさ!!」

小泉「あっ…。」


小泉(そっか。アタシ…さっきからずっと、最悪のシナリオばっかりを想像して…。大事なことを、忘れてた。)

小泉(そうだよ。アタシには、頼もしい味方がいるじゃないか。どんな逆境も、共に乗り越えてくれる存在。)


小泉「ありがとう、日寄子ちゃん。とってもうれしいよ、日寄子ちゃんの気持ち。」

小泉「えへへ…なんか、照れちゃうな。」

西園寺「そ、そんな真面目に返されると、言いだしっぺのわたしまで恥ずかしくなっちゃうよ…。」

小泉「ふふ、これでおあいこだよ。」

西園寺「うう~。」


小泉(アタシ、もっと自信を持たないと。だってアタシには、ずっとそばにいてくれる仲間がいるんだから。)

小泉(アタシの目の前にいる、金髪の…)





小泉「!!」


西園寺「…どうしたの?」

小泉「…」


突然、ゾクッとアタシの体に稲妻が駆け巡る。


金髪の女性。

アタシが知っているのは、目の前の小さな女の子だけだったっけ?


違う。

もう1人いたはずだ。

絶望の残党であるアタシ達を淘汰する、未来機関の人間が。




どうして今まで忘れていたんだ。

3回目の事件で重要なのは、蜜柑ちゃんの自殺だけじゃない。


日寄子ちゃんが絶望病に感染すること。

それによって、黒幕である日寄子ちゃんが記憶を取り戻す。

裏方にとっては蜜柑ちゃんの自殺なんてオマケで、むしろこっちがメインなんだ。


この事実が意味することは…日寄子ちゃんがアタシの前から消え、裏方に回るということ。

そして日寄子ちゃんが…アタシ達にコロシアイをさせるという、未来機関としての役割を全うするということ。


日寄子ちゃんが、アタシの敵にまわるということだ。

日寄子ちゃんが、もはや…アタシの仲間では、いてくれないということだ…。




今のところ、アタシのことを1番深く理解してくれてる存在は…間違いなく日寄子ちゃんだ。

アタシが九頭龍にいじめられても、真っ先にアタシを助けてくれる。

疲弊しきってるアタシの気持ちを汲んで、いろいろ配慮してくれる。


アタシにとって日寄子ちゃんは、いわば“心の拠り所”なんだ。

その日寄子ちゃんが、アタシのそばからいなくなるなんて…!!



小泉「いやっ!!」

西園寺「えっ…?」


小泉「いやっ、いやぁっ!!!!」

西園寺「小泉おねぇ…?」




ガバッ


西園寺「あっ…。」


アタシは、すがりつくようにして…日寄子ちゃんに、抱きついた。


西園寺「どうしたの、小泉おねぇ…?」

小泉「お願い、日寄子ちゃん…。」

小泉「日寄子ちゃんだけは…ずっと、アタシの味方でいて…。」

小泉「アタシの前から…絶対に、消えて行ったりしないで…。」

西園寺「…」


西園寺「消えないよ。」

西園寺「わたしは、絶対に…小泉おねぇの前から、消えて行ったりしない。」

西園寺「約束する。ほら、指切りげんまん。」

小泉「…うん。」




今日はここまで。




―病院―


七海「…」

ソニア「…」


花村「九頭龍くんは、まだ目覚めないのかな。」

日向「腹部から、あれだけ出血したんだからな…。」

田中「黄泉からの使者に招かれなければ幸いだが。」

終里「やめろよ、縁起でもねぇ。」


豚神「どちらにせよ俺たちにできることは、待つことだけだ。」

弐大「医療の知識があればワシらにも、何かできたんかもしれんがのう…。」

澪田「蜜柑ちゃんに全部任せるしかない…ってのも、ふがいないっすね。」




狛枝「あれぇ?なんかすごく静まり返ってるね?嫌な事でもあったの?」

左右田「狛枝…。こんな時にはしゃげるわけね―だろ!!人が死ぬかもしれないのによぉ!!」


狛枝「その様子じゃあ訃報はまだみたいだね。」

狛枝「残念だな。九頭龍クンが死んでくれれば、皆の踏み台になれたかもしれないのに。」

ソニア「な、何ですか、それ!!なんでそんな酷いことが言えるんですか!!撤回してください!!」


狛枝「酷いのは皆の方だよ。殺し合いがスタ―トして20日程経つのに、未だに誰も死んでくれないんだもの。」

狛枝「この程度の絶望じゃあ皆の希望が洗練されないよ。ダイヤの原石を磨かずに、軽石と混ぜておくような愚行だね。」

狛枝「もっとこう、生き死にをかけた壮絶なスペクタクルを見たいんだよ、ボクは。」

狛枝「だから人の死を間近で見れば皆も、殺し合う気になってくれるんじゃないかってボクは思うんだ。」


豚神「わけのわからんことをぬけぬけと…。」

弐大「いい加減にせんか狛枝!!お前さんの話を聞いとると、頭がおかしくなりそうじゃあ!!」

田中「やめておけ。そいつとまともに話し合うだけ時間の無駄だ。」




日向「狛枝。お前は、3の島を探索していたんだよな?」

終里「オレ達はずっと病院にいたけどな。」

七海「で、何か目新しい情報はあったのかな?」


狛枝「そうだねぇ。残念だけど、皆をうならせるような情報は手に入れることが出来なかったよ。」

狛枝「ごめんね皆。せっかく皆がボクに探索を任せてくれたのにさ。」

狛枝「ボクみたいな無能は、皆に存在を認知される事すらおこがましいかな…。」

澪田「相変わらず凪斗ちゃんは、唯吹達を上に見てるのか下に見てるのかさっぱりわからないっす。」

左右田「考えるだけ無駄なんだよ、そいつは。」


花村「そもそもぼくたちは狛枝くんに探索を任せたわけじゃないよね…?」

ソニア「九頭龍さんの切腹を見た直後に、探索する気分になんて普通はなりませんよ。」

弐大「九頭龍を少しでも心配する気がある人間なら、な。」

終里「狛枝にとっちゃあ九頭龍の命なんて、どうでもいい物なんだろうよ。」


狛枝「酷い言われようだね。ボクは皆の命を誰よりも大切に思ってるよ。」

狛枝「だって誰かの命が途絶えた時、その絶望は他の皆の希望を促進させる糧となるんだから。」

狛枝「そういう風に各々の希望を研ぎ澄ましていくことこそ、希望の象徴たる皆の使命だと思わない?」


澪田「あ~あ、また始まった…。」

終里「ちょっとコイツ、殴っていいか?黙らせないと気がすまねぇ。」

ソニア「お、終里さん、落ち着いてください。なんでも暴力で解決しようとするのはチョベリバですよ。」

終里「チョベ…?なんだって?」

田中「超ベリ―バッド…つまり、最悪という意味だ。」

左右田「お前が翻訳するのかよ!!?」




狛枝「それに…ここにいない人はボク以外にもいたみたいじゃない。」

狛枝「ほら、西園寺さんに小泉さん。」

狛枝「ボクが九頭龍クンを軽んじているのだとしたら…」

狛枝「彼女達もまた、九頭龍クンの事をゴミみたいな存在だと認識していることになっちゃうよ?」


豚神「…あいつらは、また話が違う。」

七海「うん…。特に小泉さんは、仕方ないよ。しばらくの間、多少のワガママは許してあげないと。」

狛枝「ふうん…。いつまでそんな悠長なことを、言っていられるのかな?」

弐大「いちいち何が言いたいんじゃあ、お前さんは。」




日向「もうやめようぜ、こんな言い争い。それより狛枝、さっきの質問に答えろよ。」

狛枝「ボクが3の島で見つけた情報、ね。情報と言っても、ガセネタをつかまされただけなんだよ。」

狛枝「希望ヶ峰学園が閉鎖した、なんていうさ。希望を育む神聖な場がなくなるなんて、有り得ないのにさ。」

花村「確かにそれは、現実味がないかもね。モノクマの罠かな。」

田中「つまり現状、何の打つ手もないというわけか…。」




ガチャ


罪木「日向さぁん!!」

日向「あ、罪木。どうなんだ、九頭龍の容態は。」


罪木「それがついに、意識を取り戻したんですよぉ!!」

花村「本当に!?」


田中「奴の物語はまだ綴り足りぬということか。命拾いしたな。」

弐大「ふん…。あんな奴でも、一命をとりとめたとなると悪い気はせんのう。」

澪田「ちょっと見てみるっすよ!!」

罪木「あ…待ってください。目を覚ましたと言ってもまだ、絶対安静で…」



左右田「ったくよぉ。アイツにはちょっと文句言ってやらねぇとな。こっちとしては、切腹なんて心臓にワリィんだよ。」

ソニア「そうですね。自分の命は大切にしてほしいものです。」

終里「アイツは鍛え方が足りね―んだよ。腹なんて切っても、飯食ったらすぐに治るだろ普通。」

豚神「全くだ。脂肪の重要性や崇高さをまるで理解できてない。」

狛枝「それは2人だけにしか通用しない認識じゃないのかな…?」

日向「はは…まぁそうやって、カツを入れてやった方が九頭龍のためになるのかもな。」

七海「では、おじゃましま―す。」


罪木「…私の話を全然聞いてないですね、皆さん。」




―九頭龍の病室―


九頭龍「…」


狛枝「ははっ、良かった。九頭龍クン、思ったより元気そうじゃない。」

左右田「さっきまであんなことを言ってた奴が、良くそんなことを言えるよな。」

狛枝「ボクはいつでも希望の味方だから。」

狛枝「こうして九頭龍クンが生きていることも、何かしらの運命に導かれた結果なのかもしれないでしょ?」


終里「相変わらず、変なことを口走るのが好きな奴だぜ。」

花村「狛枝くんの言ってる事からは、ぼくと七海さんはそのうちシッポリいく運命だという事しか読み取れないよ!?」

罪木「少なくともそれは、どの文脈からも読み取れませんよぉ!?」




九頭龍「…アイツは。」

七海「うん?」


九頭龍「アイツらは、いねぇのか…?」

豚神「…」

罪木「く、九頭龍さん。無理して話さなくてもいいんですよ?まだお腹は痛むでしょうし…。」

弐大「まぁ、言わせてやれ。やせ我慢は、極道の専売特許らしいからのう。」

九頭龍「…」


日向「…九頭龍の言った通りだ。ここにいるのは、あの2人を除いた14人だ。」

九頭龍「…そうか。」


九頭龍「ワリィな。オレなんかのために、皆に心配かけちまってよ。」

澪田「ホントっすよ。これだけの人数が集まってあげたんだから、少しは感謝するんっすよ?」

九頭龍「ああ…。お前らには、感謝してもしきれねぇ。」


九頭龍「それと同じくらい…謝っても謝りきれねぇ。」

ソニア「そんな…わたくし達には、謝られる事情などありませんよ。」

弐大「あの2人は、別じゃがのう。」

九頭龍「…」




狛枝「小泉さんがここにいない…という事実だけでも、わかるよね?」

狛枝「九頭龍クンの切腹…。あんまり効果なかったみたいだよ?」

左右田「効果なかったって…?」


七海「小泉さんの心に、ほとんど影響を与えなかった…ってことかな?」

田中「なに?生死をさまようほどの仕打ちを受けたのにか?」

狛枝「まぁ小泉さんからしたら、九頭龍クンが勝手に腹切っただけで、何のメリットもないからね。」

花村「で、でも、九頭龍くんは十分な覚悟を見せたと思うんだけどな。」

ソニア「九頭龍さんの行為から小泉さんが、何かしらの感銘を受けたと思いたいのですが…。」


狛枝「しかし現実はそううまくは行かないみたいだよ?」

狛枝「九頭龍クンが切腹した時の小泉さん…眉1つ、動かしてなかったから。」

田中「なんだと!?」

終里「眉1つって…。全く動じてなかったってことかよ!?」

狛枝「西園寺さんは、予想以上に取り乱してたけどね。」




狛枝「九頭龍クンの切腹が、なんてことない些事かのように。」

狛枝「日常の中で起きる出来事と、何も変わらない物であるかのように。」

狛枝「小泉さんは…ただ、傍観してた。」

狛枝「あたかも昼のコ―ヒ―ブレ―クの時みたいに、自然体で。」

狛枝「もしかして彼女にとっては、人の死なんて珍しいことでもないのかもしれないね。」

狛枝「相当の修羅場をかいくぐって来たのかな?」


弐大「九頭龍の切腹の時に小泉にも注意を払えとるお前さんも、同じような物じゃろうが。」

日向「それにそんなの、お前の勝手な想像だろ!?小泉が命をないがしろにするような奴かよ!?」

狛枝「ふうん。じゃあ、試してみる?これから小泉さんを、ここに呼んでみてさ。」

日向「そ、それは…」




九頭龍「…わかってる。こんなもんじゃあ、許されるわけがない…なんてな。」

狛枝「許されない…っていうより、逆効果だったかもね?」

狛枝「中途半端な覚悟は、相手を苛立たせるだけだから。」

狛枝「それこそ本当に…自害する位じゃないと、小泉さんと仲直りできないんじゃない?」


罪木「こ、狛枝さん、変なことを吹き込まないでくださいよぉ!!やっと、命をつないだところなのに!!」

左右田「そもそも死んじまったら、仲直りもクソもないじゃねぇか!!」

弐大「クソじゃあああぁあああああああ!!!!!!」

左右田「オメ―はずっと黙ってろ!!」





狛枝「まぁ…そもそもキミに、仲直りする気があるのだとしたら、の話だけど。」

九頭龍「…なんだと?」




今日はここまで。




日向「何言ってんだ、狛枝?どう考えても九頭龍は、小泉に歩み寄ろうとしてるだろ?」

花村「その悉くを、小泉さんが払い除けてるって感じだよね…。」


狛枝「そうかな?ボクは九頭龍クンの行為を、そこまで好意的にはとれないなぁ。」

左右田「は…?なんでだよ。」


終里「つ―かさ。なんで狛枝がいちいち難癖つけてくんだよ。」

弐大「2人を煽って話をややこしくしたのは、狛枝じゃろうが。」

狛枝「いやね。ボクもそれに関して、ちょっと責任を感じちゃったりもしてるんだよね。」

狛枝「だからボクはボクなりに、九頭龍クンにアドバイスでもしてあげよっかな…ってね。」


澪田「凪斗ちゃんがアドバイス、ねぇ?」

田中「話をさらに難化させる気ではあるまいな。」

九頭龍「なんでもいい。テメ―は何が言いてぇんだよ、狛枝。」




狛枝「じゃあ九頭龍クンに聞くけどさ。そもそもなんで九頭龍クンは、小泉さんと和解する必要があるのかな?」

九頭龍「なんでって…なんだよ?」

狛枝「小泉さんも言ってたけどさ。無理に和解しようとして、話をさらにこじらせるよりはね。」

狛枝「いっそのこと、2人が一切関わらないほうが得策かもしれないじゃない。」

ソニア「で、ですから、そんな方法は納得が…」


七海「待った、ソニアさん。」

ソニア「え…?」

七海「もしかしたら狛枝くんの言ってることは、的を射てるかもしれない。」

罪木「ふぇっ!?あの狛枝さんが、まともなことを!?」

澪田「何気にかなり辛辣っすね、蜜柑ちゃん!!」


七海「だから…もうちょっと、狛枝くんに言わせてみようよ。」

ソニア「は、はい…。わかりました。」

ソニア「そもそもわたくしの発言は感情的なだけで、実を結ばない物でしたね。申し訳ございません。」

左右田「ソニアさんが気に病む必要はないんですよ!!感情的なソニアさんも色っぽいですから!!」

日向「色っぽいって、何だよそのフォロ―の仕方…。」




狛枝「えっと…どこまで話したっけ?」

豚神「和解しないというのも1つの手かもしれない、というところだ。」


狛枝「そうそう。それにも関わらずどうして九頭龍クンは、小泉さんとの和解という手を無理に選ぶ必要があるのかな?」

狛枝「その方法を選んで、九頭龍クンにどんなメリットがあるの?」

弐大「メリット…?」

狛枝「その選択肢の先に…九頭龍クンは、何を望んでいるの?」

九頭龍「それは…」



狛枝「当ててあげよっか?」

狛枝「辺古山さんのためでしょ?」

九頭龍「なっ…!?」


終里「辺古山…そういやあ、辺古山はどこに行ったんだよ?」

左右田「そういやあ今日、辺古山の声を一切聞いてないような…」


豚神「辺古山なら、ずっとそこにいるぞ。」

花村「え、どこに?」

豚神「ほら、そこだ。部屋のすみを見てみろ。」

罪木「すみ…?」





辺古山「…」

辺古山「…モフッ」


澪田「…どうしちゃったの彼女。」

終里「なんか…ヤベェよ。雰囲気が、廃人のそれだ。」

田中「何やら、黒々とした負のオ―ラを感じるぞ!?こやつ、座敷童か!?」

ソニア「いえ。これはいわゆる、ペコちゃん人形でしょう!!」

日向「さっきから部屋の角っこで、体育座りしながら微動だにしてないもんな。」

七海「セリフが出たのも、リアルじゃあ1ヶ月ぶりだね。」

弐大「リアル…?なんの話じゃあ?」

花村「人形と間違えて、うっかりベッドにお持ち帰りしちゃいそうだね。」

ソニア「本当ですよ。お部屋に飾ったら可愛らしそうです。日に日に位置がずれそうですけど。」

日向「ソニア。花村は多分そんなオカルトじみた意味で言ったんじゃない。もっといかがわしい意味だ。」


罪木「っていうかいつからそこに居たんですか!?」

豚神「俺たちがこの病室に入った時にはもう居たぞ。」

田中「つまり…罪木が看病をしている間、ずっとそこに…」

終里「い、いやぁ!!オバケ、いやぁああああああああ!!!!!!」

ソニア「お、終里さん!?落ち着いてください!!アレはオバケじゃありません!!」

ソニア「アレは呪いの人形です!!どこに何度捨てても、気付いたら部屋に戻って来ているというアレです!!」

左右田「ソニアさん違います!!アレはオバケでも人形でもなく、辺古山ですよ―!!!!」


澪田「蜜柑ちゃんも普通は気付くっしょ、あれだけ長い間一緒に居たのなら!!」

罪木「む、無理ですよぉ!!なんかこう、気配を一切感じ取れませんでしたから…。」

狛枝「まぁ、それも仕方ないかもね。辺古山さんはレストランに居た時も、誰からも認識されてなかったから。」

花村「あれ…。そういえば今日の朝、レストランに辺古山さん…居たっけ?」

豚神「居たぞ。九頭龍が『おひかえなすって!!』と言った時からずっとな。」

田中「奴は必要に応じて、戦闘力を自在に変化させることが出来る種族か…。ぬかった。」




辺古山「…本を売るならモッフモフ♪」


左右田「ヤベェよ。1人でボソボソなんか言ってるぞ、コイツ…。」

九頭龍「ペコは…あの時からずっと、あの調子なんだ。」

罪木「あの時って…?」


七海「小泉さんに、道具だと言われた時から…だね?」

弐大「小泉の発言が…あのようになるまでに、ショックだったっちゅうことか…。」

田中「言刃は時として凶器になり得る、という先人の教えもあながち間違いではなかったようだ。」

花村「ちょ、ちょっと小泉さん、酷くないかな?辺古山さんがこんなに苦しんでるのに。」

ソニア「た、確かに…。小泉さんに、あの発言を撤回してほしいところです。」




狛枝「いや、それは違うんじゃない?」

澪田「え?」


狛枝「今の辺古山さんの状況を見て、辺古山さんに同情したくなるのは皆の優しさなんだね。」

狛枝「でも、忘れちゃいけないよ。彼女は加害者で、被害者は小泉さんの方なんだからね。」

罪木「そ、それは…」


日向「おい狛枝。何で今、その話をする必要があるんだ。場をかき乱したいのか?」

狛枝「それは心外だなぁ。ボクはあくまで、九頭龍クンにアドバイスをしたいだけだよ。」

狛枝「それに、ボクの反論すら打ち破れないで、どうやって理論武装した小泉さんを懐柔するのさ?」

弐大「むぅ…一理あるのう。」

豚神「ちっ…。じゃあ、続きを言ってみろ。」




狛枝「そもそも辺古山さんは、勝手だと思うんだよ。」

七海「勝手って?」


狛枝「道具云々を言い出したのは自分自身で、その理論を盾に小泉さんを殺そうとしたんでしょ?」

狛枝「なのに小泉さんから道具だと言われたら、塞ぎこむなんてさ。」

狛枝「ぜいたくな悩みだよね。他人の命は蚊帳の外で、自分は道具と人間の狭間で葛藤できるんだからさ。」

狛枝「だから辺古山さんの現状は、自業自得だとボクは思うよ。」

辺古山「…」

ソニア「そ、そんな言い方しなくても…」




九頭龍「ああ…そうだ。」

ソニア「え?」


九頭龍「自業自得だからこそ…どこにもわだかまりをぶつけることができねぇんだよ。」

九頭龍「だから、ペコは…あんなことになっちまった。」

日向「九頭龍…。」


豚神「加えて言えば…アレも、小泉の配慮なんだろう。」

澪田「え?」


豚神「奴は言っていた。辺古山を道具だと思うことで、辺古山を恨まないでいられると。」

弐大「辺古山を人間だと認識すれば、九頭龍と同様辺古山も恨まないといけないということか。」

豚神「小泉はそれを避けたいらしい。小泉が敵視したい相手は、あくまで九頭龍だけなんだ。」

七海「恨まれるのは、辺古山さんにとっても気分の良いものじゃないだろうしね。」

日向「それに…恨むってのは、神経がいるからな。2人も同時に恨むなんて、精神的に厳し過ぎる。」


終里「だから…辺古山を道具だと認めることも、小泉の優しさだってことかよ。」

豚神「歪んだ優しさだがな。」




澪田「でも…根本的な話に戻るんっすけど。」

田中「なんだ。」

澪田「どうしてペコちゃんは、塞ぎこんだんっすかね?」

花村「どういう意味?」


澪田「凪斗ちゃんも言ってたけど、道具云々はペコちゃんが言い出したんっしょ?」

左右田「なのに道具だと認識された途端、どうしてあんな状態になっちまったのか…。」

罪木「考えてみると…確かに、なんででしょう?」





日向「もしかして…否定してもらいたくて、やったことだったのかもな。」

終里「あん?」

日向「狛枝の言うとおり、ぜいたくな話だ。誰も犠牲になってない今だから話せるんだが。」


日向「辺古山は多分、道具として生きてきた自分の過去に疑問を持っていたんだ。」

日向「自覚はしてなかったかもしれないけど、潜在的にな。」

七海「だから、あえて道具であるかのように振る舞い、その行為を否定して欲しかった…。」


狛枝「つまり…道具としてでなくそのままの自分を、認識してほしかったのかな?多分、九頭龍クンに。」

日向「まぁ…俺の勝手な推論なんだがな。」

九頭龍「…」




左右田「そ、それなら話が早いじゃねぇか!!」

ソニア「え?どうしてですか?」


左右田「だって辺古山は、九頭龍に自分の存在を認めてほしいんだろ?」

澪田「そっか!!なら、冬彦ちゃんがペコちゃんに一言囁くだけで、万事解決っす!!」

終里「やるじゃねぇか左右田!!ちょっとくらいなら胸を触らせてやってもいいぞ!!」

左右田「な、何言ってやがる!!オ、オレはソニアさん一筋…」

豚神「動揺し過ぎだ、愚か者め。」





九頭龍「…それじゃあダメなんだ。」


罪木「へ?ど、どうしてですか?」

辺古山「…」


辺古山「…私が。」

田中「うぉわ!?喋った!?」

七海「ん?」


辺古山「道具か否かを決めるのは。」

辺古山「お前達でも、私でも…坊ちゃんでもない。」

日向「辺古山…。」



辺古山「小泉だ。」

ソニア「そ、そんな…。」


九頭龍「…わかっただろ?ペコはもう、擦り切れる寸前なんだ。」

九頭龍「だから、オレが何とかしてやらねぇとダメだろ。」

九頭龍「どうにかして小泉を説得して…辺古山を、もう1度人間だと認識してもらわねぇと…」





狛枝「それだよ、それ。」

九頭龍「あん?」

狛枝「キミが、小泉さんと和解したいと思っている理由。それって実は…」



狛枝「小泉さんと、全く関与しないところにあるよね?」

九頭龍「あっ…!!!!」




今日はここまで。




終里「ん…?どういうことだよ。」

狛枝「さっきの九頭龍クンの発言で、ハッキリしたよ。」


狛枝「九頭龍クンは、小泉さんと仲直りをしたいわけじゃない。」

狛枝「ただ…辺古山さんのために、小泉さんとの和解が必要なだけなんだよ。」

田中「必要…?」


七海「辺古山さんを復活させるには、小泉さんの許しが必要なんだよね。」

狛枝「うん。九頭龍クンの目的は、辺古山さんを回復させること。」

狛枝「それに小泉さんが必要なだけで、小泉さん自体は重要じゃないんだよ。」


弐大「つまり九頭龍にとって小泉との和解は、手段であって目的ではないということか…?」

狛枝「そう。だから仮に…小泉さんとの和解を経ることなく、辺古山さんが元気になるのだとしたら。」

田中「九頭龍は、小泉に歩み寄ったりはしない…ということか?」

澪田「ま、まさかそんな事、あるはずが…」


七海「…どうなの?九頭龍くん。」

九頭龍「…」




狛枝「はは、弁解なんてできるわけないよね?」

狛枝「九頭龍クンがポロッと本音を吐いちゃうように、ボクが話の流れを誘導してあげたんだからさ。」

罪木「話の流れを誘導って…狛枝さん、いつからそんな高等技術を!?」

ソニア「相手の心理状態を狡猾に把握していないとできませんよ、そんなこと…。」


花村「でも確かに…さっきの九頭龍くん、嘘をついてるような感じじゃなかったよね。」

左右田「ああ。思ったままのことを、まるで当然の事実みたいに…口に出した。」

左右田「口に、出しちまったんだ。」

日向「九頭龍…。お前の本当の目的は、辺古山のためだったのか?小泉との和解じゃなかったのか?」


日向「小泉に酷いことをした事に関して、謝りたかったからこそ…小泉に歩み寄っていたんじゃ、なかったのか?」

九頭龍「…」


豚神「まぁ…おそらく、九頭龍自身も気づいてなかったはずだ。目的が、すり替わっていることにな。」

澪田「冬彦ちゃんとペコちゃん、仲が良かったそうじゃないっすか。」

罪木「それでついうっかり、小泉さんのことを失念してしまったとか…。」




狛枝「でも皆、はき違えちゃダメだよ。」

狛枝「小泉さんに謝罪したいからこそ、小泉さんと和解する。」

狛枝「辺古山さんを励ましたいからこそ、小泉さんと和解する。」

狛枝「2つは同じ行動のように見えて、全く別の話だからね。」


狛枝「ここをなおざりにしておいて、小泉さんが九頭龍クンを許すわけがないんだから。」

終里「なんだと?」

狛枝「ボクにだって察知できたんだから。きっと張本人の小泉さんだって、九頭龍クンの考えを見抜いてるよ。」


狛枝「九頭龍クンが小泉さんを、対等な人間として扱っていない…ってことをね。」

九頭龍「…なんだよ、それ。」


狛枝「キミはね、九頭龍クン。心のどこかで、小泉さんを常に見下してるんだよ。」

狛枝「自覚してるかはわからないけど。」

罪木「見下してるって…?」

終里「そりゃあさすがにね―んじゃねぇか?土下座してりゃあむしろ、見上げてんだろ。」

豚神「まあ、物理的にはな。」




田中「しかし…狛枝の発言も、あながち間違いとは言い切れんな。」

ソニア「え…?どうしてですか?田中さん。」


田中「そもそも九頭龍は、小泉を殺そうとしたのであろう?」

花村「しかも、小泉さんの命乞いを無視してまで…だったよね。」

田中「死というものは、決して軽くない。通常、忘れるはずがないのだ。」

田中「たとえ大切な伴侶が、危機に陥っている時であってもな。」


終里「…そうだよな。死ぬっつ―のは…オレが今感じている鼓動も。空気の肌触りも。オレ自身から聞こえてくる声も。」

終里「全部全部なくなって…真っ暗の世界に閉じ込められて。」

終里「何も考えられなくなるんだよな。」

終里「何も…感じることが、出来なくなるって事なんだよな…。」

九頭龍「…」


狛枝「九頭龍クンは、小泉さんの死をリアルに感じたはずだよ。」

狛枝「決して遠くない…九頭龍クンが生きている現実と、隣り合わせで存在する物のように。」


狛枝「それにも関わらず、九頭龍クンは忘れちゃったんだよ。小泉さんのことを。」

狛枝「その理由は、1つしかない。」


狛枝「九頭龍クン。キミは小泉さんのことを、アリのように矮小な存在だと認識してる…そういうことだよ。」

九頭龍「ぐっ…!!」




狛枝「さらに恐ろしいことにね。豚神クンも言っていたけど、九頭龍クンはそれを自覚していない。」

狛枝「無意識のうちに九頭龍クンは、小泉さんを見下してるんだよ。」

九頭龍「…違う。オレは、そんなつもりは…」

狛枝「ないだろね。だって、無自覚なんだから。」

九頭龍「うぅっ…。」


狛枝「無自覚ってのは、意識して見下しているのよりも相当タチが悪いよ。」

田中「小泉を見下すことが日常になっているのだとすれば、その意識を無理やり変えることは困難だろうな。」

罪木「長い間正しいと信じてきた習性や癖ってのは、なかなか矯正できないものですからね…。」

狛枝「うん。そういう問題もあるけど、それだけじゃない。」


狛枝「小泉さんみたいに、狙って九頭龍クンを排斥してるのなら、皆から非難を受けることになるけど。」

狛枝「九頭龍クンは小泉さんが格下で当然だと思ってるから、そもそも排斥する必要すらないし、しようとも思わない。」




狛枝「だから…」

狛枝「九頭龍クンの腹積もりを読み切れなかった、おバカさん達の同情を買えてしまうんだ。」


日向「なっ…!?」

ソニア「お、おバカさん!!?」

罪木「そ、それって…」

七海「西園寺さん以外の全員…ってことだよね。」


左右田「じゃ、じゃあなんだ?オレらが九頭龍を心配して、病院に集まったのは…間違いだったってのか?」

花村「本来ぼくたちは…西園寺さんみたいに、小泉さんを励ましに行くべきだった…?」

弐大「お、落ち着かんかい。所詮、狛枝の言う事じゃあ。」

豚神「…そうだな。それにどの道、九頭龍をあのまま放っておくわけにもいかなかったしな。」

九頭龍「…」





日向「…で?結局どうするんだよ、九頭龍。」

九頭龍「…」

九頭龍「どうするって、何だよ?」


日向「これからもお前は、小泉に歩み寄る気はあるのか?」

日向「狛枝の話を、踏まえたうえでだ。」

九頭龍「…」




九頭龍「どうすりゃあ、良いんだよ…。」

澪田「え?」


九頭龍「オレは、狛枝に指摘されるまで…なんで小泉と和解しなきゃなんねぇのか、深く考えもしてなかった。」

九頭龍「そもそもオレがいつの間にか、小泉の事をないがしろにしてたなんて…気付いてすら、いなかったんだ。」

九頭龍「そんなオレが、どうやってアイツと…」




狛枝「諦めたほうがいいんじゃない?」


九頭龍「あぁ…!?」

澪田「ちょ、なんなんっすか凪斗ちゃん!!ここまで話し合って、諦めるなんて…!!」

狛枝「いやあ。アドバイスしてあげると言っておいてなんだけど、無理なんじゃないかなって。」

終里「無理って、何だよ!?」


狛枝「ボクが思うに…九頭龍クンが小泉さんを見下す理由って、アレなんじゃないかな。」

ソニア「アレとは…?」

日向「もしかして…トワイライトシンドロ―ム殺人事件か?」


狛枝「そういう事。アレを見たらわかるんだけどさ。」

狛枝「例えば九頭龍クンと小泉さんが…元は仲良しだったなら、和解もできただろうけど。」

狛枝「そもそも2人って、どうしようもない因縁を抱えている者同士なんだよね。」

七海「九頭龍くんにとって小泉さんは、妹さんを殺した人の共犯者。」

田中「小泉にとって九頭龍は、親友を殺した人間…だったな。」




狛枝「2人が仲直りするってことは、過去を切り捨てるってことだよ。」

弐大「そうじゃのう。相手の罪を許しあうことで、初めて2人は分かり合えるんじゃあ。」


狛枝「でも…九頭龍クンに、それができる?」

狛枝「過去を断ち切って…妹さんのことを、スッパリ諦める事なんて…九頭龍クンにできるの?」

九頭龍「…」


狛枝「できるわけないよね。過去に囚われているからこそ九頭龍クンは、小泉さんを見下しているんだから。」

狛枝「妹さんを殺した人間の、共犯者としてね。」


狛枝「だから九頭龍クンには、小泉さんをなだめることなんて不可能だよ。」

狛枝「小泉さんと同じ土俵に立つ…っていう、仲直りの前提すらクリアできないんだもん。」

狛枝「自分を見下して…自分以外の人のために、自分に取り入ろうとしてる人間…。」

狛枝「ボクが小泉さんなら、絶対に許さないね。許すわけがないよ。」

狛枝「それこそ九頭龍クンが、別人のように変わらない限り…」

九頭龍「…」




狛枝「ま…ボクが言えるのは、これくらいだよ。だから九頭龍クン、せいぜい悩んでね。」

狛枝「熟考の先に、九頭龍クンが…どういう希望を見出すか、ボクは見届けたいんだ。」


狛枝「何ならもう1度、小泉さんを殺しに行くってのもいいんじゃないのかな?」

狛枝「多分今なら、簡単に殺せるだろうしね。」

狛枝「小泉さんの傍には西園寺さんしかいないし、小泉さんは九頭龍クンが近付いただけで腰を抜かしちゃうんだから。」

狛枝「ボクに殺人を手伝ってほしいのなら、遠慮なく言ってね九頭龍クン。」


日向「ふざけるな!!なんで今更、2人にコロシアイをさせないといけないんだ!!」

狛枝「ボクはただ、九頭龍クンにハッキリしてほしいだけだよ。小泉さんと仲直りするのか、小泉さんを殺すのか。」

狛枝「今の中途半端な状態じゃ…絶対的な希望も、希望に喰われるための程よい絶望も。」

狛枝「どっちも、出て来るはずなんてないんだからさ。」


ソニア「もういいです!!狛枝さんの話なんて聞きたくありません!!」

豚神「そうだな。大体九頭龍が過去を断ち切れないというのも、狛枝がただそう言っているだけだ。」

七海「九頭龍くんだって、そんなに酷い人間じゃないはずだよ。小泉さんのことだって、きっと赦してくれる。」

七海「そうだよね?九頭龍くん。」

九頭龍「…」




九頭龍「わりぃ。」


花村「え…?」

九頭龍「少し…考えさせてくれ。」

罪木「考えるって…?なんで考える必要が…?」

九頭龍「非難されるのは、承知の上だ。けどよ。オレにとって小泉は、やっぱり…」


九頭龍「妹が死ぬ原因を作った人間なんだよ。」

日向「九頭龍…。」




今日はここまで。





左右田「…なんだよ、それ。」

ソニア「え?」


左右田「結局九頭龍は…自分のやらかしたことに関して、何の反省もしてね―のかよ。」

左右田「共犯者云々は知らね―けどよ。未だに小泉を加害者扱いして、自分は被害者を気取ってんのか。」

左右田「加害者は自分で、小泉を殺そうとして…今も小泉を、陥れてんのによ。」

九頭龍「…」


田中「ふん…。どうやら我らは、同情すべき相手を計り間違えたようだ。」

田中「九頭龍の罠にひっかかってな。」

弐大「今回ばかりは本当に、狛枝の言うとおりだったようじゃのう。」

弐大「確かに、おバカさんは…ワシらだったようじゃあ。」


弐大「ここにワシらは14人もいるもんじゃけぇ、ワシらはこちら側に正当性があると思い込んどった。」

弐大「しかし実は…一時の情に流されて、つい九頭龍の肩を持ってしまった人間が多数いただけ。」

弐大「実際に正しいのは、小泉と西園寺の方じゃったようじゃあ。」

左右田「あ~あ。心配して損したぜ。」

澪田「どういうことっすか…?」




左右田「わかんねぇのか?騙されてたんだよ、オレらは。」

七海「騙されてた?」


狛枝「ボク達は今まで、九頭龍クンが小泉さんの過去を既に赦している事を前提に話してたよね?」

狛枝「小泉さんの過去を赦すということはすなわち九頭龍クンが、自分の復讐の正当性を否定するってこと。」

狛枝「ひいては九頭龍クンにはもはや殺意はなく、殺人未遂に関して小泉さんに謝りたがってると解釈できるわけ。」


狛枝「ところが実は、九頭龍クンは未だに小泉さんを恨んでることが分かった。」

狛枝「ってことは…そもそも九頭龍クンが、殺人未遂に関して反省しているかどうかも怪しくなっちゃうんだ。」

狛枝「それが、騙されてたってことだよね?」

九頭龍「…」




左右田「反省したフリをして、オレ達に媚を売ってきてよ。」

左右田「オレ達の同情を誘って…小泉を悪者にしようとしてたんだよ、九頭龍は。」

左右田「実際は、自分の罪から目を背けてるだけなのによ。」

左右田「これがヤクザの汚い手口なんだな。良くわかったぜ。」

罪木「小泉さんを悪者にって…?」


花村「そうかもしれないね。ぼくらは、九頭龍くんに同情したからこそ…」

花村「小泉さんの方が悪いと思っていたからこそ、九頭龍くんのもとに集まったんだ。」

日向「仲直りしようとしている九頭龍と、それを無視している小泉を見れば…仕方ない事かもしれないけどな。」

弐大「仲直りしようとしている、か。本当は、それは嘘だったようじゃがのう。」


弐大「小泉を殺そうとしたことに関して九頭龍が深く反省しとると、思ったからこそ。」

弐大「小泉の罪を赦したうえで小泉に謝罪をしたがっていると、勘違いしたからこそ。」

弐大「ワシらは九頭龍に同情し、そんな心中の九頭龍を無視する小泉を悪く思ってしまったんじゃあ。」




左右田「それなのに、何だよ?実は九頭龍は小泉を殺そうとしたことを反省するどころか…」

左右田「過去を切り捨てられずに、未だに小泉を殺そうと目論んでるって判明しちまった。」

九頭龍「…そういうわけじゃない。まだ殺そうとしているとか、そういうわけじゃあ…」


左右田「説得力がねぇんだよ。」

九頭龍「…」


狛枝「そうだねぇ。再度確認するけど、九頭龍クンが復讐に走った理由は、小泉さんの過去を赦せていなかったから。」

狛枝「九頭龍クンが下手に出たり、切腹をしたりして霞んでいるけど。殺人のための根源的な動機が健在なんじゃあさ。」

狛枝「再犯を犯さないなんて、ましてや仲直りしたいなんて…説得力があるわけないね。」


左右田「そもそもオレらは、テメ―の復讐に正当性があるなんて最初から思っちゃいねぇんだよ。」

左右田「それってつまり、殺人を許容するってことだもんな。」

左右田「復讐のための免罪符なんて…テメ―の頭の中にしか、存在しねぇんだ。」

左右田「それを理解して、復讐の正当性を自分から否定できたからこそ…小泉に歩み寄ってるんだと思ってたのに。」

左右田「何にも成長してねぇじゃねぇか。何が、仲直りだよ。」


左右田「仲直りなんて、聞こえの良い謳い文句を出して…オレ達の同情を誘ってよ。」

左右田「皆からの同情を誘えれば…自分は反省してなくても、誰かが勝手に自分の罪を許してくれるもんな。」

左右田「肝心の小泉は、一切許してねぇのに。」

左右田「むしろ許さなかった小泉が批判されるなんていう、おかしな状況が出来ちまってる。」

左右田「そうやって小泉を悪者に仕立て上げて、自分の行為を無理やり正当化してやがったんだ。」

左右田「復讐なんて…ましてや殺人なんて、絶対に正当化してはいけない物をな。」


左右田「根本的には、小泉を見下してんじゃねぇか。そんな奴の言う事、誰が信じるかよ。」

九頭龍「…」




左右田「ちっ…。九頭龍が本気で小泉と仲直りしたがってると思ったからこそオレは、同情してやったのによ。」

左右田「そういうふうに、九頭龍を…信じてたのによ。」


田中「実際九頭龍は、小泉を利用しようとしていただけ。小泉との和解は目的ではなかったようだからな。」

田中「和解の意がないことを考慮すれば、九頭龍の立場は小泉と何ら変わらない。」

田中「いや…そもそも九頭龍は加害者で、被害者は小泉なのだ。」

終里「立場を考慮すれば…責められるべきは、どう考えても九頭龍のはずだよな。」


左右田「なのにどうしてオレらは、加害者を擁護してんだよ。被害者をそっちのけで。」

ソニア「ど、どうしてと言われましても…」

左右田「本当にオレは、バカだ。こんな奴の罠にはまって…一時でも九頭龍に、同情しちまった。」

左右田「本当に同情すべき相手の小泉をないがしろにしてな。」




弐大「小泉が九頭龍を排斥していたのをワシらは非難しとったが、今思えばあの行為こそが正解だったのかもしれんな。」

花村「うん。九頭龍くんの目的は、小泉さんとの和解することにはないとわかっていたからこそ。」

花村「九頭龍くんとの和解なんて不可能だとわかっていたからこそ、小泉さんは…」

花村「最初っから、関係の断絶を提唱してたんだ。」


ソニア「それが最善の策だと小泉さんは理解していた…。」

ソニア「それに納得できなかったわたくしたちは…深い考慮もなしに、小泉さんの意見をないがしろにしていた…。」

ソニア「すべて、小泉さんが言っていたこと…でしたね。」

澪田「唯吹たちは結局…何も理解できてなかったんすかね?真昼ちゃんの発言も。冬彦ちゃんの意図も。」




左右田「ああ、そうだ。これ以上こんな人殺しに同情してやることねぇよ。オレはもう行くぜ。」

七海「行くって、どこに?」

左右田「ったりめ―だろ、小泉を探しに行くんだよ!!」

狛枝「小泉さんを…?へぇ、どうして?」


左右田「小泉を見張ってやらねぇとな。もしかしたらまた、九頭龍に命を狙われるかもしんね―からよ!!」

九頭龍「…」


左右田「オレは小泉を1度助けてやれたんだ。なら、最後まで守ってやりて―だろ。オレも男なんだからよ。」

田中「ふん。貴様にしてはなかなか粋なことを言うじゃないか。さすがはスト―カ―を習慣としている男よ。」

左右田「そういう意味で言ったんじゃねぇよ!!」


田中「俺様も行かてもらうぞ。元々騒がしい場所は性に合わんのでな。」

弐大「むぅ…。ワシも、席を外させてもらうぞ。九頭龍にはもう少し、自分の所業を考えてほしいものじゃあ。」

終里「あ。待ってくれ、弐大のおっさん!!オレのトレ―ニングに付き合ってくれよ!!」

弐大「自らトレ―ニングを提案するようになるとは。お前さんは、成長しとるのう。」

弐大「これからの九頭龍は、どうじゃろうのう?」

九頭龍「…」


ソニア「確かに九頭龍さんは、少し独り善がりな考えをお持ちかもしれませんね…。」

ソニア「左右田さん達ほど辛くはあたりませんが…わたくしも九頭龍さんに、これ以上は賛同しかねますわ。」

ソニア「それでは、ごきげんよう。」

花村「ぼくもそろそろ、皆の昼食を作らないといけないし…それじゃ。」

罪木「え、えっと…私はその、お薬でもとってこようかと…。す、すみませぇん!!」







九頭龍「…」

狛枝「はは。皆の手のひらの返し様、面白いくらいだね。」


日向「まぁ…仕方ないよな。九頭龍が、あんなことを言ってしまったんだ。」

日向「小泉を未だに恨んでいるような発言を、してしまった。」

日向「皆からしたら…九頭龍の言い分を、根底から覆されたも同然だ。」


九頭龍「…お前らは、なんで残ってんだよ。」

七海「ん?」

九頭龍「お前らだって理解できたんだろ?オレの腹積もりをよ。」

九頭龍「なのになんであいつらみたいに、オレを避けねぇ。」

九頭龍「同情ならやめとけ。情けをかける相手を間違えてるぜ。」




豚神「勘違いするな。俺は妙なセンチメンタリズムでここに居るわけではない。」

豚神「貴様から聞きださねばならんことが、まだ残っているのだ。」

九頭龍「…何を聞き出すってんだよ。」


豚神「俺たち人間というものは…何か考え事をする時、常に何かしらの“前提”を理論の根底にすえているんだ。」

九頭龍「…なんの話だよ。」

豚神「話には順序というものがあるんだ。だから俺の話をしっかりと聞いておけ。」


澪田「唯吹たちは今まで…2人の中で冬彦ちゃんの方にこそ分があるっていう“前提”を信じてた。」

澪田「だから、冬彦ちゃんの肩を持ってたんすよね。」

澪田「う~ん。どうして唯吹たちは、そんな“前提”を創っちゃったんすかね?」




七海「そもそも“前提”ってのは、無意識のうちに構成している物だろうからね。」

七海「人を殺すことは悪いことだ。仲が険悪な2人は、何とかして和解した方がいい。」

七海「なんでそんなことが言えるのか、理由を問われたら…うまく説明できる人の方が少ないんじゃないかな。」

七海「それでも私たちは、どういうわけか…そういう考え方を盲信している。」

七海「だってそれは、私たちが気づかないうちに正しいと思い込んでいる…“前提”なんだから。」


日向「そうだな。九頭龍が小泉に歩み寄っていたり…切腹まで、していたから。」

日向「無意識のうちに俺たちは、“前提”を創り上げてしまってたんだよな。」

日向「『九頭龍はもう過去を断ち切って、純粋に小泉に謝罪しようとしてる』…っていう、“前提”をな。」


狛枝「実はその“前提”は、一切根拠のないものなのにも関わらず、ね。」

狛枝「今となっては、どうしてそんな“前提”をすえていたのか、まったくもって疑問だね。」

狛枝「九頭龍クンが小泉さんに歩み寄っている事と、九頭龍クンが反省している事。」

狛枝「2つは全く関係しない事象なのに。」




豚神「だからこそ“前提”を崩された時…ある者は驚愕し、ある者は落胆し、ある者は考えを180度変えてしまうのだ。」

豚神「『九頭龍が小泉を既に赦している』という“前提”が、九頭龍の発言によって覆された。」

豚神「“前提”とは、理論の根底にある物。」

豚神「それが覆るということはすなわち、九頭龍の言い分全てが成り立たなくなってしまう…ということなのだ。」


豚神「九頭龍が小泉に歩み寄っている事の正当性も。2人は和解すべきだということの正当性も。」

豚神「九頭龍が殺人未遂の件で反省しているだろうという考えも。同情すべきは九頭龍だろうという考えも。」

豚神「何もかも、説得力がなくなってしまう。」


豚神「だから今の状況は、必然なのだ九頭龍。」

九頭龍「…何だよ、ただ説教をしたかっただけか?何か、聞き出したかったんじゃなかったのかよ。」




豚神「あわてるな。今までの話はただの前座。これからの話を進めるための“前提”だ。」

九頭龍「…」


豚神「俺たちは最初から、九頭龍の良心を“前提”に話し合ってきた。」

九頭龍「…良心、か。確かにそんなもの、ハナからオレにはなかったのかもな。なにせオレは、極道だからよ。」

九頭龍「だから未だに…小泉のことを、赦せてねぇんだよな。」

日向「…」


豚神「しかし俺たちが、無意識のうちに…もう1つ、“前提”として据えて来たものがあるだろう?」

澪田「ん…?なんすか、それ?」




今日はここまで。




豚神「そもそも俺たちは、トワイライトシンドロ―ム殺人事件が事実であることを“前提”に話してきた。」

日向「それがどうした?」


豚神「だがそもそも…なぜこれが事実であると言える?」

九頭龍「そりゃあ…写真が残ってんだろ?」

豚神「写真程度なら、いくらでもねつ造できる。写真だけでは決定的な証拠にはなりえない。」

七海「そう言われてみれば…そうだね。」


豚神「そもそも、情報源はモノクマなのだぞ?最初から、偽物だと疑ってかかるべきではないか?」

九頭龍「…何言ってやがる。オレだって最初は、偽物だと思ってた。」

九頭龍「いや…ただ、嘘だと信じたかっただけなんだ。現実から、眼を逸らしてな。」


豚神「現実、か…。どうして貴様は、トワイライトが現実に起こった物だと言えるんだ?」

九頭龍「あ?どういうことだよ。」


豚神「そもそも俺達が、トワイライトを事実だと思う根拠は…九頭龍、お前の発言だけなんだ。」

澪田「あの写真だけじゃあ本物かはわからないもんね。」

七海「じゃあ…肝心の九頭龍くんは、どこからその根拠を持ち出してきたのかな?」


九頭龍「そんなの決まってんだろ。小泉のヤロ―が、暴露しやがったんだ。トワイライトは事実だって…。」




豚神「それだ。」

九頭龍「あん?」


豚神「小泉はどうやって、トワイライトが事実だという確信を得た?」

九頭龍「そりゃあ、オメェ…」

九頭龍「…あれ?」


狛枝「そういえば…変だね。」

狛枝「ボク達は学園生活の記憶がすっぽ抜けているらしいから、過去の記憶なんて存在しないはずだけど。」

澪田「おかしいじゃないっすか!!じゃあなんで真昼ちゃんは、トワイライトが事実だって知ってたんすか!?」


日向「ある種のハッタリだったんじゃないか?」

七海「ハッタリ?」

日向「九頭龍は確かビ―チハウスで小泉に、トワイライトが本物かどうかを問い詰めたんだろ?」

日向「それで小泉が、九頭龍にビビって…その場しのぎの返答をした、とか。」

七海「有り得ないわけじゃ、なさそうだけど…」




狛枝「今までの小泉さんの様子を見る限り…トワイライトが嘘だとは思ってなさそうなんだよね。」

狛枝「っていうか、トワイライトは事実だっていう“前提”に、疑いの余地すら持ってない…って感じかな?」

澪田「そうだよね。トワイライトが嘘だったなら、あそこまで冬彦ちゃんを排斥したりしないだろうし…」


九頭龍「確かにな。つ―かオレは小泉の様子から、小泉がトワイライトの真相を知ってることを確信したからこそ…」

九頭龍「あの時、ビ―チハウスに小泉をおびきよせたんだ。」

狛枝「事件前も小泉さんは、九頭龍クンを避けてたもんねぇ。」

狛枝「アレって、小泉さんがトワイライトの真相を知ってたからだったんじゃないのかな?」

澪田「じゃあやっぱり、おかしいっすよ!!なんで真昼ちゃんには、トワイライトの記憶があるんすか!?」




狛枝「澪田さん。あわてなくても、選択肢はそんなに多くないはずだよ。」

澪田「え?」


狛枝「ほら、居るでしょ?ボク達の中に、ボクらの希望を脅かそうとする腫物がさ。」

澪田「腫物…?それって、もしかして!?」


日向「裏切り者の事か…!?」

豚神「…」


狛枝「つまり豚神クンは、こう言いたいわけだ。」

狛枝「ボク達は本来、未来機関っていう物によって記憶を失われているけど。」

狛枝「それにも関わらず、記憶を失っていない人がいる。」

狛枝「なぜかというとその人が、未来機関の息がかかった人間だから。」


狛枝「要するに…小泉さんが、裏切り者なんじゃないかってことだよね?」

日向「お、おいおい、小泉を疑うのかよ!?」




狛枝「でも、そう考えるとしっくりくると思うんだけどなぁ。」

狛枝「善し悪しはどうあれ…九頭龍クンを排斥することで、小泉さんが皆の空気を悪くしてるのは間違いないでしょ?」

狛枝「そうすることで、ボクたちの殺し合いを促進させているとも考えられない?」

澪田「凪斗ちゃんがそれを言うんすか!?1番唯吹たちの中を引っ掻き回してるのに!!」

日向「そもそも俺たちが分裂したのも、お前のせいじゃないか!!その意味では、お前が1番裏切り者として怪しいぞ!!」


狛枝「それは違うよ。重要なのはあくまで、記憶を保持してるってところだから。」

狛枝「豚神クンも小泉さんが裏切り者として怪しいと思ったからこそ、こんな話を持ち出したんだよね?」

豚神「…ああ。皆を余計に混乱させないために、人数が減ったところでだがな。」

豚神「だが、勘違いするなよ。これはあくまで可能性だ。明確な根拠があるわけじゃあない。」

豚神「ただ、頭の隅に置いておくぐらいは…」




九頭龍「いや…やっぱ、それは違うんじゃねぇか?」

七海「え?」


九頭龍「よく考えてみると、おかしいだろ。小泉が裏切り者だなんて、あるわけがねぇ。」

狛枝「へぇ。小泉さんをかばうの?あの九頭龍クンが。」

九頭龍「…かばってるわけじゃねぇ。ただ、そういう考え方に逃げたくねぇんだ。」

七海「逃げる?」


九頭龍「もし小泉が裏切り者…つまり悪者だとしたら。」

九頭龍「小泉に汚点ができて、議論の上でつけいる隙が出来ちまう。」

九頭龍「その隙を利用して、オレは…また、自分の行動を正当化してしまうかもしれねぇ。」


九頭龍「オレはもうこれ以上、自分の行為を正当化したくねぇんだ。」

九頭龍「そんなことをしても…中身のない同情を誘う事しかできねぇからな。」




狛枝「そっか…。で、小泉さんが裏切り者じゃないっていう根拠は?」


九頭龍「小泉が裏切り者で、殺し合いを促進しているのなら…なんで自分を危険にするような動機を用意するんだよ。」

九頭龍「だってオレは…日向達が止めに入らなければ、間違いなく小泉を殺してたんだぞ。」

七海「…そうだね。前回の動機は、どう考えても九頭龍クンと小泉さんの動機にしかならない物。」

七海「黒幕とつながっている人間が、自ら殺されに行くなんて…なんか変だもんね。」


澪田「でもそれじゃあ、真昼ちゃんが記憶を持ってたことの弁解にならないっすよ?」

九頭龍「それは…」




七海「…写真じゃないの?」

澪田「え?」


七海「九頭龍くんはビ―チハウスで、小泉さんに写真を見せたんだったよね?」

七海「小泉さんは写真家なんだから…記憶がなくても、写真を見れば自分が撮った物かどうかはわかるはず。」

狛枝「その写真には小泉さんの、写真家としての技術とか、癖なんかが詰まっているだろうしね。」

七海「だから…九頭龍くんから受け取った写真を見て、自分の撮った写真だって気付いて。」

七海「否が応にも、トワイライトが真実だと思い知らされた…ってことじゃないのかな?」


日向「ああ。俺も、七海の考えでいいと思うぞ。」

日向「事件前に小泉が九頭龍を避けてたのだって、九頭龍が極道だってことを考えれば当然なんだ。」

日向「今の俺達は、なんてことない事柄に過敏に反応して、見当違いな連想ゲ―ムをしているだけ。」

日向「あの小泉が、裏切り者だなんて…あるわけないだろ。」

日向「そもそも裏切り者なんて、モノクマが言ってたことだ。存在自体、怪しいものだ。」

七海「…」




豚神「…そうだな。すまない。これは邪推だったな。」

豚神「どうやら俺も、弱気になっているようだ。モノクマの戯言を、鵜呑みにしてしまうなんてな。」

澪田「仕方ないっすよ。白夜ちゃんは、疑り深い性質なんすから。」

澪田「白夜ちゃんが心から信用してるのなんて、唯吹位だもんね!!」

豚神「さてと…俺はそろそろ行くぞ。3の島にもまだ、貴重な情報が眠っているかもしれないからな。」

澪田「無視しないでよ―!!哀しいよ―!!」


狛枝「さてと…。ボク達もそろそろ、解散しよっか。九頭龍クンも、1人で考える時間が欲しいだろうし。」

日向「結局…お前は何がしたかったんだ、狛枝。俺には、今日のお前の意図が良くわからなかったぞ。」

狛枝「酷い言われようだなぁ。ボクは、行動の1つ1つに常に意味を持たせられるほど計算上手じゃあないよ。」

狛枝「ボクはただ純粋に、小泉さんと九頭龍クンの仲を想って、九頭龍クンにアドバイスをしてあげてただけなのに。」

日向「どの口がっ…!!」

狛枝「まぁ…。もし今日の件が、何かの布石になるのだとしたら…ボクはそれだけでも満足かな。」

狛枝「じゃね。」

日向「…くそっ。」




澪田「う~ん。」

七海「どうしたの?澪田さん。」


澪田「千秋ちゃん、知ってるっすか?イライラしてる時に、気持ちをスッキリさせる方法。」

七海「…なんの話かな?」

澪田「そう、音楽を聴くんっすよ!!音楽!!」

澪田「いろんなことをごちゃごちゃ考えるより、うっぷんをメロディに乗せて飛ばしちゃえばいいんだよ!!」


澪田「だから真昼ちゃんも冬彦ちゃんも、音楽を聴いてみれば良いよ!!」

澪田「2人の因縁なんてネチネチ考えてるのもバカらしくなってきて、きっと仲直りできるはずだもん!!」

九頭龍「…なんだよ、そのバカらしい話は。そもそも音楽なんて、どこで聴くんだっての。」


澪田「ふっふっふっ。ふが4つ。何のために音楽の女神である唯吹がここにいるんすかねぇ?」

澪田「3の島にはライブハウスがあったみたいじゃないっすか!!コレを使わない手はないっすよ!!」

九頭龍「…何する気なんだ?」

澪田「それは、後でのお楽しみって奴っすよ!!ワクワクして、夜も眠れなくなるといいっす!!」

九頭龍「はぁ…。期待しないで待っててやるよ。」


澪田「とりあえず千秋ちゃん、準備手伝うっす!!」

七海「え?なんで私まで?」

澪田「固いこと言いっこナシっすよ!!あと、無視された恨みで白夜ちゃんにも手伝わせてやるっす!!」

澪田「千秋ちゃん、最初のミッションはあの豚足を捕まえる事っすよ~!!」

七海「これは…文句言っても無駄みたいだね。じゃ、私もここらで退室するよ。」




九頭龍「…」

日向「九頭龍。最後に、俺にも言わせてくれ。」

九頭龍「…何だよ。」


日向「お前は、自分には良心なんてない…なんて言ってたけどな。俺はそうは思わないぞ。」

九頭龍「…」


日向「俺には…九頭龍が小泉に歩み寄っていたのが、何もかも嘘だとは思えないんだ。」

日向「だって九頭龍は…切腹してまで、小泉になんとか許してもらおうとしてたんだろ?」

日向「やっぱり九頭龍の中にも、純粋に小泉と仲直りしたいと思ってる心もあると思うんだよ。」

日向「まぁ…根拠はないんだけどな。全部全部辺古山の為にやった…なんて言われたら、反論できない。」

日向「でも…それでも、俺は…」





九頭龍「…わりぃ。」

日向「え?」

九頭龍「正直…自分でも、良くわかってねぇんだ。自分が、何を目的としてるのか。どういう考えを持っているのか。」


九頭龍「だから…少し、考えさせてくれ。1人で、じっくり考える時間が欲しいんだよ。」

日向「…そうか。じゃ、俺も行くぞ。今度は、キッチリとした考えを聞かせてくれよ。」

九頭龍「ああ…。」


九頭龍「…すまねぇな。」




今日はここまで。




※さすがの日向クンも、シリアスシ―ンでは空気を読みます。

空気を呼んで、被るパンツは田中のパンツにしているようです。





九頭龍「…」

辺古山「モフモフ…」


九頭龍「…」

辺古山「モフ…モフモフ……」


九頭龍「…」

辺古山「…モフッ」


九頭龍「…」


辺古山「モッフモフにしてやんよ。」

九頭龍「!?」




九頭龍「なぁ、ペコ。」

辺古山「モフ?」


九頭龍「オレは今まで…何をしてきたんだろうな?何のために、行動してたんだろうな?」

辺古山「モフ…モフ…」


九頭龍「もしオレが、ペコだけのために行動してたのだとしたら…お前は喜ぶか?」

辺古山「…モフッ!!」

九頭龍「…まぁ、そうだろうな。お前はそういう風に生きてきた。」

九頭龍「お前はいっつもそうだ。昔からオレの道具として生きてきた。」

九頭龍「だからオレが喜べと命令したら、お前は…機械的に、喜ぶんだろうな。」


九頭龍「…オレの気も、知らねぇで。」

辺古山「モフ…?」




九頭龍「でも…オレがそう思うのは、どうやら間違いみてぇだ。」

九頭龍「ペコのために、小泉と和解しようとするのは…筋が通ってねぇんだ。」

九頭龍「当たり前だよな。オレが歩み寄っていたのは小泉で、小泉にとっちゃあペコがどうなろうと関係ないんだからな。」

九頭龍「オレの行動は、動機がおかしいんだ。不純だし、中途半端なんだ。」


九頭龍「本気で小泉に詫びたい場合、そこにペコが介入する必要なんてない。」

九頭龍「ペコのことが心配なだけの場合、和解なんかじゃなくて…」

九頭龍「小泉を拷問して、ペコを人間だと無理やり認識させた方が手っ取り早いのかもしれねぇ。」

九頭龍「その後に小泉を殺せば、ペコも復活するし復讐も完遂して、一石二鳥だな。」

辺古山「モフッ」




九頭龍「それなのにオレは未だに判断に悩んで、どっちつかずの状況に甘んじている。」

九頭龍「オレは自分自身の目的を、無意識のうちに曖昧にしていたんだ。」


九頭龍「ペコを元気づけたいのか。本気で、小泉と仲直りしたいのか。」

九頭龍「狛枝なんかに、アッサリとそれを見破られちまったしな。」

九頭龍「狛枝ですら気付けたんだ。小泉だって気付いてるに決まってる。」


九頭龍「だから、明確な目的を自分でも理解できてねぇオレに…和解なんて無理なんだよ。」

辺古山「モフゥ…」




九頭龍「…オレは、思うんだよ。」

辺古山「モフ?」


九頭龍「ビビってんだよ、オレは。未だにな。」

辺古山「モモフ…モフフ?」

九頭龍「過去を認めることにだ。」


九頭龍「オレの妹が殺されたこと。オレが、サトウって人間を殺したこと。」

九頭龍「オレにとっちゃあどっちも、認めたくないことだ。」

九頭龍「今でもオレは、全部嘘だったどれだけいいか…なんて思っちまってる。」

九頭龍「つまりオレは、逃げてんだよ。自分の過去から。」


九頭龍「でも…アイツは違った。アイツは、自分の過去と向き合おうとしてたんだ。」

九頭龍「そしてアイツは…オレにも要求したんだよ。自分の過去と向き合うことを。」

九頭龍「オレはそれが…どうしても許せなかった。認めたくない事実を、無理やり認めさせられるんだからな。」

九頭龍「もしかしたらオレは…小泉の口を封じれば、過去の事実もなくなるんじゃないか。なんて思ってたのかもな。」


九頭龍「勝手すぎるな。オレは小泉を一方的に責めてたのに。アイツばかりに過去を背負わせようとしてよ。」

九頭龍「自分は、過去を少し背負わされただけで…すぐにカッとなっちまって。」


九頭龍「それで、今もオレは…自分の過去を、小泉との因縁を、あやふやに終わらせようとしてるんだ。」

九頭龍「切腹したのも、小泉と和解しようとしてたのも全部…」

九頭龍「過去の真偽を断定する事や、過去の内容を深く吟味する事から…目を背けていただけだったのかもしれねぇ。」




九頭龍「だから…気付けなかった。」

九頭龍「オレは未だに…小泉のことを、赦せてなかったってことにな。」

辺古山「モフ…」


九頭龍「本当に、ムチャクチャな話だ。小泉のことを未だに恨んでるくせに、仲直りしようとしてたなんてよ。」

九頭龍「アイツらが怒るのも当然だ。オレの行動の何もかもが、芯の通ってない優柔不断な物なんだから。」

辺古山「モフモフハリケ-ン」





九頭龍「…どうすりゃあ、良いんだよ。」

辺古山「モフバ-ガ-?」

九頭龍「どうすりゃあオレは、小泉のことを赦せるんだよ…。」


九頭龍「オレがどれだけ外面を繕っても、心のどこかでは…小泉の事を恨み続けてんだろ?」

九頭龍「オレは許してもらう立場に徹していたから、無意識のうちに…勝手に、赦した気になってただけなんだ。」


九頭龍「罪ってのは、相殺しねぇんだな。」

九頭龍「オレがサトウって奴や小泉を殺したところで、小泉の過去が消えるわけじゃないんだ。」

九頭龍「実際オレは今まで、無自覚のままにアイツを恨んでたみてぇじゃねぇか。」


九頭龍「そんなオレが、どうやって…」

辺古山「mohu☆mohu」




九頭龍「オレは今まで、小泉に許されることばかり考えてた。だから、全然気づいてなかった。」



九頭龍「『赦すこと』は…『赦されること』よりも、はるかに難しい。」



九頭龍「どうしてオレが、小泉を赦すことが出来たのか…その理由を小泉に、納得させなきゃいけねぇからだ。」

九頭龍「オレが小泉を赦すことを、小泉に許してもらわねぇといけねぇ。」

九頭龍「そんなこと…オレに、できるのか?」


九頭龍「ただ一言、『赦す』なんて言ったところで…説得力がカケラもねぇよ。」

九頭龍「だってオレには、小泉を赦す理由も、口実も、良心も…なんもねぇんだからよ。」

九頭龍「1度オレは、小泉を殺そうとしてる。どんな謝罪を受けようと、赦す気がなかったからだ。」

九頭龍「そんなオレに、小泉を赦す権利なんてない。」




九頭龍「ははっ…全部、アイツの言った通りじゃねぇか。」

九頭龍「そういやあアイツ、言ってたな。自分は許す側じゃない。むしろ、赦しを請う立場だって…。」

九頭龍「オレは小泉の罪を赦してねぇのに、オレだけ自分の罪から解放されようなんて…甘すぎるよな。」


九頭龍「全部全部…アイツが言ったとおりに話が進んじまってる。」

九頭龍「やっぱ、オレが小泉に歩み寄ってたのは…間違いだったのか?」


九頭龍「オレはやっぱり…小泉を赦さず、再び復讐に走るべきなのか…?」

辺古山「…モフッ」




九頭龍「…わかってる。それこそ独り善がりで、誰も納得しねぇ行為だ。」

九頭龍「それにアイツがいなくなっちまえば、ペコが…」


九頭龍「…クソッ。やっぱりオレの優先事項は、そっちなのかよ。自分でも嫌気がさすぜ。」

九頭龍「なぁペコ…オレは、どうするべきなんだよ?どうすりゃあ、より良い未来にたどり着けるんだ?」





辺古山「モフッ!!」

九頭龍「え…。」


辺古山「モフ・モフモフ・モフ×4…モフモッフ」

九頭龍「ちっ…。言ってくれるじゃないか。確かにそうだ。オレに足りないものはいつでもそうだ。」

九頭龍「いつまでも…逃げてちゃダメなんだ。立ち向かう、『勇気』がいるんだよ。」


九頭龍「礼を言うぜ、ペコ。少しだが、指針をたてることが出来た。」

辺古山「モフッ♪」




九頭龍「あと、1つ言わせてくれ。」

辺古山「モフ?」



九頭龍「日本語喋れや。」

辺古山「今更ですか!!!?」




今日はここまで。

先日やっと受験が終わったので、投下スピ―ドが上がる…かもしれない。




19日目


―レストラン―


罪木「…」

ソニア「…」


日向「おいおい…今日はやけに、集まりが悪いな。」

狛枝「まぁ、仕方ないんじゃない?昨日、あんなことがあったばかりなんだからさ。」

ソニア「きっと皆さん、混乱してらっしゃるんです。どのように行動すればいいのか…」


西園寺「っていうかただ、いざござに巻き込まれたくないだけでしょ―?」

罪木「じ、実際そうかもしれません。2人のケンカに巻き込まれてしまうことを恐れているんだと…」

西園寺「ああん?何が“ケンカ”だ!!あんな残念チビに、小泉おねぇとケンカなんてする資格があるわけね―だろ!!」

西園寺「ケンカってのは、対等な相手とする物だよ!!」

罪木「ひゃあっ!!こ、言葉の綾ですってばぁ!!」


小泉「…日寄子ちゃんの言う通りよ。アリと人間が、ケンカなんてするわけないもん。」

小泉「あるとしたら…一方的な虐殺だけよ。」

日向「…」




左右田「と言ってもまぁ、肝心の九頭龍もここにはいねぇけどな。」

ソニア「九頭龍さんは九頭龍さんで、考えるところがあるのでしょう。」

ソニア「左右田さんにも相当キツく言われておりましたし。」

小泉「え?どういうこと?」


西園寺「ほら、小泉おねぇ。昨日左右田おにぃがわたし達の所に来たでしょ?」

小泉「ああ、そういえばそんなことあったわね。」

左右田「って忘れてたのかよ!!」


罪木「アレの前にですね、左右田さんは九頭龍さんにガツンと文句を言っていたんです。」

小泉「え…そうなの?」

左右田「ああ。アイツがいつまでたっても、ウジウジ言ってたからよ。」

左右田「言うべきことをビシッと言っておいてやったぜ。本気で小泉と仲直りする気あんのかよ!!ってな。」




小泉「ふ~ん…。あの左右田が、ねぇ?」

左右田「オ、オレだって言うときゃあ言うっての。相手がヤクザだからって、ビビッてられっかよ!!」

小泉「はは…アタシもそれくらい、勇気があればいいのにな。」

罪木「そ、そうですね…。わ、私じゃあ、あんな大胆な発言できませんよ。」

西園寺「え?どうして?」


罪木「だ、だってもしかしたら、九頭龍さんを怒らせてしまうかも…」

罪木「下手したら、3万人を敵にまわしちゃいます。そうなったら私は、どう命乞いをすればいいんですかぁ!!?」

左右田「3万人…3万人かぁ…。」

西園寺「あれ?左右田おにぃ、今更怖くなってきたの?」

左右田「バッ…!?そ、そんなわけねぇだろ!!?」

狛枝「ははっ…。わかりやすいね。」




罪木「だ、だから…私だったら言いたいことがあっても、言葉を飲み込んでしまいますぅ。」


西園寺「なるほどね。つまり声に出さないだけで罪木は、左右田おにぃと同じことを考えてんだね。」

罪木「へ…?」


西園寺「九頭龍のバカヤロ―!!…ってさ。」

罪木「あれ!?」


西園寺「今の罪木の発言を九頭龍に聞かせたらどうなるのかなっと。」

罪木「ふぇええっ!!!?詰める指は2本くらいまでで勘弁してくれるよう、交渉をお願いしますうっ!!」

ソニア「2本までなら許すのですか!?」



小泉(…九頭龍組を敵にまわしたアタシは、E子ちゃんを犠牲にすることで生き延びた。)

小泉(皆は冗談交じりに話してるけど…アイツを敵にまわすっていうのは、一生を左右するほど深刻な物なんだ。)

小泉(現にアタシはそのせいで、“絶望のカリスマ”なんかに…)


小泉(といっても九頭龍組は今、九頭龍とペコちゃん以外は既に全滅してるんだけど。)

小泉(…)




狛枝「しかし…あの後、本当に小泉さんの元へ行ったんだ。ただの捨てゼリフかと思ってたよ。」

左右田「そりゃあ…勢いっつ―か…。」

西園寺「まぁすぐにわたしが追い払ったけど。1度九頭龍の肩を持った奴なんて信用できないしね―。」

小泉「そんなことないよ日寄子ちゃん。アタシは左右田の気持ち、うれしかったよ。」


小泉「アタシ…皆に嫌われちゃったかと思ってたからさ。」

小泉「日寄子ちゃん以外にもアタシを励ましてくれる人がいるってわかって、ホッとしたっていうかさ。」

ソニア「当然じゃないですか!!わたくしたちはいつでも小泉さんの味方です!!」

日向「そうだな。もし心が落ち着かないのなら、いつでも相談しろよな。」

日向「相談料はパンツ1枚でいいぜ。」

小泉「アンタの変態発言もなんだか久々な気がするわ…。」





狛枝「と言っても…小泉さんの現状を納得している人は多分、ほとんどいないだろうけどね。」

小泉「…」


日向「お、おい狛枝。何言い出すんだ!!」

狛枝「現にこの場に集まっている人は半分くらいしかいないしさ。」

狛枝「ここに居る皆もそう。2人が和解しないまま終わることを良しとする人が何人いることか。」

罪木「そ、それは、その…。」

ソニア「小泉さんと九頭龍さんが和解できたら…私たちとしては最善なのは、間違いありませんけど。」


小泉「まぁ…そうよね。時間が、解決してくれればいいんだけど。」

ソニア「そうですね…。何日か共に過ごせば、過去の因縁も風化してくれるかもしれません。」

罪木「2人が仲直りする気になれるまで、じっくり待ちましょう。」




狛枝「はは。ソニアさんと罪木さんは楽観的だね。」

罪木「え?」


ソニア「楽観的って…どういう意味ですか?」

日向「…多分小泉は、そういう意味で言ったんじゃない。」

ソニア「そういう意味じゃないって…?」

狛枝「あのね。さっき小泉さんが、“時間が解決してくれる”って言ったのはね。」



左右田「時間が経てば、2人が和解できる…って意味じゃなくて。」

左右田「時間が経てば、2人の和解が必要ないことを皆が納得できる…って意味だったということか?」

罪木「え!?」


小泉「むしろそういう意味以外に、どうとれるのよ?」

ソニア「そ、そんな…」

西園寺「…」




小泉「あのね皆。勘違いしないでよ?アタシ達が和解しないからって、皆も態度を変えろって言ってるわけじゃないの。」

小泉「アタシと九頭龍が2度と関わらないだけ。他の皆は、通常通りアタシ達と接して欲しいな。」

小泉「左右田も、できる限り九頭龍を毛嫌いしないであげて?九頭龍を排斥するのは、アタシだけで十分よ。」

罪木「え…。小泉さん、意外と九頭龍さんのことを…」


小泉「孤立の原因をアタシのせいにした九頭龍に逆恨みされて、襲われたりしたら嫌だしさ。」

日向「…」




小泉「まぁ、それにしても…皆がバラバラなのは、確かに良くないことよね。」

小泉「この空気だと、殺し合いが起きやすくなっちゃうし…単独行動をとっている人は、モノクマからも無防備になる。」

狛枝「へぇ。そこはちゃんとわかってるんだ、小泉さん。」

狛枝「つまり小泉さんは…」



狛枝「『皆の命』よりも『九頭龍クンとの絶縁』を優先していると、自覚しているんだね?」

小泉「…悪い?」

狛枝「いやいや。ボクとしてはそれでも面白いんだけどね。」



小泉「ふん。どっちみち、アタシは誰も死なせる気なんてないわ。」

小泉「九頭龍なんて関係なしに、皆救ってみせるんだから。」

狛枝「その“皆”ってのには、ボクも入ってるのかな?」

小泉「当然でしょ。」


狛枝「じゃあ…九頭龍クンは?」

小泉「…」




日向「その辺にしとけ。それよりも、現状を把握しておこうぜ。」

左右田「ここにいない奴で、単独行動をとってるのは…田中とか、花村あたりか?」

狛枝「九頭龍クンと辺古山さんは一緒だろうし、終里さんと弐大クンもトレ―ニング中じゃないのかな?」

ソニア「あと…豚神さんと七海さんと澪田さんで、何やら催しておりましたね。」

左右田「リ―ダ―の豚神がいねぇと思ったら、澪田の奴に捕まってたのかよ…。」


小泉(この状況で最も危険なのは、単独行動をとっている皆。)

小泉(絶望病からも完全に無防備になるわけだし。)

小泉(今日はそんなにいないけど、これからもっと増えるかもしれない…。)

小泉(そうなってしまえば裏方の思うつぼだ。連鎖的に殺し合いが起こってしまうかもしれない。)


小泉(アタシが裏方なら、絶望病を蔓延させるのは明日くらいかな。前回も、そのくらいの時期だったし。)

小泉(じゃあ、今日はまだ安全かな…多分。今日中に、何とか策を練らないと。)


小泉(…なんか、アタシがこうやって楽観的思考を繰り出すたびに、不測の事態が発生するような気がするわ…。)




罪木「とは言ってもですね…。単独行動をとっている皆さんがどこに行ったのかもわからないですし…。」

西園寺「現状、何の打つ手もナシ…ってことかな?」


小泉「そうかも…。そもそもアタシ、ここまで皆が分断するとは思ってなかったのよね。」

小泉「だって昨日は皆、九頭龍の所に集まってたみたいだし…。」

日向「善し悪しはともかく…あの時14人の考えは一致していて、皆団結できてたんだよな。」


西園寺「ってことは、皆がバラバラなのは左右田おにぃのせいじゃん!!」

左右田「えぇっ!?な、なんでそこでオレに来るんだよ!?」

西園寺「だって左右田おにぃの発言のせいで、九頭龍の所にいた皆がすれ違ったんでしょ?」

左右田「ア、アレはなんつ―か、九頭龍がどっちつかずでいるせいというか…」

日向「そうだな。左右田に責任はないぞ。そもそも誰の責任かを議論するなんて、不毛だ。」


左右田「つ―かそもそも言いだしっぺは、狛枝じゃねぇか!!」

小泉「え?」

ソニア「そうでしたね。九頭龍さんに指摘したのは、狛枝さんが1番でしたね。」

罪木「そもそも14人の中で狛枝さんだけは、最初から九頭龍さんに肩入れしてませんでしたし…。」

小泉「え?」

左右田「誰かのせいだってんなら、1番責任があるのは、狛枝…」





小泉「そう…狛枝だったの。」


西園寺「え…?」

小泉「狛枝が、九頭龍に…ねぇ。」

小泉「狛枝が最初から、アタシの味方を…」

小泉「…ふふっ。」


左右田「ん…なんか、変なスイッチ入ってねぇか?」

西園寺「…気のせいだ、ってことにしておこうよ。」




今日はここまで。




左右田「まぁ…何はともあれ、腹が減ったな。」

ソニア「そうですね…。皆さんの集まりは悪いですが、そろそろ朝食に…」


ソニア「…あれれ?」

罪木「ど、どうしたんですか?」

ソニア「あのですね…。どういうわけか、今日のテ―ブルは一段と寂しいような。」

西園寺「そりゃあ、人が半分くらいしかいないんだから。」

ソニア「いえ、そういう意味ではなくて…」


小泉「あ…ホントだ。いつも用意されているご飯がない…?」

日向「おかしいな。今までは、いつの間にか食事が用意されていたのにな。」

狛枝「そういえば今日は、花村クンが来てないんだったね。」

罪木「そうでした…。良く考えてみれば私たちは、食事をほとんど花村さんに任せてたんですよね。」

左右田「その花村がいねぇから、当然朝食も用意されてねぇってわけか。」


小泉「でもそれなら、代わりにモノクマが用意してくれるんじゃないの?」

小泉「この島に初めて来た時もそうだったし。」

狛枝「花村クンが毎日用意していたから、モノクマもサボり癖が付いちゃったんじゃないの?」

西園寺「ムカつくな―あの白黒デヴ。職務怠慢で訴えて、無期懲役にしてやりたいよ。」

西園寺「アイツっていっつも品のない喋り方だし、中の人もどうせ性根が腐りきった失敗顔のゴミ人間だよ!!」

小泉(その白黒デヴを操っているのが自分と同じ姿をしている事を、日寄子ちゃんはまだ知らない。)




日向「しかしそうなると、レストランでの食事は今日は出来そうにないな。」

罪木「じゃあ今日は、これで解散ですかね…。」

左右田「そうだな。朝食は各自適当にとる流れだな。」

西園寺「じゃ、小泉おねぇ!!一緒にロケットパンチマ―ケットにでも行こう!!」


小泉「うん。あと、蜜柑ちゃんも一緒にどう?」

罪木「ふぇっ!?良いんですか!?」

西園寺「え―!?どうしてそんな奴を誘うの、小泉おねぇ!?」

小泉「だって、単独行動は危険だし。いざという時に、蜜柑ちゃんを守ってあげられるようにさ。」

西園寺「ふんっ。ゲロブタなんてどうなったって、わたしは気にしないもん。」

西園寺「人の顔色を伺うことしかできないボッチは、マ―ケットの惣菜でも1人孤独に食ってろよ。」

罪木「ひぇええん!!な、なんでそんな酷いこと言うんですかぁ!!?」


小泉「それに日寄子ちゃんには、アタシ以外の仲良しを見つけてほしいかなって。」

小泉「蜜柑ちゃんはこれでも、日寄子ちゃんにけっこう歩み寄ろうとしてる方でしょ?」

西園寺「罪木と仲良くする位なら、アリタンの復讐で埋められた方がマシだっての。」

左右田「埋められるって…何それ、怖い!!」


罪木「うう、そうですよね。私なんかが誰かと交わろうなんて、おこがましいですよね…。」

罪木「すみません小泉さん。せっかくの誘いですが、私はこれで…」

小泉「蜜柑ちゃん…。」





ソニア「いけませ―ん!!!!」


狛枝「え?」

罪木「ど、どうしたんですか…?」

ソニア「罪木さん。それ以上遠くに行けば、不敬罪で打ち首獄門ですよ!!」

罪木「えぇえええ!!!?私には、歩く権利さえもないってわけですかぁ!!?」


日向「と、とにかく落ち着け。ソニア、急になんだ?何が言いたいんだ?」

ソニア「はい。ではお聞きください皆さ…」


左右田「お前ら、静粛に!!美声の呼び声が高いソニアさんが、今からありがたいお言葉をおかけになるぞ!!」


西園寺「アンタが1番うるさい。」

小泉「アンタが1番うるさい。」

ソニア「アンタが1番うるさい。」

左右田「!!?」




ソニア「今のわたくしたちに必要な物はなんだと思いますか?」

西園寺「必要な物って…。なによその、漠然とした質問は?」

ソニア「そう。それはわたくしたちが一致団結すること。すなわち、皆との絆なのです!!」

西園寺「自問自答かよ!!」


ソニア「わたくしたちはなんやかんやあって、皆すれ違っております。」

小泉「なんやかんやって…王女様のセリフとは思えないよ…。」

ソニア「士気の乱れは秩序の乱れ。」

ソニア「もしわたくしたちが1つの国だとすれば、今の現状は滅亡の危機と比喩できるでしょう。」

日向「そうだな。だからこそ俺たちはもう1度、俺たち同士の絆を再確認しないといけないんだ。」

西園寺「だから―。それが難しいんでしょ?言うだけなら誰でもできるって。」


ソニア「しかしながらですね。こんな状況でも、わたくしたちは7人そろうことが出来たのです。」

小泉「まぁ…そうね。」

ソニア「それなのに、わざわざわたくし達自身で散り散りになる必要なんてないじゃないですか!!」


ソニア「最終的には全員で団結するのが望ましいのですが。」

ソニア「まずはせめてここにいる人達だけでも、絆を確認するべきなのではないでしょうか!!!?」


左右田「えっと。長い演説の末にソニアさんが言いたかったことは…」

狛枝「皆一緒に朝ご飯を食べよう…ってことだね。」

西園寺「最初っからそう言えよ、回りくどいなぁ!!」

罪木「つ、つまり私はソニアさんから、朝食に誘われたんですね。ふふ…。」

小泉「下手すれば打ち首獄門だったのに、良く喜んでいられるわね…。」




狛枝「でも…皆で食べると言っても、朝食は用意されてないんだよ?」

左右田「だからこそ解散しようって話になったんだもんな。」

ソニア「なければ…創ればよいのです!!パンがなければケ―キを食べればよいのと同じです!!」

小泉「例えがあってるかは謎だけど…誰かが朝食を作るってこと?誰が作るの?」


ソニア「それはわたくしにお任せください!!提案したのはわたくしなのですから!!」

左右田「うほっ、マジで!!?ソニアさんの手料理が食べれるの!!?」

罪木「…」

西園寺「…」



小泉「…どう思う?」

西園寺「箱入り娘の王女様に、料理ができるとは思えないんだけどね…。」

罪木「よくあるパタ―ンだと…野放しにしてたら、黒焦げのダ―クマタ―をまかなわれたり…」




日向「おい、ソニア。やる気があるのはいいんだが。お前、料理とかしたことあるのか?」

小泉(良く聞いたわ、日向!!)


ソニア「もちろんガッテン承知の助です!!料理をするたびに、女子力がマンモスアップしていきますから!!」

狛枝「へぇ。意外だなぁ。一国の王女でも、料理の特訓なんてするんだね。」

ソニア「もちろんです!!向上心を失っては、人間は成長できません!!」

小泉「そうなんだ。ソニアちゃんって幅広い技術を持ってるんだね。」

西園寺「腐っても王女ってわけね。」

左右田「腐ってるは余計だ!!」

罪木「そ、それなら安心して、ソニアさんに任せ…」




ソニア「祖国にいたときは、主にミノタウロスの丸焼きなど…」


小泉「給仕役は、別の人を考えたほうが良さそうね。」

ソニア「ええっ!!?どうしてです!!!?」

日向「ああ…。メインディッシュにマカンゴのステ―キとか出されたら、たまったもんじゃないからな。」

西園寺「これが俗にいう、カルチャ―ショックって奴か…。」

左右田「すみませんソニアさん。正直オレ、甘く見てましたよ。文化の壁って奴を。」

狛枝「確かにちょっと、ハ―ドル高いね。」

ソニア「そ、そんな…」




西園寺「ソニアおねぇが作れないんなら、誰がつくるの?言っとくけど、わたしは料理なんて出来ないからね。」

左右田「そりゃあ…そんなナリじゃあ、なんもできねぇよなぁ。」

西園寺「うっさい黙れ死ね。」

左右田「シンプルなだけに凄く傷つく!!」

小泉「どう“凄い”のか具体的に説明できないんじゃあ、本当に傷ついてんのかわかんないわよ。」

左右田「だぁああああ!!!!オメ―は黙ってろ!!!!」


罪木「わ、私なんかの料理、きっと気持ち悪くて誰も食べてくれないでしょうし…。」

日向「小泉がパンツくれるのなら、俺が作ってやってもいいんだがな。」

狛枝「あ。じゃあボクが、ロケットパンチマ―ケットに行って食べ物を持ってこよっか?」

狛枝「ホラ。お菓子とか、直ぐに食べられる奴。」

日向「俺の提案がさりげなくスル―された!!!?」


左右田「おお、それがいいかもな。今日はもうオレらでパ~っと行こうぜ!!」

西園寺「何言ってんの。狛枝おにぃなんかが持ってきた食料を食べられるわけないじゃん。」

西園寺「何が仕込まれてるか、わかったもんじゃないよ。」

左右田「あ~…。じゃ、オレが持ってくるか?」

西園寺「狛枝おにぃとは違って自分は周りから信用されてると思っている、左右田おにぃの脳内ってお花畑なんだね―!!!!」

左右田「んがぁああ!!!じゃあどれが正解なんだ!!?」




罪木「そもそも、あの狛枝さんがそんな提案をすること自体があやしいかな~なんて…。」

狛枝「酷いなぁ。超高校級の皆の頼みなら、パシリくらいしてあげてもいいかなって思っただけなのに。」

西園寺「ふん。どうせコイツはわたしらに、うまいことアピ―ルしようとしてるだけだよ。」

西園寺「わたしたちに取り入って、今までしてきたことをうやむやにするためにさ!!」


小泉(…アピ―ル?)


小泉(そういえば今まで、花村の陰に隠れて…アタシの料理スキルが生かされることはなかった。)

小泉(そして今、皆は…炊事ができる人間を欲している。)


小泉(ってことは…今しかないんじゃないの?)

小泉(アタシの料理の腕を、アピ―ルするチャンスは…!!)




小泉「あ…じゃあさ。アタシ、やってもいいよ。」

日向「え?」


小泉「だから…アタシが料理を作ってもいいよ、って言ったの。」

狛枝「そっか。そういえばキミは“超高校級のおか」

小泉「じゃか―しい。」

狛枝「オヤジくさっ!!?おかんなのに!!」


西園寺「小泉おねぇが作る料理かぁ…。うん、それなら安心して食べれそうだね!!」

罪木「わ、私も1度、小泉さんの料理を食べてみたいですぅ…。」

左右田「オレもオレも!!なんか、すっげ―おふくろの味がしそう!!」

小泉「どんな味よ、それ…。」


ソニア「ふふふ。庶民の味を堪能するのも悪くありませんわ。」

ソニア「職人の煮っ転がしよりも美味なのでしょうか。」

小泉「美味云々以前に、煮っ転がしっていうチョイスにビックリよ。」


日向「とにかく、小泉が作ってくれるのか?」

小泉「うん。皆が食べたいのなら…。」





小泉「…アンタは?」


狛枝「え?ボク?」

小泉「アンタは、食べたい?アタシの料理…。」

狛枝「う~ん…。まぁ、食べたいかな。」

小泉「そ、そう…。」


小泉「じゃ、食堂にある食材を適当にいじってみるから、ちょっと待ってて。」

左右田「いや~、楽しみだな!!なにせ、“超高校級のおかん”の料理」


カコンッ!!


左右田「うわぁ!!しゃもじが飛んで来たぁっ!!!?」




今日はここまで。




―厨房―


小泉「さてと…何を作ろう?即席で献立を考えるのって、案外ハ―ドね。」

小泉「作ると言っても朝食だからね。ほどほどのボリュ―ムにしないと。」

小泉「中には朝食を抜かす人もいるみたいだし…どれくらい作ればいいのか、判断に迷うところね。」


小泉「まぁせっかくアタシが料理を作るんだから、栄養バランスをキッチリ考えてあげないと。」

小泉「左右田とか狛枝なんか、朝食をお菓子で済ませようとしてたしさ。」

小泉「あんなのじゃあ栄養が偏って、健康な体を維持できないでしょうが。体が資本な人がほとんどだろうに。」

小泉「ホンット男って、どうして料理の1つもまともにこなせないのかな。」

小泉「日向とかに任せたら、肉だらけの胃もたれしそうな料理ばっかり出てきそうよ。」




小泉「えっと…とりあえず味噌汁でも作ろうかな。あとは白ご飯。生野菜を盛り合わせて…。」


小泉「…味気ないわね。せっかく料理を披露する機会なのに、こんな地味でいいの?」

小泉「だって皆は、“超高校級の料理人”である花村の料理に慣れてるんだよ?」

小泉「こんな平凡な料理を出しても、『まぁ…こんなものか、小泉さんの希望って。』みたいにダメ出しされちゃうわよ!!」


小泉「さすがに花村の料理に勝てるはずはない…。それは昔花村と料理勝負した時に、十分理解できた。」

小泉「でも、だからこそ…花村の料理にはない趣向で、勝負を挑まないと!!」

小泉「よほどのインパクトがないと、『すごいよ小泉さん!!』って言ってもらえないもんね。」

小泉「よし…ならばプロジェクトAを急きょ施行よ、小泉真昼!!!!」




―レストラン―


左右田「…なんか小泉、厨房でブツブツ独り言つぶやいてねぇか?」

日向「もしかして、献立が思い浮かばなくてイライラしているのかもな。」

ソニア「カルシウム不足でしょうか。」

罪木「それか、あの日だったり…」

西園寺「そういう問題!?そこまでイライラする位にわたし達が小泉おねぇを追い詰めちゃったとか、考えないの!!?」

狛枝「でも料理を作るって言ったのは小泉さんだよ?」


ソニア「とりあえず…わたくしたちも小泉さんを手伝った方がいいのでしょうか。」

日向「むしろ足手まといになりそうだけどな…。文化の違い的な意味で。」

西園寺「まぁ…小泉おねぇ、結構張り切ってたみたいだしさ。」

西園寺「男子厨房に入るべからずって言葉もあるし、しばらく小泉おねぇ1人にやらせてあげようよ。」

左右田「ここにいるの、半分以上は女子だぞ。」


罪木「それはともかく…料理をすることで、今までのうっぷんを晴らすこともできるかもしれません。」

ソニア「ひいては、九頭龍さんとの関係も好転する可能性もありますね!!」

狛枝「はは。皆は優しいね。じゃ、しばらく待ってみようか。」




―厨房―


小泉「軽食を作るだけだから、ダイナミックにしすぎるのも良くないけど。」

小泉「せめて献立の1つくらいには、相手の気をグッとつかめるような料理を入れたいところね。」


小泉「となると…1番手を加えやすいのは…米料理かな。」

小泉「しかし、どうアレンジすればいいの…?下手に奇をてらっても、それで花村に勝てる気がしないわ。」

小泉「だからやっぱり、ここにいる皆だからこそできるアレンジを…ん?」


小泉「閃いたぁっ!!」

小泉「おあつらえ向きに用意されている、このクックパッドを用いて…」







小泉「出来たぁ!!その名も、皆の似顔絵おにぎり!!」

小泉「ここには無駄にいろんな食材がそろってるから、どんなパ―ツでも再現可能だし。」

小泉「皆個性的なビジュアルをしてるから、個々のおにぎりが単調にならずに、味覚的にも視覚的にも飽きない一品!!」


小泉「花村は間違いなく一流の料理人だけど、こういった家族サ―ビス的なことはあまりしてくれないからね。」

小泉「ふふ…このメインディッシュを見た皆が喜んで、子供みたいにはしゃいでいる姿が目に浮かぶわ。」


小泉「…あれ?なんかこの思考回路、まさか…」

小泉「(かなり幼い)子供に対して、母親が抱く類の…」

小泉「…まさかまさか、そんなわけないよね。」


小泉「どうやら味噌汁も完成したようだし、野菜の盛り付けも完了した。」

小泉「飲み物には、母のホットミルクを…って、誰がおかんよ!!」

小泉「あとはほうれん草のおひたし鰹節あえでも添えて…うん、朝食としては十分ね。」


小泉「むしろ張り切り過ぎたわ。久々に料理してると、つい楽しくなってきちゃって…。」

小泉「皆を少し待たせすぎちゃったかな…。そろそろ食事を運ぼう。」

小泉「ふふ。これでアイツも、アタシのことを見直して…」





小泉「…あれ?なんか1つ、アタシの計画に…とんでもない誤算があるような…。」

小泉「…いやいやまさか。いくらアイツでも、アタシが丹精込めて作った特製おにぎりを無下には…」


『…だから。』

小泉「…」


『ボクって…朝はパン派だから。』

小泉「…あ。」



小泉「あぁああああぁあああああああ!!!!」

小泉「わすれてたぁああああぁあああああああああ!!!!!!」


小泉「しまった…。パン派にご飯を与えるなんて…タケノコの里派にキノコの山を渡すくらいの愚行よ…。」

小泉「このままじゃあアイツに食わず嫌いされて終わるかも…あり得るわ、アイツなら。」

小泉「かといって、1番精力を注いだメインディッシュの米料理を今さら変えるわけにもいかないし…。」

小泉「…」







―レストラン―


左右田「…やけにおせ―な!?もう1時間以上は経ってるぞ!?」

ソニア「そう言ってはいけません、左右田さん。自炊というのは、思いの他時間のかかる物なのですよ。」

罪木「そ、それにしても、遅すぎるような…。」

日向「たかが朝食に、ここまで時間をかける必要なんてないんだけどな。」


狛枝「まぁ小泉さんが料理を楽しんでいるのなら、問題ないんじゃないの?」

西園寺「それにわたしたちは給仕される側なんだからさ―。文句ばっかり言わないでよ左右田おにぃ。」

左右田「西園寺に正論言われるなんて、世も末だな。」

西園寺「どういう意味だ!!」




終里「おう!!オメ―ら、ここに集まって何してんだ?」

ソニア「あら、終里さん。終里さんこそどうしてここに?」

終里「おっさんとのトレ―ニングも一段落ついたからよ。腹減ったから飯食いに来たんだぜ!!」

終里「ちょうど、飯のうまそうな匂いもしてきてるしな!!」


日向「ちょうどいいタイミングで来たな、終里。今まさに、小泉が食事を作っている所なんだ。」

終里「あん?小泉が?花村じゃね―のかよ?」

罪木「はい…。しかも1時間以上もかけて、相当張り切ってるみたいなんです。」

終里「おおっ!!こりゃあ、ごちそうが食えそうだな!!」


左右田「これだけ引っ張っといて不味かったら、気まずくなりそうだな。」

西園寺「何言ってんの、チキン童貞!!小泉おねぇの料理が不味いわけないだろ!!」

西園寺「仮に口に合わなくても、おいしいって言うのが礼儀だろうが!!」

左右田「西園寺に礼儀を説かれるとか…天地がひっくり返るんじゃないか?」

西園寺「アンタ、いつの間にそんなに口が達者になって…!!」





小泉「おまたせ~…。」


狛枝「おや、ついに主役様の登場だ。」

終里「おおっ…!?な、何だよその握り飯は…!?なんかすっげぇワクワクすっぞ!!」

小泉「あ。赤音ちゃんも来たんだ。赤音ちゃん、お目が高いわよ。」

小泉「このおにぎりは、今日のアタシの自信作なのよ。ふふ、せっかくだから赤音ちゃんも食べて行ってね。」


左右田「うぉおおすげぇ…。コレ全部、オレらをモチ―フに作られてんのかよ。」

小泉「はは。皆派手だからさ。作るのに苦労したけど、見ただけで誰かわかるでしょ?」

西園寺「1人に付き2つずつ…合計14つだね!!」

日向「これなら、あれだけ時間がかかったのも納得だな。」


罪木「あ…このおにぎりは私ですかぁ…?こんなに可愛く作ってもらえて、恐縮ですう…。」

ソニア「これが日本伝統の、眼で見て楽しめるキャラ弁という料理なのですね!!」

小泉「ちょっと違うけど…まぁ、味以外にも喜んでもらおうってのは一緒かな。」

終里「飯ってのは、ただ食えばいいってわけでもねぇんだな…。また1つ、学習できたような気がするぜ。」

西園寺「アンタみたいな脳筋でも、学習とかするんだ―。」

終里「そりゃそうだ。小泉の料理からオレは、母性みて―のを受け取ったぜ。」

小泉「何で皆そんなのばっかり!!?」




小泉「しかし参ったわね…。アタシ、7人分の料理しか作ってなかったのよね。」

左右田「まさか終里が飛び入り参加するとは思ってなかったしな。」

西園寺「突然割って入って、貴重な食料をかっさらおうなんてさ。わたしたちを舐めてるんじゃない?」

小泉「そんなこと言わないの。それに、アタシにも考えがあるから。」


日向「考えって…まさか、自分だけご飯を抜くとかか?」

西園寺「お人好しの小泉おねぇならやりかねないけど…。」

ソニア「そんな。せっかく小泉さんに作ってもらったのに、申し訳ないですよ。」


小泉「あはは。そんなことする必要はないの。」

狛枝「え?」

小泉「まぁとにかく、皆におぼんを配るから。ちゃんとテ―ブルについて。」




小泉「はい、日寄子ちゃん。」

西園寺「わぁい!!わたしのおにぎり、すごくかわいいや!!」


小泉「はい、左右田。」

左右田「おう、サンキュ―。ところで、オレの髪の部分の食材って…」

小泉「ハムよ。」

左右田「スゲ―凝ってんな…。1人1人で具材が違うんだからよ。」

小泉「はは、ありがと。おいしく食べてくれると、アタシもうれしいな。」


小泉「はい、ソニアちゃん。」

ソニア「ありがとうございます!!チョウレです!!」

小泉「ちょうれ…?」


小泉「はい、蜜柑ちゃん。」

罪木「わ、私なんかにこんなに優しくしてくれて…この恩は一生忘れません!!」

小泉「はは、そんな大げさな。」


小泉「はい、日向。」

日向「ん…。何か俺のおにぎり、俺というよりは人物Aって感じなんだが。汎用性がありそうな顔のさ。」

小泉「アンタってパンツ被っている以外は基本地味だから。」

日向「個性ってなんだろう!?」


小泉「はい、赤音ちゃん。」

終里「おう!!すんげ―うまそうだな!!オレのおにぎりが、オレの顔じゃないのが気になるけど…。」

小泉「まぁ、赤音ちゃんは飛び入りだから。多少の不備は勘弁して。それに、髪の形は似てるでしょ?」


小泉「で。コレが、アタシの食事。皆、ご飯が行き届いた?」




狛枝「…あれ?ボクのは?」

小泉「ああ…忘れてたわ。アンタのはこれよ。」



ゴトンッ



狛枝「…」

狛枝「なにこれ?」


小泉「アップルパイよ。」

狛枝「いや…見ればわかるけど。なんでボクだけアップルパイ?」

狛枝「他の皆の献立と関連性が一切見当たらないんだけど…。」


小泉「狛枝って朝はパン派なんでしょ?」

小泉「だからアタシ、狛枝には特別なメニュ―を考えてあげたんだ。」

狛枝「いやこれ、朝に食べる量じゃ…パ―ティの時に4・5人くらいで分けて食べるパイ位の分量があるよ?」

小泉「量が多いだけ、アタシの情熱がこもってるのよ。感謝しなさい。」

狛枝「はぁ…。」


左右田「…狛枝の奴、小泉に何したんだ?」

日向「わかんねぇ。とにかく狛枝、小泉に謝った方がいいんじゃないか?」

狛枝「いや、心当たりが全然ないんだけど…」

西園寺「むしろお前には心当たりしかね―だろ!!」




終里「あ、狛枝ばっかりズリィぞ!!オレにも少しよこせよ、そのパンを!!」

狛枝「あ、うん。少しどころか、5分の4くらいは軽く持って行って…」


小泉「ダメよ赤音ちゃん。アレは、アタシが狛枝に食べてほしくて作ったんだから。」

小泉「それも、他の皆の料理を作った時間と同等の時間をかけてね。」

左右田「やけに料理が遅いと思ってたら、ほとんどアップルパイのせいかよ!!」


小泉「だから赤音ちゃん。アタシの気持ちも汲んで…ね?」

終里「ちっ…。仕方ねぇな。そのパンは、狛枝に譲ってやるよ。」


狛枝「…コレ、なんていう罰ゲ―ム?」

罪木「な、なんて手の込んだ嫌がらせなんですか…!!?」

ソニア「西園寺さん以上に悪質です!!」

西園寺「比較の対象に、勝手にわたしを使わないでよ!!」

日向「まぁ…とにかく。いただきます。」




―食事タイム―


ソニア「あの…罪木さん?」

罪木「は、はい!!何でしょう!?」

ソニア「よろしければ、おにぎりを1つわたくしのと交換しませんか?」

罪木「はい!!喜んでぇ!!」


日向「交換だって…?なんか、面白いことしてるな。」

左右田「ああ。ココにはいろんな種類のおにぎりがあるからな。」

左右田「いろんな物を交換材料にして、全種コンプリ―トしたり…。」

日向「いやさすがに、1人でそれは無理だろ。」

左右田「なら、2人で…。」

日向「…やってみる価値はあるな。」


西園寺「ああああ!!わたしのおにぎりが1つ無い!!」

終里「あ、ワリィ。オレが間違って1つ食っちまった。」

西園寺「絶対わざとなうえに反省もせずに開き直ってんだろお前!!1つ返せよ!!」

終里「この狛枝の顔のが欲しいのか?物好きだなお前。」

西園寺「やっぱりいらない!!」


小泉「ふふ。楽しそうね、皆。やっぱり、あのおにぎりがうけたのかな?」


小泉(…なんか本当に、自分の{5歳くらいの}子供にご飯作ってあげた時みたいな雰囲気ね。)

小泉(アタシもいつかは、母親に…?いやそれ以前に、お嫁さんに…?)

小泉(…いやいや。変なこと考えてないよ、アタシ。やましいことなんて、全然!!)


小泉「じゃあアタシも…。」




小泉「…あ、左右田!!アンタ、箸の持ち方がおかしいよ!!」

左右田「うぇ!?な、何だよ急に!!?」

小泉「何よその変な持ち方…。箸を握ってるようにしか見えないよ?そんなのじゃあ食べ物つかめないでしょ。」

左右田「な、長年この持ち方なのに、今さら変えろってのか!!?」


西園寺「まぁ選ばれし高貴な人間なら、箸の持ち方くらい正しくて当然だけどね―。」

西園寺「左右田おにぃみたいな底辺のダメ人間なら、今のままでもいいんじゃないの?」

小泉「そういうところ、相手にはよく見られてるんだから。今のうちにでも治しておきなさいよ。」


左右田「ちっ…。わかったよおふくろ。」

小泉「誰がおふくろよ!!」

日向「でもその説教は、確かに母親みたいだぞ。」

ソニア「小泉さんは皆のお母さんですからね!!」

小泉「もう、また皆でアタシをからかって…。」

左右田「持ち方直す代わりに、小泉のおにぎり1個くれ!!」

小泉「何よその交換条件…ま、別にいいけど。」


罪木「ふふ、にぎやかでいいですね…。」

日向「ああ。みんな楽しく…。」



日向「…皆?」




狛枝「…」

狛枝「…ゲプッ。」


小泉「あ、狛枝。アンタ、全然食べてないじゃん。せっかくアタシが頑張って作ったのに。」

小泉「アタシのアップルパイ、おいしくなかったの?」

狛枝「いや、そういうわけじゃないけど…量が多すぎて、単調さに飽きちゃったというか…。」

狛枝「それ以上になんかこう、いろいろと疎外感が…。」


小泉「そんな…まさかアンタ、残す気?アタシが狛枝のために、一生懸命作ったのに…?」

西園寺「あ!!狛枝おにぃ、小泉おねぇに何したの!?」

西園寺「小泉おねぇを泣かせたら、一生解呪しないプチプチの呪いをかけるからね!!」

終里「そうだぞ狛枝。食い物を軽んじる奴は、飢え死にしても文句言えね―んだぞ!!」

罪木「そ、そうですね…。それに料理を作るのって、ものすごく手間がかかりますし…。」

ソニア「やっと完成した料理を残されると、やはりガッカリしてしまいますわよね。」


小泉「だから狛枝には、ちゃんと食べてほしいっていうか…。まぁ、強制はできないよ。強制は。」

小泉「でも…気遣いは、ね?」


狛枝「女子たちが結託して、徹底的にボクを陥れようとしている…。」

狛枝「せめてもっとバリエ―ションが欲しいっていうか…。」

小泉「でも、それ以外に食べられる物は残ってないし…。悪いけど、それで我慢して❤」

狛枝「いつまで続くの?この拷問。」

狛枝「いや、この絶望こそが次に来る希望の前兆…。」




終里「あ~全部食っちまった。なんかまだ、物足りねぇな。ちょっと西園寺、オメ―のもくれよ。」

西園寺「誰がこれ以上あげるもんか!!せっかくの小泉おねぇの料理なのに!!」

終里「かて―こと言わずによ。な?」

小泉「コラコラ赤音ちゃん。相手に無理強いしないの。おかわりならあるから。」

終里「おっ、マジか!!じゃあおかわり!!」


狛枝「ちょっと待った!!なんで終里さんがおかわりできるのに、ボクはアップルパイしか食べられないの!!?」

小泉「細かい男ね。これだから男って嫌いなのよ。」

狛枝「細かくないよ!!」

小泉「もう。わざわざ1人だけ別メニュ―にした女の子の意図…なんでわかってくれないのかな。」


狛枝「…ボク、嫌われてる?」

左右田「今までの所業を考えれば当然だがな。」

日向「ツンデレとか、照れ隠しだと思え。そうじゃないと正気を保てないぞ。」


狛枝「そうだね。この程度の絶望じゃ、ボクの希望を打ち破ることは出来な…グッ」

罪木「ひゃああああ!!?狛枝さんの顔色が真っ青ですよぉ!!!?」

ソニア「まさかまた、入院する人が増えてしまうのですか!!?」

モノクマ「お!!ようやく殺し合いがスタ―トしたのかな!?」

西園寺「ややこしくなるから出てくんなよクソタヌキ!!」


小泉(…もしかしてアタシ、とんでもない空回りをしてる?)

小泉(…気のせいだよね★)




今日はここまで。




朝食を終えたアタシ達は、その後解散した。

なるべく単独行動は避けるようにと、皆に注意を喚起しながら。

ロケットパンチマ―ケットに胃腸薬を取りに行った狛枝以外は多分、誰かと行動を共にしているだろう。


…なんで狛枝はお腹壊したのかな。体調でも悪かったの?(すっとぼけ)

日寄子ちゃんと一緒に砂浜に来たアタシは、昨日と同様日本舞踊をたしなんでいたのだった。



―砂浜―


小泉「ど、どうだった?アタシの踊り。」

西園寺「いい感じだよ、小泉おねぇ!!昨日よりも断然美しく踊れてるよ!!」

小泉「そ、そう…?」

西園寺「すごいね小泉おねぇ。とても、昨日始めたばかりとは思えないよ―。」

西園寺「人よりも呑み込みが早いのか、元々舞踊の才能があったのかもしれないね。」

小泉「はは…ありがとう。」




西園寺「これなら…小泉おねぇの踊りを、皆に見せても大丈夫かもしれないね。」

小泉「え?皆に見せるって…さすがにそれは、恥ずかしいよ。」

西園寺「なんで―?だって、人に見せるための踊りなんだよ―?」

小泉「そ、そうは言っても…所詮ただの気分転換だし…。」


西園寺「甘いよ、小泉おねぇ!!」

小泉「えっ!?」


西園寺「ただの気分転換…?小泉おねぇ、まさかそんな軽い気持ちで日本舞踊の世界に足を踏み入れてるの?」

西園寺「そんなの、日本舞踊に対する冒涜だと思わないの?」

小泉「そ、それは確かにそうかもしれないけど…」

西園寺「じゃあ決まりだね。今日にでも、小泉おねぇの踊りを皆に見てもらおうよ!!」

西園寺「わたしと小泉おねぇの2人で、一緒に舞台に立ってみよう!!」

小泉「な、なんか無理やりこじつけてるような気がするんだけど…。」




西園寺「気のせいだよ!!それに実は、小泉おねぇ用の着物も既に用意してるし。」

小泉「え?」


西園寺「ホラ、これ!!」

小泉「あ…ちょっと、かわいいかも…。」

西園寺「どう?着てみたいとは思わない?」

小泉「う…いやいや。騙されないよ、そんなので。着物を着るのと皆に踊りを披露するのは話が別よ!!」

西園寺「ふ~ん。小泉おねぇ、これを着たくないんだ。」

小泉「いや、着たくないとは…」




西園寺「残念だなぁ。これってチャンスなのに。」

西園寺「女が着物を着るとね。いつもと雰囲気の違う自分を男に見せることが出来るの。」

小泉「な、なんの話?」

西園寺「小泉おねぇの着物姿を見せつければ、今度こそはアイツのハ―トをつかめるかもしれないね―!!」

小泉「だ、だから日寄子ちゃんは、なんの話をしてるのよ!!そもそもアイツって誰よ!!」


西園寺「バレバレなのに、今さらすっとぼけてどうすんのさ。」

西園寺「他のアホ達はなぜか気づいてないけど、小泉おねぇは狛枝おにぃが」

小泉「ち、違う違う違う!!全然、そんなのじゃないから!!!!」

小泉「ア、アアアアタシは別に、アイツの事なんて何とも思ってないし!!!!」

小泉「どちらかと言えば、大嫌いの部類よ!!ホスティリティの特別天然記念物よ!!!!」

西園寺「うわ…。本当にお気に入りなんだね。アイツの本性を知ってるにも関わらず、なんで幻滅しないのかな?」


西園寺「しかも小泉おねぇはアイツに監禁までされたのに。小泉おねぇって実はMなの?」

小泉「もしかしてそうなのかな…じゃなくて!!日寄子ちゃんは絶対に勘違いしてるよ!!」

小泉「アタシは、あんな希望厨…す、す、す、好き、なんかじゃ…」

西園寺「反応が典型的なツンデレなんだって。本当に嫌いなら九頭龍みたいに扱うはずなの。」


小泉「ううっ…。ひ、日寄子ちゃん。この件はどうか、皆には内緒に…」

西園寺「っていうか、秘密にできると思ってる小泉おねぇが不思議だよ!!」

西園寺「朝食の時だって、1人だけ露骨に別メニュ―を用意したりしてたのに!!」

小泉「ア、アレはアイツが、朝はパンがいいって言うから…」

西園寺「それが言い訳になると思ってるの!?アイツへの思い入れが強いことを、逆に露呈させてんじゃん!!」

小泉「うわ~ん!!今のナシ!!聞かなかったことにして!!」


西園寺「もう。体張って積極的にアプロ―チし続けているくせに、今更何を恥らう必要があるの?」

西園寺「大胆なのか臆病なのか、ハッキリしろよ!!」




西園寺「というわけで、やっぱり小泉おねぇはこの着物を着るべき。」

西園寺「そもそも日本舞踊は、着物を着た状態で踊るようにできてるんだから。」

西園寺「皆に踊りを見てもらう時も、当然着物だよ。だから、今のうちに慣れとかないと。」

小泉「な、なんかいつの間にか、皆に披露することが前提になってる…。」


小泉「しかも男を誘う為に舞踊を披露するって…。それこそ、日本舞踊に対する冒涜なんじゃないの?」

西園寺「大丈夫!!日本舞踊の神様は、その程度で怒ったりなんてしないから!!」

西園寺「アイツ、こっちの都合いい感じに心が広いんだよ―!!」

小泉「もう、何でもアリね…。」


西園寺「朝食ではアピ―ルに失敗したみたいだけど。今度こそは成功させたいね―!!」

小泉「うう…。やっぱりアレ、失敗だったんだ…。」

西園寺「むしろ成功のせの字も見えないよ。」




西園寺「あと…本格的な舞踊のために、もう1つ重要な物を調達しないといけないんだ―。」

小泉「え?どこで何を?」


西園寺「ロケットパンチマ―ケットに、かんざしを。」

小泉「かんざし?かんざしってあの、髪飾りみたいなやつ?」

西園寺「うん。わたしはもう着けてるけど、小泉おねぇはまだ着けてないでしょ?」

小泉(日寄子ちゃんが着けてるのって…。まさかあの、殺人ツインテ―ルを留めている猫のヘアゴムのこと?)

小泉(あれ…かんざしって言うの?)


小泉「まぁ…着物を着るのなら、やっぱりかんざしも着けてみたいわね。」

小泉「アタシだって、その…か、かわいく、なりたいし。」


西園寺「そう。じゃ、小泉おねぇはロケットパンチマ―ケットに行って来て。」

小泉「え…?日寄子ちゃんは、ついてきてくれないの?」

西園寺「わたしは他にも、やらないといけないことがあるの。ホラ、いろいろと下準備をね。」

小泉「そっか…。なら、仕方ないね。じゃ、また後でね。日寄子ちゃん。」

西園寺「うん。バイバ~イ!!!!」






西園寺「…」

西園寺「さて、と。」




―ロケットパンチマ―ケット―


小泉「ついうっかり、単独行動をとっちゃってるわね。アタシ。」

小泉「まぁアタシは絶望病にかかっても大丈夫だし、日寄子ちゃんは他の人と合流するみたいだから良しとしよう。」


小泉「えっと。かんざし、かんざし…。」

小泉「…あっ。かんざしのコ―ナ―がある。しかしこのロケットパンチマ―ケット、本当に何でもそろってるわね。」

小泉「う~ん。どれがいいんだろう?水着の時もそうだったけど…いざ選ぶとなると、判断に困っちゃう。」

小泉「あんまり難しく考えすぎるのも良くないけど…や、やっぱりアイツに、気に入ってほしいし。」


小泉「アイツに判断基準があるとしたら…なんだろう。希望と絶望?」

小泉「かんざしにおいて、何をもって希望となすのか…良くわからないけど。」

小泉「まぁ、第六感がアタシに訴えかけるままに考えてみよう。」




小泉「プラスチックでできているこのかんざしはどうかな?花の装飾が割と希望って感じ?」

小泉「でもアイツなら、生温い希望だけで構成されている物を良しとはしないわ。」

小泉「さらなる希望の為に、絶望が必要だと提唱する位だし。」


小泉「しかしこっちの真鍮製のは、挿す部分があまりにも絶望絶望しすぎてる。」

小泉「希望を見出す前にバッドエンドを迎えてしまいそうね。」


小泉「そして木製のコレは、希望と絶望が7:3で螺旋状にブレンドされてる印象よね。」

小泉「希望と絶望のバランスが絶妙で、飴細工のようにきめ細やかなワビサビを感じるさせてくれるわ!!」

小泉「絶望の中から希望を見出したいのなら、これにすべきか。」

小泉「ふふ…こうして希望を手にしたアタシを、称賛する声が聞こえるわ。」


小泉『う、美しいよ、着物姿の小泉さん。』←裏声

小泉『そして何より…うなじからかんざしに収束している、妖艶なライン。何とも言えない風情があるね!!』←裏声

小泉『ボクは気付いたよ!!小泉さんこそ、ボクの希望』←裏声





狛枝「さっきから何を1人でつぶやいてるの?」

小泉「ひゃあああぁああああんっ!!!?」


狛枝「変な悲鳴をあげないでよ。誰かが勘違いしたら、ボクが社会的に死ぬから。」

小泉「ア、アアアアンタ、なんでここに居るのよ!!?」

狛枝「居ちゃ悪いの?」

小泉「わ、悪くはないけど…いきなり出て来るとか、反則よぉ!!!!」

狛枝「何のル―ルにおける反則なの?」


小泉「そ、その…アンタ、どこまで聞いた?」

狛枝「何を?」

小泉「だ、だから…アタシの、独り言よ。」

狛枝「いや、内容は良く聞きとれなかったよ。そもそも聞き耳を立ててたわけじゃないし。」

小泉「はぁ…良かった。」


狛枝「しかし小泉さん、意外とハスキ―ボイスなんだね。男の人みたいな声だったよ、今の。」

小泉「まぁ、中の人がそうだし。」

狛枝「え?なんだって?(難聴)」

小泉(っていうかそもそも狛枝だって女みたいな声でしょうが。中身おばさんなんじゃないの?)




小泉「あ、そうだ。狛枝、このかんざしに関してどう思う?」

狛枝「かんざし?」

小泉「うん…。その、アタシもいつか、こんなの着けてみたいなって思ってね。」


狛枝「でも小泉さん。そんなに髪が短いのに、かんざしなんて着けられるの?」

小泉「ショ―トヘアにはショ―トヘアなりの着け方があるの。で、どう?率直な感想を聞かせてよ。」

狛枝「いいんじゃないの?可愛らしくて。」

小泉「何よその、適当な感じの返答は。せっかくアタシが、希望と絶望を程よく秘めたかんざしを選んだのに。」

狛枝「希望と絶望…?かんざしに希望とか絶望なんてあるの?」

狛枝「かんざしを選ぶ基準は希望とかじゃなくて、小泉さんに似合っているかどうかでしょ?」

小泉「狛枝に正論を吐かれちゃった!!」




小泉「じゃあ…狛枝なら、どのかんざしがアタシに似合うと思う?」

狛枝「ボクが選ぶの?ん~だとしたら…」

狛枝「コレじゃない?」

小泉「…なんか、地味なのを選んだわね。何?アタシ自身が地味だって言いたいの?」


狛枝「小泉さんには、シンプルな装飾こそ似合うと思うんだよね。」

狛枝「必要以上に飾らない…ありのままの小泉さんこそ追求のしがいがあるんじゃないのかな?」

狛枝「だって小泉さんは、そのままで十分魅力的だものね。」

小泉「え、えええぇええっ…!!?ア、アンタ、いつの間にそんなおべっかがうまくなって…!?」


狛枝「あはは…バレた?」

小泉「ってお世辞だったの!!?」




今日はここまで。




狛枝「まぁボクのゴミみたいなアドバイス、わざわざ考慮に入れる必要なんてないって。」

狛枝「小泉さんの晴れ姿なんて…蛆虫と同格なボクには、見る権利もないかもしれないからさ。」

狛枝「小泉さんからは特に、ボクは嫌われてるみたいだからね。」

狛枝「ボクは陰ながら、小泉さんの希望を応援してるよ。」

小泉(…やっぱり朝の件、失敗してるじゃないのよぉおお…。)





狛枝「と言っても、今の小泉さんが…本当に希望の象徴と呼べるのかは、謎なんだけどさ。」


小泉「…え?どういうこと?」

狛枝「へぇ。小泉さん、心当たりがないの?」

小泉「…もしかして、九頭龍との件の事?アレはアレでいいのよ。ああいう結末にするのが、1番…」


狛枝「そんな問題じゃないんだよ。九頭龍クンとか、そんなのは関係ない。」

狛枝「もっと別の所で小泉さんは…希望を体現するにはふさわしくない状態にいるんだよ。」

小泉「え?」


狛枝「やっぱり、気付いてなかったんだね。自分が変わってしまっていることに。」

狛枝「それも、つい最近の話だよ。」

小泉「なに、わけのわからないことを言ってんのよ。そうやってまた、アタシをおちょくってるの?」

狛枝「ふぅん…。今の小泉さんには、ボクの発言が戯言に聞こえるんだね。」


狛枝「でももしかしたら…ボク以外の人にも、同じ事を言われたことがあるんじゃないの?」

狛枝「だって、ボクみたいな凡人ですら察知できたことなんだからさ。」

小泉「はいはい。そんな意味不明なことを言うのは、世界のどこを探してもアンタだけ…。」



小泉「…あれ?」




―ライブハウス―


ジャ―ン!!

澪田『突然ですが…ザ・エンジェルミ―トのリハ―サルに付き合ってもらうっすよ。』


左右田「エンジェルミ―トって…バンド名か?」

花村「何か…死後の世界で天使と戦ってそうな名前だね。」


罪木「でも、リハ―サルって…?」

日向「多分澪田の目的は、音楽を通して小泉と九頭龍の仲を良くすることだ。」

ソニア「だから2人にライブを披露する前に、わたくしたちの感想を聞きたいわけですね。」


田中「そうか…ならば、楽しませてみるがいい。退屈な人間界に辟易している俺様を、喚起させてみろ。」

左右田「どこまでも上から目線な奴だよな、お前…。」

花村「っていうか、嫌な予感しかしないのは気のせいなのかな…。」

終里「気のせいじゃねぇかもな。オレの勘もそう言ってるぜ。」




澪田『じゃあ、自己紹介から始めよっか。まずはこのわたし。』

澪田『ザ・エンジェルミ―トのリ―ダ―的存在になりたい、ボ―カル兼ギタ―の澪田唯吹だよ!!』

田中「ただの願望…だと!!?」


澪田『趣味はひよこの雌雄選別。得意料理は肉じゃがなんだ!!』

弐大「…ん?なんか今、おかしなことを言わんかったか?」

終里「気のせいだろ。」



澪田『そしてこっちにいる肉の塊が…』

豚神『ドラム兼試食係の豚神だ。』

日向「試食係ってなんだよ!!?」

ソニア「あ。豚神さんの持っているドラムスティックに、肉が刺さっております。」

弐大「なるほどのう。ドラムを叩く合間に、お肉を咀嚼する…って、バカァ!!!!」


豚神『演奏中に食事をしても良いことを条件に、愚民どもの下らん児戯に付き合ってやることを承認したんだ。』

豚神『ありがたく思えよ貴様ら。俺の素晴らしい技術を直に見られるのだからな。』

ソニア「素晴らしい技術とは、(演奏中に)お肉を食べる的な意味での話なのでしょうか。」

弐大「ドラムを叩くたびに、肉汁が飛び散りそうじゃのう。」

花村「食べ物をそんな風に扱うなんて、ナンセンス!!」

豚神『何を言っている。コレは肉愛の為せる業だ。決して食に対する冒涜などではない。』

終里「肉愛って…なんか嫌な感じの響きだな!!」

左右田「ぶっとびすぎだろ、おい…。」



澪田『で。最後の1人は、ザ・エンジェルミ―トのエンジェル的な存在。』

七海『トライアングルの七海千秋で―す。』

花村「トライアングル…。」

罪木「ドラムと役割が被ってませんか?」

日向「そういう問題か?」



澪田『くぴぃいいいいい!!!!これこそ、一体感って感じっすね!!!!』

澪田『今の唯吹、グル―ヴがサイコ―に乗っかってるのを肌で感じるっすよ!!!!』

左右田「ホントかよ!!?」

田中「正気か貴様!!?」


澪田『このテンションを維持したまま、早速行ってみるっすよ!!』

澪田『まずは1曲目!!キミにも届け!!』





澪田『ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!』

七海『…』チリンチリン


花村「な、なんか変な儀式が始まった!!?」

田中「愚か者めが!!よせ!!何の力も持たない人間が不用意に闇の儀式などを執り行えば…!!」



豚神『…』モフモフ

日向「豚神も肉食ってないで、真面目に演奏しろよ!!」

豚神『何を言っている!!俺はいつも真剣だ!!今だって真剣に肉を食っているんだから、グダグダ言うな!!!』

左右田「アイツ、何がしたいんだ?」

七海『…』チリンチリン



終里「豚神!!テメェ1人だけ肉を食うなんてズリ―ぞ!!オレにも寄こしやがれぇ!!!!」

ソニア「ああっ!!最高潮に盛り上がってしまったライブで、ついにステ―ジへの乱入者が現れてしまいましたわ!!!」

罪木「盛り上がってるんですかコレェ!!?」

七海『…』チリンチリン




澪田『そしてフィナ―レ!!!!』


ジャ―ン!!!!


澪田『決まったっす!!どうだったっすか、唯吹達の演奏!!!!』

澪田『3人が一体となって、最っ高にけいおんできてたっすかぁ!!!!?』

弐大「もはや演奏すらしてなかった奴までいたがのう。」

七海『…』チリンチリン

日向「七海。もう、演奏終わってんぞ。」

七海『…え?そうなの?』



澪田『これなら…真昼ちゃんや冬彦ちゃんの心に、響くかなぁ…!!?』


罪木「…」

花村「…えっと。」

左右田「正直言って、コレじゃあ…」





「ああ…響いたぜ。」


田中「ん?」

九頭龍「少なくとも…オレにはな。」

辺古山「モフモフ」

日向「九頭龍…。」


九頭龍「ありがとな。オレのために、あれこれ考えてくれてよ。」

澪田『ちょ、主役が来るのはちょっと早いっすよ!!唯吹のライブはまだまだ試作段階なのに!!』

澪田『だから冬彦ちゃんには、ライブハウスへの招待状をまだ出してなかったんすよ!!?』


九頭龍「ああ…オレなんかのために、こんな催しをしてくれてうれしいんだけどよ。」

九頭龍「正直な所、ライブはそんなに重要じゃねぇ。」

澪田『えぇ!?』

九頭龍「わりぃな、澪田。けどオレは、こうして人が集まった機会を利用させてもらうぜ。」



左右田「利用するって…なんだよ?まさかまた、オレ達にすり寄ろうってのか?」

ソニア「ちょ、ちょっと左右田さん…。」




九頭龍「…正直に言えば、そうだ。」

田中「何だと?」

弐大「お前さん、ワシらをバカにしとるんかぁ?昨日の今日で、また同じことを…」


日向「待てよ、皆。とりあえず話を聞いてみようぜ。」

日向「1日考える時間があったんだ。九頭龍もきっと、なにかしらの結論を出しているはずだろ。」

七海「何かしらの結論、か。単刀直入に聞くけど、九頭龍くんは小泉さんを赦せそうなの?」

九頭龍「…」


九頭龍「オレもあれからいろいろ考えたけどよ…やっぱ、今は無理だ。」

花村「えぇっ!!?」

九頭龍「小泉が納得できるほどには…オレは、小泉を赦せているとはとても思えねぇ。」

罪木「そんな…じゃあやっぱり九頭龍さんは、小泉さんをまた殺しに行くんですか?」

左右田「ちっ…これ以上、九頭龍の話を聞いても無駄みて―だな。コイツはなにも変わってなんかねぇよ。」




九頭龍「話はこれからだ。」


九頭龍「オレは…妹を殺されて。その原因を作った小泉を、どうしても赦せなかった。」

九頭龍「だからオレは、復讐に走った。妹を殺された復讐で、小泉を殺そうとしたんだ。」

九頭龍「やられたらやり返す。殺されたのなら殺し返す。オレは、そういう世界で生きてるんだよ。」

九頭龍「だからオレは…極道としてのケジメのつけ方を貫いたんだ。」


九頭龍「そしてオレは、今も小泉を恨み続けている。」

九頭龍「妹が殺されて…その原因を作った奴が、まだ生きてここにいるのなら。」

九頭龍「極道のオレは…ソイツを殺すしかねぇんだよ。」


田中「なんと身勝手な…!!」

弐大「ふざけるな!!人の命をなんだと思っとるんじゃあ!!?」

終里「結局、九頭龍は…なんの成長もしてなかったってことかよ!!」

花村「反省の色が、全然見えないもんね…。」

左右田「コイツ、縛っといたほうがいいんじゃねぇか!?放っといたら、本当に小泉が危ねぇぞ!!」




九頭龍「でも…違うんだ。それは、極道であるオレのやり方でしかない。」

九頭龍「アイツは、そうじゃない。小泉は…ただの、一般人。カタギの人間だ。」


九頭龍「オレと小泉は…立場も、価値観も、住む世界も全く異なる人間同士だ。」

九頭龍「オレの世界だけでしか通用しないル―ルを、小泉にまで強いるのは…間違いなんだと思う。」

豚神「…」


九頭龍「だからオレは…今度は、アイツに合わせてみる。」

九頭龍「アイツのル―ルに則って…復讐を成就させてやるんだよ。」




今日はここまで。


また絵を描きました。ツッコミどころはスル―してね。


http://i.imgur.com/ZSuOiRU.png


最近絵を描きたい(下手の横好きってやつ?)。

しかし書くネタが思い浮かばない。

だからもし書いてほしいシ―ンとかのリクエストがあればレスしてください。

1週目のシ―ンとか。





日向「復讐を成就させる…?」

花村「こ、この期に及んで…まだ九頭龍くんは、小泉さんに復讐しようとしてるの!?」

終里「いい加減にしろよ!!テメ―、いつまで小泉を悪者扱いしたら気が済むんだ!?」


弐大「そうじゃのう。小泉が言っとったように、ワシらはトワイライトの件を深くは知らんが…」

弐大「小泉を責められるほどに、九頭龍が潔白だったとは…とても思えんぞ?」

花村「確か九頭龍くんは、小泉さんの友人を殺してるんだったよね…。」

罪木「そ、それに小泉さんは、九頭龍さんの妹さんから嫌がらせを受けていたそうですし…。」

罪木「嫌がらせって、本当に辛いんですよ。火のついたタバコを押し付けられたり、背中を何度も足蹴にされたり…。」

罪木「いつもいじめられていた私からすれば…やっぱり小泉さんに同情しちゃうな、なんて…」

ソニア「そんな九頭龍さんに、本当に復讐なんてする権利があるのか…わたくしには、よくわかりません。」




左右田「復讐なんて、そんな物だろ。正当性なんて考えねぇ、身勝手な行為なんだよ。」

左右田「特にコイツは、血も涙もないヤクザだからな。」

左右田「コイツにとっちゃ…自分の復讐は当たり前で、皆からの支持を受けられるもので。」

左右田「復讐されることに関して小泉が…疑問を持つことすら、異常なんだろうよ。」

左右田「立場は小泉と同じ…いや、むしろ小泉以下のくせしてよ。本当に、何様なんだ。」


田中「それで今度は、我らに復讐の手伝いをしろというのか?随分血迷いごとを抜かすのだな。」

田中「復讐の業火に1度身を焦がしてしまえば、地獄の釜から抜け出すことはかなわなかったのか?」



九頭龍「待てよ!!オレだってこんな方法に、正当性があるなんて思っちゃいねぇよ!!」

九頭龍「そもそも…オレの復讐に、正当性なんてない。そんなの、最初からわかってる。」

澪田「え?だったら、どうして…」


九頭龍「でも…」

九頭龍「これしか、方法がねぇんだよ…!!」

左右田「あぁ?何、わけのわかんねぇこと言ってんだよ。」

左右田「そうやってまた、自分の行為を正当化しようってのか!!?」





七海「待って。」

ソニア「え?」


七海「九頭龍くん…。今の発言、ちょっとおかしいよね?」

花村「おかしいって…?なんの話かな?」


七海「九頭龍くんは今、方法って言ったよね?復讐のことを、方法だって言ったよね?」

日向「それの何がおかしいんだ?」

七海「おかしいよ。九頭龍くんにとって復讐は、今までずっと目的だったのに。」


豚神「そうか…。今の九頭龍は、復讐を手段としている。目的が、何か別の物に変わっているということか。」

澪田「じゃあ、その目的ってのは…?」





七海「小泉さんを赦すこと…なのかな?」

田中「なっ…!?」

九頭龍「…」



終里「んん?復讐が手段で、赦すことが目的…?」

終里「おかしいだろ!!手段と目的が、どう考えても矛盾してるじゃねぇか!!」


豚神「そうか?割と合理的じゃないか。」

豚神「復讐の正当性はともかく…小泉と九頭龍が相容れない理由は、過去の因縁。」

豚神「そしてそれでも、2人が歩み寄らなければならないのなら。」

豚神「過去をあやふやに終わらせるよりは、いっそのこと何らかの形で決着をつけたほうがいい。」



花村「過去に決着をつけるんだとしたら、それこそ復讐なんておかしいんじゃない?」

終里「そうだぜ。オレは頭が弱いから、深くは考えられねぇけどよ。」

終里「オレから言わせてみれば…九頭龍の復讐なんて、ほとんど逆恨みのようなもんだぜ。」

ソニア「そうかもしれませんわね。妹さんの件も、小泉さんは直接関与してるわけではないそうですし。」


田中「明確な非があるのは貴様の方だ。いやがらせの件。友人の殺害の件。殺人未遂の件。」

田中「全面的に九頭龍が小泉に謝罪するのが、ケジメのつけ方じゃないのか?」




左右田「はっ。九頭龍が小泉に謝罪なんてするわけねぇだろ?コイツは、自分の行為を悪いなんて思っちゃいねぇんだからよ。」

左右田「その証拠に…自分の過去から目を背けて、小泉ばっかり一方的に糾弾して。」

左右田「あわよくば、復讐と称して小泉を殺そうとしてたじゃねぇか。」


澪田「それで今も冬彦ちゃんは、懲りずに真昼ちゃんに復讐しようとしてるんだよね…。」

弐大「確かに…自分に非があることを自覚しとる人間の行動とは、とても思えんのう。」

田中「許しを請うどころか…自分の過去に対して何の罪悪感もない、ということか。」

田中「随分なご身分だな。極道の世界では、その身勝手さが常識なのか?」


九頭龍「それを言われちゃあ、弱いけどよ…。」

九頭龍「でも、オレは…!!」



日向「そうだな。確かに九頭龍は1度、道を誤ったかもしれない。」

日向「でもそれは、今までの九頭龍の話だ。今の九頭龍は、そんな自分の行為を顧みてる。」


七海「九頭龍くんのしでかしたことは、確かにとんでもないこと。だけど…まだ、やり直しは効くんだから。」

七海「今だけは、過去の九頭龍くんに囚われないで。九頭龍くんのさらなる可能性を、信じてみようよ。」

田中「…それもそうか。」

左右田「ちっ…。」




罪木「そ、それで…。九頭龍さんは小泉さんに、過去の件を謝罪する気はあるんですか…?」

九頭龍「…」



九頭龍「オレだって…それができるんなら、そうしてぇよ。」

罪木「え?」

九頭龍「でも…アイツはオレに、『許しを請う立場』ではいさせてくれねぇんだよ。」

左右田「ああ?どういう意味だよ。」


九頭龍「アイツは言ってただろ?自分は許す側じゃない。むしろ赦しを請う立場だって。」

澪田「そういやあ…そんな事を言ってたっすね。」

日向「小泉は正義感の強い人間だからな。」

日向「相手にどれだけ非があろうと、自分の罪がどれだけ些細な物でも…自分の罪に、苦悩してしまうんだろうな。」


九頭龍「そうだ。たとえオレの復讐が、ただの逆恨みだろうと。」

九頭龍「小泉が罪の意識にさいなまれている限り…ずっとオレは、復讐者であり続けてしまう。」

九頭龍「オレの意思とは無関係に、小泉の中でな。」


九頭龍「今のアイツはそれに手いっぱいで、オレの罪を咎めることをしてくれねぇんだよ。」

九頭龍「オレの妹が小泉をいじめていたことも。オレがサトウを殺したことも。オレが小泉を殺そうとしたことも…。」

九頭龍「アイツがオレの罪を糾弾してくれない限り…オレは、小泉に許しを請うことは出来ない。」

九頭龍「オレが土下座や切腹をしても、小泉がオレを許すわけがなかったんだ。」

九頭龍「だってそもそも今のアイツは…『許す側』にはいないんだからよ。」


九頭龍「だから今オレが、小泉に謝罪をするのは…順序がおかしいんだ。」

九頭龍「先に小泉を赦さないと…赦すことが出来ないと…オレは永遠に、許しを請うことが出来ないんだ。」


澪田「だからこそ真昼ちゃんに復讐することで、真昼ちゃんを赦そうってことっすか…?」

罪木「で、でも、なんで復讐なんですか!?小泉さんを赦すのなら、ただ赦すと言えばいいだけじゃないですかぁ!?」





九頭龍「…それじゃあ、ダメなんだ。」


罪木「え…?」

九頭龍「重要なのは、オレが赦すことじゃない。」



九頭龍「小泉が、赦された気になれる事だ。」

九頭龍「小泉を赦す権利を、小泉から認めてもらえるかどうかなんだ。」


田中「赦す権利、か…。確かに小泉も言っていたな。赦すことにも、権利が要ると。」

罪木「それ、分かるような気がしますぅ。私だって、安い言葉だけじゃあ…許された気にはなれません。」

日向「おい、罪木。」

罪木「ふぇ?」

日向「結婚しよう。」

罪木「ふぇえええぇえええええっ!!!?きゅ、急に何を言い出すんですかぁ!!!?」

日向「…って言われないと、罪木は許された気にはなれないらしいからな。」

日向「罪木がそうなら、小泉だってそうなのかもな。」

罪木「あ、ああ…。わかりやすい例を出してたんですね。それ以外の深い理由はないんですね…。」


罪木「…今度日向さんの料理に、アレグラの錠剤を3粒程入れてやります。」

澪田「ん?今蜜柑ちゃん、ボソッとなにか言わなかった?」

罪木「気のせいですよぉ。」


花村「いやいやいやいや、ちょっと待ってよ。」

花村「具体的な証明がないと、赦された気にはなれない…ってのは、なんとなくわかったけど。」

花村「じゃあさ。復讐をすることが、どうして赦す権利を得ることにつながるのさ?」




九頭龍「それしか…方法がねぇからだよ。」

罪木「ほ、方法がないって…?」


九頭龍「厳密に言えば…オレと小泉とのつながりなんて、そこにしかねぇんだ。」

九頭龍「過去の因縁で結ばれた存在同士。復讐する者と、される者。」

九頭龍「オレと小泉の関係は…そこだけが本物だ。」

九頭龍「小泉の中で、オレは…未だに、復讐者でい続けているからだ。」

九頭龍「ずっとそこで…時が、凍りついちまってるからだ。」


九頭龍「だから、オレが…小泉に、赦しの言葉を吐こうが。最高の笑顔で、アイツに歩み寄ろうが。」

九頭龍「小泉にとっちゃあ、何の信ぴょう性もないんだよ。赦された気になんて、なるわけがねぇんだよ。」




九頭龍「オレが小泉に対して抱くべき感情は、最初から1つしかなかったんだ。」

九頭龍「少なくとも…小泉が知っている中での、オレが。」

九頭龍「善とか、悪とか…そんなことは、関係ない。」


九頭龍「妹の死の原因を作った人間に対して抱く、負の感情。」

九頭龍「恨み。蔑み。憤り。」

九頭龍「オレは…小泉が憎い。」


九頭龍「憎い。」

九頭龍「憎い。」

九頭龍「憎い!!!!」


九頭龍「この憎しみだけが、唯一無二の真実だ!!!!」

九頭龍「そしてその真実こそが小泉にとって最も説得力があって、1番得心のいくケジメの方法なんだよ!!!!」


九頭龍「だから…この憎しみを、小泉にぶつけない限り。」

九頭龍「オレは、本当の意味で…小泉を赦すことは、できねぇんだ。」


澪田「な、なんすか、その理論は…!!?」

花村「自分の過去や殺人未遂を反省するどころか、自分の復讐を公然と正当化しようっていうの!!?」

終里「あまりにも、勝手すぎるだろ!!?」

弐大「ふざけるんじゃないわい!!!!お前さんは、小泉のことを何だと思っとるんじゃあ!!!?」

左右田「こ、こんな奴の言う事、これ以上聞くことなんてねぇよ!!とっととシメちまった方が良いって!!」

ソニア「た、確かにちょっと、自己中心的過ぎると言いますか…。」





日向「違うだろ。」


ソニア「え?」

日向「俺は…今の九頭龍の発言を、自己中心的とは思わない。」


日向「いやむしろ…初めてなのかもしれない。」

澪田「は、初めてって、何がっすか?」



日向「九頭龍は、初めて…小泉のことを、考えたんだ。」

日向「初めて、小泉と…真正面から、向き合おうとしていたんだ。」

弐大「んん…?つまり、どういう事じゃあ?」




日向「さっきの九頭龍の発言はな。小泉の思考を考慮したものなんだ。」

ソニア「小泉さんの思考を考慮…?一体何のことです?」


豚神「小泉が九頭龍に対して抱いている人物像の件だろう。」

豚神「周りがどう思っていようが、小泉は九頭龍のことを復讐者としてしか見ていない。」


田中「ならば小泉の思考に準じ、復讐者として再び身を黒に染めよう…。そういう事か?」

罪木「あえて復讐者として、汚れ役を演じるってことですかぁ!!?」

九頭龍「演じるも何も…。ついこの前まで、オレはそうだったんだ。」

九頭龍「あの事件以降からオレと関係が一切断絶している小泉は…その時点で、オレへの評価が完結しているんだ。」


ソニア「そんなの…残酷すぎますよ!!」

ソニア「つまり九頭龍さんは、復讐者としてしか小泉さんに接することが出来ないってことじゃないですか!!!!」

ソニア「それって、小泉さんの中では…ありのままの九頭龍さんが、死んでしまっているのと同等ですよ!!?」

九頭龍「仕方ねぇよ。オレは、小泉に…それだけのことをした。」




七海「だから九頭龍くんは、小泉さんのことを考えたうえで…復讐という結論を出したんだよね?」

日向「九頭龍の決意を、どうとらえるかにもよるけど…少なくとも今までよりは、成長しているんじゃないのか?」

左右田「一見筋の通らない復讐も、小泉を思ってのこと…ってことかよ。」

九頭龍「…そうやって、踏ん切りをつけて。小泉が、赦された気になったのなら。」


九頭龍「その後で…謝るよ。今までオレが、小泉に対してしてきたことに関して。」

九頭龍「許してもらえるかは、わかんねぇけどよ…。」




豚神「…そうか。じゃあ1つ聞かせてくれ、九頭龍。」

九頭龍「あ?」


豚神「お前には、覚悟があるのか?」

九頭龍「何のだよ。」



豚神「小泉に殺される覚悟だ。」

日向「なっ…!?」

澪田「ちょ、白夜ちゃん!!なんでそんなみょうちくりんな質問をするんすか!!!」

澪田「おかしいのは白夜ちゃんの体型だけで十分っすよ!!」


豚神「奇しくも九頭龍自身が言ったことだ。小泉は自分の罪にさいなまれているからこそ、九頭龍の過去を責めない。」

豚神「しかし条件としては、小泉は九頭龍と同じような状況だ。」

ソニア「九頭龍さんが妹さんを失っているように、小泉さんは友人を失っているそうですからね。」


豚神「仮にサトウという女が、小泉にとって旧友だったとすれば。」

豚神「小泉が罪から解放された後…もしかしたら今度は、貴様が小泉に復讐されるかもしれんのだ。」

弐大「九頭龍は妹のために、小泉を殺そうとまでしたんじゃからのう。」

花村「だったら小泉さんも、サトウって人のために九頭龍くんを殺そうとするのも…有り得なくはないのかな?」


ソニア「小泉さんは、そんな人間じゃありませんよ!!」

終里「でも…わかんねぇよな。人って、豹変するからよ。オレからすれば、今の小泉だって十分豹変してらぁ。」

ソニア「うっ…。」




豚神「それにこれはあくまで、精神的な問題だ。実際に小泉が復讐に走るかは重要じゃない。」

豚神「問題は…復讐で小泉を殺そうとした九頭龍が、小泉と同じ立場に身を置いた時。」

豚神「自分も小泉と同様に、復讐によって殺される覚悟があるかどうかだ。」

終里「それはまさに、九頭龍が小泉に強要した状況…ってことだよな。」


田中「この質問から、逃げ出すことは許されんぞ。」

田中「人に銃を向ける権利は、銃で撃たれる覚悟がある者だけにしかないからな。」

九頭龍「…」





九頭龍「そんな覚悟は、最初からあった。」

左右田「あぁ?」


九頭龍「オレは最初っから、小泉を殺す時は…オレもろともだって決めてたんだ。」

九頭龍「それが、復讐って奴だからだ。」

九頭龍「妹の為なら、命だって投げ出す覚悟でいた。」

九頭龍「だから、オレは…小泉に殺される覚悟くらい、ハナっから決めていたつもりだ。」

日向「…」


九頭龍「いや…違うな。こう表現すると語弊がある。」

澪田「え?」





九頭龍「むしろオレは…死ぬ覚悟しか、持っていなかったんだ。」

七海「“しか”?」


九頭龍「そうさ。寝耳に水だよな。その覚悟は山よりもデケェもんだと、オレは勘違いしてたのによ。」

九頭龍「なんとびっくり、小泉にとっちゃあそんな覚悟…屁みてぇなもんだったんだ。」

ソニア「確かに…九頭龍さんが切腹をしても、全く動じていなかったようですし。」


九頭龍「考えてみりゃあ当たり前だったんだ。オレは極道なんだからよ。死ぬ覚悟なんて最初から、あって当然なんだ。」

九頭龍「そんな安い覚悟、小泉に通用するわけがないじゃねぇか。」


九頭龍「そしてそれを…カタギの小泉にまで強要しちまった。ただの一般人に、死ぬ覚悟なんてあるわけないのによ。」

九頭龍「ちっ…。本当にガキだな、オレは。オレはいつも、オレのものさしでしか物事を計れないんだからよ…。」

九頭龍「だから、オレの死ぬ覚悟なんて…小泉にとっちゃあ、むしろない方がいい。ただの害悪でしかないんだ。」


九頭龍「オレには、もっと別の…屈強な覚悟がいるんだよ。」




今日はここまで。




田中「別の覚悟だと…?なんだ、それは。」



九頭龍「自分の過去と、向き合う…勇気だ。」


弐大「過去と向き合うじゃとぉ?」

左右田「どういう意味だよ、それ。まさか、小泉の過去を糾弾するって意味かよ?」

澪田「いつまでそんなことを、ネチネチ言ってるんすか!?」


九頭龍「違う。過去と向き合うってのは、小泉を陥れることじゃない。」

左右田「じゃあ今までお前が小泉に対してしていたことは、何だったんだよ?過去を、どうしてたんだよ?」

九頭龍「…」




九頭龍「オレが今まで…過去から逃げていたんだ。」

九頭龍「過去を切り捨てるでもなく、向き合うでもなく…フワフワと中途半端に、漂わせていただけなんだ。」


九頭龍「お前らも言ってただろ?オレは、自分の罪を棚に上げて…小泉ばかりを糾弾してた。」

九頭龍「アレは…自分の過去を、認めたくなかったからだ。」

日向「確か九頭龍が小泉を責めていた理由は、トワイライトが嘘だと証明してほしいこと…だったもんな。」


九頭龍「自分の過去を認められないばかりに…過去からずっと、逃げていたばっかりに…」

九頭龍「オレは…自分の罪から目を背けて。トワイライトが真実だと語る小泉を、殺そうとしちまって…。」


九頭龍「そのせいで…小泉に許しを請う機会も。小泉を赦す権利すら、失ってしまった。」




九頭龍「だから、オレは…もう逃げない。」

九頭龍「自分の過去を、あやふやに終わらせない。」


九頭龍「オレは、妹が死んだことを受け入れる。それに小泉が関与したことにも、ケジメをつける。」

九頭龍「その後に、自分の罪も認める。自分の過去も、小泉を殺そうとしたことも…小泉に、許しを請うてみる。」


九頭龍「自分の過去に…小泉の過去に…決着をつける。」

九頭龍「過去に、立ち向かうんだ。小泉との因縁を、清算するんだ。」



弐大「…そうか。過去を切り捨てる事よりも、過酷な道を選ぶ…ということか。」

豚神「そして、小泉が1番望んでいることも…おそらく、それなのだろうな。」

田中「それも1つの覚悟か。」

田中「確かに、『命を賭ける』などという漠然とした生温い覚悟よりかは…よっぽどわかりやすく、勇気の要る覚悟だな。」


終里「九頭龍も、いろいろ考えてんだな。ようやく、九頭龍の覚悟がわかったような気がするぜ。」

弐大「悪かったのう。そうとも知らず、いろいろと悪く言ってしまって。」

九頭龍「かまわねぇさ。そもそもオレが、小泉にしでかした行為は…」

九頭龍「そんな言葉じゃ、全く埋め合わせることのできない程…取り返しのつかねぇ事だからな。」

左右田「…」




罪木「で、でもですね…。九頭龍さんの覚悟はなんとなくわかりましたが。」

罪木「復讐って、具体的にはどうするんですか?」


終里「まさか、小泉を殺す…なんて言わねぇよな。」

九頭龍「さっきも言っただろ?それは、オレ達極道にしか通用しない方法だ。」


ソニア「庶民派の小泉さんには、庶民的なおとしまえのつけ方があるはず…ということですね。」

花村「だからその庶民的なやり方ってのが、何なのさ。九頭龍くんは、その方法を用意してるの?」




九頭龍「…いや。」

澪田「はぁ?」


九頭龍「正直、オレには…思いつかねぇよ。そんな方法。」

左右田「なんだよ、それ。オメ―の言ってること、矛盾してねぇか?」


九頭龍「…仕方、ないじゃねぇか。オレは今までずっと、極道として生きて来たんだ。」

九頭龍「ケンカは相手を殺す気でやる物だと習ったし、実際人が死ぬ所なんていくらでも見て来た。」

九頭龍「オレにとっちゃあ有象無象な相手を、殺さずに復讐しないといけない時が来るなんて…考えたことすらなかったんだ。」

九頭龍「カタギの人間が『ごめんなさい』と言ってきた時の、カタギの人間としての『いいよ』の言い方なんて…」

九頭龍「極道もんのオレには、わかんねぇんだよ。」

ソニア「えぇっ!?いきなり、行き詰まっちゃったじゃないですか!!?」


九頭龍「だから、お前らの知恵を貸してほしいんだよ。」

九頭龍「こういう時は、どうすればいいんだ?どうすれば、オレの言葉はアイツの心に響くんだ…?」


日向「そうか。その方法を教わりたいがために九頭龍は、皆に協力してもらおうと思ったわけだな。」

豚神「皆が集まる、澪田のライブを乗っ取ることによってな。」

澪田「確かに唯吹、良いように利用されてる感じがするっすね―!!」





左右田「…ふざけんじゃねぇよ。」


ソニア「…え?どうしたんですか、左右田さん。」

左右田「オレたちがお前なんかに協力してやるなんて、本気で思ってんのか?」

九頭龍「…」


日向「おいおい、何を言い出すんだよ左右田!?」

左右田「わかんねぇのか?お前ら。九頭龍の本当の意図がよ。」

罪木「そ、それは先ほども言っていたようにですね。小泉さんとの過去と向き合って、小泉さんを赦そうと…」





左右田「そんなのウソだ!!!!」


罪木「ひゃあっ!!!?」

左右田「オレには、九頭龍がそんな事を考えてるとは思えねぇ。」

終里「なんでだよ?」


左右田「九頭龍は長々と話してたけどよ。」

左右田「ひょっとしたらそれは全部、オレ達に取り入るためのデマカセで。」

左右田「実は今も、小泉を殺そうとしてるかもしれないじゃねぇか!!!!」


日向「そ、そんなこと、あるわけないだろ!!?九頭龍は俺達に、覚悟を見せたじゃないか!!!!」

日向「それは九頭龍が悔い改めて、考えを変えたっていう証拠だろ!!!?」





左右田「オレ達は以前もそう思っていて、騙されたじゃないか!!!!」


日向「うっ…!!」

花村「た、確かにそうだよね。ぼく達は昨日、九頭龍くんの意図を読み切れずに…」

花村「善し悪しの判別もつかないまま、九頭龍くんの肩を持っていたんだったね。」

終里「つ―か、狛枝の指摘がなかったら…今もそうだったろうし、さっきの九頭龍の覚悟だって聞けなかったんだよな。」


左右田「そうだ。オレ達は1度、九頭龍に裏切られてんだよ!!!!」

左右田「そんな奴の言う事、簡単に信用できるわけないだろうが!!!!」

九頭龍「…」





九頭龍「すまねぇ。」

左右田「その謝罪の言葉だって、信用ならねぇんだよ。オメ―は、裏切り者のヤクザなんだからよ。」



九頭龍「…ごめんなさい。」

左右田「なんだよ、それ…。極道は詫びる時、土下座して切腹するんじゃなかったのかよ?」


九頭龍「…土下座も切腹も、極道の世界での詫び方だ。一般人に対して使うのは、適切じゃない。」

九頭龍「日本じゃあドルが使えないのと同じだよ。」

九頭龍「その方法で、左右田の同情を誘えたとしても…。それはごまかしてるだけだ。」

九頭龍「だって、それは…小泉には通用しないんだからよ。」


九頭龍「オレはもう、極道としての詫び方は使えないんだ。」

九頭龍「そんなの、自分の価値観を今までずっと小泉に押し付けて来たオレと…何も変わらないからな。」


九頭龍「でもオレは、極道としての詫び方しか知らないから…カタギの人間としての詫び方を、真似てみたんだ。」

九頭龍「ぎこちなくて、心に響かないような謝罪だったかもしれないけどよ…。」


九頭龍「だから…頼む。もう1度だけ、オレを信用してはくれねぇか…?」

左右田「…」




左右田「いっそのこと本当に、土下座とかしてくれりゃあ話は早かったのにな。」

左右田「安心して九頭龍を見捨てることが、出来たのによ。」

左右田「オレだって、分かってるよ。オレの言ってる事の方こそ、根拠のない事だってな。」


左右田「でも、やっぱりオレはもう…裏切られるのは、嫌なんだよ。」

日向「左右田…。」

九頭龍「…」





左右田「だから…これっきりだからな?」

九頭龍「え?」


左右田「最後に、もう1回だけ…オレは、オメ―を信じてみる。」

左右田「お前が小泉との過去に、決着をつけられるように…できるだけ、協力してやるよ。」

左右田「オレがこんな猶予をつけるなんて、最初で最後だからな?」


ソニア「そ、左右田さん…!!!!」

澪田「ははっ…良かった。」

九頭龍「…すまねぇ。恩に着る。」




左右田「想像以上に厳しいぞ。相手を許すってことはな。」

左右田「たとえ自分が許した気になっていても…」

左右田「その思いが伝わらないままに…相手との溝が、永遠に埋まらなくなる事だってあるんだ。」


九頭龍「…やけに、詳しいんだな。」

左右田「…自分の過去と、今のお前に…ちょっとだけ、シンパシ―を感じただけだ。」

九頭龍「そうか。いつか、聞かせてくれよ。その話を。」




今日はここまで。




弐大「策を考えるのなら、なるべく早くしておいた方がいいぞ。」

弐大「時間が経てば経つほど、小泉は自分の殻に閉じこもり…ますます、話を持ちかけ辛くなるじゃろう。」

花村「も、もう手遅れ…なんてことはないよね?」

七海「信じるしかないよ。小泉さんの心に、まだ九頭龍くんが入り込む余地があるって。」


九頭龍「礼を言うぜ。オレなんかのために、皆が協力してくれてよ…。」

終里「かて―こと言うなって。困ったときはお互い様だ。」

澪田「赤音ちゃんが、まさかの姉御肌的発言をしたぁ!!?」




花村「でも…もしぼくたちの協力を得られなかったら、九頭龍くんはどうするつもりだったの?」

九頭龍「そん時は、仕方ないから…自分の無い頭を無理やり回転させて、オレなりの手段を考えるつもりだった。」


九頭龍「実は今も、最善だと思える復讐の方法を頭に描いてはいるんだ。」

田中「ほう…聞いてみたいものだな。極道である貴様が、どこまで庶民のレベルに合わせてやれるのか。」

日向「俺たちができる事は、あくまで相談に乗ることだけ。最終的に頭を使うのは、九頭龍だからな。」


九頭龍「ああ。この方法の是非をお前らに問いたい。一般人である小泉にも、コレが通用するかどうか。」

弐大「聞いてやろうじゃないか。ダメなところは、随時添削してやるわい!!」





九頭龍「まずは小泉をドラム缶に詰めて」


澪田「ダメだこりゃ。」

九頭龍「うぇっ!!!?まだ1行も喋ってねぇぞ!!?」

罪木「1行目からいきなりおかしいんですよぉ!!!!」


九頭龍「ああ、そうだな。暴れられると厄介だから、まずは縛っておかねぇと。」

澪田「冬彦ちゃんは、真昼ちゃんが女の子だってことを忘れてないっすか?」

豚神「恐らく、男でもトラウマ確定な話だと思うぞ。」

左右田「なんつ―か、九頭龍の相談に乗って良かった…ギリギリセ―フってやつだな。」

終里「ああ…九頭龍が近づいただけでチビる小泉が、今度は視界に入るだけでショック死するようになるところだったぜ。」


九頭龍「おいおい。まさかオレの案…70点、ってところなのかよ?」

七海「むしろなんでそんなにあると思ったの?」

弐大「前にマイナスをつければ大体正解じゃのう。」


九頭龍「じゃ、じゃあこれならどうだ?小指を詰め」

豚神「黙れ。」

九頭龍「待て。詰めると言っても足」

豚神「黙れと言っている。」

九頭龍「…の小指だけを残す。」

田中「18本も取るつもりだったのか!!?」

花村「指がなくなったら小泉さん、写真撮れなくなっちゃうんじゃない?」

九頭龍「そうか…そういう事も、考えてやらないといけねぇのか。」

罪木「それ以前の問題なんですけどね。」




左右田「やっぱダメだお前は。1人で突っ走ったらテメ―、間違いなく極道の気質が抜けねぇよ。」

日向「ああ。復讐の方法は、全面的に俺達で考えたほうが得策だな。」

九頭龍「だ、だから言ったじゃねぇか!!オレ1人の知恵じゃあどうしようもねぇってよ!!」

弐大「お前さんのブットビ具合が、規格外なんじゃい!!」

七海「しかもなぜか、ちょっと自信ありげだったし。」


豚神「忘れるな。これはあくまで、小泉を赦すための復讐なんだ。」

七海「トラウマをえぐっちゃあ本末転倒なんだから。もっと小泉さんに対して親身にならないと。」

罪木「それでいて、発生源が九頭龍さんであっても違和感のない方法…ですよね。」


澪田「はいはい!!それなら唯吹に考えがあるっす!!」

豚神「ほう。言ってみろ。」


澪田「やっぱり復讐っていう位だから、真昼ちゃんに何か言うこと聞いてもらうんっすよ!!」

花村「それって…何かいかがわしい命令をしたり?」

日向「ん?今なんでもするって言ったよね?って奴だな。」

終里「そうそう。オレも昔バイトで、変な要求されることがあったけど。その分金も多くもらえるんだよな。」

左右田「そういう重い話はやめろよ!!」


九頭龍「で?具体的にどんな要求をするんだ?」




澪田「そんなの当然、バンドを組んでもらうんすよ!!」

ソニア「ものすごく個人的な要求ですね。九頭龍さんが見事に関係ありません。」


澪田「んでもってペコちゃんも合わせて3人っす!!ザ・エンジェルミ―トの対抗馬になれるっすよ!!」

七海「まだ解散してなかったんだ、ザ・エンジェルミ―ト。」

日向「お前、その一員じゃなかったっけ?」



田中「そういえば、辺古山は今どうしているのだ?」

罪木「え、えっと。九頭龍さんが登場した時に、一言だけ『モフモフ』と言ってたような気がしますけど…。」


終里「辺古山ならずっとそこにいるじゃねぇか。」

田中「何だと?」





辺古山「モッフ♪モッフ♪」

辺古山「モフモフ流星群~★」

九頭龍「…」



弐大「…辺古山は、何をしとるんじゃあ?」

田中「九頭龍の髪の毛の剃りこみの部分を、指でなぞっているな。」


花村「いつから九頭龍くんの後ろにいたの?辺古山さん。」

終里「何言ってんだお前ら。辺古山の奴、九頭龍がライブハウスに来た時からずっとああだったぜ?」

終里「九頭龍の後ろでずっと…九頭龍の髪をワシャワシャしたり、ほっぺたプニプニしたりしてただろ?」

左右田「さっきまでのシリアスシ―ンで、ずっとそんなことしてたのかよ!!?」

ソニア「これがいわゆる、叙述トリックなのですね!!」

花村「いらないよ、こんなトリック…。」




日向「澪田の案はお蔵入りとして、他の案はないか?」

澪田「えぇ!!!?」

ソニア「はい。ではわたくしが…」


田中「貴様はダメだ。」

ソニア「ええ!?なぜですか田中さん!!!?」

田中「貴様からは、九頭龍と同じにおいがするのでな。」


日向「ジャバウォック公園の木に1日間逆さ吊り…なんて言いそうだもんな。」

ソニア「ワォ!!日向さんは優秀な預言者なのですね!!」

日向「あってたのかよ!!!」


田中「俺様は哀しいぞ…。王女という称号に囚われて、庶民としての柔軟な思考をおろそかにするとはな。」

ソニア「そ、そうですね。こんなのじゃあ、普通の女の子とは程遠いですよね…。」

左右田「ソニアさんを責めてんじゃねぇよハム公!!文化が違うから仕方ねぇんだよ!!!!」




日向「でも…九頭龍やソニアのみたいに、極端すぎるのはダメだけど。」

日向「ちょっとした罰を小泉に与えるってのも、悪くないかもな。」

田中「確かにな。九頭龍の性に合っていて、小泉も納得し易いだろう。」

九頭龍「例えば、どんな罰だよ?」


田中「俺様の体験談では、幼少の頃。」

田中「手塩にかけて育てた魔獣たちを、同級生の悪ふざけで殺められた時は…泣いたな。グスッ」

九頭龍「無理に過去の傷を思い起こさなくてもいい!!!!」

日向「そもそも小泉は今、何も飼ってないだろ。小泉にも九頭龍にも関係する話を考えないと。」


罪木「あ…法律なんかでは、賠償金を払ったりしますよ。」

ソニア「両者に価値がある物を譲渡してもらうことも、一種の復讐でしょうか。」


罪木「でも、ココじゃあ貨幣なんてありませんよね…。」

豚神「そうだな。このジャバウォック島では、金では人はつながっていないんだ。」

弐大「モノクマメダルならあるがのう。」

田中「こんなガラクタに、何の価値があるというのだ。」




終里「金もないとなると…相当厄介だな。小泉と九頭龍のどっちも大切に思うものなんてねぇだろ。」

弐大「極道と一般人では、価値観が全く異なるからのう。」


日向「いや…九頭龍にも小泉にも共通する事柄を、思いついたかもしれない。」

九頭龍「なっ…!?ホントかよ!!?」

日向「それを小泉から譲渡してもらえば、いい感じの復讐になるんじゃないか?」

澪田「さすがは原作主人公!!素晴らしいアイディアを思いついたんすね!!」



日向「小泉のパンツを」


九頭龍「少しでも期待したオレが馬鹿だったよ!!パンツハンタ―なんかに!!!!」

日向「なんでダメなんだよ!!?人はパンツの下に平等なんだぞ!!!?」

左右田「そんな、法の下に平等みたいなニュアンスで言わないでほしいぜ。」


日向「ちっ、ダメか。九頭龍を利用して、あわよくば小泉の紐パンをゲットできるかと思ったのに。」

終里「もっと小声で言うもんだろ、それ。」




弐大「やっぱそういう、外的な跡が残るのはよろしくないんじゃないかのう。」

弐大「たとえ一時的に小泉と和解できたとしても、その跡が後々ジワジワと小泉の心を蝕むかもしれん。」

七海「弐大くんが提唱するのは、跡が残らないその場限りの復讐…ってことだね。じゃあ、具体的には?」


弐大「トレ―ニングに付き合ってもらうんじゃあ!!!!」

左右田「やっぱり頭に筋肉が詰まってやがったぜコイツ!!!!」


弐大「何を言っとるんじゃあ。ワシはいつでも全力で頭を使っとるわい。」

弐大「2人が共に汗を流し、それと同時に過去の因縁も清算できる。」

弐大「お前さんらが提案しとった陰湿な方法より、単純明快でスッキリする解決法ぜよ!!」

ソニア「ぜよ!!?」


弐大「そもそも漢なら、拳で語り合うものじゃろうが。」

澪田「真昼ちゃんは女の子だってば!!」




終里「なぐり合って友情を確かめる…。確かに、王道中の王道って感じだよな!!」

九頭龍「ふざけんな!!女を殴れるかよ!!」

左右田「女を殺そうとしてた奴が言うか…?」


終里「ん~。でもそれじゃあ、復讐って感じじゃねぇよな。」

終里「じゃあ小泉は一切手を出さずに、九頭龍だけが一方的に殴って…」

花村「それもう九頭龍くんやソニアさんの案と、なんら遜色ないよね!!?」




豚神「まったく…もっとこう、まともな案はないのか?」


辺古山「モフッ!!」

豚神「ん…。何か案があるのか、辺古山。」


辺古山「モフモフモフモフ…モフッ!!」

辺古山「モフフモフ・モフ-…モフモフ-・モフ-モッフ☆モ-フモ-フ・モフフモフ」

辺古山「モッフモッフでございます。」

豚神「さっぱりわからん。」




花村「そうか…。小泉さんが女子だってことを利用することもできるよね。」

澪田「セクハラで訴えるっすよ。」

花村「早いよ!!せめてもう少し言ってからにしてよ!!」

九頭龍「言わなくていい。テメ―の内容は大体わかるからよ。」


花村「極道の男でありながら、一般人の女の子にも復讐できる方法。」

花村「それはやっぱり、身体に聞くのが1番!!一夜限りでシッポリ行かせてもらうことだね!!」

九頭龍「言わなくていいっつってんだろうが!!!!!」

罪木「妙にリアルで生々しいから、本気でやめてほしいです…。」


花村「いや~。でも今の小泉さんなら、九頭龍くんがちょっと脅せばすぐにヤらせてくれると思うんだよね。」

終里「ヤるって…何をだよ?」

弐大「わからないのならわからないでいいんじゃあ。」

花村「小泉さんって今は恐怖で完全に支配されてるし、簡単に股を」


ザシュッ


花村「アベシッ!!!!」

辺古山「モフモフ」

七海「ありがとう、辺古山さん。」




九頭龍「ド腐れ不健全野郎がっ。オレ達はまだ高校生だろボケが。」

左右田「まぁ女に肉体関係を迫れる程に、九頭龍が大人だとは…とても思えねぇもんな。」

九頭龍「誰が童貞だコラァ!!!!」



ソニア「え?」

終里「え?」

九頭龍「え?」


澪田「なるほど~。冬彦ちゃんは、花も恥じらうさくらんぼボ―イだったんっすね―!!!!」

日向「マジかよ…。それでも極道の頭か?」

花村「ぼくはてっきり辺古山さんで経験済みかと。」

終里「童顔だけじゃ飽き足らず、童貞までこじらせちまったってのかよ。」

ソニア「噂では30まで貞操を保つと、魔法使いになれるのだとか。」

罪木「九頭龍さんはいわゆる、童帝なんですね。」

九頭龍「だまれだまれだまれぇええぇええええ!!!!オレの個人的ステ―タスは今は関係ねぇだろうが!!!」




九頭龍「つ―かさっきから聞いてりゃあお前ら、ロクな案を出してくれないじゃねぇか!!」

澪田「いや~。これでも一応、頑張って考えてるんすけどね。」

日向「俺達は極道よりは一般人っぽいだけで、常識人なわけじゃないからな。」

九頭龍「本編じゃあ常識人だったテメ―が言うなよパンツ野郎がぁああああぁあああ!!!!」


九頭龍「じゃあお前らの中で、1番の常識人って誰なんだよ!!!?」





日向「小泉。」

左右田「小泉かな。」

ソニア「小泉さんですね。」


九頭龍「あれ…詰んでね?」




今日はここまで。




弐大「やはり…第三者であるワシ等じゃあ、考え付く策にも限界があるのう。」

ソニア「困りましたわね。これでは、話が堂々巡りするだけです。」

終里「せめて、小泉のことを良く知ってるような奴が居ね―となぁ…。」


花村「といってもぼくたちは、せいぜい20日やそこらの付き合いだし…」

罪木「私たち…小泉さんのこと、良く知らないんですよね。」

日向「ああ。俺もまだ、小泉のパンツはゲットしてないからな。」

七海「日向くんにとって、基準はパンツしかないの?」



左右田「待てよ。オレらよりも小泉のことを知ってる奴なら、心当たりがあるんじゃねぇか?」

終里「ん?誰だよ。」

豚神「いや…言われなくても、わかってはいるが。」




七海「西園寺さん…。確かに、彼女の力を借りることが出来たら…さらなる打開策が、見つかるかもしれないね。」

澪田「日寄子ちゃんっすか?そういやあ、日寄子ちゃんなら…」


田中「しかし、奴を味方に付けることは困難だ。なにせ奴は、小泉の優秀なサ―バントだからな。」

花村「ぼくたちとは違って、常に小泉さんの味方であり続けているもんね。」

弐大「そんな西園寺が、九頭龍の手助けをしてくれるとは…少し、考え難いかのう。」

九頭龍「…」

澪田「それがっすね、日寄子ちゃんは…」




左右田「じゃあまずは、西園寺から攻略していくか?」

ソニア「え?西園寺さんを攻略?」

終里「おいおい、聞いてたのかよ?西園寺を味方につけるのは難しいって…」


豚神「しかしだ。西園寺すら説得できないのに、小泉を説得できるわけがないだろう。」

田中「…それもそうだな。」

豚神「性格に難のある西園寺だが…少なくとも小泉よりは、交渉に乗ってくれる可能性が高い。」

澪田「何気に毒を吐くっすね白夜ちゃん!!」


七海「西園寺さんを味方に付けてしまえば、小泉さんの懐柔もグッとやりやすくなるはずだよ。」

九頭龍「外堀を埋めていく戦法って感じで、あまりいい気はしねぇが…。この際、手段を選んじゃいられねぇよな。」

弐大「確かに、やってみる価値はありそうじゃなぁ!!」




田中「だが…そもそも西園寺は、今どこに身を潜めている?」

ソニア「そうですね…。まずは、西園寺さんを見つけるところから始めないといけません。」


花村「それに、どうやって西園寺さんを説得するのさ。」

罪木「『小泉さんへの復讐を、手伝ってほしいんですけど』、って…。」

罪木「無理ですよぉ!!そんな事言っちゃったら私…生きる気力を失うまでの罵倒を、西園寺さんから受ける自信がありますぅ!!!!」

日向「確かに、怒られても仕方ない様な内容だよな…。」

左右田「つ―か九頭龍から話を聞いた時、最初はオレ達でさえ九頭龍に悪く言ってたしな。」


終里「あのややこしい説明を西園寺に、分かりやすく説明できるか?」

ソニア「冗長にならないように、簡潔に述べないと…西園寺さんも、途中で聴くのをやめてしまいそうですね。」


花村「いやいや、そもそもさ。仮に事情を全部、正確に伝えることが出来たとして。」

花村「あの西園寺さんが、小泉さんにとって不利になる作戦に乗ると思う?」

弐大「どんな事情があれど、復讐は復讐だからな。」


田中「聞けば聞くほど西園寺生け捕り作戦は、幻想にまみえてしまいそうだな。」

豚神「…ちっ。ならば俺達は、西園寺の手は借りられないということか…?」

九頭龍「まぁ…仕方ねぇよ。手助けしたくねぇ奴に、無理に手伝わせる必要はない。」

九頭龍「あんな毒舌ロリなんかの手、借りなくたって…なんとかしてやらぁ。」




澪田「いや、みんな…ちょっと、聞いてほしいんだけど。」

九頭龍「あん?」



澪田「居るんっすよ。」

ソニア「射る…?ここには弓矢の達人でもいるのですか?」

終里「何か弓矢って聞くと、嫌な気分になるんだけど…なんでだ?」

日向「なんの話をしてるんだ?澪田。」


澪田「だから…居るんっすよ。日寄子ちゃん。」

七海「え?」



澪田「日寄子ちゃん…。ずっと、倉庫でスタンバってたんっすよ。」

九頭龍「はい?」





「澪田おねぇがライブハウスで何か目論んでて、九頭龍ならこの機会を狙ってくるだろうと思ってさ。」

「前もってわたしは、澪田おねぇとコンタクトをとってたってわけ。」


終里「そ、その声は…!!?」

辺古山「西園寺っ!!!?」



田中「ん?」

辺古山「モフ?」




西園寺「なによ…その、腫物を見るような眼はさ。」

西園寺「アンタら全員…1回眼ん玉くりぬいて、死んだ魚の目と交換してみたらどう?」

田中「ほう…。良く気付いたな。何を隠そう俺様の右眼は、異次元の狭間に置いてきて」

西園寺「黙れ。お前の厨二設定を聞いてやる程、わたしはお人好しじゃない。」


豚神「西園寺…?なぜ貴様が、ここにいる?」

西園寺「はぁ?わたしがわざわざ説明しないとわかんないの?」

西園寺「アンタらも蛆虫よりは考える脳があるよね?足りない頭絞って考えてみれば?」


左右田「いちいちトゲのある奴だな…。」

弐大「しかし今は、西園寺のご機嫌を取ってやらんと。」

花村「せっかく西園寺さんが、向こうからやって来たんだもんね。」

日向「飛んで火にいるパンツとはこのことだ。うまい会釈で取り入って、味方に引き込もうぜ。」

西園寺「聞こえてるよ、そこ!!!!」




七海「なるほどね。澪田さんのライブを九頭龍くんが利用すると、予測した西園寺さんは…」

七海「澪田さんと提携して、倉庫に隠れることによって…九頭龍くんの出方を伺ってたんだ。」

澪田「まぁ唯吹は…『倉庫に隠れさせろ』って日寄子ちゃんが言ってきたこと以外は、何も知らなかったんすけどね!!」


田中「出方を伺っていただと?」

西園寺「そうだよ。九頭龍がどれだけ反省出来てんのか。どのくらい小泉おねぇの事を、考えてあげられているのか。」

西園寺「それを見届けていたの。」


九頭龍「念のために聞いておくが、さっきのオレの発言は…」

西園寺「はぁ?アンタの口から出る雑音って、毒舌ロリの耳に入れてもらえるほどに価値のある物だっけ?」

九頭龍「しっかり聞こえてんじゃねぇか!!」




罪木「そ、それで、西園寺さん…。」

西園寺「何だよゲロブタ。わたしに話しかけるなんて、生きる気力を失いたいの?」

罪木「それが、西園寺さんの…小泉さんの、願う事なら。」


西園寺「…何。」

罪木「九頭龍さんの話、聞いてたんですよね?どうでした?」


罪木「小泉さんと1番仲の良い西園寺さんが、客観的に聞いてみて…九頭龍さんは、合格でしたか?」

九頭龍「…」

西園寺「…」



西園寺「念のために聞いておくけど、九頭龍。本気なの?」

九頭龍「…何がだ。」

西園寺「小泉おねぇに、復讐するって話。」

九頭龍「…」




西園寺「わかってんの、アンタ?小泉おねぇがどれだけ、アンタを恐れているか。」

西園寺「そもそも小泉おねぇがあんなに怯えてしまったのは…アンタの復讐って奴のせいなんだよ?」

西園寺「小泉おねぇがアンタを頑なに拒むのも、全部…九頭龍に復讐されるのが怖いから。」


西園寺「それでもアンタは…小泉おねぇに、復讐するっていうの?」

九頭龍「…ああ。西園寺には納得できないかもしれねぇけど…それがオレの、覚悟だ。」

西園寺「…そっか。」


澪田「ひ、日寄子ちゃん。復讐って言っても、殺したりはしないんすよ?」

左右田「そうそう。一見筋の通らない復讐にも、ちゃんと理由があるんだぜ。」

田中「時には相手を赦すための復讐も、存在するのだ。それは、小泉と向き合う勇気を秘めた覚悟で…」





西園寺「漫才しろ。」


九頭龍「…」

九頭龍「は?」

西園寺「漫才しろ…そしたら、合格ってことにしてやる。」


ソニア「漫才…って、なんですか?」

西園寺「え―、知らないの?日本が好きだとのたまう割には、日本の文化に精通してないんだね。」

西園寺「じゃ、勉強不足のダメ外国人のために説明してあげるよ。」


西園寺「漫才ってのは…2人のペアが話の掛け合いをしていく中で、内容の珍妙さや滑稽さによって笑いを提供することだよ。」

七海「定義は知ってるけど…どうして漫才?」

豚神「今までの話の流れと一切関係ないぞ。」


西園寺「ふ~ん、そっか…。皆はわたしの助けが必要ないんだね?じゃ、そういうことで。」

日向「ま、待ってくれ、西園寺!!もう少し、時間をくれよ!!」

左右田「そうそう!!ちょっと皆で、考えをまとめるからよ!!」

西園寺「…」




~作戦会議~


弐大「どういう事じゃあ…?唐突に、漫才をしろなどと。」

罪木「念のために聞きますけど、漫才をするのって…」

終里「九頭龍だよな。」

九頭龍「オ、オレが漫才だと!?んなもん、できるわけねぇだろうが!!」

花村「昨日みたいに『お控えなすって!!』とか言えば、漫才になるんじゃないの?」

九頭龍「オレのあいさつが珍妙で滑稽だったってのか…?良い度胸じゃねぇか。」

花村「攻撃的な九頭龍くんもキャワイイねぇ!!そういう人ほど、布団の中では受けなんだよ!!」

澪田「うぎぎ…超気持ちワリィっす…。」


左右田「もしかしたらオレ達、西園寺に吹っかけられてんのかもしれねぇぞ。」

ソニア「吹っかける?」

弐大「無理難題を九頭龍にぶつけることで、手を貸す気などないと公言するつもりかもしれん…ということか。」

澪田「新入りに一発芸をムチャ振りする、感じ悪いサ―クルみたいなノリだもんね!!」

終里「じゃあ…どうすりゃあいいんだよ?」





西園寺「わたしを懐柔するのは諦めて、自分たちで考えてみれば?」

日向「なっ…!?聞こえてたのか、西園寺?」

西園寺「そりゃあ聞こえるでしょ。ココって何の障壁もないし。」


西園寺「小泉おねぇのために、なりふり構わずなんでもできるくらいの覚悟もない。」

西園寺「そんな奴に、肩入れしてやるいわれはないよ。」

九頭龍「…」

ソニア「なんでもと言われましても…漫才をすることに、何の意味があるのですか?」

西園寺「…」



豚神「…なんにせよ、腹が減ったな。そろそろ話を中断して、飯でも食わんか?」

田中「今すべき事なのか!!?」

豚神「何を言っている。腹が減っては戦は出来ん。栄養をしっかり採らないと、頭が働かんぞ。」

澪田「さっき1人だけ、肉食ってたじゃないっすか!!!!」





左右田「…それだよ!!」

豚神「何?」


左右田「飯だよ、飯!!」

田中「貴様も腹の虫に呼ばれたか?」

ソニア「なんと意地汚い…。場をわきまえてほしいものですね。」

左右田「ソニアさ―ん!!!!なんでオレにだけそんなに厳しいんですかぁ!!?豚神の時はそうでもなかったのに!!」



弐大「左右田よ。飯とはなんだ?飯が今、どう重要になるんじゃあ?」

左右田「いや、九頭龍の復讐ってよ。小泉に飯を作ってもらうとかど―よ!?」

九頭龍「飯を…?」


終里「そういやあ…今日の朝、小泉がうめぇ飯を作ってくれたよな。」

日向「ああ。小泉の料理の腕は、確かなものだ。」

花村「ええ!?ぼくも食べたかったな、小泉さんの愛妻弁当!!」

田中「貴様がいれば、貴様が料理を作っていたのではないか?」


ソニア「小泉さんに料理を作ってもらう…。そうすれば小泉さんは、一仕事こなさなければなりませんし。」

七海「九頭龍くんにとっても得るものがある…。」

弐大「小泉にも九頭龍にもフィットしとる復讐として、なかなかの名案かもしれんわい。」

豚神「フッ。さすがは俺だな。まさかこんなところで、とっさに策を練ることが出来るとは。」

豚神「これが…凡人と、十神の名を引き継ぐ選ばれし存在との差だ。」

左右田「オメ―は『腹減った』しか言ってね―だろ。」




罪木「で、でもですね…。それって結構、程度が低い復讐ですよね?」

罪木「それで九頭龍さんは、納得するんですか?」

終里「何言ってんだ。目的は小泉を赦すことだろ?九頭龍が納得できるかは問題じゃなくね―か?」


豚神「しかし九頭龍でさえ納得できない復讐で、果たして小泉が赦されたと思えるかどうか…」

田中「そうか…。そういう意味では、九頭龍の満足度も1つの指標となるのだな。」

七海「料理をまかなわれた程度で九頭龍くんが満足しないのなら、この案は…」





九頭龍「…かりんとう。」


花村「え?」

九頭龍「好きなんだよ…かりんとう。」

九頭龍「マ―ケットに毎日足を運んで、いろんな種類を探すくらいには…それに関しては目がねぇんだ。」

九頭龍「マ―ケットには、好みのかりんとうが置かれてないから…現状では、あんまり満足してねぇんだけどな。」


九頭龍「だから…オレ好みのヤツを食えりゃあ、恨みの念も吹っ飛ぶかもしれねぇよな。」


弐大「かりんとう、じゃとお?」

澪田「お子ちゃまっすね~冬彦ちゃん!!頭ナデナデしてあげよっか?」

九頭龍「だ、だから言いたくなかったんだよドチクショウ!!!!」


辺古山「モフッ!!」

澪田「ん?どうしたんすかペコちゃん?」

辺古山「モフモフモフモフ!!!!」

終里「何か、怒ってね―か?」


田中「アイツの頭を撫でる権利は、この私だけのものだ!!…とでも言いたげだな。」

ソニア「なんで解読できるんですか田中さん!!?」

左右田「ソニアさんが言っても説得力がないですよ、それ。」




日向「それはともかく…いいんじゃないか?小泉に、かりんとうを作ってもらうって案でよ。」

七海「うん。九頭龍くん好みの復讐でありながら、小泉さんのトラウマをほとんどえぐらない…。」


終里「おお!!なんか、初めてうまくいきそうだな!!ご褒美にパンツくらいなら見せてもいいぜ、左右田!!」

九頭龍「ああ…マジで助かるぜ、左右田。」

左右田「はは…礼を言われるほどの事じゃねぇよ。」

罪木「謙遜しなくてもいいんですよぉ。」

豚神「そうだな。たとえ俺の発言がヒントであってもな。」

澪田「何気に恩を売ろうとしてないっすか白夜ちゃん!!!?」





西園寺「…ダメだね、それじゃあ。」


七海「…え?」

西園寺「多分、それじゃあ…小泉おねぇには、届かないよ。」

九頭龍「なんだと…?」

西園寺「…理由、知りたい?」




今日はこれまで。




花村「ダメって…どうして?」

弐大「やはりちょいとばかし、程度が低すぎたかのう?」

七海「確かに、かりんとうをまかなわせるなんて…復讐って感じじゃないもんね。」


日向「といっても、相手を傷つける事だけが復讐ってわけでもないだろ?」

田中「要は、内なるわだかまりを晴らせればそれで良いのだからな。」

豚神「九頭龍が満足してるところを見れば小泉も、赦された気分になれるのではないか?」


西園寺「まぁ、その発想自体は間違えてないんじゃないのかな?」

西園寺「復讐だからって、小泉おねぇを徒に傷つけるようなこと…わたしがさせるわけないもん。」


西園寺「小泉おねぇに酷いことをしないままに、復讐を完遂させる。」

西園寺「そういうのも、ある意味発想の転換だから…評価できるかもね。」

九頭龍「じゃあ…何がいけねぇってんだ。」


西園寺「アンタらは、思い違いをしてるんだって。」

終里「思い違い?何を間違ってるって?」

西園寺「いや…理解できてないだけなのかも。」


西園寺「事の深刻さをさ。」

弐大「な、何をわけのわからんことを…?」

左右田「もっとわかりやすく言えよ!!」





西園寺「一言でいうと…過酷過ぎ。」


罪木「過酷過ぎ…?過酷って、復讐がですか?ぎゃ、逆じゃないですか?」

花村「そうだよ!!ただ料理するだけなんて、これ以上ないくらいに生温いじゃないか!!」

花村「料理人のぼくとしては、むしろご褒美って感じだよ!?」

ソニア「九頭龍さんも、小泉さんに最大限譲歩してあげていると思いますが…。」


西園寺「だから言ったじゃん。アンタらは理解できてないって。」

田中「何のことだ。」



西園寺「小泉おねぇにとって…九頭龍がどれだけの脅威か、だよ。」

九頭龍「なっ…?」


西園寺「小泉おねぇは、料理に関しては案外凝り性なの。」

終里「今日の朝飯も、すっげぇ手間がかかってたしな。」

罪木「狛枝さんに対しては、特別メニュ―を用意してたくらいですしね。」


西園寺「で、そこに九頭龍の脅威をドッキングさせたうえで。」

西園寺「さっき皆が言ってた復讐を、シミュレ―トしてみると…」


西園寺「こうなる。」




~ダンガン劇場~


―厨房―


小泉「かりんとうを作ったら赦してくれるって…九頭龍が言ってくれた。」

小泉「そう…おいしいかりんとうを、作りさえすれば…アタシは、助かるんだ…!!」


小泉「…」


小泉「ふ、震えるな、アタシの手…。ここで、失敗するわけにはいかないんだから。」

小泉「だ、だってもし、アタシの作ったかりんとうが、アイツの口に合わなかったら…」

小泉「ア、アタシ…な、なにされるか…!!!!」


小泉「ひょ、ひょっとして、ただ殺されるだけじゃ済まないかも。」

小泉「これだけ譲歩してやったのに、命令を聞けないマヌケには、死よりも辛い極上の苦しみを与えてやろうって…!!!!」

小泉「そ、それだけは絶対に嫌!!な、なんとしてでも、機嫌を損ねないようにしないと。」


小泉「い、今までは順調に料理できてるんだから。」

小泉「変な失敗だけはしないように、神経をとがらせよう。もう少しの辛抱だ。」


小泉「髪は頭巾で覆って、間違っても髪の毛が料理に入らないように。」

小泉「つばが入ったり息が吹きかかったりしないように、マスクも厳重に…鼻まで覆って、決してずれないようにしないと。」

小泉「エプロンもおろしたてを用意してる。」


小泉「い、今更だけど、服装はこれで大丈夫かな…?な、何も見落としてないよね?」

小泉「手はちゃんと消毒したし。」





小泉「…手?そういえばアタシ、料理の時に食材を何度も触ったよ?」


小泉「いや…触ってしまった?」

小泉「もしアイツが、アタシの存在自体が汚物だとか言ったら…アタシが食材を触ってる時点でアウト…!!」



小泉「ダ、ダメだ、作り直さないと!!こ、今度はちゃんと、手袋をして…!!」

小泉「いや…手袋をする前に、全身を消毒するべきか?熱湯消毒でもすれば、アイツは認めてくれる…?」


小泉「ああ、待って。今から作り直して、出来上がるまでアイツは待ってくれるの?」

小泉「アイツはそもそも気がすごく短いんだ。作り直す暇なんてアタシに与えてくれるとは到底思えない…!!」

小泉「ど、どうしよう、どうしよう…!?せ、せっかくのチャンスが、一気に地獄の片道切符に…!!!?」


小泉「や、やめて!!!!殺さないで!!!!いじめないで!!!!ぶたないで!!!!もう、赦してぇ!!!!」

小泉「いやぁあああああああああぁあああああああ!!!!!!」




~ダンガン劇場終了~



西園寺「…」

九頭龍「…」


九頭龍「…いや。」

九頭龍「いやいやいやいやいや…。」



九頭龍「盛ってんだろテメ―!!!!」

西園寺「盛ってないよ。」

九頭龍「どう考えても盛ってるだろ―が!!何だ今の!!!?小泉を罪木に変えたほうがしっくりくるじゃね―か!!!!」

罪木「私ってそんなに卑屈に見えますかぁ!!!?」


西園寺「なに言ってんの。あれだけ気の強い小泉おねぇでも…九頭龍に対してだけは、罪木以下だよ。」

西園寺「いや、罪木以上…って表現した方がいいのかな?」

澪田「それこそ、日寄子ちゃんがそう思い込んでるだけなんじゃないっすか?」

田中「それか、我らを錯乱させるための虚実を語っているのか。」




西園寺「まぁ…信じたくなければ、実際にやってみれば?どっちが正しいか、それでハッキリするからさ。」


花村「えっと…どうする?」

豚神「小泉のことを1番知っているのは、やはり西園寺だからな。」

七海「その西園寺さんがここまで言い切るんだから…やっぱり、ダメなのかな…?」

弐大「それじゃあ本当に、どうしようもないじゃないか…。」


西園寺「そうだよ。今九頭龍がやろうとしてることはね。」

西園寺「今にも崩れ落ちそうなボロ刀を、1度も叩くことなく鍛え直そうとしてるようなものなんだ。」

西園寺「少しでも衝撃を与えれば、あっけなく折れてしまう…それが、今の小泉おねぇ。」

ソニア「…」





西園寺「小泉おねぇが、九頭龍との関係をなんと表現してたか…アンタら、知ってる?」

九頭龍「何だと?」


西園寺「小泉おねぇ、自分はアリだ…なんて言うんだよ?」


罪木「アリ…ですか?」

澪田「ど、どんだけ卑屈になってるんすか、真昼ちゃん!!!?」

終里「でも、間違っちゃいねぇかもな。なにせ、極道と一般人だぜ?」

豚神「普通の世界ならな。しかしここは隔離された島で、九頭龍も所詮1人の人間に過ぎないのだぞ?」

田中「“超高校級の剣道家”である辺古山相手になら、ある程度は納得のいく感情なのだがな。」

日向「それにも関わらず、そんな言葉を口に出すなんて…しかも辺古山じゃなくて、九頭龍にだなんて…」

左右田「相当、追い詰められてるよな。病んでる、って表現しても過言じゃねぇぞ。」


西園寺「そんな小泉おねぇに…本当に、復讐できるの?九頭龍。」

九頭龍「…それでも、オレは。」


西園寺「無理無理。アンタにはできないよ。」





西園寺「わたしの助けがない限りはね。」


九頭龍「…なんだと?お前には、何か策があるのか!!?」

弐大「も、もったいぶらずに教えんかい!!」

花村「今ならサ―ビスで、ぼくが一晩限りで夜の相手をしてあげるからさ!!」


西園寺「あれれ?もう忘れたの?」

ソニア「え?」



西園寺「わたしに助けてほしかったら…漫才しろって言ったよね?」

九頭龍「は、はぁ!!?本気だったのかよ、それ!!」

花村「っていうかぼく、完全に無視されたよ!!放置プレイだなんて、なんかいけない性癖に目覚めそう!!!!」




終里「おい、九頭龍…。こりゃあ、腹括るしかないんじゃねぇか?」

九頭龍「いやいや、冗談じゃねぇぞ…。」

ソニア「といっても、それしか方法がないみたいですし…。」

九頭龍「待てよ!!まだ何かあるだろ!!?ただ思いついてないだけで!!!!」

花村「そうだ!!復讐として、小泉さんに下の世話を」

九頭龍「テメ―は一生黙ってろ!!!!」

罪木「九頭龍さんのちょっといいとこ見てみたい~♪」

九頭龍「他人事だと思いやがってぇええええええええぇええええ!!!!!」


九頭龍「そもそも漫才ってのは、2人いないと出来ないだろ!!?相方はどうすんだよ!!!!」

西園寺「いるじゃん。息ピッタリの相方がさ。」


辺古山「モフ?」

田中「辺古山が…?」

九頭龍「いや無理だって!!今のコイツ、もふもふしか喋んね―んだよ!!」


西園寺「四の五の言ってないで、ホラ早く舞台に上がれ!!何のためのライブハウスだと思ってんだ!!」

弐大「ライブハウスは漫才をする場所じゃないような気もするが…。」

九頭龍「っていうか即興かよ!?ネタを考える時間すら与えてもらえね―の!!!?」

澪田「何気に役者魂全開っすね冬彦ちゃん!!BGMは唯吹に任せるっす!!」

田中「何?それはちょっとまず…」




~茶番タイム~


ア゙~    ア゙~       ア゙~       ア゙~

※BGM:君にも届け



九頭龍「いや~。最近めっきり寒くなりましたな~辺古山はん。」

辺古山「モフモフ」

九頭龍「街を歩く人も着こむ姿を良く見せるようになったし、そろそろツリ―が飾られて、もういくつ寝ると…」


九頭龍「ってそこはツッコむところやろ辺古山はん!!外はそろそろ春やって!!」

九頭龍「桜並木を渡る卒業生が量産される時期やろうが!!」

九頭龍「花見やってどんちゃん騒ぎする若者も、春の風物詩や!!」

辺古山「モフモフ」


九頭龍「そんな連中には、カップルもおるんやろうな。風物詩にかこつけて、仲を深めようと目論む人も…」

九頭龍「こんな島に閉じ込められて、花見もできんワイらの仲は…この先どこへ進むんやろうなぁ?」

辺古山「モフモフ」


九頭龍「はい、そこ!!またツッコむところを逃したな!!」

九頭龍「ジャバウォック島は常夏の島なうえに外から完全に隔離されとるから、いま日本がどんな季節かもわからんっての!!」

九頭龍「今が春なのは現実世界だけで、この話では常夏が板についとるって、メタ発言を是正するところやろうが!!」

辺古山「モフモフ」




九頭龍「あ~すいませんねぇ、どうも皆さん。コイツ聞き上手なんですが、話すのはめっぽう苦手なんですわ。」

九頭龍「こちらがグイグイ話しかけると心地よく相槌うってくれるんやけど、自分から話しかけることがなかなかない。」

辺古山「モフモフ」


九頭龍「日本語にはイエスマンという言葉がありますねぇ。とにかく何でも、肯定する人。」

九頭龍「聞こえは良いもんだから、薄っぺら―い人間関係では世渡り上手になれますが。」

九頭龍「こっちは大事な話をしてるのに、イエスイエスしか言わないもんだから、ここぞという所で信用を得られにくい。」

辺古山「モフモフ」


九頭龍「しかしコイツの場合、イエスじゃなくてモフなんですわ。いわゆる、モフマンやね。」

九頭龍「いいですか、モフマンですよ。ドイツの作曲家でも、移民の町でヒントをくれるアイツでもないですぜ。」

九頭龍「自分の発言にイエスと言われたら悪い気はせんけど、モフと言われても反応に困るやね。」

九頭龍「ってか、モフって言われても、何を伝えたいのかさっぱりわかりま千円。」


九頭龍「というわけで、今日は出血大サ―ビス!!」

九頭龍「辺古山はんがモフを通して何をか伝えんと思っとるか、突撃インタビュ―!!」

九頭龍「はい、どうぞ辺古山はん。」


辺古山「モフモフ」

九頭龍「…」


辺古山「モフモフモフモフモフモフモフモフ」

辺古山「モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ」

九頭龍「…」





九頭龍「喋れよ!!」

辺古山「モフッ?」


九頭龍「何だよさっきから!!オレばっか喋ってんじゃねぇか!!!!」

九頭龍「お前、ずっとモフモフしか言ってねぇな!!それでも漫才やってる自覚あんのかコラァ!!!!」

九頭龍「キャラも口調も一人称すら曖昧になってまで、無理に合わせるオレの身にもなってみやがれ!!」

辺古山「モフモフ…」


九頭龍「大体何なんだよ、モフモフって!!それでもキャラ作りのつもりか!!?」

辺古山「モフッ!!?」

九頭龍「何、図星つかれちゃった!!みたいな反応してやがる!!まさか当たっちまったの!!!?」


九頭龍「言っとくが、172cmもある女がモフモフ言っても可愛くね―からな!!?」

辺古山「嘘っ!!?」

九頭龍「喋れんじゃね―か!!!!」

辺古山「あっ、ヤベ…」

九頭龍「『あっ、ヤベ…』じゃねぇえええぇええええええ!!!!!!」


九頭龍「とにかく喋れ!!今すぐ喋れ!!」

辺古山「ちょ、やめて。私のキャラが崩れる。」

九頭龍「モフモフ言ってるのが、キャラがとっくに崩れてる証だろうがぁあああああぁああああああ!!!!!」





西園寺「…」

終里「…」

花村「…」


田中「…酷いな。」

罪木「酷いですね。」


ソニア「これを録画しておいて、小泉さんに見せる…というのも、復讐として成立するのではないでしょうか。」

弐大「レコ―ダ―なんぞ、あったかのう。」


日向「安心しろ。そんなものがなくても…俺達の心の中に、確かにインプットされたはずだぜ。」

左右田「九頭龍の黒歴史が、な…。」




今日はここまで。




澪田「というわけで、約束通り手伝ってもらうっすよ日寄子ちゃん!!」

日向「九頭龍があんな思い(笑)してまで頼んでるんだからな。」

九頭龍「(笑)じゃねぇ!!!」


澪田「ちなみにさっきの漫才は、しっかりと撮影させてもらいましたので。後で焼きまして、皆に配るっすよ!!」

九頭龍「それだけは勘弁してくれぇぇええええぇえ!!!!」

西園寺「…」




西園寺「じゃあ、最後に1つだけ。質問に答えて?」

九頭龍「なんだと?」


西園寺「アンタと小泉おねぇが仲直りして…何のメリットがあるの?」

九頭龍「メリットって…。小泉にとっちゃあ、罪の意識から解放されれば気分の良い物だろ?」

九頭龍「十分なメリットじゃねぇか。」

西園寺「違うよ。小泉おねぇにとってじゃない。」



西園寺「アンタにとって、何の意味があるんだよ。九頭龍。」

九頭龍「何…?」


西園寺「わたしにはわからないんだよ。アンタが小泉おねぇに歩み寄ろうとする理由がね。」

西園寺「アンタにとって、小泉おねぇは…無数に漂う塵の1つに過ぎないんでしょ?」

終里「そ、それって…とんでもなくどうでもいい物ってことかよ?」

ソニア「く、九頭龍さんだって、さすがにそこまで酷くは…」


九頭龍「いや…間違いじゃねぇよ。少なくとも小泉は、オレならそう考えると思ってるだろう。」

九頭龍「何せ…自分をアリだなんて、表現するんだからよ。」

罪木「そ、そんな…」




西園寺「わたしにわからないんだから、小泉おねぇにだってわからないよ。アンタの目的が。」

西園寺「アンタの行動理念が理解できないんじゃあ…小泉おねぇには多分、アンタの声は届かないよ。」


西園寺「まさか…辺古山のためとか、自分の仁義を通すため…。なんて言わないよね?」

西園寺「ちゃんとアンタは…わたしや小泉おねぇが納得できるような目的を、明確に言葉にできる?」

花村「そ、それって…」

終里「まんま、狛枝の発言じゃねぇか。」



西園寺「もしアンタの目的が、小泉おねぇに関与しないところにあるのなら。わたしはアンタを見捨てるよ。」

西園寺「わたしはあくまで、小泉おねぇの味方なんだから。」

九頭龍「…」

日向「お、おい、九頭龍…。答えられるのか?」

左右田「西園寺。そりゃあちょっと、意地の悪い質問じゃ…」





九頭龍「さっきも言っただろ?」

七海「え?」


九頭龍「オレは…かりんとうが好きなんだよ。」

西園寺「…」


九頭龍「もし小泉と和解できたら…いつでもうまいかりんとうを用意してもらえるじゃねぇか。」

九頭龍「それだけで、十分なメリットがオレにあると思わねぇか?」



西園寺「…それが、アンタの覚悟?」

九頭龍「ああ。」

西園寺「そう。わかった。」





西園寺「…確かに、今までの九頭龍とは違うみたいだね。」

罪木「え…?」


西園寺「今までの…独り善がりで、辺古山のことしか考えてなくて、小泉おねぇに全く配慮してなかった奴からは…」

西園寺「少しは、成長してる。」


西園寺「…皆に感謝しろ。アンタが成長できたのは、周りの人間のおかげなんだよ?」

西園寺「空から勝手に降ってくる成長なんて、そんなの成長とは言えないんだから。」

九頭龍「ああ…。感謝しても、しきれねぇくらいだよ。」


花村「な、なんか、2人だけの世界を創ってない?ぼく、すっかり置いてきぼりなんだけど。」

豚神「安心しろ。恐らく…なんとかなった。」

弐大「何じゃと?」




豚神「…九頭龍1人だけでは恐らく、西園寺の質問に返答できなかった。」

豚神「だが、今の九頭龍は…小泉と和解することによるメリットを、見出すことが出来たのだ。」

豚神「左右田のおかげでな。」

左右田「へ?オレ?」


日向「そうだな。小泉にかりんとうを作ってもらうって案は、そもそも左右田が提案した物だったもんな。」

ソニア「九頭龍さんはその言葉を、ヒントにしたってことですよね。」

澪田「グッジョブっすよ、和一ちゃん!!」

左右田「いやぁ~…。そこまでほめられると、照れちまうぜ。」


七海「周りの人間の考えを、自分の考えに組み込むことが出来る…。」

七海「それはつまり九頭龍くんが、自分だけの世界に閉じこもることを止めて。」

七海「本格的に小泉さんのことを考えてあげられるようになった証拠…ってことだよね。」

田中「それが、九頭龍の覚悟につながるわけか。」


西園寺「わたしには、九頭龍の覚悟がどれだけ小泉おねぇに通用するのかはわからない。」

西園寺「でも…九頭龍の決心だけは、本物みたいだから。」

西園寺「ギリギリ…合格ってことにしてあげる。」

左右田「西園寺…!!やっぱりお前…!!」


西園寺「あ―あ―。そういうの、要らないから。さっさと本題に入るよ。」

左右田「お―い!!少しはオレにも言わせろよ!!せっかく誉めてやろうと思ったのに!!」




西園寺「じゃあ、教えてあげる。」

西園寺「小泉おねぇが、九頭龍に対して…何を望んでいるか。」

西園寺「…まぁこれも、わたしの勝手な想像かもしれないんだけど。」

弐大「たとえ想像だとしても、ワシらの想像よりかは正解の可能性が高いじゃろう。」

終里「だから、もったいぶらずに早く言えよ。」


西園寺「じゃあさ。小泉おねぇは、九頭龍に対して…何をしたいって言ってたっけ?」

左右田「なにを…したい?」

花村「ま、まさか小泉さん自ら下の世話を」

九頭龍「さっきから事あるごとに、そっちの話に持って行こうとするんじゃねぇ!!!!」


田中「何をしたいと言ってもな。奴は九頭龍の前では、ただ怯えるばかりだろう?」

左右田「いや…確か、言ってたぞ。それに関する懇願は、九頭龍にあっけなく無視されたって…。」

ソニア「それって、ひょっとして…」





九頭龍「償い、か…。」


西園寺「そうだよ。小泉おねぇは、償いたいって言ってた。自分の過去に関してね。」

田中「そうか…。ならば、小泉が受動的になる復讐は不適切だ。」

七海「あくまで、小泉さんに何かをしてもらう形にしないとダメ…ってことだね。」



西園寺「それにね。小泉おねぇが償いたい相手って、実は九頭龍1人だけじゃないよね?」

澪田「んん…?それって…」


罪木「あっ…!!九頭龍さんの、妹さんの事ですね?」

豚神「小泉が罪の意識を抱く相手は、九頭龍だけじゃない。いやむしろ、妹の方に強く抱いているかもしれんな。」

罪木「なにせ、小泉さんが直接関わった人は妹さんの方ですからね…。」



西園寺「だから、九頭龍。小泉おねぇを、赦してあげたいのなら。」

西園寺「小泉おねぇに、償わせてあげろ。小泉おねぇが犯した過ちに関して。」

西園寺「アンタにだけじゃない。死んだ妹も、満足できるような償いをね。」

九頭龍「そんなの、どうやって…。」




西園寺「わからない?今までの話と、アンタの言ってた事を合わせると…」


西園寺「小泉おねぇを全く傷つけることなく、復讐を完遂させる方法が浮かび上がるでしょ?」

九頭龍「なっ…!!?」

左右田「な、何だよその方法!!?どっからそんな話が出て来たんだよ!!?」

弐大「そもそも、九頭龍が言っていた事とは何じゃあ…?」


豚神「そうか…。確か九頭龍は、この島を出た後でやりたいことがあったのだったな。」

花村「やりたいこと…?」





九頭龍「…なるほどな。」

ソニア「え…?わかったのですか?九頭龍さん。」


九頭龍「要は…小泉と約束すりゃあいいわけだ。」

田中「約束だと…?一体小泉と、何を契約するのだ?」

花村「ちなみに、悪魔と契約するときはね。悪魔とセ」

九頭龍「いい加減にしろよコラァ。」

花村「いや―ん!!九頭龍くんが悪魔の形相だ!!九頭龍くんってば純情なんだから!!」

弐大「花村は無視するとして、何の約束をするつもりじゃあ?」





九頭龍「妹の墓参りに…小泉もついて行ってもらうんだ。」

九頭龍「それで…妹に、謝ってもらえばいい。」


罪木「謝る…?どういう風に謝らせるんですか?」

九頭龍「何でもいいさ。小泉のやりたい方法で謝ってもらえれば。何なら墓の前で土下座してくれたって構わねぇ。」


左右田「なるほどな。そうすれば、九頭龍にも妹にも償えたと小泉は思えるかもしれねぇな。」

七海「しかもその約束は、執行猶予つきの復讐になるから…小泉さんは、実質何もしなくていい。」

西園寺「本当にこれでいいのかは不安だけど…」

日向「今までの案の中では、1番の作戦かもしれないな。」

九頭龍「ああ。オレと小泉の過去に決着をつけるっていう意味でも、最もしっくり来る復讐の仕方だよ。」


九頭龍「ありがとうよ、西園寺。お前のお蔭で…本当に、活路を見いだせた気がするぜ。」

西園寺「…」





西園寺「まだ、安心できないでしょ?」

九頭龍「え?」


西園寺「忘れたわけじゃないよね?小泉おねぇは、アンタが近づくだけで発狂しちゃうんだ。」

終里「そうか…。復讐の方法をあれこれ考えたって、話を持ちかけること自体ができないんじゃあな。」

ソニア「その意味ではわたくしたちは、スタ―トラインにすら立てていないというわけですね…。」


西園寺「だから…九頭龍が接しやすい人間になったら、小泉おねぇも警戒を解いてくれると思ったんだ。」

田中「そうか。そのために漫才を…」

西園寺「まぁ…アレじゃ無理だね。」

九頭龍「えぐるなよ、オレのガラスハ―トをよぉ!!!!」




豚神「では今度は、どうすれば九頭龍が小泉と会話できるかを考えてみるか。」

花村「それは西園寺さんも言ってた通り、接しやすい人間になる事じゃないかな?」


ソニア「あ。では九頭龍さんも、辺古山さんみたいにモフ語を喋ってみてはどうですか?」

日向「モフ語!?」

ソニア「モフモフ言っているのが可愛らしくて、小泉さんも緊張を緩めてくれるかもしれません。」


辺古山「何を言っている。モフキャラ枠の座は誰にも譲らんぞ!!!!」

九頭龍「モフキャラ枠ってなんだよ!!?お前、そんな座を狙ってたの!!!?」

左右田「つ―かアイツもう、正常なんじゃね?」




澪田「ん~…。そもそもなんで真昼ちゃんは、あそこまで冬彦ちゃんを怖がるんすかねぇ?」

澪田「冬彦ちゃんって、こんなに小っちゃいし童顔でカワイイのに!!!!」

九頭龍「テメ―!!顔と身長に関してそれ以上抜かすと、指を5、6本詰めてやんぞ!!」

澪田「こうやって噛みついてくるところも、ツンデレで可愛い―!!」

九頭龍「オレの極道としての威厳が、どんどん崩されていく…。」

弐大「漫才した時点で気付かんかい。」


田中「小泉が九頭龍を恐れる理由は…復讐されることを危惧してのことだろう?」

豚神「実際小泉は1度、復讐によって九頭龍に殺されかけている。」

西園寺「だから…小泉おねぇは九頭龍に対して、深刻なトラウマを抱いてるんだよ。」

七海「そうだね…。トラウマってのは厄介だよ。何に対して抱くかは、完全に人それぞれだから。」


罪木「九頭龍さんがどれだけちっこくて非力で、童顔でかわいくても…」

罪木「それは小泉さんのトラウマを和らげる要因にはなりえない…ってことですね。」

九頭龍「罪木って意外と毒舌なのな…おかげですっかり傷ついちまったぜ。」

弐大「実際、間違いじゃないからのう。」


終里「ホントだぜ。小泉も、もう少し心を強く持てばいいのによ。」

終里「九頭龍なんかが襲い掛かってこようと、オレなら返り討ちにしてやれるぜ!!」

左右田「いやいやいや!!終里と小泉を一緒にすんなって!!」

弐大「しかし九頭龍は体も華奢で、小泉よりも背が低いからのう。」

花村「小泉さんが本気を出せば、ケンカになっても九頭龍くんになら勝てそうだよね。」

九頭龍「殴り合いで女にも負けるのかよ、オレ…。」




花村「えっと。さっきの議論でわかったことは…」

西園寺「小泉おねぇは、“九頭龍そのもの”を恐れている。」

西園寺「だから、多分…見てくれをどれだけ繕おうと…たとえ、女装しても。」

西園寺「怖がって、逃げ出しちゃうと思う。」


花村「女装!!?」

澪田「なんか、面白そうっすね!!冬彦ちゃん、やってみようよ!!」

九頭龍「はぁ!!?ふ、ふざけんな!!これ以上恥をさらしてられっかよ!!!!」

澪田「え~。絶対似合うっすよ!!冬子ちゃん!!」

九頭龍「だれが冬子だ!!」

F川『え?』


弐大「ならば…九頭龍の内面を磨くしかないっちゅうことか?」

九頭龍「いや…。さっきも言ったじゃねぇか。小泉の中でオレの評価は、復讐者で完結しちまってるんだ。」

左右田「九頭龍が内面を磨いたところで…九頭龍との関係を断絶している小泉が、評価を変えるとは思えねぇよな。」

ソニア「ではどうすればいいのですか?もう、八方ふさがりじゃないですか!!!!」





西園寺「そこはもう…小泉おねぇに賭けるしかないよ。」

田中「何だと?」


西園寺「小泉おねぇが…九頭龍に対する認識を、少しでも変えてくれるように。」

西園寺「ちょびっとだけでも、九頭龍に歩み寄ってくれるように…。」

西園寺「小泉おねぇを、信じてみるしかない。」

終里「う~ん…。結局カギを握るのは、小泉の気持ちなんだよな…。」



日向「なあ、西園寺。お前なら、なんとか説得できるんじゃないか?」

西園寺「…説得って?」

日向「九頭龍の話を少しでも聞いてくれるように、小泉に言ってくれないか…ってことだよ。」

田中「小泉が最も信頼する存在は西園寺。貴様の発言なら小泉は、考え直してくれるのではないか…?」





西園寺「…わたしには、無理だよ。」

罪木「え…?」


西園寺「わたしには…そんな残酷なことは出来ない。」

ソニア「残酷…ですか?」


西園寺「日向おにぃの言ってたことはね。小泉おねぇの視点に立てば…」

西園寺「生まれたての小鹿を、獰猛なライオンの前に放置しろ…って言ってるようなものだよ?」

九頭龍「…そう、なのか。」




西園寺「今の小泉おねぇはね。すごく意固地で、独り善がりになってるの。」

西園寺「九頭龍と関わりたくないばっかりに…」

西園寺「九頭龍に同情したり、九頭龍と仲直りさせようとしたりする皆にさえ…段々と、敵意を向け始めている。」

左右田「はぁ!?なんでオレらまで…!!?」


西園寺「わたしなら…心優しい小泉おねぇを、あんなになるまで追いつめた九頭龍を責めるけど。」

西園寺「アンタらは、そうじゃないでしょ?」

西園寺「アンタらは…小泉おねぇが敵意を向けてきたら、小泉おねぇに敵意を向け返すでしょ?」

西園寺「そして…元凶であるはずの九頭龍の、肩を持ってしまうんでしょ?」

日向「うっ…。」

九頭龍「…」


西園寺「そうなると、孤立しちゃうのは小泉おねぇの方。」

西園寺「だから…できることならわたしだって、小泉おねぇが九頭龍と和解してくれたらありがたいけど。」

花村「じゃ、じゃあ…!!」




西園寺「でも…わたしにはできない。小泉おねぇを九頭龍と会わせるなんて。」


西園寺「だって、小泉おねぇは…わたしだけは、ずっと味方をしてくれるって思ってるんだもん。」

西園寺「わたしだけは…小泉おねぇの独り善がりな考えを、支持してくれると思ってるんだもん。」

西園寺「わたしは…約束しちゃったんだもん。ずっと、小泉おねぇの味方でいてあげるって…。」


西園寺「だから…わたし位はずっと、小泉おねぇの味方でいてあげないとダメでしょ?」


田中「…そうか。最も信頼のおける西園寺にさえ、裏切られてしまえば…」

豚神「ただでさえ不安定な今の小泉が、どうなってしまうか…わからないな。」

罪木「確かに…。今の小泉さんにとって西園寺さんは、心の拠り所みたいな物だそうですし。」

西園寺「本当はね。わたしがここで九頭龍と会話してることだって、小泉おねぇに知られると危険なんだよ。」

弐大「しかしそれじゃあ、手の施しようが…。」




西園寺「だから…わたしと同じくらい、小泉おねぇを理解できていて。」

西園寺「なおかつ、わたしほどには小泉おねぇと親しくない…そんな存在が、必要なんだよ。」

西園寺「自分の考えで凝り固まってる小泉おねぇに、ガツンと言ってやれるような人間がね…。」


ソニア「今までの話の流れからすると、その人に仲介役をしてもらうのが最適ですが。」

澪田「そんな人間が、この中にいるとは思えないよね…。」

花村「うん…。小泉さんのことを良く理解できてないからこそぼくらは昨日、九頭龍くんの肩を持ったんだからね。」

豚神「やはり、打つ手なしということか…?」

西園寺「うん、そうだよ。だからわたしは…」





西園寺「1人しか、思い浮かばなかったよ。仲介役。」



終里「…は?今、何って言った?」

西園寺「ホントは、あんな奴に…こんな大役を任せるのは、嫌なんだけど。」

西園寺「でも…これしか方法がないから、仕方ないよね?」




今日はここまで。




―ロケットパンチマ―ケット―


狛枝「あは、やっぱり心当たりがあるんだね?小泉さん。」

狛枝「今までの小泉さんと、今の小泉さんの間に…決定的な矛盾が存在すること。」

狛枝「それを…ボク以外の誰かからも、指摘されたことがあるんだね?」

小泉「…」

狛枝「誰に指摘されたか、ボクが当ててあげよっか?」


狛枝「西園寺さんだよね?」

小泉「…ホンット、アンタって一筋縄じゃいかないわ。」

狛枝「それってほめられてるの?」

小泉「…半々ってところね。」




小泉「…で?アタシの、何が変わったっていうの?それも、希望の象徴じゃなくなってしまう位にさ。」


狛枝「う~ん…。そもそもボクは、皆の中で小泉さんだけは特別だと思ってたんだよね。」

小泉「特別…?」


狛枝「そう。小泉さんはどちらかというと、ボク寄りなんだ。超高校級の皆を称賛するだけの凡人。」

狛枝「ボクと同じ…傍観者の臭いがしていたんだ。」


小泉(…本当にコイツは、鋭い。コイツの言うとおりだ。実はアタシは、狛枝の思うような“希望の象徴”などではない。)

小泉(九頭龍組との件で、希望ヶ峰学園を退学した…ただの、“絶望のカリスマ”でしかないんだ。)

小泉(アタシの正体に、狛枝が気づくのも…そう遠くないのかもしれない。)


小泉(でも…狛枝にはもうしばらく、アタシを“希望の象徴”と認識していて欲しい。)

小泉(アンタに、軽蔑の眼で見られることが…アタシにとっては、1番応えるから…。)




小泉「アンタは…アタシと狛枝が似ている、って言いたいわけね。」

小泉「でもアンタは恐らく…『似ている』だけで、『同じ』とは思っていないはず。」

狛枝「そりゃそうだよ。ボクなんかが小泉さんと同じだなんて、おこがましいにもほどがあるもんね。」


狛枝「なにせ小泉さんは…“超高校級の写真家”なんていう、素晴らしい才能に愛されているんだからさ。」

狛枝「その才能こそが…凡人のクズと、選ばれた人間を分かつ唯一の証明なんだよ。」


狛枝「特に、写真家としての才能以外は…ものすごく凡人臭い、小泉さんにとってはね。」

小泉「…」





狛枝「ところがね。今の小泉さんは、その証明を持てている?」

小泉「…は?どういう事よ?」


狛枝「あれ…?ここまで言われて気付かない?」

狛枝「あんまりボクを、幻滅させないでくれよ。小泉さん。」

小泉「っ…。やけに、強く言うじゃない。これでアンタの思い過ごしだったら、怒るからね?」

狛枝「…」


小泉「何よ…言ってくれないと、分からないわよ。アタシに至らないところがあるなら、教えてよ。」

小泉「ちゃんと…直すからさ。」

狛枝「じゃあ質問するけど、小泉さん。キミは、一体…」





狛枝「何度のチャンスを逃してきたんだい?」


小泉「チャンスを…?」

狛枝「いつからだったかな…?多分、九頭龍クンとの事件があった日の翌日からかな。」

狛枝「小泉さんはね。“ある行動”をとることを、パッタリとしなくなってしまったんだ。」

小泉「ある行動…?」


狛枝「皆が朝食を囲むときも…ボクがアップルパイを食べている間に、皆が笑顔で語り合っていた時も…」

狛枝「その音が鳴る事はなかった。」

小泉「…」


狛枝「もう1度聞くよ、小泉さん。キミはこの3日間で…一体、何回のチャンスを逃したんだい?」

小泉「…」





小泉「…何十回、ってレベルよ。」



小泉「おかしいわね。シャッタ―チャンスを逃さないように、いつも肩に下げているはずなのに。」

小泉「どうしてアタシは…皆の笑顔を写真に収めることを、失念してしまったんだろう。」

小泉「シャッタ―チャンスを、シャッタ―チャンスだと…思えなくなってしまっているのかな。」


狛枝「勘弁してよ、小泉さん。小泉さんの才能は、生まれながらに与えられたもの。」

狛枝「小泉さんの勝手な都合で、潰えさせてしまって良い物じゃないんだよ?」

狛枝「キミには“超高校級の写真家”っていう才能を背負う、義務があるんだから。」

狛枝「それが…才能を持って生まれた者の使命。」


小泉「なによ、勝手な事ばっかり言って…。じゃあ、手伝ってよ。」

狛枝「手伝うって、何を?」


小泉「写真家としての勘を取り戻す、手伝いをしてよ。ほら、笑って。」

狛枝「ええ?急に笑えと言われても、笑えないよ。」

小泉「大丈夫。ほら狛枝、そのまま…」


小泉「…」

狛枝「どうしたの?」



小泉「…………」




撮れない。

狛枝の笑顔を。

笑顔を切り取るタイミングが、さっぱりわからない。


どうして?

今までは、何の迷いもなく撮れたのに。



迷い…?

もしかして今、アタシは迷ってるの?


少なくとも今のアタシは、心が澄んでいない。

あの時からずっと…

心の中に、しこりを残している。



写真とは、写し鏡のようなもの。

常に、そこにある真実を映し出す。


しかしそこに浮かび上がるのは、被写体の真実だけではない。

シャッタ―を切る側である、アタシの心さえもさらけ出すのだ。


迷う所がアタシにあるのだとすると、それは…

アタシの心を、外に放出するか否か、というところだろうか?



じゃあなんでアタシは、自分の心を無意識のうちに隠したがっているの?



絶望だから?


アタシが抱えている心が、九頭龍との件によって荒んでいるから?

未だに九頭龍から赦されていないアタシが、絶望しているから?




狛枝「…撮れないの?」


小泉「撮れない…っていうより、撮っちゃいけない…。そんな気がするの。」

小泉「これは…防衛本能よ。」

狛枝「防衛本能?」



小泉「写真っていうのはね。真実をそのまま映し出す故に、時には真実以上の説得力を持つの。」

狛枝「へぇ、興味深いね。どうしてそんなことが言えるのかな?」


小泉「アタシとアンタが同じ光景を見ても、違う感銘を受けるはず。」

小泉「でも、アタシの写真を通して同じ光景を見ると…アタシと全く同じ印象を、受け取ってしまう。」

小泉「何故ならその写真は、アタシにとっての真実だから。他の誰からの視点でもない。」


小泉「アタシの視点で、アタシの価値観を以て切り取られた真実を…画一的な思考で覗き込ませる…。」

小泉「それが、写真なの。」

小泉「物の見方をアタシが強制することで、アタシの写真なしでは見えてこなかった事実を教えたり…」

小泉「時には広めてはいけない価値観を、押し付けてしまうことだってある。」


小泉「だからこそアタシは、常に気を付けておかないといけないの。」

小泉「自分が今…どういう価値観を以て、写真を撮ろうとしているのか。」


小泉「多分、今のアタシが…九頭龍との関係に、絶望しているアタシが…写真を撮ってしまったら。」

小泉「きっと、人を絶望に堕とすような…狂った“エガオ”の写真を、また生み出してしまうことになる。」

小泉「皆を絶望に叩き堕としてしまった、最悪の代物…!!!!」

狛枝「…?なんの話をしてるの?」




小泉「だから…アタシはもう、写真を撮れない。」

狛枝「は?」


小泉「皆を…アタシの心を、守るためには。アタシの絶望を、写真にアウトプットしてはいけないのよ。」

狛枝「はぁ?」


小泉「アタシの絶望は…アタシの心の中だけに、しまっておかないと。」

小泉「だから九頭龍を敵視している限り、アタシは…写真家としては、生きていけな…」





狛枝「ふざけないでよ、小泉さん。」


小泉「えっ?」

狛枝「わかってるの?小泉さん。」

狛枝「“超高校級の写真家”という才能こそが、凡人臭い小泉さんを選ばれた人間とする唯一の証明。」

狛枝「その才能はね。小泉さん自身よりも、ずっと重要な物なんだ。」

小泉「…」


狛枝「それを、なんだい?たかだか九頭龍クンとのいざござ程度の絶望で、そんな貴重な才能をどぶに捨てるつもりかい?」

狛枝「それこそ本当に、宝の持ち腐れだよ。キミは、才能を持って生まれてきた存在としての自覚があるの?」

狛枝「飛べない豚はただの豚だよ、小泉さん。」

狛枝「いや…期待させといて幻滅させるという落差を生み出す点では、ただの豚よりもボクを苛立たせるド畜生だよ!!!!」


狛枝「才能ってのは、有限なんだ。たとえそれを持っているのが、小泉さんみたいな使えない凡人だったとしても。」

狛枝「それを誰かに譲渡してもらうことは出来ないんだ。」

狛枝「才能を持っているにもかかわらず、それを自ら封印するなんて…」

狛枝「そんなのは、才能を与えられなかった凡人であるボク達に対する…冒涜だよ。」


狛枝「だから小泉さん。戯言を抜かすのはほどほどにしてよ。写真を撮ることをやめる、なんてさ。」

小泉「…」




小泉「まあ、狛枝ならそんな事を言うだろうなって思ってたよ。」

小泉「誰よりも才能を愛すアンタが、あんな発言を聞いてしまえばね。」



小泉「だからこそ、アタシにはわかるの。アンタは、アタシの手伝いを必ずしてくれるって。」

狛枝「…手伝い?これ以上に、何を手伝えっていうの?」


小泉「ほら、こっちのベンチに来て。で、アタシの隣に座って。」

狛枝「これでいいの?」

小泉「うん。」


狛枝「…で?コレが一体、何の意味を持つのさ。」




小泉「…アタシ、思うんだ。」

小泉「アタシが写真を撮れない理由。それは、アタシの心が絶望に侵されているから。」

小泉「九頭龍がアタシに、ずっと背負わせている罪…それが、アタシの絶望。」


小泉「だからその絶望を、丸ごと塗り替えるような希望を抱ければ…」

小泉「アタシは再び、写真を撮れるようになるんだと思う。」

狛枝「ふ~ん…。具体的に、何をするの?」





小泉「手を繋いで。」


狛枝「え?」

そう言ってアタシは、狛枝の方に右手を差し出した。



狛枝「…?」

小泉「アタシと…手を、繋いで。」

小泉「アタシに、ぬくもりを感じさせて。」

小泉「アタシを…安心させて。」


狛枝「…なるほどね。小泉さんの罪を、ボクも共有すればいい…ってことね。」


狛枝「でも、ボクでいいの?」

小泉「なにがよ。」

狛枝「罪を共有する相手のことだよ。ボク以外にも、適任がいるんじゃない?例えば、西園寺さんとか。」

小泉「…」



小泉「アンタ『で』いい…じゃない。」

狛枝「え?」


小泉「狛枝じゃないと…アタシは、安心できないの。」

狛枝「…そう。」




短い返事を返すと狛枝は、アタシの右手を握る。



小泉「…!!!!」


小泉(やばい…勢いで提案しただけなのに。ホ、ホ、ホ、本当に、コイツ…!!!!)


小泉(どうしよう、どうしよう!!!?し、心臓が、バクバク鳴って…!!!!)

小泉(し、心臓の音、狛枝に聞かれてないでしょうね!!?)


小泉(あ…体が、火照ってきた。なんかすっごい、頭がトロ―ンって…)

小泉(って。まさかアタシ、顔が真っ赤になってないよね!!?)

小泉(も、もし狛枝に…アタシが、こ、こ、興奮してることがバレたら…!!)

小泉(変態さん扱いされて、距離を置かれちゃうかも!?そ、そりゃないよ!!)


小泉(い、いやね。確かに、下心がなかったとは言い切れないよ?)

小泉(でもこれは、仕方ないシチュであって。不可抗力というか、必要経費というか…。)

小泉(と、とにかく!!できる限り平常心を装って…!!!!)




狛枝「ねぇ、小泉さん。」

小泉「ほぇっ!!!?」


狛枝「鼻血出てるよ。」

小泉「うそっ!!!?」


狛枝「うそ。」

小泉「うわぁああああん!!!!狛枝のばかぁあああああ!!!!!!」


狛枝「…ほんの冗談のつもりだったんだけどなぁ?」



今のアタシには、これ以上踏み込む勇気はないけれど。

でも…これで諦めたわけじゃないからね?

今度はもっと、大胆に攻めていくんだから!!


~fin~




???「いや終わらすなよ!!何、よくある打ち切りマンガみたいに締めくくろうとしてんだ!!」

???「九頭龍との件も、まだまだこれからだろうが!!!!」




今日はここまで。




20日目


―ホテル前―


九頭龍「おい、西園寺。ちゃんと手筈は整ってんだろうな。」

西園寺「…ふん。アンタに確認されなくったって、わたしのできる事はやったつもり。」


西園寺「今日、もう1回…ライブハウスに、皆を集める。」

西園寺「今度はちゃんと、小泉おねぇにも来てもらう。」

西園寺「日本舞踊の練習の成果を皆に見せるってことを、口実にしてね。」


九頭龍「そ、それで…本当にアイツは、オレの話を聞いてくれんのかよ?」

西園寺「だから言ってるでしょ?それは賭けだって。」

西園寺「小泉おねぇがアンタの話を聞いてくれるかどうかは…」

西園寺「アイツが小泉おねぇに、何を吹き込んだかで変わってくるはずだから。」


西園寺「本当はアイツも懐柔できれば良かったんだけど…。多分それは、小泉おねぇの懐柔よりも難しいと思う。」

西園寺「だから、わたしたちは…アイツの信条に、賭けてみるしかないんだよ。」


九頭龍「お前の言う、アイツって…誰なんだよ?」

西園寺「…多分、知る必要はないよ。」

九頭龍「…そうか。」




西園寺「とにかく、今日が最後のチャンスだと思え。」

西園寺「この機会を逃したら…多分もう2度と、小泉おねぇと和解できなくなるだろうから。」

西園寺「どんな方法でも良い。ライブハウスで、何とか小泉おねぇを説得しろ。」


九頭龍「ああ…。すまねぇな。オレのために、こんな機会を用意してくれてよ。」

西園寺「ふん。誰がアンタなんかのために、こんなことをするもんか。」

西園寺「わたしの行為は、全部…小泉おねぇを考えての事だよ。」


西園寺「あと、必要以上にわたしに話しかけるな。」

西園寺「こんなところを小泉おねぇに見られたら、せっかくの機会も台無しになるかもしれない。」

九頭龍「あ、ワリィ。」


西園寺「あっ…。小泉おねぇも来たみたい。気付かれる前に、さっさとホテルに行け!!」

九頭龍「お、おう。」







小泉「あ、日寄子ちゃん。」

西園寺「あ…。おはよっ、小泉おねぇ!!」


小泉「日寄子ちゃん、こんなところで何してるの?ホテルにも行かずにさ。」

西園寺「あ、えっと…。プ―ルに浮かんでる虫の死骸を見て楽しんでたの!!」

西園寺「ゴミみたいな生涯を終えることが出来て、ご苦労様ってお祈りしながらさ!!」


小泉「ふ~ん…。本当に?誰かと話してたみたいだけど?」

西園寺「そ、それは…。」




小泉「誰と話してたの?」

西園寺「…」



小泉「…ま、いっか。そんな事。行こっ、日寄子ちゃん。」

西園寺「う、うん!!」


そして、アタシ達がレストランに行ってみると…




―レストラン―


澪田「あぶ、あぶあぶあぶあぶあぶ…」

小泉「ん?どうしたの?唯吹ちゃん。」

澪田「白夜ちゃんが、白夜ちゃんが…」

西園寺「豚足ちゃんが、どうしたって?」



豚神「おや。そこに居るのは、無能で役立たずで、何の可能性もない小泉じゃないか。」

小泉「…あれ?豚神って口が悪いこともあるけど、意味もなくそんな毒を吐く奴だっけ?」

辺古山「モフモフ」

豚神「愚民が…。海面に浮かぶプランクトンの分際で、馴れ馴れしく話しかけて来るな。」

西園寺「はぁ!?何その態度!!深爪こじらせて死んじまえ!!」


豚神「ほう…?なら、殺してみろ。殺し合いこそが、この島を支配するル―ルなのだからな。」

小泉「は…?なに言ってんのよ、豚神!!?アンタ、言ってることが本当におかしいよ!!?」

澪田「そうだよ!!唯吹たちは、殺し合いなんてしないんっす!!唯吹たちは仲間なんだから!!」

豚神「仲間だと…?違うな。俺達は仲間同士なんかじゃない。」

豚神「その逆だ…互いに蹴落とし合う、競争相手なんだ。」


西園寺「…なんか本当にヤバいね、コイツ。言ってることが今までと180度違うもん。」

終里「バトルロワイヤルじゃあ、真っ先に死ぬパタ―ンだよな。」

澪田「そうなんっすよ…。なんか白夜ちゃん…今日はずっと、かませキャラに…。」

澪田「あ、あぶあぶあぶあぶあぶ…」

辺古山「モフモフ」




日向「真実はいつもひと―つ!!!!」


罪木「ヒャアッ!!?」

九頭龍「な、何だよ、コイツ…?」


日向「見た目は大人。頭脳はパンツ。その名も、名探偵日向!!!!」

左右田「うわぁ、室内でスケボ―に乗るなっての!!あぶね―だろうが!!!」

日向「フヒヒ…灰色の脳細胞が冴えておりますぞ。」

辺古山「モフモフ」


田中「しかしあの捌き、ただ者ではないな。」

ソニア「無茶な動きをしているようなのに、ギリギリでバランスを維持しておりますね。」

狛枝「さらにその状態で、スケボ―に乗りながらパラパラを踊るという離れ業…!!」

弐大「素晴らしい才能じゃあ!!ぜひワシの手で、マネジメントしてやりたいわい!!!!」

日向「バ―ロ―!!」




七海「やはり、何人かの様子がおかしいようですね。」

狛枝「いや。キミもおかしいよ、七海さん。」

七海「え~?私っておかしいの~?」

七海「別におかしくなんてないと思います…。こうして皆さんと、まともに意思疎通もできますし…。」

辺古山「モフモフ」


狛枝「っていうかさっきから、キャラ変わりすぎじゃない?」

七海「飽きちまったんだよ!!絶望的に、飽きちまったんだよ!!!!自分のキャラにすらな!!」

狛枝「絶望だって…?」

七海「そう、絶望なのだ。外も中も、どっちも絶望しか残ってないのじゃ。」

辺古山「モフモフ」





狛枝「それは…違うよ。」

七海「は?」


狛枝「それは違うよ!!」

狛枝「誰も絶望なんかしない。皆、お前なんかに負けないんだ!!」

狛枝「絶望と死だけじゃない。皆いる…希望は、ボクらの中にあるんだ!!!」


七海「明日に絶望しろ!!未知に絶望しろ!!思い出に絶望しろ!!」

狛枝「希望は前に進むんだ!!!!」



終里「うっせ―な、コイツら。コントしてんじゃねぇよ。」

小泉「千秋ちゃんに…狛枝まで、なんか変になっちゃってるのね…。」


弐大「しかし狛枝は…変になることで、かえって接しやすい人間になっとるような気がするのう。」

花村「王道っていう言葉も裸足で逃げ出すような、平凡すぎる人間って感じだよ!!」

ソニア「普段からあのような人なら、好印象なのですが…。」


小泉「え…そう?」

ソニア「え?」

小泉「あれじゃあ正直、頼りがいがなくて、魅力半減っていうか…」


左右田「ん…魅力?」

小泉「あっ…な、何でもない。」

左右田「小泉…?」




辺古山「モフモフ」

辺古山「モフモフモフモフッ」

辺古山「モフモフモフモフモフ!!」


左右田「あ―も―!!さっきからうっとうしいんだよお前は!!」

辺古山「モフッ!?」







田中「どうやら今宵は、闇の使者に囚われた哀れな罪人が何人かいるようだな。」

ソニア「はい…。日向さん、狛枝さん、豚神さん、七海さんの様子が変です。」

終里「ん?辺古山は?」

花村「彼女は元からでしょ。」

終里「そうだった。」



モノクマ「うぷぷぷ…混乱してるね、皆。」

終里「モノクマか!?」

田中「コレは、貴様がやったことなのか?」

モノクマ「はい。お前らが、性懲りもなく結束しようとしてたからさ。」

モノクマ「ちょっくらボクが、水をさそうと思ってね。」

小泉(結束しようとしてた…?)



モノクマ「これが今回ボクがキミ達に贈る動機!!その名も、絶望病です!!」

弐大「絶望病じゃとお…?なんじゃい、そりゃあ?」


モノクマ「うぷぷぷぷ…。3章が始まってから2、3ヶ月経ってるのに、未だに来ない物だから。」

モノクマ「もう絶望病、来ないんじゃね?って思ってた人もいるかもしれないね!!」

モノクマ「でもこの話って一応、強くてニュ―ゲ―ムって感じだしさ。」

モノクマ「来たるべき試練を乗り越えないと、読者も納得できないでしょうが!!」

花村「な、なんの話をしてるの?」




モノクマ「絶望病の症状は様々です。」

モノクマ「例えば狛枝クンは凡人病。七海さんは江ノ盾病。」

罪木「江ノ盾病!!?」

モノクマ「日向クンはバ―ロ―病。豚神クンはかませ病。辺古山さんは…」


モノクマ「知らない。何これ?」

左右田「だよな…。」

小泉(…)


小泉(ついに、来てしまったか…。絶望病。)

小泉(どうしよう…絶望病に対抗できる明確な計画を、まだ建てることが出来てないのに。)


小泉(しかも今回は最悪なことに、リ―ダ―シップを執れる豚神や日向、千秋ちゃんまで絶望病に…!!)

小泉(さらには、狛枝も…?)

小泉(絶望病にかかって欲しくない人間ばかり、ピンポイントで感染させて…!!!)

小泉(裏方の奴、どこまでアタシを追いつめれば気が済むのよ…!!)


小泉(…ん?)




九頭龍「…」

九頭龍「どうすんだよ、コレぇ。オレの、計画は…」


西園寺「…おい、九頭龍。」

九頭龍「え?」

西園寺「今日の計画は、中止だ。」

九頭龍「はぁっ!!な、なんで…!?」


西園寺「シッ!!声がでかい!!小泉おねぇに気付かれたらどうするの!?」

九頭龍「ちょっと待てよ、なんで中止なんだよ?」

西園寺「この状況じゃあ、小泉おねぇの説得どころじゃないでしょ?」

九頭龍「いや確かに、モノクマが変なことをしてるようだけどよぉ。今日を逃したら…」


西園寺「…どちらみち、アイツがまともに機能していない限り。小泉おねぇの説得は、不可能だよ。」

九頭龍「…なんだと?」


西園寺「とにかく、今日はダメ。また、機会を探るから。」

九頭龍「そ、そんなぁ…。」




今日はここまで。




モノクマ「ちなみに絶望病は、空気感染しますから!!オマエラも、絶望病にかからないように気を付けてね!!」

モノクマ「んでもって、殺し合いを起こしちゃってくださ―い!!」


そう言ってモノクマは、どこかに去って行った…。


小泉「…」


小泉(モノクマは、絶望病が空気感染するとか言ってたけど。多分、アレは嘘だ。)

小泉(おそらく絶望病は、モノクマが感染者を自由に選べるはず。)

小泉(じゃないと…説明がつかないことが出て来る。それが何なのか、具体的にはまだわからないけど…。)




狛枝「とりあえず…どうしよっか。」

七海「絶望病は空気感染するらしいクマ。だからやっぱり、絶望病にかかった人を隔離することだと思うクマ。」

豚神「そうだな。超高校級の完璧である俺が、あんな病気にかかるなんてまっぴらごめんだ。」

辺古山「モフッ」


狛枝「ちょっと待ってよ!!隔離だなんて、そんな非道徳的な…!!」

日向「バ―ロ!!今更道徳云々言ってどうすんだ。今は皆の利得が1番大切だぜ。」

七海「そう。コレはいわゆる、保護って奴なのよ。どんな行為も言葉の使い方次第で、いくらでもごまかせるってことさ。」

狛枝「で、でも…」

日向「時には頭の柔軟性も必要ですぞ、狛枝凪斗殿。」



狛枝「…殿?」

日向「ここで致命的なネタバレをするけどな。コ○ン=新○なんだぜ。」

辺古山「なん…だと…っ!?」

豚神「どういうことだ、説明しろ苗木!!」

狛枝「ボ、ボクに聞かれても…!!」

七海「ツッコミ待ちかテメェ!?」


日向「ということは、僕の正体は…ここまで言えば、分かりますな?」

狛枝「まさか、日向クンが山田クンだったなんて!!(錯乱)」

辺古山「モフモフ♪」




花村「なんかあの辺、熱気がこもってるね。」

罪木「4人とも、すごい高熱なんです。早く安静にしてもらいたいんですが。」

ソニア「4人…?辺古山さんはどうなんですか?」

罪木「彼女は元からああです。」

ソニア「そうでした。」


弐大「3の島には、病院があったのう。あそこに入院させるってのはどうじゃあ?」

西園寺「でもアイツら、隔離される立場なのは自分達だってことを理解してんの?」

田中「常に念頭に置いておけ。こちらが深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。」

左右田「何が言いたいんだよ。お前も絶望病なのか?」


ソニア「田中さんが言っているのはですね。わたくしたちが彼らを隔離しても…」

ソニア「隔離されているのはわたくし達だと、彼らは思い込む…という事でしょう。」

澪田「つまり…皆を隔離しても問題ナシでしょ、ってことっすね。」

左右田「なんか、納得いかねぇな…。」

終里「でも実際、オレらまで病気にかかるのはまずいだろ。」


左右田「いやいや、そういう意味じゃなくてな。田中の厨二言語をソニアさんが翻訳出来てるのが気に食わねぇってことだよ!!」

九頭龍「ただの嫉妬じゃねぇか!!」

左右田「たかが嫉妬と思うなよ!!1週目じゃ嫉妬が原因で、ソニアさんの頭が打ち上げ花火だったんだからな!!」

ソニア「や、やめてください!!何のことかわからないのに、不思議と嫌悪感が…!!」

小泉「…」





小泉(絶望病…今回絶望病にかかったのは、5人なのよね。)

小泉(日向、狛枝、豚神、千秋ちゃん。あと、ペコちゃん…は、絶望病なの?アレ。)

小泉(とにかく、この5人だ。前回は、アタシを除くと狛枝、田中、千秋ちゃんの3人だった…のよね。)


小泉(コレ…なんか、ひっかかるな…。)




小泉(絶望病…アタシはこれを、恐ろしい細菌兵器だと思ってた。)


小泉(だって複数の人間を一気に無力化させるし、感染者をモノクマが自由に決めることが出来るんだから。)

小泉(そうして皆の結束を破壊し、皆を散り散りにすることで…)

小泉(誰かを本当の絶望病にかけ、その人の自殺を円滑に進めることが出来る…ということだ。)


小泉(そして絶望病に感染させる相手を、複数選ぶことが出来るのだとしたら…)

小泉(アタシ達はこの動機によって、場合によっては10人近く犠牲にしてしまうことだって有り得るんだ。)

小泉(しかも対抗策が全く思い浮かばなかったから絶望病は、とてつもなく恐ろしい動機。)


小泉(そう…思っていたんだけど…?)




小泉(前回絶望病になったけど、今回は絶望病にならなかった。コレが田中。)

小泉(前回絶望病にならなかったけど、今回は絶望病になった。コレが豚神。)

小泉(前回も今回も、絶望病になった。コレが狛枝と千秋ちゃん。)

小泉(前回も今回も、絶望病にならなかった。コレがアタシ達。)

小泉(そして、アタシは…九頭龍に殺されかけた。)


小泉(これらを総合すると…ある“仮定”が浮かび上がる。)

小泉(そしてその“仮定”を正しいとして、計画を建てると…!!)





小泉「…いけるかもしれない。」

花村「え…?なんの話?」


小泉「誰も犠牲にならない…最善策よ。」

弐大「何じゃとお?」


終里「そりゃもちろん、誰も犠牲にならねぇのが1番だろ。」

澪田「そうだよ!!策なんてなくても、唯吹たちは誰も殺さないっす!!」

罪木「だ、だから『策』なんて、殺し合いを前提とした発言は…!!」


ソニア「いえ…この状況で何の策もうたないのはメッです。モノクマさんは想像以上に狡猾ですから。」

花村「ぼく達が現状を傍観してたら、またコロシアイが始まっちゃうかもしれないってことだね。」

九頭龍「ああ…そうだな。」


田中「それで…小泉の言う策とは、何なのだ?」

小泉「…」





小泉「教える必要はないわ。」

花村「え?」


小泉「皆に伝えておく必要はない。アタシはアタシで、勝手に行動をとらせてもらうから。」

終里「お、おいおい…なんだよそれ!!感じワリ―ぞ、小泉!!」

左右田「オレ達に教えるくらいはしてもいいだろうがよ!!」

田中「場合によっては、我らの命に関わるのだからな。」


小泉「…あんまり、褒められた方法じゃなさそうだからさ。口に出して言いたくないんだよね。」

小泉「ひょっとしたら、却下されるかもしれないもん。」

小泉「今のアタシって、皆からあんまり支持されてないみたいだし…。」


西園寺「支持って…。小泉おねぇは優しくて信頼できる人間だって、ここの皆が知ってるよ?」

罪木「そ、そうですよ…。あまり自分を卑下しないでください、小泉さん。」

花村「罪木さんがそれを言うの…?」




小泉「繕わなくてもいいって。皆の雰囲気でわかるもん。」

弐大「雰囲気じゃとお…?」


小泉「モノクマが絶望病っていう動機を出したのは、皆の結束を乱すため。」

小泉「これって逆に言うと…皆は昨日、結束を深めてたのよね?」

小泉「アタシの居ないところで。」

終里「そ、そりゃあ…」


小泉「多分皆は…あの事件について、話してたんだよね?」

九頭龍「…」


小泉「皆はやっぱり、九頭龍に同情的なんでしょ?」

小泉「ってことは皆は…九頭龍を未だに毛嫌いしているアタシを、煙たく思い始めてるってことでしょ?」

小泉「これ以上、皆に嫌われるのは辛いって…。」


花村「そ、それはちょっと、極端すぎる考え方じゃないかな?」

弐大「そうじゃい。ワシらが九頭龍に肩入れしたことが、どうして小泉を嫌う理由になるんじゃあ!?」

田中「思考が少し女々し過ぎるのではないか?小泉よ。」


小泉(…やっぱり、肩入れしてたのね。)




九頭龍「ま…言いたくないなら、無理に言わす必要はねぇだろ。」

九頭龍「じゃあオレらはオレらで、計画を練らねぇとな。」

澪田「う~ん。計画といってもね。リ―ダ―の白夜ちゃんが、あんな調子だし…。」

田中「仕方あるまい。臨時のリ―ダ―を選抜するべきだろう。」


花村「それってやっぱり、人の上に立つ才能を持っている…王女のソニアさんと、極道の九頭龍くんかな?」

九頭龍「オ、オレが?」

終里「極道のくせに、ビビってんじゃね―よ。」

九頭龍「つ―か、候補にはソニアもいるんだろ?じゃ、ソニアがやりゃあいいだろ。そもそもオレは、リ―ダ―って柄じゃねぇ。」


ソニア「いえ…リ―ダ―は2人必要だと思います。」

澪田「え?どういうことっすか?」


ソニア「わたくしたちはこれから、絶望病の5人を病院に入院させねばなりません。」

田中「ついに辺古山が病人と一括りにされてしまったな。」

左右田「まぁ、アイツもある意味病気だからな。主に頭の。」


ソニア「そこで、患者さんの看病をする人が必要なのですが…」

弐大「そうか。全員で病院に固まれば、絶望病によりワシらが全滅するかもしれんのだったわい。」

花村「だから…看病するチ―ムと待機するチ―ムの2つに分かれるべきだってこと?」

終里「なら、リ―ダ―も2人いるんだな。」

小泉「…」




小泉(やっぱりこの話題になったか。2つのチ―ムに分かれる…。)

小泉(今回は、絶対に…日寄子ちゃんと同じチ―ムに入らないと。)


小泉(絶望病において重要なのは、誰かが事件を起こすことだけじゃない。)

小泉(未来機関の一員である日寄子ちゃんが、記憶を取り戻す事も極めて重要だ。)

小泉(コレを防ぐことが出来ないと…アタシの1番の味方が、黒幕側に回ってしまうことになる。)

小泉(考え得る中で、最悪のシナリオ…!!)


小泉(だから、アタシがするべきことは…絶望病に感染する暇を、日寄子ちゃんに与えないこと。)

小泉(日寄子ちゃんをずっと、アタシの眼に見える範囲に置くことだ…!!)




罪木「チ―ムを作ることはわかりましたが…どちらが病院に行くんですか?」

ソニア「それは…」


九頭龍「なあ。オレが病院に行っていいか?」

田中「何だと?」

九頭龍「罪滅ぼし…ってわけでもないけどよ。あんな事件を起こしたオレは、本来はいつ処分されてもおかしくない人間。」

九頭龍「じゃあ…こういう時こそ、面倒事を担ぐべきだろ。」

弐大「九頭龍…。」

小泉(…もっともらしいこと言って。どうせコイツは、ペコちゃんと離れたくないだけでしょ。)


田中「では九頭龍班は病院へ。ソニア班はモ―テルへ避難だな。」

左右田「その班分けはどうすんだ?」

罪木「びょ、病院といえば私ですよね…。じゃあ私は、病院へ行きますぅ。」

終里「2人だけかよ?」

九頭龍「あと2人は欲しいな…。」


小泉(…本来はアタシも、病院へ行くべきなんだろうけど。日寄子ちゃんは多分、病院へは行きたがらない。)

小泉(それに、病院には九頭龍が行くみたいじゃない。)

小泉(だから皆には悪いけど、アタシはモ―テルに…)





九頭龍「おい、西園寺。任せられるか?」


小泉「…」

小泉「はっ!?」

小泉(ちょっと。何言ってんのよ、この…!!!)

西園寺「…」


西園寺「わかった。」

小泉「なっ…!!!?」




今日はここまで。




小泉「ちょ、ちょっと日寄子ちゃん!?」

西園寺「え…どうしたの?小泉おねぇ。」

小泉「な、なんで日寄子ちゃんが、病院に…?」


西園寺「なんでって…。誰かがやらないといけない事でしょ?」

西園寺「なら…わたしが行っても、なんら不思議じゃないと思うけど。」

左右田「それに、リ―ダ―の九頭龍が指名してるんだしな。」

小泉「で、でも…」


ソニア「いいことじゃないですか。こういう時に西園寺さんは、面倒事を引き受けそうにないですけど。」

弐大「こうして積極的に、病院で尽力しようとしとるんだからのう。」





小泉「日寄子ちゃんも…そっち側なの?」

西園寺「…なんの話か分からないよ?小泉おねぇ。」


西園寺「それに、勘違いしないでよ?九頭龍の件とか、わたしの行動には関係ないよ。」

西園寺「わたしは、1番の仲間である小泉おねぇの発言通りに動いてるだけだからね。」

小泉「ど、どういうこと?」


西園寺「小泉おねぇはわたしに、小泉おねぇ以外の友達を作れ…って、言ってたよね?」

小泉「そ、それは確かに、言ったような気もするけど…。」

西園寺「これを機に、罪木とお近付きになれると思ったんだけどなぁ~。」

罪木「ふぇっ!?わ、私ですか!!?」


西園寺「小泉おねぇがそう言ってたからわたしも、いろいろ踏み出そうとしてるのにな。」

西園寺「まぁ小泉おねぇが、自分の発言を撤回するなら…仕方ないんだけどさ。」

小泉「い、いや…。アタシも日寄子ちゃんには、蜜柑ちゃんと仲良くしてほしいけどさ…。」

花村「じゃあ決まりだね。病院組には、西園寺さんも追加だよ!!」

小泉「…」





西園寺「で…どうする?小泉おねぇ。」


小泉「…どうするって?」

西園寺「病院では病人の世話をするんだよ?なら、面倒見がいい人材が必要だと思わない?」

終里「面倒見がいいと言えば、弐大じゃねぇか?マネ―ジャ―なんだろ?」

弐大「否っ。ワシはトレ―ニングのようなスパルタは得意じゃが、人の介護となると人並みじゃろうて。」

澪田「トレ―ニングで血まみれになったままの赤音ちゃんを、良く見るもんね!!」

田中「ならばこの中で、1番の適任といえば…」

小泉「…」



小泉「わかったわよ。行けばいいんでしょ。」

小泉「アンタらが何を企んでるのかは、知らないけどさ。」

花村「た、企むなんて、大げさな…。」

小泉(多少予定は狂ったかもしれないけど…アタシの計画には、何ら支障はないわ。)

小泉(誰も…死なせないからね。皆。)




西園寺「…ホッ。何とか、乗り切ったみたいだね。」

罪木「ふふ、うふふふふ…。」


西園寺「…おいゲロブタ。なんでお前、そんなに上機嫌なんだ。あと、近いんだよ。」

罪木「だ、だって西園寺さん。わ、私と友達になりたいって…。」


西園寺「ねぇ、罪木。」

罪木「何ですか?」

西園寺「病院では、わたしの半径100メ―トル以内には入らないでね。」

罪木「えぇえええぇええ!!!?なんでぇえええぇえええええええ!!!!?」

九頭龍「実質、病院からの締め出しじゃね―か…。」



そうしてアタシは、不本意だが…病院に向かうことにした。




―病院―


豚神「汚らわしい。その他大勢の分際で、俺に触れるな。」

罪木「そ、そう言わずに。豚神さん、安静にしてください。」

豚神「ちっ、愚図が…。」

七海「さすがは主人公っぽい雑魚ですわね。口のきき方がなっておりません。」

辺古山「モフモフ!!」


豚神「む…貴様。その竹刀、なかなかの業物だな。銘はなんと言う?」

辺古山「モフモ-モフ」

豚神「そうか。黒龍丸というのか。」

西園寺「なんでわかるの!!?」


豚神「研ぎ澄まされたエモノに、しなやかに鍛えられた肉体…。」

豚神「貴様一体、何者だ!!?」

狛枝「よろしく。ボクは、狛枝凪斗だよ。」

豚神「貴様には聞いてない!!」




日向「あ~れ~れ~?これおかしいよ~?」

小泉「アンタが1番おかしいわよ。」


七海「確かにおかしいわ。この病院、合わせて病室が4つしかないみたいよ。」

狛枝「参ったね。ボク達病人は、5人いるのにさ。」

小泉(あ。自分たちが病人だって理解できたんだ。)


九頭龍「2階には、会議室と休憩室の2つがあるみて―だな。休憩室を病室代わりにしたらどうだ。」

七海「あの…それってつまり、1人だけ2階に行けってことですか…?」

九頭龍「ま、まぁ…そうだな。」

罪木「何か問題があるんですか?」


豚神「わかりきったことを…1人だけハブられたら、寂しいだろうが!!!」

西園寺「ウサギかよお前!!」

モノミ「呼びまちたか?」

西園寺「呼んでない!!」

小泉「皆のことを愚民呼ばわりしておいて、なんで人のぬくもりを欲してるのよ。」

罪木「ツンデレなんですね。」

九頭龍「残念すぎるぞ、この御曹司。」




狛枝「仕方ないね…。じゃあ誰が左遷されるべきか、ジャンケンで決めよっか。」

小泉「左遷!!?」


日向「よし!!じゃあ、いっくぞぉおおぉおおお!!!!」

七海「ちょっとぉ~。声がでかいんじゃないの?日向くん。」

日向「何言ってんだ。ジャンケンは、声の主導権を握った者の勝ちなんだぜ?」

狛枝「ああ…いるね。ジャンケンの時に大きい声を出す方が有利だとか言う人。」

七海「根拠ゼロじゃね―か!!それでも中身探偵かよ!!!」

日向「仕方ね―だろ?ハワイでオヤジに教わっただけなんだからよ。」

七海「貴方、ハワイで一体いくつの技術を習ったのですか?」


豚神「とにかく、早くするぞ!!ぜ、絶対に負けないからな!!!!」

九頭龍「必死すぎだろ、オイ…。」



日向・狛枝・豚神・七海・辺古山「ジャン・ケン・ホイ!!(モフ)」



狛枝「あ、1人勝ちしちゃった。ごめんね、皆。」

日向「しまった!!コイツ、“超高校級の幸運”だった!!バ―ロ―、なんで誰も気づかなかったんだ!!」

七海「お前が1番初めに気付けクマ。見た目も中身も残念なバ―ロ―。」


豚神「まずいまずいまずいって!!」

豚神「ぼっちは嫌だぼっちは嫌だぼっは嫌だぼっちは嫌だぼっちは嫌だ…」

西園寺「誰か、アイツを助けてやれよ。」

辺古山「モフモフ」




豚神「とにかく、第2回戦を始めるぞ!!」

日向「ばっちこいやぁああああああ!!!!!」

豚神「なっ!?貴様!!何を勝手に、俺よりも大きな声を出している!!」

日向「バ―ロ、こういうのは先手必勝だ!!」

豚神「くそっ、とにかく行くぞ!!」

七海「せ―の!!!!」



日向・豚神・七海・辺古山「モフ(ジャン・ケン・ホイ!!)」

罪木「もふが主になった!?」



豚神「うぉわあああああああぁあああああああああああ!!!!!」

日向「おんどりゃああああああああああぁああああああああああ!!!!!」

罪木「そ、その…誰が負けたんでしょうか。」

小泉「反応からして、日向か豚神のどっちかじゃない?」




豚神「聞いて驚け。過酷な戦場を潜り抜け、幾多の敵を蹴散らし、ようやく勝利の栄光をつかんだのはこの俺」


バシュン


豚神「あふんっ!!」


バタッ


罪木「きゃああああ!!豚神さんが突然倒れちゃいましたあ!!!?」



豚神『ワシじゃよ負けたのは。』

小泉「ワシ!?」

九頭龍「つ―か声の聞こえてくる方向が、どう聞いても倒れてる豚神からじゃねぇぞ。」

日向「危ないところだった。このパンツ型変声機とアンテナ型麻酔銃がなければ今頃、ぼっち確定は俺だったろうな。」

西園寺「どこからツッコめばいいんだよ!!」





豚神「ふざけるな…。十神家は…勝利を約束されているのだ。こんな卑怯な手に堕ちる俺では…!!」

狛枝「すごい!!豚神クンが、気力で復活した!!」

日向「バカな!?象でも30分は寝てるぞ!?化け物かっ!!?」

罪木「そんな恐ろしい薬物を、素人が投与しちゃあダメですよっ!!?」


豚神「ぼっちは日向だ!!言っておくが、これは決定事項だ!!」

日向「何言ってやがる!!ぼっちはお前だろうが!!」

豚神「ふざけるな!!ジャンケンの勝利という偉業を成し遂げたのは、他でもないこの俺だろう!!」

日向「でもお前、さっき自分の負けを宣言したじゃないか!!」

豚神「してない!!勝手に既成事実を創り上げるな!!」

日向「うっせ、バ―ロ―!!バ―カバ―カ!!!!!」

豚神「わかった、貴様は鳥葬だ!!覚悟しろ!!」

七海「おおっ、何だぁ!!?熱いファイトの勃発か!?よ―し、オレも混ぜやがれぇ!!」

辺古山「モフモフッ!!!!」

狛枝「やれやれ。ボクは、平穏に暮らせればそれでいいのに…。」

西園寺「といいつつ、なんで事件の渦中に自ら身を投じるの!!!?」

小泉「なんかもう、皆フリ―ダムだね…。」







罪木「病人たちは、なんとか寝かせることに成功しました。」

小泉「良く成功したなって感じね…。」

九頭龍「罪木のおかげだな。」

罪木「えへへ…。」


小泉「…」




~回想~


罪木「いい加減にしてくださいね~皆さん。」

日向「…」

狛枝「…」

豚神「…」

七海「…」

辺古山「…モフッ」



罪木「皆さんがそれ以上暴れると、病体に響くかもしれませんよ~。」

罪木「皆さんは病人で、私よりも弱い立場だってことを良く理解してくださいね~。」

罪木「皆さんが私の患者である限り、私の発言は絶対なんですよ~。」

罪木「あまりにおいたが過ぎるようだと、うっかり一生歩けない体にしちゃうかもしれませんからね~。」


罪木「だから…」

罪木「なるべく私を困らせないでくださいね…皆さん?」


日向「…」ブルブル

狛枝「…」コクコク

豚神「…」ガタガタ

七海「…」ゼツボウ

辺古山「モフッ!!」←わかってない


~回想終了~



小泉(あんな蜜柑ちゃん、久しぶりだ…。かつて日寄子ちゃんを開拓した時以来よ…。)


罪木「あ。あと、小泉さん。ちょっと一緒に来てくれますか?」

小泉「え?」

罪木「えっとですね。ちょっと頼みたいことが…」

小泉「うん、わかった。」


西園寺「…」

九頭龍「…」




今日はこれまで。




西園寺「おい、九頭龍。」

九頭龍「…なんだよ。」

西園寺「なんでわたしを病院組に指名したの?」

九頭龍「なんでって…わかってないのに、承諾したのかよ?」

西園寺「わたしはわたしで、試してみたいことがあったからね。」

九頭龍「何だよ、それ。」


西園寺「小泉おねぇにとっての優先事項だよ。」

九頭龍「優先事項…?」

西園寺「九頭龍が近くにいる事と、わたしが近くにいない事。小泉おねぇがどっちをとるか。」

西園寺「その結果、小泉おねぇは…九頭龍が近くにいても、わたしの元に来てくれた。」

九頭龍「何だそりゃ。テメ―は、小泉からの慕われようを自慢したかったのか?」


西園寺「何言ってんの。これってつまりさ…。」




西園寺「九頭龍との絶縁は、小泉おねぇにとっては絶対じゃないってことでしょ?」

九頭龍「あ…」

西園寺「もしかしたら…まだ、いけるかもしれない。」

西園寺「まだ小泉おねぇにも、アンタを受け入れる余地があるのかもしれない。」


西園寺「でも…焦りは禁物だよ。」

九頭龍「何だと?」


西園寺「アンタは多分…この病院で、小泉おねぇを説得する気だったんでしょ?」

西園寺「仲介役として、わたしを用意してさ。」

九頭龍「だってよ。弐大も言ってたが、時間が経てば経つほど、アイツはオレの話を聞いてくれなくなるだろうしよ。」


西園寺「だから、それが焦りなんだよ。」

西園寺「確かに、早く解決できればそれに越したことはない。」

西園寺「でも無闇に突っ込んで撃沈したら、目も当てられないでしょ。」

九頭龍「無闇にって…。絶望病がなけりゃあ、今日実行する予定だったんだろ?無闇ってわけでもないだろ。」

西園寺「事情が変わったんだ。今は…その時じゃないんだよ。」

九頭龍「どういう意味だよ、それ?」


西園寺「とにかく。今は自分の評価を、下がらないように維持することを考えろ。」

九頭龍「じゃ、じゃあ、どうすりゃあいいんだよ。」




西園寺「アンタさぁ。ココが何のための病院だと思ってんの?」

西園寺「必死に皆を看護してる姿を見れば、小泉おねぇも何かしらの感銘を受けてくれるんじゃない?」

九頭龍「い、いやいや…。言ったじゃねぇか。アイツの中でオレの評価は、復讐者で終わっちまってるって。」


西園寺「何言ってんの。好意的な印象を与えて続けていれば、どれだけ敵意むき出しの相手でも悪い気はしないはず。」

西園寺「大事なのは積み重ねだよ、九頭龍。」

西園寺「っていうかこれで小泉おねぇが何も感じないのなら、ハナから仲直りなんて不可能だよ。」

九頭龍「そりゃあ、そうかもしれねぇけどよ…。」


西園寺「ふん。これが決定打にならなくてもいいんだよ。コレはただ、機会が来るまでの繋ぎでしかないんだから。」

西園寺「とにかくアンタは、小泉おねぇの考えを変えるまでは行かないにしても…悪化しない程度の懸命さを披露してろ。」

西園寺「だから…間違っても、早まったマネだけはするなよ。」


九頭龍「…うっせ。オメ―に言われなくてもわかってらぁ。」

九頭龍「時間はまだあるんだ。いくら挫折しようが、最後には必ずアイツを懐柔してみせる。」

九頭龍「諦めの悪さだけは…一級品だと自負してるからな。」




少なすぎ?まあ気にしない。今日はここまで。




―狛枝の病室―


罪木「はい、これで完了です。あとは、安静にしていてくださいね。」

狛枝「安心して。前向きなのが、ボクの唯一の取り柄なんだからさ。」

罪木「安心できる要素がないですよ。」

小泉「…」

罪木「とりあえず、患者服に着替えさせることに成功しましたね。」


小泉「…白。色白…ボクサ―パンツ…」

罪木「…どうしました?小泉さん。」




小泉「ま、まさか蜜柑ちゃんの頼みが、皆の着替えの手伝いとは思わなくて…。」

小泉「ア、アタシ…こ、こここ狛枝の、その、は、は、は…!!」


罪木「そんな。全部見えたわけでもないじゃないですか。下着の1枚くらい。」

小泉「だ、だだだだだだってアタシ、お、男の人の体とか…お父さん以外じゃ初めてだったし…」

小泉「こ、狛枝の体が、脳裏に焼き付いて…!!」


罪木「うふふふ…小泉さん、顔が真っ赤で可愛いですぅ。そちらの方向には奥手なんですね。」

小泉「お、奥手っていうか…こ、これくらいが普通じゃないの?だ、だってその、異性の…」

小泉「は、は、はだ…」


罪木「慣れればどうってことないですよ。裸の1つや2つ。」

小泉「その『慣れる』ってのは、看護的な意味よね!?いかがわしい意味は、一切入ってないのよね!?」

罪木「ウミガメの産卵のマネよりは、幾分かはマシだとは思いますけど…」

小泉「蜜柑ちゃんの貞操は無事なの!?ねぇ!!?」

罪木「そ、そんな大きな声を出さないでくださいよぉ!!濡れちゃいます!!」

小泉「やめて蜜柑ちゃん!!勘違いする人が出ちゃうから!!」




罪木「とにかく、他の人も着替えさせましょう。」

小泉「うう、まだ男が2人もいるじゃない。病院組、完全に男手不足でしょ…。」

罪木「そ、それじゃあ私1人でやりましょうか?小泉さんに嫌なことを無理強いするわけにも行きませんし…。」

小泉「いや…やるよ。蜜柑ちゃんだってやってるのに、アタシが嫌がっているわけにもいかないもんね。」



罪木「うふふふふ…。嫌だいやだと言ってる割には、男の人に興味津々ですよ小泉さん。」

罪木「男好きの本性が見え隠れしていますね。」

小泉「何か言った?」

罪木「ふぇえええ、すみませぇえええぇえええええん!!!!」




―病院―


西園寺「そういえば、罪木と小泉おねぇはもう行っちゃったんだね。」

西園寺「出遅れてるよ、アンタ。早く看病に行け。」


九頭龍「テメ―はどうすんだよ?」

西園寺「え~?なんでわたしが看病なんてしないといけないの?」

九頭龍「何しに来たんだお前!!?」

西園寺「小泉おねぇにアピるチャンスを、アンタに多く与えてあげているまでよ。」

九頭龍「調子の良いこと言いやがって…。」


西園寺「それに…わたしと九頭龍が接触してるところを小泉おねぇに見られると、いろいろまずいからさ。」

九頭龍「ああ…そうか。」




九頭龍「まぁそれはともかく。アピ―ル、か。看病っつっても、何をすりゃあいいんだ?」

西園寺「アンタ、リ―ダ―でしょ?それくらい自分で考えろよ。」

九頭龍「いやいや…。だってオレは、庶民への復讐にドラムパラリラを考え付くような人間なんだぜ?」

西園寺「ドラムパラリラってなんだよ!!?」

九頭龍「そんなオレが、独断で行動して…果たして、まともな看病ができるかどうか…」


西園寺「まぁ…いずれにせよ、罪木が教えてくれるでしょ。最悪の場合、アイツの言うことだけはこなせ。」

西園寺「あとアンタ、その斜に構えた姿勢を何とかしろ。不真面目って感じで、見てて不快。」

九頭龍「…確かにな。こんな態度じゃあ、良い気はしねぇよな…。」

九頭龍「…っし!!気合入れて皆の看病しねぇとな!!アイツの心証を、少しでも良くするためによ!!」




西園寺「…なんかそれって、モテない男が脈無しの女に滑稽なアピ―ルをしてるようなシチュエ―ションだね―!!」

西園寺「童貞臭を隠しきれてなくて、本当に気持ち悪いよ!!」

九頭龍「はぁ…確かにそれっぽいから、反論できねぇよ。」

九頭龍「じゃあなんだ?オメ―はキュ―ピッドか?こんな毒舌エンジェル、オレは御免被る。」


西園寺「うわ…余裕の受け答えだね。これじゃフラグがたたないのも納得だよ。」

九頭龍「フラグか…。確かに、全然たたねぇな。」

九頭龍「本編の小泉と(ある意味)1番関係の深い男は、間違いなくオレなのによ。」


九頭龍「まぁオレの相手はペコで固まっているからな。」

西園寺「たまにわたしと組まされることもあるみたいよ。」

九頭龍「え…マジで?」

西園寺「ちなみに、九頭龍の相手である辺古山と小泉おねぇが組むことは結構あるみたいよ。寝取られだね。」

九頭龍「寝取られ!?」


九頭龍「まぁいい。アイツ等は今どこにいる?」

西園寺「2階から声が聞こえるよ。」

九頭龍「わかった。」




―休憩室―


小泉「ホッ…。男どもの着替えはもう終わったから、のびのびと蜜柑ちゃんの手伝いができるわ。」

罪木「はい。では今度は、辺古山さんの番ですよ。」

辺古山「…モフッ」


小泉(しかし…ペコちゃんの絶望病だけ、他の人とは特に異質ね。)

小泉(他の人は性格が全く別になったりはするけど、ペコちゃんだけは言語能力すらままならないみたいだし…)

小泉(一応、アタシ達の言ってることは理解できてるみたいだけど。)

小泉(一体どうして、ペコちゃんだけこんな症状に…?コレも裏方の意思が関係している?)

※小泉さんは昨日と一昨日の辺古山さんのモフキャラを見ていません。



小泉「はい、ペコちゃん。まずは上から脱がせるからね。」

辺古山「…」

小泉「どうしたの?ペコちゃん。」





辺古山「なぜだ…?」


小泉(あれ…?喋れるの?ペコちゃん。)



小泉「なぜって、何が?」

辺古山「なぜ貴様は、私に話しかける?」

辺古山「なぜ貴様は私に、話しかけることが出来るのだ?」

辺古山「そんなにも、自然体で…まるで、なんてことない日常の断片のように…!!」

小泉「言ってることが良くわからないな。アタシとペコちゃんの間に、何かあったっけ?」


辺古山「とぼけるな!!私はあの時、お前を…!!!!」

辺古山「なのになんで貴様は、私を責めてくれない!!!?」

小泉「ああ…そんなことを気にしてたの?やぁね、アレはペコちゃんのせいじゃないって。」

小泉「ペコちゃんが責任を感じるようなことじゃないよ。」

小泉「だからペコちゃんは、いつも通りアタシと仲良くしてね…って、前にも言ったじゃん。」



辺古山「友達として、か?」

小泉「ペコちゃんが、そう望むのなら。」





辺古山「…人間として、か?」



小泉「…」


辺古山「…」




小泉「…………」




罪木「お、お2人さん!!落ち着いてください!!」

罪木「病人は、寝ていないとダメなんですぅ!!!!」

小泉「そうよ、ペコちゃん。だからアタシ達の言うとおりに、服を…」


そう言ってアタシは、ペコちゃんに手を向け…




ピシッ

小泉「…っ!?」


…ようとすると、ペコちゃんに手を強く払われた。

まるでアタシを…拒絶するかのように。


辺古山「…」

小泉「痛いよ、ペコちゃん。アタシ、なにか悪いことしちゃったかな?」



辺古山「…寄るな。」

小泉「ペコちゃん…。」

罪木「え、ええっと、そのぉ…。」




小泉「蜜柑ちゃん…。悪いけど、ペコちゃんの着替えをお願い。」

小泉「どうやらアタシ…ペコちゃんに嫌われちゃってるみたいだし。」

罪木「き、嫌われてるって…。」


小泉「だって絶望病にかかっていながらなお、アタシを排斥するんだもん。」

小泉「多分アタシが、九頭龍を未だに嫌ってるせいなのかな?」

罪木「こ、小泉さん。それは、違…」


小泉「まぁ…仕方ないよ。ペコちゃんって、九頭龍の道具だしさ。主人を排斥する人間を、良く思うわけがないもんね。」

小泉「ペコちゃんとだけは、何とか仲直りしたいんだけどな。」

小泉「アタシが何度も接していれば、いつかは心を開いてくれるかな?」


辺古山「…やめろ。やめてくれ。お前に、何度も来られたら…!!」



辺古山「私が、壊れてしまう。」

小泉「…?」




罪木「と、とにかく辺古山さん、着替えますよ!!ほら、服を脱いでください!!」

辺古山「…」


罪木「じ、自分でできないのなら、私がしてあげますから…!!」

辺古山「…」


蜜柑ちゃんは、手慣れたようにペコちゃんの服を脱がしていく。

今までは、そのたびに眼を細めてたけど…ペコちゃんは女の子だから、その必要は…


…素肌があらわになる事で、ペコちゃんのボディラインや胸のサイズが良くわかるようになる。


大きい。

アタシのよりも、だいぶ。

下着姿も艶美で、大人の色気がある。


なんか…女としての嫉妬心が、ムクムクと…。

やっぱり、眼を逸らした方が良さそう…




ガチャ


九頭龍「おい、お前ら。何かオレに…」

九頭龍「手伝う…こと、が…?」


罪木「あっ…。」

小泉「…」

辺古山「…」



辺古山「モフッ…?」





九頭龍「…黒。」

罪木「第一声がそれですか!!!?」



九頭龍「…はっ!!!!」


九頭龍「い、いやいやいや待て!!テメ―ら、何やってんだ!!!?」

罪木「何って…患者服に着替えさせているんですよぉ!!」


九頭龍「つ―かなんで、2階にペコが…!!?豚神か日向がいたんじゃなかったのかよ!!?」

罪木「辺古山さんが2人に配慮して、自ら2階へ行くことを立候補して…」


罪木「っていうか、いつまで見てるんですか、九頭龍さん!!」

九頭龍「あ。そ、そそそそうだな。早く退散しねぇと…。」


そうして九頭龍が、踵を返そうとすると…




グニッ

九頭龍の足元にあった動くこけし『いて―な。』


九頭龍「わたた…」



体の重心が手前に大きく移動した九頭龍は、バランスを保てなくなって…


辺古山「…モフ?」


ドシャ―ン!!!!

ペコちゃんもろとも派手に転倒!!!!




小泉「…」

九頭龍「うう…あれ?痛くないぞ。なにかやわらかくて温かい何かが、クッションになって…」


辺古山「…」

九頭龍「…あ。」


辺古山「坊ちゃん…なんて大胆な。大きくなられましたね。」

九頭龍「うわぁあああああああぁああ!!!!ちっげぇよぉおおおおおおぉおおおおお!!!!!」

罪木「大きくなったって…。どこが大きくなったんでしょうねぇ?」

小泉(…)



小泉(変態。)




―その頃1階―


西園寺「…おっ。九頭龍の声が聞こえる。アイツも張り切ってんだね。」

西園寺「アイツ…ちゃんと、評価が下がらないように頑張ってるかな…?」




今日はここまで。




小泉さんの誕生日ということで、急きょ誕生日プレゼントを用意しました。

急いで書いたので、クオリティが低かったりいろいろ不備があったりするでしょうが、気にしてはいけません。

特別出演の人もいます。

http://i.imgur.com/Ibpurm5.png

ギリギリ間に合った…のか?





俺新訳ってのは名前しか聞いたことないんで良くわかんない。

1キャラの生死は…2次創作の特権でどうとでもなるでしょ(鼻ホジ―)





―病院―


罪木「と、とりあえず、患者の皆さんは落ち着いたようですし…今日はこの位ですかね。」

西園寺「はぁ~、つかれた。」

罪木「え…西園寺さん、疲れるほどに看病しましたっけ…?」

西園寺「なんか文句ある?」

罪木「…」

九頭龍「…」


九頭龍「柔らかかった…」

西園寺「…何言ってんの?アイツ。」

小泉「日寄子ちゃん。アイツには近づいちゃダメよ。貞操を守りたいのならね。」

西園寺「貞操?何があったの?」

小泉「下着姿のペコちゃんを白昼堂々押し倒して、わいせつ行為に及ぼうとしてたのよ。」

西園寺「評価が悪化してんじゃねぇか…。何やってんだアイツ。復讐者の上に痴漢のレッテルまで貼られるつもりか?」


西園寺「小泉おねぇは何かされなかった?」

小泉「今のところはなにも。」

小泉「でも…いつ襲われるか、わからなくて。怖くて怖くて仕方ないわよ。」

西園寺「…そっか。」




小泉「今日はもう遅いみたいだし…そろそろアタシ達もコテ―ジに戻ろうか。」

罪木「え…コテ―ジへ?」

小泉「ん?何か問題ある?」


九頭龍「絶望病を蔓延させるといけねぇから、病院に寝泊まりするもんだと思ってたが。」

モノクマ「残念!!患者でもない人が、病院で寝泊まりしていいわけないじゃん!!」

罪木「え…?そうなんですか?」

モノクマ「はい。看病する人として、1人までなら許可されますが。」


九頭龍「じゃあオレ達は、解散するしかねぇのか。病原菌を外に運んじまうかもしれねぇけどよ。」

西園寺「ていうかさぁ。ここにわたし達が寝泊まりできるスぺ―スなんてないじゃん。」

罪木「はい…。病院の会議室くらいしか空き場所はないですし。男女が同じ部屋の中で寝るのは…」





罪木「…あれ?もしかして九頭龍さん、それを狙ってたんですか?」

九頭龍「え?」


西園寺「わたし達3人を、手籠めにしようって?」

罪木「そういえば…病院組を指名したのは九頭龍さんでしたよね。自分以外は、女子ばかりを選んで…!!」

西園寺「うわ、キモッ…。病院組が女子しかいないからって、そんな不埒な計画を建ててたの?」

九頭龍「は、はぁ!?ちげ―って!!変な意味はね―よ!!!!」


西園寺「悪いけど、わたしの貞操はアンタなんかにあげられないの。その権利はあるべき場所に帰するのだから。」

九頭龍「どういう意味だ?」

西園寺「掃き溜め生まれの鉄砲弾とは釣り合わないって言ってんの!!わからなかった?」


罪木「そ、その…九頭龍さんがどうしてもというのなら、私は仕方なく。」

罪木「ぶたれるのが1番嫌ですから…。」

九頭龍「何をされてきたんだテメェ。」


小泉「それで赦してくれるのなら…まぁ、その程度で赦してくれるわけがないか。」

九頭龍「やめてくれよ、花村じゃあるまいし…。」




モノクマ「でも…どうして小泉さん、知ってたのかなぁ?」

小泉「え?なにがよ。」

モノクマ「病院での寝泊まりが禁止されてることだよ。」

小泉「…」


小泉「別に知っていたわけじゃないわ。ただ、病院に残りたくなかっただけよ。」

小泉「ここに居たら…いつ殺されるか、わかったもんじゃないからさ。」

罪木「こ、小泉さん…。」

九頭龍「…」


小泉(危ない…。アタシの知識は、知っていると不自然な事柄もあるからね。)

小泉(変な失言をしないように、もっと注意を払わないと。)


罪木「じゃ、じゃあ病院には私が残ります。お三方はコテ―ジに戻ってください。」

九頭龍「おいおい。お前1人に任せてしまっていいのか?無理してんじゃねぇのか?」

罪木「大丈夫です。病院といえば私の本拠地ですから。この独特の匂いも心が落ち着きますし…。」

九頭龍「そういうものか。じゃあ、オレ達は解散だ。」

西園寺「…」




小泉「ねぇ、日寄子ちゃん。」

西園寺「…え?どうしたの?」


小泉「アタシ…怖くてさ。」

西園寺「怖い?」

小泉「アイツのことも、あるけど…。絶望病で、皆の結束が崩れ始めてるし。」

西園寺「…誰かに殺されることを心配してるの?」

小泉「うん。正直に言うとね。」


小泉「だから…しばらく、一緒に寝てくれない?」

西園寺「一緒に寝るって…百合厨垂涎の展開を希望してるの?」

小泉「不安で、夜は1人で眠れそうもないの。今夜はアタシのコテ―ジに来てくれない?」

小泉「あ、アタシが日寄子ちゃんのコテ―ジに行くのでもいいからさ。」


西園寺「…そっか、わかったよ。じゃあ今日は、小泉おねぇのコテ―ジでお泊り会だね!!」

小泉「ふふっ。サンキュ―ね、日寄子ちゃん。」

西園寺「どういたしまして。何があっても、わたしは…小泉おねぇの味方だから。」


西園寺「わたしが、小泉おねぇを…守ってあげるから。」

小泉「あははっ…。頼もしいわ。このうえなくね。」

小泉「…」


小泉(ずっと…眼を離さないからね。日寄子ちゃん。)

小泉(アタシが寝ている間に、居なくなっちゃうなんて…そんなの絶対に、許さないんだから。)




―小泉のコテ―ジ―


西園寺「ねぇ小泉おねぇ!!お風呂で洗いっこしようよ!!」

小泉「洗いっこ…?ちょ、ちょっと恥ずかしいんだけどな…。」

西園寺「恥ずかしがる必要ないって!!女の子同士なんだしさ!!」

西園寺「それにわたし、小泉おねぇが着付けしてくれないと、お風呂に入れないし…。」

西園寺「そろそろ臭ってきて…皆にいじめられて…」


小泉(そっか。アタシが着付けをしなかった日=日寄子ちゃんがお風呂に入らなかった日か。)

小泉(そこから考えると…日寄子ちゃんが今、何日お風呂に入ってない状態かが算出されて…)

小泉(…やめておこう。可哀そうだし。)




―小泉のシャワ―ル―ム―


西園寺「…」

小泉「日寄子ちゃん、どうしたの?」


西園寺「…くんかくんか。」

小泉「…何してるの?っていうか、何を嗅いでるの?」

西園寺「おかしいな…。あの臭いがしないや。」

小泉「あの臭い?」


西園寺「1人でもんもんしてる時とかに小泉おねぇが、定期的に吐き出してるんじゃないかと思ったんだけどな―。」

小泉「ちょ、何の話をしてるの日寄子ちゃん!!?」


西園寺「だって小泉おねぇ、最近狛枝おにぃに入れ込んでるみたいだし?」

小泉「入れ込っ…!!!?」

西園寺「そのくせあんまり進展はなさそうだからね―。」

西園寺「だから小泉おねぇ、相当溜まってるんじゃないかと予測してさ!!」

小泉「バ、バカな話はやめてよ、もう!!なんでアタシがあんな奴に、そういう感情を…!!」

西園寺「ああ…本当に好きな人は『ネタ』にできないっていう心理?」

小泉「うるさい!!これ以上その話をするなら、日寄子ちゃんのこと嫌いになっちゃうからね!!」

西園寺「そんなに怒らないでよ~。ちょっとからかっただけじゃ―ん!!!!」


小泉「わかったよ。じゃ、日寄子ちゃんこっち来て。頭流してあげるから。」

西園寺「ぷぇ~い。」


バシャ


西園寺「冷たっ!!?」

小泉「あ…ごめん。お湯と間違えて水をかけちゃった♪」

西園寺「ごめんなさ~い!!謝るから許してぇ~!!!!」




―小泉のコテ―ジ―


西園寺「あ~すっきりした。小泉おねぇ、着付けしてよ。」

小泉「っていうか、寝る時も着物なの?」

西園寺「そりゃそうだよ。だってわたしは日本舞踊家なんだもん。」

小泉「関係あるの?それ。」

小泉(とにかく日寄子ちゃんなりのこだわりがあるわけね…。アタシにはよく理解できないけど。)


小泉「はい、着付け完了。」

西園寺「ありがとう、小泉おねぇ!!お礼にチュ―してあげる!!」

小泉「はいはい、サンキュ―ね。」

西園寺「なんか、わたしのあしらい方もうまくなってるね。小泉おねぇ。」


小泉「そろそろ寝よっか。」

西園寺「え~。朝まで語り合おうよ!!」

小泉「そういうわけにもいかないよ。明日も皆を看てあげないといけないんだから。」

小泉「しっかりと寝て、体力をつけとかないと。」

西園寺「え~。わたしは看病とかしたくないし。」

小泉「それじゃ何のために病院組になったのよ日寄子ちゃん!?」

小泉「蜜柑ちゃんの負担が重くなっちゃうでしょ?明日からはちゃんと、蜜柑ちゃんのお手伝いをするのよ?」

西園寺「うう…。わかったよ、小泉おねぇ。」


小泉「じゃあ電気を…。あ、どうやって寝る?床に布団を敷こうか?」

西園寺「いや、2人でベッドに入ろうよ!!床なんて固いし、わたしたちは仲良しだもんね!!」

小泉「ふふ。わかったよ。じゃあ、2人でベッドに…」





小泉「!!」


小泉「あ、あのさ…。やっぱり日寄子ちゃん、床で寝てくれない?」

西園寺「え…?どうして?」


小泉「そ、その…。あっ。日寄子ちゃん、トイレに行きたくない?寝る前にはちゃんと行っておかないと。」

西園寺「…?急に、脈絡のない話に…。本当にどうしたの?小泉おねぇ。」

小泉「な、何でもないって。日寄子ちゃんが気にすることでは…」


と、アタシは手を横に振りながら後ずさる仕草をしてみる。

そうすると…




ベッドのシ―ツをかかとで踏んでしまう。

そして引っ張られた布団と枕の隙間から、ヒラッと…



西園寺「…ん?ベッドの枕の下から何かが…。もしかして、コレを隠してた?」

小泉「あ、あ。見ないで。それは…」


西園寺「…ああ。写真だね。小泉おねぇ“お気に入り”の。」

西園寺「こんなのを、枕の下に入れていたってことは…」

小泉「ち、違うの!!そういうんじゃなくて、なくなってた写真がたまたまベッドに潜りこんでただけなの!!」

小泉「どこにやったのかな~って思ってたけど、まさかそんなとこにあったなんて…ってね。」

西園寺「うわぁ…そんなのが弁解になるとでも?っていうか、誰も弁解なんて求めてないのに。」


小泉「待って。わかった。それをお守りに使ってたのは認める。」

小泉「だけど、それ以上の話は何もないの!!お願い、信じて!!」

西園寺「なんか小泉おねぇ、自ら余罪を自供してないかな?」

西園寺「もしかして、お守り以上の使用方法まで?まさか、まさか…!!!?」

西園寺「ほ、ほんの冗談のつもりだったのに…。」

小泉「違うんだってばぁあああぁあああああああああああああ!!!!!」




―九頭龍のコテ―ジ―


九頭龍「…んっ。どこからか、絹を裂くような女の悲鳴が…。」

九頭龍「コテ―ジは、完全じゃないが防音仕様で、中の音は聞こえづらいはずだが…。」


九頭龍「ま…気のせいかな。」




今日はここまで。




21日目


―病院―


九頭龍「モ―テル組から、テレビ電話が届いたぞ。」

罪木「こ、これで、向こうの皆さんと連絡を取り合えるということですね。」


ピコンピコン


小泉「あ、ランプが光ってる。あっちから通信を要求してるってことだね。」

西園寺「早速つけてみよっか。」


ピッ


西園寺「お、あっちとつながったのかな?」


左右田『お、おい!!まさか、つないじまったのか!!?』

終里『あ、ワリィ。つい…』

九頭龍「ん?テメ―ら、何言って…」




『いや~。最近めっきり寒くなりましたな~辺古山はん。』

『街を歩く人も着こむ姿を良く見せるようになったし、そろそろツリ―が飾られて、もういくつ寝ると…』


花村『いけない!!音が漏れてるって!!』

弐大『は、早くそれを止めるんじゃあ!!』

田中『いや、通信を切る方が早い!!』


『自分の発言にイエスと言われたら悪い気はせんけど、モフと言われても反応に困るやね。』

『ってか、モフって言われても、何を伝えたいのかさっぱりわかりま千円。』


澪田『えっと、どこを押すんだっけ!?』

ソニア『これです、これ!!』


『というわけで、今日は出血大サ…』


ブツッ


九頭龍「…」

西園寺「…」

罪木「…」

小泉「…?」




ピコンピコン

ピッ


左右田『おっ、つながったか?こっちの声、そっちに届いて』

九頭龍「テメ―ら何見てたんだ?あ?怒らねぇから言ってみろ。」



終里『おお!!しっかり届いてんじゃねぇか、こっちの音がよ!!』

花村『さすがは“超高校級のメカニック”だね!!ライブハウスからしか電波が届かないのは残念だけど。』

弐大『というわけで、通信はモノクマアナウンスの30分後に』

九頭龍「はぐらかしてんじゃね―よテメ―らぁああぁあああああああ!!!!!!」







罪木「そ、それでは今日も、患者さんの面倒を見ていきましょう。」

九頭龍「ああ。昨日は大して役に立てなかったからな。今日はもっと張り切って行かせてもらうぜ。」

西園寺「そうそう。唯一の男手なんだし、わたしたちのために馬車馬の如く働きなよ~。」

罪木「…」




西園寺「あ?何見てんだよ、ゲロブタ。」

罪木「なるほど…なるほどなるほどなるほど…。」

西園寺「…?」


罪木「西園寺さんは、私に誘って欲しかったんですねぇ…。」

西園寺「…は?何言ってんの?アンタ。」


罪木「照れなくても良いんですよぉ、西園寺さん。昨日から休んでばかりなのも、看病の仕方がわからないからですよね?」

罪木「本当は私と一緒に、看病をしたいんですよね?じゃないと病院組に入らないでしょうし。」

罪木「だから西園寺さん、どう看病すればいいかを私に教わりたかったんですよね?」


罪木「ふふ、ごめんなさいね西園寺さん。昨日の私はドジで鈍感なカメでした。」

罪木「西園寺さんが私を必要としてくれていることに、全然気づけてなかったなんて…!!!!」

西園寺「なんか…やばいなコイツ。妙にからまれる前に、さっさと退散…」




ガシッ



罪木「どこへ行くんですか~…?さ・い・お・ん・じ・さん?」

西園寺「…!!…!!」


罪木「そんなに恥ずかしがらなくても…ちゃ―んと私が、手取り足取り教えてあげますから♪」

罪木「看病の仕方。ご奉仕の方法。ウミガメのマネから患者さんを屈服させるコツまで、それはもうネットリと!!!!」

罪木「私と…『お友達』になりましょう?」


西園寺「助けて!!小泉おねぇ、助けてぇ!!!!」

小泉「はは…日寄子ちゃんもちゃんと働いて?蜜柑ちゃんが指導してくれるみたいだしさ。」

西園寺「こ、この…薄情者ぉおおおおぉおおおおおおお!!!!!!」




―日向の病室―


日向「参った…。参ったぞ…。」

小泉「ど、どうしたのよ日向。」


日向「ここには2次元がない!!」

小泉「…2次元?」

日向「こうしているうちに外の世界では、いくつのアニメがうまれ、いくつの漫画が出版されているのか…!!」

日向「ああ…こんなところに監禁されている僕は、どんどん2次元の世界から置き去りにされていく…!!」

小泉「アンタって一体、何のキャラなの?」



日向「2次元をバカにするなよ?2次元なら、何でもアリだからな。」

日向「スト―リ―が進むにつれてツノが成長する幼馴染がいても、へっちゃらだしな。」

日向「さらに言うと、人が殺されたのを見た直後に恋愛相談してたり、××の意味を警察に聞いてみたり…」

日向「挙句の果てには、人の死体よりも幼馴染の裸の方にビックリしていても許されるんだからな!!」

小泉「なにわけのわかんないこと言ってんのよ。ってかアンタ、自分の頭にあるパンツを見てからそれを言いなさいよ。」


日向「そもそもダンガンロンパだって、2次元だから楽しめるのであって。実際問題、コレを現実に置き換えると…」

日向「人が死んでるのにふざけてるわエロネタ盛り込んでくるわ、私の勝ちだね(ドヤ!!)とか、不謹慎すぎ…」

小泉「やめて!!それ以上言ったら、いろんなところを敵にまわしそうだから!!」




―辺古山の病室―


辺古山「…」

小泉「そんな難儀な顔しないでよ、ペコちゃん。アタシは看病するだけの、デク人形だと思って。」

辺古山「…」


小泉「弱ったな。コレじゃあアタシ、ペコちゃんに何もしてあげられないや。」

罪木「ま、まぁ…。しばらくは、仕方ないですよ。辺古山さんは、私たちに任せてください。」

小泉「で、でも、アタシがやらなきゃ、人手が…」

西園寺「…ふん。わたしもちょっとだけ、看病できるようになったから。ま…するかどうかは気分次第だけど。」

九頭龍「オレも手伝うから、何でも言ってくれよ。罪木。」


罪木「あ。では、倉庫にある薬を取って来てくださいませんか?」

九頭龍「倉庫に?」

罪木「はい。私がドラッグストアからいくらか持ってきていましたので。」

九頭龍「よし、行ってくるぜ。」

罪木「あっ、待ってください。薬にも、いろいろと種類が…」





西園寺「ホンット、そそっかしいねアイツは。ちゃんと聞きもせずに行きやがった。」

小泉「…蜜柑ちゃん、やっぱりアタシも何か手伝いたい。どんな薬か、教えて?」

罪木「は、はい。欲しい薬は…」




―倉庫―


九頭龍「しまった…。罪木からどんな薬か聞いてなかった。」

九頭龍「どうする?一旦罪木の所に帰って…」


九頭龍「…いや待て。罪木の要求した薬ってのは恐らく、罪木がよく使ってたアレか。」

九頭龍「アレを持って帰れば、オレが看病を十分にやっていたことが知れて好印象だな!!」

九頭龍「よし。そうと決まりゃあ、あの薬を…」


九頭龍「…あ、あれ?届かねぇ…。くそっ、くそっ!!あとちょっとで届いて…」


ヒョイ


九頭龍「あっ…。」

小泉「…これか。」


タッタッタッ…


九頭龍「…」

九頭龍「157cm…165cm…」


九頭龍「…なにが身長だ、ボケが。そんなので男の器量が決まってたまるかってんだドチクショウ…。」

九頭龍「ドチクショウ…。」


モノクマ「なんで2回言ったの?ねぇどうして?」

九頭龍「うっせぇ!!ぶっ殺すぞ!!!!」




―豚神の病室―


豚神「…」

豚神「1つ思ったんだがな。」

小泉「何よ?」

豚神「せっかく1階の病室に配置されたのに、結局1人でいる事には変わりないのだな。」

小泉「そりゃあね。」


豚神「さて、と…。」

小泉「と、豚神?アンタ、スックと立ち上がって、何をするつもり?」

豚神「決まっているだろう。修学旅行で定番の、女子の部屋への訪問を執り行う。」

小泉「なんで修学旅行の気分に染まってんのよ、この御曹司。」


豚神「さて…出陣するか。」

西園寺「な、何か…アイツの後ろ姿、厳かだね。歩き方も、きびきびとしているし。」

罪木「っていうか、病人は安静にしていてくださいよぉ!!」

九頭龍「よ、よ―し。こういう時こそオレがビシッと、豚神に言い聞かせて…」


ザッザッザッ…

豚神は、ものすごい威圧感を放ちながら歩いている。

そしてそのまま、千秋ちゃんの病室に…





七海「デストロ―イ!!!!!」ガシャ-ン

豚神「ぎゃああああああああ!!!!!」ゴロゴロゴロ

九頭龍「ほんぎゃあ!!!!」ベチャッ



罪木「く、九頭龍さんが、豚神さんの下敷きに…」

小泉「…」


豚神「くそっ…諦めるものか!!次は2階だ!!」

九頭龍「」チ-ン




―狛枝の病室―


狛枝「う~ん、う~ん…。」

罪木「た、大変ですぅ!!狛枝さんの容態が、極めて悪いですぅ!!死んでしまうかも…!!」

西園寺「そんなに悪いの…?」

小泉(コレも…前回と同じなのね。)


罪木「と、とにかく、狛枝さんは私がつきっきりで看ますから!!ぜ、絶対に死なせません!!」

九頭龍「…くそっ。オレ達はただ、指をくわえて傍観することしかできねぇのかよ…。」

西園寺「うん。正直言って、今コイツに死んでもらうと、すごく困るんだよね。」

小泉「ええ。もう、誰も死んでほしくないもの。アタシの仲間は、誰も…。」


西園寺「…ところで小泉おねぇ。いいの?」

小泉「…え?いいのって、何が?」

西園寺「狛枝おにぃが別の女と徹夜で一緒にいる予定な事に関してさ。」

小泉「…こんな時までそんなことに頭がまわる程、入れ込んでると思われてたの?」




―病院―


九頭龍「よし。最後に、アイツ等の報告を聞くか。」


ピッ


ソニア『そちらの状況はどうですか?』

九頭龍「あまり良くはねぇな…。狛枝の容態が特に悪いらしいしよ。」

西園寺「もしかしたら、明日までにはご臨終かもね―。」

左右田『マジかよ…。いくら狛枝でもな…。』


小泉「そっちはどうなの?」

弐大『あまり良好とは言えんのう。絶望病に関する手掛かりはさっぱりじゃあ。』

左右田『それどころか皆…絶望病に怯えてるのか、単独行動が目立ってきてんだよな。』


小泉「え?単独行動が…?ってことはもしかして今、全員がそろっているわけじゃないの?」

弐大『ああ。ライブハウスに集まったのは、たった3人じゃあ。』

ソニア『わたくし達、段々バラバラになっていってますね…。』


左右田『何か…ヤベェよ。絶望病も解決しねぇし、皆の結束は破綻するし…』

左右田『こ、これじゃあ本当に、事件が…!!』

ソニア『何を弱気なことを言っているのですか、左右田さん!!事件など絶対に…!!』

弐大『そうは言ってものう…。』

小泉「…」





小泉「心配しないで、皆。」


弐大『ん?』

小泉「事件なんて、アタシが起こさせない。皆を、誰1人として死なせない。」

小泉「だから安心して。」


小泉「アタシが…皆を守るから。」

西園寺「小泉おねぇ…?」



九頭龍「…じゃあ、切るぞ。」

ソニア『はい。また明日。ごきげんよう。』

九頭龍「…」




弐大『さてと…通信も終わったことだし。』

左右田『恒例のアレ、行きますか!!』

ソニア『再生の準備も、整いました!!』

弐大『電源、ON!!』



ア゙~    ア゙~       ア゙~       ア゙~


『いや~。最近めっきり寒くなりましたな~辺古山は』




九頭龍「聞こえてんだよゴラァああぁああああああ!!!!!」


左右田『なっ!!?実はまだ、切ってなかった!!!?』

ソニア『せ、せこいですわ!!』




今日はここまで。




22日目


―病院―


罪木「ふぇええぇえ~…頭がぐわんぐわん言ってますぅ~…。」

小泉「だ、大丈夫?蜜柑ちゃん。」

罪木「あれ…?どうして小泉さんが2人いるんですか?」

罪木「もしかして影分身ですか?小泉さんの正体は、“超高校級の忍者”だったんですか?」

九頭龍「何か…ヤバいなコイツ。完全に、ヤク切れした中毒者の眼をしてやがる。」

西園寺「昨日狛枝おにぃを一晩中看てたらしいしね―。」


罪木「あ、でもぉ。狛枝さんの容態が安定してきたんですよぉ!!」

小泉「そっか…。それは朗報だ。サンキュ―ね、蜜柑ちゃん。」

罪木「そんな、コレが私の生きがいですから。」


九頭龍「とはいえ、相当疲弊してんな。罪木は一旦休ませるか。」

罪木「え…そんな、悪いですよぉ。」

小泉「無理しないで。埋め合わせはアタシ達でやるからさ。」

西園寺「ま…ぶっ倒れて患者が増えたら、こっちもたまったもんじゃないしね。」

罪木「そ、それではお言葉に甘えて…。私は2階の会議室で休憩してきますぅ。」







九頭龍「…っし。今日も、アイツ等の面倒を看てやんねぇとな。」

西園寺「ゲロブタがいない分、面倒くささが増しそうだけどね―。」

小泉「…」

小泉(今日も、か。正しくは…)



小泉(今日で最後、だ…。)


小泉(動機として絶望病が提示されて…今日で3日目だ。)

小泉(おそらく…今日が佳境だ。)

小泉(裏方が動くとしたら…今日。今日、誰かを“本当の絶望病”に感染させるだろう。)

小泉(だから今日、アタシが傍観していたら…誰かを死なせてしまう。)

小泉(そうは…させない!!!!)


小泉(そして…)

西園寺「…?どうしたの?小泉おねぇ。」

小泉「…」




小泉(日寄子ちゃん…。夜の間もアタシのコテ―ジで、日寄子ちゃんを見張らせてもらっている。)

小泉(だからこれからも…日寄子ちゃんには、アタシの見えるところに居てもらって。)

小泉(日寄子ちゃんには絶対に、記憶を取り戻させない。希望病に感染する暇なんて、与えない!!)



小泉(…しかし不安は残るわね。そもそも今ここにいる日寄子ちゃんは本物なのかな?)

小泉(もしかしたら…とうの昔に、影武者と入れ替わっているのかも?)

小泉(といっても、それを確かめる術もないし…。)


小泉(それに前回アタシは、この時には絶望病にかかってたわよね。)

小泉(裏方が本気で日寄子ちゃんを“本当の絶望病”に感染させたいのなら、まずはアタシを絶望病に感染させればいいはず。)

小泉(アタシを病院に隔離して、日寄子ちゃんとアタシを分断しさえすれば…)

小泉(日寄子ちゃんが記憶を取り戻すチャンスは、いくらでも存在できてしまうのだから。)


小泉(でも裏方は…それを、あえてしていない。どうして?やっぱりもう…?)

小泉(いや…こんな悲観的になっても仕方ない。とにかく、アタシがすべきことは…)




小泉「ねぇ、日寄子ちゃん。」

西園寺「え?」


小泉「これ…蜜柑ちゃんに渡してきてくれない?」

西園寺「これって…栄養ドリンク?」

小泉「うん。蜜柑ちゃん、疲れてるみたいだし。まぁ、お見舞いのような物よ。」


西園寺「…ああなるほどね!!休んでばっかりいないで、とっとと働けるようになれ!!って罪木にムチ打てってことね!!」

西園寺「分かったぁ!!じゃ、行ってくる!!」

小泉「…」




―病院の会議室―


罪木「ふゆぅ…ここ、ベッドもないんですね。ま、まぁどうせ私ですし、この際地べたでも…」


西園寺「お―い、罪木!!」

罪木「ふぇ?西園寺さん?」

西園寺「えへへ―。今日はゲロブタにプレゼントがあるんだよ―!!」

罪木「ええっ!!?西園寺さんが、私に!!!?」


西園寺「はいこれ。」

罪木「これは…栄養ドリンク?」

西園寺「そうそう!!アンタみたいなゲロブタに、図々しくも休んでいる権利なんてないもんね!!」

西園寺「それを飲んで、さっさと奴隷の如くはたら…」




罪木「ふふ…ふふふふふふ…。嬉しいです。西園寺さんが私に、プレゼントだなんて…!!」

西園寺「…あれ?なんか、いけないスイッチを起動しちゃった?」

西園寺「あのねゲロブタ。プレゼントといってもこれは、アンタの仕事量を無理やり増やすという皮肉で…」


罪木「私の仕事が増えるということは、皆さんが私を必要としてくれるってことじゃないですかぁ!!」

罪木「ふふふふふ…西園寺さんには、私が必要なんですねぇ…!!」

西園寺「…あ、そう。じゃ、わたしはここらで…」





ガシッ



西園寺「またこのパタ―ン!!?」

罪木「うふふ…今日は、西園寺さんを抱き枕にして寝てみますぅ。きっと、良い夢見れますよぉ。」

西園寺「これは悪い絶望だぁああぁああああああ!!!!!!」

小泉「ふふ…蜜柑ちゃん、良い笑顔だな。順調に、日寄子ちゃんと仲良くなれてるもんね。」




小泉「これならきっと…蜜柑ちゃんは、絶望病にはかからない。」

小泉「記憶を取り戻して…自殺に走ったりなんかしない。」

小泉「…」




絶望病による目的は、誰かの記憶を呼び起こすこと。

そうしてその人を絶望に染まっていた時代に引き戻し、事件を起こす動機にさせることだ。

だから一見、アタシ達の誰もが記憶を取り戻す脅威にさらされている…ように見える。

絶望病が…回避不能の最悪な兵器だと、錯覚する。


でも…違うんだ。

この動機は、完璧じゃない。

むしろ裏方にとって、かなりリスキ―な“賭け”なんだ。




気になったのは、絶望病にかかった皆だ。

前回は田中、狛枝、千秋ちゃんの3人だった。

感染させる対象がアタシ達の中から無作為に選ばれているのなら、手の施しようがなかった。

そもそも今回、絶望病にかかったのがアタシだったなら…もう、お手上げだった。


でも、今回の患者は…日向、狛枝、豚神、千秋ちゃん、ペコちゃんだった…。

日向、豚神、田中、ペコちゃんはともかく…狛枝、千秋ちゃんは感染させる対象に2度も選ばれている。



つまり…偏ってるんだ。

絶望病になる人間が。




じゃあ、絶望病を感染させる対象に選ばれるのは、どんな人間か?をアタシは考えた。

それを考察するのに、最もわかりやすいのは…千秋ちゃんだ。


そう。

千秋ちゃんは、未来機関の人間。

つまり…


本当の絶望病に感染しても、まるで影響を受けることのない人間なんだ。



今回の動機によって、事件を起こす可能性がない。

だからこそ千秋ちゃんは、絶望病に感染させる対象に選ばれたのではないか?

動機を得られない人間を絶望病によって無力化させておいて…

動機を得やすい人間が単独行動をとりやすい状態にすることこそ、裏方の目的なのではないか?

そうすれば、事件が簡単に起きてしまうから。



しかし動機を得ることのない人間は、既に記憶を保持している千秋ちゃんだけ。

学園時代のアタシ達は、ほとんどが絶望の残党だ。

今回の動機に置いて、アタシ達は同じ条件下にある…と思えるかもしれない。




でも…それは違う。

アタシ達は、同じ条件ではない。


そうか、思い出したよ。修学旅行の本来の目的を。

修学旅行…つまり希望更生プログラムの目的は、アタシ達絶望を更生すること。

記憶を取り戻しても、絶望に還らないための修学旅行なんだ。

50日を期日としてると言うことは、50日あればほぼ全員の絶望を取り除くことが出来ると計算されているということ。

実際…絶望のカリスマだったアタシでさえ、50日で更生されたわけだし。


じゃあ…絶望を取り除くために、アタシ達全員が50日いっぱいを必要とするか?

否。

絶望を取り除くためにかかる時間は、当然個人差がある。

1週間で良い人間もいれば、最終日近くまで時間を要する人もいるかもしれない。




じゃあもし…絶望病にかかり記憶を取り戻した人間が、既に絶望を完全に除去できた人間だったとしたら?

その人は自殺に走らないだろうから、事件が起きないどころかアタシ達に重大な情報を漏らしてしまうことになる。

そうすると、コロシアイ修学旅行で犠牲者を出すことが極めて困難になる。

モノクマを操っている側からすれば、これは最悪のシナリオだろう。


だから裏方は、慎重に吟味しないといけないんだ。

動機を得にくい人間…つまり更生される時期が早そうな人間には、今回の動機を提示してはいけないのだ。


そういう人間が日向や豚神だったからこそ、彼らも千秋ちゃんと同様絶望病に感染させられたとは判断できないだろうか?

彼らはリ―ダ―シップも執れる人間だから、皆の混乱を呼ぶにはうってつけだしね。

狛枝は良くわからないけど…別の動機でも事件を起こしやすそうだから、感染者に選ばれたのかな?




そうだ。裏方は…

記憶を取り戻せば事件を起こしてくれるような人間を厳選して、本当の絶望病に感染させなければならないんだ。

何も考えずに何人もの記憶を呼び起こすなんて暴挙、とれるわけがなかったんだ。



それなのに…あんなに眩しい笑顔な蜜柑ちゃんを、動機の対象にできるか?

アタシが裏方なら、そうはしない。


最も更生していないと判断できる…1番、絶望に侵されている人間を、本当の絶望病に感染させるだろう。

そこから逆算すれば…!!!!




夕方


―病院―


小泉「あ、蜜柑ちゃん。起きたんだ。」

罪木「は、はい…。十分休養をとらせてもらいました。西園寺さんのドリンクも効き目バッチリです!!!」

西園寺「…」ゲッソリ

小泉(な、なんか日寄子ちゃんがゲッソリしてる…。)


罪木「今まで休んでた分、取り戻しますから!!ビシバシこきつかってくださいね!!」

小泉「ま…ほどほどにね。」


小泉「あ。じゃあ、蜜柑ちゃん。」

罪木「ふぇ?」

小泉「日寄子ちゃんに指導を、キッチリしてくれない?」

西園寺「はっ!!!?」

小泉「日寄子ちゃん、看病にけっこう精をだすようになってるみたいだし…。」

小泉「ね?蜜柑ちゃん。日寄子ちゃんと一緒に、看病してあげて?」

西園寺「ちょ、ちょっと、おね…!!」


罪木「はい!!任せてください!!わ、私、西園寺さんと…!!」

西園寺「…まぁ、おねぇの指示なら仕方ないね。口実とはいえ、そもそも病院に来た目的はそれだったもんね。」

西園寺「わたしはゲロブタの横でエア看病してるから。頑張ってね?」

罪木「エア看病ってなんですか!!?」

小泉「はは…任せたよ。蜜柑ちゃん。」



小泉「絶対に…日寄子ちゃんから、眼を離さないでね。」

罪木「え…?は、はい…。」


小泉「さて、と…。」




―辺古山の病室―


辺古山「…」



小泉「ペ・コ・ちゃんっ!!!!」

辺古山「…!!!!」


辺古山「…何をしに来た。」

小泉「何って、ここは病院でしょ?なら、することは1つしかないよね?」

辺古山「看病なら、他の奴にしてもらえればいい。」

小泉「つれないこと言わないでよ、ペコちゃん。アタシはペコちゃんと、お話したいんだから。」

辺古山「…私には、お前と話すことなど何もない。出て行ってくれ。」


小泉「相変わらず、取りつく島もないわね。アタシはこんなに、ペコちゃんと仲良くなりたいのに。」

小泉「いつになったらペコちゃんは、心を開いてくれるのかな?」





小泉「…あっ。そっか。」




小泉「そもそも、開く『心』がないのか。」


辺古山「!!」




辺古山「ぁ…ぅあ…」


小泉「だってペコちゃんは、九頭龍の道具だもんね。心なんてない、ただの人形だものね。」

小泉「そんなガラクタに…情を期待するのが間違い、ってことよね。」

辺古山「あ…あ…」








辺古山「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」




辺古山「ぅあああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」



小泉「ふふ…またね、ペコちゃん。」




―病院―


九頭龍「この悲鳴…ペコ!!!?」

九頭龍「チッ!!!!」

ダダッ


小泉「…」

罪木「あ、小泉さん!!な、何ですか、あの悲鳴は!!!!?」


小泉「蜜柑ちゃん。アタシちょっと、ライブハウスに散歩に行ってくるね?」

西園寺「ライブハウス…?それって、菌を運ぶことになるんじゃ…?」

小泉「ああ…平気よ。」

小泉(絶望病は、空気感染しない。あれは完全に、特定の人間を狙い撃ちにできるものだ。)

小泉(じゃないと何度も都合よく、千秋ちゃんばっかり感染するなんて、有り得ないもの。)


小泉「じゃね。」

西園寺「あ、小泉おねぇ…!!」

罪木「西園寺さん、今は上の方が先です!!」




―辺古山の病室―


九頭龍「ペコ…ペコ?」

辺古山「ぁあ…うぁあぁあぁあああ……」


九頭龍「どうしたんだよ、しっかりしろよ…。」

辺古山「ぁあぅぁああああああぁあああぁうあ……」


九頭龍「おい!!聞こえてるんなら、返事をしやがれ!!!おい!!!!」

九頭龍「返事を、してくれよぉ…!!!!!」

辺古山「ああああああ……」



九頭龍「どうしちまったんだよぉ…。今までもおかしかったけど、ここまでじゃなかっただろう…?」

九頭龍「なんで…なんで、こんなことに…?」





九頭龍「!!」



九頭龍「さっき…小泉とすれ違った。まさか、アイツ…!!!?」

九頭龍「クソッ!!!!!」




―辺古山の病室前―


西園寺「えっ、九頭龍?どうしたの?」

九頭龍「小泉はどこへ行った?」

罪木「こ、小泉さんは、ライブハウスへ散歩に…」

九頭龍「分かった!!!!」


西園寺「お、おい!!!!どこへ行く気だ、九頭龍!!!!」

罪木「さ、西園寺さん!!ぺ、辺古山さんが…!!!!」

西園寺「…なんだって!!!?」




―ライブハウス前―


小泉「…」

小泉(来たか…。)



九頭龍「はぁっ、はぁっ…。」

小泉「…」


九頭龍「小泉、テメ―…。」

小泉「…」




九頭龍「ペコに…何を吹き込みやがった!!!!?」

小泉「…」




九頭龍「答えろ!!!!」


小泉「…」







小泉「ふふっ。」







九頭龍「…あ!!!?」

小泉「バカな男…。」



小泉「まんまと、おびき寄せられたわね…。」




今日はここまで。




―辺古山の病室―


辺古山「はぁ…はぁ…」

罪木「だいぶ落ち着いたようですね…。」

罪木「でも辺古山さん、どうしてこんなことに…?」

西園寺「まぁ、心当たりがあるっちゃあるけど…」

罪木「え?」

西園寺「あまり考えたくない…恐ろし過ぎる、心当たりなんだよね…。」

罪木「…」


辺古山「ぼっ…」

罪木「ぺ、辺古山さん、どこへ行くつもりですか!?ダメですよ、安静にしていないと!!」



辺古山「坊ちゃんが、危ない…!!」

罪木「えっ…!!?」

西園寺「…虫の知らせってやつ?あいにくだけど、わたしもそうなのよね。すごく、悪い予感がする…!!」

辺古山「私が、行かねば…!!」

罪木「あ、足がフラフラじゃないですかぁ!!そんなのじゃあまともに歩くことすら…!!」


西園寺「いや…わたしたちは、行かなきゃいけない。そんな気がする。」

罪木「え…3人でですか?」

西園寺「そうだよ?」

罪木「西園寺さん1人で行かないんですか?」

西園寺「だって怖いじゃん。」

罪木「こんな時に怖がるようなキャラでしたっけ!?」




―ライブハウス前―


九頭龍「…おびき寄せた?テメ―、オレを殺しでもすんのかよ?」

小泉「そう思える?崖を背にしてるのはアタシなのよ?」

小泉「殺人鬼を目の前にして、いつ殺されるか怯えてるのは…むしろ、アタシの方なんだから。」

九頭龍「…オレが近づいたらテメ―が怖がるから、こうして距離を置いてやってんだろうが。」


九頭龍「でも…だからってそれが、ペコを傷つけた事を見逃す理由になるわけじゃねぇ。」

九頭龍「テメ―も聞いたんだろ?ペコの悲鳴を。今までにないくらい、精神的に追いやられていた。」

小泉「脆いわね。本当の事を言っただけで、そこまで崩れるんだからさ。」

九頭龍「やっぱり、そういうことなのかよ…!!」

九頭龍「テメ―がペコを道具と呼ぶから、ペコは…!!!!」

九頭龍「ペコが壊れちまったら…どうしてくれるんだよっ!!?」


小泉「それは大変ね。急いで修理にださないと。」

九頭龍「テメ―!!!!」




小泉「そんなにカッカしないでよ。まぁいくら本当の事だからって、耳に痛い話があるのは確かだけどね。」

小泉「アタシだって、ペコちゃんに人殺しの共犯者だとか、ドブネズミ呼ばわりされた時は…すごくショックだったもん。」

小泉「否定できない分、なおさらね。」

小泉「ペコちゃんにも、そういう事をよく知って欲しかったの。仲直りには、アメだけじゃダメだと思ってね。」


九頭龍「仲直り…ペコとか?よくそんなことが言えるもんだな。アイツを、対等な人間として扱ってやってないくせによ。」

小泉「何言ってんのよ。ペコちゃんが道具だからこそ、アタシはペコちゃんと仲直りできるのよ。」

小泉「アタシは…道具としてのペコちゃんとしか、仲直りなんてできないの。」





小泉「人間としての『辺古山』なんて…アンタと同じ、ただの人殺しなんだから。」

小泉「いや…復讐っていう『理由』がない分、九頭龍以下の殺人鬼よ。」


九頭龍「っ…!!お前は、殺人鬼としてのペコを許せねぇってのかよ。」

小泉「そういうわけじゃないわ。アタシだって、できるならペコちゃんを許してあげたい。」


小泉「でもペコちゃんって、アタシ達が思う以上に脆いじゃない。」

小泉「アタシがちょっと揺さぶるだけで、あんなに悲鳴を上げてさ。」

小泉「そんなペコちゃんが、殺人の罪を糾弾されて…正気を保てると思う?思わないよね?」


小泉「罪っていうのはね。特に、殺人っていうのはね…重いんだから。」

小泉「気が狂うほどに、ずっとまとわりつくの。重くて、重くて…1人じゃ、背負い切れないほどに。」

小泉「九頭龍を外に出すためなんていうくだらない理由でアタシを殺そうとした『辺古山』には…想像もつかないでしょうよ。」

小泉「アタシだってそれを、嫌というほど味わった…。泣き喚いて赦しを請うたって、助けなんて来なかったもの。」

九頭龍「…」


小泉「だからさ。ペコちゃんを道具と思えるようになれば、すべて丸く収まるのよ。」

小泉「誰もペコちゃんを咎める必要がなくなるんだからさ。」

小泉「許されることのない罪を、無理に背負う必要なんてないと思うのよ。」

小泉「それがペコちゃんに送れる、1番の優しさだと思わない?」





九頭龍「お前がそう思うのは…ペコと自分を、重ねているからか?」


小泉「…?」



九頭龍「自分自身が、赦されてないから…なのか?」


小泉「…」




九頭龍「オレも、いろいろ考えたんだよ。無い頭を絞って、アイツ等にも頭下げて。」

九頭龍「何とかして、小泉を赦せる方法を…!!」

小泉「…やめてって言ってるでしょ。アンタに、そんな権利はない。」


九頭龍「だけど、それじゃ誰も救われないだろっ!!!?」

小泉「…」


九頭龍「さっきお前だって、言ってたじゃないか。罪を背負うってのは、狂おしいほどに過酷な物だってよ。」

九頭龍「小泉は今もそれにさいなまれて…苦しいんだろ?解放されたいとは思わねぇのか?」

九頭龍「なら簡単じゃねぇか。難しく考える必要なんかねぇんだ。赦される機会が来たのなら、甘んじちまえよ!!」

九頭龍「オレを復讐者としてしか見れないのなら、お前が望む形で償わせてやるからよ!!」

九頭龍「だから…!!!」








小泉「ふふっ。」





九頭龍「…えっ?」



小泉「ふふふふふ、クックックックック……」

九頭龍「何…だよ…?」




小泉「アンタ…何もわかってないのね?」

九頭龍「はぁ…?」


小泉「アンタがそんなことを言えるのは…記憶がないからでしょ?」

九頭龍「記憶って…そんなの、お前にも…」


小泉「…この辺には、音を拾う機械はなさそうね。ちょうどいいわ。」

小泉「じゃあ、例えばの話。もし学園時代に、トワイライトの件でさ。」





小泉「アタシが九頭龍に拷問されて、人殺しを強要されていたとしたら…どうする?」

九頭龍「…何の、話だ!!?」


小泉「アンタは勘違いしてるかもしれないけど。E子ちゃんを殺したのは、アンタじゃないよ。」

九頭龍「えっ…?」

小泉「真犯人はアタシ。アタシはアンタの拷問に屈服して…自分の命を守るために、E子ちゃんを殺したの。」

九頭龍「なんだよ、それ!?そもそもどうしてテメ―が、そんな事を…!?」


小泉「よかったわね、九頭龍。これでトワイライトでアンタの汚点はなくなったわよ。」

小泉「まぁ…そもそもアンタが、E子ちゃんのことを覚えていたかは謎なんだけどさ。」

小泉「これでアンタは、アタシを赦す必要もなくなったよね?アンタはそもそも、許しを請う必要もないんだから。」

九頭龍「…それでもオレは。この島で小泉を殺そうとしたことを、詫びなきゃ…。」

小泉「ああ、じゃあもう1つ。」





小泉「このコロシアイ修学旅行を計画したのはアタシ…って言ったら、どうする?」

九頭龍「…」


九頭龍「はっ!!!?」

小泉「いわゆる、黒幕って奴?それ、アタシなのよ。」

九頭龍「何をわけのわかんねぇ事を…ハッタリかましてんのか!!?」


小泉「まぁ、信じるかそうじゃないかは九頭龍の自由。でも、それが真実だと仮定するとね。」

小泉「コロシアイを皆に強要して…九頭龍や、ペコちゃんまで危険にさらしているのよ。」

小泉「“絶望のカリスマ”であるアタシはね。」


小泉「正直言ってアタシは、ペコちゃんのことを糾弾できるような人間じゃないの。」

小泉「ペコちゃんよりも、はるかに多い人を犠牲にしちゃってる。」

小泉「そのくせ自分で人を殺したことはないの。あ。E子ちゃんを殺してるから、1人ね。」

小泉「ホンット、卑怯よね。アタシって昔からこうなの。自分の手を汚さずに、人を傷つけてばっかり。」



小泉「それでも九頭龍は…アタシを赦してくれる?」

九頭龍「…」




小泉「わかってる。赦されちゃいけないのよ、アタシは。コレは一生背負っていかないといけない業なんだから。」

小泉「だからペコちゃんには、アタシと同じ道を歩んでほしくない。罪なんて、ない方がマシに決まってる。」



九頭龍「…そんなの、哀しすぎるだろ。それじゃあ、どうしたら小泉は救われるんだよ?」

小泉「え?」

九頭龍「知ってるんだぞ。あの事件以来、小泉が1回も写真を撮ってねぇってことをよ。」

九頭龍「お前が写真を撮れねぇのは、救われていないからで…」





パシャッ



九頭龍「っ…!!!?」

小泉「…うふふ、絶妙なマヌケ顔ね。」

九頭龍「お、おい。今…」

小泉「九頭龍も見てみる?デジカメだから、すぐに見れるよ。」


小泉「最っ高の“笑顔”が、撮れたのよ?」

九頭龍「…!!」



小泉「…アンタはさっき、誰も救われないって言ってたわよね?」

小泉「その推理はピンボケだよ?」

九頭龍「ピン…?」


小泉「そもそも、おかしいと思わなかった?いくら距離を置いてるとはいえ、アタシがアンタと会話ができてることがさ。」

小泉「アタシが赦されていないからって、アタシが救われていないわけじゃないの。」


小泉「いや…むしろ逆よ。」

小泉「赦されていないからこそアタシは今、九頭龍の笑顔だって撮れるようになったのよ?」




今日はここまで。




九頭龍「…あ!?どういう意味だ!!?」

小泉「ふふ…。アイツはね。アイツだけはね…ずっと、アタシの味方をしてくれるの。」

九頭龍「…味方?」


小泉「あの時の皆って…切腹程度で情にほだされて、九頭龍の肩を持ってたよね。」

小泉「まぁ…事件の詳細を何も理解できてない人間なら、当然の反応なんだけどさ。」

九頭龍「…」


小泉「でもね、アイツだけは。九頭龍の罠にはまって、場の空気に流されていた皆に…全く左右されることなく。」

小泉「常に客観的な観点から事件をとらえて、九頭龍の目論みを打ち破ってくれたのよ?」

九頭龍「目論みって…オレは、皆の同情をかいたかったわけじゃ…」


小泉「これってアイツが、アタシの事を深く理解してくれてるってことよね?」

小泉「アタシの考えを支持して、味方に付いてくれてるってことよね?」

九頭龍「…まさか、『アイツ』の正体って!!?」




小泉「それだけじゃない。アイツ、言ってくれたのよ。アタシの罪を、一緒に背負ってくれるって。」

小泉「1人で背負い切れない程重い罪なら、ボクにも任せろってさ。」

小泉「ふふっ。ちょっと、カッコ良いって思っちゃった。」


小泉「アイツの存在が…アタシの気持ちを、落ち着かせてくれる。九頭龍に怯えているアタシを、勇気づけてくれる。」

小泉「罪の意識に押し潰されて、気が狂いそうになったアタシを鎮めてくれる。」


小泉「九頭龍がアタシに絶え間なく向けてくる怨念から、アタシを守ってくれるの!!」

小泉「九頭龍から赦されていないという絶望を、まるごと振り払ってくれる希望をアタシに与えてくれるのよ!!!!」

九頭龍「…!!」




小泉「アタシはアイツから、ぬくもりをもらったの。アタシがアタシとして生きるための、人の温かさをさ。」

小泉「そのぬくもりが、罪に囚われてるアタシの手を引いて。荒んだ心を、パァッ…って溶かしてくれる。」

小泉「アタシにもう1度、写真家として生きていけるって思わせてくれる。」


小泉「いくらアタシが、九頭龍にいじめられても。虐げられても。どれだけ過酷な拷問を受けたとしても。」

小泉「薄く、脆い…でも、伸縮自在で心強い。」

小泉「そんな空間を、アタシの周りに霧のように張り巡らせて。」

小泉「中にいるアタシを守ってくれるの。」


小泉「心が安らぐの。魂に、平穏がやってくるの。アイツがただ、アタシのそばにいるだけで。」

小泉「この世のどこかに、存在するってだけで。」

小泉「この希望がある限り…アタシはまた、写真を撮れるようになるのよ。」


小泉「だからアタシは…九頭龍に赦されていなくても、既に救われているの。」

小泉「アイツの存在が供給する…希望によってね。」

小泉「アンタもわかるでしょ?こういう気持ち。アンタにも、大事な女がいるもんね。」

九頭龍「…」





九頭龍「いや。やっぱりそれはおかしい。」

小泉「え?どうして?」


九頭龍「例えば、オレが死んでいるのなら。そういう救われ方もアリなのかもな。」

九頭龍「オレが死んじまえば、お前はオレから赦されることは永遠にできなくなる。」

九頭龍「だから『赦し』の代替として…誰かに依存するってのも、分からなくない解決方法だ。」


九頭龍「だけどそれはあくまで、オレがいない場合だ。お前は『赦し』を受け取ることが出来る状況にいる。」

九頭龍「なのになんで『赦し』自体を欲さずに、代替品だけを望む必要があるんだ!!?」

九頭龍「いくら代替品があるからって、オレの『赦し』を拒絶する理由なんてないだろ!!?」

九頭龍「だってお前の言ってることは、根本的な解決にはなってないんだからよ!!」

小泉「…」





小泉「はぁ~…。アンタってホンット、人の話を聞かない奴なのね。」


九頭龍「…あ!?」

小泉「アタシは言ったよね。アタシが救われているのは、赦されていないから『こそ』だって。」

九頭龍「…なに!!?」


小泉「今となっちゃあね。もはやアンタに赦されると、困るのよ。」

九頭龍「な、なんでだよ!!?」

小泉「だって、アンタに赦されてしまったら…」





小泉「もう、アイツに守ってもらえなくなっちゃうじゃない。」

九頭龍「…何を、言ってるんだ!!?」


小泉「アイツがアタシを守ってくれるのはね。アタシが赦されていないからこそなの。」

小泉「これって逆に言うとね。」

小泉「アタシが赦されてしまったら、アイツはもうアタシを守ってくれなくなるってことなのよ。」

九頭龍「はぁっ…!!!?」


小泉「そりゃそうよね。アタシが『弱味』を見せているからこそ、アイツはアタシを守ってくれてるんだもの。」

小泉「九頭龍の脅威にさらされて、写真もろくに撮れなくなるほど衰弱してるという『弱味』をね。」


小泉「だからその『弱味』がなくなってしまえば、アイツが、アタシを守る理由がなくなってしまう。」

小泉「アタシとアイツの接点がなくなっちゃう。」

九頭龍「接点…?」




小泉「ホラ、話のタネって必要でしょ?アイツと一緒に居られる時間を長くするためにさ。」

小泉「だって…元々アタシとアイツとのつながりなんて、何もないしね。」

小泉「あ。もちろんアタシだって、アイツの事を少しは知ってるつもりよ?」

小泉「アタシのアップルパイを頬張ってる時の、アイツの笑顔…ふふっ、カワイイ所もあるわよね。」

小泉「でもアイツって、本当につかみ所がないし。」

小泉「一生懸命アタシから話しかけないと、アイツの記憶にも残らないだろうから。」


小泉「だからさ。アタシをアイツが守ってくれる…っていう関係を、口実にして。」

小泉「アイツと…も、もっと深い仲に、なんて…えへへ。」


九頭龍「な、何だよ、それ…!?お前、自分の咎を…そんな理由で!!!?」

小泉「『弱味』っていうのはね。時として、女の武器になるのよ?」

小泉「ふふっ、1つ大人になったわね。坊ちゃん?」

九頭龍「…!!」


小泉「だからアイツとの関係が、アンタの赦しによって崩れるなんて…アタシは嫌。そんなの。」




小泉「それにホラ。これって女の子が、たまらなく憧れるシチュエ―ションでしょ?」

小泉「罪に犯されているアタシを、白馬に乗った王子様のように救い出してくれるアイツ。」

小泉「このうえない悦びを、肌で感じるわね。」

小泉「まるで自分が…王子様の口づけを待っている、棺桶の中のお姫様になった気分に浸れるもの。」


小泉「うふふ…ちょっと痛いかな?でも、ロマンチストって呼んでよね。」

小泉「アタシ、男の人と付き合ったことがないから…幻想的な夢を抱いちゃうのかも。」

九頭龍「ほ、本気で何を言ってんだよ?意味が、わかんねぇぞ…?」




小泉「あれ…?九頭龍にはわからないの?アンタって本当に鈍感よね。」

小泉「アンタだって多分、そういう思いをペコちゃんからぶつけられてきたはずよ?」


小泉「アタシを殺して九頭龍を外に出そうとしたのだって、九頭龍の気を引くためでしょ?」

小泉「ペコちゃんがあそこまでしたのはきっと、ただの主従関係だけが理由じゃないわ。」

小泉「ペコちゃんはきっと、九頭龍のことが…」


小泉「それなのに、自分の思いを九頭龍に理解してもらえないなんて…ペコちゃんも、浮かばれないわね。」

小泉「ふふっ、2人の関係が進展するのはいつになるのかな?」


九頭龍「ふざけるな…ペコとテメ―を、一緒にするな。」

小泉「…?何か違うのかな。アタシもペコちゃんも、誰かに一途な思いをぶつけてるってことは同じだと思うよ?」

小泉「まぁペコちゃんの思いは見事に玉砕してるっぽいけどさ。」




小泉「アタシにとっても、これは死活問題なんだから。」

小泉「アイツのそばにアタシがいる事を、認めてもらうことはさ。」

小泉「だってアタシは、アイツから…感謝してもしきれないほどの、躍動をもらったんだよ?」

九頭龍「…躍動!?」


小泉「そうよ。あまりにも生き生きとしていて、精力にあふれる感情だからさ。」

小泉「今まで九頭龍との件で苦しんでいた自分が、バカみたいに思えてしまってね。」

九頭龍「…!!」




小泉「アイツの事を考えるだけで…顔に熱がこもっちゃって、身をよじらせてしまう。」

小泉「アイツの声を聴くだけで、鼓動が高鳴って。頭の中がトロ―ンってなって…。」

小泉「アイツが笑顔を見せるたびに…アタシは釣られて、はにかみながら笑ってしまう。」


小泉「アイツの顔を見て。目や鼻、耳の形を切り取って。手先の細かい動作を目で追っているうちに。」

小泉「息が、荒くなって。胸の熱いときめきが、抑え切れなくなって。」

小泉「手と手が触れる瞬間に、身体が奥底からゾクゾクって熱を帯び始めるの。」

小泉「それを思い出すだけで…全身がビクビクッって痙攣して、身体が妙に火照ってしまうのよ。」

小泉「もしかして、今も…アタシ、恍惚しちゃっているのかもしれないわね?」


小泉「ふふっ。何なのかな、この気持ち。こんな気分、初めてだわ。」

小泉「もしかして、コレが…」


小泉「…いや。恋なんて、そんな安い言葉じゃ表現できない。アタシの感情は多分、もっとピュアなのよ。」

小泉「もっと純粋に、アタシはアイツを欲していて…アイツにも、ありのままのアタシを必要としてほしい。」

小泉「そんな感じの…根源的な望みなの。」


小泉「アイツの言葉を借りるなら…無償の愛ってところなのかな?」

小泉「ふふっ。こんなことを言ったらまたアイツに、お母さんとか言ってバカにされそうだけどね。」




小泉「そういう感情が、アタシの苦しみや怯えを、全て吹き飛ばしてくれるの!!」

小泉「いくら罪を糾弾されようと、九頭龍に罵られようと、アタシに正気でいさせてくれる力を与えてくれるの!!」

小泉「だからアンタの赦しとか、正直どうでもいいんだって!!一昨日来やがれって感じよ!!」


九頭龍「い、いい加減にしやがれ!!それじゃあ、オレ達はどうなるんだよ!!」

九頭龍「お前には赦しが必要なくても…!!オレやペコには、小泉の許しが必要なんだ!!」

九頭龍「お前が…赦しを請う立場から、許す側にまわって。オレ達を、許してくれねぇと。」

九頭龍「オレ達は、永遠に救われないんだよ!!」

九頭龍「だから…!!!」





小泉「だから…何よ?」

九頭龍「…!!」


小泉「アンタ…勘違いしてない?アンタの目の前にいるのは…世界一の悪党なのよ?」

小泉「そんな相手が…にっくきヤクザ相手に、温情を見せると思う?」

小泉「アタシは正直、九頭龍がどうなろうと知ったこっちゃないのよ。」

小泉「たとえアンタが死んでしまったところで…むしろ清々するわ。」





九頭龍「…何なんだ?」

小泉「え?」


九頭龍「何が、そこまで…お前を、駆り立てるんだ?」

小泉「…」



九頭龍「狂ってる。小泉、テメ―は…もう、とっくに狂っちまっている。」

小泉「…」





小泉「狂ってる、か。」

小泉「確かにアタシはもう、狂ってるのかもしれない。」


小泉「でもね。仮にアタシが狂っているのだとしたら。」



小泉「アタシを狂わせたのは…九頭龍、アンタなんだからね。」




今日はここまで。




九頭龍「…」

小泉「まぁといっても…狂っているからこそ、アンタとまともに対峙できているのだとしたら。」

小泉「狂うことも、あながち悪いことじゃあないのかもしれないわね?」


小泉「これはいわゆる、適応だよ。」

小泉「寒い時に服を着こんだり。暑いときにはク―ラ―の効いた部屋でアイスを食べたり…」

小泉「そうすることで人は、環境に適応している。それと同じよ。」



小泉「今にもアタシに復讐して来そうな殺人鬼が目の前にいるという、異常な環境に…狂うことで、アタシは適応したんだ。」

九頭龍「…」




小泉「これは、アンタだって例外じゃないはず。」


小泉「記憶があったころの九頭龍とは、仲良くさせてもらっていたのよ?」

小泉「アタシを、“超高校級の母”なんて呼んで崇めていたアンタの“エガオ”は…間違いなく、狂人のそれだったんだから。」

小泉「日本一の極道と、ただの一般人が対等に話せる機会なんて…そうそうないよね。」


小泉「絶望時代にアタシがアンタに殺されなかった理由は、至ってシンプル。」

小泉「今にも殺しにかかりたい相手がいる事実に、狂うことで思いとどまることが出来ていた…そういうことよ。」

小泉「皮肉な話ね。どちらかが狂わないと、アタシ達は話すこともできないんだから。」


九頭龍「狂わないと、話すこともできない…?おかしい。そんなの、おかしいだろ。」

小泉「何がおかしいのよ。アンタが、そうなるように仕向けたくせに。」


九頭龍「オレが、そう仕向けた…?オレが、全てを…小泉を、狂わせた…?」

九頭龍「オレが…オレが?」




小泉「自覚がないの?本当にアンタって、アタシに対しては冷たいよね。」

小泉「ま…それもそうよね。だってアタシはただの一般人で、アンタは極道なんだから。」


小泉「絶対に交わらない相手同士だからこそ、互いに興味を示さないのかな?」

小泉「だから…たとえ相手の一生を左右する事件でも。たとえ相手が、死んだとしても。」

小泉「次の日には忘れているくらいには、記憶に残りにくい出来事だよ。」

小泉「そんな…道端のアリくらいの存在として、互いを認識しているのかもね。」



小泉「まぁ、アタシの場合は。」

小泉「アンタがアタシをそう認識するから、子供の様にムキになってやり返してるって感じで…ぎこちないんだけどね。」

小泉「だってアタシ、今でも頭にイメ―ジしてしまうもの。突然襲ってきたアンタに殺される場面をさ。」

小泉「アタシはただ、アンタを意識しないように振る舞っているだけで…本当は、ずっと心に抱え続けているのかもしれない。」

小泉「恐怖の権化としてね。」


小泉「アタシのことを純粋に見下せる九頭龍の認識とは、アタシの認識は似ても似つかない。」

小泉「やっぱり、極道は違うわね。庶民派のアタシは、そう簡単に相手への意識をシャットダウンできないもの。」




九頭龍「お前がオレに興味ある理由は、オレが復讐者でしかないからだろ。」

九頭龍「お前は、オレの命や感情に興味があるわけじゃねぇ。オレとお前に、何の違いがあるってんだ。」


小泉「雲泥の差よ。アタシと九頭龍は、立場が明確に区別されている。ちょうど、アリと人間の関係みたいにね。」

小泉「人間はアリの存在なんて気にしなくても生きていける。たとえ、知らないうちに踏み殺していたとしても。」

小泉「でも、アリは人間の存在が命に関わるんだから。ただそばにいるだけで。」

小泉「アリと人間には、明確な上下関係がある。物理的な意味でも、精神的な意味でも。」

小泉「でも、アリにとっては…人間が勝手に死んでくれたら、ホッとするでしょう?」


小泉「アタシが九頭龍の命に興味を示さないのは、九頭龍が怖いから。」

小泉「でも、九頭龍がアタシの命に興味を示さないのは…アタシに、何の思い入れもないからよ。」





九頭龍「…お前がそう思うのは、オレが極道だからか?」

小泉「…?」


九頭龍「お前がオレを恐れるのも…オレがお前をアリのように認識していると、お前が思うのも…。」

九頭龍「オレが、極道だからか?」

小泉「…」



九頭龍「お前は、言ってたよな。オレは極道。お前は一般人。立場が違うからこそ、相容れないと。」

九頭龍「じゃあ…オレが、極道から足を洗えば。」

小泉「…無理よ。」


九頭龍「無理じゃない。実際オレは、九頭龍組なんて妹に継がせるつもりだった。」

九頭龍「九頭龍組がなければ、オレはただの…」

小泉「だから…無理だって。アンタは、生粋の極道よ。だってそもそも…」





小泉「九頭龍組は、もうとっくに全滅してるんだから。」


九頭龍「…」

九頭龍「はっ!!?」


小泉「厳密にいうと、生き残りは九頭龍とペコちゃんだけ。他は皆、全滅しちゃった。」

小泉「それにも関わらず、アタシは九頭龍が怖いもの。これって…九頭龍組じゃなくて、アンタ自身が極道だからでしょ?」


九頭龍「ちょっと待て。く、九頭龍組が、全滅…!?ふざけるな!!九頭龍組の構成員は、3万人は下らねぇんだぞ!!?」

小泉「…アンタも、見たはずよ?九頭龍組の皆さんが、一斉に…。」

九頭龍「何言ってやがる!!お前の言ってることが本当だって、どう証明するんだよ!!?」

小泉「証明、ねぇ。確かにないけど…。」


小泉「やけにアンタは、アタシの話を信用してるようだけど?」

九頭龍「…!!」


小泉「まぁ、そうよね。だって九頭龍がアタシをビ―チハウスで待ち構えてたのって…」

小泉「アタシにトワイライトの記憶があると確信したからこそ、だったもんね。」

九頭龍「…なんで、お前は!!?」

小泉「まるで学園時代の記憶があるかのように、話せるのかって?なんで今になって、ペラペラ話し出すのかって?」

小泉「理由なんてどうでもいいわ。だって、直にアンタは…」





小泉「アタシと同じ土俵に立つことになる。」

九頭龍「…なに!?」


小泉「そうなると…どういう結末になるかが博打がかってきて…アタシも怖いんだけど。」

小泉「でも…怖がってばかりいるわけにはいかないよね。」


小泉「だってアタシは、アイツから…十分すぎるくらいの、勇気をもらったんだもの。」

小泉「アイツのぬくもりが、アタシの勇気を奮い立たせてくれる。」

小泉「だからアタシ…もう、怖くないの。」





小泉「たとえアタシが九頭龍に、殺されることになったとしても。」


九頭龍「…殺す?オレがお前をか?」

九頭龍「ふざけやがって…!!そもそもオレをここにおびき寄せたとか抜かしたのは、テメ―だろうが!!!!」



小泉「…ホントはね。標的は、アタシ自身にするつもりだったの。」

小泉「アタシ自身が絶望的な態度をとることによって…裏方が絶望病の感染者として、アタシを選抜することに賭けてね。」


小泉「でもこれって、不確定要素が多いし。」

小泉「アタシの行動によって皆の空気が悪くなれば、絶望病が関係なしに事件が起きてしまうかもしれない。」


小泉「だからアタシは…新しい案を考えたんだ。成功率が、もっと上がる方法をさ。」

九頭龍「何を言ってんだ!?」




小泉「そもそも絶望病の感染者を裏方が、慎重に吟味しなきゃいけない理由は…」

小泉「記憶を取り戻した人間が既に更生されている可能性があるから。」



小泉「じゃあ…記憶を取り戻した時に既に更生されていたとしても、事件を起こしてくれる人間がいたとしたら?」

九頭龍「…なんの話をしてるんだ!?今は、絶望病はなんも関係ないだろうが!!!!」


小泉「裏方は前回の動機として、トワイライトシンドロ―ム殺人事件を用意した。」

小泉「これはつまり…いつでもアタシを殺すきっかけを九頭龍が持っていることを、裏方が熟知しているってこと。」

小泉「今は、記憶がないから…ただ何となく、殺しを思いとどまっているようだけど。」


小泉「記憶を取り戻し…復讐の炎を激しく再燃させた人間が。」

小泉「対象が目の前にいる状況で。しかも崖を背にしていて、いつでも殺せる状況で…殺人を思いとどまるか?」

小泉「だってソイツは、更生されてるんだよ?狂ってもいないんだよ?」




小泉「アタシが裏方なら…この絶好の機会を逃さない。」

小泉「これで事件が起これば…他の皆が、絶望病で犠牲になる事はない。」

小泉「コレが…アタシの考える、最善策。」

小泉「“アタシの仲間”を、誰1人として死なせない方法なのよ。」

九頭龍「…意味が、わからない。」


小泉「嫌でもわかるわよ。アタシの見立てでは、そろそろ頃合だもの。」

九頭龍「何だと…?」


小泉「だから、コレは賭けなのよ。アンタが絶望のままだったら、アタシは死なない。」

小泉「アンタが更生されていたら、アタシは…」



小泉「…皆、怒るだろうな。すっごく、怒られるだろうな。」

小泉「でも…これが、アタシの覚悟だから。」





小泉「さあ、九頭龍。」

小泉「アタシと、踊りましょ?」


小泉「死神のセレナ―デを。」





九頭龍「だから、何の…はな……し………を……………」




九頭龍「……………」




…アタシの見立ては、間違っていなかった。

今、九頭龍の背丈が1cm弱程伸びた気がする。

アイツは身長を小数第1位で四捨五入すると157cmだったが、学園時代には四捨五入で158cmに届くようになっていたんだ。


九頭龍「あ…あああああああ……!!!!!」



アイツは、たった今…記憶を取り戻した。

本当の、絶望病によって。


さぁ…目の前のアイツは、絶望の残党なのか?

それとも、復讐者なのか?

いずれにしても、今のアタシには…事の成り行きに身をゆだねる事しか方法がない。





九頭龍「はぁっ、はぁっ…」

小泉「…」



九頭龍「こい、ずみぃ…!!!!」

小泉「…!!」



アイツはアタシを見据えている。

あの時の…ゴミ虫の死骸を覗き込んでいるような眼差しで。


…そうか。

アイツは既に、更生されていたんだ。

絶望の残党では、なくなっていたんだ。

だから今のアイツが、次にとる行動は…


九頭龍「…っああああああ!!!!!」


声にならない乾いた悲鳴をあげた九頭龍は、まっすぐアタシの方へ走ってくる。


…そう。

やっぱり、アタシのことが…そんなに憎いのね。




小泉「いいわ。覚悟はできてる。」

小泉「アタシへ復讐する権利を、アンタにあげる。他の誰でもない、九頭龍に。」


小泉「来なさいよ。すべて、受け止めてあげるから。」

小泉「アンタの虚しさも。哀しみも。憤りも。」


小泉「それで妹ちゃんを失った心が、少しでも癒えるのなら。」

小泉「妹ちゃんに、償えるのなら…アタシは、怖くない。だから、九頭龍…!!」





小泉「アタシを、裁け!!!!」



小泉「煌めくその眼差しで、この身を焦がせ!!!!!!」







九頭龍「バカ野郎、右だ!!!!」



小泉「え?」




今日はここまで。




右…右?

右ってどっち?

アタシから見て右?

それとも逆?

九頭龍ならアタシを陥れるために、普通とは逆方向を指示するかもしれない。


そう思いながらアタシは、アタシから見て左を見る。

そうすると…



ザシュッ

「えっ…」


アタシの後頭部の方向から、嫌な音がした。

どこかで聞いたことがあるような…

生理的に嫌悪感を抱く、『命を削る音』。


音源の方を向いてみると、アタシの右肩をかすめながら…

ドサッと、何かが仰向けになるように倒れ去った。


今度は目の前の地面を見てみる。

そこには…



九頭龍「ぐぁっ…。ああ…!!!!」


腹部に刺し傷が刻まれている、九頭龍が横たわっていた。

九頭龍は傷口を手でおさえているが、そこからは血がなみなみと溢れかえり、血だまりを描いている…。




九頭龍「ぐぅううう…!!!!」

「はぁっ、はぁっ…」


「あ、あれ…?九頭龍、くん…?」

「どう、して…?」


…右ってのは、アタシから見て右って意味だったのね。

右から、コイツが…


小泉「…どうしてって?それはこっちのセリフよ。」


小泉「どうしてよ。」

小泉「どうして、こんなことをしたの?」

小泉「包丁で、アタシを刺そうなんて…。」



小泉「また、人を…殺そうとなんて…!!!!」

「あ…あ…」





小泉「答えてよ、花村!!!!」

花村「う、うううぅうううう…」


そこには…

血塗れの包丁を祈るように両手で握っている花村が、茫然自失の様相で佇んでいた。



…なるほど。

アタシと九頭龍は、距離をおきながら話していた。

花村が来た方向からは…ライブハウスが死角をつくって、アタシしか見えない。

つまり花村は、アタシが単独行動をしていると勘違いして、犯行に…




花村「ぼ、ぼくは、帰らなくちゃいけなくて…。」

花村「だ、だって、あのゲ―ムが本当だとしたら…!!」

小泉「…!!」


花村「こうしているうちにも、かぁちゃんの命が…。」

花村「ぼくは…かぁちゃんを安心させなくちゃいけなくて…」

花村「そ、それで…」


小泉「あのゲ―ムって…アタシと千秋ちゃんと、豚神と花村でプレイした、かまいたちの夜?」

小泉「でもアンタ、あの時…!!豚神の説得を聞いて、思いとどまってくれたじゃない!!」

小泉「人殺しとしての自分なんて、お母さんは望んでないって言いながら!!!!」



花村「理屈では、分かってた。人殺しなんて、絶対にしちゃダメだって…。」

花村「でも、無意識のうちに…かぁちゃんに対する不安が、大きくなっていた。」

花村「夢に出るんだよ。苦しいって、かぁちゃんが。死ぬ前に、せめてぼくにって…!!」


花村「頭では、分かってたんだ…。人殺しなんてしても、かぁちゃんは喜ばないって。」

花村「でも、日を重ねるごとに、不安は大きくなって…衝動が、抑えられなくなって…!!」

花村「だから自分の感情を、他の誰かから物理的に抑え込んでもらおうと考えて…」

花村「ゲ―ムの内容を、そのまま皆に伝えるって案を出したんだ。」


花村「でも、皆は…動機をもらったぼくを、全然責めなかった。」

花村「それどころか皆、全くぼくを警戒しないで…。」

花村「小泉さんの件に、皆はすっかり囚われていて…。」

花村「ぼくにとって、隙ができたんだ。隙が、できてしまったんだ。この混乱に乗じて、なんて…。」


花村「ぼくは…その隙に、付け込んでしまった!!!!」

花村「やっぱり人を殺しても良いんじゃないかって…思って、しまった…。」

花村「おかしいな…ぼくは、人を殺せるような人間じゃなかったはずなのに…。」

花村「もしかして…ぼくって、狂ってるのかな…?」

小泉「…」




アタシがここにいたのは偶然だ。

花村がアタシを殺せる機会が出来たのは、誰かが計画したことが理由ではない。

つまり…これは、衝動的な犯行だ。


花村は料理人だから、レストランから包丁でも持ってきていたのかもしれない。

そこでたまたま、アタシを見つけて…

今こそが絶好のチャンスだって、花村の心に宿る不安が…殺人に駆り立てた。


トワイライトの件で、皆の統率が乱れて。

絶望病によって、皆が分断されて。

それによってアタシ達の空気が悪くなっていた。

単独行動をとっていた人も少なくなかったし。


その混乱がずっと、皆を誘惑していたんだ。

殺人へ走る衝動を、煽りながら。

花村は…その誘惑に負けてしまった?

お母さんの件が、花村をずっと蝕んでいたから?


じゃあ、アタシは…勝手に、花村を説得できた気になっていただけで。

全然、救えていなかった…!!!?




小泉「…」

花村「あ…あ…」

小泉(花村…自分の行為の深刻さを、頭で処理しきれなくなって。固まってしまってるわね。)

小泉(…)


今度は地べたに這いつくばる九頭龍の元にかけより、腰を下ろす。

本来花村は、アタシを標的にしていた。


でも…蓋を開けてみれば。

傷を負って倒れているのは、九頭龍だ。

まさかコイツ、アタシを…?




九頭龍「うう…!!!!」

小泉「…」


小泉「…どうして?」

九頭龍「ああっ…!!!?」

小泉「どうして、アタシをかばったの?」

小泉「だってアンタにとって、アタシは…」


九頭龍「ああ、そうだ…オレにとっちゃあお前なんか、道端のアリに過ぎない…。」

九頭龍「そう思っていたからオレは、お前を、無意識のうちに見下していた…。」

九頭龍「お前を拷問して、サトウを殺させることにも…何のためらいも、持たなかった…!!」

小泉「…やっぱり、記憶は戻ってるのね。」


九頭龍「狛枝に指摘されなかったら…今だって、お前が死のうと何も感じなかっただろうよ。」

九頭龍「だってオレは、極道で…血も涙もない、復讐者だからな…。」

小泉「…じゃあ、どうして。」





九頭龍「だから、こそっ…変わりたかったんだっ!!!!」


小泉「…変わる?」

九頭龍「オレは、過去の自分をぶち壊して…」

九頭龍「誰かを、大切に思える…そんな、勇気が欲しかった。」

九頭龍「殺すのが惜しくて、復讐出来ない位によ…。」

九頭龍「たとえ相手が、ただの一般人で…塵のように矮小な存在だったとしても…。」

小泉「…」


九頭龍「わかってる。思い出したからな。小泉がどうして、オレをあそこまで怖がったのか…。」

九頭龍「オレはお前に、酷いことをした…。」

九頭龍「トラウマを植え付けて、お前を“絶望のカリスマ”に堕としたのも…オレだ。」

九頭龍「オレが、お前を狂わせたんだ…。」

小泉「…」


九頭龍「だからオレが、こんなことをできる義理じゃねぇってのもわかってる。」

九頭龍「お前を狂わせたオレが…お前を守るなんて…。」

九頭龍「でも、包丁が月の光を反射した時…気付いたら、身体が動いてて…。」

九頭龍「今ならまだ、間に合うかもなんて…」

九頭龍「もしかしたら小泉と、やり直せるかもなんて…思っちまったんだ…。」

小泉「…」


九頭龍「…ちくしょう。まだ、死にたくねぇよ。オレはまだ、お前に…言わなきゃいけねぇ事が山ほどあるんだ。」

九頭龍「お前に、謝らないと…」

小泉「…」




変わる、か…。


アタシが九頭龍にかばわれたのは、初めてじゃない。

前回、ペコちゃんに殺されかけた時もそうだった。

あの時もアイツは、変わりたいと思っていた…?

あの時のきっかけは恐らく、赤音ちゃんの死だろう。

赤音ちゃんを犠牲にしてしまったからこそ…他人の命の重さについて、考えるようになったんだ。

だから前回九頭龍は、アタシの殺人計画をたてなかった…。


そして、今も…アタシは九頭龍に、かばわれた。

きっかけさえあれば、九頭龍だって変わることができる?復讐者から、別の何かに?

それをアタシは、考慮することが出来なかったって言うの…?






九頭龍「はぁ…はぁ…」


小泉(傷は…そうとう深いわね。急いで止血しないと、命に関わる。)

小泉(今から応急処置をして、蜜柑ちゃんを呼べば助かるか…?)


小泉(…でももし、間に合わなかったら…?)

小泉(…)





小泉「ねぇ、花村。」

花村「えっ…。」


小泉「ここで九頭龍が死んだとしたら…アンタ、学級裁判を乗り切らないといけないのよ。」

小泉「犯行がバレたら花村は、処刑される。」

花村「っ…!!」


小泉「そしてね。アタシはアンタの犯行を知っている。アタシが皆にバラせば、アンタは逃げ切れないよ。」

花村「そ、それは…」

小泉「だから仮に花村がこのまま、人殺しとして突っ切るのなら。」


小泉「アンタは、アタシも殺さないといけない。」

花村「…!!」


小泉「今のアンタに…その勇気がある?」

花村「こ、殺す?小泉さんを…?また、アレを…?」





小泉「…もう1度聞くよ、花村。」


小泉「アンタに、覚悟はあるの?」

花村「えっ…?」


そう言ってアタシは…





九頭龍「ぐあっ!!!?」


九頭龍の腹の傷口に、右手を浸した。


右手でかき混ぜるようにして、九頭龍の傷口をえぐり、まさぐる。

そうして取り出した右の手のひらは、べっとりと血に染まってしまった。


右手を握る。

握り直す。

何度も、血の感触を確認する。

右手から充満する異臭は、生と死の狭間にある世界をアタシに想起させた。




九頭龍「あぁ…ぐぁああ…」

花村「こ、小泉さん…?い、一体、何を…!!?」


バッと花村の方に右手を突き出し、血塗れの手のひらを見せつける。



花村「ひっ…!!!?」

小泉「…何言ってるの?花村。これは、アンタがやったのよ?」

花村「え…?」


小泉「こんな血なんて、洗えば落ちる。だってこれは、生きてる人間の血なんだもの。」

小泉「でもね花村。これが死んだ人間の血に変わった時…もう、落ちることは2度とない。」

小泉「染め上げられた血の跡は…一生、付きまとうのよ。花村がこの先、死ぬまでずっと。」

花村「ううっ…!!」


小泉「水で洗い流しても…眼には見えなくなったとしても…」

小泉「アンタはこの先一生、こんな血塗れの手をしながら生きて行かなきゃいけない。」

小泉「それが、罪っていう物だから。」



小泉「アンタに…それを背負う覚悟がある?」




今日はここまで。




花村「あ…ああ…」


すっかり萎縮しきってしまった花村はそのまま…

手に握りしめていた血塗れの包丁を、カランと地面に自由落下させた…。


小泉「…良い答えよ、花村。アンタは、それでいいのよ。」

小泉「だから、花村は…そのままでいて。」

小泉「母親思いで…温かい料理で皆を笑顔にできる、最高のシェフでさ。」

小泉「花村を糾弾することなんて…アタシが、誰にもさせないから。」


花村の落とした包丁をアタシは拾う。そしてまた、九頭龍の元に膝をつく。


花村「えっ…?小泉さん、今度は何を…?」

九頭龍「…」

小泉「…」





小泉「迷惑、なのよ…。」


小泉「アンタはアタシを守ったつもりかもしれないけど…。アタシにとっては、むしろ逆効果だよ。」

九頭龍「…」


小泉「アタシはね。アンタが死のうが構いやしないんだけど。花村には死んでもらうと困るのよ。」

小泉「アタシが絶対に守り通したい仲間に…花村も、ちゃんと入っているんだから。」

九頭龍「…」


小泉「だからアタシは、アタシの仲間を誰も死なせないために…」

小泉「アタシと九頭龍しか、犠牲になる可能性がない計画を建てたのに。」

九頭龍「…」


小泉「それが、何?アンタがアタシなんかをかばうせいで…アタシの計画が、ますます崩れちゃったじゃない。」

小泉「アンタが死ねば、花村がクロになって学級裁判が開かれてしまう。」

小泉「1度学級裁判が開かれれば…全員では、2度と戻ってこれないのよ。」


小泉「だから…アンタが、アタシを殺してくれれば最善だったのに…。」

小泉「それこそ、花村がアタシに包丁を刺す前に…アタシを、崖に突き落としてくれれば…」

九頭龍「…」




小泉「だから今となっては、このまま九頭龍に死なれると困るの。」

小泉「今、九頭龍にとれる選択肢は2つ。」


小泉「1つは、アタシに蜜柑ちゃんを連れて来させること。」

小泉「アンタ、今から蜜柑ちゃんを呼んで来たら…間に合いそう?」

九頭龍「…」


小泉「…まぁ、そうよね。無駄話が過ぎたわ。」

小泉「それに、蜜柑ちゃんの治療が間に合うかどうかの賭けなんて…」

小泉「今のアタシが選択するわけないって、アンタにもわかってるよね。」

小泉「もっと確実に、花村を犠牲にしない方法があるんだから。」

九頭龍「…」




小泉「だから必然的に…九頭龍が選ぶ選択肢は、もう1つの方になるわね。」


手に持った包丁を、しっかりと握る。べっとりと付着した血で滑らないように、グッと力を入れる。


花村「こ、小泉さん…!?」

小泉「クロになる条件は、人を殺すこと。逆に言うと…殺さない限りは、クロにはならない。」

小泉「例えばここでアタシが九頭龍の四肢をもいだとしても、九頭龍が死なない限りはアタシはクロにならない。」


小泉「たとえ花村が、九頭龍を包丁で刺したとしても…」

小泉「それが死因になる前に、別の方法で九頭龍が殺されれば…花村はクロにならない。」

九頭龍「…」




小泉「だから、九頭龍。」



小泉「アタシが、アンタを殺してあげる。」


アタシはおもむろに、右手に持った包丁をスッと持ち上げる。



九頭龍「…いいのかよ?」

小泉「なにがよ。そりゃあ、死ぬのは嫌だけど。皆を守るためなら、怖くないもの。」




九頭龍「違う。」

九頭龍「今、お前がやろうとしていることは…『辺古山』と同じだろ?」

小泉「…」


九頭龍「『辺古山』がオレを守るために小泉を殺そうとしたのと、小泉が皆を守るためにオレを殺そうとしていること…。」

九頭龍「何も違わねぇだろ?良いのかよ?」

小泉「…」


小泉「勘違いしないでよ。花村の罪を被って死のうなんて、そんな聖者じみた事をアタシは考えてない。」

小泉「アタシはただ、九頭龍が憎いからアンタを殺すの。それ以外の動機なんてないわ。」

小泉「アタシがアンタを殺す理由なんて、いくらでもあるんだから。」

小泉「記憶を取り戻した今のアンタなら、良くわかってるでしょ?」

九頭龍「…」



小泉「なにか言いたげな目をしてるわね。言いたいことがあるなら、ハッキリ言いなさいよ。」

小泉「まぁ…喋るたびに、お腹に負担がかかって死期が早くなるだろうけど。」

九頭龍「…」




小泉「…なによ。九頭龍が変わるかどうかなんて、アタシには関係ないじゃない。」

小泉「アンタだってビ―チハウスで、アタシが必死に償おうとしていたのを…アッサリと無視したじゃない。」

小泉「アタシだって、変わりたいって望んでたのに…アンタは、ひとカケラも聞き入れてくれなかったじゃない。」

小泉「それを仕方ない事だと納得できたのは、アンタが復讐者だから。」

小泉「九頭龍を復讐者と認識することでアタシは…自分が永遠に赦されないことを、受け入れることが出来たのよ。」


小泉「それなのに…自分だけ、復讐者から別の何かに変わりたいなんて…」

小泉「ずるいよ。卑怯だよ、そんなの。」

小泉「アタシが変われなくなった原因はアンタなのに、なんでアンタだけ変わろうとしてるのよ。」

小泉「それは成長なんかじゃない。ただの逃げよ。復讐の連鎖の中に自分が身を浸していることから、眼を逸らしているだけよ。」

小泉「アンタは所詮、アタシと同じ穴のムジナ。今更1人だけ逃げ出そうったって、そうはいかないんだから。」

九頭龍「…」




小泉「おっと。また、ダラダラとしゃべっちゃったわね。こうしているうちに、九頭龍が死んじゃったら目も当てられない。」

小泉「早く…アタシが殺してあげないとね。」

小泉「バイバイ、九頭龍。アンタの死…まぁ、気持ち程度にはお悔やみ申し上げるからさ。」


包丁を指でクルッと回転させ、逆手に持ち変える。

そしてそのまま右手を、九頭龍にめがけて振り降ろして…!!!!





ガシッ


腕を握られる。

殺すことの、出端をくじかれてしまった。


その力は…男子としては最低レベルなまでに、弱々しくて頼りなかった。

押し返せば簡単に振り払うことができるだろうこの感覚が、九頭龍の命のタイムリミットを示している気がした。


小泉「…なによ。今更、怖気づいたの?」





九頭龍「…震えてんぞ。」

小泉「は?震えるって、何が?」


小泉「…あれ?」



違和感。

自分の腕を、誰かに揺さぶられている感覚。

九頭龍がアタシの腕をつかんでいる手を、小刻みに揺らしているのか?


いや…違う。

動いているのは相手ではない。

逆だ。

相手が止まっていることで、自分の手の動きに初めて気づいたんだ。


アタシの腕が…震えているんだ。



小泉「あ、あれ…?なんで、震えるの?」

小泉「止まれ。止まれ。」

小泉「止まってよ!!!!」


今度は自分自身の左手で、自分の右腕を押さえつける。

それでも震えは収まらず、むしろ意識すればするほど増幅しているようにも思えた。




小泉「なんで…なんでよ!!!?」

九頭龍「テメ―…人を殺したことがあるのか?」

小泉「…ッバカにしないでよ。アタシは、絶望のカリスマよ!!?今更人を殺すことなんて…!!」

九頭龍「…1回だけ、だったか?」

小泉「っ…。」


九頭龍「そりゃそうだよな。それが、テメ―のやり方だったもんな…。」

九頭龍「直接殺したのは、サトウだけだったよな。それも、オレが殺したようなもんだけどな…。」

九頭龍「人をロクに殺したことがない人間が、人を殺せるわけがね―だろうが…。」

九頭龍「花村だってそうだ。オレを刺すことは出来たが、小泉を殺すことはできなかった。」

九頭龍「そんな奴が、オレ達極道みたいに冷徹になろうなんて…甘い。甘っちょろ過ぎるぜ。」

九頭龍「あまりにも青臭さが度を過ぎていて、めまいがしてきやがった…。」


小泉「…なれるわよ。アタシだって、冷酷に。ペコちゃんが、アタシに対してそうしたように。」

小泉「右手に刻まれたこの血こそが、その証拠でしょ!!?」

小泉「だからアタシはアンタを、ゴミ虫のように殺して…!!」





九頭龍「お前は、極道じゃないだろっ!!!!」


小泉「っ…!!!!」

九頭龍「お前には、そんなの似合わねぇよ。絶望のカリスマなんて肩書、不釣り合いだ。」

九頭龍「お前に似合う道は…もっとこう、まっとうな生き方のはずだ。」

九頭龍「だから…変われないなんてこと、ねぇよ。お前も、きっと…」

小泉「…」




小泉「やめてよ。なんで今更、そんなこと言うのよ…。」

小泉「もう、何を言っても手遅れなのに。手遅れだからこそ、罪をずっと背負う覚悟を決めたのに。」

小泉「どうして、今になって…アタシを惑わせるのよ…!!?」


小泉「どうせ裏切られるに決まってるのに。期待しちゃダメだって、分かってるのに。」

小泉「そんなこと言われたら…また、期待しちゃうじゃない。」

小泉「もしかしたらアタシだって赦されるかも、なんて…そんな夢を、見てしまうじゃない…。」


小泉「もう、嫌なのよ!!期待させておいて、裏切られるのは!!!!」

小泉「中途半端に可能性をちらつかせて、アタシの心をもてあそばないでよ!!!!」

九頭龍「…」





花村「こ、小泉さん。じ、自分の頬…。」

小泉「え…?」


花村に言われて、アタシは自分の頬を左手で触れてみる。

するとアタシの頬を、しずくが伝っていた。


どうして…?

もしかしてこの涙が…

アタシの重荷を、洗い流してくれる…?


…もしかしたら。

もしかしたら今なら、変われるかもしれない。


もしかしたら…

今なら、赦され…





「坊ちゃん!!!!」




今日はここまで。




小泉「え…?」


顔をあげてみると、向こうの方に3人の姿が見える。

こちらから相手が見えるということはすなわち、相手からもこちらが見えるということだ。

今の、この状況を…


小泉「どうして皆、ここに…?」

罪木「い、いやその、小泉さん達の様子が気になってですね…。」

小泉「…そう。」


小泉「蜜柑ちゃんの方からこっちに来てるってわかってたら、こんなことせずに済んだのに…。」

西園寺「え…?何を言ってるの?聞こえないよ、小泉おねぇ。」





辺古山「坊ちゃん…坊ちゃん!!?」


西園寺「ど、どうしたんだよ辺古山…って、あれ?向こうで誰か、倒れてる?」

罪木「はい、多分九頭龍さんが…って、なんかあそこ、赤くないですか…?」

西園寺「アレって、まさか…血?」

罪木「血って、なんで、血が…?」


西園寺「小泉おねぇ…?その、手に持っている物…何?」

罪木「手にって…え?こ、小泉さん…なんで、手が真っ赤なんですか!?」

罪木「あ、あれれれ…!?あ、頭の処理が、追いつかなくて…!!」


辺古山「…これは一体、どういう事だ!!?小泉、貴様…坊ちゃんに、何をした!!!?」

辺古山「返答次第では…!!!!」

小泉「あ―…。まずいわね、これは…。」


どうする?

こんな状況を見たペコちゃんは、怒り狂ってアタシを殺しにかかってもおかしくない。

落ち着いて冷静に説得すれば、何とかわかってくれるか…?

でも、どうやって話せば…


いや、悩んでる場合じゃない。とにかくどうにか交渉を…





花村「待って、辺古山さん!!これは、違うんだ!!」


小泉「…!!」

辺古山「…花村?」

花村「九頭龍くんを刺したのは、小泉さんじゃない。本当の犯人は…!!」





バッ


花村「えっ…?」

その先を言おうとする花村を、アタシは手で制した。


小泉「なにをするって、ペコちゃん…。わかんないの?」

辺古山「…なに!?」


小泉「アタシが九頭龍を殺す理由なんて、腐るほどあるのよ?ペコちゃん。」

辺古山「…坊ちゃんがお前を殺そうとしたことか!?サトウの件か!!?」

辺古山「でも…だからこそ、坊ちゃんは…!!!!」





小泉「目障りだったのよ。」


辺古山「…」

辺古山「何だと!!!?」

花村「こ、小泉、さん…?」


小泉「目障りだったのよ…九頭龍が。視界にも入れたくないのに、病院でも顔をつき合わせる羽目になって。」

小泉「アタシは九頭龍との関係を断絶できれば、それで良かったのに。」

小泉「いつまで経っても、ウジウジウジウジアタシに付きまとってきてさ。」

罪木「何かそれだけ聞くと、彼女に振られて未練がましい男の説明みたいですね…。」


小泉「アタシの周りにたかってくるキ―キ―うるさいドブネズミを、1匹処分しただけよ。」

小泉「そもそもこんな奴は社会のゴミなんだから、むしろ感謝してほしいわね。」



辺古山「き…貴様ぁああああ…!!!!」

小泉「…!!」

花村「ち、ちがう。違うって、コレは…!!!!」


花村の声はどうやら、もはやペコちゃんには聞こえてないみたいね。

そこまでは計算通り…

あくまで、そこまでは。


だけど…




九頭龍「…おい、どうするんだよ。」

小泉「なによ…仕方ないじゃない。ああでも言わないとペコちゃんは、アタシを犯人だと思ってくれないでしょ。」

小泉「ペコちゃんが花村を殺したりなんかしたら…それこそ、最悪のシナリオよ。」


九頭龍「それにしても、言い方ってもんが…ペコがお前を殺すのだって、同じように最悪じゃねぇか。」

小泉「うるさいわね。焦ってたのよ。だから今、打開策を考えてるんじゃない。」


けど現実問題、この状況でどうやってペコちゃんの殺意を散らすことが…?





九頭龍「…」

小泉「…え?」


九頭龍「…………」



小泉「…やっぱりアンタ、イカれてるわね。まぁ…それでこそ、極道としてのアンタらしいんだけど。」

小泉「言っておくけどアタシは、容赦しないわよ?」

小泉「だって、アタシの仲間に…九頭龍は、入ってないんだから。」


小泉「…今のところは、ね。」

九頭龍「…ククッ。」




辺古山「私のことは、いくらでも罵ってくれて構わない。私は、それだけのことをしたからな。」

辺古山「でも…坊ちゃんに対してだけは…坊ちゃんに対してだけは…!!!!!」

辺古山「貴様は…知らないだけだ。坊ちゃんが、どれだけ自分の所業に苦しんでいたかを。」

辺古山「あの事件の後からずっと坊ちゃんは、どうすれば小泉を赦せるか。どうやったら小泉に許されるかをずっと考えて…!!」


辺古山「それなのに…それなのに!!!!」

辺古山「貴様はそんな坊ちゃんの思いを、最悪の形で踏みにじって…!!」

辺古山「絶対に…絶対に、許さない!!!!」



辺古山「ぅあああああああぁあああああああああああ!!!!!!」


叫び声をあげたペコちゃんは、背中の竹刀袋から竹刀をバッと取り出しながら、アタシの方向へ直進してくる。

いくら竹刀とはいえ…“超高校級の剣道家”の一撃を喰らえば、致命傷は避けられない。

だから、アタシは…





ゲシッ

九頭龍「グッ…!!」


ガッ…ドサッ…ザザザザザ…


辺古山「…えっ?」

後ろの崖に…


花村「え…えっ?」

罪木「い、今のって…?」

小泉「…」





九頭龍を、蹴落とした。




西園寺「な、なにを…どうして、小泉おねぇ…?」


バシャ―ン…水面を打つ音が響き渡る。崖の下は海だったのね。

全くどうして、運のいい男だこと。


九頭龍が滑り落ちる光景を目の当たりにしたペコちゃんは、一瞬だけ動きを止めた。

そして…


辺古山「あ…あ……」


辺古山「あああああああああぁああああああああああああっ!!!?」

小泉「…」




辺古山「こ…小泉…。」



辺古山「…こいずみぃいいいいぃいいいいいいいいい!!!!!」

小泉「…うぐっ!!」



怒り狂ったペコちゃんは、左手でアタシの胸座を乱暴に取る。

アタシの首元には、恐ろしいまでの握力がかけられていて…

相手は片手しか使ってないのに、アタシは少し宙を浮いていた。

そのせいか息が苦しく、眼を見開こうとしても、細くてぼやけた視界をかろうじて手に入れるのがやっとだった。


狂気がかった赤い瞳を燃えるように輝かせ、鬼のような形相でアタシを睨みつけながらペコちゃんは、右手に持った竹刀で…!!!!




小泉「…いいの?ペコちゃん。」

辺古山「…ああっ!!!!?」


小泉「アタシなんかを殺している余裕なんて…本当にあるの?」

小泉「早く助けに行かないと…アイツ、死んじゃうよ?」


辺古山「…」




辺古山「貴様は後で、私が殺す。」

辺古山「必ずだ。」



辺古山「皮を剥ぎ、肉を削ぎ…この世に生まれ堕ちたことを後悔させて、苦しませながらあの世に送ってやる…。」

小泉「…」


そう言ってペコちゃんは…アタシをつかんでいる左手を叩きつけるようにして、ドサッとアタシを地面に打ち付けた。

小泉「…!!」


衝撃が勢いよく背中に伝わってくる。あまりの激痛に、アタシはその場にうずくまった。

このまえビ―チハウスでペコちゃんに負わされたすり傷よりも、はるかに痛い。

もしかしたら、どこか損傷してるかもしれない。


そんなアタシには目もくれず、ペコちゃんは自ら崖を降りていく。

それもそうか。アタシよりも、九頭龍の方がはるかに危篤状態だものね。




小泉(ペコちゃん…。あの時は、手加減してくれていたのね。)

小泉(とりあえず…助かった。アタシだけは。)

小泉(九頭龍の策のおかげ…ってところは、癪だけど。)


小泉(でも…生まれたことを後悔、か。)

小泉(今のアタシは…この世に生まれたことに、胸を張れるんだろうか?)

小泉(もしかしたら…もう、とっくに後悔しているのかもしれないな。)


小泉(だってアタシは結局、赦されない運命みたいだし…。)

小泉(その証拠に、アタシは…自分の命の為にまた、他人の命を…)

小泉(さっきのは…赦されるかもなんて、思ってしまったのは…)

小泉(多分…気の迷いだったんだ。)




小泉(それに問題は…それだけじゃない。)


罪木「小泉さん…。」

西園寺「小泉おねぇ…?」

花村「…」


小泉(この状況…皆に、どうやって弁解しよう。)




今日はここまで。




小泉(いや待て。落ち着け。花村は当事者だし、日寄子ちゃんは割とアタシを慕ってくれてるし。)

小泉(だから弁解する必要があるのは、実質蜜柑ちゃんだけ。1人だけなら、なんとか…)


日向「…」

豚神「…」

七海「…」

ソニア「…」

弐大「…」

小泉「…」


小泉(増えてる!!!!)

小泉(増えてる!!!!)

小泉(増えてる!!!!)

※大事な事なので、3回言いました。




小泉「あ、あの…皆、いつからいたの?」

左右田「い、いつからって…」

狛枝「小泉さんが九頭龍クンを蹴り落とすところも、バッチリ目撃したよ。」

小泉「こ、狛枝…。」


罪木「っていうか、どうして皆さん、ここにいるんですか!!?」

終里「どうしてって、そりゃあ…」

田中「ライブハウス付近で、事件が起きているというタレコミがあったのでな。」

小泉「え…?一体誰が、そんな情報を?」



モノクマ「それはもちろん、ボクです!!」

小泉「…モノクマ!?」

小泉(な、なんて最悪のタイミングで、皆を呼び出すのよ…!?これじゃあ、弁解のしようが…!!)


モノクマ「うぷぷぷ…一時はどうなるかと思ったけど。事件が起きてくれて、これはこれで成功だね!!」

澪田「じ、事件ってことはやっぱり、もしかしなくても…!!?」

ソニア「小泉さんが、九頭龍さんを…!!!?」

弐大「…間違いなさそうじゃのう。小泉の右手にある包丁と、返り血を防いだと思われる血に染まったシ―ツ…。」

小泉(シ―ツ…?ああそうか。花村が九頭龍を刺した時に使った物ね。)

花村「…」




日向「ど、どうしてだ…?どうしてだよ、小泉!?」

日向「どうして、九頭龍を…!!?」


小泉「え…日向?アンタ…絶望病は治ったの?」

狛枝「絶望病?ああ。それはなんか、いつの間にか治ってたよ。」

小泉「え…ということは、日向も狛枝も、豚神も千秋ちゃんも?」


モノクマ「はい、その通りです!!事件を起こすことに成功したからね。あんな病原体、もはや用済みなのです!!」

田中「何?ならばこれ以上、絶望病にさいなまれることを懸念する必要はないのか?」

豚神「油断するな…。絶望病が原因不明な物である以上、いつどこで奇襲を受けるかわからない。」

豚神「今回の事件が絶望病によって引き起こされたものなら、なおさらな。」

澪田「ええっ!?まだ、絶望病に振り回されるの!?もう、精神的に辛いっていうか…」

小泉「…」





小泉「心配しないで、皆。」

弐大「ん?」

小泉「モノクマはもう、絶望病を遣えない。」

終里「な、何を言ってんだよ?」


小泉「だって…絶望病の使用自体は、失敗しちゃったもんね?モノクマ。」

モノクマ「…」


小泉「重要な情報を漏らす可能性がある人間を、これ以上増やすわけにはいかないよね?」

モノクマ「…下品な挑発だなぁ。なんならここで、誰かを絶望病に感染させてあげよっか?」

小泉「やってみなさいよ。自分自身の観察眼に、自信を持てるのならね。」

小泉「どっちが有利になるか、それでハッキリするから。」

モノクマ「…」


小泉(といっても、モノクマの観察眼に陰りを作ることに成功したのは…皮肉にも、九頭龍のおかげなんだけど。)

小泉(記憶を取り戻した時に…アタシを殺すんじゃなくて、アタシをかばうなんて。)

小泉(アタシにさえ、予測できなかったんだから。)



モノクマ「…ふん。良いもんだ。ボクの計画が成功だったか失敗だったかは、まだわからないもんね。」

小泉「絶対に、アンタの目論みを成就させない。必ず、挫いてやるんだから。」

ソニア「こ、小泉さんとモノクマさんは、一体何の話をしているのですか!!?」

七海「でも…心なしか、モノクマの方がひるんでいる気がするね。もしかして本当に、小泉さんの言う通りなのかも…。」




日向「そ、そんな事はどうでもいいんだ!!」

終里「ひ、日向!?」


左右田「そうだ!!話を逸らすんじゃねぇ!!何で…何で九頭龍を、殺しやがった!!?」

日向「答えろよ、小泉!!!!」

小泉「…」





西園寺「…お前の、せいだ。」

小泉「え…日寄子ちゃん?」



西園寺「お前が元凶なんだろ!!?」

西園寺「狛枝!!!!」


狛枝「え?どうしてボクが?」

西園寺「とぼけるな!!心優しい小泉おねぇが、なんの理由も無しにこんなことをするはずがない!!」

西園寺「お前が小泉おねぇに、何か吹き込んだんだろ!!!?」


狛枝「待ってよ。ボクは絶望病に感染していて、ずっと病院で寝てたんだよ?」

弐大「そ、そうじゃのう。確かに狛枝は危険な奴じゃが。」

田中「流石にそれは、下衆の勘ぐりが過ぎるぞ。西園寺よ。」



西園寺「うるさい!!知ったような口を利くな!!」

田中「…なんだと?」

西園寺「そもそも、おかしいんだよ。この状況は。」

終里「おかしいって、何がだよ?」




西園寺「殺せるわけがないんだよ、小泉おねぇに九頭龍を。」

ソニア「ど、どうしてですか?」


西園寺「忘れちゃったの?小泉おねぇは…ただ近づいてきただけで腰を抜かして失禁する位に、九頭龍を怖がってたんだよ?」

西園寺「そんな小泉おねぇが…九頭龍に近づいて、ましてや殺すなんてできると思う?」

七海「そう言われてみれば…」

ソニア「で、ですが実際、わたくしはこの目で…!!」



西園寺「小泉おねぇになにかがあったとしか考えられない。」

西園寺「小泉おねぇの恐怖を和らげた、何かがね。」

澪田「和らげた…?」


西園寺「きっと『和らげた』ってのは、良い意味でじゃない。悪い意味でなんだ。」

西園寺「今の小泉おねぇを、例えるなら…。」

西園寺「一時の苦痛を忘れたいが為に、麻薬に手を出して現実逃避をしている人間のような…。」



西園寺「だから今の小泉おねぇは、恐怖という感情が麻痺しているんだ。」

西園寺「恐怖を、恐怖だと思わないようになっているんだ…。」

西園寺「小泉おねぇに、そう思わせることが出来るのは…お前しかいないんだよ!!!!」

西園寺「狛枝、わたし達がライブハウスに集まっている時…小泉おねぇに、何を吹き込んだ!!?」


狛枝「何を吹き込んだって言われてもねぇ…。」

狛枝「でももしボクの行動が、現状に至るまでの布石になっているのだとしたら…」

狛枝「あはっ。やっぱりボクって、幸運なんだね!!!!」

西園寺「お前…!!!!」

小泉「…」





小泉「違うわよ、日寄子ちゃん。」

西園寺「え?」

小泉「今回ばっかりは、狛枝は関係ない。」


小泉「これは…アタシの意思でやったことだから。」

田中「自らの意思で、だと…?」

豚神「絶望病にかかりおかしくなった状態で、自分の意思とは無関係に事件を起こしてしまった可能性を俺は考慮していたが…。」

小泉「…そうだとしたら、どれだけ楽だったか。」


七海「じゃあやっぱり…絶望病とは無関係に、小泉さんは事件を起こしたの?」

狛枝「そうだろうね。絶望病は失敗に終わったと小泉さんはさっき言っていて、モノクマもそれを否定出来てなかったもん。」


小泉(それに…アタシが九頭龍と話せるようになったのが、悪い意味でだとしたら。)

小泉(アタシの、アイツに対するこの気持ちまで…悪い物になっちゃうじゃない。)

小泉(それだけは…絶対に認めたくない。)




田中「では…なぜ貴様は、九頭龍を手にかけた!!?」

ソニア「しかも、崖から蹴り落とすなんて…そんな、残酷なことを…!!」


小泉「…言い訳になるかもしれないけど。崖から落としたのは、不本意よ。」

小泉「ああでもしないと、ペコちゃんはアタシを殺してたでしょ?」

小泉「皆がこんなに集まっている中で、アタシを殺してごらん。ペコちゃんはどうやっても殺人を隠蔽できない。」

小泉「そうなると学級裁判で、ペコちゃんが死んじゃうでしょ?アタシなんかを殺したせいで。」

小泉「アタシはね。ペコちゃんに死んでもらうと困るのよ。ペコちゃんだって、アタシの仲間に含まれているんだから。」


弐大「その言いぐさによると、お前さんの言う『仲間』には…」

弐大「九頭龍は、含まれていなかったようじゃのう。」

小泉「…」




日向「さ、さっきから、話を逸らすなよ!!俺は、小泉がどうして九頭龍を殺したかを聞いてんだ!!」

終里「そ、そうだぜ!!小泉は知らないかもしんねぇけどよ。アイツはアイツなりに、覚悟をもってだな…!!」

小泉「…」


小泉(アタシが九頭龍を殺す動機、か…。下手な嘘は、逆効果ね。)

小泉(正気を失っていたペコちゃんは騙せたけど、ここには狛枝や豚神なんかのキレモノぞろいだし。)

小泉(無理に繕うよりも、本当のことを言った方が説得力があるか…。)





小泉「覚悟、か…。仮に九頭龍が、覚悟なんて持っていなかったら…アイツはもっと、長生きできたんだろうね。」

豚神「…どういうことだ。」


小泉「九頭龍も覚悟を決めていたように、アタシだって覚悟を決めていたってこと。」

小泉「九頭龍の覚悟を利用して…アタシの仲間を、皆守るっていうね。」

終里「九頭龍の覚悟を…利用するだと?」




小泉「皆。絶望病って、どれだけ恐ろしい動機か知ってる?」

ソニア「それは…皆さんの性格が変わってしまい、結束が崩されてしまう恐ろしい動機でしたが…」

小泉「いや。絶望病はね。もっと直接的な動機になり得るの。」

弐大「なんじゃとお?どうしてじゃあ?」


小泉「絶望病によって、意図的に誰かを…事件を起こす性格に変えることが出来るからよ。」

田中「なっ…!!?」

小泉「モノクマはダミ―の絶望病で、皆の雰囲気を悪くしておいて。」

小泉「その隙を狙って本当の絶望病の感染者に、事件を起こさせるつもりだったんだろうね。」

澪田「マ、マジっすか!?」

七海「それが本当だとしたら…私たち全員が、事件を起こす可能性があったってことだよね。」

小泉「そう。すなわち、誰もが死の危機にさらされていたってこと。」

左右田「ひぇっ…。」




小泉「それを防ぐ方法は、ただ1つ。」

小泉「絶望病による事件を起こすことよ。」

弐大「おい。矛盾していないか?絶望病による事件を防ぐために、絶望病による事件を起こすなど…。」


小泉「この動機で起こせる事件は、1回だけなの。2回以上は、リスキ―過ぎてやる勇気はないわよ。」

小泉「1回目でさえ、危うく失敗するところだったんだから。」

小泉「そうよね?モノクマ。」

モノクマ「…」


狛枝「へぇ…。反論できないんだ。じゃあやっぱり、小泉さんの言う通りなんだね?」

豚神「恐らく、そう取っていいのだろう。」

小泉「だから…1回事件を起こしてしまえば、もう皆は絶望病に苦しむことはない。」

小泉「皆、もう絶望病による死の恐怖に囚われる必要はないってことなのよ。」




日向「だから…九頭龍を殺したってのか?俺たちを、守るために…!?」

左右田「ふざけんじゃねぇ!!何が仲間を守るだ!!!!そ、そんな理由で、九頭龍を…!!」

七海「そうだね。確かに放っておけば、誰かが無作為に死んじゃっていたかもしれない。」

七海「でも、だからって、誰が死ぬかを意図的に決める権利なんて…誰にもないはずだよ。」

田中「そうだ。何を言おうと…人殺しは人殺しだ。所詮、己のエゴでしかない。」

田中「だから…いかなる理由があろうと、人殺しは許されるべきではないのだ。」


小泉「…そうね。アタシの行為は、許されるべきじゃない。」

小泉「アタシには、他人を殺す覚悟なんてなかったから…。アタシを殺すっていう九頭龍の覚悟を利用した。」

小泉「実際は、あまりうまくいっていなかったみたいだけど…。紆余曲折あって、結局は同じ結果に収束した。」


小泉「アタシが九頭龍を、道連れにするっていう…そんな結末。」

小泉「直接ではないけれど…九頭龍は、アタシが殺したも同然よ。」

花村「…」


小泉「それでもアタシは、皆を守りたかった。それがアタシの、覚悟だから。」

西園寺「…」




今日はここまで。

そろそろ次スレ建てないとヤバい。




終里「それが、覚悟…だと?」

弐大「そんなの…勝手すぎるじゃろうがい。覚悟の中に、ワシらを組み込むなんぞ…。」

田中「そうだ。死にゆく理由に、他人を使うなよ。」

澪田「なんか、どっかで聞いたことがあるようなフレ―ズっすね。」


小泉「そうね。確かにこれは、アタシのただの自己満足。」

小泉「皆の為なんて言えば、聞こえはいいけど。その実アタシは、自分のエゴしか考えていない。」

花村「…」


小泉「でもね、それがアタシなの。自分のエゴのために、九頭龍を…他人を、殺してしまうような最低の人間。」

小泉「それが…小泉真昼の本性なのよ。」

ソニア「じゃあ、わたくしたちは…小泉さんという存在を、勘違いしていたと…?」

左右田「…くそっ。」





日向「じゃあ…本当にお前は、死ぬ気なのか?」

罪木「し、死ぬって…?」


豚神「校則にあったな。人を殺した人間はクロと呼ばれ、学級裁判ではクロを問い詰めると。」

七海「犯行を暴かれたクロは、処刑される…んだよね。」

西園寺「しょ、処刑って、小泉おねぇを…?嘘でしょ!?」


狛枝「いや。小泉さんを殺すくらいの兵器なら、モノクマは余裕で持っているだろうね。」

ソニア「モノケモノ…彼らは初日に、見せしめとしてモノミさんをボロボロにしていますものね。」

終里「アレを生身の人間にやるとなっちゃあ…ひとたまりもねぇぞ。」

罪木「そ、そんなことを認めて良いんですかぁ!!?」


狛枝「でも小泉さんは…それを覚悟の上で、今回の犯行に及んだんでしょ?」

弐大「小泉の目的は、九頭龍を道連れにして…だったからのう。」

小泉「…」




小泉(ここからが、本番だ。皆をここで、説得できるかどうか。)

小泉(皆はやはり、アタシが犯人だと思ってくれているみたいね。)

小泉(狛枝や豚神も、騙されてくれているといいんだけど…。)



小泉(でも…九頭龍がもう死んでいるとして。本当にアタシがクロになるかは、わからない。)

小泉(いや…恐らくアタシは、クロになれない。)



小泉(アタシは自分とペコちゃんを守るために、九頭龍を崖から蹴落とした。)

小泉(その結果アタシは、命拾いしたわけだけど…。)


小泉(九頭龍を殺し損ねてしまった。包丁による、致命傷を与えることが出来なかった。)

小泉(学級裁判のクロは、モノクマの裁量で決まる。アタシが九頭龍を蹴落として、それが九頭龍の死に関わろうと…)

小泉(例えばモノクマが、『致命傷は刺し傷』なんて言ってしまえば。)

小泉(アタシが何と言おうと、花村がクロになってしまう。)




小泉(いや…モノクマは、間違いなくそうするだろう。)


小泉(モノクマがこのタイミングで皆を呼び出したのは恐らく、犯行現場を皆に目撃させるため。)

小泉(殺人鬼としてのアタシを、皆に印象付けるため…。)


小泉(それ自体はアタシの意思と一致するのだけど。問題は、モノクマはそう思ってくれない事。)

小泉(アタシをクロだと印象付けたうえで、学級裁判を開き…投票の結果をアタシにさせる。)

小泉(そうすると、正しいクロを指摘できなかった皆は…花村を除いて、皆殺しだ。)

小泉(仮に皆が真実にたどり着いたとしても、花村が死んでしまう…。)



小泉(それが、モノクマの目的。やけに、アグレッシブに攻めて来るわね。今回は。)

小泉(それもそうか。動機はもう3つ目なのに、未だに死者は九頭龍1人だけ。)

小泉(モノクマもきっと、焦ってるのね。アタシ達の人数が、全然減らないから。)


小泉(だからこそ…一気にアタシ達の数を減らせる方法を、強行してきたんだ…!!!!)

小泉(だからアタシは、モノクマの目論みを打ち破らないといけない…!!!!)




ツキオトセ シタイハカクセ



小泉(…ホンット、土壇場であんなことを思いつくなんて。アタシでさえ、全く思いつけなかったのに。)

小泉(やっぱりアイツは、純粋な極道の塊だった…そういうこと。)

小泉(まぁ…アタシを殺そうとしていた時に、方法の1つとして考えていたから…すぐに思いつけたって事なのかもしれないけど。)

小泉(…とにかく、皆を説得しよう。たとえどれだけの醜態をさらそうと…アタシは誰も、死なせない。)





小泉「死ぬのは、怖いよ。」


七海「えっ…?」

小泉「怖いよ。死にたく、ないよ。」

左右田「…言ってることが、さっきと違うじゃねぇか。」

終里「九頭龍を死なせておいて、自分は死にたくない…ってのかよ。」


罪木「小泉さんが死なないようにするためには…学級裁判ってので、わざと間違えた答えを出せば良いようですが…」

狛枝「その場合は、他の皆が死んじゃうみたいだね。うん。それはさすがに、誰も望まないんじゃないかな?」

日向「望んでないって…俺たちは、小泉の死だって望んじゃいないだろ?」

狛枝「でもやっぱり、小泉さんの命よりは自分の命の方が大事でしょ?」

日向「そ、それは…」


小泉「…そうね。学級裁判が開かれた時点で、アタシの死は免れない。」

小泉「3人以上の人間が、九頭龍の死体を発見してしまえば…」





豚神「…なに?」

澪田「ん?どうしたんっすか?白夜ちゃん。」


豚神「そうか…3人以上の人間が死体を発見しないと、学級裁判とやらは開かれないんだ!!」

西園寺「ど、どういうことだよ、豚足ちゃん!!」

豚神「校則の9項目を見てみろ。」



9.3人以上の人間が死体を最初に発見すると、“死体発見アナウンス”が流れます。



ソニア「死体発見アナウンスとはなんでしょう…?」

弐大「パンツ発見アナウンスなら聞いたことがあるがのう。」

田中「3人以上の人間が死体を最初に発見…というのも、どういう意味だ?」


豚神「俺はこれの意味が気になってな。モノクマに質問したことがある。」

澪田「ええ!?流石っすね白夜ちゃん!!」

豚神「そもそもお前らは気にならなかったのか?校則などという大事な物なのに、まともに理解しないままに放置するなど…」

日向「そ、それもそうだな…。」




田中「して、どのような返答を承った?」

豚神「3人以上の人間が死体を発見すると、アナウンスが流れる。」

西園寺「そのままじゃん!!」


豚神「アナウンスというのは、下着盗難事件の時に流れたのと同じような物だ。」

豚神「このアナウンスが流れた後に、一定の自由時間が与えられるらしい。事件の捜査という名目でな。」

狛枝「それも、下着盗難事件と同じだね。」

七海「そしてその後に、学級裁判か…。」



豚神「重要なのは、アナウンスが流れた後に裁判があるということだ。」

西園寺「そっか…逆に言うと、アナウンスが流れない限りは裁判は開かれない!!」

日向「そうなのか?モノクマ。」

モノクマ「…基本的にはそうですね。3人以上の人間が死体を発見しないと、事件としては扱われません。」


モノクマ「まぁ…3人以上が発見しようが、今回は死体発見アナウンスは流れないだろうけど。」

七海「え?」


小泉(…共犯者のシロがいる場合、アナウンスは流れない。今回の“共犯者”ってのは、アタシの事か…。)




西園寺「ってことは九頭龍の死体を3人以上に見せなかったら、小泉おねぇは死なずに済む…!?」

弐大「待て。じゃあなぜさっき、死体発見アナウンスは流れなかった?ワシらは皆、倒れとる九頭龍を見たじゃろう?」


小泉「…あの時はまだ、九頭龍は生きてたの。」

罪木「っえ!?じゃあまだ、助かる見込みが…!!?」

小泉「これでまだ生きてたら、アイツは化け物ね。」

弐大「…くっ。」


狛枝「九頭龍クンを下手に助けに行けば、小泉さんまで死ぬことになる…ふふっ、なんていう皮肉だろうね。」

日向「…お前は黙ってろ、狛枝!!」




終里「じゃあ、その3人以上ってのは、何なんだよ?」

豚神「3人以上というのは、どうもカウント制のようだ。」

豚神「3人が同時に死体を発見しても流れるが…個々の人間が時間をおいて1人ずつ見ても、合計3人以上が発見すればやはり流れる。」

狛枝「それって、同じ人間が何度見ようと1人の発見者…ってことでいいんだよね。」


豚神「そして発見者には、犯人も含めることがあるようだが…。」

小泉「…アタシはまだ、九頭龍の死体は見てないってことになるわね。」

西園寺「じゃあ、すでに九頭龍の所に向かった辺古山以外に、発見者を1人以内に抑えれば…!!」





左右田「…いいのかよ、それで。」


澪田「え…?和一ちゃん?」

西園寺「いいのかよって…アンタ、聞いてたの!?そうしないと、小泉おねぇが死んじゃうんだよ!?」

西園寺「アンタ、小泉おねぇが死んでも良いって言いたいわけ!?」


左右田「そういうわけじゃ、ないけどよ。九頭龍の死体を誰も見ないようにすれば…誰も、九頭龍を弔うことができねぇじゃねぇか。」

西園寺「そ、それは…」

田中「確かに、疑問は残るな。俺達に、誰かの死を隠蔽する権利などあるのかどうか。」

小泉「隠蔽って…ペコちゃんを含めて2人は見れるんだから、隠蔽って程でもないじゃない。」

西園寺「…」




日向「確かに小泉の犯行は、許されるべきじゃない。」

日向「でもだからって俺たちは、小泉に死をもって償えとか思ってるわけじゃないだろ?」

罪木「それは、そうですけど…。」


日向「学級裁判なんて、モノクマが無理やり決めたル―ルだ。それに則る事こそ、モノクマの思うつぼだろ。」

七海「うん。小泉さんには、別の形で反省してもらえばいいと思う。わざわざ、死んでもらうことはないと思うよ。」

日向「九頭龍は…俺が、精一杯弔う。それで、良いってことにしてくれないか…?」


澪田「…本当にいいのかな。これで。」

豚神「しかし…現実問題、それが最善だろう。これ以上の犠牲者を出さないためには…。」




今日はここまで。

最近全然更新できないな…テストがあったんです。




新スレ。次からはこっちのスレで。


2週目part3→ もし小泉さんが主人公だったら 【ダンガンロンパ2】 repeated despair part3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1433640115/)


残りは、誰かに埋めてほしいけど…埋めネタとかって需要有るんだろうか。





いろいろと間違っているダンガンロンパ


~もし小泉さん達の修羅場が別の意味の修羅場だったら~



―ビ―チハウス―


小泉「じゃ、じゃあ九頭龍は、アタシに何か、用があるってこと?」

小泉「用件は何かな?お、教えてくれないかな…?」

九頭龍「しらばっくれんな!!!!」

小泉「ひゃあっ!!!?」

九頭龍「テメ―にはわかってんだろ…?だからずっと、オレに対してあんな態度をとってたんだろ?」


九頭龍「オレの気持ちを知りながら…小悪魔のようにそそくさと、いつも姿を消してしまう。」

九頭龍「今まではずっと抑えていた。でも…もう抑えきれない、この思い。」

九頭龍「オレは、お前が…」

小泉「…」


小泉「やめてよ。なんで今更、そんなこと言うのよ…。」

小泉「どうせ裏切られるに決まってるのに。期待しちゃダメだって、分かってるのに。」

小泉「そんなこと言われたら…また、期待しちゃうじゃない。」

小泉「もしかしたらアタシだって、誰かから愛されるかもなんて…えへへ。」



バタンッ!!



辺古山「坊ちゃん!!!!」

九頭龍「なっ!!?ペコ!!!?どうしてここに!!!?」

辺古山「坊ちゃんの服に発信機を埋めさせていただきました。」

九頭龍「何だと!?この変態スト―カ―めが!!!!」


辺古山「それよりも…どういう事ですか、坊ちゃん!!!!私という女がありながら、他の女を口説き落とそうなどと…!!!」

小泉「ちょっと九頭龍…これ、どういう事よ!!!?アタシを、騙してたの!!!?アタシとペコちゃんで、二股かけようなんて…!!!!」

九頭龍「く、くそっ。せっかく、上手くいきそうだったのに!!!!」


辺古山「坊ちゃんの女には、私こそがふさわしいのだ!!」

小泉「何言ってんの、ついさっきまでコイツはアタシを口説いてたのよ!!!?」

辺古山「私ですよね、坊ちゃん!!!!」

小泉「どうなのよ、ハッキリしなさいよ!!!!」

九頭龍「オ、オレは…オレは…!!!!」



九頭龍「やっぱり妹が1番だぁああああ!!!!」ダッ

辺古山「あっ、逃げた!!」

小泉「このチキン!!ヘタレ!!優柔不断!!!!」

辺古山「プレイボ―イのシスコン軍曹!!!!」




―病院 辺古山の病室―


辺古山「…」


小泉「ペ・コ・ちゃんっ!!!!」

辺古山「…!!!!」


辺古山「…何をしに来た。まさか、宣戦布告か?」

小泉「そんな、宣戦布告だなんて…。」



小泉「…アタシ、昨日の晩。」


小泉「アイツと、結ばれたの。」

辺古山「!!」





辺古山「ぁ…ぅあ…」


小泉「一晩過ごしてしまえば、もう立派な彼女よね。」

小泉「うふふ…そのうち玉のような赤子を授かるのかしら。結婚式には呼んであげるわね。」

辺古山「あ…あ…」






辺古山「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」




辺古山「ぅあああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


小泉「ふふ…またね、ペコちゃん。」




―ライブハウス前―


九頭龍「なぁ、小泉。オレも、無い頭を絞っていろいろ考えたんだけどよ。」

九頭龍「やっぱりオレには、ペコしかいねぇんだよ。もうオレは、ペコしか見ないことに決めたんだ。」

九頭龍「だから…オレの事は、諦めてくれよ。」

小泉「…」

九頭龍「正直な話…ちょっと寝たくらいで彼女面されると、こっちが困るっつ―か…。」

小泉「…」


小泉「そうね。アタシは今後一切、2人から手を引くわ。」

九頭龍「わかってくれたか、小泉…」




グサッ





九頭龍「…え?」


小泉「…酷いよ。」

小泉「自分だけ、ペコちゃんと幸せになろうなんて!!!!」


グサッ!!!!ザクッ!!!!


九頭龍「あ…おゴア…!!!!」

小泉「はぁっ…あぁっ…!!!!」



小泉「とどめじゃぁあああああああ!!!!」


ドゴォオオオオ!!!!!


九頭龍「ホギャアアアアアアアア!!!!」←崖をゴロゴロ

小泉「ふぅ…汚物は消毒よ。」



~ほんで、辺古山がやって来て~


小泉「アタシのお腹には、赤ちゃんが」

辺古山「中に、誰もいませんよ。」








澪田「…みたいな修羅場を期待するっす!!!!」

ソニア「ワォ!!オレの彼女と幼馴染が修羅場過ぎる、ですね!!!!」


辺古山「誰が得するんだコレ!!?」

九頭龍「オレ、最低じゃねぇか…。」

西園寺「死んだ後も、皆から死ね死ね言われる男のパタ―ンだね―!!!!」

苗木『だ、だから違うんだって!!』


小泉「っていうかコレ、アタシが完全に病んでるじゃない。こんなのアタシのキャラじゃないわよ。」

狛枝「この話に限っては、あながち間違ってないような気もするけどね…。」


小泉(…そもそも、アタシが好きなのは。)

小泉(病むほどに一途になれるのも、ある意味幸せなのかもしれないわね。)


END


このSSまとめへのコメント

1 :  苗木きゅんファン   2015年01月26日 (月) 04:43:58   ID: wq33VhxD

俺新訳と比べると、退廃的だな···。
苗木は初めは憎悪とか恨みとか無しで、
江ノ島(···)を除く78期生全員の脱出を考えてたのに。
小泉さんは二週目であんな風かよ···。
希望と絶望は違うのか。
やはり小泉さんは超高校級の絶望なのかな?

2 :  SS好きの774さん   2015年02月04日 (水) 17:04:07   ID: WhoQ_PpC

切腹って死ぬのにかなり時間がかかるから介錯人が苦しまないように首を切るんだよね。それと、首を切るだけだと恐怖がそっちに行くから腹を切らせて意識をそっちに向かせるって説も聞いたことがある。

3 :  SS好きの774さん   2015年03月07日 (土) 09:12:26   ID: 7a3RFZLG

小泉さんはやはり超高校級のおかんですな。

4 :  SS好きの774さん   2015年05月23日 (土) 09:35:51   ID: bqDDN-DL

九頭龍のセリフに感動しました!彼の行動はお見事です!

5 :  九頭龍=俺の嫁さん   2015年06月07日 (日) 00:19:39   ID: T0CJ4Sea

この後、九頭龍ゎどうなってしまうのか。俺的にゎ生きててほしい...!

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