『PET』(22)

「僕の血は汚れている」

そう呟いた事に気付くのに数秒かかった

まだ覚束ない意識を手繰り寄せて
少年はようやく今の現状を確認する事が出来た

少年の目の前に死体がある

そして右手で握りしめていた刃物の存在に気付く

その死体は見覚えがあった

家族だった

間違っている家族

少年の家族

父、母、姉、そして少年の四人家族

だが今となっては間違っている家族

少年の服は血にまみれていた

少年は立ち尽くしたままだった

少年は眺めていた

間違っている家族の亡骸

原形を保っている残骸を見た

間違っている父親の残骸

酷い有様だった

頭が真横に真っ二つになっていた

眉の上辺りから

凄く気持ち悪い程綺麗に真っ二つになっていた

ごっそり脳みそが零れ落ちていた

少年はそれを見てこう思った

脳みそとは肌色に近いピンク色をしていると

父に比べマシな残骸

母の残骸

腹を切断されていた

執拗に

横向きにスライスされていた

母の身体は

残骸は

腹だけ無造作にスライスされていて他は傷一つなかった

ふと少年は部屋の片隅に置いてあるごみ箱に視線を向けた

ごみ箱の中には母の内臓やら腸やらが捨ててあった

不要になったから捨てた

少年は自分が捨てたことを覚えていなかった

そしてもう1人、姉の残骸

笑ってしまうほど可笑しな死体だった

組み立てると完成する人形のパーツのように身体の部位をバラバラにされていた

頭、胴、左腕、右腕、左脚、右腕

6個に身体が解体されていた

そんな三人の死に様を他人事のように描写して、再確認した少年はまた呟いた

「死のうかな」

そう呟いて少年は思考を巡らせる

ここで自殺しようか

既に少年の目的は果たしていた

間違っている家族を殺すこと

跡形も無く

父に告げられた一言、事実に少年はこの行為に及んだ

『お前は俺と、お前が姉と思い込まされていた女との間から生まれた子だ』

意味がわからなかった

それ以前に少年の思考回路既に可笑しくなっていた

正常ではなかった

自分の父と母と姉が三人で性行為に勤しんでいる惨状を目の当たりにしたからである

つまり少年は父と姉の子

実の親子から生まれた子

近親相姦で生まれた子

汚れた子

その事実を知らされた少年は崩壊した

少年の何か崩壊した

崩れ落ちた

虚構ではないかと思った

でもそうとは思えなかった

少年はその事実を否定しなかった

出来なかった

現実として、認めて、実感した

少年は家族を殺害したダイニングを出て、自室に向かった

そして自室に置いてある鏡を見た



少年を初見する人が必ずしもこう思うだろう

透き通るような白い肌、髪

そして兎を彷彿させる赤い目

幼い頃は特に自分外見に対してはどうとも思わなかった

でも、次第に自分は可笑しいのではないかと思った

周りと違う

普通じゃないと

一度少年は親に問いただした

どうして自分はこんな身体なんだ

みんなと違って肌、髪、目が違うんだ

親は一言で諭した

『お前は特別なんだ』

その頃の少年は、その特別という一言で納得してしまった

自分は特別なんだと

そして現在

ある意味、
自分が特別だと再確認した

滑稽過ぎて笑った

失笑ともいえるその笑いは
少年の顔を酷く歪ませた

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『この殺人鬼の子供がっ!!』

「!!!っ」ビクぅ

俺は辛辣な言葉で目を覚ました

それは勿論夢だった

しかし、嫌なほどにリアリティを持って頭の中には響いた叱責に、一瞬で俺は覚醒した

もう11月初句の冷え込む朝だと言うのに、全身、一瞬で汗びっしょりだ

「最悪だ…………」

あぁ怖かった

とりあえず身支度を始めた

仕事に遅れないように

「おはようございます」

居間に行くと朝食が用意されている

保護者である祖父と祖母と俺

その三人で暮らしている

父親には恵まれなかったが

祖父と祖母には恵まれた

祖父「仕事の方はどうなんだ?最近帰ってくるのが遅くて心配だよ」

「昨日、やっと今回の事件の犯人の手がかりを掴んでさ……」

祖父「……まぁ、仕事熱心なのはいいが、お前にもしものことがあったら、儂は心配で心配で……」

「本当ごめんお祖父ちゃん…………心配掛けて……」

祖母「まぁ無理もないわよね、所轄警察署の担当の責任者になれて」

「そうなんだよ、だから絶対に犯人を捕まえなきゃいけないんだ」

祖母「……くれぐれも気をつけてね」

「分かった」

俺の父は犯罪者だ

父は俺が5歳の頃、無差別大量殺人事件を犯した

父といっても、本当の生みの親ではない

俺は母の連れ子だった

それでも、俺の父には変わらなかった

事件が起きてから20年

俺は警察官になった

警察官になる場合、一次試験のあと身辺調査がほぼ全国の都道府県で行われていてる

その際に、本人や身内、一親等までの犯罪歴なども見られるが

不思議なことに、俺は無事、警察官になれた

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