ディディー「ドンキー、やめて。オイラ、男の子だよ……ぁっ……」(58)

以前vipで書いたことのあるドンキーとディディーの話をベースにしたssです。

「ねぇ、ドンキー。どこに連れてってくれるの?」
「……今は言えないな」
「そっか。うん、そうだよね。楽しみは最後まで知らない方がいいもんね」

 ディディーはご機嫌な顔で、陽光に照らされた広い道を歩いていた。
 自慢の長いシッポを左右にふりながら、前を歩くドンキーにぴったりとついていく。
 時折吹く風でお気に入りの帽子が飛ばされそうになるが、頭を手で押さえているのでなくす心配はない。
 ドンキーを盾にしているおかげで前から吹いてくる風は防げるので、横からの風だけに注意しておけば大丈夫だ。

(やっぱりドンキーは頼りになるよね)

 ディディーはドンキーの後ろ姿を見てニコニコと笑う。
 誰もが認めるこの仲良しコンビは、いつでもどこでも行動を共にしている。
 おいしいバナナをたらふく食べて食休みを終えたので、これから2匹で出かけるところなのだ。
 今日は珍しくドンキーが「おれについてこい」と胸を張って歩き出したので、ディディーは逆らわず、ドンキーの後ろをついていくことに決めたのだった。

 平和になってからは日光浴を楽しみ、冷たいバナナミルクセーキを飲み、ハンモックで昼寝する日々ばかりだったので、ジャングルに出かけるのはずいぶん久しぶりのことだ。
 懐かしむにはまだ早いかもしれないが、盗まれたバナナをクレムリンたちから取り返したのがもうずっと以前のことのように思える。
 冒険したことを思い出しながらジャングルを歩くのは、すごく新鮮だった。

(あれっ? ここって……)

 一体ドンキーはどこへ連れてってくれるんだろうと胸を膨らませていたディディーだったが、やってきたのはおなじみのバナナジャングルだ。

「バナナでも取りに行くの?」

 ディディーの問いかけに、ドンキーは無言でうなずく。
 トロッコに乗るわけでもなく、はたまた遺跡を散策するわけでもなく、ドンキーの目的は大量のバナナを持ち帰ることらしい。
 期待がはずれて少し残念な気持ちになったディディーだったが、『バナナなら倉庫にいっぱいあるし、いつでも食べれるじゃんか』などと無粋なことは言わない。
 ドンキーにはドンキーなりの考えがあるのだろう。
 それに、先導してるのはドンキーなのだから、ここは黙って従うのが相棒というものだ。

「行くぞ」
「うん」

 本心はおくびにも出さず、にこやかに返事する。
 おいしいバナナを求め、ドンキーはどんどん森林の奥へ奥へと歩を進めていく。
 さっきから口数の少ないドンキーに若干疑問を抱きながらも、ディディーははぐれないように早足でついていった。

 散策を始めてから数分。
 本道からはだいぶ離れてしまったというのに、ドンキーは引き返しもせず、黙々と前を歩き続ける。
 奥へ進むにつれ、やがて見慣れない光景が広がっていく。
 最初は笑顔だったディディーも、今はすっかり表情を曇らせていた。

「こんなところにバナナがあるのかなぁ……」

 あたりを見回しながら、不安混じりの声でつぶやく。
 それまでは黙ってドンキーの後ろを歩いていたが、なぜかドンキーは段々知らない場所に足を踏み入れていくので、内心不安を感じていたのだった。

 ここはバナナジャングルの、どのあたりなんだろう?
 脇道かどうかも怪しい。
 見慣れない場所だし、しかも木々の緑に覆われているせいで、太陽の光は少ししか射しこんでこない。
 おかげでまだ昼間だというのに薄暗く、今にもオバケが出てきそうな雰囲気だ。

 元々不気味さが漂う場所が嫌いなディディーにとって、こういった場所は苦手だ。
 ドンキーがそばにいるから心細くはないものの、おばけロープのもりを彷彿させるこの場所に長くいるのは正直嫌だった。
 ひんやりと冷たい空気が背筋に流れ、ディディーは身を震わせる。

「ね、ねぇ、ドンキー。ここどこ?」

 ドンキーだけにしか聞こえない声量でたずねる。
 大きな声を出すと、そこらの草むらがガサガサと動きそうな気がしてこわいからだ。
 少しでも恐怖を紛らわそうと思って声をかけたのだが、聞こえなかったのか、ドンキーはなにも返事をしない。

「ねぇ、ドンキー、ドンキーってば。……ドンキー?」

 声が小さすぎたかなと気を取り直し、今度は少し大きめの声で何度も呼びかける。
 それでもドンキーは振り向かず、依然として黙りこんだままだ。

「……?」

 ディディーは訝しい眼つきでドンキーの背中を見つめる。
 周りは静かだし、しかもこんなに近い距離で話しかけてるのに聞こえないはずがない。
 どこへ行くか聞いた時はちゃんと答えたんだから、難聴という可能性もない。
 怒らせることはなにもしてないし、無視するのはどう考えてもおかしい。
 もう一度声をかけようか迷っている時、ふと、恐ろしい考えが脳裏をよぎる。

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