ほむら「今度こそあなたを救ってみせる」 士郎「……」 (188)

ワルプルギス「―――――――ァァァ!!!」

ワルプルギスの夜、今まで何度も何度も対峙してきた魔女。

その魔女の声にならない断末魔が聞こえる。

崩れゆく魔女の体、暗い雨を降らしていた雲が消え青い空が顔を見せる。

幾度と無く敗北を重ねてきた相手に勝つことが出来た。

まどかは魔法少女にはなっていない、それでも勝つことが出来た。

だけど……。

士郎「……」

また、彼は犠牲になった。

私の目の前には、地面を真っ赤に染める彼の骸。

細く、短いロウソクのような命を焼き尽くすような生き方をする彼。

まどかを救う、私の願いは成就された……。

だけど、私は繰り返す。

何度でも、何度でも……。



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この作品はFateシリーズの衛宮士郎が魔法少女まどか☆マギカの世界で活躍するクロスssとなります。
Fate本編ネタバレ、まどかマギカネタバレ等々があります。

苦手な方はブラウザバックを推奨します。

それでもいいよと言う方は続きをお楽しみください。

ほむら「この光景も何度目かしら……」

目を覚ませば真っ白な天井。

幾度と無く繰り返し見た光景だ。

体を起こし今の状況を思い出す。

前の世界で、私はワルプルギスの夜に勝つことが出来た。

まどかは魔法少女にならず、巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子も犠牲にならず……。

だが、たった一人。

たった一人彼だけはその命を失った。

ほむら「衛宮……士郎……」

彼は人間の身でありながら私たちを守り、そしてワルプルギスの夜を倒した正義の味方。

だが同時に、彼が現れた世界で彼が一度たりとも生き残った世界は無い。

タイミングの違いはあれど、彼は必ず死ぬ。

どんなに絶望的な状況だろうが、どんなに希望に溢れた状況だろうが。

それは、世界が決めた事かの如く彼を死へと導く。

初めて彼が現れたのは巴マミが幾度と無く死を迎えたお菓子の魔女の結界。

彼の出現により巴マミは死の運命から抜け出した、彼の死を代わりにして。

巴マミが魔女に頭を食いちぎられる、その瞬間に彼は現れ犠牲になった。

その時は単なるイレギュラー、偶然だと思った。

だが、そこから時間を戻す度に彼が現れるようになった。

~~~~~~~~~~

まどか「マミさん!」

マミ「え……」

巴マミ、彼女の眼前に迫るお菓子の魔女の歯牙。

彼女をその牙が襲い掛かる瞬間。

?「投影――開始」

目を閉じた3人の少女、そして鳴り響く金属音。

少女達が目を開けると、そこには魔女の牙を二つの剣で受け止める青年の姿。

?「俺がこいつを抑えてるうちに早く逃げろ!」

マミ「え、あ、は、はい!」

マミが魔女から距離を取り体勢を立て直す。

それを確認した青年が魔女の牙を受け流し剣を構え直す。

~~~~~~

その時の私はまた巴マミの死を回避出来なかったという思いだった。

だが、その後に私が見た物は生還した巴マミと彼の姿。

彼が現れてから何度目かの世界、少しずつ状況が良くなっていた。

いつしか、私は彼の存在を無視できなくなっていた……。

~~~~~~

士郎「自己紹介がまだだったな、俺の名前は衛宮士郎」

マミ「私は巴マミです」

さやか「アタシは美樹さやか」

まどか「鹿目まどかです」

マミの部屋には3人の少女と1人の青年。

お菓子の魔女を倒したあと、彼は巴マミの部屋に招待されていた。

マミ「衛宮さんは何故魔女の結界に?」

士郎「魔女の結界……ってのはよく分からないけど、何かこう、直感的に嫌な感じがしたからかな」

士郎「それで、先に進んで行ったら君達が居たんだ」

士郎「ところでアレは何だったんだ? 君がやられそうだったから咄嗟に飛び出したけど」

マミ「……あそこで関わってしまった以上隠すのも失礼よね」

マミ「あれは魔女と呼ばれる存在、目に見えない呪いで人々に害を成す存在なんです」

士郎「魔女……ねぇ」

マミ「そして私はその魔女を倒す魔法少女、契約によって生まれた正義の味方みたいなものかしら?」

マミは前日にまどかやさやかに説明したように士郎に説明を続ける。

魔法少女と魔女の存在、そして彼女自身が魔女を倒す為日々活躍していること。

士郎「つまり、その魔女ってのをほっとくと人々が危険な目に合うと」

マミ「そういう解釈で大丈夫です」

一通り説明を終えた所でマミは一つの疑問を投げかける。

マミ「衛宮さん、アナタは何者なんですか?」

魔女に操られて結界に入ったわけでもなく、魔女の攻撃すら受け止めた彼。

この世界で魔女に対抗出来るのは魔法少女だけ、それがマミの認識である。

そこに現れた彼は異質なモノであり、何故そこに居たのかというのは当然に疑問である。

士郎「俺は……そうだな……正義の味方、ってのじゃダメかな?」

彼の口から飛び出したのは酷く抽象的な言葉。

さやか「正義の味方って、そんなアニメやゲームじゃあるまいし」

士郎「って言われてもなぁ」

マミ「言い辛いのなら言わなくても大丈夫ですよ」

マミは紅茶を入れたカップを士郎の前へと置く。

マミ「それより、遅れてしまいましたけど、あの時助けて頂いてありがとうございました」

士郎「いや、俺はただあの魔女ってのを抑えただけさ、俺一人じゃアイツには勝てなかったし」

結局の所、士郎一人ではお菓子の魔女の攻撃を捌くので精一杯であった。

彼が囮になっている間に体勢を立て直したマミがお菓子の魔女にトドメを刺したのだ。

マミ「それでも、あのままだったら私は命を落としていたかもしれない、それを救ってくれたのは衛宮さんですから」

士郎「そっか、じゃあその言葉はありがたく受け取っておくよ」

士郎は紅茶を飲みきると立ち上がった。

士郎「それじゃ、いつまでも女の子の部屋に居るのもアレだからな」

マミ「そんな、ゆっくりしていって貰っても構わないのに」

士郎「また今度暇な時にお願いするよ、俺もしばらくはこの町に居るからさ」

そう言って、彼はマミの部屋を後にした。

~~~~~~

ほむら「魔術使い……」

初めて彼と話した時の事だ。

彼を問い詰めると自分は魔術使いだと答えた。

魔術、私たち魔法少女の魔法とは似て非なるもの。

巴マミの一件を乗り越えてから、彼は魔女との戦いの場に必ず姿を現すようになった。

彼が言う魔術、何も無い空間から剣を作り出す力。

私たちが無から有を生み出す様に、彼も数多の剣を作り出す。

その剣の形は様々で、やはり私たちの力とは違うと言う事を認識させる。

それに、彼自身は普通の人間だ。

魔法少女のように優れた身体能力がある訳でも無く、魔女の一撃で致命傷になるのが常だ。

魔術、と言う力は使えても扱う本人自身はただの人間なのだ。

故に幾度も命を落とした。

魔法少女なら耐えられる攻撃でも彼は耐えることが出来ない。

傷つき、ボロボロの体になって尚、彼は魔女と戦い続けた。

~~~~~

ほむら「ちょっといいかしら」

士郎「ん?」

真夜中のビルの屋上。

眼下を見下ろす士郎に声をかけるほむら。

士郎「おいおい、こんな遅くに女の子が一人歩きなんてしてたら危ないぞ」

ほむら「私が、魔法少女だとしても同じことが言えるかしら?」

ほむらの言葉に士郎が反応する。

士郎「君も、巴と同じように魔法少女なのか?」

ほむら「えぇ、そうよ」

こちらの世界に足を踏み込んでいる彼にいちいち素性を隠す必要は無い。

士郎「で、魔法少女が俺に何か用か?」

あえて自身の目の前に現れた少女へと問いかける。

その問いに対し、ほむらは答えを返す。

ほむら「魔女を倒す為、アナタの力を貸して欲しいの」

士郎「俺に魔女を倒す協力をして欲しいって事か?」

ほむら「そうよ、魔法少女ではないにも関わらず魔女と戦うアナタの力を貸して欲しいの」

実の所、ほむらは士郎の戦力その物には期待してはいなかった。

だが、一つだけ確実に言える事がある。

彼が存在する事で少しずつ良い方向へと世界は変わっていく。

ならば、彼を死なせない事がほむらに出来る最善なのではないかと。

士郎「俺なんかじゃ魔女に太刀打ち出来ないし、それぐらいだったら巴とかと協力したほうがいいんじゃないか?」

彼の言う事は事実、だが今必要なのは魔女を倒す為の戦力ではない。

ほむら「いいえ、私にはアナタの力が必要なのよ、衛宮士郎」

彼女が必要なのは、運命を変えるだけの力だった。

~~~~~

彼と接触することで事態は少しずつ良い方へと傾いて行った。

確かに彼自身が魔女と戦うには人間の身であることから限界があった。

だが、それ以上に彼の存在が周りに良くも悪くも影響を与えた。

彼の近くに居る時間が多くなり、思うようになった。

まどかを救う為には、彼の存在が必要であると。

ほむら「でも……」

この考えは間違いではなかった。

そして、まどかの力無しでは勝つことの出来なかったワルプルギスの夜でさえ倒すことが出来た。

それ程までに彼という存在の影響力は大きくなっていたのだ。

ただ、それは彼という存在が犠牲になった上での運命改変。

まどかを救う、それだけの為だけに全てを投げ打ったはずなのに。

彼の死を受け入れることが出来なかった。

ほむら「だから、私は……」

時を戻した。

鹿目まどかを救い、衛宮士郎が犠牲にならない運命を勝ち取る為に……!

~~~~~~~~~~~

士郎「ここが見滝原市か……」

聖杯戦争を生き残った彼は、その後遠坂凛とロンドンの時計塔へと渡っていた。

数年の月日をそこで過ごし、聖杯戦争当時と比べ彼の魔術師としての質も格段に上がっていた。

そんなある日、凛から頼みを受けることになった。

日本の見滝原市の龍脈に異常が見られる為その確認をして欲しいとの頼みだった。

士郎「っつってもなぁ……」

当の彼女から渡された地図は子供のラクガキのように適当であり、何処を調べれば良いのかまるで見当が付かない状態であった。

士郎「これじゃ何処を調べりゃいいのかさっぱり分からないぞ遠坂……」

そんな愚痴をこぼすが、本人にそれを言ったら修行不足だのなんだのとお説教を受けるのが目に見えている。

士郎「とりあえず町を見て回るか、こういうときは足で稼ぐしかないよな」

そう自分に言い聞かせ、彼は見滝原の町を見て回ることにした。

ほむら「……居た」

遥か頭上から、一人の少女の視線が注がれていることにも気づかずに。

士郎「はぁぁぁぁ、結局一日歩き回っても手がかりは得られずか」

夜の公園で一人大きなため息を付く。

見滝原の町を歩いて回ったものの、当然一日で回り切れる広さでもなく龍脈を見つけることも出来なかった。

ただ、それ以外の収穫はあった。

士郎「所々に魔術の痕跡みたいなものがあったな……」

この町を回り気づいたこと、場所は様々だが魔術師の使う結界の痕跡のようなものがいくつも見られた。

事前に聞いた情報ではこの町は魔術師が存在しないとの話だった。

しかし、現に士郎ですら感じ取れる程の痕跡が残っている。

士郎「少し、注意したほうがいいかもしれないな……」

手に持った空の缶をゴミ箱に捨て、今日の宿を探す為に町へと向かおうとする。

そんな彼の前に、1人の少女が現れる。

士郎「ん? こんな遅くに女の子が一人で居ると危ないぞ」

ほむら「心配には及ばないわ」

ほむらは士郎に近づき歩みを止める。

ほむら「私は、アナタに会う為にここに来たんですから」

食事&風呂休憩
23時ぐらいに再開予定

昔似たやつがあった気がするけど別人だよな?

>>21
このネタで投下するのは初めてです

という訳で続きをば

士郎「俺に会う為? 俺には君みたいな可愛い子の知り合いは居ないはずなんだが」

ほむら「アナタは私を知らなくても私はアナタを知っているの」

ほむら「だから、私の話を聞いて欲しい」

ほむらの目に嘘は無い。

士郎「まぁ、急いでる訳でも無いし、聞くだけならいくらでも」

その言葉にほむらは安堵する。

そして語り始める、魔法少女と魔女の事を。

ただ、自分が同じ時間を繰り返して居る事は話さなかった。

彼が魔術に関わっていて、魔法少女や魔女に関する話には理解を得られる事は何度も繰り返しわかっている。

だが、同じ時間を繰り返して居る事だけに関しては出会ってすぐの状態で理解を得る事が難しい事も知っている。

だから今回は核心に触れる部分はまだ話さないことにした。

士郎「魔法少女と……魔女ねぇ」

ほむら「突拍子も無い話で信じられないかもしれないけど……」

士郎「いや、信じるさ。 君が嘘をついているとは思わないからな」

そう、彼はそういう人だ。

こんな話でも彼は信じてくれる。

士郎「じゃあ、君の言う通りなら今夜その魔女が現れる訳だな?」

ほむら「君、じゃなくてほむらでいいわ、私も士郎って呼ぶから」

士郎「そうか? じゃあそれならほむら」

ほむら「えぇ、今夜魔女の結界が作られる、だから私たちでその魔女を倒すの」

今夜現れるのはお菓子の魔女。

巴マミの運命の分岐点とも言える存在。

だが、ここは何度も切り抜けている。

もう、ここで失敗することは無いとほむらは確信している。

士郎「じゃあ行こうか、結界を探すのはほむらのほうが得意みたいだし、頼めるかな?」

ほむら「えぇ、私についてきて士郎」

彼の先を歩き、魔女の結界へと案内する。

その歩みに今までのような不安は無かった。

マミ「ティロ・フィナーレ!!」

大砲から放たれた光の弾丸が魔女の体を貫く。

しかし、魔女の口から巨大なヘビのような本体が現れ今まさにマミの命を奪おうとする。

マミ「え」

その口が閉じられる瞬間であった。

士郎「――――投影、開始
            全投影連続層写……!!!」

虚空から現れた数多の剣が魔女の体を貫く。

魔女の体は地面に串刺しにされるが、ヘビの脱皮のように口から新たな本体が現れる。

ほむら「逃がさない……!」

だが、先回りをしていたほむらによる爆撃で魔女はトドメを刺される事となる。

マミ「暁美さん……?」

ほむら「その様子だと無事のようね巴マミ」

巴マミの死の運命、彼の力を借りればこんなにも簡単に回避出来る。

ほむら「そんな所で腰を抜かしていると、あの子達に笑われてしまうわよ?」

座り込むマミにほむらが手を差し伸べた。

マミ「暁美さん、衛宮さん、危ない所を助けてくれてありがとう」

魔女の結界が崩壊し、元の世界に戻ったマミは2人に頭を下げる。

士郎「無事ならそれでいいんだ」

ほむら「えぇ、アナタが無事で良かったわ巴マミ」

過去にはマミの死すらも運命の一片だと割り切っていたほむら。

だが、今は彼女を救える事も未来に必要なピースだと感じている。

さやか「マミさんも凄かったけど、士郎さんも凄かったよねぇ」

まどか「うん、まるでアニメに出てくる正義の味方みたいでした」

士郎「はは、正義の味方か……」

少女達の感想に恥ずかしそうに頭をかく士郎。

マミ「立ち話もなんですから、私の家へ来ませんか?」

マミの提案により、場所を移すことが決まった。

マミの家に着き、テーブルを5人で囲みながらほむらが詳しい事情を話す。

士郎の事、ほむら自身がマミとの協力を求めている事。

ここでもまだ核心については話さなかった。

魔女と魔法少女の因果関係についてはタイミングを考えなければいけない。

下手なタイミングで話せばこの先が無い事は分かっている。

だから、その事に関しては慎重にならざるを得ない。

マミ「それにしても、魔法少女じゃなくて魔術師なんてのも居たんですね……」

士郎「まぁ、一般的な職業じゃないからな、それを言えば俺も魔法少女なんてのが居るなんて知らなかったし」

士郎の存在をほむらが関わる人間に周知させる、元より非日常を生きる者同士話は早かった。

さやか「キュゥべえがアタシ達は魔法少女になれるって言ってたけど、その魔術師ってのにはなれないのかな?」

士郎「なれるさ、ただ何年も何十年も訓練をする必要がある」

士郎「現に俺だってまだまだ未熟なんだ、遠坂……俺の師匠にもいつも未熟者って怒鳴られてるからな」

まどか「士郎さんでも一人前じゃないんですね……あんなに凄いことが出来るのに」

魔術師と言うものがどれだけの力を有しているかはほむらにも分からない。

だが、未熟と言う彼でもアレだけの事ができるのだ。

契約によって力を手に入れる魔法少女とはやはり似て全く非なるものだとほむらは感じた。

その後、他愛の無い雑談をしてその日はお開きとなった。

一つ目の条件、巴マミとの協力関係。

ほむら一人で時間を繰り返して居るときはいつも誤解やすれ違いから協力する事が難しかった。

だが士郎という緩衝材を間に挟むことにより、それもスムーズに進めることが出来た。

士郎「あー、まずいな、こんな遅くじゃ宿も取れないな……」

夜の闇に包まれた通りを歩くほむらと士郎。

時間は既に日を跨いでおり、泊まる場所を探すのも難しい状態だ。

ほむら「泊まる場所が無いならうちに来ればいいわ」

ほむらの言葉に士郎が若干困った顔をする。

士郎「いやいや、一人暮らしの女の子の家に男が泊まる訳にもいかないだろ」

ほむら「あら、アナタは一人暮らしの女子中学生の家に泊まったら手を出してしまう狼なのかしら?」

茶化すような笑顔でほむらは返す。

士郎はそんな彼女の言葉にさらに困ったような顔をする。

士郎「あんまり大人をからかうもんじゃないぞ」

ほむら「冗談よ、別に私は気にしないから泊まっていっていいわよ」

士郎「……んじゃ、お言葉に甘えますか」

先に折れたのは士郎の方であった。

明日も仕事の為今日はここで終了となります。
続きは明日投下予定です。

本編では語らないであろう細かい設定。

士郎
UBWルート後数年経った状態、本編ヒロインとはダレとも関係を結んでおりません。
凛を魔術の師としてある程度の成長をした姿となります。

他、気になる点等ありましたら随時答えます。

>都合のいい言い訳
全年齢対象且つifだと思ってください...

>セイバーさん
残念ながら居ません、鞘も返還済みです

>藤ねえ
そんな因果律すら超えるような願いは無い...!

開始します。

士郎「悲劇のヴァイオリニスト?」

下校途中だったマミとまどかに出会った士郎は世間話をしながら公園に居た。

まどか「上条恭介くん、さやかちゃんの幼馴染なんです」

マミ「将来有望だったみたいなんですけど、不慮の事故で手が動かなくなってしまったらしいの」

士郎「で、美樹は毎日その上条って奴の見舞いに行ってると」

まどか「でも、何だか最近さやかちゃん様子が変なんです……」

士郎「変? どういうことだ」

まどかは少しうつむき暗い表情を見せる。

まどか「上条くん、お医者さんから手は二度と動かないかもしれないって言われたらしいんです」

まどか「それで、気が立ってるのかさやかちゃんに当たってるみたいで」

まどか「さやかちゃん、私たちの前では何とも無いみたいに振舞ってるけど、やっぱり気は滅入っちゃってるみたいで」

今にも泣き出しそうな表情をするまどかとため息をつくマミ。

そして、少し考える表情をした士郎が立ち上がる。

士郎「鹿目、その上条って奴の入院してる場所を教えてくれないか?」

何かを思い立ったかのようにまどかに言葉を返した。

さやか「恭介、大丈夫だって。 恭介の手は絶対治るって!」

恭介「さやか、君は何でそんな簡単に無責任な事を言えるんだい?」

さやか「え……」

恭介がベッドに置かれたCDケースを払いのけ床に叩きつける。

恭介「こんな事をしても痛みも感じない!」

恭介「もう、無理なんだ! 今の医学じゃ僕の手は治らないって言われたんだ!」

さやか「そんなこと……!」

さやかがベッドに手を付き恭介に詰め寄る。

しかし、その行為ですら彼の神経を逆撫でする。

恭介「もううんざりなんだよ! 僕の事なんか放っておいてくれよ!!」

恭介は腕を振り上げ、そのままさやか目掛けて振り下ろす。

さやかは目を閉じ、歯を食い縛った。

来るであろう痛みに対し少しでも抵抗しようとする。

しかし、いつまで経っても思っていた痛みは訪れない。

そっと目を開ける。

さやかの目に映ったのは苦々しい顔をした恭介と、振り下ろされようとした腕を掴んだ士郎の姿だった。

さやか「士郎……さん……?」

恭介「何なんだよアンタ、離せッ! 離してくれよッ!!」

士郎「お前の手はお前を思う大切な人を傷つける為にあるのか?」

士郎は恭介の腕を握る手の力を少しずつ強めていく。

士郎「だったらそんな手、今ここで俺が壊してやる」

静かに、だが明確な怒りを有した言葉を投げかける。

恭介「……ッ!?」

さやか「や、やめて士郎さん!」

さやかが士郎の手を掴み恭介の腕を解放する。

解放された腕を見つめる恭介、その目には涙が流れている。

恭介「僕に……どうしろって言うんだよ……ッ!!」

恭介「もう一生動かないんだよ、僕の手は……奇跡か、魔法でも無い限り……!」

涙を流す恭介、そしてそれを見つめる士郎とさやか。

しばしの沈黙、その静寂を切り裂くように言葉を発する。

さやか「奇跡も、魔法も……」

士郎「ただ待ち望んでる人間に奇跡なんて訪れない」

さやかが目を見開く。

さやかの決意を遮った士郎の目は恭介の姿を見据えていた。

恭介は涙に濡れた顔で士郎を睨み付ける。

恭介「だったら、アナタは奇跡を起こせるって言うんですか……」

士郎は再度恭介の手を握る。

先程のように力任せではなく、繊細な物を扱うように。

士郎「俺に奇跡なんて起こす力は無い」

≪――――同調、開始≫

士郎「だけど、お前が自ら奇跡を起こす手助けならいくらでもしてやれる」

遠坂凛を魔術の師として仰いだ数年。

聖杯戦争当時では不完全で不明確だった魔術の使い方。

それを理解し、鍛錬を続けた今の彼にとって多少の応用は不可能では無い。

士郎は自身の魔術回路と恭介の魔術回路を同調させる。

多かれ少なかれどんな人間にも魔術回路は存在する。

ほとんどの人はその使い方を知らないだけ……。

なら、外部からその回路を開いてやればいい。

≪――――全工程、完了≫

士郎は眠っていた恭介の魔術回路を少しだけ開いた。

士郎は恭介の手を離す。

士郎「諦めるな、なんて無責任な言葉をかけるつもりは無い」

士郎は立ち上がり恭介に背を向ける。

士郎「だけど、お前の事を思ってくれる人がすぐ傍に居る事を忘れるな」

士郎「奇跡は起きるものじゃない、起こすものだからだ」

そう言って士郎は病室を後にした。

さやか「士郎さん!」

さやかが病室を出た士郎を追う。

病室を出ると士郎とまどかの姿が見える。

まどか「ごめんねさやかちゃん……、勝手にここの場所教えちゃって」

さやか「ううん、それはいいよ。 それより、士郎さん」

さやかは背を向ける士郎に言葉をかける。

さやか「アタシ、さっきキュゥべえに恭介を手を治して貰うように願おうとしてた」

さやか「多分、士郎さんが止めてくれなかったら……」

士郎「俺は別に止めたつもりも無いさ」

士郎は振り向き、さやかの頭に手を置く。

士郎「俺は俺に出来る事をする、美樹の願いは立派な事だ」

士郎「だけど、まだその必要は無い、それだけさ」

そう言うと頭に置いた手を離し、再度背を向け歩いて行った。

まどか「あ、士郎さん! ごめんねさやかちゃん、私行くね?」

まどかはその背を追いかけていく。

その姿を見送り、さやかは恭介の病室へと戻った。

恭介「……さやか」

病室に戻ると、恭介が涙に濡れた顔でさやかを出迎える。

さやか「恭介! どうかしたの!?」

ベッドに駆け寄るさやか。

そして驚愕する、その目に映ったのは彼女が望んで居た奇跡。

恭介「少しだけ、少しだけど手が動くんだ……!!」

それは酷く不器用で、とても遅い動き。

しかし、確実に、上条恭介の手は彼自身の意思で動かす事が出来ていた。

さやか「奇跡……」

さやかの目の前には、確かに奇跡が起きていた。

翌日、世間では週末の休みを各々が謳歌している日。

士郎は相も変わらず町を歩き回っていた。

その横にほむらを連れて。

士郎「別に、俺の仕事に付き合わなくてもいいんだぞ?」

ほむら「いいのよ、私が好きで付き合ってるんだから」

見滝原の龍脈の異常を探す、本来の士郎の目的だ。

士郎(まぁ、龍脈と魔女の発生も無関係じゃ無さそうだしな)

龍脈の大本は見つからない物の、魔女の発生で異常が発生してるのは事実である。

ならば、ほむらが一緒に居る事は無益な事ではなかった。

そんな2人の背後から、少女が駆け寄る。

さやか「士郎さーん!」

さやかが手を振って2人の傍に立つ。

その顔はとても晴れやかであった。

ほむら「美樹さん、何だかとても嬉しそうね」

さやか「へへっ、分かっちゃうかなぁ~?」

士郎「何かあったのか?」

さやか「えっと、士郎さんにお礼を言わないとって思って」

さやか「恭介の手、治してくれたんですよね? 本当にありがとうございます!」

さやかは士郎に向かって深々と頭を下げる。

士郎「何の事だ?」

さやか「またまたぁとぼけちゃって」

さやか「魔術で恭介の手を治してくれたんですよね?」

さやかは満面の笑みで士郎に問いかける。

士郎「俺はただ手助けをしただけさ、上条の手が治ったのは彼自身が起こした奇跡さ」

あくまで自分は手の治癒をした訳では無いという答えを返す士郎。

さやか「それでも、士郎さんのおかげで恭介がまた笑うようになってくれたんです」

さやか「だから、お礼を言わせてください」

士郎「まぁ、そこまで言われちゃ無碍にも出来ないよな」

さやかの礼に笑顔で返す士郎。

その姿を見て微笑むほむら。

ほむら(また一つ、運命が変わった)

その事実をかみ締めながら。

真夜中のビルの屋上。

眼下を見下ろす白い影。

そして、その白い影を背後から見つめるほむら。

QB「やぁ暁美ほむら」

ほむら「ご無沙汰ね、インキュベーター」

言葉に明確な敵意を込めながら白い影を見つめるほむら。

QB「あの衛宮士郎とか言う人間、彼は何者なんだい?」

ほむら「その質問に答える義理は私には無いわ」

ほむらを見つめるキュゥべえ。

QB「まぁいいさ、所詮ただの人間に出来る事なんてたかが知れているからね」

QB「魔女を倒す事が出来るのは魔法少女だけ、そんな事はキミもわかっているだろう?」

ほむら「そうかしら? イレギュラーっていうのは得てして不可解な結果を残すものよ?」

キュゥべえの問いに皮肉るような答えを返すほむら。

QB「彼が何をしようとボクのやる事は変わらないさ、じゃあね暁美ほむら」

そう言い残し、キュゥべえはビルの屋上から飛び降りた。

残されたほむらは、夜の冷たい風をその身に受けてたたずんでいた。

食事&風呂休憩
再開は23時までに。

二つ目、美樹さやかの契約の阻止。

上条恭介の件がある限り、どの時間軸でもさやかはキュゥべえと契約をした。

それを回避する事でワルプルギスの夜と戦う為の戦力に若干の不安要素が増える。

だがそれ以上に、まどかが魔法少女となる大きなきっかけの一つを消す事ができる。

その上、もう一つの条件も緩和される。

ほむら「佐倉杏子……」

さやかが魔法少女になることで、杏子との確執が生まれる。

杏子を懐柔するのは容易ではない。

士郎が存在する時間軸でも何度も杏子はほむらやマミと敵対していた。

ほむら「やはり、アナタを頼るしか無いのかしら……」

衛宮士郎の存在。

彼の行動一つで運命が大きく揺れ動く。

佐倉杏子との共闘。

それを実現する為にも、やはり衛宮士郎という人間は必要な存在であった。

杏子「で、アンタはアタシに何を言いたいのさ」

QB「動くなら早い方がいいんじゃないかって忠告さ」

QB「その男が居るせいであちらの魔法少女たちが杏子の縄張りを侵すのも時間の問題だよ」

杏子「ナルホドね、随分とナメた事考えてるじゃねえか」

杏子は立ち上がり遠く光る見滝原の町を見つめる。

杏子「その衛宮とか言うバカをぶちのめして、ついでにマミもやっちまえばあそこのグリーフシードはアタシのものになる」

杏子「丁度魔女狩りにも飽きてた頃だ、少しは暇つぶしにもなるかな」

QB「行くのかい杏子?」

杏子「あぁ、思い立ったが吉日ってな」

そう言うと杏子は立っていた鉄塔から飛び降り夜の闇へと姿を消した。

そしてその姿を見つめるキュゥべえ。

QB「気にする程の事ではない……と思うけど」

QB「不確定要素なら早めに潰すのが得策だよね」

衛宮士郎というバグを取り除く為。

ほむらの事もあるが、先んずるべきはこちらであろうと思うキュゥべえであった。

夜の闇に包まれた見滝原の郊外。

林の中を歩く士郎の姿がそこにはあった。

士郎「ここもハズレか……」

あれからいくつかの龍脈を見つけたものの、これと言った異常は見られなかった。

士郎「ってなると、やっぱり原因は……」

魔女の結界、あれが現れる時は町に広がる魔力が大きく揺らぐ。

龍脈の異常がその時に起きるのだとすれば、魔女を倒す事だけに専念すればいい。

士郎「まぁ、確信は持てないんだけどな」

そんな独り言をボヤキながら歩く士郎の背後から近づく影。

杏子「アンタが衛宮士郎か?」

士郎が振り返るとそこには燃えるような赤い髪をした少女。

士郎「そうだけど、キミは……」

杏子「アンタをぶっ潰しに来た、それだけさ」

そう言って赤いソウルジェムを見せびらかすかのように取り出す。

士郎「ッ!? お前まさか」

杏子が光に包まれる。

そして光の中から巨大な槍が飛び出し士郎に襲い掛かった。

杏子「アンタに恨みは無いけど、アタシの邪魔になるみたいだから……」

巨大な槍を軽々と振り回し構える杏子。

杏子「とりあえず、両手両足メチャクチャに壊して二度と動けないようにしてやるよッ!!」

杏子は槍を突き出し士郎に突進する。

士郎「クソッ、投影開始!!」

話し合いが出来る状況ではないことを察した士郎も武器を投影し戦闘体勢に入る。

士郎の手には使い慣れた両手剣、その片方を使い杏子の一撃を受け流す。

杏子「へぇ、キュゥべえから聞いてたけど本当に変な魔法を使うんだな」

士郎「何の目的で俺に襲い掛かってくるんだ!」

杏子「だから言っただろ、アンタは邪魔なんだよ!」

杏子が地面に槍を突き立てる。

その瞬間、士郎の足元から杏子が持つ物と同じ槍が突き出してくる。

それを間一髪、頬を掠める程度で避ける士郎。

だが、体勢を崩した一瞬を杏子は逃さなかった。

杏子「そこだァ!!」

手にした槍を力任せに投げつける。

体勢を崩した士郎にそれを避けきることは出来ず、士郎の右足を大きく抉る。

士郎「ガァッ!?」

杏子「まずは一つ」

この時点で士郎が圧倒的に不利なのは明らかであった。

元より人間と魔法少女、如何に士郎が幾度もの死線を潜り抜けたと言っても限界はある。

膝をつき崩れる士郎の眼前に杏子の凶刃が迫る。

杏子「悪いけど、しばらくは病院生活を楽しんでくれよッ!!」

杏子は槍を頭上に構え、迷うことなく士郎へと振り下ろす。

≪――――I am the bone of my sword≫

大きな土煙が上がる。

振り下ろされた杏子の槍は数多の剣によって獲物への道を塞がれていた。

杏子「チッ! しぶとい奴だな!」

士郎「生憎、しぶといのだけが取り得なんでね」

妙な感覚を感じ士郎から距離を取る杏子。

傷ついた足を引きずるように立ち上がる士郎。

その瞳は、劣勢である事をまるで感じさせないような力強い意思を秘めていた。

杏子「一撃防いだぐらいで調子に乗るなよッ!!」

槍を構え直し、士郎を見据える杏子。

士郎「俺はお前と敵対する気は無い!」

杏子「アンタに無くてもアタシにはあるんだよ!」

槍の柄が多節棍のように分かれ杏子の体を囲む。

士郎(本気でやらなきゃダメみたいだな)

魔法少女が強力な存在であるとはいえ元はただの少女。

その思いが有り、何処か本気を出せずに居た。

しかし、目の前の少女は明確な敵意を士郎に向けている。

手加減を出来るような相手ではない。

士郎(なるべく、傷つけずに……)

杏子を止めここを切り抜ける。

士郎の脳内はどうすればそれが可能かを思考する。

どうすれば杏子を無力化できるのか……と。

~~~~~~

杏子「ハァ……ハァ……」

士郎「ハァ……ハァ……」

2人が戦い始めてどれだけの時間が経っただろうか。

杏子の攻撃は確かに士郎の体を捉えていた。

しかし、致命傷に成りえる傷を与える事は出来ていない。

一方の士郎も防戦一方であり、杏子を止める有効な手段を思いつかないままであった。

杏子(チッ、ただの人間にここまで魔力を使う事になるなんて……!)

杏子は焦っていた。

人間相手なら一瞬でカタがつくと思っていたのが大きな誤算だった。

魔力を使えばソウルジェムは穢れていく。

これ以上の戦いをするのは杏子自身をも危険に晒す事になる。

杏子(ここらが潮時か……)

このまま続けていても埒が明かない。

そう思った杏子は槍の構えを解いた。

士郎「どうした、もうお終いか?」

杏子「今日の所は見逃してやるよ、次に会った時は覚悟しときな」

捨て台詞を吐き、杏子は大きく跳躍をし士郎の目の前から姿を消した。

周囲から杏子の気配が消える。

それを確認した士郎は膝から崩れ落ちる。

士郎の体は多数の裂傷、打撲、失血でとっくに限界ギリギリであった。

士郎「なんとか助かったけど……少しまずいかな……」

今の士郎は聖剣の鞘の加護は失われている。

放っておけばこのまま命を落としかねない状況である。

士郎(ヤバい……意識が……)

少しずつ、幕を下ろすように士郎の意識が闇に消える。

士郎の意識が途絶える直前、彼の目に人の影が映る。

士郎(……)

しかし、それを誰か認識する前に彼の意識は闇へと落ちた。

本日はここまでです、次回はまた今日の夜投下予定です。
お疲れ様でした。

ほむらってキャラクター属性は何?士郎とは逆のような気がするけど

>>71
個人的な考えですが
士郎が全の為に一(自分自身)を捨てる人間なら
ほむらは一(まどか)の為に全を捨てる人間だと思っております

考え方としては真逆ですね

あくまで原作ほむらの話ですので、ここでのほむらは若干違うものと考えてください

あ、開始は少し遅れます

最近ずっと暇してたむっちゃんが活躍できて輝いてる

士郎「うぅ……」

マミ「気が付いたんですね……良かった」

士郎「巴……、俺は……」

マミ「暁美さんがボロボロになったアナタを連れてきたんです」

士郎が意識を失う直前に見た姿、それはほむらの姿であった。

士郎「そうか、ほむらと巴が助けてくれたのか」

士郎が体を起こそうとする、しかし体に力が入らない。

マミ「まだ起きたらダメですよ、傷は私の魔法で治したけど、失われた血までは治せませんから」

マミの魔法は癒し、傷だらけだった士郎の体は綺麗に治っている。

マミ「だから、少し休んでいてください」

士郎「分かった、お言葉に甘えるとするよ」

ふと、士郎は周囲に視線を向ける。

士郎「ほむらは居ないのか?」

士郎を連れてきたというほむらの姿が見えない。

マミ「暁美さんなら衛宮さんが無事だと分かったら出て行きましたよ」

マミ「何でも、確かめたいことがあるとか何とか言って」

士郎「確かめたい事ね……」

ふと士郎は思い出す。

士郎「なぁ巴、赤いソウルジェムを持った魔法少女って知ってるか?」

マミ「赤いソウルジェム? 佐倉さんの事かしら……もしかして衛宮さんを襲ったのは……!}

士郎「あぁ、多分その佐倉って奴だ」

マミは困惑した表情を見せる。

マミ「どうして佐倉さんが……」

士郎「さぁな、ただ俺が邪魔だから潰すとかなんとか言ってたけど」

士郎「知り合いみたいだな」

マミは士郎の問いにうなずく。

杏子が昔マミと共に戦っていた事。

杏子の家族の不幸で仲違いをしてしまったこと。

マミ「あの子は、本当はとても良い子なんです……」

マミ「だから、私の勝手なお願いですけど、あの子の事、恨まないであげてください……」

悲しそうな表情をし士郎に懇願するマミ。

その姿を見た士郎が口を開く。

士郎「俺もさ、ガキの頃に家族も友達も全員死んじまったんだ」

マミ「え……」

冬木の大火災。

その唯一の生存者であった士郎。

火災により全てを失った士郎は一人の魔術師に拾われる。

士郎「俺は一度全部を失った、だけど今はそれ以上に得た物もある」

魔術師となり、大切な絆をいくつも得る事が出来た。

士郎「だから、巴や佐倉の気持ちも分からなくは無いさ」

マミ「じゃあ、あの子の事」

士郎「これだけの事をされて許す、ってのもちょっとな」

士郎「だけど、分かってやることなら出来る」

マミ「佐倉さんを……分かる……?」

士郎「あぁ」

孤独は毒。

士郎「だから、一度アイツとはしっかり話をしなきゃならない」

力ではなく言葉での解決を望んだ。

~~~~~

ほむら「佐倉杏子と会うですって?」

翌日、動ける程度には回復した士郎はほむらに対し杏子と話し合う事を伝えた。

ほむら「昨日アレだけの事をされて、本気で言ってるのかしら?」

だが、ほむらの表情は険しい。

一度殺されかけた相手に会う、普通に考えれば自殺行為のようなものだ。

士郎「俺はいつでも本気さ、アイツとはしっかり話し合わないといけないと思うからな」

士郎の決意は固い、ほむらは呆れたような表情をする。

ほむら「だったら私も一緒に行くわ」

士郎「でもそれじゃあ相手が警戒して……」

ほむら「アナタが佐倉杏子と話してる間は近くに隠れているわ、危なくなったらすぐに動くわ」

士郎「そうか、迷惑かけちまって悪いな」

ほむら「協力してるアナタが死んだりしたら寝覚めが悪いもの」

そういって背を向け歩き出すほむら。

その背を見つめ、後を歩く士郎であった。

見滝原の郊外。

廃墟となった教会に杏子は居た。

そこはかつて杏子の父が神父として教えを説き、その家族が暮らした場所であった。

所々割れたステンドグラスが月明かりに照らされる。

そんな薄暗い教会に、一人の来訪者。

杏子は振り向きもせず口を開く。

杏子「何の用だ衛宮士郎、わざわざアタシに潰されに来たのか?」

教会に入ってきたのは士郎一人。

その手に紙袋を抱え杏子の下へと歩き出す。

士郎「潰されるつもりもお前と戦うつもりもない」

そう言って士郎は杏子と一つ離れた長椅子に腰をかける。

杏子「じゃあ何しに……って、おっと」

士郎は紙袋から何かを取り出し杏子に投げ渡す。

それを受け取る杏子、その手にはクッキーの袋があった。

士郎「巴からの土産だよ」

士郎が杏子に会う事をマミに伝えた時、マミに渡して欲しいと渡されたものだった。

杏子「マミから……って、そんな事言われて素直に食べるとでも思ってんのか……?」

士郎「巴がそれに何か盛ってるとでも思うんなら食べなくてもいいさ」

そう言うと士郎はまた紙袋からクッキーの入った袋を取り出す。

杏子「……」

杏子は分かっている、マミがそんな事をする人間では無いことを。

袋を空け、クッキーを口へと運ぶ。

かつて、マミと共に居た、あの時と同じ味。

士郎「お前には悪いと思うが、巴からお前の家族の話は聞いた」

杏子「何だよ、それでアタシに同情でもかけるつもりか?」

杏子は少し顔をしかめる。

割り切っているとは言え、人に知られたくない苦々しい過去だ。

そんな話を切り出してくる士郎を杏子は睨み付けていた。

士郎「……」

士郎は杏子の顔を無言で見つめる。

その目は杏子に境遇に対して同情をするような目をしていなかった。

士郎「お前はさ、今の自分が不幸だって思うか?」

杏子「アタシが不幸かだって?」

杏子は考える。

魔法少女となり、自身の祈りによって家族を失った。

客観的に見れば杏子は不幸であると思われるだろう。

だが……。

杏子「アタシは自分が不幸だなんて思ってない」

杏子「好きなように生きて、自分の為だけにこの力を使ってる」

杏子「だから、誰がなんと言おうと今の生き方が不幸だなんて思ってない」

士郎「そうか、それなら良かった」

士郎は立ち上がり、外へと向かい歩き出す。

杏子「待ちなよ! アンタ、それだけを聞く為に来たのか?」

士郎「そうだよ、お前が今に絶望さえしてなきゃ俺がいちいち口を挟む事でもないさ」

杏子「そんな事の為だけに……わざわざやられるかもしれない相手のとこに来たって言うのか……?」

士郎は歩みを止め、振り返り杏子を見つめる。

士郎「そんな事だけの為に俺はこんな所に来るような人間さ」

士郎「もし、お前が不幸だって言ったら俺はお前を助けようと思ってた」

杏子「アタシを……助けるだって……?」

杏子は驚きの表情をする。

士郎の口から飛び出したまるで的を射ない言葉に一瞬思考が揺らぐ。

杏子「ばっかじゃないの! お人好し通り越してバカだよアンタ!」

士郎「そうだろうな、昔からいろんな人に言われてたよ」

そう言って微笑むと、再度背を向け協会を後にしようとする。

そんな士郎の背に向け、杏子が声をかける。

杏子「一つだけ聞かせてくれよ」

士郎は歩みを止める。

杏子「アンタは何で魔女と戦うんだ?」

魔法少女でもない、ただの人間の士郎が何故危険を侵して魔女と対峙するのか。

士郎「俺は……正義の味方でありたいから、かな」

そう言って士郎は教会を後にした。

一人たたずむ杏子を残し……。

本日はここまで、次回はちょっと未定です。
短いですがお疲れ様でした。

突然ですが、宣伝です!




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なんと!つまらないと今話題のこのSSスレが…

とうとう宣伝用のスレになってしまったぁ!





文句があればこのスレまで

P「俺が…タイムスリップ?」
P「俺が…タイムスリップ?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1367720550/)

弁解と言う訳では無いですが
杏子ちゃんに対して餌付けとかそう言う事は全く考えておりません

遅くなりますが、本日中に投下します。

ほむら「話は終わったのかしら」

士郎が教会から出てしばらく歩いた所、街灯の下にほむらが立っていた。

士郎「あぁ、話って言っても少し聞きたかった事があっただけなんだけどな」

ほむら「そう、まぁアナタが無事に戻ってきて良かったわ」

士郎「……なぁ、ほむらは魔法少女になったこと後悔してないか?」

ほむら「唐突ね、どうしてそんな事を聞くのかしら?」

士郎「俺の勘違いかも知れないけど、ほむらがまだ隠してる事があるんじゃないかと思ってな」

一瞬ほむらの顔が曇る。

士郎「その様子だとやっぱり何かあるみたいだな」

ほむら「……他の魔法少女に言わないって約束できる?」

士郎「言い辛いなら言わなくていいさ、お前が話したい時に話してくれれば」

ほむらはしばし無言になり考え込む。

ほむら「いえ、アナタには今伝えておくわ、私たち魔法少女の秘密を」

いずれ話さなければならないことだ、士郎になら今伝えてもいいとほむらは判断した。

そして語りだす、魔法少女がいずれ魔女になることを……。

士郎「魔法少女の成れの果てが魔女……か……」

ほむら「そうよ、魔法少女の祈りはいずれ呪いとなってその身を包む」

ほむら「穢れきったソウルジェムはグリーフシードへと変わり、魔法少女は魔女になってしまうの」

士郎「ってことは、今まで俺たちが戦ってきた魔女も」

ほむら「そうなる以前は魔法少女だった、ということよ」

事実を知り、士郎は顔を曇らせる。

守るべき対象だと思っていた魔法少女は魔女になり、それを倒す手助けをしていた。

士郎「魔法少女が魔女にならない為にはどうすればいいんだ」

ほむら「一つは魔女が落とすグリーフシードに穢れを移し続ける事」

ほむら「もう一つは、魔女になる前に魔法少女の魂であるソウルジェムを破壊する事よ」

士郎「そんな……他に何か無いのかよ……」

ほむらは無言で首を左右に振る。

それを見た士郎は苦々しい顔をして俯く。

士郎「魔法少女ってのはキュゥべえって奴と契約して生まれるんだろ」

士郎「そいつはその事について何も説明しなかったのか?」

ほむら「えぇ、アイツは訊かれなければ答えない」

ほむら「ね、そうでしょインキュベーター」

ほむらが振り向き声をかけた先、暗い路地から白い影が飛び出しほむらと士郎の前に現れた。

QB「驚いたよ暁美ほむら、君はボクたちが伝えていない事まで知っているんだね」

ほむら「伝えていないじゃなくて伝えなかったの間違いでしょ」

QB「さっきキミが言った通りさ、ボクたちは訊かれなかったから答えなかっただけなんだから」

QBは表情を変えることなく淡々と話す。

そして、その目はほむらから士郎へと移る。

QB「キミの事も調べさせてもらったよ衛宮士郎」

士郎「どういうことだ」

QB「今まで魔術師と言う存在を細かく観察する事が無かったからね、キミはボクたちの良いサンプルになってるってことさ」

士郎とほむらに悪寒が走る。

声のトーンは変わらないモノの、キュゥべえの放つ言葉には言葉に言えない気持ち悪さを感じていた。

QB「まぁ、キミ一人が居たところでボクたちのやる事に変わりは無いさ」

QB「今までどおり少女たちの願いを叶え、それと引き換えに契約を結ぶ」

士郎「ふざけるな! お前達の私利私欲の為に犠牲になる奴を増やすなんて!」

QB「私利私欲? 何を言っているんだい?」

QB「ボクたちはこの宇宙を存続させる為に契約をしているんだよ」

QB「それを悪だと言うのなら、キミたちはこの宇宙が崩壊してもいいって言うのかい?」

士郎「宇宙を存続させる為だって……?」

QB「そうさ、魔法少女が魔女に変わる時に発生するエネルギー」

QB「そのエネルギーを使いボクたちは宇宙の崩壊を食い止めているんだ」

士郎「そんなバカな話があるわけ信じれる訳無いだろ!」

QB「キミたちが信じる信じないは勝手だけど、ボクたちの邪魔をされるのは困るんだ」

キュゥべえは自身のやっていることを悪とも正義とも思っていない。

ただ、そうする事が当たり前だからやっているだけのことだ。

魔法少女もその為の手段であり道具でしか過ぎない。

QB「衛宮士郎、キミのやっている事は無駄なことさ」

士郎「ッ……!」

QB「所詮キミはただの人間、命を落とす前にさっさと自分の居るべき場所に帰った方がいいよ」

ほむら「お喋りが過ぎるわよインキュベーター」

いつの間にか魔法少女の姿になっていたほむらがキュゥべえに銃を突きつける。

ほむら「アナタが何と言おうと、私はこの運命を変えてみせる、アナタに狂わされた世界の運命を」

発砲音と共にキュゥべえが吹き飛び地面に叩きつけられる。

ほむらは立ち上がると士郎に向き直る。

ほむら「士郎、もう一つ私はアナタに隠してる事があるわ」

士郎「……」

ほむら「でも、私は……私の知っているアナタが居てこの世界で希望が持てたわ」

士郎「ほむらの知ってる俺……?」

ほむら「えぇ、アナタの知らないアナタを私は知っている」

ほむら「だから、インキュベーターの言葉に惑わされないで」

ほむら「私には、アナタの力が必要だから」

士郎は無言でほむらに近寄る。

そしてほむらの頭に手を置き口を開く。

士郎「何が正しくて、何が正しくないかなんて今は分からない」

士郎「でも、何かの為に誰かが犠牲になるなんて間違ってる」

士郎「例えただの人間でも、俺はほむらたち救いたい」

士郎「だから、俺の力で良ければいくらでも貸してやるよ」

そういって士郎はほむらに笑顔を向ける。

その笑顔に対し、ほむらも笑顔を返した。

~~~~~~~

ほむら達がキュゥべえと対峙していた同時刻。

マミの部屋を訪れる一人の影があった。

一人士郎の無事を祈るマミの部屋にチャイムの音が響く。

マミ「こんな時間に誰かしら……」

立ち上がりインターホンへと向かうマミ。

そして、インターホンに映っている姿に驚きの表情をする。

杏子「居るんだろマミ、ちょっとツラかしな」

そこに居たのはかつて袂を別った少女の姿だった。

マミの暮らすマンションの屋上。

そこから街の光を見つめる杏子と、その背中を見つめるマミ。

先に口を開いたのは杏子であった。

杏子「衛宮士郎がアタシんとこに来たんだ」

マミ「えぇ、知ってるわ」

士郎は事前に杏子に会う事をマミに伝えていた。

それを聞いたマミは杏子に会うならばと士郎にクッキーを渡していた。

杏子「アイツさ、アタシに今が不幸かって聞いたんだよ」

落下防止用に張り巡らされた金網に手をかける杏子。

マミ「それで、佐倉さんは何て答えたの?」

杏子「アタシは今の自分に後悔してない、だから不幸じゃないって言ってやったんだ」

杏子「そしたらアイツなら良いって言うんだぜ! 自分を襲った相手に対して!」

杏子「それで、もしアタシが不幸だなんて言ったら助けるつもりだったって!」

行き場の無いもやもやとした感情を言葉に乗せマミにぶつける。

そして、少し落ち着きを取り戻した後マミに問いかける。

杏子「なぁ、マミは魔法少女になって不幸だなんて思ったことあるのか……?」

マミ「……そうね、最初は少し思ったかもしれないわ」

マミは杏子の方へと歩き、そして杏子の横に立ち止まる。

マミ「お父さんとお母さんを亡くして、魔法少女になって命がけの戦いを続けて」

マミ「何でこんな辛い思いをして生きなきゃいけないんだろうって思ったこともあった」

マミは杏子の顔を見つめる。

マミ「でも、魔法少女にならなかったら佐倉さんに会う事も出来なかった」

杏子「アタシに……?」

マミ「そう、ずっと一人ぼっちだったけど、アナタに会えて、アナタと魔法少女として共に戦えた」

マミ「幸せだったわ、あぁ、私は一人じゃないんだなって」

杏子「……」

マミ「あの時佐倉さんと道は違えてしまったけど、それでも私はまだアナタを大切に思ってる」

マミは杏子の手を握り微笑む。

マミ「ごめんなさい、ずっとずっとアナタに謝りたかった」

杏子「何で、マミがアタシに謝る必要があるんだよ……」

マミ「私はあの時佐倉さんを分かってあげられなかった」

マミ「だから、今度はちゃんと気持ちを伝えて欲しい」

マミ「私はそれを受け止めてみせるから」

笑顔のマミと困った表情の杏子。

杏子は手を振り払うと金網を上りその上に立つ。

マミ「佐倉さん!」

杏子「アタシの気持ちはあの時と変わってない」

杏子「だから、アンタとつるむつもりは無い」

マミ「それでも、いつまでも私は待ってるわ」

杏子「チッ……、そんなんだからいつまでたっても甘ちゃんなんだよ」

杏子「――――――」

最後に何かを言い残し杏子はマンションを飛び降りた。

マミ「……」

その姿を見送るマミ。

マミ「待ってるわ、佐倉さん……」

杏子が最後に言い残した言葉。

その言葉を胸に抱きマミは屋上を後にした。

本日はここまでです、次回は明日か遅くても明後日の予定です。
お疲れ様でした。

~~~~~~~

マミ「ワルプルギスの夜が現れるですって!?」

士郎が杏子に会ってから数日後、マミの部屋にはほむらと士郎が集まっていた。

ほむら「えぇ、1週間後にこの見滝原にアイツは現れるわ」

マミ「そんな……、あの魔女がここに現れるなんて……」

士郎「何なんだそのワルプルギスの夜ってのは」

ほむら「私たちが知り得る中で最強の魔女の事よ」

マミ「私も人づてに聞いただけですけど、その魔女が現れるだけで都市の1つ2つが簡単に吹き飛ぶ」

マミ「そう言われているぐらい恐ろしい魔女なんです」

ほむら「私たちがワルプルギスの夜を倒せなければこの見滝原は壊滅する」

ほむら「当然、ここに住む人たちも全員死ぬことになるわ」

ほむらが何度も何度も戦い敗れた相手。

その度にこの街は全てが崩れ去り、人々の死を目にしてきた。

士郎「……勝算はあるのか?」

ほむら「私と巴マミが一緒に戦ってもほぼ0、仮に佐倉杏子が協力してもまず間違いなく負けるわ」

勝てない、ほむらははっきりとそう言い切った。

マミ「暁美さん、まるでワルプルギスの夜と戦った事があるみたいね」

マミの発言に一瞬表情を固めるほむら。

そして、何かを決意したかのように口を開いた。

ほむら「衛宮士郎、巴マミ。 アナタたちに私の秘密を話すわ」

ほむらは語りだす、自身が時を何度も戻しワルプルギスの夜と戦っている事を。

そして、一つ前の世界でワルプルギスの夜に勝てた事を。

マミ「同じ時を繰り返してる……」

ほむら「突然の事で信じろと言っても無理だと思うわ、それでも私の言っている事は本当のことなの」

ほむら「過去にアナタや佐倉杏子、魔法少女になった美樹さやかとも一緒に戦った事があるわ」

ほむら「それでも、私たちの力だけではワルプルギスの夜に勝てた事は一度たりとも無かった」

士郎「私たちだけ……ってことはそれ以外では勝てた要因があったんだな?」

ほむら「えぇ、鹿目まどか、あの子が魔法少女になればワルプルギスの夜に勝つ事が出来る」

マミ「鹿目さんが魔法少女に……」

しかし、それではほむらが魔法少女になった祈りも無碍になる。

ほむら「巴マミ、今だからこそ話すわ。 魔女がどうして生まれるのかを」

マミ「魔女がどうして生まれるか……?」

ここまでずっと隠していた事実をマミに伝えるほむら。

その事実を知りマミは最初は驚きの、そして絶望の表情へと変わっていく。

マミ「そんな……魔法少女が……ソウルジェムが魔女を産むなんて……」

ほむら「キュゥべえ、いえ、インキュベーターは意図的にこの事実を隠していた」

ほむら「思った事はないかしら、私たちのソウルジェムと魔女のグリーフシード、何処か似ているって」

マミ「……はっきりと意識した事は無かったわ」

マミは顔を俯かせる。

ここでマミが絶望してしまえば先は無い。

この話をした世界、マミが絶望に染まってしまうかどうかは半々程度。

マミ「ソウルジェムが魔女を産む、それなら私たちのやってる事って……」

士郎「無駄なことだと思うか?」

今まで沈黙を通してきた士郎が口を開く。

その発言にマミは涙に潤んだ瞳で士郎を見つめる。

士郎「巴が魔女を倒さなきゃもっとたくさんの人が犠牲になってたかもしれない」

士郎「それを巴は救ってきたんだ、それはきっと無駄な事でも間違った事でもない」

マミ「でも、私は自分と同じ魔法少女だったかもしれない魔女を倒して……」

士郎「救えなかった事を後悔するのはいい、倒したかもしれない魔法少女を思って涙を流してもいい」

士郎「でも、お前がここで歩みを止めたら、魔女になっちまった魔法少女たちの想いも無駄になる」

マミ「魔法少女たちの……想い……」

魔法少女は祈りによって生まれる。

魔女になった少女たちにも数多の願いがあった。

士郎「俺の言ってることはただの詭弁かもしれない、でも巴はまだ巴としてここに居るんだ」

マミは思った。

ほむらの言う事が本当ならば自身もいずれ魔女になる。

だが、それは今ではない、なら今自分に出来る事は何かと。

全てを諦め、絶望に身を委ねてしまう、それも一つの決断かもしれない。

でも、今すべきことは……。

マミ「私は、私が魔法少女である限り魔女を倒します」

マミ「魔女になってしまった魔法少女たちの魂を解放する、それが私に出来る事だと思うから」

そこには絶望に染まる少女の姿は無い。

自らの運命を受け入れ、生きる事を決意した少女の姿があった。

マミ「暁美さん、衛宮さん、私、もう絶望なんてしない」

マミ「私は、私なりに精一杯この運命を受け入れて行くわ」

マミ「だから、今はまず目の前に迫ってる危機に対して備えましょう」

マミは笑顔でほむらと士郎の手を握る。

ほむらは感じていた。

ここでも士郎の存在が運命を良い方向へと変えていったと。

しかし、問題はここからだ。

士郎「でも、鹿目が魔法少女にならなきゃ勝てない相手にどうすれば勝てるんだ?」

士郎が当然の疑問をほむらに投げかける。

ほむらは一瞬言葉を詰まらせる。

ほむら「前の世界……その時は士郎、アナタの力であの魔女に勝つことが出来たわ」

士郎「俺の力……?」

ほむら「固有結界……、この言葉の意味分かるでしょ?」

士郎「ッ!?」

士郎が驚愕の表情をする。

士郎「そっか……、前の俺はアレを使ったんだな」

ほむら「えぇ、そのおかげで私たちはワルプルギスの夜に勝つことが出来た」

マミ「衛宮さん固有結界……って何なんですか?」

士郎「魔術の行き着く先、俺達の側での魔法に最も近い魔術さ」

士郎「だけど、何で前の俺はそれを使えたんだ? とてもじゃないが、今の俺にアレをまとも使うのは不可能だぞ」

かつて、聖杯戦争時にありとあらゆる幸運が重なった上で使用することが出来た士郎の固有結界。

あの時より成長しているとは言え、魔力の絶対量が圧倒的に足りていない。

ほむら「それでもあの時のアナタはそれを使っていたわ」

ほむら「だから考えたの、アナタがどうすれば固有結界を使う事か出来るかって」

ほむらは語りだす。

それは、今日に至るまでにほむらが考えに考え抜き、たどり着いた結論であった。

本日も短いですがここまでとなります、次回は明後日までに
お疲れ様でした。



まさかとは思うが、ほむらは「グリーフシードを使いながら魔法少女が魔翌力を供給し続ける」とか言い出さないよな?
さすがにそれは、士郎さん警察の御厄介になっちゃうからね?

>>136
最初はそれも考えましたが都条例待ったなしなのでボツにしました。

予定変更です。
次回月曜日に変更します、申し訳ありません。

ほむら「私が長い時間をかけて分かった事、それは魔法少女の魔法と魔術師の魔術は根本的には同じものだったって事よ」

マミ「魔法と魔術が同じもの……って、どういう事なの?」

ほむら「魔術師に関しては……そうね、士郎のほうが詳しいでしょうから説明してもらっていいかしら」

士郎「あぁ、分かった」

ほむらの提案を受けて士郎は魔術師がどういうものかを話し出す。

魔術とはどういうものか、魔術を使う為にはどうすればいいか。

マミ「魔術回路に生命力を魔力に……」

ほむら「そして私たち魔法少女はソウルジェムが穢れる、つまり魂を削って魔法を行使していると考えられる」

ほむら「私たち自身が魔術回路であり、ソウルジェムが生命力、そう考えれば似ていると思わないかしら?」

マミ「確かに、そう考えられなくもないわね」

士郎「だけどさ、ほむら達は魔法を使う時に体に痛みを感じたり不快感を感じたりしないだろ?」

ほむら「それは私たちの命その物はソウルジェムになっているからよ」

マミ「魔法少女は普通の人間に比べて痛みにも傷にも強い、だからそういったデメリットを感じないのかもしれない」

士郎「なるほどな……」

一応は納得した、という表情を士郎は顔に浮かべる。

士郎「まぁ、魔法少女と魔術師が似たものだってのは分かったけど、固有結界を使う事に関してはどうするんだ?」

ほむら「私が考えた方法はこれよ」

そう言うとほむらはグリーフシードを机の上に置く。

マミ「グリーフシード……」

ほむら「このグリーフシードがソウルジェムの穢れを移す事が出来るってのは前にも教えたわ」

士郎「あぁ、それは覚えてる」

ほむら「このグリーフシード、これは膨大な魔力の塊のようなものなの」

ほむら「インキュベーターがどういう原理でソウルジェムやグリーフシードのシステムを作ったか分からない」

ほむら「だけど、元は同じ人間の生命力から生まれたモノ、だからこれを利用すれば一時的に士郎が固有結界を使うだけの魔力を補う事が出来るわ」

士郎「グリーフシードを使って魔力の供給……か」

士郎は机に置かれたグリーフシードを手に取る。

元は少女の魂であったもの、それを使うということへの抵抗感。

本当に己がしている事は正しいのか、それを自身に問いかける。

ほむら「きっとアナタはそれを使う事を躊躇うと思う」

ほむら「だけど、分かって欲しいの。 アナタがやらなければ何千何万の人が犠牲になる」

ほむら「魔女になってしまった魔法少女の祈りを無駄にしない為にも、覚悟を決めて欲しい」

~~~~~~~~~

ついに明日ワルプルギスの夜が現れる。

士郎は一人、夜の川辺に佇んでいた。

QB「やぁ衛宮士郎、何をしているんだい?」

そこに現れる白い影、キュゥべえが士郎の横に姿を現した。

士郎「何もしてないさ、ただ考え事をしてただけだ」

士郎はキュゥべえの問いかけに答える。

QB「随分と冷静なんだね、ボクはてっきり激昂してまたボクに怒鳴りかかってくると思ってたんだけど」

士郎「今はそんな気分じゃない、それとも今この場でお前を切り伏せてもいいのか?」

QB「いや、遠慮しておくよ。 いくらボクたちが大量の個体であると言っても減らされるのは困るからね」

顔は合わせない、ただ淡々と2人の会話は続いていく。

QB「キミは何故魔法少女を救おうとするんだい? そんな事をしてキミにメリットは無いだろう?」

士郎「俺は、正義の味方であり続けたい、ただそれだけだ」

QB「そこにキミ自身の意思はあるのかい?」

士郎「何だと?」

そこで初めて士郎はキュゥべえの顔を見る。

QB「ボクは人の感情と言うものがよく分からない、だけどキミを見ていると思う事がある」

QB「キミは人を救う事で己を保っている、正義でなければいけないと思い込んでるように見える」

QB「キミはボクたちに似ている、ボクたちと同じでただ目的を成す為に動くロボットみたいさ」

士郎「俺が……お前と同じ……」

ふと、かつてある男に言われた事を思い出す。

お前の願いはただの憧れである。

ただその憧れの為だけに正義であろうとする、ならばそれは偽善以外の何物でもないと。

偽物の正義で何が救えるか、結局は何も救えないと。

そこにお前の気持ちは一つも無いと。

士郎「あぁ、そうだな、お前の言う通りかもしれない」

QB「それを理解していてキミは尚正義であろうとするのかい?」

キュゥべえの問いに答えを返さず川沿いを後にする士郎。

その姿を見てキュゥべえは言葉を漏らす。

QB「そんな事を続ければ、ボクたちが何をするまでもなく衛宮士郎という存在は勝手に崩れ去る」

QB「人間と言うものはボクたちの理解の範疇を超えている。 本当に、わけがわからないよ」

そう言い残し、キュゥべえも夜の闇に消えていった。

今回も短いですがここまでとなります。
続きは明日に、お疲れ様でした。

申し訳アリマセンが次回を少し未定にします
今週中にはなりますのでお待ちください。

~~~~~~~~

見滝原の街が分厚い雲に覆われる。

大粒の雨と街路樹をへし折るかのような暴風が街を襲う。

そんな暴風雨の中2人の魔法少女と1人の青年が来るべき敵を待ち構える。

マミ「凄い風と雨……、これが奴が現れる前兆なのね」

ほむら「もうすぐ……、奴が現れる」

ほむらが指した先、空間を切り裂くようにしてその巨体が現れる。

ワルプルギス「キャハハハハハハハ!!!」

甲高い笑い声と共に姿を見せるワルプルギスの夜。

その姿を見たほむらが違和感を感じる。

ほむら「……嘘、でしょ」

そこに現れたワルプルギスの夜は今までほむらが対峙していた物と大きく違う部分があった。

ワルプルギス「キャハハハハハハ!!!!!」

笑い声を上げる魔女の体は、体が反転していたのだから。

魔女のスカートから大量の使い魔が地表に降り立つ。

その一つ一つがこれまで倒した魔女と同等かそれ以上である事を感じるほむら達。

ほむら(何故、何故ここに来てアイツが本気を出したの!?)

襲い掛かる使い魔を捌きながら思考する。

ここまでこんな事は一度も無かった、何故こんな事になったのか。

もし、理由があるとすれば。

ほむら(前の時間軸で、奴を倒したから……)

それ以外に思いつく理由が無かった。

時間を何度か戻すうちにほむらが気づいたことがある。

それは時間を戻しても、何かしらの因果は積もり積もって何処かにしわ寄せが来るということ。

ならば、これは前の時間でワルプルギスの夜を倒した事による反動。

魔女は自身が倒されないために本気になったという事だ。

ほむら(でも……、それでも倒さないと……!)

ほむら「士郎! 私と巴マミで時間を稼ぐ、だからアナタは!」

士郎「分かった、頼むほむら、巴!」

絶望とも言える戦いの幕が切って落とされた。

申し訳ないです、出先の為これだけになります。
次回も未定になります、なるべく時間が取れるよう努力しますのでお願いします。
ではお疲れ様でした。

予告
来週土曜日投下予定です。よろしくお願いします。

~~~~~~~

無数の剣が突き立てられた赤く焼けた荒野。

士郎が行使することが出来る固有結界【無限の剣製】により作り出された世界。

空には未だ不気味に笑うワルプルギスの夜と、そのスカートから無限に生み出される使い魔。

地上ではほむらとマミ、そして士郎が使い魔を迎撃していた。

マミ「くっ、これじゃ全然近づけないわ!」

ワルプルギスの夜への道を塞ぐように、荒野を黒く埋め尽くす使い魔の群れ。

防戦一方、と言えればまだ聞こえはいいのだろう。

実際はただただ無碍に体力と魔力を消費し続けているだけのジリ貧である。

士郎(このままじゃ埒が明かないッ……!)

グリーフシードによる魔力の供給、ぶっつけ本番ではあったが上手くは行っている。

だが固有結界を維持するだけの魔力とは膨大であり、いくらグリーフシードが魔力の塊であったとしても限界がある。

さらに言えば、固有結界を維持している士郎自体はマミやほむらと違いただの人間。

大魔術の行使による身体への激痛、さらに使い魔から受ける攻撃。

士郎の体はほぼ限界であり、精神力で無理矢理意識を繋いでいるような状態であった。

ほむら(どうすれば、この魔女に勝てるっていうの……)

今までだった何度も何度も繰り返し、やっと一筋の光が見えてきたのだ。

それを一瞬で塗りつぶすような絶望の色。

おそらく、ここで時間を戻してもワルプルギスの夜はさらに力を蓄えほむらの目の前に現れる。

積もり積もった因果は形になって姿を現す。

ほむら(それでも、それでも私は……!)

ほむらは自身の魔法で溜めに溜め込んだ重火器を絶え間なく撃ち続ける。

使い魔はその進軍を阻まれ四散していく。

だが、圧倒的な数の前にはそれも一瞬の停止にしか過ぎない。

折り重なるように歩みを進める使い魔の凶刃がほむらの眼前に迫る。

ほむら(ここまで……)

使い魔の凶刃がほむらに振り下ろされる瞬間、金色の閃光が使い魔を消滅させる。

マミ「暁美さん!」

使い魔を吹き飛ばし、マミが崩れ落ちそうになるほむらの肩を抱く。

ほむら「マミ……さん……」

マミ「諦めちゃダメ! 私たちがここで魔女を食い止めなければ街が、皆が犠牲になってしまうのよ!」

マミに檄を飛ばされ踏みとどまるほむら。

しかし、二人の眼前に迫る使い魔の数は未だ無限に思えるほど。

マミとほむらはお互いに武器を構え、迫り来る使い魔に対峙する。

と、その時赤い剣閃が使い魔の軍勢を吹き飛ばす。

マミ「え、まさか!?」

轟々と上がる砂煙の先、巨大な槍を携えた赤い魔法少女がそこには立っていた。

マミ「佐倉さん!」

迫り続ける使い魔を、槍の一薙ぎで切り伏せる杏子。

マミ「私たちを、助けに来てくれたの?」

マミの問いに杏子は背を向けたまま答える。

杏子「別にアンタたちを助けに来た訳じゃない」

そう言ってマミに近づく杏子。

杏子「ただ、クッキーの借りを返しに来ただけさ」

一言そう呟くと、返す槍でまた使い魔を切り伏せていく。

ほむら「今、佐倉杏子は何て……」

マミ「……素直じゃないのよ、あの子」

そういって、絶望的ながら少しの希望の光が灯った。

杏子の参戦が良い誤算だった、ということを加味してもやはり状況は好転とはいかなかった。

それほどまでに今のワルプルギスの夜と魔法少女たちの実力差というものはかけ離れていた。

杏子「くっそ! どんだけ使い魔を出すんだこいつ!!」

ただただワルプルギスへの道を塞ぎ続ける使い魔たち。

マミの巨大大砲でも道を切り開くには至らない。

士郎「全員、高く飛べェ!!」

突然、士郎の怒号が響く。

3人の魔法少女は咄嗟の出来事であったが、その声を信じ高く跳躍をする。

士郎「投影 開始

        全工程  破棄」

士郎が魔術詠唱を開始する、そして士郎の背後の空間が大きく歪み始める。

≪虚・千山切り開く翠の地平≫

その空間から使い魔の軍勢、いや、ワルプルギスの大きさすら優に超える巨大な剣が地平をなぎ払う。

無限に思えた使い魔の軍勢は、その巨大な剣の一薙ぎで跡形もなく消え去る。

士郎「俺が道を切り開く、だからお前達はアイツを止めるんだ!!」

戦況をひっくり返すような一撃、それに鼓舞され魔法少女たちはワルプルギスの夜を見上げた。

マミがリボンで空に道を作る。

その道をほむらと杏子がワルプルギスの夜へと向かい走り出す。

それを追うようにマミと士郎もリボンの道を走る。

ふと、隣を走る士郎の異変にマミが気づく。

マミ「士郎さん、その血は!?」

士郎「あぁ、ちょっと無理しちまっただけさ……、俺に気を使わなくていい、今はアイツを倒す事だけを考えろ!」

マミ「……分かりました」

一目で分かる、おそらく士郎の出血は無理な魔術の行使によるもの。

先程投影された巨大な剣、あれだけのモノを作り出すのにどれだけの代償が必要なのか。

魔術師とは根源から違う魔法少女であるマミにその苦しみを知ることは出来ない。

だが、今歩みを止めることは士郎の苦しみを無駄にすることになる。

心配である気持ちを抑え込み、マミは歩みを進める。

その先に見えるワルプルギスの夜。

使い魔を倒された魔女は、それでも尚不気味な笑いを絶やさなかった。

QB「驚いた、まさか彼が神造兵器まで作り出すなんてね」

荒野に一つ、白い影が現れる。

キュゥべえはワルプルギスの夜と魔法少女たちの戦いを遥か遠方で傍観していた。

QB「衛宮士郎がまさかあそこまでやるのは予想外だ」

QB「だが、あれを行うのに彼はどれだけの代償を支払ったのかな?」

本来士郎に神造兵器の投影は出来ない。

だが士郎は、投影の工程を破棄することで、膨大な質量を持ったハリボテとして剣を作り出した。

ただのハリボテでも、それだけの質量を持った塊をぶつければ使い魔程度なら薙ぎ払う事ができたのだ。

それでも、士郎の体には多大な負担がかかる。

それを可能にするために士郎は自身の体に魔術回路を作り出した。

神経、血管、体中に張り巡らされているありとあらゆるモノを魔術回路として無理矢理使ったのだ。

それは諸刃の剣どころの問題ではない。

直接神経にナイフを突き立てるような、血管に熱湯を注ぎ込むような。

そんな自殺行為とも言える所業の上で士郎の魔術は行使されている。

まるで、命の灯を燃やしつくすように。

今日はここまでになります。

次回は来週の金曜or土曜になります、今回もまた短くて申し訳ないです。
お疲れ様でした。

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