揺杏「DEMO、恋はサーカス」 (31)
爽揺で短め
名前のひらがな表記は幼少期で、『』のセリフは過去の話という脳内変換たのむます
名前やセリフはないですが一応オリキャラ出ます
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―――思えば子供の頃からずっと一緒だった。
さわや『ゆあーん』タタタタ
ゆあん『さわやぁ!』ウエーン
さわや『やっと見つけた…さがしたぞー』ハァハァ
ゆあん『こわかったよぅ……』
さわや『森でかくれんぼなんてするもんじゃないなぁ。さぁ帰るぞー』
ゆあん『やだ……おかあさんに怒られる…』
さわや『ちかこも心配してたぞ。私も一緒にあやまってやるから!な!』スッ
ゆあん『グスッ……うん……』
ギュッ
――――
あん時はずっと爽に手つないでもらって帰ったっけなぁ
さわや『ゆあんー!プール行くぞー!』
ゆあん『爽だ!行ってきまーす!』ドタバタ
――何をするのも一緒で
ヒューー…ドドーン!!
さわや『おおー!たまやーー!!』
ゆあん『たまやーー!』
――何を見るのも一緒で
爽『雪まつり見に行くぞー』
揺杏『おお!行きたいと思ってたんだよね』
私の見たいものは全部爽が見せてくれたっけ
――離れても
揺杏『有珠山高校?』
爽『ああ。来年受験するよ』
揺杏『……忙しくなるな』
爽『まぁ一応受験生だからな。前みたいには遊べなくなるけど…なに?寂しい?寂しい?』
揺杏『少しは平穏に過ごせるって喜び噛み締めてんだよ』
爽『ひでぇ!!』ガビン
――また一緒になっても
爽『入学おめでとう!とーぜん麻雀部だろ?』ニコニコ
揺杏『またお前と一緒かよ…騒がしくなるわマジで……』
爽『誓子とも久々再会だし、寝るヒマもないぐらい騒いでやんぞー!』
揺杏『ウゼェ!!』
揺杏『ふふっ』
爽の笑った顔が好きだった。
名前の通り、爽やかで。一緒に笑い合えることが本当に幸せだった。
麻雀部でまた爽と一緒にいられることが楽しかった。
なのに。
――全国大会が終わってからのことだった。
受験勉強の息抜きにチカセンがたまたま麻雀部に来た時だった。
誓子『ねー知ってる?爽…恋人が出来たみたいよ』
揺杏『へ…?』
成香『爽さんに!?』
由暉子『意外ですね。色恋とは対極の位置にいる人だと思ってました』
誓子『爽から聞いてないの?』
揺杏『…い、いや……あぁー!そういや聞いたような気がするなぁ!あはは…あの爽に恋人なんて甘いもん出来るわけねーって適当に聞き流してたみたいっすわ』アハハ
誓子『そう……』
――それがいいきっかけだったのかもしれない。
揺杏『…いつからすか?』
誓子『え?』
揺杏『その、爽』
誓子『ああ、えっと…全国が終わってすぐだったかな。うちのクラスの子が全国の放送観てくれてて…爽のファンになったんだって。それで告白するんだーって』
そういえばチカセンは引退してからも割と顔を出してくれてたまに一緒に打ったりしてたけど爽は一度も来なかった。
成香『それで爽さんがOKしたんですね!』
由暉子『興味津々ですね』
成香『女の子は恋の話が大好きなんです』ワクワク
由暉子『まぁ私も嫌いじゃないですけど…』クス
そっから先のことはあまり覚えていない。
成香やユキがチカセンに色々質問してたけど私の耳は聞くことを拒絶していた。
―――そして、私の中で何かが崩れる音がした。
私に話してくれなかったこと。
爽が誰かのものになってしまったこと。
もう爽にとって私が一番じゃなくなってしまったこと。
色々な感情がごちゃ混ぜになって、私はその日声を出さずに風呂で泣いた。
たった一人で。誰の肩も借りず。
私の気持ちは湯船のお湯と一緒に流した。さよならだ。私の初恋。
憧れてるだけじゃ私は前に進めない。
私は練習で忙しいし、爽も受験勉強や恋人と過ごすのに時間を使っているんだろう。
昔から毎日のようにしていた電話や
メールも自然とお互いにしなくなっていた。恋人がいるんだ。当然だよな。
そしていつしか爽のことを考える日が少なくなっていった。
私は一人で歩くことが当たり前になっていた。
学年は違えど同じ学校だから当然爽に会うこともあった。
まぁこう見えて意外と繊細な私は、爽を見かけるとさりげなくその場を離れたり友達と話し込むフリしてあいつに気付かないようにと色々な手を使った。
普段なら話しかけてジュースをたかったり必ず絡んで行ってたのにな。大した進歩だ。
まぁ爽の隣には常に例の恋人ってやつが寄り添ってやがったからな。
デカい女がチョロチョロすると恋人さんだっていい気はしないだろうしな。
遠慮してやったんだ。
成香『通ってください…!』トンッ
揺杏『通らないな。ロン!18000!』パラッ
成香『うぅぅ……親っぱね……』
由暉子『今のスジ引っ掛けすごかったです』
揺杏『へへへ!だろ?最近ぜっこーちょーでね』ルンルン
成香『全国が終わった頃の揺杏ちゃん、あんまり元気なさそうだったから安心しました』
その頃になると麻雀もそれなりに強くなり、迂闊に振り込むことも少なくなって私は私の平穏を完全に取り戻していた。
揺杏「大丈夫。私はもう大丈夫だよ」
大丈夫だ。
ある日の事だ。
爽が別れたらしい。
チカセンの話じゃ、受験で忙しくなって会える時間が急速に減ってしまったことからの自然消滅。まぁ高校生にはよくあることだ。
ある日の夜、爽から久々にメールが来た。
【少し話したいことがある】
ってさ。
特に断る理由もなかったし、友人として受験勉強のグチでも聞いてやるかって軽い気持ちであいつの家に行った。
大丈夫。
一人で歩ける。
久々に訪れる爽の家。
勝手知ったるひとの家…とばかりに慣れ親しんだ懐かしい爽の部屋に入ると、爽がいつもの元気さをどこかに忘れてきたように力なく小さなテーブルの前に座っていた。
私は昔からの定位置であるベッドに座ろうか一瞬思案した後それを実行せず、爽の斜め前に座った。
しばらく無言が続いたあと爽がぽつぽつと口を開いた。
爽「私さ…フラれたんだ」
揺杏「ん」
爽「もっとクールな人だと思ってた。だとさ。実際の私って全然クールじゃないのにな」ハハ
揺杏「ただのバカなのにな」
爽「まったくもって!」アハハ
爽「それで徐々に会う時間も減ってな…」
揺杏「でもバカじゃねーのそいつも。アイドルに恋してんじゃねーんだから」
本当にバカだ。
爽の表面しか見てなかったそいつも、そいつの薄っぺらい好意にホイホイOKした爽も。
……そして本当の爽が今でも大好きな私も。
揺杏「…私だったら…」ボソ
爽「え?」
揺杏「なんでもない」
爽「………その、色々とごめんな」
揺杏「…何が?」
爽「恋人が出来たの、揺杏に一番に話さなかったこと」
揺杏「……別に。もう過ぎたことだし」
爽「私よりも私のことを知ってるお前だからこそ言い出せなかった。……今の関係が崩れちゃうんじゃないかって、…それが怖くてさ…」
揺杏「なーんだそりゃ」ハハ
爽「それに…ずっとほったらかしだった。寂しい思いさせてごめん」
揺杏「……なんだそれ」
自惚れるなよバカ爽
揺杏「ガキじゃねーんだから。もう昔みたいに爽に世話してもらう必要ないっつーの」
大丈夫だ。私はもうあの頃の子供じゃない。
爽がいなくたって平気だし、手を引っ張ってもらわなくたって一人で歩ける。
見たいものだって見せてもらわなくたって自分で見られる。
爽「……そっか」
なんでお前がそんな顔すんだよ。
なんでお前が落ち込むんだよ。
爽「最後に、もうひとつ謝らなきゃいけないことがあるんだ」
揺杏「………なに?」
爽「私、揺杏のことが好きだ」
なんで
爽「お前のことがずっと好きだった。昔からずっと」
なんでだよ
爽「でもお前とは小さい頃から一緒で、お前にとって私はただの幼なじみでしかないんだろうなって思って…打ち明けたら今まで通りには戻れないって、ずっと気持ちを隠してきた」
なんでなんだよ…
爽「告白された時も、お前への気持ちを忘れようとして付き合ってみたけど」
だから…
爽「やっぱりダメだった。その子と一緒に居れば居るほど揺杏のことばっかり考えて…どうにかなりそうだった。それで、やっと自覚した」
なんで……!!
爽「揺杏が好きだ。これが私の全てだ」
揺杏「……んで…だよ…」
爽「え」
揺杏「なんで………」
爽。お前本当にバカだよ。そんなこと言うためにわざわざ呼び出して…
揺杏「なんで今なんだよ……!!」
爽「……揺杏?」
揺杏「…なんで…!今さらっ……!!」ポロポロ
私のこと好きになるんだよ
そのあと爽はしなだれかかる私をいつの間にか私よりも小さくなった体全部で抱き締めて、頭をなでてくれた。
爽は、泣きながらずっとアホだのバカだのとつぶやく私の罵りを「うん、うん」って言いながら静かに聞いていた。
どうしようもなく懐かしくて落ち着く温もりを、私は久しぶりに体いっぱいに感じた。
甘えるのはもう最後にするから、今だけは、
―――――
爽「…落ち着いたか?」
揺杏「…うん………ごめん…」ズビ
爽「鼻水出てんぞー」
揺杏「……拭いてよ」
爽「おっきいナリして甘えんぼだこと」
揺杏「……うっせ」
爽「はいチーン」
揺杏「…………」チーン…
爽「…いつの間にか私より大きくなったんだなぁ」
揺杏「爽がチビなだけだし」
爽「身長の話じゃないさ」
揺杏「?」
爽「揺杏とずっといることが当たり前だと思ってたんだ」
爽「お前の手を引っ張ってやらなきゃって、守ってやらなきゃってずっと思ってた」
揺杏「…………」
爽「でもそれじゃいけないんだよな。お前の言う通りだ。もう泣いてるだけの子供じゃないんだもんな」
爽「成香やユキが言ってたよ。全国が終わってからのお前は別人みたいにしっかりしてるって」
揺杏「……なるかやユキとは普通に連絡取ってたのかよ…」
爽「う…それは……ごめん」
揺杏「なにテンパってんの」
爽「いや、だって…え???」
揺杏「気付いてないとか…」
爽「いや、お前にとっての私はあくまで幼なじみで、先輩で、友達で??ええ?」
揺杏「ずーーーっと昔から好きだったよ。爽がいちばん好き」
爽「じゃあ両想いだったってこと?」
揺杏「……長らくね…」
爽「どうしよう…」
揺杏「別にどうもしなくても…」
爽「キスしようか?」
揺杏「………ばか」
揺杏「両想いだったけど付き合わないよ」
爽「へ?」
揺杏「私さ、ずっと爽の背中ばっか見てきた。優しくて楽しくて、頼りになって。爽の背中を追いかけてここまで来た」
揺杏「中学校に上がる時、高校になる時、麻雀部に入った時。置いてかれないように爽の後ばっか当たり前のようについてって」
揺杏「けどさ、背中ばっかり見てたら爽がどんな顔してるか分かんなくなっちゃうって思った」
爽「揺杏…」
揺杏「爽に恋人が出来たって聞いた時さ、分かったんだ。私が思ってる以上に私は爽がいないとダメなんだって」
揺杏「それと同時に『このままじゃダメだ』って思ったよ」
揺杏「爽の背中ばっかり見てたって。同じ景色が見られない」
爽「ん………」
揺杏「手を引っ張ってもらうんじゃなくてさ、手を繋ぎたかったんだよ。私は。爽の隣に立つにはまず私が自分の力で前に行かなきゃいけない」
そうだ。
一人で歩くのが怖い時、いつだって爽が手を掴んでくれた。
今は違うよ。
揺杏「だから…爽とは付き合えない」
揺杏「私はもう一人で歩ける」
揺杏「歩かなきゃいけないから」
恋はサーカスみたいだ、と、あるバンドが歌っていた。
綱渡りじゃないんだから、手なんか差しのべてもらわなくたって歩ける。
目隠しじゃないんだから、見せてもらわなくたって自分の目で見ればいい。
あなたじゃないんだ。
あなたは私の憧れで、でもそれだけ。
初恋をありがとう。そしてさようなら。
――終わり――
以上です。
チャットモンチーの「DEMO、恋はサーカス」という歌をお借りしました。
爽の恋人は最初ユキちゃんで話を書いてましたがややこしくなりそうなので名無しのモブにしました。
何日もかけて少しずつ書いてたので所々噛み合わない部分があったらごめんなさい
読んでくれた方ありがとう。
有珠山SS増えて
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