ここは、前にエレンがいた審議所の地下…もとい、牢屋の前だ。
そして牢屋の中にいるのは……
ライナー「……」
ベルトルト「……」
死んだ顔をした二人の兵士……いや戦士だ。
今日、予定ではこの二人は死ぬはずだった。
もう、覚悟が出来ているのだろう。
でも君達を殺す訳に行かなくなったんだ。
アルミン「君達三人を改めて調査兵団に勧誘する。」
二人は目を見開いてこちらを見た。
きっとそれは「三人」という言葉への反応だろう。
アルミン「そう、アニも一緒だ。」
昨日、ライナー、ベルトルト、アニを生かすか殺すかを決める最終会議が開かれた。
それまでも、何度も会議が開かれていた。
いつも最終的にはやはり「殺す」方に分配が上がる。
しかし昨日は、そうではなかった。
あのユミルの進言。
そして最も効果があったのは、現王妃ヒストリア•レイスの手紙だ。
以前、ライナーが思いを寄せていた人物。
彼女は今でも104期訓練兵と共に過ごした日々を忘れた日など一日もなかったという。
彼女の手紙にはこう記されていた。
<<私は三年間104期訓練兵として彼等と同じ時を過ごした。
彼等だけでなく、沢山の人に支えられ私は訓練に励んだ。私は少しでも多くの104期訓練兵に生きていて欲しかったが、現実はそう甘くはなかった。>>
<<多くの訓練兵は入団前に命を落とした。ここには記しきれないけれど全員の顔、名前を覚えている。
私はもう同期の死を見たくない。これは私の勝手な都合かもしれない。でもどうか、彼等三人を生かして欲しい>>
そう書かれていた。
この手紙を朗読したのもユミルだ。
ユミルもなんだかんだで同期に生きて欲しいと願っている一人なのだ。
エレンも最初は復讐心に駆られていたけど、やっぱりライナーもベルトルトも同じ空間で過ごした「仲間」だから、「生かしたい」と思い始めたらしい。
ミカサも「エレンが」という理由も少しはあるんだろうけど、彼等を生かすことに反論はしなかった。
サシャも、コニーも仲間を殺す事は出来ないと審議所で必死に訴えていた。サシャはこの頃ずっと食欲が出ない程思い詰めていたし、コニーもユミルやジャンにケンカを売らずに四六時中考え事をしていたみたいだ。
ジャンも表には出してなかったけど、大分応えたみたいだ。ライナーやベルトルトとよくつるんでたから、尚更だろう。
僕はといえば、彼等にかなり助けて貰ったから、エレンと同じ位……いや、エレン以上に信頼を寄せていたかもしれない。
それ故にショックだったよ。事実を知った時は。家族の仇。人類の仇。色んな感情がごちゃごちゃになって自分が怖くなる程だった。
今も無言で彼等を見詰めているけど、実はまだ、迷っている。
彼等を殺した方が幸せだったのではないか。生かす事は彼等にとって苦しい事なのではないか。
ミカサは、「生かすも殺すもどちらも彼等の為になる」なんて言っていたけど、それは違う。殺せば、一瞬。苦しむ事は無い。生かせば、地獄。苦しむ事になる。
それが彼等の為……僕は優し過ぎなのか。
愛情と友情、それと殺意、復讐心。僕は間違ってしまったのだろうか。
どこで優しさと冷たさを履き違えたのだろうか。
今も無言で彼等を見詰めているけど、実はまだ、迷っている。
彼等を殺した方が幸せだったのではないか。生かす事は彼等にとって苦しい事なのではないか。
ミカサは、「生かすも殺すもどちらも彼等の為になる」なんて言っていたけど、それは違う。殺せば、一瞬。苦しむ事は無い。生かせば、地獄。苦しむ事になる。
それが彼等の為……僕は優し過ぎなのか。
愛情と友情、それと殺意、復讐心。僕は間違ってしまったのだろうか。
どこで優しさと冷たさを履き違えたのだろうか。
そんな僕の「迷い」を汲み取ったのか、以外な人物が沈黙を切った。
ベルトルト「……何故僕達を生かしたの?」
僕はベルトルトのこんな表情を見た事がなかった。
ひどく悲しみに歪んだ、そして迷いのある表情。
あぁ、僕は「優しさ」を間違えたらしい。
彼等は「殺して」欲しかったみたいだ。
あぁ、なんで生かしたか。
それは簡単な事だった。
アルミン「君達の事が好きだから」
アルミン「大好きだから……生かした。」
ベルトルト「つまり、君達のご都合で人類の仇を生かしたの?君達らしくないね。」
ベルトルトはいつぞやのジャンのようだった。
絶望しきった顔、声。
とても冷たい言葉。距離。そんな物が僕達を邪魔する。
「君達のご都合」
そうさ、そうだとも。僕達のご都合で君達を生かした。
僕が反論しようと口を開けた時、僕でもベルトルトでも、ライナーとは違う声が聞こえた。
ジャン「ベルトルト、俺達だけのご都合じゃねぇ。聞いてたか?お前等は調査兵団で「人類の為」に動くんだよ」
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