魔王(虫の息)「我は魔王の中でも最弱…」
勇者「そ、そんなバカな!?」
魔王(虫の息)「ククク…残念だったな、勇者よ…これで終わりだとでも思ったのか?」
勇者「そ、んな事はカンケー無い!まだ終わらないなら、終わるまで倒してやる!」
魔王(虫の息)「ぜぇはぁ…い、一年だ」
勇者「!?」
魔王(虫の息)「ぐはぁ…次の魔王が来るまで、一年ある…せいぜい短い平和を楽しむがいい…」バタッ
~王城・謁見の間~
国王「おぉ、勇者よ!戻ったか」
勇者「…はい、王さま」
国王「…?そ、それはそうと、魔王を倒して参ったのだな?」
勇者「…はい、王さま」
国王「…?そ、そうか!よくやってくれた!大臣!」
大臣「は!宴の準備はできております」
国王「よし!今宵は宴じゃ!勇者も旅の疲れを存分に癒すがよい!」スタスタ
陽が沈み、辺りが暗くなる頃、王国では魔王討伐パーティーが開かれていた
ある者は飲み、ある者は歌い、楽しい時間が流れた
宴は3日3晩続いた
3日3晩の宴ののち魔王討伐の吉報は世界中に広まったが、情報を発信したあとの謁見の間で国王はとんでもない話を聞かされ唖然となった
国王「」( ; ゚д゚)
大臣「新たな魔王が現れる、ですと!?」
勇者「…はい」
大臣「しかも勇者さまが倒した魔王はその中でも最弱だったと」
勇者「…そうらしいです」
国王「し、信じられん…今の勇者より強い魔王が次の年に現れるなどと…」ワナワナ
勇者「しかし国王さま、次の魔王が現れようと私が見事退治してみせますのでご安心下さい」
勇者のその一言を聞いた国王の顔は明るくなるどころか一層暗くなった
勇者「…国王さま?」
大臣「私が代わりに答えましょう…」
大臣は勇者に答えた
勇者のちからは魔王を倒したあとに失われる
勇者は魔王を倒したあと子を成す事で次世代に勇者のちからを託す
つまり、最低でも10年は必要だと
勇者の顔がみるみる青冷めていく、今より強い魔王が来年現れる上に自身は今より弱くなる
勇者は世界に独りだけ、勇者以外に魔王は倒せず足止めにすらならない
勇者に突き付けられた現実は『絶対的な絶望』だった
勇者の忘れていた恐怖心が一気に目覚め、自身を襲ってきた
「もう…駄目なのか」
それから一年の歳月が過ぎ、新たな恐怖が世界に現れた…
~魔王城・玉座の間~
新魔王(以下、魔王)「くくく…やって来たぞ、人間界!」
新魔王の側近(以下、側近)「魔王さま、手始めに近隣の人間をなぶり殺しにするのは、如何でしょう?」
魔王「くくく…いや、そんな事よも優先すべき事があるだろう?」
側近「…と申しますと?」ニヤニヤ
魔王「くくく…引っ越し蕎麦だ!」
側近「えっ?」
魔王「えっ??」
側近「えっ???」
魔王「えっ????」
側近「ひ、引っ越し蕎麦…ですか!?」
魔王「うむ!新参者として、近隣住民に引っ越し蕎麦を振る舞ってやるのだ」フゥーハハハ
側近(えぇ~?なんでそんなメンドロ臭い事を…はっ!そうか)ピコーン
側近「その引っ越し蕎麦に毒を盛って大量殺戮をするのですね!さすが魔王さm…」
魔王「違う!近隣住民とお近付きになるための布石だ!」
側近「えっ?」
魔王「えっ??」
側近「お近付き?…では引っ越し蕎麦を振る舞って油断しきったしたところを殺るんですね?」
魔王「違う!間違っているぞ!和気あいあいと引っ越し蕎麦をご馳走するのだ!」
側近「」ガビーン
魔王「先ほどからなんだ!お前の挙動はおかし過ぎるぞ!」
側近「だ、だって!魔王と言えば冷酷無比!残虐非道!悪の総大将ではありませんか!」
魔王「え?そうなの?」
側近「えぇ~??」
魔王「魔族たちの王だから魔王だと思ってたよ」
側近「いや、合ってますけど…ならなんでそんなに友好的なんですか!」
魔王「魔界の住民を人間界に移住させるためだ!友好条約を結ぼうと考えている」
側近「えぇ~?思ってたのと違う…」
~王城・玉座~
伝令「国王さま!ご報告します」
国王「遂に…この時が来てしまったのか」ワナワナ
大臣「国王さま、これは既に覚悟していた事です…立派に散りましょう、私もお供致します」
国王「ありがとう、大臣…では、伝令…申せ」ガクブル
伝令「魔王側より友好条約の書状が来ました」
国王&大臣「えっ????」
国王と大臣は信じられない物を目にした
伝令が持ってきた書簡には新魔王から友好条約を結びたいという内容の手紙と、条約を結ぶ際の利益・不利益が簡単に解説されたグラフだった
条約締結後の人間側の利益は、魔界側の技術提供による魔法の強化及び全聖職者に蘇生魔術の習得
更に魔界の物資を流通させる事による市場の活性化
次世代の勇者が現れるまで魔界側は武装解除
人間側の不利益については、世界の半分を魔界の領地として無条件で差し出す事
擬態魔法の改善のため交換留学をさせる
次世代の勇者が現れるまで武装解除
…というものだった
人間が絶滅させられると考え怯えていた国王と大臣は魔王側との条約を簡単に呑んでしまった
これこそ魔王の恐るべき計画の始まりだったが、誰ひとりとして…気付く者は居なかった
新たな魔王は『優しい魔王』だと世界中に知れ渡ってから8年が過ぎた…
前勇者は幼馴染みの僧侶との間に子を儲け、慎ましく幸せな時間を過ごしていた
世界には半人半魔の子供が生まれるようになった
この時、誰が想像できただろうか魔族と人間との間に生まれた子供こそが魔王の切り札だという事に…
~魔王城・玉座の間~
側近「魔王さまぁ、魔王さまってばぁ」
魔王「ん?どうした、側近よ」
側近「まだ侵略しないおつもりですかぁ?」
魔王「我が手を下さずとも…」
「世界は既に魔王さまの物に御座います」
玉座の後ろから老人が現れた
側近「な、何奴!」
老人「ヒッヒッヒ…そう構えなさんなお嬢さん、わしは敵ではないよ」
側近(全く気配を感じなかった…)
魔王「待っておったぞ、ドクターj」
側近「ど、ドクターj!?dr.jと言えば魔界でも有名なマッドサイエンティストの!」
dr.j「ほっほっ…可愛らしいお嬢さんがワシを知っとったとは嬉しいのぅ」テレテレ
魔王「くくく…dr.jよ!例の計画はどの程度まで進んでおる?」
dr.j「およそ最終段階の一歩手前といった感じですかの」
dr.j「あとは『紅玉の瞳』を組み込めば…」
側近「えっ!?計画!?なんの事ですか?魔王さま」ハテナ
魔王「なに?策士であるお前が先読みできぬ事があったのか!」
側近「あ…ぅ…」ショボーン
魔王「ふむ、まぁ良い…説明してやろう」
魔王「今回、我が計画しておったのは魔界住民の移住計画…と見せ掛けた侵略計画だったのだ」
側近「な、にゃんですと!?」
魔王「!お主、猫耳が…まぁいい、続けるぞ」
魔王「先代魔王は勇者と互角の死闘を繰り広げた…結果、先代魔王は倒されたが」
魔王「死に行く寸前、我の事を話したのだ」
側近「魔王さまの事?」
魔王「うむ、我が先代魔王よりも強い…とな」
側近「互角の死闘を終えた勇者にしてみれば、今のままじゃ勝てないと感じる訳ですね」
魔王「しかも我が来たのは死闘から1年足らずだからな、勇者のメンタルには多大なダメージを与えられただろう」
魔王「しかし我は友好条約を結ぶために現れた…その真意は、子供たちだ」
側近「…?子供ですか?」
dr.j「ヒッヒッヒ…魔族と人間との混血児には恐ろしいチカラが秘められておるんじゃよ」
側近「恐ろしい、チカラ…?」
魔王「ハイパー化だ」
側近「!!…は、ハイパー化!?…かの神魔大戦の折り、天界・魔界双方に甚大な被害を与えたとされる禁忌の法…!」
dr.j「あの時は天使族の女と魔界男爵が駆け落ちした事で生まれた子が…でしたな」
魔王「あの大戦後、ハイパー化を研究していた魔界機関が『異質なふたつのチカラを持つ子供がチカラを制御できずに暴走させた』ものだとしたが、あれを魔族と人間の混血児でやろうと言うのだ」
側近「そ、そんな…!あの悲劇をまた繰り返すおつもりですか!?」
魔王「我がなんの策も無しにハイパー化を引き起こすなどと考えておるのか?見くびるでないわ」
dr.j「あの時は天使の聖エネルギーと魔族の闇エネルギーが衝突し双方に被害となったが、今回は相手が人間じゃ…被害を被るのは人間側じゃと計算結果が出ておる」
魔王「そして『紅玉の瞳』…」
側近「こ、紅玉の瞳とは…?」
dr.j「勇者のチカラに目覚めた者の胸に現れる紅い宝石じゃよ、人間たちは『ジェイド』と呼んでおるそうじゃ」
側近「女神の涙…ですか」
聖戦士ダンバイン知ってる人
どれくらい居るんだろ?
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