八幡「またあの夢か」 (57)
八幡「全く、ひどい顔だ」
八幡(朝、顔を洗おうと洗面台の前に立った俺は、その自分の顔を見て思わず笑ってしまった)
八幡「いいだろ?別に。鏡の中の自分に声を掛けるくらいさ。誰も俺と話してくれるやつがいねえんだ」
八幡(返事もなしかよ。まぁ当たり前だけどよ)
八幡(高校入学式の当日、家を早くに出て自電車で街を走っていると、数メートル先に車道へ飛び出していく
犬の姿が見えた)
八幡(それを俺は助けた。自分の身のことなんて考えずにな)
八幡(その結果、俺はその飼い主の人間から多大なる感謝を受けたよ)
八幡「ったく、顔が洗いにくいったらありゃしない」
八幡(だが、その内容なんて何一つ覚えちゃいない)
八幡(あの時はあるはずの左腕を見つめるのに、必死すぎてな)
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八幡(俺には左腕がない)
八幡(肩の少し下あたりからバッサリとないんだ)
八幡(あの日、犬を助けようと車道に飛び込んだ俺を黒いリムジンが轢いた)
八幡(跳ね飛ばしてくれれば骨折程度で済んだかもしれないな。だがあの車は俺を轢き潰したのだ)
八幡(別に恨んでるわけじゃない。幼稚園の頃から『車道は危ないので歩道を歩きましょう』と何度も警告されていた
からな)
八幡(それでも当時は落ち込んだ。俺は一生腕なしなんだと)
八幡(だが、最近は意外とそうでもないんだ。強いて言えばチャリで通える近場の学校は、歩いて通うにはちと遠いって
ことくらいか)
八幡(学校生活だって、充実はしちゃいないがそこそこだ。ぶっちゃけこればっかりは腕があろうとなかろうとなにも
かわらんと思う。俺、ぼっちだし)
八幡(これは気を使われるのが嫌で、以前以上に一人でいることを好んだ結果だ。むしろありがたいとすら思っている)
八幡(将来どうなっていくのかだけは想像もつかないが、とりあえず勉強だけしていればなんとかなるだろう)
八幡(だがそんな生活を続けていたある日、転機が訪れた)
× × ×
平塚「なぁ、比企谷」
八幡「はい、なんでしょう」
八幡(平塚静、この学校で俺と会話をする数少ない人間だ。というかこの人以外いない)
平塚「君は部活に入る気はないかね」
八幡「はぁ、ありませんけど」
平塚「そうか……。いや、実はつい最近新しい部ができたんだが、この部の顧問が私でな」
八幡「そうなんですか」
八幡(一体なにを言うつもりなんだ、この人は)
平塚「そうなんだ。だがいかんせん、その部には部員が一人しかいない」
八幡「それって部として認められるんですか?」
平塚「そう、そこなのだよ比企谷」
八幡(やけに食い気味で返答する平塚先生は、座っていた椅子から少し腰を浮かせ、俺に人差し指を向けた)
平塚「この総武高校が新しく設立した部活、名前を奉仕部というのだがな。この奉仕部はこの学校の生徒から学外の人間まで
あらゆる人たちをターゲットに相談を受け、そしてそれに出来るだけの形で協力をする、という目的を持った
コミュニティなのだよ」
八幡「はぁ、でも学校側が部を設立するってなんか珍しいですね」
平塚「そこは、まぁ色々あるのだよ。君は感のいい子だからな。学校側としてはあまり詮索はして欲しくないよ」
八幡「そう言うなら」
平塚「そこで、この時期に部活に入っておらず、尚且つ私との面識がある君に白羽の矢がたったわけだ」
八幡「ほかの生徒より面識ありますか。俺」
平塚「君は問題児だからな。担任の私が面倒を見ないでどうする」
八幡(この人のこういうところが、俺からの信用を買っている。本人がどう思っているかなんて分からないが、少なく
とも俺からはあまり贔屓にされている感じはしない)
八幡「……とりあえず、そのひとりの部員に会ってみます。話はそれから」
平塚「なに、本当か」
八幡「ここで嘘をついてもしょうがないでしょう」
八幡(正直人と話すのなんざ御免だが、ここで無碍に断って先生を困らせるのも気が引けるしな)
平塚「うむ。踏み出してくれて私は嬉しいよ。それでは部室へ案内しよう」
八幡「え?今からですか?」
平塚「なにを言う、当然だろう。どうしてわざわざ放課後に呼び出したと思っているんだ」
八幡「まぁ、別にいいですがね」
平塚「ほら、回れ右だ。部室に向かおう」
>>1×→自電車 ○→自転車
× × ×
平塚「着いたぞ。ここだ」
八幡「どうも」
八幡(中にいるのはどんなやつなんだろうか。俺みたいなはぐれもんか?)
平塚「
平塚「それでは、ようこそ奉仕部へ」
八幡「いや、まだ入るとは言ってない」
八幡(俺が全てを言い終わる前に、先生は教室のドアを開けた)
八幡(そこから中を覗くと、中にはひとりの女子生徒がいた)
平塚「紹介しよう。彼がこの奉仕部の部員の雪ノ下だ」
雪ノ下「……先生、いつもノックをしてくださいと、それにその男は誰ですか?」
平塚「すまないな。だが君はノックをしても返事をした試しがないじゃないか。そして後者の質問にも答えておこう。彼
は比企谷。この奉仕部の新しい部員だ」
八幡(もうなにも言うまい。この人の中では俺はすでにここの部員なんだろう)
八幡(それにしても、予想と少し違っているな。もっとボランティアに特化した、いわゆる街の掃除やらを手伝う部活
だと思っていたんだが。それっぽい道具類はなにもないみたいだ)
平塚「ほら、比企谷。挨拶をしなさい」
八幡「小学生じゃないんですから、挨拶くらい自分でしますよ」
八幡「……比企谷八幡だ。よろしく」
雪ノ下「雪ノ下雪乃よ」
八幡(俺は、この少女を知っている。学校の有名人だからというのが最もだからなのだが、それ以上にもっと前に)
平塚「あぁ、それとな。今日はもうひとり見学者が来る事になっている」
八幡(そいつは見学者なのかよ)
雪ノ下「今日は忙しいんですね」
平塚「あぁ、少なくとも三人を集めなければならなかったのでな。彼以外にも有志で募集をかけたところ、ひとりの
女子生徒が立候補してくれたよ。用事を済ませてから来ると言っていたからここの場所は伝えておいた。
もう間もなく来るだろう」
八幡(先生がそう言い終わると、まるでタイミングを計ったかのように部屋にノックの音が響いた)
由比ヶ浜「あのー、すいません」
平塚「お、よく来たな。歓迎するよ」
由比ヶ浜「あ、比企谷くん……」
八幡「くん付けはよしてくれ、由比ヶ浜」
由比ヶ浜「ご、ごめんね」
八幡「いや、いいんだ」
八幡(クラスメートの由比ヶ浜。リア充と言われるカーストに属する彼女がなぜこんなところに)
由比ヶ浜「あの、初めまして雪ノ下さん。あたし由比ヶ浜結衣です」
雪ノ下「雪ノ下雪乃よ。よろしく」
平塚「さて、自己紹介も済んだようだし、一度私は抜けるよ。あとは三人で今後のことについて話しなさい。
これまでの活動内容については新人の二人……いや、由比ヶ浜はまだ見学だったな」
八幡(俺もそのつもりだったんですがね)
平塚「とにかく、そこらについては雪ノ下に聞きたまえ」
由比ヶ浜「わかりました」
平塚「それでは失礼するよ。仲良くしたまえ」
八幡(そう言うと、先生は踵を返して廊下へ出て行った。俺が勝手に部員にされていることに関してはもうどうでも
いい。特に体を使うような仕事もなさそうだし、暇つぶしにしばらくここにいてみようと、そう思ったからだ)
八幡(俺は教室の奥から椅子を引っ張り出すと、それに腰掛けた。オロオロしている由比ヶ浜を目で座るように催促
すると、彼女も俺と同じように椅子を持ち出し、チョコンと座った」
八幡(心地のいい静寂ではなかった。なぜか雪ノ下は読んでいた文庫本を閉じて膝の上に置いているし、由比ヶ浜に
限っては俯いて時折こちらの表情を伺っているだけだった)
八幡(しかし、数分たってようやく緊張の糸が緩んできたのを感じると、俺は雪ノ下に質問を投げかけた)
八幡「質問、いいか?雪ノ下」
雪ノ下「なにかしら」
八幡「先生も言っていたが、ここであんたは今までなにをしてきたんだ」
雪ノ下「なにも」
八幡「してないのか」
雪ノ下「ええ」
八幡(……会話が終わった)
八幡(困ったな。どうやら彼女は俺以上に喋らない人間らしい)
由比ヶ浜「あ、あの」
八幡(そう口を開いた彼女に、俺と雪ノ下向き直る)
由比ヶ浜「二人は、なんでこの部活に入ったのかなーって)
雪ノ下「特に理由はないわ。平塚先生に誘われたから」
八幡「俺も特にないな。先生に誘われたから」
由比ヶ浜「そ、そうなんだ」
八幡(わるいな、由比ヶ浜。ここは今までお前が所属してきたコミュニティとは勝手が違うんだ。何か話題を一つ
振ればそれが十になって帰ってくるような盛り上がりなんてないんだよ)
このSSまとめへのコメント
なかなか面白そう
がんばって続けてください♪
こういうちょい鬱な設定はマジで好み。どうかエタらないで完結してくれ。
こういう感じのは好き 面白い
がんばって続けてください♪
面白いです 早く更新してください 笑
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