■ 佐々木「進路?」 キョン「ああ」 (23)

キョン「そういえば、佐々木。もう進路は決めたのか?」

佐々木「まだだよ、少し迷っていてね」

キョン「ふーん。まあ、おまえのことだからとてつもなく偏差値の高い高校に入学するんだろうな」

佐々木「いや、偏差値はさして重要ではないよ、キョン。大学受験を念頭に置いてのことだろうが、受験勉強はね、ベクトルの向きさえ間違えなければ一人でもできる。いやむしろ一人の方が効率が良いんだ。だからこそ、迷っているんだけどね」

キョン「…ふむ。いつもおまえに負担をかけてすまないな」

佐々木「それは僕が好きでやっていることなんだから気にしなくていいよ。ところで、君はどうするんだ?」

キョン「何を?」

佐々木「進路だよ」

キョン「ああ、そうだったな。えーっと、俺の頭で入れそうなところか」

佐々木「キョン。君はもう少し真剣に考えるべきだ。モラトリアムの三年間は大変貴重なものだよ」


キョン「…ん?おまえがそんなことを言うなんてめずらしいな」

佐々木「そうかい?なんにせよ、これはまさしく君の話であるが君だけの問題ではないんだ。もう少し、真面目に考えることを推奨するよ」

キョン「…ああ、そうだな」

佐々木「くっくっ。気分が暗くなる話はここまでにしておこうか。そろそろ授業が始まるね、僕は席に戻るよ」

キョン「おお」




佐々木「おーいキョン、起きろー」

キョン「…ん。あれ?」

佐々木「もうみんな帰ってしまったよ。ずいぶんと熟睡していたようだね」

キョン「…もっと早く起こしてくれよ」

佐々木「くっくっ。とても幸せそうな寝顔だったからね、眺めていたかったんだよ」


キョン「…おまえがそんな悪趣味だったとは知らなかった」

佐々木「酷いなキョン、僕は精いっぱいの優しさを振り撒いたつもりだったのに」

キョン「そうか、すまんな。じゃあ、行くか」


佐々木「うん」




佐々木「そういえば、キョン。また、君と付き合っているのかと聞かれたよ」

キョン「俺もだよ。毎日毎日よく飽きないなあいつらは」

佐々木「仕方がないよ、思春期なんだから」

キョン「おまえはどうなんだよ」

佐々木「それを言うなら君だってどうなんだい?」


キョン「意趣返しはその場しのぎにしかならんぞ」

佐々木「くっくっ。そうだね、じゃあ君が答えてくれたら僕も答えるよ」

キョン「おい。…まあいいか、そうだな。全く興味がないわけではないんだが、自分が恋愛をしている様は上手く想像できないな」

佐々木「くっくっくっ。なんとも君らしいね」

キョン「おまえは相変わらずなのか?」

佐々木「うん?」

キョン「恋愛は精神病だとかなんとか」

佐々木「ああ、そうだね。少し語弊があるけど、おおかた間違ってないよ」

キョン「…語弊」

佐々木「たいしたことじゃないよ。何が理性的かと判断するのは難しい、というこだ」


キョン「なるほど、さっぱりわからん」

佐々木「くっくっ。ところで、君は自分が恋愛をしている様が上手く想像できないと言ったよね」

キョン「ああ」


佐々木「じゃあたとえば、僕が恋人になったとしたら、君はどうなるんだ?」

キョン「それなんだがな、佐々木。たとえば、おまえと俺が、その、恋人になったとして何が変わると思う?」


佐々木「…ふむ。きっと何も変わらないだろうね」

キョン「だろ?」

佐々木「ああ」

キョン「だからだよ」

佐々木「いいや、キョン。そこが重要なんだと思うよ、少なくとも僕にとってはね」

キョン「どういうことだ?」

佐々木「おそらくこのままいけば僕らはだんだんと疎遠になっていくんじゃないかな」

キョン「おいおい、俺はそんな薄情者じゃないぜ」


佐々木「君がそうだとしても、ね。卒業して、少なくとも一年は僕に一切の連絡もよこさないだろう、となんとなくそんな気がするんだ」


キョン「うーむ」

佐々木「でも、まあ、恋愛なんかはそんなに難しく考えることじゃないんだろうね、きっと」



キョン「…そういや佐々木」

佐々木「なんだい?」

キョン「進路のことなんだが」


佐々木「うん」


キョン「…一緒の高校に行かないか?」


佐々木「奇遇だね、ちょうど僕もそう提案しようと思っていたんだ」

終わり。

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