真姫「私と彼女の有り方」 (281)
※ ほのまき
※ 地の文
※ レズセックス
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手を引かれた。音楽を諦めた私の手をそっと。
「ねぇ、真姫ちゃん」
笑いかけてくれた。一人だった私に、優しく。
「真姫ちゃん?」
居場所ができた、友達ができた。また、奏でることができた。
「お~い、まっきちゃ~ん」
不安定で、でも芯があって。不完全で、でも惹かれてしまう。
「……あり~?」
私を照らしてくれた、太陽。
「……すぅぅぅ」
こんなの、……こんなの。
「まっきちゃぁぁぁぁん!!!!!!」
「うわぁっ!?」
考え込んでいた私の耳元で突然現れた大きな声。
慌てて飛びのいて声のほうを見てみれば、
そこには満面の笑みを浮かべた穂乃果が立っていて。
「もう、やっと気付いてくれた~」
どうやら考え事に集中して、私が呼びかけに気付かなかったみたい。
そんなに深く考えていたのかしら……目の前の、無邪気な先輩の事を。
「ほら、行こう。もう練習の時間だよ?」
私が自分自身に呆れていると、穂乃果はそう言って手を差し伸べてくる。
なんの気なしの行動なんだろうけど、それは、いつの日か見た光景を想起させる。
笑顔で、私を知らない世界へ連れて行ってくれる彼女。
……こんなの、好きにならない筈がないじゃない。
―――
始めは、イライラしてた。
話しかけないで欲しいって、冷たくあしらって見せて。
興味ないからってつれない態度をして見せて。
次は、ハラハラしてた。
なにをしでかすんだろう、って保護者気分で。
大丈夫だろうかって、上から目線で。
そして気がついたら、ドキドキしながら見てた。
ふわふわと言ってもいいし、もっと乙女チックに言うならキュンキュンとか?
まぁそんな感じで、穂乃果の事を目で追ってた。いつから? そんなのわからないわよ。
「はい! では十五分休憩にしましょう」
もうすっかり慣れた屋上での練習。
日差しは随分と弱くなり、日によってはむしろ肌寒さを感じる位。
それでも練習を終えれば額から汗を流して冷たいドリンクを飲む、そんな時期。
「真姫、ちょっといいですか?」
「なに? 次の曲ならもう少し待って欲しいんだけど」
「いえ、そのことではないんです」
ついこの間空けたばかりの、けど毛羽立ち始めたタオルを首にかけて一息つくと同時。
海未が神妙な顔で近寄ってきた。練習時にこんな顔でよってくる海未がする話なんて限られているし、
察した穂乃果や凛なんかは遠巻きにこっちを見て、飛び火しないかと伺っている。
そんな顔しなくても、多分今日は二人には飛び火しないから大丈夫よ。
なんて、思いながらそっちを見れば。
残念な事に私の考えは伝わらず慌ててそっぽを向かれた。
「で、じゃあなんの用?」
言いながらも、既になんて帰って来るかは十分わかってる。
「いえ、今日の真姫は練習に今一つ身が入っていないようですので」
言外になにかあったのかと尋ねられてる。
少し首を傾げてこっちを見つめる海未は本人が思っている以上に女の子らしい。
「別に、ただちょっと……家がごたごたしてて、ね」
質問に対して、私は淀みなく用意していた言葉を紡ぐ。
当然嘘。いまさら家の事でどうこう思ったり、表立って思いつめるような事なんてない。
けど、こういう風に言えば。
「そ、そうですか……。すみません」
μ'sの皆に対して私は「これこれこういう訳なのよ」と家の事を語った事はない。
でも、それなりに察してる部分があるみたいで、
少し俯いて声を暗くしながらそんな台詞を吐けば。ほらね? もう、これ以上突っ込めやしない。
「でも、私になにかできることが言ってください」
「ありがとう、海未」
気遣うような声色で、温かい言葉をかけられる。
それに罪悪感を覚えながら、私はできる限り普通に返事をした。
仕方ないもの、こういって話を打ち切らせるしかないじゃない。
本当の事なんて、どうせ言えやしないんだから。
あなたの幼馴染に恋してます、なんて。
まさか、言えるはずがない。
――言えたら楽なのに。
そうね、わかってる。でも無理じゃない。
――でも、言わないのも辛い。
じゃあ折角できた居場所を壊すつもり?
――……そんなの。
そうね、できるわけないでしょう? だから……。
「はい、休憩は終わりですよ」
フェンスに凭れて、中庭を覗き込んでいた私の背中を海未の声が叩く。
皆がまた集まっていく中、ついまた穂乃果を目で追ってしまう。
汗で湿ったほの字のシャツが少し重くなって彼女の身体に張り付いて、
そのスタイルが一目でわかる仕様になっている。
「真姫ちゃんどうしたにゃー?」
「あ、ううん」
ぼうっと穂乃果を見つめて、凛に不思議そうに声をかけられて我に返る。
そしてこちらをちらりと伺う海未から逃げるように、列に加わった。
「真姫ちゃんちょっといい?」
そう声をかけたのは、私が日々悶々と暮らす原因とも言える穂乃果で。
声をかけられたのは練習が終わり、季節柄すでに日も傾きかけた頃だった。
「なによ?」
ぶっきらぼうな声色を装って振り向く、
私にとって、本来こんな調子で言葉を発するなんて事はずっとやってきた事の筈なのに。
気持ちを自覚してからというもの、これで大丈夫なのかと逐一不安になってしまう。
「えっと……帰りどこか寄って行かないかなって」
私の心中など知らず存ぜぬで、頬を掻いて微笑む穂乃果。
勿論知られたら、こんな風に微笑みかけてなどくれないだろうけどね。
「珍しいわね、急に」
言いながら気付く。休憩中に海未が話しかけてきたとき、
そういえばこっちを気にしていた事に。多分、少し聞こえてたんだと思う。
だから、帰る前にって事なのかも。
「いやぁ、凛ちゃんと話してたらお腹が減っちゃって……」
お腹をさすりながら、いつも通りの調子。
嘘を吐いた私に気を遣ってくれてるんだと思うと、凄く申し訳なくて。
「ありがとう」
ぼそっと呟いた言葉に込めた気持ち。
多分違った風に届いたと思う。言外に込めたごめんなさいは、宙に舞って消えていった。
―――
「お腹きっつい……」
胸に空いた穴の分だけお腹に物を詰めようとした。
なんてつもりはまるでなかったんだけど、気付いたら穂乃果と凛
それに花陽のペースに巻き込まれてお腹がぽっこりしている。
「はぁ……」
そうしてそれなりに時間を使って、辺りが暗くなった頃。
「たまにはウチに遊びに来る?」という垂涎の誘いを素っ気無く断って今は自室。
――垂涎って、自分で言ってなんだけど、酷い表現ね。
「……」
電気をつけないでベッドに転がり、天井をなんとなしに見つめる。
ううん、正確には見つめてなんていない。視界に入ってるだけ、
視点はその奥、どこか遠くを見つめている。
家の事は嘘だけど。さっさと家に帰りたくないのは本当。
だって、一人になると考えてしまうから。なにをって……そんなの決まってるでしょう?
この気持ちを伝えたとき、穂乃果がどんな風に答えるかわかる。
『うん、穂乃果も真姫ちゃんの事好きだよ!』
屈託のない笑顔で、疑うことなくそういうだろう。
そして私は言うの、そうじゃないと。それとは違う好きなんだって。
きっと穂乃果は戸惑って、狼狽えて、悩んで。それでも否定はしないと思う。
気持ち悪がられたり、距離をとられたりする事はないと思う。
でも、受け入れて貰えるとも思えない。
「最近、ずっと同じ事ばっかり考えてるわね」
呟きは暗い部屋に僅かに響く。
この所ずっと、ベッドに転がっては思考が同じ所をぐるぐると。
諦められない、好きって気持ち。
大好きな人。大好きな場所。どっちも欲しくて、でもできなくて。
「誰かに相談……してみようかな」
思考に疲れ、重くなった瞼。
霞んでいく見慣れた天井に向かって、私は呟いた。
―――
真姫ちゃんの様子がおかしいって言う事は
私だけじゃなくてμ'sの皆での共通認識みたいで。
「真姫ちゃん」
「ふわぁっ!?」
まがりなりにもリーダーとして真姫ちゃんの抱える
問題をなんとかしたいと思ったりもするんだけど。
「まーきちゃん♪」
「きゃぁっ!」
なかなか上手くいきません。
「西木野真姫さ~ん?」
「なんなのよさっきから!」
むしろ怒らせちゃったみたいで、海未ちゃんや絵里ちゃんに相談しても
「自分から言い出すまで待つのも大事」なんて大人ぶって暗に穂乃果はなにもするなと言ってくるし。
中々難しい。
「あらら、真姫ちゃんが悩んでるなぁとおもとたら今度は穂乃果ちゃんも?」
部室で一人どうしたらいいのかなぁとないないと海未ちゃんに
言われてばかりの頭を使って考え込んでいると、いつ入ってきたのか希ちゃんが
いつも通りの意味ありげな笑みを浮かべていた。
「希ちゃん」
「あかんよ? 穂乃果ちゃんまでそんな顔しとったら、ほらシャンとし」
ゆっくりと近づいてきた希ちゃんにぽんと背中を軽く叩かれる。
「あわわっ」
「暗い顔せんと、ね? ウチが占ったるから」
「えっいいの?」
「可愛い後輩のためやからね」
言いながら懐からとりだしたるタロットカードを、
慣れた手つきでシャッフルする。こういう時の希ちゃんは
なんかジプシーとかの衣装が凄く似合いそう。
ふふふと笑う口元は少し妖艶で、一つしか年は違わないのにすごいなぁとか思っちゃう。
「はい穂乃果ちゃんも混ぜて」
「ふわぁっ!?」
そんな感じで、大人っぽい希ちゃんに見蕩れていた所為で
目の前に突き出されたカードの束に大げさに驚いちゃった。
「どしたん?」
「う、ううん。……それより、穂乃果も切るの?」
「せや、この場に真姫ちゃんが居ないから。今μ'sで一番真姫ちゃんの事を考えてる穂乃果ちゃんがええんよ」
「い、一番って……」
別にそんな事はないと思うんだけどなぁ。
ただ、穂乃果と皆ではやり方が違うだけで。
一番とか、二番とか。そういうんじゃないと思う。
「ほら、余計な事考えんと。集中して切らんとカードは答えてくれへんよ?」
鋭いなぁ。と一瞬カードを混ぜる手を止めて、改めまして。
真姫ちゃんの事を考えてみる。上の空で、ため息が多くなった真姫ちゃん。
一体何があったんだろう? 困ってるなら頼って欲しい、
助けての一言が言えないなら、こっちから手を差し伸べてあげたい。
できることなら、その手を掴んで引っ張ってあげたい。
そのために、私ができる事ってなんだろう?
「はい、もうええよ」
目を瞑って、言われたとおりに真姫ちゃんの事を考えながら
瞼越しの赤い光に包まれながらカードを黙々と切ること一分。
運動部の掛け声だけが聞こえてた私の耳朶を、希ちゃんの柔らかな声が叩く。
「……はい」
なんとなく厳かな雰囲気。つい畏まった返事をしちゃった。
「ん、じゃあこれを適当に三つの山に分けてくれるかな?」
「三つ?」
「そう、縦でも横でもええよ」
言われたままに、束を分ける。
適当に、と言われたけどつい均等を意識しちゃうのはどうしてだろう?
「じゃあ捲るで? ひとつふたっつみっつっと」
ぺらぺらぺらと、三つに分けた山の一番上が捲られる。
見た所で意味はわからないけど、覗き込んでしまう。
「ふぅん?」
一枚目がひっくり返った女の人、
二枚目が男の人と女の人。三枚目が太陽。
「どういう意味なの?」
「これはな、一枚目を過去、二枚目を現在、三枚目を未来として占ったんやけど」
人差し指を頬にあて、少し考え込む様子。
「一枚目は女教皇の逆位置やね。カードそのものの意味は秘密、
逆位置として得る意味はプライドが高くて、神経質、ヒステリー。
二枚目が恋人達の正位置や、
意味は愛ってのがやっぱり強いかな。恋愛、絆、選択やね。
そして三枚目、未来は太陽の正位置。カードの意味は満足とかかな?
正位置だと成功とか、ね」
「真姫ちゃんの悩みはつまり?」
「この場合は一枚目、女教皇が悩みの元と言えるんやないやろか」
「でもカードの意味って秘密なんだよね?」
「せやね、誰にも言えない秘密を抱えてるってのは、間違いないやろな」
それはわかってるよ。誰にも相談できない秘密。
わたし達の誰にも、言えない秘密。でも、それを知りたい。
「大丈夫やって、二枚目のカード。解決方にもでてるやろ?
恋人達のカード、絆のカードや。穂乃果ちゃんなら、きっとできるとウチは思うで」
「希ちゃん……」
「でも誰にも言えない秘密で、恋人達のカードか。もしかしたら真姫ちゃん、恋でもしてるんとちゃうんかな?」
「えぇぇぇっ!?」
こ、こここ恋ぃぃ!?
「そ、そんなのダメだよ!」
「なんで? 華の女子高生なんやし、悩みとしてはありがちやない?
ため息が多くなって上の空って言うのも定番の悩み方やん?」
「で、でも穂乃果達はスクールアイドルなんだよ!?
にこちゃんだって恋愛はダメって言ってたじゃん!」
「ダメって言われてしないでいられる程人間の気持ちって簡単な物やないやん?」
それは、そうかも知れないけど……。
私は反論する言葉を失って目を伏せる。
本当に、本当にそれが真姫ちゃんの悩みなのかな?
……だったら、私にできることって……なに?
「ちょっと行ってきます!」
「えっ!? ちょ、どこにいくん!?」
五分か、十分か。もっと長いか、短いか。
とにかくうんうん悩んで、考えてみて、なにも浮かばなくて。
だから穂乃果は気がついたら走り出してた。
走り出しちゃってた。勿論、真姫ちゃんの所へ。
―――
「あーあー……ほんまに行ってもうた」
ぽつんと部室に取り残されたウチ。
伸ばした手がふわふわと不思議に宙を彷徨ったりして、
う~ん、思ってたより行動が早いなぁ穂乃果ちゃん。さっすが! なんて。
「あんな焚き付け方したら穂乃果は行くに決まってるじゃない」
どないしよっかな~、って思っとったら
部室に凛と通る涼やかな声。
「なんや、盗み聞きとはえりちも人が悪いなぁ」
「希には言われたくないわ。……真姫、怒るわよ?」
家の事を理由に詮索を嫌がったときは、触れずに見守ろう。って?
「でも、穂乃果ちゃんならやってくれると思ってまうやん?」
「その根拠はどこにあるのよ? ……って」
「せや、カードがウチに告げるんよ」
片付け忘れたタロット。
表を向いた一枚を手に取りえりちに向けて放る。
「っと……これは?」
「女教皇、二番目の大アルカナや」
正位置の意味は優しさ・理解・清純。
逆位置の意味はプライドが高く神経質でヒステリー。
「それがどうかしたの?」
「正位置と逆位置。それぞれ、誰かさんみたいやない?
正確には、誰かさんの中での、誰かさんと誰かさんみたいやない?」
「真姫の中での、穂乃果と真姫自身……ってこと?」
相変わらず察しがいいなぁ。
自分の事となるとトンと鈍くなるくせに、とは思ってもいわへんけどね。
「真姫ちゃんは、自分でも自覚してないかも知れへんけど
引け目とか負い目とか、感じてるんよ。きっと」
恋人達が『絆』なのか『恋愛』なのかはわからない。
けど、その結果が太陽――『約束された将来』に向かうとウチは信じてる。
「でも、穂乃果一人で行って大丈夫かしら?」
「大丈夫やって。こういう時の穂乃果ちゃんは強いから、それはえりちもよう知っとるやろ?」
「……そうね。そして多分μ'sの中で一番」
「そ。真姫ちゃんが知ってる筈や」
そしてえりちと二人、顔を見合わせてくすくすと笑う。
さてさて、ここからどうなるんやろか?
こればっかりは占いで調べるのは無粋やんなぁ?
―――
しんと静まった公園。
少しだけ下がった気温と30分程降った雨が空気を湿り淀んだ物にして、
肌に纏わりつくような雰囲気がある。正直嫌いじゃない。
「なにやってるのかしら私」
散歩と言って、家を出て。
既に一時間程。そろそろ帰らないと口うるさいのがでてくるとはわかっても、
一人暗い部屋に戻る気にはなれない。……勿論、だからといって親の居る居間にはもっと居たくない。
そろそろどうにか自分で覚悟決めて、吹っ切るなりなんなりしないと
流石に皆も放っておいてくれないでしょうね。
「みんな、優しいから……」
一人呟いた言葉は湿った地面に向かって行って、
聞いていたのは私と足元でせっせと働く小さな蟻だけ。
深夜に公園で不良が集まるのを防止するために設置された、
モスキート音にも似た甲高い音を発する機械が働く前に帰りましょう。
「見つけたっ!」
現実逃避にも似た徘徊。それに終止符を打とうと重い腰を持ち上げようとした瞬間。
「穂乃果……?」
声がした、荒い息と大きな声。聞きなれた、一番聞きたい。一番聞きたくなかった声。
――あなたはいつもそう。狙い澄ましてピッタリなタイミングで、来るのね。
遅くて申し訳ない
遅くても問題ないからしっかり終わらせてくれればええやで
ベンチから浮かしたお尻をさてどうしたものかとちょっと考えて、
結局腰が痛くなってきたから立ち上がってみる。
「どうしたの穂乃果?」
本当に、どうしたの?
どうして、このタイミングで現れたの?
覚悟を決めようとしたのに、ゆっくりと蓋をしようと決めかけたのに。
「はぁ……はぁ……」
「お、落ち着いてからでいいわよ?」
私、馬鹿だから。みんなが思うほど賢くないから。
「んっ……けほっ」
まるでドラマみたいに、駆けつけられたら。
また――勘違いしちゃうじゃない。
>>36
シリアスでもいいんですか!?やったー!
ごばくしたー
「ふぅ……ねぇ真姫ちゃん、聞きたいんだけど」
喉から掠れた音がする位に荒れた呼吸が落ち着くまで、
一分か、二分程。私は手持ち無沙汰に前髪を弄りながら
胸に手をあてて深呼吸を繰り返す穂乃果を見つめていた。
「なによ?」
癖。凛によく指摘される前髪弄り。
どうにもやめられないそれをしながら無愛想に返す。
こちらをまっすぐ見てくる穂乃果から目を逸らして、
私の瞳は公園の片隅、ぼんやりと浮かぶ電灯とそれに群がる虫を漠然と見る。
「真姫ちゃん、好きな人いるの?」
「っ!?」
そして飛んできた言葉は、私の心臓を二段階以上加速させた。
多分、さっきまでの穂乃果と遜色ないほどに。
なんで、どうして。そう思った。当然でしょ?
誰にも言ってない、言えない。内に秘めた感情を
当の本人にこんな風に言われてしまって、動揺しない訳がない。
本当に、なんで……こんなタイミングなのよ。
せめて、せめて明日にしてくれれば「そんな訳ないじゃない」って
みんなの知ってる私で対応できた筈なのに。ずるい。
「どうなの?」
「そ、そんな……」
首を傾げて、俯く私の眼を覗き込んでくる彼女に
私はしどろもどろの言葉にならないなにかしか返せなくて。
つまりは、肯定したのも同じ。
「……ねぇ穂乃果」
どうしようどうしよう。なんて言おう。
仮定の話として、頭で幾度となく考えたはず。
「……なに? 真姫ちゃん」
でなくても、いつもの私なら耳心地のいい、
それなりに説得力のある適当な言葉をいえたはず。
「好きよ。穂乃果の事」
けれど口からでたのは、ほんの数分。
たった数分穂乃果が来るのが遅ければ蓋をしていた筈の、
私の、本音。蓋をし損ねて、心の器に溜まってたそれは大きく揺らいだ私の中で、容易にこぼれ散った。
――もう……どうにでもなれ。
「……」
思いのたけを口にする。
きっと言えば、気は楽になるだろうと思っていたのに、
実際はとても、重くて、辛くて、足が震えた。
『うん、穂乃果も真姫ちゃんの事好きだよ!』
なんて言葉は返ってこなかった。
もしそうだったら、そういう事で終わらせられたかもしれないけど、
そもそも穂乃果の方から聞いてきたんだものね、無理か。
けど、穂乃果が気づいてるって事は、みんな気づいてるのかしら?
はぁ……明日からμ'sの皆と顔を合わせ辛いわね。
「それって、どういう意味かな?」
なんて、一人ぐるぐると傾く世界で内に閉じこもる思考をしていると。
穂乃果の、にへらとした笑顔が飛び込んできた。
そして、そのだらしない笑顔で、わかりきってる事を聞く。
そう、わかりきってる癖に。
額にまだ張り付いた前髪と頬を伝う汗、
喉元に張り付いた服の襟。
「……えっ?」
困惑する声が、大きい。
ううん、大きく聞こえるだけ。どうして? 貴女の口と私の耳が近づいたから。
あぁ、睫毛長いなぁ。なんてぼんやり思って。最近私ぼんやりしてばっかりね。
「んぅ……」
驚いて大きくなった瞳に、うつる自分は酷い顔。
柔らかい感触は想像以上に胸が跳ねる。
私、穂乃果とキスをしてる。
顔が熱い、耳も目も、あちこち熱い。
心臓の跳ねる音はドクンドクンと強く聞こえて、
宙ぶらりんの指先はなんだか痺れて感覚が行方不明みたい。
唇が触れるだけのキスでこんなになっちゃうなんて。思っても見なかった。
「……こういう意味よ」
抵抗されないのを良い事にたっぷり時間をかけた後、
ゆっくりと離れて、私はそう言った。
「……」
罵倒されるか、引っ叩かれる。
どっちかだろうと思っていた私の予想は外れ、
穂乃果は口に手を当て顔を紅くしてしばし眼をキョロキョロと忙しなく動かした後。
「っ!」
私に見向きもせず、背を向けて走り去ってしまった。
――ほら、勢いに任せるべきじゃなかったでしょ?
私の中のもう一人の私がそう呟いたのが聞こえた気がした。
次の更新は日曜の夕方になると思います
月曜も祝日なのでその辺りで終わらせようと思います。まる。
―――
「はい、ココア」
妹達の居ない静かな自宅に今日は一人のお客が居る。
「ありがとうにこちゃん」
そのお客は力なく微笑むと私が差し出したマグカップを
両手で包むようにしてゆっくりと傾ける。
どうしたの? と聞くのは簡単で、けどとても難しくて。
晩御飯の材料を買いに出かけた所で、一人ふらふらと歩く彼女を見つけて
とりあえずと家に上げた現在まで、何度も聞こうとして言葉を飲み込んだ。
「……」
「……」
沈黙が重たく感じる。
私自身に疚しい事、現時点で穂乃果と二人きりになって思うところはないから、
言うなれば原因は穂乃果側にある事はわかりきってる。
先輩として友人として仲間として、私のとるべき行動はなんなんだろう。
「あったかい……」
小動物を髣髴させる仕草。
マグカップを置いて僅かに綻んだ笑顔で息つく穂乃果に、
不覚にもどきりとさせられる。
「ねぇにこちゃん」
「な、なによ?」
不意に声をかけられて違う意味でドキッとした。
らしくない真剣な表情なんかしちゃってなによ。
「にこちゃんって好きな人とか居る?」
「はい?」
空気の重さとか穂乃果の表情とか、
まぁ全体の雰囲気からしてどんな事を言われるのかと思えば。
――いや、『好きな人』っていうのはスクールが付いてもアイドルには
とっても重大な議題である事は間違いないわね。
「……いないけど」
普段の空気で言われたなら。
大きな声で答えていたかも。怒り半分呆れ半分で、
立場とか考えなさいよ! ってね。でも、今は静かに、
自分のマグカップに目を落としながら続きを促すように答える。
「……そっか」
「それがどうかしたの?」
「……えっと……ね」
もごもごと言い辛そうに、口と眼が忙しなくわちゃわちゃと。
「はぁ……言って見なさいよ。なにがあったの? 聞いてあげるから」
さっきまで喉元に引っかかっていた言葉。
自然に言う事ができた。
「えっとね……キス、されたの」
「はい?」
二度目の問い返し。
さっきよりも数段オクターブがあがってる気がする。
だって、仕方ないわよ! そんなこと言われたら!
……落ち着いて、落ち着くのよにこ。こ、ここは冷静に。
「だ、だだだだっ」
冷静さはどうにも手の届く範囲に見当らなかったみたい。
なんかのアニメソングみたいな感じになっちゃった。
改めまして落ち着かないと……。
「にこちゃん?」
「こほん……だ、誰に?」
まだ若干動揺が残ってるものの、
なんとか意味のある言葉として発言できた。
「……」
それからの沈黙が重たいのなんのって。
喉が鳴る音から心臓の拍動からなにから全部聞こえた気がしたわ。
そして穂乃果が喋るまでの幾許かがとても長く感じて。
「えっと……」
「言っちゃいなさいよここまできたら」
「……うん」
ゆっくりと動く唇。
「ま……」
違うわね。ゆっくりに見えただけ、なんだと思う。
「……」
穂乃果と同じμ'sの。
「真姫ちゃん」
後輩で友人で仲間の名前がでてきた。
「ほわぁー……」
それを受けて私の口からでてきたのは、
なんかもうよくわからない小さな奇声とも言えるなにかで。
それと同時になんとなく今日までの様子のおかしさとか、
まぁまぁあれやこれやが『そういう事だったのか』と納得いく部分もあるようなないような。
「なるほどなるほどねー」
告げ口するような感覚に陥ったのかどうかはわからないけど、
穂乃果がまたぞろ気まずそうにまた黙りこくるので
自然独り言の様になっちゃうわね。ま、仕方ないか。
「……どういう状況だったか聞いてもいいかしら?」
「んと……」
「大丈夫よ、これでも口は堅いんだから」
「……」
なによその目は。文句あるの?
―――
悩んでる真姫ちゃんを追いかけて、
公園で二人話をして告白されてキスされて。
そしてパニックになって逃げ出しちゃった。
穂乃果の説明を要した所大体そんなところ。
「……へぇ」
私はとぼんやりとした言葉を口にするのが精一杯だった。
「穂乃果はどうすればいいんだろう……」
真剣に真剣な表情の穂乃果に私はなんと声をかければいいんだろう?
っていうか逃げてきちゃったって……真姫ちゃん大丈夫かしら?
「……まぁ、ね。どうすればいいかはもう穂乃果次第なんだけど、
どう思ったの? キスされて」
「わかんないよ。好きとかそういうの考えた事もなかったし」
そうよね。私だってわからない。
恋とかどうとか、未知のエリアだもの。
先輩だなんだとか言った所で一年ちょっとの時間で経験する事なんて
たかが知れてるし、私も穂乃果も別の方向に一生懸命で。
「ん~……んぅ~……」
悩む。アイドルとして言うべき事
友達として言いたい事。ごちゃごちゃ悩んでぐるぐる回って。
「あーもうっ!」
「うわっ!?」
バンと机を力強く叩く。カップに入ったココアが衝撃で跳ねて、
机に雫を散らす。突然大声を出した私に穂乃果は全身で飛び上がって
大きな瞳をまんまるく見開いてこちらを凝視してる。
その目に人差し指を突きつけて。
「どうすればいいじゃないわよ!? ってかなんで私がこんなことで頭を悩ませないといけないのよ!」
「えぇ~……、だって聞いてくれるって……相談に乗ってくれるって……」
「言ったけど! 私だってそんなのわかんないわよ!」
「えぇ~……」
「そもそも! キスされた告白されたどうしようなんて、
そんなのに正解もクソもないでしょうが! 大事なのはあんたがどうしたいかよ!」
ベタでなにが悪いのよ。
私にはこれが精一杯なの。
「穂乃果がどうしたいか……」
「そうよ! 断るなら断る、受け入れるなら受け入れる。
向こうがハッキリ行動で示した以上、あんただってハッキリ答えなくちゃしょうがないでしょ?」
生存報告しましま
なんとか書きたいんだけど……
>>69
―――
突きつけられた指。叩きつけられた言葉。
それは私のどこかに大きな音を立ててぶつかった。
カランカラン……。って。
心の中の、小さな部屋。その扉が開いて、鐘が鳴る。
閉じこもっていたのはなに?
どんな感情? どんな気持ち?
わからない、知らない。見たことなくて、触れられない。
でも確かにそこに居た何かは、音に気付いて振り向いて、
今にも部屋を飛び出しそうで。
お久ー
「あんたはどうしたいの?」
どうしたらいいかはわからない。
「私は……」
でも、どうしたいかはわかってる。
「真姫ちゃんを笑顔にしたい。
頼って欲しいし、手を差し伸べてあげたい。
穂乃果にできることを、してあげたい」
そうわかってるんだ。
最初から、私は……。
「なら、それが答えなんじゃないの?」
にへら、とらしくないニヒルな笑顔で言うにこちゃんに
「そうみたい」と私もにへっと笑って見せた。
>>78
お久
―――
一人になった。
また、一人になってしまった。
私の後先を考えない行動の所為で、また。
「……嫌」
誰も居ない公園。私は動けず一人で佇んでいた。
追いかければよかったのかしら。
まさか、追いかけてなんていえばいいのよ?
かける言葉なんてないじゃない、誤魔化しようがない。
キンキンと頭がなる。
それが時間が経って動き出した機械の音なのか、
それとも今の心境から来る耳鳴りなのかもわからない。
どれ位経ったかしら。
ふと気がついて強く握り締めていた両手を開いて見ると、
指先は白くなって、手のひらには爪の痕。
「……帰らないと」
誰に聞かせる訳でもない言葉を口にして
一歩出口に向かって歩く。
気持ち悪いくらいに酷く緊張をしたときのような、
平衡感覚を失ったぐねりとした感触が足の裏から全身に広がる。
もう一歩。
世界がふらついてる。
――私の世界は、なんて脆いんだろう。
結局。そんな漠然とした意識の中。
気がついたら私は自分の部屋についていた。
道中の事も、その後の事も。なにひとつ覚えていない。
ただ、翌朝目が覚めたときに枕と頬に酷い泣き跡が残ってた。
―――
「はぁっ……はぁっ……」
汗が乾いてべたついた身体に、また浮かぶ汗。
ほんの一時間前に走って向かった公園に再び足を踏み入れる。
「真姫ちゃん!」
呼びかける。大きな声で。
公園の中を走り回ってキョロキョロして、
周りの人にじろじろ見られても気にせず繰り返す。
――帰っちゃった?
決して広くない公園の中を一通り見渡して、
真姫ちゃんが既にここに居ないと結論づける。
……私は、何度間違えれば気が済むんだろう?
もう勝手な思い込みで、みんなに迷惑をかけないって決めたのに。
また、私は誰かを傷つけた。
―――
最近、穂乃果ちゃんと真姫ちゃんの様子がおかしいっていう事は
μ'sだけじゃなくて音ノ木坂生徒の皆での共通認識みたいです。
「かよちん……」
「うん」
喧嘩してるの? どうしたの? そんな風な質問を私も凛ちゃんも
ここ数日幾度と無くされました。
その度に私は力無く「わかりません」とだけ答える。
何度も「直接聞いてみようよ」って凛ちゃんは言っていたけど。
なんとなく、それはしてはいけない気がして。
少しだけ冷たい雰囲気の、出会った頃を思い出す真姫ちゃんと
少しだけ薄暗い雰囲気の、ラブライブを辞退した頃を思い出す穂乃果ちゃんを
ただ……ただ眺めていることしかできませんでした。
そして、――にこちゃん。
穂乃果ちゃんと真姫ちゃんとはまた違う感じの、
変化。と言えばいいんでしょうか?
「恐らく、だけど。にこはなにか知ってるわ」
二人程じゃないけど、様子がおかしくて。
合わせて三人もそんな状態でレッスンに身が入る訳が無く。
一度普通に解散した放課後、真姫ちゃん・穂乃果ちゃん・にこちゃんを抜いた
メンバーに絵里ちゃんから召集が掛かりました。
「だから私は真姫と穂乃果に直接触れられない以上、にこに話を聞きたいと思うんだけど。どうかしら?」
申し訳程度に揃って頼んだアイスティー。
カランと氷とガラスの触れる音。
自然とだんまりになったこの場で一番に口を開いてそういったのは
みんなを集めた絵里ちゃんで。
「私は賛成です。今のままではスクールアイドルとしてだけでなく、
学業・生徒会業務・交友関係にまで影響があります。
流石に時間が解決してくれると楽観できる状況ではありません」
海未ちゃんが涼やかな声でそれに賛同する。
「けど、にこっちもあれで結構義理堅いで?
言える事ならうちらに言ってくるやろうし、
知った上で口を噤んでるなら聞いて答えてくれるかは怪しいんやない?」
「ことりはあんまり干渉しないほうがいいんじゃないかと思うけど……」
途端、言い合いになる。
私は口を出すタイミングを逃して、それをオロオロと見てるだけ。
……見てるだけ。
いつも私はそう。自分の意見をいえなくて、流されて。
諦めた振りをして、周りに合わせて、へらへら笑って。
μ'sに入る時だってそうだった。
穂乃果ちゃんが手を差し伸べてくれなかったら、
真姫ちゃんが背中を押してくれなかったら。
いま、その二人が迷ってる。
悩んでる、困ってる……苦しんでる。
私は……。私は……。
「あ、あのっ!」
机を強く叩いて、立ち上がる。
みんなの目が私に向いて、怖くて飛び上がりそうになる。
――でも。
「確かに、聞いてもにこちゃんは答えてくれないかもしれないし。
私達が深く立ち入っていい話じゃないのかもしれないですけど……!
それでも見てるだけは嫌です! 少しでも可能性があるなら何かしたい!」
こういう時穂乃果ちゃんなら、真姫ちゃんなら。
「余計な真似でも大きなお世話でもいい、
それでも二人の為になにかできるなら!
それを選ぶ事に迷いたくないです!」
迷わず、その選択肢を選ぶと思うから。
印フルなう
>>100
―――
「で、私の所に来たわけね」
鉄製の玄関に寄りかかり、
腕を組みながら憮然とした態度でにこっちはそう言った。
機嫌が悪そうというか、これは失敗したんちゃうかな? と不安になってまう。
「はい」
けど花陽ちゃんは動じる事も無く、
いつになく真剣に正面から「教えてください」と強く迫る。
カッコえぇなぁと言う思いもあるけど、逆効果なんちゃうかなとも思う。
「無理」
どっちに転ぶんかなと思う間もなく、
にべにも無く袖にするにこっち。
「なんで、って……聞くまでもないわよね」
その態度にショックを受けた花陽ちゃんの代わりに
えりちがずいと前にでて苦笑を浮かべる。
「えぇ。……確かに私は穂乃果から相談を受けて、あんた達の質問の答えも持っているわ。
こうこうこういう事があって、だから今二人はこうなのよって答えるのは容易いけど、
そんなのできる訳無いじゃない。言える訳ないじゃない」
深く目を瞑りながら、静かに呟くにこっちに。
誰も、なにもいえなくて。ただ、にこっちが独り言の様に言葉を紡いでいく。
「あんた達が心配するのも当然よ。私も相談を受けた身として、
もう少し最後まで面倒みるべきだったし、申し訳ないとも思ってる。でも、それとこれは別」
にこっちの指先は白くなるほど強く握られていて、
それがにこっちの本心であり、同時に本意でないことも理解できた。
多分、うちだけやない。みんなが、わかった事やと思う。
「だから、今は帰って。もう一回私も話してみるから。
全部終わったら、きっと二人からみんなにも話すと思うし、ね」
言い切ってため息を吐いて。
そしてみんなの顔を見渡す。
普段μ'sのみんなに弄られている小さな姿はそこになくて、
年長者として、部長として、先輩として、三人の妹を持つしっかり者の姉としての
頼れる矢澤にこの姿があって。……誰も、もうなにも言えへんかった。
「わかりました。今回は帰ります」
沈黙が支配する廊下で、諦めたように息をはいて
そういったのは海未ちゃんやった。
「……けど、にこ。穂乃果は私の大切な幼馴染です。
本当になにかあった時には」
「わかってるわよ。あんたの心配するような事にはなってないわ。
……ただ、すれ違って食い違っちゃっただけ、だから」
じゃあ私は晩御飯の用意しないといけないから。
そういってにこっちは部屋に戻っていって。
うちらも仕方なく、そのまま解散になったしもた。
「いまはにこを……そして穂乃果と真姫を、信じましょう」
別れ際。えりちが言った。
みんな、小さく頷いて。そして。
―――
響くチャイムの音。ほんの数十分前に聞いたこの音を、
今度はうち一人で聞いている。
「なに? まだなんか用……って希一人だけ?」
あからさまなしかめっ面ででてきたにこっちに
「おはろー」と声をかけると今度は怪訝な顔。
半開きになった玄関の内側からは有言実行
にこっちが作った夕飯が醸し出すお腹がなりそうな匂いが香ってくる。
「なによ?」
じろりと言う擬音がぴったり嵌りそうな見られてしもた。
なんやごっついへこむなぁ、なんて。
「別に、無理に聞き出そうとは思ってないんよ。戻ってきたのはそのためやない」
一応。枕詞としてそう言い訳がましい事をいいながら。
「ただ、にこっちが一人で責任感じてそうやったからね」
「……どういう意味よ?」
声色が少し変わる。やっぱり、うちはそう心の中で呟く。
にこっちは、根本的なところで変わってない。
一人で全部背負いがちなままなんや。
「どうせ、相談をされたのが自分やなかったら。もっと上手く返せただろうとか思ってたんとちゃうの?
幼馴染のことりちゃんや海未ちゃんやったら、同じ生徒会長だったえりちやったら、
似たもの同士の凛ちゃんやったら、純粋で妹みたいな花陽ちゃんやったら。もっと上手く……って」
「……本当、なんでも見透かした様な奴ね。
あんたのそういうところ、嫌いだわ」
半開きだった玄関が、もう少し開いて。
にこっちが外に出てくる。
「でもね、少し間違ってるわ。……私が一番に頭に浮かべたのはあんたよ」
「うち?」
「えぇ、希だったら。なんでも見透かした様な望みだったら。最適解を導き出せたんじゃないかって」
それは、ちょっと意外やね。
うちはそんな風に評価されてたんや。
……実際はそんなことちぃともないのに、
むしろ、穂乃果ちゃんを変に炊きつけた原因ともいえるのに。
そしてそれを打ち明けることが出来ない位、弱いのに。
「私はね、偶然あの場所に居たから相談されただけ。
穂乃果にあの日あの時、あの場所で出会ったから相談されただけ。
希の言う通りよ。私じゃなければ、もっとキチンと相談に乗れたんじゃないかって、不安でしょうがない」
うちの心中を知ってか知らずか、にこっちは懺悔の様に語る。
「そう考えてるうちに、穂乃果にも真姫にも上手く話しかけられなくなって。
なんて声をかけていいのか、助けてあげようにも、また失敗したら、より悪くなったらって、怖いの。
さっきはみんなにあんな事言ったけど、不安なのよ」
日が落ちて、ひんやりと肌をなぞる風がそうさせるのか。
にこっちの口数は増えて、頑なだった態度は今にも崩れそうに脆くて。
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ザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ゙ッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ
>>117
「ごめんな……」
ぎゅうと力いっぱい抱きしめる。
きっとにこっちには届かない心の内を篭めて。
「なんで希が謝るのよ」
そりゃそうやんな。
そう思うやんな、わかってるんや。でも、本当の事なんて言えないやん?
「気付けんかってごめんな」
弱いウチでごめんな。
にこっちが思ってくれる様な強いウチやなくて……ごめんな。
こんな時でも誤魔化してしまう、情けなくて。
自然と涙が零れ落ちてきた。
「ちょっと……泣かないでよ」
抱きしめて見える世界は滲んでいて、ぼやけていて、
廊下の壁と、扉。そしてにこっちの背中だけが歪んだ輪郭を浮かばせて。
だからなのかにこっちの声も滲んで聞こえて。
「もう……馬鹿、あんたが泣いてたら……私まで……」
ウチの背中に、細っこいにこっちの腕がまわる。
小さく力の籠められた腕に押し出されるように、――また、涙がこぼれた。
結局その日は、馬鹿みたいに二人で泣いて
にこっちの妹さんが玄関から顔を出すまでそのまま抱き合っていた。
なんかスレが凄く盛り上がっていたから書かなくちゃと思った(使命感)
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