国王「魔王とは何時の世も蘇りつづける者」(99)

国王「そしてまた魔王は蘇り、魔物の部隊を生み出し各地に攻撃を開始した」

国王「対軍戦闘は各国の兵士が行う。君達には隠密行動の上、敵将を討ち取り」

国王「各地に保管されている神器でもって魔王を討伐してもらう」

国王「神託を受けた勇者とその仲間達よ、引き受けてくれるな?」

勇者「お任せ下さい」

勇者「いよいよか……」

戦士「そう硬くなるなよ」ポンポン

僧侶「戦士さん、セクハラですよ」

魔法「サイテー」

戦士「えっマジで他意なんてなかったんだけど……」

勇者「はは、私は気にしていないから大丈夫だよ」

勇者「……」スゥ フゥゥ

勇者「良し。幾度と無く繰り返された歴史とは言え、必勝という事はありえない。皆、気を引き締めて行くぞ」

戦魔僧「おー!」

魔王城
魔王「……」パチ

魔王「……あぁ」

魔王「また……また……」ブルブル

魔王「私は……」ゴァァァッ

側近「」シュゥゥゥ

四天王達「」シュゥゥゥ

魔物達「」シュゥゥゥ

側近「っ」パチ

四天王達「……」パチ

魔物達「……」パチ

側近「おお、貴方が魔王様であられますね?! 私は側近、魔王様を補佐させて頂きます」

魔王「……ああ」

四天王達「必ずや人間どもを駆逐してやりましょう!」

魔王「……ああ」

魔物達「人間殺せ! 食い殺せぇ!!」

魔王「……ああ……ああ」

……
側近「失礼致します」

魔王「うむ」

側近「どうやら人間達が勇者を放ったようです」

魔王「そう、か」

側近「侵略開始から早三年。遂に、ですね……」

魔王「……」

側近「いかが致しましょう?」

魔王「全軍に通達、少数精鋭の部隊に注意せよ。見つけた場合はすぐに手を出すな」

魔王「攻撃する場合は綿密に策を立てよ」

側近「畏まりました」

魔王「……頼む……頼む」グッ

側近「失礼します」ガチャ

魔王「何があった」

側近「×××国の防衛線がもう少しで崩れるとの事です。ただ現状、戦線は膠着状態になっておりまして……」

魔王「各地の状況を」

側近「はっ! こちらに!」バッ

魔王「……」

魔王「ここの守備部隊を回せ。その間は敵軍に牽制をかけよ」

側近「そ、それでは敵に時間を与える事になりかねません!」

魔王「周囲の戦線からは移せぬ。一国を落とす為にこちらの戦線に大きく穴を開けては意味が無い」

魔王「それとも他の攻め込んでいる戦線を一旦下がらせ防衛に徹するか? であれば援軍も可能だ」

側近「……いえ、一国を落とすというダメージが与えられるのであればそれも」

魔王「敵軍に何時援軍が来るかも分からんのにか?」

魔王「この先の状況など読めない中、送った援軍まで退けられたらどうするのだ」

側近「……飽くまで保守的に攻め入るのですか?」

魔王「焦る事は無い。日々、私の魔力が魔物を生み出す」

魔王「賭けに出ずとも我のが圧倒的に優位に立っているのだ」バッ

側近「は、ははぁ! 魔王様の意を汲み取る事ができず発した失言、大変申し訳ございませんでした!」

側近「失礼致しました」バタン

魔王「……」

魔王「……頼む……誰か……」ブルブル

「失礼致します」コンコン

魔王「うむ、入れ」

四天王・土「勇者によって我が軍が打ち倒されました」

魔王「ほう……!」

四天王・土「魔王様?」

魔王「いやいや、良いではないか。素晴らしい……そうでなくてはつまらないではないか」

四天王・土「……なるほど」ニヤ

魔王「……しかし、どうしたら」

側近「ま、魔王様!」バタン

魔王「騒々しいぞ」

側近「……人間側が新しい魔法の開発に成功したようです」

魔王「だからどうしたというのだ。今までにもそうした事はあったのだぞ」

側近「広域殲滅魔法とでも言えましょうか……×××国の戦線が覆されました」

魔王「なに……援軍は?」

側近「その魔法を使えるものが数名来ただけのようです……」

魔王「……」

魔王「対魔法障壁が張れる者、耐性があるものを集め、各戦線に配備せよ」

魔王「城内の魔法使いを集め対策を講じさせよ」

側近「はっ!」バタン

魔王「……」

魔王「うむ……うむ」

魔王「後は……どうすれば、か」

……
四天王・炎「魔王様」

魔王「どうした? 部隊の方も問題無かろう?」

四天王・炎「現状、軍隊としても勇者との戦いも押される一方です」

四天王・炎「我々四天王も覚悟を決めねばならないのが現状です。故に少々お話をお聞きしたく参りました」

魔王「ふむ? どういった事を知りたいのだ」

四天王・炎「……今までの、私についてです」

魔王「……」

四天王・炎「我々には前世と言いますか。魔王様の魔力を素に生み出されている以上、以前の記憶はございません」

四天王・炎「しかし魔王様だけは蘇っているのです。ですので……もし宜しければ私の事を」

魔王「変わらんよ」

四天王・炎「はっ?」

魔王「何時の世も、お前達は素晴らしき忠臣だよ」

四天王・炎「魔王様……」パァ

「四天王・炎様! 西部地方の部隊より報告が届いております!」コンコン

四天王・炎「! 急を要する報告のようです。私は失礼致します」

魔王「うむ」

四天王・炎「私の戯言をお聞き入れ頂き、真にありがとうございます」バタン

魔王「……」

魔王「ああ、そうだよ……今も昔も……」

……
魔王「なに?! それは真か?!」

側近「は、はい……どうやら魔の者にかなりのダメージを与える剣技を編み出したようで」

魔王「……」

側近「ま、魔王様?」

魔王「なんだ?」

側近「い、いえ……その、口角が吊り上っておいででしたので」

魔王「そう、だな……不謹慎であった」

魔王「だが……当然の如く一筋縄でいかないという事が、たまらない愉悦ではないだろうか」

側近「は、はあ……」

側近「それでは私も指揮に戻ります」ギィ

魔王「うむ」

側近「失礼致しました」バタン

魔王「……」

魔王「何が……愉悦か」

魔王「……頼む……どうにか」

魔王「また……また、なのか」

魔王「どうしたら……助け……」

側近「まお……様」ギィィ

魔王「側近……!」

側近「お逃げ、下さ……四、天王、でさえ、一撃で屠、られ……」ドザァッ

魔王「……側近」

勇者「魔王……追い詰めたぞ」ザッ

魔王「ふはははは! よく来た勇者よ!」

魔王「ここがお前達の墓場だ!!」

戦士「へっ! 今に泣きっ面にしてやるよ!」

勇者「皆! 油断はするな!」

魔法「ええ」

僧侶「分かっています!」

魔法「束縛魔法!」

魔王「そのようなものっ」ピシィ

戦士「っは!」ヒン

魔王「小賢しい!」ギィィン

僧侶「今です!」

勇者「ああ! 闇断ち!」ヒュッ

魔王「な」ザワッ

魔王(これが件の……これほど予備動作無く放てるのか)ザンッ

魔王(なるほど……これならば、どうにもならん……願わくば私に……)ブシュァッ

魔王「がっ」ドザァ

戦士「なっ?!」

魔法「血?! どうして?」

魔王「うぐっ……な、に?」ドクドク

勇者「……」

僧侶「え? え? 何が起こっているんですか?!」

勇者「!」ハッ

勇者「僧侶! 魔王に回復魔法を!」

魔王「……」グッ

魔法「回復魔法の効きが悪すぎるわ……」

戦士「一先ず止血はしておいた。人間だったら失血死していたな」

魔王「何故……助ける」

僧侶「……」

勇者「お前は……何者なんだ? 影武者か?」

魔王「? 何を言っている、私こそが魔王だ」

戦士「どう思うよ」

勇者「……」

勇者「……もし、お前にその気があるのなら、話し合いというテーブルについてはもらえないか?」

魔王「!」

魔王「本気か……私は魔王だぞ!」

勇者「……そうだ。だが君は悪人ではないのだろ?」

魔王「……何を」

戦士「勇者が使える闇断ちってのはな、悪心あるものしか効かねえんだよ」

勇者「だから当然、悪意を持って接してくる人間でも有効だ」

魔法「斬られたら血は出ない。けども甲冑も何も障害にならずに両断できる、そうよ」

僧侶「初めて悪意の無い者を斬ったので……それも魔王だったのでこちらも狼狽してしまいましたが……」

勇者「元々、魔王軍の動きには不可解な所があった。というよりもあまりにも保守的過ぎたんだ」

勇者「とても本気で滅ぼそうとしている動きじゃなかった」

勇者「お前は一体、何がしたかったのだ……?」

魔王「……話を」ブルブル

戦士「……!」ジリッ

勇者「戦士」バッ

戦士「……」シャー チンッ

魔王「話を……聞いてくれるというのか」ブァッ

魔法「……」

僧侶「そ、そんな泣かないで下さい……」

……
魔王「……お前達は私の事についてどれだけ知っている?」

勇者「魔王は蘇り続ける不死の存在。蘇れば魔物を生み出し、侵略を行う」

勇者「そして何時の世も、神々による神託で定められた者、勇者に討ち取られる者」

勇者「だいたいそんなところだろうか」

魔王「……概ね間違いではない。魔物達は私の魔力により生み出される」

魔法「魔物も蘇っているわけじゃないの?!」

魔王「私から溢れ出す魔力が原因で生まれる……私が意図的に何かをしている訳ではない」

魔王「……何故自分が生まれるのかも分からない。ただ、意識を持ち出した当初は人間を全滅させねば、という思いだけがあった」

戦士「……」ピリッ

魔王「……私は何度でも蘇る。だが、魔物も四天王も側近でさえも、魔力から生み出される……」

魔王「彼らに記憶の継続は無い……常に孤独だった」

勇者「……」

魔王「何時からだろうか。10回目ともなると自身をも疑惑の目で見ざるを得なかった」

魔王「私は何なのだ? 何故、人間を滅ぼそうとする?」

魔王「無論、答えるものなど誰もいない……私の周りには勇者に、人間に敗れた記憶を持つ者すらいない」

戦士「で、そのまま何十回と人間に襲い掛かってきたのか」

勇者「戦士、話の腰を折るな」

戦士「わーったよ……」

魔王「それから幾度と無く企み続けた。本当に長い事を……」

魔王「和平を結ぶべく不可侵を叫んだ。だが、魔物達は止められなかった」

魔王「ならば全て皆殺してしまえばどうかと試みた。湧き出る様に生まれる魔物に対応する事はできなかった」

勇者「……」

魔王「自らの魔力が溢れるのに栓をでも出来ないかと、魔法や魔法具の研究を始めた。理論上、止められないという結論に到った」

魔王「戦略を説き、時期を待つのだと彼らを納得させてただひたすら隠れ住み、人間に危害を加えなかった。神託より私の復活を悟られ討たれた」

魔王「同様にし、勇者に話し合いを持ちかけた。一刀の元に切り伏せられた」

魔王「側近に頼み、文を出してもらった。側近が首だけになって勇者と共に戻ってきた」

勇者「……」ビク

魔王「同じ事でも幾度も幾度も挑んだ……」

魔王「変えられなかった……完全に死ぬ事も出来なかった……」

魔王「……そして、お前達の魔の者を切り裂く剣技でもって私は……一時の死すら叶わんのか」

勇者「……」

戦士「……」

魔法「話は以上かしら」

魔王「私から話したい事はな」

僧侶「勇者さん……」

勇者「……ふむ」

勇者「魔王って、何なんだろうな」

戦士「あ?」

勇者「だって変じゃないか」

魔法「全面的に話を信用する気?」

勇者「……これでも旅に出る前から調べてはいた」

勇者「今まで感じていた違和感があったけど、魔王の話でやっと納得できたよ」

勇者「ただ疑問は残った……魔王は何なのか。魔王は何で人間を滅ぼそうと考えた?」

魔王「分からない……私に自我が生まれたその時にはもう、人間は滅ぼすべきものだと認識していた」

魔王「だが今は違う……無論、今まで講じた策は通用せず、今はこうして可能な限り被害を抑え」

魔王「お前達勇者に殺されるのを待っているだけだ」

勇者「人間を滅ぼすべき、て考えは?」

魔王「あったらもっと攻勢に出ている。何故はおろか、その必要性さえ怪しく思えている」

勇者「魔物はどうにかできないんだったっけか……うーん」

戦士「側近とかボスクラスは復活しねーのか?」

魔王「うむ、彼らは私が蘇った時のみだ」

魔法「勇者……何をするつもり?」

勇者「魔王の最早呪縛とも言えるこの連鎖を断ち切りたい。だってぶっちゃけいたちごっこだよ、私達」

魔王「っ!」

僧侶「本当にそのような事ができるのでしょうか?」

勇者「今まで人間側が協力した事はないんだろ?」

魔王「あ、ああ……」

勇者「なら」

勇者「今だ着手できなかった策を講じる事ができる。可能性が無いわけじゃない」ニッ

勇者「魔王側に情報と言うか書物とか無いのか?」

魔王「私が書き溜めてきたものがある。書庫に案内しよう」

戦士「本気で信じるつもりかよ」

勇者「戦士……私は魔王を殺したい訳じゃない。それは目的の為の一つの手段に過ぎない」

勇者「しかもそれは問題の先送りなだけだ……本質的には意味が無い。これだけ長い時をかけて状況は不変なのだから」

勇者「いや、もしかしたら誰かしら事態好転に尽力したのかもしれない。だけどもそれでも足りなかった」

僧侶「必要だったのは、人間側の状態よりも魔王の協力である、と?」

勇者「だろうね……少なくとも今を見る限りは。何で今までの勇者は魔王が差し出した手を払いのけたのかなぁ」

戦士[お前ほど熱心に歴史を勉強しちゃあいねえんじゃねえの? 俺だって魔王は悪って教わってきたしよ」

勇者「……そこも引っかかるんだよね」

一週間後
魔法「伝えてきたわよ」

僧侶「お疲れ様です」

戦士「上手くいったのかよ?」

魔法「魔王に止めを刺す直前に逃げられた……城内にいるのか屋外に逃げたのか……」

魔法「魔力を元に城内にいる可能性が高い為捜索中。軍としてはほぼ瓦解。魔物の対処は各国に任せる」

魔法「一応表向き各国納得して軍隊を動かしているわ」

勇者「ありがとー」ペラ ペラ

魔王「む、これなんてどうだろうか?」

勇者「あーその周期調べたけど違ったよ。それっぽいけど3割近くが無関係な時に蘇ってるから」

魔法「……あの二人は何?」

戦士「魔王が蘇るタイミングの法則性探しだと」

僧侶「中々難航しているようでして……」

勇者「だーーー!」バッ

魔王「書物は大事に扱わんか!」

勇者「あーうー、ごめん。だけどさぁ……ここまで見つからないものだとはさぁ」ゴロン

勇者「ごめん、魔王……ちょっと自信無くなってきた」

魔王「阿呆な事を垂れるな」

魔王「私は……何百年挑み続けたと思っている」

勇者「……」

勇者「……うん、ごめん。もう一回洗いなおそうか」

戦士「宝物庫も手がかり無し」シュッ

戦士「後は地下か……面倒くせぇな」

魔法「あら、ここにいたの」

戦士「おう、お前は?」

魔法「この城に魔法的仕掛けが無いか調べているのよ。そっちはどう?」

戦士「なんも、これから地下室だ。何処の馬鹿だよ、城を迷路にしたのはよ……」

魔法「地下は地図ないんだったかしら。今は魔王の指示で魔物も出払っているし、地図を作っておいて」

魔法「あたしも必要になるし」

戦士「さくっと仕事を増やされた……」

一ヶ月後
魔王「……」ペラ

勇者「……」ペラ

僧侶「夕食出来ましたよー」

魔王「もう夕餉か……」

勇者「仕方ない……一旦切り上げよう」


戦士「で、どうなんだよ」

勇者「中々なぁ……」

魔王「法則性ではないが何かしらの条件はあるようだが……」

魔法「何か分かったの?」

勇者「蘇った月日が同じという日がある。もしかして限定された日時に何か条件を達成させるとかかもしれない」

半月後
勇者「とは言うものの……」

魔王「見当たらないものだな」

魔法「失礼するわよ……って久しぶりに書庫に来たけども凄い荒れようね。地べたに本を積まないっ」

勇者「乱雑に積んでいるんじゃない。そっちのは五回精査をかけたもの……こっちは四回、これが」

魔法「もういいもういい。戦士とあたしの調査結果、まとめたものよ」バサッ

勇者「何回確認した?」

魔法「戦士が3、あたしが2。ま、手が空くから継続して確認していくけどもね」

勇者「了解、ありがと」

魔法「そっちはどうなのよ?」

勇者「何が条件、というか何でこの日付なのかもねー……」

魔王「年代にしても統一性も規則性もない。やはり勇者の言う通り特定日時に条件によるものなのだろうか……」

魔法「ふーん……ああ、これがその日時ね」ガサッ

勇者「やっぱりもっと多くの専門家に見せた方が糸口が出てくるのかな……」

魔王「ふむ……そうか、そういうの事もありえるな」

魔法「あら?」

勇者「お、早速魔法の専門家が何か気付いたかな?」

魔法「この日時、魔神と関連していない?」

勇者「えっ」

魔王「なに?」

魔法「ほら例えばここ。火の月冥の日、魔神誕生際よ」

勇者「え、誕生際なんてあるの?」

魔法「魔神崇拝している教団は異端視されているから超小規模だけどもね」

魔法「こっちの水の月地の日は神話上、魔神が武神に土をつけた戦いの日よ」

魔王「……この者は学者ではないのだな?」

勇者「のはずだけど」

魔法「天の月冥の日は魔神が命の神によって300年封印された日よねぇ……内容に関係ないのかしら?」

勇者「……自信無くなってきたな」

魔法「あ、他の神との争いで魔神が瀕死になった日もある。ああ……怨みつらみかしら」

勇者「しかもまだ続く!」

魔王「恐らく核心的でもある……」

魔王「しかし魔神か……私は勇者と違い、神託などは一切ないのだが」

勇者「仮に魔神が関係しているとして、一体他に条件はなんだろうなぁ」

魔法「うーん……ちょっと王都に戻るわ」

勇者「へ? 何で?」

魔法「教団の資料集められるだけ集めてくるわ。普通に考えたら信仰だろうけども、そう活動に変化は無いはずだし」

魔法「とすると、儀式が正規の手順だったとか供物の内容かしら? うーんそこまで調べられるのかなぁ」

勇者「なっ……」

魔王「私達の約二ヶ月はなんだったのか……」

翌日
魔法「はいっ」ドザンッ

勇王「」

勇者「は、早くない? なにこの量」

魔法「え? ああ違う違う」

魔王「どういう事だ?」

魔法「ここの資料じゃもう煮詰まっているんでしょ?」

魔法「過去の魔石の使用量とか魔法の研究、大規模な魔法の使用等々」

魔法「魔力に関する所の調査資料よ。私は教団の資料集めで半月はまず帰れないから、全部精査かけてね」

勇王「」

勇者「ちょっこれどんだけあるの?!」

魔王「か、紙の束が1m近くあるぞ……どうやって持ってきたんだ」

魔法「荷物なんて魔法で何とでもなるわよ」

魔法「ただいま」

戦士「よう、おかえり」

僧侶「おかえりなさい」

魔法「二人は?」


勇王「」グッタリ

魔法「何よ、二ヶ月であの書庫の精査終わらせたんじゃないの?」

勇者「い、いやそうなんだけどさ……」

魔王「情報量の密度が違うというか……」

魔法「で、その精査結果は?」

勇者「うーん……魔王が蘇った年での精査だとあんまりね」

勇者「ただ確実な数字じゃないけど、魔王が死んでから一定量の魔力や魔石の消費が起因していそうかな」

魔法「?」

魔王「私が死んでいる期間に魔力や魔石の消費が多い程、蘇るまでの期間が短いようだ」

魔法「信憑性は?」

勇者「この情報も全てじゃないからなぁ……これを見る限りなら高いよ。ボーダーまでは分からないけどね」

魔法「結果はまとめてあるの?」

魔王「無論だ」

魔法「じゃあ次はこっち。あたしも手伝うわ」ドザンッ

勇者「わぁ……おかわりだ」

戦士「……」ボケー

僧侶「戦士さん? どうされました?」

戦士「もう城を五周して、俺じゃ何も見つけられねえなって呆けてんだ」

僧侶「あー……魔法使いさんも勇者さん達の方についちゃっていますしね」

僧侶「もしよろしければ、私のほうの家事を手伝っていただいてもいいでしょうか?」

戦士「おう、体動かしている方がいいわ」

戦士(そういや、魔法で施錠されている隠し部屋があったな……あいつら俺の報告書読んだかねぇ)

勇者「うーん……」ガサッ

魔法「教団そのものは関係ないのかしら……」

魔王「しかし彼らの儀式で消費される魔石や魔力、やはり先のデータと照らし合わせると」

勇者「そこだよね……」

魔王「仮にそうだとして、それが何故復活にかかるのかだな」

魔法「うーん、復活の為に魔力が大量に必要とかかしら」

勇者「え? それって魔法の使用量と変わらなくない?」

魔法「魔力を魔法に変換するのって100%じゃないのよ」

魔法「どうしても漏れた魔力が、大気や土壌に流れてしまうの」

魔法「大きい魔法であればあるほど比例して大きくなるわ」

魔法「魔石に到っては人工であれば作る時も使う時も漏れるわよ」

勇者「……」

魔王「……」

魔法「何よ?」

勇者「本当に私達なんなんだろ」

魔王「要らんな……」

魔法「馬鹿な事言っていないでちゃっちゃと動く」

魔法「変換し切れなかった魔力が復活の因子なら、それを回収する為の魔法陣が各地にあるはず」

魔法「それを収束する為に、城内にも魔法陣があるはずだわ」

魔法「魔王はここを離れられないのよね。貴方は場内を徹底的に調べて」

魔法「戦士達には城周辺を探させるわよ。勇者、貴女は各地に調査団を派遣させるよう嘘八百でいいから国王達の尻引っぱたいて」

魔法「あたしも各地の調査を始めるわ。だいぶ魔物の数も減ったって話だし、あたし一人でも負けはないでしょうね」

勇者「と言う訳で、私と魔法使いはしばらく外にいるから」

戦士「おーい、俺の報告書見なかったのかよ」

勇者「え?」

戦士「ほれ」カサッ

勇者「隠し部屋?! 魔王! 魔法使い呼んで!」

魔王「う、うむ!」ダッ

勇者「ああ、まだ転移魔法唱えていないといいんだけど!」

僧侶「進展があったのですか?」

勇者「そうそう。で、隠し部屋……しかも地下かぁ。これはもしかするともしかするかもしれないな」

半月後
魔王「こんな所……私も知らんぞ」

戦士「そらそうだ。魔法使いの調査結果から、ここらの壁の密度が低いってんだから半月掘っていたんだよ」

魔法使い「それでも十分天然の岩盤よ……よく掘ったわね」

戦士「力仕事なら任せろよ」

勇者「魔王……」

魔王「うむ……」

僧侶「い、行きますか」

勇者「皆、気を引き締めていこう。この先には魔王復活の黒幕がいるかもしれない……」

魔法「しかもそれが魔神だなんてね……」フフ

戦士「はっ、久々の強敵だ。腕がなるぜ」

ギィィ ィィィ
戦士「こ、こは……」

勇者「これほど広い空間があっただなんて……」

魔王「何て複雑な魔法陣なんだ……」

魔法「……流石に細かくは分からないわ。でも、一部を見る限り方角を示す部分があるわ。この先に中継の魔法陣があるのね」

僧侶「……!!」ゾクッ

魔法陣「」コォォォ

勇者「なんだ、この魔力……」

魔法「来るわよ!」

魔神の化身「オオオオォォォ!!!」ズァッ

僧侶「ひぁっ」ゾクゾクゾク

戦士「なんてプレッシャーだ……」ゾッ

勇者「魔法陣の門番って所かな」

魔王「これほどの力……やはり神の力か。であれば……私は神の復讐の、代行者でしか……」

勇者「魔王、自身の生い立ちを悔やむの後だ! あれを倒すぞ!」

魔法「一筋縄じゃいかないでしょうね……」

化身「アアアアアアア!」ブォン

戦士「おっと」ドゴォォン

僧侶「ひっ!」

勇者「随分と腕力もある敵だな……」

魔法「もうちょっと後方に控えるわ」

魔王「業火魔法!!」ゴァァッ

化身「ウウウゥゥ」ジリジリ

化身「ガァ!」ブォッ

化身「フゥゥゥ」シュゥゥゥ

魔王「炎耐性、か?」

魔法「雷撃魔法!」

化身「アァァ」ビシャァァ

僧侶「雷撃も!?」

化身「ガアアア!」ブン

勇者「くっ!」ガッ

勇者「がっ!」ッドォォン

戦士「勇者!」

魔王「衝撃魔法!!」

化身「カッ」ドォォン

化身「フゥゥゥ」ガラガラ

魔王「これほどまでにダメージが見られないとなると……まさか魔法耐性なのか?」

勇者「僧侶、魔法使いは支援魔法! 戦士、魔王!」

戦士「おう!」

魔王「うむ!」

戦士「鬼神斬り!!」バッ

化身「グゥ!」ガッ

戦士(止めらr)

化身「ガアアアア!」ドゴォン

戦士「っか、ハッ」

僧侶「回復魔法!」

戦士「す……ねぇ」シュウゥ

勇者「闇断ち!」ザンッ

化身「グゥ! ガァァ」ブォ

魔王「三太刀返し!」ザザザンッ

化身「グァアアアア!」ザシュゥッ

僧侶「うそ……効いていない」

勇者「所詮は人形……善悪は問えないか」

魔法「風矢魔法!!」ビビッ

化身「ヌゥゥ」ドドッ

魔王「傷口に当てたのか……」

化身「フゥゥゥ」シュゥシュゥ

勇者「けど、そう簡単にはいかないよね」

戦士「くっそ……魔法耐性に超再生能力か」

魔王「これほどの再生力とは……」

勇者「何とか削りきらないと……」ギリッ

戦士「……持久戦はできねえぞ!」

勇者「ああ、ジリ貧どころか一気に瓦解される」

勇者「だからこそこちらから畳み掛けるぞ!」ダッ

魔王「うむ」バッ

化身「カァァァ」コォ

魔法「魔力反応! 気をつけて!」

化身「コッ」ドッ

勇者「っ」ジュォッ

僧侶「治癒魔法!」

戦士「光線魔法か!?」

魔王「これ以上は撃たさんぞ!」ザンッ

化身「ガァ!」ブァッ

戦士「もらったぁっ!」ヒンッ

化身「グッ」バッ

勇者「はっ!」ヒュンッ

化身「ガアア!」ザシュッ

化身「フゥゥフゥ」ザザァ

……
勇者「たあああ!」ザンッ

化身「ギィィ!」ブシュァッ

魔王「はぁっはぁっ」

戦士「う、ぐ」ガクッ

勇者(息が上がる、体力が、もう)ハァハァ

化身「シシ」シュゥゥゥ

魔王「削り、きれんのか」

魔法「……」

魔法(おかしい……いくら魔神からの刺客だとしても異常だわ)

魔法(そもそも魔王が魔神によるもの、勇者が他の神々によるものであるならば)

魔法(これは神々の争いの代理戦闘、あるいは魔神か神々が先に動き、それに対抗して今の形になった?)

魔法(であれば、少なくとも神々そのものの降臨はできない。或いはリスクが大きすぎて本格的な破滅でもない限りしない)

魔法(そして今、魔王の秘密が暴かれかけているのに、魔神からの対策が化身か何か。自身以外の存在での排除……とすると降臨については前者?)

魔法(そんな刺客が送り込めるのであれば初めからそうすればいいはず。現に魔王と勇者、戦士がかかっても倒せる余地が無い)

魔法(なのにこの場になって出てきた事。ここから遠くにいけない……魔王と同じ? それとも魔法陣死守が絶対の目的だから?)

魔法(魔法陣を死守する理由? むしろこの規模を破壊するのには時間がかかる。その隙を突けばあたし達なんて)

魔法(いや、魔法陣に少しのダメージをつけられては困る? 魔法陣そのものがこいつにとって……)

魔法「衝撃魔法!」ゴォッ

化身「ガッ」ゴォン

魔法「俊敏強化魔法」ビュンッ

勇者「魔法使い?!」

魔法(零距離ならば……)

魔法「波紋魔法!」コォォン

化身「ォ、ァァ」ォォォォン

魔法「もう一発、衝撃魔法!」ドッ

化身「ガアアアア」ゴォォン

戦士「全部頭に叩き込んだからってダメージになるのか?」

魔王「! そうか……」

化身「アアァ、アアア」ヨロ

魔法「賭けだったけども……効いてくれたみたいね」

魔法「これで少しは時間が稼げるわね」

勇者「一体どうしたんだ?」

魔法「魔法陣よ! 恐らくあれはこの魔法陣から魔力を供給されているはず!」

魔法「これが破壊できたとしても、それだけで倒せる訳じゃない。あれがどのくらい魔力を保有しているのかも分からない」

戦士「つっても、破壊しないと倒せねえかもしれないってか」

魔法「ええ……」

勇者「物理的な破壊は?」

魔法「無理だと思う。あまりにも魔力を溜め込み続け過ぎ。魔法陣に沿って残留した魔力の線が出来ているはず」

勇者「戦士、あれを見張っていて。魔王、魔法使い、全力で魔法を叩き込むぞ」

魔王「心得た」

魔法「……」コク

戦士「てやあああぁぁ!」ズバン

化身「ガアアァァ!」ブンッ ブンッ

戦士「こいつ、よっし」ブォン

化身「ガフッ」ゴィン

僧侶「え、た、盾で?!」

戦士「削りきれないまでも頭に打撃を与えてりゃ、もっと時間を稼げんだろ」

勇者「雷撃魔法!」

魔王「業火魔法!」

魔法「爆撃魔法!」

魔法陣「」チリ

勇者「っはぁ……くそ、本当に破壊できるのか?」

魔法「何が何でも破壊するしかないのよ……魔力回復用アイテム、ありったけ使うわよ!」

魔王「急がねば……」


化身「グゥゥ」シュゥゥゥ

戦士「たあああ!」ザンッ

戦士「せぁっ!」ゴォン

化身「ギィィィ」シュゥゥ

戦士(やべぇ……傷の回復が早まってやがる。こいつ、こっちの考えに気付きやがったな)

僧侶「……」ジリッ

勇者「……僧侶、焦る気持ちは分かるけど落ち着いて」

勇者「あれが自由に動けるようになった時、君の力が必要なんだ」

僧侶「はい……」

魔王「雷撃魔法!!」カッ

魔法陣「」ビシッ

魔法「! きたっ!」

勇者「もう一息だ!」

魔王「うむ!」

魔法陣「」バキッビキッ

魔法陣「」コォォォ...

勇者「!? 何だ、この魔力!!」

魔法「この魔法陣が保有していた魔力が放たれたのよ」

僧侶「そ、それじゃあ」チラッ

化身「フーゥゥゥゥ」ガラガラッ

戦士「完治しやがっ……」ゴッ

戦士「」ドゴォォン

魔法「戦士!」

僧侶「か、回復魔法!」パァ

勇者「止めるぞ!」

魔王「ああ!」

化身「ガアアアア!!」ブンッ

勇者「ぐ!」ドォォ

魔王「腕を、薙いだだけで!」ゴォォォ

化身「フゥゥ」

魔王「! はあ!」ザンッ

化身「グウウ」シュゥゥ

勇者(溢れ出た魔力の影響か……未だにこれほどの再生能力だとは)

勇者(だが……それでも削りきる!)

……
勇者「はぁっはぁっ」

魔王「生きて、おるか?」

戦士「ああ、こっちは全員、な」

僧侶「もう、魔力が……」

魔法「でも……」

化身「」ゴボッブグブグ

魔王「信じがたいが肉体が融解して沸騰している……恐らく限界が来たのだろう」

勇者「私達の、勝ちだ」

勇者「これからどうする?」

魔王「まだ倉庫に魔力を回復する道具が残っていたはず」

魔王「完全にこの魔法陣を破壊するぞ」

魔法「そうね、もうこんな戦いしたくないわ」

戦士「俺は役立ちそうにねーな。休んでるわ」

僧侶「私もこの魔法陣に影響を与える力はありませんし、休んで魔力回復に努めますね」

勇者「ああ、そうしてくれ。魔王、その道具は量があるのなら私も手伝うぞ」

魔王「助かる、こちらだ」

魔法陣「」バキッビシッ

魔法陣「」ゴァァァァ

勇者「ぐう!」

僧侶「耐魔障壁!」

僧侶「!? なんて魔力の放出量……!」ギリリリ

魔王「私が前に出て魔力を吸収する!」バッ

戦士「いくらあんたでもこの魔力じゃあ!」

魔王「許容量を超えそうであれば魔法で押し返す」

勇者「頼んだ」

魔王「ああ……」

一時間後
魔法陣「」ジュゥゥゥ

戦士「げっほごほ!」

魔法「これじゃあ……まるで瘴気ね」

僧侶「けほっ……なんて来い魔力」

魔王「流石に……出来れば完全に破壊される所を見届けたいが、一旦撤収すべきではないか」チリチリ

勇者「ああ。荒れ狂う魔力は収まったが滞留量が凄まじい事になってきている」

勇者「僧侶、障壁を維持しつつここを離れるぞ」

魔王「ぜぇ……はぁ……」

勇者「はぁっはぁっ」

僧侶「!」コォォォ

魔法「今まで膨れ上がっていた魔力が止まった……」

戦士「どういう事だ?」

魔王「止まったか」

勇者「魔法陣が壊れたのか……供給できる魔力が尽きたか……」

勇者「しばらく休もう。そしてもう一度あそこに戻って確認するぞ」

魔法陣「」ジ ジジ

魔法「これだけボロボロなのに、まだ稼動しているのね……」

魔王「……ふぅ」

勇者「だがこれならもう……よし、ダメ押しの一撃だ」チリ

勇者「爆撃魔法!!」カッ

魔法陣「」ッドォォォン

魔法陣「」シュゥゥゥゥ フッ

僧侶「完全に……魔力が消えましたね」

魔王「これで……本当に終わったのか……」

勇者「ああ……」

戦士「あー……疲れた……」グッタリ

魔法「後は魔王よね……」

魔王「なに?」

僧侶「え? だって魔王さんは」

魔法「溢れ出る魔力が原因で魔物が生まれる。今後、普通に生活したいならその魔力をどうにかしないとならないのよ」

魔王「ああそういう事か」

勇者「魔法使い、どう思う?」

魔法「魔王ですら不可能と結論付けたものをねえ……」

勇者「例えば私達側にしかない術式とか何か無いだろうか?」

魔法「んー……あっ教会」

僧侶「え? 教会に特別なものなど……」

魔法「教会の特大結界があるじゃない」

僧侶「あれは別に魔力が漏れるどうのの問題では……」

勇者「どういう事だ?」

魔法「教会の巨大結界は絶対守護と呼ばれているわ。まあ、実際に絶対じゃあないのでしょうけども」

戦士「つまりどういう事だよ」

魔法「守る為にも外から屋内にいる者達の魔力が感知できないようになっているのよ」

僧侶「えっ!」

勇者「知らないのか……」

魔王「それはおかしくないか? 結界を貼る様な状況であれば、教会も調べられるのだろう」

魔王「魔力が感知されないというのは意味が無いのでは?」

魔法「正確には結界周辺そのものが知覚出来なくなる、が正解ね」

魔法「周囲の空間自体が捻じ曲がっていて、結界そのものを知覚出来ないとその壁にすら触れられないのよ」

勇者「……なんだそれは。とてつもなく大規模な結界じゃないか?」

魔法「ええ、そうよ。地下も広大な空間があるものの、地上からだいぶ深いらしいわ」

魔法「よほど魔力が有り余る人でもない限り、大地が含む魔力に遮断されて地下の人間は探知できないでしょうね」

勇者「しかしそれは解決策ではないんじゃ……」

魔法「勿論。ただその結界の術式を応用すればあるいは、ね」

戦士「んじゃ準備出来次第、魔王を教会にぶち込めばしばらくは安全なのか」

魔法「ええ、かなり窮屈な生活だとは思うけれども」チラ

魔王「なに、文句が言える立場でもないし、有り難い申し出だ」

魔法「なら良し。後は各国協力して術式の研究と、他の方法を探すか発明するだけかしらねー」

魔法「魔王の今までの研究の成果によっては、こっち側で新たな発見が見出せるかもしれないしね」

戦士「今の状態でも多少は魔力を抑えられんだろ?」

魔王「うむ」

戦士「じゃあ今日はもう休もうぜ……俺ぁゆっくり寝てえよ」

勇者「それもそうだな……根を詰めすぎてはいたからな」

僧侶「それでは私はご飯の準備をしておきますね」

魔法「あたしも手伝うわ」

魔王「あ……問題は私がここから離れられるのか」

勇者「魔王、ちょっと付き合え」

魔王「む?」

魔王「何処へ行くのだ?」

勇者「いや、ただの散歩だ」

勇者「魔王。ここを離れられないと言ったな。どの辺りまで行けたんだ?」

魔王「門から出られなかった。城壁内でしか行動できないようだよ……」

勇者「じゃあ……その外に行ってみようか」


城門
勇者「……」カツカツカツ

勇者「さあ、こちらへ」

魔王「……」ゴクリ

魔王「……」ザッ

勇者「……」

魔王「あ……ああ……超えら……」

勇者「魔王」ギュ

勇者「長かったんだよな……よく、耐えたな」

魔王「すまない……すまない」ギュウ

魔法「おかえり。どうだったの?」

勇者「何だ、気付いていたのか。魔王は外に出れたよ。やはりあの魔法陣が彼を束縛していたのだろう」

戦士「そりゃ良かったな」

魔王「う、うむ……」

僧侶「どうかされました?」

魔王「いや……改めて思うと、勇者達は私の命の……いやそんなものではすまない程の恩人であるな、と」

戦士「そう言われても俺らは、あんたの今までの苦労なんて分かんねーし」

魔法「まあ正直、成すべき魔王討伐を別の形で解決しようと尽力しているだけだものね」

魔王「それでもだ。それでも感謝してもしきれんよ……」

勇者「とは言えまだ全てが終わった訳ではない」

勇者「感謝の言葉や礼は、お前のその魔物を生み出す力を止めた後にしてもらうとするよ」

魔王「何から何まで……すまんな」

魔法「さ、食事にしましょ」

勇者「魔法使い……」

魔法「一先ず、今日はもう休む事。違う?」

戦士「だなぁ……てか、魔法陣破壊までしたお前らのが疲れてんだろ」

勇者「う……まあ」

戦士「はあ食った食った……」

魔王「何時以来だろうか……ここまで落ち着いて食事をするなど」

魔法「だーかーらっ。まだ終わっていないんだから気を緩めすぎない!」

魔王「う、うむ……」

僧侶「あ、私お風呂に……」

勇者「もう面倒だし皆一緒に入ろう……そして寝よう……もう……」ブツブツ

魔法「あー一気に疲労がきてる感じね」

戦士「……」イソイソ

僧侶「戦士さんの入るお風呂はあちらでしょう?」ニコ

魔王「では我々も湯につかるとするか」グイ

戦士「ですよね」

翌朝
勇者「ふあ……」

勇者「……戦いは終わったんだ、よな」

勇者「よし、もう一踏ん張りだ!」


勇者「おはよう」

戦士「おう」

魔法「おはよ」

僧侶「おはようございます」

勇者「む? 魔王は?」

戦士「まだ寝てんじゃねーの?」

勇者「うーん……」

魔法「少し様子を見てきたほうがいいかもね」

僧侶「今日くらいはゆっくり寝ててもいいのでは?」

魔法「何であれ彼もまた魔法陣によって生み出されたのよ。どんな影響が出ているか分からないわ」

勇者「それもそうだな……」

僧侶「私は仕度をしておきますね。戦士さん、配膳を」

戦士「あいよ」

勇者「魔王、起きているか?」コンコン

「……」

魔法「……無礼無作法だけども入るしかないわね」

勇者「ああ……」ガチャ キィィ


魔王「……」ジュウゥゥ

勇者「は……」

魔法「な……」

魔王「……勇者、か。すまない、な……」ボコ コポ

魔法(体が魔神の化身のように……やはり……)

勇者「なんで、だ……こんな、こんな事って」

勇者「あんまりじゃないか! やっと……お前は解放されるのに!!」

魔王「いや……解放されたよ……」ボコボコジュゥゥ

魔王「お前達が居てくれたから……今までの苦悶からやっと……悔いも無い」ブグゴポ

勇者「馬鹿な……生きたかったんじゃないのか! こんな苦しみから解き放たれて……」

魔王「ああ……だが……これで、本当に死ねるのであれば……」ボコブクブク

勇者「ま、待て! 逝くな! 魔法使い!」

魔法「回復薬はもう無いわ……」

勇者「そんな……こんな……」

魔王「」ブクボコ ゴポ

勇者「嘘だ……嘘だ……こんな報われない……」

魔法「正直に話すわ……あの化身が死んだ時に、魔王がもう長くない可能性が高いと考えていたわ」

魔法「勿論、あまりにも机上の空論だったから口にはしなかったけども……」

勇者「魔王も……いや、魔王は神託等を受けていない……気付いた時から魔王だったからか」

魔法「ええ……」

魔法「……貴女にとって、何の慰めにもならないかもしれないけども」

魔法「彼は魔王という人形でありながらも、自身の使命に疑問を抱き、抗い……」

魔法「完全ではないとは言え、怨嗟を断ちきり……人として死ねた」

魔法「彼のあの言葉は……気遣いの欠片も抜いたとしても、彼の本当の喜びの言葉だったと思うわ」

魔法「彼にとってあたし達は彼の魂の救済者に足り得る事が出来た……嘆く事無く誇るべき事よ」

勇者「……」

……
戦士「そうか……」

僧侶「そんな……魔王さん……」グズ

戦士「その解けた体ってのはまだ残ってんのか?」

魔法「ええ……けれどもそれが?」

戦士「墓、作ってやろうぜ」

勇者「! ああ、そうだな……」

勇者「……うんと立派な墓を作ってやろう」

魔法「ええ……そうね」

僧侶「魔王さんに相応しい立派なものにしましょうね……」

……数年後
戦士「お……流石に早いな」

勇者「ふ、当然だ」

戦士「また、一人で魔王の墓磨いていたのかよ」

勇者「まあな」

戦士「全くね、いくら惚れこんだからって献身的過ぎんだろ」

勇者「!! な、なななな!!」

戦士「気付いてねえと思ってんのかよ」

戦士「お前が悉く交際断るから、お前へ紹介頼んでくる奴らから俺が裏で糸引いてんだろって疑われてんだぞ」

勇者「それはすまなかったな……だがお前とか。無いな」

戦士「ねえよ。婚約者いるし」

勇者「へえ! 初耳だな……随分と奇特な女性じゃないか。愛想を尽かれない様にしないとな」

戦士「うっせ」

魔法「あら、もう来ていたの」

僧侶「お久しぶりですー」

魔法「一年ぶりね」

勇者「ああ、そうだな」

魔法「また一年間、亡き者に思いを寄せつつ、振り向き様に男を切り捨ててたそうね」

勇者「ぶふぅっ!」

戦士「な?」

僧侶「え?! 本当だったんですか?!

勇者「き、きき君らは打ち合わせでもしているのか!!」

魔法「あら、戦士も言ったの。いい加減、親友として見ていてもツッコミいれたくなるのよ」

僧侶「わ、私は気付きませんでした」

勇者「あー……ゴホン!」

勇者「近状報告!」

戦士「あれから一年、のみで200人斬りだ」

魔法「まあ……罪作りな女」

勇者「なんでカウントしているんだ!!」

戦士「それだけお前が注目の的なんだよ。嫌でも耳に入るっての」

僧侶「そういう話は聞いていましたが、まさか思い人が魔王さんだったなんて」

勇者「う、ううぅぅぅ」カァァ

戦士「ほい、じゃあ俺から。神器を三つ手に入れた。剣、盾、宝珠」

戦士「詳しい内容はこの紙見てくれ」

魔法「じゃあ次はあたしね。恐らくだけどおおよそのポイントが見つけられたわ」

魔法「これ以上は絞れないから実際に行ってみてね」ガササ

勇者「八箇所……この内のどれかか」

魔法「ええ」

勇者「さて……次は私から」

戦士「魔王の事が忘れらぶぅっ!」ガッ

勇者「コホン、私の方でも神器が見つかった。兜と杖だ」

勇者「戦士同様、詳細はこちらを見てくれ」

僧侶「では最後に私からっ」ムン

戦士「お、自信有りげだな」

僧侶「ええ……」

僧侶「天界に渡る為の儀式の詳細とその道具が揃いましたっ」

勇者「これで……」コク

魔法「ええ……」コク

戦士「おう」

僧侶「はい」コク

勇者「とてつもなく長いであろう最後の戦いだ」

勇者「これはもうしょうもない私怨だ。それでも君達はついて来てくれると言った」

勇者「だから迷い無く言わせて貰うぞ」

勇者「代理戦争だがなんだか知らないが、再三に渡り一方的に押し付けた戦争の代償、贖ってもらうぞ!」

勇者「どちらもだ! 例え魔神に非があろうとも、神託だけ授けて放り投げた神々も許すまい!!」

勇者「両成敗だ……今度はこちらが吹っかけるぞ!!」

魔法「ええ!」
戦士「おう!」
僧侶「はい!」


   国王「魔王とは何時の世も蘇りつづける者」   終

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