海未「お昼休みです」 (48)
海未ちゃんがお昼休みに部室で時間を潰すだけのお話です。
たぶんすぐ終わります。
初投稿なので不手際あったらぺこりますごめんなさい。
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海未「すみません、今日は二人で食べていてください」
四限の現代文が終わり、私は席を立つなりこう告げました。
相手は幼馴染のことりです。え、もうひとりは?
穂乃果「ん。んん~……あ、おはよう海未ちゃん」
見ての通りです。
私はお昼はいつも穂乃果とことりと一緒にお弁当を食べますが、
今日はお弁当を家に忘れてきてしまいました。
ことり「海未ちゃん、お昼食べないの?」
忘れてしまったのですから、仕方ありません。
素直にお弁当を忘れたと言ってもいいのですが、その場合二人の幼馴染は自分の分を私にくれるでしょう。
それが悪いというのもありますが、そうでなくても人が食べているのを見ているだけ、というのは残酷です。
あとは、お腹の音が鳴ってしまう未来が想像に難くありません。それは恥ずかしいので避けたいですね。
ですが正直、ここまでいくつか理由を挙げてみましたがどれも決め手に欠ける印象です。
それならなぜ、私は無理に二人の元から離れようとしているのでしょうか。
お弁当を忘れてしまった。だからお昼を抜くことにした……。
これはどう解釈しても大事ではないのですが、些細でも非日常とは言えないでしょうか。
毎日同じことを繰り返す生活の中で、ほんの少しだけいつもと違うことがある。
そうしたら、連鎖反応のように他のことでもいつもとは違う行動をしてみたくなる。
そんな経験、ありませんか?
穂乃果「もしかしてお弁当忘れてきちゃったとか~?」
穂乃果が冗談っぽく言います。
にしし。という文字が穂乃果の顔の横に浮かんで見えるようです。
もっとも、事実ではあるのですが。
海未「いえ、少し用事があるので。間に合うようでしたらちゃんと摂りますよ」
無為に心配をかけさせないために、適当なことを言ってしまいます。
詮索をかけられる前に、私は教室を後にしました。
とりあえず、部室に行くことにしましょう。
いつもなら3人でお弁当を食べているはずの時間に、一人部室で時間を潰す。
目的も、メリットもほとんどありません。それに反して、横溢する行動力。
不思議な気分です。
さて、目的も持たずに部室の前まで到着しました。
海未「失礼しま……」
この時間なら誰もいないはずなので、ノックもせずに戸をスライドさせます。
そのくせに、つい挨拶が出かけてしまいました。
慣れが、咄嗟に自分の意思とは無関係の行動を働くことはよくありますね。
花陽「ひゃっ!」
そして、どうやら失敗だったようです。先客がいました。
花陽も私と同じように、この時間に誰かが部室にくるとは思っていなかったのでしょう。
無警戒の花陽は、素っ頓狂で可愛らしい驚きの声を上げます。
海未「そんなに驚かないでください。ところで、花陽はどうしてここに?」
花陽「え、えぇと……。なんとなく、かな?」
これではまるで、本心は別にあると自白しているようなものです。
海未「そうですか、私もです。ふふ、奇遇ですね」
花陽「そ、そっか。そうだ、海未ちゃん。ご飯は?」
どう答えたらいいでしょう。言いづらいですね、なんとなくですが。
今の私と花陽はほぼ同じ条件です。お互いここにいる理由を隠している。
海未「今日は抜きます。そういう花陽はご飯食べないのですか?」
花陽は何か作業や探し物をしている様子ではありません。
まるで、時間を潰しているだけのように見えます。私と同じように。
……私と同じように?
花陽「今日は、抜きです。……あはは」
恥ずかしそうに私と同じことを言う花陽。そう、私と同じ。
確信はありませんが、聞いてみます。
もとより私は今、暇を持て余しています。
もし花陽が私と同じなら、話し相手になってくれないでしょうか。
海未「もしかして、お弁当を忘れたのですか?」
花陽「ええ、っと……」
ぐぅ。
花陽に代わって、お腹の音が返事をしてくれました。
肯定と捉えてよさそうですね。しかし、これでは花陽がかわいそうです。
恥ずかしがり屋ですからね。
花陽(どうしよう、海未ちゃんに、恥ずかしいところ見られちゃった……うう)
分かりやすいほどに落ち込んでいます。
私と花陽はふたりきりになる機会がほとんどないので、今まで強く意識したことはなかったのですが。
花陽の備える可愛さは、なんというか保護欲をそそられます。他のメンバーにはない花陽の魅力ですね。
一つだけ申し添えさせて頂けるなら、花陽はあともう少しだけ自信を持てば更に魅力的になれると思います。
翻って、少なくとも私から見て足りないのはそれくらいしかないということでもありますが。
と、呑気に考察している場合ではありません。
花陽をこの状態のまま放置するのはかわいそうですね。
幸い、こちらには特効薬があります。
今となっては、隠す必要もありません。
海未「聞いてください、花陽。実は私もお弁当を忘れてきてしまったのです」
うっかりお弁当を忘れてきてしまったこと。
手持ち無沙汰で、なんとなく二人を置き去りにし、時間を潰すために部室にきたこと。
花陽に会ったときはお弁当を忘れてしまったと告白するのが恥ずかしくて、
今まで事実を黙っていたこと。
全て話しました。これで、本当に全て同じ条件です。
花陽も少し気が楽になるでしょう。いえ、私も花陽のおかげで気が楽になりました。
花陽「そうだったんだ……。一緒だね、えへへ」
ようやく、笑ってくれました。ふんわりと花が揺らぎ馥郁するように、安らぎを与える笑顔です。
ですがそれもほんの一瞬。花陽の表情が固くなります。何か困っているのでしょうか。
花陽「あ、あの。海未ちゃん」
海未「はい、なんでしょう?」
花陽「えっと、その。今更戻るのも変じゃない?だから、時間まで、その……」
もじもじしながら、何かの提案をしようとしている花陽。
ここまで同じ境遇ですから、きっと今からしたいことも私と同じでしょう。
海未「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ」
海未「せっかくの機会です。たまには二人きりでお喋りでもしましょうか」
結果としては助け舟を出した形になるのでしょうが、これは私の本意でもあります。
それにしても、今日の花陽は表情豊かで面白いです。
今度は明るく、嬉しさと恥ずかしさが混ざった顔になっています。
花陽(偶然二人きりになれた……。でも、何を話したらいいのかなぁ)
海未「……花陽?」
花陽「えっ!あっ、ごめんなさい。ぼーっとしてたかな」
海未「ええ。ふふ、空腹のせいかもしれませんね」
やはり、今日の花陽はいつもとは少し様子が違うように思います。
具体的に言うと、緊張しているようです。
もしかして、私と二人きりというのが居心地悪いのでしょうか。
そうだとしたら、かなりショックですね。
対して私は、この時間を不思議と心地良く感じています。
これも、小さな小さな非日常のせいでしょうか?
お弁当を忘れた。その小さな失敗は、私の定常に穏やかな綻びをもたらしました。
たったそれだけのことで、私は心地良さを感じています。
もっと大きな、取り返しのつかない綻びに気がつくこともなく。
海未「一つ提案があるのですが」
花陽「うん、どうしたの?」
海未「午後の授業が終わったら、二人で練習の前にコンビニへ行きませんか?」
食べてすぐに運動するのは良くないのですが、空腹時に運動するのも危険です。
果物やゼリー状の食品なら負担も少ないでしょう。
ところでコンビニに果物って売ってましたっけ。私はあまり行かないので記憶に自信がありません。
海未「午後の授業は我慢するしかありません。私たちの責任ですからね」
海未「しかし、空腹の状態で運動するのは危険なんです」
私は特に的を外したことは言っていないのですが、花陽は怪訝そうに首を傾げています。
こういう可愛らしい仕草は、私には似合わないでしょうね。
花陽「それなら、今から購買に行ってパンを買っておいてもいいんじゃない?」
海未「ダメです」
私は泰然と否定します。
理由はもちろん。
海未「今日のお昼休みは、花陽とお喋りするために使うと決めたからです」
花陽「そ、そっか……」
花陽(私と二人きりで、つまらなくないのかな?でも、良かった)
花陽「そうだね、私も」
海未「ええ、いつもと違った状況を楽しむくらいの意気です」
根拠は判然としないのですが、私と花陽は気が合うと思います。
接点が少ないように見えますが、結構共通点が多いんですよ。
元気な幼馴染に振り回されているところとか、ちょっと恥ずかしがり屋なところとか。
だから、私は花陽と居て、心地良いと感じているのかもしれません。
海未「何だか、花陽の事を想いながら詩でも書けそうな気分ですよ」
花陽「えぇっ、私!?そんな……」
どうにも、花陽は自身を過小評価するきらいがありますね。
それも個性ですから、改めろなどと傲慢な事を言うつもりはありません。
私も結構、似たようなところはありますし。
花陽「私は、海未ちゃんと違って地味だし、どんくさいし、それに……」
海未「花陽」
しかし、言っておくだけなら問題ないですよね?
海未「もし誰かに花陽の好きなものを侮辱されたら、どう思いますか?」
海未「例えば、花陽の憧れであるアイドルです」
花陽「うーん……。ばかにされたら、やっぱり悲しいよ」
クシュン! ドシタン? ナンデモナイチカ!
海未「私はμ’sが大好きです」
元から私はにこや真姫と違って素直ですが、今日は一段と素直になれるみたいです。
普段はちょっと照れくさくて言えないようなことも今なら言えます。
もしかして、花陽と二人きりだから素直になれるのでしょうか。
ふふ、やっぱり今日の、いえ、今の私は面白いかもしれません。
海未「ですから、μ’sのことを侮辱されたら私は悲しいのですよ?」
花陽「あ……」
花陽(うん。やっぱり、かなわないや……)
花陽「海未ちゃん、ありがとう」
海未「ふふふ、素直でよろしいです」
思わず頭を撫でそうになってしまいました。
鶯の声のような澄んだ音吐に癒されます。
海未「今日はお弁当を忘れて正解でした」
花陽「私も、お腹はぺこぺこだけど。お腹いっぱいかな?なんて、あはは」
花陽(はぁ、海未ちゃんの言葉一つ一つが、ずるいよ。ほんとに……)
全く、嬉しいことを言ってくれるものですね。
幼くも艶冶に、少し誤魔化してしまうところが花陽らしいです。
あまり多くのことを話したつもりはないのですが、時間は大分過ぎていました。
つまり、暇になってしまった昼休みの時間を潰す、という当初の目的は達成間近です。
海未「名残惜しいですが、そろそろ教室に戻りましょうか」
花陽「うん。あ、でも」
海未「ええ、6時間目が終わったら迎えに行きます。皆には少し遅れると連絡しておきますね」
花陽「うん!」
花陽(……緊張しちゃうなあ)
お弁当を忘れたおかげで、とても有意義な時間を過ごすことができました。
花陽の新しい一面を見ることができた訳ではありません。
誰にも知られたくない秘密を二人だけで共有した訳でもありません。
今日という日のこの時間を思い返すことは無いかもしれません。
ただ、再確認しただけです。私の「大切な仲間」のことを。
でもそうですね、一つだけ。
今、無性にお米が食べたい気分です。
おわり。
誰もいないかな?いたら続き書きます
ありがとうございます。
続き書きますね。
~放課後~
ずっと前から悩んでいた。
花陽(おなかすいた……)
かよちん、凛は気付いてるよ。
海未「お待たせしました、それでは行きましょうか」
凛とかよちんはずっと仲良しだったけど、今回の悩みは凛には相談してくれないんだね。
花陽「うん!おなかぺこぺこで全然集中できなかったよ~」
練習の時も、海未ちゃんの方をちらちら見てるよね。
海未「今日ばかりは仕方ありませんよ」
力になれるとはおもえないけど、凛にも相談して欲しかったな。
花陽「穂乃果ちゃんやことりちゃんには怪しまれなかった?」
ほんとに、今日も海未ちゃんはかっこいいね。
海未「ええ、特に何も。もっとも、事情を知られても問題ありませんが」
凛にはないものをたくさんもってる。
花陽「えへへ、それじゃあちょっと用事済ませてくるね。凛ちゃん、真姫ちゃん」
凛とかよちんは真逆みたいな性格だけど。
真姫「珍しい組み合わせね」
好きになっちゃう人は同じなんだね。
凛「かよちん!」
海未ちゃん、凛にだけちょっと厳しい様な気もするけど。
花陽「凛ちゃん?」
特別扱いされてるみたいで嬉しかったり。
海未「凛、どうしたのですか?」
大丈夫だよ。
真姫「凛……?」
凛は、かよちんを応援するよ。
凛「行ってらっしゃいにゃー!」
だって。
真姫「はぁ、なんなのよもう」
だって凛は、海未ちゃんともっと仲良くなりたいけど。
海未「凛は今日も元気ですね」
かよちんを悲しませたくないんだもん。
花陽「さっきの授業寝てたからね……あはは」
凛はほんとに……。
凛「じゃあ待ってるよ!」
ほんとに、嘘つきだ。
真姫「海未と花陽、一体何の用なのかしらね」
あ、さっきの昼休み。海未ちゃんに会いに行ってたのかな。
真姫「凛?」
やるじゃん、かよちん。
凛「……」
がんばれ。
真姫「ちょっと!凛!?」
凛は海未ちゃんのことが好きだけど、かよちんのことも大好きだから。
凛「真姫ちゃん?」
ほら、凛はこんなに多情だよ。海未ちゃんには相応しくない。
真姫「どうしたのよぼーっとして、ほら行くわよ」
だから凛は諦めて、かよちんを応援する。
凛「ごめん真姫ちゃん、先行ってて」
すらすらと出てくる、建前。
真姫「まぁ、海未と花陽が戻ってくるまでに来ればいいわ」
本当は、自分の為だ。
凛「ごめんね、すぐ行くから」
海未ちゃんに想いを告げたら、絶対に気持ち悪がられる。
凛「……」
だって女の子だよ。気持ち悪いに決まってる。
凛「……」
海未ちゃんに嫌われてしまう。
凛「……」
凛は自分が傷付きたくないだけなんだ。
でも、それだけだったらどんなにいいことか。
海未ちゃんを好きになってしまった凛は「女の子同士の恋愛は気持ち悪い」と思っている。
その価値観のせいで重苦を味わい、毎日心が激痛に苛まされている。
自分の価値観が矛盾という名の剣山に横たわり、とうに全ての感覚が麻痺している。
まず凛は、海未ちゃんへの告白は100%例外無く失敗すると決め付けている。
理由は簡単、女の子だから。
じゃあ、かよちんの場合は?
どの程度自覚しているかは分からないけど、かよちんは海未ちゃんに好意を寄せている。
そこでかよちんを応援するということは、行き着く先、かよちんが思いを告げる行為は避けられない。
でも凛の価値観に当て嵌めると、かよちんが海未ちゃんに告白しても、絶対に実らない。
理由は簡単、女の子だから。気持ち悪がられるに決まってる。
だから凛は、かよちんが絶望に向かって一歩一歩、健気に進んでいく様を見ているだけ。
なんて非情。かよちんのことを想うなら、海未ちゃんを諦めさせるべきなんだ。
凛が凛にそうしたように、かよちんも傷付かない道に連れて行くべきなんだ。
でもそれをしない。できない。凛はかよちんの友達でいていいの?
凛は自分が分からなくなる。吐き出す一歩手前の裂帛が喉に詰まる。
かよちんを応援する姿勢を正当化するなら、同性愛を許容しないといけない。
でもそうすると、凛が海未ちゃんを諦める理由が無くなってしまう。
それでも結局、凛は傷付くことを恐れている。
八方塞がりだ。どう足掻いても、心を締め付ける鎖を緩めることができない。
ならば、いっそひと思いにさぁ。
凛「凛は、ばかだなぁ」
誰もいなくなった教室で、事実を確認する。
そう、これはただ事実を確認しただけ。
だから込める感情など元より持っていない。そう自分に言い聞かせる。
凛「……あれ?」
ふと、霧に覆われたかのように視界がぼやける。
歪む顔に、涙が浮かんでいる。
浮かぶ涙で泳ぐものはなんだろう。
淡水に海水魚が泳ぐことのないように、涙に希望が泳ぐことはない。
凛の歪んだ顔には涙が浮かび、浮かぶ涙には絶望が艶かしく泳いでいる。
凛「……」
もう、何も感じない。
闃然とした深閑に溶け込み、音もなく涙を流し続けた。
もう、何も感じない。
溜っていた感情を涙として吐き出し、心を廃棄する作業は済ませた。
もう、何も感じない。
凛はいつも通りに振舞おう。
凛「よし、もう、何も感じない」
凛はいつも通り。
いつも通りに元気にあいさつをしよう。
よーし、今日も練習……、あれ?
凛はいつも何て言ってたんだっけ。
凛「どうして?凛は、もう何も……」
もう何も感じない。わけがないよね。本当に凛はばかだ。
とうに枯れたと思っていた涙が再び堪えきれなくなり、溢れそうになる。
凛は分かった、涙は心から流れてくるものなんだって。
心はものじゃないから、質量がない。だから涙も枯れることはない。
心はものじゃないから、消すことはできない。
だから、心に感じる痛みは癒すことができない。
いつまでも無形の鎖に苦しめられるんだ。
ようやく理解した凛は、無価値な涙を零した。
このままだと部室にやってこない凛を心配して、誰かが来てしまう。
でも、今日は練習なんかできる気分じゃないよ。
……帰ろう。
荷物を抱えて、教室を出る。
こんな辛気臭い人がいなくなって、無人になった教室もきっと喜んでいる。
凛の中で渦を巻きながら育った感情が今日、表皮を食い破り顔を出した。
この感情を飼い慣らすためには時間が必要だと思う。
だから今は誰にも会いたくない。
もし誰かに会ってしまったら、きっと凛は壊れてしまう。
凛は急ぎ足で昇降口に向かう。
靴を履き替えて、安らかな牢獄から抜け出す。
あと少しだ。校門を出て、左に曲がろうとした時。
花陽「……凛ちゃん?」
どうして、こうも救いがないのか。
もちろん海未ちゃんもいる。一体いつのまに進展したんだろう。
海未ちゃんは小さなビニール袋を持っている。二人でコンビニでも行ってきたのかな。
海未「練習はどうしたのですか?」
本当のことなんて言えるわけないよね。
あなたたち二人が好きだから泣いて、泣いて泣いて泣いて泣いて。
自分が分からなくなって泣いて何も分からなくなって泣いて。
だから帰ります。なんて。凛だって意味わかんないよ。
誰か教えてよ。
凛「具合悪くなっちゃったから……帰るね。ごめんなさい」
あまり凛らしくもない表情と言葉と仕草で、練習に出ない理由を言う。
今の凛は、凛とその周囲を睥睨しながら思考が働いている。
なんだか自分のしてることが他人事のように見えちゃってるのかな。
こういうの、ナントカの崩壊って言うんだったような気がする。凛には難しいから分かんないけど。
要するに凛はもう死んじゃってるんだ。死んじゃってるのと変わらないよ。
海未「そうですか。他の皆には連絡しましたか?」
凛「ううん、後でしようかなと思って」
花陽「私たちが言っとくから、お大事にね?」
凛「うん、ありがと」
会話はこれで終わり。
家まで送っていくよ、なんて言われるの期待してたのかな?
もっと心配されるなんて思ってたのかな?
今の海未ちゃんとかよちんにはお互いがいるから、それでいいのかな。
凛は悲しくなって寂しくなって、今日何度目か分からない涙を流すけれど。
その時にはもう、二人と凛は反対の方向を向いていたから。
だからばれないの。
良かった。ばれたら、気まずくなっちゃうから。二人の邪魔しちゃ悪いよね。
ふと、のんびりとした閑雲が紫色に見えた。
海未「凛!」
花陽「凛ちゃん!」
え?
海未「そんなに涙を流して……。一体何を隠しているのですか、凛」
え……?これは、なに?
花陽「お願い、一人で悲しまないで。皆だって、私だっているんだから……」
どうして、かよちんが泣いてるの?
海未「何があったか、教えてくれませんか?」
花陽「凛ちゃん……」
何があったか、だって?
何もなかったよ。
何もしないことを選んだだけ。
だからさ。
凛「二人には、絶対分からないよ。……一人にさせてもらってもいいかな」
嫌われたくなかった。傷付きたくなかった。
そう言って停滞させた心は、自壊を始める。
無数の銃口に包囲されて、それに守られているんだとずっと錯覚していた。
しかし、やがてマズルフラッシュと同時に見える現実。
グリップに染みる液体の判別がつかない。
銃口を向け、守る者。向けられて、守られる者。余さず凛だった。
そして凛はトリガーを引いてしまった。
海未ちゃんとかよちんは動けない。凛を引き止める言葉を持たない。
まず原因を詳らかにしないといけないのに、それを拒絶されたんだもんね。
これじゃあ仕方ないよ。海未ちゃんとかよちんは何も悪くない。
あのさ、かよちんと凛はお互い依存している部分があったから、それを解消しようよ。
かよちんから凛を切り離して、浮いた分を海未ちゃんに充てようよ。
凛の大好きな二人がもっと仲良くなってほしい。それが凛にとって一番の幸せだよ。
呆然と立ち尽くす二人と対照的に、歩を止めない凛。
彼我の距離は、言葉を交わせない程まで離れてしまっている。
凛「ーーーーよ」
あれ?
凛「……そっかあ」
さっきまで、まるで自分の死体を見下ろしていた感覚だった
縋ってもいない糸を垂らす、バカげた空がとても近くにあった。
凛は見ないフリを決め込んで、安易な自己犠牲を果たす。
誠実で滑稽、どこまでも笑える。
でも、ようやく辿り着くことができた。
自壊の先に、ようやく。
凛「大好きだよ……えへへ」
結局、自分が何をしたかったのかも、どうすべきだったのかも分からない。
でも。
もう、遅い。
これでおわりです。
一応9000字弱あったのですがスレにすると50レスもいかないものですね。
うみぱなが見たかった。
どうしてこうなった。
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