弟「……」チャカチャカ
兄「うぉぉぉぉおおおお! 卵が混ぜられてるぅうぅうぅうぅうぅうぅうぅう!!」
幼「まぜられられぇえぇえぇえぇーーーーー!!」
弟「……」イラッ
兄「白身も君も関係ねぇぇええええ!! ちゃかちゃかちゃかちゃか!!」
幼「ちゃかちゃかちゃか!」
ドッタンバッタン
弟「うるせェ──!! 黙って待ってろ餓鬼ども!!」
兄「はい」スッ
幼「あい」スッ
弟「ぐっ…何なんだよ、本当に───」
弟(──どうして、こうなったんだ。どうしてオレは飯なんて作ってるンだよ…っ)
数週間前
『突然だが、実は父さん再婚したぞ』
弟「は?」
『これまた運命的な出会いをしてしまってなァ。いやはや、年を食っても男は皆ロマンチストだな、ガハハ』
弟「ちょ、ちょっと待て。そんな話をアホ、バカ、こんな電話で済ませよーとかしてるワケ…?」
『うん。済ませようと思ってるよ?』
弟「……………」
『うんうん。絶句してるな、お父さんもじつのところ結構結婚早く決まってビビってる』
弟「…んで、なんだよ数年ぶりの電話は親父の惚気話を聞かされるためか?」
『そーもしたーい所だが、要件は別だ。お前今学寮に住んでるだろうけど、そこ出てきなさい』
『お前の為に新しいマンションを買ったから。一括払いで最上階、滅茶苦茶豪華。お父さんも住みたい』
弟「ちょ、ちょっと待て。本気で待ってくれ、何いってんの? マンション買った? 最上階──お、オレの為…っ?」
『うん。お父さんこれでも金持ちだし社長だし、息子のために金の糸目は付けないぞ。とーいうことで、手続き済ませてるから───』
『──今日からお前専用の家だ。お父さんからのプレゼントだと思ってくれ』
~~~~
バタン キィイ ブロロロロ…
弟「うぉぉ…ここが今日からオレの家…」
弟(デケェ! 最上階って、コレ何階まであるんだよ…スゲェ…)ポケー
弟「……。と、とりあえず入るか」ウィーン
弟(番号を押すのか。えっと、部屋の番号は───確かメモに書いてたはず…)ガサゴソ
ガサ! ふわりふわり…
弟「あ。落としちまった───」
幼「ほっっ!!」バチン
弟「──うおっっ!? な、なんだっ!?」
幼「ギリせーふ! あぶなかったなキンパツ!」びしっ
弟「え? お、おお…?」
幼「にひひーっ」ニコ
弟(このマンションに住んでる子…娘か?)
幼「……」じぃー
弟「さ、サンキュ。助かった、ありがとな」スッ
幼「なぁ! キンパツー! キンパツはここにすむの?」
弟「キンパツ? ああ、この髪のこと言ってんのか──おい、初対面の人のことを髪色で呼ぶんじゃねぇよ」
幼「にぃにがいってたぞ。キンパツはあたまがワルイしょうこだって、キンパツもあたまワルイくせにここ、すむ?」
弟「……。突然失礼なこと抜かしやがるな、このガキ」ピンッ
幼「あいたっ」
弟(無視無視。クソガキ相手に時間喰ってる暇など無い、引越し業者が来る前に部屋の確認しなくちゃいけねーんだから)
弟「えっと番号は──よっと、これでどうだ」
ブー!!
弟「あれっ?」
幼「ぶふぅーっ! やっぱキンパツだな、あたまチョーワルイ」
弟「っ…ぐ、うるせェな…っ」
幼「よーにかしてみ」ばしっ
弟「あ! ちょ、オイ!」
幼「ふーはーしー」ぴぽっぱぽっぴっ
ウィーン
弟「開いた…」
幼「あいたぞキンパツ」ニマー
弟「う、うるせェ! 見りゃわかるわ! ありがとな!」ズンズンズン
幼「おうよっ」
弟(とんだ恥をかいた──あ、メモ用紙逆になってたのか、クソ、面倒くせェ…)
幼「……」じぃー
弟「…んだよ、もうアッチ行けガキ」
幼「なぁーなぁーキンパツぅ~? えれべーたーはまちがえず、のれる?」
弟「…乗れるよ」
幼「そっかーちなみに、これがいっかいで、つぎににかい、さんかい、しかい、ごかい、ろっかいだぞ」
弟「…しってるつーの」
幼「えーつまんね」
弟「お前なァ…っ…いいかげんにしろよ、お兄さん怒るときは怒るんだぜ、人はだれでもやさしい訳じゃーないんだぜッ?」
幼「しってるぞ !うーん、とりあえずキンパツはやさしくないな!」
弟「…。いい度胸だガキ、その喧嘩買ってやる」
ウィーン
幼「ほにゃわにゃー!」
弟「その頬伸びきりさせて見せるぞオラぁあああああ!!」グイグイグイグイ
「なに、やってるんですか…?」
弟(ホワッッッ!? エレベーターが何時の間に来て、ものすごい所見られた!)
「…け、警察を」
弟「待ってください! これはっ…そうそう! 妹なんです! オレの妹で、ちょっとじゃれてたっていうか…!」
幼「こんなキンパツむぐっ」ぱしんっ
弟「なァー!? そ、そうだよなっ? そーいうことで、あはは~ではでは~」ウィーン
ガチャン
弟「はぁーっ! 危うく警察呼ばれるところだった…っ」
幼「むーっ! うむーっ!」バタバタバタ
弟「痛ッ!? ちょ、殴るなってやめろ、痛い痛い髪の毛引っ張るな! ぎゃー!?」ブチィイイ
幼「あ、めっちゃ抜けた…ごめんキンパツ…」
弟「ぐっ…ああ、良いよオレのせいだからなっ! もう、良いよ畜生…っ」
幼「お、おとなになればぬけるし…」
弟「…もっと未来の話だ馬鹿野郎。つか、オレも一々苛つくなよ──本当に…子供相手によ…」
弟(豪華なマンションに一人で住める、なんて餌に釣られて来ちまったワケだが)
弟(ほんっとあの糞親父の自由さには毎回毎回毎回、振り回される──離婚の時だって、今までだって)
弟「…はぁ」
幼「あ。キンパツぅー」
弟「あんだよ」
幼「ためいきはダメだぞ。にぃにがいってた、ためいき一つでシアワセにげるって!」
弟「幸せ? あーあーいーんだよ、オレの中に幸せなんて残ってねーから」
幼「はぃいぃいぃいぃ~?」
弟「…なんだその顔ムカつくな、オイ」
幼「そんなことないってキンパツ。ヒトはぜったい、ぜったい、シアワセなの!」
弟「お前はそうかもな。悩みの一つもなさそーな顔してるよ。脳みそシワ一本も無さそうだし」
幼「どーしてキンパツはそんなカナシイこといっちゃう? マジありえなぁ~い」ハフゥン
弟「ッ…一々苛つかせるよな、お前」
幼「きっとゴハンたべてないからだ」
弟「…は? ご飯?」
幼「うん。おひるゴハン、食べてないっしょキンパツ?」
弟「まぁ食べてないけど…」
幼「だーからカナシイこといっちゃうのな、だからキンパツもぬけるのな」
弟「髪の毛かんっけーねぇだろっ」
きゅるぅ~うっ
幼「あ」
弟「…んあ?」
幼「でへへ。よーもおなかへってた、しまったしまった」テレテレ
弟「んだよ、人のこととやかく言う前にお前が食ってねーじゃねーか」
幼「うん! にひひ~ぃ」
弟「? じゃあこんな所で遊んでねーでサッサと家に帰って食ってこい、母ちゃん待ってるだろ」
幼「うぇ? ママは死んじゃってるから、いないけど?」
弟「──え?」
幼「だいぶまえに死んじゃってるから、いないっていった」
ウィーン ガチャ
弟「………」
ピョン
幼「──だから、キンパツまってた」
弟「…え、なに、オレを…?」
幼「うん! おいしいゴハンつくってくれるってきいたから、まってた!」ニコニコ
弟「そんなこと、誰に聞いて───いや待て! 何故オレがお前に作ることになってんだ!?」
幼「えー? だってーそれは───」
うぃーん ガチャン チーン
弟「ちょおおお!!? ここでドア閉まるなよ!」ポチポチポチ
ウィーン
弟「──オイさっきの話どういうことだよ……って、居ないじゃねえか!」
弟(一体どういうことだよ、オレを待ってたって言ったのか? どうしてあのガキが、クソ、どういうことだよっ)ズンズン
弟「おいって! 隠れてやがるならサッサと出てこい!」
シィーン
弟「…なんなんだよ、本当に」
弟(クソ。気になるじゃねーかよ、まったく───良くあんな顔で、)
『だいぶまえに死んじゃってるから、いないっていった』
弟「……。いや全くオレに関係ないだろ、一々感傷的になるんじゃねーよアホタレ」
弟「……あ、ここだオレの部屋」
弟(番号も合ってる。えっと合鍵は封筒の中に入ってる──つか番号押さなくても、これでさっき開けれてたじゃん…)
ガチャ
弟「──新しい生活か」
弟「どーせつまんねーけど、まぁ少しは期待してみるのも───」
キィイ…
弟「──悪くねぇか…」
兄「よく来た! 我が弟よ!」パパパーン!
幼「よくきた!」パーン! パパーン!
弟「………」
兄「今日からおれがお前の兄貴になるってばよ! シュッシュトサンジョー!」
幼「にんじゃにんじゃじゃー!」
弟「…すみません部屋を間違えました」パタン
弟「…………」
弟「!? っ……!?」バッバッバッ
弟「番号は、間違ってない…よな…?」
ガチャ
弟「ひっ」
兄「なんて失礼な奴だっつーの。突然閉めるなんて、激おこだぜ」ジィー
幼「キンパツだもんなー」ジィー
弟「──ちょっと待て! なぜ、あんたらっ…オレの家に入り込んでるんだ…!」
兄「そりゃおれらの家でもあるもんなー?」
幼「なー? にぃに、よーらのいえだもんなー?」
弟「つか誰だよ!? えっ!? それにお前…! さっきのガキ…!?」
兄「ふむ。こりゃ何か少し、すれ違いがあるか? なはは!」
幼「いいからはいれよキンパツぅー」ぐいぐいっ
弟「いやオレの家だし、ちょ、オイ引っ張るな! どういうことだよ───!!」
~~~~
弟「──母方の連れ子…?」
兄「でっす!」キラリン
弟「…じゃあお前もか」
幼「でっす☆」
兄「まぁつまり、お前の所の父親と再婚した母親が連れてきた子供。つまりおれらとお前、兄弟ってーわけよ」
幼「ゆっくりしていけよぉ」
弟「……。はぁ~少し整理させてくれ、オレは親父から一人暮らしだと聞いてたんだが」
兄「おう。まるっきり騙されたな」
弟「……………」
兄「一回しか会ってないが中々肝の座ったおっさんだったぜ、良い父親持ってんなぁ~なはははっ」
弟「じゃあつまり、オレはここであんたらと暮らしていけというわけか?」
兄「おーよ、実はおれ達以外にあと『五人』兄弟がここで住んでるぞ~」
弟「ハァッ!? そ、そしたらここに八人住んでるってことか…!?」
幼「キンパツ。かずかぞえられるんだ?」
弟「黙ってろい! 待て待て待て待て、なんだよ畜生、あの糞親父本気で何を考えてやがるんだ…!!」
兄「さーな。おれには良くわかんねぇよ、けど呼んだからにはそれなりの理由があるんじゃねえの?」
弟「なんだよ理由って!? 息子を騙して勝手に住居変えやがることに、何の理由が…!!」
兄「まあまあ落ち着けって、おれの特性筋肉モリモリなっちゃうおにぎり食うか?」
弟「いらねーよバカ!」
兄「美味しいのによー」
弟「──クソ、電話して文句言ってやるッ…今直ぐ寮に戻せって、こんな所住めるわけねぇ…!」
幼「え。キンパツどこかいくの?」
弟「あったりまえだろ! あのな、いきなりろくに知りもしねー奴らと住めるわけねーんだよっ」
兄「そんなこと言うなって弟よ。コイツ、お前が来るのすっげー楽しみにしてたんだからよ」ナデナデ
幼「……」
弟「…そんな顔しても駄目だっ、この嘘つき! 母親居るじゃねえか、それにお前は兄貴も居るんだろっ? だったら、別に」
兄「ちょい待ち、先に言っておくが──血は繋がってねぇよ」
弟「は、はぁ? だってアンタが連れ子だって…」
兄「そうだけどよ、おれの母親が前の夫が連れてたコイツを引き取っただけだ。つまり、血のつながりは無いぞ」
幼「……」
弟「っ……んなのコトしらねーよ、オレになんの関係ないだろっ」
兄「まぁな。お前にはコイツがどんな人生だったかは関係ねぇだろうな──けど、今は違うだろ」
弟「な、なにが…」
兄「おれらは家族だ。血の繋がりなんてねぇし、顔だってクセだって似てないだろうな」
兄「──けど、それでも家族は家族だ。お前が認めなくても、他人やおれらは認めるぞ」
弟「……っ」
兄「ま、そこまではっきりと関係ないと言うんだったら仕方ない。うん、そうだな」
兄「──喧嘩するか、弟」
弟「……えっ!? そこは諦めるんじゃないの!? 喧嘩!?」
兄「そーだぜひょろっこいの。ちゃんと肉喰ってんのか? 金髪に染めてるだけじゃ強くはならないんだぜ、身体を鍛えろ!」ガタッ
兄「おれはダチがドン引きレベルで諦めが悪いぞ。テメーがどれほど頑固者でも、おれの頑固さには負ける。絶対にだ」
弟「ま、待て待て待て待て! どーいうことだよ!?」
兄「ボコボコにして納得させる、ここにすむことを。勿論、お前もおれを殴り倒してくれていいぜ。互いに満足しなきゃいみねーからな!」
弟「め、滅茶苦茶だアンタ…! 頭狂ってるだろ…!」
兄「これでも真面目に生きてるつもりだっつーの。さァ来い弟よ! お前かの熱い一撃迎え入れるぜ!!!」バーン
弟「か、勝手に弟だなんて呼ぶな!」
兄「来ないのか? だったらおれから行かせて貰うぞ──良いんだな?」もりっ
弟「ひっ」
幼「おりゃっ」ぽすっ
兄「おっ?」
幼「キンパツよわいから! よーがあいてなる!」
兄「なにーぃっ!? 幼、お前さんがおれの相手になるとでも?」
幼「なるぞっ! キンパツいやだっていったから、じゃあむりなものはむりだから!」ぽすっぽすぽすっ
幼「にぃにしつこいからよーがあいてなる! いまのうちニゲろキンパツ!!」げしげしっ
弟「逃げろって…」
幼「はやくにげろーっ!」たたたたっ ぐいーっ
兄「ぐぁああああああああ!! 幼、何時の間にこんな力を──ッ!?」ムキムキ
幼「うぉおおおっ」
弟「っ……なんだよそれ、変な茶番はやめろよ…っ」
幼「ううーっ!!」
兄「くそっ──このままでは逃げられちまう、畜生! だがおれは負けはしない──!!」がばぁっ
幼「なぁああ! もちあげられたーっ!」
兄「持ち上げたー! くっくっく、逆さ吊りだ! これでお前は何も出来まい…!」
弟「っ────………ちょっと待て! オイ離せこのヤロウ!!」
兄「なんだっ!? やっと喧嘩する気に!?」
弟「違うわ筋肉ゴリラ! ソイツさっきから顔色がおかしい! 真っ青になってるって!!」
兄「えっ!? ──幼? おい大丈夫かオイ!!」
幼「ううっ」
弟「具合が悪いのかっ? どうした、熱は──無いけど、顔色がおかしい…」
きゅるるるるるる るっ!
>>2
訂正
数時間前
弟「……」
兄「……」
幼「…おなかへった」
弟(腹減ってかよ…)ズーン
兄「そういや昼飯まだだったな。食ってからでも良いか」ポリポリ
弟「……」
兄「お前も食うっしょ? 昼飯?」
弟「えっ? お、おれも? いやオレはもうここに──」
幼「……」ぎゅっ
弟「──な、なんだよっ?」
幼「おなかへったの」
弟「だから、なんだよ…!」
幼「……」じぃー
弟「っ……」
~~~~~~
弟(そして、今に至るっと)ジャァー
兄「ご飯は冷凍ので良い?」
弟「あ、うん。ちょっと待ってそんないらないっつの。二杯半ぐらいで十分だろ」
兄「りょーかい」
弟(軽く冷蔵庫見たら、それなりに野菜は揃ってたな──人参に、コーンも入れるか?)
弟(玉ねぎに鶏もも肉、ちょっとまてよ)
幼「ごはんーごはん~♪」
弟「おいガキ。お前ピーマン食べれるのか」
兄「ヨユー」
弟「…テメーには聞いてないんですが?」
幼「よ、よゆー」ガクガクガクガク
弟(……。細かく刻んで味を分からなくさせてやろう)ザクザクザク
弟「コンソメ素何処? あとケチャップも」
兄「どうぞどうぞ」
弟「どーも」ぶにゅー
弟(ケチャップを適量、コンソメ素と水を入れて、塩コショウで味付け──うん、中々)
弟(別に小皿にバターと砂糖、塩コショウを加えて、ケチャップとウスターソースを混ぜあわせる)
パチパチ!
弟「温まったかな」グリングリン
弟(チンして温めたご飯を投入。弾ける水気に気をつけて、って)
幼「おー」
弟「顔がちけぇ! 火傷するぞ!」
幼「うまいなーおいしそう! きんぱつやるな!」
兄「だろー? へへっ」
弟「アンタはオレの何なんだよ、つか、この程度で美味しそうなんて言うなアホタレ」
弟「このソース、レンジでチン」ずいっ
兄「あいよっ!」
弟「…跳ねるから少し離れてろ。ちゃちゃっとチキンライス炒めるから」
幼「うぃー!」びしっ
弟「……」ジャッジャッ
幼「おーおー」キラキラキラ
弟(すっげーやりにくい…)
幼「おー!」
兄「おぉおおおおおおお!!」
弟「あの、ちょっと黙ってて、本当に」
カンカンカン
弟「…ふぅ。次に」
幼「たまご! さっきまぜたたまごっすよね?」
弟「…どうなってんだよお前の口調、変だぞさっきから」
幼「おなかへったー」ダラダラダラ
弟「はいはい。わかったっての、待ってろって」
弟「…熱したフライパンを一回濡れた布巾で拭く」ジュシャッ
兄「おっ? そのままやかねーの?」
弟「こうした方がくっつかねーんだよ」シャッ シャッ
幼「うんうん! それでそれで?!」
弟「もうちっと温めて──強火のまま卵を半分入れる、そこで」
弟「うぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉお!!」カシャカシャカシャカシャ
幼「うぉおおおっ!?」
兄「ぉおおおぉぉお!?」
弟「一気にかき混ぜてっ……整えたら、さっき炒めて盛りつけたチキンライスの上に───」
──ぽすんっ
幼「ふわぁ…っ」
兄「おお。綺麗なもんだ」
弟「さっきチンしたソースかけて」
とろーり
幼「…ごくんっ」
弟「完成だ。ご要望どおり、トロトロオムライスだぜ」カタン
幼「た、たべていい?」
弟「当たり前だろ、さっさと冷めない内に食べちまえ」
幼「すぷーん!」
兄「はいよ」
幼「うん! えっと、それじゃ~あ、いただきますっ!」ぱちんっ
幼「ひゃー! たまごとろとろ!」プルプル
幼「んー」ぱくっ
幼「はふっあうっ」
弟「落ち着いて食えって。誰もとらねーから」
幼「…ふぅん、ふわっ! ごくん」
弟「どうだ?」
幼「──っ~~~~!! おいひいっ! すごくおいしい!」ニパー
弟「……。おう、そっか美味いか」
幼「ていさいキンパツ! うひぁ~! もぐもぐっ」
弟「……」ニコ
兄「あの~お兄さんのブンは~?」
弟「えっ!? あ、おおっ!? 今から作るっての!」ガタタッ
兄「楽しみにしてるぜぇ~!」ニヤニヤ
弟(クソ、絶対に見られた今の表情…っ……しくじったっ)
~~~~~
「「「ごちそーさまでした!」」」
幼「うまかった、おいしかった、よー」
兄「おれの次に美味かったな。そうだろ幼?」
幼「うーん、どっこい!」
兄「どっこいかー!」
幼「にぃに、たこ焼きとクレープしかつくれないし」
兄「ううっ…すまねぇな…」
弟「……皿、洗うんで」ガタ
兄「おう。ありがとな、後でおれも手伝うからよ」
弟「えっ? いや別に」
幼「……」うとうと
兄「そろそろ眠たいようだし、寝かせてからそっち行くからよ」
~~~~
弟「……」カチャカチャ
兄「うっす。ぐっすり眠ったぜ、ありがとな」
弟「…なんで礼なんて言うんだよ」
兄「アイツがあんなに喜んだのは久しぶりに見たからだっつの」
弟「…意味がわからん」
兄「わからんでも、それでもアイツの笑顔は──お前も見ただろ?」
弟「……」カチャ
兄「うーん、とだな。おれ不器用だし上手く言えねーけど、幼はああ見えて結構神経質なんだ」
兄「時折、昔のことを思い出して物が食べれなくなるんだよ。精神的障害ってやつらしいけど」
弟「………」コトリ
兄「おれも詳しいことは知らねぇから、アイツがああなんだなってしかわからない。けど、それでもよ」
兄「──あんな笑わせて食べらせてやれるお前は、すげーって思った」
弟「…アンタが作ってやれば、もっとガキも喜ぶだろ」
兄「いや、おれには無理だって。元々たこ焼きぐらいしか作れねーし、そもそもそれも飽きられつつあったしな」
弟「…不勉強だな。心配してるんならもっとがんばれよ」
兄「耳が痛いぜ。確かにその通りだな、くっく」
弟「……」
兄「おれには何となくわかったぜ。お前の父親がここにお前を済ませようとしている理由を」
弟「…いい迷惑だ、勝手に押し付けてるだけだろ」
兄「そのとおりだろうな。親なんて勝手だ、子供の事なんて思ってる以上に何も考えてない」
兄「──そしておれらが思ってる以上に、親は大きなことを背負ってる」
弟「………」
兄「いつまでもおんぶにだっこで居るなってことだ。なはは」
弟「…うるせぇ、わかったようなことを言うなゴリラ。オレはもう帰る」
ガタン スタスタスタ
兄「なぁ弟。ここで住まないか?」
弟「…あのなぁ」
兄「別に良いじゃん。家も豪華、学校も近いんだろ? だったら文句のねぇだろうに」
弟「…他人と一緒に住めねーよ」
兄「他人じゃねぇよ家族だ」
弟「他人だっつの。勝手に親が再婚して、勝手に兄弟が増えただけだっつの」
弟「…オレには全く関係ねーこと。巻き込むんじゃねーよ」
兄「……」
弟「気に食わねーか? だったら殴ればいい、オレはそれでも絶対に認めねえからな」
兄「いいや、もう喧嘩はしない。そんなことで、お前は納得しないやつだとわかったし」
弟「あっそ。じゃあ、これで」
兄「なぁ弟。お前は嬉しくなかったのかよ?」
弟「あ?」
兄「──あの子の笑顔を見て、お前のオムライスを食べて見せた表情……嬉しくなかったか?」
弟「……」
兄「さっきも言ったけど、あの子を笑わせたお前はすげーよ、いやマジで言ってるかんな?
おれには絶対に出来ないことをお前はやれた。だったら、それは誇らしいことだとおれは思う」
弟「…別に大したことじゃねえし、それに」
兄「それに?」
弟「オレは…そもそも料理自体嫌いなんだよ」
弟「オレが作った奴を食べてる奴の顔を見ることも、もっと嫌いだ」
兄「へェー…なんで?」
弟「……」
オレには妹が居た。
居た、というのは死んだとかそういうことではなくて、ただ数年会ってないだけ。
──当時両親の離婚が決まった際、オレは実家から離れた中学への入学が決まっていた。
弟「妹は大人しいやつで、あんまり人と会話するのが苦手だった。笑わないやつで、兄妹だってのに妹が好きな食べものだってわからなかった」
親ですら笑い声をろくに聞いたこともない、と言わせるほどの妹。
弟「けど、オレの作った玉子焼きを食べた時だけ──ほんの少し、笑ってたんだ」
『──おにいちゃん、これ、おいしいよ』
弟「当時のオレはすっげー嬉しかったし、誇らしくも感じてた。笑わない妹を笑わせた、兄としてやってやったなんて……思ったりもした」
笑みを綻ばせる妹に、お袋も親父も嬉しそうに笑って、作ったたまごやきを皆で頬張った。
けれど、いつの間にか両親の離婚が決まって、オレも実家から離れなければならなくなった日。
誰もいなくなったリビングで、妹は一人、オレに向かって小さく呟いた。
『──うそだったんだ。あのとき、みんな笑ってたの。あれウソだったんだ』
弟「…オレは何も言えなかった。妹に向かって、なんて言ったら良いのか分からなかった」
弟「その時、ああ──もういいやって、作ることも今後ないだろうなって」
今まで買ってきた料理本も全部捨てた。なんでそんなモンを買ってたのか、分からなくなって。
誰の為に作ろうと思ってたのか。なんの為にオレは飯を作ろうと思ってたのか、理由が見えなくなって。
弟「──だから嫌いなんだよ。オレも高校生だ、変に感傷的になるつもりも、今更無い」
弟「ただただ苛つくんだよ。なんもかんも、思い出したくもねーことを散々と頭に浮かんできやがる」
兄「…だから作りたくねぇってか」
弟「ああ。別に可愛そうだとか思うんじゃねーぞ、アンタが聞いたから答えただけだ」
兄「思わねぇよ。作りたくない理由としては、おう、十分なモンだ」
弟「…そうかよ、じゃあ納得してくれたか」
兄「まぁな。お前が料理を作りたくないことも──それに家族と暮らしたくないことも、何となく分かったぜ」
弟「………」
兄「──んで、また逃げんのか?」
弟「ッ──なに…?」
兄「また逃げんのかって聞いてんだ。昔は随分と気弱な子供だったらしいが、今も変わってねぇようだなァ」
弟「お前…ッ」
兄「家族が出来る事がそんなに怖いか? また訪れる別れっつーモンに、ビビってんのか?」
兄「──だから一緒に住めないんだろ。ちっちぇ男だな、デカいのは背だけかよ」
弟「いい加減にしろッ…わかったようなことを言うんじゃねェ!!」
兄「図星だから怒るんだな。なははっ」
弟「オイッッ!!」ガッ
兄「粋がんなよガキが。まぁおれもガキだが、お前よりも大人だから言ってやるぜ」
兄「──怖かねーよ、大丈夫だ。だってお前は凄いやつだからな!」
弟「…ハァ?」
兄「凄いやつは凄いんだ。どんなに辛くても、やれることはきちんとやれちまう。だって、そうだろ──」
兄「──嫌でもお前は幼に昼飯を作れた。そんでソイツの表情を見て、お前は嬉しがってただろ?」
弟「あれはッ…!」
兄「違うってか? 違わねーよ、それがお前の『かっこよさ』だ。お前の凄さだ、お前の特別なところだぜ」
兄「だからお前に言ってやる。まぁダチから受けいりだが──」
兄「──お前が認めねぇなら、おれが認めてやる。お前の凄さを、おれが信じてやる」
弟「…なん、だよソレ…ッ」
兄「それにお前も信じろ。おれらは絶対にお前に悲しい思いをさせやしねーよ」
弟「…ッ…」
兄「例えこれから先、また別れが会ったとしても──おれ達、少なくともおれはお前を一人にさせはしないぞ?」
兄「任せろ任せろ。こーみえておれは、約束は絶対に守る男だ!」
弟「…なんなんだよ、意味がわっかんねぇよ…やっぱアンタ、頭おかしいぞ…っ」
兄「なんでだよ、それが──『家族』じゃねえの?」
弟「……!」
兄「血が繋がってなくても、本当の兄妹じゃなくても、そういうモンだろ? なはははっ!」
弟「…そんなコトッ…」
わかってる、わかってんだそんなコト。
だけど、わかってても出来ないことはあるんだ。だって分からない、じゃあオレは何を言えばよかったんだ。
『──うそだったんだ。あのとき、みんな笑ってたの。あれウソだったんだ』
『──それが家族じゃねえの?』
言葉で言うのは誰だって簡単だ。
出来無いから皆悩むんだ。立ち止まって、答えが見つからないから見ないふりをして立ち去るんだ。
弟「オレは…ッ…違う、違うんだっつの…っ…」
兄「違わねぇよ。お前はちゃんと出来るやつだ、怖がるな、逃げるなよ」
「…キンパツ?」
弟「…あ…っ」
兄「──ちゃんとお前の気持ちは、伝わってるっての」
幼「…ケンカしてるの?」
弟「違う、そうじゃない…これは別にそういうもんじゃ」
幼「ケンカはだめだぞ…っ」
弟「……っ」
幼「キンパツあんなオムライスつくれるくせに、ケンカはすぐするのダメだっ」
弟「お、オムライスは関係ないだろっ」
幼「ある! キンパツりょうりウマイのに、ケガしたらだめ!」
弟「お前には関係ない、あっちで寝てろ…!」
幼「うるさい! だめだったらだめ!」だだっ! がしっ!
弟「うぉぉっ?」
幼「うぉおぉぉおおおおおお!!」ぎゅううううう
弟「っ……やかましいな! 違うって言ってんだろ! お前が思ってるようなオレじゃねぇんだよ!」
幼「おおおおおっ…うわぁぁあっ…ひぐっ…ぐしゅっ、びゃああああっ!」
弟「お、おいっ? なんだ急に…?」
幼「ひっぐ…ひっぐ…だめ、だめだぞっ……ばかぁああっ…あああああっ!!」ボロボロボロ
ぎゅううっ
弟「お前っ…急に泣くなよ、オイ…」
幼「あぁああぁっ…! ばかーっ! キンパツのばかーっ!」ぎゅっ
弟「…っ…悪かったって、怒鳴ってすまんかった…」
幼「うぐっ…ぐゅっ…ひっぐ…」
弟「なんなんだよ泣くなって…」
幼「だ、だって…ひくっ…きん、ぱつ、ひっく……オムライス、ひっく…」
弟「オムライス?」
幼「…ま、ママと…おんなじ、オイシかった…から、ひっぐ…だめ、ケンカするなっ」
弟「──………」
幼「ママとおんなじ、けんかするなっ! だから、ぐすっ……」
弟「……ああ、ごめん──ダメだよな、ああ、本当に」
兄「………」
弟「喧嘩は、ダメだよな。ごめん、怒鳴って悪かった」スッ
幼「ひっぐっ」ぎゅぅううっ
弟「……」ポンポン
幼「…ぐす…」
弟「……」ぎゅっ
兄「……」ぎゅっ
弟「…キモッ!? なにアンタまで抱きついてんの!?」
兄「えー良いじゃん~? にぃにも抱きつきたくなったんだよ~」
弟「待ってナニコレ!? 熱い!? アンタ体温マジやべぇ! つかお前もやべぇな!」
幼「ぐすっ」
兄「子供は体温がたけぇからなぁ」
弟「アンタは暑苦しい! それから微妙に胸筋ピクピクさせるのやめて! 気持ち悪い!」
兄「おめでとう。これで立派な兄弟だな、おれ達!」ムキムキ
弟「唐突に何いってんの!? オレは別に認めたわけじゃ…!」
幼「ひっく!」
弟「いやいやいや! 泣くな泣くな! 喧嘩じゃないぞっ? これは全然喧嘩じゃないぞー!?」
兄「頑固なやつだなぁ、幼。もういっちょお願いしてみろ、御飯作ってーって」
幼「ごはんつくれキンパツ…」
弟「なんだその雑なお願いっ! ふざけんなっ! こんな所居てられるか、ばーかっ!」
ガタタッ
弟「…ん?」
「──あ。バレた? もうちょっと覗いてようと思ってたのに」
兄「よー! 帰ってたのか?」
「うん。さっきね、ただいま」
弟「お、おまおまっ!? お前は…!!」
妹「やっほーお兄ちゃん。元気してた?」
弟「なんでここにいんの!? えっ!? なんで!?」
妹「あったり前じゃん。お父さんに呼ばれたのお兄ちゃんだけじゃないし、というか、数カ月先にここ住んでるから」
弟「え……?」
幼「あー! ねぇね!」だだっ
妹「やー幼ちゃん。で、さっそくだけど食べさせてもらった?」
幼「うんうん! ねぇねの言うとおりキンパツ、オムライスおいしかった!」
妹「オムライス? なんだ玉子焼きじゃなかったんだ、でも食べれたんだね。良かった」ナデナデ
幼「にへへ~」ニヨニヨ
兄「なんだ、知らなかったのかよ?」
弟「…全然しらねぇよ…ッ」
妹「ふぅ。相変わらずだねお父さんも、わざと黙ってたんだ。えーと、それとお兄ちゃん」
弟「な、なんだよ…?」
妹「さっきの話聞こえちゃっててさ。そんな昔のこと、憶えすぎ。聞いてるコッチが恥ずかしかった」
弟「ッ…なっ…なななっ…!」カァァァア
兄「あ。やっぱりか? なーんか聞いてる妹と、知ってる妹全然ちげーからさ」
妹「記憶の端にも残りかけ、むしろ消えかけてたのに。昔の私の事思い出させないでよ、まったく」
幼「キンパツよわいもんなー」
弟「ッ…ッ……」
兄「あれ、弟?」
弟「──絶対にここには住まねぇ!!! 恥を知れクソばかアホタレ共!!!!」ダダダダッ
幼「にがすかーっ!」ガシッ
弟「うぉおおっ!? 離せコラ!! 振り落とすぞ!」グイグイグイ
幼「やめろばかやろー! ごはんにがすかーっ!」ぎゅうううううううう
弟「人のことをご飯呼ばわりするんじゃねぇ!! 最低だぞ!」ガチャガチャ
ガチャ キィ!
弟「そろそろ離さねーとっ…このまま地面に叩きつけることに───」
お隣「ええ、さっきロビーで高校生が子供を…」チラッ
警官「なるほど。もう少し詳しい…」チラッ
弟「──………」
幼「ガジガジガジ」はぐはぐ
お隣「あ、あーっ! この子です! さっきエレベーター前で…! ほら今もまた!」
警官「…君」
弟「さっきエレベーター前で会った人──ち、違うんです! これは全然そういうことじゃなくって!」ダラダラダラ
幼「ふぇ?」
お隣「さっきも兄妹なんてウソをついてたんですよ!」
警官「……。ご兄妹なのかな?」
弟「え、えっとまぁ──」
幼「キンパツかぞくなるの?」
弟「えっ?」
幼「かぞくなるのー!?」
弟「ち、ちがっ」チラリ
兄「……」ジィー
妹「……」ジィー
弟「うっ! おぉぉっ…?」チラリ
お隣「っ……」
警官「どうなのかな?」
弟「っ……っっっ……! っ……──────」
弟「はい…兄妹です…」ガックシ
幼「キンパツぅー!」ぎゅうううっ
兄「いぇーい!」パチン
妹「いぇーい」パチン
弟(どうしてこうなった……)
幼「にひひっ! よろしく、キンパツ!」
弟「っ………ああ、もう勝手にしろー!」
【こうして弟は、八人兄妹の仲間入りとなりました】
プロローグ『とろとろオムライス』
終わり
一週間おきに投下していけたらなと思ってます。
ではではノシ
ジリリリリリリリ
弟「ん…」ムクリ
弟(朝か、今日は確か日曜日だよな…)ポリポリ
弟「ふわぁ~超ねみぃ…」
ゴソゴソ
弟「──む…?」
幼「すぁ~…」スヤスヤ
弟「……」ボー
幼「にへへぇ」ジュルル
弟(コイツ潜り込んで来やがったのか、面倒臭い…)チラリ
兄「ぐかー」
弟「……!?」ビクッ
弟「なっ…なっ…?」ガクガク
兄「ぬっへへぇ~おっとこちゃーんっ」ぎゅっ
弟「ひぃいぃいぃいぃっ!? アンタも何一緒に寝て、つか、やめっ」
兄「おるぁッ!!」ギュゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウッッッッッ
弟「かはぁッ!?」ボキボキバキバキゴキ
弟(やばい殺られる! 殺す気だコイツ! コッチも殺る気で暴れねーと…ッ!?)グググ
幼「ヌフフ」ぎゅっ
弟「ッ…!?」
兄「あっはっはっはっ」ギリギリギリギリ
幼「ぬあっはっはっはっ」ぎゅうう~っ
弟「ッ…ッ───!! 起きろクソアホタレ兄妹ッ!!!」
~~~~~
弟「」チーン
妹「朝から死んでるね、お兄ちゃん」モグモグ
弟「…うるせェあほたれ…朝っぱからオスゴリラに抱きつかれてみろ…誰でもこうなる…」
妹「そうだね。それは災難だったね」ズズズ
弟「他人ごとの様に言いやがって…ッ…あのなぁっ? 実の兄が生死の境を彷徨ったんだぞ!?」
妹「でも生きてるよ。だったら気にすることないじゃない、全然まったく」
弟「あるわッ! 全然まったくあるわ! 良いか聞けよっ? 何でオレがゴリラとガキに抱きつかれ起きなきゃいけないか!」
弟「──どーしてオレ専用の部屋がねぇーーーーんだよっ!」ダンッ
兄「ふぁ~~~~っ……んだよ、弟ちゃんは朝っぱから元気だなぁ。妹おはよ」スタスタ
妹「おはよー」
弟「オイ元凶! もう一度聞かせろ! やっぱ納得いかねーよ! なんでオレの部屋ねーんだよ!?」
兄「……なに? ちょっと朝は静かにしてくんね…おれ朝弱いからさ…せめて牛乳飲んでからにして…」パカリ
弟「しらねーよお前の都合なんて! いいからきかせろ! ここはオレの父親が買ったマンションなんだろっ?」
兄「……今じゃおれらの父親でもあるだろぉがよ。それぐらい、わかってんだろ」ゴクゴクゴク
妹「何度も同じこと言わないと分からないなんて、お兄ちゃんの脳みそ不便」
弟「お前は黙って食パン喰っとけ馬鹿!」
妹「もぐもぐ」
兄「しかたねーだろ。こっちもちょいと計算違いっていうか、ちょっと意外な奴がここに住んでるんだから…」
弟「なっ──んだよ、そのこと昨日……晩飯の時に聞いてないぞ、オレ」
兄「言えるわけねぇだろ。本人目の前にして、言えるわけねーだろ。そのせいで部屋の割決めがあやふやなんだぜ」
弟「……だ、誰だよその意外な奴って。その八人の兄妹の中に入んのか?」
兄「うん。お前だけど」
弟「オレかよ! やっぱオレかよ何となく察してたよ! お前ら兄妹に入れたがってた割には案外乗り気じゃなかったんだな!!」
兄「ん~っとなぁ、嫌だ嫌だ何て言われると、なんか逆に家族入りさせたくなるって言うやつ?」
妹「お父さん言ってたよ。人が住んでるって知ったらアイツは絶対にここ、住まないって」
弟「あの糞親父ッ…マンションちらつかせてから、現状を分からせて遠ざける魂胆だったんだな…っ!」
兄「親子仲悪いの?」
妹「まあね、離婚してからかな」
兄「なるほどなぁ~~~つーわけで、おれが卒業するまで待っててちょ。あと数ヶ月だし、そんときはおれっちの部屋渡すわ」
弟「す、数ヶ月だと…っ? それまでオレはっ──このリビングで寝て過ごせと!?」
兄「しかたねーだろ」
弟「仕方無くない! どうするんだよ色々とプライベートのこととか…あんだろ、わかるだろ…っ?」
兄「あ~あ! おな、」
弟「オイ言うな、何言うつもりだ、朝っぱから!」
妹「せめて夜中にシてね。声抑えて」ズズズ
弟「察するな! ったく、何なんだよ…っ」
兄「弟ちゃんは本当に元気だなぁ。そんなにすぐ部屋がほしいなら、おう、誰かとしぇあ? すれば?」
弟「なに? …シェア?」
妹「誰かと一緒に住むってコト。同じ部屋でね」ガタリ
弟「……誰かって、その兄妹の中の誰かってコトか?」
兄「うむ。ちなみに部屋は五部屋ある。一つが長女──長男だったかどっちか分からん人が住んでる」
兄「二つめが次男のクオーターの銀髪さんって呼ぶと喜ぶぞ。次に双子姉弟の部屋に、おれの部屋で」
妹「最後に私と幼ちゃんの部屋ね。一緒の部屋だから」ジャー カチャカチャ
弟「…よくよく考えると、すげー人数住んでるなココ」
兄「さっすがデカいだけはあるぜ。んで、何処住む?」ゴクゴク
弟「いやいや待て待て待て。そう簡単に聞くなっつの、そもそも誰かと同じ部屋になるなんて一言も…!」
妹「じゃあこのまま数ヶ月、リビングで布団引いて雑魚寝だよ」キュッキュッ
弟「雑魚寝限定するなよ…!」
兄「まー時間はたっぷりあるんだからよ、ゆっくり考えてちょ。おれはもう一眠りするわぁ~~~~ふわぁ~」スタスタ
弟「お、おいって! 嘘だろ、マジで言ってんのかよ…っ」
弟(クソッ! やっぱ出て行くかこの家から…! 元より歓迎されてないみたいだしなッ!)ぐぬぬ
妹「お兄ちゃん」フキフキ
弟「…んだよ」
妹「あと一つだけ、お父さん言ってたよ。アイツは人が住んでたら絶対に住まないだろうけど───」
妹「──結局はここに住むことになるんだろう、って。アイツは優しいやつだから、だって」
弟「……。どういう意味だよ」
妹「さあ? 私に聞かれても答えを知ってるワケじゃないし、それでも…」チラリ
幼「くーくー」
妹「クス。お兄ちゃんの布団を欲しがってる兄妹は居るみたいだけど?」
弟「……チッ」
妹「そんなに悩まないで気軽に決めれば良いと思うよ。出来れば私の部屋にして欲しくないけど、迷惑だし」
弟「好き勝手言ってくれるよなほんっとによォ…! お前にとっちゃー人ごとだもんな! 可愛げない妹に成長しがやってっ」
妹「これでも真面目に力強く生きてきたもので。お兄ちゃんみたいに握力二十五キロしかないような貧弱じゃないし」スタスタスタスタ
弟「なっ…!? い、今はちゃんと三十五ぐらいあるわ!」
妹「じゃ。私は友達と用事があるから、いってきます」バタン
弟「おい聞けって! ……ぐぬぬぅっ」
幼「ぐかぁー」
弟「──てめーぇは何時まで寝てんだよっ」ババッ!
ボスン!
幼「ふぬぅっ!?」
弟「起きたかガキ、オレは子供相手にも容赦しない。問答無用のボディープレスだ───」
幼「」
弟「──お、おい? なんだよ返事しろって、オイ! まさか変な所入ったのか…!」ガバァ
幼「すやすや」
弟「寝てんのかよっ!」ボスン
弟「………」
幼「ぐやー」
弟「…よく寝るなコイツ。そういや、昨日は遅くまで皆でトランプしてたか」
弟(アホ面晒して爆睡しやがって。なんも悩みが無さそうな顔してるクセによ…)
『──ママとおんなじ、けんかするなっ! だから、ぐすっ……』
弟「…」スッ
幼「んぅ、むにゃむにゃ」
弟「…」ナデナデ
長女「あらぁ事案発生ぃ~?」ヒョコ
弟「どぅあッはっ!?」ビクゥ
長女「幾ら可愛らしい~ぃ寝顔を? アナタの前だけに見せても、兄妹でお痛は駄目よぉウフフ」ニコニコ
弟「な、なんっ! 違っ!?」
長女「ウフフ」
弟「あんた、は……確か長女さんだよ…な?」
長女「ハロー元気ぃ~? ワタシは朝はとっても元気なのぉ、なんて言ったって徹夜明けですもの」
長女「何時間も何十時間も文字と文字を読み書き直し死狂いと気を違いながら朝を迎えるのだもの~」
長女「ヒャハハハハハハハハハハハ!! マジでハイテンションよぉ~!!」ゴロゴロゴロゴロ
弟「………………」
長女「フゥ、珈琲でも飲もうかしらぁ」すくっ
弟(…こ、この紫色の服で一色の人は長女さんで、小説家らしい)
長女「フフッ……フヒヒッ……コールタールの様な真っ黒な珈琲がドロドロドロドロ真っ白に洗われたカップを凄惨に穢して逝く…フヒッ」
弟(昨日の晩飯の時に紹介されてもらったが、正直言って滅茶苦茶怖い…)ドキドキ
長女「ヒャーハハハハハハハ!!」
弟「…!?」びくっ
長女「あら、ごめんなさいねぇ。ちょっと今、今更ながら、執筆中のモノに矛盾点があるコト理解しちゃったのよぉ」
弟「だ、大丈夫なんすか、それって……よくわからないっすけども」
長女「平気じゃないわぁ~自殺モノよぉ~既に五十ページほど書き進めてるわぁ~アハハハハハハ!!」ゴクゴクゴク
弟「あ、あの…そんな急に熱いコーヒー飲んだらやけどするんじゃ…」オロオロ
長女「んー? あったりまえじゃない、食道と胃腸を痛めつけて死ぬために飲んでるだもゴフッゲハァッ! オフッ…!!」ビチャビチャッ
弟「ちょっとーぉ!? なにやってんすかっ!?」ガシッ
長女「や、やめて止めないで……死なせてもうムリ……」ガクガクガクガク
弟「いきなり自殺しようとする奴があるかよ!? な、なんなんだよっ…ココの住民どもは…!!」ナデナデ
長女「……」チラリ
弟「な、なんすか?」
長女「…アナタ優しいのね、オロロロ、うっぷ、素敵よ…」
弟「…いや今の状況で褒められても嬉しくないっていうか…」
長女「大人の女性が世間体無視して吐きまくってる所を引かずあやせる時点で高ポイントよぉ~……」
弟「凄くどうでもいいんで、とりあえず寝たほうが良いっすよ、マジで」
長女「ねる……? え、寝てもいいの……? かいおわってないのに? ワタシ、ねてもいいの……?」
弟「寝てください、顔色ヤバいッスから。ほんとに」
長女「うっうっ……なんてやさしいコトいってくれるのかしらぁ……ひっぐ…」ポロポロポロ
弟(凄く面倒くせえ…)
長女「でももうあるけないの…片貸してくれる…?」
弟「…どうぞ」
長女「うッぷ」
弟「吐かないでくださいよ、いやホントに! マジで言ってますからね!?」
長女「………うん」
弟(た、確かこの人の部屋は一番奥の────)
パサリ
弟「ん? なんだ今、なにか落ちた……よう、な……」
【カツラ】
弟「………え?」チラリ
長女「うーん」
弟(さっきより物凄く短髪になってるー!! ぼ、ボブカット……!? つか、えっ!? カツラ被ってたの!? なんで!?)ダラダラダラ
長女「…まだぁ部屋に着かないのかしらぁ…?」スッ
弟「っ!? ほぁっ!!」バシッ
長女「ん…?」チラリ
弟「も、もうすぐっすよー…? な、なんで気軽に身体預けててください…!!」
長女「なにかしら…さっきよりアナタ、髪が長くなってなぁい…?」
弟「あっははー! なーにいってんすか!? 来た時からずっとこんなんでしたよー!?」
長女「そう、だったかしらぁ……?」
弟(セーフ! 咄嗟に足で蹴りあげて拾い上げたぜ! だ、だがこれからどうする…!?)ドキドキ
長女「そういえば金髪じゃなかったかしらぁ? 気のせい…?」
弟「そ、染め直したんっす! なんで、ええっ気にせず先に進みましょう!」
弟(どうしたらいいんだ、オレは)ズーン
弟(まったく答えが見つからない。まずなぜカツラを被ってる、そしてなぜそのカツラをオレが被ってる)ドキドキ
長女「ここよぉ~…」ふらふら
弟「あ、ハイッス! じゃ、えっと、後は一人で大丈夫っすか……?」
長女「うん…だいじょうぶ…」ふらり
弟(あ! そうだドアを開けた瞬間、部屋の中に投げ込もう! したら寝る途中で落としたと思うだろ…っ!?)
長女「オロロロロロロロロロ」
弟「ぎゃぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!?」
長女「きゅー」バタリ
弟「お、オレのシャツがエライことに…っ!? ちょっと大丈夫っすか!?」
長女「…いまわかったわぁ…ワタシ珈琲のめないのね…」パタリ
弟「何で今頃なんすか…!?」
長女「フフフ。人は経験を持って成長するものよぉ…」ガクン
弟「ちょっとマジで何なんすかぁー!? うぐっ、抱え込んで部屋に入れるか──」
弟(──いやその前にシャツを脱がねえと、このままだと抱えた時に汚しちまう)ぬぎっ
弟「部屋は……鍵掛かってんぞ!? くそ、何処だ何処に閉まってるんだ鍵鍵…ッ」ゴソゴソ
「姉上? 何を騒いで居るのですか、」ガチャ
弟「あ」
銀髪「お」
弟「……」
銀髪「……」
弟「…ちょっと待っ」
銀髪「変質者のようですね」
弟「違うんだよー!? これには事情があって…!」
銀髪「成る程。事情ですか、姉上のカツラを被り上半身裸になりつつ姉上の身体をまさぐる状況下で?」
弟「あ、ああある! 全然あるぞ!」
銀髪「わかりました。ではその内容は直に訪れる警察の方に…」ピッ
弟「ちょっと待てー!」
銀髪「む。何でしょうかこの匂いは──ハッ!? 姉上何故ゆえに嘔吐されているのです…!」ササッ
弟「あ、それは…」
銀髪「微かに珈琲の匂いも…貴方もしや姉上が珈琲が苦手だと知った上で飲ませたと…!?」
弟「んな事情しらねーよ! 勝手に飲んで勝手に伸びたんだよッ!」
銀髪「まさかそのような嘘が通じるとお思いなのですか。取り敢えず近寄らないでください。臭いが移るので」
弟「いいから聞けってのッ! このカツラも好きで被ってるじゃない、裸もゲロったから脱いだだけだ!」
銀髪「では姉上の身体を弄ってたのは?」
弟「鍵だよ鍵! あかねーから探してた!」
銀髪「そうなのですか。ドア越しにまぁ聞こえてましたので知ってましたけども」ペコリ
弟「………」
銀髪「ご紹介が遅れました。昨晩はバイトが在った為、お相伴を出来なかったことをお詫びしつつ、お初となります。どうぞよろしくお願いします」ペコリ
弟「……もういいですっ…運ぶの手伝え…っ! 後鍵もだ…!」
銀髪「分かりました。しかしその前に一つ、この部屋には鍵は着いておりません」
弟「えっ? だ、だけどよ確かにドアは…」
銀髪「姉上の部屋は魔窟なのですよ。良くわからない健康グッズ等筋トレマシーン等があり」
銀髪「時折、それが土砂崩れのように倒れドアを開かなくさせるのです。今もそのような状況なのでしょう」グッグッ
弟「じゃ、じゃあどうすんだよっ?」
銀髪「押します。二人がかりでドアを押し込みながら強行突破です」
弟「え、えー……」
銀髪「行きますよ」カッ!
弟「お、おおっ」
「「せーのっっ!!」」
銀髪「ふんにゅるるうううううううううう」グググググ
弟「ぐぉおぉおおおおおおおおお」グググググ
ギギギギ… ガチャンバタン! バタバタ!
弟「なん、か…奥で倒れまくってる音がしてるけど…ッ?」グググ
銀髪「予定調和ですッ…さすれば音がするのであれば、直に開くでしょう──」
ギギギ──バイン! バタン! ゴンッ!
弟「うわぁっ!?」ドタリ
弟「はぁっ…はぁっ…い、いきなりドアが閉まりやがったっ…なんか奥でバネっぽいのがあったのか──」チラリ
銀髪「」チーン
弟「ちょっとーーーーー!!! なにクリーンヒットしってんだアンターーーーー!!」
銀髪「あは、はは。流石姉上、性別も不明の上に私生活も、くふっ」ガクリ
弟「……嘘だろ…」チラッ
長女「」
弟「…死屍累々…」
弟(どうすんだコレ…)
ガタタン
弟「っ…!」くるっ
双子弟「ひっ」びくっ
弟「お前…」
双子弟「ぼ、僕は何も見てないし、きっと何にも僕には関係ないと思うから…っ」ガクガクガク
弟「ま、待て怯えるな…っ…今、お前が考えているコトは間違ってる。それだけは正しい…!」じりっ
双子弟「やめてっ! ち、近づかないで!」ブンブンブン
弟「落ち着け! 取り敢えず誰か人を呼んできてくれ…! あのゴリラでいいから!」
双子弟「ふぁ──」サー
パタリ
弟「………」
ジャー コポコポ ガチャ
双子姉「トイレで漫画読むの楽しい、ん」チラッ
弟「…………」
長女「」
銀髪「」
双子弟「」
双子姉「……」
弟「……あの、」
双子姉「なるほど」パタリ
弟「なんで!? 何が成る程なんだよ!?」
双子姉「」しーん
弟「ぐぉぉぉっ!? 何なんだよコレはッッ!? どぉおおおおしてこうなったんだよぉー!?」
「──キンパツ? どーかしたの?」
弟「…!!」ハッ
幼「な、なんで紫ねぇねのカミかぶってハダカ…? なんでみんなたおれてる…?」ぷるぷる
弟「うっ…あっ…」
弟(だ、駄目だ何も言葉が浮かばねぇ…こんなちいせえ脳みそに何言っても伝わらねーだろ…)
幼「──わかった、みんなタイヘン! よーがたすけよんでくるっ!」だだっ
弟「っ…お前…!」
幼「よーにまかせとけ! へいきへいき、キンパツはみんなまもってて!」
弟「……っ…んだよ…」
幼「ふんぬー! もうちょっと、で……とどく、よっ」ピョンピョン
弟(やるじゃんガキ…少し見なおしたぜ…)
幼「よいしょっとー!」ガチャ
弟「ん、待て、どうして玄関のドアを開ける──ゴリラを起こしにいくだけで……」
お隣「あのー先程から凄い音が、外に聞こえてるんですが………」チラリ
弟「……」
幼「あー! トナリねえちゃん! みんながたいへんなんだよ!」わたわた
お隣「…あ、うん大変だね、これは…」
弟「……」
お隣「うん、そうだね……うん、うん……」ソッ
幼「トナリねえちゃん…? なんでドアしめるの…?」
お隣「うん、一緒にウチに来よっか? ちょっとおウチにおまわりさんくるからね、うん」
キィ パタン
弟(ははは。これで出れるな、この家から、あと社会的にも)
【無事に誤解は解けたので出れませんでした】
第二話『ドロドロコーヒー』
終
隔週月曜日、火曜日、水曜日の内何処かで投下できたら。
ではではノシ
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