春香「随分と後を濁して飛んでいきましたね」 (150)
私が事務所にくると、服を脱ぎ捨て
すっぽんぽんになった人物がいた
とうとうダメになったんだね
私はそう頭の中でため息をつき、哀れみの目で見てやった
でも、それは逆効果だったのかもしれない
なんと、その人物は余計に喜んでくねくね動きだしたのだ
そしてひとこと、言い放ってみせた
千早「んぎもちぃぃぃィィィ!!」
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あーあー床がびっしょびしょ
これじゃロクに仕事もできやしない
プロデューサーさん掃除するだけでも大変なのにね…
全くどうしてくれるんだろう
春香「ちゃんと掃除してよね!」
私はそのくねくね動いている人物を叩いてやる
でも叩いた瞬間私は後悔した
そうだった、逆効果なんだっけ
千早「ア………アァッ!」
今度は両手を広げて快楽に堕ちたようだ
プロデューサーさんに無駄に負担を掛けるわけにはいかない
今日は私が掃除するしかないみたいだね
仕方ない仕方ない
春香「ほら、掃除するからあっち行ってて」
千早「アアッ!」
少しでも怒鳴るとダメらしい
また新たに床を濡らしながら歩いていく
余計に掃除場所を増やさないでよ!
私はぶつぶつ文句を言いながら、掃除用具を取り出した
渋々掃除を始めたころに、事務所のドアが開く
小鳥「春香ちゃんおはよう」
春香「おはようございます、小鳥さん」
小鳥「ごめんなさい…いつも私より早く来てくれて助かるわぁ」
春香「いやぁ…別にこれくらい何ともないです」
小鳥「そう……それならいいんだけどねぇ」
毎日毎日、私に代わりを頼んでは事務所に遅れてくる小鳥さんは
いつも私に、ごめんねと謝る
でもそれだけ
だからと言って事務所に早く来ることはないし、早く来ようともしない
まぁ無理もないかな
いつも事務所の床が汚れていたら、遅れて来たくなる気持ちもわかる
春香「もう…偶には早く来てください」
小鳥「そうねぇ…わたしもできるだけ早く来るようにはしてるんだけど」
嘘ばっかり
いつも私が掃除をし終える頃に事務所に来る癖に
小鳥「掃除もしてくれて本当に助かるわぁ」
意識的に言ってるのか、無意識なのか
嫌味のように言葉を付け加えた小鳥さんは私に笑みを向ける
でもその笑みからは、皮肉なものは感じなかった
小鳥「そういえば、今はどこにいるの?」
春香「はい?」
辺りをキョロキョロ見渡しながら、小鳥さんは私に尋ねる
朝から遅れてきて、掃除もすっぽかして
代わりに私に掃除を押し付けては
今度は一方的に質問ですか
……でもまぁ
これも仕方のないことなのかもしれない
質問の意味は分かってる
私は気を落ち付けて小鳥さんに笑って見せる
春香「さっきまで此処にいたんですけど」
小鳥「うーん…取り敢えず服くらいは着てもらわないと困るわぁ」
そう
どれもこれも皆あれのせいだ
毎日毎日事務所に来ては床をびっしょびしょに汚して
そのくせ自分は何にもしなくて
おまけに最近は服まで脱ぎ始めた
その負担を担ってるのはわたし
わざわざ事務所に来なくていいのに
小鳥「春香ちゃん」
イライラしている私にお構いなしに小鳥さんは私の名前を呼ぶ
小鳥さんの顔が少し笑っている
私は今から起こることに少しうんざりした
この顔は何かを頼む時のもの
また私に仕事を与えるのだろう
春香「何ですか…小鳥さん」
心情とは裏腹に私は笑って聞いて見せる
日頃レッスンをやってるせいなのか、無駄に演技力がついた
でも、次の小鳥さんから出てきた言葉に
私の微笑んだ顔も強張ってしまった
小鳥さんは相変わらずのスマイルで
私が今苛立ちを向けている人物の名前を言った
小鳥「千早ちゃんを呼んできてくれないかしら?」
春香「………」
なぜだろう
名前を聞くと胸のあたりがズキズキする
とても心細くなってしまう
春香「小鳥さん」
春香「…もう名前で呼ばなくていいですよ」
私はその場から逃げるように
今も1人くねくねしているであろう人物の元に向かった
小鳥さんは相変わらずのスマイルで
私が今苛立ちを向けている人物の名前を言った
小鳥「千早ちゃんを呼んできてくれないかしら?」
春香「………」
なぜだろう
名前を聞くと胸のあたりがズキズキする
とても心細くなってしまう
春香「小鳥さん」
春香「…もう名前で呼ばなくていいですよ」
私はその場から逃げるように
今も1人くねくねしているであろう人物の元に向かった
たぶんあれは今、給湯室にいる
朝はよく給湯室にいるのと
あと、給湯室に向かって床が濡れているから、予想はついた
毎日無駄にあれの世話をしているわけじゃない
それなりに行動パターンは覚えている
って、変な知識はいらないよ!
ほんとあれのせいで最近は不幸なことばかり
春香「………」
私は給湯室の前で立ち止まり、少し考えた
何でこうなったんだっけ?
せっかくの機会だ
今まで放置してたあれのことについて少し振り返ってみよう
…………………………
春香「アルツハイマー?」
ある病院で、私は小鳥さんとあれに告げられた
春香「って何ですか?」
今まで聞いたこともない言葉に、私は素直に聞き返した
いや、言葉は知らなくてもだいたいの意味は分かる
場所は病院
そして聞きなれない言葉
何かの病気なのは分かる
でも
二人の深刻な顔付きに、私はとぼけて聞き返すことしかできなかった
小鳥「春香ちゃん…落ち着いて聞いてね」
小鳥「物事を覚えることができなくなったり」
小鳥「目の前にいる相手が誰なのか分からなくなったり」
小鳥「人との話すことができなくなったり」
小鳥「身体に障害が出たり…」
小鳥「千早ちゃんはこれから段々とそうなって行くの」
小鳥「治らない…病気なの」
千早「春香………その、ごめんなさい」
千早「今まで黙ってたけど、私はもう…」
千早「アイドルはもう辞めるわ、とても活動できそうにないから」
千早「でも、事務所には来るつもりよ」
千早「いろいろと迷惑をかけるかもしれない」
千早「だから…」
千早「もし春香が嫌になったら、その時は遠慮しないで言って欲しい」
私の質問にすらすらと言葉を並べてくれる小鳥さんと
私の前で真面目な顔で語るそれを前に
その時の私は何も喋ることなく、ただただ黙っていた
それからの私はどうしていただろう
しばらく事務所を休んだり
事務所に顔を出しても、仕事に行かずに欠席したり
そんな私の行動に、事務所にクレームが来たこともある
あれも言葉通り変わっていった
少し前に自分で言ったことを忘れていたり
何度も同じ事を聞いてきたり
病気の症状が少しずつ現れ始め
そのことが更に私を苦しませ
私はどんどんアイドルという職業から離れていった
でも、そんな私と違って
あれはいつも元気だった
がんばってとか、応援してるわとか
そんな言葉を私に掛け続けた
…これじゃどっちが病人なんだか
それから私は少しずつ仕事場に戻るようになり
ある日、あれは私にある渡し物をしてきた
渡されたものはリボンだった
千早「今春香が付けているものは私が大切にするわ」
そう言って、あれは私に新しいリボンをくれた
私もそのリボンを頭につけてアイドルとしての仕事を、がんばってこなしていた
案外やっていけるかもしれない
その時の私にはそういう考えがあったのだろう
でも、ある日
恐れていたことが起きた
私がいつものように事務所にくると
あれは壁に向かって逆立ちしてたのだ
近くにいた小鳥さんは、何かを悟ったような顔をしていた
それは私の顔を見るなり逆立ちを辞めたかと思うと
私の前に来て奇声を上げ始め
事務所の中を走り回った
その時わたしはどうしていたのか
たぶん、その場に立ち尽くしていただろう
自分の状況よりももっと深く覚えていることがある
それは大切にすると言っていた私のリボンを
私の目の前で引きちぎった
それはその後も暴れまわり
最終的には手をつけられなくなった
私も被害を受けた
衣装はバラバラにされその日の仕事は中止になった
あれは笑って私を見ていた
そらから毎日事務所で問題を起こすようになった
外ではおとなしくしてるくせに
事務所では暴れまわる
毎日毎日事務所で騒ぎを起こしては
片付けるのは私
以前それに事務所に来るなと言ったとこもあるが
そう言うと、今度は泣き叫ぶのだ
そんな生活がどれくらい続いただろうか
私は頭を抱えながら給湯室のドアを開けた
給湯室には思ったとおり、あれがいた
相変わらずくねくね動いて
ほんと気持ち悪いよ!
春香「服くらい着たらどうなのかな」
千早「アバば」
私の苛立ちを嘲笑うかのように
それはへらへらと笑って見せる
これじゃ私がバカみたい
春香「だからさ」
春香「小鳥さんが呼んでるの、早くしたらどうなのかな?」
私が軽く怒鳴ると
さすがに分かってくれたのか、それは私に着いてきた
私は床が濡れている給湯室を見てため息をつくと
そのまま小鳥さんの所へ向かった
小鳥「服はちゃんと着ないとダメよ?」
それが脱ぎ捨てた服を、小鳥さんは優しく着せる
こういう時はおとなしくなって
何を考えてるのかな
春香「はぁ…」
ため息がでる
何を理由に私がこんな目に合わないといけないのか
大人しく服を着るくらいなら、最初から脱がなくていいよね
私はせっせと服を着るそれをじっと睨みつける
小鳥「そういえば、春香ちゃんこの後仕事よね」
春香「はい、そうです」
服を着せ終わった小鳥さんは
スケジュール表をちらっと見る
小鳥「そろそろ時間じゃないかしら」
春香「え?」
慌てて時計を確認する
小鳥さんの言うとおり、もう事務所を出ていい頃だった
あれ…私
早めに事務所に来たんだけどなぁ
いつの間にそんなに時間が経っていたのかな
春香「もうタクシー来てますよぉ」
小鳥「掃除は私がしておくから、春香ちゃんは仕事に向かったら?」
珍しく掃除を引き受けてくれた小鳥さんに甘えて
私は急いで支度をする
春香「それじゃ、私行ってきますね」
事務所を出ようとする私に
はーいという声に合わせてもうひとつ
あれの声が重なる
春香「………」
眉間にシワがよる
そうだった、時間が経ったのはあれのせいだ
私が早く事務所に来ても、あれが邪魔をするせいで
私の生活が崩される
…………………………
あれなんか居なければいいのに
私は心の中で愚痴をついて、事務所を出て行った
そう
今となっては、あれはただただ邪魔だよね
私は真面目にやってるのに
あれはいつも迷惑かけて
ほんと、邪魔で仕方ないよ
私は仕事中も適当に流して
あれに対する愚痴を頭の中で巡らせていた
夜、事務所に戻ってくると、あれはもういなかった
春香「もう帰ったんですね」
小鳥「ええ」
私は事務所に置いていた荷物を取り
頭の中で皮肉ぶった
あーよかった
夜もあんなのに問題起こされたら溜まったものじゃないよ
それにしても、自分は好きなだけ迷惑かせておいて
気が済んだら事務所から帰って
私にとっては疫病神でしかないね
……………
…………………………
これからも毎日あれに生活を邪魔されるんだろう
朝から私に向かって走ってきたり
変な踊りを踊ったり
今日みたいに服を脱いだりして
朝からそんなものを見せられて
私は嫌々ながら仕事に向かう
仕事なんかやる気でないよ
春香「………」
春香「これからもずっとこんな日が続くのかな」
私はそんなことを考えながら事務所を後にした
次の日、私は嫌々ながら事務所に向かう
今日はどんなことをされられるのかな
掃除は確定だね
無駄に毎日事務所に来て、面倒くさいなぁ
そんなことを考えながら、私は事務所のドアを開けた
春香「……」
奇妙なことが起きた
毎日事務所に来ていたはずのあれが
事務所に来ていなかった
春香「今日は来てないんですか?」
私が尋ねると、小鳥さんは頷いて答える
小鳥「そうなの、珍しいこともあるのね」
何か違和感を感じた私は給湯室を見る
そこにもあれはいない
今日は本当に来ていないらしい
春香「へぇー…今日は来てないんだね」
春香「………」
私は小さくガッツポーズを取った
やった、今日はあれに邪魔されずに済むね
あー清々する
久しぶりに自由な朝がやってきたよ
今日は仕事がんばっちゃおうかな
春香「えへへ」
どうせ明日からまた邪魔されるんだし
今日は思いっきり楽しまなきゃ
私はスキップしながら仕事に向かう
仕事はとても順調に進んだ
私はいつもより気合を出して
担当の人から褒められて
とにかく、何もかもが上手くいった1日になった
こんなに1日が楽しく思えたことがあったかな
そう私はにやにやしながら1日を終えた
次の日も事務所にあれは来なかった
小鳥「今日も来てないみたいね」
春香「そうみたいですね」
寂しそうな顔の裏腹に私は喜んでみせる
最近ついてるよ!
その日も私は充実した一日を終えた
だが、奇妙な事に次の日もあれは事務所に来なかった
次の日も、次の日も
そしてまた次の日も…
あれは事務所に来なかった
小鳥「どうしたのかしら」
そう小鳥さんは心配そうな顔をする
でも、その横で
私は微笑んでみせた
私は気分がいいのだ
今まで散々邪魔されてこんなに清々しいことはない
これからもこんな日が続けばいいな
私はそう小さく願っていた
………………しかし、
あれが事務所に来なくなって1週間が経った日のこと
私の希望を踏みにじるようにあれは事務所に現れた
春香「………」
あれは、いつしか見た時と同じように
壁に向かって逆立ちをしていた
春香「来たんだね」
あれは、私をちらっと見ると逆立ちを辞める
…………………………
いつかの出来事を思い出す
あれはこの後私に向かって走ってきて
私の前で奇声をあげて
事務所の中で暴れまわって
私はその中で立ち尽くして
そして、私の目の前でリボンを引きちぎる
そんな情景が頭に浮かんだ
それは暫く私を見ていた
…………長い沈黙
そして、それは
私の方を向いてしゃがみ込み、走る体制を整え
私が予想したとおり
それは私に向かって走ってきた
春香「……」
こうなったらもう止められない
何を言っても、いうことを聞かないし歯止めが効かないのだ
それは私の目の前で奇声をあげる
春香「………」
何でこんなことをするんだろう
私は純粋にそう思った
以前私に言葉をかけ続けたそれと違い
今のそれは、私の嫌がるようなことばかりする
このあと、それは事務所の中で暴れまわって
私はそれを呆然と見ていて
そしてそれは私の前にやってきて
目の前でリボンを………
そこまで考えた私は、とっさに叫んでいた
春香「やめて!」
事務所に沈黙が走る
いつもなら暴れまわっていたそれは
私の、やめてという言葉に対して
叫ぶこともなく、暴れることもなく
大人しくその場に座っていた
春香「………」
春香「どうしてこんなことばかりするのかな」
春香「私が嫌がるようなことはしないで!」
私はそれに強く言い捨てて荷物を置くと
そのまま事務所を出て行った
むしゃくしゃした気持ちのまま時間が過ぎていく
また、あれは私を苛立たせた
最近ようやく生活が楽しくなったと思ったのに
ほんと、居なくなればいいよ!
私はストレスを発散するように仕事に打ち込むが
なかなか上手くいかなかった
担当の人から指導を受けてしまい
更に私はイライラしながら仕事をする
そんな時、担当の人が私を呼び寄せた
春香「…何かな」
私はその人のところに向かう
その人に話を聞くと
私宛てに電話が入ってるとの事だった
私は受話器を受け取った
電話の相手は小鳥さんだった
「今すぐ私が今から言う所に来て欲しいの!」
「プロデューサーさんも来てるわ」
「午後の仕事は全部キャンセルしてあるから」
小鳥さんは一方的に私に要件を伝える
電話を終えた私は担当の人に挨拶すると
小鳥さんに伝えられた場所に向かった
P「来たか」
伝えられた場所にたどり着いた私を
プロデューサーさんは出迎える
P「小鳥さんは中にいる」
そう言いながら歩いていくプロデューサーさんに私は着いて行く
建物の中には、幼い子から年をとった人まで
幅広い層の人たちが居て
廊下を白い白衣を着た人たちが歩いている
P「連れてきた」
そういうプロデューサーさんがたどり着いた場所は、待合室だった
小鳥「春香ちゃん」
小鳥「さっきまでは何とも無かったんだけどね」
小鳥「いつも通り元気だったんだけどね」
小鳥さんは真剣な顔で私を見る
プロデューサーさんも同じ顔で私を見る
何だろう
前にもこんなことあったような
春香「どうしたんですか?」
そう小鳥さんに尋ねる私から見える視界が、以前と重なり
私はとても不安になった
小鳥さんはその時と同じように私を見る
小鳥「落ち着いて聞いてね」
そう続ける小鳥さんから出て来た言葉に私は耳を疑った
小鳥「千早ちゃんはもう長くないの」
春香「え?」
小鳥「今はまだ脳は働いてるけど」
小鳥「そのうち言葉も理解できなくなるらしいの」
小鳥「そこまで脳が衰退したら、自分でも理解できないような場違いな行動を起こしたりするかもしれないって」
小鳥「そう伝えられたわ」
皮肉にも、黙り込む私に小鳥さんはすらすらと言葉を並べてくれる
P「今日はもう帰って休むんだ」
P「明日、またここに来よう」
P「家には俺が送っていくから」
そういうプロデューサーさんに私は黙ってついていった
アルツハイマーってこんな病気だったっけ…
覚えられないんじゃなく忘れていく病気だった気がするんだが
そのうち徘徊するようになり行方不明になるんじゃ…
>>45
アルツハイマーにかかり、記憶ができなくなり、体に異常がでてきて体がいうことを聞かなくなくなり、寝たきりの状態になって、亡くなりました
なんで同じ様なスレ立てたん?
何が起きてるの?
私は落ち着いて歩く仕草と裏腹に、心の中で焦る
小鳥さんは何て言った?
もう長くない
長くないってあれが?
え、どういうこと
それって…いなくなるってことだよね
>>50
荵励▲蜿悶i繧後∪縺励◆
いなくなるって…事務所からだよね
春香「……」
やったじゃん
いなくなるんだよ!
毎日毎日私に意味不明な行動をして
面倒くさくて私の生活の足かせになってたあれが
もう少しで居なくなるんだよ
もうあれを2度と見なくて済むんだよ
千早ぶるって同じ内容スレがあってまとめサイトにアップされてるんだが
あーあーなんだろうねこの気持ち
もうあれじゃ病院から出ることもないから
明日からあれに邪魔されることもないし
あれを事務所で見ることもないし
………………
でも、見舞いに行かないといけないから、もう少し顔を見ることになるかな
あれの横でリンゴの皮を剥いてやったり
…それは面倒だからバナナ持って行けばいいか
春香「……」
どうせならいつも作ってるクッキー持っていこっかな
最後くらいはそれくらいしてやってもいいかな
それが終わったら
やっと私が望んでた生活がやってくるんだよね
嬉しくてたまんないよ
もうあれを見なくて済む
邪魔されずに済む
春香「………」
嬉しいよね
私は今、嬉しいんだよね
…だってそうだよ
あのツラを見なくて済むんだよ
もうあれを見られなくなるんだよ
もう邪魔されることも無くなってしまうんだよ
…………………………
あれのいない生活がこれから続いてしまうんだよ
春香「………」
私は車の中でひとり手が震えていた
P「辛いか?」
P「いや…」
P「辛くないわけないか」
P「……」
P「千早と春香のことは小鳥さんからよく聞いてる」
P「お前のことについて、小鳥さんはいつも話してたよ」
P「千早はもう長くない、下手したら今日いなくなるかもしれない」
P「だからとは言わないんだが」
P「……」
P「最後くらい、千早と向きやってやったらどうだ?」
そう運転しながら話すプロデューサーさんに
私は無言を突き通した
>>56
荵励▲蜿悶i繧後∪縺励◆
なんか既視感あると思ったらあれか
ってかまだスレ残っとるやんあっち
>>63
荵励▲蜿悶i繧後∪縺励◆
荵励▲蜿悶i繧後∪縺励◆
この文字伏せ字になるんですか…?
乗っ取られました
>>68
乗っ取りされた()スレをみてくればいい
>>69
内容が同じって何処がですか?
もしかして序盤の話をしてるのなら、それは途中まで私が書いてるからそうでありますが…
…………………………
なぜだろう
今までいなくなって欲しいと思っていたのに
嫌だと思っていたはずなのに
何で素直に喜べないんだろう
…………………………
そんな疑問を抱えながら
私は、今までなりもしなかった感情に戸惑っていた
次の日、外は雨だった
ただの雨ならまだしも、寄りによって大雨だ
私はクッキーを作り、あれが今も眠っているであろう病院に向かった
…………………………
長い時間をかけて病院に着いた私は
傘が沢山立ててある場所に私の物も置いて、建物の中に入る
中は既に人が多く、その中に小鳥さんとプロデューサーさんも座っていた
P「濡れなかったか?」
そう私に聞いてくるプロデューサーさんは、私を見ると直ぐに言い直した
P「…ってそうじゃなさそうだな」
全くだ
タクシーで来たのはいいとして
降りてから病院の入り口に来るまでに一気に濡れたのだ
傘をさしても防ぎきれないこの大雨はあれに似ている
春香「そんなに濡れてないので大丈夫です」
私は、気にしない素振りでプロデューサーさんに笑って見せた
P「千早は起きてるそうだ」
椅子に腰掛けて暫くすると、プロデューサーさんが口を開く
P「今は気分も落ち着いていて、特に問題はないらしい」
P「…顔を見てくるか?」
黙り込む私に、小鳥さんが付け加えた
小鳥「1人の方が話しやすいと思うし、私達はここで待ってるわ」
気に食わない
私は何も言っていないのに
私があれのいる病室に行くことが前提で話を進める
P「今無理にとは言わない、春香の好きな時でいいさ」
私の気持ちを察したのか偶然なのか
プロデューサーさんは私に気を遣ってくれた
ちょうどいい、なら行かないでおこう
……今はいいです
私はそう答えようとした所で、少し思い直した
あれはもう長くない
最後くらい向き合ったらどうだ
プロデューサーさんに言われた言葉に、わたしは思い直す
どの道顔を合わせることになる
なら、今行ってもいいよね
春香「いえ、行って来ますね」
私はそうプロデューサーさんに伝えると
あれがいる病室へと向かった
あれが居るのは2階の病室
私は階段を上がりその病室へと向かう
やがて病室に辿り着いた私は、外から中の様子を伺って見た
春香「……ちゃんと落ち着いてはいるみたいだね」
少し安心した私は、そのままドアを開けた
春香「……」
それはベットの柵に背中を持たせて座り、窓の外を眺めていた
中に入ると、それは私に気づいて目線を変える
私を見ても、もう暴れることもない
春香「ほんとにもう長くないんだね」
たった1日で、見て分かるくらいにそれは痩せてしまっていた
春香「………」
なんだろう
何かが胸を締め付ける
春香「具合はどうなのかな」
それに少し距離をとって私は椅子に座る
とりあえず言葉をかけるものの、
それは何も答えずに、私を無言で見続ける
春香「……」
何故だろう
どうして私は胸を締め付けいるのかな
弱ってしまっているそれを見て
どうして悲しくなるのかな
正直実感が湧かない
今まで嫌だと思っていた日々が
これからも続くはずだった毎日が
ほんとに変わろうとしていることに
春香「あのね」
春香「クッキー焼いてきたんだけど」
春香「バナナとか持ってきてもよかったんだけどね」
春香「せっかくだから作ってきたの…どうかな」
私はバックからクッキーが入った箱を取り出すと
目を伏せながら差し出した
なんだろうね
何を話せばいいのかな
言葉が全然思いつかないよ
病室に沈黙が走る
私はじっとクッキーの箱に目を凝らす
やがて、それの手が箱に伸びる
よかった
食べてはくれるんだね
手をつけてくれなかったら、これから何すればいいか分からなかったよ
私はほっと一息ついた
………でも、次の瞬間
そのクッキーは私の胸にあたり
床に落ちた
春香「え?」
私は顔を上げる
それは、私を見て笑っていた
春香「なに…するの」
それは私が作ってきたクッキーを、私に向かって投げつけたのだ
春香「何でこんなこと…するのかな」
私がいろんなことに頭を悩ませ
何を持っていこうか考えたり
朝からクッキーを焼いたりしている一方で
それはいつものようにふざけてみせる
私が嫌がるようなことをする
春香「……」
春香「なんだよ!せっかく心配してるのに」
春香「今まで私の邪魔をしてきたかと思えば、今度は急にいなくなろうとして」
春香「もう散々だよ!」
春香「こんなことするくらいなら、早く私の前から居なくなってよ!」
私はそれに強く言い捨てて病室から飛び出した
信じられない
心配したのがバカだったよ
もう知らないから!
私は人が居ない所に来ると
近くにあった椅子に座り混んで、顔を伏せる
もうどうなってもいいよ
言葉が分からなくなっても
さっさとおかしくなればいいよ
早く私の前から居なくなればいいのに!
…………………………
…………………………
どれくらいそうして居ただろうか
気がついたら私は眠りについていた
春香「………」
春香「………」
春香「ちーはーやーちゃん」
春香「………」
千早「春香?」
春香「えへへ」
千早「なにかしら」
春香「………」
春香「………」
春香「………」
春香「………」
春香「………」
春香「………」
千早「大丈夫よ、春香」
春香「………」
春香「…うん」
春香「………」
春香「………」
春香「………」
千早「ずっと前から買ってたんだけど、中々渡せなくて」
春香「………」
千早「私が選んだものだから、もしかしたら気に入らないかもしれない」
春香「ううん、いいよ」
春香「これ、私のお気に入りだよ」
春香「………」
春香「………」
春香「………」
春香「………」
春香「………」
千早「春香、来て欲しい所があるの」
春香「………」
春香「…うん」
千早「………」
春香「………」
春香「………」
春香「………」
春香「………」
春香「ねぇ、ここは?」
千早「………」
春香「………」
春香「お墓が沢山あるね」
千早「………」
春香「あ、待ってよ千早ちゃん」
春香「………」
春香「…ねぇ」
千早「………」
春香「どこに行くの、千早ちゃん」
春香「私、ちょっと怖いよ」
千早「………」
春香「………」
春香「………」
春香「………」
春香「ねぇ…千早ちゃん」
千早「………」
春香「ふぅ、やっと止まってくれたね」
春香「………」
春香「……それで、ここどこなのかな」
千早「………」
春香「………」
春香「…ねぇ、千早ちゃん」
千早「………」
春香「黙ってないでこっち向いてよ」
春香「………」
春香「………」
春香「千早ちゃん……?」
千早「………」
千早「……は…………か」
春香「………」
春香「え?」
千早「アァァァァァァアアアア!!!」
春香「キャァァァァァァァァア!!!」
…………………………
何か怖い夢を見ていた気がする
私は顔を上げ、周りを見渡した
春香「………」
周りには誰もいない
春香「座ったまま、寝ちゃってたんだ」
曖昧な記憶を辿る
何で私寝てたんだっけ
いや、その前に
………何でここにいるんだっけ
その前に私が病院にいるのは何でかな
誰かのお見舞いかな
入院してた人なんて居たっけ
……………………
そうだねぇ、居たね
だんだん意識がはっきりして来たよ
それで私は病院に来てるんだったね
じゃあ今ここに居るのはなんでだろう
私がお見舞いに来たのなら今ここに居るのはおかしいよね
私は病院に来て、プロデューサーさん達にあって
あれと顔を合わせることになって
それで………
春香「………」
それで、わたしは………
あれにクッキーを…投げつけ…られて
……そして
そして……私は
病室を…飛び出して!
小鳥「春香ちゃん!」
その時、小鳥さんが私の元に走ってきた
小鳥「こんなところに居たのね」
小鳥さんは何やら急いでる様子だった
春香「病院ではあんまり騒がない方が」
小鳥「それどころじゃないのよ」
小鳥「大変なの!」
そう真剣な顔で話す小鳥さんに私の意識は完全に戻る
春香「どう…したんですか?」
小鳥「千早ちゃんが病室から出て行ったの!」
春香「え?」
出て行ったってどういうことかな
よく分からなかった私は聞き返す
春香「病室から出たってどういうことですか?」
小鳥「あまりにも春香ちゃんが遅かったから、さっき病室を見に行ったの」
小鳥「そしたら千早ちゃんが暴れててね」
小鳥「………」
小鳥「担当の人を呼んだら、もう手遅れだって言ったわ」
小鳥「私たちの言葉も分からないだろうって」
小鳥「それでとりあえず千早ちゃんを抑えようとしたんだけど、病室から出て行ってしまって」
黙り込む私に小鳥さんはすらすらと言葉を並べてくれる
でも、次の小鳥さんが喋った言葉に私は違和感を感じた
小鳥「千早ちゃんを今、プロデューサーさんが探しに出てるわ」
その言葉に私は疑問を抱いた
春香「探しに出てるって、外に出て行ったってことですか?」
小鳥「そうなの」
小鳥さんは直ぐに頷く
何考えてるの
外は今大雨だよね
こんな天気のなか外に出るなんてどこまでバカなのかな
小鳥「春香ちゃん、早く千早ちゃんを探しに行かないと」
そう私を引っ張る小鳥さんに私は着いて行く
一瞬でも外に出たらびしょ濡れになるような
少し遠くになると視界が見えなくなるような
そんな大雨のなか、数人が探した所で見つかるわけない
それに雨で車が多い中、どれだけ外が危険かも分からないのに
そんな中に飛び出していくなんて、あれはホントにバカだよ
だいたいそうだよ、あれはいっつもいっつも
行動がおかしすぎるよ
さっきだって、私のクッキーを……
春香「………」
そこまで考えた私は、小鳥さんの手を振り払った
小鳥さんの足が止まる
小鳥「春香ちゃん?」
春香「………」
戸惑う小鳥さんに、私ははっきりと言った
春香「私、探しに行きたくないです」
そうだ
あれはクッキーを私に投げつけて笑ったんだよ
私に嫌がることをする度に笑う
衣装をボロボロにした時だって…
最後まで私にそんなことをするあれに対して
この雨のなか、わざわざ探す必要もないよ
春香「私、探しに行きたくありません」
小鳥「………」
私の言葉に対して、小鳥さんは黙り込む
周りは沈黙に包まれた
春香「前から嫌だったんです」
春香「毎日毎日朝から嫌がらせを受けて」
春香「嫌々仕事に向かうような毎日が」
小鳥「………」
黙り込む小鳥さんに、私は続けて話した
春香「何を言ってもいう事をきかなくて…」
春香「私の事が嫌いなんですかね」
春香「まぁ、それは分からないとしても、私は嫌い」
春香「さっきもクッキー投げつけられましたし」
春香「病院から出て行ったのだって、私が………」
そこまで言ったところで、言葉が止まった
私が…
私の目の前から居なくなればいいと言ったから、病院から出て行った
…それって
もしそうだとしたら、あれは私の言う事を聞いたことになる
春香「………」
そんなことがあるのかな
あるはずないよね
だって今まで私の言うことなんか聞かなかったから
さっき小鳥さんも言ってたよ
もう手遅れだって
手遅れってことはもう、
人の言葉が分からないってこと
自分でも理解できないような行動を起こしたりすることもあると言ってたし、
外に出るのは全く不思議じゃない
だから偶然
春香「………」
ホントにそうなのかな
そういえばこの前、私がやめてって叫んだ時も
あれはおとなしくその場に座り込んだね
何でかな
あれは紛れもなく私の言う事を素直に聞いたの
だとしたら、今回も
小鳥「そうかしら」
不意に、小鳥さんが私に話しかけてきた
小鳥「千早ちゃんが春香ちゃんのことを嫌いだと思う?」
小鳥「それに」
小鳥「千早ちゃんがやっていたことは、嫌がらせなんかじゃないと思うわよ」
そういえば、話の途中だった
私は小鳥さんに顔を向ける
春香「何で…そう思うんですか」
小鳥「そうねぇ」
ちょうどいいわと小鳥さんは、腕に掛けていたカバンから何やら封筒のような物を取り出した
春香「それは…何ですか」
小鳥「いいから中を開けてみなさい」
私は既に封を切ってある、封筒のようなものの中身を取り出す
春香「手紙ですか?」
私はそこに書いてある文字に目を移した
何処かで見たことがあるような文字だね
私は書いてあることに集中した
春香「………」
…………………………
春香へ
春香がこれを読んでいるということは、
私はもうダメになっているのね
春香「え?」
小鳥「千早ちゃん、病院に運ばれたとき着替えがなかったの」
小鳥「だから病院用の服に着替えて、その時に千早ちゃんの服を渡されたんだけど」
小鳥「そのポケットの中に入っていてね」
春香「………」
私は夢中になって、その手紙の文字を辿った
…………………………
春香へ
春香がこれを読んでいるということは、
私はもうダメになっているのね
少し悲しいわ
こんなふうに手紙を書くのは、私には似合わないかしら
まぁ、それは置いておくとして
今日春香にリボンを買ったの
今度渡そうと思うんだけど、春香は気に入ってくれるかしら
少し不安ね
でも、春香は偶に私を見て寂しそうな顔をするから
これからも春香が元気でいられるように
そんな願いを込めて選んだものなの
大事にして欲しいわね
春香「………」
私は無言で手紙を読み続ける
私はもう長くないわ
どんどんおかしくなっていくのが、自分でも分かるの
でも私がおかしくなっても、春香に対する気持ちは変わらないわ
私は大丈夫、だから春香も笑っていてくれないかしら
私はずっと春香を応援してるわ
春香「………」
何だろうこの気持ち
何でこんな物を読んで、私は胸が苦しくなるのだろう
下の方に、まだ続きが書いてあった
不思議に思った私は文字に目を移す
………ってなんか恥ずかしいわね
春香「………」
直接伝えようかとも思ったけど、
手紙じゃないと言えない事があったの
いや、言えないというより聞けないかしら
何てことでもないの
…ただ、少し心配になったから
ごめんね春香、気を悪くしないで
春香は…
私がおかしくなっても、私を嫌いにならないでいてくれるかしら
小鳥「事務所で暴れることはあっても」
小鳥「直接何かをしたりというのは、春香ちゃんだけだったわ」
小鳥「でもね」
小鳥「千早ちゃんが春香ちゃんにしていたことは、嫌がらせなんかじゃないと思うの」
小鳥「だって、春香ちゃんに何かをする時」
小鳥「いつも千早ちゃんは笑っていたの」
小鳥「春香ちゃんを元気付けようとしていたんじゃないかしら」
バカだ
本当に馬鹿だよ
変なことばっかりされて、嬉しくなる人なんかいないよ
例え元気付けようとしていたとして
気づくはずない
そんなバカだから人の言葉も理解できなくなるんだよ
もう誰が何を言ったところで、あれは分からない
………分からない
春香「………」
私があれに最後にかけた言葉は何だったっけ
人の言葉が理解できる最後の瞬間に、あれが聞いた言葉はなんだっけ
……………………………
居なくなればいい
ふざけないでよ
でも、あれにかける言葉はそれで十分
気に入らないのはあの手紙
私を嫌いにならないでいてくれるかしら
何を聞くかと思えば
………もちろんだよ
春香「待ってて」
私は病院の入口まで向かい、傘を取り出すと、そのまま外へと走った
何処にいるかなんて分からない
分かるのは私が走って追いつく範囲であるということ
私にできることは走ることくらい
私は走り回った
傘なんて一瞬で使い物にならなくなった
外に出た瞬間びしょ濡れになった
これじゃ風邪をひいてもおかしくないね
こんな雨の中探した所で、見つからないのは分かってる
たとえ、見つかるとしてもそれはホントに偶然
ただ、その偶然がおきるなら私は走るよ
でも……
少しだけ雨が弱まって欲しいかな
春香「………」
原っぱに出た所で、私は立ち止まる
傘に落ちる雨の音が小さくなる
周りの視界が広がっていく
春香「雨が止んできたね」
さっきまで嵐のように降っていた雨が
嘘のように小降りになった
私は周りを見渡す
…………………………
すると1人、道端からあれが私を見て立っていた
千早「………」
私はゆっくりとそれに歩み寄る
最後くらいは向き合わないとね
私は自分に言い聞かせてそれに話しかけた
春香「見つけたよ」
春香「随分と濡れたね、傘も持たないで」
千早「………」
春香「私も明日は風邪ひいちゃうかな」
千早「………」
春香「………」
それは、何も応えることはなく私を見る
人の言葉も分からなくなってしまったヒトが
そこには立っていた
ごめん、ごめんね
多分疲れていたんだと思う
重い病気を抱えているのに、私に声をかけ続けてくれたり
私を気遣ってくれたり
そんな日々にいろいろな疲労が溜まっていたんだよね
「物事を覚えることができなくなったり」
「目の前にいる相手が誰なのか分からなくなったり」
「人との話すことができなくなったり」
「身体に障害が出たり…」
「千早ちゃんはこれから段々とそうなって行くの」
「治らない…病気なの」
こんなことになって辛くない筈がない
普通なら何もかもが嫌になって、投げ出したくなることだろう
周りのことなんかどうでもよくなってしまうことだろう
それでも、ふて腐れることもなく私に声をかけ続けてくれた
落ち込む私を励ましてくれた
いつも1人で抱え込んで頑張るような
そんな性格だから尚更だったんだと思う
偶には、自分を気遣ってもらったり
こんな病気は嫌だとか、誰かに叫んでみたり
自分の胸の内をもっとさらけ出したかったんだと思う
そう願わなかったとしても、そうすべきだった
そうさせてあげるべきだった
責任は私にもある
ついつい自分も辛いからと、
1番辛いはずの病人に励まされることを当たり前としていた私の依存心
私だって辛いんだよって
自分のことしか考えていなかったダメな人
私はあれ以上にバカだよ
誰に文句を言う権利もなかった
おかげであれは
事務所内で暴れるようになるほどにおかしくなってしまった
最後には自分から病院を飛び出してしまう程に
おかしくなってしまった
自分でも理解できないような場違いな行動?
うるさいな、そんなものじゃないよ
これはあれが望んだことなの
私の前から居なくなることをあれは望んだの
最近言うことを聞いて、私がやめてって言った時に座り込んだりした理由も今なら分かるよ
私に言われたことが辛かったから
そうだよね
まだおかしくなかった時も、辛い思いをさらけ出さずに
1人抱え込んで手紙を遺した
何で直接私に言わなかったのか、それは書いてあったとおり
私に直接言えなかった
自分がおかしくなった時に手紙を読んでもらって、
そのとき私に考えてもらおうというやり方だよ、まったくもう
私はどう思っていたんだっけ
あれがいる毎日をどう思っていたの
邪魔だ
気持ち悪い
事務所に来なくていいのに
居なくなればいいよ
春香「………」
胸がとても苦しくなる
心ならずも、あれに振り回されることになる可哀想な人
朝から相手をさせられて、嫌々ながら仕事に向かう
それが、私のスタンスのはずだった
それで、私
そう私だよ、私は自分に聞いているの
真面目な質問だからちゃんと聞いてね
そして答えて、それじゃ聞くよ
本当は居て欲しいと思ってたんじゃないのかな
答えてよわたし
考えてよ、どうなのか言ってみてよ
朝事務所に来たら、騒がしいあれが出迎えて
私の前で踊ったり、騒いだり
それにうんざりしながら掃除をして
そんな荒々しい朝に、私は元気をもらってたんじゃないのかな
元気がある病人を見て、辛いはずの私もその日を頑張ろうって
そんな気になれていたんじゃないのかな
邪魔で気持ち悪くて
事務所に来なくていいし、居なくなればいい
こんなのは嘘だよ、私はそんなこと思ってなかったの
え、違うの?
まだ認めないのかな
それは本心だって言うんだね
へぇ…そうなんだ
じゃあ私はこう思っていたんだね
もう長くないからなに、病院から出て行ったからなに、そんなの知ったことじゃないや
そうでしょ、そういうことになるよね
本当にあれの存在が嫌で
居なくなってほしいと思っているのだとしたら
私がこう思ってもおかしくないよね
こう思うのが普通だよね
これは私が望んでいたことなんだからさ
違うとは言わせないよ、だって明らかだもん
なのに、私はあれを探したの
服のポケットに入っていた手紙
あれが私に遺したメッセージ
嫌いにならないでいてくれるかしら
その質問に、私はもちろんだよって答えた
そうだよね
せっかく自分から病院を出て行って居なくなってくれたのに
私はそれを探しに行ったの
ねぇなんで
私はいつもぶつぶつ愚痴を言ってばかりだったんじゃなかったの
居なくなって欲しいと思ってたんじゃなかったのかな
だったらさ、大雨の中わざわざ探しに行かずに、無視してればよかったじゃん
涙ぐんでないで答えてよ
無視していれば
私はあれについて悩むこともなかったと思うし
あれを見て胸を苦しめることもなかっただろうし
クッキーとかもわざわざ作ることもなくて
あれを探しに行くこともなかった
そうだねぇ
あれを探しに行かなければ
外を走り回ったりすることもなかったし
大雨にずぶ濡れにならなくても済んだし
風邪を引く心配とかもしなくてよかったんだよ
そういった自分のことよりも
私は真っ先にあれのことを考えた、なんでかな
これで最後だよ、はっきり答えて
私は千早ちゃんのことを居てほしいって思ってたんじゃないのかな!
ほら、言ってよ!
春香「あたりまえだよ」
私は答えた
春香「居て欲しかったに決まってるよ、分かりきったことを聞いて来ないで!」
そうだよ、その通りだよ
さっきからなにあたりまえの事を言ってるのかな
千早ちゃんは変わっても千早ちゃんだよ
何処からどう見ても千早ちゃんだよ
元気がない私に声をかけ続けてくれたの
おかしくなっても私の事を考えて居てくれたの
私が千早ちゃんを居て欲しくないなんて思うはずがないよね
何度聞かれても答えは変わらない
当然だよ
…………………………
…………………………
春香「そういうことだよ、千早ちゃん」
私は千早ちゃんを見る
春香「私は千早ちゃんに居て欲しい」
春香「これが私の本心かな」
春香「………」
春香「だから、何も気にすることないよ」
春香「好きなだけ私のそばに居ればいいし、もし今辛いなら私に向かって暴れてもいい」
春香「私は全然嫌だとも思わないし」
春香「それで少しでも千早ちゃんが楽しくなるなら、私嬉しいもん」
春香「………」
春香「私の言ってること、分かるかな」
千早ちゃんはキョトンとした顔で私を見ている
春香「みんな待ってるから、病院に戻ろうよ」
千早「………」
春香「ほら、いくよ」
私は千早ちゃんの手を引く
千早ちゃんは何も喋ることもなく、私に着いてくる
病院に戻る途中、顔は殆ど見ることはなかった
偶にチラッと見るもののよく顔は見ていない
でも、心なしか千早ちゃんは
嬉しそうな顔をしているように見えた
病院に戻ると、千早ちゃんはすぐに病室に連れていかれた
後になって、小鳥さんとプロデューサーさんも病室に戻ってきた
P「千早はどうだ?」
私はプロデューサーさんに浮かない顔をする
病院にに戻ってから、千早ちゃんの容体は悪くなった
暴れはしなかったが…いや
暴れることもできなくなるほどに
体が弱まってしまっていた
P「そうか」
P「様子…見に行くか」
私は小鳥さんたちと千早ちゃんのいる病室に向かった
千早ちゃんはとても辛そうだった
痛いとかそういうものではなく、
体が重く、熱っぽいようだった
千早「……くっ」
時々、咳をする千早ちゃんを私達は見守った
長い長い時間、見守り続けた
そして、その夜
千早ちゃんは亡くなった
3日後
千早ちゃんの御葬式を終えた後
私は千早ちゃんの写真が飾ってある前で
小鳥さんと話していた
小鳥「あっという間だったわね」
春香「……はい」
小鳥「………」
小鳥「千早ちゃん、今頃どうしてるかしら」
春香「そう…ですね」
小鳥「………」
春香「………」
春香「千早ちゃんは幸せだったのかな」
小鳥「え?」
春香「私にいつも嫌がられて、文句言われたりして」
春香「病院に運ばれても、居なくなればいいなんて言われて」
春香「千早ちゃんが最後に聞いた言葉もそれですよね」
小鳥「………」
春香「もっと早く千早ちゃんに居て欲しかったって言えばよかったなんて、思うんです」
春香「そうすれば、最後くらいは幸せになれたかもしれないのに」
小鳥「………」
小鳥「幸せかどうかは千早ちゃんにしか分からないことだから何とも言えないけど」
小鳥「春香ちゃんの、居て欲しかったっていう言葉もちゃんと届いているんじゃないかしら」
春香「そうだといいですね」
春香「私、これからはもっといろんなことに向き合おうと思うんです」
春香「今まで、毎日適当に過ごしてましたけど、千早ちゃんの分も頑張ろうかなって思うんです」
小鳥「………」
小鳥「そう…それなら、それを今千早ちゃんに伝えたらどうかしら」
春香「え?」
春香「………」
春香「そうですね」
私は千早ちゃんの写真に歩み寄る
春香「千早ちゃ………」
春香「………」
春香「えへへ、どうしようかな」
春香「今になって涙が出てくるなんて」
春香「後からになって分かるんだね」
春香「千早ちゃんが居たことのありがたみが」
春香「こんなことならもっと千早ちゃんと向き合っていればよかったね」
春香「私、これからちゃんと生きるよ」
春香「嫌な事があったって投げ出したりしないよ」
春香「ちゃんと向き合うから」
人が少なくなった夜の会場で私は
見守る小鳥さんの前で
千早ちゃんに向かって呼びかけていた
完
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