希「完璧な世界」 (57)
Chapter1
絵里【雨と夕焼け】
雨が降る夕焼け空の交差点。
私はただここに立って景色を眺める。
悲壮感漂うこの景色で黄色い傘を差して母親と楽しそうに歩いている子供を見て、この景色の中でもこんな幸せな光景がある事に驚いた。
行き交うサラリーマンの傘の色は黒や茶色で、黄色い傘は凄く目立っている。
ここで、希が車に轢かれた事実を知らないあの子供は今完璧な世界にいるのだろうなと思う。
あの子供は何も知らない。
人の死も空がなぜ青いのかも雨が何故降るのかも何も知らない。
何も知らない世界の中であの子供は生きている。
完璧なんだ。
何も知らないって事は完璧なんだ。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1404639570
でも、あの子は完璧な世界で生き、やがて完璧な世界はないのだと知る。
自分の欠点。打ち込んで来た事に才能が無いと知った時。
家族の死。クラスメイトからの悪口。
ニュースで見る殺人事件。
その他の事を経験して完璧は無いと本能的に分かるんだ。
そう、今の私のように。
雨はまだ降り続ける。
太陽の光が空を焼いてオレンジ色に染まる。
やがてこの太陽の光は空を焼き尽くして真っ黒にしてしまうだろう。
その前に私にはやる事がある。
完璧な世界は完璧な世界のままにしないとダメなんだ。
Chapter2
希【完璧な世界】
凛「希ちゃーん!」
希「お、凛ちゃん。こんな所で会うなんて珍しいやん?」
凛「だねー!希ちゃんが空を飛べるなんて知らなかったにゃー!」
希「うちもびっくり!凛ちゃんが空を飛べるだなんて」
凛「凛も空ぐらい飛べるよー!助走つけてわーって両手バタバタすればいいんでしょ?」
希「えらい古風やねー。うちもスピリチュアルパワーで飛んでるんよ?」
凛「あーだから両手バタバタってしてないんだねー」
希「凛ちゃんうち雲の上で穂乃果ちゃんから貰ったおまんじゅう食べよーと思ってるんやけど一緒に食べる?」
凛「えっ!?いいのー?」
希「じゃあ食べよっか!」
凛「うん!」
希「んー?つぶあんとこしあんどっちがいい?」
凛「こしあんがいいにゃー!」
希「あっ!うちもこしあんがいいって思ってた」
凛「一緒だにゃー」
希「一緒やねー」
凛「じゃあ半分にしよう!」
希「お、ナイスアイディアやん?」
凛「つぶあんも半分にしたら両方食べられるね!」
希「そうやんな!はい、こしあん」
凛「わぁーいありがとう!」
希「じゃ食べよっか!」
凛「うん!・・・う~ん穂乃果ちゃんのお店のおまんじゅうはいつ食べても美味しいにゃー」
希「そやねー美味しいにゃー」
凛「あっ!凛のマネ!」
希「ふふふ。似てた?」
凛「似てないにゃー」
希「嘘やん?結構自信あったのに」
凛「だって希ちゃん声出せないじゃん!」
希「ん?どうしてうちが声出せないって言ったん?出せてるよ?」
凛「あはは。そうだね。そうだね」
希「凛ちゃん?」
凛「どうしたんだにゃ?」
希「うちやっぱり死んでしまったんかなあの時」
凛「ううん。死んでないよ。大丈夫だよ!」
希「そっかぁーよかった。うちがおらんかったらえりち悲しむやろうから」
凛「凛達も悲しむよ?」
希「本当?」
凛「うん!希ちゃんはミューズに必要だって絶対ぜっーたいおもうんだー」
希「褒めても何も出らんよ?」
凛「あ、なんか希ちゃん顔赤いよー」
希「あ!お礼にわしわしマックスしてあげよっか?」
凛「そ、それは遠慮しとくにゃー!」
希「そう遠慮せんと・・・それ!」
凛「その動かない手で何が出来るの?何も出来ないよ。空を飛ぶ事も。スピリチュアルパワーじゃ空を飛べないんだよ」
希「凛・・・ちゃん?」
落ちて行く。
雲の上から地面へ。
落ちて行く。
私を見下げる凛ちゃんの顔はとても悲しそう。
希「凛ちゃん!助けて!!!」
凛「無理だよ。もう。凛じゃどうしようも出来ないよ」
希「だって凛ちゃんは飛べる!!助けてよ!私を!」
そして私は地面に激突した。
Chapter2
希【BlueWater】
私はぐちゃぐちゃになる。
右手は飛んで行き幼児に潰され水になる。
左足は潰れ水になる。
頭も何もかも水になる。
私にはもうどうする事も出来ないから身を任せ。
川へと流れる。
希(どうしよう。これじゃ何も出来へんなぁ・・・)
希(まぁ水になることもそうそう無いんやし、今はこのままで)
交尾する魚。
水の中で踊るビニール袋。
積み上げられた石に犬が小便していた。
幾つかの光景を見ながらうちは川を下り、海に出た。
海猫が鳴いて。
浜辺に座ってる二人の男が酒を飲み交わしている。
しばらく、その男達を眺めていると、一人白目を向いて倒れた。
穂乃果「愛してるーーー!!!」
希(穂乃果ちゃんの声や・・・)
うちは穂乃果ちゃんが誰を愛しているか知りたくなって、声のする方へ流れた。
穂乃果「愛してるーーー!みんな愛してるーーー!」
希(なんやみんなかぁ・・・海未ちゃーんとかことりちゃーんとかだったら面白かったんやけどなぁ)
穂乃果「愛してる・・・希ちゃん」
希「ええっ!うち!?」
驚いて声に出してしまった。
だけど私は青い水。
音は出ずに水面がブクブクと泡立つ。
穂乃果「希ちゃんいるんでしょ?愛してるよ」
私は何だか恥ずかしくなって、体が暑くなった。
すると、何だか体が軽くなって私は水蒸気になった。
モクモクモクモクと穂乃果ちゃんへと近付いて元の体に戻れた。
希「あ、戻った!」
穂乃果「うわぁぁ!希ちゃん!」
希「誰の事を愛してるって~?」
穂乃果「希ちゃんあなたを愛しています。
たとえ、人間の不思議な言葉、天使の不思議な言葉を話しても愛がなければ、私は鳴るドラ、響くシンバル
たとえ、預言の賜があり、あらゆる神秘、あらゆる知識に通じていても、愛がなければ、私は何者でもない
たとえ、全財産を貧しい人に分け与え、たとえ、賞賛を受けるため自分の身を引き渡しても、愛がなければ私には何の益にもならない
愛は寛容なもの、慈悲深いものは愛。愛は妬まず高ぶらず誇らない
見苦しいふるまいをせず、自分の利益を求めず、怒らず、人の悪事を数えたてない
愛は決して滅び去ることはない
預言の賜なら廃りもしよう、不思議な言葉ならやみもしよう、知識ならば無用となりもしよう
我々が知るのは一部分、また預言するのも一部分であるがゆえに、完全なものが到来するときには部分的なものは廃れ去る
私は幼い子どもであった時、幼い子どものように語り、幼い子どものように考え、幼い子どものように思いを巡らした
ただ、一人前の者になったとき、幼い子どものことはやめにした
我々が今見ているのは、ぼんやりと鏡に映っているもの
その時に見るのは、顔と顔を合わせてのもの
私が今知っているのは一部分
その時には、自分がすでに完全に知られているように、私は完全に知るようになる
だから、引き続き残るのは、信仰、希望、愛、この3つの内その中で最も優れてる物は愛」
希「ど、どうしたん!?」
穂乃果「コリント書の13章。知らない?」
希「聞いた事あるかも・・・」
穂乃果「だって毎日、絵里ちゃんが希ちゃんに言ってるよ?どうして知らないの?なんで!?毎日、毎日、毎日、365日ずっと病室に横たわる希ちゃんにずっと言ってるのに何で聞いた事あるかもなの!?確信を持ってよ!確かな確信を持って答えてよ!」
希「ほ、穂乃果ちゃん?ど、どうしたん?」
穂乃果「ところで希ちゃんはマリア様見たいだね。いっつもニコニコして両手を広げてみんなを救うマリア様みたい。でも、本当のマリア様は絵里ちゃんだね。希ちゃんにとっての・・・だけどね」
希「えりちが私のマリア様?」
穂乃果「気を付けて、地面。穴が空いてるよ」
希「えっ・・・」
そして、うちはまた落ちる。
今日はここまでにします
Chapter3
【迷宮】
希「ううっ・・・」
長い間、落下しうちは地面に激闘した。
が、何故か生きており、水にもなっていない。
ただ、辺りを見渡すと前方には大きなホテル。
後方には大きな迷宮。
希「でも何処かで・・・?」
まるで映画に出て来たかのようなこの場所を私は知っている。
見たことは無いが、聞いた事あるよう気がする。
希「とりあえず、あのホテルに・・・」
うちがホテルへ行こうとすると女性の悲鳴が聞こえる。
次に男の雄叫びと子供の悲鳴。
希「こ、怖いよ・・・」
ホテルの扉が勢い良く開く。
中から出て来たのは気持ち悪い笑みを浮かべた中年の男性。
しっかりとこちらを見据え、鈍く光る包丁を構えている。
希「ひっ・・・」
男はうぅ・・・うぅ・・・と獣のような唸り声を出して、うちの方へと走り出す。
捕まえれば殺される。
考えはそれだけだった。
って言うかこの状況ではその考えしか思い浮かばない。
うちは男に捕まらないように迷宮へと入った。
花陽「希ちゃん!こっちだよ!」
希「花陽ちゃん!?どっから・・・」
不意に花陽ちゃんの声が聞こえたが辺りに姿は無い。
花陽「こっちだよ!上!」
上を見る。
羽を生やしたちっさい花陽ちゃんがいた。
希「花陽ちゃんえらいちっさいなぁ」
花陽「うん!私は妖精さんになったからね!それよりも、この迷宮案内してあげる!」
希「本当!?そ、それよりあの男の人はだれなん?」
花陽「悪い人っ!」
希「それはわかるんやけどなぁ・・・」
花陽「あの男の人がどんな人よりも捕まらないようにする方が大事だよっ!」
希「う、うん・・・」
花陽「あ!そこ左!」
少し行き過ぎてしまった為、2歩後ろに下がって左に曲がる。
男が凄い剣幕で追いかけて来ているのがチラリと見えた。
希「もぉっ!怖いなぁっ!」
花陽「大丈夫だよ!ここを抜ければ追いかけて来なくなる!」
希「何で詳しいん!?」
花陽「妖精さんだからっ!あっ、そこ右!」
希「ちょっと速く言ってくれると嬉しいんやけどなぁっ!」
花陽「ごめんねっ!でも私も怖いの!」
花陽ちゃんの支持に従うまま、走り続ける。
いつしか、男の唸り声は聞こえずに広い場所に出た。
花陽「はぁはぁ。ようやく抜けたね」
希「な、何で息切れしてるん?花陽ちゃん飛んでただけやん?」
花陽「飛ぶのって疲れるんだよ!でも、希ちゃんは息切れして無いね!」
希「だって現役アイドルやもん。日々の練習のお陰様やんな?」
花陽「あぁ。そんな時期もあったね」
希「そんな時期って今もやん?」
花陽「あっ!あの穴見える?あの穴に飛び込めば私の国に行けるよ!」
希「えぇーまた落ちらなあかんの?」
花陽「いいからいいから!」
希「やけど、結構深そうやね。うちも飛べへんの?」
花陽「飛べると思うよ!だから、大丈夫だよ!」
希「そ、そっか。じゃああの穴に飛び込めばいいんやな?」
花陽「うん!せーのっで飛び込んでね?いくよ?せーの!」
うちは穴に向かってジャンプした。
下へ下へと落ちて行く中、花陽ちゃんの独り言が少しだけ聞こえた。
花陽「夢の世界なら何でも出来るのにね」
Chapter4
【海未裁判】
ドサッ。
痛い。お尻から落ちてしまった。
海未「来ましたか・・・」
希「う、海未ちゃん!?」
海未「えーこれより裁判を開始します!トランプ兵彼女を捕らえてっ!」
まるで不思議の国のアリスに出てくるハートの女王みたいな格好をした海未ちゃんが叫ぶと何者かに腕を捕まれた。
希「い、痛っ!」
私を掴むこの腕は黒くて細くて、体は四角くて何か描かれている。
ハートの7。
トランプに手足の生えた生き物が私の手を掴んでいる。
いつか見たおとぎ話の世界にそっくりだ。
いや・・・そのままだ。
希「えっ・・・ここって不思議のアリスの世界なん!?」
海未「はいはい!静粛にしなさい!!!これより希を有罪か無罪か私が決めます!」
希「海未ちゃんが決めるん!?そんなん裁判やないやん!」
海未「はい、おだまりおだまり~裁判のはじまりはじまり~」
希「うち何も悪いことしてへんよ?」
海未「してますよ。しらばっくれてももう遅いです!」
希「じゃあうちが何したって言うん?」
海未「殺人。絵里を殺した罪よ」
希「うちがえりちを・・・?」
海未「はい、正確には殺してませんが」
希「な、なんなん・・・嘘やんか」
海未「あなたが絵里の人生を奪いました。人生を奪うって事は殺したって事になります」
希「人生を奪ったって・・・うちそんな事してへんよ!」
海未「なりますね。自覚が無いんですか?まぁ無理も無いでしょう」
希「うちはそんな酷い事せんよ!?」
海未「現実を見て肌で感じなさい!薬品の匂いを嗅ぎ空気を舌で味わって電子音の規則正しい音を聞きなさい!」
希「う、海未ちゃんどうしたん?」
海未「いいですか?人生を奪うって事は殺したことになるんですよ」
希「うちはえりちの人生なんか奪ってない!」
海未「はい!静粛にっ!!!」
希「海未ちゃん怖い・・・なんでうちをいじめるん?」
海未「罪だからです」
希「罪?」
海未「何故あなたは絵里を束縛したのですか?あなたが眠る前に言った事を覚えていますか?」
希「うちは・・・」
なんて言ったんやろうか。
そりゃ眠る前だからおやすみって言うと思うんだけど・・・。
海未「これが現実だと思ってますか?」
希「えっ・・・?」
海未「空を飛んだり水になったり妖精を見たり裁判にかけられたり。これが現実だと思うのですか!?」
希「・・・これは現実」
海未「現実はこんな感じですか!?あなたが生きて来た現実はもっと違ったはずさぁ思い出して下さい。ほら!」
希「そ、そんなん言われても・・・」
海未「じゃあ私が教えてあげましょう。あなたが眠る前に絵里に言った言葉それは・・・」
うちが起きるまでえりちずっと見守ってくれる?
希「やめて・・・」
うん、当たり前じゃない。
希「やめて・・・」
そっか、眠ってる間、お話いっぱい聞かせてな?
希「やめてよ・・・」
海未「いつまで寝てるのですか・・・希」
Chapter5
【夢】
絵里「希、いい夢見てる?」
希「・・・」
問い掛けても答えは帰ってこない。
もう何十年経っただろう。
絵里「途中から数えてないわ」
あの日。
車に轢かれて、ずっと眠ってたままだ。
ただ眠って、息を吸って吐いているだけの植物人間になってしまった。
眠る前、奇跡的に会話ができ希はあることを私に言った。
「うちが起きるまでずっと見守ってくれる?」その約束を私はずっと守ってきてる。
何十年もずっと。
絵里「ねぇ知ってた?夢って言うのはね。あなたが本当に見たい物を見せてくれるの」
希は今どんな夢を見ているのだろうか?
何だか見たい物が沢山ありそうでゴチャゴチャな夢になってそう。
絵里「ねぇ希?完璧な世界って信じる?」
希「・・・」
絵里「希なら信じそうね。ね、私思うだけど完璧な世界はこの世には無くてもしかしたら夢の中にだけあるんじゃないかって・・・」
絵里「だって私が見たい物だけが実現して見たくない物は実現しない。ほら、完璧じゃない?まるで、自分がお姫様みたい」
希「・・・」
絵里「ねぇ、死のっか」
今日はここまでにしときます
Chapter6
【パーティー】
うちに出された判決は有罪。
トランプ兵はうちを捕らえて牢獄へと閉じ込めた。
希「なんでうちこんな所におろんやろ・・・」
甘い匂い。
ふわふわした地面。
所々に生クリームがへばりついている。
ケーキの中にうちは閉じ込められてる。
お腹は減ってし今はケーキを食べようって気分じゃ無いからふわふわしたスポンジに寝転がる。
時折聞こえるガラスを刃物で引っ掻くような音。
その後には決まって悲鳴。
にこ「にこっ!」
希「んん?」
にこ「にっこにこにーっ!」
希「にこっち・・・何でそんなに小さくなってしもうたん?」
にこ「ネズミだからよ」
希「あーなるほど」
確かにネズミに見えなくもない。
大きな耳にグレーのパーカー。
にこ「速く逃げ出さないと死刑よ!」
希「し、死刑!?や、やっぱりあの悲鳴は・・・」
にこ「あっちでいっぱい死刑されてるのよ。わかる?ここから逃げ出さないと希もあぁなるわよ?まぁ私は食料が増えていいけどね」
希「にこっち人食べるん?」
にこ「美味しいのよ。やっぱりいい物食べてる動物は違うわねー。って事はそのいい物を食べた人間を食べてる私達ネズミはもっと美味しいって事になるわね」
希「にこっち・・・私をここから出してっ!」
にこ「はいはい仕方ないわねぇ~」
突如、地面が割れる。
いや、地面が切れた。
子供の歓喜の歌声が聞こえる。
また地面が切れた。
鈍く光る大きな刃が切れた地面から現れた。
にこ「早く!食べられるわよ!ここではあなたは苺にしか見えないの!真っ先に食べられるわよ!?」
希「う、うち・・・」
にこ「じゃあジッとしてないで速く逃げるわよっ!」
希「う、うち・・・」
にこ「どうしたの!?」
ケーキの中の切れ目から見える光景。
希ちゃん50歳の誕生日おめでとうの文字。
希「うち、50歳やないよ!?」
ケーキが取り分けられ私は体制を崩し花柄模様のテーブルクロスの上に落ちる。
ゼリービーンズの雨が降り注ぎ、うちは箸で捕まえられた。
にこ「の、希っ!?」
希「は、離してっ!」
はしゃぐ子供、うちを食べるのだろう。
黄色い歯が大きく開き、タバコの匂いがうちを包んだ。
希「ひっ・・・」
にこ「希!!!」
にこ「しかたないわねぇ!」
にこっちは勢い良く走り、そして飛ぶ。
耳がパタパタと動き、おさげがゆらゆらと宙で踊る。
にこ「そりゃ!」
子供が持つ箸ににこっちは体当たりをしうちは束縛から解放される。
あああああああああ!!!
子供が叫ぶ、同時に母親の顔色が青くなる。
にこっちを見て発狂しているようだ。
同様した子供は箸でにこっちを刺そうと狙いをつけて真っ直ぐ突き出す。
しかし、にこっちは華麗に動いてそれを避け、母親の前に子供を誘導。
子供は狂った様ににこっちを狙いまた箸を真っ直ぐ突き出す。
母親の叫び声。
うちの服が紫色の液体で汚れる。
子供の箸はにこっちが避けたみたいで後ろにいた母親のおでこにある目に突き刺さっていた。
にこ「速く逃げるわよ!」
希「で、でも・・・」
にこ「なに!?あんたを食べよとした人達よ!?情けは・・・ぶぎゃ」
にこっちは消えた。
うちの目の前から一瞬で消えた。
今、目の前に見える光景は子供の大きな足。
またゼリービーンズの雨が降り注ぐ。
ピーナッツバターのビンがひっくり返りテーブルから落ちる。
希「に、にこっち!?」
子供の足元からは赤い血と、黒いおさげ。
希「そ、そんな・・・にこっち・・・いや・・・」
にこ「・・・絵里に会いなさい・・・絵里に・・・」
微かに聞こえるにこっちの声。
まだ生きてる事に安心したが、重体には変わりなく子供はにこっちを踏みつけたまま足をどかそうとしない。
にこ「早く逃げなさい!!!」
希「でも!にこっちが!!!」
ことり「こっち!」
何者かに手を引っ張られる。
希「は、離してっ!にこっちがにこっちが!」
ことり「だ、大丈夫だよ!また生き返るから!それよりも今は逃げなきゃ!」
ことりちゃんはうちにウインクをしてフローリングの床を走り続ける。
そして、壁に空いたトンネルをくぐり抜け眩い光がうち達を包んだ。
Chapter7
【光の部屋】
眩い光に目眩みがし何度か瞬きを繰り返し驚いた。
ここは病室でベットの上にはうちが寝ていたからだ。
ことり「来ちゃったね」
何が来ちゃったねなのかうちにはよく分からず。
ただ目の前の光景を唖然として見ていた。
うちが二人もいる事が信じられなかったのだ。
ことり「あの日。あなたは交差点で事故に合いずっと寝たきりになってしまった」
希「うちが・・・寝たきり?」
そんな筈は無い。
自信を持って言える。
だって、今こうしてうちは自分の足で立ち考えているからだ。
紛れも無くそれは真実。
そうじゃ無かったら一体何だ。
希「でも・・・」
ことり「夢なんだよ。今、あなたがこうして経験して来た事は」
希「ゆ、夢・・・?」
ことり「あなたは水になれない妖精はいないよ海未ちゃんは女王様じゃないよにこちゃんはネズミじゃないし凛ちゃんは空も飛べない」
希「う、嘘・・・うちはだって」
ことり「確かに存在してる?・・・夢の中では存在してる。でも現実ではあなたは考る事も見る事も匂う事も触る事も聞く事も喋る事も出来ない。これは夢なんだよ希ちゃん。夢だよ」
希「ち、違う!!!」
真姫「じゃあ、そのベットのあなたの顔をよく見て」
いつの間にか病室には真姫ちゃんがいたようで言われるがままベットに横たわるうちの顔をよく見る。
その顔は痩せこけ手足は無く辛うじて残ってる両足がピクピクと動いている。
希「こんな・・・こんなんうちやない!」
真姫「ううん。希よ」
ことり「希ちゃんだよ」
凛「希ちゃん」
穂乃果「あなた」
にこ「希」
花陽「これは希ちゃん」
海未「確かに希です」
希「違う!こんなん・・・だってこんなの!」
ひどすぎる。
たまらず病室から逃げだした。
何処まで走ったのか分からない。
きっと、遠くまで走ったのだろう。
丘の上に大きな木が見えてうちはそこで一休みをしようと思った。
お空には太陽と月。
流星群が流れ、魚の群れが星を食べる。
こんな綺麗な世界が夢なはずない。
夜空には太陽なんて出ないし魚も泳いでいないけど、この世界は夢なんかじゃない。
現実逃避をしてるのはわかってる。
みんなが言ってた事が真実だとしてもうちはそれを絶対に受け入れない。
この世界だけを受け入れる。
絵里「希、おまたせ」
Chapter8
絵里【戻らない時間】
バックから包丁を取り出す。
光を反射し涙を流す私を写す。
私は希の為に何かをやれたのだろうか。
空虚を見つめる希に映画を見せ詩を朗読して本も読み聞かせた。
希はいつだって何も反応をしない。
喜んでるのかも分からない。
ただ一つ分かる事は彼女は夢を見ていると言う事だ。
多分、空なんか飛んだりして雲の上から夜景を見ていそう。
・・・私は希の為に時間を犠牲にした。
勿論、その事に希を邪険に感じた事など一切ない。
ただ。
ただ。
希は近い将来目覚めるらしい。
お医者さんからそう言われた時私は決心した。
希を殺そうと。
希は両手を失っているし、何より私達はもう40後半だ。
もし、目覚めたら希には絶望しかない。
自分の姿を見てその後に過ぎ去った膨大な時間を認識したら希の世界は壊れてしまう。
だから私は希を殺そうと思った。
希を殺して私も死ぬ。
希を完璧な世界で生かしたいんだ。
ずっと。
そして、私も希と一緒に完璧な世界で生きて行く。
絵里「希・・・」
包丁を振りかざし、希の手を強く握る。
絵里「愛してる」
最終Chapter
【完璧な世界】
希「え、えりち?」
絵里「なぁにぃ?どうしたの?目が真っ赤よ?」
希「だ、だって・・・だって・・・」
絵里「大丈夫。私が付いてるから」
えりちはうちの手を強く握る。
うちも手を強く握る。
希「えりち・・・」
絵里「希、大丈夫だから。ね?希愛してる」
希「えっ!?」
絵里「愛してる」
そう言ってえりちはうちに寄り添う。
あぁ、ここは確かに夢なんかじゃないそう思える。
慰めなんかじゃ無くて、本当に。
このえりちの体温は確かに現実だ。
希「うちも・・・あ、愛してる」
そう、完璧なんだ。
この世界は完璧だ。
えりちとこうやって寄りそって手を握ってお互いの愛を確かめ合う。
空は赤く染まり太陽が沈むのを二人で見届けた。
この完璧な世界で。
おわり
遅くなりすみません
思うように行かなったけどこれで完結です
ありがとうございました
このSSまとめへのコメント
結局どうなったんですか?
すごく野暮な質問してすいません
両手を失ってる希の手を現実世界の絵里が
握ってるって所を考えなければ(失ったのは足で書き間違いとか)
絵里が希と心中
ただ、刺す直前の「愛してる」とか握られた手の感触、体温は
夢の中の希に現実感を持って伝わる
最後に会った絵里が希の夢の絵里か
本物の絵里かは読者の解釈次第
って感じじゃないかな?