瑞鶴「私は幸運の空母なんかじゃない」 金剛「?」 (504)
提督「……………………」コックリコックリ
提督「…………む」
提督「いかん。眠ってしまっていたか」
窓から差し込む、少しばかり熱い日差しで温められた私の部屋。
そのせいで部屋全体が酷く心地良くて、つい目の前の仕事を放棄して夢の国へ旅立っていたようだ。
提督「……平和だ」チラ
ふと、窓の外を見る。
目に映るのは青い海と、それに負けないくらい蒼い空。
水平線に近付く程に白くなるそれらの下では、艦娘達が演習をしている。
まだ錬度が甘いが、全員の動きは初めて出会った頃よりも遥かに良くなっている。
提督「この瞬間だけを見れば、戦争をしているようには見えんな」
事務作業と居眠りで凝り固まった身体を解すように動かす。
ふむ。少し調子が悪いようだ。
提督「この平和が、ずっと続けば良いのだが……」
ポツリ、と柄にもなく零した弱気の言葉。
きっと何か夢を見ていたのだろう。この平和が、とても大切で幸せなものに感じられる。
提督「そうだな……いつ死んでしまうか分からない。それならば、この僅かな平和を噛み締めるのも悪くないだろう」
もう一度だけ、演習をしている艦娘達へ視線を数秒だけ落としてから仕事へ戻った。
──もう、亡くさないようにしなければな。
この時なぜか私は、そう思っていた──。
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──コンコン
提督「入れ」サラサラ
ガチャ──パタン
金剛「テートクー! ニューフェイスが登場したヨー!」
提督「ほう。早朝に指示した建造が完成したか。やけに時間が掛かっていたな」
金剛「イエス! アバウトですが、六時間くらいデース!」
提督「基本的に時間が掛かる建造ほど大型のモノになると聞いているが、どうなる事かな?」
金剛「……鎮守府の財政を考えると怖いやら嬉しいやらデスね?」
提督「そうだ。まあ、成るように成るだろう。新しい子と顔合わせと行こう。皆も呼んでくれ」
金剛「演習をしている方々もデスか?」
提督「ああ。そろそろ切り上げさせても良い時間だろう。良い演習をしていた」
金剛「了解しまシタ! すぐに呼んで工廠へ向かわせマス!」ピシッ
提督「いや、そんなに急がなくても良い。汗も掻いているだろう、シャワーで流してから来るようにと伝えてくれ。私は先に工廠へ向かっておく」ギシッ
金剛「ハイッ!」
金剛「あ。でも覗きはいけませんヨ、テートクー?」ニヤニヤ
提督「どうやら吊るされたいらしい」
金剛「ソ、ソーリー! ジョークです!」ビクッ
提督「くくっ。分かっているさ」
金剛「アウッ……一本取られたネー……」
…………………………………………。
提督「──全員、揃ったな?」
加賀「はい。演習の皆さんも汗を流してこの場に居ます。ありがとございますね、提督」ソソッ
金剛「加賀ー! テートクの隣は私のポジションなんだからネ!」
加賀「ここは譲れません」
響「それは私の台詞でもあるよ」
提督「喧嘩をする者は吊るす」
全員「…………っ!」ピシッ
提督「よろしい」
川内(相変わらず提督さんは人気者だね~)
建造妖精「じゃあ、お披露目するねー」
瑞鶴「──翔鶴型航空母艦二番艦、妹の瑞鶴です! 皆の足を引っ張らないように頑張るわね!」
建造妖精「えっへん! 改心の手応えだったよ!」
提督「よくやってくれた、建造妖精。感謝するよ」
建造妖精「えっへへー」
提督「私がこの鎮守府の提督だ。──幸運の空母とは縁起が良いな。これから宜しく頼む」
瑞鶴「私は幸運の空母なんかじゃないわ。一生懸命やってるだけ、よ」
提督「ほう。期待しているよ」
瑞鶴「ええ! ありがとね!」
提督「分からない事があれば私か加賀や金剛に聞くと良い」
提督「瑞鶴の部屋は金剛、加賀と同じ部屋にするから、これを機に仲良くなると良いだろう」
金剛「ハーイ! よろしくネー!」
加賀「これからよろしくお願いします」
瑞鶴「はい! よろしくお願いします!」
提督「それでは、すまんが私はこれで席を外させて貰う。金剛、加賀、後を頼む」
金剛「はいっ!」
加賀「承りました」
…………………………………………。
加賀「──ここが提督室。執務室と提督の部屋を一緒にしているからこう呼んでいるわ」
金剛「これで主要箇所は全部ネー。瑞鶴、憶えられまシタか?」
瑞鶴「うん。二人のおかげでバッチリよ!」
金剛「それは良かったデース!」
加賀「ええ。教えた甲斐があったというものね。何か質問とかはある?」
瑞鶴「……えーっと」
金剛「? どうかしまシタ? 言いにくい事デスか?」
瑞鶴「ちょっと、ね。提督さんの事なんだけど……」
加賀「何かしら」
瑞鶴「…………私が気にし過ぎなのかもしれないけど、提督さんって何で目が死んでるのかなって」
加賀「やっぱりね」
瑞鶴「やっぱり?」
金剛「この鎮守府に居る子、全員が初見でそれを思っていマース」
加賀「ただ、提督は普通にしているみたいよ。そういう人だと思ってくれると嬉しいわ」
瑞鶴「そうなんだ……」
金剛「イエス! 初めは慣れないかもしれまセンが、だんだんあの目が心地良くなってきマスよー」
瑞鶴「こ、心地良く?」
加賀「それは貴女だけだと思うわ」
金剛「エー……? なんだか吸い込まれそうになって、身も心も捧げたくなりまセンか?」
加賀「ならないわ。後半だけは同意するけれど」
瑞鶴「今さらっと、二人がとんでもない発言をしたように聞こえたんだけど……」
金剛「あー……」
加賀「…………」
瑞鶴「き、聞かなかった事にするわね」
金剛「まあ、いつかバレますし……」
加賀「……そうね。いつかは知られる事だもの。今知られても問題無いわ」
金剛「瑞鶴も、きっとすぐにテートクの魅力に気付くネ! 優しくて強くて……もう語り切れないくらいデス!」
加賀「そうね。提督以上に魅力のある人なんて、今後現れないと思うわ」
瑞鶴「は、はぁ……」
瑞鶴(……なんだか緩い鎮守府ね?)
ガチャ──
提督「…………」
瑞鶴「あ」
金剛・加賀「ッ!!」ビクゥ
提督「…………」ジッ
金剛・加賀「…………」ビクビク
提督「全部聞こえていたぞ」
金剛・加賀「ごめんなさい……」ビクビク
提督「……そうだな。新人の前というのもある」
金剛・加賀「…………」ホッ
瑞鶴「…………?」
提督「全員、私の部屋に入りなさい」
金剛「なっ!?」ビクン
加賀「……ダメでした」
瑞鶴(……何が起きるのかしら)
…………………………………………。
金剛「うぅ……」ブラーン
加賀「……思ったより恥ずかしいわね」ブラーン
瑞鶴「あ、あの……提督さん……?」
提督「何かね」
瑞鶴「な、なんで金剛さんと加賀さんを吊るしてるの?」
提督「罰だ。新人の前で色に溺れているような発言をしたからな」
金剛「うー……テートクー……テートクを好きになるのはいけない事なのデスか……?」
提督「そうは言っていない。時と場を弁えろと言っているんだ」
提督「瑞鶴、憶えておけ。私の鎮守府ではこうして罰を与える」
瑞鶴「は、はい!」ビクッ
瑞鶴(って、罰としては軽過ぎるような……?)
コンコン──。
提督「入れ」
金剛・加賀「なっ!?」
ガチャ──パタン
暁「失礼しま──って、えぇ!?」
響「これは……」
雷「おーっ!」
電「はわわっ! お二人が吊られているのは初めて見たのです!」
雷「金剛さんは白! 加賀さんは黒でエロいわね!」
金剛「ぅー……」
加賀「まさか見られるなんて……そんな……」
提督「……暁、響、雷、電。何かあったのか?」
響「ああ、ごめんよ。実はこれを持って来たんだ」
瑞鶴「掛け軸? えーっと、第六駆逐隊──すぱしーば?」
響「спасибо。日本語の発音だとなんて書けば良いのか分からなかったから、なるべく近い言葉で書かせてもらったよ」
提督「ふむ……。すまないが、なんという意味なんだ?」
電「せーのっ──」
暁・響・雷・電「──ありがとう!」
暁「そういう意味よ、司令官」
提督「────」
瑞鶴(──へぇ。こんなに慕われてるのね)
響「……あ…………お気に召さなかったかい、司令官……」
提督「いや、面食らってしまって声が出なかった」
提督「ありがとう。いつも私の為に動いてくれて、本当にありがとう」
暁「ひゃっ」ナデナデ
響「ん……」ナデナデ
雷「あ……」ナデナデ
電「はわわ……」ナデナデ
金剛・加賀「!!」
提督「この掛け軸は部屋に飾っておこう。皆が書いたのかね?」
響「絵と文字を書いたのは私だよ」
暁「私はこの花飾りを作ったの」
雷「私は材料を集めたわ!」
電「仕上げは私がしました」
提督「そうか。皆が協力して作ったのだな」
暁「大切にしてよね?」
提督「勿論だとも」
響「特に暁が喜ぶよ」
暁「ちょ、ちょっと響!」
雷「なんせ、考案と指揮をしたのって暁だもんね」
電「暁ちゃん、すごく一生懸命だったのです」
暁「あ、あああ……バラしちゃって……もー!!」
提督「私は幸せ者だな」
暁「あっ……ぅ」
瑞鶴(顔、トマトみたいに赤いわね)
瑞鶴(なんだか可愛い……)
響「暁、照れてる」
暁「照れちゃいけないって言うの響ぃー!?」
金剛「……私達、忘れられてマス?」ブラーン
加賀「かもしれないわね」ブラーン
提督「まだもう少し罰を受けていろ」
金剛・加賀「はい……」
瑞鶴(ごめんなさい……私はすっかり忘れちゃってました……)
……………………
…………
……
金剛「え? 今日の出撃はキャンセルですか?」サラサラ
加賀「何かあったのかしら」サラサラ
提督「ああ。出撃で消費される資材を再計算してみた所、少しばかり厳しくなりそうだ。よって、本日は金剛を除いて午後から自由行動とする」サラサラ
瑞鶴「え、なんで金剛さんだけ?」
金剛「私は今日、秘書デース。だから、テートクの書類処理のお手伝いをするのデスよー」サラサラ
瑞鶴「なるほどね──って『今日』の?」チビチビ
瑞鶴(あ……金剛さんが淹れた紅茶、すっごく美味しい)
提督「なぜか一部の者達は秘書をやりたがっていてな。ローテーションを組んで一日毎に交代して貰っている」サラサラ
加賀「理由は分かっているでしょう、提督」サラサラ
提督「理解はしていても納得はしておらんよ」サラサラ
瑞鶴「あー……」
瑞鶴(たぶん、二人は提督さんと少しでも長く一緒に居たいんだろうなぁ)
加賀「そういう事よ」サラサラ
瑞鶴「……っていうか、加賀さんもお仕事をしているように見えるんだけど」
加賀「そうね。私は自分の意思でこの作業をしているの。──提督、こっちの書類は終了しました」スッ
提督「ありがとう、加賀。後は私達でやるから休憩していてくれ」サラサラ
加賀「いえ、まだ──」
金剛「む~……」ジー
提督「という事だ。金剛の仕事を取ってやらないでくれ」サラサラ
加賀「分かりました。……ごめんなさいね、金剛さん」
金剛「明日の秘書をチェンジしてくれるのなら許しマス」サラサラ
加賀「それは譲れないわ。今日の私みたいに書類処理は手伝って良いから」
金剛「それで手を打ちマース!」サラサラ
瑞鶴「……本当に秘書を奪い合ってるわね」チビチビ
瑞鶴「……………………」ジー
提督「…………」サラサラ
金剛「…………」サラサラ
瑞鶴「……ねえ、金剛さん」
金剛「? ティーカップが空になりまシタか?」
瑞鶴「えっと、秘書のお手伝い……してみたいなぁって」
金剛「!」ピタッ
加賀「…………」ジッ
提督「……………………」サラサラ
瑞鶴「あっいや! ダメだったら良いのよ!? ただなんとなく、私だけこうしてるのも悪いなって思っただけでね!?」
金剛「やりたいというのならば私は構いまセンが……」チラ
提督「金剛に任せる」サラサラ
金剛「ならばオッケーね!」
加賀「随分と簡単に決めるのね」
金剛「少しでもテートクに近付こうとしているのデス。テートクの魅力が多くの人に伝わるのはとっても嬉しい事ネー」
加賀「ライバルが増えるのに?」
金剛「それとはまた話が別デース。ライバルが居るのならばその頂点に立てば良い話デス!」
加賀「……強いわね」
瑞鶴(話がなんだか大きくなっていってるような……)
提督「本人の前で言う事かね」サラサラ
金剛「テートクは私と加賀の気持ちをもう知っているじゃないデスか」
加賀「そうね。何も問題は無いわ」
金剛「では瑞鶴、カムヒアプリーズ」チョイチョイ
瑞鶴「う、うん」
瑞鶴(海外の人って、皆こうなのかしら……?)
金剛「まず初めは書類の見分け方デス。左上のここに書類の種類がありますから──」
瑞鶴(……本当、強いと思うわ)
…………………………………………。
金剛「んーっ! テートク、終わりまシタ!」
提督「そっちも終わったか。ご苦労」
瑞鶴「つ、疲れたぁ……」
加賀「三人共お疲れ様」コクコク
金剛「では、書類を纏めておくネー!」
瑞鶴「……こんな大変な事をやりたがるなんて、どうかしてるわ…………」グッタリ
加賀「好いている人の為だったら、なんだって出来るものよ」モグモグ
加賀「ふぅ……金剛さん、また腕を上げたわね。とても美味しいビスケットだったわ。ご馳走様」
金剛「リアリー? 頑張って勉強した甲斐がありまシタ!」
瑞鶴「え、このビスケットって金剛さんが作ったの!?」
金剛「イエス! 紅茶に合うお茶請けがあると、ティータイムがとっても楽しくなるネー!」
瑞鶴「はー……なんでも出来るのね、金剛さんって」
提督「いや、そうでもないぞ」
瑞鶴「え?」
加賀「そうね。欠点は私も一つだけ知っているわ」
瑞鶴(どんな欠点なのかしら……?)
金剛「えーっと……実は、私はお料理が下手っぴなのデス」
瑞鶴「えぇ!? 嘘でしょ!?」
提督「金剛、その言い方には語弊があるだろう。お前は料理自体は上手だ。ただ、料理が英国式で人を選ぶ」
瑞鶴「? それって何か問題あるの?」
提督「英国料理は基本的に、野菜なども本来の食感が分からなくなるくらい茹でたりして、食材本来の味や食感を残さないほど加熱する。また、味付けもほとんど行わない」
瑞鶴「……え? それってどうやって食べるの? お塩とかソースとか自分で掛けるとか?」
提督「そうだ。自分で味を調えて食べるのが英国式だ」
金剛「それが美味しいのに……」
提督「ちなみに、私は卵と塩で虹色の物体が出来上がる」
瑞鶴「虹色って何それ!? 本当に食べ物なの!?」
提督「食べ物と思わない方が良い。あれは劇物としか言いようが無い」
提督「それと比べたら、金剛の作る英国料理も極上の美味さだ」
金剛「テートク……流石にアレと比べられると傷付きマス……」
提督「すまん……」
加賀(提督の料理、金剛さんは食べた事があるのね。羨ましいわ……)
瑞鶴「……ちなみに金剛さん、味はどうだったの?」
金剛「……………………」ビクッ
金剛「…………えっと……」チラッ
提督「少し興味がある。あの時は聞く余裕が無かったからな。どんな味だったんだ、金剛?」
金剛「その……名状し難い、酷く冒涜的な何かでシタ……」ビクビク
提督「私と同意見か……」
瑞鶴「逆に気になるわねそれ……」
提督「二度と作らんよ。誰に頼まれようと、あのような得体の知れない物質を作るのは犯罪行為に等しい」
加賀「卵と塩だけでどうやったらそうなるのかしらね……?」
金剛「私も不思議で堪りまセン。調理法は普通ですのに、秒単位でおかしくなっていってまシタ」
提督「さて、この話は終わりにして、遠征組を迎えよう。もう近くまで帰ってきているようだ」スッ
加賀「あら、本当。相変わらず目が良いのね」
金剛「まったくもって羨ましいデース」
瑞鶴(遠征組って、あの点の事……? なんであれで判別が付くの……?)ジー
金剛「私は書類を纏めてから迎えに行きマス。皆さんはお先に行ってあげてネー」
提督「ありがとう、金剛。では、行こう」
加賀「ええ」スッ
瑞鶴「えっと、色々と教えてくれてありがとう、金剛さん」
金剛「いえいえ~。また秘書の仕事をしたくなりまシタら声を掛けて下サーイ」
瑞鶴「き、気が向いたらね?」
ガチャ──パタン
金剛「ふんふふーん──あれ?」
金剛(この書類……?)パラッ
金剛(え、こっちも?)パラッ
金剛(……………………?)パラッ
金剛「……どういう事ですか、これは?」
……………………
…………
……
一旦ここまで。
たぶんまた後で来ますね。
皆さんの思っている通りです。
前作は 金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」 を書きました。
そのSSを読んでいるとちょっぴり楽しさが増すかもしれませんが、読んでいなくても大丈夫なように書くつもりです。
読んでいない方は無理して読まなくても問題ないはずなのでご安心下さい。
再開します。
島風「でね! 不知火ったら放っておけば良いのにわざわざダメだししちゃったんだよ!!」
加賀(大問題ね……大丈夫かしら……)
天龍「まあ……あれは流石に俺でも言わねぇなぁ……」
龍田「お相手が温和な方だったから事無きを得たわ~。気の短い人なら沈められてたかも」
不知火「不知火に何か落ち度でも?」
瑞鶴(こ、この子の目、すっごく怖いんだけど……。駆逐艦じゃなくて戦艦じゃないの……?)
提督「大有りだ」ジッ
不知火「……す、すみません」ビクッ
提督「不知火、お前の言い分は正しい。だが、何も正しい事全てが正解という訳ではない事を覚えておけ」
不知火「……正しいのに正解ではない、ですか」
提督「そうだ。特に、今回の場合は無理矢理にでもやらなければならない作戦だった」
提督「私も不知火と同じように考えるが、総司令部の命令と聞いている。逆らう訳にはいかない時もあるんだ」
不知火「…………嫌になりますね」
提督「軍に就くという事は、そういう事なんだ。理解してくれ」
不知火「納得はしなくても構わないのですか?」
提督「構わん。ただ、時には折れる事も覚えてくれれば私は嬉しいよ」
不知火「覚えました。司令が喜んでくれるのであれば、私も喜んで覚えます」
龍田「あらあら~。不知火ちゃんは本当に提督の事が好きね~」
不知火「当然です」
天龍「まあ、提督の事を嫌いになる奴なんていねーよな!」
提督「そうでもない。私はどちらかと言うと上層部からは良く思われて──む?」
金剛「テートクー!」タッタッタッ
提督「金剛、何かあったか」
金剛「ハイ。とても大事なお話デス」
提督「そうか。何があった」
金剛「提督室でお話しまショウ。お仕事に関するお話デス」
不知火(チッ……。後で司令の部屋へ足を運ぶとしますか……)
提督「分かった。──天龍、龍田、島風、不知火、各自補給を済ませた後は自由行動だ。加賀と瑞鶴も自由にして良し。以上」
六人「ハイッ!」ピシッ
…………………………………………。
酉つけたら?
提督「──それで、話とはなんだ」
金剛「この書類の事についてデス」スッ
提督「ふむ。私が処理した書類か──む」
提督「…………」パラパラパラ
金剛「お気付きになられましたか」
提督「……ああ。これは酷いな」スッ
提督「計算を何箇所も間違えている。このままでは総司令部から大目玉を食らう所だった」ビリッ
金剛「やっぱり……。私の見間違えでなくて良かったデス」
提督「よく気付いてくれた。お前が気付いてくれなかったら大変な事になっていたよ」ナデナデ
金剛「んー♪」ホッコリ
金剛「ハッ! 頭を撫でてくれるのは嬉しいデスが、今はもっと大事な事がありマス!」
提督「うん?」
金剛「……提督、最後に糖分を摂取したのは何日──いえ、何ヶ月前ですか?」
提督「…………すまない」
金剛「私の知っている限りでは三ヶ月前くらいです。どうか、お身体を大事にして下さい……」ジッ
金剛「私達は、提督が倒れている姿を見たくないです……。だから、だから──」ジワッ
提督「本当にすまなかった」ソッ
金剛「あ──涙……」ポロポロ
提督「顔が台無しになってしまう」フキフキ
金剛「……台無しにさせないで下さい」ギュゥ
提督「ああ……なるべく気を付ける」ポンポン
>>33
確かに、乗っ取りと思われますよね……。
この酉は初めて使います。検索しても出てきませんのでご注意下さい。
提督「本当、低血糖の身体は酷く面倒だ……」
金剛「それはただ、提督が小食で甘い物が嫌いなだけです。提督がしっかりと糖分を摂取してくれたら、こんな事にはならないです」
提督「あの喉が焼けるような感覚がどうしてもな……」
金剛「むぅー……」
提督「…………金剛、今からお茶会は開けるか?」
金剛「? はい。すぐにでも大丈夫ですけど」
提督「では、私が皆を呼んでくる。その間に準備を頼んでも良いか?」
金剛「ダメです。いつ倒れてしまうか分からないのですから、今すぐにでも砂糖を口に入れて下さい」
提督「お前の作ったお茶菓子で、皆と談笑しながら糖分を取りたい。その方が甘い物でもなんとか我慢できそうだ」
金剛「……………………」
金剛「もう……今日の提督は珍しく我侭ね」クスッ
提督「たまには、な。この平和をより噛み締めたいと思ったんだ」
金剛「分かりまシタ。ですが、テートクはここでジッとしていて下サイ。私が準備してから声を掛けてきマス」
提督「……そこは譲ってくれそうにないな」
金剛「勿論デス! それで倒れられては譲歩した意味も無くなりマス!」
提督「分かった。大人しく待っていよう」スッ
金剛「ぁ──」
提督「うん?」
金剛「……ごめんなさい。もう少し、このまま」ギュッ
提督「お前も、珍しく甘えてきているな」ナデナデ
金剛「えへー」ホッコリ
…………………………………………。
雷「何これすっごい美味しい!」
電「サクサクのクッキーに、優しい甘さのクリームなのです」サクサク
響「ハラショー。またお菓子作りに磨きが掛かってるね、金剛さん」コクコク
暁「はむ、むぐむぐ」モグモグ
島風「今まで食べた中で一番美味しいよー!」
不知火「暁、夢中になり過ぎです。もう少し落ち着いたらどうなの」コク
川内「まーまー。これは夢中になるのもしょうがないでしょー」サクサクサク
神通「川内、零れてますよ」フキフキ
那珂「センターのクッキーは頂い──」サッ
龍田「あら?」ソッ
那珂「……どうぞ」ビクビク
天龍「まあ、早いもの勝ちだよな」ゴクゴク
加賀「これならばいくらでも食べられそうね」ヒョイヒョイサクサク
瑞鶴「本当に凄いわね、金剛さん。皆大絶賛じゃないの」チビチビ
金剛「お気に召したようで私も嬉しいネ! カスタードクリームはたっぷり付けるのをお勧めしますヨー」
提督「…………」ペタペタ
川内「おー! 提督がクリーム付けてる!」
神通「あら、珍しいですね」
提督「そろそろ糖分を摂取しろと叱られてしまってな」サクッ
提督「……………………」
金剛「ハイ、どうぞ」スッ
提督「……助かる」ズズッ
島風「本当に提督って甘い物がダメだよねー」
提督「…………私としては、こんな喉が焼けるようなものを平然と食べられるお前達が凄いと思うよ」サクッズズッ
龍田「このジワァっと広がる感覚が良いのにね~。喉が潤うようだわ~」
那珂「無理はしないでね?」
加賀「私としては、むしろ甘い物が苦手──いえ、好き嫌いという事の方が不思議ね」サクサクサクサクサクサク
不知火「貴女は別格なので論外だと思うのですが」
加賀「頭にきました」ヒョイパクッ
不知火「!!! ふふ……不知火を怒らせたわね?」ニヤァ
提督「喧嘩をする者はお茶請けを没収する」
加賀「ごめんなさい不知火。一枚多く返します」ソッ
不知火「いえ、不知火にも落ち度がありました。すみません。──お代わりのお茶を注ぎますね」トポポ
加賀「ありがとう」
瑞鶴(て、手懐けてるわね……)
提督「……なあ、金剛」
金剛「ダメです。あと二、三枚は食べて下サイ。それとも、紅茶にお砂糖を入れた方が良いデスか?」
提督「…………頑張ろう」
金剛「ハイ♪」
瑞鶴「なんだか意外……」
響「司令官は自分の非は認めるし、行動にも移すよ。普段はこうじゃないさ」
瑞鶴「へぇ……本当に良い人なのねぇ」チビチビ
ピタッ──。
瑞鶴「……え? な、なんで皆、私を見てるの?」
不知火「まさかとは思いますが」
響「瑞鶴さん、司令官の事が」
加賀「異性として好き、とか」
瑞鶴「なぁッ!? ちょ、ええっ!? な、なななんでそうなるの!!?」
雷「慌てててすっごく怪しいわね!」
電「はわわわわっ! しょ、初日で司令官さんを好きになられたのですか!?」
暁「お、大人……!」
雷「それはなんだかおかしくないかしら、暁?」
加賀「譲りません」
響「司令官への愛や恋で負けるつもりはないよ」
不知火「どんなに人数が増えても、不知火は気持ちを沈めないわ」
金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」
提督「……………………」
瑞鶴「ど、どうしてこうなったのぉ……」
…………………………………………。
瑞鶴「それで……えっと、提督さん? お話って何かしら……」
瑞鶴(お茶会が終わったら、皆を帰して私だけ残るようにって……物凄く嫌な予感しかしないんだけど……)
提督「なに。これは全員に聞いている事だ」
瑞鶴(え……全員って、提督さんを好きになった人全員って事!?)
瑞鶴(いやいや! 私はまだ提督さんを好きになったっていう訳じゃなくて、ただ本当に良い人だなぁって思っただけであって! 響ちゃんが言ってた愛や恋っていう訳じゃ──)ブンブン
瑞鶴(──って『まだ』って何よぉ! これじゃあ好きになる予定があるみたいじゃないのよ!)ウアー
提督「……いや、その質問をする前に先に釘を刺しておこう。全員が瑞鶴が私にどうのこうのと言っていたが、その話ではない」
瑞鶴「──へっ? 違うの?」キョトン
提督「やはりそれ関連だと思っていたのか。違うから安心しておけ」
瑞鶴「う、うん……」
瑞鶴(……なんで少し残念に思ってるのかしら、私?)
提督「話とは、この鎮守府についてだ」
瑞鶴「この鎮守府の?」
提督「うむ。正直に言ってくれ。この鎮守府はどうだ?」
瑞鶴「えっと……本当に正直に言って良いの?」
提督「ああ」
瑞鶴「……………………」
瑞鶴「ぶっちゃけ、後ろから刺されないか不安……」ビクビク
提督「そう思わせてしまったか……すまない」
瑞鶴「え、え? なんで提督さんが謝るの?」
提督「私の艦娘の不祥事は私の責任だ。私の教育が行き届いていない証拠でもある」
瑞鶴「いやいやいや……それはまた別の話でしょ?」
瑞鶴「好きな人にライバルが現れるのは凄く嫌な事だもの。それは女として当たり前だと思う。……金剛さんはちょっと特別だと思うけど」
瑞鶴「それに、裏を返せば提督さんの事をそれだけ想ってるって事でしょ? それを折らせようとするのは金剛さん達の気持ちを蔑ろにしちゃう事にもなるわ」
瑞鶴「だから、教育が行き届いていないって思わなくて良いし、矯正しようとなんて思っちゃダメよ?」
提督「……………………」
瑞鶴「──あ……す、すみません!」ピシッ
提督「……なぜ謝って敬礼をした」
瑞鶴「上官であり私の指揮官でもある提督に生意気な事を言ってしまった事と、私個人の気持ちを押し付けようとしてしまったからです!」ビクビク
提督「いや、気にしなくて良い。敬礼も下ろせ」
瑞鶴「だ、だけど……」
提督「私が良いと言っている。下ろすんだ」
瑞鶴「は、はい……」オズオズ
提督「それと、今後も意見がある場合は言ってくれ。私はまだまだ若く、間違いも犯す。私が間違った方向へ進もうとしていたら正してくれないか」
瑞鶴「────────」
瑞鶴「ホント、提督さんって良い意味で上司って気がしないわ」クス
瑞鶴「ええ、任せて! もし提督さんが間違った方向に進もうとしたら、爆撃しちゃうんだから!」
提督「爆撃は勘弁願いたいが、頼む」
提督「それと、後ろから刺されるという事は無いから安心してくれ。そんな事をするような子達ではないよ」
瑞鶴「うん。提督さんがそう言うのなら信じるわ!」
提督「快適ではないかもしれないが、今後も私の力となってくれ」
瑞鶴「はいっ!」
…………………………………………。
──第一戦艦空母部屋前──
瑞鶴「……………………」
瑞鶴(は、入り辛い!!)
瑞鶴(よくよく考えてみれば、金剛さんと加賀さんって提督さんの事が好きなのよね……。その二人を差し置いて私が呼び出されて──って、何が起きるのか物凄く怖いんだけど!)
瑞鶴(ごめんなさい提督……。安心してくれって言われても怖いものは怖いです……)ビクビク
瑞鶴(で、でも……とりあえず入らないといけないわよね……)スッ
コンコン──。
金剛「ドウゾー」
瑞鶴(ええい! 成るように成りなさい!)
ガチャ──パタン
瑞鶴「え、えーっと……」
金剛「瑞鶴でシタか! おかえりデース!」
加賀「おかえりなさい」
瑞鶴「え、あれ? た、ただいま?」
加賀「? 何をそんなに驚いているの?」
瑞鶴「……ちょっと怖くて」
金剛「?」
瑞鶴「いや、あの……ほら、提督さんに私一人で呼び出されたでしょ? だから、二人にはあんまり良く思われてないかなーって……」
金剛「そんな事ないデース。テートクにこの鎮守府の事を聞かれたのでショ?」
瑞鶴「え? う、うん。よく分かったわね?」
加賀「恒例みたいよ。この鎮守府の第一印象を提督は進水した子に聞くみたいなの」
瑞鶴「そうなんだ……」
金剛「イエス! あ、瑞鶴のベッドは私の隣ですヨー。座ってお話しまショウ!」
瑞鶴「えーっと……うん」
加賀「なんだか混乱しているみたいだけど、どうかしたの?」
瑞鶴「…………えっと……」
金剛「もしかシテ、私達が瑞鶴を後ろから刺すのを怖がっていたりとかデスか?」
加賀「そんな訳ないでしょう──って、あら」
瑞鶴「…………っ」ビクビク
金剛「ソ、ソーリィ! まさか本当にそう思っていたと思わなクテ……!」
加賀「そんな事はしないから安心して良いわよ。メリットが絶対に生まれないもの」
金剛「加賀……それはメリットが生まれる場合は殺るって言ってるようなものデス……」
加賀「そうね。メリットが生まれるのならばそれも一つの手ね。それでも人を殺すなんて気が進まないわ」
瑞鶴「あの……凄く怖いんですけど……」ビクビク
金剛「加賀ー? 脅すのも程々にして下サイ。瑞鶴が完全に怯えてるじゃないデスか」
加賀「……………………」チラ
瑞鶴「っ!」ビクッ
加賀「……ごめんなさいね。ジョークのつもりだったのだけれど……。もうあんな事は言わないわ」
金剛「どう足掻いても印象はワーストでしょうネー……」
加賀「そんな……」ガクッ
瑞鶴(本当にジョークよね……?)
金剛「一体何の本を読んで身に付けたのデスか……」
加賀「……黙秘するわ」フイッ
瑞鶴(絶対にまともな本じゃない……!!)ビクビク
金剛「……………………」
金剛「んー……瑞鶴、ちょっとこっちへ来てくれマスか?」
瑞鶴「え? う、うん……」トコトコ
金剛「もっと近くにデース」チョイチョイ
瑞鶴「えっと……うん……」ソソッ
金剛「──捕まえまシタッ!」ギュゥ
瑞鶴「ひゃぁ!? こ、金剛さん!?」
金剛「んー♪ 小柄で可愛いデース」
瑞鶴「え、ちょ……ど、どういう事なの?」
金剛「なんだか怯えが抜け切っていないみたいデスから、こうすれば少しは落ち着くカナーと」ナデナデ
瑞鶴「ど、どういう理論なのかしら……」
瑞鶴(でも……確かに金剛さんにこうされるのって落ち着くわね)
金剛「私はテートクに抱き締められると、とっても落ち着きまシタ! だから、瑞鶴もこうやって抱き締められると落ち着くと思いまシテ」ナデナデ
加賀「待って。今のは聞き捨てならないわ。提督に抱き締められたですって?」
金剛「そうデスよー。辛い時にテートクに甘えてしまって、そうすると抱き締めてくれまシタ!」ナデナデ
加賀「……一歩リードされてしまったわね」
金剛「そんな事はないと思いマスよー? テートクは難攻不落ネー」ナデナデ
瑞鶴「……………………」
金剛「あら? 瑞鶴が大人しくなりまシタ」
瑞鶴「えっ、あ……なんだかすっごく気分が落ち着いちゃって……」
瑞鶴「えーっと、もうちょっとだけこうして貰って良いかしら」
金剛「ワーオ! 作戦は成功ネー! 良いですヨー!」
瑞鶴「……金剛さんって包容力もあるわねぇ」
金剛「そんな事はないデース。私はテートクの真似事をしているだけネー」
加賀「…………」ジー
金剛「? どうかしまシタか、加賀?」
加賀「いえ、金剛さんが少し羨ましいと思っただけですよ」
金剛「ホワイ? 私にデスか?」
加賀「ええ。私ではそんな風に落ち着かせる事は出来ないでしょうからね」
金剛「そんな事はないと思いマスよー? 加賀はクールだからそんな風に思っているネ!」
加賀「そうだと良いのだけどね」
金剛「では! 瑞鶴、加賀に抱き締められてみて下サーイ!」
瑞鶴「え」
加賀「金剛さん、それは五航戦の子が怯えるだけだと思うのだけど」
金剛「大丈夫デス大丈夫デス」
瑞鶴「え、えーっと……」ビクビク
金剛「ほらほら、いってらっしゃいネ」ソッ
瑞鶴「…………金剛さんがそこまで言うのなら……」
加賀「……………………」
瑞鶴「え、えっと……よろしく、お願いします」オドオド
加賀「…………」スッ
瑞鶴「…………」ビクッ
加賀「ぁ……」
瑞鶴(……ええい! ままよ!)ギュゥ
加賀「!」ビクッ
瑞鶴「…………!」ビクビク
加賀「……えっと、こうすれば良いのかしら」ナデナデ
瑞鶴「っ!」ビクン
加賀「ご、ごめんなさい」スッ
金剛「ダメ、加賀。そのまま撫で続けて下サイ」
加賀「でも……」
金剛「大丈夫デス」
加賀「……分かったわ」ナデナデ
瑞鶴「…………っ」ビクビク
加賀「…………」ナデナデ
加賀(まだ怯えているわ……もっと優しく──こう、かしら……)ナデナデ
瑞鶴「……………………?」ビク
加賀(難しいわ……どうすればこの怯えは収まってくれるのかしら……)ナデナデ
瑞鶴(あれ……怖くない?)
加賀(……震えが止まった?)ナデナデ
瑞鶴(何かしら……金剛さんとはまた違った何かが……)
加賀(これで良いのかしら……)ナデナデ
瑞鶴(……ぎこちない手つきだけど、これはこれで優しさが伝わってくる)
瑞鶴(なんだろ、さっきまで怖がってた私が馬鹿みたい)スリ
加賀(頬を擦り付けて……懐いてくれたのかしら)ホッ
…………………………………………。
提督「本日は濃霧の為、出撃と遠征を中止する。各自、自由に行動してくれ。以上」
加賀「提督、少し個人で演習をしたいのだけれど構わないかしら」
提督「うん? ああ、構わない」
加賀「ありがとうございます」
加賀「五航せ──瑞鶴」
瑞鶴「あ、は、はい!」
加賀「制空権争いが少し苦手なの。練習に付き合ってくれるかしら」
瑞鶴「────────」
瑞鶴「うん! 私こそよろしくお願いするわね!」ニコ
加賀「ありがとう、助かるわ」
金剛(ふふーん♪ 大成功ネー!)ニコニコ
提督(ほう、金剛が何かしたか。あの加賀が航空戦を苦手とする訳がない)
提督「…………」ポン
金剛「? テートク?」
提督「ありがとう、金剛」
金剛「──ノー。私はきっかけを用意しただけデス。あの二人が仲良くなったのは、二人自身が近付こうとしているからデス」
提督「だからこそ、だ」ナデナデ
金剛「えへへー」
雷「あーっ! 金剛さんが司令官に撫でられてるわ!」
加賀「…………」ピクッ
不知火「なんですって?」ジッ
響「こいつは嫉妬せざるを得ないね。司令官、撫でて」
提督「何か良い事をしたらな。打算的なものでは撫でん」
不知火「難しいわ……」
瑞鶴「──あははっ」
瑞鶴(楽しいわね、ここって──)
……………………
…………
……
たぶん今日はここまでです。
またゲームシナリオを書くのに疲れたら来ます。たぶん明日になると思う。
前回のお話はヌルイものだったけど、今回は更にほのぼのが中心となっています。
ぼーっと読めると思いますので、今回もどうか読んでやって下さい。
投下していきます。
ちょっとばかし今夜は書けそうにないので、書き溜め全部投下しますので許して下さい。
雑談スレにて面白いHN提案がありましたので使わせて頂きます。この場を借りて感謝します。
提督「──本日の出撃は以上だ、皆よくやってくれた。補給と入渠を終わらせてから各自自由に行動して良し。解散」
瑞鶴「あー……初めての実戦で緊張したわ……」
加賀「至近弾が一発あったと思うけれど、大丈夫なの?」
瑞鶴「あ、うん。掠り傷だから何も問題ないわ」
加賀「それでもちゃんと入渠しておくのよ」
瑞鶴「え……でも……」チラ
提督「何を遠慮している。例えどんなに小さな傷でも入渠しろ。それが原因で沈んだら、後悔してもし切れなくなる」
瑞鶴「えっと……はい」
不知火「今回の戦果は艦娘のデータ一つですね。少し楽しみです」
提督「いや、これは復元せんよ」
金剛「え?」
提督「これはそのまま本部へ送る。艦娘が不足している大将が居るとの事だ。その方に使って貰おう」
島風「初めて聞いたけど、そんなのあったんだ」
提督「ああ。今後も手に入れたデータは全て本部へ送る事になるだろう」
加賀「理由をお聞きしても宜しいでしょうか」
提督「正直、鎮守府の運営で四苦八苦している。これ以上艦娘が増えると管理しきれなくなる上、書類も増えて睡眠もままならなくなってしまうからな」
金剛「テートクならばあとワンハンドレッドは居ても余裕のような気がしますケド……」
提督「そうでもないぞ金剛。残念だが私はこの程度だ」
不知火「司令がそう仰るのなら仕方が無いですね」
瑞鶴「……………………」
瑞鶴(なんか、おかしいような……?)
…………………………………………。
電「え? 司令官さんについてですか?」
瑞鶴「うん。聞いてみたら、電ちゃんが一番提督さんと付き合いが長いって聞いたの」
電「私でよろしければお答えしますけれど、何かあったのですか?」
瑞鶴「ちょっとね。──提督さんってさ、艦娘が多過ぎて困ってたりしてたのかな」
電「そういうお話は聞いた事がないのですが……」
瑞鶴「よねぇ……」
電「……あの、司令官さんが困っているのですか?」
瑞鶴「ん、ううん。なんとなくそう思っただけよ」
電「えっと……」
瑞鶴「ん?」
電「あっ──! え、ええっと……」オロオロ
瑞鶴「?」
電「な、なんでもないのです!」
瑞鶴(ああ、提督さんの事で言えない何かがあるのね)
瑞鶴「そっか。ありがとう、教えてくれて」
電「お役に立てたのですか……?」
瑞鶴「うん。電ちゃんのおかげよ」ナデナデ
電「わわっ──えへへ」ホッコリ
瑞鶴(怪しいわね……提督さんの事で隠し事なんて……))
…………………………………………。
不知火「瑞鶴さん」
瑞鶴「? えっと、不知火ちゃん……で合ってるわよね? どうしたの?」
不知火「はい、合っています。──司令がお呼びになられています。不知火はそれを伝えにきました」
瑞鶴「呼び出し? ……私、何かミスしちゃったのかしら」ビクッ
不知火「私には分かりません。ですが、羨ましい限りです」
瑞鶴「……えーっと?」
不知火「司令に呼び出される事が羨ましいです。正当な理由で会いにいけるではありませんか」
瑞鶴「────!? だ、だから私は提督さんの事が好きな訳じゃなくて!」
不知火「司令では不満だとでも言うのですか」ジッ
瑞鶴「ピィッ!? い、いや……そういう意味じゃなくて……そんな会ったばかりの人を、私は恋愛対象にしないって意味よ……」ビクビク
不知火「そうですか。……それでも、羨ましい」フイッ
瑞鶴「……どうして?」
不知火「司令の傍らには、いつも金剛さんと加賀さんが居ます。不知火では太刀打ち出来ません。……ええ。無理して会いに行っても、司令は私に目もくれないでしょう」
瑞鶴「そんな事はないと思うけど……」
不知火「気休めは結構です。職務では加賀さんに、疲れを癒しでは金剛さんに敵いません。私がいくら勉強をしても、努力をしても、二人はその間に先へ進んでしまっている」
不知火「私が彼女達に追いつく事は、出来な──」ハッ
瑞鶴「……………………」
不知火「……すみません。今のは不知火の落ち度です。どうか忘れてくれますか」
瑞鶴「ごめん。それは出来ないわ」
不知火「なぜですか」ジッ
瑞鶴「一生懸命がんばったら、何かの形で報われるの。例えそれが、自分が一番に望んだ事じゃなくてもね」
不知火「…………不知火には分かりかねます」
瑞鶴「私の勝手な考え方だけどね。だから、不知火ちゃんが努力している事を、私は忘れない。秘密にはするけどね」
不知火「まあ、それならば……」
瑞鶴「それじゃあ、私は提督さんのとこに行くわね」スッ
不知火「はい。不知火も失礼します」
タッタッタッタッ──。
不知火「……妙に説得力のある言葉でした。それ程の何かを経験してきたという事でしょうか」
…………………………………………。
今日はこれで終わりです。少なくてごめんよ。
また明日来ますね。
ゆっくり投下していきますね。
コンコン──。
提督「入れ」
ガチャ──パタン
瑞鶴「瑞鶴、出頭しました」ピシッ
提督「畏まらなくて良い。楽にしてくれ」
瑞鶴「は、はい……」
金剛「…………」
電「…………」ソワソワ
瑞鶴(金剛さんと電ちゃんも居る……。一体なんで呼び出されたのかしら……?)
提督「さて瑞鶴。どうやら私に聞きたい事があるようだな」
瑞鶴「えっ! えっと……」チラ
電「!」コクコク
瑞鶴「……ストレートに聞くけど、提督さんは私達に隠してる事があるの?」
提督「ああ、ある」
瑞鶴「教えて欲しいって言ったら、怒る……?」ビクビク
提督「怒りもしなかったら叱りもせんよ。むしろ、教える為にこの場へ呼んできた」
提督「だが、これから話す事は誰にも言わないように約束できるか? この事を知っているのは、この鎮守府において三人しか知らない。あまり口外されたくない事だ」
瑞鶴「う、うん。約束するわ」
提督「では話そう。──実を言うと、私はいつ倒れてもおかしくない身体をしている」
瑞鶴「────え?」
提督「正確に言うと、低血糖だ。血中糖度が足りなくなって倒れる症状というものだ」
提督「私の場合、甘い物を口にしにくいのと少食なのもあって余計にそのリスクが高くなっている」
瑞鶴「それって平気なの……?」
提督「定期的に糖分を摂取すれば問題ない」
金剛「なんて言いながら、テートクは最近倒れかけたデス」
瑞鶴・電「え!?」
提督「……金剛」
金剛「ダメです。あれはテートクが悪いのですからネ!」
提督「……………………」
瑞鶴(提督さんがバツの悪そうな顔をしてる……。似合わない……)
電(こんな顔の司令官さんは初めて見たのです……)
金剛「吐きそうになるのは分かりマスが、キチンと糖分は摂取して下サイ。でなければ本当にヴァルハラに連れ去られマス」
瑞鶴「えーっと……ヴァルハラはちょっと分かんないけど、とりあえず話を元に戻して良いかしら」オズオズ
金剛「ソーリィ……。本当に私はテートクの事になると周りが見えなくなる事がありマス……」
電(それだけ司令官さんの事を大事に思っている証拠なのです。気持ちは電も分かります!)
瑞鶴「提督さん。提督さんが低血糖なのは分かったんだけど、どうしてそれを私に?」
提督「変に聞き回られると他の子達も気付く。それならばこっちから教えて釘を刺せば良いだろう」
提督「この事は今この場に居る三人しか知られていない事だ。絶対に言うんじゃないぞ」
三人「ハイッ!」ピシッ
瑞鶴「あと、もう一つ聞きたいんだけど良いかしら」
提督「どうした」
瑞鶴「今日、帰投した時に言ってた事も低血糖と関係があるの?」
提督「ああ。ある」
提督「私の我侭だ。これ以上艦娘を増やせば、間違いなく低血糖になる割合が増えていくだろう。もし倒れてしまった時、お前達は優しいから心配しれくれると思う。出来れば、そんなお前達の心臓に悪い出来事はなるべく排除したい。それが理由だ」
提督「すまない、金剛、瑞鶴。私の身勝手で、お前達の姉妹を会わせる事が出来そうにない」
金剛「それは……仕方の無い事です」
瑞鶴「私はむしろ、翔鶴姉会わせてくれようとしていた事に驚いたわ……」
提督「お前達は確かに艦娘であり、人間ではない。だが、心のある人で違いない。出来るならば姉妹と一緒に居させてやりたいものなんだが……」
金剛「……そのお気持ちだけで充分です」
提督「…………」
金剛「たしかに、比叡や榛名、霧島と会えないのは寂しいです。けれど、それ以上に私は提督が無理をなされる方が悲しいです」
金剛「だから、そんなに辛そうにしないで下さい」
提督「……表情には出さないようにしていたつもりなんだが」
金剛「そんなの、私にはお見通しです」
提督「参ったな……ポーカーフェイスなのは自信があったというのに」
瑞鶴「……電ちゃん、分かる?」
電「ごめんなさい……私には分からないのです……」
瑞鶴「よねぇ……」
金剛「テートクへの愛は負けないネ!」
提督「──瑞鶴、聞きたい事はもう無いか?」
瑞鶴「ん、うん。わざわざありがとう、提督さん」
提督「では繰り返しになるが、この事は誰にも言わないようにしろ」
三人「ハイッ!」ピシッ
…………………………………………。
瑞鶴「──あ、不知火ちゃん」
不知火「あら、司令との逢瀬は終わったのですか?」
瑞鶴「ぶっ!? ちょ、ちょっと、逢瀬って!」
不知火「冗談ですよ」
瑞鶴「その割には本気の目だったように感じるけど……」
不知火「半分本気でしたので」
瑞鶴「……本当に色々と怖いわ、不知火ちゃんって」
不知火「褒め言葉として受け取っておきます。ところで、少しお聞きしたいのですが、良いですか」
瑞鶴「ん、どうしたの?」
不知火「司令と何を話していたのかが気になります」ジッ
瑞鶴(……嫉妬ってやつなのかしら? ともあれ、はぐらかさないと)
瑞鶴「えーっと……その……」
不知火「そんなに他人には言えないような内容でしたか」ジィッ
瑞鶴(確かに言えない事だけど! ──あ、そうだ)
瑞鶴「……実は昨日ね、秘書としてのお手伝いを経験させてもらったんだけど──」
不知火「なんですって?」
瑞鶴「ちょ、か、顔が怖いわよ……?」
不知火「……失礼しました。続きをどうぞ」
瑞鶴「それで、書き間違えてた所があったって本部から通達があったみたいなの。それが私のやった所で……」
不知火「…………あまり口にしたくない事でしたね。無理に聞いてしまってごめんなさい」
瑞鶴「ううん。大丈夫だから気にしないで?」
不知火「……………………」
瑞鶴「?」
不知火「いえ、出来た人だと思っただけです。では、不知火はこれで失礼します」スッ
瑞鶴「え、うん。またね?」
瑞鶴(私は、そんな良い人じゃないと思うんだけどなぁ……)
…………………………………………。
救護妖精「話は聞いたよ。低血糖で倒れかけたんだって?」ジィッ
提督「……面目ない」
救護妖精「だーから健康診断を受けろって言っただろコラァ!! 提督が死んだら艦娘達はどんな気持ちになると思ってるのさ!!」
提督「返す言葉も無い……」
救護妖精「よーし決めた。これから毎週健康診断を受けて貰うからね!! 提督は信頼も信用も出来るけど、自分の身体の事になったら途端に信用できなくなるんだから!」
救護妖精「あと、まさかとは思うけどアッチの方はバレてはないよね?」
提督「それに関しては大丈夫だ。誰一人として気付いていない」
救護妖精「それなら良いんだけど、騙し続けるのも時間の問題だと思うよ」
提督「あとどれくらいか分かるか?」
救護妖精「それはあたしにも分かんないね。神のみぞ知る状態だよ」
提督「そうか」
救護妖精「案外ドライだね」
提督「覚悟はとうに決めている」
救護妖精「はぁ……本当、どうしてこうなるのかねぇ……」
提督「そうなる運命だったとしか言えないだろう」
救護妖精「そうだけどさぁ……」
提督「……この話はここまでにしておこう」
救護妖精「……そだね。考えても仕方ない事だよ」
救護妖精「それじゃあ、健康診断は週末の夕食後に行う事にしようと思うけど良い?」
提督「ああ。それで構わない」
救護妖精「ん。ちゃんと来なよ。あと、出撃も控える事」
提督「なるべくそうしよう」
救護妖精「あんまり信用できない言葉だねぇ……」
…………………………………………。
──アルフォンシーノ方面──
提督「──戦闘終了。皆、まだいけるか?」
金剛「もっちろんネー! まだまだ余裕デース!」
加賀「私もです。特に被害も受けていませんので、私も問題ありません」
天龍「俺は小破一歩手前って所だな。まだまだ沈まねぇよ」
龍田「私は天龍ちゃんが庇ってくれたおかげで無傷よ~」
島風「敵の攻撃が遅くて避けるのも楽だよね!」
瑞鶴「艦載機の子達も、まだまだいけるって言ってるわ」
艦爆妖精「次の敵はどこだい、俺の500kg爆弾がウズウズしているぜ」
艦攻妖精「サーチアンドデストロイ。サーチアンドデストロイ……」
艦戦妖精「敵に空母が居る時にしか仕事がないのー。暇なのー」
提督「よろしい。──加賀、瑞鶴、一時の方向に偵察機を飛ばせ」
加賀「分かりました」
瑞鶴「はい!」
瑞鶴(……敵、見えないんだけど……提督さんと加賀さんには見えてるのかしら)
加賀「敵を捕捉しました。空母ヲ級が二隻、戦艦ル級、軽巡ヘ級、軽巡ト級、駆逐ニ級が各一隻です。全て黄と赤のオーラを纏っているわ」
提督「瑞鶴も同じか?」
瑞鶴「ご、ごめんなさい! もう少し──今補足完了しました! 同じです!」
提督「よろしい。今後、空母は瑞鶴のみで出る事もあるやもしれん。訓練は怠るな」
瑞鶴「はい……」
提督「落ち込むな。加賀とは絶対的な経験の差がある。少しずつ実力を伸ばしていけば良い」
瑞鶴「──はいっ!」
提督「戦闘に入るぞ。──加賀、瑞鶴、艦載機を飛ばせ! 標的は空母ヲ級二隻だ!」
加賀・瑞鶴「はい!」
提督「全艦隊、爆撃を回避しろ! ここで被害を貰っては倒せんぞ!」
──ドォンッ!
提督「──生きているか! 被害を報告しろ!」
金剛「私は無傷ネ! 向かってきた艦載機を全部撃墜したデース!」
加賀「私も回避しました。問題ありません」
瑞鶴「私の方にも艦載機は飛んできませんでした! 大丈夫です!」
天龍「いてて。天龍中破、直撃しちまった。ちょっとだけ後ろに下がるぜ」
龍田「私には攻撃が来なかったから無事よ~」
島風「あんな攻撃、私には当たらないんだから!」
提督「よく耐えた! 加賀、瑞鶴は攻撃の報告をしろ!」
瑞鶴「瑞鶴艦載機、攻撃を回避されました!」
加賀「私の方は軽巡ヘ級に庇われました。庇ったヘ級は撃沈。第二波状攻撃隊の子達の攻撃は空母ヲ級への至近弾に終わりました。」
瑞鶴(……そっか。何も攻撃を一斉にしなくても良いのよね。波状攻撃で確実に攻撃を当てに行くって方法があるのか)
提督「上々だ。続いて金剛、戦艦ル級へ斉射しろ!」
金剛「オーケー! 全砲門、ファイアー!」
金剛「──シット! 命中はしましたが損傷は浅いデス!」
提督「戦艦の反撃がくるぞ! 敵の砲撃に備えろ!」
ヒュッ──
瑞鶴「──え」
ガァン──!!
瑞鶴「あっ、ぐ……ッ!?」
金剛「瑞鶴!!」
提督「中破したか。瑞鶴は下がれ! 沈まない事だけを考えろ!」
瑞鶴「……提督さん。私はもう艦載機の発着艦が難しいわ。だから、囮艦になるからその間に──」
提督「下がれ。命令だ」
瑞鶴「ッ!」ビクッ
瑞鶴「は、はい……」
提督「帰ったら説教をする。必ず生きて帰るぞ」
瑞鶴「……はい」
結局、その戦闘で私は何の役にも立たずして終わった。
攻撃をする事も出来ず、囮となって敵を引き付ける事も許されなかった。
龍田さんは敵の駆逐艦を大破に追い込み、島風ちゃんは残りの軽巡を一撃で沈めてた。
加賀さんは第二次攻撃隊で金剛さんが弱らせた戦艦と空母を沈め、MVPをその手に収めた。
戦闘の最中、大破した駆逐艦は私を狙って砲撃をしてきた。
愚図の私はそれに気付かず、棒立ち。咄嗟に提督さんが私を引っ張ってくれたおかげで、事無き事を得た。
同じ中破のはずの天龍ちゃんなんて、その砲撃を見て反撃にと駆逐艦を撃沈させ、龍田さんと駆逐艦一隻の共同戦果。
瑞鶴「……………………」
私は、何が出来たんだろう……。
艦載機を飛ばす事も出来ず、ただ皆を見守る事しか出来なかった。
それどころか、提督さんを守る立場にあるはずなのに、逆に提督さんに助けられてしまったし。
──私は、この艦隊に要らないんじゃないかしら──
下手すれば、提督さんが死んでいたかもしれない。
このまま海の底へ沈んでしまいたい。本気で、そう思った……。
…………………………………………。
今回はここまでです。
たぶんまた今日、来ると思います。
色々な作業を同時進行させると、やっぱり書くのが遅くなりますね。
待たせてる上に投下量が少なくてごめんよ。
ちまちまと投下していきますね。
瑞鶴「瑞鶴、入渠を終え出頭しました……」
提督「うむ。──さて、説教をされる理由は分かっているな」
瑞鶴「はい……。役立たずな上、提督さんを危険な目に遭わせてしまったからです……」
提督「違う。そんな事はどうでも良い」
瑞鶴「……え? だ、だって……」
提督「空母の本分はアウトレンジからの攻撃と、多数の敵に甚大なる被害を与える事が出来るという事だ。それを可能とする艦載機の発着艦が出来なくなってしまえば、空母は攻撃に参加できなくなるのは当然だろう」
瑞鶴「その空母の本分、私は出来てなかったわよね……」
提督「あの戦闘はな。だが、全員が全員毎回必ず戦果を挙げ、必ず攻撃を避けられると思うか?」
瑞鶴「出来ない……と思う」
提督「そう。そんな事が出来るのならば戦争にはならない。ただの虐殺となるだろう。ミスは誰でも起こすものだ。そのミスは、指揮をしている私の責任でもある」
提督「あと、どうやら自分が足手纏いだと思っているようだが、お前はまだ経験が浅いだろう。失敗を糧にして成功を増やせば良い。それに、あの戦闘以外ではしっかりと戦果を挙げているのを忘れていないか?」
瑞鶴「あ、あれは敵の本隊じゃなかったし……」
提督「だからどうした。あれらは本隊を守る艦隊だ。それを倒さずして敵本陣を叩ける訳がないだろう」
瑞鶴「……………………」
提督「先程も言ったが、お前はまだ経験が浅い。これからゆっくりと伸ばしていけば良いだろう? 焦って沈んでしまったらそこで終わりだ」
瑞鶴「……なんで、怒らないの?」
瑞鶴「私は提督さんに沈まない事を考えろって言われたのにも関わらず、沈みかけた……。あの時もし提督さんが引っ張ってくれなかったら、私は沈んでた可能性もあったのに……」
瑞鶴「ううん、それだけじゃない……。提督さんだって死んじゃうかもしれなかった……。私は、もう少しで取り返しのつかない事を…………」
提督「それは確かに良くない事だったが、大元の原因は私にある」
瑞鶴「そんな事──!!」
提督「錬度の低いお前をあの海域に連れ出したのは誰だ。演習と多少の実戦しか経験のないお前を深く考えず連れ出したのは誰だ。下手をすれば轟沈させてたかもしれないのは誰だ」
提督「艦娘は己が原因で轟沈する事はまずない。全ては指揮をしている提督が原因だ」
瑞鶴「私がボーっとしていたのが悪いのに……私が鈍いからああなったのに……どうして提督さんは……」
瑞鶴「……叱ってよ…………じゃないと、私……苦しいよ」ジワ
提督「必要ならば叱ろう。だが、そうでないのならば私は叱らん」
提督「そして、その苦しいと思っている気持ちは絶対に忘れるな。その気持ちは人を伸ばす大切なモノだ」
瑞鶴「うん……うん……! 忘れない……絶対に、忘れない……!」ポロポロ
提督「そう思ってくれたのならば私もこう言った甲斐があったというものだ。ほら、涙拭くぞ」ソッ
瑞鶴「んっ……ありが、と……」ポロポロ
提督「お前はよく頑張ってくれている。最近、加賀と訓練をしているのは知っているぞ」ナデリ
提督「あの加賀や金剛だって、ここへ来た当初はミスもしていたんだ。誰だって通る道だよ」
瑞鶴「え……加賀さんだけじゃなくて、金剛さんも……?」
提督「ああ。泣き止むまで語ろうか?」
瑞鶴「…………うん」
提督「それでは、少しだけな。──金剛はここへ来た当初、私が一緒に出撃しているのは危ないと思っていたそうだ」
提督「だが、その時の金剛も経験が無くてな。尚且つ他に艦娘は電しか居なかった。二番目に来たのだよ、金剛は」
提督「初の出撃で敵と交戦中に、後方から奇襲しようとした敵が居た。そして、二人はそれに気付かなかった」
提督「なんとか事無き事を得たが、それから金剛は私が共に出撃する事の意味を見出したそうだよ」
提督「そうだな。その時から金剛は私に懐いてくれている。轟沈していたかも知れない状況だったからな。吊り橋効果というものだろう」
提督「次は加賀か。加賀は……初めは上手くやっていっていたな」
提督「だが、あいつはプライドが高い。敵艦から直撃弾を貰ってしまった時なんて、私の命令に背いて囮艦となったくらいだ」
瑞鶴「それって……」
提督「そう。お前と同じだ。そして、同じように私が無理矢理に引っ張って後ろに下がらせたが、至近弾を貰っていた──あの時の砲撃は戦艦だったな。流石に肝を冷やされた」
提督「加賀がお前を放っておけず色々と構っているのは、過去の自分と似ているからだろう」
瑞鶴「……意外。金剛さんも加賀さんも、そんな経緯があったんだ……」
瑞鶴(だから、あの二人は提督さんに想いを寄せているのね)
提督「……お前が言わんとしている事は分かる。そういう事だ」
瑞鶴「…………じゃあ、さ」
提督「うん?」
瑞鶴「私も、金剛さんや加賀さんと同じになるかも……ね?」
提督「……………………」
瑞鶴「まだどうなるかは分かんない。けど、ちょっと気になり始めてるのはホント」
提督「……あまり現を抜かすなよ?」
瑞鶴「うん。頑張る」ニコ
提督「──さて、涙も引いたみたいだな」スッ
瑞鶴「ぁ……」
瑞鶴(もうちょっと、傍に居たかったな……)
提督「さて、ここからが本題だ。瑞鶴、お前は下がれと言われたのにも関わらず、囮艦になろうと命令を背きかけたな?」
瑞鶴「え」ビクッ
提督「私はお前達を轟沈などさせんぞ。例え、どんな状況だろうとな。それは覚えておけ」
提督「というわけで──お仕置きだ」ヒュッ
瑞鶴「ピィッ!?」ギュムゥ
グイッ──
瑞鶴「きゃあああああああああああああッ!!?」ブラーン
瑞鶴「ど、どうしてあの流れからこうなるのよぉ!? 流石に酷くない!!?」
提督「反省が足りないようだ」クイクイ
瑞鶴「ちょっ! た、高くなって──やだああああああああ!!!」
提督「そもそもここへ呼んだ理由は説教だと初めに言っただろう。忘れていたな」
瑞鶴「ああッ! わ、忘れてた……!!」
提督「……素直でよろしいが、吊るす時間は増やすからな」
瑞鶴「嘘でしょぉぉお!!? もうヤダアアッ!!!」
…………………………………………。
金剛「瑞鶴、悲鳴を上げてるネ……」ビクビク
加賀「あれは……耐え難い羞恥です……」ビクビク
……………………
…………
……
提督「ふむ……」サラサラ
コンコン──
提督「入れ」
ガチャ──パタン
瑞鶴「提督さん、少し良いかし──どうしたの?」
提督「何がだ」サラサラ
瑞鶴「や、ちょっと悩んでるように見えた気がしたから」
提督「ああ……すまん。ここ最近、資材の消費が目に見えて増えてきたからな」サラサラ
瑞鶴「え……そうなの?」
提督「敵も強くなってきているのが原因だろうな。今の我々では少し相手にするのが厳しいのかもしれん」サラサラ
瑞鶴「それで被弾が増えて、消費する資材も増えてるって事?」
提督「そうだ。以前は被害も想定の範囲内だったのだが……ここ最近は何かと上手くいっていないな」サラサラ
瑞鶴「えっと、大丈夫?」
提督「なんとかする。それよりも、何か用事があったんじゃないのか?」
瑞鶴「あ、うん。金剛さんも加賀さんも入渠に時間が掛かるみたいだから、私が秘書のお仕事をしようと思って。二人から許可は貰ったわ」
提督「ありがたい事だ」
瑞鶴「どういたしましてっ。それで、何からすれば良いの?」
提督「まずはこっちの束から処理してくれると助かる。その内容は瑞鶴も分かるだろう。もし少しでも不安に感じたら私に聞いてくれ」サラサラ
瑞鶴「うん。分かったわ!」スッ
瑞鶴(えっと……資材入手消費報告書ね。あら、先月のも載って──え!? こんなに!? 結構使うものなのね……って)
瑞鶴「提督さん? これって、毎日付けてたら月末に纏めてやる必要はないんじゃ……」
提督「何が起きるか分からんからな。いつでも余分に物資を貰えるように敢えて月末に纏めるようにしている」サラサラ
瑞鶴「それってやっちゃダメなんじゃ……」
提督「勿論だ。出来ればこのような虚偽申告はあまりしたくない。今月はまだする必要がないから、最後のページにあるメモ通りに書いていってくれ」サラサラ
瑞鶴「うん」
瑞鶴(えっと……これね。これをそのまま書いていって……っと)カキカキ
瑞鶴(へぇ……正確な数字は初めて見たけど、一日にこれくらい入ったり出たりするんだ……ん?)
瑞鶴「……………………」
瑞鶴(この日から資材の消費量が明らかに増えてる……)
瑞鶴(……ええ。この日はよく覚えているわ……だってこの日は──)
──私がこの鎮守府にやってきた日──
瑞鶴(もしかして、私が原因でこんなに……? ──ううん。資材の消費で多いのは出撃と入渠での使用……でも、明らかに入渠の数字が大きくなってる)
瑞鶴(どこかで聞いた事がある。幸運は、不運と釣り合っているって……。じゃあ、幸運の空母って言われてて、実際に皆と比べて被弾が明らかに少ない私は、どこから幸運を……?)
瑞鶴(提督さん、さっき被害が増えてきたって言ってたわね……もしかして──)
瑞鶴(──私が、皆の運を吸い取ってる?)
…………………………………………。
もうこんな時間……。ちょっとおゆはん食べてきますので一旦ここで区切ります。
また後で来ますね。
瑞鶴「…………」トボトボ
不知火「あら、どうかしましたか?」
瑞鶴「あ……不知火ちゃん。ごめんね、ちょっとあんまり良くない考えが頭を巡ってて……」
不知火「良くない考え、ですか」
瑞鶴「うん……。あのさ、もし良かったらなんだけど、ちょっと話を聞いて貰っても良いかしら」
不知火「構いませんよ。あまり聞かれたくない話でしたら空き部屋で話しますか?」
瑞鶴「お願いして良いかしら……」
不知火「分かりました。すぐそこの部屋ですので付いてきて下さい」トコトコ
瑞鶴「ありがとう……」トボトボ
カチン──ガチャ──
不知火「どうぞ。この部屋は誰も入ってきませんので安心して下さい」
瑞鶴「……うん」トボトボ
不知火(何があったのか知らないけれど、これは相当弱っているわね)
──パタン──カチン
不知火「どうぞ。お好きな場所へ腰掛けて下さい」
瑞鶴「ありがと……」ポフッ
不知火「…………」スッ
不知火「単刀直入に聞きますが、何があったのですか?」
瑞鶴「……………………」
不知火「誰にも口外しません。望むのならば司令にも黙っておきます」
瑞鶴「……提督さんにも黙ってて貰えると嬉しいわ」
不知火「分かりました。この話は私達二人だけの秘密にしましょう」
瑞鶴「ありがとう……」
不知火「……………………」
瑞鶴「……えっと……不知火ちゃんは、幸運とか不運とかどう思う?」
不知火「幸運と不運? 考えた事もありません。ですが……そうですね。良い事があれば悪い事もある、という程度は思っていますよ」
瑞鶴「そっか……。じゃあ、すっごく運が良い人が居たら、どうしてだと思う?」
不知火「それはその星の下で生まれた人なのでは? もしくは、前世というものがあるのならば、とても良い行いをしていたとか」
瑞鶴「……他人の運を吸い上げて幸運になってるって、どうかな」
不知火「なるほど。確かにその考えもアリだとは思いますよ」
不知火「いえ、その考えは今までした事がありませんでしたけど、言われてみれば幸運の者の傍には不運な者が居る気がしますね」
不知火「話にしか聞いた事がありませんが、とある駆逐艦は敵味方が全滅するような状況でも生き残ったという話があります。爆弾が降ってきても不発弾だったりと、色々な噂話がありますね。一部の者からは死神と呼ばれているとか」
瑞鶴「死神、か……」
不知火「あくまでそういう噂話ですけれどね」
不知火「──む。すみません。そろそろ私の入渠時間が近付いていますので失礼します」スッ
瑞鶴「あ……ごめんね?」スッ
不知火「構いません。私が持ち掛けた話です」
瑞鶴「ありがとう、不知火ちゃん……」
不知火(……本当、何を思い詰めているのかしらね。話の内容も何に悩んでいるのか分かりませんでしたし)
瑞鶴(幸運の人の傍には不運の人が居る……。死神……)
…………………………………………。
今回はここまで。また今日、来ると思います。
暑さと湿度で大破しました。これ以上の執筆は困難です。
布団へ入渠します。
ちょこちょこと投下していきます。
金剛「エー、本日の演習はいつもと比べて少し違いマスので注意して下さいネー」
雷「なになに? 新しい事?」ワクワク
天龍「また対空砲火持久レースとかじゃないよな……」
龍田「対空砲火は私達、苦手だものね~」
瑞鶴「対空砲火持久レースって……色々な意味でしんどそうね」
金剛「ナント! 開発妖精が演習用魚雷の開発に成功しまシタ!」
暁「それ本当!?」
響「ハラショー。これで水雷戦隊の私達も活躍できるね」
雷「もーっと頑張れるようになるわ!」
電「後で開発妖精さんにお礼を言いに行くのです!」
天龍「おお……!」
龍田「あらあら~。天龍ちゃんったらすっごく嬉しそう」
金剛「こっちもペイント弾になっているネ。破裂すると水飛沫が上がりますカラ物凄く目立ちマス」
加賀「まだ試作段階らしいから、使ってみた感想も私と金剛さんに報告をお願いね。纏めてから妖精さんと提督へ伝えるわ」
金剛「今回の班分けは少し特殊デース。艦種や数による戦力差を敢えて作った上での演習となりマス」
金剛「第一班は瑞鶴を旗艦とし、天龍、龍田、雷、電の五人デス」
金剛「第二班は私を旗艦とし、加賀、暁、響の四人デス」
加賀「第一班は数が一隻多いけれど、決定的な打撃力は低めね。第二班は逆に数は少ないけれど、戦艦と空母の強力な攻撃が揃っているわ」
天龍「おいおい……これ俺達の班がすげぇキツくねぇか……?」
金剛「そうでもないデース。これは私達にとっても厳しいものがありマス」
金剛「第一班は雷撃距離まで近付ければ一発逆転が見えてきマス。バット、もし近付く事が出来ずに中破以上の被害を受けてしまえば勝利は遠のくでショウ」
加賀「逆に第二班は近付かれたら非常にまずいわ。いくら戦艦や空母といえど、魚雷をまともに受けてしまっては一溜まりもないもの。近付く頃にはこちらも被害が出ているから雷撃にはあまり期待出来ないというものもあるわ」
瑞鶴「えっと、第一班は避けたりダメージコントロールを優先して機を狙う。第二班は迅速に敵を倒さないといけないって事?」
金剛「イエス! ちなみに、演習だからといって轟沈レベルのダメージを自ら受けに行くのはノーなんだからね、天龍」
天龍「もう絶対にしねー……。あの後、提督にこっぴどく叱られたからな……」
龍田「ついでに吊るされてたわね~」
雷「天龍さんは意外と可愛い下着だったわね」
天龍「ばっ! 何言いやがるんだお前!?」
金剛「ハイハイ。早く演習を始めないとテートクに叱られるネ。でないと、私がテートクに代わって吊るしますヨ」
加賀「許可は貰っているわ」
天龍「うげっ……は、早く始めようぜ!」
金剛「では、所定の位置に着いてカラ五分間の作戦会議をして演習開始デース!」
天龍「──って言ってもなぁ。どうやって戦うよ? 相手は金剛と加賀だぜ?」
瑞鶴「加賀さんの方は私がなるべく抑えるけど、完全には無理だと思う。それよりも金剛さんが問題ね」
電「私達よりも射程が長い上、威力も抜群なのです」
雷「避け続けるなんてちょっと無茶な話よね。金剛さんって私達の中で一番強いし」
龍田「そうね~。演習でも実戦でもほぼ確実に当てているもの」
瑞鶴「……あっちの航空戦力を抑えつつ、金剛さんに全力で攻撃を叩き込むのはどうかしら」
天龍「それは向こうも対策をしてくるだろうな。それに、金剛は対空砲撃もしっかりとこなすぜ? 艦載機の事はあんまり分からねーけど、制空権争いをして疲弊した後だと数が足りなくないんじゃないか?」
瑞鶴「本当、神頼みしかないんじゃないかって思うわ……」
電「司令官さんの事ですので、必ず勝てないなんて事はしないと思うのですが……」
雷「あと、瑞鶴さんを守りきらないといけないのも確かよね。雷撃戦に入るまでのメイン火力だもの」
龍田「それだったら輪形陣が前提よね~。でも、それだと砲撃はともかく雷撃があまり期待が出来なくなっちゃいそう」
天龍「じゃあ複縦陣かなぁ。でも、どっちにしろ運任せか? 気合避けは嫌いじゃねーけどさぁ……」
瑞鶴(……制空権は取られない程度に力を入れて、雷撃戦になんとか押し込む方法…………)
瑞鶴(艦の数自体はこっちの方が多いんだから、それを生かせるような何かがきっと──)
瑞鶴「──あ」
電「? 何か思いついたのですか?」
瑞鶴「……ねえ、この演習って攻めるのはどっちだと思う?」
天龍「そんなの向こうだろ? 俺達は雷撃距離になるまで耐えなきゃなんねーんだし」
雷「防戦になる方が不利なのは当たり前よね?」
瑞鶴「じゃあさ、こっちが攻める状況を作るのはどうかしら?」
電「──え?」
…………………………………………。
金剛「──そろそろ五分が経ちマス。演習開始の砲撃を撃つ前に、作戦の再確認をするネ」
加賀「陣形は複縦陣。私が制空権を取れなくても取られないようにするから、金剛さんは気兼ねなく砲撃に集中。まず不安要素の瑞鶴を落としてから制空権を奪取。その後は天龍と龍田から確実に一人ずつ中破以上にしていけば良いのよね」
暁「私と響は雷と電を頑張って狙うわ。中破以上の被害を与えたら残った方に攻撃を向ければ良いのよね?」
金剛「イエス! 相手は耐える事を第一に考えるはずデス。だったら確実にヒットさせて雷撃戦になる前に戦力を削り切りまショウ!」
加賀「たぶん、相手は砲撃をあまり考えないでしょうね。軽巡で戦艦や空母に大きな被害を与えるのは難しいもの。だから瑞鶴の艦載機と、四人の雷撃を頼りにしてくるはず」
暁「私達は砲撃重視。もし輪形陣で来られて制空権が危なくなったら対空機銃を撃つ。これで負けないわよ」
金剛「その時はよろしくお願いしマスね、暁、響」
響「了解」
暁「任せて。絶対に負けないんだから!」
金剛「もし特攻を仕掛けてきても、落ち着いて迎撃をすれば良いネ! では、演習始めるヨ!」
響「……………………」
響(──そう簡単にいくかな)
金剛「スタート!!」ドンッ
パァンッ──!
金剛「加賀、艦載機を発艦して下さい! 制空権を取られないでヨ!」
加賀「大丈夫よ。皆、優秀な子達だもの」
加賀「──演習艦隊補足。複縦陣のようね」
金剛「グゥーッド! これで制空権は取られないネ!」
加賀「…………? 何かがおかしいわ」
金剛「どうしまシタ?」
加賀「敵の艦載機の発艦が遅すぎる。もう相手の対空範囲に入ったというのに、どうしてこんな──」ハッ
加賀「──やられたわ。金剛さん、空に注意して」
金剛「────え?」
暁「ちょ、ちょっと!? 完全に制空権を取られてるじゃないの!! どうして!?」
加賀「……相手は完全に対空装備で待ち構えてたみたいね。対空射撃で消耗した所を瑞鶴の戦闘機でほとんどが撃墜。こっちの爆撃は期待できないわ……」
金剛「こ、この数は流石に──っ! 暁、響! 防空射撃デス!」ドンドンッ
暁「む、無理無理ぃ! この数は無理よお!!」タンタンッ
響「ウラーッ!」タンタンタンッ
金剛「ダメッ! 全員、舵を切って!」
暁「きゃあああああっ!!」
ドォォンッッ──!!
金剛「うぅ……このペイントの付き具合から、中破は確定デス……」
加賀「私も飛行甲板に直撃……そんな、まさか……」
暁「わ、私と響は大丈夫みたいだけど……や、やばくない……?」
響「金剛さんと加賀さんに攻撃を集中させたみたいだね……かなりマズイよ」
金剛「これだと半分の砲塔は使ってはいけまセンね……でも、まだ戦えるネ!!」ドンッ
金剛「くっ……! 天龍に瑞鶴を庇われてしまいまシタ……! きっと天龍もまだ──」
金剛(──なぜ、まだあんなに艦載機が上空を飛んでいるのデスか?)
金剛「シット! 第二次攻撃が来ます! 全員、回避して下サイ!」
暁「またぁ!? もうやだぁああ!!!」
ドォンッッ──!!
加賀「……良かった。金剛さんを守れた。私は充分に大破状態だと思うわ。後はお願いね?」
金剛「加賀……。ありがとうございマス──必ず、必ず勝ってみせマス!」ジャキッドンッ
金剛「くぅ……! 今度は龍田に庇われました……! 最低でもあと一回は航空攻撃が来ます! 空には気を付けて下サイ!」
ドン──ドォンッ────
…………………………………………。
コンコン──。
提督「入れ」
ガチャ──
金剛「テートクー!」
提督「……どうしたお前達。演習が終わったのならペイントを落としに──」
加賀「私達ではどちらが勝利を収めたのか判断が付きませんでした。ですので、提督にご判断して貰おうと」
提督「なるほどな」チラ
金剛「ぅー……」大破
加賀「…………」大破
暁「こ、これでも頑張ったんだからね!」小破
響「…………」小破
瑞鶴「ここまで当たったのは初めてかも……」大破
天龍「どっちだ? どっちなんだ?」大破
龍田「天龍ちゃん、そんなに焦っちゃダメよ~」大破
雷「わくわく」小破
電「どきどき」中破
提督「……引き分けはダメか?」
金剛「やっぱりデスかー……」
瑞鶴「引き分けかぁ……」
提督「演習風景を見ていたが、中々面白い戦い方をしていた。あれに勝敗を付けるのは困難だ」
提督「詳しく言うならば、戦術では瑞鶴達が一歩上回り、対処は金剛達に分があった」
電「司令官さんは本当によく見てくれているのです」
提督「ああ。演習の開始がなぜか少し遅れていた事もな」
天龍・雷「っ!!」ビクゥッ
提督「お前達はしっかりと成長している。それだけでも私は嬉しいよ」
金剛(ベリィグッド!)グッ
瑞鶴(やった!)ニコ
加賀(やりました)クス
響(ハラショー。頑張った甲斐があったよ)ニヤ
提督「すまないが、私の答えは引き分けだ。それで我慢してくれ。──それよりも、早く着替えてきなさい。着替え終わったら自由行動して良し」
全員「ハイッ!」ピシッ
…………………………………………。
──第一軽巡洋艦部屋前──
コンコン──
龍田「どうぞ~」
ガチャ──パタン
瑞鶴「失礼します」
天龍「お? 瑞鶴じゃねーか。どうしたんだ?」
龍田「あらあら~さっきの演習についてかしら?」
瑞鶴「──二人に教えて欲しい事があって来たの」
天龍「俺達に? って言っても、軽巡の俺達に教えれる事なんてあるのか?」
龍田「まあまあ、まずは座りましょう? ずっと立っているのはしんどいでしょう?」スッ
瑞鶴「ありがとう」ソッ
龍田「それで、教えて欲しい事って何かしら? 提督さんの好みなら金剛さんの方が知っているわよ~」
瑞鶴「……それはちょっと知りたいけど、また後で」
瑞鶴「教えて欲しい事は、味方の庇う良い方法なの」
天龍「へ?」
龍田「どうしてそれを知りたいのか、教えてもらっても良いかしら」
瑞鶴「今日の演習を見て思ったの。中破しても、空母はやれる事があるって。加賀さんが金剛さんを庇わなかったら、こっちの勝ちは間違いないと思ったわ。状況によっては空母でも、例え中破していようと戦況を変えられるって思ったの」
龍田「なるほどねぇ……それで、よく味方を庇う私達に教えて欲しいって思ったのね?」
瑞鶴「うん。──私は、もっと皆の役に立ちたいの。今までの出撃でも、私が庇えば取り逃さなかった敵も多いわ。だから、お願いします」
龍田「……私は構わないと思うけど、天龍ちゃんがなんて言うかしらね~?」
天龍「……………………」
瑞鶴「天龍、お願い。私は、傷付いた人が更に傷付くのを見逃せないの」
天龍「……痛いぞ?」
瑞鶴「被弾する痛みは私も分かってるつもりよ」
天龍「だけどなぁ……お前は空母なんだから──」
瑞鶴「お願い!」ペコッ
天龍「う……あ、頭を下げんなって! ほら、教えるから、な?」
瑞鶴「ありがとう……!」
龍田(あらあら~天龍ちゃんは陥落されちゃったわね~)
天龍「えーっとだな。まず、こういうのは経験がモノを言うんだ。だから、まずは敵の動きを常に見て大体の予備動作を──」
……………………
…………
……
天龍「いってててて……大破か……」
提督「帰るぞ」
天龍「おい!? 目的地はあとちょっとだろ!? ここまで苦労して来たんだからさ! 俺は大人しく後ろに下がってるからこのまま進んでくれよ! 資源だって無限じゃねーだろ!?」
提督「馬鹿を言うな。間違いでも轟沈したら後悔してもし切れなくなる」
提督「資源なぞいくらでもくれてやる。時間とやり方次第で手に入る資源と、一度沈めば二度と帰ってくる事の出来ないお前達を比べるなんて事は出来ん。仮に同じ名前の同じ艦を迎え入れても、それはお前達じゃない」
天龍「くっそぉ……俺が被弾しなかったらゴールは目前だったのに……」
提督「天龍を中心として帰るぞ。私達の仲間を絶対に沈めさせるな」
全員「ハイッ!」ピシッ
瑞鶴(敵の動き……予備動作……砲撃するタイミング……)
提督「……………………」
…………………………………………。
金剛「アァゥッ!! あ、危なかったデス……! 損傷は軽微! まだまだいけマス!!」
提督「無理だけはするなよ、金剛」
金剛「もっちろんネー! 全砲門、ファイアー!!」
瑞鶴(どの艦が狙われるか……敵の視線はどこを向いているか……。あと、もう少し……)
…………………………………………。
島風「お゙ぅ!? び、びっくりしたぁ……。当たるかと思ったよー……」
提督「島風、あまり無理をするんじゃない。いくら速いと言っても、あれほどの砲弾を撃ち込まれると流石に危険だろう」
島風「はい……。ちょっと調子に乗っちゃってました……」
瑞鶴(──少し、分かった気がする。次は実践を……あれ? でも、これって────)
…………………………………………。
提督「──瑞鶴、偵察機を飛ばせ」
瑞鶴「うん。分かったわ。──提督さん、一つ試したい事があるの」
提督「ここ最近、敵を観察していたな。何か掴めたのか?」
瑞鶴「……バレてたのね」
提督「何を考えているのかは分からんが、お前の事だ。悪い事ではないだろう。やってみろ」
瑞鶴「うん──!」
瑞鶴(成功するかは分からない。けど、シミュレートはずっとやってきた。だから、後は実践だけ──!)
瑞鶴「──敵を捕捉しました! 空母ヲ級、戦艦ル級が二隻、軽巡ホ級、雷巡チ級が一隻! 陣形は単縦陣です!」
提督「厳しいな……。加賀、瑞鶴、まずはル級を狙え。お前達ならば制空権は取れる」
加賀・瑞鶴「はいっ!」
ブゥゥゥン……
加賀「制空権、確保しました。そのままル級へ艦載機で攻め落とします」
瑞鶴「私は向かって左を狙うわ!」
加賀「分かったわ。私は右を落としに掛かるわ。でも、少しだけ左のル級へ援護するわね。艦爆だけでは流石に厳しいと思うから」
瑞鶴「ありがとう! 全機爆装、準備でき次第発艦! 目標、向かって左のル級! やっちゃって!」
ドォォォンッッ!!
瑞鶴「!」
加賀「ル級一隻が小破。一隻が大破炎上。あれはもうすぐにでも沈むわ」
提督「一隻仕留め損なったか……流石に上部装甲が硬い」
金剛「テートク! 既に目標を補足しているネ!」
提督「よろしい。──金剛、撃てぇ!」
金剛「バーニング──ラァアブ!!」ドォンッ
ガァンッッ!!
瑞鶴(今──!)
金剛「なんて硬さ……! 命中弾で中破までしか与えられなかったデス!」
ル級「…………」ジャキン
提督「反撃がくるぞ! 砲撃に備え──!」
ドォンッ!
ル級「カッ……!?」
提督「────────」
提督「金剛! 第二射いけるか! 敵が怯んだ!」
金剛「え──あ、は、はい! ファイアー!」ドォンッ
ドォォンッ!
金剛「……ル級、艦橋に直撃。撃沈しまシタ」
提督「よくやった二人共! 続いて川内、神通、那珂、ホ級とチ級を狙い撃て!」
川内「は、はい! ──てーっ!」ドンッ
神通「よく……狙って……!」ドンッ
那珂「どっかぁーん!」ドンッ
ドパァンッ!
瑞鶴(チ級が反撃してくる──!)
提督「チ級が反撃──……いや、考えなくて構わん! 加賀、瑞鶴、爆装の準備は出来たか!」
ドォォンッ!
加賀「なっ──はい!」
瑞鶴「あと十秒で完了します!」
提督「よし。加賀の目標は中破したホ級! 瑞鶴は空母二隻! 全力で叩き込め!!」
…………………………………………。
…………………………………………。
天龍「おっ、おかえり!」
龍田「おつかれさま~」
提督「出迎えご苦労。近辺に異常はなかったか?」
天龍「おう! まったく問題無かったぜ!」
提督「よろしい。では、各自補給と入渠を済ませ次第自由にして良し」
提督「だが瑞鶴、お前は後で私の部屋に来なさい」
瑞鶴「え……? は、はい……」
提督「では、解散」
金剛「……テートク?」
加賀「…………」
…………………………………………。
コンコン──
提督「入れ」
ガチャ──パタン
瑞鶴「瑞鶴、出頭しました」
提督「…………」
瑞鶴「あの……提督さん? 私、何かミスとかしちゃってた……?」ビクビク
提督「──瑞鶴、どうして分かった」
瑞鶴「え?」
提督「どうして深海棲艦の攻撃をするタイミングが分かった」
瑞鶴「え……? だって、ずっと観察をしてたら何となく分かるようになって……」
提督「……………………」
瑞鶴「え……え……? わ、私、何かおかしい事でも言った……?」
提督「……一応、私も直前ならば砲撃のタイミングは分かる」
瑞鶴「で、でしょ? あー、びっくりし──」
提督「だが、攻撃のタイミングに爆弾を落として怯ませるなどという芸当は、私は絶対に出来ん」
瑞鶴「…………え?」
提督「爆弾が落ちるまでの時間を考えれば当然だ。私も一瞬の直前までは見て分かる。どうしても予備動作があるから分かる事だ。あの天龍や龍田でもそうだろう」
提督「だが、瑞鶴は何を見て攻撃を予測した」
瑞鶴「えっと……本当に感覚。次はどの敵が攻撃するって分かるっていうか、なんていうか……」
提督「……未来予知、か?」
瑞鶴「いやいやいや! そんな不思議な能力じゃないって! ずっと観察していたから分かる事よ!?」
瑞鶴「提督さんだって、たまに私達が何を言おうとしているかとか分かってるでしょ? それと同じよ。むしろ、私はそっちの方が凄いと思う」
提督「それはある程度お前達の事を理解しているつもりだから分かる事だ。……いや、もしかして艦娘ならば深海棲艦の行動を理解出来るのか?」
瑞鶴「私、深海棲艦の考えてる事とか全然分かんないけど……」
提督「……本当にどういう事だ」
瑞鶴「私は提督さんの悩んでいる事がちょっと分からないわ……」
提督「……相手の行動を予測出来るという事は、相手を理解していなければ出来ないものだ」
提督「例えば、私に付き従ってくれている艦娘の事はある程度予測出来る。これは共に暮らし、共に戦ってきたから分かる事だ」
提督「故に、初めての相手には予測が出来ない。今まで理解してきた何かしらの類似点があるのならば話は別だが、見ている限り奴等に規則性はあまり無い。いや、何かしらの規則はあるのかもしれないが、それが分かるのであれば今こうして戦争になどなっていない」
瑞鶴「うん……確かにランダムな要素が強いわよね──あっ」
提督「そうだ。ランダムを見切るなんて事、普通では出来ない事だ」
瑞鶴「え、あれ……? なんで私、分かってるのかしら……」
提督「分からん。お前は何をしたんだ?」
瑞鶴「だから何も──」
瑞鶴「……………………」
提督「……どうした?」
瑞鶴「ねえ……さっき提督さん、相手を理解していないと予測が出来ないって言ってたわよね……?」
提督「…………ああ」
瑞鶴「人間や艦娘の誰にも理解されない深海棲艦……それを理解する私って──」
瑞鶴「──深海棲艦、なの?」
……………………
…………
……
疲れましたので今日はここまでです。また明日来ると思います。
なんだか瑞鶴が大変な事になってってる。
どうしよう。
ちょっと諸事情で書き溜めとか出来なかったので、今書いたものを全部投下して今回は終わりにします。
提督「…………」
救護妖精「……ふぅん」カチャ
提督「どうした。何か異常でも出てきたか」
救護妖精「異常だらけな身体の癖に何言ってるんだいまったく。──提督、最近悩み事とかあるでしょ。免疫力が落ちてるよ」
提督「……健康診断でよくそこまで分かるな」
救護妖精「妖精を舐めるんじゃないよ。そのくらい分かるさ。で、悩み事があるのなら相談に乗るよ。ちなみに言っておくけど、艦娘は子供を宿さないから諦めな」
提督「……………………」
救護妖精「突っ込みが無いとは……こりゃまた大きな悩みみたいだねぇ……。それとも、本当に艦娘に恋したの?」
提督「後者ではない。少し繊細な内容だから言うべきかどうか悩んでいる」
救護妖精「口は堅いつもりだよ」
提督「知っている。本人からは許可を貰っているが、お前自身がどうか──と思っている。だが、私自身ではどうにもならない事だから非常に悩ましい」
救護妖精「ふぅん……? まあ、あたしをビックリさせるのは一筋縄じゃいかないよ。医者は色々と耐性が付くものさね」
提督「そうか。私は深海棲艦になってしまった、と言ってもか?」
救護妖精「……碌でもない冗談を言うんじゃないよ」
提督「悪かった。外で待たせているから呼んでも良いか?」
救護妖精「あいよ」
ガチャ──
提督「瑞鶴、入ってきて良いぞ」
瑞鶴「うん……」スッ
──パタン
救護妖精「瑞鶴だね。何があったんだい」
瑞鶴「えっと……物凄く馬鹿げてる話、なんだけど……」チラ
提督「……深海棲艦の取る行動が分かるようになってしまったらしい」
救護妖精「……はい?」
瑞鶴「わーん! やっぱりこうなるじゃないのぉ!」
救護妖精「あー……今のじゃよく分からなかったんだけどさ、つまりどういう事?」
提督「誰にも理解されていない深海棲艦の行動を予知レベルで分かるようになっている。まるで、長い間共に接してきた友のように行動が分かるようだ。事実、砲撃するタイミングに合わせて艦爆で攻撃するという事もしてみせている」
救護妖精「えー……何それ……」
救護妖精「……確かにそういうのって本能レベルの行動でもない限り分かんない事だし、相手があの深海棲艦ともなれば予測する事なんて有り得ないものだけど」
瑞鶴「……………………」ビクビク
救護妖精「…………まあ、一応検査してみるよ。血とか粘膜とか取るから待ってな」ゴソゴソ
提督「頼んだ」スッ
救護妖精「ちょい待ち提督。提督のももう一回取るから」スッ
提督「なぜ私のまで……」
救護妖精「女の子一人に痛い思いをさせる気かい? あと、さっきの検査でちょーっと分かりにくい所があったのを思い出したよ」フキフキ
瑞鶴「冷たっ」ピクン
提督「取って付けたような理由だな……」
救護妖精「良いから大人しく採取されてな。ほれ、血を抜くよ」プスップスッ
瑞鶴「……凄い。痛くない」
提督「素人の意見で悪いが、良い医者だと私は思っている」
救護妖精「はい、お喋りは一旦中止。口開けて。粘膜を取るから」スッ
瑞鶴「ぁーん……」
提督「…………」
救護妖精「ん、終わり。十分もしたら終わるから待つなり暇を潰してくるなりしてな」ガチャガチャ
瑞鶴「……怖いからここに居たい。提督さんは……部屋に戻っちゃうの?」チラ
提督「私もここに居よう。血を抜かれて少しフラついている」
救護妖精「嘘付くんじゃないよ。いくら提督でもあの量じゃ貧血起こさないのは、あたしがよーく知ってるんだからね」クルクル
瑞鶴「いくら提督さんでもって……提督さん、そんなに身体弱いの? これっぽっちも想像出来ないんだけど……」
救護妖精「本来ならいつ倒れてもおかしくないような身体だよ。なのに平然と動くもんだから訳が分からないのさ。現代医学の敗北だねぇ」カチカチ
救護妖精「…………ごめんよ。ちょっと集中するから、何か用事があったら肩を叩いてくれるかい」
提督「分かった」
瑞鶴「……ねえ、なんでそれでも私達と一緒に出撃してるのよ?」ジッ
提督「お前達を前線に送り出しているのにも関わらず、私一人が安全な場所で指揮を取りたくないだけだ」
瑞鶴「なんて理由よもう……」
瑞鶴(そういう理由、嫌いじゃないけどね……)
瑞鶴「──って、よくよく考えたらおかしくないそれ?」
提督「何がだ」
瑞鶴「出撃よ出撃! ……提督さんさ、艦娘じゃないのにどうやって海の上を滑ってるのよ?」
提督「今更か」
瑞鶴「あんまりにも当たり前のようにごく自然と滑ってて、他の人達も何も言わないんだから逆に気付かないわよ……」
提督「そうか。──その秘密はこの靴にある」コンコン
瑞鶴「靴……? なんの変哲も無い靴にしか見えないわよ?」
提督「開発妖精特性の靴だ。これで海の上でも浮く事が出来る」
瑞鶴「なんでそんな物を持ってるのよ……海軍学校で貰える物とかなの?」
提督「察しが良いな。その通りだ」
瑞鶴「……………………えっ!? それって指揮官も一緒に出撃を推奨してるって事!?」
提督「そんな訳ないだろ。飾ってあったから聞いてみれば、過去にこの靴を履いて艦娘と共に出撃した人物が居ると聞いてな。それで開発妖精に作って貰ったという流れだ」
瑞鶴「へぇ……」
瑞鶴(……浮くだけで滑るのは出来ないんじゃないの? それとも、そういう機能も付いているのかしら?)
提督「……………………」
瑞鶴「……………………」
提督「……さて、少し暇になるな」
瑞鶴「ん、んー……じゃあ、ちょっとだけ甘えさせて貰っても良い?」
提督「唐突だな。どうした」
瑞鶴「…………やっぱり不安だからさ。私は深海棲艦なのかどうかって。……だから、心を落ち着けたいの」
提督「……そうか。何をすれば良い」
瑞鶴「あ……め、迷惑だったら言ってよ? 嫌なのにして貰うのは、私もヤだから……」
提督「よっぽどのものでもない限りそれは無い。安心して言うと良い」
瑞鶴「……ありがとっ」
瑞鶴「それで、して欲しいのは……膝枕」
提督「ふむ。そうか」
瑞鶴「い、嫌だった……?」ビクッ
提督「いや、少し意外だっただけだ。──ほら、ベッドへ行くぞ?」ツカツカ
瑞鶴「う、うん!」ドキン
提督「……何を想像したのかは聞かないでおく」
瑞鶴「うわー……し、しっかりバレちゃってた……」
提督「まあ良い。のんびりしていると検査が終わるぞ」スッ
瑞鶴「お邪魔します!」ソッ
提督「…………」ナデナデ
瑞鶴「ひゃんっ!」ビクン
提督「む、すまん」スッ
瑞鶴「あっ──び、びっくりしただけだから! そのまま続けて!」
提督「そうか」ナデナデ
瑞鶴「んぅ……♪」ホッコリ
提督「気持ち良さそうな声を出しているなぁ」ナデナデ
瑞鶴「うん。凄く気持ち良いし、すっごく安心できるわ」
提督「そのまま寝てしまいそうだな」ナデナデ
瑞鶴「……良いの?」
提督「検査が終わるまでなら構わん」ナデナデ
瑞鶴「ありがとっ。──ここ最近、疲れてたから嬉しい」
提督「すまない」ナデナデ
瑞鶴「出撃とかで疲れたんじゃないわ。自己訓練で疲れてただけ、よ……」
瑞鶴「ん……もう眠たくなってきちゃった……」ウツラウツラ
瑞鶴(私、こんなに寝付きは良くないはずなんだけどなぁ……)
提督「そうか。良い夢を見ろよ」
瑞鶴「ん……おやすみなさい──」
瑞鶴(提督さんが傍に居るから……かしら────)
救護妖精「……………………」
救護妖精(嘘でしょこれ……?)
…………………………………………。
今回はここまでです。また明日投下すると思います。
あからさまに少ないなぁ……ごめんよ。
のんびりとスローペースで投下していきます。
救護妖精「提督ー、終わったよー」ヒョコッ
提督「ん、終わったか」
瑞鶴「すー……」
救護妖精「あや、寝ちゃったんだね。そのまま寝かせておいたらどう?」
提督「ああ。そのつもりだ。──ところで、検査の結果を教えて貰っても良いか」
救護妖精「まあそれは瑞鶴が起きてからで。今は提督も休みな」
提督「私はまだ仕事が残っているのだが、放っておけと?」
救護妖精「そう言ってるんだよ。やっぱり疲労とかのせいか血中糖度とか免疫力とか他にもヤバイ数字だらけだったから、いい加減にしないとドクターストップ掛けるよ。その前に、ちょっと糖分摂りな。金剛さんの茶菓子ならなんとかいけるみたいだし」
提督「……………………」
救護妖精「あと、仕事の話も耳に挟んでるよ。特に金剛さんと加賀さんは書類処理の手伝いに積極的なんでしょ? 提督でしか判断できない部分は置いて貰って、後は確認だけすれば良いじゃないかい」
提督「……非常に申し訳ない気持ちになる」
救護妖精「じゃあ倒れて艦娘全員から心配されたいのかねぇ」
提督「……………………仕方が無い、か……」
救護妖精「はぁ……。なんでもかんでも一人で抱え過ぎだって。ちょっとは人を頼っても良いんじゃない?」
提督「…………その話は置いておいて、私はこの通り動けない。すまないが、連絡を頼まれてくれないか」
救護妖精「あいよ。そのくらいならお安い御用さ。二人はどこ? 部屋? 提督室?」
提督「私の部屋で健気に待っていてくれているだろう。そっちに居なかったら自分達の部屋に居るはずだ」
救護妖精「あいあい。それじゃあ、行って来るよー」
カチャ──パタム
瑞鶴「ん~……」
提督「……………………」ナデナデ
瑞鶴「ん……すぅ……」
…………………………………………。
救護妖精「──という訳で、提督をちょっと無理矢理にでも休ませたいんだけど良いかな」
金剛「私はオールオッケーです! 本当にテートクは無茶ばかりする人なんだカラ……」
加賀「私も異論は無いわ。金剛さん、早速この山を切り崩しましょうか」スッ
金剛「ハイ! テートクの負担を少しでも減らすデース!」スッ
救護妖精(……本当に良い子達だねぇ。いや、提督だからここまで良い子になったって言うべきかね?)
金剛「サンキュー救護妖精! テートクは縛り付けてでも休ませて下さいネ!」
加賀「よろしくお願いします」
救護妖精「あいよー。じゃあねー」
──パタン
救護妖精「ふぅ。さて、戻るとするかねぇ」
不知火「あら、救護妖精さんこんにちは」
救護妖精「ん? やあ不知火。元気にしているかい」
不知火「はい。不知火は特にこれといった不調はありません。──ここに貴女が居るという事は、司令に何かあったのですか?」
救護妖精「ああ、ちょっと半分ドクターストップを掛ける事にしたよ。健診でちょーっと危ない数字が出てきたからねぇ」
不知火「危ない数字……」ピクッ
救護妖精「今のところ命に別状は無いから安心しな。その戦艦も射殺しそうな眼光を落ち着かせてね。危ない人にしか見えないよ」
不知火「……自覚はしているのですが直し方が分かりません」
救護妖精「鏡を見て、優しい目の練習をすれば良いんじゃないかな。いつかは出来るようになるだろうし、出来なくても今よりは良くなるでしょ」
不知火「今日から練習してみます。──ところで、司令のお見舞いをしに行っても迷惑ではありませんか?」
救護妖精「寝てもらってる間に色々と検査するから、また今度にしてくれるかい」
不知火「そうですか……残念です」
救護妖精(……なんだ。ちゃんと弱々しい顔も出来るじゃん。単に気を張り過ぎてるだけっぽいねぇ)
救護妖精「じゃあお詫びに良い事を一つ教えてあげる」
不知火「? なんでしょう」
救護妖精「たまには気を緩めたり心の底から甘えたりしてみな。じゃあねー」
不知火「そ、それはどういう──!」
救護妖精(後は自分で気付きな。私は提督と違って厳しいからねぇ)
救護妖精(……いや、提督もわざと教えてないって所か。気付いていないはずがないしねぇ。お節介だったかな)
救護妖精「──ん」
島風「へっへーん! 私には誰も追いつけないよー!」タタタッ
天龍「こらっ待て! 俺の髪飾り返せ!!」ダダッ
島風「良いでしょー! 代わりに天龍に私のリボン付けてるんだから! バニーガールみたいでかーわいいー!」
天龍「なっ……! か、可愛くねーし! 良いから返せ!」
龍田(私はいつもの天龍ちゃんの方が良いわね~)
救護妖精「…………」スッ
ガッ──!
島風「お゙ぅっ!?」ビッタァン!
天龍「うおっ! すげえ音したぞ……?」
龍田「あら~、綺麗な三回転半」
救護妖精「廊下を走るんじゃないよ。誰かにぶつかって怪我したらどうするんだい」
天龍「いや……足引っ掛けるのも充分怪我しそうなんだが……」
救護妖精「島風は別。ちょっと痛い目に遭って危なさを覚えてもらうつもりだよ」
島風「それ酷くない!?」ガバッ
救護妖精「それじゃあこれからは人が通る狭い場所で走らない事だね。で、怪我はしてない? 打ち身とかで痛い場所はある?」ソッ
島風「……一応どこも痛くないけど」
救護妖精「ん。なら良し。元気なのは良いけれど、危ない事はするんじゃないよ」ポンポン
救護妖精(まあ、艦娘だからあの程度で怪我する訳ないけどね。艦娘同士ならたぶん怪我するだろうけど)
島風「足引っ掛けられた後で優しくされるのって、なんか微妙な気分……」
救護妖精「それじゃあ、あたしは行くよ。その子のお守りは任せたよ天龍」トコトコ
天龍「お、おう? 任せとけ?」
救護妖精(ちょっと心配になる返事だねぇ……)
龍田「大変よね~。色々と」
救護妖精「まったくそうだねぇ。良い事だよ」チラ
救護妖精(……へぇ。天龍と島風、結構仲良さそうじゃないかい。島風は構って欲しくて悪戯をしたって所かねぇ?)
電「あ、あの……何か凄い音がしましたけど、何があったのですか?」ヒョコッ
響「まるでアザラシを力の限り床に叩き付けたような音と声だったよ」
暁「なんでそんな具体的なのよ……」
雷「あ、島風と天龍さんが居るから、きっと二人が遊んでた音じゃないかしら?」
救護妖精「当たらずとも遠からずって所だねぇ。元気かい、第六駆逐隊の四人達?」
電「はいなのです。救護妖精さんもお元気ですか?」
救護妖精「あたしが元気じゃなかったら医者として間違ってると思うねぇ」
暁「お医者さんでも風邪とかはひくものよ。身体には気を付けてね?」
救護妖精「それはあたしの台詞だよ。あと、その言葉も提督に投げ付けてやってくれるかい」
響「本当にね。私達の心配をしてくれるのは嬉しいけど、自分の身体も大切にして欲しいって切に思うよ」
救護妖精「まったくだよ。──それじゃあ、元気にやりなよ」
暁「はーい!」テテテ
響「うん。島風達と遊んでくるよ」トコトコ
電「失礼します、なのです」テクテク
雷「…………」ヂー
救護妖精「……うん? あたしの顔に何か付いてるかい?」
雷「そんな事ないわよ。──色々と大変だと思うけど、頑張ってね?」ニパッ
救護妖精「────────」
雷「じゃあねー!」タタッ
救護妖精(……まさかとは思うけど──いや、そんな事はない、か。あの子の正確を考えたら、ああ言うのも不思議じゃない)トコトコ
救護妖精(思い出しそうになるねぇ……あの笑顔はやっぱり、私を壊しかねないよ)
救護妖精「…………」チラ
救護妖精(……………………皆、楽しそうな顔してるねぇ……。昔と今、どっちが幸せだったのかね?)
救護妖精(まあ……それは考えても仕方が無い事か。どっちにしろ救われないんだからさ……)
川内「──でさ、提督と夜戦をしたらどうなるのかなって思ったのよ! やっぱり凄いのかなって!」
神通「もしするとしても、照明灯は欲しいかなって思います」
那珂「えー? 暗い方が見えないし良いんじゃないー?」
神通「だって……見えた方が色々とやりやすいでしょう?」
那珂「そうだけど、やっぱり照明灯は……ねぇ? やっぱり怖いし……ね、川内?」
川内「私は夜戦が出来ればそれで良いかな! だってさ、スッキリするし! いや、やっぱり提督と一緒に夜戦したいね!」
神通「もう……川内ったらそればっかり……」
那珂「本当に夜戦が好きだよね、川内って」
救護妖精「まだ日も落ちていないのになんちゅう話をしてるんだいアンタらは……」
神通「あら、救護妖精さん。こんにちは」ペコ
那珂「こんにちはーっ」
川内「こんにちはっ。──何って、夜戦だよ?」
救護妖精「……隠語を使うのは良いけど、まだ幼い子も居るんだからちょっとは自重しなよ」
三人「?」
救護妖精「あと、子供は出来ないから望んでいるとしたら諦めな」
川内「えーっと……?」
神通「子供……? あっ……!」
那珂「何の話だろ……?」
神通「あの……救護妖精さん。隠語などではなく、本当に言葉通りの意味で私達は話していたんです……」
救護妖精「……かなり紛らわしい言葉選びだったねぇ。録音して聞かせてやりたいくらいだったよ」
神通「本当にすみません……!」
二人「?」
救護妖精「まあ、次から気を付けてくれれば良いよ。金剛とか加賀が聞いたら問い詰められるからさ」
神通「はい……」
川内「……どういう事?」
那珂「那珂ちゃんもちょっと分かんないー」
神通「部屋で説明するから、一旦この話は終わりにしましょう?」
川内「よく分かんないけど、神通がそういうなら……」
那珂「…………! ああ、そういう事! た、確かに危ないね……金剛さんと加賀さんに聞かれるのは……」ビクビク
救護妖精「まあ、そっちの意味でもやりたくなったら、しっかりと身体を清潔にしてからするんだよ」トコトコ
那珂「ぶっ!」
神通「し、しませんって!」
川内(あ、あー……そういう事ね……)
救護妖精(ほーんと、賑やかな鎮守府だねぇここは。平和そのもので、本当に戦争をしているとはちょっと思えないよ)
救護妖精(まあ……表向きが平和なだけで裏が思いっきり危ないんだけどねぇ……。提督と瑞鶴にはなんて説明しようか……)
救護妖精「…………はぁ……」
救護妖精(救われないねぇ……誰も彼も……)
救護妖精(本当、どっちが幸せでどっちが不幸だったのかなんて分かりやしないよ……)
救護妖精(……憂鬱になるねぇ…………)スッ
ガチャ──パタン
提督「む、帰ってきたか」
救護妖精「ん。──瑞鶴はまだ寝ているのかい?」ヒョコッ
救護妖精「……………………」
瑞鶴「すぅー……すぅー……」ギュゥ
提督「この通りだ。私を抱き枕か何かと勘違いしているらしい」
救護妖精「……あたし、邪魔だった?」
提督「いや、正直に言うと困っていた。……そろそろ起こしても良いか?」
救護妖精「…………んー、丁度良い機会だから一緒にそのまま寝ちまいな。起きたら話すよ」
提督「……金剛と加賀が仕事をしているというのに、私が寝るのは心が痛む」
救護妖精「今まで無理をしてきたツケだと思いな。あたしはちょっと研究するから、起きたら肩を叩いてくれるかい」
提督「研究? 何の研究をしているんだ?」
救護妖精「どっかの誰かさんの低血糖が改善される薬」
提督「是非とも研究に没頭してくれ」
救護妖精「現金だねぇ……まあ、喉から手が出るほど欲しいのは分かってるけど、まずはその甘い物嫌いを直す事だね」
提督「……………………」
救護妖精「あと、提督も横になって布団を掛けてやりな。眠った後は触った感覚よりも体温が下がってるものなんだよ」
救護妖精「それじゃあ、私は一つ向こうの部屋に行くよ。ゆっくりと休みなよ、提督」トコトコ
カチャ──パタン
提督「…………」モソモソ
瑞鶴「んぅ……ふぁ…………くー……」
提督「…………」ナデナデ
瑞鶴「ん……ていと、くさん……」
提督(……起きた後が大変そうだ)
…………………………………………。
ちょっと疲れたので休憩してきます。
まったりのほほんへいわなちんじゅふ。
瑞鶴「ん……」パチ
瑞鶴(……あれ? なんかちょっと暗い……何かが被さってる?)
瑞鶴(あと……なんだろ、この抱き心地の良いこれ……。それより、私はなんで寝てたんだっけ……?)
瑞鶴(────あ)ハッ
瑞鶴(私、提督さんに膝枕して貰ってたんだっけ……! と、いう事は……)チラ
提督「……む。起きたか」
瑞鶴「あ、えっと……お、おはよ?」
提督「もう夕方だな。ゆっくりと眠れたか?」モゾ
瑞鶴(や、やっぱり提督さんだったー!!)
瑞鶴「あ、えぁ……う、んぃ……っ!?」
提督「……混乱しているようだが、大丈夫か?」
瑞鶴「え、と? ど、どどうして私、提督さんと……?」
提督「…………」
瑞鶴「や……本当の事を言っても良いから……ちょっとは予想付いてるし……」
提督「……瑞鶴が私の首辺りにしがみついたと思ったら、そのまま引き倒されて現在に至る」
瑞鶴「……………………」
提督「……………………」
瑞鶴「……うん…………なんか薄っすらとそんな憶えがある……」ズーン
提督「まあ……おかげで私も少し眠れた」
瑞鶴「……迷惑だった?」
提督「微塵にも思っておらん。むしろ、寝た直後の人はここまで体温が高くなるのかと知れて良い機会だと思った。流石に少々驚いた」
瑞鶴「提督さんが驚くって……そんなに?」
提督「ああ。風邪でもひいたのかと思ったくらいに熱かった。話には聞いていたが、体験した事はないのでな」
瑞鶴「へぇ……」
提督「それよりも、そろそろ離してくれると助かるのだが」
瑞鶴「……あっ!!」パッ
瑞鶴「…………は、恥ずかしい……」
提督「お互い様だ」
瑞鶴「……全然そんな風に見えないんだけど?」
提督「ポーカーフェイスは得意でな。内心は酷く焦っていた」
瑞鶴「……くすっ。珍しく説得力が無いわね」
瑞鶴「──あ、そういえば……検査の結果はどうだったの……?」
提督「まだ聞いていない。瑞鶴が起きるまで待っていた」
瑞鶴「…………あの、ごめんなさい……」
提督「謝るな。おかげで少し眠れたと言っただろう?」
瑞鶴「でも……」
提督「瑞鶴」
瑞鶴「ぴゃいっ!」ピシッ
提督「私が良いと言っている。それでも異を唱えるか?」
瑞鶴「ご、ごめんなさい……!」ビクビク
提督「よろしい」ポンポン
瑞鶴「ん……」
提督「──救護妖精を呼んでくる。ほんの少し時間が掛かるから、その間に顔を洗っておけ」
瑞鶴「え゙っ……は、はい!」
瑞鶴(え、え!? まさか涎の後とか付いてる!?)タタッ
瑞鶴「…………」ジッ
瑞鶴「……何もないじゃない。洗うけど……」ジャー
瑞鶴(でも、確かに顔は洗いたかったから良かったわ。──って、あれ?)
瑞鶴(ただ呼んでくるだけで、時間なんて掛からないわよね……?)
瑞鶴「────ああ、なるほど」
瑞鶴(気、遣ってくれたんだ……)
瑞鶴「……ありがと、提督さん」
…………………………………………。
救護妖精「んじゃ、単刀直入に言うね」
瑞鶴「…………っ!」ビクビク
救護妖精「なーんにも反応が出てこなかったよ」
瑞鶴「え……?」
救護妖精「だから、何にも反応が出てこなかったんだってば。瑞鶴は正真正銘の艦娘。これは間違いないよ」
瑞鶴「じゃ、じゃあ……深海棲艦の行動が読めるっていうのは……」
救護妖精「さあ? それはあたしには分かんないよ。予想とかしか出来ないねぇ」
提督「その予想とは?」
救護妖精「んー。ただ単に、そういう能力を持ったんじゃない?」
救護妖精「ほら、たまに人間でも居るでしょ? 本物の霊媒師とか占い師とかさ。たまにああいう風な、頭の神経が別のチャンネルに繋がっちゃう人も居るんだよ」
救護妖精「それは艦娘も同じ。何をやったのかは知らないけど、何かが原因で瑞鶴の頭の中にあるチャンネルが深海棲艦の行動理念とかと繋がっちゃったんじゃないかな?」
瑞鶴「あの……別のチャンネルに繋がるって何?」
救護妖精「一言で言うなら、種族や生命を超えた相手の理解、通信とかかねぇ。犬や猫がなんて言ってるのか分かる人って言った方が分かりやすいかな? たまに会話までしちゃう人も居るけど」
瑞鶴「なんとなく分かったような……」
救護妖精「まあ、そういう事なんじゃないの? とりあえず検査をして深海棲艦の反応が欠片も出てこなかったんだから深海棲艦だーなんて悩む必要はないよ。むしろ喜びな。それだけ敵を妨害出来るって事は、それだけ提督や他の子達に貢献できるってもんだろ?」
瑞鶴「あ、確かに……。そう考えると凄く良いかもこれ……」
救護妖精「これで瑞鶴の悩みは解決として、次は提督。再検査」
瑞鶴「え」
提督「…………」
救護妖精「意味不明な数字が出たから、ちょっと精密検査するよ。ホント、どういう身体してんの?」
提督「そう言われてもな……」
瑞鶴「え……えー……」
救護妖精「そんでもって、瑞鶴は部屋に戻っておく方が良いよ。提督を素っ裸にするから」
瑞鶴「ちょっ!? な、なななんで!?」
救護妖精「精密検査するんだから当たり前でしょ……。それとも、見たいの?」
瑞鶴「え、ぁ……う……」
瑞鶴「…………し、失礼しましたぁー!!」
ガチャ──バタン!
救護妖精「顔真っ赤にして出て行っちゃって、初心だねぇ」
提督「……それで、瑞鶴に秘密の話でもあるのか?」
救護妖精「流石は提督。察しが良いね」
救護妖精「──大真面目な話だよ。さっきは瑞鶴にああ言ったけど、本当は違う」
提督「…………」
救護妖精「本当は、深海棲艦の反応が薄っすらと出てきたんだよ」
提督「……薄っすらと?」
救護妖精「そう。私もこんなの初めてだけど、これだけは言える」
救護妖精「瑞鶴は艦娘であり深海棲艦でもある」
提督「……原因は分かるのか?」
救護妖精「いいや。分かんない。だから提督に質問をするよ。過去に瑞鶴が沈むような怪我をした事はある?」
提督「いや、無い。大破はあれど、そのような事は一度もなっておらんよ」
救護妖精「……じゃあ、瑞鶴を建造する時に、深海棲艦のパーツを使ったとかは?」
提督「無いはずだが、建造妖精に聞いてこよう」スッ
救護妖精「他に有り得そうな原因は思い付かないから、たぶん建造で何かあったんだと思う」
提督「聞いてきたらここへすぐに戻ってくる。その間に、他に考えられそうなものがあったら考えておいてくれるか」
救護妖精「あいよ。いってらっしゃい」
ガチャ──パタン
救護妖精「……おかしいのは、瑞鶴だけじゃないんだけどね」
救護妖精「なんで艦娘と同じ反応が出てくるんだい、提督──」
…………………………………………。
またもや諸事情で今回はここまで。また明日来ますね。
ちんまりと投下していきます。
提督「建造妖精、少し良いか」
建造妖精「おー、提督ー。どうしたのー? 何か建造ー?」
提督「いや、今回は建造ではない。瑞鶴を建造した時の事で知りたいことがある」
建造妖精「?」
提督「建造する際、何かおかしな事はなかったか?」
建造妖精「おかしなことー? いつも通りだったよー」
提督「どんな細かい事でも構わない。ほんの少しでも変だと思った事はないか」
建造妖精「んー…………──あ、そういえば。なんかさ、ちょーっと変な鋼材が混ざってたよー」
提督「変な鋼材?」
建造妖精「うん。ものすっごく溶接しにくい鋼材ー。捨てちゃおうかと思ったけど、提督が資材少なくて苦しんでるのは知ってるからなんとか使ったよー」
提督「そうだったのか。ありがとう。──ちなみにだが、溶接しにくい以外に何かおかしい点はあったか?」
建造妖精「んんー……。そうだねー。なんか、他の鋼材と比べてやけに硬かったかなー? それくらいだよー」
提督「……そうか。ありがとう」スッ
建造妖精「あれ、もう行っちゃうの?」
提督「忙しくてな。すまない」
建造妖精「いいよいいよー。またねー」フリフリ
提督「…………」フリフリ
…………………………………………。
ガチャ──パタン
救護妖精「! おかえり。どうだった?」
提督「建造をする際、異様に硬くて溶接しにくい鋼材があったそうだ。それが瑞鶴に使われているとまでは分かった」
救護妖精「……もしかしたら、それが深海棲艦の一部かもしれないね」
提督「可能性はある。ここ最近、総司令部も資材を様々な場所から掻き集めているらしい」
救護妖精「大いに有り得るねぇ……」
提督「……救護妖精、一つ聞きたい。瑞鶴はこのまま放っておいても問題ないのか?」
救護妖精「たぶん、だけどね。今までなんの問題もなくやってこれたんだ。バレなければ大丈夫だと思うよ」
救護妖精「だから、この情報は私たち二人だけの極秘情報にしておこうよ。いつどこで知られるか分かったもんじゃない」
提督「ああ、そうしよう。私達も極力この話はしないようにしよう」
救護妖精「うん。それが良いよね」
救護妖精「……あと、提督」
提督「どうした」
救護妖精「……………………」
救護妖精「──ちゃんと糖分摂りなよ。それだけさ」
提督「……ああ。戻ったら金剛に頼んでおく」
救護妖精「次倒れたら口に漏斗を突っ込んで砂糖水を注ぎ込むかんね」
提督「全身の毛が逆立つな、それは……」
救護妖精「じゃなかったらもうちょっと米とかを食べる事だね。少食だから無理かもしんないけどさ」
提督「まったく……不便なのか便利なのか分からん身体だ」
提督「──では、私は仕事に戻る。金剛と加賀に全てを押し付けてしまうのは心が痛む」スッ
救護妖精「あいよ。身体は大事にしなよ」
提督「善処しよう」
提督「ああ、そうだ。再検査の口裏合わせは何にすれば良い?」
救護妖精「あたしの検査ミスで、疲労以外は問題無かったっていう事にしといてくれるかい」
提督「分かった。では、失礼する」
ガチャ──パタン
救護妖精「……まあ、聞けないよね。これは、私だけの秘密にしておくとしよう──」
……………………
…………
……
ガチャ──パタン
提督「今戻った」
金剛「! ハァイ、テートクー! お身体はどうだったのデスか?」
提督「救護妖精が珍しくミスをしていたみたいでな。何も問題がなかったそうだ」
加賀「おかえりなさいませ。……書類はまだ残っています。すみません」
提督「いや、よくやってくれた。少しでもやってくれたのならば有り難い」
響「プリヴィエート。こっちの書類が私達では分かりそうにないものを纏めたものだよ」
不知火「おかえりなさいませ。他に何か出来る事はありますか?」
提督「それで充分だ。ありがとう」
瑞鶴「……提督さん」
提督「うん?」
瑞鶴「本当に何も問題がなかったの?」ジィ
提督「ああ」
金剛「……なんだか嘘っぽいデース」
響「司令官、怒らないから正直に言って」
提督「…………本当は疲労以外は問題がないと言われた」
金剛「やっぱり! 何も問題がないだなんておかしいと思いまシタ!」
響「じゃあ、司令官は先に身体を休めるかい?」
不知火「添い寝は不知火が担当しても──」
加賀「譲れません」ジッ
提督「添い寝は却下だ。それと、書類を片付け終わってから休む。私にしか処理できない書類はこれだな?」スッ
加賀「はい。──あと、提督は夕食をもう終わらせたの?」
提督「いや、まだだ。もう少しで食堂も閉まるから、このまま──……まさか、お前達」
金剛「ア、アハハ……」
響「…………」クゥー
不知火「…………」フイッ
瑞鶴「……私は食べる事自体を忘れていたわ」
提督「人に体調管理をしろと言っているというのに、お前達がそれでどうする……」
金剛「だってー! いつもはテートクと一緒に食べているネ!」
加賀「提督が居ないとご飯が美味しくありません」
響「ほら、早く行こう司令官」クイクイ
提督「……………………」
ガチャ──
提督「……まったく。…………急ぐぞ」グッ
タンッ──!
金剛「ちょっ! テートク速過ぎデス!!」タタッ
不知火「────! もうあんなに遠く……」タタッ
加賀「流石ね。提督には絶対に敵わないわ。色々な意味で」タッ
瑞鶴「何あれ……提督さんって本当に人間……?」
金剛「瑞鶴ー! 何してるデース!!」
瑞鶴「い、今行くー!」タッ
…………………………………………。
提督「……ふむ。書類はこれで一応終わりか」
提督(それにしても……まさか金剛達だけでなく全員が私を待っているとは……。嬉しい事だが、こそばゆいな)スッ
提督「…………ふむ……」パラパラ
提督(修正する必要はなさそうだな。あの子達も成長したという事か)
提督(……もう、私が居なくなっても鎮守府を運営出来るか? いや、それはまだ──)
コンコン──。
提督(──うん? 誰だ?)
提督「入れ」
ガチャ──パタン
瑞鶴「……提督さん、こんばんは」
提督「どうした。各自部屋に戻れと言ったはずだが」
瑞鶴「ちょっとお願いがあって……」
提督「そうか。なんだ?」
瑞鶴「夜風、当たってたんだけどさ……夜の海を見てたら胸が苦しくなって、その……落ち着きたくなって……」
提督「…………」
瑞鶴「それで気付いたら、ここに……」
提督「……やはり、まだ不安か」
瑞鶴「そりゃ、ね……。まだ完全には受け止め切れてないんだもの……」
提督「……そうか。頭を撫でるので良いか?」
瑞鶴「…………隣……」
提督「うん?」
瑞鶴「……提督さんの隣で眠りたい」
提督「……………………」
瑞鶴「ダメなら、諦めるけど……」
提督「…………」
瑞鶴「…………」ビクビク
提督「……今から言う事を守れるのならば良し」
瑞鶴「! 守る!」
提督「まだ何も言っていないんだが……」
瑞鶴「守るからっ!」
提督「……一つ、この事は内緒にしておく事。バレたら私に合わせろ。あの四人にバレたら特に大変だ」
提督「二つ、大人しくする事。もし破ったら即刻廊下に放り出す」
提督「この二つだ。守れるか?」
瑞鶴「うん! うんうん!」コクコク
提督「……物凄い笑顔で頷いているな」
提督(! 目の端に涙……これは嬉し泣きか)
瑞鶴「だって、本当に心細かったんだから……! 提督さんと救護妖精さん以外に相談できなかったんだから!」
提督「……そうだな。悩みを共有できないのは辛い事だ」ツカツカ
提督「火を付ける。瑞鶴は明かりを落としてくれ」シュッ
瑞鶴「はいっ!」
パチッ……
提督「見えるか」
瑞鶴「えっと……なんとか」ソロソロ
提督「それと、狭くても文句は言うなよ」モゾモゾ
瑞鶴「充分広いじゃないの……」ソッ
瑞鶴「……………………」タジッ
提督「どうした」
瑞鶴「や……自分から言った事だけど、一緒のベッドで寝るのって恥ずかしい事だったって思って……」
提督「やめるか?」
瑞鶴「ヤダ!」
提督「どっちだ……」
瑞鶴「…………よし。五航戦、瑞鶴……入ります!」ソソッ
提督(そこまで気合を入れる必要はあるのか……?)
瑞鶴「……………………」モソモソ
瑞鶴「……ぁ」ピトッ
提督「どうした」
瑞鶴「……あったかい…………」ギュ
提督「私の体温は低い方だったと思うが」
瑞鶴「ううん。身体じゃなくて、心があったかいの」
提督「心、か」
瑞鶴「うん……。まるでお父さんみたい……」スリスリ
提督「この歳で瑞鶴みたいな娘を持っていたら色々な意味で凄いな」
瑞鶴「じゃあ、お兄ちゃんになるのかしら」
提督「そっちの方がまだ近いだろう」
瑞鶴「お兄ちゃん、かぁ……。ふぁ……安心したら眠くなってきた……。さっきまで恥ずかしかったのに……」ウトウト
提督「日頃の疲れが溜まっているんだろう。ゆっくり寝ると良い」ナデナデ
瑞鶴「うん……おやすみ…………提督さん……」
瑞鶴「……………………すぅ……」
提督(随分と寝付きが良いな。それだけ信用されているという事か)
提督(さて、私も寝るとしよう。火を消すか)フッ
提督(……妹、か。私にも妹が居たらこんな感じなのか?)ナデナデ
提督(いや、居たとしても私には懐かんか)
提督「おやすみ、瑞鶴──」
……………………
…………
……
今回はここまで。たぶんまた明日来ますね。
暑いととある事情で筆が進まない……。
前と比べて少ないし遅いし、ごめんよ。
……今さっきブルースクリーンでPCが落ちました。保存していなくて、書いたものが全部消えてしまいました……。
今回はいつも以上に期待しないで下さい……。
あと、皆もPCの熱には気を付けて下さい……。
提督「…………」パチ
提督(朝か。──む)
瑞鶴「すぅー……」ギュ
提督「…………」ムクッ
瑞鶴「むー……」ギュゥ
提督「……………………」
提督「起きろ」ユサユサ
瑞鶴「ふぁ……?」パチ
瑞鶴「んぅー……? あれ……提督さんが私のベッドに……?」ボー
提督「まだ半分夢の中に居るみたいだが、金剛が来る前に色々と準備をしておけ」ポンポン
瑞鶴「金剛さん……? ──はっ!」ビクッ
提督「目は覚めたか?」
瑞鶴「う、うん……! えっと、洗面台借りて良い?」パタパタ
提督「ああ。あんまり焦るなよ」
瑞鶴「はーい!」
…………………………………………。
提督「──以上だ。何か質問はあるか? ……………………無いようだな。では、遠征組は十分後、出撃組は十五分後までに船着場へ待機しておくように」
ガチャ──ゾロゾロ──パタン
金剛「あら? 瑞鶴は用意しないのデスか?」
瑞鶴「うん。今日の出撃内容をもう聞いてるから、先に用意しちゃったの。……そういえば、いつも金剛さんと加賀さんは一緒に出てこなかったわよね。何かしているの?」
加賀「ええ。出撃までの間に書類の整理をしているの」スッ
金剛「こうすると、後が少しだけ楽になるネー」スッ
提督「ありがたい事だよ」スッ
金剛「それよりも……今日の瑞鶴はなんだかストレンヂです。何かテートクとあったデスか?」
提督「早起きなだけだろう」
瑞鶴「うん。昨日はお昼に寝ちゃってたから、たぶん早く起きちゃったんだと思う」
加賀「女の勘が告げています。ライバルとして一歩先を行かれたような気がするわ」
金剛「私もデース。本当に何も無かったデスか?」ジー
提督「無駄口を叩くのならば追い出す」
三人「!」テキパキ
提督(……女の勘というものは怖いな)
…………………………………………。
──カレー洋西方海域──
提督「……何も出ないな」
金剛「変ですネー……結構ディープな場所まで来たと思うのデスが……」
提督「──む」
加賀「! 霧が出てきましたね」
瑞鶴「え……妖精さんの観測機じゃ晴れそうだったのに……」
提督「何事も完璧という事は難しい。こういう事もあるだろう。帰るぞ」
天龍「ここまで来たのに帰っちまうのか?」
龍田「霧が深くなると敵に会っても分からなくて先制攻撃を受けちゃうかもよ~?」
島風「あー、そっかー……。仕方ないねー……って──!」
天龍「お、おおおぉ!? 一気に霧が濃くなってきたぞ!? ほとんど見えねぇ!」
提督「……嫌な予感がする。すぐに反転しろ。いつも以上に注意して進め」
全員「はいっ!」ピシッ
潜水カ級「…………」チャプン
瑞鶴「?」クルッ
提督「どうした、瑞鶴」
瑞鶴「……今、何か居たような?」
提督「…………何も見えんが、注意するに越した事はない。これより厳戒体制に入れ。何が居てもおかしくないぞ」
…………………………………………。
今回はここまで。たぶんまた明日来ます。
消えたダメージが酷い。過去最悪の書き込み量です。
「提督さん!!」
私はすぐに提督さんへ駆け寄って抱き起こした。
何度も、何度も声を掛けても反応が無い。
──死んでしまった?
不意に、そんな事を思い浮かべるも、すぐさまその考えを振り払う。
提督さんがこんな所で死ぬ訳がない……そんな事、絶対に無いんだから……!
「ぅ……」
「────っ!」
呻き声がした。けれど、すぐに落胆してしまう。
「どうなり……ました、か……?」
目を覚ましたのは、金剛さんだった。
爆発する瞬間に、提督さんに抱き締められて庇われた彼女が目を覚ましただけだった。
「金剛さん!! 提督さんは!?」
言ってから、自分の愚かさに気付く。
ああ、なんて酷いんだろう私は。今目が覚めたばかりの金剛さんに、提督さんの安否を聞いているなんて。
それどころか、提督さんではなく金剛さんが目を覚ました事に落胆した。
私は、最低だ……。
「……息、しています……大丈夫」
それなのに、金剛さんは私へ笑顔を作って微笑んでくれる。
「────────」
その笑顔を見て、私の中で何かが壊れた。
「瑞鶴……提督は無事……?」
「……………………」
加賀さんの問い掛けに答える事なく、私は空を見上げる。
「────!! おい、マズイぞ! 霧が晴れてきやがった!! このままじゃ──!」
ああ──本当だ。霧が薄くなっている。
──じゃあ、大丈夫よね?
「……現時刻をもって、司令官を変わります」
そうね、敵も見えてきた。大丈夫だ。
「…………瑞鶴?」
普段は凛々しい人の、弱々しい声が耳に入ってくる。
それを無視し、私は砲弾の雨を降らせている敵へ弓を構える。
まずは──あれが良い。中央の、白くて長い髪の敵が良い。
「──いってらっしゃい」
右手を離し、爆撃機を飛ばした。
猛スピードで飛んで行く爆撃機。目標は、中央最前線で踏ん反り返っているアレだ──。
結果は既に見えていた。
そして私の予想通り、敵の艦載機は一機も飛んでおらず、また、敵も空を一切警戒していなかった。
すぐに、爆撃音が鳴り響いた。
それの影響で、全ての砲撃も止まる。
「──命令よ。私を残して撤退して」
初めて、私は皆へ命令をした。
砲撃の音が止んだ今だからこそ、チャンス。
今の内に戦線を離脱すれば、帰れる可能性が高くなる。
「…………馬鹿を言わないで! 貴女一人を置いて撤退だなんて出来るわけないでしょう!」
当然、こういう言葉が飛んでくる。
「戦況は最悪。提督さんを含めて全員が沈んでもおかしくないわ。けど、私がここで食い止めれば、皆が助かるのよ」
「だからと言って──!!」
「それとも、加賀さんは提督さんを失いたいの?」
その一言で、加賀さんの言葉が切れる。
そう。私達にとって一番大事なのは提督さん。それを駆け引きに出せば良い。
再度、私は弓を構えた。
「だ、だけど──!」
そして、また一つ爆撃音が私達の耳に入ってきた。
「霧が完全に晴れる前に行動して。──提督さんを死なせたくないのならばね」
「……………………」
もう、誰も私に反論できなかった。
「──全艦、全速を以って戦線を離脱!! 私達の提督さんを死なせるな!! 行けッ!!」
まるで怒鳴りつけるかのように出した指示──。
皆が何かを言いながら、この戦線を離れていく音が聞こえる。
そして──。
ドォン──ッ!!
「……させないわよ」
逃げていく皆へ追撃をしようとした敵へ、爆弾を落とす。
攻撃をするタイミングの少し前に被弾をすれば怯む。そうすれば、時間くらいならば稼げる。
相手も馬鹿じゃない。それしきの事で全艦が攻撃を止める訳がない。
段々、私の攻撃する感覚も短くなっていく。
そして、段々と私へ撃ってくる砲撃も増えてきた。
「──ダメよ」
けれど、私達の仲間と提督さんへの攻撃は、一切許さない。
攻撃をしようものならば容赦なく爆撃をしていった。
──やがて、敵の攻撃は私へ集中する事となった。
「…………全艦載機、発艦」
霧も完全に晴れてきている。敵も全て見えてきた。
────へぇ。三十隻は居るわね。
そして、完全に避ける事が出来ない多数の砲撃が私を襲う。
「……か、はっ!!」
飛行甲板への直撃弾もある。これじゃあ発着艦はもう出来ないだろう。
ああ、良かった……先に全ての艦載機を発艦させておいて……。
──これならまだ戦える。
敵は砲を、私は上空から爆弾を──構えた。
「……そうよ、提督さん────」
ポツリ、と私は呟く──
「──私は幸運の空母なんかじゃない────」
届く事の無い──
「──私は、幸運な空母でした」
最愛の人への言葉を──。
……………………
…………
……
提督「────────!!」ガバッ
金剛「!! ──テートク!!」
加賀「……おはようございます」
提督「……………………」キョロ
提督「……どうして私はここに居る」
提督「金剛」
金剛「…………」
提督「加賀」
加賀「…………」
提督「天龍! 龍田!」
天龍・龍田「…………」ギリッ
提督「島風!!」
島風「っ……!」ビクッ
提督「────おい」
全員「…………………………………………」
提督「──瑞鶴はどこだ」
提督「不知火、瑞鶴はどこに居る」
不知火「……不知火には、分かりません」
提督「川内、神通、那珂……瑞鶴はどこだ」
三人「…………」
提督「暁! 響! 雷! 電! 瑞鶴はどこに居るんだ!」
暁「わ、私は知らない……」ビクッ
雷「わた、私もよ!」
電「っ! っ!」コクコク
響「…………」フイッ
提督「……上官命令だ。知っているものは言え」
加賀「…………私が、言います……」スッ
提督「言え。全てを包み隠さず」
加賀「……瑞鶴は……………………瑞鶴は、まだ……あの海域に居ます……」
提督「…………!!」バッ
金剛「ダメッ──!!」ガシッ
提督「放せ金剛! 私はあの海域に戻るぞ!!」グッ
金剛「無理です!」
提督「何を馬鹿な事を言っている! 今からすぐにでも戻れば──!!」ググッ
金剛「もう遅いんです!!」
提督「……………………」
金剛「提督……気付きませんか……?」
提督「…………」
金剛「日付を……日付を、見て下さい……」
提督「…………」チラ
提督「……二日…………?」
提督「どうして二日も時間が過ぎている……?」
加賀「本来ならば……死んでいてもおかしくなかったそうです」
加賀「救護妖精が頑張ってくれたのと、提督の身体が強かった事、そして……」
加賀「瑞鶴が……撤退する私達への攻撃を、全て防いだから…………」
提督「……どうしてだ」
加賀「……………………」
提督「どうして瑞鶴が犠牲艦になった!? 私は全員に戦線を離脱しろと命じただろう!!」
提督「どうして……あいつは命令を背いたんだ……!」ギリッ
金剛「提督……」
提督「……分かっている。そうしなければ、全員が沈んでいたと……分かっている」
提督「八つ当たりをしてしまった……すまない……」
カチ、コチ、カチ、コチ──。
提督「……補給と入渠は、済ませているか」
金剛「補給は終わっています……けど、入渠は全員、まだです……」
加賀(……気付いていなかったなんて、相当なショックを受けているのね…………)
提督「全員、私に付きっ切りになってくれていたのか……ありがとう」
提督「……傷を負っている者は入渠を済ませろ。ゆっくりで構わん。普段よりもどれだけ時間を掛けても良い。最善の状態に仕上げろ」
金剛「提督、まさか──!」
提督「そういう訳ではない」
金剛「…………」ホッ
提督「……準備が出来次第、出発。旗艦は金剛、続いて加賀、天龍、龍田、島風──以上の五隻とする」
加賀「提督……?」
提督「あの時の艦隊で、あの海域へ行くぞ──」
提督「──瑞鶴へ、花を添えに────」
……………………
…………
……
今回はここまでです。たぶん、また今日来ると思います。
書いていて心が痛い。
遅くなってしまった。
のんびりちまちまと投下していきます。
ちなみに、もうそろそろ終わるかも。
加賀「……入渠、終わりました」
提督「加賀で最後の入渠だったな。早速出発……といきたいが」
島風「…………」コックリコックリ
提督「もう夜も遅い。明日の早朝に出発を変更しよう」
島風「──はっ! ね、寝てませんよ!?」ビクン
提督「いや、今日の所は休んでしまおう。私もまだ気持ちの整理がついていないようだ。また瑞鶴のようになってしまわないようにしよう」
五人「……………………」
提督「……すまない。失言だった。──今日は解散だ。各自、しっかりと休息を取れ」
…………………………………………。
コンコン──
提督(む。こんな時間に誰だ……? 金剛か加賀辺りだろうか)
提督「入れ」
ガチャ──パタン
不知火「夜分遅くに失礼します」
提督「珍しいな。どうした不知火」
不知火「お会いしたくて訪問しました。──明かりが消えていますが、もしかして眠られていたのでしょうか」
提督「いや、ベッドに入った所だ」
不知火「そうでしたか。好都合です。司令、ベッドに腰掛けるようにして貰っても良いでしょうか」スタスタ
提督「どうした。相談でもあるのか」スッ
不知火「……ある意味では相談かもしれませんね」チョコン
提督「なぜ私の前に座る。隣でも構わん」
不知火「いえ、こちらの方が楽です」ソッ
提督「待て」
不知火「はい」ピタッ
提督「お前は何をしようとしている」
不知火「奉仕をしようとしています」
提督「必要ない。自分の部屋へ戻れ」
不知火「不知火は、司令の行き場の無い感情を受け止めようと思って来ました」
提督「必要ないと言っている」
不知火「不知火のような愚か者でも、今の司令が悩み、苦しみ、自分を責めているくらいは分かっています。私は、それを取り除きたいと思っています」
提督「……それだけか?」
不知火「…………黙秘権はありますか」
提督「どうしても言いたくないというのならば黙っていて構わん」
不知火「……イジワルですね」
提督「……………………」
不知火「もう一つの本心は、これを機に司令と肉体関係を築こうと考えています」
不知火「そうでもしなければ……司令は私へ振り向かないでしょうから」
提督「肉体関係を持てばどうにかなると思うのは早計ではないか?」
不知火「傷心している今こそがチャンスと判断しました」
提督「……お前は正直だが、損をする性格だな」ナデナデ
不知火「司令に嘘を吐くなど、私の中では死刑に値する事ですから」
提督「そんな正直者の不知火に慕われて喜ばしいよ」
不知火「なら──」
提督「だが、それとこれとは話が別だ。私はそういうのを求めていないから部屋に戻りなさい」
不知火「……ご命令とあらば」
提督「命令でなければ聞けないのか」
不知火「…………本当に意地が悪いです」
提督「そういう人間だよ、私は」
不知火「──今日の所はこのくらいで引き下がります。ですが、また付け入る隙があると思いましたら誘惑に来ますね」
提督「出来れば大人しくしていて欲しいものだ」
不知火「それは出来ない相談ですね。──おやすみなさいませ」ペコッ
提督「ああ、おやすみ。良い夢を見ろよ」
不知火「司令に頭を撫でてもらいましたからね。良い夢を見れそうです」
ガチャ──パタン
提督「……なるべくいつも通りの調子にしているつもりだったが。私もまだまだ若いな……」
…………………………………………。
カチャ──パタム
雷「あっ、帰ってきたわ!」
電「おかえりなさい、なのです」
不知火「あら、まだ寝ていなかったのね」トコトコ
響「勿論だよ。非常に興味深いんだから」
暁「で、ど、どうだったの?」ドキドキ
島風(皆、ませてるなー)
不知火「陥落どころか何も出来なかったわ。やっぱり、この身体がいけないのかしら」ペタペタ
島風「そうかなー?」
不知火「あら、何か確信でもあるの?」ポフッ
響「そうだね。司令官なら好きになってくれたら、相手がどんな体型だろうと愛してくれると思うよ」
不知火「けれど、やはり出る所は出ている方が有利じゃないかしら。金剛さんや加賀さんのように」
雷「挟めるしね!」
暁「ぶっ!?」
島風「雷ー……直接過ぎない……?」
雷「そう? 暁が昨日手に入れた本なんて──むぐっ」
暁「ダメダメダメダメ! 言っちゃダメェ!」
不知火「非常に興味深いわ」
響「暁、その本を出して」
電「うぅ……私も、少し……」チラチラ
島風「私も気になる……!」
暁「~~~~~~~~~~~~っ! ……はぁ…………分かったわ。見せれば良いんでしょ……」ゴソゴソ
暁「これよ」スッ
島風「? 思ったよりも普通の表紙だね?」
不知火「見えにくいわ。月明かりの下で見ましょう」ソソッ
電「…………」ソソッ
雷「こういう雰囲気ってエロいわよね」ソソッ
響「今日ばかりは雷の意見を全面的に肯定するよ」ソソッ
島風「わくわく」ソソッ
暁「こういうのはね、普通の表紙をしていても中身が凄いのよ。──だいぶ遅い時間だから、静かにね?」パラ
電「!! はわわっ。も、目次にもえっちな言葉が……!」ドキドキ
響「ハラショー。非常に興味のある単語が並んでるね」
雷「私はこの『イクってどんな感覚なの?』っていう特集が気になるわっ」
不知火「非常に非常に興味がそそられるわ」ワクワク
島風「私は触ってもくすぐったいだけだから、たぶん分かんないんだろうなぁ。興味はあるけどねっ」
電「わ、私もきっと分からないと思います……でも、気になりますっ」
暁「じゃあ、開くわよ……わっ」パラリ
電「絵が……! 絵が付いているのです……!」ドキドキ
雷「凄いわっ。こんなに仰け反ってるっ」
不知火(私と同じね。少し親近感が沸くわ)
響(私とは少し違うみたいだね)
島風「わー……なんか体勢だけなら痛そう……」
暁「こ、こんなに仰け反っても痛くならないくらい気持ち良いんじゃないかしら……? たぶん……」ドキドキ
不知火「そうね。全身が性感帯になったみたいな感じになるもの」
雷「あら? なんだか凄く良い発言」ヂー
暁「け、経験者……!?」ドキドキドキ
島風「不知火、進んでる……!」
響「月明かりでも顔が真っ赤なのが分かるよ」
不知火「…………顔から火を噴きそうになるからやめて……」
電「え、えっと……説明が書かれていますので、読んでみましょう……!」
雷「あら、初めの頃と比べて大分積極的になったわね、電?」ニヤニヤ
電「はぅぅ……恥ずかしいよぉ……」
不知火「……………………」ジッ
不知火「……すみません。不知火はそんな気分ではなくなったわ。寝るわね」スッ
雷「え?」
響(……これは良くないね。瑞鶴さんが沈んでしまったから、暗くなるのを防ぐ為にこうやって餌を出したというのに……)チラ
雷(何があったのかしら……? 響と一緒にこういう話になるように持っていったのに……)
島風「…………ごめん。私もそういう気分じゃなくなったから寝るね」スッ
響(これは……本に何か書いてあったな……)チラ
電「…………暁ちゃん、ありがとうございました、なのです」スッ
暁「……………………」ギリッ
雷「……………………」フイッ
響「────ぁ……」
『私たち女性の絶頂──イク感覚とは、死ぬ時の感覚に最も近い感覚であり、それは────』
響(……なるほどね。確かに、これは失敗した)チラ
響(…………瑞鶴さん。瑞鶴さんは、この海のどこに居るんだい……?)
……………………
…………
……
疲れが取れない……。
今日も少ないけど、今回はここまでです。また今日、来ると思います。
現実世界でも、甘いのが苦手な人でも、間宮アイスクリームを食べれば疲労は取れるのかな。
だいぶ日が開いてごめんよ。
今から投下します。
提督「……本日は一回の出撃を除いて休みとする。金剛、加賀、天龍、龍田、島風を除いて自由にして良し。五人は時間を掛けて構わん。万全の準備をして船着場へ来るように。以上だ」
金剛(テートク……やっぱり元気が無いデス……。デリケートなお話デスから、いつものように接する事も出来まセンし……)
響「──発言しても良いかい、司令官」スッ
提督「許可する。どうした」
響「一人で背負い込まないでね。私達はいつでも司令官の味方で、いつでも司令官の為に行動するつもりだから」
提督「…………」
響「…………」
提督「……ああ。私一人で背負い切れなくなったら、お前達を頼ろう」
加賀「背負い切れなくなる前に頼って貰っても良いかしら」
川内「そうそう! 無理をするのは駄目なんだからねー!」
提督「……そうだな。その通りだ」
提督「ありがとう、皆。私は、お前達の司令官であれて幸せだ」
…………………………………………。
開発妖精「……んー?」
建造妖精「どうしたのー?」
開発妖精「ねえねえ、アレ何だろ?」
建造妖精「アレって何ー?」
開発妖精「ほら、海に浮かんでる──あ、沈んだ」
建造妖精「なんか一瞬だけ見えたよー。なんだろあれー?」
開発妖精「母港に近付いてきてたように見えたけど、気のせいかな」
建造妖精「ゴミじゃない?」
開発妖精「ゴミだったらいきなり沈まないでしょうよ」
建造妖精「じゃあ何だろねー?」
開発妖精「んー、ちょっと気になるから潜ってみようか」
建造妖精「おおー、行動的だねー」
開発妖精「最近は建造も開発も無いしね。暇だし身体も鈍ってくるし、良い運動だよ」テテテッ
建造妖精「私も行くよー」テテッ
開発妖精「えーっと……確かここら辺だったかな?」キョロキョロ
建造妖精「底は見えないねー」ジー
開発妖精「よーし、潜ろう! シュノーケルよーし! レッツゴー!」ピョーン
建造妖精「行こー行こー!」ピョン
ポチャン──
開発妖精(んー。やっぱりというかなんというか、少し潜るだけじゃあよく見えないなぁ)
建造妖精(おおー、船着場の底ってこんな風になってたんだー。思ったよりも海草とかボコボコした岩で一杯だねー)
開発妖精(──おおっ!! 錆付いてるけどなんか鋼材落ちてるじゃん! ねえねえ!)チョンチョン
建造妖精(ん、なになにー? 指差してるけど──おおっ!? 鋼材じゃん! 錆びてるけど)
開発妖精(拾いに行こう! 提督さんきっと喜ぶよ!)スッスッ
建造妖精(うんー? ……ふむふむ。拾いに行きたい、と。賛成だよー。提督さん喜びそー)グッ
開発妖精(それじゃあ拾いに──うひゃぁ!?)ビクゥ
建造妖精(え、どしたの? なんか凄い慌ててる)
開発妖精(アレ! アレ!!)ビシッ
建造妖精(また指差してる。何が──にゅおおぉ!?)ビックゥ
開発妖精(あれって深海棲艦!? 逃げよう!! 襲われるかも!)ゴボゴボ
建造妖精(ま、待って! 静かにしよう! 気付かれたら危ないってー!)シーッ
開発妖精(うっ……た、確かに静かにしないとマズイかも……。ま、まだ気付かれてないよね……?)チラ
開発妖精(……………………)
建造妖精(ちょっ、だからといって止まるのも駄目でしょー! ほら、早く陸に上がるよ!)グイッ
開発妖精(え……? あれって……もしかして……)バッ
建造妖精(ちょっとおおおおおおおおおおおお!!? なに近付いちゃってるのおおおおおおぉぉ!?)バッ
開発妖精(!! やっぱり……これ、深海棲艦だけど違う)
建造妖精(こんな傍にまで来たら危ないってばー!! ほら、早く上が──え?)
建造妖精(……ねえ、あの服って)チラ
開発妖精(やっぱり建造妖精もおかしいって思った。これは──)
開発妖精(いや、どうしてこんな所に……そんな事よりも、どうして深海棲艦みたいな帽子を……?)
建造妖精(……良く分かんないけどさ、どうする、建造妖精?)スッスッ
開発妖精(え、ええ……? 引き揚げようって言ってる? ……マジで?)スッスッ
建造妖精(あー。やっぱり引き揚げるべきだよねー。よーし! 私は足を持つから、開発妖精は腕をお願いねー!)グッ
開発妖精(完全に引き揚げる気だ……。何か考えがあるのかな……? とりあえず、私は肩辺りを持とう)ググッ
建造妖精(……あ、あれ? なんか上手く伝わってない? まあ、いっか)
…………………………………………。
開発妖精「ふぅー……。とりあえず工廠の中に連れて来たけど……」
建造妖精「うんー?」
開発妖精「……どうするの」
建造妖精「え、私!? ってか、何も考えてなかったのー!?」
開発妖精「うぇえ!? 建造妖精が引き揚げようって言ったんじゃなかったの!?」
建造妖精「……どうする? っては聞いたつもりだったけど…………」
開発妖精「…………」
建造妖精「…………」
開発妖精「……とりあえず、本当にどうする? 提督さんに報告した方が良いんだろうけど……」
建造妖精「……私、言うの怖い。言わないのも怖いー……」
開発妖精「私もどっちも怖いんだけど……」
建造妖精「どうする……?」
開発妖精「どうしよう……?」
建造妖精「……一先ずは修理とかしよっかー。ボロボロなのは可哀想だよー……」
開発妖精「……うん」
…………………………………………。
提督「全員、集まっているようだな」
金剛「……ハイ。万全の準備が出来ていマス」
加賀「持っているユリは供花かしら。少し量が多い気がするけれど、何か理由があるの?」
龍田(まさか、提督さんは瑞鶴さんが好きだったとかかしら……?)
提督「艦娘全員と私の数だけ用意した。流石に十四本は多いかもしれんが……瑞鶴も、寂しくない方が良いだろう」
龍田(……浅はかな考えをしちゃった自分を殴りたいわねぇ~)
提督「そろそろ出発しよう。改めて言うが、旗艦は金剛で……────」
島風「? 提督、どうしたの?」
提督「……………………」ジッ
天龍「ん……? あれ、なんだこれ? 水の跡?」
金剛「まるで何かを引き揚げたかのような跡デスね? 工廠へと続いているようデスが……」
提督「行ってくる。待機していろ」タンッ
加賀「……何度見ても、本当に人間なのかと疑いたくなるような速さと動きね」
島風「なんであの距離を一足飛び出来るのかなぁ……。私でも出来ないよ……」
金剛「……あれが出来たら生物として異常デスよ、島風」
…………………………………………。
提督「邪魔をするぞ」
二人「ッ!!」ビックゥ
建造妖精「て、提督さん!? どどどどしたの!?」
提督「少し気になる事が──」
開発妖精(あ、やばい。見つかった……)ビクビク
提督「…………おい」
二人「はっはいぃいぃいぃぃぃぃ!!!」ビクンッ
提督「どういうことだ、これは……?」
建造妖精「あああのえとこれはそのですね!?」ガタガタ
提督「…………答えろ……」
開発妖精「ひゃいぃ!?」ビクゥ
提督「何をした……何を知っている……」
建造妖精「わ、わわ私達は何も知らないよぉ!!?」ガタガタガタ
提督「ならなぜ……ここに──」
提督「──深海棲艦の姿をした瑞鶴が居るんだ…………?」
開発妖精「ほ、本当に何も知らないよ!! 私達はただ船着場の底から引き揚げただけで……!!」ビクビク
提督「船着場の、底だと?」ジィ
建造妖精「提督さん怖い怖い怖い!! その目怖いよぉ!! 瞳孔が開いてるってばぁ!」ガタガタガタ
開発妖精「何か沈んだのが、見えたから! それで──! ひ、引き揚げたらボロボロの姿だか、だから! 可哀想って思って!!」ビクビク
提督「…………」スッ
二人「ひぃッ!?」ビクンッ
提督「…………」ソッ
瑞鶴「……………………」ピクン
提督(……生きている。だが、どうしてこんな姿に…………)
瑞鶴「…………ぁ」
提督(深海棲艦は、艦娘の成れの果てという噂は本当だったのか……)
提督「……建造妖精、開発妖精」
二人「ハイィッ!!」ピシッ
提督「この事については一切の口出しを許さん。無かった事にしろ。これに関しての雑談も禁ずる」
二人「ハイッ!!」
提督「もしお前達から情報が漏れたと発覚した場合は……生皮を剥いだ身が重油ドラム缶に沈む事となる」
二人「ハイッ! ここでは何もありませんでした!!」
提督「よろしい。では、職務に戻れ」
二人「ハイッ!!」タタッ
提督(……さて、今日の出撃は中止にせねば。救護妖精へまた負担が掛かるな……)
…………………………………………。
救護妖精「──で、こっそりここへ連れてきたと」スッ
提督「ああ。この状態では誰彼構わず見せる訳にもいかない」
救護妖精「その五人は混乱していたでしょうに……」カチャン
提督「初めはそうだったな。だが、私の表情から何かを察してくれたらしい。特に理由を聞く事もなく大人しく従ってくれたよ」
救護妖精「愛されてるねぇ」ペタペタ
提督「ありがたい事だ。──それよりも、瑞鶴は大丈夫なのか」
救護妖精「……あんまり言いたくないんだけどさ、分からない」
提督「そうか……」
救護妖精「傷とかその具合から考えて、沈んでもおかしくなかったと思う。工廠の妖精の話からすると意地でここまで帰ってきたんだろうけど……。今は、なんらかのショックで眠ってるんじゃないのかな」
提督「……なんであれ、帰ってきてくれたのは喜ばしい事だ。例え深海棲艦になったとしても、私の知っている瑞鶴には変わりない」
救護妖精「……………………」ギリッ
救護妖精「……提督、一つ良いかな」
提督「なんだ」
救護妖精「このまま、さ……瑞鶴が記憶を無くしたり、言葉が話せなくなってたりしたら……どうする?」
提督「────────」
救護妖精「提督の事を忘れちゃってたり……人形みたいに感情や言葉を失ってたら……どうする……?」
提督「…………その可能性が、あるのか……」
救護妖精「……………………」コクン
提督「……………………」
救護妖精「…………」
提督「……変わらん。私は、それでもあの瑞鶴と思って接する」
提督「感情や言葉を失っているのならば、それを踏まえた上で生活をしよう」
救護妖精「……提督の事を忘れてたら?」
提督「その時は……新しく、もう一度思い出を積み重ねていこう」
提督「この子が深海棲艦となったとしても、例え敵になってしまったとしても、私は最後までこの子の提督であろう」
救護妖精「……どうやっても、敵対しかしなかったらどうするのさ」
提督「……………………その時は、私がこの手で葬ろう。瑞鶴がこうなってしまったのは、私の責任なのだから……」
瑞鶴「…………っ」モゾッ
提督・救護妖精「!」
提督・救護妖精「!」
瑞鶴「……………………」ボー
提督「……瑞鶴」
瑞鶴「!!」ビクン
瑞鶴「!」チャキン
提督「っ……!」
救護妖精(機銃を向けて、目から青いオーラ!? 駄目だってこれは!!)
救護妖精「提督! 逃げて!!」
提督「…………」
瑞鶴「……………………?」
救護妖精(……撃たない?)
提督「……私は、お前に殺されても仕方が無い事をしてしまった」
瑞鶴「…………」
提督「許してくれなど言わない。怨むのならば怨んでくれ。ただ、怨みで殺すつもりならば少しだけ待ってくれないか」
救護妖精「さっきと言ってる事が違うじゃないか提督!! 何ボーっと突っ立ってるのさ!?」グイグイ
瑞鶴「……………………!」ソッ
救護妖精(え……機銃を下ろして、オーラも消えた……?)
瑞鶴「────」ニパッ
ギュゥ──
救護妖精「…………えぇ……?」
瑞鶴「♪」スリスリ
提督「……許してくれるのか」
瑞鶴「!」フルフル
瑞鶴「ぁー……ぇ、ぁぇ……?」
提督「……言葉が」
瑞鶴「…………? …………っ?」オロオロ
提督「いや……喋れないのなら構わない。──私達の事は分かるか?」
瑞鶴「!」コクコク
提督「……そうか。ならば、先に言わなければならないな」
提督「──おかえり。よく、私の所へ戻ってきてくれた」ギュッ
瑞鶴「!」
瑞鶴「…………」ジワッ
瑞鶴「~~~~~~!」ポロポロ
提督「そして、すまない……。お前をこんな目に合わせてしまった」
瑞鶴「────!」ブンブン
提督「いや、私の責任だ。だから、後で何らかの形で詫びさせてくれ。頼む」
瑞鶴「……………………」コクン
提督「それと、皆を逃がしてくれてありがとう。全員、無事に帰投している。瑞鶴のお陰だ」ナデナデ
瑞鶴「!」
瑞鶴「…………♪」
提督「瑞鶴も嬉しいか。ああ……私も、お前が帰ってきてくれて心の底から嬉しいよ……」ギュ
瑞鶴「…………!」コクン
救護妖精(……紙とペンを持ってきたけど、これって必要なかったのかな)
…………………………………………。
休憩してきます。たぶん、また後で来ますね。
本当に疲れるのが早くなって困る。
瑞鶴が帰ってきた。私だったら起きた瞬間に抱き付いてしまって機銃で撃たれてますね。
投下していきます。
暑いと大変。
提督「身体の方はどうだ? 何かおかしかったりするか?」
瑞鶴「…………」カキカキ
瑞鶴『うん。特に何もないわよ』スッ
救護妖精「ヲ級っぽい頭のそれと喋れなくなった事を除いたら問題なし、か……。一応、精密検査はするけどね」
瑞鶴『お願いします』
提督「後は……金剛達にどう説明するかだな」
救護妖精「言いにくいよねぇ……。自分達を守ってくれた艦娘が深海棲艦っぽい見た目になりました、なんてさ……」
瑞鶴『私もそれはちょっと……』
救護妖精「ああそうだ。頭のそれ、外したら良いんじゃない? それだったら目の色が金色になったくらいしか違わないしさ」
提督「……外せるのか、それ?」
瑞鶴「…………?」スポン
瑞鶴「!?」ビクン
瑞鶴「……………………」ワナワナ
提督「……外した本人が一番驚いているようだな」
救護妖精「なんというか……自分の身体の一部だけど認めたくないような認めなきゃいけないような顔してるね」
提督「……一先ず、これで瑞鶴さえ良ければ金剛達の前に姿を現しても問題は無いという事になるな」
瑞鶴『私も構わないけど……大丈夫かしら……? ちょっと怖いんだけど……』
提督「金剛達ならば受け入れてくれるだろう。むしろ、瑞鶴が帰ってきてくれた事に喜ぶ姿が目に浮かぶ」
瑞鶴『言われてみれば、確かにそうよね』
救護妖精「それじゃあ行ってやりな。あたしはちょっと資料とか探したり検査とかするからさ」スッ
提督「そうさせて貰おう。いつ頃戻ってくれば良い?」
救護妖精「今度は前と違って項目が多いから明日で良いよ。どうせ終わるのなんて深夜か朝方になるだろうしさ」
提督「……本当、苦労を掛けてしまうな」
救護妖精「何言ってるんだい。あたしは元々、生物方面に精通していた妖精だよ。これもやりたい仕事の内さ」
提督「感謝する」
救護妖精「良いよ良いよ。それよりも、早く皆を安心させてやりなー」トコトコ
提督「ああ。──では、行こうか」スッ
瑞鶴「!」コクン
救護妖精「あー、念の為に言っておくけど、あんまり頭のそれを皆に見せるんじゃないよ」
提督「時期を見て少しずつ話していくつもりだ。安心してくれ」
救護妖精「提督が言うのなら大丈夫だろうね。じゃあ、お大事にー」
…………………………………………。
提督「──今日は、お前達に重要な知らせがある」
金剛(出発が無くなったと思ったら今度は各自部屋でスタンバイ……次は重大なお知らせ、デスか……)
加賀(何があるのかしらね……。少し怖いわ……)
提督「重要な事とは、瑞鶴の事だ」
全員「────!!」
提督「本日の出発が無くなった事は皆も知っている事だろう。その理由を言おう──」
提督「──入れ」
金剛「……え?」
ガチャ──パタン
瑞鶴「……………………」オドオド
加賀「!! ……瑞鶴? 本当に瑞鶴なの……?」
瑞鶴「!」コクコク
天龍「お、おい……本当に瑞鶴なのか……? どうして、ここに……?」
川内「皆の話じゃ、沈んだって……」
金剛「…………」フルフル
提督「……全員、今この時だけ羽目を外して構わん」
金剛「──瑞鶴ーッ!!」ギュゥ
瑞鶴「!!?」ビックゥ
金剛「良かったです!! 無事で本当に良かったです!」ギュゥゥ
瑞鶴「…………!」ワタワタ
加賀「バカ……。心配したのよ……?」ソッ
島風「帰ってきてくれたんだねー! 良かったよぉ!」ギュー
天龍「心配させやがってよぉ……! ぐすっ……何日、も帰ってこねぇし、よぉ……!」
龍田「あーもう……天龍ちゃんったら顔がくちゃくちゃよ」ソッ
雷「瑞鶴さん、おかえりなさい! それに、龍田さんも嬉し泣きしてるわよ。はい、ハンカチ」
暁「お、お化けじゃないわよね……?」ビクビク
響「……プリヴィエート。無事で良かったよ」
電「おかえりなさい、なのです!」
不知火「……驚きです。絶望的な状況と聞いていましたが……流石ですね」
那珂「…………」ポカーン
川内「那珂は状況が良く分かっていないみたいだね……? おかえり、瑞鶴さん!」
神通「おかえりなさいませ。……確かに、私も状況がうまく飲み込めていません。ほら那珂、おかえりなさいって言いましょう?」
那珂「お、おかえりなさい……? 幽霊じゃ、ないよね……?」
瑞鶴「~~~~……」
金剛「? 瑞鶴……?」
提督「瑞鶴は、あの戦闘の影響で言葉を発する事が出来なくなったんだ」
金剛「え……そんな……」
提督「その為──金剛、島風、少し瑞鶴を放してやってくれ」
金剛「ハ、ハイ……」ソッ
島風「…………?」スッ
瑞鶴「…………!」カキカキ
瑞鶴『ただいま、皆!』スッ
提督「声が戻るまでは、こうやって筆談を取る形になる。あと、何らかの影響でか瞳の色も変わってしまっているが、気にしないでやってくれるか」
雷「あ、本当! 金色になってる!」
電「なんだか、外国の方みたいなのです」
金剛「……………………」
金剛(でも……なんだかいつもの瑞鶴とちょっと違うような……?)
提督「各々で話したい事もあるだろう。本日の鎮守府の職務は全て無しとするが、羽目を外し過ぎないようにな。あと、瑞鶴も身体に負担を掛け過ぎないように」
全員「はい!」
瑞鶴『はい!』
…………………………………………。
川内「──それじゃあ、皆おやすみー!」ブンブン
神通「提督、金剛さん、加賀さん、瑞鶴さん、おやすみなさいませ」ペコリ
那珂「おっやすみー! 夜更かしは駄目なんだからねー!」キラッ
ガチャ──パタン
金剛「オーゥ……いつの間にか日付を跨ぎそうデース」
提督「ふむ。夜も深くなる時間だ。今日はここまでにしておこう」
加賀「そうね。瑞鶴、部屋に戻りましょうか」
瑞鶴「!」ビクン
提督「すまない。今夜、瑞鶴は予定が入っているんだ」
金剛「あー……アイスィー……。そういう事ですか……」チラ
加賀「…………」ジッ
瑞鶴『ごめんなさい……』オズオズ
金剛「うーん……悔しいデスが、私は折れマス。ちゃんと優しくして上げて下さいネ、テートク?」
加賀「提督ならばその点は安心ですが……まさか一番最後にやってきた瑞鶴に負けるだなんて……」シュン
瑞鶴「…………?」
提督「……そういう意味ではない。ただ単に傍で寝たいという希望を叶えるだけだ」
瑞鶴「? ────!!?」ビクン
金剛「そ、そうなのデスか? 私はてっきり……でも、それも結構悔しいですネ……」
加賀「破廉恥な自分を叩きたいです」フイッ
瑞鶴『……何を考えてるのよ、二人共…………』
金剛「アハハ……。で、では! 私達はこれで失礼しマス!」ササッ
加賀「大丈夫よ。もしそのような関係になったとしても、私は自分を抑えられるわ」ススッ
金剛「ごゆっくりネ~!」
ガチャ──パタン
瑞鶴『いったい何を言っ』カキカキカ
瑞鶴「…………」
瑞鶴「……………………」ズーン
提督「まったく、あいつらは……」
瑞鶴「…………」チラ
提督「とりあえず寝るとしよう。明日は朝一で救護妖精の検査結果を聞きに行くぞ」
瑞鶴『はーい』
瑞鶴「! …………」ジー
提督「どうした?」
瑞鶴『……二人の言ってた変な事、するの?』オズオズ
提督「身体も万全の状態でないのに何を言っているんだお前は……」
瑞鶴「!!」
瑞鶴『それって快復したら良いって』カキカキ
瑞鶴「……………………」
瑞鶴「…………」サッ
提督「……なぜ隠した」
瑞鶴『ひみつ!』
提督「……そうか」
瑞鶴「っ!」コクコク
提督「しかし、本当にこんな事で良かったのか? もっと他にもあっただろう」
瑞鶴『これじゃないとヤダ』
提督「…………そうか」
瑞鶴『提督さんは、ヤだった?』
提督「嫌という訳ではない。年頃の女の子が簡単に男と寝床を共にするのは良くないと思っているだけだ」
瑞鶴『私は提督さんだから良いのよ? そんなに硬いと離れられちゃうわよ』
提督「……………………」ジッ
瑞鶴「っ!」ビクッ
瑞鶴『ごめんなさ』カキカ
提督「……すまない」ギュゥ
瑞鶴「────?」
提督「私も変わるよう努力する……だから、離れてしまうなどと言わないでくれ。私は、お前達を沈めてしまうのだけはやりたくない……」
瑞鶴「……………………」
瑞鶴「────」スリスリ
提督「……だから、お前も絶対に自らが犠牲になるような事はしないでくれるか」スッ
瑞鶴『うん。そんなに辛そうな顔をされたら、もう出来ないわ』
瑞鶴『あと、離れるって言うのは愛想を尽かされるって意味だったんだけど……』オズオズ
提督「…………」
瑞鶴「…………」
提督「……少し、その手の話に弱くなっていたようだ」フイッ
瑞鶴『あはは……。でも、それだけ沈めたくないって意志があるのは良い事だと思うわ』
提督「……ありがとう。少しは気が楽になる」
瑞鶴『じゃあ、気が楽になった所で寝ちゃう?』
提督「そうしよう。火を付けたら明かりを落としてくれ」
シュッ──パチン
瑞鶴「…………」トコトコ
ピタッ……
提督「どうした、入らないのか?」
瑞鶴「……………………」コクン
瑞鶴「……っ」スッ
提督「そんな端っこでどうする。落ちるだろう」グイ
瑞鶴「!!」ドキン
瑞鶴「…………っ」ドキドキ
提督「……放さないからな」
瑞鶴「っ! っ!」コクコク
提督「──もう日も替わる。火を消して寝るぞ」
フッ──
火を消して、周囲が真っ暗となった私の部屋──。その私の寝床には、珍しく来客が身を預けている。
今その姿を見る事は叶わないが、腕の中の少女はどんな表情をしているのだろうか。
人は、視界を奪われると、他の感覚が研ぎ澄まされると聞く。
暗闇になってからすぐに、瑞鶴の小さい息遣いが聴こえてきた。
私が抱き寄せた事で密着している小柄な身体からは、心臓の早い鼓動も感じられる。
鼻腔をくすぐる石鹸の匂いも、普段の私のベッドでは絶対に嗅ぐ事のない甘く柔らかいものだ。
そっと、腕の中に収まった瑞鶴の頭を撫でる。
彼女はピクリと反応して身体を強張らせるも、すぐに力を抜いて私のされるがままになった。
そのまま私は彼女の髪を指で梳くように撫で続ける。そうされるのが気持ち良いのか、声を出す事が出来ない少女は頬を私の胸へ摺り寄せて返事をした。
懐いた猫のようだ──。
ふと、そんな考えが頭に過ぎる。
彼女がこの鎮守府に来た初日は、私の事をどことなく警戒しているような節があった。
その後も私を恐れていたり、私を理解しようと接してきたりしていて、今ではこうやって自ら私と眠りに就きたいと言ってきている。
嫌な事はそれなりにハッキリと言えるようなのもあって、やっぱり猫らしい。本物の猫と違うのは、気まぐれでも自由奔放でもない事くらいか。
そう思うと、猫のようだと思うのは少し違うかもしれない。懐き方が猫と言う方が合っている。
私に撫でられてから一分も経たない内に、瑞鶴の動きが鈍くなって体温が高くなってきているのに気付いた。
ああ、この体温の高さは知っている。救護室で瑞鶴にしがみ付かれた時に味わった熱さだ。
次第に、寝息も聴こえてくるようになってきた。深く、そしてゆっくりとした呼吸音に合わせて肩が上下に動いている。
ベッドに入ってから僅かだと言うのに、瑞鶴は本当に寝付きが良いな。少し、羨ましくも思える。
それとも、こうして頭を撫でられると瑞鶴は眠くなってしまうのだろうか? 今度、時間が空いた時にでも試してみよう。
(──む?)
しかし、その考えはどうやら違うらしい。
瑞鶴が眠りに落ちたと思っていたら、ゆっくりと彼女は上体を起こしたのだ。
撫で方が悪かったのか、それとも別の意図があるのかは分からないが、非常にゆったりとした動きをしている。
何をする気だろうかと思い、そのまま黙って手も出さないでおく。すると、彼女は私の腹の上に腰を落として馬乗りの姿勢を取った。
私の鳩尾辺りに両手をそっと乗せ、滑らせるように私の肩へと指が登っていく。
……いったい何をする気なのやら。金剛と加賀に言われて、その気になってしまったのだろうか。
その可能性は少なからずある。そして、それはあまり良くない事だ。
瑞鶴の身体は今、病み上がりの状態に等しい。ほとんど轟沈していたようなものなのだ。いくら艦娘と言えど、その状態からすぐに回復する訳がない。
けれど、私は拒絶出来なかった。
大人しく寝ろ、と言いそうになったが、先程の瑞鶴の言葉を思い出してしまう。
──そんなに硬いと離れられるわよ。
それはつまり、彼女はそうなる可能性を示している。
今回の出来事で臆病になってしまった私は、離れてしまわれないようにしたい、と思っている。
──それが間違いだったのかも知れない。
首に手を添えられたかと思うと、少女は変貌した。
「────ぁッ!?」
両手で私の首を掴み、気道を完全に塞いでくる。その身は黄のオーラを纏い、左目からは青い炎のようなものが漏れ出すように発生していた。
冗談や悪戯などではないと、すぐに分かる。
手に込められている力は相当なもので、引き剥がすには相当な力が必要だ。それも、彼女の腕をへし折らんとするような力が。
ほぼ反射的に、瑞鶴の腕を掴んだ。それでも、彼女は放さない。
私を殺そうとしているのは本当だろう。
力ある深海棲艦特有の黄オーラ。そして極少数だけ発見された、その中でも更に凶悪な性能を持った証の青い炎のような目を宿している。
救護室で一瞬だけ見せた、あの姿だ──。
「アンナニ ワタシタチヲ シズマセナイト イッテオキナガラ……アナタハ ワタシヲ シズマセタ」
ドス黒い、怨みや怒りを含んだ声が目の前の少女から発せられる。
「ドウシテ? ドウシテ ワタシハ アンナニモ イタイオモイヲ シナケレバナラナカッタノ?」
腕に込められた力は更に増している。気道は完全に塞がれ、首の骨も軋んでいる音が鳴っている。
「ダカラ アナタニモ オナジクルシミヲ オシエテアゲル シンデシマウ クルシミヲ……」
目の前の少女は、口角を上げてそう言った。
死ぬ苦しみ──それは生きている者には永久に分からない。
けれど、こうして殺そうとしてくる程には苦しいのだろう……。
それを私は彼女に与えてしまった。体験させてしまった。
だから、私は彼女の全てを受け入れなければならない。あの時に瑞鶴が機銃を向けても何もしなかったのは、その為だ。
瑞鶴は敵になった訳ではない。私を怨んでいるだけだ。その怨みを晴らそうとして、ああして──こうして殺そうとしている。ただそれだけなのだ。
だから私は受け入れた。だから私は受け入れる。だから私は殺されても良いと思っている。
彼女にはその権利がある。私に殺されたこの少女に殺されても、何も文句など言えやしない。
──何よりも、悲しそうに涙を流しながら殺そうとしている彼女を、私は止める事などできない。
ああ……意識が薄れてきた。目の前が霞んできている……。脳へ送られる血液も止まってしまっているのか、これは……?
……そうだな。どうせ死んでしまうのであれば、最後に彼女が喜んでいた事をしよう。
私は瑞鶴を掴んでいた腕を放し、そのまま左手を少女の頭に乗せて、優しく撫でた。
こんな事をしても、怨みが増えるだけかもしれない。私への憎悪が大きくなるだけかもしれない。
けれど、もしこれで少しでも怨みが薄れてくれるというのならば、良いな……。
ほんの一瞬、彼女の力が緩んだように感じたが、すぐに再び力が込められる。
限界だ……そろそろ、お別れのようだな……。
(ごめんな、瑞鶴……。そして、私に付き従ってくれた皆、すまない……)
最後に、彼女へ笑顔を見せた所で、ゴキンという嫌な音と共に私の意識は途絶えた──。
瑞鶴「……………………」
瑞鶴「ナンデ……?」
瑞鶴「ナンデ、ソンナ……顔ヲ……」
瑞鶴「首……変ナ音が……」
瑞鶴「ワ、わタ……私…………?」
瑞鶴「ア…………ぁアアアあァぁああアぁああああああッッ──!!?!」
…………………………………………。
金剛「────ッ!!」ガバッ
加賀「すぅー……すぅー……」
金剛「……提督?」スッ
カチャ──パタン
金剛「嫌な予感がします……提督の身に何かが……?」タッタッ
金剛「瑞鶴には違和感がありました……。まさか……瑞鶴が提督に……?」タッタッ
金剛「──いえ、そんな事ある訳がありません。私の考え過ぎです。……そうであって下さい」タッタッ
金剛「…………っ」ザッ
金剛「……………………」スッ
コンコン──
金剛「…………」
コンコン──
金剛「……………………」
金剛「……返事がありません。失礼します!」
ガチャ──
金剛「提督、瑞鶴……明かりを点けますよ」
パチン──
金剛「……瑞鶴?」
瑞鶴「────金剛、さん……わ、私……」
金剛「……どうして、瑞鶴は提督の上に乗っているのですか」
瑞鶴「どうしよう……どうしよう……!」
金剛「どうして、提督は目を覚まさないのですか」
瑞鶴「わた……私が……」
金剛「…………」ツカツカ
瑞鶴「この手で……提督さんを──」
金剛「──答えなさい、瑞鶴。そうすれば、命だけは助けてあげます」グイッ
瑞鶴「お願い、金剛さん……私が、私じゃなくなる前に……」
金剛「答えなさい!!」
瑞鶴「お願いだから……私を縛って……それで、早く救護妖精さんを……早く……お願い……!」
金剛「…………っ!」グンッ
ダァン──ッ!
瑞鶴「か、ハ……ッ!?」
金剛「……今はそれで置いておきます。ですが、何かあった場合はこんな事では済みませんからね」グイッ
瑞鶴「うぁ……ん、うん…………」ズルズル
金剛「救護妖精の所へ行きますよ。貴女を今一人で放置する訳にはいきません」
瑞鶴「ありが、とう……コホッ」フラッ
金剛「お礼を言われる筋合いもありません。艤装があれば今ここで立てなくなるまで撃っています。──行きますよ」グイッ
…………………………………………。
救護妖精「……………………」スッ
金剛「……どう、なのでしょうか」
救護妖精「脈はそれなりに正常。呼吸もしている。瞳孔もちゃんと開くね。ここまでは普通の人と変わらない」
救護妖精「簡単な検査だから何とも言えないけど、何も問題が無いように見えるね。……何したのさ、瑞鶴」チラ
瑞鶴「…………」
救護妖精「……それと、そんなに鎖でぐるぐる巻きにされて痛くないの?」
瑞鶴「…………」
金剛「…………」ツカツカ
ヒュッ──ガッ!
瑞鶴「──ぁぐっ!」ドサッ
救護妖精「ちょっ!? 頭を蹴るのは良くないってば!」
金剛「答えなさい。貴女は何をしたのですか」グイッ
瑞鶴「ごめ、なさい……」
金剛「そんな言葉が聞きたいのではありません。何をしたのかを聞いているのです」
救護妖精(……本気で怒ってる。一周回って冷静な状態でキレちゃってるよこれは……)
瑞鶴「首、手を掛けて……力を入れて…………嫌な音がした……」
救護妖精「首……? まさか、頚椎を──!?」
金剛「こんな風にですか」ガッ
瑞鶴「────ぁッ!?」
金剛「こうして、提督の首を折ったのですか?」ギリッ
救護妖精「駄目だってば金剛さん!! 殺すのは絶対に駄目だよ!!」
金剛「安心して下さい。絶対に殺しませんから」スッ
瑞鶴「──ケホッ! カハッ! は、ぁ……はぁ……」
金剛「ああでも、拘束したままドラム缶に詰めて海を漂わせるのも良いかもしれませんね」
救護妖精「だから、そんな事をしちゃ──!!」
提督「──そうだ……そんな事は、してはいけない…………」
金剛「!!」バッ
救護妖精「提督……意識、戻ったんだ」
瑞鶴「…………」
金剛「提督! お身体は──お身体は無事なのですか!?」
提督「首が痛むだけだ……。それよりも、瑞鶴を放してやってくれ」
金剛「いけません! 何をするか分からないのですから──」
提督「頼む、金剛」
金剛「う……」タジッ
提督「…………」
金剛「……おかしな動きを見せたら、どんな手を使ってでも止めますからね」
ジャラジャラッ……
提督「瑞鶴」
瑞鶴「ッ!!」ビクッ
提督「傍へ来てくれるか」
瑞鶴「え、と……」チラ
金剛「……何を見ているんですか。私は、貴女が変な事をしようとしたら止めるだけですよ」
瑞鶴「……ありがとう」トコトコ
提督「…………」
瑞鶴「…………」ビクッ
提督「そんなに怖がらないでくれ。私は怒ってなどいない。ただ、気になる事があるだけだ」
瑞鶴「…………?」
提督「あの時に意識はあったのかという事と、なぜ殺すのを躊躇ったのか、という事が知りたい」
金剛「…………」
救護妖精(殺すのを躊躇した……?)
瑞鶴「……………………」
提督「教えてくれるか?」
瑞鶴「……提督さんを殺そうとした時、私はちゃんと……意識はあったわ。私の意思で、私は提督さんを……殺そうと、首を絞めた」
金剛「……………………」ジッ
提督「すまない……。私がお前を沈めさせてしまったばかりに……」
金剛(沈ませた……?)
瑞鶴「でも! 私にも、分からないの……。提督さんのせいじゃないって……あれは仕方が無い事だったんだって……私が自分から犠牲艦になりに行ったんだって、分かってるのに……」
瑞鶴「なのに……あの時の私は、提督さんを凄く怨んでた……。あんなの、私じゃないって……思いたいくらいに……」
提督「人は、そんなに簡単に割り切れるものではない。いくら仕方が無い事だったからだと言っても、あの判断は私のミスだ」
提督「敵の攻撃を減らしつつ撤退しようなどど考えず、ただ全力で逃げれば良かった。そうすれば、こんな事にはならなかったかもしれない」
瑞鶴「そんなの、分からないわ……。そうしたとしても、状況が変わったとは言えないじゃない……」
提督「それでも、お前を沈めてしまったのは私の責任だ。だから、瑞鶴が私を怨む正当な理由はある」
瑞鶴「…………そんな、事──」
提督「そう思ってくれ。司令官とはそういうものだ」
瑞鶴「……はい」
提督「次に、なぜ殺すのを躊躇った? あの時のお前は本気で私を殺そうとしていたように見えたが、なぜだ?」
瑞鶴「それは……あの時、提督さんに頭を撫でて貰ったら、訳が分からなくなっちゃったの……」
提督「訳が分からなく?」
瑞鶴「今まで一緒に過ごしてきた事とか……褒められて嬉しかった事とか、怖くても優しい事とかを思い出して……自分が何をしているのか分からなくなっちゃったの……。それで、気付いたら…………」
提督「……そうか」
瑞鶴「提督さん……ごめんなさい……」
提督「謝るな。お前は、何も間違った事をしていない」
金剛「…………!」
瑞鶴「だって……私は提督さんを──」
提督「自分を殺した相手を怨むのは当然だ。死とだけ言えば簡単だが、そのときの苦しみと痛みは生きている私達では分からないものだ」
提督「自分の身体が壊れていき、目の前のモノが判らなくなり、手や足……身体の末端から感覚を失い、そして自分自身が消えていく虚無感──。そんな苦しみと恐怖を与えてくる相手を許せる方がおかしいものだ」
救護妖精「…………」ギリッ
提督「だから、お前は何も悪くない」
瑞鶴「……………………」ジワッ
瑞鶴「……私は、提督さんを殺そうとしたのに……どうして、許してくれるの?」ポロポロ
提督「許しを請う立場なのは私の方だ。瑞鶴を殺して、そんな風にしてしまったのは私が──」
瑞鶴「違うよ……違う……そんな事ないんだから……私が……私が…………」
提督「そんなに追い詰めるな。命があるだけ有り難い。──救護妖精、首が痛むが検査をして貰って良いか」
救護妖精「──え、ああ、う、うん……すぐに取り掛かるよ」
救護妖精(死ぬ時の苦しみと恐怖、か……それを具体的に言えるって事は──)スッ
金剛(……提督は瑞鶴を許すどころか、有り難いだなんて……何か事情があるようですが…………)
金剛(私の怒りと苦しみは、どこへ向ければ良いのでしょうか……?)
…………………………………………。
今回はここまでです。また今日、来ると思います。
艦これBGMアレンジの『帰ろう、帰ればまた来られるから』を聴きながら書いていきました(ステマ)
この曲を聴きながら読むと一層に物語に入り込めるかもしれません(ステマ)
暑さなどでダウンしているので今日も少ないです。
書き貯めを全投下して今回は終わりにします。
救護妖精「……結果を先に言うよ」
提督「ああ。覚悟は出来ている」
救護妖精「頚椎損傷──症状は軽いのが幸いだね。主に足の付け根辺りから下だけが麻痺しているみたいだよ」
金剛「え……? それって……」
救護妖精「……そうだよ。提督は、もう二度と自分の足で立つ事は出来ない」
瑞鶴「二度、と……」
救護妖精「脊髄の神経は再生しないし、再生させる事もできない。だから、現在の医学じゃ絶対に治る事がない。……出来る事は、足が動かない状態でも暮らしていけるようなリハビリをするくらいしかないよ」
金剛「う、そ……。一生、ですか……?」
救護妖精「……一生だよ」
金剛「絶対に、治療できないのですか……?」
救護妖精「……出来ないね」
金剛「そん、な……」
瑞鶴「……………………」ペタン
提督「……そう、か。救護妖精でも無理……か……」
金剛「…………わた──」
瑞鶴「──私が、提督さんの足になるわ」
提督「瑞鶴……」
金剛「……………………」
瑞鶴「提督さんをこんな身体にしちゃったのは私だから……だから、私が提督さんの足になる」
金剛「……貴女には任せられません。私が提督の足の代わりになります」
瑞鶴「でも──!」
金剛「今回のような事がまた起きたらどうするつもりですか」ジッ
瑞鶴「う……」
金剛「それに……もし、もう一度こんな事が起こった場合……今度こそ私は貴女に何をするか分かりません」
瑞鶴「…………はい」
提督「金剛」
金剛「はい」ピシッ
提督「敬礼は良い。下ろせ。──そして、その役は瑞鶴に任せたいと思っている」
金剛「────え……?」
瑞鶴「な、何を言ってるの……?」
救護妖精「……正気?」
提督「ああ、正気だ」
金剛「……理由が、あるのですよね? 伺っても良いですか」
提督「……………………」
金剛「…………」
提督「……そうだな。もう隠すのは辞めておこうか──」
提督「──私は死にたがりなんだよ、金剛」
金剛「死にたがり、って……」
提督「一緒に出撃しているのがその証拠だ。砲雷撃戦に巻き込まれて死なないだろうか、と心の底ではいつも思っている。最初に資源を最大量で建造したのも、さっさと死にたかったからだ。戦力乏しく艦娘共々海の藻屑となったら、誰も自殺とは思わんだろう?」
提督「……私には、生きる目的も理由も無い。かと言って、自殺する理由も無い。ならば、死んでしまう状況を作り上げれば良い」
金剛「…………」
提督「その為に海軍学校からの誘いを受けた。その為にあの靴を使って共に出撃してきた。その為に──あの時、殿をやると言った」
金剛「……どうして…………?」
提督「理由は言っただろう。私は、生きる目的も──」
金剛「そこではありません!! どうして私達を置いて一人で死のうとしているのですか!? 置いていかれる私達の気持ちを考えなかったのですか!?」
提督「私は自分勝手な愚か者だよ。勿論、置いていかれるお前達の事も考えた。が、それを理解した上で死のうとしている」
提督「だが、お前達は死なせない。死の苦しみを味わわせるなど絶対にやらせはしない。私が死ぬ事で悲しむとしても、解体を施して長く生きていけば癒える傷だ」
金剛「…………そう、ですか……」
提督「幻滅しただろう? 私は、お前達が想像している強くてなんでも出来る提督ではない。ただ自分勝手で、そして弱い提督なんだ」
瑞鶴「……だから、私を傍に置くの?」
提督「本音を言えばそうだ。だが、もう一つの本音として瑞鶴の意見を尊重したいとも思っている」
金剛「……私には、分かりません。どうして死にたいと思うのか、どうしても分からないです……」
提督「理解できなくても仕方が無い。元より、理解されると思っていないから今まで黙っていた」
金剛「生きる目的も理由も無い、ですか……」
金剛(私が……生きる理由になれるのならば……──いえ、こんな汚い感情でなろうとするのは痴がましいですね……)
金剛(でも──)
金剛「──死なせません」
提督「…………」
金剛「私は、提督を死なせません。提督が私達を──私を死なせないと言いました。それならば、私も提督を死なせません」
提督「金剛……」
金剛「だから、私は食い下がります! 瑞鶴に何があったのか詳しくは分かりませんが、何かの間違いで提督を亡き者にしようとする人と二人にさせる訳にはいきません!」
瑞鶴「う……」
金剛「提督、どうしても瑞鶴を傍に置いておくと言うのならば──」
金剛(提督の生きる理由に、私はなれなくても良いから──)
金剛「──どうか、私も傍に置いて下さい!」
提督「……瑞鶴が私を殺そうとすれば、金剛が止めるという訳か」
金剛「そうです。これだけは例え提督の命令でも従いません」
提督「……………………」
金剛「……………………」
瑞鶴「…………」オドオド
救護妖精「……あーもう! なーに物騒な事を言ってるんだいアンタらは!」バァンッ
瑞鶴「ひっ!?」ビクッ
救護妖精「特に提督! 今回は提督の味方なんてしないからね!! 金剛さんは提督の傍に居なさい! 何があってもだよ!!」
金剛「え、えっと……はい」
救護妖精「あとさ、提督! 医者の前で死にたいだのなんだのって言うんじゃないよ! そんなの私が許すと思ってるのかい!?」
提督「…………」
救護妖精「運が悪かったね提督! 私は絶対にそんなのを許さない! 何回も拾った命を粗末にするんじゃないよ!!」
瑞鶴「…………っ」ビクビク
救護妖精「そして瑞鶴!!」
瑞鶴「ぴゃいっ!?」ビクンッ
救護妖精「…………」
瑞鶴「…………っ?」ビクビク
救護妖精「……明日の朝、救護室に来る事。提督と金剛も知って欲しいから、来るんだよ」
救護妖精「──深海棲艦の怨みだとかなんだとか、ちゃんと説明するからさ」
提督「……何を知っているんだ」
救護妖精「ここでは言わないよ。聞きたきゃ一回寝て頭を冷やしてから救護室に来るんだね」テクテク
提督「…………」
救護妖精「じゃあ、後は川の字で寝るなり何なりしな。金剛、頼んだよ」
ガチャ──パタン
金剛「…………」チラ
瑞鶴「ひっ……」ビクッ
金剛「……提督」
提督「どうした」
金剛「瑞鶴は、理由があって提督に手を掛けたのですよね」
提督「ああ。正当な理由だ」
金剛「……明日になったら、教えてくれますか?」
提督「話そう。約束する」
金剛「……分かりました。約束ですからね」
提督「ああ」
金剛「では、今回は私も大人しくします。──ただ、不安なのには変わりありませんので二人を監視させて貰います」
提督「言いたい事は分かった。許可しよう」
金剛「ありがとうございます。提督と瑞鶴には悪いのですが、私が二人の間を取ります。良いですね?」
瑞鶴「っ!」ビクッ
金剛「……どうなのですか、瑞鶴」
瑞鶴「そ、その……乱暴な事……しないのなら……」ビクビク
金剛「貴女がおかしな事をしないのならば、私も提督と神に誓って手を出しません。もし再び提督に手を出そうものなら……その時は貴女の口に35.6cm砲を突っ込んで水平線の向こうへと散って貰います」
瑞鶴「そ、そんな! 私もやりたくてあんな──!!」
金剛「返事は『はい』か『いいえ』のどちらかしか聞いていません」ジッ
瑞鶴「はいぃっ!」ビクゥッ
金剛「……よろしいです。では、眠りに就きましょう」
提督(明らかに私の影響を受けているな……。私が怒っている時はこういう風に見えるのか)
…………………………………………。
今回の投下はこれで終わりです。たぶん、また明日来ると思います。
のんびりと投下していきます。
提督「──全員揃ったな。すまないが、今日は私が座ったまま朝礼を始める」
金剛「……………………」
瑞鶴「……………………」
提督「おはよう、諸君」
全員「おはようございます!」ピシッ
提督「よろしい。楽にして良い」
全員「!」ザッ
提督「では早速、本日の業務を言い渡す。まずは演習班。本日は防空射撃演習を行う。加賀の全力爆撃を防空射撃と回避のみでクリアしろ。全ての艦載機を落とせたかどうかの判定で勝ち負けを決める。防空射撃を行う者は川内、那珂、神通、島風、不知火の五人だ」
加賀「…………?」
提督「次に遠征班。今回は天龍、龍田、暁、響、雷、電の六人で長距離の遠征練習をしてもらう。今後、長時間に渡る遠征命令が下される可能性があるそうだ。その為の練習と思ってくれ」
提督「金剛と瑞鶴は哨戒をしてくれ。以上だ。何か質問はあるか」
加賀「……一つ良いかしら」
提督「どうした」
加賀「三日ほど前から、本日の出撃計画を練っていませんでしたか? あれはどうなったのでしょうか」
提督「今朝送られてきた本部からの入電で、近い内に長時間の遠征を任されるようだ。その為、今から練習をしておいた方が良いと判断した。明日になっていきなり言い渡される可能性も無いとは言えん」
加賀「なるほど。納得しました」
提督「他にはあるか? ……………………無いようだな。では金剛は演習の艦隊を──瑞鶴は遠征の艦隊の見送りをしてくれ」
響「あれ、司令官が見送ってくれるんじゃないのかい?」
提督「私はこれからすぐにでも本部へ電報を送らなければならない。長距離遠征命令が下る日付の目星でも付いているのならば聞き出す。今朝のようにいきなり言われるのは困るからな」
不知火「ちっ……これだから数字だけを見て現場を見ない上層部は……」
提督「そう言うな不知火。腐ってても我々の上司だ」
不知火「……はい」
提督「では、各自持ち場に着け」
…………………………………………。
コンコン──
提督「入れ」サラサラ
ガチャ──パタン
金剛「金剛、瑞鶴両名共、皆の見送りを終わらせまシタ」ピシッ
瑞鶴「!」ピシッ
瑞鶴(よいしょ……)カタッ
提督「よろしい。では、救護妖精の所へと急ぐとしよ──っ!?」スッ──ガクン
金剛「提督!?」タッ
瑞鶴「ぁ……」タジッ
金剛「何をしているのですか……。お怪我はありませんか? 首は痛みませんか?」グイッ
提督「……すまん。世話を掛けてしまった」ギシッ
金剛「そんな事はどうでも良いです。本当に大丈夫ですか? どこも痛みませんか?」ソッ
提督「ああ。特に問題は無い。……しかし、厄介だな。つい癖で立とうとしてしまう」
瑞鶴「あ、あの……提督さん……」
提督「どうした?」
瑞鶴「……杖、借りてきたの。龍田さん達、すぐに船着場へ来てくれたから……その、救護妖精さんに頼んで……」カタン
提督「そうか。その杖はその為だったのか。ありがとう、瑞鶴」
瑞鶴「…………」トコトコ
提督「……そんな顔をするな。と言いたいが……どうやら私の足の事で悩んでいる訳ではなさそうだな?」スッ
瑞鶴「えぅぁッ!?」ビクッ
提督「図星か」
瑞鶴「そ、それは、その……あの……」オドオド
提督「言えない事ならば言わなくても構わない。無理に言う必要は無いぞ。──よっと」グッ
瑞鶴「……………………」
提督(ふむ……立っている感覚が無いな。自分で歩くならば、足を固定して手で動かさなければならないか?)フラッ
金剛「テートク、お手伝いしマス」ソッ
提督「ありがとう、金剛」
瑞鶴「…………あの!」
提督「うん?」
金剛「……………………」ジッ
瑞鶴「っ……!」ビクッ
瑞鶴「…………」フルフル
瑞鶴「その……実は、その杖を救護妖精さんから借りようって言ったのは、金剛さんなの……」
金剛「ちょ、瑞鶴!?」
瑞鶴「私は全然そんな事も考えられてなくて……」
提督「……ほう」
金剛「…………アウチ……」ハァ
瑞鶴「だから……さっきのお礼の言葉は、私は受け取れない」
提督「……昨夜、手を上げてしまった事と冷たく怒ってしまった事への謝罪を込めているといった所か」
金剛「ああぁ……全部バレてしまいまシタ……」
瑞鶴「ごめんなさい、金剛さん……。やっぱり私、金剛さんの手柄を貰う事なんて出来ない……」
金剛(……だって……私は昨日、あんなに酷い事をしてしまいまシタ。いくら頭に血が昇っていたとしても、あの瑞鶴が提督を殺そうとする訳がないなんて、すぐに分かる事デス……)
金剛(謝るだけで済む問題ではないこれは、私が瑞鶴に何かをしなければいけまセン。私が瑞鶴へ償える方法なんて、このくらいしかないノニ……)
金剛「…………では、提督が歩くのを手伝って貰えますか? 私は少し先を歩いて、倒れてしまっても大丈夫なようにフォローします」
瑞鶴「そ、それもさっき金剛さんが──」
金剛「お願い、します……」
瑞鶴「うぅ……」
提督「……瑞鶴、私からも頼む。歩くのを手伝ってくれるか?」
瑞鶴「提督さんまで……。…………分かったわ。私が提督さんのフォローをするから、金剛さんは私達のフォローをお願い、ね?」
金剛「──ハイ。それでは行きましょう」
ガチャ──
瑞鶴「……提督さん、腕が疲れたら言ってね?」ソッ
提督「ああ。ありがとう」カツン
提督(感覚としては竹馬のようなものか? ……普段は使わない筋肉を使うのもあって、少し慣れが必要そうだな)カツン
提督(それよりも、金剛も相当参ってしまってるな。あそこまで暗い表情をしているのは初めて見る。……それだけ、瑞鶴への罪悪感が心を占めているという事か)カツン
金剛「…………」チラ
瑞鶴「難しそう……本当に大丈夫?」
提督「なんとか、な」カツン
金剛(ああ……自分で言った事なのに、提督の助けになっている瑞鶴が羨ましいと思ってしまっています……)
金剛(酷い上に、醜いですね……私って……)フイッ
…………………………………………。
救護妖精「……さて、とうとう来たね」
提督「全てを話してくれるんだな?」
救護妖精「話せる事は話すよ。──まず、金剛さんには簡単に説明しておかないといけないね。ここまで関わっちゃったんだから、話しておくよ」
瑞鶴「…………っ」ビクッ
金剛「……はい。情報を漏らさないと誓いマス」
救護妖精「うん。良い返事だね。じゃあ単刀直入に言うけど、瑞鶴は一回沈んでるんだよ」
金剛「──え?」
救護妖精「ああ、だからと言ってこの子は別人の瑞鶴って訳じゃないよ。ただ、沈んで間もない時に運良く引き揚げられたって話」
金剛「良かったデス……」ホッ
救護要請「まあ本当に良かった事なのかどうかはちょっと微妙だけど……。半分深海棲艦になっちゃってるしねぇ……。そこも含めて今から説明するよ」
提督「頼む」
救護妖精「んじゃあ、まずは昨日言ってた深海棲艦の怨みから」
瑞鶴「…………」ビクビク
救護妖精「瑞鶴はもう分かってると思うけど、基本的に深海棲艦は艦娘を怨むんだよね」
提督「そうなのか、瑞鶴」
瑞鶴「えぅ……っ! そ、それは……」ビクビク
金剛「私の事は気にしなくて構いまセン。私も、真実を知りたいデス。──そして、私の事を怨んでいるのデスか?」
瑞鶴「……うん。ハッキリって訳じゃないけど……ぼんやりと理由も何もない怨みがあるのは確かなの」
救護妖精「やっぱりか……。半分だけ深海棲艦だから、その怨念も薄いみたいだね。だから普通に出来るのかも」
瑞鶴「あとは、怖いから……かしら……」ビクビク
救護妖精「ああ……なるほどね」
金剛「本当にごめんなさい、瑞鶴……」
瑞鶴「う、うん……」
提督「こればかりは時間に解決してもらう他ないだろう。──あと、気になる点として瑞鶴が喋れるようになっているのはどうしてなんだ?」
瑞鶴「私も気になる。今朝、遠征の雷に普通に喋ってるって言われてから気付いたわ」
救護妖精「自分で気付いていなかったって……それはまた凄い事だね……」
瑞鶴「うぅ……」
救護妖精「まあ、それだけ頭も混乱していたって事かね。とりあえず、私から言える事はあんまり無いね。深海棲艦になったら何かを失うってのは確かだけど、失ったものを取り戻したって話は聞いた事がないよ」
救護妖精「一時的に脳とか喉が異常をきたしていたのかもしれないし、中途半端に深海棲艦になっただけだから声を失いかけただけかもしれない」
提督「そうか。……では、少し踏み込んだ話をしよう。──深海棲艦とは何だ?」
救護妖精「……艦娘の成れの果て。といった所かな」
提督「実態はどうなんだ」
救護妖精「…………艦娘に対して無条件の怨みを抱いて、特定の人間にも同じ感情を持つ存在だよ。そして、それが原因で破壊と殺戮を繰り替えす悪魔のようなものだね」
瑞鶴「悪魔……」
救護妖精「悪魔だと言っても、それは生粋の深海棲艦だけだからね。瑞鶴は理性がちゃんと残ってるんだから別だよ」
瑞鶴「でも……私は提督さんを殺そうとしたわよ……?」
救護妖精「それが、さっき言った特定の人間にも怨みを持つって所。もう分かると思うけど、瑞鶴にとってその特定の人物っていうのが提督の事だよ」
瑞鶴「どうしてなの……?」
救護妖精「普段の提督の行動が悪かった、としか言えないねぇ……」
金剛「……提督の行動が悪かった?」ピクッ
救護妖精「善悪の悪いって意味じゃないからね?」
金剛「そ、そうデスか……」ホッ
提督「具体的に何が悪かったんだ?」
救護妖精「提督は『絶対に沈ませない』って言った。けど、実際に瑞鶴は沈んじゃった。深海棲艦になったら、そういう抑えも利きにくくなる傾向が強いよ」
提督(ああ……だからあの時にあんな事を)
瑞鶴「……………………」
救護妖精「二人は思い当たる節があるみたいだね」
ちょっとばかし用事が出来たので一旦ここまで。
また後で来るかもしれません。
ちまちまと投下していきます。
提督「しかし、急に深海棲艦として私を襲った原因が分からん。この上なく落ち着いた様子で寝ていたのにも関わらず、いきなり襲ってきたんだが」
金剛(この上なく落ち着いた、デスか……)チラ
瑞鶴「…………」
金剛(……私はまた嫉妬を…………。今はそんな事を気にする場合ではないというノニ……)
救護妖精「そうだねぇ……。深海棲艦が活発になる時間が関係してると思うよ」
提督「活発になる時間? 夜の事か?」
救護妖精「正確には零時頃だね。瑞鶴がおかしくなったのはそれくらいの時間じゃなかった?」
提督「なるほど。確かにそうだった」
瑞鶴「活発になるって……それってつまり、毎日って事……?」
救護妖精「そういう事になるね」
瑞鶴「……ねえ提督さん。この鎮守府って牢屋とか無いの?」
提督「在ってもそんな事はさせんぞ」
瑞鶴「だって危ないじゃないの……」
提督「却下だ。どうしても危ないというのなら、毎晩私の近くに──」
瑞鶴「ヤダ。提督さんが何を言おうとしているのか分かるわよ」
金剛「私もです。そんな事は絶対にさせません」
救護妖精「だそうだよ、提督。ちなみにあたしも反対」
提督「…………」
金剛「かと言っても、瑞鶴をどこかに閉じ込めるのも私は反対デス」
瑞鶴「え……? で、でも……」
金剛「瑞鶴は少し深海棲艦になっただけじゃないデスか」
瑞鶴「それが大問題なんじゃないの……」
金剛「少し私に考えがありマス。──救護妖精、深海棲艦は本能が強く前に出てくるという考えで良いのデスか?」
救護妖精「ん。厳密には違うけど、そう思って貰っても構わないよ」
金剛「なら簡単デス。瑞鶴の中の深海棲艦が出てきても、誰も襲えないように教えれば良いのデス」
提督「そういう事か」
瑞鶴「え、どういう事……?」
救護妖精「二人は頭の回転が速いねぇ……あたしも分かんないや」
提督「今まで戦ってきた深海棲艦は、沈むまでずっと戦う者だけではなかった。つまり、生存本能はあるという訳だ」
瑞鶴「……うん。確かにそうだけど……」
提督「つまり、襲っても絶対に敵わないという状況を教え込めば襲えなくなるという事だな」
瑞鶴「ごめん……もうちょっと噛み砕いて貰っても良いかしら……」
金剛「誰かが深海棲艦の瑞鶴を少し痛い思いをさせれば良いという訳デス。圧倒的な戦力差を見せ付けて、ネ」
瑞鶴「そ、それってまさか……」
金剛「先に謝っておきマス。ごめんなさい瑞鶴。手加減はしマスから安心して下サイ」
瑞鶴「やっぱりぃ!! それって実力行使って事じゃないのぉ!!!」
救護妖精「まあ……本当なら何もかもを失って死んでる所をちょっと痛い思いをするだけで今までと変わらず暮らせるって考えたらどっちが良いかって事だよねぇ」
瑞鶴「う……た、確かにそうだけど……」
救護妖精「じゃあこれで決まりだね。金剛さん、頼んだよ」
金剛「任せて下サーイ!」
瑞鶴「うぅ……うー……。か、覚悟は決めておく……わね……」
提督(……私の死にたいという願望は叶えられそうにないな)
提督(かなり好き勝手やっていたつもりだったが……どうしてこうも慕われるようになってしまったのか……)ハァ
金剛「私達が想いを寄せるのは、テートクが素敵な人だからデスよ」
提督「人の心を読むんじゃない」
金剛「だって顔に書いてるネー」
提督「……………………」
救護妖精「まあ諦めな。提督は簡単に死んじゃいけない存在になっちゃってるんだよ」
救護妖精「皆から慕われて、沢山の可愛い子達に想われて、提督が間違いを犯そうとしているのなら叱ってくれて、提督が死んでしまいそうになったら必死でそれを食い止めようとする──それって、すっごく嬉しい事じゃないかな?」
提督「確かに……な。とても喜ばしい事だ」
救護妖精「生きる目的なんてゆっくり見つければ良いんだよ。見つかるまでは緩く生きれば良いもんさ」
提督「…………」
金剛「私がテートクの生きる目的になってみせマスね!!」
提督「そういう事は軽く言うんじゃない」
金剛「アッハハ~」
金剛(──もう無理だと分かっているからこそ、軽く言えるのですよ……提督……)
提督「…………」ジッ
金剛「? どうしまシタか?」
提督「……私が言うのもおかしい話だが、頑張れ」ポンポン
金剛「────────」
金剛「──もっちろんネ!! テートクのハートを掴むのは、私デース!」ギュゥ
救護妖精「おーおー。恥ずかしげもなく言うねぇ」
瑞鶴「人前で言えるなんてすっごい大胆……」ドキドキ
金剛「それだけテートクがラブなのデース!」
金剛(──そうです。可能性はゼロではないのですから、諦めるのはまだ早いですね)
提督「本当に、こんな私に惚れるのが不思議だよ」ナデナデ
瑞鶴(頭撫でて貰ってる……良いなぁ……)ジー
救護妖精(まったく……この提督がその気になっちゃったら何股まで可能なのかねぇ?)
……………………
…………
……
開発妖精「じゃ、じゃあ……確かに届けたよ!」ビクビク
提督「ありがとう、開発妖精。すぐに造ってくれて助かる」ナデナデ
開発妖精「ほぇ……」ナデナデ
開発妖精(……あれ? なんかいつもの提督さんだ?)
金剛(なんでしょうか、これ?)
瑞鶴(杖……のようにも見えるけど、何かしらこれ……?)
開発妖精「えーっと……お大事に?」
提督「うむ。また何か必要になると思うから、その時は頼む」
開発妖精「はーい……?」
パタン──
提督「──さて、次の問題を解決しよう」
瑞鶴「次の問題?」
提督「ああ。私の脚が動かなくなったのを隠し続けるのは無理だ。先に口裏合わせをしておくべきだろう」
瑞鶴「ごめんなさい……」
提督「謝るな。私の脚を引き換えに瑞鶴が帰ってきたと考えたら充分過ぎるくらいだ」
金剛(そういう言葉をサラッと出すのは本当に凄い事デスよ)
瑞鶴「……ありがとう、提督さん」
提督「私もありがたいと思っているよ。──さて、口裏合わせだが、最も自然な方法を考えよう」
金剛「脚が動かなくなった理由が頚椎損傷デスよね? そうであれば、何かしらの理由で首に強い衝撃が掛かってしまった──というのが自然ネ」
瑞鶴「例えば、階段から落ちちゃったとか?」
金剛「でも、テートクが階段から落ちるなんて想像出来ないデス……仮に落ちたとしても、途中で大道芸みたいな動きをして事無きを得そうじゃないデスか?」
瑞鶴「……うん。私もそう言われたら信じる」
提督「私は超人か何かか」
金剛「差し支えないですよネ……?」
瑞鶴「むしろ自分が普通だと思ってたの……?」
提督「…………なら、低血糖で意識を失った場所が階段だったというのだったらどうだ?」
金剛「あ、良いデスネそれ」
瑞鶴「今思ってみれば、よく今までそんな事が起きなかったわね……」
提督(……ふむ。低血糖で命を落とす、か。案外悪くないかもしれないな)
金剛「言っておきますケド、私が居るからには定期的に糖分を摂取して頂きマスからネ?」ジッ
提督「……分かった」
瑞鶴「今のは私でも何を考えてるのか分かったわよ」
提督「そうか。精進しなければならないな」
金剛・瑞鶴「しなくて良いです!!!」バンッ
提督「……………………」
金剛「とりあえずは、低血糖で足を踏み外して頚椎を損傷したという方向に定めまショウ」
瑞鶴「後は、階段から転げ落ちたのなら頭にも包帯を巻いてた方が自然かしら」
金剛「そうですね。……皆さんに多大なる心配を掛ける事になりますケド、今回は嘘を吐く方が遥かに良いデス」
提督「ああ。加賀や龍田、不知火辺りが真実を知ったらどうなるか少し怖いものがある」
金剛「加賀は本気で塵になるまで爆撃してきそうデスネ……」
提督「不知火は磔にして四肢の先から一回ずつ確認を取りつつ機銃を撃ちかねん」
金剛「龍田は……想像したくないデス……」
提督「龍田だけは私も想像したくないな」
瑞鶴「すっごく怖いから例えでも言わないで!?」ビクンッ
提督「とりあえず、今回の事は私以外誰も悪くないんだ。瑞鶴が悪者にならないよう細心の注意を払うようにしてくれ」
金剛「勿論デース!」
瑞鶴「……本当、ありがとう提督さん、金剛さん」
提督「さて……私は救護妖精にこの事を伝えてくる」スッ
金剛「ダメです。テートクは大人しく座っていて下さい」
提督「いや、早くこの新しい杖に慣れたいから行かせてくれないか」カチャ
瑞鶴「そう言えば開発妖精さんから何か造って貰ってたけど、何それ?」
提督「脚を固定した状態で、脚と連動して動かせる杖だ。ここのツマミをこっちの穴に移動させれば脚をある程度垂直の状態で固定できる。後はこうすれば」カッチャカッチャ
金剛「リアリィ!? よく思い付きましたねこれ……」
瑞鶴「……確かに普通に歩いているのとあんまり変わらないけど、車椅子じゃダメだったの?」
提督「車椅子だと一人で階段の上り下りが出来ないからこれを造って貰った」
瑞鶴「あー……なるほど。──って、階段!? 一人で!?」
提督「そうだが」
金剛「流石に階段の時は私達を呼んでくれまセンか……。怖くて仕方が無いデス……」
提督「……分かった。そうしてくれるか」
金剛「という訳で、瑞鶴、頼みましたヨー」
瑞鶴「え?」
金剛「私は書類の整理を先にやっておきマース。だから、瑞鶴がテートクを救護室まで付き添って下サイ」
瑞鶴「え、と……うん。分かったわ」
提督(……ふむ)
提督「頼んだ、金剛」
金剛「まっかせて下サーイ!」
ガチャ──パタン
金剛「……………………」
金剛(私も……瑞鶴と同じように半分だけ深海棲艦になれば、あれだけ気を向けてくれるようになるのですかね……?)
金剛「……馬鹿な事は振り払って、お仕事をしましょう。お仕事を」
…………………………………………。
コンコン──
提督「入れ」
ガチャ──パタン
加賀「失礼します。演習の結果報告、を……?」
提督「どうした、加賀」
加賀「ごめんなさい提督。報告の前に聞かせて。……その頭と首の包帯はどうしたの?」
提督「やはり聞かれてしまうか……」
金剛「当たり前デス……」サラサラ
提督「……階段から転げ落ちてしまってな」
加賀「ただ転げ落ちるなんて想像も付かないわ。本当に何があったの」
提督「低血糖で意識を失った場所が階段だったんだ。そのせいでこの様だ。不甲斐ない自分を呪いたくも思うよ」
加賀「……お怪我の具合はどうなの?」
金剛「…………」ピタッ
提督「……………………」
加賀「……深刻のようね。教えて下さい。気が気ではありません」
提督「……そうだな。本当は全員が揃ってから言おうかと思っていたが、加賀には先に言っておこう」
提督「脚が麻痺している。二度と動かないそうだ」
加賀「────────」
加賀「嘘、ですよね……?」
提督「残念だが、本当だ」
加賀「そんな、事って……」
金剛(……加賀の気持ちは良く分かりマス。私は受け入れたつもりデスが、やっぱり辛くて悲しい気持ちになりマス……)
加賀「…………分かりました……。今後、それを踏まえて、サポートをさせて……下さい……」
提督「その事についてだが、基本的に──」
コンコン──
提督「すまない加賀。少し話を切るぞ。──入れ」
ガチャ──パタン
瑞鶴「ただいま、提督さん。──あれ? もしかして今、報告中だったかしら」
提督「半分だけ合っている。瑞鶴は妖精へ哨戒の引継ぎが終わったんだな?」
瑞鶴「うん」
提督「そうか、ご苦労。……そして加賀。さっきの話に戻るが、基本的に私のサポートは瑞鶴に任せようと思っている」
瑞鶴(この話……か……。つらい、な……)
加賀「……理由を、お聞きしても良いでしょうか」
金剛(加賀、悲しいながらも少し怒っているようにも見えるネ……)
提督「瑞鶴が珍しく強い希望を出してきたからだ」
瑞鶴「だって……アレは私のせいで──」
金剛「瑞鶴!!」バンッ
瑞鶴「ひっ……!」ビクッ
加賀「なんですって……?」ジッ
提督(やってしまったな。少し面倒になった)
加賀「どういう事なのかしら。詳しく話しなさい、瑞鶴」
瑞鶴「あ……そ、その……」ビクビク
提督「加賀、瞳孔が開いている」
加賀「自覚しています」
提督「余計に問題がある。今すぐやめろ。手を出すなんて事は絶対にするなよ」
加賀「ごめんなさい。この感情は抑え切れそうにないわ。例え提督の命令でも、世界で一番大切な人の足が動かなくなったのに『はい、そうですか』で済ませられるほど私は聖人君子ではありません。提督の命令なので手は出しませんが、何をしたのかを答えて貰います」
提督「……分かった。話そう」
瑞鶴「…………っ」ビクッ
提督「転げ落ちる際、瑞鶴が近くに居たんだ。近くに居たのに助けられなかったから自分のせいだ、と言っている。私が悪いだけなのにな」
加賀「……そうだったのね。ごめんなさい、瑞鶴……」
瑞鶴「ごめんなさい……」
加賀「貴女が謝る事ではないわ。ほら、だからそんなに悲しい顔をしないで?」ナデナデ
瑞鶴(…………違うの……。私が謝ってるのは、それだけじゃないの……)
瑞鶴「ごめん、なさい……」ポロポロ
瑞鶴(嘘を吐いてごめんなさい……本当の事を伝えれなくて、ごめんなさい……。提督さん金剛さん、せっかく庇ってくれてるのに、もう少しでバラしちゃう所でした……ごめんなさい……。提督さん、私のせいで足が動かなくなってしまって……ごめんなさい……)
加賀「ほら、泣かないの。綺麗な顔が台無しよ?」ソッ
金剛(……本当、私は汚いデスね。未だに瑞鶴が悪いと思っている自分が居るだナンテ……。深海棲艦とはそのようなものだと聞いているノニ……そもそも、今私がここで艦娘として居られているのも瑞鶴のおかげだというノニ……)
金剛(本当に……本当に私は、自分が嫌いになります……)
……………………
…………
……
金剛「んーっ! テートクー、書類の処理が終わったヨー!」
瑞鶴「私も丁度終わったわ。これで良い?」スッ
提督「…………うむ。充分だ。こんな時間まで良くやってくれた二人共」パラパラ
金剛「デスクワーク後のティータイムなんてどうデスか? グッドな気分になるネ!」
提督「頂こうか。瑞鶴も勿論飲むよな?」
瑞鶴「い、良いの?」
提督「何を遠慮しているんだ」
瑞鶴「や……金剛さんは二人きりで楽しみたいんじゃないかなって思って」
金剛「そんな事ないデスよ? 私は今、お二人と一息つきたいデス」
提督「だそうだ」
瑞鶴「……えっと、ありがとう金剛さん」
金剛「お礼なんて必要ないデース。私はお二人と楽しみたいだけデース!」
瑞鶴「それでも、ありがとう」
金剛(……一番の理由は、罪滅ぼしをしたいから……なんデスよね)
金剛「それでは、すぐに紅茶とお茶菓子を用意しマスねー」スッ
コンコン──
金剛「あら?」
提督「こんな時間に珍しいな」
任務嬢「任務嬢です。元帥様がお見えになられました」
金剛・瑞鶴「!?」
提督「……お通ししろ」
任務嬢「はい」
ガチャ──
元帥「やあ少将。君の脚が動かなくなったと聞いて飛んできたよ」
榛名「…………」ペコッ
任務嬢「では、私はこれにて失礼します」
──パタン
提督「……ご心配をお掛けしてすみません」カチャッ
元帥「良い。不慮の事故だから仕方の無い事だ。それと、無理に立とうと思わんでくれ。そのまま座ったままで居てくれて構わん」
提督「ありがとうございます。──金剛、元帥殿と榛名へ紅茶をお出ししてくれ」
金剛「畏まりまシタ」
元帥「ほお、ありがたい事だ」
榛名「お心遣い、感謝します」ペコッ
提督「瑞鶴、お二人を席へ案内してくれるか」
瑞鶴「は、はい! こ、こちらへどうぞ」スッ
元帥「うむ」スッ
榛名「…………」ソッ
瑞鶴(……あれ?)
瑞鶴「えっと……榛名さんは座ら──お座りになられないのですか?」
榛名「──え? あ、あの……」
提督「瑞鶴」
瑞鶴「ご、ごめんなさい!?」ピシッ
元帥「いや、儂の艦娘が失礼をしてしまったな」
榛名「…………」ビクッ
元帥「榛名、座りなさい」
榛名「は、はい……」ソッ
榛名「あの……少将さん、瑞鶴さん、お気遣い頂きましたのに無礼を働いてしまい、申し訳ありません……」ペコリ
瑞鶴「い、いえ! 私こそごめんなさい!」ペコッ
提督「私も気にしておらんよ」
榛名「ありがとう、ございます……」
提督(……ほう。これは普段から何かされているな)
提督「しかし、私などの為にこんな時間でも来られるとは思っていませんでした。ありがとうございます」
元帥「なに。君を海軍学校の頃から気に掛けている身としては不安で仕方が無かったよ」
提督「海軍学校の頃から、ですか?」
元帥「うむ。君ならば実に優秀な提督になると見ておった。……故に、非常に残念だ」
提督「申し訳ありません」
元帥「いや、さっきも言ったように気にするでない。不慮の事故は仕方の無い事だ」
提督「ありがとうございます」
提督「……そして、お気遣いを無為にするようで申し訳ありませんが、私もそちらで座らせて頂きます。元帥殿よりも高い位置に居るのは好ましくありません」カチャッ
瑞鶴(あ、サポートしないと。えっと、これをこっちに……っと)カチッカチッ
元帥「! ほう。珍しい杖だ。些か扱い辛そうな物だが、慣れた手付きだな」
瑞鶴(座る時は戻して……よし)カチッカチッ
提督「器用なのが私の取り柄です故」スッ
元帥「ふむ……まさかとは思うが、それで海の上にも立つ気かね?」
提督「いえ、そこまでは出来そうにありません。波立つ海でも同じようには出来ないでしょう」
元帥「……そうか。いやはやしかし、君はこれからどうするつもりかね」
提督「一先ずは他の提督の方々と同じように、この鎮守府から無線を使って指揮を執ろうと考えています」
元帥「なるほどな。まだまだ現役という訳だ」
瑞鶴(……あれ? なんか一瞬、落胆したような顔をした? 気のせいかしら)
提督「はい。元帥殿から直々に提督になる機会を頂いたので、それを無碍にはしたくありません」
元帥「ハッハッハッ! 懐かしいのう! 君はあの頃から不思議な雰囲気を持っておったな」
提督「そうでもありません。私もどこにでも居るただ単なる人ですよ。ただ少し、変わっているだけです」
元帥「いやいや謙遜せんでも良い。君は逸材だと儂は信じておるからな」
提督「勿体無いお言葉です」
瑞鶴(……私は何をしたら良いのかしら。このまま提督さんの隣で立っておけば良いのかな……?)
金剛「──お待たせしまシタ。こちらアッサムです。ミルクティーで飲むのをお勧めしマス」カチャ
元帥「ほう、素晴らしい香りだ。紅茶を淹れるのが上手いようだな」ズズッ
金剛「お褒めに頂き、ありがとうございマス」ペコッ
元帥「──うむ。味の方も素晴らしい。ミルクはどのくらいがお勧めかね?」
金剛「初めは9:1ほど少なく、二杯目で7:3、三杯目で半々がお勧めデス。移り変わっていく紅茶が楽しめマス」
元帥「なるほど。ではそうさせて貰おう」
金剛(……なぜでショウか。私は、この元帥が好きになれそうにありまセン)
元帥「しかし、君が思ったよりも元気そうで安心した。艦娘にも慕われているようだな」
提督「はい。私は幸運な提督と言っても良いでしょう。この子達にはいつも助けられていますよ」
元帥「そうかそうか。それは良かった」
金剛(……なぜこの人はそんな、知っているとデモ言いたそうな顔を? それと、なぜ榛名はそんなにも表情が暗いのデスか……?)
元帥「さて。短かったが、ここまでにしておこう」スッ
榛名「…………」スッ
提督「もうお帰りですか?」
元帥「うむ。儂も色々と忙しい身でな。今回は君の顔を見に来たという意味合いが強い」
提督「ご安心頂けたのであれば幸いです」
元帥「これからも我が国の為に力を尽くしてくれ。──では、達者でな」
金剛「どうぞ」ガチャ
元帥「うむ」
榛名「……………………」チラ
瑞鶴「?」
榛名「…………」ペコリ
──パタン
提督(……ふむ)
瑞鶴「……あれ? 結局、榛名さんは紅茶を飲まなかったのね」
提督「いや、飲めなかったという方が正しいかもしれん」
瑞鶴「え?」
金剛「やっぱり、テートクもそう思いまシタか」
瑞鶴「えっと……どういう事?」
提督「おそらく榛名は、あの元帥に酷い事をされてきているのだろう。勝手な行動を取れば虐待を受けているのかもな」
瑞鶴「え……」
提督「現に、榛名は一瞬だけ痛みを耐える顔を浮かべていた。礼をしている時にそれがあった事から、腹部に何かされた可能性があるだろう」
瑞鶴「どうしてそんな酷い事を……」
金剛「……瑞鶴、私達は何デスか?」
瑞鶴「え……? えっと……艦娘?」
金剛「そうデス。私達は艦娘デス。それはつまり、主の提督に何をされても文句を言えないという事なのデス」
瑞鶴「そんな事って──!!」
金剛「貴女も艦娘ならば分かるはずデス。テートクには心の底から逆らう事なんて出来ナイと」
瑞鶴「それは……」
金剛「……それを利用シテ、自分の良いように扱う人も居るという事デス」
瑞鶴「……………………」
提督「私は絶対にそういう事をしないから安心しろ」
瑞鶴「……うん」
提督「さて、紅茶を飲んで一息を入れたら寝るとしよう。元帥が日付の変わる時に来なくて、そして瑞鶴の目の色が普通と違う事に気付かれなかったようで助かった」
瑞鶴「あー……それは、うん。本当に良かったわ」
金剛「それにしても、本当にテートクの様子を見に来ただけだったのデスかね……」
提督「真意は私にも分からんが、おそらくはそれだけではないだろう。何があるのかは検討も付かんから気を付けるだけ気を付けるぞ」
瑞鶴「それってある意味、深海棲艦よりも怖いんだけど……」
金剛「あ、そう言えば、私は今日もお二人と一緒に寝ても良いのデスよね?」
提督「瑞鶴と二人で、と言ったら怒りそうだな」
金剛「勿論デス。死なせませんよ、テートク」
瑞鶴「私も……二人で寝るって言われたら逃げ出すかも……」
提督「そうか……。──では、日付変更までの間に寝る用意をしよう」
…………………………………………。
カチ──コチ──
金剛「あと一分で日が変わりますネ」
提督「そうだな」
瑞鶴「……なんか凄く不安になってきた」
金剛「安心して下さい。どんな手を使ってでも止めて見せます」
瑞鶴「目、怖いわよ金剛さん……」ビクビク
瑞鶴「でも……その時はお願い。提督さんを守ってあげてね」
金剛「命に代えてでも守ってみせます」
提督「お前達を死なせはせんぞ」
金剛「まず自分の命を大事にして下さい」
提督「手厳しいな。そして──」
提督「──午前零時だ」
瑞鶴「────────」ガクン
金剛「……ピッタリと変化が現れましたね」
提督「ああ。どうなるかな」
瑞鶴「…………」スッ
金剛「……………………」スッ
金剛(黄色のオーラ……目から蒼い炎のようなモノ……話に聞いた強大な深海棲艦そっくりデス)
瑞鶴「……………………フフッ」
金剛「…………?」
瑞鶴「ナァンダ……モウ ジュウブンジャナイノ」
金剛「……何を言っているのですか」
瑞鶴「タノシミネ アナタノカオガ クツウニユガム ソノトキガ」
提督「…………」
瑞鶴「フフフ……ウフフフフフフフ」
金剛「答えなさい。何を言っているのですか」
瑞鶴「マタアシタ クルワネ」
瑞鶴「────────」ガクン
金剛「……戻った、のですかね…………?」
提督「おそらくそうだろう。オーラも炎のようなモノも消えている」
瑞鶴「──はっ!!」ビクン
瑞鶴「わ、私……さっき意識が……!」
提督「戻ったか」
瑞鶴「う、うん……何も起こらなかったみたいね」
金剛「とりあえずは大丈夫でシタ。瑞鶴もおかしい所はありまセンか?」
瑞鶴「えっと……私も特におかしい所はないわね」
提督「そうか。ならば良かった」
瑞鶴「私も……また提督さんに手を出したらどうしようって思ったわ……」
金剛「私が怖くて、デスか?」
瑞鶴「う。そ、それもあるけど……やっぱり一番は提督さんに危害を加えたくないから……」
提督「……とりあえず寝るとしよう。普段はあまり使わない筋肉を使っているせいか眠気が酷い」
瑞鶴「そんな風には全然見えないんだけど……」
金剛「同じく、言われなければ分かりませんでした……」
瑞鶴「言われても私は分からないわ……」
提督「……眠い」スッ
金剛「私が明かりを消しマスので、瑞鶴はテートクと一緒に寝ていて下サイ」
瑞鶴「はーい」カチッカチッ
提督「──よっと」スッ
瑞鶴「うーん……本当に、その杖が無かったら普通に歩いているようにも見えるわ」
提督「疲れるが、慣れれば意外と普通かもしれん」
瑞鶴「それって凄いわよ……」カチッカチッ
提督「ありがとう、瑞鶴」スッ
金剛「二人共ベッドに着いたネー。では、ごゆっくり」パチン
瑞鶴「え!?」
ガチャ──パタン
瑞鶴「ちょっ! 金剛さ……行っちゃった」
提督「図ったな……」
瑞鶴「え、と……どうする? 追いかけちゃう?」
提督「すまんが、酷く眠い……」
瑞鶴「もう……。でも、声の調子からして本当に眠そう。珍しいわね?」
提督「……ああ、私もこんな経験は初めてだ」
瑞鶴「んー……じゃあ、このまま寝るわね?」
提督「そうしよう……」グイッ
瑞鶴「きゃっ──!」
提督「良い夢を見ろよ……」
瑞鶴「て、提督さん──って、もう寝ちゃってる……?」
提督「……………………」
瑞鶴(……本当に珍しいわね。やっぱり、普段は使わない筋肉を使うのって疲れるんだなぁ……)
…………………………………………。
金剛「……ふう」
金剛(深海棲艦から戻ってきたのならば安全デス。それならば、私は居なくても構いまセン)
金剛「……………………」
金剛(心、痛いデスね……諦めなサイ、私……。テートクの目は、もう私には向かないのデスから……)
金剛「……諦めないのと、しつこいのは違いマスからね」
金剛(お幸せに。テートク、瑞鶴──)
……………………
…………
……
今回はここまでです。今日また来れるかどうかはちょっと分かりません。
もうほとんど終盤。私の割には凄い短いお話になったなぁ。
少しだけ投下。
ちょっとお仕事が片付くまでこうやってチマチマとしか投下できないと思います。
瑞鶴「ん……」パチ
提督「……………………」
瑞鶴「……あれ? ここ──ああ、提督さんの部屋か」
瑞鶴「んっ……! 動けないわね……凄い力……。提督さん、朝よー」
提督「……………………」
瑞鶴「? 提督さーん?」
提督「む……」
瑞鶴「起きた?」
提督「……眠い」
瑞鶴「珍しく寝ぼすけね。ほら、早く起きないと金剛さん達が来ちゃうんでしょ?」
提督「そうだったな……。仕方が無い。起きるとしよう」モゾモゾ
瑞鶴「んーっ! それにしても、本当に珍しいわよね? そんなに昨日は疲れちゃった?」
提督「…………ふむ」
瑞鶴「?」
提督「いや、すまん。もう少し温もりたいと思ってしまっただけだ」
瑞鶴「二度寝はダメよ」
提督「いや、お前の身体がやけに温かくてな」
瑞鶴「ちょっ!? そ、それはちょっと恥ずかしい発言なんだけど……!?」
提督「事実だ。非常に心地良かった。いつまでも寝ていられると思える程にな」
瑞鶴「ぅー……」
瑞鶴(……それだったら、もう少しだけ抱き付いてみようかしら……私も、提督さんに抱き締められるのって好きだし……ね?)チラ
提督「だが、起きなければいけないのも事実だ。杖を取って貰っても良いか?」
瑞鶴「……………………」
提督「どうした、瑞鶴?」
瑞鶴「なんでもないわ……。はい、杖……」スッ
提督「ありがとう」カチャン
瑞鶴「顔、洗ってくるわね……」
提督「ああ。私も洗うとしよう」
…………………………………………。
提督「昨日は心配を掛けてしまったな。すまない」
全員「……………………」
提督「未だに気持ちの整理がついていない者が何人か居るように見える。本日の職務は全て取り止めるので、しっかりと休養を取ってくれ。以上だ」
不知火「……司令、脚の調子は如何ですか?」
島風「こ、この状況でそれを聞いちゃう?」
不知火「この状況だからこそ聞いているのよ。ここに居る全員が司令の心配をしている。けれど皆は気を遣って言えない。ならば私が聞くまでです」
提督「脚自体は特に変わりない。だが、良くある話の幻肢痛も無いから良い事だろう」
暁「げんしつー……?」
提督「有るはずのない痛みの事だ。今、私は脚が完全に麻痺している。神経が死んでいると言っても過言ではない。それでも、脚が痛む事があるらしい」
電「それは、まだ動く可能性があるという事なのでは……?」
提督「いや、例え脚を失っていても同じ事が起きるようだ。詳しい事は分かっていないらしく、確実な治療法も無いと聞いた」
響「それって、司令官が今凄く眠そうにしているのも関係があるのかな」
川内「へ?」
神通「眠そう……ですか?」
天龍「そうは見えねぇが……」
瑞鶴「鋭いわね……」
金剛「ええ。響の観察眼に驚きまシタ」
提督「……本当に良く分かったな。これでも隠しているつもりだったのだが」
那珂「全然そんな風には見えないよ……?」
加賀「私も、そのようには見えませんでした」
雷「凄いじゃない響!」
瑞鶴(って、金剛さんも気付いてたの……? よく分かるわね……)
提督「だが、さっきの幻肢痛とは関係は無い。また別の問題だろう」
響「別の問題、ね」チラ
瑞鶴(……え? なんで私を一瞬だけ見てきたの?)
響「例えば、誰かと一緒に寝ていて眠れなったとか?」
全員「ッ!?」
加賀「本当ですか、提督」ズイッ
不知火「本当であれば聞き捨てなりません」ジィッ
金剛(どうして響はそんなに鋭いのデスかね……? 昨夜に瑞鶴がテートクと共にスリープしたのを知っているのは私だけのはずデスガ……)
龍田「……………………」ニコォ
天龍「ひぃっ! 龍田、笑顔で殺気を出すのやめろ!! それものすげー怖いんだぞ!?」
龍田「あらぁ、ごめんなさい。……つい嫉妬で」
提督「……それが原因で寝不足となった訳ではない。むしろ、いつもより長い時間を深く寝ていたはずなんだ」
響「そうなのかい?」
提督「ああ。今朝はやけに眠くてな。いつも通りのはずなのだが、原因がいまいち分からん」
瑞鶴(あ……気を遣ってくれてる。嬉しいけど……やっぱり今朝の事はちょっと悲しいわね……)
響(本当に、瑞鶴さんと何があったんだろうね?)
提督「話を戻すが、今日は自由にして構わない。一日の時間があるから、普段はやれない事などをする機会にもなるだろう」
加賀「普段はやれない事……」チラ
提督「変な事をしようものなら今この場で吊るす」
加賀「そんな事は考えていません。……少ししか」フイッ
瑞鶴「あ、あはは……」
響「それじゃあ、お茶会なんてどうかな。前から日が開いたし、丁度良いんじゃないかな?」
金剛「グッドアイディアです響!」
提督「ふむ。確かにそれなりに日が開いたような気がするな。参加するものはここに残るように」
不知火「金剛さんのお茶とお菓子が出てくるのに辞退する人なんて居ませんね」
島風「金剛さん! 私手伝うー!」
金剛「サンキュー島風! じゃあ、テーブルにシーツを敷いて貰えマスか?」
島風「はーい!」
雷「島風は元気ね! 良い事だわ!」
電「なのです」
提督(うむ。今の私にとって、この温かい笑顔が一番の癒しだ)
響「……瑞鶴さん、耳を貸して」クイクイ
瑞鶴「? どうしたの?」ソッ
響(結局の所、司令官と昨日の夜に何かあったの?)ヒソヒソ
瑞鶴「っ!!」ビクゥッ
響(ああ、やっぱりあったんだね。どんな事をされたんだい?)ヒソヒソ
瑞鶴(な、何も無かったわよ! ただ……抱き枕にされたような感じはあったけど……)ヒソヒソ
響(羨ましいね……それって抱き締められた状態で一夜を共にしたって事じゃないか)ジー
瑞鶴(え、えっと……そんなに見てきてどうしたの……?)ヒソヒソ
響(なんでも。──でも、瑞鶴さんから司令官の匂いがするのはそういう事だったんだね)ヒソヒソ
瑞鶴(なんでそんなのが分かるのかしらこの子……)
響(まあ、何も無かったのなら良かったよ。ありがとう)ヒソ
提督(響が何か良からぬ事を考えていそうだな)
響「…………」チラ
提督「…………」
響「…………」スッ
瑞鶴(腕を組んだ……? なんか、自分を抱き締めてるようにも見えるけど……)
提督「…………」フルフル
響「…………」ジー
提督「…………」ジッ
響「…………」コクン
響「はぁ……」トボトボ
瑞鶴(なんでこの二人は視線とあんな仕草だけで会話が出来るの……?)
…………………………………………。
今回はこれだけです。また何日かしたら来ます。
お仕事がすぐにでも終わったらまたこっちに集中しますね。
少しだけ投下します。
雷「でね! 電ったらそこでくしゃみしちゃったのよ! とっても可愛かったわ!」
提督「ほう。怖い雰囲気が完全に無くなりそうだな」
電「はわわわ! い、雷ちゃん……その話は、そのぉ……」
提督「む。話を切って悪いが、そろそろ昼食の時間だ。各自、食堂へ移動しなさい」
金剛「ワーォ……楽しい時間はあっと言う間デース」
瑞鶴「よいしょ。提督さん、杖よ」スッ
提督「いや、私は今日の昼は口にしない。思ったよりもさっきのお茶菓子で腹が膨れてしまった」
天龍「身体に悪いぞ?」
提督「無理して食べるのも良くないだろう?」
天龍「うーん……提督がそう言うのなら仕方ねーけどさ……」
響「来るだけでも良いからさ、行こう」クイクイ
提督「……そうだな。席に着くくらいはしようか」
瑞鶴「…………?」
金剛「やっぱりテートクは優しいデース!」バッ
金剛「!」ピタッ
金剛「…………」スッ
暁「……あれ? いつものように抱き付かないの?」
金剛「もしそうした場合、テートクがなんて叱るか目に見えてマース」
加賀「そうね。いつものように時と場所を弁えろって言うわね」
不知火「それはつまり、時と場所を弁えれば抱き付いても良いという事ですか」チラ
提督「私の言った『時』には状況も含まれるから、そこは考えるように」
不知火「抱き付いても構わない状況……ふむ……あれは──いえ……でもこれならば…………」ブツブツ
島風「真剣に考えちゃってる……」
提督「その話はここで終わりだ。食堂へ向かうぞ」カチャン
瑞鶴(……やっぱり、何かおかしいような?)
…………………………………………。
加賀「提督、書類の処理が終わったわ」
提督「ご苦労、加賀」
瑞鶴「お疲れ様、加賀さん」スッ
金剛「二人共ー、新しい紅茶を淹れましたヨー」スッ
提督「気が利く。ありがとう」ズズッ
加賀「いただきます」コクコク
提督「うむ。良い味だ」
加賀「ですが、いつもと少し違うわね」
提督「──ああ。何か違う茶葉でも使ったのか?」
金剛「今回は瑞鶴が紅茶を淹れたのデース! 瑞鶴も紅茶に興味を持ってくれたみたいで、私とっても嬉しいネー!」
提督「なるほど。だから味が違う訳か」
瑞鶴「ど、どんな感じ?」ドキドキ
提督「辛口で言うならば、金剛の味で慣れいるからか今一つ物足りないものがある」
瑞鶴「う……」シュン
提督「だが、経験の浅い事を踏まえれば充分じゃないか?」
瑞鶴「ほ、本当!?」パァァ
加賀「ええ。舌が肥えていると思っていたけれど、また別の味として楽しめるわ」
瑞鶴「良かったぁ! ありがとう、金剛さん!」
金剛「私はレクチャーしただけデース。その実力は瑞鶴のものネ」
瑞鶴「教えてくれる人が優秀だもの。私が本を読むだけじゃ、上手くはいっていないと思うわ」
提督「…………」ズズッ
金剛「でも、テートクも気に入ってくれたようデスよー?」
瑞鶴「それは、その……すっごく嬉しい」テレテレ
加賀「顔が赤くなっているわよ」
瑞鶴「う、ぅー……」
提督「さて、今日は珍しく仕事も早く終わったんだ。早めに寝るとしよう」
金剛「まだ22時デス──……ああ、なるほど」
加賀「それならば早く寝た方が良いわね」
瑞鶴「?」
提督「察しが良くて助かる」
瑞鶴(どういう事かしら……?)
提督「それについてだが、瑞鶴は残ってくれるか」
加賀「!」
金剛「…………」
瑞鶴「え? わ、私?」
提督「ああ。お前ならば多く語らなくても分かるだろう」
瑞鶴「あ、あー……なるほどね」
瑞鶴(確かに、金剛さんはともかく加賀さんの前であんな姿を見せる訳にはいかないもんね)
加賀「……それは、一夜を共にするという事でしょうか」
提督「隠語の意味ではなく、文字通りの意味でだが、な」
加賀「羨ましいわ」チラ
瑞鶴「ひゃいっ!?」ビクン
金剛「加賀ー? 嫉妬をするのも分かりマスが、これは瑞鶴の為でもあるのデスよ?」
加賀「……そうよね」
加賀(例え責任が無くても、本人が罪の意識を持っているのならば解消すれば良い事だもの。提督のサポートをするという形で、ね)
瑞鶴(あ、あれ……? すんなり引き下がってくれた……?)
加賀(特に、あの時の表情は酷いものだったわ。よっぽど気にしているのでしょうね……。羨ましいと思う事には変わりないけれど)
加賀「この件に関しては私も口出しはしないようにするわ。──瑞鶴」
瑞鶴「は、はい!」ビクッ
加賀「提督をよろしくね」
瑞鶴「え、えーと……うん。任せてね?」
加賀「けれど、提督の思いまでは渡す気なんて無いから」
提督「……いつから加賀のものになったんだ?」
加賀「いずれそうしてみせます」
提督「自信満々だな」
加賀「競争率が高いもの。まずは自信を持っている事が大事よ」
金剛「……………………」
加賀「? 金剛さん?」
金剛「え、は、はい。なんデスか?」
加賀「どうしたの? いつもならば提督への愛を豪語しそうなものなのに」
金剛「そ、そうデスかね? もしかしたら、少し眠くて頭がボーっとしているのが原因かもしれないデス!」
加賀「あら、金剛さんも提督と同じなの?」
金剛「今日は平和でシタからネー。心が落ち着くと眠くなるものデース」
加賀(春の陽気に誘われるようなものかしら?)
提督「……………………」ズズッ
金剛「では! 私はお先にベッドインさせて貰いますネー! 瑞鶴、後片付けは頼みました! グッナイ!」
提督「うむ。良い夢を見ろよ」
金剛「──はい。飛び切り良い夢を見れるように頑張ります」ニコ
ガチャ──パタン
加賀「金剛さんが戻ったのなら、私も戻るわね」スッ
提督「そうか。良い夢を見ろよ」
加賀「ええ。おやすみなさい提督、瑞鶴」
ガチャ──パタン
瑞鶴「…………」チラッ
提督「うん? どうした」ズズッ
瑞鶴「えっと……その、私に残ってろって言ってた意味、だけどさ?」
提督「うむ」
瑞鶴「それって、やっぱり……昨日、みたいに?」
提督「嫌ならば──」
瑞鶴「ヤじゃない! ヤじゃないわよ!?」ズイッ
提督「では頼まれてくれるか」ズズッ
瑞鶴「う、うん……」
提督「ん、もう紅茶が空になったか」
瑞鶴「提督さんが眠そうにしていたから、少なくしようって金剛さんと決めたの」
提督「なるほど。では、片付けて貰って良いか?」
瑞鶴「うん。任せておいて」
提督(さて……ドアノブに掛ける紙を作るか)
…………………………………………。
瑞鶴「提督さん、片付け終わったわよー」
提督「そうか。それでは寝るとしようか」
瑞鶴「ん……うん」
提督「……もう慣れたかと思ったが、まだ恥ずかしいか」
瑞鶴「そりゃ……ね?」
提督「間違いは起こさんよ」
瑞鶴「そう言われるのもなんだか微妙……」
提督「信用が……ではないな。間違いが起こって欲しいのか……」
瑞鶴「…………」ジー
提督「すまないが、今日も酷く眠い」
瑞鶴「だよね……」
提督「お互いの調子が良い日ならば、考えよう」
瑞鶴「!」
瑞鶴「じゃあ、しっかり眠って貰わないとね!」
提督「まったく……」
瑞鶴「ほら、早く寝ましょ?」ソッ
提督「助かる」カチャン
瑞鶴「それにしても、本当にそれで歩くの慣れてきてるわね」
提督「そうだな。自分でも思ったより早く慣れて驚いているよ」
瑞鶴「でも、サポートするのは辞めないからね?」
提督「今後も頼む」
瑞鶴「うん! ──留め具、外すわよー」カチンカチン
瑞鶴「はい、座って」
提督「うむ」スッ
瑞鶴「杖を外して……っと」カチャン
提督「…………」ズリズリ
瑞鶴(あ、自分から布団に入ってってる。やっぱり、自分の出来る範囲は自分でやりたいんだなぁ……)
提督「良し。火を付けるから明かりを落としてくれ」
瑞鶴「うん」
パチン──
瑞鶴「!」テクテク
瑞鶴(そうだ。ちょっとだけイタズラしちゃおう)ジー
提督「? どうした。入らないのか?」
瑞鶴「ううん。入るわよ」
提督「ならば──」
提督(……ふむ? 期待しているような目だな。…………ああ、そういう事か)
瑞鶴(もう気付いたみたい。提督さんって本当に頭の回転が速いわね)
提督「ほら、入っておいで。一緒に寝るぞ」
瑞鶴「うん!」ソッ
提督「まったく……誘って欲しいならばそう言ってくれ」
瑞鶴「だって、それだったら私が言わせたみたいじゃないの」
提督「これは違うのか?」
瑞鶴「これは別なのっ」
提督「自分勝手なやつめ」ナデナデ
瑞鶴「飼い主に似るって言うでしょ?」ホッコリ
提督「ならば、ハウスと言えば良いか?」
瑞鶴「今の状態になるだけよ」ギュー
提督「……私の隣がそうか」
瑞鶴「うん!」
提督「まったく……」ギュゥ
瑞鶴「んっ……!」
提督「痛かったか?」
瑞鶴「ううん。自然に言っちゃっただけ。すっごく幸せよ」
提督「……そうか。──すまんが、そろそろ眠気が限界だ」
瑞鶴「ん……。じゃあ、明日もまたお願い、ね?」
提督「そうしよう……。良い夢を見ろよ」
瑞鶴「おやすみなさい──」
…………………………………………。
金剛「…………」ソロリ
金剛(そろそろ日付が変わる時間ですケド……提督室に入っても良いのでショウか……? たぶん、二人共スリープしているはずデス……)
金剛「……あれ?」
金剛(ドアノブに紙、デスか?)
『金剛へ。起こさないよう静かになら今後無断で入ってきて構わない。瑞鶴を確認するかどうかは任せた』
金剛(……お見通しという訳デスね)クスッ
カチャ──ソッ
金剛(蝋燭、持ってきて正解でシタね。今夜は月明かりもありまセンから、これだけが頼りデス)
提督「…………」
瑞鶴「すぅー……」
金剛「…………っ」ズキッ
金剛(……そろそろ、零時デスね)チラ
ユラッ……
金剛(出ました……)
金剛「…………」
瑞鶴「…………」
金剛「……………………?」
瑞鶴「……キガ キカナイワネ」
金剛「…………」
瑞鶴「イマハコレヲ タノシミタイノ ジャマダカラ デテイッテクレル?」
金剛「……貴女は提督を殺したいのですか。それとも愛したいのですか」
瑞鶴「ドッチモヨ」
金剛「今殺さない理由は何ですか」
瑞鶴「ジブンデ カンガエナサイ」
金剛(……楽観的に考えるならば、愛情が殺意を上回った……ですかね。けど、それは少し不自然です。他に何か理由があるはずですが……)
瑞鶴「ヒトツイウナラバ モウ ワタシハテイトクヲ コロソウトシナイ…… ソレダケハオシエテアゲル」
金剛「……信用できませんね」
瑞鶴「コロスヒツヨウガ ナイモノ」
金剛(殺す必要が無い……? では、やっぱり愛情が殺意を上回ったのですか……?)
金剛「……今はそれで納得しておきます。あとは、貴女が消えたら私も帰りましょう」
瑞鶴「チッ……」
スゥ……
瑞鶴「…………」
金剛(消えました……ね?)
瑞鶴「……ごめんなさい」
金剛「いいえ。アレは深海棲艦の瑞鶴デス。例えアレが本音で本性でも、私は今の瑞鶴があんな事を言うとは思えまセンよ」
瑞鶴「ありがとう、金剛さん……」
金剛「いえいえ。──それでは、グッナイ瑞鶴」ニコッ
瑞鶴「おやすみなさい……」
カチャ──ソッ
金剛「……ふぅ」
金剛(あの『瑞鶴』の言葉と行動を信用するならば、もう大丈夫……デスが、もう何日か様子は見まショウ)
金剛(それにしても……覚悟はしていましたケド、やっぱり心が痛みマス……)
金剛(諦めなさい……諦めなさい私……)
金剛「……外、真っ暗ですね」
金剛「…………私の心みたいです……」
……………………
…………
……
今回はここまでです。またいつか来ます。
ちょっぴり投下していきます。
瑞鶴(そろそろ遠征の子達が帰ってくる頃かしら? ──あ、居た。距離的に六キロくらい……かな? それだったら、あと十分ちょっとで到着するわね)チラ
加賀「…………」チラ
加賀(あら。もう遠征艦隊が帰ってくる時間なのね。時間が経つのは早いわ)
提督「…………」チラ
提督「────」フイッ
瑞鶴「え?」
提督「どうした、瑞鶴」
瑞鶴「どうしたって……それはこっちの台詞よ?」
加賀「ええ。提督、疲れているの?」
提督「……………………」
瑞鶴「……えっと、ほら。遠征の子達が見えるから、そろそろ帰ってくるでしょ?」スッ
提督「…………そうか……。すまない。少し霞んで見えていなかった。出迎えに行くとしよう」カチャン
加賀「ダメよ。疲れている時は素直に休んでいなさい。出迎えは私がするわ」スッ
提督「しかし──」
瑞鶴「それで倒れたら、悲しむ人が沢山居るんだからね?」
提督「……分かった。大人しくここで待っていよう」
加賀「そうして下さい。──瑞鶴、提督が無理をしないように見張っていてね」
瑞鶴「うん、任せて! 加賀さんも、遠征の子達をよろしくね?」
加賀「ええ。──いってきます」
ガチャ──パタン
瑞鶴「それにしても……」チラ
提督「どうした」
瑞鶴「……提督さん、私の知らない所で無茶とかしてないでしょうね? 提督さんが気付かないなんて初めてじゃないの」
提督「心当たりは無いんだがなぁ……。それに、最近は四六時中お前と一緒に居るから分かっているだろう」
瑞鶴「お風呂の時とかは一緒じゃないもん。その時に何かしてるんじゃないの?」ジー
提督「何もしておらんよ。知っての通り、自室の風呂でお前と同じく湯浴みをしているだけだ」
瑞鶴「うーん……」
提督「そんなに信じられないのなら、今度から一緒に湯に浸かるか?」
瑞鶴「…………良いかも、それ」
提督「……冗談だ。本気にするな」
瑞鶴「残念……」
提督「お前は良い子なんだ。私なんかじゃなくもっと良い男を見つけろ」
瑞鶴「無理な相談ねぇ……どこにそんな人居るのよ……」
提督「世界は広いぞ。海のようにな」
瑞鶴「私の世界で素敵な男性は提督さんだけ、よ」
提督「…………」
瑞鶴「? 提督さん?」
提督「そうだな……これは独り言だ?」
瑞鶴「…………?」
提督「私と瑞鶴が提督と艦娘の関係でなく、瑞鶴が変わらず私を愛してくれているのであれば……私はお前と共に生涯を過ごしていただろうな」
瑞鶴「────っ!?」
提督「普通に働き、普通に家庭を築き、普通に子を授かり、普通に暮らしていっただろう……」
瑞鶴(それってつまり……)
提督「いや、艦娘は子供が出来ないんだったな……という事は二人で暮らしていくか養子を貰うかだったのか?」
瑞鶴「提督さん……」
提督「独り言だ。誰も聞かれたくない、私の内に秘めている心だ」
瑞鶴「……………………」
提督「さて瑞鶴、仕事に戻ろうか」サラサラ
瑞鶴「え……あ、えっと……うん……」カキカキ
瑞鶴(提督さんは……私と……?)チラ
提督(……………………)
…………………………………………。
救護妖精「よーし。今日はまともに健診を受けに来たね。うんうん、やっと健康を気にするようになったかー」
提督「…………」チラ
救護妖精(うん?)
提督「……瑞鶴」
瑞鶴「ん、なぁに?」
提督「健診は少し時間の掛かるものだ。その間は書類処理を頼んでも良いか?」
瑞鶴「えーっと……良いけど、待ってるのはダメなのかしら」
救護妖精(ああ、瑞鶴には内緒の話があるんだね)
救護妖精「提督の健診は少し特殊だから、素っ裸にさせる項目もあるけど良いのかい」
瑞鶴「是非居させて下さい!」
救護妖精「おおう……積極的だね……」
救護妖精(こりゃちょっと予想外だねぇ……どうしよっか)
提督「ふむ、そうか……」
瑞鶴「…………? えっと、何かあるの?」
提督「いや、健診に時間を割くという事は詰まるところ、書類処理の時間も遅れるという事だろう?」
瑞鶴(ああ……それだと休める時間も短くなっちゃう……)
瑞鶴「提督さん、やっぱり私は書類処理に戻る」
提督「気を遣わせてしまったな。すまない」
瑞鶴「……そこは、ありがとうの方が嬉しいかも」
提督「ふむ……ありがとう、瑞鶴」
瑞鶴「うん!」ニコニコ
瑞鶴「じゃあ、私は提督室に戻るけど、どれくらいで終わるか目安があるのならその時間にこっちへ来るわよ?」
救護妖精「んー……」
救護妖精(少し多めに時間を取るかねぇ)
救護妖精「今回はたぶん二時間くらいかな」
瑞鶴「ん、分かったわ。二時間後にまた来るわね」
救護妖精「あいよー」
瑞鶴「それじゃあ救護妖精さん、提督さんをお願いします」ペコッ
ガチャ──パタン
救護妖精「……さて、話したい事があるんだろう? 検査をしながらでも良いかい」
提督「ああ、構わない」
救護妖精「……なんとなく、嫌な予感がするんだけど」
提督「勘が鋭いな。実は──」
……………………
…………
……
提督「────!」ガクン
金剛「!!」バッ
瑞鶴「っ!?」
提督「……すまない金剛。助かった」グッ
金剛「ビックリしまシタ……。大丈夫デスか、テートク?」
提督「ああ。金剛が支えてくれたおかげで何ともない。──ああ、いや……ありがとうと言うべきだな」
瑞鶴(あ……憶えててくれてるんだ)
金剛「どういたしまシテ。……ケド、本当に大丈夫デスか? 腕で身体を支えるのが疲れてきているのデスか?」
提督「ああ、少し疲れてきているかもな。いくら慣れてきたとはいえ、ずっと腕で身体を支えるのは少々厳しいものがある」
瑞鶴「……………………」
瑞鶴(……なんか、おかしい)
金剛「それならば、今日の開発は中止にしてお休みになるデスか?」
提督「そうだな……。私としては現場を見て開発をしたい所だが……」チラ
瑞鶴「…………」ジー
提督「許してくれそうにない」
金剛「私も瑞鶴と同じデス。出来れば休んでくれまセンか?」
提督「……仕方が無い。今回は金剛に開発を任せよう」
金剛「ハイ! 任せて下サーイ!」
提督「では、私は部屋へ戻る。──瑞鶴、戻るぞ」
瑞鶴「うん。──金剛さん、開発お願いします」ペコッ
金剛「イエース! 瑞鶴も、提督を任せましたヨー?」
瑞鶴「命に代えてでも送り届けるわ」
提督「そこまで大事ではないだろう……」
瑞鶴(……………………そうかしらね?)
……………………
…………
……
提督「──以上だ。では、各自用意をしろ」
ガチャ──ゾロゾロ──パタン
瑞鶴「……ねえ、提督さん」
提督「どうした」
瑞鶴「最近、私の出撃が少なくなったわよね」
提督「ああ。もしかして、出撃したかったか? それならば──」
瑞鶴「ううん。私の話したい事はそうじゃないの」
提督「…………」
瑞鶴「私が提督さんを殺そうとしてから、もう一ヶ月くらいは経ったわね」
提督「そうだな。金剛も、もうお前の深海棲艦部分が出ても問題ないと言っていたな」
瑞鶴「…………そろそろ、さ……話してくれても良いんじゃないかしら」
提督「何の事だ?」
瑞鶴「私さ、ずーっと提督さんの傍で提督さんを見ているのよ。気付いていないとでも思った?」
提督「……何の事やら」
瑞鶴「視力、すっごく悪くなってるわよね。書類にすら目を少し細めるくらい」
提督「…………」
瑞鶴「味覚もおかしくなってきてるでしょ。実は、昨日の紅茶はこっそり砂糖を入れてたのよ?」
提督「…………」
瑞鶴「身体なんて言う事を聞かない事が多いでしょ。最近、眠る時間が長いもの」
提督「……………………」
瑞鶴「まだ、隠す?」
提督「……そうか。もう隠す事は出来んか」
瑞鶴「話して貰うわよ」
提督「……そうだな。金剛と加賀には言うなよ? 気付いた者から言うつもりだったんだからな」
瑞鶴「うん。約束する」
提督「三ヶ月。……長くてそれだけだそうだ」
提督「──その九十日の内に、私は死ぬだろう」
瑞鶴「……それは、救護妖精さんが言ったの?」
提督「ああ。どうにもならんそうだ」
瑞鶴「……………………」
提督「そんなに悲しそうな顔をしてくれるな。死は誰にでも訪れるものだ」
瑞鶴「…………」
提督「私の場合、それが少し早かった……それだけの事だ」
瑞鶴「……冷静ね」
提督「どうにもならんと言われたからな。受け入れるしかあるまい」
瑞鶴「受け入れる……しか……」
提督「ああ。その上で私はいつものように生きて、そして死んでいきたい」
瑞鶴「…………私は、受け入れられそうにない……」
提督「こればかりはどうしようもない。死から逃げ切る事なんて出来ないんだ」
瑞鶴「分かってる……分かってる、けど……」ポロッ
提督「……瑞鶴」
瑞鶴「何……?」ポロポロ
提督「雨が降ってきて少し肌寒い。一緒に温まらないか」スッ
瑞鶴「~~~~~~ッッ!!」ギュゥッ
提督「…………」ナデナデ
瑞鶴「こんな、のって……ないよぉ……ヤダよぉ……」
提督「……すまん」ギュゥ
瑞鶴「生きてよ……ひっく……生き続け、てよ……」
提督「すまん……」
…………………………………………。
提督「……落ち着いたか?」
瑞鶴「……………………」コクン
提督「目が真っ赤だ。せっかく綺麗な金色の目をしているんだから勿体無いぞ」
瑞鶴「……ごめんなさい」
提督「うん?」
瑞鶴「服……汚しちゃった」
提督「洗えば良い。そんな事よりも、もう大丈夫なのか?」
瑞鶴「大丈夫……じゃないけど、マシにはなったわ」
提督「そうか」ナデナデ
瑞鶴「……ねえ、提督さん。私、今の内に思い出を作りたい」
提督「思い出、か」
瑞鶴「うん。出来る範囲で良いからさ。……ダメ?」
提督「大した事も出来んぞ」
瑞鶴「ううん。大した事じゃなくても良いの」
瑞鶴「──私はただ、提督さんといっぱい過ごせたら幸せだから」
提督「……そうか」
瑞鶴「ダメ……?」
提督「救護妖精と相談して、何ならしても良いかを聞こう」
提督「……私も、心残りがあって死にたくはない」
瑞鶴「! ……うん!」
瑞鶴(死のうとしてた提督さんが、死にたくない……か。例えそれが嘘でも嬉しい……)
提督「早速聞きに行こうか。一秒の時間すら惜しい」カチャン
瑞鶴「ダメ。私が呼びに行くから、提督さんはここで待ってて」
提督「だが──」
瑞鶴「少しでも長く、生きてよ……」
提督「……そうだな。頼まれてくれるか?」
瑞鶴「うん。……帰ってくるまでに死なないでよ?」
提督「死なんよ。心残りが多すぎて死ねん」
瑞鶴「……少しだけ安心したわ。──行ってきます」
ガチャ──パタン
提督「……大切な存在に気付いたらこれか」ギシッ
提督「神が居るのならば、よっぽど私を苦しませたいようだな……」
…………………………………………。
今回はここまでです。またいつか来ますね。
このお話は滅茶苦茶ほのぼのでまったりとした空気を楽しんで貰おうと思って書いてたはずなのに、いつの間にかこんな展開に……。
なんでですかねぇ……。
あの話のパラレルでほのぼのは無理があると思いました
少しだけ投下します。
救護妖精「……とうとう気付かれたようだね、提督」
提督「ああ。瑞鶴には見破られてしまった」
救護妖精「むしろ、よくここまで隠し通せたよね。逆に提督の立ち回りに驚くよ」
瑞鶴「それで……相談事なんだけど」
提督「今の私は何をしても大丈夫かを知りたい」
救護妖精「言うのが難しいから、何がしたいかを言ってくれるかい。それで良いかダメか言うからさ」
提督「そうだな……。瑞鶴、お前は私と何がしたい?」
救護妖精(ほほう? これってそういう事だねぇ?)
瑞鶴「え、わ、私? そうね……んっと……」
提督「…………」
救護妖精「…………」
瑞鶴「……考えると中々思い付かないわね」
救護妖精「まあ……この鎮守府と海しか知らないからねぇ」
瑞鶴「海……。えっと、海でデートしたいっていうのとか……?」
救護妖精「ダメ。提督は今の状態で滑れないだろうし、例え海の上に立つとしても敵が居るんだから危ないよ」
瑞鶴「よねぇ……。うーん……」
救護妖精「先に言っておくけど、性行為はダメだよ。寿命が縮むどころかそのまま死ぬ可能性があるかんね」
瑞鶴「ぶっ!」
提督「……直球だな」
救護妖精「愛し合った男女が最終的に行き着くのはそこだからねぇ。先に釘を刺しておくべきでしょ」
瑞鶴「そ、それは置いておいて……海がダメなら、鎮守府の中を歩き回るのは良いの?」
救護妖精「ん。今ならそれでも良いだろうけど、それ楽しいの?」
瑞鶴「提督さんとのデートなら楽しいと思う」
提督「なんだか無茶を振られているような気がするが……」
瑞鶴「提督さんが楽しくないのなら私もしたくないけど、どう?」
提督「……ふむ。思えば、生まれてこの方デートというものをした事が無かったな。興味が沸いてきた」
瑞鶴「なら決まりね!」
救護妖精(本当に鎮守府内でデートするんだ……)
瑞鶴「あ、それならお弁当も作って食べて欲しいかな。食べさせたらいけないものとかある?」
救護妖精「んー……。消化に悪いものはマズイってくらいかな。油物とかはちょっと控えて欲しいね」
瑞鶴「油物はダメ……っと」カキカキ
提督「……言っておくが、私は作らないからな?」
瑞鶴「卵と塩で虹色の物体になるんだっけ……?」
提督「ああ。アレを口に入れるのならば重油の方がマシかもしれん」
救護妖精「どういう食べ物なのさ……」
提督「存在してはいけない冒涜的なものだ。食べれば冗談抜きで死と隣り合わせになる」
救護妖精「冒涜的で死にそうになるって……。──あ、そうそう。艦娘は陸の深い所に行くと死んじゃうけど、そこら辺の小高い山くらいまでなら大丈夫だよ。弁当ならそういう場所で食べた方が良いんじゃない?」
瑞鶴「それって提督さんが大丈夫なの?」
救護妖精「山っていうより丘みたいなもんだし、標高も五十メートルあるかどうかだから大丈夫だよ。無論、ゆっくり歩く事が条件だけどね」
救護妖精「むしろ、行くなら今の方が良いよ。これから段々と体力が落ちていくはずだしさ」
瑞鶴「そっか……。なら、すぐに予定を決めないとね!」
提督「楽しみにしているよ。──そうだ、救護妖精。私は風呂の時に湯に浸かったりしているんだが、マズイか?」
救護妖精「お風呂ならまあ大丈夫かな。今の提督がやっちゃいけないのは激しい運動だからねぇ。熱いお湯でもなかったら身体に負担がそこまでいかないから良いよ。ただ、長時間浸かるのは絶対ダメだからね。二十分が限界くらいだよ」
提督「ふむ。分かった」
瑞鶴「んっと、身体に負担を掛けちゃいけないのは分かったけど、頭に負担が掛かるのもダメなの? ほら、ボードゲームとか」
救護妖精「そこら辺は良いかな。検査をしてみた感じ、頭を使うのは問題ないみたいだし」
瑞鶴「じゃあ、ボードゲームは良い……っと。ルール覚えとこ」
提督「囲碁と将棋、チェスくらいなら分かるぞ」
瑞鶴「じゃあ、その辺りで楽しみましょうか」カキカキ
救護妖精「あと、大前提として身体はしっかりと休めなよ。夜更かしとか論外だかんね」
提督「分かった」
瑞鶴「うーん……本当にやれる事が少ないわね……」
提督「正直に言うならば、私は瑞鶴が隣に居てくれるだけでも充分だ」
救護妖精「おーおー、言うねぇ」ニヤニヤ
瑞鶴「……ちょっと恥ずかしい」
提督「一先ずはこれくらいにしておこうか」
救護妖精「そだね。また思い付いたら私に聞きに来なよ」
瑞鶴「うん。その時はお願いします」ペコッ
救護妖精「良いって良いって。──じゃあ、安静にしておくんだよ提督。じゃあねー」
ガチャ──パタン
提督「……さて、仕事に戻るとしようか。時間を作る為に本気でやるとしよう」スッ
瑞鶴「本気で?」
提督「今まではじっくりと考えてやっていたからな。今回から即決でやる」パラパラ──スッ
瑞鶴「…………えっと」
提督「うん?」パラパラ──スッ
瑞鶴「何してるの?」
提督「一回目を通して何を書くか憶えておくんだ。後はただ筆を走らせれば良い」パラパラ──スッ
瑞鶴「……私にはただ書類をパラパラ漫画にしてるだけにしか見えないんだけど」
提督「疲れるからあまりこれはやりたくないんだ。それに、杜撰だと後が面倒になるからな。……すまんが集中するから少しの間だけ静かにして貰って良いか」パラパラ──スッ
瑞鶴「う、うん……」
瑞鶴(……本当は秘書官なんて要らないんじゃないかしら?)
提督「ふー……よし、書いていく。瑞鶴はこっちの書類を処理してくれるか」スッ
瑞鶴「速っ!? 黙る必要あったのそれ!?」
提督「かなりいい加減だ。後で見返しとかしたくない。──さて、さっさと終わらせるぞ」サラサラ
瑞鶴(……本当に秘書官なんて要らないんじゃないのこれ)
瑞鶴「そういえば、救護妖精さんって私と提督さんがデートするって言っても特に驚かなかったわね。何か伝えてるの?」
提督「いや、何も言っていない。あの救護妖精の事だ。察したんだろう」
瑞鶴「……提督さんの次に敵いそうにないわ」
…………………………………………。
提督「…………」パサッ
瑞鶴「え、もしかして、もう終わったの?」カキカキ
提督「ああ終わった。そっちのを半分貰うぞ」スッ
瑞鶴「本当、どれだけ速いのよ……まだ遠征の子達どころか演習すら終わってないわよ? ──って、それ絶対に半分って量じゃない! ほとんど持っていってるじゃないの! こっち二枚しか残ってないわよ!?」
提督「やりたい事があるからな」サラサラ──パラッ
瑞鶴「……すっごい速さで字が埋まっていってる」カキカキ
提督「ほら、私よりも終わるのが遅かったら罰ゲームだ」サラサラ──パサッ
瑞鶴「え、ちょっ!? 罰ゲーム!?」カキカキカキ
提督「あと四枚だ」サラサラ──パサッ
瑞鶴「あ、あと一枚……!」カキカキカキ
提督「二枚」サラサラ──パサッ
瑞鶴「は、はやっ……!」カキカキカキ
提督「一枚」サラサラ──パサッ
瑞鶴「うぅ、うー……!!」
提督「終わりだ」パサッ
瑞鶴「うそぉ……」カキ…
瑞鶴「…………終わったわ……」コトリ
提督「私の勝ちだな」
瑞鶴「……ば、罰ゲームって、何?」ビクビク
提督「そうだな……考えてなかった」
瑞鶴「思い付きだったの!?」
提督「ああ。正直な所、何もする気が無かった」
瑞鶴「何よそれぇ……」
提督「くくっ。必死な顔が可愛かったぞ」
瑞鶴「……まさか、それが見たかっただけとか言わないわよね?」
提督「ほう。段々と私の事が分かってきたじゃないか。その通りだ」
瑞鶴「このイタズラ好きー……」グッタリ
提督「だが、罰ゲームは受けて貰おうか」
瑞鶴「え。……な、何する気? 吊るしたりしないわよね……?」ビクビク
提督「そうだな……瑞鶴、私の膝に座れ」ポンポン
瑞鶴「え? ……えっと、膝に?」
提督「ああそうだ。ほら、こい」ポンポン
瑞鶴「う、うん……」チョコン
提督(……まさか、向き合って座ってくるとは思わなかった。まあ、良いか)
提督「リボン、解くぞ」シュルッ
瑞鶴「……何するの?」
提督「こうするんだ」クシクシ
瑞鶴「ひゃっ」
提督「綺麗な髪をしているよな、瑞鶴」クシクシ
瑞鶴「ええっと……ありがと?」
瑞鶴(……提督さん、ブラッシングが凄い上手。気持ち良い……)
提督「瑞鶴は自分の髪が好きか?」
瑞鶴「ん、それなりには」
提督「そうか。私もお前の髪が好きだ。手触りも良いし、艶もあって癖もほとんど無い。枝毛も無くて手入れを怠っていないのは分かるぞ」クシクシ
瑞鶴「……なんだか恥ずかしい」
提督「自信を持って良い」クシクシ
瑞鶴「…………恥ずかしい……」
提督「顔が赤いぞ」クシクシ
瑞鶴「~~~~~~…………」
提督「ほら、伏せるな。もっと顔を見せろ」クイッ
瑞鶴「ひゃっ」ビクッ
瑞鶴「あ、あああの提督、さん?」ドキドキ
提督「……………………」
瑞鶴「…………っ」ドキドキ
提督「……………………」ギュゥ
瑞鶴「んっ」ピクン
提督「……すまん。つい抱き締めてしまった」
瑞鶴「……うん。良いわよ。私、抱き締められるの好きだもん」コテン
提督「誰でも良いのか?」ナデナデ
瑞鶴「……その聞き方はズルイ。分かってるでしょ?」
提督「言ってくれないと分からない」
瑞鶴「ウソツキ。──私は、提督さんに抱き締められるのが一番好きなの」
提督「その言い方だと、他にも抱き締められて心地良い者が居るそうだな。金剛や加賀か?」
瑞鶴「お見通しね。……うん。私は金剛さんからも加賀さんからも抱き締められるの、好きよ。でも、一番は提督さん。これだけは変わらないわ」スリ
提督「……温かいな、瑞鶴は」ナデナデ
瑞鶴「提督さんもあったかいわよ」スリスリ
提督「このまま寝てしまいたいくらいだ。昼寝でもするか?」
瑞鶴「もう……皆頑張ってるのよ? ダメよ」
提督「しかし、今日の仕事は全て終わったぞ」
瑞鶴「う……。ほ、他に無いの?」
提督「無い。明日にならなければ出来ない事ばかりだ」
瑞鶴「うー……」
提督「頼む」
瑞鶴「……少しの間だけよ?」
提督「助かる。──瑞鶴も少し寝ておいた方が良い」
瑞鶴「え? 私は大丈夫よ?」
提督「後で役に立つから、今寝ておけ」
瑞鶴「後で役に……?」
瑞鶴(どういう事かしら……?)
提督「出来れば、このまま眠りに就きたいな」
瑞鶴「それだけはダメ。風邪でも今の提督さんには危ないんだから、ちゃんと温かくして寝ないと」
提督「……しっかりものだな」
瑞鶴「どういたしましてっ」
…………………………………………。
今回はここまでです。またいつか来ますね。
いちゃらぶ大好き。甘々なお話とかもっと好き。
もうハートが飛び交うくらいお互いがお互いを好きって全身で表現しているのとか大好物です。
ちょっぴりだけど投下します。
瑞鶴「──アナタがシヌノヲ マッテイルワ」
スゥ──
瑞鶴「……初めて知ったけど、深海棲艦の私って提督さんが死ぬのをあの日から見抜いてたのね」
提督「そうみたいだが、瑞鶴の考えていた事じゃないのか?」
瑞鶴「よく分かんない。私だけど私じゃなくて、あの私にとっては都合が良くて今の私にとっては都合が悪い事は隠されてるような……そんな感じなの」
提督「そういうものか」
瑞鶴「……ごめんなさい」
提督「何を謝っているんだ?」
瑞鶴「提督さんが死ぬのを待ってるって言っちゃって、ごめんなさい……」
提督「……ふむ。気にするな、と言いたい所だが……瑞鶴、私の前で目線を合わせてくれ」
瑞鶴「? ……こう?」スッ
提督「うむ。それで良い」ソッ
瑞鶴「あ──」
瑞鶴(すっごく優しく……私の身体が提督さんの腕の中に……)
提督「今の瑞鶴も深海棲艦の瑞鶴も、私にとっては同じ瑞鶴だ。だから、瑞鶴はありのままのお前で居てくれ。深海棲艦の瑞鶴も、お前が考えている負の感情を話しているだけだよ」ポンポン
瑞鶴「……提督さん」
提督「私は瑞鶴の全てを受け止める気だ。たかが深海棲艦になった程度では私の心は揺るがんよ。だから、もう一度言おう──」
提督「──気にするな。お前には私が居るだろう」
瑞鶴「────────」
提督「それではダメか?」
瑞鶴「……バカ。もっと好きになるじゃないの」ギュゥ
提督「良い事だ」ナデナデ
瑞鶴「これ以上、好きにさせてどうするつもりなのよ」
提督「企んでなんかおらんよ。ただ、私はお前が悲しんでいる姿を見たくないだけだ」
瑞鶴「……ばぁか」
提督「そんな優しく言っても、可愛いとしか思えんぞ」
瑞鶴「ん……良いもん」スリスリ
提督「……………………」ナデナデ
提督「さて……そろそろ良い時間か」
瑞鶴「ん、良い時間?」
提督「ああ。出掛けるぞ」
瑞鶴「出掛ける……? こんな時間なのにどこに行くの?」
提督「海だ」
瑞鶴「……海?」
…………………………………………。
提督「海をこうして近くで見るのは久し振りの気がするよ」
瑞鶴「ずっと私達が止めてたもんね」
提督「さて……瑞鶴、デートをしようか」
瑞鶴「デート? ……あー、だから昼に寝ておけって言ってたのね」
提督「そういう事だ。あと、時間も時間だから大きな声を出すんじゃないぞ」カチャッ
瑞鶴「ちょ、提督さん、何を──」
提督「よっと」スッ
パチャッ……
提督「うむ。杖を使っていても海の上には立てるようだな」
瑞鶴「……提督さん、何する気?」
提督「瑞鶴、少しこの辺りを散歩しよう」
瑞鶴「ダメ。救護妖精さんからもダメだって言われてるでしょ」
提督「私の体力はどんどん衰えるという話だ。それならば、今でないともう二度と海の上に立つ事が出来ない」
瑞鶴「それは……そうだけど……」
提督「私も海が恋しい。しばらく近くで見る事もなくて気付いたが、海は私にとって掛け替えのないものらしい」
瑞鶴「……はぁ…………。こうなったら提督さんってテコでも動かないんだから……」
瑞鶴「皆には内緒にしてよ?」
提督「すまな──いや、ありがとう、瑞鶴」
瑞鶴「困った提督さんね」クス
提督「ほら瑞鶴、おいで」スッ
瑞鶴「……海の上に誘われたのって初めてかも」チャプッ
提督「ほう。私は初めてを貰ったのか」
瑞鶴「そ、その言い方はなんだか恥ずかしいんだけど……?」
提督「嫌か?」
瑞鶴「……少し喜んでた自分が情けない」
提督「くっくっ。良かった」
瑞鶴「もう……」
提督「しかし……海の上に立つ事は出来ても、移動は出来ないようだ。瑞鶴、引っ張って貰って良いか?」
瑞鶴「ん。分かったわ」ソッ
提督「……………………」
瑞鶴「どうしたの?」
提督「いや、今思ってみれば、艦娘と手を繋ぐのは初めてだった気がしてな」
瑞鶴「そういえば見たこと無いかも……。初めて、か……」ジー
提督「どんな気分だ?」
瑞鶴「……すっごい嬉しい。こんななんでもない事で嬉しいって思うなんてビックリよ」
提督「奇遇だな。私もそう思っているよ」
瑞鶴「あんまりそうは……あ」
瑞鶴(ほんの少しだけど、笑ってるような?)
提督「どうした」
瑞鶴「……ううん。なんでもないわ。さ、行きましょ?」
提督「うむ」
瑞鶴「どこに行く?」
提督「この近海を散策はどうだ。出撃とは違った海が見えるかもしれんぞ」
瑞鶴「うん! そうしましょ! ……でも、敵が出てきたらどうするの?」
提督「放っておけば良い。攻撃してくるようであれば全力で逃げてくれるか」
瑞鶴「怖い事を言うわね……。ちょっと不安になってきたんだけど」
提督「ここら辺は比較的に穏やかだ。私達が居るせいか敵もほとんど見掛けない。だから大丈夫だろう」
瑞鶴「本当に大丈夫かしら……」
提督「逃げれなかったらその時はその時だ。……まあ、瑞鶴となら沈んでも良いかもしれんな」
瑞鶴「冗談でもそういう事は言わないの。敵と遭遇したら逃げる準備はするからね?」
提督「頼んだ」
瑞鶴「じゃあ、行くわよ」クイッ
…………………………………………。
提督「……ああ、久し振りの海の上だ。風が心地良い」
瑞鶴「本当、提督さんとまた一緒に海に出られるなんて思ってなかったわ」
提督「救護妖精には絶対に言ってくれるなよ?」
瑞鶴「勿論。他の人にも絶対言わないわ」
提督「怖いからか?」
瑞鶴「それもあるけど、なんとなく秘密にしておきたいの」
提督「ほう?」
瑞鶴「私と提督さんの、二人だけの秘密、ね?」
提督「……気分が良くなってきた。良いな、それ」
瑞鶴「私も。ちょっとだけ顔が火照っちゃう」
提督「……なあ瑞鶴」
瑞鶴「? なぁに?」
提督「月が、綺麗だな」
瑞鶴「月? ──あ、本当だ。綺麗に半分だけの月が出てるわね」
提督「……………………」
瑞鶴「星もハッキリ見える。本当に綺麗……」
提督「……そうか」
瑞鶴「あれ? どうしたの?」
提督「いや、なんでもない。──瑞鶴、星で影が出来る話は知っているか?」
瑞鶴「え。星で影なんて出来るの?」
提督「ああ。周りが真っ暗で月も出ていなかったら星で影が出来るらしい」
瑞鶴「良いなぁ。見てみたい」
提督「この国では見るのが難しいだろう。ましてや海だと尚更な」
瑞鶴「残念……」
提督「だが、星の影が見えなくとも星というものは何かと不思議な気分になるよ。──北極星は見えるか?」
瑞鶴「えっと……北斗七星があれだから……あった。うん、見えたわよ」
提督「北極星の光が地球に届くのは四百年掛かるんだ」
瑞鶴「四百……。すっごい遠いのね」
提督「そう。つまり、今瑞鶴が見ている北極星は四百年前の光という事だ。もし北極星の光で影が出来れば、四百年の時間を経て作られる影なんだよ」
瑞鶴「四百年を掛けて作った影……。ますます見てみたくなるなぁ」
提督「二百五十四万光年離れているアンドロメダ銀河の光もあるから、四百年の影とは言えないかもしれんがな」
瑞鶴「にひゃ……」
提督「不思議なものだろう? その二百五十四万年──二千四百兆キロの旅の末、私達の目に入ってきているんだ」
瑞鶴「数字が大き過ぎて実感が沸かない……」
提督「だろうな。私も知識としては持っていても実感が持てん。故に神秘的に感じるのかもしれんがな」
瑞鶴「……うん。私も、この星空が何百年も何万年も掛かっているんだって思ったら、すっごく不思議な気持ちになる」
提督「ああ。だが、私はあの北極星……四百年の歳月を掛けた光の方が魅力的に感じるよ」
瑞鶴「あ、それ私も思った」
提督「ほう。それは嬉しい」
瑞鶴「四百年の影、いつか見れたら良いね」
提督「そうだな。いつか、見てみたいものだ」
瑞鶴「二人で?」
提督「勿論だ」
瑞鶴「えへへー」ギュッ
提督「…………」ナデナデ
瑞鶴「さてと……結構沖まで来ちゃったし、そろそろ戻りましょうか」
提督「そうだな。また明日、来たいものだ」
瑞鶴「提督さんの調子が良かったらね」
提督「ほう、甘くなったな」
瑞鶴「提督さんったら、すっごく気分が良さそうなんだもん。……それに、私も楽しかった」
提督「そうか。楽しんで貰えたのならば私も嬉しいよ」
瑞鶴「また、星の話をしてね?」
提督「ああ」
北方棲姫「……………………」
……………………
…………
……
今回はここまでです。またいつか来ますね。
まったりでほのぼの。ああ、心が潤う。
ちらっと投下していきます。
救護妖精「再検査の結果を言うよ。とりあえず、今日は絶対安静ね」
提督「…………」
瑞鶴「提督さん、大丈夫?」
提督「私は普段とあまり変わらないと思うのだが……」
金剛「でも、再検査の数字もやっぱり良くないのデスよね?」
救護妖精「常日頃からありえない数字ばかり叩き出してるけど、その平均値が正常と考えても今回は良くないね。とりあえず寝るのが特効薬だよ」
提督「暇で死んでしまいそうだ……」
救護妖精「死にたくなけりゃ動かない事だね」
提督「……大人しくしておく」
響「珍しいね。司令官が素直に引き下がるなんて」
提督「最近になって身体を大事にしなければならないと思ってな」
救護妖精「良い事だねぇ。あたし的にはそのまま一般人と同じくらい検査数値になってくれたら万々歳だよ」
瑞鶴(数字が悪いのって、やっぱり昨日のデートのせいかしら……)
救護妖精「それじゃ、あたしは戻るよ。三人は提督が無理をしないように監視しててねー」フリフリ
ガチャ──パタン
提督「しかし、珍しい面々だな。今日はドクターストップという事で休暇を取ったはずだが、何かあったのか?」
金剛「私は加賀の艦載機メンテナンスの邪魔にならないようにと来まシタ」
響「私は司令官に会いたかったからだよ」
瑞鶴「他の駆逐艦の子達はどうしてるの?」
響「秘密のお勉強をしてる。熱心だと思うよ」
瑞鶴(秘密の勉強……?)
金剛(アー……そういう事デスか)
提督「……なるほどな。お年頃だ」
響「で、その勉強の事についてなんだけど、金剛さんや瑞鶴さんにも教えて欲しいなってちょっと思ってる」チラ
瑞鶴「私達が? 知ってる事なら教えれるけど、何が知りたいのかしら」
金剛「……残念デスが、私は経験がありまセン。──瑞鶴ならありそうですケド」チラ
瑞鶴「ええ……? えっと……?」
提督「いや、瑞鶴も経験は無い。私が保証しよう」
響「二人とも無いのかい? という事は加賀さんも?」
提督「ああ。この鎮守府で経験は誰一人として無いはずだ」
金剛「結構意外デス……」
提督「そうでもないだろう」
瑞鶴「あの……本当になんの話なの……?」
響「……思ったより鈍いんだね、瑞鶴さんって」
提督「ああ。それは私も思う」
金剛「ア、アハハ……」
瑞鶴「なんか酷くない!?」
提督「とりあえず、昼に話す事でもないだろう。……夜でも話さんからな?」
響「残念」
瑞鶴「…………?」
提督「話は変わるが、瑞鶴達はこの鎮守府をどう思う?」
金剛「────」ズキッ
金剛(……『瑞鶴達』ですか。以前は『金剛達』だったのに……)
瑞鶴「私は大好きよ。皆が居て、提督さんが居て、楽しいし、優しいし──ここで進水できたのは本当に良かったと思ってるわ」
響「私もだよ。一番は司令官が居る……それが最高に良いと思ってる」
金剛「私は……」
金剛「……………………」
瑞鶴「?」
響「…………」
提督「…………」
金剛「……私は、良い所も悪い所もあると思います」
提督「ふむ」
金剛「悪い所は軒並み提督が関係しているんですけどね?」
瑞鶴(苦笑い……なんだか悲しそう……)
響(こんなに自虐の雰囲気を出してる金剛さんは初めて見たかも)
提督「……すまない」
金剛「これも、仕方の無い事です」
金剛「──さて! ティータイムをしようと思いマスが、三人はどんな紅茶が飲みたいデスか?」
提督(未だに金剛は割り切れていない、か)
提督「……ケニアが良いな」
金剛「ケニア……デスか? ありますケド、でもアレは……」
提督「今はそんな気分だ。……頼めるか?」
金剛「テートクがそう言うのであれば……」
響(……瑞鶴さん、ケニアってどんな紅茶なんだい?)ヒソ
瑞鶴(ごめん……私も知らないわ)ヒソ
響(そっか。じゃあ楽しみだね)ヒソ
瑞鶴(そうね。私も少しワクワクしてるわ)ヒソ
…………………………………………。
金剛「お待たせしまシタ」カチャ
提督「うむ」
瑞鶴(あれ? この香りって……?)
瑞鶴「提督さん、ケニアってどういう紅茶なの?」
提督「香りは分かる通り優しく甘い。コクが深くて渋みはあるが、それなりに飲みやすい紅茶だ」ズズッ
響「え?」
金剛「……………………」
瑞鶴「甘い香り……?」
提督「……金剛」チラ
金剛「…………」コクッ
提督「やってしまった、か」
金剛「……やっぱりデスか」
響「どういう事か説明してもらうよ、司令官。いつも飲んでるアッサムを別の紅茶と間違えるなんて有り得ない」
金剛「それだけではありません。提督の紅茶には砂糖を入れています。……提督がまともに飲めないくらいの量を」
提督「やられた……。まさか金剛もこんな事をしてくるとは思わなかった」
金剛「私『も』?」
瑞鶴「……金剛さん、実は私も同じ事をしてるの」
金剛「前々から何かおかしいとは思いましたが……これは、全部吐いて貰うしかありませんね?」
響「私もだよ。こればっかりはいくら司令官でも見過ごせない。何があったんだい」
提督「案外、隠し通せないものだな……」
提督「……今から話す事は他言無用だ。気付いた者にしか言わないつもりだから、そう考えてくれ」
金剛「はい」
響「了解」
提督「私は今、味覚と嗅覚が無くなっている。視力もかなり落ちてしまった。……ここから工廠の建物がぼやけて見えるくらいにな。聴力と皮膚感覚は特に変わりない。また、体力も非常に低下している。睡眠時間が増えたのはこれが原因だろう」
金剛「ボロボロじゃないですか……なぜ平気な顔をしていられるのですか……?」
提督「……なぜ、か」
響「ポーカーフェイスには私も自信があるけど、流石に司令官と同じ状態になったら取り乱すよ。……泣き喚いて、自棄になって、周りに迷惑を掛けてしまうと思う」
提督「そう考えると、私は壊れているのだろう。……いや、支えがあるからマトモで居られるのかもしれん」
金剛「支え……」チラ
響「なるほどね」チラ
瑞鶴「わ、私!? 私が支えになれてるの!?」
提督「ああ。私の最大の支えであり、そして正気を保たせてくれる大事な存在だ」
金剛「…………」
響(ああ……金剛さんが最近大人しいのはそういう事なんだね)
瑞鶴「わ、私はそんな大層な事なんて……」
金剛「…………」ジッ
瑞鶴「────っ!」ビクッ
瑞鶴「…………」ビクビク
提督「まあ、そういう事だ」
響「……司令官、一つ気になった事を聞いても良いかい」
提督「どうした」
響「その症状、ただの病気なんかじゃないよね。……命が削れてるって意味って解釈して良いのかな」
提督「……察しが良いな。その通りだ」
金剛(やっぱり、ですか……)
提督「三ヶ月もしない内に私は、この世を去る事になる」
響「……現実味が無いね。想像すら出来ないよ」
提督「そうは言っても、救護妖精が匙を投げるレベルだ。どうしようもないのだろう」
金剛「……………………」
提督「明日には居なくなってもおかしくない。だから、覚悟だけはしておいてくれ」
瑞鶴「……ねえ、金剛さん、響ちゃん。相談があるの」
金剛「…………?」
響「なんだい?」
瑞鶴「二人は、提督さんの事が好きよね? この鎮守府でも頭一つ抜けてるくらいに」
金剛「……ええ」
響「頭一つかどうかは分からないけど、大好きなのは確かだよ」
瑞鶴「正直に言って欲しいの。……このまま、提督さんが死んじゃったら心残りが多過ぎないかしら」
金剛「瑞鶴、それは……」
響「……心残りは凄く多いと思うよ」
瑞鶴「これから二日間、私の存在を忘れてくれるかしら。……その二日間を私の代わりに、提督さんと一緒に居てくれる?」
響「それは……」
金剛「…………」
響「……正直、魅力的な話だと思う」
金剛「……ダメです。瑞鶴はその手で私達から勝ち取りました、私達に気遣うべきではありません。私達に気遣うくらいならば、提督の傍で……一緒に過ごして欲しいです」
響「…………」
金剛「提督が心に決めた相手は瑞鶴です。それは私達が代わりになる事も、私達がそれに甘んじる事も許されない事です。それに、提督が今一番求めているのは……瑞鶴、貴女のはずですよ」
提督「…………」
金剛「……提督が私の想像と違って、瑞鶴以外にも手を出したいというのであれば話は別ですけどね」チラ
提督「すまないが、私は愛するのならば一人だけだ」
金剛「ええ。知っています。……そんな事、万が一にもある訳がありません」
響「……………………」
金剛「悔しいですけど、ね」
響「……それじゃあ、私は別の方法を取るとするよ」スッ
提督「ほう?」
響「瑞鶴さん、司令官の肩に触れるくらい近くで座って貰って良いかな」
瑞鶴「えっと……こう?」ソッ
響「脚もくっつけてね」
瑞鶴「う、うん」
響「それじゃあ二人共、少し失礼するね」スッ
提督「……なるほど。そういう事か」
瑞鶴「あ……これって……」
響「うん。心地良いね、これは」
金剛(……まるで、二人の子供みたいですね)
響「おとーさん」
提督「!」
響「おかーさん」
瑞鶴「…………!」
金剛(……………………)ズキッ
響「そして、おねーちゃん」
金剛「──え?」
響「傍に来て」
金剛「……えっと、響の前で良いのですかね?」ソッ
響「ん。……少し私は大きいかもしれないけど、これで家族だね」
提督「…………」ナデナデ
瑞鶴「ごめん響ちゃん。もう一回、私を呼んで?」
響「おかーさん」
瑞鶴「……ダメ。我慢できない。可愛い」ギュゥ
金剛「二人が夫婦だとしたら、私はどういう立ち位置なのデスか?」
響「おにーちゃんが大好きな妹じゃないかな。司令か……おとーさんの影響も受けてるし」
金剛「なるほど」クスッ
金剛「つまり、私は大好きな兄さんを奪っていった瑞鶴を嫌っているという事になるのデスかね?」ジッ
瑞鶴「ぅええっ!? そ、そんな……」
金剛「ジョークですヨ」クスクス
瑞鶴「も……もー! 金剛さんったら!」
金剛「ノー! さんは無しデス! 私がテートクの妹なら、瑞鶴は私の姉になりマース!」
瑞鶴「ごめん。それだけは想像でも難しいわ……」
提督「そうだな。私の妹が金剛だとしても、瑞鶴は金剛の妹という方がしっくりくる」
響「うん。私もそう思うよ」
金剛「三対一デース……。丁字戦不利でもここまで差は付けられないデス……」
瑞鶴「だって……ねえ?」
提督「うむ」ナデナデ
響(……子供というのも悪くないものだね)ニヤ
……………………
…………
……
一先ずここまでです。もしかしたら、また後で来れるかも。
またちょっぴり投下しますね。
瑞鶴「ダメ」
提督「だが……」
瑞鶴「絶対ダメ。今日は大人しくしないと危ないんだからね」
提督「……残念だ」
瑞鶴「今日もすぐにお仕事を終わらせて一緒に寝たからまさかとは思ったけど……今朝に救護妖精さんに絶対安静って言われてたでしょ?」
提督「時間が惜しい」
瑞鶴「それで今にでも死んじゃったら元も子も無いじゃないの。とにかく、絶対にダメだからね」
提督「…………」
瑞鶴「でも……提督さん、星の話はして貰って良い? 私、聞きたいの」
提督「ふむ。構わない……が、条件がある」
瑞鶴「条件?」
提督「私の膝に座って髪のリボンを解いてくれ」
瑞鶴「……それ、私からして欲しいって言いたいくらいなんだけど?」シュル
瑞鶴「よいしょ。お願いね?」ストン
提督「……前にも思ったが、向きが逆じゃないか?」
瑞鶴「うん。知ってる。だって、こっちの方が提督さんの顔が見れるんだもん」ニッコリ
提督「……反則だ」ギュゥ
瑞鶴「んっ……」ピクン
提督「髪を梳く前に、もう少しこうさせてくれ」
瑞鶴「──うん。私も、少しの間だけこうしていたい」ソッ
提督「ああ……心が洗われるようだ……」ナデナデ
瑞鶴「私も、すっごく落ち着く……」
提督「その割には心臓が早鐘を打っているようだが?」
瑞鶴「ドキドキしてるのは本当。だけど、安心してるのも本当よ」
提督「そうか。それは良かった」ナデナデ
瑞鶴「ん……幸せ……」
提督「私もだよ」ナデナデ
瑞鶴「…………」スリスリ
提督「さて……そろそろ髪を梳くとしようか」スッ
瑞鶴「うん! お願いね!」
提督「そして、星の話だったな。瑞鶴は星をどこまで知っている?」クシクシ
瑞鶴「星は何も知らないわね……。せいぜい、北極星の見つけ方と天の川って言葉くらいかしら」
提督「ふむ。ではその天の川について話そう。瑞鶴は天の川を見た事がないんだな?」クシクシ
瑞鶴「うん。どんなのかも知らないわ」
提督「天の川は、実は一年中見る事が出来るんだ」クシクシ
瑞鶴「そうなの? 織姫と彦星のお話で、七夕の時にしか見れないと思ってた……」
提督「夜、明かりが無くて空気の澄んだ場所ならばモヤのような星の帯が見える事がある。それが天の川なんだ」クシクシ
瑞鶴「……あれ。それって昨日見たような……。雲っぽく見えるやつ?」
提督「ああ、それだ。ちなみに織姫と彦星の伝説も、実はお互いが浮かれてしまったのが原因で七月七日にしか会えなくなってしまっただけだったりする」クシクシ
瑞鶴「い、意外と俗的だったのね」
提督「神話や伝説なんてそんなものだ。戦争を始めた理由が浮気からの夫婦喧嘩なんてものもあるぞ」クシクシ
瑞鶴「えええ……」
提督「さて話を戻すが、実はその天の川が星の影を作る事が出来る唯一の存在なんだ」クシクシ
瑞鶴「え……そうなの?」
提督「ああ。だが、天の川の距離までは流石に知らない。もしかしたら北極星と同じくらい近いかも知れんぞ」クシクシ
瑞鶴「そっかぁ……じゃあ、本当に四百年の影かもしれないのよね?」
提督「ああ」クシクシ
提督(銀河の中心がそんな近くにある訳がないが、黙っておこう)
提督「そして、天の川が一番輝く時期は夏だ。それ故に七夕伝説がある」クシクシ
瑞鶴「へぇ……季節によって見えるかどうか違うんだ?」
提督「ああ。空気が綺麗であれば綺麗なほど見えやすくもなるが、何よりも天の川が頭上に来ると一番見えるようになる。空気というものは、宇宙で考えれば光を遮るものなんだよ」クシクシ
瑞鶴「えっと、角度が直角の方が、通る空気の厚さが薄いから見えやすくなるって事?」
提督「そういう事だ」クシクシ
瑞鶴「宇宙って本当に不思議ね……空気が光を遮るだなんて……」
提督「密度の違いと言えば一言だが、そこまでいくと星とは関係が無くなるから止めておこう」クシクシ
瑞鶴「うん……。流石にそろそろ分かんなくなる……」
提督「七夕、か……。思えば、あと一ヶ月もすれば七月か」クシクシ
瑞鶴「そうよねぇ……これから暑くなるのよね……。やだなぁ」
提督「瑞鶴は暑いのが嫌いか?」クシクシ
瑞鶴「前は好き嫌いなんてなかったけど、今は嫌い」
提督「ほう」クシクシ
瑞鶴「だって、こうやって肌をくっつけると暑くて離れたくなるなんてヤダ。まあ、提督さんが嫌がらない限りくっついちゃうけど」
提督「…………」ピタッ
瑞鶴「? どうしたの?」
提督「……いや、素直に可愛いと思っただけだ」クシクシ
瑞鶴「ぅ……い、言わないでよね? 思い返したら恥ずかしいじゃないの……」
提督「顔が真っ赤だ」クシクシ
瑞鶴「イヂワル……」
提督「ああ。私はいぢわるだぞ」クシクシ
瑞鶴「知ってるわ。最近までこんなにイヂワルなのは知らなかったけど……」
提督「幻滅したか?」クシクシ
瑞鶴「……分かってる癖に」ギュ
提督「本当、私は幸せ者だ……」ギュゥ
瑞鶴「私も幸せ……」スリスリ
……………………
…………
……
瑞鶴「……私ってやっぱり甘いんだろうなぁ」
提督「どうした、いきなり」
瑞鶴「いくら今日の調子が良かったからって、こうしてまた提督さんと海上デートしてるんだもん。甘いわ」
提督「私がその甘さに付け込んでいるだけだよ」
瑞鶴「そりゃあ……あんな嬉しそうな顔でデートに行こうなんて言われたら頷いちゃうわよ……。むしろ、ほとんど条件反射みたいに頷いちゃった自分を叩きたいわ」
提督「そんなに嬉しそうな顔をしていたのか」
瑞鶴「おまけに自覚していないみたいだし……。だからあんな珍しい笑顔だったのね……」
提督「まあ、そう言ってくれるな。楽しい事や嬉しい事は享受したいものだろう?」
瑞鶴「そ、そうだけど……」
提督「さて、その話は置いておいて……瑞鶴、星は見えるか?」
瑞鶴「星?」
瑞鶴(……あ、提督さんって視力が落ちてるから分かんないんだ…………)
瑞鶴「んっと、今日は少し曇ってて薄っすらと見えるくらいよ」
提督「そうか……。残念だ」
瑞鶴「でも、月は見えるわね。下半分が雲に隠れちゃってるけど、これも綺麗よ」
提督「ふむ。半分の月、か……」
瑞鶴「半分の月に何かあるの?」
提督「少しばかり思い入れがあるな。いや、最近になって心を動かされた物語というべきか」
瑞鶴「?」
提督「気にしないでくれ。──それよりも、少しマズイかもしれん」
瑞鶴「え? ────っ!!」
北方棲姫「…………」
南方棲戦姫「────」
ヲ級「…………」
提督(あの小柄な深海棲艦は見た事も聞いた事もない容姿だ……新種の深海棲艦か……?)
提督「絶体絶命だな……」
瑞鶴(…………あれ?)
提督(……瑞鶴が警戒を緩めた? 何かあるのか?)
瑞鶴「……………………えっと」
北方棲姫「…………」クイクイ
南方棲戦姫「…………」コクン
提督(襲ってくる気配が無い……? どういう事だ)
南方棲戦姫「聞きたい事がある」
提督「……なんだ?」
南方棲戦姫「お前達は何者だ」
提督「ただの人間と艦娘だ」
南方棲戦姫「隠さなくても分かる。そっちの艦娘の姿をした者は何かがおかしい。私達と同じ雰囲気もあるが、どこか違う。二つほど気配が感じられる。お前も海の上に立っている事から、ただの人間ではあるまい」
提督「……観察眼に優れているな。察しの通りで良い。だが、私はただの人間だ。人類の技術によって海の上に立っている」
ヲ級「…………」ジー
瑞鶴「…………」ジー
提督「今度は私の質問だ。お前達は深海棲艦だろう。どうして襲わない」
南方棲戦姫「様子のおかしい二人を発見したと、この子から聞いてやってきた。……まさかここまで変な二人だとは思わなかったがな」
提督「ほう」チラ
北方棲姫「…………!」ビクッ
提督「……深海棲艦だというのに何か怯えているようだが」
南方棲戦姫「正直に言うならば、私もお前に手を出したくない。……そうすると、私も道連れにされそうな雰囲気がある。それはこの子も感じているのだろう」
提督「よく分かっているな。もし私達に手を出せば──その首を貰うつもりだ」
南方棲戦姫「手は出さないから安心しろ」
提督「私達の立場は敵同士だ。その言葉を鵜呑みに出来る訳がなかろう」
南方棲戦姫「あ、確かに……。どうしよう……」
提督「……………………」
提督(……こいつ、まさか)
ヲ級「…………?」ジー
ヲ級「────!!」ビクンッ
ヲ級「!」ピシッ
提督「……なぜ私に敬礼をした」
南方棲戦姫「ふむ……?」ジッ
提督「…………」
南方棲戦姫「…………」ジー
北方棲姫「…………?」
南方棲戦姫「!!?」ビックゥ
南方棲戦姫「っ!」ピシッ
提督「……なぜ敬礼をするんだ」
南方棲戦姫「はっ!? つ、つい癖で……」
提督(やっぱり……こいつアホの子か……?)
北方棲姫「……どうしたの?」
南方棲戦姫「いや……私達の提督と似ていたのでな……」
北方棲姫「そうなの?」
南方棲戦姫「ああ。……深海棲艦となった今でも、この癖は抜けていないようだ」
提督(こいつらも元は艦娘なのか……。という事は、深海棲艦は全て──)
ヲ級「♪」ギュー
提督「……は?」
瑞鶴「え……えぇ……?」
南方棲戦姫「…………」
北方棲姫「…………」
ヲ級「♪」スリスリ
提督「おい。これはどういう事だ。説明をしろ」
南方棲戦姫「……え、えっと…………たぶん、貴方が私達の提督に似ているから、かと……」
提督(そんな事がありえるのか……?)
北方棲姫「……気持ち良いの?」
ヲ級「♪」コクコク
北方棲姫「じゃあ、あたしも……」ソッ
瑞鶴「なぁ!?」
提督「……………………」
北方棲姫「ん……」スリ
提督(……とりあえず、頭を撫でておくか?)ナデナデ
ヲ級・北方棲姫「!」
ヲ級「♪」ギュー
北方棲姫「……良いかも」ギュゥ
瑞鶴「うー……!」ジー
提督「……すまん。ここまでにしてくれるか」
ヲ級「!」コクン
北方棲姫「ん」スッ
瑞鶴「っ!」ギュゥ
提督「おっと」ソッ
瑞鶴「……ヤだった」
提督「すまん……」ナデナデ
瑞鶴「ん……許す」スリスリ
南方棲戦姫「……様子を確認して、敵だったら倒そうかと思っていたが……まさかこうなるとは思わなかった」
提督「正直に言うと私も訳が分からん」
南方棲戦姫「ですよね……」
提督「南方棲戦姫……いや、長いな。戦姫、この状況をどうすれば収拾できると思う」
戦姫「無茶を言いますね……。私にはどうしようも出来ないと思うのですが……」
瑞鶴(あれ……口調が敬語になってる)
提督「……とりあえず、今日の所は帰るか」
戦姫「それが良いかと……」
提督「先に言っておくが、私達は毎日ここに足を運べるという訳ではない。それだけは頭に入れておいてくれ」
戦姫「分かりました。──また、いつか」
ヲ級「~♪」フリフリ
北方棲姫「…………」クイ
提督「うん?」
北方棲姫「……また、頭撫でてね」
提督「…………」チラ
瑞鶴「…………」ジー
提督「……許しが出たらな」
北方棲姫「──うん!」ニパッ
…………………………………………。
提督「……あの深海棲艦は何だったんだろうな?」
瑞鶴「分かんない……。ただ、あのヲ級とすっごく髪の長い人はなんだか……」
提督「なんだか?」
瑞鶴「……初対面じゃない、ような?」
提督「前にも戦った事があったか?」
瑞鶴「ううん。無いわ。もっと前……ずっと、ずーっと前に会ったような……そんな気がするの」
提督「……私には分からないな」
瑞鶴「私もよく分かんない……なんだったんだろうね」
提督「まあ……また会った時にでも分かるかもしれん」
瑞鶴「うん。……なんだか、また会いたいな」
……………………
…………
……
今回はここまでです。またいつか来ますね。
またゴールが遠ざかっていく感覚。もう終わるはずなのに。
半月読んだのかな?(ストレート)
また少しだけ投下していきます。
>>403
ぶっちゃけると、前作であるリバーズ・エンドが私の小説を書く根本です。もちろん半月も好きで、かの山にも登りました。
なので、私の作風は少し古いラノベっぽくなるように……なってたら良いなぁ。
提督「これで今日の書類処理は終わりだな」パサッ
瑞鶴「ん。お疲れ様」
提督「…………」ジッ
瑞鶴「? どうしたの? 私の顔に何か付いてる?」ペタペタ
提督「いや、何も付いていない。……そうだな。少し、機密文章を作る」ペラッ
瑞鶴「総司令部に送る書類?」
提督「ああ。覗くなよ? それなりに機密性の高いものだからな」サラサラ
瑞鶴「はーい。……それにしても、最近は金剛さんも加賀さんも執務に手を出してこないわね」
提督「……気付いていないのは本人だけか」サラサラ
瑞鶴「?」
提督「今、この鎮守府では『提督と瑞鶴は結ばれている』という噂で持ちきりだ」サラサラ
瑞鶴「え!? な、なんで皆に……!?」
提督「……まあ、分かるだろうな。四六時中一緒に居る上、瑞鶴を出撃させていないのだからな」パサッ
瑞鶴「ああ……だから最近、駆逐艦の子達に提督さんと何かあったのかって聞かれてるのね……」
提督(……こういうのには鈍いな。本当に)
提督「だから金剛も加賀もなるべく気遣っているんだろう」
瑞鶴「……嬉しいような恥ずかしいような」
提督「さて……私は少し救護妖精の元へ行ってくる。少しここで待っていてくれないか?」カチャン
瑞鶴「えっと、私が付いていくのはあんまり良くない事?」
提督「出来れば聞かれたくない事ではある。どうしても聞きたいのならば付いてきてくれるか」
瑞鶴「んー……。じゃあ、待ってるわね。でも、ちゃんと戻ってきてよ?」
提督「ああ。勿論だ」
…………………………………………。
救護妖精「──本気で言ってるの?」
提督「無論。本気だ」
救護妖精「…………」
提督「そんなに悲しそうな顔をしてくれるな。……私にはもう、時間が無いんだ」
救護妖精「…………」
提督「このまま放っておくよりも、私自らがやる方が良い。そうだろう?」
救護妖精「……確かにそうだけどさ」
提督「……何か他に理由があるようだな」
救護妖精「あるよ。……けど、これは言えない」
提督「私相手でもか?」
救護妖精「……うん。これだけは、誰にも言う訳にはいかないから」
提督「そうか……」
救護妖精「ただ、これだけは言えるよ。……提督が進もうとしている道は、茨の道だよ。それだけは絶対に忘れないで」
提督「……ああ。忘れないでおく」
救護妖精「あと……寿命も縮むかもしれないからお勧めはしないよ」
提督「寿命が縮む?」
救護妖精「これ以上は言えない。……あと、提督の事だから総司令部には送らない気でしょ?」
提督「ああ。どうせ命が無くなる身だ。最後くらい好き勝手させて貰う」
救護妖精「……後悔するよ」
提督「生きていれば可能性などいくらでもある。あの総司令部に任せるなんて事は出来んよ」
救護妖精「……忠告はしたからね」
提督「後悔はしても、私はその道を選ぼう」
救護妖精「…………」
救護妖精(……本当、バカなんだから)
……………………
…………
……
金剛「テートクと工廠に赴くだなんて久し振りデスね」
提督「……そうだな。以前までは金剛と頻繁にここへ足を運んでいたな」
金剛「そうでシタね……。ケド、瑞鶴でなくても良いのデスか?」
提督「ああ。金剛でないといけない事だ」
金剛「私でないと、出来ない事デスか?」
提督「そうだ。今回ばかりは代えなど利かない」
開発妖精「……準備、出来たよ」
建造妖精「……………………」
提督「ご苦労。少し待っていてくれ」
金剛(…………? 暗い顔をしていますケド、どうかしたのでショウか)
提督「……金剛」
金剛「?」
提督「お前とはこの鎮守府で二番目に長い付き合いだったな」
金剛「……提督?」
提督「初めに電と出撃した時の事を、私は今でも憶えている。その後、秘書艦としてずっと私のサポートをしてくれた事も、私の為に尽くしてくれた事も、私は忘れない」
金剛「まさ、か……」
提督「──金剛型一番艦、金剛に言い渡す。現時刻をもって、その役を完了。それに伴い……解体する」
金剛「待って下さい!!」
提督「意見は受け付けん。これは命令だ」
金剛「なら、理由を聞かせて下さい! 私が至らなかった理由を、不要になった理由を教えて下さい!!」
提督「不要となった訳ではない。ましてや金剛が不出来だなど一切思ってもいない」
金剛「ならばナゼですか!? どうして私は解体されるのですか!?」
提督「……金剛はもう知っているだろう。私はもう、長くないんだ」
金剛「それがどうしたというのですか!!」
提督「だから、だ。私がこの世を去った後、お前達は私無しで生きていかなければいけない」
金剛「あ……」
提督「聡いお前ならば今ので分かっただろう。……通常、解体を施した艦娘は総司令部へ訪れなければならない。だが、解体を施した艦娘は一週間の時間を越えて提督へ連絡を取ってきた例は一度も無い。それが何を意味するのか、想像するのは容易い」
金剛「……………………」
提督「名前を変え、姿を変え、そして生きてくれ。……それが、死にゆく私の最後の望みだ」
金剛「……無意味かもしれません」
提督「可能性がある」
金剛「私は……提督が居なければ生きていけません!」
提督「その傷は時間で治せるものだ」
金剛「私も一緒について逝きます!!」
提督「その席は、瑞鶴が座っている」
金剛「────────」
提督「……正直に言えば、そろそろ限界が近い。自分の身体だ。死が隣に立っているのは分かっている」
金剛「…………」
提督「ソレはすぐ近くに居る。今の私ならば、多少の無茶をするだけでソレとの距離を一気に縮める事になるだろう」
提督「逃げる事は叶わん。全ての生き物に定められた必然だ。離れようにもヤツは常に私へ纏わり付き、隙あらばこの身から魂を刈り取っていく。……どうしようもない事なんだ。既に、目の前に居るお前の顔すらハッキリと見えない。こうして立っているだけでも……実は倒れてしまいそうな程だ」
金剛「……提督」
提督「どうした」
金剛「……………………」
提督「…………」
金剛「……いえ……なんでもありません」
提督「そうか……」
金剛「……私の、この心の傷は……いつか癒えるのですか?」
提督「時間が癒してくれるだろう。乗り越えられるかどうかは別として、いつかは私は記憶となり、そして過去になり、色褪せていく。……金剛の未来には、私はもう居ないんだ」
金剛「……………………」
提督「……………………」
金剛「いつも……」
提督「…………」
金剛「いつも、私の隣には提督が居ました……」
提督「……ああ」
金剛「執務でも、建造でも、開発でも、出撃でも……そして、ベッドの中でさえも……提督が隣に居た時がありました」
提督「…………」
金剛「私はそれが嬉しくて、とても幸せで……永遠に続くものだと信じて疑っていませんでした……。考えてみれば、いつかは別れてしまうものなのは当たり前です」
提督「…………」
金剛「ですが……いくらなんでも早過ぎます!! 私はまだ満足していません! 提督や、他の皆ともまだまだ過ごしたい!! 過ごしたかった!!」
提督「……………………」
金剛「なぜですか!? 私達はまだ一つの四季すら巡っていません! なぜこんなに早く終わりが来てしまったのですか!?」
提督「……それが、私の運命だったからだ」
金剛「酷いです!! あんまりです!! 提督が何をしたというのですか!? 神はなぜ提督を殺そうとするのですか!?」
提督「そればかりは私にも分からない……」
金剛「私の命が、提督に渡せられるのなら……どんなに良い事か……」
提督「そんな事をして、残された私はどうなる。私のせいで死んでしまったお前に、なんて顔を向ければ良い」
金剛「……その言葉、そっくりそのまま……お返しします…………。私は、どうしたら良いのですか……? 提督に命を救われた私は……提督から沢山の大切なモノを頂いた私は……何をすれば提督へ恩返しが出来るのですか……?」
提督「……生きろ。生きて、私の分まで生きて、そして笑ってくれ。それが私への最大の恩返しだ」
金剛「そんな事で……」
提督「金剛。お前が私の事を想ってくれているのは知っている。この鎮守府で一番と言っても過言ではない。……ならば、私の最後の望みを叶えてくれ」
金剛「望み……?」
提督「忘れろとは言わない。だが、どうか幸せな生活を送ってくれ。私が得られなかった幸せを、悲しみを、怒りを、喜びを……私が浮かべる事のできなかった笑顔で、暮らしていってくれ」
金剛「…………それが、提督の望みですか……?」
提督「そうだ。それが、私の望みだ」
金剛「……分かりました」
金剛「お任せ、下さい……。私は……必ずや提督の望みを叶えてみせます……。そうして、提督を羨ましがらせてみせます。早く亡くなられてしまった事を後悔だってさせてみせます」
金剛「──ヴァルハラから、見ていて下さい」
提督「ああ……。約束だ」
金剛「はい……。約束です」
提督「……開発妖精、建造妖精──」
提督「──丁寧に解体してやってくれ。金剛の身を、傷一つ付けず……」
…………………………………………。
ガチャ──パタン
瑞鶴「提督さん、おかえりなさい」ソッ
提督「ただいま。……ふぅ」カチャン
瑞鶴「なんだか疲れてるみたいだけど、大丈夫?」
提督「ああ、問題ない」
瑞鶴「汗掻いてるみたいだけど……まさか運動でもしてたんじゃないでしょうね?」
提督「流石にそれは出来んよ。体力がめっきりと落ちてしまったからだろう。ただ歩くだけでも疲れてしまう」
瑞鶴「お風呂でも入る? お湯、張っちゃう?」
提督「そうだな……頼んでも良いか?」
瑞鶴「うん。それじゃあ待っててね」
提督「ああ」
提督(しかし……たかが十三回の往復でここまで疲れてしまうようになるとは……。本当に体力が無くなってしまっているな……)
提督(……あとどれだけ、私は生きられるのだろうか)
瑞鶴「提督さん、湯溜めしてるからね」
提督「助かる」
瑞鶴「それにしても……提督さん専用のお風呂場ってもっと広いのかと思ってた。二畳くらいしかないんだ?」
提督「それだけあれば充分だろう。豪勢にする理由も無い」
瑞鶴「ふぅん……? そういうものなんだ?」
提督「むしろ、個人で使えるだけありがたいものだ」
瑞鶴「確かにそれは良い事かも。皆で入るのも悪くないけどね」
提督「……ふむ。皆で入る、か」
瑞鶴「うん。楽しいわよ」
提督「今までそういう経験が無いからよく分からんな」
瑞鶴「それはそれで珍しいと思うわ……。それじゃあ、私もお風呂に入ってくるわね」
提督「ああ、待て瑞鶴」
瑞鶴「?」
提督「一つ、提案がある」
…………………………………………。
提督「ああ、やはり湯に浸かるのは良いものだ……」
瑞鶴「あの……提督さん……」チャポン
提督「なんだ?」
瑞鶴「……見えてないわよね?」
提督「瑞鶴のうなじと華奢な肩なら見えている」
瑞鶴「そ、そういう事も言わないの!」
提督「恥ずかしいか」
瑞鶴「当たり前じゃないの……! タオルも何も無しなのよ……?」
瑞鶴「そんな状態で……提督さんに背中向けてるし……。狭いから、どうしたって身体が触れちゃうし……」
提督「私は羞恥よりも喜びの方が上回っているな」
瑞鶴「……女の子と一緒にお風呂に入っているから?」
提督「初めて一緒に湯船に浸かった相手が瑞鶴だからだ」
瑞鶴「…………バカ」
提督「何を言っているんだ。初めてというものは一生を添い遂げたいと思う相手と行いたいだけだ」
瑞鶴「もう……またそうやって恥ずかしい事を言うー……」
提督「素直になっているだけだ」
瑞鶴「本当……提督さんってそうやって私を困らせるんだから……」
提督「嫌だったら言ってくれ」
瑞鶴「……ヤじゃない」
提督「そうか。良かった」
瑞鶴「うー……。恥ずかしいけど嬉しいって思ってる自分を呪いたい……」
提督「しかし……一人で入るのとは非常に違うな」
瑞鶴「そう、なの?」
提督「ああ。一人で入るのはただの作業だが、こうやって瑞鶴と入るのは癒されるよ」
瑞鶴「……ありがと」
提督「礼を言うのは私の方だ。風呂がこんなにも癒されるものだとは知らなかった。──ありがとう、瑞鶴」
瑞鶴「ん……」
提督「それに……」ソッ
瑞鶴「きゃっ──!?」ピクン
提督「いつも以上に瑞鶴が近くに居る気がする」ギュゥ
瑞鶴「ああ、あの、あ、のあの……! てて提督さん!? 腕が、お腹に……!!」
提督「嫌だったら言ってくれ」
瑞鶴「あ、う…………ズルイ……」
提督「ふむ?」
瑞鶴「……ズルイ……恥ずかしい……えっち……バカ」
提督「散々だな……」
瑞鶴「でも……ヤじゃない。私も、裸で抱き締められるの……良いって思っちゃってる……」
提督「確かに、一切の抵抗をしていないな」
瑞鶴「……はぁ。私も、開き直った方が良いみたいね」
提督「ほう」
瑞鶴「んっ……」ソッ
提督「ふむ。身体を預けてきたか」
瑞鶴「……提督さんの身体って、硬いわね。なんだかゴツゴツしてる」
提督「男だからな。それとは対照的に、瑞鶴の肌は柔らかい。触っていて心地良い」
瑞鶴「そう言うのはちょっと……なんだかエッチっぽい」
提督「傍から見ればそうだろう。強ち間違ってはおらんよ」
瑞鶴「確かにそうだけど……」
提督「ほら、肩肘張らずに力を抜いておけ。それでは疲れるだけだぞ」
瑞鶴「う、うん……」
瑞鶴(でも、やっぱり恥ずかしいなぁ……。それ以上に嬉しくて幸せだけど、さ……)モジッ
瑞鶴(それにしても……手、あったかいなぁ……。大きくて、優しくて、包まれてるみたいな感じ……)ソッ
提督「うん?」
瑞鶴「あ……手、触っちゃダメだった?」
提督「いや、構わない。少し気になっただけだ」
瑞鶴「そ、そっか」
瑞鶴(提督さんって軍人で考えたら華奢な方だと思うけど、ガッチリしてるわよね。……ああ、だから私、こんなにドキドキしてるのかな。全身を包まれてるみたいで、提督さんの腕にスッポリ入っちゃって……いつでも好きにされちゃう、のよね……これって?)
瑞鶴(……提督さんは、そんな事しないでしょうけどね)
瑞鶴「はぁ……ぅ……」
瑞鶴(段々だけど……私も心地良くなってきた。気持ち良くて、頭がポーってなってきて……心の中から解されてるみたい……)
瑞鶴「ずっと、続けば良いなぁ……」
提督「……ああ、そうだな」
瑞鶴「……ごめん。心の声がつい…………」
提督「という事は、今のは本音だな」
瑞鶴「…………うん。本音」
提督「そう思ってくれるのなら、私も嬉しいよ」
瑞鶴(ああ……本当……)
瑞鶴(この時間が……永遠に続いてくれたら良いのになぁ……)
…………………………………………。
提督「良い湯だった」ホカホカ
瑞鶴「ん……」ホカホカ
提督「さて……時間も時間だ。今日は大人しく寝るとしよう」
瑞鶴「うん……」トコトコ
パチン──
瑞鶴「……………………」トコトコ
提督「……元気が無いな。どうした」
瑞鶴「…………えっと」
提督「うん?」
瑞鶴「私……提督さんと一緒にお風呂、入ったんだなぁって……」
提督「非常に心地良かった。また機会があれば一緒に入りたいものだ」
瑞鶴「ぅ……ん……うん……」
提督(……一緒に入るべきではなかったかな、これは)
瑞鶴「あの、ね? 提督さん」
提督「どうした」
瑞鶴「……本当に、ただお湯に浸かってただけだったのに……あんなに気持ち良かったの、私……初めて」
提督「…………」
瑞鶴「癖、なっちゃいそう……」
提督「……ほう」
瑞鶴「そ、それだけ! も、もう寝ましょっ!」
提督「くくっ……そうだな。寝よう」
瑞鶴「うー……どうして笑うのよー……」
提督「なに。可愛かったからつい、な」
瑞鶴「もう……」モゾモゾ
瑞鶴「ん……」ピトッ
提督「…………」ギュゥ
瑞鶴「……やっぱり、提督さんに触られるの、好き……私」ギュッ
提督「私もだ」
瑞鶴「ふふっ……おんなじね。良かった」スリスリ
提督「…………」ナデナデ
瑞鶴「おやすみ、提督さん──」
提督「ああ、おやすみ瑞鶴──」
……………………
…………
……
今回はこれだけです。またいつか、来ますね。
よし。あと少しだ。
金剛「私も一緒について逝きます!!」
提督「その席は、瑞鶴が座っている」
この返答最高に恰好いい
今回は珍しくちまちまと投下していきます。
天龍「さて、飯だ飯だ!」
龍田「はいはい。天龍ちゃん、ご飯は逃げないわよ~。あら?」
島風「ふふーん。残念でした! 入り口に一番最初に着いたのは私だよ!」
天龍「本当にお前は来るのが早いな……いつの間に来てるんだよ……」ワシワシ
島風「えっへへー」
川内「今日の献立は何かなー?」
神通「メインは肉じゃがらしいですよ」
那珂「やったー! 間宮さんの肉じゃがって美味しいよね!」
加賀「ええ。気分がとても高揚します」
不知火「じゃがいも……」
雷「そういえば、不知火はじゃがいもが苦手なんだったっけ?」
不知火「ええ……口に出来ないという訳ではないけど、あのパサつく感覚が少し……」
電「好き嫌いはメッ──なのです」
暁「肉じゃが美味しいのに……」
響「色々な物を食べれないと大きくなれないって話だよ。……色々とね」
不知火「頑張ります」
金剛「テートク、お一人みたいデスが……大丈夫デスか?」
提督「ああ。問題ない」カチャン
加賀「そういえば、瑞鶴はどうしたの? 見当たらないのだけど」
提督「ああ、瑞鶴ならば──」
島風「いっちばーん! ──って、あれ?」
瑞鶴「…………」ドキドキ
川内「あれー? 瑞鶴さん、もう来てたんだ?」
響「早いね。どうしたんだい?」
瑞鶴「う、うん。ちょっとね?」
提督「…………」ニヤ
金剛(あ、なるほど。そういう事デスか)
間宮「はーい。皆さん、ご飯の用意は出来ていますから取りに来て下さいねー」
島風「はーい!」
天龍「ダメだ。涎が出てきた」
龍田「もう少しの辛抱よ~」
加賀「肉じゃが……とても良い匂いです」
不知火「大きく……大きく……」
響「ハラショー。こいつはとても食欲がそそられる」
暁「あ、響待ちなさい!」
雷「ほら、電も行くわよ!」
電「わわっ。ひ、引っ張ると危ないのです」
川内「皆、お腹がぺこぺこなんだね」
神通「そういう川内も、ご飯の時間を待っていましたよね?」
那珂「ねー!」
川内「だってお腹が減ったらご飯は食べたいでしょ?」
金剛(瑞鶴)ヒソ
瑞鶴「ん?」
金剛(きっと、良い出来デスよ。とてもグッドな匂いデース)ヒソヒソ
瑞鶴「!?」ビクンッ
瑞鶴「……気付いてたのね」
金剛「イエース! テートクの顔を見れば分かるネ」
提督「……そんなに表情に出ていたか」
金剛「ニヤニヤしていたですヨー」
提督「……………………」
提督「……よし。全員に行き届いたな」フイッ
瑞鶴(あ、恥ずかしくなったんだ)
金剛「…………」クスッ
提督「では、頂こう──」
全員「──いただきます!」
天龍「んん、お?」モグモグ
間宮「如何ですか?」
川内「んー……? 味付け、変えたのかな?」モグモグ
瑞鶴「…………!」ビクン
不知火「珍しく普通ですね。普通の美味しさです」モキュモキュ
瑞鶴(普通、かぁ……)
提督「…………」モグモグ
提督「ふむ、なるほど。普通だ」
金剛「えと、そうデスか? 美味しいデスよ?」ムグムグ
加賀「おかわりをお願いします」スッ
天龍「はやっ!?」
島風「んー、私は前の味付けの方が好きかな?」
響「私はこの味付けもなかなか良いと思うよ」
雷「味がハッキリしているわね!」
神通「複雑な味ではない、といった所でしょうか?」
那珂(……何かが違うっては分かるけど、言われるまで違いが分かんなかった)
龍田「あらぁ~。充分だと思うわよ~?」
電「なのです」
瑞鶴「ぁぅ……」
間宮「♪」ニコニコ
提督「…………」ポン
瑞鶴「…………?」
提督「確か、初めてだったよな?」
瑞鶴「え、と……うん」
提督「初めてでこの出来ならば、充分だろう。いきなり美味い料理を作れる人など、そうそう居ない」
瑞鶴「でも……」
提督「ほら、見てみろ」
天龍「とりあえず、おかわりだ!」
島風「次は私だからね!」
川内「その次は私ー!」
加賀「おかわりです」
天龍「だから加賀は速過ぎないか!?」
加賀「肉じゃがは大好物です。まだまだ食べられます」
間宮「はいはい、順番ですよー」
瑞鶴「あ……」
提督「不味かったらおかわりなど出ない。初めての料理で『普通』だというのは、高評価の証だ」
瑞鶴「──うん!」
金剛「瑞鶴ー」
瑞鶴「うん? なぁに、金剛さん?」
金剛「私、この味が気に入ったネー」ニコニコ
瑞鶴「──あはっ。ありがとう」
提督「…………」モグモグ
提督(……ふむ)
瑞鶴(…………あれ? 今気付いたけど、なんだか皆の様子がおかしいような……)
瑞鶴(……これって、艤装の取り付けとか……出来なくなってる? なんで……?)
…………………………………………。
──パタン
提督「ふぅ……今日の夕飯は満足だった」
瑞鶴「え?」
提督「満足したと言ったんだ」
瑞鶴「え、でも……提督さんって味覚……」
提督「味覚が無くとも美味いと思えるとは驚いた」
瑞鶴「いやぁ……流石にそれはないでしょ」
提督「では一つ言い当ててみよう。瑞鶴、お前は今日の料理を作る時、私が食べる時の事を思い浮かべていただろう」
瑞鶴「ぅえ!? な、なななんで分かったの!?」
提督「料理において最高のスパイスはなんだと思う」
瑞鶴「あ──」
間宮『料理において一番大事な事はですね、食べて貰う人への愛情を込めるなんですよ』
瑞鶴「……本当、提督さんには敵わないわ」クスッ
提督「では、負けた瑞鶴は今晩、抱き枕となって貰おうか」
瑞鶴「あははっ。いつもの事じゃないの、それ」
提督「ダメか?」
瑞鶴「こちらこそお願いします」
提督「うむ」
瑞鶴(──あ、皆の事について聞くの忘れてた)
提督「さて……今日も昨日の疲れが響いているようだ。少し早いかもしれないが寝るとしよう。──こっちの準備は出来たぞ」
瑞鶴(……明日にしよう。今は、この温かい空気を乱したくない)
瑞鶴「うん。──電気、消すわね」
パチン──
……………………
…………
……
瑞鶴「……そっか。解体したのね」
提督「ああ。金剛達は私から離れて生きていくべきだ」
瑞鶴「解体する時、酷い事になってたんでしょうね……」
提督「そうだな……。詳しくは言わないが、あの顔を思い出すと心が痛む……」
瑞鶴「私、解体なんてヤだからね。提督さんと海の上に立てなくなっちゃうもん」
提督「そう言うと思っていた」
瑞鶴「あははっ。なーんだ。見透かされてたんだ」
提督「瑞鶴の事ならば、少しくらいは分かるさ」
瑞鶴「少し、なんてものじゃない癖に」
提督「そうだったら嬉しいな」
瑞鶴「きっとそうよ。──それにしても、解体しても朝礼の時間には全員ここへ来るのには驚いたわ」
提督「それは私も驚いた。もう軍に就いている訳ではないのにな」
瑞鶴「……まあ、気持ちは分かるんだけどね。私達は軍に身を置いているけど、提督さんについて行ってるだけだもん。例え解体されて普通の女の子になっても、それは変わらないって自信があるわ」
提督「……本当に私は恵まれているな。お前達みたいな艦娘が来てくれていた私は幸運だ」
コンコン──
提督「入れ」
ガチャ──パタン
川内「失礼しまーす。──あれ、やっぱり居ないなぁ」
提督「どうした、川内」
川内「んっと、神通と那珂が見当たらないんだよね。だから提督の所に居るのかなって思って来たんだけど」
提督「いや、今朝の朝礼以降見ていない。どこにも居ないのか?」
川内「うん。鎮守府のほとんどを歩いてきたけど居なかった。瑞鶴さんは何か知らない?」
瑞鶴「ごめん……。私も朝礼から見てないわ」
川内「本当、どこに行ったんだろ……?」
提督「流石に心当たりが無いな……」
川内「じゃあ、私はもうちょっと探してみるね。もし神通と那珂を見つけたら私が探してるって言ってもらって良いかな」
提督「うむ。見つけたら伝えよう」
川内「ありがと。じゃあ、またねー」
ガチャ──パタン
提督「珍しい事もあるものだな。あの三人が一緒に居ない事はほとんど無かったはずだ」
瑞鶴「うん。何かあったのかしら……」
提督(……少し、胸騒ぎがするな)
──その日、神通と那珂の姿を見た者は誰一人として居なかった。
……………………
…………
……
提督「──以上だ。昼食後、新しい住居を選別するから私の部屋に来るように。天龍と龍田、不知火にも伝えてくれ。自由にして良し」
全員「はいっ!」
ガチャ──ゾロゾロ──パタン
瑞鶴「……神通さんと那珂ちゃん、どこに行ったんだろ」
提督「……………………」
瑞鶴「ねえ、提督さん……」
提督「……なんだ?」
瑞鶴「私、ちょっと嫌な予感がする……」
提督「ああ……私もだ。何かが起きている。それは間違いないだろう」
瑞鶴「……怖い」
提督「瑞鶴、絶対に私から離れるなよ」
瑞鶴「うん……」
…………………………………………。
コンコン──
提督「入れ」
ガチャ──パタン
金剛「失礼しマス」
提督「……何かあったのか、金剛?」
金剛「え? いえ、少し島風を探していまシテ」
提督「島風を?」
金剛「ハイ。姿の見えない五人を探す為に全員で一度集まってから探そうという話になったのデスが、いつまで経っても島風が来ない上、鎮守府のどこにも居ませんでシタ。だから、テートクの部屋にお邪魔しているのカト」
提督「いや……私も見ていない」
金剛「そうデスか……。どこに行ってしまったのでショウか……」
提督「……神通、那珂、天龍、龍田、不知火に加えて島風が居なくなった……か」
金剛「今は他の皆さんが探していますケド、まったく見つからないデス……」
提督「……………………」
金剛「本当、どこに行ってしまわれたのでショウか……」
──その後、全員が捜索したのにも関わらず、姿が見えなくなった六人は見つからなかった。
…………………………………………。
提督「……一体どうなっているんだ」
瑞鶴「分かんない……いくら探しても見つからないなんて……」
金剛「誰かに伝えている訳でもなく、書置きも無し……。もう夕方なのに、帰ってこない……明らかに不自然デス」
コンコン──
提督「……入れ」
ガチャ──パタン
響「司令官、やっぱり加賀さんと暁も居なくなってる」
雷「どこに行っちゃったのかしら……」
電「司令官さん……少し、怖いのです……」
金剛「……今度は加賀と暁デスか」
提督「怪しい人物は全く見掛けていない……。本当に神隠しだ……」
瑞鶴「……どうするの、提督さん?」
提督「……………………」
提督「……一先ず、響と雷、電は部屋に戻っておいてくれ。鍵を掛けて、私が来るまで絶対に扉を開けるな。ノックを三回してから少し待って二回叩く。それが鍵を開ける合図だ」
響「了解」
雷「分かったわ」
電「分かりました、なのです……」
ガチャ──パタン
提督「……金剛、今のお前はどのくらい戦える」
金剛「……正直に言うと、私は戦力外デス。戦艦としての戦い方以外、私は知りません……」
提督「そうか……。瑞鶴は艦載機と副砲を積んできているな?」
瑞鶴「うん。言われた通り、艦戦と艦爆、艦攻、そして副砲を装備してきているわ」
提督「……瑞鶴に言い渡す。いかなる場所でも兵装を使う許可を与える。怪しい人物を見つけ次第に警告をしろ。無視をするならば攻撃して構わん」
瑞鶴「分かったわ。……それにしても、本当に何が起きているのかしら」
金剛「考えられる可能性は外部犯のみデスね。私達は今、瑞鶴を除いて普通の女性デス。拉致をするのは容易いでショウ」
提督「やはりその線しかないか」
瑞鶴「でも……妖精さんや私達に一切気付かれないでそんな事って出来るの?」
提督「以前の私ならば出来ただろう。もしかしたら、私と同じ身体能力を持った相手かもしれんぞ」
金剛「それって勝ち目が無いじゃないデスか……」
提督「だが、目的が分からない。仮に人身売買するにしても、なぜ鎮守府でそれを行う? 鎮守府に居るのはほとんど艦娘で危険極まりないはずだ」
金剛「そうデスよね……相手の目的が全く分かりまセン……」
バタン──ッ!
響「司令官!!」
提督「どうした響。何があった」
響「……雷と電が……居なくなった」
金剛「なっ……!」
瑞鶴「嘘でしょ……?」
提督「…………詳しい状況を教えてくれ」
響「……言われた通り、私達は部屋に戻ったんだ。それで、二人に周りを注意して貰いながらドアを開けて、私が部屋を見渡した後……雷と電の姿が消えていた。いきなり居なくなって……怖くなって、ここまで走ってきたんだ」
提督「目を離した時間はどれくらいだった」
響「たぶん……三秒くらいだよ」
金剛「……提督。提督が万全の状態として、そんな事が出来ますか?」
提督「不可能だ。警戒している三人に気付かれる事なく、音も声も出さず拉致など出来ん」
瑞鶴「じゃあ……本当に神隠し……?」
提督「そう思った方が良い……。三人とも、絶対に私から離れるなよ」
瑞鶴「……うん」
金剛「はい……」
響「怖いよ……司令官……」ジワ
提督「……瑞鶴、少しの間だけ許してくれ」ソッ
瑞鶴「流石に私も鬼じゃないわ……お願い……」
響「うぅ……ぅぁ……あぁぁ……」ギュゥ
提督「…………」ナデナデ
ちょっと最後まで書き溜めてきます。
たぶんすぐ戻ってくると思う。
書き終わりましたので一気に投下していきます。
金剛「本当に、この鎮守府は何が起きているのですか……」
提督「……金剛、瑞鶴。私のベッドの下にロープがある。それを私達全員に繋いでくれ」
瑞鶴「どうするの……?」
金剛「……なるほど。仮に拉致だった場合、それで防ぐ事が出来る訳ですね」トコトコ
提督「ああ。神隠しでも同じだ。異次元に引きずり込まれるのならば、逆にこっちが引っ張れば良い」
瑞鶴「……もし、力が敵わなかったらどうするの?」
提督「その時はその時だ。……これでダメならば何をやっても無駄だ。諦めろ」
金剛「ロープ、繋ぎますね。手首で良いですか?」シュル
提督「ああ。結びは頑丈に頼む」ギュッ
金剛「響、腕を出して下さい」スッ
響「…………」コクン
金剛「痛くないですか?」ギュッ
響「……うん。痛くないよ」
金剛「次は瑞鶴です」ギュッ
瑞鶴「ありがと。最後に金剛さんね」ギュッ
金剛「……これで、食い止められたら良いのですが」
提督「どうなるか分からん。全員、気を張るように」
金剛・瑞鶴「はい!」
提督「────な……?」
金剛「え……」
瑞鶴「嘘、でしょ……?」
提督「……響は、私の腕の中にずっと居たはずだ」
金剛「私も……ずっと目の前に居たのを見ていました」
瑞鶴「……本当に、一瞬で消えたわ。瞬きの間なんかじゃなくて、いきなり……消えた……」
提督「……ロープも切れていない。響だけが、居なくなったんだ」
コンコン──
金剛「!!」
瑞鶴「っ!!」ビクン
提督「……誰だ」
救護妖精「あたしだよ。救護妖精だ」
瑞鶴「救護妖精さん……?」
提督「……入れ」
ガチャ──パタン
救護妖精「邪魔するよ。……なんでロープなんか……ああ、なるほどね。それで繋ぎ止めようとしたんだ」
提督「……何を知っているんだ」
救護妖精「全部、かな」
提督「話せ。全て、包み隠さず」チャキッ
瑞鶴「提督さん……いくらなんでも銃だなんて……」
提督「今の私は疑心暗鬼になっている。僅かな可能性でも排除するのみだ」
救護妖精「そうなるだろうね。……でも、この状況を生み出したのは提督だよ」
提督「……ほう」
救護妖精「……もう、教えても問題無いだろうから言うよ。立ったままでも良いかい?」
提督「……ああ」
救護妖精「解体した艦娘は普通の女の子になる……。そう、海軍学校で教えられたでしょ。あれって、嘘なんだよね」
金剛「嘘……?」
救護妖精「考えてみなよ。解体をしたら普通の女の子になるだなんておかしいじゃないか。艦娘はあくまでも艦娘──人間じゃないんだよ」
提督「…………」
救護妖精「それに、解体して普通の女の子になるとしても、同じ顔をした同じ名前の同じ子が何人も居るって事になるんだよ? そんなの、世の中が混乱するに決まってるじゃないか」
瑞鶴「確かに……そうだけど……」
救護妖精「だから、制限時間が付いているのさ。……この世から、消えちゃう時間制限がね」
提督「……なぜお前がそれを知っている」
救護妖精「それは教えられないね。あたしは……私は、ただ解体の事を教えに来ただけだからさ」
提督「……………………」
救護妖精「続けるよ。だけど、この事実を知らせたら提督になった人達は黙っちゃいない。管理の限界なんてすぐに来るんだから、解体しなきゃならない……まあ、提督はそうならなかったみたいだけど」
救護妖精「だから、解体をしたらすぐに総司令部へ引き渡すか、総司令部で解体する事になっているんだよ。……たぶん、これを無視したのは提督が初めてだろうね」
金剛「という事は……私も……」
救護妖精「消える。今までの記録は一晩~五日だから、もう消えてもおかしくないよ」
金剛「そん……な……」
提督「…………防ぐ方法はあるのか」
救護妖精「無いよ。ある訳がない」
提督「そう、か……」
瑞鶴「……………………」
金剛「……提督、どうやらヴァルハラへ先に行くのは私のようですね」
提督「…………」
金剛「提督、瑞鶴……どうか最後まで幸せにしていて下さい。私、ヴァルハラから見ているね……」
フッ──
提督「────」
瑞鶴「……きえ、た…………」
救護妖精「……私が言えるのはここまでかな。……提督、これが『艦娘』だよ」
提督「……教えられないと言った原因は、これだけか?」
救護妖精「これだけじゃないよ。……けど、提督には教えられない。教えたら、提督が何をするか分からないから、出来ない」
提督「……そうか」スッ
救護妖精「……銃、下ろしてくれたね」
提督「もはや、意味が無いからな……」ブンッ
ガシャアァン──ッ!!
救護妖精(……相当キてるね、これは。提督が物に当たるだなんて思わなかったよ……)
提督「……救護妖精、一つだけ、私の願いを聞いてくれ」
救護妖精「……なんだい?」
提督「海に、出たい……」
救護妖精「……良いよ。もう、潮時だろうしね。……最後くらい、海の上で好きな事をしてきな」
提督「ああ……。そうする……」カチャン
瑞鶴「…………」スッ
救護妖精「……提督、最後に私からも聞かせてくれないかな」
提督「…………」
救護妖精「提督の人生は、どうだった? 辛い事ばっかりだったかい?」
提督「……………………」
救護妖精「……………………」
提督「……辛い事は、勿論あった。私がこの手で皆を殺してしまった事は……私の人生最悪の汚点だ……」
救護妖精「…………」
提督「だが……嬉しい事もあった。楽しい事もあった……大切な事にも気付けた……。平凡ではなかったが……この結末は苦しいが……それでも、私の人生は、虚無でも無意味でもなかったと思う」
救護妖精「……そっか」
提督「……瑞鶴、行くぞ」
瑞鶴「うん……」
ガチャ──パタン
救護妖精「……それが聞けて、私は満足だよ」
救護妖精「どうか、安らかに……提督──」
…………………………………………。
瑞鶴「……暗いね」
提督「ああ……」
瑞鶴「どこまでも暗くて……このまま、どっか別の世界に行っちゃいそうなくらい……」
提督「……そうだな」
瑞鶴「……提督さん」
提督「なんだ……?」
瑞鶴「もう、さ……目、見えてないでしょ」
提督「……ああ」
瑞鶴「私の手、分かる?」
提督「ああ……分かる。お前の温かい手が、分かる」
瑞鶴「……随分、遠くまで来ちゃったね」
提督「そうだな……今、どの辺りだ?」
瑞鶴「……たぶん、私が独りで戦った辺り」
提督「遠いな……本当に、遠くまで来たな……」
瑞鶴「うん……」
提督「……瑞鶴、止まってくれ」
瑞鶴「……うん」
提督「……………………」ゴソゴソ
瑞鶴「…………」
提督「……瑞鶴、お前は、私の事が好きか?」
瑞鶴「うん、大好き。……このまま、一緒に死んじゃっても良いくらい、好き」
提督「……そうか。……幸せ者だな、私は」
瑞鶴「…………」
提督「瑞鶴、これをお前に渡そう」スッ
瑞鶴「箱……?」
提督「開けてくれるか」
瑞鶴「うん……」パカッ
瑞鶴「────え?」
提督「もう、誰も居なくなってしまったが、何も無い海の上だが、雰囲気も何もないが……受け取って欲しい」
瑞鶴「これって……指輪、よね?」
提督「……そういう事だ」
瑞鶴「…………うん」
提督「……………………」
瑞鶴「……………………」
提督「この先は地獄かもしれない」
瑞鶴「それでも私は付いていくわ」
提督「私は金剛達を殺した罪人だ」
瑞鶴「好きになった気持ちは変わらないわよ」
提督「お前は天国へ行くかもしれない」
瑞鶴「私が墜ちていけば良い話ね」
提督「いつまで私の傍に居てくれる」
瑞鶴「未来永劫、輪廻を超えたその先でも」
提督「……………………」
瑞鶴「……………………」
提督「……ありがとう、瑞鶴」
瑞鶴「私こそ、ありがとう提督さん……」
提督「指輪を貸してくれ」
瑞鶴「うん」スッ
提督「左手、出してくれるか」
瑞鶴「はい。場所、分かる?」
提督「熱い手だから、すぐに分かる」スッ
瑞鶴「……わぁ。ピッタリ」
提督「良かったよ。ここでサイズを間違えていたら後悔しかなかった」
瑞鶴「いつの間にこんなの用意してたの?」
提督「いつぞやに作った機密文書がそれだ」
瑞鶴「あの時の……だから見るなって言ったのね」
提督「驚かせてやりたくてな」
瑞鶴「すっごく嬉しいわよ」
提督「そうか。良かった……」
瑞鶴「……提督さん。もう片方の指輪は、私に通させて?」
提督「ああ、頼む」スッ
瑞鶴「……提督さんの手、冷たいね」
提督「今日は冷えるからだろう」
瑞鶴「……そうね。今日は、冷えるものね」
提督「瑞鶴の手が熱くて、とても心地良い」
瑞鶴「……うん。あっためてあげるね」
提督「……これで、仮の結婚だな」
瑞鶴「うん……。でも、私は嬉しいわ。とっても、幸せよ」
提督「さすが幸運の空母だな」
瑞鶴「私は幸運の空母なんかじゃない」
提督「ほう?」
瑞鶴「私はね、幸運な空母なの」ギュゥ
提督「……なるほど。そういう事か」ギュッ
瑞鶴「うん……」
提督「私も、幸運な提督だったよ……」ソッ
瑞鶴「そっか……良かった」スッ
チュゥ……
瑞鶴「えへ。私、キスなんて初めて」
提督「私も……初めてだよ」
瑞鶴「良かった。お互いの初めてを捧げれて」
提督「ああ……本当に良かった……」
瑞鶴「…………」スリスリ
提督「なあ、瑞鶴……今日は、月も雲も無かったな……?」
瑞鶴「うん……星がすっごく綺麗に見えるわよ」
提督「なら、影はあるか? 四百年の影が……」
瑞鶴「……………………」チラ
提督「…………」
瑞鶴「……うん。あるわよ。四百年の、北極星の影が……」
提督「そうか……。見たかったなぁ……」
瑞鶴「いつか、また見れるわよ……きっと……」
提督「そうだな……また、いつか見れるよな……」
瑞鶴「うん……」
提督「……瑞鶴、私は眠くなってきた」
瑞鶴「────」ビクッ
瑞鶴「良いわよ。このまま、私を抱き枕にして寝ちゃっても……」
提督「……ありがとう」
瑞鶴「うん……」
提督「おやすみ……瑞鶴────」
瑞鶴「おやすみなさい……提督さん……」
提督「────────」
瑞鶴「……………………」
瑞鶴「私は、どうしようかな……」
戦姫「──おや」
瑞鶴「…………?」クルッ
戦姫「……邪魔をしてしまったかな」
北方棲姫「らぶらぶ」
ヲ級「♪」ニコニコ
瑞鶴「……ううん。丁度良かった」
戦姫「ふむ?」
瑞鶴「私をね、沈めて欲しいの」
北方棲姫「え……」
ヲ級「? …………?」オロオロ
戦姫「……どういう事だ?」
瑞鶴「私も、追い掛けないといけないから」
戦姫「…………」チラ
提督「────────」
戦姫「……なるほど。そういう事か」ジャキッ
ヲ級「!!」ブンブン
北方棲姫「ダメ……」ギュ
戦姫「いや……沈ませてやった方が二人の為だ」
北方棲姫「…………?」
ヲ級「…………」
瑞鶴「お願いします……」
戦姫「……痛いから、覚悟しておけよ」
瑞鶴「痛みなんて怖くないわ。私が怖いのは……離れちゃう事だもん」
戦姫「……分かった。では、幸せに、な……」
ドォン──ッ!!
瑞鶴「アぐ──ッッ!!」
バシャン──……
瑞鶴(背中、痛……い……。提督さん……無事かしら……?)
瑞鶴(──ああ、大丈夫みたい……。良かった……)
瑞鶴(……暗い、なぁ。私が沈んだ時よりも……ずっと暗い……)
瑞鶴(真っ暗で……何も見えなくて……ああ、提督さんは、この闇を見ていたのね……)
瑞鶴(でも……怖くない……。このまま……提督さんと同じ場所に逝けるんだもの……)
瑞鶴(ああ…………なんだか……私も眠くなってきちゃった……)
提督「────────」
瑞鶴(あれ……? おかしいなぁ……提督さんが見える……)
提督「────」
瑞鶴(手、伸ばしてくれて……私の手、掴んでくれてる……)
提督「────」
瑞鶴(……うん。一緒よ。どこまでも……いつまでも……ずっと……ずーっと…………)
瑞鶴(ねえ、提督さん……)
提督「────」
瑞鶴(生まれ変わっても……一緒に、ね──)
……………………
…………
……
ざわつく町並み、溢れかえる人──
「うん?」
そこで、ある少女の目が、一人の青年へ留まった──
「?」
青年も、その少女の視線に気が付いた──
「────!」
少女は、その青年へ足を運ぶ──
「────」
青年も同じように、少女へ足を向けた──
「すみません、いきなりで変なんだけど……どこかで会いませんでした?」
「いや、知らない。だが……私もどこかで会った気がする」
「へぇ……。なんだか、運命みたいね」
「そうか。……これも何かの縁だ。どこか飯でも食べないか?」
「それだったら、私が作っても良い? 得意なの、肉じゃが」
「ほう。良いな。肉じゃがは好物だ」
「良かった! じゃあ、一緒に──」
足取り軽く、二人は進む──
その手を繋ぎ、どこまでも──
輪廻を超えた約束を、果たす為──
──── 瑞鶴「私は幸運の空母なんかじゃない」 金剛「?」 ────
了
以上で終わりになります。
短い間でしたがお付き合い頂きましてありまがとうございました。
質問などがありましたらお気軽にどうぞ。
また、この製作の裏話も順次語っていこうと思います。
結局2回(3人)しか吊るされてないのは何故ですか
次回作は作るかどうか未定です。でも、作るとしたら何になるんだろう。
>>461
まさか吊るす回数を数えている人が居るとは思わなかった。
今回は金剛さんを吊るして満足したのかもしれない。自分でも吊るす回数が少なくてびっくり。
また、ここから先は前作のネタバレも含むかもしれませんので、まだ読んでいない人は注意してください。
今回、瑞鶴の話を書いたのは実は偶然だったりします。
本当は前作のIFストーリーとして金剛さんを中心としたお話を書くつもりでした。
とある理由で提督を殺しかねない接し方をする金剛さんを書いていたら、思ったよりも物語としてかなり薄っぺらいものになってそのまま没です。
そこで、前作の設定をほとんど引き継いで新たにやり直し、金剛さんではなく瑞鶴に焦点を当ててみたらこんな物語になりました。
前作と違う設定を挙げるならば
・提督は甘い物が大嫌いなだけになっている
・瑞鶴は提督の妹ではない
この二つくらいです。たぶん。
他は同じ設定です。おそらく。
色々な方が「前作のパラレルワールドなのか?」と仰っていましたが、その通りです。
時々、響が前作の記憶を引き継いでる? のような憶測が出ていましたが、そうではなく響の素です。誰一人として前作の記憶は引き継いでいません。
ただ、提督と金剛さんにだけは夢で前作の一部を見せています。物語の冒頭で夢がなんたらとか書いていたのはその為です。
更に暴露すると、この時点では金剛さんをまだメインヒロインにする気でいました。
瑞鶴に焦点を合わせるけど、金剛さんとくっつかせよう。と思っていたのに、いつの間にか金剛さんがサブヒロインに……。
また、加賀さんや不知火を追加したのも、案の時点で没にしたシナリオから流用しただけだったりします。加賀さんや不知火が好きな人はごめんよ。
その案はいつもの三人に加えて利根さんに瑞鳳、加賀さん、不知火、雷電、那智さんでやろうとしていたのですが、駆逐艦が四隻でこの面子は流石にありえない。という事で没に。
結局、新規の子で一番大きい加賀さんと小さい不知火を追加するという形で落ち着きました。
利根さんとかも入れたかったけど、物語を書き始めた時は前作と同じようなルートを取る可能性を考慮して重巡は入れられなかったです。利根さん可愛いのにチクショウ。
あと、前作では語らなかった設定とかをこっちで説明とかもさせています。良い例が解体とは何か、ですね。
前作で元帥が言っていた「解体するといつの間にか居なくなる」というのは嘘ではなく本当の事でした。たぶん、前作であの言い回しならば艦娘を実験体にしていると思った人が多いと思いますが、そういう訳ではなかったのでご安心を。
解体すると普通の女の子になる、という公式の設定がありますが、私はこれだと「同じ人が何人も何十人も居るって事になるよね?」と思って勝手に設定を変えました。
ゲームではどんなに可愛がって育てた艦娘でも解体すると二度と提督の前に姿を現さない……という所からこういう設定を持ってきています。本当になんで提督と顔を合わせようとしないんだろうね。気になる。
あと、謝らないといけない事として……ほのぼのになりませんでした。ごめんなさい。
>>339の方が言っていたように、あの話のパラレルでは無理がありました。色んな問題を見ないで進行すればボロがドカドカ出てきますし、何よりも読んでいて引き込まれないですよねそれって……。
ほのぼのを期待して読んでいた方達には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです……。
また、最初の方で本職? 同人の人? と話されていましたが、前作のお話のおかげ(?)か、現在はとある会社のシナリオライターとして活動させて頂けるようになりました。
そっちの方でも少し古いラノベっぽい雰囲気の作品を書いていくつもりです。これも皆さんの反応が良かったからだと思います。この場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうございます。
それと、同人の方も活動は辞めるつもりはありません(生活費とかの関係で)。現在はニセコイのごにょごにょとしたゲームを作っている途中です。全然手が付いていないけど……。
一応HPとかも持っていますが、現在HP自体が休止状態なのでDLブログの方をご紹介します。リンクとか張って良いのか分からないので……「まったり猫のBlog」で完全一致検索をすれば出てきます。
SS自体は色々と書いてきましたが、PCが残念な事になった為、何を書いていたのかが半分近く手元に残っていません。バックアップって大事だね……。
HPには載ってないけど、苦い砂糖とかそんなお話を書いた気がする。
時間も時間ですので、一先ずは裏話とかステマはここまでにしておきます。また来ますね。
このSSまとめへのコメント
まさかこれは人造人間の人の作品か!
気持ち悪い作品やな。
ほの、ぼの…?
前作も読んでいましたが・・・この人のほのぼのは何というか前衛芸術なのかな・・
どうしてあなたは今回も私をなかせるかなぁ...。
前作もそうだったけど、この人の作品は本当によく舞台設定が作り込まれてる。そしてキャラも自然だから引き込まれる。だからここの瑞鶴は私がいただ…うわっ!何をする!!辞めて!!ブラーンブラーン
次作&ビジュアルノベル楽しみにしてます。
ss読んでて初めて泣いた。
普通に本屋で売っているような小説書ける人なんじゃないか・・・?
泣ける、最後がたまらんね
なんか終盤へ向けての空虚感というか喪失感がすごい来るものがある
終盤が少し駆け足過ぎた感じがしたのが少し残念。
金剛が消えるシーンをもう少し引き伸ばして欲しかった。
でも、今回も前回同様至極感動させていただきました。
また、次回作を期待しています。
救われたわけではない···
でも救われなかったわけでもない···切ないなぁ···
前作のバッドエンド側の結末を書きたかったんだろうか?解体のくだりは悲しい通り越して苦しい…
二作目→一作目の順で読んだほうがいくらか救われたかもしれない…
「ほのぼの」とはなんだったのか。
嫁筆頭候補の利根がいなくて残念なり
この人が書くssは凄い気がついてたら読み耽てるし
最後の方Angelbeatsみたいだった
米12
つ 利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」金剛「・・・・・」
うああああ…感動した…涙があああああ…とまらねえ…
ほのぼの…?
詐欺はやめてくださいいいいい
こっちのが人造人間より好きかも
金剛のが好きだけど
このほのぼの(鬱)としたのを読んだ後、現実とのギャップで絶望しそう…。深く考えたら、引っ張られていきそうだ…感動した、と軽く済ます方が楽になれそうね。
やっぱり貴方はほのぼの展開書けないんじゃないか!
最後Angelbeatsの最後のシーンを思い出した
前作の更に前の話なのかと思ったらパラレルだったのか、深読みしすぎたな
でも楽しく読ませて頂きました
艦娘吊るしさんの金剛ちゃんほんと好き
ほのぼのとは?
救われたのかいないのかは分かんないけど悲しいけど愛があると思いました
深いな...