男「え?」
女店員「あ、思わず本音がポロっと出ちゃいました」
男「ああ、AVだけに?」
女店員「そうですね」
男「ていうか、店員さんのとこに並んじゃうのはたまたまですよ」
女店員「ふーん」
女店員「それにしても、三日に一回ぐらいのペースで来てますね。
飽きないんですか?」
男「いやあそれほどでも」
女店員「こんなにも毎回借りて大丈夫なんですか?」
男「元気があり余ってるんですよ。
ていうかボクのからだの心配してくれたんですか?」
女「私はお財布の心配をしただけなんですけど」
男「そっちですか」
女「ほかにべつの意味があるんですか?」
男「いやいや! ありません!」
男「それにひとりで借りてるわけじゃありませんからね」
女店員「そういえば、友達と一緒に来たりしてますね」
男「そうなんですよ。ボクはそれに付きあわされてるだけ、みたいな?」
女店員「そのわりには、アダルトコーナーから一時間ぐらい出てきませんよね?」
男「友達と相談してるんですよ」
女店員「相談? まさかみんなでこんなものを見てるんですか?」
男「ちがいますよ」
女店員「私の中のあなたの評価がさらに落ちるところでした」
男(ナニを想像したんだろ、この人)
男「ボク寮に住んでるんですよ」
女店員「そういえばこの店のそばに大学の寮がありますね」
男「そうそう。そこに友達もけっこういるんで、みんなで借りたのを交換したりしてるんですよ」
女店員「じゃあ、べつにみんなで見てるわけじゃないんですね」
男「さすがにそれは気持ち悪いでしょ」
女店員「こんなものを貸し借りしてる時点で、けっこう気持ち悪いです」
男「このほうがお財布に優しいでしょ!」
女「はいはい、わかりました。それにしても……」
男「なんですか?」
女「毎回借りてくものが企画物か、ある女優さんのだけですね」
男「そ、それは……」
女店員「まあ、男の人はこういうものが好きですもんね」
男「り、理解してもらえて嬉しいです」
女店員「それで?」
男「へ?」
女店員「期限はどうしますか?」
男「えっと、一泊二日で」
女店員「お友達と貸し借りするのに一泊二日で大丈夫ですか?」
男「……やっぱり二泊三日でおねがいします」
女店員「はい、わかりました。じゃあ期限は守ってくださいね」
男「はい!」
男(ヤバイ! ジト目ってああいうのを言うんだな!)
男(首絞めとかおもらしさせる系とか好きだったけど)
男(今度はちょっとちがうのも借りようかな)
友「お前おせーよ。なにあの店員さんと喋ってたんだよ」
男「秘密。ヤバイわ超かわいいわー惚れたわー」
友「お前、口きいてもらえた女全員にたいしてそう言ってるよな」
男「ちがうちがう。マジでかわいい」
友「まあたしかに。あの店員さんは可愛かったな。
ていうかお前なに借りたの?」
男「これとこれ」
友「またこの女優かよ。あとは『即ズボッ』って……」
男「うるせーな、お前こそパンストがどうとかOLがどうとかつまんねーわ」
友「企画物よりマシだわ」
男「はっ!?」
男「企画物のよさが理解できないとは情けない」
友「語るな、気持ち悪いから」
男「お前にはオレの趣味のよさはわからんだろうな」
友「ていうかさ、毎回あの店さんところに並ぶんだったらさ」
友「今度行ったときレンタルビデオ店でエッチするやつ借りろよ」
男「ああなるほど! お前天才だな!」
男「じゃあ今から即効で抜いてまた借りてくるわ!」
友(そこまでするか)
男「またレンタルしに来ました!」
女店員「……」
男「どうかしましたか? 顔が引きつってますよ?」
女店員「……レンタルしにきたんですか?」
男「はい! あと、これ返却おねがいしますっ」
女店員「まだ、さっきの借りてから二十分もたってませんよ」
男「だってうちの寮ここから五分もないんですよ?」
女店員「そういうことじゃなくて。もう見たんですか?」
男「はい! 今回のは外れだったんでまた新しいのを探しに来ました!」
女店員「……そうですか」
女店員「今回は選ぶのが異様に早かったですね」
男「もうタイトルで即決しましたから」
女店員「……」
男(『レンタルビデオの店員さん強引にヤッちゃいました』ってタイトルで選んだけど)
女店員「へえ」
男(ちょっと顔が赤くなってる)
女店員「……」
男(さあ、どうなる!?)
男「大丈夫ですか店員さん?
なんだか顔が赤いですよ?」
男(ここでキメ顔でダンディな声でこう質問すれば……)
女店員「……サイテー」
男「え? もう一度言ってもらっていいですか?」
女「最低だって言ったんです!」
男「ひっ!」
男(恥ずかしくて顔を赤くしたのではなく、怒って顔を赤くしたのか!?)
男「ちがうんです! 聞いてくださいっ!」
女「なにを聞けって言うんですか? どう考えてもこれって……」
男「……これって?」
女「その……アレです……」
女店員「と、とにかく最低です……」
男(ほっぺが赤くなってる上にちょっと目が潤んでる。なんかイイな)
女店員「……七泊八日ですね」
男「え?」
女店員「レンタルの期限の話です」
男「な、なんで勝手に一週間にしちゃうんですか?」
女「これまでのやりとりから察してください」
男(うわ、これ本気で怒ってるヤツだ)
男「聞いてください! あなたはきっと誤解をしているんですっ!」
女店員「いったい私がなにを誤解してるんですか?」
男「本当はこんなことは言いたくなかった! だけど……!」
女店員「早く言いなさい」
男「はい。実はそのDVDはボクのツレから借りてこいと、
言われたものなんですよ」
女店員「……それで?」
男「ソイツがどうしても、レンタルビデオ店のお姉さんとチョメチョメするのが見たいっていうから……」
女店員「つまり仕方なく、ってことですか?」
男「はい! ボクはAVなんてどうでもいいんですよ!」
女店員「ふーん」
女店員「じゃあひとつ聞きますけど」
女店員「毎回その手のものを借りるたびに、私のところへ並ぶのはなんでですか?」
男「え?」
女店員「わざわざ私のところへ足を運んでくれてますけど。どうしてですか?」
男(このジトっとした目つきがまたたまらないっ!)
男(って、そうじゃなくて!)
男「それも、実は毎回友達におどされていて……」
女店員「あくまで自分は悪くない。そうおっしゃるんですね」
男「ええ。ボクは身も心もスプラッシュして真っ白ですからね。あはは」
女店員「……」
男(さすがにこの言い訳はキツイか?)
女店員「わかりました」
男「し、信じてくれるんですか?」
女店員「正直、どうでもよくなってきました」
男「よかった、本当によかった。信じてもらえなかったら、もうここには来れませんでしたよ」
女店員「信じなければよかった」
男「もう遅いですよ」
女店員「はいはい。せっかくなのでこれを渡しておきます」
男「!!」
男(まさかメアド!? いや、ケータイの番号か!?)
男「……これなんですか?」
女店員「クーポンです」
男「なんだ、クーポンかあ」
女店員「なにが不満なんですか? 五枚借りても千円でおさまるようになるんですよ?」
男「まあそうですけど」
女店員「なにをガッカリしてるんですか?」
男「いえ、なんにもです。ただ、自分は改めて馬鹿だなあと思いました」
女店員「よくわかりませんけど。はい、DVDになります」
男「はい、また来ます」
女店員「あなたは貴重なお客様ですが一週間は来ないでもらえる嬉しいですね、私が」
男「くうぅ~」
男(毒舌だ! これもなかなかいいなあ)
男「お前のせいで嫌われるとこだったじゃねえか!」
友「はあ?」
男「なんであんなもん借りさせたんだよ?」
友「お前まさかマジで借りにいったの?」
男「当たり前だろ! オレはオトコの中のオトコだぞ」
友「さすがにひくわ」
男「ああもう! 本当に嫌われるかと思ったわ」
友「いや、絶対に嫌われてるからなお前。
ていうか、お前俺のDVDごと返してんじゃねーよ」
男「あ、それはごめん」
友「お前もビデオ屋の店員じゃなくて、これから始まるサークルの先輩とか狙えよ」
男「イヤだね」
男(一週間かあ。長いなあ)
一週間後
友「お前、さっそくビデオ借りに行こうってすげえな」
男「いいからさっさと選べよ。特別に千円クーポンを使わせてやるから」
友「オレはもう前もって選んであるけど。お前は?」
男「ちょっと待って。まだ決めてない」
友「……腹いてーな。悪いけどこれ借りといて。先に寮に戻るわ」
男「じゃあ、財布忘れたから千円貸して」
友「ほい。そのかわり、千円貸すからオレが三枚な」
男「それぐらいは許してやろう」
男「店員さん、オレがきましたよ」
女店員「……」
男「ちょっとちょっと。なんでそんなにムスっとしてるんですか?」
女店員「きっちり一週間後に、しかも私のシフトのときを狙いすましてくるんだな、と思って」
男「だってもう店員さんに会いたくて会いたくて」
女店員「はいはい。で、今日もこういうのなんですね」
男「前にも言いましたよね?
ボクが好んで借りようとしてるわけじゃないって」
女店員「ふーん」
男(相変わらず股間がキュンとする氷のような瞳だぜ!)
女店員「そういえばひとつ、謝らないといけないことがありました」
男「ほう。それはいったい?」
男(まさか!)
男(冷たくしてゴメンね、実は私あなたのことが……みたいな展開か!?)
女店員「一週間前に渡したクーポン、今日使いますか?」
男「もちろん! 店員さんがくれたものですからね!」
女店員「へえ」
男(あれ? なんで今回はニヤっとしたんだ?」
女店員「実はあなたにクーポンを渡したとき、言い忘れたことがあったんです」
男「言い忘れたこと?」
女店員「それ、実は五枚で、じゃなくて四枚で千円だったんです。ごめんなさい」
男「なあんだ、そんなことかあ。気にしないでくださいよお」
女店員「いちおう、私のミスなので。本当は謝りたくないですけど」
男(それなら大した問題じゃないな。……いや、でも待て!)
男(今オレは千円しか持ってないッッッ!)
男(つまり、この五枚の中から一枚減らさなきゃダメなのか)
男(まあでも。アイツのを一枚減らしゃいいか)
男(でもなあ、今回は金借りてるしなあ)
男(そうなると。オレは自分のAVを減らさなきゃいけないのか)
男(イヤだなあ)
男(せっかく一週間ぶりに借りるんだし、今回選んだ二枚は両方ともよさげだしなあ)
女店員「ずいぶん悩んでますね」
男「ええ、まあ……」
女店員「友達のビデオなんて適当に選べばよくないですか?」
男「いやいや。だってこの中にはボクの選んだ作品もありますし……あっ」
女店員「やっぱりね」
男(まさかこの店員さん、オレをハメたのか!?)
男(この人じゃなくて! オレがハメられた!?)
これ見てたらこれ思い出した
俺もAVを一度に三本借りた時は恥ずかしかった
店員「返却はいつになさいますか?」
俺「当日で」
店員「はい、当日ですね… 当日!?と、当日ですか?」
店員が一瞬素になってた
男「と、友達のだからこそですよ!」
女店員「五枚もあるんだから、適当に選んでもいいじゃないですか」
男「ぐっ! ボクをハメたんですね……!」
女店員「こんな簡単な手に引っかかるとは思いませんでしたけどね」
男「そ、それでもボクは認めませんよ。証拠はないんですからね!」
女店員「私は素直な人が好きです」
男「実はボクもAV借りようとしてました!」
女店員「素直ですね」
男「はい! やっぱりウソはいけませんよね!?」
女店員「あ、あの……顔が近いです……」
男「あ、すみません」
女店員「あの店員さんのビデオも、やっぱりあなたが自主的に借りたんですね?」
男「はい、そうです……。つい出来心で」
女店員「やっぱりサイテー」
男「ち、ちがうんです。ボクは店員さんの恥ずかしがる顔が見たくて、つい」
女店員「もっとサイテーです」
男「ですよねー」
男(勢いにまかせて全部ゲロっちまった。もうおしまいだ)
女店員「エッチなビデオが好きなら、この店にときどきそういう女優さんが来たりしますよ?」
男「マジですか!?」
女店員「ええ。ああいう人って自分の出演してる作品を借りにくるみたいです」
男「すげえ!」
女店員「急に元気になりましたね」
男「そりゃあもうね!」
男「もうこの店ににずっと張り付いてますね!」
女店員「絶対にやめてください」
男「またまたあ。本当はボクに来てほしくてその情報を教えてくれたんでしょ?」
女店員「いいえ。急に元気がなくなって、不気味に思ったからです
勘違いしないでください」
男「じゃあそういうことにしておきますよ、へへへ」
男(ちょっと待った)
男(なぜそんなAV女優が来るなんてことを、この人は知ってるんだ?)
男(男ならともかく女って、AV女優にに興味ないよな?)
男(ま、まさかこの人……)
女店員「なんですか?」
女店員「汗ビッショリですけど、大丈夫ですか?」
男「早まらないでください!」
女店員「な、なんですか!? 肩をつかまないでください! あと顔近いですっ///」
男「店員さんみたいな美人がAVに出るなんて!」
男「せめてキャバクラのほうがいいですよっ!」
女店員「はい?」
男「ご両親も、店員さんがAV出てるって知ったら悲しみますよ!?」
女店員「あの、さっきからなにを勘違いしてるんですか?」
男「だって! AV女優が来たら、その人がAV女優だってわかるっていうから!」
女店員「あのねえ。ちがいます。同じバイトの先輩が教えてくれるの、いちいち」
男「…………そ、そうなんですか。ですよねえ」
女店員「ていうかなに?」
女店員「その手のビデオに出そうな人に見えるってこと、私は?」
男「め、滅相もございません!」
女店員「べつにいいですけどね。あなたにどう思われても」
男(そりゃあそうだ。AVに出演だなんてなあ)
男(でもこの人がAV女優だったら、それはそれで興奮するなあ……でへへ)
女店員「……ひとりでなにニヤニヤしてるんですか?」
男(いやしかし、それだとなんだか寝取られたような気分だな)
男(画面越しに犯される店員さん)
男(そしてなにもできずに、ナニするオレ)
男「うううぅ……」
女店員「なんで今度は涙目になってるんですか?」
男(しょせん童貞では男優には勝てないということか! くっそ!)
女店員「顔が怖いんですけど。聞いてますか?」
男(もう風俗デビューしようかな)
女店員「もしもーし……えいっ」
男「ふわぁぉ!? な、なにするんですか!?」
女店員「ちょっと首に手を当てたぐらいでオーバーですよ」
男「ボ、ボクは首が弱いんですからねっ」
女店員「聞いてませんし、聞きたくもありません。
というか急にどうしちゃったんですか?」
男「すみません、なんか自分の世界に入ってました」
女店員「まあなんでもいいですけど、今回の期限はどうしますか?」
男「七泊八日じゃなくていいんですか!?」
女店員「なんかもうどうでもよくなりました」
男「……じゃあ、二泊三日あたりにしようかな」
女店員「わかりました、はい」
男「どうも」
女店員「たまにはちがうものも借りてくださいよ」
男「うーん、熟女モノとかですか?」
女店員「そうじゃなくて!」
男「じゃあなんですか!?」
女店員「いかがわしいビデオじゃなくて。
普通のものを借りてくださいってことです!」
男「あっ、そういうことか」
女店員「もう……」
男「じゃあ、せっかくだし今度おすすめ教えてくださいよ」
女店員「……べつにいいですけど」
男「やったあ!」
女店員「あの、もう少し静かにしてください」
男「あ、すみません」
女店員「言っておきますけど、私は変なものはおすすめしませんからね?」
男「大丈夫ですっ!」
男「エロに関しては店員さんに勝てると思いますから」
女「べつに勝負してませんし」
男「じゃあまた来ます!」
女「はいはい、気をつけて帰ってください」
男「みーやびなすぷらっしゅ!」イマトビチル
友「うるせえな。ビデオ見たいから帰れよ」
男「そう言うなよ! オレあの店員さんと結婚するわ!」
友「……お前、あの店員さんのことなんも知らねーじゃん」
男「は? 知ってるし! 知らないこととかねーし!」
友「じゃあなにを知ってんだよ」
男「カワイイってことだろ。背があんまり高くないってこと」
友「で?」
男「たぶん年の差はほとんどないはず」
友「名前は?」
男「そういや知らないわ。ていうかなんもわかんないや」
友「なにも知らねえじゃん。まあ、あっちもお前のことなんも知らねえだろ」
男「いーや、少なくともオレのAVの趣味は知りつくしてるはずだ」
友「……」
男「そう嫉妬しなさんなって」
友「呆れてんだよ」
男「まあお前にはサークルがあるだろ、な?」
友「俺もお前も同じサークルだろうが」
男「大丈夫だって。オレはあの店員さん一筋だから」
友「へいへい。あ、でも店員さんはお前の名前は知ってるんじゃない?」
男「なんで?」
友「カード見りゃわかるだろ。それに、お前って名字変わってるし」
男「たしかに! ということは、こりゃあゴールインまであと少しだな!」
友「言ってろばーか」
男「ははは! 今のオレに怖いものはない! 三日後が楽しみだぜ!」
三日後
女店員「あっ、本当に今日も来たんですね」
男「こんばんわあ。今日は雨強いですねえ」
男「って、なんで店員さんが外にいるんですか?」
男(しかも私服だ。か、かわいい……!)
女店員「もしもし、また自分の世界に入ってますよ」
男「す、すみません。あまりにも素晴らしいものを見てしまったせいで、うっかり」
男「どうして今日は私服なんですか?」
女店員「雨がすごく強いでしょ?」
男「そうですね。風もありますし」
女店員「こんな天気じゃ、お客さんも来ませんし」
女店員「もう帰っていいって店長に言われちゃったんです」
男「そ、そんなあ。ボクが来た意味ないじゃないですか」
女店員「ふふっ、残念でしたー」
男「う、嬉しそうですね」
女店員「はい、なんだかスガスガしい気分ですね」
男「じゃあこれから帰りってことですか?」
女店員「ええ、そうなんですけど」
男「?」
女店員「傘、忘れちゃって……」
男「!!」キュピーン
男「なるほど。つまり、傘を忘れて現在どうやって帰ろうか困っている」
男「そういうことですね?」
女店員「そういうことになります。
というか、急に声が凛々しくなったのはなぜ?」
男「ははは、声だけはイケメンってよく言われるんですよ」
女店員「誇らしげに胸はってますけど、それ褒められてませんよ?」
男「気にしないでくださいっ!」
男「それよりこんな雨の中、店員さんみたいな美人が傘もなしに帰るのは危険っっっ!」
女店員「おおげさな。だいじょうぶですよ」
男「いや! ダメだダメだダメだ!」
女店員「ダメだって言われても困ります」
男「安心してください。家まで送ってきますよ」
男(今のオレ超かっこいい!)
女店員「お断りします」
男「ははは、遠慮しないで……え?」
男「ボクと相合傘できるチャンスですよ?」
女店員「けっこうです。さようなら」
男(なんだなんだこの変わりようは?)
男(そして、相変わらず上目遣いのジト目にキュンとしちゃう!)
女店員「ついでに、あなたと相合傘とかお断りです」
男「じゃあわかりました!」
男「マネージャーみたいに傘をさす役をやります。
男「あ、もう自分は全然濡れていいんで!」
女店員「もっとお断りします」
男「はっはっはー、そうかそうか」
男「……ってええ!? これでもダメなんですか!?」
女店員「単刀直入に言うと、あなたに私の家がバレるのがイヤなんです」
男「そういうことか!」
女店員「言っておきますけど、私のあなたに対する信頼度は限りなくゼロですから」
男(なぜオレは今までAVしか借りてこなかったんだ!?)
男(いや、でもよくよく考えると)
男(オレに家までついてこられると困るということは)
男(ひょっとしてこの店員さんは、一人暮らしなのか!?)
男(それだ! オレがいくら人畜無害なジェントルマンでも!)
男(一人暮らしの女性なら、警戒するに決まっている!)
男「ふふふふ、なるほど。わかりましたよ、店員さん」
女店員「……なにがですが?」
男「ワタクシの推理が正しいとすれば、あなたは一人暮らしですね?」
女店員「な、なんでわかったんですか?」
男「オトコのカンですよ」
男「こうなったら絶対に、あなたを家まで送らせてもらいますよ!」
女店員「イヤです! 下心丸出しじゃないですか!」
男「なに言ってるんですか! ボクはジェントルマンですよ!」
男「女の人に手を出したことなんてありません(事実童貞だし)」
女「……」
男(おや? これはひょっとしてイケるのか?)
女「やっぱりいいです。あなたに送られるなら喜んで雨に濡れて帰ります」
男「チキショー! こうなったら意地でも返しませんよ!」
女「大声で叫んじゃっていいですか?」
男「どうぞお帰りくださいまし」
男(これが現実……! 現実はAVのようにはイカないのか!?)
男(こうなったら、せめてこれだけでも!)
男「店員さん」
女店員「な、なんですか?」
男「傘、どうぞ」
女店員「え?」
男「オレと帰るのがイヤなら、せめてオレの傘と帰ってくれませんか?」
女店員「えっと……」
男(き、き、きまったあ! ヤバイ今のオレイケメンすぎるっ!)
女店員「……」
男(ん? なんか間違えたか?)
男(って、これじゃあ傘だけ貸して、オレは帰らなきゃダメじゃん!)
男(傘に店員さんを寝取られてどうすんだよ!)
男「遠慮しないでください。
オレの傘も店員さんと帰ったほうが喜ぶと思いますし」
女店員「そうなんですか?」
男「そーなんです!」
女店員「それじゃあ……」
男「いやあ、やっぱりこの傘も店員さんのほうが似合うなあ!」
女店員「これ、ただのビニール傘ですよね?」
男「馬子にも衣装ってやつですよ!」
女店員「……」
男(睨まれたけど、なにかオレまずいこと言ったのかな?)
男「それじゃあ帰ります。風邪ひかないように気をつけてくださいね」
女店員「……」
女店員「ぁ、あの……」
男「うん?」
女店員「あなたはジェントルマンなんですよね?」
男「はい」
女店員「よく考えたら、私ったら自意識過剰だったかも」
男「へ?」
女店員「ジェントルマンだったら、女の私を家まで送ってくれますよね?」
男「!?!?!?!?!?!?」
女店員「もし……もしよかったら。私を家まで送ってくださいませんか?」
男「喜んでー!!!」
男(あわわわわわわわわ)
男(相合傘ってこんなにからだがくっつくんだな)
女店員「あ、あの」
男「は、はいっ!?」
女店員「大丈夫ですか?」
女店員「さっきから鼻息はあらいし、呼吸は浅いし……」
男「も、問題ありませんっ!」
女店員「それならいいんですけど」
男「……」
女店員「……」
男「……」
男(頭が真っ白だ。店員さんに触れてる部分ばかりに意識が……)
男(なんでここに来て言葉が出てこないんだよ)
女店員「濡れちゃいますね」
男「え?」
女店員「相合傘ってけっこう濡れるんだなって思って」
男「そ、そういうことですか。そ、そうですね、濡れますよねー」
女店員「こういうのは初めてで」
女店員「なんだか歩きづらいし、予想してたのとちょっとちがうかも」
男「今すぐボクが出ます!」
女店員「ダメです」
男「いえいえ!」
男「ボクをわざわざ家に送るという任務につかせてくれたその御恩に報いたいのです!」
女店員「ふふっ……どういうキャラですか、それ」
男(ウケた!? 笑った顔も……くううぅ! かわいいいい!)
女店員「送ってもらってるのは私ですよ? これ以上迷惑はかけられません」
男(オレ、泣きソウッ!)ハァィ!
男「ちなみに家は、あとどれぐらいで着くんですか?」
女店員「あと十分ぐらいかかりますけど、いいですか?」
男「むしろあと十分も一緒にこうしていられるなんて! 幸せです!」
女店員「はいはい」
男(ここでさらに面白いことを言って、好感度をあげるぞ)
男「ボクの秘密を聞いてもらえますか?」
女店員「秘密? 聞かせてくれるんですか?」
男「ボクの一番好きなAV女優について教えますよ!」
男(……オレの口はなにを言ってるんだ?)
女店員「全く聞きたくありませんが。どうぞ」
男(冷たい表情に戻った)
男「えっと、○○○○って言うんですよ」
女店員「!」
男(なぜかAV女優の名前を言ったとたん、彼女は目を丸くした)
女店員「そ、そういうことね。な、なんでもないですっ」
男「ていうか、すみません。もっと普通の会話のほうがいいですよね」
女店員「ちなみにあなたは大学生なんですよね?」
男「はい。って、ボク、大学生だって話しましたっけ?」
女店員「カードを見ればわかりますよ」
男「ああ、なるほど」
女店員「それから私のほうが年齢はひとつ上です」
男「え? 一歳しかちがわないんですか!?」
女店員「それはどういう意味なんですかねー?」
男「すごく落ち着いてるし、大人の女性って感じがしたから……びっくりしたんです」
女店員「そ、そうですか」
男「意外だなあ。じゃあ大学生なんですか?」
女店員「そうですね。ちょうど一年ちがうんですよね、あなたと私」
男「じゃあもう敬語はやめてくださいよ。ボクのほうが年下なんですし」
女店員「……」
男(あ、またジト目になった)
女店員「言っておきますけど。私とあなたは店員とお客さんって関係ですよ?」
男「は、はい」
女店員「……そうなんだよね。店員とお客さんなんだよね」
男「いや、でもボクは店員さんが店員さんじゃなくてもいいですよ?」
女店員「どういう意味かよくわかりませんよ。あ、つきました」
男(着いた……だと……!?)
男(そこはアパートだった。おそらくオートロックつきだろう)
男「ここが店員さんの家……!」
女店員「なにかおかしいですか?」
男「いえ、なんと素晴らしいアパートに住んでらっしゃるんですか!」
女店員「普通のアパートですよ」
男(オレは今からこの人の家の中に入る)
男(そして最終的には店員さんの『中』にまで……)
男「それではお言葉に甘えてあがらせてもらいます」
女店員「なに言ってるんですか? 私、一度もあげるなんて言ってませんよ」
男「え? ウソ? 言ってません?」
女店員「間違いなく言ってないです」
男「またまたー、そんなことないでしょう」
女店員「いえ、言ってません」
男「……たしかに思い返してみると、一度もそんなことは言ってないような気がしてきました」
女店員「私は自分の言葉には責任を持つよう心がけてますから」
男(雨よりも冷たいジト目がオレの心臓を、またもや貫く!)
女店員「わざわざ送ってくださって、ありがとうございました」
男(オレはもう終わりなのか?)
男(またオレはなにもできずに終わるのか?)
男(二十歳をむかえるまでに、童貞を卒業するってオヤジと約束したのに?)
男(結局オレはなにも変わらないままなのか?)
男(ひと皮むけて帰ってくるって、上京したとき両親に言ったじゃないか!)
男(ここで諦めちゃダメだッッッ!)
男「店員さん」
女店員「なんでしょうか?」
男「お願いがあるんです」
女店員「……」
男「ボク、どうしても店員さんの、のののの……」
女店員「の?」
男「へっくしょんっ!!」
女店員「び、びっくりした」
男「ずずっ……す、すみません。まさかこんなところでくしゃみがでるとは」
女店員「もしかしてからだが冷えちゃった?」
男「大丈夫です! それより言わせてください!」
女店員「いいですよ」
男「へ?」
女店員「家に入ってください。あったかいもの用意しますから」
男(……なにが起きたかオレは理解できなかった)
男「いいんですか?」
女店員「……私のせいで風邪を引かれたらイヤなだけです」
男(これがうわさのツンデレ!? )
男(しかも無表情をがんばって作ってますみたいな表情に見えるのは、オレの都合のいい錯覚か?)
女店員「私の部屋は二階なので、こっちです」
男「はいっ! 了解です!」
女店員「なにをそんなに気合入れてるんですか?」
男「いえ、自分は平常運転でございますっ!」
女店員「……」ジトー
男「……」キリッ
女店員「狭いところですけど。どうぞ」
男「お、お邪魔します……!」
男(あぁ……なんかもう部屋の匂いから女性って感じがする)
男(全身の血が一点に集まってしまうような……そんな色香……!)
女店員「ここが部屋です」
男「おぉっ!」
女店員「狭いしちょっとゴチャゴチャしてますけど、座布団にでも腰かけてください」
男「すごく女の子チックな部屋ですね」
女店員「似合いませんよね。友達からもあんまりセンスないって言われますし」
男「全然そんなことないですよ! ボク、もうここに一生住みたいぐらいです!」
女店員「気持ちだけ受けとっておきます」
女店員「暖房つけますね。コーヒーは飲めますか?」
男「コーヒーは苦手です。あ、砂糖がいっぱいあれば」
女店員「じゃあカフェオレにします? それなら飲めると思いますよ」
男「じゃあそれでおねがいします」
女店員「ちょっと台所行くんでテレビでも見ていてください」
男(そして店員さんは、台所へ行ってしまった)
男(とは言っても、扉一枚で隔たれているだけ)
男(むしろこの空間にいると、食器の音とか水道の音までもなんかエロく感じる)
男(しずまるんだ、オレ……!)
男(慌てるな。ここで台所にいる店員さんをおそう?)
男(そんなのは大馬鹿のアマチュアがやることだ!)
男(……そうだ、とりあえず今までお世話になった人の顔を思い浮かべよう)
男(先生。受験中、オレが受験勉強サボるたびに大学時代のエロいこととか話してくれたよな)
男(ピンサロの話とか、大学の彼女とエッチした話とか)
男(大学には楽しいことがあると思えて、オレ、がんばって勉強できたんだぜ?)
男(寺沢、お前卒業直前に彼女とヤったって自慢してたな)
男(あのときはメチャクチャ悔しがったけど、よくよく考えたらお前の彼女すげーブサイクだったわ)
男(今のオレにはまったく羨ましくなんてねえよ)
男(そして、お母さん)
男(クリスマスにオヤジとエッチするのはやめてください)
女店員「できましたよー」
男「!!」
男「あ、あ、あああありがとうございます」
女店員「汗ダラダラですけど。暑いんですか?」
男「いえこの部屋は暑くありません」
女店員「暑かったら遠慮しないで言ってくださいね」
男「アツいのはどっちかっていうと股間みたいな?」
女店員「……」
男(オレは馬鹿か! こんなとこでアマチュアのようなミスをしてしまうだなんて!)
女店員「ひとつ言っておいて、いいですか?」
男「な、なんでしょうか?」
女店員「私、彼氏いますからね」
男「……彼氏?」
女店員「ええ」
男「……」
女店員「とっても優しい人です」
男「へ、へえ」
女店員「私に変なことをした場合は、あなたをぶっ飛ばすでしょうね」
男「つ、強いんですか?」
女店員「はい。ゴリラみたいな人ってよく言われますから」
男「ご、ゴリラみたいな人……」
女店員「ていうかゴリラそのものみたいな人で、よくゴリラと間違われてます」
男「あわわわわ」
女店員「たぶん、見たら腰抜かしますよ。身長は2メートル半ばまであるんで」
男(こんなの絶対おかしいよ!?)
男「うそだろ……」
女店員「嘘ですけど」
男「なんだよちくしょう……人生ってこんなにもツライのかよ……」
女店員「あの、聞いてますか私の話?」
男「帰ります」
女店員「……」ぴたっ
男「ひゃううっ!?」
女店員「もう一度だけしか言いませんよ」
男「な、なんですか!? また首にタッチしてきて……!」
女店員「だから、彼氏がいるというのは嘘です」
男「…………」
男「ほ、ホントですか?」
女店員「はい。だいたい二メートル半ばのゴリラみたいな彼氏っておかしいでしょう」
男「そんなの知りませんよ」
男「美人はゴリラの交配種みたいな野郎にもモテるんだなとか思っちゃいましたよ!」
女店員「おっしゃてる意味がよくわかりませんね」
男「だいたい……なんでそんな嘘をついたんですか?」
女店員「だって、あまりにも目が血走ってたから。おかげで少しは落ち着いたでしょ?」
男「危うく心臓が止まるとこでしたよ」
女店員「おおげさですよ」
男「ぼ、ボクにとっては大げさじゃないですよ」
男「ただでさえ緊張してましたし」
女店員「私も緊張してましたよ?」
男「え?」
女店員「男の人を家にあげるのって、その……はじめてだったから……」
男(はじめて?)
男(はじめて?)
男(『はじめてはキミ?』)
男(『私のはじめてをあげるね』……)
男「」バタン
女店員「ちょ、ちょっと……しっかりしてくださいっ!」
男「す、すみません!! 一瞬意識を失ってました!」
男「も、もうオレ帰ります!」
男(だめだだめだ! もう理性がもたないっ! マジで死ぬっ!)
女店員「え? もう帰るんですか?」
男「はいっ! 寮の夕飯の時間なんで!」
女店員「あ、じゃあこれだけあなたには言っておこうと思ったんですけど……」
男「知りません! 帰りますっ!」
男(そしてオレは店員さんの家をあとにした)
次の日
友「お前は結局、あの店員さの家に行くだけ行って、なんもしなかったと」
男「そのとおり……へっくしょんっ!」
友「しかも。傘を店員の家においてきたから、雨に打たれて風邪をひいたと」
男「そう……くしゅんっ!」
友「お前今日のサークル行けないじゃん」
男「サークルとかどうでもいいわー、店員さんめっちゃかわいいしなあ」
友「でも今日ってサークルのパーカーの名前決める日なんでしょ?
行かなくていいの?」
男「ああ、なんか適当に名前つけといて。オレのぶんも」
友「どんな名前になっても知らないからな」
男「ふっ、特別に許してやろう」
男「それと、ポカリとか適当に買ってきて。あと体温計も」
友「りょーかい」
三日後
男「風邪が治るまでに三日もかかってしまった」
男「まあいっか。今日は店員さんがいるはずだし」
男「レッツらゴー」
店員「ぃらっしゃいゃせー」
男「あれ? 今日は休みなのか?」
男(おかしいな。なんでいないんだろ? オレみたいに体調を崩したのかな)
男「あの、すみません」
店員「はい、どうしましたー?」
男「ここで働いてる女の店員さんいますよね?」
店員「いるっていうか、いたね」
男「どういうことですか?」
店員「彼女、ここのバイトだと都合が悪いことができたからやめるって」
男「やめたんですか!?」
店員「うん。ちょうど昨日が最後だったかな」
男(なんで……いや、でもあの人の家なら場所は知ってる!)
店員「あ、ひょっとしてキミ?」
男「なにがですか?」
店員「自分のことで尋ねてくる学生がいるから、言っておいてと彼女に頼まれたんだ」
男「なにをですか?」
店員「『私の家には絶対に来ないでください』だって」
男「!」
店員「事情はよくわからないけど、キミは彼女になにかしたの?」
男「……なにかしたかもしれないけど」
男(でも、三日前までは普通に話してくれたのに……)
男(そりゃあ好感度があがるようなことは、ほとんどしてないけどさ)
男(嫌われすぎだろ、オレよ)
男(そうだよな。あの人は善意で家に入れてくれただけなんだよな)
店員「泣きそうな顔してるけど大丈夫?」
男「……帰ります」
店員「キミ、そのAVは返しにきたんでしょ?」
男「あ、すみません」
友「見事にふられたわけか」
男「どちくしょお! なぜオレはAVなんか借りてたんだ!?」
男「しかも家に来るなって言われたしぃ……!」
友「ちょ、ちょっとまてよ。なくなよ! 男だろ!?」
男「うるせえ! 失恋だぞ! しかも上げて落ちるの落差が半端ねえ!」
友「わかったわかった。今日はオレがなんか奢ってやるから。な?」
男「うううぅ……ぅん……」
友「それより一週間後から本格的にサークル始まるんだ。そっちに精を出そうぜ」
男「サークルより店員さんのほうがいいよぉ」
友(これは重症だ)
一週間後
友「あいかわらず、すねてるのか」
男「だってぇ。サークルに行ったら女がいるじゃん?」
友「いるねえ」
男「女を見ると店員さんを思い出すじゃん?」
友「そうかもな」
男「でもあの店員さんより、かわいい人なんてこの世にいないじゃん?」
友「お前がそう思うんならそうなんじゃね」
男「オレの中ではあの人より可愛い人なんていねえよ!」
友「わかったわかった。
とにかくだ、今日は一年は行かなきゃならない日だから行くぞ」
男「あぁぁぁぁぁ……」
友(ゾンビみたいだ)
部室
友「こんちわー!」
男「……んちわ」
男(サークルかあ。たしかに女子はいるけどねえ)
男(今はあの人に会いたい)
男(あの人は、かわいいだけじゃないしなあ)
男(優しくて。ツンデレで。ジト目がステキなんだ)
先輩「よし、じゃあ一年は集まったな。これから、みんなにパーカー渡すから」
男(帰りたい……AV見たい……いや、うそ見たくない……)
先輩「えっと、キミは?」
友「佐藤です」
先輩「佐藤くんはこれね」
友「ありがとございまーす」
先輩「キミは名前なんていうの?」
男「……です」
先輩「ああ、キミがそうなんだ! はい、これね。俺もその子好きなんだわ」
男「え?」
友「パーカーの名前の部分を見てみりゃわかる」
男「…………」
男「ぶほっおおおぉぉ!?」
男「なんでオレの一番好きなAV女優の名前が書いてあんだよ!?」
友「この女優が一番好きなんだ、お前」
先輩「なかなか面白いな、キミ。今日からキミの名前はその女優な」
先輩「いやあ、今年の一年は面白いなあ」
男「ち、ちがうんですよ! これはボクの好きな女優じゃなくて……」
友「ちがうの?」
男「これお前が書いたんだろ!?」
友「ううん。だいたいオレ、お前の一番好きなAV女優は知らなかったし」
男「そうだよな。そういやあ、誰にも言ったことないしな」
女店員「だって私にしか言ってないですもんね?」
男「佐藤、オレはもうダメかもしれない」
友「ん?」
男「オレ、あの店員さんのことが好きすぎて幻覚見えてるわ」
友「幻覚だそうですよ?」
女店員「ふーん」
男「しかも、しかもだ! オレの好きなジト目まで再現してるぞこの幻覚!」
友「たしかに末期だな、お前」
女店員「はぁ……わかりましたよ。えい」
男「おっほおおぉ!? く、首に触れる手の冷たさまで再現してる!?」
友「ダメだこりゃ」
女店員「まだ私が本物だって信じられませんか?」
男「……もしかして、本当にあの店員さんだったりするんですか?」
女店員「ちょっとごめんね、みんな。私、この人とふたりで話してくるから」
女店員「先に話を進めてて」
部員一同「どうぞどうぞー」
女店員「ほら、行きますよ」
男「こ、今度は手首を握られている!? う、うそだろ!?」
女店員「あーもう。しっかりしてください」
女店員「落ち着きましたか?」
男「なんとか」
女店員「よかったです」
男「その……」
女店員「?」
男「どういうことか教えてくださいよ」
男「ボク、なにがなんだかさっぱりです」
女店員「どうもこうもありませんよ」
女店員「ただ、私があなたと同じサークルに所属していて、
私があなたの先輩だったってことです」
男「マジですか?」
女店員「マジです」
男「で、でもどうやってボクがここのサークルの人間だって……」
女店員「だってあなたの名前ってとっても変わってますし」
女店員「それにお友達の佐藤くんもいたでしょ?」
男「そういうことかあ」
女店員「私も最初、サークルの入部届け見たときはビックリしました」
男「世間って意外とせまいんですね」
女店員「どうやらそうみたいですね」
男「……もうひとつ聞いてもいいですか?」
女店員「どうぞ」
ここまで読んでくれた人はありがとう!
自分の中では、店員のイメージはガールフレンド(仮)の村上文緒ちゃんだった
久々に伸びて楽しかったです
男「どうしてやめちゃったんですか、あの店」
女店員「お給料が低かったし、前からやめるつもりだったんです」
男「じゃあ、家に来るなって言ったのは?」
男「やっぱり、あのときのボクがあまりにもアレだったからですか!?」
女店員「だ、だから肩つかまないでください……顔、近いです///」
男「つい癖で……」
女店員「ただビックリさせようと思っただけです」
男「本当ですか? 神に誓いますか!?」
女店員「はいはい、誓います」
男「ふぅ……」
女店員「ちょ、ちょっと大丈夫ですか?」
男「いえ、店員さんの口からそう言われてホッとしたんです、本当に」
女店員「実は、もう一個だけあのビデオ屋をやめた理由があるんです」
男「え?」
男「もしや、あの店の先輩にいやらしいことを!?」
女店員「やっぱりサイテー」
男「冗談です!」
女店員「ふーん」
男「茶化してすみません。どうか答えを教えてください、店員さん!」
女店員「それです」
男「え?」
女店員「『店員さん』です」
男「……よくわかんないです」
女店員「だから、あそこで働いてたら私とあなたはずっと店員とお客さんって関係でしょ?」
男「ひょっとして、それで?」
女店員「今日からは、先輩と後輩、ってことでよろしくね」
男「!」
男(今までの笑顔の中で一番、破壊力があったかもしれない)
男「……その、ボクもよろしくおねがいしますっ!」
女先輩「うん、じゃあそろそろ戻ろっか?」
男(いや、でもなんかちがうなあ)
男「うーん」
女先輩「どうしたの?」
男「敬語のほうがいいなあ……とか、思っちゃって」
女先輩「もう店員とお客さんって関係じゃないのに?」
男「そのほうが特別な気がして」
女先輩「……じゃあいいですよ」
女先輩「あなたにだけは特別に敬語を使ってあげます」
男「……ありがとうございますっ!」
男「嬉しすぎて、ニヤけてしまいます」
女先輩「ふふっ、私もサプライズしたかいがありました」
男「でももう、サプライズはごめんですよ」
女先輩「今後はたぶんないですよ、こういうことは。それに……」
男「ん?」
女先輩「今回のサプライズのせいで、私も少し恥をかいちゃったんで」
男「なにかあったんですか?」
女店員「あなたには教えてあげません」
男「気になるけど、まあいっか」
男「とりあえず手をつないで戻りますか?」
女先輩「調子に乗らないでください」ジト
男「うん、やっぱりデレもいいですけど、そっちのほうもいいですね」
女先輩「はいはい」
男(そしてそれからまた色々あって一年が経過した)
男(パーカーの名前のせいでオレはサークルのヤツからいじられるハメになった)
男(ちなみにそのパーカーの名前はオレの一番好きなAV女優の名前だった……ってこれは言ったな)
男(で、今は……)
女「ほら、早く出かけますよ!」
男「たまには映画じゃなくてDVD借りて家でのんびり見ない?」
女「……普通のものですよね?」
男「もちろん!」
男(そしてそのパーカーの名前は、今ではオレの彼女の名前でもある)
糸冬
男(そしてそれから色々あって一年が経過した)
男(パーカーの名前のせいで、オレはサークルの連中からいじられることになった)
男(かつてそのパーカーには、オレの一番好きなAV女優の名前が書いてあった)
男(そして今では)
女「ほーら、出かけますよ」
男「たまには映画じゃなくてDVD借りて家でのんびり見ない?」
女「……変なものじゃないですよね?」
男「変なものじゃないよ」
男(そのパーカーの名前は、オレの彼女の名前でもある)
おしまい
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